(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022105356
(43)【公開日】2022-07-14
(54)【発明の名称】撓み噛合い式歯車装置
(51)【国際特許分類】
F16H 1/32 20060101AFI20220707BHJP
F16H 57/029 20120101ALI20220707BHJP
【FI】
F16H1/32 B
F16H57/029
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021000057
(22)【出願日】2021-01-04
(71)【出願人】
【識別番号】000002107
【氏名又は名称】住友重機械工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090033
【弁理士】
【氏名又は名称】荒船 博司
(74)【代理人】
【識別番号】100093045
【弁理士】
【氏名又は名称】荒船 良男
(72)【発明者】
【氏名】仲谷 斗喜也
(72)【発明者】
【氏名】石塚 正幸
【テーマコード(参考)】
3J027
3J063
【Fターム(参考)】
3J027FA23
3J027FA37
3J027GB03
3J027GC07
3J027GC08
3J027GC22
3J027GD04
3J027GD08
3J027GD12
3J027GE25
3J063AB14
3J063BB03
3J063CD09
3J063XD32
3J063XD42
3J063XE17
(57)【要約】
【課題】外歯歯車の耐久性を損なうことなく潤滑剤の漏出を抑制する。
【解決手段】起振体10Aと、起振体10Aにより撓み変形される外歯歯車11と、外歯歯車11と噛合う内歯歯車と、内歯歯車が設けられた内歯部材31を支持する主軸受38と、主軸受38よりも外部空間側に配置されたシール部材45と、を備えたカップ型またはシルクハット型の撓み噛合い式歯車装置1であって、主軸受38の内輪部材32は、主軸受38とシール部材45の間の第1空間S1と、主軸受38に対して第1空間S1よりも歯車装置内部側の第2空間S2とに連通する連通路39を有する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
起振体と、
前記起振体により撓み変形される外歯歯車と、
前記外歯歯車と噛合う内歯歯車と、
前記内歯歯車が設けられた内歯部材を支持する主軸受と、
前記主軸受よりも外部空間側に配置されたシール部材と、
を備えたカップ型またはシルクハット型の撓み噛合い式歯車装置であって、
前記主軸受の内輪部材は、前記主軸受と前記シール部材の間の第1空間と、前記主軸受に対して前記第1空間よりも前記歯車装置内部側の第2空間と、に連通する連通路を有する
撓み噛合い式歯車装置。
【請求項2】
前記第2空間は、前記外歯歯車と内歯歯車の噛合い部が存在する空間である
請求項1に記載の撓み噛合い式歯車装置。
【請求項3】
前記連通路は、径方向に沿った貫通孔である
請求項1又は2に記載の撓み噛合い式歯車装置。
【請求項4】
前記内輪部材は、前記連通路に潤滑剤を案内する案内部を有する
請求項1から3のいずれか一項に記載の撓み噛合い式歯車装置。
【請求項5】
前記案内部は、第1凹部であり、前記連通路は、前記第1凹部の底面に開口している
請求項4に記載の撓み噛合い式歯車装置。
【請求項6】
前記第1凹部は、環状溝である
請求項5に記載の撓み噛合い式歯車装置。
【請求項7】
前記内輪部材は、第2凹部を有し、前記連通路は、前記第2凹部の底面に開口している
請求項1から6のいずれか一項に記載の撓み噛合い式歯車装置。
【請求項8】
前記第2凹部は、環状溝である
請求項7に記載の撓み噛合い式歯車装置。
【請求項9】
前記主軸受の外輪と内輪の間の径方向すき間は、転動体に隣接する第1すき間部と、当該第1すき間部よりも大きい第2すき間部を有し、
前記連通路は、前記第2すき間部に開口する
請求項1から8のいずれか一項に記載の撓み噛合い式歯車装置。
【請求項10】
前記連通路は、前記主軸受の転動体と前記シール部材の軸方向中央よりも前記シール部材寄りに設けられる
請求項1から9のいずれか一項に記載の撓み噛合い式歯車装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、撓み噛合い式歯車装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のシルクハット型やカップ型の撓み噛合い式歯車装置では、内歯歯車を支持する部材と外歯歯車を支持する部材とを相対回転可能な状態で支持する主軸受を備え、両歯車の噛合い部分が潤滑剤にて潤滑されている。
このような撓み噛合い式歯車装置では、外歯歯車の撓みに起因するポンプ効果により両歯車の噛合い部分から押し出される潤滑剤が、主軸受までの間の空間や隙間を通じて流通している。
この場合、両歯車の噛合い部分から主軸受の軌道溝に向かう潤滑剤が外部に漏出しないように、主軸受の近くには、オイルシールが設けられている。
しかしながら、潤滑剤が主軸受とオイルシールの間に溜まってしまうと、オイルシールから外部に潤滑剤の漏れが生じ易くなる。
このため、従来の撓み噛合い式歯車装置では、外歯歯車のダイヤフラムに流通孔を設け、別空間に潤滑剤を逃がす構造を採っていた(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記従来技術では、外歯歯車のダイヤフラムに流通孔を設けていることから、外歯歯車の強度低下によって耐久性の低下を生じるおそれがあった。
【0005】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたもので、外歯歯車の耐久性を損なうことなく潤滑剤の漏出を抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、
起振体と、
前記起振体により撓み変形される外歯歯車と、
前記外歯歯車と噛合う内歯歯車と、
前記内歯歯車が設けられた内歯部材を支持する主軸受と、
前記主軸受よりも外部空間側に配置されたシール部材と、
を備えたカップ型またはシルクハット型の撓み噛合い式歯車装置であって、
前記主軸受の内輪部材は、前記主軸受と前記シール部材の間の第1空間と、前記主軸受に対して前記第1空間よりも前記歯車装置内部側の第2空間と、に連通する連通路を有する構成とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、外歯歯車の耐久性を損なうことなく潤滑剤の漏出を抑制することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】第1実施形態に係る撓み噛合い式歯車装置を示す軸方向断面図である。
【
図4】案内部の他の例を示す内輪部材の拡大断面図である。
【
図5】第2実施形態に係る撓み噛合い式歯車装置を示す軸方向断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
[第1実施形態]
以下、本発明の第1実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。
【0010】
[撓み噛合い式歯車装置の構成]
図1は本発明に係る撓み噛合い式歯車装置1を示す軸方向断面図、
図2は後述する内輪部材32の周辺の軸方向断面図、
図3は内輪部材32を軸方向から見た図である。なお、
図1の断面図は、
図3に示したV-V線に沿った断面を示している。
これらの図に示すように、撓み噛合い式歯車装置1は、シルクハット型の撓み噛合い式歯車装置であり、起振体軸10、外歯歯車11、内歯部材31、内輪部材32、起振体軸受12、ケーシング33、第1カバー34、第2カバー35、主軸受38を備える。
【0011】
[起振体軸]
起振体軸10は、回転軸O1を中心に回転する中空筒状の軸であり、回転軸O1に垂直な断面の外形が非円形(例えば楕円状)の起振体10Aと、起振体10Aの軸方向の両側に設けられた軸部10B、10Cとを有する。楕円状は、幾何学的に厳密な楕円に限定されるものではなく、略楕円を含む。軸部10B、10Cは、回転軸O1に垂直な断面の
外形が円形の軸である。
なお、以下の説明では、回転軸O1に沿った方向を「軸方向」、回転軸O1に垂直な方向を「径方向」、回転軸O1を中心とする回転方向を「周方向」という。また、軸方向のうち、外部の被駆動部材と連結されて減速された運動を当該被駆動部材に出力する側(図中の左側)を「出力側」といい、出力側とは反対側(図中の右側)を「反出力側」という。
【0012】
[起振体軸受]
起振体軸受12は、例えば転がり玉軸受であり、起振体10Aと外歯歯車11との間に配置される。起振体10Aと外歯歯車11とは、起振体軸受12を介して相対回転可能となっている。
起振体軸受12は、外歯歯車11に内嵌された外輪121と、起振体10Aに外嵌された内輪122と、複数の転動体123と、複数の転動体123を保持する保持器124とを有する。
複数の転動体123は、外輪121と内輪122との間で周方向に並んで配置され、外輪121の内周面と内輪122の外周面とを転走面としている。
【0013】
外輪121は、半径方向に撓み可能な可撓性を有しており、起振体10Aによって楕円状に撓められる。そして、起振体軸10の回転により起振体10Aの楕円の長軸の両端部が周回すると、外輪121も、楕円の長軸の両端部の位置が周回するように撓みを生じる。なお、内輪122は、剛性を有し、起振体10Aの外周に嵌合固定される。
【0014】
なお、起振体軸受12は、転がり玉軸受に限らず、他の軸受、例えば、ニードルやコロを転動体とする軸受等を利用しても良い。
【0015】
[外歯歯車]
外歯歯車11は、半径方向に撓み可能な円筒部111と、この円筒部111の軸方向一端部(例えば、出力側端部)から半径方向外側に延出された円環平板状のダイヤフラム112と、ダイヤフラム112の外縁からさらに半径方向外側に延出された円環平板状の取付板113と、円筒部111の軸方向他端部(例えば、反出力側端部)の外周面に形成された外歯114とを備えている。
外歯歯車11は、上記円筒部111、ダイヤフラム112、取付板113及び外歯114が略シルクハット形状となるように一体的に形成されている。
【0016】
円筒部111は、可撓性を有するとともに回転軸O1を中心とする円筒状である。軸方向について、円筒部111の外歯114の形成位置の内側には、起振体軸10の起振体10A及び起振体軸受12が位置しており、起振体10Aによって楕円状に撓められる。起振体軸10の回転により起振体10Aの楕円の長軸の両端部が周回すると、円筒部111の外歯114も、楕円の長軸の両端部の位置が周回するように撓みを生じる。この楕円の長軸の両端部に相当する位置において、外歯114が後述する内歯部材31の内歯314にかみ合っている。
【0017】
ダイヤフラム112は、フランジ状を呈しており、円筒部111と同程度の厚さで形成されている。
ダイヤフラム112の外周に設けられた取付板113は、ダイヤフラム112よりも肉厚であり、剛性を有する。
取付板113は、全周に渡ってケーシング33と第2カバー35とに挟持される。ケーシング33、取付板113及び第2カバー35の各々には、軸方向に一続きに延びるボルト連結用穴が設けられている。撓み噛合い式歯車装置1が装置外部の被駆動部材(図示略)と接続される際、ケーシング33、取付板113及び第2カバー35は、各々のボルト連結用穴を介して連結部材である図示しないボルトにより被駆動部材に共締めにより一体的に連結される。これらボルト連結用穴は、周方向の複数の箇所に設けられている。
【0018】
[ケーシング]
ケーシング33は、略円筒状であって、内歯部材31及び内輪部材32を径方向外側から覆う。ケーシング33は、軸方向における一方(出力側)に内周が縮径した厚肉部331を有し、軸方向における他方(反出力側)に内周が厚肉部331より拡径した薄肉部332を有する。厚肉部331と薄肉部332の外径は等しい。
ケーシング33は、厚肉部331の内周部が主軸受38の外輪となっており、主軸受38の転動体381が転走する転走溝が形成されている。
【0019】
[内歯部材]
内歯部材31は、回転軸O1を中心とする円環状であって、内周に内歯314が形成され、外歯歯車11の外歯114に噛合する。
内歯部材31は、内輪部材32の反出力側に配置され、内歯部材31の反出力側には、さらに、前述した第1カバー34が配置される。
第1カバー34、内歯部材31、内輪部材32の各々には、軸方向に一続きに延びるボルト連結用穴が設けられ、ボルト51によって一体的に連結される。ボルト連結用穴は、周方向に複数形成されている。
【0020】
また、第1カバー34、内歯部材31及び内輪部材32には、撓み噛合い式歯車装置1を装置外部の支持部材(図示略)と接続するためのボルト連結用穴も軸方向に一続きに設けられている。
支持部材と接続する際には、図示しないボルトにより、第1カバー34、内歯部材31及び内輪部材32は、支持部材に共締めにより連結される。このボルト連結用穴も、周方向に複数形成されている。
【0021】
[内輪部材]
内輪部材32は、回転軸O1を中心とする短尺の円筒状であって、軸方向における出力側の外周部は、主軸受38の内輪となっており、主軸受38の転動体381の転走面が形成され、転送溝が形成されている。
【0022】
[主軸受]
主軸受38は、例えば、クロスローラベアリングからなり、前述したように、ケーシング33の厚肉部331の内周部が外輪、内輪部材32の外周部が内輪となり、これらの間に転動体381を有する。
前述したように、ケーシング33、外歯歯車11及び第2カバー35は一体的に連結され、第1カバー34、内歯部材31及び内輪部材32も一体的に連結される。主軸受38は、これら二組の連結体の間にあって、回転軸O1を中心とした相互の回転を可能としている。つまり、主軸受38は、内輪部材32を介して内歯部材31を回転自在に支持している。
なお、主軸受38は、クロスローラベアリングに限らず、他の軸受から構成してもよい。
【0023】
[第1カバー及び第2カバー]
第1カバー34は、ボルト51により内歯部材31及び内輪部材32と連結され、内歯部材31を軸方向の反出力側から覆う。第1カバー34と起振体軸10の軸部10Bとの間には軸受36(例えば玉軸受)が設けられている。第1カバー34は、当該軸受36を介して起振体軸10を回転軸O1中心で回転自在に支持している。
【0024】
第2カバー35は、図示しないボルトによりケーシング33及び外歯歯車11と連結された状態で、ケーシング33及び外歯歯車11を軸方向の出力側から覆う。第2カバー35と起振体軸10の軸部10Cとの間には軸受37(例えば、玉軸受)が設けられている。第2カバー35は、当該軸受37を介して起振体軸10を回転軸O1中心で回転自在に支持している。
【0025】
[撓み噛合い式歯車装置の内部の潤滑剤の移動について]
撓み噛合い式歯車装置1は、潤滑剤(例えば、グリース)をシールするシール部材としてオイルシール43,44,45及びOリング46,47,48,49を備える。
オイルシール43は、軸受36よりも軸方向の反出力側であって、起振体軸10の軸部10Bと第1カバー34との間に配置され、反出力側への潤滑剤の流出を抑制する。
オイルシール44は、軸受37よりも軸方向の出力側であって、起振体軸10の軸部10Cと第2カバー35との間に配置され、出力側への潤滑剤の流出を抑制する。
オイルシール45は、ケーシング33と内歯部材31との間に配置され、反出力側への潤滑剤の流出を抑制する。なお、オイルシール45は、主軸受38の内輪部材32と一体回転する部材と、外輪側の部材(外輪側の部材と一体的に回転する部材を含む)との間であって、主軸受38よりも外部空間側に配置されていればよく、内周側部材および外周側部材は特に限定されてない。
Oリング46,47,48,49は、それぞれ、内歯部材31と第1カバー34との間、内歯部材31と内輪部材32との間、ケーシング33と外歯歯車11との間、第2カバー35と外歯歯車11との間にそれぞれ設けられ、これらの間で潤滑剤が流出することを抑制する。
【0026】
撓み噛合い式歯車装置1の内側には、上記オイルシール43,44,45及びOリング46,47,48,49によって潤滑剤がシールされた密閉空間が形成される。当該密閉空間は、第1~第3空間S1~S3に区画される。なお、第1~第3空間S1~S3の間での潤滑剤の移動は可能である。
【0027】
第1空間S1は、径方向について内歯部材31及び内輪部材32とケーシング33の間であって、軸方向について主軸受38とオイルシール45の間となる領域に形成される。オイルシール45は、第1空間S1と外部空間の境界に位置するので、「主軸受よりも外部空間側に配置されたシール部材」に相当する。
内輪部材32とケーシング33の間には、主軸受38の転動体381よりも反出力側に第1すき間部n1と第2すき間部n2が存在し、第1空間S1はこれらを含んでいる。
【0028】
第1すき間部n1は、内輪部材32とケーシング33の厚肉部331との間であって、転動体381の反出力側に隣接している。
第2すき間部n2は、内輪部材32とケーシング33の薄肉部332との間であって、第1すき間部n1とオイルシール45との間に位置する。
第1すき間部n1と第2すき間部n2は、いずれも、回転軸O1を中心として全周に渡って形成されている。
また、第1すき間部n1は、第2すき間部n2に比して、径方向の幅が狭くなっている。
【0029】
第2空間S2は、外歯114と内歯314の噛合い部を含み、内歯部材31及び内輪部材32と外歯歯車11との間となる領域に形成される。
撓み噛合い式歯車装置1において、外歯114と内歯314の噛合い部に供給された潤滑剤が各オイルシール43~45に到達するまでの移動経路における噛合い部に近い方を「歯車装置内部側」と定義する。
上記定義に従う場合、第2空間S2は、「前記主軸受に対して前記第1空間よりも歯車装置内部側」に位置しているといえる。
【0030】
また、第2空間S2は、内輪部材32の内周と外歯歯車11の円筒部111の外周との間に位置する第3すき間部n3と、内輪部材32の出力側の端面と外歯歯車11のダイヤフラム112の間に位置する第4すき間部n4とを有する。
【0031】
第3すき間部n3は、外歯114と内歯314の噛合い部に対して出力側から隣接している。内輪部材32の内周は、反出力側(噛合い部側)が出力側よりも拡径しており、第3すき間部n3は、噛合い部側端部の径方向の幅が広くなっている。
第4すき間部n4は、第3すき間部n3の出力側の端部から主軸受38の転動体381の出力側に連通している。
第3すき間部n3と第4すき間部n4は、いずれも、回転軸O1を中心として全周に渡って形成されている。
【0032】
第3空間S3は、起振体軸10と外歯歯車11の円筒部111との間となる領域と、外歯歯車11のダイヤフラム112と第2カバー35との間となる領域を有する。これらの領域は、いずれも、回転軸O1を中心として全周に渡って形成されている。
第3空間S3内には、軸受36,37及び起振体軸受12が配置されている。
【0033】
潤滑剤は、主に、外歯114と内歯314の噛合い部と軸受36,37、起振体軸受12及び主軸受38に供給される。
この場合、外歯114と内歯314の噛合い部に供給された潤滑剤は、撓みを生じる外歯114のポンプ効果により噛合い部の外側に移動が生じ易い。
噛合い部から第2空間S2側に移動した潤滑剤は、第3すき間部n3から第4すき間部n4を経て主軸受38の転動体381の出力側のすき間に到達し、さらに、転動体381を通過して第1空間S1に到達する。
第1空間S1に到達した潤滑剤が、仮に、これより先の移動経路が存在しない場合には、第1空間S1内に溜まり、オイルシール45から外部空間に漏出するおそれが生じる。
【0034】
そこで、撓み噛合い式歯車装置1は、内輪部材32に、第1空間S1と第2空間S2とに連通する連通路39を設けている。
図2に示すように、この連通路39は、内輪部材32の内周から外周にかけて径方向に沿って貫通した貫通孔であり、
図3に示すように、周方向について均一間隔で四つ形成されている。なお、連通路39の個数は、任意であり、適宜、増減可能である。
【0035】
軸方向における各連通路39の配置は、主軸受38の転動体381とオイルシール45の軸方向中央よりもオイルシール45寄りとなっている。より詳細には、転動体381の軸方向における反出力側端部から連通路39の中心位置までの距離をl1、オイルシール45の軸方向における出力側端部から連通路39の中心位置までの距離をl2とした場合、連通路39は、l1>l2となるように軸方向の配置が設定されている。
また、各連通路39は、径方向における外側の端部が第2すき間部n2に臨む配置となっている。
【0036】
転動体381の近くでは、内輪となる内輪部材32と外輪となるケーシング33の厚肉部331との相対的な回転により潤滑剤が撹拌されて流動状態にあるので、連通路39に潤滑剤が入りにくく、当該連通路39を通過してオイルシール45に到達し得る。
このため、連通路39を主軸受38から離れて(オイルシール45寄りに)配置することで、流動が収まった潤滑剤を効果的に連通路39に導くことができる。
また、潤滑剤は、幅の狭い第1すき間部n1よりも幅の広い第2すき間部n2の方が移動速度が低減するので、第2すき間部n2に臨むように連通路39を配置とすることにより、潤滑剤をより効果的に連通路39に導くことが可能である。
【0037】
また、内輪部材32の外周面上であって、各連通路39の径方向外側の端部には、当該各連通路39に潤滑剤を案内する案内部としての第1凹部391が形成されている。さらに、内輪部材32の内周面上であって、各連通路39の径方向内側の端部には、第2凹部392が形成されている。
第1凹部391は、内輪部材32の外周面上を全周に渡って形成された環状溝である。第2凹部392は、内輪部材32の内周面上を全周に渡って形成された環状溝である。
各連通路39の径方向外側の端部は、第1凹部391の溝内底面において開口し、各連通路39の径方向内側の端部は、第2凹部392の溝内底面において開口している。
第1凹部391及び第2凹部392は、軸方向の幅が、連通路39の内径よりも広く設定されている。
【0038】
[撓み噛合い式歯車装置の動作]
続いて、撓み噛合い式歯車装置1の減速動作について説明する。
ここでは、被駆動部材(図示略)がケーシング33、外歯歯車11及び第2カバー35に連結され、支持部材(図示略)が第1カバー34、内輪部材32及び内歯部材31に連結され、支持部材に対して被駆動部材が出力側となって減速動作を行う場合を例示する。
【0039】
モータ等の駆動源により起振体軸10の回転駆動が行われると、起振体10Aの運動が起振体軸受12を介して外歯歯車11に伝わる。このとき、外歯歯車11の外歯114は、起振体10Aの外周面に沿った形状に規制され、軸方向から見て、長軸部分と短軸部分とを有する楕円形状に撓んでいる。さらに、外歯114は、長軸部分に対応する位置で、支持部材によって固定的に支持された内歯部材31の内歯314と噛合っている。このため、外歯歯車11は起振体10Aと同じ回転速度で回転することはなく、外歯114の内側で起振体10Aが相対的に回転する。そして、この相対的な回転に伴って、外歯114は長軸部分に対応する位置と短軸部分に対応する位置とが周方向に移動するように撓み変形する。この変形の周期は、起振体軸10の回転周期に比例する。
【0040】
外歯114が撓み変形する際、その長軸部分に対応する位置が移動することで、外歯114と内歯314との噛合う位置が回転方向に変化する。ここで、例えば、外歯114の歯数が100で、内歯314の歯数が102だとすると、噛合う位置が一周するごとに、外歯114と内歯314との噛合う歯がずれていき、これにより外歯歯車11が回転(自転)する。上記の歯数であれば、起振体軸10の回転運動は減速比100:2で減速されて外歯歯車11に伝達される。この場合、減速比は「50」となる。
【0041】
一方、外歯歯車11は、ケーシング33及び第2カバー35と共に被駆動部材に連結されているため、起振体軸10の回転運動が減速比100:2で被駆動部材に出力される。
【0042】
一方、撓み噛合い式歯車装置1内において、外歯114と内歯314との噛合い部に供給された潤滑剤は、上記減速回転の伝達動作に伴い、噛合い部からポンプ効果により移動を生じる。
上記噛合い部から第2空間S2に移動した潤滑剤は、主軸受38に到達し、さらに、転動体381を通過して第1空間S1に到達する。
潤滑剤は、第1空間S1の第1すき間部n1から第2すき間部n2に移動すると、環状溝からなる第1凹部391内に侵入する。第1凹部391の溝内底面には、複数箇所に連通路39の一端部が開口しているので、第1凹部391内の潤滑剤は、各連通路39内に導かれ、第2空間S2に戻される。
第2空間S2に戻された潤滑剤は、その一部が、再び、外歯114と内歯314との噛合い部に供給されて、潤滑を行い、また、他の一部の潤滑剤は、第2空間S2-第1空間S1-連通路39-第2空間S2へと移動して循環する。
【0043】
[第1実施形態の技術的効果]
上記撓み噛合い式歯車装置1は、主軸受38とオイルシール45の間の第1空間S1と主軸受38に対して第1空間S1よりも歯車装置内部側の第2空間S2とに連通する連通路39を有している。
このため、外歯114と内歯314との噛合い部に供給された潤滑剤が第2空間S2に移動し、さらに、主軸受38を通じて第1空間S1に到達した場合、連通路39を通じて、再び、第2空間S2に戻すことができる。
従って、第1空間S1内に潤滑剤が増加して、オイルシール45から装置外部に漏出することを効果的に抑制することが可能となる。
特に、連通路39を径方向に沿った貫通孔で構成したので、第1空間S1から第2空間S2への経路長の短縮化を図ることができ、潤滑剤の移動をより効果的に行うことが可能となる。
また、従来のような外歯歯車に貫通孔を設ける構造ではないので、外歯歯車11の耐久性の低下を回避し、撓み噛合い式歯車装置1の長寿命化、メンテナンス性の向上を図ることが可能となる。
【0044】
また、第2空間S2が、外歯114と内歯314の噛合い部が存在する空間である場合、噛合い部に供給された潤滑剤が、第2空間S2を通じて第1空間S1に移動を生じるが、連通路39が潤滑剤を第2空間S2に戻すので、潤滑剤の循環経路が構成され、オイルシール45からの潤滑剤の漏出をより効果的に抑制することが可能となる。
さらに、第2空間S2に噛合い部が存在する場合、循環して戻された潤滑剤を噛合い部に再び供給して潤滑を行うことが可能となり、潤滑剤の消費を低減して、装置の長寿命化或いはメンテナンス性の向上を図ることが可能となる。
【0045】
また、内輪部材32は、連通路39に潤滑剤を案内する案内部としての第1凹部391を有しているので、潤滑剤を効果的に連通路39に導くことができ、潤滑剤を効果的に移動させて、潤滑剤の漏出をより効果的に抑制することが可能となる。
また、連通路39は、第1凹部391の底面に開口しているので、第1凹部391に入った潤滑剤を効果的に連通路39に導くことが可能である。
さらに、第1凹部391が環状溝であるため、内輪部材32の広範囲で潤滑剤を回収して、連通路39に導くことが出来るので、さらに効果的に潤滑剤の漏出を抑制することが可能となる。
【0046】
また、内輪部材32は、第2凹部392を有し、連通路39は、第2凹部392の底面に開口しているため、第2空間S2に戻された潤滑剤を排出しやすく、また、広範囲に供給することができる。
特に、第2凹部392が環状溝である場合には、内輪部材32の全周に渡るように潤滑剤を広範囲に供給することができる。
【0047】
また、主軸受38の外輪と内輪の間の径方向すき間に相当する第1空間S1は、転動体381に隣接する第1すき間部n1と、当該第1すき間部n1よりも大きい第2すき間部n2とを有し、連通路39は、第2すき間部n2に開口している。
前述したように、幅の広い第2すき間部n2の方が潤滑剤の移動速度が低減するので、第2すき間部n2に連通路39を配置とすることにより、潤滑剤をより効果的に連通路39に導くことが可能となる。
【0048】
また、連通路39は、主軸受38の転動体381とオイルシール45の軸方向中央よりもオイルシール45寄りに設けられている。このため、転動体381の近くで内輪部材32と厚肉部331との相対的な回転により撹拌されて流動する潤滑剤ではなく、そこから離隔して流動が収まった状態の潤滑剤を捉えることができ、潤滑剤をより効果的に連通路39に導くことが可能となる。
【0049】
[その他]
なお、上記撓み噛合い式歯車装置1において、第1カバー34,内歯部材31及び内輪部材32が支持部材に固定され、ケーシング33、外歯歯車11及び第2カバー35が被駆動部材に連結され減速動作を行う場合を例示したが、ケーシング33、外歯歯車11及び第2カバー35が支持部材に固定され、第1カバー34,内歯部材31及び内輪部材32が被駆動部材に連結され減速動作を行う構成としても良い。
【0050】
また、前述した案内部は、環状溝からなる第1凹部391である場合を例示したが、
図4に示すように、案内部は、内輪部材32の外周であって、連通路39よりも反出力側において、潤滑剤の反出力側への移動を抑制する壁391aによって構成しても良い。壁391aは、内輪部材32の外周の全周に形成しても良い。この場合、壁391aによってせき止められた潤滑剤を当該壁391aの出力側近傍に設けられた連通路39に効果的に導くことができる。
【0051】
[第2実施形態]
以下、本発明の第2実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。
【0052】
[撓み噛合い式歯車装置の構成]
図5は本発明に係る撓み噛合い式歯車装置1Aを示す軸方向断面図、
図6は後述する内輪部材32Aの軸方向断面図、
図7は内輪部材32Aを軸方向から見た図である。なお、
図5の断面図は、
図7に示したU-U線に沿った断面を示している。
これらの図に示すように、撓み噛合い式歯車装置1Aは、カップ型の撓み噛合い式歯車装置であり、起振体101A、外歯歯車11A、内歯部材31A、内輪部材32A、起振体軸受12、カバー34A、主軸受38Aを備える。
【0053】
[起振体]
起振体101Aは、回転軸O1を中心に回転する中空筒状の軸であり、回転軸O1に垂直な断面の外形が前述した起振体10Aと同じ非円形となっている。
なお、この撓み噛合い式歯車装置1Aの説明も、回転軸O1に沿った方向を「軸方向」、回転軸O1に垂直な方向を「径方向」、回転軸O1を中心とする回転方向を「周方向」、という。また、軸方向のうち、外部の被駆動部材と連結されて減速された運動を当該被駆動部材に出力する側(図中の左側)を「出力側」といい、出力側とは反対側(図中の右側)を「反出力側」という。
【0054】
起振体軸受12は、起振体101Aと外歯歯車11Aとの間に配置される。起振体軸受12の構成は、前述した起振体軸受12と同一なので、説明は省略する。
【0055】
[外歯歯車]
外歯歯車11Aは、半径方向に撓み可能な円筒部111Aと、この円筒部111Aの軸方向一端部(例えば、出力側端部)から半径方向内側に延出された円環平板状のダイヤフラム112Aと、ダイヤフラム112Aの内縁からさらに半径方向内側に延出された円環平板状の取付板113Aと、円筒部111Aの軸方向他端部(例えば、反出力側端部)の外周面に形成された外歯114Aとを備えている。
外歯歯車11Aは、上記円筒部111A、ダイヤフラム112A、取付板113A及び外歯114Aが略カップ形状となるように一体的に形成されている。
【0056】
円筒部111Aは、可撓性を有するとともに回転軸O1を中心とする円筒状である。軸方向について、円筒部111Aの外歯114Aの形成位置の内側には、起振体101A及び起振体軸受12が位置している。
外歯歯車11Aの外歯114Aも、起振体101Aによって楕円状に撓められて内歯部材31Aの内歯314Aに噛合する。
【0057】
ダイヤフラム112Aは、略円形平板状であり、その内周に設けられた取付板113Aは、ダイヤフラム112Aよりも肉厚であって剛性を有する。
取付板113Aは、ダイヤフラム112Aよりも出力側に突出しており、内輪部材32Aの反出力側の端面に形成された円形の凹部321Aに嵌合し、複数のボルト52A(一つのみ図示)により内輪部材32Aに固定される。
【0058】
[内歯部材]
内歯部材31Aは、その出力側の端部にボルト51Aによって取り付けられたカバー34Aと一体となって回転軸O1を中心とする略円筒状に構成されている。
内歯部材31Aの反出力側端部における外周には、フランジ311Aが設けられている。フランジ311Aには、軸方向に沿って貫通した取付孔が周方向に沿って複数設けられている。これらの取付孔は、例えば、撓み噛合い式歯車装置1Aを支持部材に連結する場合に使用される。
【0059】
内歯部材31Aの反出力側端部における内周には、内歯314Aが形成され、外歯歯車11Aの外歯114Aに噛合する。
また、内歯部材31Aの出力側端部における内周部とカバー34Aの内周部は、主軸受38Aの外輪となっている。内歯部材31Aの出力側端部における内周部には、主軸受38Aの転動体381Aが転走する転走溝の反出力側の半分が形成されており、カバー34Aの内周部には、主軸受38Aの転動体381Aが転走する転走溝の出力側の半分が形成されている。
【0060】
[内輪部材]
内輪部材32Aは、短尺の円筒部材であり、一体的に連結された内歯部材31A及びカバー34Aの出力側端部の内側に配置されている。内輪部材32Aと、一体的に連結された内歯部材31A及びカバー34Aとの間には、主軸受38Aが設けられ、回転軸O1を中心として互いに回転可能となっている。
また、内輪部材32Aの反出力側端部における外周部は、主軸受38Aの内輪となっており、主軸受38Aの転動体381Aの転走面が形成され,転送溝が形成されている。
【0061】
[主軸受]
主軸受38Aは、例えば、クロスローラベアリングからなり、前述したように、内歯部材31A及びカバー34Aの内周部が外輪、内輪部材32Aの外周部が内輪となり、これらの間に転動体381Aを有する。
そして、主軸受38Aは、内歯部材31A及びカバー34Aの連結体に対する内輪部材32Aの回転軸O1回りの相対的な回転を可能としている。つまり、主軸受38Aは、内歯部材31Aを回転自在に支持している。
なお、主軸受38Aは、クロスローラベアリングに限らず、他の軸受から構成してもよい。
【0062】
[撓み噛合い式歯車装置の内部の潤滑剤の移動について]
撓み噛合い式歯車装置1Aは、内歯部材31Aに図示しない支持部材が連結された状態で、内歯部材31Aよりも反出力側については、潤滑剤の漏出が抑制されるようにシールされる。
さらに、内輪部材32Aの中央開口部には、キャップ43Aが取り付けられ、中央開口部からの潤滑剤がシールされている。
また、カバー34Aの出力側端部の内周と内輪部材32Aの出力側端部の外周との間には、オイルシール45Aが設けられ、潤滑剤がシールされている。
【0063】
撓み噛合い式歯車装置1Aの内側には、上記各構成によって潤滑剤がシールされた密閉空間が形成される。当該密閉空間は、第1~第3空間S11~S13に区画される。なお、第1~第3空間S11~S13の間での潤滑剤の移動は可能である。
【0064】
第1空間S11は、径方向について内輪部材32Aとカバー34Aの間であって、軸方向について主軸受38Aの転動体381Aとオイルシール45Aの間となる領域に形成される。
【0065】
第2空間S12は、外歯114Aと内歯314Aの噛合い部を含み、内歯部材31Aと外歯歯車11Aとの間となる領域に形成される。
第2空間S12は、「前記主軸受に対して前記第1空間よりも歯車装置内部側」に位置している。
【0066】
第3空間S13は、外歯歯車11A及び内輪部材32Aの内側領域を有する。第3空間S13内には、起振体軸受12や起振体101Aが配置されている。
【0067】
そして、内輪部材32Aには、当該内輪部材32Aの外周であって第1空間S11に直面する位置から当該内輪部材32Aの反出力側端面における第2空間S12に直面する位置に貫通する連通路39Aが形成されている。
図7に示すように、この連通路39Aは、周方向について均一間隔で四つ形成されている。なお、連通路39Aの個数は、任意であり、適宜、増減可能である。
【0068】
また、各連通路39Aの第1空間S11に直面する端部には、当該各連通路39Aに潤滑剤を案内する案内部としての第1凹部391Aが形成されている。
また、各連通路39Aの第2空間S12に直面する端部には、第2凹部392Aが形成されている。
第1凹部391A及び第2凹部392Aは、いずれも、連通路39Aよりも幾分内径が大きな円形の凹部である。なお、第1凹部391Aと第2凹部392Aは、それぞれ、回転軸O1を中心とする円周溝としても良い。
【0069】
[撓み噛合い式歯車装置の動作]
被駆動部材(図示略)が内輪部材32Aに連結され、支持部材(図示略)が内歯部材31Aに連結され、支持部材に対して被駆動部材が出力側となって減速動作を行う場合を例示する。
モータ等の駆動源により起振体101Aの回転駆動が行われると、起振体101Aの運動が起振体軸受12を介して外歯歯車11Aに伝わり、外歯114Aは、起振体101Aの外周面形状における長軸部分に対応する位置で、内歯314Aに噛合する。
外歯114Aと内歯314Aの噛み合い位置が起振体101Aの回転方向に移動すると、外歯114Aと内歯314Aの歯数差によって定まる減速比に従って、外歯歯車11Aが回転し、起振体101Aの回転運動が減速比で被駆動部材に出力される。
【0070】
一方、撓み噛合い式歯車装置1A内において、外歯114Aと内歯314Aとの噛合い部に供給された潤滑剤は、上記減速回転の伝達動作に伴い、噛合い部からポンプ効果により移動を生じる。
上記噛合い部から第2空間S12に移動した潤滑剤は、主軸受38Aに到達し、さらに、転動体381Aを通過して第1空間S11に到達する。
そして、潤滑剤は、各連通路39Aの第1凹部391A内に侵入し、各連通路39Aを通じて第2空間S12に戻される。
【0071】
[第2実施形態の技術的効果]
上記撓み噛合い式歯車装置1Aは、主軸受38Aとオイルシール45Aの間の第1空間S11と主軸受38Aに対して第1空間S11よりも歯車装置内部側の第2空間S12とに連通する連通路39Aを有している。
このため、外歯114Aと内歯314Aとの噛合い部に供給された潤滑剤が第2空間S12に移動し、さらに、主軸受38Aを通じて第1空間S11に到達した場合、連通路39Aを通じて、再び、第2空間S2に戻すことができる。
従って、オイルシール45Aから装置外部に漏出することを効果的に抑制することが可能となる。
また、従来のような外歯歯車に貫通孔を設ける構造ではないので、外歯歯車11Aの耐久性の低下を回避し、撓み噛合い式歯車装置1Aの長寿命化、メンテナンス性の向上を図ることが可能となる。
【0072】
[その他]
なお、上記撓み噛合い式歯車装置1Aの場合も、内歯部材31Aが支持部材に固定され、内輪部材32Aが被駆動部材に連結され減速動作を行う場合を例示したが、内輪部材32Aが支持部材に固定され、内歯部材31Aが被駆動部材に連結され減速動作を行う構成としても良い。
【0073】
また、撓み噛合い式歯車装置1Aの内輪部材32Aの連通路39Aは、第1空間S11と第2空間S12とを連通する構成を例示したが、第1空間S11と第3空間S13とを連通する構成としても良い。
【0074】
以上、本発明の第1及び第2実施形態について説明したが、本発明は上記の実施形態に限られない。各実施の形態で示した細部は、発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。例えば、連通路39、39Aは、第1空間と第2空間に連通していれば、その形態は特に限定されず、例えば途中で蛇行するような形態でもよいし、案内部として第1凹部や第2凹部を備えなくてもよい。また、第2空間は、内歯歯車と外歯歯車の噛合い部が存在しない空間であってもよい。
【符号の説明】
【0075】
1,1A 撓み噛合い式歯車装置
10 起振体軸
10A,101A 起振体
11,11A 外歯歯車
111,111A円筒部
112,112A ダイヤフラム
113,113A 取付板
114,114A 外歯
12 起振体軸受
31,31A 内歯部材
314,314A 内歯
32,32A 内輪部材
321A 凹部
33 ケーシング
331 厚肉部
332 薄肉部
36,37 軸受
38,38A 主軸受
381,381A 転動体
39,39A 連通路
391 第1凹部(案内部)
392 第2凹部
391a 壁(案内部)
43,44,45,45A オイルシール(シール部材)
46,47,48,49 Oリング
O1 回転軸
n1 第1すき間部
n2 第2すき間部
n3 第3すき間部
n4 第4すき間部
S1,S11 第1空間
S2,S12 第2空間
S3,S13 第3空間