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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022105224
(43)【公開日】2022-07-12
(54)【発明の名称】細胞又は組織包埋デバイス
(51)【国際特許分類】
   A61K 9/00 20060101AFI20220705BHJP
   A61K 9/06 20060101ALI20220705BHJP
   A61K 35/22 20150101ALI20220705BHJP
   A61K 35/26 20150101ALI20220705BHJP
   A61K 35/28 20150101ALI20220705BHJP
   A61K 35/30 20150101ALI20220705BHJP
   A61K 35/35 20150101ALI20220705BHJP
   A61K 35/39 20150101ALI20220705BHJP
   A61K 35/407 20150101ALI20220705BHJP
   A61K 35/545 20150101ALI20220705BHJP
   A61K 35/55 20150101ALI20220705BHJP
   A61K 47/02 20060101ALI20220705BHJP
   A61K 47/04 20060101ALI20220705BHJP
   A61K 47/12 20060101ALI20220705BHJP
   A61K 47/18 20060101ALI20220705BHJP
   A61K 47/26 20060101ALI20220705BHJP
   A61K 47/32 20060101ALI20220705BHJP
   A61L 27/00 20060101ALI20220705BHJP
   A61L 27/16 20060101ALI20220705BHJP
   A61L 27/36 20060101ALI20220705BHJP
   A61L 27/38 20060101ALI20220705BHJP
【FI】
A61K9/00
A61K9/06
A61K35/22
A61K35/26
A61K35/28
A61K35/30
A61K35/35
A61K35/39
A61K35/407
A61K35/545
A61K35/55
A61K47/02
A61K47/04
A61K47/12
A61K47/18
A61K47/26
A61K47/32
A61L27/00
A61L27/16
A61L27/36 100
A61L27/38
【審査請求】有
【請求項の数】24
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022080534
(22)【出願日】2022-05-16
(62)【分割の表示】P 2019501831の分割
【原出願日】2018-02-23
(31)【優先権主張番号】P 2017032743
(32)【優先日】2017-02-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】594146788
【氏名又は名称】日本酢ビ・ポバール株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504157024
【氏名又は名称】国立大学法人東北大学
(74)【代理人】
【識別番号】100077012
【弁理士】
【氏名又は名称】岩谷 龍
(72)【発明者】
【氏名】小原田 明信
(72)【発明者】
【氏名】木村 佳弘
(72)【発明者】
【氏名】後藤 昌史
(57)【要約】
【課題】生細胞や生体組織を含有するPVAゲルを作製するプロセスにおいて、生細胞や生体組織の減少を抑えることにより、生理活性物質の供給能力が高い細胞又は組織包埋デバイスを供給することを課題とする。
【解決手段】細胞又は組織包埋デバイスの免疫隔離層を形成するための水性ゲルを、活性カルボニル基を有する変性ポリビニルアルコール系樹脂(A)及び架橋剤(B)を成分として構成する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
活性カルボニル基を有する変性ポリビニルアルコール系樹脂(A)及び架橋剤(B)を成分として含む水性ゲル。
【請求項2】
-5℃以上でのゲル化履歴を有することを特徴とする請求項1に記載の水性ゲル。
【請求項3】
活性カルボニル基を有する変性ポリビニルアルコール系樹脂(A)及び架橋剤(B)を成分として含む水性ゲルを免疫隔離層として有する、細胞又は組織包埋デバイス。
【請求項4】
水性ゲルが、-5℃以上でのゲル化履歴を有することを特徴とする請求項3に記載の細胞又は組織包埋デバイス。
【請求項5】
水性ゲルが、応力0.5~100kPaを有することを特徴とする請求項3又は4記載の細胞又は組織包埋デバイス。
【請求項6】
活性カルボニル基を有する変性ポリビニルアルコール系樹脂(A)が、ジアセトンアクリルアミド変性ポリビニルアルコールである請求項3~5のいずれか1項に記載の細胞又は組織包埋デバイス。
【請求項7】
ジアセトンアクリルアミド変性ポリビニルアルコールが、該変性ポリビニルアルコール全量に対して、ジアセトンアクリルアミド単位を0.5~15モル%含有する請求項6に記載の細胞又は組織包埋デバイス。
【請求項8】
前記架橋剤(B)が、ヒドラジド化合物及び/又はセミカルバジド化合物である請求項3~7のいずれか1項に記載の細胞又は組織包埋デバイス。
【請求項9】
前記架橋剤(B)が、アジピン酸ジヒドラジド又はアミノポリアクリルアミドである請求項3~7のいずれか1項に記載の細胞又は組織包埋デバイス。
【請求項10】
免疫隔離層に、生体組成物(C)及び細胞培養成分(D)が封入されている請求項3~9のいずれか1項に記載の細胞又は組織包埋デバイス。
【請求項11】
生体組成物(C)が、膵島細胞、膵管細胞、肝臓細胞、神経細胞、甲状腺細胞、副甲状腺細胞、腎細胞、副腎細胞、下垂体細胞、脾細胞、脂肪細胞、骨髄細胞、間葉系幹細胞、ES細胞及びiPS細胞からなる群から選択される1以上である請求項10に記載の細胞又は組織包埋デバイス。
【請求項12】
生体組成物(C)が、膵島細胞又は肝臓細胞である請求項10に記載の細胞又は組織包埋デバイス。
【請求項13】
細胞培養成分(D)が、Na、K、Cl、Ca及びGlucoseからなる群から選択される1以上を含有する酢酸又はリン酸緩衝液である請求項10~12のいずれか1項に記載の細胞又は組織包埋デバイス。
【請求項14】
応力0.5~100kPaを有することを特徴とする請求項3~13のいずれか1項に記載の細胞又は組織包埋デバイス。
【請求項15】
支持基材(E)を含有する請求項3~14のいずれか1項に記載の細胞又は組織包埋デバイス。
【請求項16】
支持基材(E)の素材が、PET、PE、PP、テフロン(登録商標)及び金属からなる群から選択される1以上である請求項15に記載の細胞又は組織包埋デバイス。
【請求項17】
活性カルボニル基を有する変性ポリビニルアルコール系樹脂(A)を含む水溶液と、架橋剤(B)及び細胞培養成分(D)を混合した後に、生体組成物(C)を混合して得られる混合物をゲル化せしめる工程を含む請求項10~16のいずれか1項に記載の細胞又は組織包埋デバイスの製造方法。
【請求項18】
水性ゲルを作製する際の温度を-5℃以上にする請求項17に記載の細胞又は組織包埋デバイスの製造方法。
【請求項19】
活性カルボニル基を有する変性ポリビニルアルコール系樹脂(A)及び架橋剤(B)を成分として含む水性ゲルであって、架橋剤(B)が、アジピン酸ジヒドラジド又はアミノポリアクリルアミドである水性ゲルを含有する細胞又は組織包埋デバイスの免疫隔離層形成剤。
【請求項20】
活性カルボニル基を有する変性ポリビニルアルコール系樹脂(A)が、ジアセトンアクリルアミド変性ポリビニルアルコールである請求項19に記載の剤。
【請求項21】
ジアセトンアクリルアミド変性ポリビニルアルコールが、該変性ポリビニルアルコール全量に対して、ジアセトンアクリルアミド単位を0.5~15モル%含有する請求項20に記載の剤。
【請求項22】
活性カルボニル基を有する変性ポリビニルアルコール系樹脂(A)を含み、封入されている生体組成物(C)の分泌成分を透過させ、且つ免疫関連細胞又は免疫関連物質の透過を抑制することを特徴とする水性ゲルを免疫隔離層として有する、細胞又は生体組織包埋デバイス。
【請求項23】
-5℃以上でゲル化する性質を有することを特徴とする、活性カルボニル基を有する変性ポリビニルアルコール系樹脂(A)、架橋剤(B)、生体組成物(C)及び細胞培養成分(D)を含有する混合物。
【請求項24】
生理活性物質産生細胞または組織を直接、あるいは支持材料で支持したものに対して、生体内酵素により主鎖が切断されない活性カルボニル基を有するゲル形成高分子材料と架橋剤を含む保護ゲル層形成材料の水溶液もしくはゾルを60℃以下の温度で適用し、-5℃以上の温度でゲル形成を行う、生理活性物質産生細胞または組織に対する保護ゲル層の形成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体にとって有用なホルモンやタンパク質等の生理活性物質を産生及び/又は分泌する生体組成物、あるいは有害な物質を解毒する作用を有する生体組成物を、患者に移植することによって、内分泌疾患、代謝疾患等のヒトを含む動物の疾患の予防及び/又は治療に効果を発揮する細胞又は組織包埋デバイスの免疫隔離層を形成するための水性ゲルに関する。
【背景技術】
【0002】
細胞又は組織包埋デバイスとは、生細胞や生体組織等を含有し、疾患を有するヒトや動物の臓器等に代わり、代謝機能に関連するホルモンやタンパク質等の生理活性物質を患者に供給したり、有害物質を解毒することによって、患者の疾病を予防及び/又は治療することを目的とする装置である。細胞又は組織包埋デバイスは、免疫隔離層によって生細胞や生体組織を生体の防御機構から保護できるため、生体臓器移植と比べ、免疫抑制剤の投与を不要とするため、免疫抑制剤による副作用の心配がないこと、施術が低侵襲である点、及び死体ドナーからの同種人工臓器移植のみならず種々の再生幹細胞や異種人工臓器移植も可能であるという点で、ドナー不足を解決し得る能力を有しており優れている。
【0003】
近年、汎用高分子や金属、セラミックス等の材料と、生細胞や生体組織およびそれらを有する細胞製剤を組み合わせた細胞又は組織包埋デバイスが研究されており、その中に含有する細胞等の種類を変えることにより、様々な疾患の治療に対応できる。
例えば、バイオ人工膵島は、インスリン分泌細胞(例えば、膵島細胞)をその中に有し、膵島細胞から分泌されるインスリンホルモンを患者に供給して血糖値の是正を図るために用いられる。
その他にも、血液凝固因子生産型バイオ人工臓器、成長ホルモン生産型バイオ人工臓器、副甲状腺ホルモン産生型バイオ人工臓器、ドパミン産生型バイオ人工臓器等のバイオ人工臓器が、血友病、下垂体小人症、上皮小体機能低下症、パーキンソン病等の疾病の治療に検討されている。
【0004】
細胞又は組織包埋デバイスには様々な形状があるが、その一例として、生細胞や生体組織を高分子重合体で包み込んだマイクロカプセル型又はマクロカプセル型の製剤(例えば、細胞製剤)を用いたものが挙げられる。これらは、高分子重合体が有する強固な架橋構造によって、その中に含有される細胞や組織を生体の防御機構から護り、更に高分子重合体が有する分子透過能を利用して、細胞や組織から分泌されるホルモン等を生体に供給することを特徴としている。
【0005】
マクロカプセル型細胞製剤が用いられたバイオ人工臓器等に用いられる高分子重合体として、近年、ポリビニルアルコール(以下、PVAとも略す)が着目されている。
PVAは、安全性の高い材料であり、化学的又は物理的処理を施すことによりゲル化し、PVAゲルは比較的ゲル強度が高く、種々の形状に成形が可能である。化学的処理としては、例えば、PVAを含む水溶液にグルタルアルデヒド(架橋剤)及び塩酸(触媒)を添加する方法等が用いられている(例えば、非特許文献1参照)。また物理的処理としては、例えば、PVAを含む水溶液を約-20℃という低温で急冷しゲル化する方法等が用いられている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平10-43286号公報
【特許文献2】特開2004-331643号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Krystyna Burczak et. Al, Long-term in vivo performance and biocompatibility of PVA hydrogelmacrocapsules for hybrid-type artificial pancreas、Biomaterials、1996年、第17巻、p2351-2356
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
前述の化学的処理によるゲル化方法では、PVAゲルに残存した架橋剤や触媒添加による低pH化等により細胞が損傷を受け、生存細胞数の減少又は生理活性物質の供給能力の低下によって、所望する治療効果が得られないという問題がある。
【0009】
一方、物理的処理によるゲル化方法では、薬剤を使用することがなく、架橋剤や触媒による損傷はないが、低温で急冷するため、生存細胞数の減少や生理活性物質の供給能力低下が起こる。
【0010】
これらの問題を解決する方法として、低温でPVAゲルを作製する際、生細胞とともに細胞保存剤を共存させる方法が開示されている(特許文献2)。しかしながら、この方法では、依然としてPVAゲルを製造するために、低温(-80℃)で24時間処理しているため、生存細胞数の減少とそれに伴う生理活性物質の供給能力の低下の問題は十分に解決できていない。
【0011】
本発明は、上記現状に鑑み、生細胞や生体組織を含有するPVAゲルを作製するプロセスにおいて、生細胞や生体組織の減少を抑えることにより、生理活性物質の供給能力が高い細胞又は組織包埋デバイスを供給することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意検討を重ねた結果、生体内酵素により主鎖が切断されない高分子材料に活性カルボニル基を有するものを用いることで、毒性の少ない架橋剤を用いることができ、且つ所望の(すなわち、包埋される生細胞や生体組織が損傷を受けにくい)pH、温度でゲル化させることができるため、生細胞や生体組織に最適な条件下でゲル化が可能となることを見出した。最も好ましい態様の一つであるPVAゲルを用いた実証では、細胞や組織の生存率及び生理活性物質の供給能力が高いPVAゲル細胞(又は、組織)製剤が得られることが確認され、さらに検討を重ねて本発明を完成するに至った。
【0013】
即ち、本発明は、以下の(1)~(25)に関する。
(1) 活性カルボニル基を有する変性ポリビニルアルコール系樹脂(A)及び架橋剤(B)を成分として含む水性ゲルを免疫隔離層として有する、細胞又は組織包埋デバイス。
(2) 水性ゲルが、-5℃以上でのゲル化履歴を有することを特徴とする前記(1)に記載の細胞又は組織包埋デバイス。
(3) 水性ゲルが、応力0.5~100kPaを有することを特徴とする前記(1)又は(2)に記載の細胞又は細胞包埋デバイス。
(4) 活性カルボニル基を有する変性ポリビニルアルコール系樹脂(A)が、ジアセトンアクリルアミド変性ポリビニルアルコールである前記(1)~(3)のいずれかに記載の細胞又は組織包埋デバイス。
(5) ジアセトンアクリルアミド変性ポリビニルアルコールが、該変性ポリビニルアルコール全量に対して、ジアセトンアクリルアミド単位を0.5~15モル%含有する前記(4)に記載の細胞又は組織包埋デバイス。
(6) 前記架橋剤(B)が、ヒドラジド化合物及び/又はセミカルバジド化合物である前記(1)~(5)のいずれかに記載の細胞又は組織包埋デバイス。
(7) 前記架橋剤(B)が、アジピン酸ジヒドラジド又はアミノポリアクリルアミドである前記(1)~(5)のいずれかに記載の細胞又は組織包埋デバイス。
(8) 免疫隔離層に、生体組成物(C)及び細胞培養成分(D)が封入されている前記(1)~(7)のいずれかに記載の細胞又は組織包埋デバイス。
(9) 生体組成物(C)が、膵島細胞、膵管細胞、肝臓細胞、神経細胞、甲状腺細胞、副甲状腺細胞、腎細胞、副腎細胞、下垂体細胞、脾細胞、脂肪細胞、骨髄細胞、間葉系幹細胞、ES細胞及びiPS細胞からなる群から選択される1以上である前記(8)に記載の細胞又は組織包埋デバイス。
(10) 生体組成物(C)が、膵島細胞又は肝臓細胞である前記(8)に記載の細胞又は組織包埋デバイス。
(11) 細胞培養成分(D)が、Na、K、Cl、Ca及びGlucoseからなる群から選択される1以上を含有する酢酸又はリン酸緩衝液である前記(8)~(10)のいずれかに記載の細胞又は組織包埋デバイス。
(12) 応力0.5~100kPaを有することを特徴とする前記(1)~(11)のいずれかに記載の細胞又は細胞包埋デバイス。
(13) 支持基材(E)を含有する前記(1)~(12)のいずれかに記載の細胞又は組織包埋デバイス。
(14) 支持基材(E)の素材が、PET、PE、PP、テフロン(登録商標)及び金属からなる群から選択される1以上である前記(13)に記載の細胞又は組織包埋デバイス。
(15) 活性カルボニル基を有する変性ポリビニルアルコール系樹脂(A)を含む水溶液と、架橋剤(B)及び細胞培養成分(D)を混合した後に、生体組成物(C)を混合して得られる混合物をゲル化せしめる工程を含む前記(8)~(14)のいずれかに記載の細胞又は組織包埋デバイスの製造方法。
(16) 水性ゲルを作製する際の温度を-5℃以上にする前記(15)に記載の細胞又は組織包埋デバイスの製造方法。
(17) 活性カルボニル基を有する変性ポリビニルアルコール系樹脂(A)及び架橋剤(B)を成分として含む水性ゲルであって、架橋剤(B)が、アジピン酸ジヒドラジド又はアミノポリアクリルアミドである水性ゲルを含有する細胞又は組織包埋デバイスの免疫隔離層形成剤。
(18) 活性カルボニル基を有する変性ポリビニルアルコール系樹脂(A)が、ジアセトンアクリルアミド変性ポリビニルアルコールである前記(17)に記載の剤。
(19) ジアセトンアクリルアミド変性ポリビニルアルコールが、該変性ポリビニルアルコール全量に対して、ジアセトンアクリルアミド単位を0.5~15モル%含有する前記(18)に記載の剤。
(20) 前記(1)~(13)のいずれかに記載のデバイス製造のための(1)~(14)及び(17)~(19)のいずれかに記載の水性ゲルの使用。
(21) 前記(1)~(14)のいずれかに記載のデバイスをヒト又は動物に投与することを特徴とするヒト又は動物の疾病の予防または治療方法。
(22) ヒトまたは動物の疾病の予防または治療のために使用する(1)~(14)のいずれかに記載のデバイス。
(23) 活性カルボニル基を有する変性ポリビニルアルコール系樹脂(A)を含み、封入されている生体組成物(C)の分泌成分を透過させ、且つ免疫関連細胞又は免疫関連物質の透過を抑制することを特徴とする水性ゲルを免疫隔離層として有する、細胞又は生体組織包埋デバイス。(ここで、生体組成物(C)の分泌成分は、生体にとって有用なホルモンやタンパク質等の生理活性物質であることが好ましい。)
(24) -5℃以上でゲル化する性質を有することを特徴とする、活性カルボニル基を有する変性ポリビニルアルコール系樹脂(A)、架橋剤(B)、生体組成物(C)及び細胞培養成分(D)を含有する混合物。
(25) 生理活性物質産生細胞または組織を直接、あるいは支持材料で支持したものに対して、生体内酵素により主鎖が切断されない活性カルボニル基を有するゲル形成高分子材料と架橋剤を含む保護ゲル層形成材料の水溶液もしくはゾルを60℃以下の温度で適用し、-5℃以上の温度でゲル形成を行う、生理活性物質産生細胞または組織に対する保護ゲル層の形成方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明の細胞又は組織包埋デバイスは、生体内酵素により主鎖が切断されないゲル形成高分子材料を用いているため、生体内に適用した場合に長期のデバイス寿命を得ることができると共に、毒性の低い成分を用いて製造され、また、包埋される生細胞又は生体組織が損傷を受けにくい、又は包埋される生細胞又は生体組織の死滅を抑制し得る、pH、温度(好ましくは-5℃以上)で水性ゲルを形成できるため、患者にとって有用なホルモン又はタンパク質等の生理活性物質の供給能力が高い。
すなわち、本発明の細胞又は組織包埋デバイスは、包埋されている細胞又は組織の生存率が高い。
また、本発明の細胞又は組織包埋デバイスを患者に投与することにより、内分泌疾患、代謝疾患、糖尿病、神経変性疾患、血友病、骨疾患、癌等の疾患の予防及び/又は治療を行うことができ、細胞又は組織を安定な状態で長期間生体内にて保有することができるため、高い治癒率を実現できるとともに、細胞又は組織包埋デバイスの移植の頻度を低減することが可能である。
さらに、本発明の代表的態様である水性PVAゲル等の水性ゲル(本明細書中において、本発明の水性ゲルともいう)は、白血球や抗体等の透過を阻害できることに加えて、補体の透過も阻害できるため、免疫に関与する細胞や抗体の隔離に加えて、免疫の作用を補佐する補体の隔離も行うことができる。すなわち、本発明の水性PVAゲルは、透過すべき酸素、無機有機の栄養分、種々のホルモンの中で最大と想定される直径5nm程度の分子(例えばインスリンなどのホルモンを含む生理活性物質)を透過させ、透過を阻止すべき免疫関連細胞や免疫関連物質の中で最小と想定される直径50nm程度の分子(例えば抗体、補体など)を透過させない選択性を有しているため免疫隔離層として使用でき、優れた免疫抑制作用を有する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】実施例1及び実施例2のバイオ人工膵島デバイスが移植された糖尿病モデル動物の血糖値の経時変化を示す図である。
図2】比較例1~5の凍結融解式膵島デバイスが移植された糖尿病モデル動物の血糖値の経時変化を示す図である。
図3】比較例6~11の凍結融解式膵島デバイスが移植された糖尿病モデル動物の血糖値の経時変化を示す図である。
図4図4は、膵臓から膵島細胞を取得する方法の一態様を図式的に記載したものである。
図5図5は、2枚のメッシュで膵島細胞が固定されており、細胞同士の凝集を回避している状況の一態様を示す。
図6図6は、活性カルボニル基を有する変性ポリビニルアルコール系樹脂(A)及び架橋剤(B)を成分として含む水性ゲルを免疫隔離層として有する、細胞又は組織包埋デバイスの一態様を示す。
図7図7は、本発明のデバイスが新生血管内に投与されて収納されている状態の一態様を模式的に示す。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を詳細に説明する。
本開示は、調製時には水溶液もしくはゾルとすることができ、-5℃以上の温度でゲル形成が可能な生体内酵素により主鎖が切断されない活性カルボニル基を有するゲル形成高分子材料、代表的には、活性カルボニル基を有する変性ポリビニルアルコール系樹脂(A)及び架橋剤(B)を成分として含む水性ゲルを免疫隔離層として有する、細胞又は組織包埋デバイスを包含する。水性ゲル、又は細胞若しくは組織包埋デバイスにおいて、生体内酵素により主鎖が切断されない活性カルボニル基を有するゲル形成高分子材料、代表的には変性ポリビニルアルコール系樹脂(A)は、架橋剤(B)と反応して架橋(橋カケ)により、三次元網状構造を形成していることが、より優れた本発明の効果を奏しうる点で好ましい。
本発明の水性ゲルの代表的態様は、調製時には水溶液もしくはゾルであり、-5℃以上の温度に下げることによってゲル化した生体内酵素により主鎖が切断されないカルボニル基を有するゲル形成高分子材料、さらに代表的には、活性カルボニル基を有する変性PVA系樹脂(A)及び架橋剤(B)を成分として含み、細胞又は組織包埋デバイスの免疫隔離層を形成するための水性ゲルである。
本開示において、ゾルは、好ましくはヒドロゾルである。
【0017】
[生体内酵素により主鎖が切断されない活性カルボニル基を有するゲル形成高分子材料]
本発明で使用される生体内酵素により主鎖が切断されない活性カルボニル基を有するゲル形成高分子材料は、同目的に使用される水系ゲル形成材料であるゼラチンやアルギン酸等とは異なり、好ましくは、主鎖が生体内酵素によって切断されない高分子材料であり、例えば、主たる部分が切断されないものであれば、片末端あるいは両末端に切断される主鎖を追加的に含むことができる。このような材料の代表例としては、繰り返し単位の主鎖としてエチレン構造を持つ重合体、特にポリビニルアルコール系樹脂やポリアクリル酸系樹脂を挙げることができ、中でもその側鎖に親水性を高める官能基の他に、更に活性カルボニル基を有する高分子材料であることが好ましい。このような材料を用いた場合には、生体内に長時間存在させても生体内酵素によって主鎖が切断されないことから、長時間デバイス形状を保持することが可能となる。
【0018】
ここで活性カルボニル基としては、ヒドラジド類やカルバジド類のような高い求核反応性を持つ求核性官能基を持つ架橋剤と反応して容易に脱水縮合や求核置換反応を起こして樹脂間に橋かけを形成することができるカルボニル基であることが好ましい。これにより包埋される生細胞や生体組織が損傷を受けにくいpH、温度でゲル化させることができる。
活性カルボニル基の具体例としては、アルデヒド構造を持つものやケトン構造を持つものが挙げられ、更に脱離活性の高いアルコール成分を持つエステル構造を持つものを用いることもできる。
【0019】
以下、本発明の代表的態様である変性PVA樹脂を用いた場合を用いて具体的な説明を行う。
【0020】
[変性PVA系樹脂(A)]
活性カルボニル基を有する変性PVA系樹脂(A)(本明細書中において、単に「変性PVA系樹脂(A)」ともいう)としては、例えば、脂肪族ビニルエステルと活性カルボニル基を有する不飽和単量体を共重合し、得られた共重合体を鹸化して製造される共重合変性PVAや、公知の方法で製造されたPVAまたは変性PVA系樹脂に液状ジケテンやジケテンガス等の活性カルボニル基を有する化合物を直接接触させて得られる後変性PVAを使用することができるが、PVA系樹脂の安定性や安全性、ゲル化工程での作業性から共重合変性PVAが好ましい。
【0021】
上記共重合変性PVAを製造する際に使用される上記脂肪族ビニルエステルとしては、特に限定されないが、例えば、ギ酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、ピバリン酸ビニル等が挙げられ、中でも酢酸ビニルが工業的に好ましい。これらは、従来公知のバルク重合、溶液重合、懸濁重合、乳化重合などの各種の重合法により製造する事ができるが、中でもメタノール等のアルコール溶媒を用いる溶液重合が工業的に好ましい。
【0022】
また、活性カルボニル基を有する不飽和単量体としては、特に限定されないが、例えば、ジアセトンアクリルアミドが工業的に好ましく、共重合変性PVAとしては、ジアセトンアクリルアミド変性PVAが好ましい。
【0023】
本発明において、脂肪族ビニルエステルと活性カルボニル基を有する不飽和単量体との共重合には、本発明の効果を阻害しない範囲で、脂肪族ビニルエステルや活性カルボニル基を有する不飽和単量体と共重合可能な他の不飽和単量体を用いてもよい。
【0024】
他の不飽和単量体としては、例えば、カルボキシル基含有不飽和単量体[例えば、(メタ)アクリル酸、マレイン酸、無水マレイン酸、フマル酸、クロトン酸、イタコン酸、ウンデシレン酸等]、不飽和二塩基酸モノアルキルエステル類(例えば、マレイン酸モノメチル、イタコン酸モノメチル等)、アミド基含有不飽和単量体(例えば、アクリルアミド、ジメチルアクリルアミド、ジメチルアミノエチルアクリルアミド、ジエチルアクリルアミド、ジメチルアミノプロピルアクリルアミド、イソプロピルアクリルアミド、N-メチロールアクリルアミド、N-ビニルアセトアミド等)、ハロゲン化ビニル類(例えば、塩化ビニル、フッ化ビニル等)、グリシジル基を有する不飽和単量体(例えば、アリルグリシジルエーテル、グリシジルメタクリレート等)、ラクタム基含有不飽和単量体{例えば、N-ビニルピロリドン類[例えば、N-ビニル-2-ピロリドン、N-ビニル-アルキルピロリドン(例えば、N-ビニル-3-プロピル-2-ピロリドン、N-ビニル-5-メチル-2-ピロリドン、N-ビニル-5-エチル-2-ピロリドン、N-ビニル-5,5-ジメチル-2-ピロリドン、N-ビニル-3,5-ジメチル-2-ピロリドンなどのN-ビニル-モノ又はジC1-4アルキルピロリドン)など]、N-アリルピロリドン類(例えば、N-アリル-2-ピロリドンなど)、N-ビニルピペリドン類[例えば、N-ビニル-2-ピペリドン、N-ビニル-アルキルピペリドン(例えば、N-ビニル-6-メチル-2-ピペリドン、N-ビニル-6-エチル-2-ピペリドンなどのN-ビニル-モノ又はジC1-4アルキルピペリドン)など]、N-ビニルカプロラクタム類[例えば、N-ビニル-ε-カプロラクタム、N-ビニル-アルキルカプロラクタム(例えば、N-ビニル-7-メチル-2-カプロラクタム、N-ビニル-7-エチル-2-カプロラクタムなどのN-ビニル-モノ又はジC1-4アルキルカプロラクタムなど)]}、アルキルビニルエーテル類[例えば、C1―20アルキルビニルエーテル(例えば、メチルビニルエーテル、n-プロピルビニルエーテル、i-プロピルビニルエーテル、n-ブチルビニルエーテル、i-ブチルビニルエーテル、t-ブチルビニルエーテル、ラウリルビニルエーテル、ドデシルビニルエーテル、ステアリルビニルエーテル等)]、ニトリル類(例えば、アクリロニトリル、メタアクリロニトリル等)、水酸基含有不飽和単量体[例えば、C1―20モノアルキルアリルアルコール(例えば、アリルアルコール、イソプロペニルアリルアルコール等)、C1―20ジアルキルアリルアルコール(例えば、ジメチルアリルアルコール等)、ヒドロキシC1―20アルキルビニルエーテル(例えば、ヒドロキシエチルビニルエーテル、ヒドロキシブチルビニルエーテル等)]、アセチル基含有不飽和単量体[例えば、C1―20アルキルアリルアセテート(例えば、アリルアセテート、ジメチルアリルアセテート、イソプロペニルアリルアセテート等)等]、(メタ)アクリル酸エステル類{例えば、(メタ)アクリル酸アルキルエステル[例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、アクリル酸-2-エチルヘキシル、アクリル酸-n-ブチル等の(メタ)アクリル酸C1-20アルキル]等}、ビニルシラン類(例えば、トリメトキシビニルシラン、トリブチルビニルシラン、ジフェニルメチルビニルシラン等)、ポリオキシアルキレン(メタ)アクリレート類[例えば、ポリオキシエチレン(メタ)アクリレート、ポリオキシプロピレン(メタ)アクリレート等]、ポリオキシアルキレン(メタ)アクリル酸アミド類[例えば、ポリオキシエチレン(メタ)アクリル酸アミド、ポリオキシプロピレン(メタ)アクリル酸アミド等]、ポリオキシアルキレンビニルエーテル類(例えば、ポリオキシエチレンビニルエーテル、ポリオキシプロピレンビニルエーテル等)、ポリオキシアルキレンアルキルビニルエーテル類(例えば、ポリオキシエチレンアリルエーテル、ポリオキシプロピレンアリルエーテル、ポリオキシエチレンブチルビニルエーテル、ポリオキシプロピレンブチルビニルエーテル等)、α-オレフィン類(例えば、エチレン、プロピレン、n-ブテン、1-ヘキセン等)、ブテン類(例えば、3,4-ジヒドロキシ-1-ブテン、3,4-ジアシロキシ-1-ブテン、3-アシロキシ-4-ヒドロキシ-1-ブテン、4-アシロキシ-3-ヒドロキシ-1-ブテン、3,4-ジアシロキシ-2-メチル-1-ブテン等)、ペンテン類(例えば、4,5-ジヒドロキシ-1-ペンテン、4,5-ジアシロキシ-1-ペンテン、4,5-ジヒドロキシ-3-メチル-1-ペンテン、4,5-ジアシロキシ-3-メチル-1-ペンテン等)、ヘキセン類(例えば、5,6-ジヒドロキシ-1-ヘキセン、5,6-ジアシロキシ-1-ヘキセン等)、アミン系不飽和単量体[例えば、N,N-ジメチルアリルアミン、N-アリルプペラジン、3-ピペリジンアクリル酸エチルエステル、2-ビニルピリジン、4-ビニルピリジン、2-メチル-6-ビニルピリジン、5-エチル-2-ビニルピリジン、5-ブテニルピリジン、4-ペンテニルピリジン、2-(4-ピリジル)アリルアルコール等]、第四級アンモニウム化合物を有する不飽和単量体(例えば、ジメチルアミノエチルアクリレート塩化メチル4級塩、N,N-ジメチルアミノプロピルアクリルアミド塩化メチル4級塩、N,N-ジメチルアミノプロピルアクリルアミドメチルベンゼンスルホン酸4級塩等)、芳香族系不飽和単量体(例えば、スチレン等)、スルホン酸基を含有する不飽和単量体(例えば、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸又はそのアルカリ金属塩、アンモニウム塩もしくは有機アミン塩;2-アクリルアミド-1-メチルプロパンスルホン酸又はそのアルカリ金属塩、アンモニウム塩もしくは有機アミン塩;2-メタクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸又はそのアルカリ金属塩、アンモニウム塩もしくは有機アミン塩;ビニルスルホン酸又はそのアルカリ金属塩、アンモニウム塩もしくは有機アミン塩;アリルスルホン酸又はそのアルカリ金属塩、アンモニウム塩もしくは有機アミン塩;メタアリルスルホン酸又はそのアルカリ金属塩、アンモニウム塩もしくは有機アミン塩等)、グリセリンモノアリルエーテル、2,3-ジアセトキシ-1-アリルオキシプロパン、2-アセトキシ-1-アリルオキシ-3-ヒドロキシプロパン、3-アセトキシ-1-アリルオキシ-3-ヒドロキシプロパン、3-アセトキシ-1-アリルオキシ-2-ヒドロキシプロパン、グリセリンモノビニルエーテル、グリセリンモノイソプロペニルエーテル、アクリロイルモルホリン、ビニルエチレンカーボネート、ビニルイミダゾール、ビニルカルバゾール等から選ばれる1種以上等が挙げられる。他の不飽和単量体の含有量としては特に規定されないが、例えば、ビニルエステル系単量体100モルに対して10モル以下であればよい。
【0025】
また、得られた共重合変性PVAを本発明の効果を阻害しない範囲で公知の方法を用いてアセタール化、ウレタン化、エーテル化、グラフト化、リン酸エステル化、アセトアセチル化、カチオン化等の反応によって後変性してもよい。
【0026】
上記共重合変性PVAを製造する際に使用される重合触媒は、特に限定されないが、通常アゾ系化合物や過酸化物が用いられる。
また、重合の際、脂肪族ビニルエステルの加水分解を防止する目的で、酒石酸、クエン酸、酢酸等の有機酸を添加してもよい。
また重合の終了には、特に限定されないが、重合停止剤を使用することができる。重合停止剤は、特に限定されず、例えば、m-ジニトロベンゼン等が挙げられる。
【0027】
本発明において、脂肪族ビニルエステルと活性カルボニル基を有する不飽和単量体との共重合の際には、重合容器の形状、重合攪拌機の種類、さらには重合温度や、重合容器内の圧力等いずれも公知の方法を使用してかまわない。
【0028】
本発明において、脂肪族ビニルエステルと活性カルボニル基を有する不飽和単量体との共重合体の鹸化方法は、特に限定されず、従来公知の方法に従ってよいが、例えば、従来公知の水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、ナトリウムメトキシド等の塩基性触媒、又は塩酸、硫酸、p-トルエンスルホン酸等の酸性触媒を用いた、加アルコール分解ないし加水分解反応が適用できる。
鹸化反応に用いられる溶媒としては、メタノール、エタノール等のアルコール類;酢酸メチル等のエステル類;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類;ベンゼン、トルエン等の芳香族炭化水素類;テトラヒドロフラン等が挙げられ、これらは単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。また、鹸化温度、時間等に特に制限されない。
また、鹸化物の乾燥、粉砕、洗浄方法も特に制限はなく、公知の方法を使用してもかまわない。
【0029】
変性PVA系樹脂(A)としてジアセトンアクリルアミド変性PVAを用いる場合の、ジアセトンアクリルアミド単位含有量は、ジアセトンアクリルアミド変性PVA全量に対して、例えば0.5~20モル%、好ましくは0.5~15モル%、より好ましくは1~12モル%、さらに好ましくは2~10モル%(例えば、3~8モル%)である。ジアセトンアクリルアミド単位含有量が0.5モル%以上の場合、架橋剤との反応部位が多く、細胞又は組織包埋デバイスとしての十分な強度(応力)を得ることができ、また、20モル%以下の場合、水への溶解性が向上する等の観点から好ましい。
【0030】
変性PVA系樹脂(A)の鹸化度は、特に制限はないが、80モル%以上(例えば、80~99.9モル%)が好ましく、より好ましくは88モル%以上(例えば、88~99.9モル%)で、さらに好ましくは95モル%以上(例えば、95~99.9モル%)である。
【0031】
また、変性PVA系樹脂(A)の粘度は、種々のものとすることができるが、変性PVA系樹脂(A)の4質量%水溶液粘度で2~500mPa・sが好ましく、より好ましくは3~300mPa・s、さらに好ましくは5~200mPa・s(例えば、5~80mPa・s)である。なお、上記鹸化度、4質量%水溶液粘度は、JIS K-6726に従って測定した値である。
【0032】
[架橋剤(B)]
架橋剤(B)は、カルボニル基と反応性を有する官能基(例えば、アミノ基等)を有するものが好ましい。
架橋剤(B)としては、例えば、ヒドラジド化合物、セミカルバジド化合物等が挙げられる。なかでも、下式(1)~(3)で示される群から選ばれる官能基を分子内に2個以上有するヒドラジド化合物、セミカルバジド化合物等が好適に挙げられる。これらは、1種単独で又は2種以上を併用して使用することができる。
-NH-NH (1)
-CO-NH-NH (2)
-NH-CO-NH-NH (3)
【0033】
ヒドラジド化合物の具体例としては、例えば、カルボヒドラジド、ジカルボン酸ヒドラジド[脂肪族ジカルボン酸ヒドラジド(例えば、シュウ酸ジヒドラジド、マロン酸ジヒドラジド、コハク酸ジヒドラジド、グルタル酸ジヒドラジド、アジピン酸ジヒドラジド、ピメリン酸ジヒドラジド、スベリン酸ジヒドラジド、アゼライン酸ジヒドラジド、セバシン酸ジヒドラジド、ドデカン二酸ジヒドラジド、ヘキサデカン二酸ジヒドラジド等)、芳香族ジカルボン酸ヒドラジド(例えば、テレフタル酸ジヒドラジド、イソフタル酸ジヒドラジド、2,6-ナフトエ酸ジヒドラジド、4,4’-ビスベンゼンジヒドラジド等)、脂環族ジカルボン酸ヒドラジド(例えば、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸ジヒドラジド等)、ヒドロキシル基含有ジカルボン酸ジヒドラジド(例えば、酒石酸ジヒドラジド、リンゴ酸ジヒドラジド等)、イミノジ酢酸ジヒドラジド、イタコン酸ジヒドラジド等]、1,3-ビス(ヒドラジノカルボノエチル)-5-イソプロピルヒダントイン、7,11-オクタデカジエン-1,18-ジカルボヒドラジド、トリス(2-ヒドラジノカルボニルエチル)イソシアヌレート、クエン酸トリヒドラジド、ブタントリカルボヒドラジド、1,2,3-ベンゼントリヒドラジド、エチレンジアミン四酢酸テトラヒドラジド、1,4,5,8-ナフトエ酸テトラヒドラジド、ニトリロ酢酸トリヒドラジド、シクロヘキサントリカルボン酸トリヒドラジド、ピロメリット酸テトラヒドラジド等が挙げられる。
また、セミカルバジド化合物としては、例えば、N,N’-ヘキサメチレンビスセミカルバジド、ビューレットリートリ(ヘキサメチレンセミカルバジド)等が挙げられる。
また、これらのヒドラジド化合物、セミカルバジド化合物にアセトン、メチルエチルケトン等の低沸点ケトン類を反応させた誘導体等を用いてもよい。
【0034】
上記架橋剤(B)の中でも、好ましくは、ジカルボン酸ヒドラジド、アミノポリアクリルアミド等、より好ましくは、アジピン酸ジヒドラジド、アミノポリアクリルアミド等、特に好ましくはアミノポリアクリルアミドが、毒性が低く、水への溶解性も高い等の観点から好適に使用され得る。
【0035】
架橋剤(B)は、上記架橋剤の1種又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
架橋剤(B)の添加量は、変性PVA系樹脂(A)100質量部に対して、1~30質量部が好ましく、2~25質量部がより好ましく、3~20質量部(例えば、4~15質量部)がさらに好ましい。1質量部以上であれば、架橋密度が高くなり細胞又は組織包埋デバイスとしての十分な強度(応力)を得ることができ、一方30質量部以下であれば、反応に寄与しない架橋剤の残留を抑制できる等の観点から、好ましい。
【0036】
架橋剤(B)としてアミノポリアクリルアミドを使用する場合、分子量範囲は特に限定されず、本発明の効果が阻害されない範囲で調整すればよいが、アミノポリアクリルアミドの重量平均分子量(Mw)は、約3000~6000000が好ましく、約5000~1000000がより好ましく、約8000~800000(例えば、約10000~300000、約10000~200000、約10000~100000など)がさらに好ましい。
【0037】
架橋剤(B)としてアミノポリアクリルアミドを使用する場合、アミノポリアクリルアミドのヒドラジド化率は特に限定されず、本発明の効果が阻害されない範囲で調整すればよいが、30%以上が好ましく、40%以上がより好ましく、50%以上(例えば、60%以上)がさらに好ましい。
【0038】
アミノポリアクリルアミドの分子量、ヒドラジド化率は、例えば分子量が小さい場合はヒドラジド化率を高くする、分子量が大きい場合は低めにするなど本発明の効果が阻害されない範囲で適宜調整すればよい。
【0039】
本発明の水性PVAゲルの架橋率、空隙率及び/又は平均孔径は、透過すべき酸素、無機有機の栄養分、種々のホルモンの中で最大と想定される直径5nm程度の分子(例えばインスリンなどのホルモンを含む生理活性物質)を透過し、透過を阻止すべき免疫関連細胞や免疫関連物質の中で最小と想定される直径50nm程度の分子(例えば抗体、補体など)を透過しない選択性を有する効果が阻害されない範囲で調整すればよい。調整に役立つ方法として、後述するような補体透過阻止試験が挙げられる。
本発明の水性PVAゲルにおける平均孔径は、例えば、5nm以上500nm未満であり、好ましくは5nm以上200nm未満であり、さらに好ましくは5nm以上50nm未満である。
前記平均孔径は、公知の方法により求めることができる。例えば、走査型電子顕微鏡(日立S-4000型、日立製作所製)でゲル表面の写真(SEM写真、倍率1,000倍~5,000倍)をとり、得られた写真を画像処理装置(本体名:日本アビオニクス株式会社製、TVイメージプロセッサTVIP-4100II、制御ソフト名:ラトックシステムエンジニアリング株式会社製、TVイメージプロセッサイメージコマンド4198)に取り込んで得られる像における孔径を所定数測定し、それを演算処理することにより、平均孔径を求めることができる。
または、大気圧走査電子顕微鏡(例えば、日立ハイテクノロジーズ社製 AeroSurf1500、日本電子株式会社製JASM-6200)、動的光散乱法(例えば株式会社堀場製作所製nano Partica SZ-100 Plus)又は走査型顕微光散乱法等により求めることができる。
【0040】
また、水性PVAゲルは、通常、移植時に容易に崩壊しない強度(応力)を有する。応力は変性PVA系樹脂(A)の4%水溶液粘度、変性度、架橋剤(B)の種類、添加量、及び水性PVAゲルの固形分濃度により異なるため一概には言えないが、例えば応力が0.5~100kPaであり、好ましくは0.6~95kPa、より好ましくは0.7~90kPa、さらに好ましくは0.7~85kPaである。
水性PVAゲルの応力は、例えば島津製作所製小型卓上試験機EZTest EZ-SXを用いその使用説明書に従って測定することができる。
【0041】
[生体組成物(C)]
本発明の水性ゲルに、生体組成物(C)を封入することにより、細胞又は組織包埋デバイスを形成することができる。
生体組成物(C)としては、特に限定されず、作製する細胞又は組織包埋デバイスの使用目的に応じて適宜選択することができる。
生体組成物(C)としては、本発明において水性ゲルを好ましく製造する温度(すなわち、-5~60℃)において安定に保存できる細胞(好ましくは生細胞)又は生体組織であれば、細胞又は生体組織の種類によらず、生理活性物質の供給能力が高い細胞又は組織包埋デバイスを得ることができるため、好ましい。
【0042】
このような細胞としては、例えば、外胚葉、中胚葉又は内胚葉に由来する分化細胞や幹細胞等を用いることができる。
分化細胞としては、例えば、表皮細胞、平滑筋細胞、骨細胞、骨髄細胞、軟骨細胞、骨格筋芽細胞、膵実質細胞、膵島細胞、膵内分泌細胞、膵外分泌細胞、膵管細胞、肝臓細胞(例えば、肝細胞)、甲状腺細胞、副甲状腺細胞、副腎細胞、下垂体細胞、脾細胞、松果体細胞、腎臓細胞(腎細胞)、脾臓細胞、前葉細胞、成長ホルモン分泌細胞、ドパミン産生細胞、血液細胞、心筋細胞、骨格筋細胞、骨芽細胞、神経細胞、色素細胞、脂肪細胞等を用いることができる。上記細胞は、生体から単離された細胞のみならず、後述する幹細胞から分化誘導されたものであってもよい。
幹細胞(iPS細胞等)等の分化誘導されうる細胞については、分化誘導される細胞をデバイスに組み込んで、投与後に生体内で分化誘導させてもよいし、分化誘導した細胞をデバイスに組み込んで用いてもよい。
また、幹細胞としては、組織幹細胞(例えば、表皮幹細胞、毛嚢幹細胞、膵幹細胞・膵前駆細胞、肝幹細胞、神経幹細胞、網膜幹細胞、造血幹細胞、間葉系幹細胞等)、胚性幹細胞(ES細胞)、iPS細胞(induced pluripotent stem cell)等を用いることができるが、これらに限らない。
これらの細胞は、ヒト、ブタ、ラット又はマウス等の哺乳動物由来であって、患者等の生体にとって有用なホルモンやタンパク質等の生理活性物質を産生及び/又は分泌する細胞であることが好ましく、細胞の種類の選択は、移植する患者等の生体の疾患の種類によって決定することができる。また、これらの細胞がヒト細胞以外である場合、治療目的にヒト遺伝子を導入された細胞であってもよい。なお、生体にとって有用なホルモンとは、インスリン、甲状腺刺激ホルモン、甲状腺ホルモン、副甲状腺ホルモン、成長ホルモン、チロキシン、糖質コルチコイド、グルカゴン、エストラジオール、又はテストステロン等が例示される。生体にとって有用なタンパク質とは、具体的には、血液凝固因子、補体、アルブミン、グロブリン、各種酵素(代謝酵素又はアミラーゼ、プロテアーゼ、若しくはリパーゼ等の消化酵素)が例示される。その他の生理活性物質の例として、例えばドパミンなどの神経伝達物質等が挙げられる。
具体的に言えば、膵細胞(膵島細胞)、肝細胞、ドパミン産生細胞及びこれらの幹・前駆細胞が好ましく、膵細胞(膵島細胞)、肝細胞、及びこれらの幹・前駆細胞がより好ましく、膵細胞(膵島細胞)及び膵前駆(幹)細胞がより好ましい。
【0043】
本発明に用いられる上記の生体組成物(C)は、実験室用に確立された細胞若しくは生体組織、又は生体組織から分離した細胞等のいずれであってもよいが、分化した非分裂細胞であることが好ましい。なお、該分離方法としては特に限定されず、従来公知の方法に従ってよい。また、生体組織から分離された細胞は、病原性ウイルス等の病原体が除去されていることが望ましい。
【0044】
本発明の細胞又は組織包埋デバイスにおいて、生体組成物(C)の含有量は、生体組成物(C)の種類に応じて適宜変更することができ、特に限定されないが、ゲルデバイス包埋空間1mmに対して、例えば、1000~1000000細胞数、好ましくは10000~100000細胞数、より好ましくは20000~50000細胞数である。
投与量は、医師が患者の年齢、性別、症状、副作用等を考慮して決定するので、一概には言えないが、通常成人1人当たり約1~10のデバイスを体内に移植することができる。例えば糖尿病患者に対する場合、患者の体重1kgあたり通常1000~100000IEQ(膵島量の国際単位:直径150μmの膵島の体積を1IEQと定義)、好ましくは5000~40000IEQ、より好ましくは10000~20000IEQの膵島を含有するデバイスを移植することができる。
デバイスの形状は特に限定されない。円盤状、球状、円柱状、楕円球状等を含むが、円盤状が好ましい。デバイスが円盤状の場合は、厚みと直径の積で表現すると、厚みは通常0.1mm~10cm、好ましくは0.1~5mm、より好ましくは0.5~2mmであり、直径は通常1mm~50cm、好ましくは1mm~10cm、より好ましくは2~4cm程度である。
材質は従来公知のものを用いてよい。
なお、本発明における生体組成物(C)としては、前記した細胞又は生体組織以外に、他の生体由来成分が含まれることを妨げるものではない。
また、本開示は、本発明の細胞又は組織包埋デバイスにおける細胞又は組織が、微生物生菌体由来である場合を除く場合を包含する。
【0045】
[細胞培養成分(D)]
本発明の水性ゲルに、生体組成物(C)とともに細胞培養成分(D)を封入することにより、細胞又は組織包埋デバイスを形成してもよい。
細胞培養成分(D)としては、特に限定されないが、例えば、Na、K、Cl、Ca、Glucose等を含有する酢酸あるいはリン酸緩衝液等が挙げられる。
細胞培養成分(D)がNaを含有する場合、Na濃度は、好ましくは20~150mEq/L、より好ましくは80~140mEq/Lに調整する。
Kを含有する場合、K濃度は、好ましくは2.5~130mEq/L、より好ましくは3.5~40mEq/Lに調整する。
Clを含有する場合、Cl濃度は、好ましくは15~170mEq/L、より好ましくは100~150mEq/Lに調整する。
Caを含有する場合、Ca濃度は、好ましくは0.5~5mEq/L、より好ましくは1~3mEq/Lに調整する。
Glucoseを含有する場合、Glucose濃度は、好ましくは1~11mM、より好ましくは3~7mMに調整する。
【0046】
細胞培養成分(D)としては、特に限定されないが、例えば、公知の細胞培養培地(例えば、HBSS(ハンクス平衡塩溶液)等)、市販の保存液(例えば、Euro-Collins液、セルバンカー、UW液(University of Wisconsin solution)等)、細胞保護成分(例えば、ジメチルスルホキシド(DMSO)、血清アルブミン等)、雑菌の混入を阻止する成分(例えば、抗生物質等)、細胞の活性を維持する成分(例えば、ニコチンアミド等のビタミン類等)等が挙げられ、好ましくは、公知の細胞培養培地等である。これらは、1種単独で又は2種以上を併用して使用することができる。
また、細胞培養成分(D)は、他の成分(例えば、徐放性付与剤、等張化剤、pH調整剤など)と組み合わせて使用してもよい。
【0047】
本発明のデバイスにおいては、変性PVA系樹脂(A)及び細胞培養成分(D)が接触した状態で存在しているので、その作製にあたり細胞培養成分(D)を添加する場合の細胞培養成分(D)は、「ポリビニルアルコール樹脂(A)含有水溶液の体積、架橋剤(B)の体積及び細胞培養成分(D)の体積の和/細胞培養成分(D)の体積」倍に濃縮した状態で添加すれば都合よい。
このような状態の細胞培養成分(D)の含有量は、特に限定されないが、細胞又は生体組織の増殖、生存及び/又は生理活性物質の分泌等を阻害しない範囲であって、本発明の目的を損なわない範囲であることが好ましい。
上記状態の細胞培養成分(D)の添加量は、変性PVA系樹脂(A)100質量部に対して、例えば、100~2000質量部、好ましくは150~1000質量部(例えば、200~300質量部、175~300質量部など)程度であってもよい。
例えば、変性PVA系樹脂(A)の水溶液8mLおよび架橋剤(B)1mLに対して、10倍濃度の細胞培養成分(D)1mLであってもよい。
【0048】
さらに、細胞又は組織包埋デバイスの作製において、変性PVA系樹脂(A)、架橋剤(B)、生体組成物(C)及び細胞培養成分(D)以外の他の成分を用いてもよい。
他の成分としては、例えば、生細胞の増殖を促進又は制御する物質である細胞増殖因子、細胞から産生される活性物質であるサイトカイン、その他の生理活性物質、細胞又は組織包埋デバイスへの血流を促進する血流促進物質、神経栄養因子等が挙げられる。これらは、1種単独で又は2種以上を併用して使用することができる。
細胞増殖因子としては、例えば、血小板由来増殖因子(PDGF)、上皮増殖因子(EGF)、線維芽細胞増殖因子(FGF)、肝細胞増殖因子(HGF)、血管内皮増殖因子(VEGF)、インスリン等が挙げられる。
サイトカインとしては、例えば、造血因子(例えば、インターロイキン類、ケモカイン類、コロニー刺激因子等)、腫瘍壊死因子、インターフェロン類等が挙げられる。
その他の生理活性物質として、例えば、アミノ酸(例えば、グリシン、フェニルアラニン、リジン、アスパラギン酸、グルタミン酸等)、ビタミン類(例えば、ビオチン、パントテン酸、ビタミンD等)、血清アルブミン、抗生物質等が挙げられる。
血流促進物質としては、例えば、シトルリン又はその塩、カプサイシン、カプサイシノイド類が挙げられる。
神経栄養因子としては、例えば、NGF(nerve growth factor;神経成長因子)、BDNF(brain-derived neurotrophic factor;脳由来神経栄養因子)、NT-3(neurotrophin-3;ニューロトロフィン-3)、NT-4(neurotrophin-4;ニューロトロフィン-4)、GDNF(Glial-Cell Derived Neurotrophic Factor;グリア細胞株由来神経栄養因子)、ニュールツリン(neurturin)、アルテミン(artemin)、パーセフィン(persephin)等が挙げられる。
なお、前記他の成分の添加量は、特に限定されない。
【0049】
[水性ゲル]
本発明の細胞又は組織包埋デバイスに使用される水性ゲルは、例えば、変性PVA系樹脂(A)の水溶液を作製し、それに、架橋剤(B)又はあらかじめ調製した架橋剤(B)の水溶液を添加して混合することにより作製することができる。なお、混合後、遠心機にかけてもよい。
【0050】
生体組成物(C)は、水性ゲルを作製後に水性ゲルと混合してもよいし、変性PVA系樹脂(A)の水溶液に架橋剤(B)又はその水溶液を添加して混合する際に、生体組成物(C)も添加して混合してもよい。
なお、架橋剤(B)又は架橋剤(B)の水溶液と生体組成物(C)を、変性PVA系樹脂(A)の水溶液に添加する際の添加順序は、特に限定されず、変性PVA系樹脂(A)の水溶液に架橋剤(B)又はその水溶液を添加して得られた混合物に、生体組成物(C)を添加してもよいし、変性PVA系樹脂(A)の水溶液に生体組成物(C)を添加して得られた混合物に、架橋剤(B)又はその水溶液を添加してもよいし、変性PVA系樹脂(A)の水溶液に、架橋剤(B)又はその水溶液と、生体組成物(C)を同時に添加してもよい。
【0051】
細胞培養成分(D)は、水性ゲルの作製後に、水性ゲルを、細胞培養成分(D)を含む液に浸漬させてもよいし、水性ゲルを作製する際に、変性PVA系樹脂(A)及び架橋剤(B)(さらに、必要に応じて生体組成物(C))と共に混合してもよいが、生存細胞数の減少を抑制するためには、ゲル化前に変性PVA系樹脂(A)及び架橋剤(B)(さらに、必要に応じて生体組成物(C))と混合して作製してもよい。
【0052】
水性ゲルの作製方法としては、変性PVA系樹脂(A)の水溶液、架橋剤(B)(又はその水溶液)及び細胞培養成分(D)を混合した後に、生体組成物(C)を混合して得られる混合物(ゾル状態であってもよい)をゲル化せしめることがより好ましい。
【0053】
また、本発明において使用できる前記他の成分は、生体組成物(C)及び/又は細胞培養成分(D)と一緒に、又は、別々に、変性PVA系樹脂(A)、変性PVA系樹脂(A)含有水溶液、架橋剤(B)及び/又は水性ゲルに添加し、混合することができる。
【0054】
変性PVA系樹脂(A)の水溶液の調製方法としては、特に限定されないが、例えば、該樹脂(A)を室温の水に分散し、撹拌しながら80℃以上に昇温し、完全に溶解した後冷却する従来公知のPVAの溶解方法で調製することができる。
【0055】
架橋剤(B)の水溶液の調製方法としては、特に限定されないが、例えば、該架橋剤(B)を室温の水に分散し、室温で撹拌溶解して調整する方法や、加熱下(例えば、60℃で10分間など)で撹拌溶解し、その後は室温で放置する方法で調製することができる。
【0056】
また、変性PVA系樹脂(A)の水溶液や架橋剤(B)の水溶液は、オートクレーブ処理、UVやγ線の処理等、従来公知の方法で滅菌処理することが望ましく、生体組成物(C)との混合時またはその後の細胞又は組織包埋デバイスの製造では、雑菌が入らないような環境で作業や保管を行うことが望ましい。
【0057】
架橋剤(B)及び変性PVA系樹脂(A)(さらに、必要に応じて生体組成物(C)及び/又は細胞培養成分(D)を混合した)の混合液のpHは、HEPES(2-[4-(2-Hydroxyethyl)-1-piperazinyl]ethanesulfonic acid)などの緩衝液を用いて6.0~8.0に調整することが好ましく、6.2~7.7がより好ましく、6.5~7.5がさらに好ましい。このような範囲であれば、細胞又は組織包埋デバイス内に包理された生細胞又は生体組織が損傷を受けにくく、生存細胞数の減少が少ないため、好ましい。
【0058】
水性ゲルの作製において、変性PVA系樹脂(A)の水溶液と架橋剤(B)(必要により、生体組成物(C)及び/又は細胞培養成分(D)を混合した状態)の混合物(又はその水溶液)を、放置してもよい。
放置温度としては、生細胞の保存に適した温度であれば特に制限はないが、例えば、-5℃以上であり、好ましくは-5~60℃(例えば、0~60℃)であり、より好ましくは-3~50℃(例えば、0~50℃)であり、さらに好ましくは0~40℃である。このような範囲であれば、生存細胞数の減少が少ないため好ましい。また、放置温度は、変性PVA系樹脂(A)及び架橋剤(B)の水溶液(ゾル状態であってもよい)、又は水性ゲルを凍結させることなく、該水溶液、又は水性ゲルで生細胞や生体組織を包埋できる温度が好ましい。本発明では、変性PVA系樹脂(A)を用いることにより、生細胞や生体組織の保存に適するよう比較的低い温度(例えば、上記範囲の温度)で、水性ゲルを作製することができる。
水性ゲルを作製する際の放置時間は、変性PVA系樹脂(A)の濃度、架橋剤(B)の量、放置温度等により適宜選択することができるが、通常は1時間~3、4日程度である。1時間以上であれば、細胞又は組織包埋デバイスを体内に留置した際に容易に崩壊しない等の観点から、好ましい。
変性PVA系樹脂(A)及び架橋剤(B)(さらに、必要に応じて生体組成物(C)及び/又は細胞培養成分(D)を混合した)の混合液にpH緩衝液等を添加して、系のpHを低くするとゲル化時間が短縮される傾向にあり、pHを高くするとゲル化時間が長くなる傾向があり、pHを変えることにより、ゲル化時間をコントロールすることができる。
【0059】
水性ゲルに封入される直前の生体組成物(C)の生細胞数全体に対する、水性ゲル、又は細胞若しくは組織包埋デバイスにおける生存細胞数の割合が、変性PVA系樹脂(A)及び架橋剤(B)を成分として含有しない、水性ゲル、又は細胞若しくは組織包埋デバイスにおけるそれと比較して大きい場合、本発明の細胞又は組織包埋デバイスは、包埋されている細胞又は組織の生存率が高いと判断することができる。
水性ゲルに封入される直前の生体組成物(C)の生細胞数全体に対する、水性ゲル、又は細胞若しくは組織包埋デバイスにおける生存細胞数の割合は、例えば60~100%、好ましくは70~100%、より好ましくは80~100%である。生細胞数は、例えば、Fluorescein diacetate試薬による細胞質染色およびpropidium iodideによる細胞核染色により測定(FDA/PI測定と略すこともある)することができる。
【0060】
水性ゲルの固形分濃度は、例えば、0.3~20%、好ましくは0.5~10%、より好ましくは1~8%(例えば、3~8%)である。このような範囲であれば、細胞又は組織包埋デバイスを動物に移植後、体内で長期にデバイス形態を維持し、免疫隔離能を保持できる等の観点から好ましい。本明細書において固形分濃度の測定方法は、特に限定されず、例えば、後述の実施例に記載の方法のように加熱乾燥式水分計(エーアンド・デイ、MS-70)などを用いる方法であってもよい。
得られる水性ゲルは、後述する免疫隔離層として機能し得るように、細胞を安定に保持するとともに、酸素やブドウ糖、インスリンなどの生体にとって有用なホルモン、その他の生理活性物質を透過させ、免疫系のタンパク質を透過させない構造を有する。
【0061】
水性ゲルの形状は、特に制限されないが、例えば、シート状、板状、盤状、棒状、チューブ状、ビーズ状等が挙げられる。
また、該水性ゲルの成形方法としては、例えば、変性PVA系樹脂(A)及び架橋剤(B)(さらに、所望により、好ましくは生体組成物(C)及び細胞培養成分(D))を含む水溶液(ゾル状態であってもよい)を、ゲル化する前に目的とする形状の型に流し込む方法、得られたゲルをナイフ等で目的の形状に加工する方法等が挙げられる。
なお、通常変性PVA系樹脂(A)及び架橋剤(B)(さらに、所望により、好ましくは生体組成物(C)及び/又は細胞培養成分(D)等)を含む水溶液は、ゲル状態に至るまでにゾル状態を経由する。そのようなゾル状態も本発明の水性ゲル等価物として本発明の範囲内であると理解される。
変性PVA系樹脂(A)及び架橋剤(B)を含む水溶液(ゾル状態であってもよい)の固形分濃度は、例えば、0.3~20%、好ましくは0.5~10%、より好ましくは1~8%である。このような範囲であれば、細胞又は組織包埋デバイスを動物に移植後、体内で長期にデバイス形態を維持し、免疫隔離能を保持できる等の観点から好ましい。
【0062】
[細胞又は組織包埋デバイス]
本発明の水性ゲルは、細胞又は組織包埋デバイスの免疫隔離層として使用することができる。
「免疫隔離層」とは、例えば、ブドウ糖;インスリン、甲状腺刺激ホルモン、甲状腺ホルモン、副甲状腺ホルモン、成長ホルモン、チロキシン、糖質コルチコイド、グルカゴン、エストラジオール、又はテストステロンなどのホルモン;血液凝固因子、アルブミン、グロブリン、各種酵素(代謝酵素又はアミラーゼ、プロテアーゼ、若しくはリパーゼ等の消化酵素)などのタンパク質;ドパミンなどの神経伝達物質等を透過しつつも、例えば抗体、補体、又は白血球などの免疫系のタンパク質を透過しない層を意味する。
細胞又は組織包埋デバイスは、生体組成物(C)を包埋又は含有していればよく、例えば、バイオ人工臓器などであってもよい。
【0063】
細胞又は組織包埋デバイスの製造方法は、特に限定されないが、例えば、生体組成物(C)及び細胞培養成分(D)を包含した前記PVA樹脂(A)を含む水溶液又は水性ゲルを、目的とする形状の型の中で、0~40℃(例えば、4℃)下で保存(例えば、1時間~3、4日程度保存)することにより、細胞又は組織包埋デバイスを製造することができる。
【0064】
組織包埋デバイスは、通常、移植時に容易に崩壊しない強度(応力)を有する。応力は変性PVA系樹脂(A)の4%水溶液粘度、変性度、架橋剤(B)の種類、添加量、細胞培養成分(D)の添加量、及び組織包埋デバイスの固形分濃度により異なるため一概には言えないが、例えば応力が0.5~100kPaであり、好ましくは0.6~95kPa、より好ましくは0.7~90kPa、さらに好ましくは0.7~85kPaである。
組織包埋デバイスの応力は、例えば島津製作所製小型卓上試験機EZTest EZ-SXを用いその使用説明書に従って測定することができる。
【0065】
本発明の細胞又は組織包埋デバイスは、支持基材(E)を含有していてもよい。
水性ゲルは、その補強及び/又は操作性の簡便化のために、補強材として有用な支持基材(E)を組み合わせて用いてもよい。
例えば、水性ゲルを薄膜シート状にする場合には、その補強及び操作性の簡便化のために、樹脂製メッシュシート等の基材(補強材)に固定してゲル化するのがよい。
支持基材(E)の素材は、限定されるものではないが、例えば、高分子[例えば、PET(ポリエチレンテレフタレート)、PE(ポリエチレン)、PP(ポリプロピレン)、テフロン(登録商標)等]、金属等が挙げられ、生体内で分解、変質しないことが好ましいが、一定期間経過後生体内で分解されるものであってもよい。
メッシュシートのメッシュ(網目)サイズは、透過すべき酸素、無機有機の栄養分、種々のホルモンの中で最大と想定される直径5nm程度の分子(例えばインスリンなどのホルモンを含む生理活性物質)を透過させ、透過を阻止すべき免疫関連細胞や免疫関連物質の中で最小と想定される直径50nm程度の分子(例えば抗体、補体など)を透過させないように、通常5~100nm、好ましくは10~50nm、より好ましくは20~30nmである。
【0066】
本発明の細胞又は組織包埋デバイスの一つの態様としては、例えば、スライドガラスの上に、前記細胞培養成分(D)を含む変性PVA系樹脂(A)及び架橋剤(B)含有水溶液又は水性ゲルをのせ、その上にPETメッシュ(例えば、株式会社サンプラティック社製、商品名:PETメッシュシート(呼称TN120)等)等の支持基材(E)をかぶせ、該PETメッシュ上に変性PVA系樹脂(A)及び架橋剤(B)含有水溶液又は水性ゲルに生体組成物(C)を懸濁させて得られた懸濁液をのせ、ゲルローディングチップ等を用いて該懸濁液をPETメッシュ上に拡げ、該懸濁液を挟み込む様にさらにPETメッシュをその上にかぶせ、さらにPETメッシュの上に前記細胞培養成分(D)を含む変性PVA系樹脂(A)及び架橋剤(B)含有水溶液又は水性ゲルをのせ、その上からスライドガラスをかぶせて構築されたものから、スライドガラスが外された構成のものが、好ましい実施態様である。なお、細胞又は組織包埋デバイスは、前記スライドガラスを外す前に、0~40℃(例えば、4℃)下で2~72時間、より好ましくは3~48時間静置されたものが好ましい。
【0067】
本発明の細胞又は組織包埋デバイスは、ヒトを含む動物の皮下、筋膜下、肝表面、脾表面、大網内あるいは腹腔内等の体内に留置することにより、移植することができる。該留置方法は、特に限定されず、従来公知の方法に従ってよい。例えば、移植用機器も公知のものでよい。
【0068】
本発明の細胞又は組織包埋デバイスは、内分泌疾患(例えば、甲状腺疾患、副甲状腺疾患、副腎疾患、下垂体疾患、松果体疾患等)、代謝疾患(例えば、オルニチン・トランスカルバミラーゼ欠損症、高アンモニア血症、高コレステロール血症、ホモシスチン尿症、糖原病、クリグラーナジャー症候群等、ウィルソン病)、糖尿病(例えば、1型糖尿病、2型糖尿病、膵性糖尿病等)、神経変性疾患(例えば、パーキンソン病、アルツハイマー病、筋萎縮性側索硬化症、脊髄小脳変性症等)、血友病、骨疾患(例えば、骨粗鬆症)、癌(例えば、白血病等)等の疾患を有するヒトを含む動物に移植することにより、これらの疾患の予防及び/又は治療を行うことができる。本発明の細胞又は組織包埋デバイスは、細胞を安定な状態で長期間生体内にて保有することができるため、これらの疾患を高い治癒率で治療でき、また、細胞又は組織包埋デバイスの移植の頻度を低減することができる。
【0069】
また、本発明の水性ゲルは、粒子径が5~50μmの粒子[例えば、白血球(例えば、マクロファージ等)、リンパ球、(例えば、Tリンパ球)等]の透過を阻害できることに加えて、粒径が0.1~1μmの粒子(例えば、補体等)の透過も阻害できるため、本発明の細胞又は組織包埋デバイスは、免疫に関与する細胞及び補体の隔離を行うことができ、優れた免疫隔離層として使用することができる。
【0070】
好ましい実施の態様として、例えば細胞が膵島細胞である場合を説明する。
図4に示されるように、膵臓から良質な膵島細胞が分離されて、移植用膵島が準備される(図4参照)。膵島細胞同士の凝集を防ぐために膵島細胞を上記したメッシュ(2枚)で固定する(図5参照)。このように準備された固定された膵島細胞と活性カルボニル基を有する変性PVA系樹脂(A)と架橋剤(B)から本発明のデバイスが製造され、最内層は膵島細胞であり、インスリンを発散している。第2層はメッシュ層で細胞を支持している。最外層は、ゲル表面であって、免疫隔離膜を形成している。この免疫隔離膜は生体適合性が高く、インスリンを通過させるが免疫関連物質を通過させない(図6参照)。
本発明のデバイスはそのまま生体内に適用できるが、例えば、公知技術に従って容易に設けられる新生血管を用いて構築された網に収納されて医療効果を発揮する。デバイスは容易に取り出し、又は交換できる(図7参照)。
このデバイスは下記の特徴の少なくとも1つを奏することができる。
(1)包埋する細胞の質を高く維持する。
(2)移植膵島がホスト患者の免疫システムから適切に隔離されている。
(3)酸素・グルコースが供給され、かつ適切なインスリン応答が可能である。
(4)低侵襲な移植が可能であり、必要に応じて体外への容易な取出しや取り換えが可能である。
【0071】
本発明の細胞又は組織包埋デバイスは、半透膜を備えていないことが好ましい。
【実施例0072】
次に、実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により何ら限定されるものではなく、多くの変形が本発明の技術的思想内で当分野において通常の知識を有する者により可能である。なお、例中の「部」および「%」は、特に指定しない限り「質量部」および「質量%」を示す。
【0073】
(変性PVA系樹脂の作製)
[合成例1]
撹拌機、温度計、滴下ロート及び還流冷却器を取り付けたフラスコ中に、酢酸ビニル2000部、メタノール143部、ジアセトンアクリルアミド3.7部を仕込み、系内の窒素置換を行った後、内温が60℃になるまで昇温した。昇温後、2,2-アゾビスイソブチロニトリル0.16部をメタノール100部に溶解した溶液を添加し重合を開始した。フラスコ内に窒素流通を続けながら、ジアセトンアクリルアミド70.1部をメタノール46.7部に溶解した溶液を、重合開始直後から一定速度で滴下し、重合開始から210分に重合停止剤としてm-ジニトロベンゼンを添加し重合を停止した。重合終了時の収率は47.1%であった。得られた反応混合物にメタノール蒸気を加えながら、残存する酢酸ビニルを留去し、ジアセトンアクリルアミド-酢酸ビニル共重合体の35%メタノール溶液を得た。この溶液500部にメタノール70部、イオン交換水1部及び水酸化ナトリウムの4%メタノール溶液29.3部を加えてよく混合し、45℃で鹸化反応を行った。得られたゲル状物を粉砕し、メタノールでよく洗浄した後に乾燥し、ジアセトンアクリルアミド変性PVAを得た。4%水溶液粘度は53.4mPa・s、鹸化度は98.4モル%で、ジアセトン単位含有量は3.6モル%であった。
なお、合成例1中の物性は以下の方法で測定した。
(1)4%水溶液粘度;JIS K 6726(1994)に従って求めた。
(2)鹸化度;JIS K 6726(1994)に従って求めた。
(3)ジアセトンアクリルアミド単位含有量;DMSO-dを溶媒としてH-NMRを測定し、帰属したピークの積分値から算出した。
【0074】
[合成例4~11]
重合時の酢酸ビニル、ジアセトンアクリルアミドの仕込み量、メタノールおよび開始剤の仕込み量等の重合条件、および鹸化時の条件を変えた以外は合成例1と同様の方法で表1に示すジアセトンアクリルアミド変性PVAを得た。
なお、ジアセトンアクリルアミド変性PVAの合成には従来公知の合成方法(例えば特開2015-78324号公報記載の合成方法など)を用いるとよい。
【0075】
【表1】
【0076】
(アミノポリアクリルアミドの作製)
[合成例2]
重量平均分子量約40000のポリアクリルアミド20gとイオン交換水40gを混合した水溶液にヒドラジン一水和物16gを加え、80℃で15時間反応を行った。得られた混合液にエタノールを加え、得られた沈殿物をろ過、洗浄、乾燥してアミノポリアクリルアミド1を得た。重量平均分子量は約53000でヒドラジド化率は88%であった。
【0077】
[合成例3]
重量平均分子量約15000のポリアクリルアミドを使用した以外は合成例2と同様に反応を行い、アミノポリアクリルアミド2を得た。重量平均分子量は約22000でヒドラジド化率は80%であった。
【0078】
[合成例12]
重量平均分子量約65000のポリアクリルアミドを使用した以外は合成例2と同様に反応を行い、アミノポリアクリルアミド3を得た。重量平均分子量は約88000でヒドラジド化率は90%であった。
なお、合成例2、3および12中の物性は以下の方法で測定した。
(1)重量平均分子量;サイズ排除クロマトグラフィーにて求めた。
条件:
溶媒:50mMリン酸二水素ナトリウム水溶液
ポリマー濃度:1mg/mL
流量:1.0mL/min
カラム温度:40℃
カラム:Shodex OHPack SB-803HQ、Shodex OHPack SB-805HQ
スタンダード:プルラン
検出器:RI
(2)ヒドラジド化率;チオ硫酸ナトリウム標準液を用いたIの逆滴定で求めた。詳細な実験操作は、以下の通りである。
実験操作:
1.I/MeOH液を調製した。
2.I/MeOH液を0.1Mチオ硫酸ナトリウム標準液で滴定した。(本測定では0.047Mであった。)
3.各ポリマーサンプルを精秤し、イオン交換水20mLに溶解した。
4.0.047M I/MeOH液を3の溶液に2.0mL加えた。
5.0.1Mチオ硫酸ナトリウム標準液でヨウ素の逆滴定を行った。
【0079】
[実施例1]
(ゾル状態の変性PVA系樹脂(A)及び架橋剤(B)の水溶液の作製)
25mLチューブに合成例1で作製したジアセトンアクリルアミド変性PVAの6.25%水溶液を8.0mL入れ、そこへ10倍濃度HBSS(ハンクス平衡塩溶液)を1.0mL加え、チューブを上下に震盪させ攪拌した。その後、遠心機(久保田商事株式会社製、商品名:ハイブリッド高速冷却遠心機6200)でスピンダウンし、37℃で10分間、静置した。そこへ架橋剤として合成例2で作製したアミノポリアクリルアミド1(以下、APA1とも略す)5%水溶液を1mL加え、チューブを上下に15回震盪させた。遠心機でスピンダウンした上でチューブを上下に再度15回震盪させた。その後、25℃、3000rpmで1分間遠心し、37℃で静置した。適宜得られたゾル状態の水溶液の粘度をチェックし、ゾルが滴状化する時間が3~4秒に到達し膵島包埋に最適な状態と判断されたら、チューブを温浴槽から取り出し、氷上に1分間静置した。その後、25℃、3000rpmで1分間遠心し、変性PVA系樹脂(A)5w/v%、架橋剤(B)0.5w/v%のゾルを得た。得られたゾルを3.5cmディッシュに移した。
【0080】
(ゾルの固形分濃度測定)
ゾルの固形分濃度は、加熱乾燥式水分計(エーアンド・デイ、MS-70)を用いて測定した。水分計の試料皿にガラス繊維シートを置き、ゾル約1gをシートに均一に浸み込ませ、試料皿温度120℃、測定時間(加温時間)15分の条件でゾルの固形分を測定した。測定時の水分計の表示は固形分(%)を選択した。固形分を算出する計算式は、乾燥後質量/乾燥前質量×100(%)である。ゾルの固形分濃度は6.5%と算出された。
【0081】
(膵島細胞の調製)
11から14週齢の雄性Lewisラット(日本エスエルシー)を膵島分離に使用した。0.8mg/mL collagenase type V(Sigma-Aldrich社製)を溶解した冷ハンクス緩衝液(HBSS)をラット総胆管から注入した膵臓を、37℃で12分間消化し膵組織から膵島を分離した。Histopaque-1119(Sigma-Aldrich社製)とLymphoprep(AXIS-SHIELD、Norway) を用いて濃度勾配遠心を行い、膵島を回収した。膵島は5.5mmol/Lグルコースと10%胎児ウシ血清(Fetal Bovine Serum: FBS)を含むRPMI1640培地で37℃、5%CO下で一晩培養した後、実施例および比較例の検討に使用した。
【0082】
(膵島包埋デバイスの作製)
スライドガラスの上に、上記ディッシュ上にのせられた上記作製済みのゾルのうち160μLをのせた。その上にPETメッシュ(株式会社サンプラティック社製、商品名:PETメッシュシート(呼称TN120))をかぶせ、ゾル50μLに、上記で調整した膵島細胞から培地成分を可及的に取り除いたものを懸濁させて得られた懸濁液を上記PETメッシュ上にのせた。ゲルローディングチップを用いて膵島細胞の懸濁液をPETメッシュ上に拡げ、膵島細胞の懸濁液を挟み込む様にPETメッシュをさらにその上にかぶせた。さらにPETメッシュの上に140μLのゾルをのせ、その上からスライドガラスをかぶせた。このようにして構築したゾルを湿箱の中に留置し、4℃下で48時間静置し、膵島包埋デバイス(水性ゲル)を得た。
【0083】
(膵島包埋デバイスの保存工程)
上記にて構築した膵島包埋デバイスをスライドガラスから外し、6wellプレートに5mL/wellの割合で保存培地(グルコース濃度を5.5mMに調整し、10%FBSを含有したRPMI1640培地)に浸し、4℃下で16時間程度保存した。
【0084】
(移植工程)
ストレプトゾトシン誘発糖尿病C57BL/6Jマウスの皮下に、上記保存後の膵島包埋デバイス(水性ゲル)を留置することで移植を行った。
【0085】
(糖尿病治癒評価)
上記移植後、経時的に血糖値を測定して治癒効果を確認した(n数=7)。その平均値±標準偏差を図1及び表2に示す。なお、血糖値200mg/dl以下で○(糖尿病治癒)、200mg/dl超を×(糖尿病状態)と判定した。
【0086】
[実施例2]
合成例2で作製したアミノポリアクリルアミド1の代わりに、合成例3で作製したアミノポリアクリルアミド2を用いた以外は実施例1と同様にして、糖尿病治癒評価を行った(n=4)。その平均値±標準偏差を図1及び表2に示す。
【0087】
図1が示す様に、本発明の膵島包埋デバイスが移植された糖尿病モデル動物は、移植直後より血糖値の低下を認め、移植後185日間が経過した時点でも、糖尿病モデル動物において血糖値の改善が確認された。
【0088】
また、180日間皮下に留置した後に膵島包埋デバイスの摘出を試みたが、実施例1のn数7及び実施例2のn数4のうちのいずれのケースにおいてもデバイスは崩壊せず形態が良好に保たれており、本発明の細胞又は組織包埋デバイスは、体内でも分解され難い強固なものであることが判明した。
【0089】
変性PVA系樹脂(A)3w/v%、架橋剤(B)0.3w/v%とした場合、合成例12の架橋剤(B)を用いた場合も移植直後より血糖値の低下を認め、移植後185日間が経過した時点でも、糖尿病モデル動物において血糖値の改善が確認された。
【0090】
[比較例1]
(PVA溶液組成)
重合度5000、鹸化度99.3モル%のPVAを用い、PVAが3%、FBS(Fetal bovine serum: 牛胎児血清)が10%、Dimethyl sulfoxide(ジメチルスルホキシド)が5%、Nicotinamide(ニコチンアミド)が10mMとなるように、ETK(ET-Kyoto)溶液に溶解させて得られたPVA溶液を凍結融解式膵島デバイス作製に用いた。
【0091】
(膵島細胞の包埋工程)
培地成分を可及的に取り除いたLewisラットの膵島細胞のみを1.5mLチューブに入れ、4℃のセルバンカー(十慈フィールド株式会社製)1.0mLを加えて膵島細胞を懸濁し、氷冷下に1分間置いた後、セルバンカーを取り除いた。1mmスペーサー付スライドガラスの上に、上記PVA溶液を塗布したPETメッシュ(株式会社サンプラティック社製、商品名:PETメッシュシート(呼称TN120)、10×15mm)をのせ、該PETメッシュ上に、160μLのPVA溶液に膵島細胞のみを懸濁させて得られた懸濁液を拡げてから、さらにPVA溶液を塗布したPETメッシュを被せた。この上にスライドガラスをのせて、厚さ1mmの凍結融解式膵島デバイスを作製した。
【0092】
(凍結・融解・保存工程)
作製した凍結融解式膵島デバイスを-80℃で24時間静置した後、型から外して氷冷UW溶液(University of Wisconsin solution、臓器保存溶液)中で融解した。さらに、氷冷UW溶液に5分間ずつ3回浸漬し、ゲル内の溶液組成をUW溶液に置換してから、UW溶液中に4℃下で24時間保存した。
【0093】
(培養工程)
氷冷した膵島培養用培地(RPMI1640培地:5.5mMグルコース、10%FBS、抗生剤含)10mLでデバイス表面のUW溶液を洗浄してから培地(氷冷)に5分間ずつ3回浸漬し、ゲル内の溶液組成を培地に置換した後、3mLの培地で37℃24時間培養した。
【0094】
(移植工程)
皮下よりもグラフト生着が容易であることが知られているストレプトゾトシン誘発糖尿病C57BL/6Jマウスの腹腔内に、上記保存後の凍結融解式膵島デバイスを留置することで移植を行った。
【0095】
(糖尿病治癒評価)
移植後、実施例1と同様に経時的に血糖値を測定し治癒効果を評価した。その結果を表2及び図2に示す。
【0096】
[比較例2~18]
表2に示すように、移植膵島量および移植するデバイスの個数を変更した以外は比較例1と同様に凍結融解式膵島デバイスを作製、移植し糖尿病治癒評価を行った。その結果を表2、図2及び図3に示す。
【0097】
尚、表2において、実施例1及び2については移植185日後の血糖値を、比較例1~18においては移植28日後の血糖値を示す。
【0098】
【表2】
【0099】
【表3】
【0100】
比較例1~18の凍結融解式バイオ人工膵島デバイスにおいては、PVAゲルを凍結融解した時点で、既にその中に包埋されている膵島細胞の形態の崩壊が引き起こされており、実際に糖尿病モデル動物へ移植実験を実施してみても、図2及び図3が示す様に移植直後にグラフト崩壊に起因する一過性の血糖値低下が確認される例があるものの、移植後2週間までに全例において血糖値が再上昇し、凍結融解式膵島デバイスでは糖尿病を治癒させる事が不可能である事が判明した。
【0101】
また、表3が明確に示す様に実施例1及び実施例2の本発明の細胞又は組織包埋デバイスは、膵島細胞を包埋することで糖尿病治療効果を示したのに対し、比較例1~18では糖尿病治療効果は全く認められなかった。比較例1~18では移植時に膵島グラフトが顕著に障害を受けていたため、移植効果が最も高い移植部位として知られている腹腔内へ移植を行ったにもかかわらず糖尿病治療効果は全く認められなかった。一方、実施例1及び実施例2の本発明の細胞又は組織包埋デバイスは移植効果が最も出難い移植部位として広く周知されている皮下へ移植を行ったが、糖尿病治療効果を示した事は特記に値する。
【0102】
なお、実施例1及び実施例2の結果は、免疫隔離能が担保され、包埋細胞の活性が良好に保持されていることを示していることから、生体組成物(C)として他の細胞や生体組織を用いた場合も、免疫隔離能の担保と、包埋細胞活性の保持効果を得ることができる。
【0103】
[実施例3~5]
(免疫隔離能検証試験(補体透過阻止試験))
ゾルの固形分濃度が6.5%(実施例3)、4.3%(実施例4)、2.1%(実施例5)となるようにした以外は実施例1と同様にして作製した各水性ゲル680μLに、ヒツジ感作赤血球(デンカ生研)のペレット20μLを加えて混合し、170μLをガラスボトムデッシュ(直径35mm、ウェル部の直径12mm、AGCテクノグラス)のウェル部に入れた。両面にゲルを塗布した直径15mmと直径22mmのPETメッシュを順に被せ、その上にゲルを200μLのせてから4℃で48時間置き、ゼラチンベロナール緩衝液を2.5mL/デッシュ入れて、4℃で一晩置いた後、試験に用いた。
補体透過阻止効果を有さないコントロールとして、コラーゲンゲル群では5mM NaOH、26mM NaHCO、20mM HEPESとPRMI1640培地を含む0.21%コラーゲン(Cellmatrix Type I-A、新田ゼラチン)680μLに、ヒツジ感作赤血球のペレット20μLを加えて混合し、170μLをガラスボトムデッシュのウェル部に入れて、37℃に15分間置きコラーゲンをゲル化させた。両面にコラーゲンゲルを塗布したPETメッシュを直径15mm、22mmの順にウェル部に被せ、その上からコラーゲンゲルを400μLのせて37℃で15分間置いた後、ゼラチンベロナール緩衝液を2.5mL/デッシュ入れて、4℃で一晩置いた後、試験に用いた。
補体透過試験開始直前に、各群2枚のデッシュの緩衝液を除去し、ゼラチンベロナール緩衝液2.5mL/デッシュと、モルモット血清(デンカ生研)または非動化(血清を57℃30分間加熱し補体を失活)モルモット血清100μL/デッシュを入れて、28℃のインキュベータに置き、10日後に各々のデッシュから溶液を10μLずつ採取し、405nmにおける溶液の吸光度をNanoDrop(Thermo Fisher Scientific Inc.)で測定し、各実施例群とコントロール群の血清/非動化血清比を求めた。
【0104】
実施例3~5の血清/非動化血清比の値は、それぞれ1.0、1.47及び1.69であった。
一方、コントロール群のコラーゲンゲル群の血清/非動化血清比は、1.75であった。
これらの結果より、実施例4及び5では、血清/非動化血清比はコントロール群より低い値を示しており、軽度の補体透過阻止効果が見られた。これにより、実施例3~5の水性ゲルは、程度に違いはあるが、粒子サイズが小さい補体であってもその透過を阻止できることが明らかとなり、いずれも免疫隔離能を有することが示された。特に、実施例3の血清/非動化血清比の値は1.0であり、完全に補体の透過を阻害することが示された。
【0105】
[実施例6~21]
(FDA/PI測定)
表4に示す組成で実施例1と同様の方法で作製した膵島デバイスを、3mL/wellのPBS(室温)で3分間ずつ2回洗浄した。アセトン(和光純薬工業、東京、日本)で5mg/mLに溶解したFluorescein diacetate(FDA: Calbiochmem、San Diego、USA)15μLと、蒸留水で0.5mg/mLに溶解したPropidium iodide (PI: Sigma-Aldrich, St.Louis、MO、USA) 20μLを6wellプレートに入れた3mLのPBSに添加してFDA/PI染色溶液とし、その中にPBSで洗浄後の膵島デバイスを移し、暗所で5分間染色後、3mLのPBS溶液で3分間洗浄した。膵島デバイスをカバーガラス(松浪硝子工業株式会社、大阪、日本)の上にのせ、蛍光顕微鏡(BZ-900:キーエンス、東京、日本)を用いて、FDA(励起波長470/40nm、吸収波長525/50)とPI(励起波長540/25nm、吸収波長605/60)の膵島内における局在を観察した。
何れの実施例においても、FDA測定(染色)では生細胞の存在を確認(FDA(+))し、死細胞はほぼ認められなかった。一方PI測定では細胞核が染色されず(PI(-))、FDA染色の結果と同様に死細胞がほぼ存在しないことが明らかとなった。
【0106】
【表4】
【0107】
[比較例19]
比較例1で作製した膵島デバイスを実施例と同様の方法でFDA/PI測定を行った。FDA測定では染色像の存在が確認できず、PI測定では明瞭な細胞核の染色が見られ、両測定結果から比較例におけるデバイス内の膵島は広範に渡り壊死を引き起こしている事が確認された。
【0108】
[実施例22]
(水性ゲルの固形分濃度、応力測定)
合成例1で得られたジアセトンアクリルアミド変性PVAの7%水溶液、合成例3で得られたアミノポリアクリルアミド2の10%水溶液を、表5に示す変性PVA系樹脂(A)濃度、架橋剤(B)添加量にて混合し、直径34mmの円柱容器内に充填後、20℃下で24時間放置することで、直径34mm×高さ17mmの水性ゲルを作製した。
得られた水性ゲルの固形分濃度は5.5%で、20℃における応力は4.9kPaであった。
固形分濃度は、加熱乾燥式水分計(エーアンド・デイ、MS-70)を用いて測定した。水分計の試料皿にガラス繊維シートを置き、水性ゲル約1gをシートに均一に浸み込ませ、試料皿温度120℃、測定時間(加温時間)15分の条件で水性ゲルの固形分を測定した。測定時の水分計の表示は固形分(%)を選択した。固形分を算出する計算式は、乾燥後質量/乾燥前質量×100(%)である。
応力測定は、島津製作所製小型卓上試験機EZTest EZ-SXを使用し、その使用説明書に従って測定した。具体的には、直径34mm×高さ17mmの水性ゲルを直径20mmの円柱治具を用い、20%押し込み時の応力を求めた。
【0109】
[実施例23~39]
表5に示す通り、変性PVA系樹脂(A)の種類、濃度、架橋剤(B)の種類、添加量などを適宜変更した以外は実施例22と同様に水性ゲルを作製し、固形分濃度、応力を求めた。
【0110】
【表5】
【0111】
[実施例40]
(組織包埋デバイスの固形分濃度、応力測定)
合成例1で得られたジアセトンアクリルアミド変性PVAの7%水溶液、合成例3で得られたアミノポリアクリルアミド2の10%水溶液、10倍濃度HBSS(ハンクル平衡塩溶液)を表6に示す変性PVA樹脂(A)濃度、架橋剤(B)添加量、HBSS添加量にて混合し、直径34mmの円柱容器内に充填後、37℃下で30分放置し、さらに4℃、48時間放置することで、直径34mm×高さ17mmの組織包埋デバイスを作製した。
得られた組織包埋デバイスの固形分濃度は6.4%で、20℃における応力は5.3kPaであった。
固形分濃度は、加熱乾燥式水分計(エーアンド・デイ、MS-70)を用いて測定した。水分計の試料皿にガラス繊維シートを置き、組織包埋デバイス約1gをシートに均一に浸み込ませ、試料皿温度120℃、測定時間(加温時間)15分の条件で組織包埋デバイスの固形分を測定した。測定時の水分計の表示は固形分(%)を選択した。固形分を算出する計算式は、乾燥後質量/乾燥前質量×100(%)である。
応力測定は、島津製作所製小型卓上試験機EZTest EZ-SXを使用し、その使用説明書に従って測定した。具体的には、直径34mm×高さ17mmの水性ゲルを直径20mmの円柱治具を用い、20%押し込み時の応力を求めた。
【0112】
[実施例41~79]
表6に示す通り、変性PVA系樹脂(A)の種類、濃度、架橋剤(B)の種類、添加量、HBSS量などを適宜変更した以外は実施例40と同様に組織包埋デバイスを作製し、固形分濃度、応力を求めた。
【表6】
【産業上の利用可能性】
【0113】
本発明によれば、包埋した生細胞や生体組織が損傷を受けにくいpH、温度条件下で強固な構造を維持する水性ゲルを毒性の低い成分を用いて簡便に形成できるため、患者にとって有用なホルモンやタンパク質等の生理活性物質の供給能力が高く、且つ含有される細胞や生体組織が生体の防御機能から隔離された細胞又は組織包埋デバイスを提供することができる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7