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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022105294
(43)【公開日】2022-07-13
(54)【発明の名称】非繊維状膜および細胞シート
(51)【国際特許分類】
   C12M 3/00 20060101AFI20220706BHJP
   A61L 27/38 20060101ALI20220706BHJP
   A61L 27/24 20060101ALI20220706BHJP
   A61L 27/18 20060101ALI20220706BHJP
   C12M 1/00 20060101ALI20220706BHJP
   C12N 5/071 20100101ALI20220706BHJP
   C08L 89/06 20060101ALI20220706BHJP
   C08L 67/04 20060101ALI20220706BHJP
   C08L 67/00 20060101ALI20220706BHJP
   C08J 5/18 20060101ALI20220706BHJP
   C08L 101/16 20060101ALN20220706BHJP
【FI】
C12M3/00 Z
A61L27/38 ZBP
A61L27/24
A61L27/18
C12M1/00 A
C12N5/071
C08L89/06
C08L67/04
C08L67/00
C08J5/18 CFC
C08L101/16
【審査請求】有
【請求項の数】28
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2021208025
(22)【出願日】2021-12-22
(31)【優先権主張番号】109147086
(32)【優先日】2020-12-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】TW
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.テフロン
(71)【出願人】
【識別番号】390023582
【氏名又は名称】財團法人工業技術研究院
【氏名又は名称原語表記】INDUSTRIAL TECHNOLOGY RESEARCH INSTITUTE
【住所又は居所原語表記】No.195,Sec.4,ChungHsingRd.,Chutung,Hsinchu,Taiwan 31040
(74)【代理人】
【識別番号】100102978
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 初志
(74)【代理人】
【識別番号】100102118
【弁理士】
【氏名又は名称】春名 雅夫
(74)【代理人】
【識別番号】100160923
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 裕孝
(74)【代理人】
【識別番号】100119507
【弁理士】
【氏名又は名称】刑部 俊
(74)【代理人】
【識別番号】100142929
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 隆一
(74)【代理人】
【識別番号】100148699
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 利光
(74)【代理人】
【識別番号】100128048
【弁理士】
【氏名又は名称】新見 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100129506
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 智彦
(74)【代理人】
【識別番号】100205707
【弁理士】
【氏名又は名称】小寺 秀紀
(74)【代理人】
【識別番号】100114340
【弁理士】
【氏名又は名称】大関 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100121072
【弁理士】
【氏名又は名称】川本 和弥
(72)【発明者】
【氏名】劉 育秉
(72)【発明者】
【氏名】廖 智菁
(72)【発明者】
【氏名】徐 新怡
(72)【発明者】
【氏名】沈 盈▲文▼
(72)【発明者】
【氏名】▲登▼ 允中
(72)【発明者】
【氏名】沈 欣欣
(72)【発明者】
【氏名】陳 宜蓁
【テーマコード(参考)】
4B029
4B065
4C081
4F071
4J002
4J200
【Fターム(参考)】
4B029AA21
4B029BB11
4B029CC02
4B065AA90X
4B065BC41
4B065CA44
4B065CA46
4C081AB11
4C081CA17
4C081CB01
4C081CC04
4C081CD12
4C081DA02
4C081EA11
4F071AA43
4F071AA70
4F071AA81
4F071AG05
4F071AH19
4F071BB02
4F071BC01
4J002AD01W
4J002CF00X
4J002CF18X
4J002CF19X
4J002GB01
4J200AA04
4J200AA06
4J200BA13
4J200BA14
4J200BA15
4J200BA16
4J200BA18
4J200CA01
4J200DA22
4J200EA04
(57)【要約】      (修正有)
【課題】その上に付着し成長する細胞の分化を助けることのできる新規なフィルム、およびそれからなる新規な細胞シートを提供する。
【解決手段】成分にコラーゲンおよびポリエステル系ポリマーを含む非繊維状膜を提供する。非繊維状膜中のポリエステル系ポリマーの含有量は1~60wt%である。また、非繊維状膜は、水性液体における膨潤速度が1~200μm/時間である、または単位時間当たりの膨潤比が0.1~2%/時間である。
【選択図】図4A
【特許請求の範囲】
【請求項1】
非繊維状膜であって、その成分が、
コラーゲンと、
ポリエステル系ポリマーと
を含み、
前記非繊維状膜中の前記ポリエステル系ポリマーの含有量が1~60wt%であり、かつ
水性液体中における前記非繊維状膜の膨潤速度が1~200μm/時間である、または単位時間当たりの膨潤比が0.1~2%/時間である、非繊維状膜。
【請求項2】
前記コラーゲンには、I型コラーゲン、II型コラーゲンおよびIII型コラーゲンのうちの少なくとも1つが含まれる、請求項1に記載の非繊維状膜。
【請求項3】
前記非繊維状膜中の前記ポリエステル系ポリマーの含有量が1~50wt%である、請求項1または2に記載の非繊維状膜。
【請求項4】
前記非繊維状膜の前記成分が前記コラーゲンおよび前記ポリエステル系ポリマーからなり、かつ前記コラーゲンと前記ポリエステル系ポリマーとの重量比が95:5、90:10、80:20、70:30または50:50である、請求項1~3のいずれか1項に記載の非繊維状膜。
【請求項5】
前記ポリエステル系ポリマーの分子量が50,000~1,500,000Daである、請求項1~4のいずれか1項に記載の非繊維状膜。
【請求項6】
前記ポリエステル系ポリマーの固有粘度が0.15~7.0dl/gである、請求項1~5のいずれか1項に記載の非繊維状膜。
【請求項7】
前記ポリエステル系ポリマーには、ポリカプロラクトン(PCL)、ポリ乳酸(PLA)、ポリグリコール酸(PGA)、ポリヒドロキシ酪酸(PHB)およびポリヒドロキシ吉草酸(PHV)のうちの少なくとも1つが含まれる、請求項1~6のいずれか1項に記載の非繊維状膜。
【請求項8】
前記非繊維状膜が多孔質膜である、請求項1~7のいずれか1項に記載の非繊維状膜。
【請求項9】
前記ポリエステル系ポリマーがポリカプロラクトンであり、前記ポリカプロラクトンの分子量が800,000~1,500,000Daである、請求項1~8のいずれか1項に記載の非繊維状膜。
【請求項10】
前記非繊維状膜が非多孔質膜である、請求項1~7のいずれか1項に記載の非繊維状膜。
【請求項11】
前記ポリエステル系ポリマーがポリ乳酸であり、前記ポリ乳酸の固有粘度が0.15~7.0dl/gである、請求項1~7および10のいずれか1項に記載の非繊維状膜。
【請求項12】
非繊維状膜であって、
(a)その溶質にコラーゲンと、前記非繊維状膜中の含有量が1~60wt%であるポリエステル系ポリマーとが含まれ、かつ、その溶媒にパーフルオロカーボン溶媒が含まれる混合溶液を作製するステップ、および
(b)前記混合溶液を乾燥させて膜を形成するステップ
を含む方法により作製され、
水性液体中における前記膜の膨潤速度が1~200μm/時間であるか、または単位時間当たりの膨潤比が0.1~2%/時間である、非繊維状膜。
【請求項13】
前記混合溶液中の前記溶質の濃度が0.5~20wt%である、請求項12に記載の非繊維状膜。
【請求項14】
前記コラーゲンには、I型コラーゲン、II型コラーゲンおよびIII型コラーゲンのうちの少なくとも1つが含まれる、請求項12または13に記載の非繊維状膜。
【請求項15】
前記非繊維状膜中の前記ポリエステル系ポリマーの含有量が1~50wt%である、請求項12~14のいずれか1項に記載の非繊維状膜。
【請求項16】
前記非繊維状膜の成分が前記コラーゲンおよび前記ポリエステル系ポリマーからなり、かつ前記コラーゲンと前記ポリエステル系ポリマーとの重量比が95:5、90:10、80:20、70:30または50:50である、請求項12~15のいずれか1項に記載の非繊維状膜。
【請求項17】
前記ポリエステル系ポリマーの分子量が50,000~1,500,000Daである、請求項12~16のいずれか1項に記載の非繊維状膜。
【請求項18】
前記ポリエステル系ポリマーの固有粘度が0.15~7.0dl/gである、請求項12~17のいずれか1項に記載の非繊維状膜。
【請求項19】
前記ポリエステル系ポリマーには、ポリカプロラクトン、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリヒドロキシ酪酸およびポリヒドロキシ吉草酸のうちの少なくとも1つが含まれる、請求項12~18のいずれか1項に記載の非繊維状膜。
【請求項20】
前記非繊維状膜が多孔質膜である、請求項12~19のいずれか1項に記載の非繊維状膜。
【請求項21】
前記ポリエステル系ポリマーがポリカプロラクトンであり、前記ポリカプロラクトンの分子量が50,000~200,000Daである、請求項12~20のいずれか1項に記載の非繊維状膜。
【請求項22】
前記非繊維状膜が非多孔質膜である、請求項12~19のいずれか1項に記載の非繊維状膜。
【請求項23】
前記ポリエステル系ポリマーがポリ乳酸であり、前記ポリ乳酸の固有粘度が0.15~7.0dl/gである、請求項12~19および22のいずれか1項に記載の非繊維状膜。
【請求項24】
前記パーフルオロカーボン溶媒には、ヘキサフルオロイソプロパノール、ヘキサフルオロアセトン、1,1,1-トリクロロトリフルオロアセトン、トリフルオロ酢酸、パーフルオロパーヒドロフェナントレンまたはパーフルオロ(メチルシクロヘキサン)が含まれる、請求項12~23のいずれか1項に記載の非繊維状膜。
【請求項25】
前記水性液体には、水、緩衝液または培養液が含まれる、請求項12~24のいずれか1項に記載の非繊維状膜。
【請求項26】
前記方法が、前記のステップ(b)の後に、前記膜に架橋処理を行うステップをさらに含み、前記架橋処理の時間が0.1~10時間である、請求項12~25のいずれか1項に記載の非繊維状膜。
【請求項27】
請求項1~26のいずれか1項に記載の非繊維状膜と、
前記非繊維状膜上の少なくとも1つの細胞層と、
を含む細胞シートであって、
前記細胞層が複数の細胞から構成され、前記複数の細胞が同じ方向に配列している、細胞シート。
【請求項28】
前記細胞には、線維芽細胞、筋芽細胞、上皮細胞、内皮細胞、前駆細胞、腱細胞、幹細胞、間葉系幹細胞、骨髄幹細胞または脂肪由来幹細胞が含まれる、請求項27に記載の細胞シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2020年12月31日に出願された台湾特許出願第109147086号に基づくと共に、その優先権を主張し、その開示の全体が参照することにより本明細書に援用される。
【0002】
技術分野
本開示は非繊維状膜および細胞シートに関する。
【背景技術】
【0003】
背景
再生医療細胞治療の主な目的は、身体の各種組織および器官の交換、修復、改善または再生をすることにある。従来の再生医療では通常、細胞懸濁液、またはその細胞複合体担体スキャホールド(cell complex carrier scaffold)との組み合わせを用いて、細胞を患部まで運ぶものとなっている。従来の再生細胞治療は再生医療の発展を大幅に促したが、細胞懸濁液を得るには、細胞を懸濁させるためのトリプシンが要されることが多く、このステップは一般に細胞の表面タンパク質を損傷させてしまうものである。表面タンパク質が損傷すると、細胞の機能が影響を受ける。細胞の表面タンパク質が破壊されると、細胞間および細胞外基質(ECM)の相互作用が低減する。これら細胞間相互作用および細胞外基質の生成は、組織の機能を維持するのに不可欠である。細胞懸濁液を得るためのトリプシンの使用は、細胞の接着および増殖に悪影響を与え、細胞懸濁液の注入後に移植部位における細胞の分布が不均一となる、または修復効果が低下するといった結果をもたらし、ひいては移植部位における炎症のような副作用を引き起こす。
【0004】
細胞シートの製造はタンパク質加水分解酵素処理を必要とせず、かつ細胞と細胞シート構造との相互作用が細胞シートに良好に保存されるため、細胞治療の組織再生に用いる細胞シートは、近年新たな細胞送達の方法として台頭してきている。細胞シート技術では、細胞濃度がより高く、かつ細胞分布がより均一となることから、組織再生能が向上する。加えて、細胞シート作製において、細胞が、培養液および基板による刺激を受けることで、それぞれ異なる特性を有する細胞の形成が誘発され得る。この現象は、損傷した組織に代わる、またはこれを修復する機能を有する間葉系幹細胞(MSC)においてとりわけ明らかである。細胞シート構築の初期において幹細胞から特定の機能を有する分化細胞を誘導すること、およびこれら細胞の特性を維持することは、目下最もチャレンジングな細胞培養プロセスである。
【0005】
現在、細胞分化を誘導するのに主に2つのアプローチが用いられており、1つは化学的な刺激によって細胞分化を誘導するもの、もう1つは物理・機械的な刺激または細胞が付着した基板の表面構造の刺激によって細胞分化を誘導するものである。化学刺激は、用いる処方の濃度勾配および作用時間により制御が難しい。物理的な特性である機械刺激および基板表面構造で作られたバイオミメティック環境(biomimetic environment)は、制御の効果がより高く、応用の範囲がより広い。
【0006】
機械刺激および基板表面の構造的な刺激は、間葉系幹細胞の分化に決定的な効果がある。故に、幹細胞のプレ分化を最適化および誘導して特定の組織細胞の特徴にするため、細胞分化を誘導すべく機械刺激および基板表面の構造的な刺激(substrate surface structural stimulation)の両方を提供できる新規な基板が強く求められる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】US5356668
【特許文献2】US9937278
【特許文献3】TW200418529
【特許文献4】TW200717179
【特許文献5】CN110029499A
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従来の再生医療では通常、細胞懸濁液、またはその細胞複合体担体スキャホールド(cell complex carrier scaffold)との組み合わせを用いて、細胞を患部まで運ぶものとされているが、細胞懸濁液を得るには、細胞を懸濁させるためのトリプシンが要されることが多く、このステップは一般に細胞の表面タンパク質を損傷させてしまうものである。表面タンパク質が損傷すると、細胞の機能が影響を受ける。
【0009】
細胞シートの製造はタンパク質加水分解酵素処理を必要としないため、上記の問題は解決され得るが、細胞シート構築の初期において幹細胞から特定の機能を有する分化細胞を誘導すること、およびこれら細胞の特性を維持することは、目下最もチャレンジングな細胞培養プロセスである。
【0010】
よって、その上に付着し成長する細胞の分化を助けることのできる新規なフィルム、およびそれからなる新規な細胞シートが求められる。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本開示は、その成分がコラーゲンおよびポリエステル系ポリマー(polyester polymer)を含む非繊維状膜を提供する。該非繊維状膜中のポリエステル系ポリマーの含有量は1~60wt%である。また、該非繊維状膜は、水性液体における膨潤速度が1~200μm/時間である、または単位時間当たりの膨潤比が0.1~2%/時間である。
【0012】
本開示はまた、(a)混合溶液を調製するステップ、および(b)混合溶液を乾燥させて膜を形成するステップを含む方法により作製される別の非繊維状膜も提供する。混合溶液の溶質はコラーゲンおよびポリエステル系ポリマーを含み、非繊維状膜中のポリエステル系ポリマーの含有量は1~60wt%である。混合溶液の溶媒にはパーフルオロカーボン溶媒が含まれる。また、該非繊維状膜は、水性液体における膨潤速度が1~200μm/時間である、または単位時間当たりの膨潤比が0.1~2%/時間である。
【0013】
本開示はまた、上述した任意の非繊維状膜と、非繊維状膜上の少なくとも1つの細胞層とを含む細胞シートをも提供する。細胞層は複数の細胞から構成され、これら複数の細胞は同一の方向に配列している。
【0014】
より具体的には、本発明は以下を提供する:
[1]
非繊維状膜であって、その成分が、
コラーゲンと、
ポリエステル系ポリマーと
を含み、
前記非繊維状膜中の前記ポリエステル系ポリマーの含有量が1~60wt%であり、かつ
水性液体中における前記非繊維状膜の膨潤速度が1~200μm/時間である、または単位時間当たりの膨潤比が0.1~2%/時間である、非繊維状膜。
[2]
前記コラーゲンには、I型コラーゲン、II型コラーゲンおよびIII型コラーゲンのうちの少なくとも1つが含まれる、[1]に記載の非繊維状膜。
[3]
前記非繊維状膜中の前記ポリエステル系ポリマーの含有量が1~50wt%である、[1]または[2]に記載の非繊維状膜。
[4]
前記非繊維状膜の前記成分が前記コラーゲンおよび前記ポリエステル系ポリマーからなり、かつ前記コラーゲンと前記ポリエステル系ポリマーとの重量比が95:5、90:10、80:20、70:30または50:50である、[1]~[3]のいずれかに記載の非繊維状膜。
[5]
前記ポリエステル系ポリマーの分子量が50,000~1,500,000Daである、[1]~[4]のいずれかに記載の非繊維状膜。
[6]
前記ポリエステル系ポリマーの固有粘度が0.15~7.0dl/gである、[1]~[5]のいずれかに記載の非繊維状膜。
[7]
前記ポリエステル系ポリマーには、ポリカプロラクトン(PCL)、ポリ乳酸(PLA)、ポリグリコール酸(PGA)、ポリヒドロキシ酪酸(PHB)およびポリヒドロキシ吉草酸(PHV)のうちの少なくとも1つが含まれる、[1]~[6]のいずれかに記載の非繊維状膜。
[8]
前記非繊維状膜が多孔質膜である、[1]~[7]のいずれかに記載の非繊維状膜。
[9]
前記ポリエステル系ポリマーがポリカプロラクトンであり、前記ポリカプロラクトンの分子量が800,000~1,500,000Daである、[1]~[8]のいずれかに記載の非繊維状膜。
[10]
前記非繊維状膜が非多孔質膜である、[1]~[7]のいずれかに記載の非繊維状膜。
[11]
前記ポリエステル系ポリマーがポリ乳酸であり、前記ポリ乳酸の固有粘度が0.15~7.0dl/gである、[1]~[7]および[10]のいずれかに記載の非繊維状膜。
[12]
非繊維状膜であって、
(a)その溶質にコラーゲンと、前記非繊維状膜中の含有量が1~60wt%であるポリエステル系ポリマーとが含まれ、かつ、その溶媒にパーフルオロカーボン溶媒が含まれる混合溶液を作製するステップ、および
(b)前記混合溶液を乾燥させて膜を形成するステップ
を含む方法により作製され、
水性液体中における前記膜の膨潤速度が1~200μm/時間であるか、または単位時間当たりの膨潤比が0.1~2%/時間である、非繊維状膜。
[13]
前記混合溶液中の前記溶質の濃度が0.5~20wt%である、[12]に記載の非繊維状膜。
[14]
前記コラーゲンには、I型コラーゲン、II型コラーゲンおよびIII型コラーゲンのうちの少なくとも1つが含まれる、[12]または[13]に記載の非繊維状膜。
[15]
前記非繊維状膜中の前記ポリエステル系ポリマーの含有量が1~50wt%である、[12]~[14]のいずれかに記載の非繊維状膜。
[16]
前記非繊維状膜の成分が前記コラーゲンおよび前記ポリエステル系ポリマーからなり、かつ前記コラーゲンと前記ポリエステル系ポリマーとの重量比が95:5、90:10、80:20、70:30または50:50である、[12]~[15]のいずれかに記載の非繊維状膜。
[17]
前記ポリエステル系ポリマーの分子量が50,000~1,500,000Daである、[12]~[16]のいずれかに記載の非繊維状膜。
[18]
前記ポリエステル系ポリマーの固有粘度が0.15~7.0dl/gである、[12]~[17]のいずれかに記載の非繊維状膜。
[19]
前記ポリエステル系ポリマーには、ポリカプロラクトン、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリヒドロキシ酪酸およびポリヒドロキシ吉草酸のうちの少なくとも1つが含まれる、[12]~[18]のいずれかに記載の非繊維状膜。
[20]
前記非繊維状膜が多孔質膜である、[12]~[19]のいずれかに記載の非繊維状膜。
[21]
前記ポリエステル系ポリマーがポリカプロラクトンであり、前記ポリカプロラクトンの分子量が50,000~200,000Daである、[12]~[20]のいずれかに記載の非繊維状膜。
[22]
前記非繊維状膜が非多孔質膜である、[12]~[19]のいずれかに記載の非繊維状膜。
[23]
前記ポリエステル系ポリマーがポリ乳酸であり、前記ポリ乳酸の固有粘度が0.15~7.0dl/gである、[12]~[19]および[22]のいずれかに記載の非繊維状膜。
[24]
前記パーフルオロカーボン溶媒には、ヘキサフルオロイソプロパノール、ヘキサフルオロアセトン、1,1,1-トリクロロトリフルオロアセトン、トリフルオロ酢酸、パーフルオロパーヒドロフェナントレンまたはパーフルオロ(メチルシクロヘキサン)が含まれる、[12]~[23]のいずれかに記載の非繊維状膜。
[25]
前記水性液体には、水、緩衝液または培養液が含まれる、[12]~[24]のいずれかに記載の非繊維状膜。
[26]
前記方法が、前記のステップ(b)の後に、前記膜に架橋処理を行うステップをさらに含み、前記架橋処理の時間が0.1~10時間である、[12]~[25]のいずれかに記載の非繊維状膜。
[27]
[1]~[26]のいずれかに記載の非繊維状膜と、
前記非繊維状膜上の少なくとも1つの細胞層と、
を含む細胞シートであって、
前記細胞層が複数の細胞から構成され、前記複数の細胞が同じ方向に配列している、細胞シート。
[28]
前記細胞には、線維芽細胞、筋芽細胞、上皮細胞、内皮細胞、前駆細胞、腱細胞、幹細胞、間葉系幹細胞、骨髄幹細胞または脂肪由来幹細胞が含まれる、[27]に記載の細胞シート。
【0015】
添付の図面を参照にしながら、以下の実施形態において詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
添付の図面を参照にしながら以下の詳細な説明および例を読むことによって、本発明をより十分に理解することができる。
図1A】作製例1により作製された膜(コラーゲン100wt%(その作製においてヘキサフルオロイソプロパノールを溶媒として使用))および比較作製例1により作製された膜(コラーゲン100wt%(その作製において酸性水溶液を溶媒として使用))のフーリエ変換赤外分光法(FTIR)分析結果を示している。
図1B】作製例1により作製された膜(コラーゲン100wt%(その作製においてヘキサフルオロイソプロパノールを溶媒として使用))および比較作製例1により作製された膜(コラーゲン100wt%(その作製において酸性水溶液を溶媒として使用))のフーリエ変換赤外スペクトルのフィッティング結果を示している。
図2】作製例8により作製された膜(コラーゲン50wt%およびポリカプロラクトン50wt%)の走査電子顕微鏡写真を示している。
図3】比較作製例3により作製された電界紡糸膜(コラーゲン100wt%)の走査電子顕微鏡写真を示している。
図4A】膜膨潤試験において、異なる時点でRO純水、0.9%生理食塩水、10mM Tri-HCl緩衝液、ダルベッコリン酸緩衝生理食塩水(DPBS)、ダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)、または10%ウシ胎児血清(FBS)を含むダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)(細胞培養液)中にて測定された、作製例1で作製された非繊維状膜(コラーゲン100wt%)の膜の直径を示している。
図4B】膜膨潤試験において、異なる時点でRO純水、0.9%生理食塩水、10mM Tri-HCl緩衝液、ダルベッコリン酸緩衝生理食塩水(DPBS)、ダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)、または10%ウシ胎児血清(FBS)を含むダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)(細胞培養液)中にて測定された、作製例2により作製された非繊維状膜(コラーゲン90wt%およびポリカプロラクトン10wt%)の膜の直径を示している。
図4C】膜膨潤試験において、異なる時点でRO純水、0.9%生理食塩水、10mM Tri-HCl緩衝液、ダルベッコリン酸緩衝生理食塩水(DPBS)、ダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)、または10%ウシ胎児血清(FBS)を含むダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)(細胞培養液)中にて測定された、作製例7で作製された非繊維状膜(コラーゲン70wt%およびポリカプロラクトン30wt%)の膜の直径を示している。
図4D】膜膨潤試験において、異なる時点でRO純水、0.9%生理食塩水、10mM Tri-HCl緩衝液、ダルベッコリン酸緩衝生理食塩水(DPBS)、ダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)、または10%ウシ胎児血清(FBS)を含むダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)(細胞培養液)中にて測定された、作製例8で作製された非繊維状膜(非繊維状膜:コラーゲン50wt%およびポリカプロラクトン50wt%)の直径を示している。
図5A】膜膨潤試験において、異なる時点で測定された、10%ウシ胎児血清(FBS)を含むダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)(細胞培養液)中の、作製例1で作製された非繊維状膜(コラーゲン100wt%)、作製例2で作製された非繊維状膜(コラーゲン90wt%およびポリカプロラクトン10wt%)、作製例7で作製された非繊維状膜(コラーゲン70wt%およびポリカプロラクトン30wt%)、ならびに作製例8で作製された非繊維状膜(非繊維状膜:コラーゲン50wt%およびポリカプロラクトン50wt%)の膜の直径を示している。
図5B】膜膨潤試験において、異なる時点で測定された、10%ウシ胎児血清(FBS)を含むダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)(細胞培養液)中の、作製例1で作製された非繊維状膜(コラーゲン100wt%)、作製例2で作製された非繊維状膜(コラーゲン90wt%およびポリカプロラクトン10wt%)、作製例7で作製された非繊維状膜(コラーゲン70wt%およびポリカプロラクトン30wt%)、ならびに作製例8で作製された非繊維状膜(非繊維状膜:コラーゲン50wt%およびポリカプロラクトン50wt%)の膨潤速度を示している。
図6】10%ウシ胎児血清を含むDMEM溶液中における作製例4で作製された非繊維状膜(コラーゲン80wt%およびポリカプロラクトン20wt%、架橋1.5時間)、作製例5で作製された非繊維状膜(コラーゲン80wt%およびポリカプロラクトン20wt%、架橋2時間)、ならびに作製例6で作製された非繊維状膜(コラーゲン80wt%およびポリカプロラクトン20wt%、架橋3時間)の膨潤速度と単位時間当たりの膨潤比を示している。
図7】膜膨潤試験において、異なる時点でPBS緩衝液中にて測定された、作製例9で作製された非繊維状膜(コラーゲン90wt%およびポリ乳酸10wt%)の膜の直径を示している。
図8】膜膨潤試験において、異なる時点でPBS緩衝液中にて測定された、比較作製例3で作製された電界紡糸膜(コラーゲン100wt%)、ならびに比較作製例4で作製された電界紡糸膜(コラーゲン50wt%およびポリカプロラクトン50wt%)の膜面積を示している。
図9A】細胞培養試験における、作製例3で作製された非繊維状膜(コラーゲン80wt%およびポリカプロラクトン20wt%)上の細胞、ならびに培養プレート上の細胞の、1、3、7および14日目の成長状況の写真を示している。
図9B】細胞培養試験における、作製例3で作製された非繊維状膜(コラーゲン80wt%およびポリカプロラクトン20wt%)上の細胞、ならびに培養プレート上の細胞の、3日目の成長状況の写真を示している。
図10】細胞培養試験における、比較作製例2で作製された非繊維状膜(コラーゲン90wt%およびポリカプロラクトン10wt%(酸性水溶液を溶媒として使用))上の細胞、および培養プレート上の細胞の6日目の成長状況の写真を示している。
【発明を実施するための形態】
【0017】
詳細な説明
以下の詳細な説明において、説明の目的で、開示される実施形態が十分に理解されるよういくつかの特定の詳細を示す。ただし、これら特定の詳細がなくとも、1つまたはそれ以上の実施形態が実施可能であるということは明らかであろう。また、図を簡潔にするため、周知の構造および装置は概略的に示す。
【0018】
本開示は、生分解性膜であり得る非繊維状膜を提供することができ、かつこの膜は、水性液体中で経時的にサイズが動的に変化し得るものである。上述した水性液体に特に限定はなく、膜に悪影響をもたらさないものであればよい。水性液体の例には、限定はされないが、水、緩衝液、および細胞培養液が含まれ得る。
【0019】
上述した本開示の非繊維状膜は、細胞担持能力(cell-bearing capabilities)を有し得ると共に、細胞培養に適用され得る。本開示の非繊維状膜が細胞培養に適用されるとき、そのサイズが細胞培養液中で動的に変化するため、細胞培養時において、そこに付着して成長する細胞に、物理・機械的な力(physical mechanical force)、例えば引張応力、および細胞が付着している表面の構造的変化の刺激を提供することができ、膜および/または細胞にさらなる機械的および/または化学的刺激を与える必要なく、そこに付着する細胞を同じ方向に成長させることができると共に、細胞分化を促進することができる。
【0020】
上述した本開示の非繊維状膜は、限定はされないが次のステップを含む方法により形成されてよい。
【0021】
先ず、混合溶液を調製する。
【0022】
調製した混合溶液中の溶質の濃度は特に限定されず、膜の形成に悪影響を及ぼさない限りにおいて、必要に応じて調節可能である。例えば、調製した混合溶液中の溶質の濃度は、混合溶液調製時における環境(例として、環境の温度、湿度、圧力)、用いられる溶媒の種類、後続の膜形成時における環境(例として、温度、湿度、圧力)、および採用される膜形成の方法に応じて調節することができるが、これに限定はされない。例えば、混合溶液中の溶質の濃度は、約0.5~20wt%、例えば約0.5wt%、約0.8wt%、約1wt%、約3wt%、約5wt%、6wt%、約7wt%、約8wt%、約9wt%、約10wt%、約11wt%、約12wt%、約13wt%、約14wt%、約15wt%、約16wt%、約17wt%、約18wt%、約19wt%、約20wt%であってよいが、これに限定はされない。
【0023】
さらに、上述した混合溶液中の溶質は、限定はされないが、コラーゲンおよびポリエステル系ポリマーを含み得る。
【0024】
上述した溶質中のポリエステル系ポリマーの含有量は、約1~60wt%、例えば約1~55wt%、約1~50wt%、約10~50wt%、約5wt%、約10wt%、約15wt%、約20wt%、約25wt%、約30wt%、約35wt%、約40wt%、約45wt%、約50wt%、約55wt%、約60wt%であってよいが、これに限定はされない。
【0025】
また、上述した溶質において、コラーゲンとポリエステル系ポリマーとの重量比は、約0.6~99:1、例えば約95:5、約90:10、約85:15、約80:20、約75:25、約70:30、約65:35、約60:40、約55:45、約50:50、約45:55、約40:60であってよいが、これに限定はされない。
【0026】
1実施形態において、上述した溶質はコラーゲンおよびポリエステル系ポリマーからなるものであってよく、かつコラーゲンとポリエステル系ポリマーとの重量比は約0.6~99:1、例えば約95:5、約90:10、約85:15、約80:20、約75:25、約70:30、約65:35、約60:40、約55:45、約50:50、約45:55、約40:60であってよいが、これに限定はされない。
【0027】
上述した溶質におけるコラーゲンに特に限定はなく、任意のタイプのコラーゲンが含まれ得る。上述したコラーゲンの例には、I型コラーゲン、II型コラーゲンおよびIII型コラーゲンのうちの少なくとも1つが含まれ得るが、これに限定はされない。1実施形態において、上述したコラーゲンはI型コラーゲンである。
【0028】
上述した溶質におけるポリエステル系ポリマーの分子量は必要に応じて決めることができ、特に限定はない。例として、上述したポリエステル系ポリマーの分子量は約50,000~1,500,000Da、例えば中分子量(約50,000~200,000Da)、高分子量(約800,000~1,500,000Da)、約50,000Da、約60,000Da、約70,000Da、約80,000Da、約90,000Da、約100,000Da、約150,000Da、約200,000Da、約250,000Da、約300,000Da、約400,000、約500,000Da、約800,000Da、約1,000,000Da、約1,500,000Da)であってよいが、これに限定はされない。1実施形態において、ポリエステル系ポリマーの分子量は約80,000Daであり得る。
【0029】
さらに、上述した溶質中におけるポリエステル系ポリマーの固有粘度も必要に応じて決めてよく、特に限定はない。例として、上述したポリエステル系ポリマーの固有粘度は、約0.15~7dl/g、例えば約0.15~0.3dl/g、約0.35~0.45dl/g、約0.8~1.2dl/g、約1.3~1.6dl/g、約1.6~2.4dl/g、約2.0~2.8dl/g、約3.5~5.5dl/gであってよい。1実施形態において、上述したポリエステル系ポリマーの固有粘度は約4.5dl/gであり得る。
【0030】
加えて、上述した溶質中におけるポリエステル系ポリマーのタイプも特に限定はなく、生分解性でありさえすればよい。ポリエステル系ポリマーの例には、限定はされないが、ポリカプロラクトン (PCL)、ポリ乳酸(PLA)、ポリグリコール酸(PGA)、ポリヒドロキシ酪酸(PHB)、ポリヒドロキシ吉草酸(polyhydroxyvalerate, PHV)、またはこれらの任意の組み合わせが含まれていてよい。1実施形態において、上述した溶質中におけるポリエステル系ポリマーはポリカプロラクトンであり得る。別の実施形態において、上述した溶質中におけるポリエステル系ポリマーはポリ乳酸であり得る。
【0031】
また、混合溶液の溶媒にはパーフルオロカーボン溶媒が含まれ得るが、これに限定はされない。上述したパーフルオロカーボン溶媒の例には、限定はされないが、ヘキサフルオロイソプロパノール、ヘキサフルオロアセトン、1,1,1-トリクロロトリフルオロアセトン、トリフルオロ酢酸、パーフルオロパーヒドロフェナントレン、パーフルオロ(メチルシクロヘキサン)、またはこれら任意の組み合わせが含まれてよい。上述した溶媒を、上述した溶質中のコラーゲンおよびポリエステル系ポリマーの共溶媒として用い、上述した混合溶液中にコラーゲンおよびポリエステル系ポリマーを均一に分布させることができる。加えて、上述した溶媒は、上述した混合溶液および形成された膜中で、コラーゲンを天然形態(native form)および変性形態(denatured form)の両方の形態で同時に存在させることができる。1例において、混合溶液の溶媒はヘキサフルオロイソプロパノールである。
【0032】
次に、上述した混合溶液を調製した後、上述した混合溶液を乾燥させて膜を形成し、本開示の非繊維状膜を得る。
【0033】
上述した混合溶液を乾燥させて膜を形成する方式に特に限定はなく、上述した混合溶液が膜を形成することができるものであればよい。1実施形態において、上述した混合溶液を型に注ぎ入れてから、乾燥させて膜を形成する。別の実施形態では、上述した混合溶液を平板上に流し広げ、スクレーパーでかき取ってから、乾燥させて膜を形成することができる。
【0034】
1実施形態において、得られる非繊維状膜は多孔質膜であり得る。この実施形態では、上述した溶質中におけるポリエステル系ポリマーの含有量は、約45~60wt%、例えば約45wt%、約50wt%、約55wt%、約60wt%であってよいが、これに限定はされない。この実施形態において、多孔質膜の孔の孔径は約1~50μm、例えば約5~50μm、約10~50μm、約15~50μm、約1~45μm、約1~40μm、約1~30μm、約1μm、約5μm、約10μm、約15μm、約20μm、約25μm、約30μm、約35μm、約40μm、約45μm、約50μmであってよいが、これに限定はされない。
【0035】
得られる非繊維状膜が多孔質膜であり得る前述の実施形態では、上述した本開示の非繊維状膜を作製する方法において、調製される混合溶液の溶質はコラーゲンおよびポリエステル系ポリマーからなるものとしてよい。ポリエステル系ポリマーには、ポリカプロラクトン、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリヒドロキシ酪酸、ポリヒドロキシ吉草酸等のうちの少なくとも1つが含まれていてよいが、これに限定はされない。特定の1実施形態では、得られる非繊維状膜が多孔質膜である場合、上述した本開示の非繊維状膜を作製する方法において、混合溶液の溶質はコラーゲンおよびポリエステル系ポリマーからなり、かつそのポリエステル系ポリマーはポリカプロラクトンである。また、この特定の実施形態において、ポリカプロラクトンの分子量は約50,000~200,000Da、例えば約80,000Daであり得るが、これに限定はされない。
【0036】
別の実施形態において、得られる非繊維状膜は非多孔質膜であり得る。この実施形態では、上述した溶質中におけるポリエステル系ポリマーの含有量は、約1wt%以上であって45wt%未満、例えば、約1~40wt%、約5~40wt%、約10~40wt%、約15~35wt%、約20~30wt%、約1wt%、約3wt%、約5wt%、約10wt%、約15wt%、約20wt%、約25wt%、約30wt%、約35wt%、約40wt%、約44wt%であってよいが、これに限定はされない。
【0037】
得られる非繊維状膜が非多孔質膜であり得る前述の実施形態では、上述した本開示の非繊維状膜を作製する方法において、調製される混合溶液の溶質はコラーゲンおよびポリエステルからなるものとしてよい。ポリエステル系ポリマーには、ポリカプロラクトン、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリヒドロキシ酪酸、ポリヒドロキシ吉草酸等のうちの少なくとも1つが含まれていてよいが、これに限定はされない。特定の1実施形態では、得られる非繊維状膜が非多孔質膜である場合、上述した本開示の非繊維状膜を作製する方法において、調製される混合溶液の溶質はコラーゲンおよびポリエステル系ポリマーからなり、かつそのポリエステル系ポリマーはポリ乳酸である。この特定の実施形態において、ポリ乳酸の固有粘度は約0.15~7.0dl/g、例えば約4.5dl/gであってよいが、これに限定はされない。
【0038】
さらに、1実施形態において、上述した本開示の非繊維状膜を作製する方法は、混合溶液を調製するステップ、および前記混合溶液を乾燥させて上述した膜を形成するステップに加え、前記混合溶液を乾燥させて膜を形成した後に、形成された膜に架橋処理を行って架橋非繊維状膜を形成するステップをさらに含んでいてよい。
【0039】
膜に対する前記架橋処理の時間に特に限定はなく、必要に応じて調節可能である。例えば、膜に対する架橋処理の処理時間は、架橋処理を行う時の環境(例えば、環境の温度、湿度、圧力)、膜の構成成分および/または成分の含有量、用いられる架橋方法または架橋剤、所望の膜強度、膜の用途等に基づいて調節することができるが、これに限定はされない。例えば、膜に対する前記架橋処理の処理時間は、約0.1~10時間、例えば約0.1時間、約0.5時間、約1時間、約1.5時間、約2時間、約2.5時間、約3時間、約5時間、約6時間、約8時間、約10時間等であってよいが、これに限定はされない。
【0040】
加えて、上述した膜に対する架橋処理は、架橋剤を用いて行うことができるが、これに限定はされない。上述した架橋剤の例には、ホルムアルデヒド、グルタルアルデヒド、グリオキサール、マロンジアルデヒド、スクシニルジアルデヒド(succinyl dialdehyde)、フタルアルデヒド、ジアルデヒドデンプン、ポリアクロレイン、ポリメタクロレイン、およびこれら任意の組み合わせが含まれ得るが、これに限定はされない。
【0041】
1実施形態において、上述した膜に対する架橋処理は、ホルムアルデヒド、例えば10%ホルムアルデヒドの蒸気を用いて行うことができ、かつ膜に対する架橋処理の処理時間は、約0.1~10時間、例えば約0.1時間、約0.5時間、約1時間、約1.5時間、約2時間、約2.5時間、約3時間、約5時間、約6時間、約8時間、約10時間であってよいが、これに限定はされない。
【0042】
上記より、上述した本開示の非繊維状膜を作製する方法において、混合溶液の溶媒は、混合溶液および形成された膜においてコラーゲンを天然形態(native form)および変性形態(denatured form)の両方の形態で同時に存在させることができる、ということがわかる。天然コラーゲンおよび変性コラーゲンの両方が、形成された膜中に同時に存在するため、非繊維状膜が液体に接触したとき、膜中の天然コラーゲンおよび変性コラーゲン分子は水和力によりポリエステル系ポリマーとの間の力(force)に関し互いに競合効果(competitive effect)を生じ、動的な膨潤または伸長という物理特性を膜に備えさせる。
【0043】
つまり、上記のように、上述した任意の方法により作製される本開示の非繊維状膜は、液体中で経時的にサイズが動的に変化し得る。
【0044】
液体中における本開示の非繊維状膜のサイズの動的変化の程度、例えば膨潤または伸長の程度は、上述した本開示の非繊維状膜を作製する方法において、混合溶液の溶質にそれぞれ異なる膜の構成成分および/もしくは成分の含有量を選択すること、または膜に架橋処理を施す場合に、架橋処理の時間を調整することによって、調節することができるが、これに限定はされない。例えば、液体中における本開示の非繊維状膜のサイズの動的変化の程度は、混合溶液の溶質中のコラーゲンとポリエステル系ポリマーとの重量比を調整すること、混合溶液の溶質中のポリエステル系ポリマーのタイプおよび分子量/固有粘度を調整すること、ならびに/または膜に架橋処理を施す場合に架橋処理の時間を調整することによって、調節可能である。
【0045】
1実施形態において、上述した任意の方法により作製される本開示の非繊維状膜は、水性液体中での膨潤速度が約1~200μm/時間、例えば約5~200μm/時間、約10~200μm/時間、約10~150μm/時間、約1μm/時間、約2μm/時間、約5μm/時間、約10μm/時間、約11μm/時間、約100μm/時間、約103μm/時間、約110μm/時間、約120μm/時間、約130μm/時間、約140μm/時間、約148μm/時間、約150μm/時間、約200μm/時間であってよいが、これに限定はされない。別の実施形態において、上述した任意の方法により作製される本開示の非繊維状膜は、水性液体中での単位時間当たりの膨潤比が約0.1~2%/時間、例えば約0.1~1.5%/時間、約0.1~1%/時間、約0.1~0.5%/時間、約0.1~0.2%/時間、約0.2~2%/時間、約0.5~2%/時間、約0.1~2%/時間、約0.15~2%/時間、約0.1%/時間、約0.2%/時間、約0.5%/時間、約1%/時間、約1.5%/時間、約2%/時間であってよいが、これに限定はされない。
【0046】
さらに、上述した内容に基づいて、本開示は別の非繊維状膜を提供することもできる。この非繊維状膜もまた、生分解性膜であり得ると共に、水性液体中で経時的にサイズが動的に変化し得るものである。また、該非繊維状膜は、細胞担持能力(cell-bearing capabilities)を有し得ると共に、細胞培養に適用されてよく、それが細胞培養に適用されるとき、そこに付着し成長する細胞に、物理・機械的な力、例えば引張応力を持続的に提供することができるため、そこに付着する細胞を同じ方向に成長させることができると共に、細胞分化を促進することができる。水性液体に特に限定はなく、膜に悪影響を与えないものであればよい。水性液体の例には、限定はされないが、水、緩衝液、および細胞培養液が含まれ得る。
【0047】
水性液体中における上述した非繊維状膜の膨潤速度は、約1~200μm/時間、例えば、約5~200μm/時間、約10~200μm/時間、約10~150μm/時間、約1μm/時間、約2μm/時間、約5μm/時間、約10μm/時間、約11μμm/時間、約100μm/時間、約103μm/時間、約110μm/時間、約120μm/時間、約130μm/時間、約140μm/時間、約148μm/時間、約150μm/時間、約200μm/時間であってよいが、これに限定はされない。
【0048】
あるいは、水性液体中における上述した非繊維状膜の単位時間当たりの膨潤比が、約0.1~2%/時間、例えば約0.1~1.5%/時間、約0.1~1%/時間、約0.1~0.5%/時間、約0.1~0.2%/時間、約0.2~2%/時間、約0.5~2%/時間、約0.1~2%/時間、約0.15~2%/時間、約0.1%/時間、約0.2%/時間、約0.5%/時間、約1%/時間、約1.5%/時間、約2%/時間であってよいが、これに限定はされない。
【0049】
上記非繊維状膜の成分には、限定はされないが、コラーゲンおよびポリエステル系ポリマーが含まれ得る。さらに、上述した非繊維状膜中におけるポリエステル系ポリマーの含有量は約1~60wt%、例えば約1~55wt%、約1~50wt%、約10~50wt%、約5wt%、約10wt%、約15wt%、約20wt%、約25wt%、約30wt%、約35wt%、約40wt%、約45wt%、約50wt%、約55wt%、約60wt%であってよいが、これに限定はされない。1実施形態において、上述した非繊維状膜中のコラーゲンは、天然形態および変性形態の両方の形態を同時に有していてよい。
【0050】
また、上述した非繊維状膜において、コラーゲンとポリエステル系ポリマーとの重量比は約0.6~99:1、例えば約95:5、約90:10、約85:15、約80:20、約75:25、約70:30、約65:35、約60:40、約55:45、約50:50、約45:55、約40:60であってよいが、これに限定はされない。1実施形態において、上述した非繊維状膜の成分はコラーゲンおよびポリエステル系ポリマーからなっていてよく、かつコラーゲンとポリエステル系ポリマーとの重量比は約0.6から99:1、例えば約95:5、約90:10、約85:15、約80:20、約75:25、約70:30、約65:35、約60:40、約55:45、約50:50、約45:55、約40:60であってよいが、これに限定はされない。
【0051】
上述した非繊維状膜の成分中のコラーゲンに特に限定はなく、任意のタイプのコラーゲンが含まれ得る。上述したコラーゲンの例には、限定はされないが、I型コラーゲン、II型コラーゲンおよびIII型コラーゲンのうちの少なくとも1つが含まれ得る。1実施形態において、上述したコラーゲンはI型コラーゲンである。
【0052】
上述した非繊維状膜の成分中のポリエステル系ポリマーの分子量は必要に応じて決めてよく、特に限定はない。例えば、上述したポリエステル系ポリマーの分子量は約50,000~1,500,000Da、例えば中分子量(約50,000~200,000Da)、高分子量(約800,000~1,500,000Da)、約50,000Da、約60,000Da、約70,000Da、約80,000Da、約90,000Da、約100,000Da、約150,000Da、約200,000Da、約250,000Da、約300,000Da、約400,000、約500,000Da、約800,000Da、約1,000,000Da、約1,500,000Daであってよいが、これに限定はされない。1実施形態において、ポリエステル系ポリマーの分子量は約80,000Daであり得る。
【0053】
さらに、上述したポリエステル系ポリマーの固有粘度は約0.15~7dl/g、例えば約0.15~0.3dl/g、約0.35~0.45dl/g、約0.8~1.2dl/g、約1.3~1.6dl/g、約1.6~2.4dl/g、約2.0~2.8dl/g、約3.5~5.5dl/gであり得る。1実施形態において、上述したポリエステル系ポリマーの固有粘度は約4.5dl/gであってよい。
【0054】
加えて、上述した非繊維状膜の成分中におけるポリエステル系ポリマーのタイプも特に限定はなく、生分解性でありさえすればよい。ポリエステル系ポリマーの例には、限定はされないが、ポリカプロラクトン(PCL)、ポリ乳酸(PLA)、ポリグリコール酸(PGA)、ポリヒドロキシ酪酸(PHB)、ポリヒドロキシ吉草酸(polyhydroxyvalerate, PHV)、およびこれらの任意の組み合わせが含まれていてよい。1実施形態において、上述した非繊維状膜の成分中におけるポリエステル系ポリマーはポリカプロラクトンであり得る。別の実施形態において、上述した非繊維状膜の成分中におけるポリエステル系ポリマーはポリ乳酸であり得る。
【0055】
1実施形態において、上述した非繊維状膜は多孔質膜であり得る。この実施形態において、上述した非繊維状膜中におけるポリエステル系ポリマーの含有量は約45~60wt%、例えば約45wt%、50wt%、約55wt%、約60wt%であってよいが、これに限定はされない。またこの実施形態において、多孔質膜の孔の孔径は約1~50μm、例えば約5~50μm、約10~50μm、約15~50μm、約1~45μm、約1~40μm、約1~30μm、約1μm、約5μm、約10μm、約15μm、約20μm、約25μm、約30μm、約35μm、約40μm、約45μm、約50μmであってよいが、これに限定はされない。
【0056】
非繊維状膜が多孔質膜であり得る前述の実施形態では、非繊維状膜の成分はコラーゲンおよびポリエステル系ポリマーからなるものであってよく、かつポリエステル系ポリマーには、ポリカプロラクトン、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリヒドロキシ酪酸、ポリヒドロキシペンタノエート(polyhydroxypentanoate)等のうちの少なくとも1つが含まれていてよいが、これに限定はされない。特定の1実施形態では、非繊維状膜が上述した多孔質膜である場合、非繊維状膜の成分はコラーゲンおよびポリエステル系ポリマーからなり、かつポリエステル系ポリマーはポリカプロラクトンである。また、この特定の実施形態において、ポリカプロラクトンの分子量は約50,000~200,000Da、例えば約80,000Daであり得るが、これに限定はされない。
【0057】
別の実施形態において、上述した非繊維状膜は非多孔質膜であり得る。この実施形態では、上述した非繊維状膜中におけるポリエステル系ポリマーの含有量は約1wt%またはそれ以上であって45wt%未満、例えば約1~40wt%、約5~40wt%、約10~40wt%、約15~35wt%、約20~30wt%、約1wt%、約3wt%、約5wt%、約10wt%、約15wt%、約20wt%、約25wt%、約30wt%、約35wt%、約40wt%、約44wt%等であってよいが、これに限定はされない。
【0058】
非繊維状膜が非多孔質膜であり得る前記実施形態において、非繊維状膜の成分はコラーゲンおよびポリエステル系ポリマーを含んでいてよく、かつポリエステル系ポリマーには、ポリカプロラクトン、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリヒドロキシ酪酸、ポリヒドロキシペンタノエート(poly hydroxypentanoate)等のうちの少なくとも1つが含まれ得るが、これに限定はされない。特定の1実施形態において、上述した非繊維状膜が非多孔質膜であるとき、非繊維状膜の成分はコラーゲンおよびポリエステル系ポリマーからなり、かつポリエステル系ポリマーはポリ乳酸である。さらに、この特定の実施形態では、ポリ乳酸の固有粘度は約0.15~7.0dl/g、例えば約4.5dl/gであってよいが、これに限定はされない。
【0059】
さらに、1実施形態において、上述した非繊維状膜は、未架橋膜であるか、または架橋膜であってよい。
【0060】
上述した架橋膜は、架橋処理が施されてよい。膜に対する前記架橋処理の処理時間に特に限定はなく、必要に応じて調節可能である。例えば、膜に対する架橋処理の処理時間に特に限定はなく、必要に応じて調節することができる。例えば、膜に対する架橋処理の処理時間は、架橋処理を行う時の環境(例えば、環境の温度、湿度、圧力)、膜の構成成分および/または成分の含有量、用いられる架橋方法または架橋剤、所望の膜強度、膜の用途等に基づいて調節することができるが、これに限定はされない。例えば、膜に対する前記架橋処理の処理時間は、約0.1~10時間、例えば約0.1時間、約0.5時間、約1時間、約1.5時間、約2時間、約2.5時間、約3時間、約5時間、約6時間、約8時間、約10時間であってよいが、これに限定はされない。
【0061】
加えて、上述した架橋処理は架橋剤を用いて行うことができるが、これに限定はされない。上述した架橋剤の例には、ホルムアルデヒド、グルタルアルデヒド、グリオキサール、マロンジアルデヒド、スクシニルジアルデヒド、フタルアルデヒド、ジアルデヒドデンプン、ポリアクロレイン、ポリメタクロレイン(polymethacrolein)およびこれら任意の組み合わせが含まれ得るが、これに限定はされない。
【0062】
1実施形態において、上述の膜に対する架橋処理は、ホルムアルデヒド、例えば10%ホルムアルデヒドの蒸気を用いて行うことができ、かつ膜に対する架橋処理の処理時間は、約0.1~10時間、例えば約0.1時間、約0.5時間、約1時間、約1.5時間、約2時間、約2.5時間、約3時間、約5時間、約6時間、約8時間、約10時間であってよいが、これに限定はされない。
【0063】
加えて、本開示は、限定はされないが、培養液中で上述した任意の本開示の非繊維状膜上で細胞を培養するステップを含んでいてよい、細胞を培養する方法も提供し得る。
【0064】
上述した任意の本開示の非繊維状膜は細胞担持能力(cell-bearing capabilities)を有し得ると共に、細胞培養時にそのサイズが培養液中で動的に変化するため、そこに付着して成長する細胞に、物理・機械的な力(physical mechanical force)、例えば引張応力、および細胞が付着している表面の構造的変化の刺激を、持続的に提供することができ、膜および/または細胞にさらなる機械的刺激および/または化学的刺激を与える必要なく、そこに付着する細胞を同じ方向に成長させる、かつ/または細胞分化を促進することができる。
【0065】
本開示の細胞を培養する方法に用いられる細胞は、必要に応じて選択することができ、特に限定はない。例えば、細胞のタイプは、所望の応用分野に応じて選択することができるが、これに限定はされない。1実施形態において、細胞は生体における組織再生のために使用が要され、よって、上述した本開示の細胞を培養する方法に、分化能力を有する細胞を用いることができる。分化能力を有する細胞の例には、限定はされないが、線維芽細胞(fibroblast)、筋芽細胞(myoblast)、上皮細胞(epithelial cell)、内皮細胞(endothelial cell)、前駆細胞(progenitor cell)、腱細胞(tenocyte)、幹細胞(stem cell)、間葉系幹細胞(mesenchymal stem cell)、骨髄幹細胞(bone marrow stem cell)、および脂肪由来幹細胞(adipose derived stem cell)が含まれ得る。
【0066】
本開示の細胞を培養する方法において、細胞を培養するのに用いる培養液は必要に応じて選択することができ、特に限定はない。例えば、培養される細胞、細胞によって達成される状態に応じて選択を行うことができるが、これに限定はされない。
【0067】
加えて、本開示の細胞を培養する方法において、細胞を培養する時間は、必要に応じて調節することができ、特に限定はない。例えば、細胞を培養する時間は、細胞のタイプ、細胞の成長状況、細胞が培養される環境(例えば、環境の温度および湿度)、用いられる培養液等によって調節可能である。1実施形態において、細胞を培養する時間は約1~28日、例えば約1日、約1.5日、約2日、約3日、約5日、約6日、約7日、約10日、約14日、約21日、約28日であってよいが、これに限定はされない。
【0068】
さらに、本開示の細胞を培養する方法において、細胞を培養する温度は必要に応じて調節することができ、特に限定はない。例えば、培養される細胞に関する温度は、細胞のタイプ、細胞の成長状況、用いられる培養液等によって調節可能である。1実施形態において、細胞を培養する温度は約30~40℃、例えば約30℃、約32℃、約35℃、約36℃、約37℃、約37.5℃、約38℃、約39℃、約40℃であってよいが、これに限定はされない。
【0069】
さらに、本開示の細胞を培養する方法において、上述した細胞は、非繊維状膜上に少なくとも1つの細胞の層として成長し得る。換言すると、本開示の細胞を培養する方法において、上述した細胞は、非繊維状膜上に、単層の細胞として成長することができる、または複数層の細胞として成長することができる。
【0070】
1実施形態において、本開示の細胞を培養する方法は、上述した細胞が非繊維状膜上に少なくとも1つの細胞層として成長した後に、前記培養液と同じまたは異なる培養液中で、上述した細胞とは異なるタイプの細胞を、少なくとも1つの細胞層を有するこの非繊維状膜上で培養して、異なる細胞が少なくとも1つの細胞層として成長し得るようにするステップをさらに含んでいてよい。このステップは必要に応じて繰り返すことができ、このステップを繰り返す度毎に、選択される細胞は、その前の回とは異なるものとする。
【0071】
異なる細胞の選択および培養条件については、細胞の選択、培養液の選択、培養時間および培養温度等に関する先の段落を参照されたい。よって、それらについてはここで繰り返さない。
【0072】
また、同じように、本開示は、細胞シートを形成する方法であって、培養液中で細胞を上述した任意の本開示の非繊維状膜上で培養し、上述した任意の本開示の非繊維状膜上で細胞を同じ方向に成長させると共に、少なくとも1つの細胞層を形成して、細胞シートを形成するステップを含んでいてよい方法も提供し得るが、これに限定はされない。
【0073】
上述した任意の本開示の非繊維状膜は細胞担持能力(cell-bearing capabilities)を有し得ると共に、細胞培養時にそのサイズが培養液中で動的に変化するため、そこに付着して成長する細胞に、物理・機械的な力(physical mechanical force)、例えば引張応力、および細胞が付着している表面の構造的変化の刺激を、持続的に提供することができ、膜および/または細胞にさらなる機械的刺激および/または化学的刺激を与える必要なく、そこに付着する細胞を同じ方向に成長させる、かつ/または細胞分化を促進して、同じ方向に配列する複数の細胞からなる少なくとも1つの細胞層を有する細胞シートを得ることができる。
【0074】
1実施形態において、本開示の細胞シートを形成する方法は、上述した細胞が非繊維状膜上で少なくとも1つの細胞層として成長した後、前記培養液と同じまたは異なる培養液中で、上述した細胞とは異なるタイプの細胞を、少なくとも1つの細胞層を有するこの非繊維状膜上で培養して、異なる細胞が少なくとも1つの細胞層として成長し得るようにするステップをさらに含んでいてよい。このステップは必要に応じて繰り返すことができ、このステップを繰り返す度毎に、選択される細胞は、その前の回とは異なるものとする。
【0075】
異なる細胞の選択および培養条件については、本開示の細胞を培養する方法に関する先の段落中の細胞の選択、培養液の選択、培養時間および培養温度等についての記載を参照されたい。よって、それらについてはここで繰り返さない。
【0076】
さらに、上述に基づいて、本開示は、限定はされないが、上述した任意の非繊維状膜と、上述した任意の本開示の非繊維状膜上の少なくとも1つの細胞層とを含み得る細胞シートであって、該細胞層が複数の細胞から構成されていてもよく、かつそれら複数の細胞が同じ方向に配列していてよい、細胞シートも提供することができる。1実施形態において、本開示の細胞シート中の細胞はより優れた分化能力を備え得る。
【0077】
1実施形態において、本開示の細胞シートは、複数層の細胞層を有していてもよく、各細胞層中の細胞は同じであるか、または異なっていてよい。
【0078】
上述した本開示の細胞シート中の細胞は、必要に応じて選択することができ、特に限定はない。例えば、細胞のタイプを、細胞シートが適用される所望の分野に応じて選択することができるが、これに限定はされない。1実施形態において、細胞シートは生体中の組織再生のために使用が要され、よって、上述した本開示の細胞シートに、分化能力を有する細胞を用いることができる。分化能力を有する細胞の例には、限定はされないが、線維芽細胞、筋芽細胞、上皮細胞、内皮細胞、前駆細胞、腱細胞、幹細胞、間葉系幹細胞、骨髄幹細胞(bone marrow stem cell)、および脂肪由来幹細胞が含まれ得る。
【実施例0079】
実施例1:膜の作製
【0080】
1.作製例1
【0081】
非繊維状膜:コラーゲン100wt%
【0082】
I型コラーゲン、および溶媒としてのヘキサフルオロイソプロパノール(HFP)を均一に混合し、10%(w/w)コラーゲン溶液を調製した。
【0083】
このコラーゲン溶液15gをテフロン型(その底部の直径は7cm×7cm)に注ぎ入れ、ヒュームフード中において乾燥させ、膜を形成した。
【0084】
乾燥させて膜を形成した後、その膜を型から取り出し、10%ホルムアルデヒドを用いて1時間架橋を行った。その後、コラーゲン含有量が100wt%の架橋非繊維状膜を得た。
【0085】
2.作製例2
【0086】
非繊維状膜:コラーゲン90wt%およびポリカプロラクトン10wt%(PCL)
【0087】
I型コラーゲン1.574gおよびポリカプロラクトン(Mw:80,000Da)0.17gを、溶媒として用いるヘキサフルオロイソプロパノール17.9gに加え、均一に混合して混合溶液を調製した。
【0088】
その混合溶液をテフロン型(その底部の直径は7cm×7cm)に注ぎ入れ、ヒュームフード中において乾燥させ、膜を形成した。
【0089】
乾燥させて膜を形成した後、その膜を型から取り出し、10%ホルムアルデヒドを用いて1時間架橋を行った。その後、コラーゲン含有量が90wt%の架橋非繊維状膜を得た。
【0090】
3.作製例3
【0091】
非繊維状膜:コラーゲン80wt%およびポリカプロラクトン20wt%
【0092】
I型コラーゲン1.36gおよびポリカプロラクトン(Mw:80,000Da)0.34gを、溶媒として用いるヘキサフルオロイソプロパノール16gに加え、均一に混合して混合溶液を調製した。
【0093】
その混合溶液をテフロン型(その底部の直径は7cm×7cm)に注ぎ入れ、ヒュームフード中において乾燥させ、膜を形成した。
【0094】
乾燥させて膜を形成した後、その膜を型から取り出し、10%ホルムアルデヒドを用いて1時間架橋を行った。その後、コラーゲン含有量が80wt%の架橋非繊維状膜を得た。
【0095】
4.作製例4
【0096】
非繊維状膜:コラーゲン80wt%およびポリカプロラクトン20wt%、架橋1.5時間
【0097】
I型コラーゲン、ポリカプロラクトン(Mw:80,000Da)、および溶媒としてのヘキサフルオロイソプロパノールを均一に混合して、溶質濃度が10%(w/w)の混合溶液を調製した。I型コラーゲンとポリカプロラクトンとの重量比は8:2とした。
【0098】
その混合溶液をテフロン型(その底部の直径は7cm×7cm)に注ぎ入れ、ヒュームフード中において乾燥させ、膜を形成した。
【0099】
乾燥させて膜を形成した後、その膜を型から取り出し、10%ホルムアルデヒドを用いて1.5時間架橋を行った。その後、コラーゲン含有量が80wt%の架橋非繊維状膜を得た(架橋時間1.5時間)。
【0100】
5.作製例5
【0101】
非繊維状膜:コラーゲン80wt%およびポリカプロラクトン20wt%、架橋2時間
【0102】
架橋時間を2時間に調節したことを除き、作製条件およびステップは作製例4におけるものと同じとした。
【0103】
6.作製例6
【0104】
非繊維状膜:コラーゲン80wt%およびポリカプロラクトン20wt%、架橋時間3時間
【0105】
架橋時間を3時間に調節したことを除き、作製条件およびステップは作製例4におけるものと同じとした。
【0106】
7.作製例7
【0107】
非繊維状膜:コラーゲン70wt%およびポリカプロラクトン30wt%
【0108】
I型コラーゲン2.38gおよびポリカプロラクトン(Mw:80,000Da)1.08gを、溶媒として用いるヘキサフルオロイソプロパノール21.76gに加え、均一に混合して混合溶液を調製した。
【0109】
その混合溶液をテフロン型(その底部の直径は7cm×7cm)に注ぎ入れ、ヒュームフード中において乾燥させ、膜を形成した。
【0110】
乾燥させて膜を形成した後、その膜を型から取り出し、10%ホルムアルデヒドを用いて1時間架橋を行った。その後、コラーゲン含有量が70wt%の架橋非繊維状膜を得た。
【0111】
8.作製例8
【0112】
非繊維状膜:コラーゲン50wt%およびポリカプロラクトン50wt%
【0113】
I型コラーゲン2.34gおよびポリカプロラクトン(Mw:80,000Da)2.34gを、溶媒として用いるヘキサフルオロイソプロパノール46.3gに加え、均一に混合して混合溶液を調製した。
【0114】
その混合溶液をテフロン型(その底部の直径は7cm×7cm)に注ぎ入れ、ヒュームフード中において乾燥させ、膜を形成した。
【0115】
乾燥させて膜を形成した後、その膜を型から取り出し、10%ホルムアルデヒドを用いて1時間架橋を行った。その後、コラーゲン含有量が50wt%の架橋非繊維状膜を得た。
【0116】
9.作製例9
【0117】
非繊維状膜:コラーゲン90wt%とポリ乳酸(PLA)10wt%
【0118】
I型コラーゲン4.61gおよびポリ(D-乳酸)(PDLA)(4.5dl/g)0.512gを、溶媒として用いるヘキサフルオロイソプロパノール68.89gに加え、均一に混合して混合溶液を調製した。
【0119】
この混合溶液69.15gをテフロン型(その底部の直径は20cm×20cm)に注ぎ入れ、ヒュームフード中において乾燥させ、膜を形成した。
【0120】
乾燥させて膜を形成した後、その膜を型から取り出し、10%ホルムアルデヒドを用いて1時間架橋を行った。その後、コラーゲン含有量が90wt%の架橋非繊維状膜を得た。
【0121】
10.作製例10
【0122】
非繊維状膜:コラーゲン70wt%とポリ乳酸30wt%
【0123】
I型コラーゲン3.32gおよびポリ(D-乳酸)(PDLA)(4.5dl/g)1.42gを、溶媒として用いるヘキサフルオロイソプロパノール68.89gに加え、均一に混合して混合溶液を調製した。
【0124】
この混合溶液69.15gをテフロン型(その底部の直径は20cm×20cm)に注ぎ入れ、ヒュームフード中において乾燥させ、膜を形成した。
【0125】
乾燥させて膜を形成した後、その膜を型から取り出し、10%ホルムアルデヒドを用いて1時間架橋を行った。その後、コラーゲン含有量が70wt%の架橋非繊維状膜を得た。
【0126】
11.比較作製例1
【0127】
非繊維状膜:100wt%コラーゲン(溶媒として酸性水溶液)
【0128】
I型コラーゲンおよび溶媒としての酸性水溶液(pH3)を均一に混合して1%(w/w)コラーゲン溶液を調製した。
【0129】
そのコラーゲン溶液をテフロン型(その底部の直径は13cm×13cm)に注ぎ入れ、ヒュームフード中において乾燥させ、膜を形成した。
【0130】
乾燥させて膜を形成した後、その膜を型から取り出し、10%ホルムアルデヒドを用いて1時間架橋を行った。その後、コラーゲン含有量が100wt%の架橋非繊維状膜を得た。
【0131】
12.比較作製例2
【0132】
非繊維状膜:コラーゲン90wt%とポリカプロラクトン10wt%(溶媒として酸性水溶液)
【0133】
I型コラーゲンおよびポリビニルピロリドン(K30)を、溶媒として用いる酸性水溶液(pH3)に加え、均一に混合して混合溶液を調製した(I型コラーゲンの濃度は0.9%(w/w)、ポリビニルピロリドンの濃度は0.1(w/w))。
【0134】
この混合溶液67gをテフロン型(その底部の直径は13cm×13cm)に注ぎ入れ、ヒュームフード中において乾燥させ、膜を形成した。
【0135】
乾燥させて膜を形成した後、その膜を型から取り出し、10%ホルムアルデヒドを用いて1時間架橋を行った。その後、コラーゲン含有量が90wt%の架橋非繊維状膜を得た。
【0136】
13.比較作製例3
【0137】
電界紡糸膜:コラーゲン100wt%
【0138】
I型コラーゲンおよび溶媒としてのヘキサフルオロイソプロパノールを均一に混合して10%(w/w)コラーゲン溶液を調製した。
【0139】
そのコラーゲン溶液を原料として用い、電界紡糸装置(ニードル25~26G;溶液流速0.15mL/時間;電圧5~6kV)により電界紡糸を行い、電界紡糸膜を形成した。作製された電界紡糸膜を、10%ホルムアルデヒドを用いて1時間架橋した。その後、コラーゲン含有量が100wt%である架橋電界紡糸膜を得た。
【0140】
14.比較作製例4
【0141】
電界紡糸膜:コラーゲン50wt%およびポリカプロラクトン50wt%
【0142】
I型コラーゲン、ポリカプロラクトン(Mw:80,000Da)および溶媒としてのヘキサフルオロイソプロパノールを均一に混合し、溶質濃度10%(w/w)の混合溶液を調製した。I型コラーゲンとポリカプロラクトンとの重量比は1:1とした。
【0143】
そのコラーゲン溶液を原料として用い、電界紡糸装置(ニードル25~26G;溶液流速0.15mL/時間;電圧5~6kV)により電界紡糸を行い、電界紡糸膜を形成した。作製された電界紡糸膜を、10%ホルムアルデヒドを用いて1時間架橋した。その後、コラーゲン含有量が50wt%である架橋電界紡糸膜を得た。
【0144】
実施例2
【0145】
フーリエ変換赤外分光法(Fourier-transform infrared spectroscopy,FTIR)
【0146】
作製例1で作製した非繊維状膜(コラーゲン100wt%(その作製においてヘキサフルオロイソプロパノールを溶媒として使用))と、比較作製例1で作製した非繊維状膜(コラーゲン100wt%(その作製において酸性水溶液を溶媒として使用))とに対し、フーリエ変換赤外分光(FTIR)分析を行った。その結果は図1Aに示されている。
【0147】
また、表1および2は、フーリエ変換赤外分光におけるコラーゲンのピークにより表される構造を示している(Olena S. Rabotyagova等、“collagen structural hierarchy and susceptibility to degradation. susceptibility to degradation by ultraviolet radiation” Materials Science and Engineering C 28 (2008), pp. 1420-1429に基づく)。
【0148】
(表1)アミドI領域の帯域成分の割当(Assignment)
【0149】
(表2)アミドII領域の帯域成分の割当
【0150】
表1および2から、1549cm-1におけるピークはコラーゲンの三重らせんの特徴を表し、1530cm-1におけるピークは変性コラーゲンの緩い(loose)構造を表し、1646~1650cm-1におけるピークおよび1660cm-1におけるピークはランダムコイルのコラーゲン構造の出現を表すということがわかる。
【0151】
よって、図1Aならびに表1および2の結果によれば、比較作製例1により作製された非繊維状膜(コラーゲン100wt%(その作製おいて酸性水溶液を溶媒として使用))に比して、作製例1により作製された非繊維状膜(コラーゲン100wt%(その作製においてヘキサフルオロイソプロパノールを溶媒として使用))のアミドIIバンドは、もともと1548.9cm-1に位置していたピークから、1537.5cm-1におけるピークへと大幅にシフトし、三重らせん構造の減少および変性コラーゲン構造の増加を示したことがわかる。
【0152】
また、図1Aに示された、作製例1により作製された非繊維状膜(コラーゲン100wt%(その作製においてヘキサフルオロイソプロパノールを溶媒として使用))、および比較作製例1により作製された非繊維状膜(コラーゲン100wt%(その作製おいて酸性水溶液を溶媒として使用))のフーリエ変換赤外スペクトルに対し、フィッティングを行った。その結果が図1Bおよび表3に示されている。
【0153】
(表3)
【0154】
図1Bおよび表3、ならびに表1および2に示された結果から、比較作製例1により作製された非繊維状膜(その作製おいて酸性水溶液を溶媒として使用)と比べて、作製例1により作製された非繊維状膜(その作製においてヘキサフルオロイソプロパノールを溶媒として使用)では、コラーゲンアミドII三重らせんの特徴を表す1547cm-1におけるピークの面積の割合が約15.94%から約7.42%に減少し、変性後のコラーゲンアミドIIの緩い(loose)構造を表す1527cm-1におけるピークの面積の割合が約4.57%から約7.67%に増加し、かつコラーゲンアミドIランダムコイル構造(conformation)を表す1653cm-1におけるピークの面積の割合が約15.02%から約15.54%に増加していることがわかる。
【0155】
前述より、比較作製例1により作製された非繊維状膜(その作製おいて酸性水溶液を溶媒として使用)に比して、作製例1により作製された非繊維状膜(その作製においてヘキサフルオロイソプロパノールを溶媒として使用)は、より多くの変性コラーゲンを有する、つまり天然コラーゲンおよび変性コラーゲンの両方が、作製例1により作製された非繊維状膜(その作製においてヘキサフルオロイソプロパノールを溶媒として使用)に同時に存在していることがわかる。
【0156】
換言すると、コラーゲン含有膜の作製においてヘキサフルオロイソプロパノールを溶媒として使用することにより、作製された膜に、天然コラーゲンおよび変性コラーゲンの両方が同時に存在し得るようになる。
【0157】
実施例3
【0158】
走査電子顕微鏡(SEM)
【0159】
作製例8により作製された非繊維状膜(コラーゲン50wt%およびポリカプロラクトン50wt%)、および比較作製例3により作製された電界紡糸膜(コラーゲン100wt%)を走査電子顕微鏡で分析した。その結果は図2および図3にそれぞれ示されている。
【0160】
図2は、作製例8により作製された非繊維状膜(コラーゲン50wt%およびポリカプロラクトン50wt%)の走査電子顕微鏡写真を示している。図2から、作製例8により作製された非繊維状膜(コラーゲン50wt%およびポリカプロラクトン50wt%)が孔径約1μmの多孔質非繊維状膜であるということがわかる。
【0161】
図3は、比較作製例3により作製された電界紡糸膜(コラーゲン100wt%)の走査電子顕微鏡写真を示している。図3から、比較作製例3により作製された電界紡糸膜(コラーゲン100wt%)が繊維状膜であるということがわかる。
【0162】
実施例4
【0163】
膜膨潤試験
【0164】
各作製例および各比較作製例で作製した膜について、それぞれ膨潤試験を行った。
【0165】
1.方法
【0166】
試験対象の膜を円形カッターでカットして、直径8mmの円形膜を得た。
【0167】
その円形膜を水性液体(RO純水、0.9%生理食塩水、10mM Tri-HCl緩衝液、ダルベッコリン酸緩衝生理食塩水(DPBS)、ダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)、または10%ウシ胎児血清(FBS)含有ダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)(細胞培養液))に浸漬した。
【0168】
膜を0分、60分、24時間、72時間、7日および14日浸漬した時点で、顕微鏡(NIKON model)を倍率0.75倍にして撮影し、その直径を測定した。
【0169】
2つの時点で測定された膜の直径を選び、下式により膜の膨潤速度を算出することができた。
【0170】
(数1)
k=(y2-y1)/(x2-x1)
【0171】
Kは膨潤速度であり、x1は第1の時点であり、x2は第2の時点であり、y1は第1の時点で測定された膜の直径であり、y2は第2の時点で測定された膜の直径である。
【0172】
2.結果
【0173】
(1)作製例1、2、3、7および8で作製された膜について
【0174】
異なる時点でそれぞれ異なる水性液体中で測定された、作製例1により作製された非繊維状膜(コラーゲン100wt%)、作製例2により作製された非繊維状膜(コラーゲン90wt%およびポリカプロラクトン10wt%)、作製例7により作製された非繊維状膜(コラーゲン70wt%およびポリカプロラクトン30wt%)、ならびに作製例8により作製された非繊維状膜(非繊維状膜:コラーゲン50wt%およびポリカプロラクトン50wt%)の膜の直径が図4A図4B図4Cおよび図4Dにそれぞれ示されている。
【0175】
図4A図4B図4Cおよび図4Dから、異なる水性液体における各膜のサイズが、時間の増加と共に著しく変化していることがわかる。
【0176】
7日目の時点より前の膜の直径から、膜の持続的な膨潤効果は、Tri-HCl緩衝液、DMEM溶液、および10%ウシ胎児血清含有DMEM溶液(細胞培養液)のような両性イオン(双性イオン)を含む水性液体中において、より顕著であったことがわかる。両親媒性イオン(amphiphilic ion)を含む水性液体は、より顕著なコラーゲンタンパク質間の水素結合効果を有し、このことが、膜の水和作用をより高め、膨潤速度をより速めたものと推測される。
【0177】
また、膜の水和作用は、DMEM溶液および10%ウシ胎児血清含有DMEM溶液(細胞培養液)で特に顕著である。DMEM溶液および細胞培養液は、両性イオンに加え、アミノ酸成分を含み、これもコラーゲン膜の水和作用を高めるため、その中での膜の膨潤速度は、他の水性液体(RO純水、生理食塩水、Tri-HCl緩衝液またはリン酸緩衝液)中における膨潤速度よりも、はるかに高い。
【0178】
さらに、図4A図4B図4Cおよび図4Dに示されたそれぞれ異なる時点で測定された、10%ウシ胎児血清含有DMEM溶液中の、作製例1により作製された非繊維状膜(コラーゲン100wt%)、作製例2により作製された非繊維状膜(コラーゲン90wt%およびポリカプロラクトン10wt%)、作製例7により作製された非繊維状膜(コラーゲン70wt%およびポリカプロラクトン30wt%)、ならびに作製例8により作製された非繊維状膜(非繊維状膜:コラーゲン50wt%およびポリカプロラクトン50wt%)の膜の直径が、図5Aにまとめられている。
【0179】
また、各膜の膨潤速度を、60分の時点および14日目の時点で測定された10%ウシ胎児血清含有DMEM溶液中の各膜の直径に基づいて算出した。その結果が図5Bに示されている。
【0180】
加えて、60分の時点と比較した、7日目の時点および14日目の時点における、各種水性液体中の、各膜の膨潤比をそれぞれ算出した。膨潤比の計算式を以下に示す。
【0181】
膨潤比(%)=(第2の時点における膜の直径-第1の時点における膜の直径)
/第1の時点における膜の直径×100
【0182】
この実験において、第1の時点は60分、第2の時点は7日目または14日目である。
【0183】
結果を表4に示す。
【0184】
(表4)60分の時点と比較した、7日目の時点および14日目の時点における、各種水性液体中の、各膜の膨潤比
【0185】
図5A図5Bおよび表4より、コラーゲンを70~90wt%含む膜の膨潤比は、コラーゲンを100wt%含む膜よりも大きく、かつ各種水性液体中における膜の膨潤比は、ポリエステル系ポリマーの含有量の増加に伴って増えることも示されている。
【0186】
このように、ポリエステル系ポリマーの添加は、コラーゲン間の架橋を妨げ、コラーゲンの分子間力に影響を与え得ることから、液体吸収後、ポリエステル系ポリマーを含む膜の膨潤速度が高まる結果となる。
【0187】
これに対し、コラーゲン100wt%含有膜はより十分に架橋する。しかし、膜作製において溶媒として用いられるヘキサフルオロイソプロパノールは、膜が天然コラーゲンおよび変性コラーゲンの両方を含む(図1Aおよび図1B参照)ようにし得るため、液体中に浸された100wt%コラーゲン膜は依然として膨潤特性を備えるものの、その膨潤比は、コラーゲンを70~90wt%含む膜に比べて低い。
【0188】
コラーゲンを50wt%含む膜については、膜のポリエステル系ポリマーの含有量が膜全体の半分を占めるため、膜特性に対する影響の程度がより大きい。ポリエステル系ポリマーは疎水性材料であり、水を吸収せず、膨潤しないことから、コラーゲンを50wt%含む膜は液体への7日間(168時間)の浸漬後にわずかにサイズが増えたのみである。
【0189】
(2)作製例4、5および6で作製された膜について
【0190】
14日目の時点および60分の時点で測定された、10%ウシ胎児血清含有DMEM溶液中の、作製例4により作製された非繊維状膜(コラーゲン80wt%およびポリカプロラクトン20wt%、架橋1.5時間)、作製例5により作製された非繊維状膜(コラーゲン80wt%およびポリカプロラクトン20wt%、架橋2時間)、ならびに作製例6により作製された非繊維状膜(コラーゲン80wt%およびポリカプロラクトン20wt%、架橋3時間)の直径に基づいて、それぞれの膜の膨潤速度および単位時間当たりの膨潤比を算出した。
【0191】
単位時間当たりの膨潤比は下に示される式により算出される。
【0192】
単位時間当たりの膨潤比(%/時間)
=膨潤速度/60分の時点における膜の直径×100
【0193】
60分の時点における膜の直径:水性液体中への膜の浸漬後の膜の初期直径
【0194】
結果は図6に示されている。
【0195】
図6では、異なる時間、異なる架橋処理を行った膜の膨潤速度はそれぞれ異なり、かつ架橋時間のより短い膜の膨潤速度がより高いことが示されている。よって、膜の膨潤速度は、膜に架橋を行う時間によって調整できるということがわかる。
【0196】
(3)作製例9および10で作製された膜について
【0197】
異なる時点においてPBS緩衝液中で測定された、作製例9で作製された非繊維状膜(コラーゲン90wt%およびポリ乳酸10wt%)の膜の直径が図7に示されている。
【0198】
1時間の時点と比較した、7日目の時点および14日目の時点におけるPBS緩衝液中の、作製例9で作製された非繊維状膜(コラーゲン90wt%およびポリ乳酸10wt%)ならびに作製例10で作製された非繊維状膜(コラーゲン70wt%およびポリ乳酸30wt%)の膨潤比をそれぞれ算出した。結果は表5に示されている。
【0199】
(表5)1時間の時点と比較した、7日目の時点および14日目の時点におけるPBS緩衝液中の、作製例9で作製された非繊維状膜(コラーゲン90wt%およびポリ乳酸10wt%)ならびに作製例10で作製された非繊維状膜(コラーゲン70wt%およびポリ乳酸30wt%)の膨潤比
【0200】
図7および表5から、水性液体中の、ポリ乳酸を含有するコラーゲン膜の膜サイズも、時間の経過と共に増加することがわかる。
【0201】
(4)比較作製例3および4で作製された膜について
【0202】
異なる時点においてPBS緩衝液中で測定された、比較作製例3で作製された電界紡糸膜(コラーゲン100wt%)、ならびに比較作製例4で作製された電界紡糸膜(コラーゲン50wt%およびポリカプロラクトン50wt%)の面積が図8に示されている。
【0203】
図8から、電界紡糸膜は膨潤効果を有していないことがわかる。
【0204】
実施例5
【0205】
細胞培養試験
【0206】
作製例および比較作製例で作製された膜に対し、それぞれ細胞培養試験を行った。
【0207】
1.方法
【0208】
線維芽細胞(HSFp7)を、10%ウシ胎児血清およびペニシリン-ストレプトマイシン(100U/mL)を含有するDMEM高グルコース培地中で培養した。
【0209】
試験対象の膜を75%エタノールに15分浸漬した後、エタノールを取り除くと共に膜から蒸発させ、膜を乾燥させた。乾燥ステップが完了したら、試験対象の膜の滅菌を完了させた。
【0210】
次いで、それらの膜を滅菌水に40分浸漬してから、細胞培養液に15分浸漬した。その後、それらの膜を12孔プレートの孔中に入れ、プラスチックリングで固定した。線維芽細胞(HSFp7)を、上述した12孔プレートの膜の入った孔に、接種密度50,000細胞/cmで接種した。上述した12ウェルプレートの膜の入っていない孔に、同じ接種密度で線維芽細胞(HSFp7)を接種して、対照群とした。翌日、細胞が付着した後、固定用のプラスチックリングを取り除いた。
【0211】
PKH67生細胞染色により、膜上の細胞の変化を観察した。1、3、7、および14日目に細胞形態(cell morphology)を蛍光顕微鏡で撮影し、材料のサイズの変化を測定した。
【0212】
2.結果
【0213】
(1)作製例3で作製された膜について
【0214】
作製例3で作製された非繊維状膜の細胞培養試験の結果が図9Aおよび図9Bに示されている。
【0215】
図9Aは、細胞培養試験における、作製例3で作製された非繊維状膜(コラーゲン80wt%およびポリカプロラクトン20wt%)上の細胞、ならびに培養プレート上の細胞の1、3、7、および14日目における成長状況の写真を示している。
【0216】
図9Bは、細胞培養試験における、作製例3で作製された非繊維状膜(コラーゲン80wt%およびポリカプロラクトン20wt%)上の細胞、ならびに培養プレート上の細胞の3日目における成長状況の写真を示している。
【0217】
図9Aおよび図9Bから、本開示の膜上の細胞が同じ方向に成長し、配列していることがわかる。細胞培養液中で、膜のサイズは経時的に増大し続け、そして膜のサイズの増大は、細胞に対する物理・機械的応力となり、同じ方向に成長するという特徴を細胞が示すようにすることができる。これに対し、培養プレート上の細胞の成長状況は、より無秩序である(disorganized)。
【0218】
(2)比較作製例2で作製された膜について
【0219】
比較作製例2で作製された非繊維状膜(コラーゲン90wt%およびポリカプロラクトン10wt%(酸性水溶液を溶媒とする))の細胞培養試験の結果が図10に示されている。
【0220】
図10から、培養プレート上の細胞の成長状況と同じように、比較作製例2で作製された非繊維状膜(コラーゲン90wt%およびポリカプロラクトン10wt%(酸性水溶液を溶媒とする))上の細胞の成長状況は、より無秩序であり、稀に方向性のある配列が見られるだけである。
【0221】
前述より、細胞培養時において、本開示の膜はサイズが変化するため、その上に成長する細胞に、物理・機械的応力、および細胞が付着した表面の構造的変化の刺激を与えて、細胞を同じ方向に成長させると共に、細胞分化を促進させることがわかる。
【0222】
開示した実施形態に様々な変更や変化を加え得ることは、当業者には明らかであろう。明細書および実施例は単に例示と見なされるよう意図されており、本開示の真の範囲は以下の特許請求の範囲およびそれらの均等物によって示される。
図1A
図1B
図2
図3
図4A
図4B
図4C
図4D
図5A
図5B
図6
図7
図8
図9A
図9B
図10
【外国語明細書】