(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022105343
(43)【公開日】2022-07-14
(54)【発明の名称】マスク用アタッチメント又はマスク
(51)【国際特許分類】
A41D 13/11 20060101AFI20220707BHJP
A62B 18/02 20060101ALI20220707BHJP
F25B 21/02 20060101ALI20220707BHJP
【FI】
A41D13/11 Z
A62B18/02 C
F25B21/02 M
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021000021
(22)【出願日】2021-01-04
(71)【出願人】
【識別番号】521005579
【氏名又は名称】有限会社ネクシス
(74)【代理人】
【識別番号】100127166
【弁理士】
【氏名又は名称】本間 政憲
(74)【代理人】
【識別番号】100187399
【弁理士】
【氏名又は名称】上西 敏文
(72)【発明者】
【氏名】中川 敏明
【テーマコード(参考)】
2E185
【Fターム(参考)】
2E185AA07
2E185CB07
2E185CB19
2E185CC32
(57)【要約】
【課題】本発明は、マスクの形状や重量を変更することによって装着感が変わることを最小限にし、マスクのろ過部材部分において冷却又は加温の効果を向上させ着用者に温感的な快適性を与えるマスク用アタッチメント又はマスクを提供することを目的とする。
【解決手段】上記課題を解決するため、本発明のマスク用アタッチメントは、面体部が、少なくとも鼻及び口を覆う領域を有する面体と、前記面体の所定の領域に張り巡らせる樹脂部材で形成された面体部流路と、前記面体部流路内に熱伝導率が高く、かつ、可撓性を有する金属線材と、を備え、マスクのろ過部材部分に当接させて、鼻及び口を覆い前記面体部流路に熱交換媒体を流すこと、を特徴とする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
面体部が、
少なくとも鼻及び口を覆う領域を有する面体と、
前記面体の所定の領域に張り巡らせる樹脂部材で形成された面体部流路と、
前記面体部流路内に熱伝導率が高く、かつ、可撓性を有する金属線材と、
を備え、
マスクのろ過部材部分に当接させて、鼻及び口を覆い前記面体部流路に熱交換媒体を流すこと、
を特徴とするマスク用アタッチメント。
【請求項2】
前記熱交換媒体の熱交換を行う熱交換部を備えること、
を特徴とする請求項1に記載するマスク用アタッチメント。
【請求項3】
電源部と、
前記面体部に前記熱交換媒体を送液する往流路と、
前記面体部から前記熱交換媒体を回収する復流路と、
少なくとも前記往流路内に前記金属線材と、
を備え、
前記熱交換部が、
熱交換器と、
送液ポンプと、
排熱装置と、
を備え、
回収した前記熱交換媒体を前記熱交換器によって熱交換を行い、前記電源部から駆動力を得て前記送液ポンプが前記往流路に送出すること、
を特徴とする請求項2に記載するマスク用アタッチメント。
【請求項4】
前記熱交換器が、
ペルチェ素子であること、
を特徴とする請求項3に記載するマスク用アタッチメント。
【請求項5】
面体部が、
少なくとも鼻及び口を覆うろ過部材を備えた面体と、
前記面体の所定の領域に張り巡らせる面体部流路と、
前記面体部流路内に熱伝導率が高く、かつ、可撓性を有する金属線材と、
を備え、
鼻及び口を覆い前記面体部流路に熱交換媒体を流すこと、
を特徴とするマスク。
【請求項6】
前記熱交換媒体の熱交換を行う熱交換部を備えること、
を特徴とする請求項5に記載するマスク。
【請求項7】
電源部と、
前記面体部に前記熱交換媒体を送液する往流路と、
前記面体部から前記熱交換媒体を回収する復流路と、
少なくとも前記往流路内に前記金属線材と、
を備え、
前記熱交換部が、
熱交換器と、
送液ポンプと、
排熱装置と、
を備え、
回収した前記熱交換媒体を前記熱交換器によって熱交換を行い、前記電源部から駆動力を得て前記送液ポンプが前記往流路に送出すること、
を特徴とする請求項6に記載するマスク。
【請求項8】
前記熱交換器が、
ペルチェ素子であること、
を特徴とする請求項7に記載するマスク。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マスクの鼻や口を覆うろ過部材部分について、冷却又は加温を行うことによって、マスクを着用した際に温感的な快適性を提供する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、一般的なマスクの着用は、季節性の流行性感冒の予防又は感染拡大を防止するために着用することが通常であり、冬期を中心に着用されていた。冬期に着用する場合には、マスク外側の低温外気とマスク顔側の高温空気によって熱交換が行われるため、マスクと顔との間に高温空気が留まることは少なく、鼻や口の周辺が高温であることによる身体への影響については特段考慮する必要がなかった。
【0003】
昨今、新型ウィルスによる感染症の流行やPM2.5による大気汚染などによって、冬期以外の季節においてもマスクを着用することを余儀なくされている。特に、夏期におけるマスクの着用はマスクと顔との間に熱が留まるため、鼻や口の周辺や気管が高温になり体温の制御が困難になり熱中症になる可能性が懸念されている。
【0004】
一方で、高温の作業場所などでマスクを使用する際にマスクと顔との間に熱が留まり熱中症になることを防止するために、冷却液を鼻や口の前面で循環させる冷却マスクが使用される。
【0005】
特許文献1では、防塵などが口腔内への侵入を防止するマスク部において、フィルタの役目を果たすシートの内側や吸気部の外周に冷却液を流すための流路が形成され、冷却液がマスク部とは離れた位置に設けられた冷却容器に貯蔵されるマスク部の発明が開示されている。前記冷却液をマスクと冷却容器の間を循環させることによって、鼻や口周辺の冷却機能を備えるものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】WO2017/057168号公報
【特許文献2】特開平6-63069号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に示されたマスク部は、液体線路長を大きくして熱交換面積を大きくするため、冷却液の流路を作業用マスク全体に螺旋状や同心円状に張り巡らされている。マスクの大きさや重量を考慮すると流路径は細くならざるを得ず、冷却液がマスク全体に張り巡らされた流路を通過する間低い温度に維持することが難しい。
【0008】
冷却能力を向上させるために樹脂の流路に替えて金属で流路を形成することが示されているが、液体線路長を大きくするためにはマスクの重量が重くなり、長時間の使用にはマスクを頭部に取り付けるためのひもやベルトの負荷によって耳が痛くなる、又は重量によって首の疲労が大きくなるなどの体への影響が問題となる。
【0009】
冷却能力を長時間維持するために、冷却液の貯蔵容器には冷却液の温度を所定の温度に維持するためにドライアイスや氷が収納されている。しかし、ドライアイスや氷が時間とともに消失した際には補充しなければならない。
【0010】
上記のマスク部は、冷却の場合のみ考慮されているが、極寒地においては加温することが必要になる場合もある。
【0011】
鼻や口をろ過部材などによって保護するマスクとは異なるが、顔面を被覆し適度な冷却と加温を交互に行うことによって、皮膚に適度な刺激を与え美容効果が得られる美顔マスクが特許文献2に開示されている。
【0012】
特許文献2では、冷却又は加温を行う素子として線状のペルチェ素子が用いられる。静止した顔面に密着させて20℃前後の室温と差異を設けるためには線状のペルチェ素子は適しているが、30℃を超える外気温の下で、言葉を発するなどの動きが伴う顔面に密着して外気温との差異を設けることは、線状のペルチェ素子では熱容量が小さく難しい。熱容量を大きくするためには面状のペルチェ素子を使用することが必要となるが、顔面に密着させることができない。
【0013】
また、ペルチェ素子を直接冷却又は加温を行うために使用せず、間接的に熱交換媒体の熱交換素子としてペルチェ素子を使用し、熱交換媒体をマスク全体に巡らせ循環させて、冷却又は加温を行う場合が想定されるが、ペルチェ素子は熱容量が大きいものが必要となり、排熱装置もペルチェ素子の熱容量に合わせて大きくする必要があるため持ち運びには適さない課題がある。
【0014】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、マスクの形状や重量を変更することによって装着感が変わることを最小限にし、マスクのろ過部材部分において冷却又は加温の効果を向上させ着用者に温感的な快適性を与えるマスク用アタッチメント又はマスクを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記課題を解決するため、本発明のマスク用アタッチメントは、面体部が、少なくとも鼻及び口を覆う領域を有する面体と、前記面体の所定の領域に張り巡らせる樹脂部材で形成された面体部流路と、前記面体部流路内に熱伝導率が高く、かつ、可撓性を有する金属線材と、を備え、マスクのろ過部材部分に当接させて、鼻及び口を覆い前記面体部流路に熱交換媒体を流すこと、を特徴とする。
【0016】
また、本発明のマスク用アタッチメントは、前記熱交換媒体の熱交換を行う熱交換部を備えること、を特徴とする。
【0017】
また、本発明のマスク用アタッチメントは、電源部と、前記面体部に前記熱交換媒体を送液する往流路と、前記面体部から前記熱交換媒体を回収する復流路と、少なくとも前記往流路内に前記金属線材と、を備え、前記熱交換部が、熱交換器と、送液ポンプと、排熱装置と、を備え、回収した前記熱交換媒体を前記熱交換器によって熱交換を行い、前記電源部から駆動力を得て前記送液ポンプが前記往流路に送出すること、を特徴とする。
【0018】
また、本発明のマスク用アタッチメントは、前記熱交換器が、ペルチェ素子であること、を特徴とする。
【0019】
上記課題を解決するため、本発明のマスクは、面体部が、少なくとも鼻及び口を覆うろ過部材を備えた面体と、前記面体の所定の領域に張り巡らせる面体部流路と、前記面体部流路内に熱伝導率が高く、かつ、可撓性を有する金属線材と、を備え、鼻及び口を覆い前記面体部流路に熱交換媒体を流すこと、を特徴とする。
【0020】
また、本発明のマスクは、前記熱交換媒体の熱交換を行う熱交換部を備えること、を特徴とする。
【0021】
また、本発明のマスクは、電源部と、前記面体部に前記熱交換媒体を送液する往流路と、前記面体部から前記熱交換媒体を回収する復流路と、少なくとも前記往流路内に前記金属線材と、を備え、前記熱交換部が、熱交換器と、送液ポンプと、排熱装置と、を備え、回収した前記熱交換媒体を前記熱交換器によって熱交換を行い、前記電源部から駆動力を得て前記送液ポンプが前記往流路に送出すること、を特徴とする。
【0022】
また、本発明のマスクは、前記熱交換器が、ペルチェ素子であること、を特徴とする。
【発明の効果】
【0023】
本発明に係るマスク用アタッチメント又はマスクによれば、面体の所定の領域に張り巡らせる樹脂部材で形成された面体部流路内に熱伝導率が高い金属線材を備えることにより、面体部流路内を移動する熱交換媒体の温度変動を少なくすることができる効果を奏する。また、可撓性を有する金属線材が面体部に張り巡らされることによって、鼻や口を本発明に係るマスク用アタッチメント又はマスクで覆った際に、押圧し面体部の形状を鼻や口の凹凸に倣わせて顔面との隙間を最小限にすることができる効果を奏する。
【0024】
本発明に係るマスク用アタッチメント又はマスクによれば、熱交換部を備えることにより、面体部を巡らせる熱交換媒体をより快適な温度に近づけて保持することができる効果を奏する。
【0025】
本発明に係るマスク用アタッチメント又はマスクによれば、熱交換部が、往流路及び復流路並びに送液ポンプを備え、往流路及び復流路内に前記金属線材を備えて、熱交換媒体を循環させることにより、熱交換器で得られた熱交換媒体の温度を面体部に効率的に伝導することができる効果を奏する。
【0026】
本発明に係るマスク用アタッチメント又はマスクによれば、ペルチェ素子に加える電圧の極性を切り替えることにより、面体部の冷却又は加温のいずれか一方を選択することができる効果を奏する。
【0027】
本発明に係るマスク用アタッチメントによれば、洗浄することによって、マスクを交換して何度でも使用することができる効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図1】本発明に係る熱交換部30を備えたマスク用アタッチメント10の外観図である。
【
図2】本発明に係る面体部20のみを備えたマスク用アタッチメント14の外観図である。
【
図3】本発明に係るマスク用アタッチメント14を不織布マスク60の顔側に当接させた状態を示した図である。
【
図4a】本発明に係るマスク用アタッチメント10の熱交換部30の外観図である。
【
図4b】本発明に係るマスク用アタッチメント10の熱交換部30の内部構成を示した図である。
【
図5】熱交換部30における回路図を示した図である。
【
図6】本発明に係るマスク用アタッチメントの面体部流路22内に金属線材24を備えた状態を示した面体部流路22の透視図である。
【
図7】往復流路(34,35)部分の断面図である。
【
図8】冷却時における面体部流路22表面の温度を示した表である。
【
図9】面体部20における金属線材24の配置箇所を変更した実施例を示した透視図である。
【
図10】
図9の実施例における熱交換部30及び流路の金属線材24の配置箇所を示した透視図である。
【
図11】熱交換流路部32において金属線材24が配置された状態を示した断面図である。
【
図13】熱交換部30及び電源部45を使用者Pの腰に装着した図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
本発明に係るマスク用アタッチメント10及びマスク12を実施するための形態について、図を参照しつつ説明する。
【0030】
図1は、本発明に係る熱交換部30を備えたマスク用アタッチメント10の外観図である。熱交換部30を備えたマスク用アタッチメント10は、面体部20と、往復流路(34,35)と、熱交換部30で少なくとも構成される。
【0031】
面体部20は、顔面の少なくとも鼻及び口を覆う大きさを有する面体26と、面体26の所定の領域に張り巡らせる樹脂製の管状に形成された面体部流路22と、樹脂製の管内に熱伝導率が高く、かつ、可撓性を有する金属線材24(金属線材24は
図6に示す。)と、を備える。
【0032】
熱交換部30は、流路内の熱交換媒体を冷却又は加温を行う熱交換器31を備え、熱交換媒体の温度を調整する。
【0033】
熱を伝導するための流体(熱交換媒体)が、面体部20の面体部流路22、往復流路(34,35)及び熱交換部30内に封入され、送液ポンプ33(
図4bに図示)によって流路内を流通し循環する。熱交換媒体は、水が安全かつ簡便でよいが、通常熱交換媒体に使用される液体や気体などを使用することもできる。
【0034】
図2は、本発明に係る面体部20のみのマスク用アタッチメント14の外観図である。面体部流路22は顔面の鼻や口を万遍なく覆う程度の渦巻き状に形成され、覆った部分を冷却し、又は加温することができる。面体部流路22の一方端は、面体26中央付近から面体26外部に引き出される。面体部流路22の他方端は、面体26の外周端の内側から面体26外部に引き出され、面体26中央付近から引き出された流路と束ねて熱交換部30へと導かれる。渦巻き状の面体部流路22は、面体26に固定される。面体部流路22の面体26への固定は、糸材又はバンドでの縛り付けや、接着剤の固着により行われる。
【0035】
図3は、本発明に係るマスク用アタッチメント10(14)を使い捨ての不織布マスク60の顔面側に当接させた状態を示した図である。面体26を不織布マスク60側に配置し、温度をより伝導させるために面体部流路22を顔面側に配置する。面体部20における熱交換媒体の流れの方向は、図に矢印で示したように、口元に近い渦巻きの中心側に熱交換部30から送出された熱交換媒体を流入させ、外周方向へと流通していくことによって、呼気の温度を効果的に調整することができる。冷却を目的とする場合には、最も冷却された状態の熱交換媒体を口元に送ることによって冷感を得ることができる。しかしながら、逆方向に熱交換媒体を流すことを否定するものではない。図では、不織布マスク60を示しているが、布や樹脂などのろ過部材を備えたマスク、又は防塵マスクの顔面側に当接させて使用することも可能である。また、マスクを交換して本発明に係るマスク用アタッチメント10(14)を何回でも使用することができる。使用できるマスクの形状は、全面がプリーツ状になったプリーツ型、人間の顔の形状に沿ってデザインされた立体型、樹脂のカップで鼻と口を覆うカップ型などあらゆる形状のマスクに適用することができ、マスクの形状を選ばない。
【0036】
面体26は、可能な限り顔面との間に隙間を生じさせることなくマスクが覆うことができるように可撓性を有する柔軟な材質の薄板の樹脂部材が好ましい。ゴムに例示される弾力を備えた部材が好適である。また、面体部流路22についても、直接顔面に当接させる場合があるため、面体26と同様に可撓性を有する柔軟な材質の樹脂部材が好ましく、ゴムに例示される弾力を備えた部材が好適である。
【0037】
図4aは、本発明に係るマスク用アタッチメント10の熱交換部30の外観図である。熱交換部30には、往流路34及び復流路35が束ねられて被覆チューブ50内に収められた状態で接続されている。また、電源の入力部である電源コンセント41(
図4bに図示)、電源スイッチ39及び排熱のための開口部47を少なくとも備える。電源コンセント41には、直流電源が入力可能なように電源プラグが挿入され、電源コード40の熱交換部30に対して他方側の端には電源部45(
図13にて図示)を備える。使用者は移動しながらマスク用アタッチメント10を使用するため、電源部45における電源は電池またバッテリが好適である。最近では、太陽光や風力を利用した小電力発電を利用することも可能である。
【0038】
図4bは、本発明に係るマスク用アタッチメント10の熱交換部30の内部構成を示した図である。熱交換部30には、熱交換器31、熱交換流路部32、放熱フィン36、送液ポンプ33及び排熱装置37としての排熱ファンを少なくとも備える。面体部20から復流路35を流通して戻ってきた熱交換媒体は送液ポンプ33によって熱交換流路部32に送出される。
【0039】
熱交換流路部32は、熱交換器31と接触させる。熱交換流路部32は、熱伝導率が高い金属、例えば、アルミニウムや銅で形成されることが好ましいが、これに限定されるものではない。本実施の形態においては熱交換器31の一例として板状のペルチェ素子を採用し、当該ペルチェ素子と熱交換流路部32の所定の面とを面接触させる。そのため、熱交換流路部32は、熱伝導率が高い金属部材でブロック状に形成され、ペルチェ素子と当接させる面は、ペルチェ素子の板面と同程度の面積を備えるように形成する。ペルチェ素子の板面方向に対し垂直方向の厚みは可能な限り薄く形成することによって熱交換の効率を向上させることができる。熱交換部筐体42と熱交換流路部32とは断熱材38によって遮断され、外部の温度が熱交換流路部32に影響を与えないように配慮される。
【0040】
ペルチェ素子板面の熱交換流路部32側と反対側面には放熱フィン36を備え、ペルチェ素子の熱交換の効率を向上させる。さらには、放熱フィン36に蓄積された熱を排熱するための排熱ファンを放熱フィン36に近接させて配置し放熱フィン36を補助する。
【0041】
熱交換器31は、従来のヒートポンプなどの熱交換装置の使用も可能であるが、大型になるため、半導体ヒートポンプであるペルチェ素子が小型で好適である。また、放熱フィン36内に流路を形成して熱交換媒体を流通させる熱交換流路部を兼ねた熱交換器31であってもよい。
【0042】
図5は、熱交換部30における回路図を示した図である。ペルチェ素子を採用した場合には、ペルチェ素子に入力する電圧の極性を切り替えることにより、冷却と加温を切り替えることができる。これにより、夏期や高温になる場所においては冷却を選択し、冬期や低温になる場所においては加温を選択することができる。本実施の形態においては、特に熱中症が懸念される夏期や高温場所でのニーズが高いと考えられるため、冷却モードで使用する場合について主に説明する。
【0043】
図6は、本発明に係るマスク用アタッチメント10の面体部流路22内に金属線材24を備えた状態を示した面体部流路22の透視図である。面体部流路22内の金属線材24は、流路内の熱交換媒体の温度を熱交換流路部32から送出された温度に近い状態に保持するために配設される。金属線材24は、熱伝導率が高い材料が好適であり、例えば、アルミニウムや銅などが例示されるが、これに限定されるものではない。
【0044】
図では、金属線材24を往流路34から面体部流路22を通じて復流路35にまで配設させている。面体部流路22全体に金属線材24を配設することにより、面体26の面体部流路22を備えない側から顔面に向けて押圧して、顔面の凹凸に倣わせ、その状態を維持することができる。マスクに面体部20を装着している場合には、マスクの上から顔面に向けて押圧して、顔面の凹凸に倣わせる。顔面から面体部20を離脱させた際にも、金属線材24は形状を維持しており、次回面体部20を装着した際にも容易に顔面に密着させることができる。
【0045】
図7は、往復流路(34,35)部分の断面図である。被覆チューブ50内における流路の管は、いずれが往流路34又は復流路35であってもよい。往流路34及び復流路35は束ねて被覆チューブ50によって覆うことで、両流路が使用者の動きによって各々が個別に撓んだり、腕や物に引っ掛かったりすることがなくチューブの取扱いを簡便にしている。面体部流路22の直径は、面体部20において5回程度渦巻き状に巻回し、巻回された各流路管の間隔を1mm以上確保した形状に加工することを考慮すると、面体部流路22において1.5mm以上2.5mm以下が好ましい。したがって、往復流路(34,35)の直径も同じ直径とすることが好ましい。金属線材24を往流路34及び復流路35の両方に配設する例を示している。配設された金属線材24の直径は、可撓性及び通過する熱交換媒体の流量を考慮すると、0.6mm以上0.8mm以下が好ましい。すなわち、金属線材24の直径が0.6mm未満であると、金属線材24の可撓性は高まるが、熱交換媒体の温度を保持する熱容量が不足する。また、金属線材24の直径が、0.8mmを超えると熱交換媒体の水流が滞り、面体部20における温度調整能力が低下する。
【0046】
循環する熱交換媒体の流速は、熱交換器31の冷却能力と冷却部である面体部流路22の長さとのバランスと、送液ポンプ33の能力によって決定される。
【0047】
図8は、冷却時における面体部流路22表面の温度を示した表である。金属線材24にはアルミニウムを使用し、アルミニウム線材入りの場合の面体部流路22表面温度とアルミニウム線材を一切配設しない場合の面体部流路22表面温度を比較した。アルミニウム線材入りでは、面体部20においては
図6の状態に配設し、往復流路(34,35)の両方の管内にも配設した。熱交換部30におけるアルミニウム線材は、往流路34では、熱交換流路内に直線状に挿入した状態で配設した一方で、復流路35では熱交換部筐体42付近を端部として、送液ポンプ33近傍にまでは導線していない。これは、送液ポンプ33で生じた熱の影響を大きく受けるためである。面体部流路22表面温度は、室温下に置かれた面体部20の面体部流路22の渦巻き状の中心側から約1巻回した箇所に熱電対を貼付して測定を行った。
【0048】
温度測定は、ペルチェ素子に電源の投入を行う前、電源投入5分経過後、20分経過後、45分経過後、60分経過後に行った。電源投入前は、同じ温度であったが、電源投入5分経過後、20分経過後、45分経過後、60分経過後のいずれにおいても、アルミニウム線材有りの面体部流路22表面温度が、アルミニウム線材なしの面体部流路22表面温度と比較して0.6℃以上の差を有して低い温度に維持できており、金属線材24を配設することによる冷却能力の向上が確認できた。
【実施例0049】
図9は、面体部20における金属線材24の配置部分を変更した実施例を示した透視図である。
図6においては、復流路35の管内に金属線材24を配設した例を示したが、面体部流路22から熱交換媒体が流出し復流路35に流入した時点の熱交換媒体の温度が一番高い状態にあるため、それ以降の復流路35に金属線材24を配設しておくと金属線材24が温められた状態となり、熱交換媒体が金属線材24の影響を受けて高い温度を維持したまま、熱交換流路に流入し熱交換の効率が低下することになる。また、面体部流路22末端の温度が面体部20内部の金属線材24に伝導し面体部20における熱交換媒体の温度が上昇することになり、冷却効果が低下することになる。したがって、
図9では、面体部流路22の渦巻き状の中心側から略2巻までアルミ線材を配設することとした。面体部流路22の渦巻き状の中心側から略2巻は、口元及び鼻孔までを覆う範囲として決定した。
【0050】
一方、往流路34側の金属線材24の端部は、熱交換部30の熱交換流路内まで配設する。
図10では、実施例1における熱交換部30及び流路の金属線材24の配置箇所を示した透視図である。被覆チューブ50内の往流路34については図示を省略している。使用者の動作に伴って動きが生じる往流路34全域に金属線材24を配設するため、金属線材24は柔軟な金属部材であることが好ましい。例えばアルミニウム、銅などが例示される。
【0051】
図11は、熱交換流路部32において金属線材24が配置された状態を示した断面図である。金属線材24は、熱交換流路内においてコイル状に巻回し配設することが好ましい。熱交換流路内の金属線材24は、単に直線的に挿入されている場合と比較して複数回巻回し熱交換媒体と接触する面積を適度に増加させた場合には熱交換器31によって十分に冷却された温度を維持するため、復流路35を流通して戻ってきた熱交換媒体を冷却する能力が高まる。熱交換部30が携帯可能な大きさかつ重量であることを考慮すると5巻回以内が好ましい。さらに、金属線材24の一部を熱交換流路部32の内壁面に溶接やろう付けすることにより、さらに熱交換器31からの熱伝導効率が高まる(不図示)。また、熱伝導率が高い金属線材24であるため、十分に冷却された金属線材24の温度が熱交換流路部32から外部に出て遠方にまで維持することが可能となる効果も生じる。