(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022105218
(43)【公開日】2022-07-12
(54)【発明の名称】積層セラミック電子部品及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
H01G 4/30 20060101AFI20220705BHJP
【FI】
H01G4/30 201N
H01G4/30 201M
H01G4/30 512
H01G4/30 513
H01G4/30 201C
H01G4/30 517
H01G4/30 311Z
【審査請求】有
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022079928
(22)【出願日】2022-05-16
(62)【分割の表示】P 2017230119の分割
【原出願日】2017-11-30
(71)【出願人】
【識別番号】000204284
【氏名又は名称】太陽誘電株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003339
【氏名又は名称】特許業務法人南青山国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大野 亮
(72)【発明者】
【氏名】福岡 哲彦
(72)【発明者】
【氏名】楠本 昌司
(72)【発明者】
【氏名】河野 明彦
(57)【要約】
【課題】耐湿性及び耐衝撃性を兼ね備える積層セラミック電子部品を提供する。
【解決手段】積層セラミック電子部品は、セラミック素体を具備する。セラミック素体は、積層部と、サイドマージン部と、稜部と、を有する。積層部は、第1方向に積層された複数のセラミック層と、複数のセラミック層の間に配置された複数の内部電極と、を有する容量形成部と、容量形成部を第1方向から覆うカバー部と、第1方向と直交する第2方向を向き、複数の内部電極が露出する側面と、を有する。サイドマージン部は、積層部の側面を覆う。稜部は、第1及び第2方向に直交する第3方向に延在し、丸みを帯びている。容量形成部は、第1方向の中央部に配置された第1領域と、カバー部と第1領域との間に配置された第2領域と、を有する。第2領域では、複数の内部電極の第2方向の端部が第1領域よりも第2方向の内側に位置する。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1方向に積層された複数のセラミック層と、前記複数のセラミック層の間に配置された複数の内部電極と、を有する容量形成部と、前記容量形成部を前記第1方向から覆うカバー部と、前記第1方向と直交する第2方向を向き、前記複数の内部電極が露出する側面と、前記第1及び前記第2方向に直交する第3方向を向き、前記複数の内部電極が引き出された端面と、を有する積層部と、
前記積層部の前記側面を覆うサイドマージン部と、
前記第3方向に延在する丸みを帯びた複数の稜部と、
を有するセラミック素体を具備し、
前記容量形成部は、前記第1方向の中央部に配置された第1領域と、前記カバー部と前記第1領域との間に配置され、前記複数の内部電極の前記第2方向の端部が前記第1領域よりも前記第2方向の内側に位置する第2領域と、を含み、
前記内部電極は、前記側面と前記端面との間に露出し丸みを帯びた湾曲部を含み、
前記サイドマージン部は、前記湾曲部の少なくとも一部を覆う
積層セラミック電子部品。
【請求項2】
請求項1に記載の積層セラミック電子部品であって、
前記積層部は、前記カバー部及び前記第2領域の前記第2方向の端部を含む、前記第3方向に延在する丸みを帯びた複数の稜部を更に有する
積層セラミック電子部品。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の積層セラミック電子部品であって、
前記第2領域では、前記複数の内部電極の前記第2方向の寸法が前記カバー部に向けて小さくなる
積層セラミック電子部品。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1項に記載の積層セラミック電子部品であって、
前記第2領域に隣接する位置における前記サイドマージン部の前記第2方向の寸法が10μm以上である
積層セラミック電子部品。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか1項に記載の積層セラミック電子部品であって、
前記第1領域では、前記複数の内部電極の前記端部の前記第2方向の位置のばらつきが0.5μm以内である
積層セラミック電子部品。
【請求項6】
第1方向に積層された複数のセラミック層と、前記複数のセラミック層の間に配置された複数の内部電極と、を有する容量形成部と、前記容量形成部を前記第1方向から覆うカバー部と、前記第1方向と直交する第2方向を向き、前記複数の内部電極が露出する側面と、前記第1及び前記第2方向に直交する第3方向を向き、前記複数の内部電極が引き出された端面と、を有する積層チップを作製し、
前記積層チップを面取りし、
面取りされた前記積層チップの前記側面に、前記側面と前記端面との間に露出し丸みを帯びた前記内部電極の湾曲部の少なくとも一部を覆うように、サイドマージン部を形成する
積層セラミック電子部品の製造方法。
【請求項7】
請求項6に記載の積層セラミック電子部品の製造方法であって、
前記積層チップをバレル研磨によって面取りする
積層セラミック電子部品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、サイドマージン部が後付けされる積層セラミック電子部品及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
積層セラミック電子部品として、積層セラミックコンデンサが知られている。積層セラミックコンデンサは、積層された複数のセラミック層と、複数のセラミック層の間に配置された内部電極と、を有するセラミック素体と、セラミック素体の外表面上に形成され、内部電極と電気的に接続された外部電極とを備える。
【0003】
一般的な積層セラミックコンデンサの製造過程では、外部電極を形成する前のセラミック素体にバレル研磨による面取りが行われる(例えば、特許文献1参照)。これにより、セラミック素体では、稜部(2つの面が交わる箇所)や角部(3つの面が交わる箇所)における割れや欠けなどの発生を防止することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、積層セラミックコンデンサでは、セラミック素体を面取りすることによって、セラミック素体の稜部において内部電極が露出する場合がある。このような場合、内部電極が露出した稜部からセラミック素体内に水分が侵入しやすくなる。これにより、セラミック素体内の内部電極間における絶縁性が低下する。
【0006】
以上のような事情に鑑み、本発明の目的は、耐湿性及び耐衝撃性を兼ね備える積層セラミック電子部品及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明の一形態に係る積層セラミック電子部品は、セラミック素体を具備する。上記セラミック素体は、積層部と、サイドマージン部と、稜部と、を有する。
上記積層部は、第1方向に積層された複数のセラミック層と、上記複数のセラミック層の間に配置された複数の内部電極と、を有する容量形成部と、上記容量形成部を上記第1方向から覆うカバー部と、上記第1方向と直交する第2方向を向き、上記複数の内部電極が露出する側面と、を有する。
上記サイドマージン部は、上記積層部の上記側面を覆う。
上記稜部は、上記第1及び第2方向に直交する第3方向に延在し、丸みを帯びている。
上記容量形成部は、上記第1方向の中央部に配置された第1領域と、上記カバー部と上記第1領域との間に配置された第2領域と、を含む。
上記第2領域では、上記複数の内部電極の上記第2方向の端部が上記第1領域よりも上記第2方向の内側に位置する。
【0008】
この構成では、複数の内部電極が露出した積層部の側面がサイドマージン部に覆われているため、高い耐湿性が得られる。また、このセラミック素体では、稜部が丸みを帯びているため、稜部における割れや欠けなどの発生を防止することができる。したがって、この積層セラミック電子部品は、耐湿性及び耐衝撃性を兼ね備える。
【0009】
上記第2領域では、上記複数の内部電極の上記第2方向の寸法が上記カバー部に向けて小さくなっていてもよい。
上記第2領域に隣接する位置における上記サイドマージン部の上記第2方向の寸法が10μm以上であってもよい。
上記第1領域では、上記複数の内部電極の上記端部の上記第2方向の位置のばらつきが0.5μm以内であってもよい。
【0010】
本発明の一形態に係る積層セラミック電子部品の製造方法では、第1方向に積層された複数のセラミック層と、上記複数のセラミック層の間に配置された複数の内部電極と、を有する容量形成部と、上記容量形成部を上記第1方向から覆うカバー部と、上記第1方向と直交する第2方向を向き、上記複数の内部電極が露出する側面と、を有する積層チップが作製される。
上記積層チップが、例えばバレル研磨によって面取りされる。
面取りされた上記積層チップの上記側面にサイドマージン部が形成される。
この構成により、上記のような耐湿性及び耐衝撃性を兼ね備える積層セラミック電子部品を製造することができる。
【発明の効果】
【0011】
以上述べたように、本発明によれば、耐湿性及び耐衝撃性を兼ね備える積層セラミック電子部品及びその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の一実施形態に係る積層セラミックコンデンサの斜視図である。
【
図2】上記積層セラミックコンデンサの
図1のA-A'線に沿った断面図である。
【
図3】上記積層セラミックコンデンサの
図1のB-B'線に沿った断面図である。
【
図4】上記積層セラミックコンデンサの
図3の領域Pを拡大して示す部分断面図である。
【
図5】上記積層セラミックコンデンサの製造方法を示すフローチャートである。
【
図6】上記積層セラミックコンデンサの製造過程を示す斜視図である。
【
図7】上記積層セラミックコンデンサの製造過程を示す斜視図である。
【
図8】上記積層セラミックコンデンサの製造過程を示す断面図である。
【
図9】上記積層セラミックコンデンサの製造過程を示す断面図である。
【
図10】上記積層セラミックコンデンサの製造過程を示す断面図である。
【
図11】上記積層セラミックコンデンサの製造過程を示す斜視図である。
【
図12】上記積層セラミックコンデンサのサイドマージン部の厚みDminと故障率との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態を説明する。
図面には、適宜相互に直交するX軸、Y軸、及びZ軸が示されている。X軸、Y軸、及びZ軸は全図において共通である。
【0014】
[積層セラミックコンデンサ10の概要]
図1~3は、本発明の一実施形態に係る積層セラミックコンデンサ10を示す図である。
図1は、積層セラミックコンデンサ10の斜視図である。
図2は、積層セラミックコンデンサ10の
図1のA-A'線に沿った断面図である。
図3は、積層セラミックコンデンサ10の
図1のB-B'線に沿った断面図である。
【0015】
積層セラミックコンデンサ10は、セラミック素体11と、第1外部電極14と、第2外部電極15と、を備える。セラミック素体11は、典型的には、Z軸方向を向いた2つの主面と、Y軸方向を向いた2つの側面と、X軸方向を向いた2つの端面と、を有する六面体として構成される。
【0016】
また、セラミック素体11は、主面と側面とを接続し、X軸方向に延在する4つの稜部Rを有する。
図3に示すように、セラミック素体11の稜部Rは、丸みを帯びている。これにより、セラミック素体11では、製造時や実装時などに加わる衝撃によって、稜部Rにおける割れや欠けなどが発生することを防止できる。
【0017】
外部電極14,15は、セラミック素体11の端面を覆い、セラミック素体11を挟んでX軸方向に対向している。外部電極14,15は、セラミック素体11の端面から主面及び側面に延出している。これにより、外部電極14,15では、X-Z平面に平行な断面、及びX-Y平面に平行な断面がいずれもU字状となっている。
【0018】
なお、外部電極14,15の形状は、
図1に示すものに限定されない。例えば、外部電極14,15は、セラミック素体11の端面から一方の主面のみに延び、X-Z平面に平行な断面がL字状となっていてもよい。また、外部電極14,15は、いずれの主面及び側面にも延出していなくてもよい。
【0019】
外部電極14,15は、電気の良導体により形成されている。外部電極14,15を形成する電気の良導体としては、例えば、銅(Cu)、ニッケル(Ni)、錫(Sn)、パラジウム(Pd)、白金(Pt)、銀(Ag)、金(Au)などを主成分とする金属又は合金が挙げられる。
【0020】
セラミック素体11は、誘電体セラミックスで形成され、積層部16と、サイドマージン部17と、を有する。積層部16は、Y軸方向を向いた2つの側面Sを有し、X-Y平面に沿って延びる平板状の複数のセラミック層がZ軸方向に積層された構成を有する。サイドマージン部17は、積層部16の両側面Sに形成されている。
【0021】
積層部16は、容量形成部18と、カバー部19と、を有する。容量形成部18は、誘電体セラミックスと、第1内部電極12及び第2内部電極13と、を有し、Z軸方向上下からカバー部19に被覆されている。内部電極12,13は、いずれもX-Y平面に沿って延びるシート状であり、Z軸方向に沿って交互に配置されている。
【0022】
つまり、内部電極12,13は、セラミック層を挟んでZ軸方向に対向している。第1内部電極12は、セラミック素体11の一方の端面に引き出され、第1外部電極14に接続されている。第2内部電極13は、セラミック素体11の他方の端面に引き出され、第2外部電極15に接続されている。
【0023】
このような構成により、積層セラミックコンデンサ10では、第1外部電極14と第2外部電極15との間に電圧が印加されると、第1内部電極12と第2内部電極13との間の複数のセラミック層に電圧が加わる。これにより、積層セラミックコンデンサ10では、第1外部電極14と第2外部電極15との間の電圧に応じた電荷が蓄えられる。
【0024】
また、容量形成部18では、外部電極14,15が設けられたX軸方向両端面以外の面がサイドマージン部17及びカバー部19によって覆われている。したがって、容量形成部18では、サイドマージン部17及びカバー部19によってその周囲が保護され、内部電極12,13の絶縁性が確保される。
【0025】
セラミック素体11では、内部電極12,13間の各セラミック層の容量を大きくするため、高誘電率の誘電体セラミックスが用いられる。高誘電率の誘電体セラミックスとしては、例えば、チタン酸バリウム(BaTiO3)に代表される、バリウム(Ba)及びチタン(Ti)を含むペロブスカイト構造の材料が挙げられる。
【0026】
なお、セラミック層は、チタン酸ストロンチウム(SrTiO3)系、チタン酸カルシウム(CaTiO3)系、チタン酸マグネシウム(MgTiO3)系、ジルコン酸カルシウム(CaZrO3)系、チタン酸ジルコン酸カルシウム(Ca(Zr,Ti)O3)系、ジルコン酸バリウム(BaZrO3)系、酸化チタン(TiO2)系などで構成してもよい。
【0027】
内部電極12,13は、電気の良導体により形成されている。内部電極12,13を形成する電気の良導体としては、典型的にはニッケル(Ni)が挙げられ、この他にも銅(Cu)、パラジウム(Pd)、白金(Pt)、銀(Ag)、金(Au)などを主成分とする金属又は合金が挙げられる。
【0028】
なお、本実施形態に係る積層セラミックコンデンサ10は、積層部16及びサイドマージン部17を備えていればよく、その他の構成について適宜変更可能である。例えば、第1及び第2内部電極12,13の枚数は、積層セラミックコンデンサ10に求められるサイズや性能に応じて、適宜決定可能である。
【0029】
[セラミック素体11の稜部R]
(概略構成)
図4は、
図3に示す一点鎖線で囲んだ領域Pを拡大して示す部分断面図である。つまり、
図4には、セラミック素体11の一方のY軸方向端部が示されている。なお、セラミック素体11では、
図4とは反対側のY軸方向端部についても
図4に示すY軸方向端部と同様であるため、その説明を省略する。
【0030】
内部電極12,13は、積層部16の両側面Sに露出している。サイドマージン部17は、積層部16の両側面Sの全体を覆っている。このため、セラミック素体11では、内部電極12,13がセラミック素体11の側面に露出しない。したがって、積層セラミックコンデンサ10では、容量形成部18への水分が侵入しにくいため、高い耐湿性が得られる。
【0031】
また、積層部16の側面Sは、セラミック素体11の稜部Rの近傍において、面取りされることにより丸みを帯びている。サイドマージン部17は、セラミック素体11の稜部Rにおいて積層部16の側面Sに沿ってY軸方向内側に湾曲している。これにより、セラミック素体11には、丸みを帯びた稜部Rが形成される。
【0032】
このため、後述の「積層セラミックコンデンサ10の製造方法」で詳細に説明するが、セラミック素体11では、これ自体を面取りすることなく、丸みを帯びた稜部Rを設けることができる。これにより、積層セラミックコンデンサ10では、耐湿性を損なうことなく、高い耐衝撃性が得られる。
【0033】
(詳細構成)
図4に示すように、積層セラミックコンデンサ10では、容量形成部18を、第1領域18aと第2領域18bとに区分することができる。第1領域18aは、Z軸方向中央部に配置されている。第2領域18bは、第1領域18aとZ軸方向上下のカバー部19との間にそれぞれ配置されている。
【0034】
容量形成部18の第1領域18aでは、側面SがX-Z平面に沿って平滑に延びる。このため、側面Sに露出する内部電極12,13の端部のY軸方向の位置がZ軸方向に沿って揃っている。具体的に、第1領域18aでは、内部電極12,13の端部のY軸方向の位置のばらつきが0.5μm以内であることが好ましい。
【0035】
容量形成部18の第2領域18bでは、第1領域18aからカバー部19に向けて、側面SがY軸方向内側へ丸まっている。したがって、容量形成部18では、側面Sに露出する内部電極12,13の端部が、第2領域18bにおいて第1領域18aよりもY軸方向内側に位置している。
【0036】
換言すると、容量形成部18の第2領域18bでは、第1領域18aからカバー部19に向けて、Y軸方向の寸法が漸減している。したがって、容量形成部18では、内部電極12,13のY軸方向の寸法が、第2領域18bにおいて第1領域18aよりも小さくなっている。
【0037】
容量形成部18の側面Sを覆うサイドマージン部17では、第1領域18aに隣接する位置よりも、第2領域18bに隣接する位置の方が、Y軸方向の厚みが小さくなりやすい。このため、高い耐湿性を確保するために、第2領域18bに隣接する位置におけるサイドマージン部17のY軸方向の寸法は10μm以上であることが好ましい。
【0038】
また、容量形成部18の側面Sを覆うサイドマージン部17のY軸方向の厚みは、Z軸方向最外層の内部電極12,13に隣接する位置で特に小さくなりやすい。このため、Z軸方向最外層の内部電極12,13に隣接する位置におけるサイドマージン部17のY軸方向の厚みDminは10μm以上であることが更に好ましい。
【0039】
更に、同様の観点から、サイドマージン部17のY軸方向の厚みは、Y軸方向に隣接する位置における内部電極12,13のY軸方向の寸法に対して小さすぎることは好ましくない。このため、サイドマージン部17のY軸方向の厚みは、Y軸方向に隣接する内部電極12,13のY軸方向の寸法の6%以上であることが好ましい。
【0040】
加えて、第1領域18aに隣接する位置におけるサイドマージン部17のY軸方向の寸法は、30μm以下に留めることが好ましく、20μm以下に留めることが更に好ましい。これにより、積層セラミックコンデンサ10では、容量形成部18における内部電極12,13の交差面積が大きくなり、大容量を確保可能である。
【0041】
[積層セラミックコンデンサ10の製造方法]
図5は、積層セラミックコンデンサ10の製造方法を示すフローチャートである。
図6~11は積層セラミックコンデンサ10の製造過程を示す図である。以下、積層セラミックコンデンサ10の製造方法について、
図5に沿って、
図6~11を適宜参照しながら説明する。
【0042】
(ステップS01:積層チップ準備)
ステップS01では、
図6に示す積層チップ116を準備する。積層チップ116は、内部電極112,113が適宜パターニングされた複数の未焼成の誘電体グリーンシートが積層されて構成されている。これにより、積層チップ116には、未焼成の容量形成部118及びカバー部119が形成されている。
【0043】
(ステップS02:バレル研磨)
ステップS02では、ステップS01で準備された積層チップ116をバレル研磨によって面取りする。ステップS02におけるバレル研磨は、例えば、複数の積層チップ116と研磨媒体と液体とをバレル容器に封入し、バレル容器に回転運動や振動を与えることにより実行可能である。
【0044】
バレル研磨では、積層チップ116の側面Sが、Z軸方向両端部においてZ軸方向中央部よりも摩耗しやすい。このため、
図7に示すように、積層チップ116には、側面Sに露出する内部電極112,113の端部が、第2領域118bにおいて第1領域118aよりもY軸方向内側に位置する容量形成部118が形成される。
【0045】
(ステップS03:サイドマージン部形成)
ステップS03では、ステップS02で面取りされた積層チップ116の側面Sに未焼成のサイドマージン部117を設けることにより、未焼成のセラミック素体111を作製する。以下、積層チップ116の側面Sに未焼成のサイドマージン部117を設ける方法の一例について説明する。
【0046】
まず、
図8に示すように、テープTで一方の側面Sを保持した積層チップ116の他方の側面Sを、平板状の弾性体400の上に配置されたサイドマージンシート117sに対向させる。サイドマージンシート117sは、未焼成のサイドマージン部117を形成するための大判の誘電体グリーンシートとして構成される。
【0047】
サイドマージンシート117sの厚みによって、
図3,4に示す積層セラミックコンデンサ10のサイドマージン部17のY軸方向の厚みを調整可能である。サイドマージンシート117sは、例えば、ロールコーターやドクターブレードを用いてシート状に成形することにより、厚みを正確に制御可能である。
【0048】
次に、
図9に示すように、積層チップ116の側面Sをサイドマージンシート117sに押し付け、積層チップ116をサイドマージンシート117sとともに弾性体400に沈みこませる。このとき、サイドマージンシート117sは、弾性体40から加わるせん断力によって、積層チップ116に押圧された領域のみが切り離される。
【0049】
そして、
図10に示すように、積層チップ116を弾性体400から離間するように移動させると、サイドマージンシート117sにおける積層チップ116の側面Sに貼り付いた部分のみが弾性体400から離間する。これにより、積層チップ116の側面Sにサイドマージン部117が形成される。
【0050】
続いて、
図10に示す積層チップ116を別のテープTに張り替えることにより、積層チップ116のY軸方向の向きを反転させる。そして、サイドマージン部117が形成されていない積層チップ116の反対側の側面Sにも、上記と同様の要領でサイドマージン部117を形成する。
【0051】
これにより、
図11に示すように、積層チップ116の両側面Sにサイドマージン部117が形成された未焼成のセラミック素体111が得られる。未焼成のセラミック素体111では、内部電極112,113が露出した積層チップ116の側面Sがサイドマージン部117によって覆われている。
【0052】
このように、本実施形態では、内部電極112,113が露出した積層チップ116の側面Sにサイドマージン部117が後付けされる。このため、積層セラミックコンデンサ10では、容量形成部18の第1領域18aにおいて内部電極12,13の端部のY軸方向の位置がZ軸方向に沿って揃う。
【0053】
なお、積層チップ116の側面Sにサイドマージン部117を形成する方法は、上記のサイドマージンシート117sを打ち抜く方法に限定されない。例えば、予め切断されているサイドマージンシート117sを積層チップ116bの側面Sに貼り付けることによって、サイドマージン部117を形成してもよい。
【0054】
また、積層チップ116の側面Sにサイドマージン部117を形成する方法は、ディップ法であってもよい。ディップ法では、積層チップ116の側面Sをセラミックスラリーに浸漬させ、引き上げる。これにより、積層チップ116の側面Sにセラミックスラリーが付着することによりサイドマージン部117が形成される。
【0055】
(ステップS04:焼成工程)
ステップS04では、ステップS03で得られた未焼成のセラミック素体111を焼成することにより、
図1~3に示す積層セラミックコンデンサ10のセラミック素体11を作製する。つまり、ステップS04によって、積層チップ116が積層部16になり、サイドマージン部117がサイドマージン部17になる。
【0056】
ステップS04における焼成温度は、セラミック素体111の焼結温度に基づいて決定することができる。例えば、チタン酸バリウム(BaTiO3)系材料を用いる場合には、焼成温度は1000~1300℃程度とすることができる。また、焼成は、例えば、還元雰囲気下、又は低酸素分圧雰囲気下において行うことができる。
【0057】
(ステップS05:外部電極形成工程)
ステップS05では、ステップS04で得られたセラミック素体11のX軸方向両端部に外部電極14,15を形成することにより、
図1~3に示す積層セラミックコンデンサ10を作製する。ステップS05における外部電極14,15の形成方法は、公知の方法から任意に選択可能である。
【0058】
(本実施形態の作用効果)
本実施形態では、サイドマージン部を有するセラミック素体を準備してからバレル研磨が行なわれる公知のプロセスとは順番が異なっている。つまり、公知のプロセスではサイドマージン部を有するセラミック素体にバレル研磨を行うのに対し、本実施形態ではサイドマージン部117を形成する前の積層チップ116にバレル研磨を行う。
【0059】
一般的に、サイドマージン部を後付けするプロセスでは、サイドマージン部の密度が積層チップよりも低くなる。このため、サイドマージン部が形成されたセラミック素体にバレル研磨を行うと、セラミック素体の稜部においてサイドマージン部が選択的に摩耗することにより、積層チップに配置された内部電極が露出することがある。
【0060】
これに対し、本実施形態では、予めバレル研磨を行った積層チップ116にサイドマージン部117を形成するため、積層チップ116の側面Sに露出する内部電極112,113を確実に被覆することができる。このため、本実施形態に係る積層セラミックコンデンサ10では、高い耐湿性が得られる。
【0061】
また、本実施形態では、サイドマージン部117を形成する前の積層チップ116にバレル研磨を行うことにより、積層チップ116の稜部が面取りされる。このため、積層チップ116の側面Sに沿ってサイドマージン部117を形成することによって、サイドマージン部117が積層チップ116の側面Sに沿って湾曲する。
【0062】
これにより、セラミック素体111には、丸みを帯びた稜部Rが形成される。このため、本実施形態では、セラミック素体111に対して更にバレル研磨を行う必要がなく、サイドマージン部117の摩耗が生じない。このため、積層セラミックコンデンサ10では、サイドマージン部17のY軸方向の厚みを確保することができる。
【0063】
[実施例]
(積層セラミックコンデンサ10の作製)
実施例1~9に係る積層セラミックコンデンサ10のサンプルを、上記の製造方法を用いて、それぞれ200個ずつ作製した。実施例1~9に係るサンプルでは、
図4に示すサイドマージン部17のY軸方向の厚みDminのみが異なり、その他の構成及び製造条件が共通である。
【0064】
具体的に、各サンプルにおけるサイドマージン部17の厚みDminは、実施例1~9においてそれぞれ、20μm、18μm、16μm、12μm、10μm、8μm、5μm、3μm、1μmとした。なお、いずれのサンプルでも、第1領域18aに隣接する位置におけるサイドマージン部17のY軸方向の厚みを20μmとした。
【0065】
(積層セラミックコンデンサ10の耐湿性評価)
実施例1~9に係る積層セラミックコンデンサ10の各サンプルについて、耐湿性評価を行った。具体的に、実施例1~9における耐湿性評価としては、各サンプルを、温度45℃、湿度95%、10Vの定格電圧を印加した状態で1000時間保持する吸湿性試験を行った。
【0066】
吸湿性試験後の各サンプルについて電気抵抗値を測定し、電気抵抗値が10MΩ以上のサンプルを良品と判定し、電気抵抗値が10MΩ未満のサンプルを故障と判定した。そして、実施例1~9のそれぞれについて、200個のサンプル中における故障と判定したサンプルの比率である故障率を算出した。
【0067】
図12は、実施例1~9における耐湿性評価の結果を示すグラフである。
図12では、横軸がサイドマージン部17の厚みDminを示し、縦軸が吸湿性試験後におけるサンプルの故障率を示している。また、表1は、実施例1~9における耐湿性評価の結果を数値で示している。
【0068】
【0069】
この結果から、サイドマージン部17の厚みDminが大きいほどサンプルの故障率が低いことがわかる。また、サイドマージン部17の厚みDminを10μm以上とすることでサンプルの故障率が10%以下に抑えられ、サイドマージン部17の厚みDminを18μm以上とすることでサンプルの故障がほぼ発生しなくなることが確認された。
【0070】
[その他の実施形態]
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上述の実施形態にのみ限定されるものではなく種々変更を加え得ることは勿論である。
【0071】
例えば、積層セラミックコンデンサ10の製造方法は、上記に限定されない。一例として、上記の製造方法のステップS02における積層チップ116の面取りの方法は、バレル研磨以外にも公知の方法を利用可能であり、例えば、サンドブラスト法やウェットブラスト法を用いることもできる。
【0072】
また、上記実施形態では積層セラミック電子部品の一例として積層セラミックコンデンサ10について説明したが、本発明は一対の外部電極を有する積層セラミック電子部品全般に適用可能である。このような積層セラミック電子部品としては、例えば、チップバリスタ、チップサーミスタ、積層インダクタなどが挙げられる。
【符号の説明】
【0073】
10…積層セラミックコンデンサ
11…セラミック素体
12,13…内部電極
14,15…外部電極
16…積層部
17…サイドマージン部
18…容量形成部
18a…第1領域
18b…第2領域
19…カバー部
S…側面
R…稜部