(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022105414
(43)【公開日】2022-07-14
(54)【発明の名称】芯鞘構造紡績糸、該紡績糸を用いた嵩高織編物、及びそれらの製造方法
(51)【国際特許分類】
D02G 3/36 20060101AFI20220707BHJP
D02G 3/04 20060101ALI20220707BHJP
D04B 1/14 20060101ALI20220707BHJP
D03D 15/40 20210101ALI20220707BHJP
D03D 15/47 20210101ALI20220707BHJP
【FI】
D02G3/36
D02G3/04
D04B1/14
D03D15/00 C
D03D15/00 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021000192
(22)【出願日】2021-01-04
(71)【出願人】
【識別番号】508179545
【氏名又は名称】東洋紡STC株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000004053
【氏名又は名称】日本エクスラン工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103816
【弁理士】
【氏名又は名称】風早 信昭
(74)【代理人】
【識別番号】100120927
【弁理士】
【氏名又は名称】浅野 典子
(72)【発明者】
【氏名】高橋 正彦
(72)【発明者】
【氏名】杉本 雅之
(72)【発明者】
【氏名】高田 聖子
(72)【発明者】
【氏名】安川 真一
【テーマコード(参考)】
4L002
4L036
4L048
【Fターム(参考)】
4L002AA02
4L002AA08
4L002AB01
4L002AB04
4L002AC02
4L002BA00
4L002DA01
4L002EA00
4L002EA01
4L002EA07
4L002FA01
4L002FA02
4L036MA04
4L036MA09
4L036MA35
4L036MA39
4L036PA31
4L036RA03
4L036RA24
4L048AA08
4L048AA16
4L048AA50
4L048AB01
4L048AB18
4L048AB19
4L048AC00
4L048AC11
4L048CA10
4L048CA13
4L048DA01
4L048EB05
(57)【要約】
【課題】嵩高性、保温性に優れながらも芯部の繊維が鞘部の表面にほとんど現れておらず、綺麗な外観を有する芯鞘構造紡績糸を提供する。
【解決手段】アクリル繊維Aを含有する芯部と繊維Bを含有する鞘部とから構成される芯鞘構造紡績糸において、前記紡績糸中のアクリル繊維Aの含有量が5~25質量%、繊維Bの含有量が75~95質量%であり、かつ前記紡績糸の断面において最外周に位置して前記紡績糸の側面の表面に露出している繊維の全本数のうちアクリル繊維Aの本数の割合が10%以下であることを特徴とする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アクリル繊維Aを含有する芯部と繊維Bを含有する鞘部とから構成される芯鞘構造紡績糸において、前記紡績糸中のアクリル繊維Aの含有量が5~25質量%、繊維Bの含有量が75~95質量%であり、かつ前記紡績糸の断面において最外周に位置して前記紡績糸の側面の表面に露出している繊維の全本数のうちアクリル繊維Aの本数の割合が10%以下であることを特徴とする芯鞘構造紡績糸。
【請求項2】
繊維Bが、有効繊維長31~46mmの木綿であることを特徴とする請求項1に記載の芯鞘構造紡績糸。
【請求項3】
繊維Bが、アクリル繊維Aとは異なるアクリル繊維であることを特徴とする請求項1に記載の芯鞘構造紡績糸。
【請求項4】
JIS-L1095:2010 9.14のB法に準拠して測定した嵩高性が、6.0~8.5cm3/gであることを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載の芯鞘構造紡績糸。
【請求項5】
請求項1~4のいずれかに記載の芯鞘構造紡績糸を含むことを特徴とする嵩高織編物。
【請求項6】
練条工程の最後のダブリングにおいて、沸水収縮率が15~45%である収縮性アクリル繊維aを含む1本のスライバーの周りに沸水吸収率が10%以下である低収縮性繊維bを含む複数本のスライバーを配置することを含む紡績工程によりアクリル混紡糸を得ること、及び前記アクリル混紡糸に収縮発現処理を施すことを含むことを特徴とする請求項1~4のいずれかに記載の芯鞘構造紡績糸の製造方法。
【請求項7】
練条工程の最後のダブリングを、沸水収縮率が15~45%である収縮性アクリル繊維aを含む1本のスライバーの周りに沸水吸収率が10%以下である低収縮性繊維bを含む複数本のスライバーを配置して実施することを含む紡績工程によりアクリル混紡糸を得ること、前記アクリル混紡糸を用いて織編物を作成すること、及び前記織編物に収縮発現処理を施すことを含むことを特徴とする請求項5に記載の嵩高織編物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、芯鞘構造紡績糸、該紡績糸を用いた嵩高織編物、及びそれらの製造方法に関する。特に、本発明は、芯部を構成する繊維が鞘部にほとんど含まれておらず、かつ、芯部が鞘部でほぼ覆われており、糸表面から芯部がほとんど視認されない芯鞘構造紡績糸に関する。
【背景技術】
【0002】
収縮性アクリル繊維と非収縮性繊維を含む糸は、収縮性アクリル繊維を収縮させることにより非収縮性繊維が混紡糸の表層部に浮き出して嵩高性を発現できることから、編物等に軽量感、膨らみ感、保温性を与えることなどを目的として多用されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、異なる単繊維伸度を有し、沸水収縮率の差が10%以上である2種類のアクリロニトリル系繊維を含有する紡績糸が開示されている。かかる紡績糸は、軽量嵩高感と抗ピル性を両立することができるとされている。
【0004】
特許文献2には、沸水収縮率が15%以上で、単繊維繊度が0.7~2.2dtexの高収縮性アクリル繊維30~50質量%と、沸水収縮率10%以下の低収縮繊維50~70質量%からなる紡績糸を用いた編地が開示されている。かかる編地は、優れた風合いを有し、寸法安定性に優れ、且つ軽量で嵩高であり、保温性に優れたものであるとされている。
【0005】
特許文献3には、天然繊維と、沸水収縮率が20~40%、繊維断面における扁平度が3~8の熱収縮性扁平繊維とを質量比50/50~80/20で混紡し、単糸撚係数が60~85の紡績糸とした後、熱処理して該紡績糸中の熱収縮性扁平繊維を熱収縮させて得られる紡績糸が開示されている。かかる紡績糸は、手触り感、肌触り感がよく、嵩高で弾力感に富むものとされている。
【0006】
一方、芯部の短繊維を鞘部の短繊維で覆った芯鞘型複合紡績糸が提案されている。例えば特許文献4には、少なくとも全芳香族ポリアミド短繊維を含む鞘成分が50~70重量%で構成され、少なくともポリエステル短繊維を含む芯成分が30~50重量%で構成されてなる芯鞘型複合紡績糸が開示されている。このような従来の芯鞘型複合紡績糸は、「芯鞘」と表現しているが、実際には芯成分が紡績糸の表面に多く露出しており、鞘繊維で芯繊維を完全に覆い隠すようなものではなかった。
【0007】
このような芯鞘型複合繊維の鞘の被覆性を高めるための提案として、特許文献5には繊維束を、第1の短繊維束と第2の短繊維束とを用いて、二段階にて被覆する方法が開示されている。詳細には、第1の短繊維束をドラフトして形成されたフリースの中央に芯になる繊維束を重ね合わせてなる繊維束Aと、第2の短繊維束をドラフトしてなる繊維束Bとを、所定の間隔をおいて並走させ、繊維束Bで繊維束Aを包み込むように、両者を合流させて実撚りをかける製造方法である。このようにすると鞘繊維の被覆度は各段に上がるが、鞘になる2種類の短繊維束を用いる必要があり、製造工程が複雑になり、出来上がった紡績糸も芯繊維の混率が低く、制限されたものとなっていた。
【0008】
上述の特許文献1~5の紡績糸においては、嵩高性、軽量性、保温性、抗ピル性、及びその他の機能性などの向上に着目し、一定の効果は挙げているものの、芯部を構成する繊維の一部が鞘部に混入して、少なからず芯部を構成する繊維が糸表面に現れ、外観に劣る構造を有するものであったり、外観の問題がなかった場合には製造方法や芯繊維の混率に制約があった。外観に劣る構造が有用である用途も存在しているが、用途によっては、抗ピル性などの鞘部を構成する繊維の機能性の特徴が減殺されたり、鞘部が木綿などで芯部と異なる素材の場合は、鞘部と芯部の染色差が目立ちやすく、色合わせが難しいなどの問題が存在していた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】国際公開第2018/066481号公報
【特許文献2】特開2014-101601号公報
【特許文献3】特開2012-167386号公報
【特許文献4】特開2000-256928号公報
【特許文献5】特開2002-61039号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、かかる従来技術の問題を解消するためになされたものであり、その目的は、嵩高性、保温性に優れながらも綺麗な外観を有し、鞘部を構成する繊維の機能性を有効に利用でき、かつ鞘部と芯部の色合わせが容易である芯鞘構造紡績糸、該紡績糸を含む嵩高織編物、及びこれらの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上述の目的を達成するために鋭意検討を進めた結果、収縮性アクリル繊維と低収縮性繊維を特定の割合で含むアクリル混紡糸を特定の紡績工程により得た後に収縮発現処理を施すことにより、芯部の繊維が鞘部の表面にほとんど現れない芯鞘構造紡績糸を作成することによって、芯部のアクリル繊維に起因して嵩高性、保温性に優れながらも綺麗な外観を有し、鞘部の機能性を十分に発揮でき、芯部の繊維と鞘部の繊維の色合わせを容易に行なえる芯鞘構造紡績糸を提供できることを見出し、本発明の完成に至った。
【0012】
即ち、本発明は、以下の(1)~(7)の構成を有するものである。
(1)アクリル繊維Aを含有する芯部と繊維Bを含有する鞘部とから構成される芯鞘構造紡績糸において、前記紡績糸中のアクリル繊維Aの含有量が5~25質量%、繊維Bの含有量が75~95質量%であり、かつ前記紡績糸の断面において最外周に位置して前記紡績糸の側面の表面に露出している繊維の全本数のうちアクリル繊維Aの本数の割合が10%以下であることを特徴とする芯鞘構造紡績糸。
(2)繊維Bが、有効繊維長31~46mmの木綿であることを特徴とする(1)に記載の芯鞘構造紡績糸。
(3)繊維Bが、アクリル繊維Aとは異なるアクリル繊維であることを特徴とする(1)に記載の芯鞘構造紡績糸。
(4)JIS-L1095:2010 9.14のB法に準拠して測定した嵩高性が、6.0~8.5cm3/gであることを特徴とする(1)~(3)のいずれかに記載の芯鞘構造紡績糸。
(5)(1)~(4)のいずれかに記載の芯鞘構造紡績糸を含むことを特徴とする嵩高織編物。
(6)練条工程の最後のダブリングにおいて、沸水収縮率が15~45%である収縮性アクリル繊維aを含む1本のスライバーの周りに沸水吸収率が10%以下である低収縮性繊維bを含む複数本のスライバーを配置することを含む紡績工程によりアクリル混紡糸を得ること、及び前記アクリル混紡糸に収縮発現処理を施すことを含むことを特徴とする(1)~(4)のいずれかに記載の芯鞘構造紡績糸の製造方法。
(7)練条工程の最後のダブリングを、沸水収縮率が15~45%である収縮性アクリル繊維aを含む1本のスライバーの周りに沸水吸収率が10%以下である低収縮性繊維bを含む複数本のスライバーを配置して実施することを含む紡績工程によりアクリル混紡糸を得ること、前記アクリル混紡糸を用いて織編物を作成すること、及び前記織編物に収縮発現処理を施すことを含むことを特徴とする(5)に記載の嵩高織編物の製造方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明の芯鞘構造紡績糸は、芯部の繊維が鞘部の表面にほとんど現れていないという特徴を有するので、綺麗な外観を有し、鞘部の繊維の機能性の特徴が芯部の繊維の混入によって減殺されることがない、また、鞘部の繊維と芯部の繊維の染色性の差がある場合でも芯部の繊維と鞘部の繊維の色合わせの必要性が低い。このため、本発明の芯鞘構造紡績糸は、例えば、嵩高性、保温性、その他の機能性と外観が重視される、衣料品やインテリア用途の素材として好適である。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】実施例1のアクリル混紡糸の断面写真である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に本発明を詳細に説明する。本発明の芯鞘構造紡績糸は、アクリル繊維Aを含有する芯部と繊維Bを含有する鞘部とから構成され、紡績糸中のアクリル繊維Aの含有量が5~25質量%であり、繊維Bの含有量が75~95質量%である。特に、本発明の芯鞘構造紡績糸は、芯部のアクリル繊維が紡績糸の最外周を構成する鞘部の表面にほとんど現れないという特徴を有する。
【0016】
本発明の芯鞘構造紡績糸においては、後述する実施例の方法に従って測定すると、紡績糸断面の最外周に位置して紡績糸の側面の表面に露出している繊維の全本数のうちアクリル繊維Aの本数の割合が、10%以下、好ましくは8%以下、より好ましくは5%以下である。このため、アクリル繊維Aが表面にほとんど露出せず、繊維Bの特性がアクリル繊維Aの混入によって減殺されにくい。また、繊維Bとアクリル繊維Aに染色性の差がある場合でも、アクリル繊維Aが糸表面にほとんど存在しないため、芯部と鞘部の色合わせの必要性が低い。
【0017】
本発明の上述のような構成の芯鞘構造紡績糸は、後述するように、収縮性アクリル繊維aと低収縮性繊維bを特定の割合で含むアクリル混紡糸を特定の紡績工程の後に収縮発現させることによって製造することができる。本発明の芯鞘構造紡績糸では、アクリル繊維Aは、収縮性アクリル繊維aを収縮発現させたものであり、繊維Bは、低収縮繊維bを収縮発現させたものである。繊維Bは、有効繊維長31~46mmの木綿、又はアクリル繊維Aとは種類が異なる、例えば色、太さ、形状のいずれかが異なるアクリル繊維であることが好ましい。
【0018】
本発明の芯鞘構造紡績糸においては、アクリル繊維Aの含有量が5~25質量%、好ましくは10~20質量%であり、繊維Bの含有量が75~95質量%、好ましくは80~90質量%である。アクリル繊維Aの含有量が上記上限を超えると、紡績糸断面の最外周に位置して紡績糸の側面の表面に露出している繊維の全本数のうちアクリル繊維Aの本数を10%以下とすることが難しくなりやすい。また、アクリル繊維Aの含有量が上記下限未満であると、収縮発現時の収縮が不足して鞘部による芯部の被覆が不十分となりやすい。
【0019】
収縮性アクリル繊維aの沸水収縮率としては、好ましくは15~45%、より好ましくは20~45%、さらに好ましくは30~40%であることが望ましい。沸水収縮率が上記下限に満たない場合には、収縮発現時における低収縮性繊維bの糸表面への浮き出しが不足して、糸表面に収縮性アクリル繊維が残りやすくなる。また、沸水収縮率が上記上限を超える場合には、収縮発現後の収縮性アクリル繊維aの単繊維伸度が高くなりすぎて、本発明の芯鞘構造紡績糸が伸びやすくなり、その後の加工や使用に際して不具合を生じやすくなる。
【0020】
収縮性アクリル繊維aの繊度は、好ましくは0.3~5.0dtex、より好ましくは0.4~3.0dtex、さらに好ましくは0.5~2.4dtexである。繊度が上記下限に満たない場合には、紡績が難しく、上記上限を超える場合には、糸を構成する繊維本数が少なくなり糸強力が低下するため、製織中にエアで吹き切れるなどして製織できない恐れがある。
収縮性アクリル繊維aの繊維長は、好ましくは32~150mm、より好ましくは35~51mmである。繊維長が上記下限に満たない場合には、紡績品位が悪くなり、上記上限を超える場合には、通常の紡績設備では紡績することができず、ローラー間のゲージ変更やパーツ変更などの紡績設備の改造が必要となる場合がある。
【0021】
低収縮性繊維bは、その沸水収縮率が、収縮性アクリル繊維aよりも小さいものであり、好ましくは10%以下、より好ましくは5%以下である。沸水収縮率が上記上限を超える場合には、収縮性アクリル繊維aとの収縮率の差が小さくなるため、収縮性アクリル繊維aを収縮発現させたときの低収縮性繊維bの糸表面への浮き出しが小さくなって鞘部による芯部の被覆が不十分となりやすい。なお、かかる低収縮性繊維bは、全く収縮しないものであってもよい。
【0022】
低収縮性繊維bとしては、木綿、麻、羊毛、獣毛(モヘア、カシミヤ、キャメル、アルパカ、アンゴラ等)などの天然繊維、レーヨン、キュプラなどの再生繊維、アセテート、プロミックスなどの半合成繊維、アクリル、ナイロン、ポリエステルなどの合成繊維などを採用することができ、複数種を用いてもよい。なお、本発明では、上記に挙げた繊維のうち、木綿のように、沸水で膨潤するが乾燥すると繊維長が元に戻る繊維は、沸水収縮しないもの(沸水収縮率0%)と定義する。低収縮性繊維bとして木綿を用いると、従来の木綿の吸水性、吸放湿性、風合いを維持し、外観が木綿100%の紡績糸でありながら、従来の木綿糸では実現できない保温性や嵩高性を得ることができる。従来の木綿100%の紡績糸の一層編地であれば保温性は16~18%程度となるが、本発明であれば20%以上にすることができる。特に好ましい態様では22~28%とすることも可能である。特に本発明の芯鞘構造紡績糸においては、芯部の繊維が鞘部の表面にほとんど現れないため、鞘部の綿のみを染色すればよく、木綿とアクリル繊維の色合わせの手間を省くことができる。また、低収縮性繊維bがアクリル繊維である場合、マイクロファイバーや抗ピル性のアクリル繊維を用いると、芯部の繊維が鞘部の表面にほとんど現れないため、紡績糸全体にマイクロファイバーや抗ピル性のアクリル繊維を用いなくとも高い抗ピル性が発揮され、良好な抗ピル性を有する嵩高アクリル紡績糸とすることができる。マイクロファイバーを用いる場合,アクリル繊維の繊度は0.4dtex~0.9dtexであることが好ましい。より好ましくは、0.5~0.7dtexである。アクリル繊維の繊度が上記範囲にあることによりソフトな風合いと抗ピル性を両立させることができる。上記範囲を超えると、ソフトな風合いが失われ、上記範囲未満では、紡績性が悪く、ネップなどの糸欠点が発生しやすくなる。
【0023】
低収縮性繊維bの繊維長(化学繊維はカット長、天然繊維は有効繊維長)は、好ましくは31~46mm、より好ましくは33~42mmである。繊維長が上記下限に満たない場合には、紡績品位が悪くなり、上記上限を超える場合には、通常の紡績設備では紡績することができず、ローラー間のゲージ変更やパーツ変更などの紡績設備の改造が必要となる恐れがある。低収縮性繊維bに木綿を用いる場合、比較的繊維長の長い綿を含めるのが好ましい。このような原綿としては、例えば、スーピマ綿やGIZA45、スビン綿、新彊綿、海島綿等の超長綿を含むことが好ましい。これらは、有効繊維長が32~41mmの従来から英式番手で50番手を越える高級綿糸の原綿として使用されているものである。
【0024】
低収縮繊維bに木綿が使用される場合、綿繊維のマイクロネヤ繊度の平均繊度は、2.4~5.0μg/inchであることが好ましい。より好ましくは2.8~4.5μg/inchである。マイクロネヤ繊度がこの範囲であることで、芯繊維が鞘部の外側表面に露出することを効果的に抑制して、木綿100%の外観を維持しやすくすることができる。マイクロネヤ繊度が上限範囲未満の場合、紡績糸の品位や風合いは更に良くなるが、原料が非常に高価になり、収縮性アクリル繊維aへの隠蔽力が逆に低下しやすくなる。
【0025】
本発明の芯鞘構造紡績糸は、JIS-L1095:2010 9.14のB法に準拠して測定した嵩高性が6.0~8.5cm3/gを達成することができる。
【0026】
本発明の嵩高織編物は、上述した本発明の芯鞘構造紡績糸を用いた織編物であり、該紡績糸のみで構成されたものであってもよいし、他の糸を併用したものであってもよい。他の糸を併用する場合、本発明の芯鞘構造紡績糸の特徴を織編物においても得られるようにする観点から、織編物における該紡績糸の混用率を50質量%以上とすることが好ましい。また、2層構造の織編物の場合には、表組織の全てを本発明の芯鞘構造紡績糸とするといった構成としてもよい。
【0027】
本発明の芯鞘構造紡績糸は、次のようにして製造されることができる。上記の収縮性アクリルa繊維及び低収縮性繊維bを夫々別々に混打綿工程、カード工程、コーマ工程と経由させ、綿100%のコーマ揚がりのスライバーとする。そして、低収縮性繊維bのスライバーと収縮性アクリル繊維aのスライバーを所定の本数ずつまとめて練条機を通し、ダブリングする。低収縮性繊維bのスライバーと収縮性アクリル繊維aのスライバーは、それぞれ単位長さ当たりの重さを決めておくことができ、低収縮性繊維bのスライバーの本数と、収縮性アクリル繊維aのスライバーの本数により混紡率が決まることになる。練条機から揚がったスライバーを所定の本数でダブリングして次の練条機に通すことを複数回繰り返しすことでスライバーの太さを均一にすることができる。本発明の製造方法では、この練条工程の最後のダブリングにおいて、沸水収縮率が15~45%である収縮性アクリル繊維aを含む1本のスライバーの周りに低収縮性繊維bを含む複数本(例えば、5本~10本)のスライバーを配置してドラフトを実施することを含む綿紡績法等の紡績工程によりアクリル混紡糸を得ること、及び前記アクリル混紡糸に収縮発現処理を施すことを含む。このスライバーから粗紡機で粗糸を作り、粗糸を精紡機に通して紡績糸とする。この場合、撚係数が2.5~3.4程度の甘撚糸になるように、通常の紡績糸の撚り(撚係数で3.5~3.9程度)より撚係数を下げることが好ましい。なお、撚係数は、後述する実施例の方法によって求めることができる。
【0028】
本発明のアクリル混紡糸は、沸水収縮率が15~45%である収縮性アクリル繊維aの含有量が5~25質量%であり、低収縮性繊維bの含有量が75~95質量%であることが望ましい。より好ましくは沸水収縮率が15~45%である収縮性アクリル繊維aの含有量が5~20質量%であり、低収縮性繊維bの含有量が80~95質量%であることが望ましい。収縮性アクリル繊維aの含有量が上記範囲を下回ると、糸の拘束力に収縮力が負けてしまい、十分な嵩高性が得られ難くなる。同様に上記範囲を上回ると、糸表面に飛び出す収縮性アクリル繊維aが増えてしまい、ソリッドな外観が得られ難くなる。
【0029】
本発明の嵩高織編物の製造方法としては、上記の方法によって得られたアクリル混紡糸に収縮発現処理を施して本発明の芯鞘構造紡績糸とし、該芯鞘構造紡績糸を常法により製織または製編する方法や、収縮発現処理前のアクリル混紡糸を常法により製織または製編し、得られた織編物に対して、収縮発現処理を施す方法を挙げることができる。アクリル混紡糸、及びアクリル混紡糸を用いた織編物に施す収縮発現処理の方法としては、それらを例えば80~100℃の熱水に浸漬して10分以上処理する工程の後に、無緊張下において冷却速度1℃/分以下で徐冷処理する工程を施す方法を挙げることができる。かかる方法においては、前半の工程で、収縮性アクリル繊維の収縮を潜在化させている仮セット状態が解除され、後半の徐冷処理中に徐々に収縮が発現する。これらの処理は、収縮発現前の紡績糸をソフトにチーズに巻き取ってチーズ染色機で施してもよいし、カセにして、回転バック式や噴射式のカセ染用の染色機で行ってもよい。また、編織物に製編織してから連続リラクサーや液流染色機で収縮発現処理を行ってもよい。ここで、仮に後半の工程で急冷すると、急速に構造が固定されてしまうため、収縮を十分に発現することができなくなる。なお、かかる収縮発現処理は染色工程の一部として実施してもよい。
【0030】
本発明の芯鞘構造紡績糸は、あたかも木綿100%の紡績糸や一種類のアクリル原綿のみでできているような綺麗な外観を有しており、それら単独繊維の持つ機能性を維持しながらも、高い嵩高性を両立しているため、スポーツシャツ、Tシャツ、ポロシャツ、婦人衣料、アウター、帽子、手袋、インテリア材料、寝具等に最適な織編物を提供することができる。
【実施例0031】
以下、実施例により本発明を詳細に説明するが、本発明は、これらの実施例に限定されるものではない。なお、実施例中の評価に用いた測定方法は、以下の通りである。
【0032】
<沸水収縮率>
沸水処理前のサンプルに荷重(0.1g/dtex)をかけ、一定間隔の原長さ(L1[mm])を計測し、該サンプルを沸水にて15分間処理し、乾燥後、サンプルに荷重(0.1g/dtex)をかけ、変化長さ(L2[mm])を計測し、次式により沸水収縮率を求めた。
沸水収縮率(%)={(L1-L2)/L1}×100
【0033】
<綿繊維の有効繊維長>
JIS-L1019-7.2.1の繊維長のA法(ダブルソータ法)に準拠して、紡績糸を繊維の状態にして短繊維含有率を測定した。また、有効繊維長は面積から算出した。試験環境は20℃65%RHとした。
【0034】
<綿繊維のマイクロネヤ繊度の平均繊度>
JIS-L1019-7.4.1の繊度のマイクロネヤによる方法に準拠して求めた。
【0035】
<合成繊維の繊度>
JIS L 1015:2010 8.5に準拠して求めた。
【0036】
<英式綿番手>
JIS-L1095:2010 9.4.2の方法に従って見掛けの綿番手(Ne)を測定した。
【0037】
<撚係数>
前項に従って求めた英式綿番手Neと、JIS-L-1095:2010 9.15.1のA法に従って求めた。1インチあたりの撚数Tから次式より撚係数を算出する。
撚係数=T/(Ne)1/2
【0038】
<糸の嵩高性>
収縮発現処理を終えた芯鞘複合紡績糸をJIS-L1095:2010 9.14のB法に従って嵩高性(cm3/g)を求めた。
【0039】
<編地のピリング性>
JIS-L1096-ICIA法(5時間)に準拠して測定、評価した。
【0040】
<保温性>
芯鞘複合紡績糸を編機(釜径3.5インチ、針本数240本、英光産業(株)製NE450W)にて一本給糸して、目付120g/m2になるように度目を調整して天竺編で編みたて、得られた編地を試料とした。カトーテック社製のサーモラボIIを用い、20℃、65%RHの環境下で、BT-BOXのBT板(熱板)を人の皮膚温度を想定して35℃に設定し、その上に試料を置き、熱移動量が平衡になったときの消費電力量Wを測定した。また、試料を置かない条件での消費電力量W0を計測した。以下の式で保温性(%)を計算した。
保温性(%)={(W0-W)/W0}×100
BT板は、サイズ10cm×10cmであるが、試料は20cm×20cmとした。通常は試料をBT板に接触させて測定するが、本発明では、保温性は、BT板の上に断熱性のある発泡スチロール等のスペーサーを設置して、試料との空隙を5mm設けて計測を行った。
【0041】
<紡績糸の断面の最外周に位置して紡績糸の側面の表面に露出しているアクリル繊維Aの本数の割合>
以下の(i)~(iii)の手順に従って、紡績糸の断面の最外周に位置して紡績糸の側面の表面に露出しているアクリル繊維Aの本数の割合(%)を求めた。
(i)紡績糸を任意に5cm採取し、10cm角のプラスチック板の上に載せて、紡績糸が真っ直ぐになるぐらいの力で紡績糸の両端を引っ張りながら、紡績糸の中央付近に1.0cm幅だけ紡績糸が露出するように紡績糸の両端をセロハンテープでプラスチック板に張り付ける。
(ii)キーエンス製の光学顕微鏡VHS-S550にてプラスチック板の上の紡績糸の露出された部分の任意の側面を倍率500倍として表示モニター画面に糸側面の長手方向に500μm入るように写真撮影する。次に撮影した写真の長手方向に隣接部が500μm入るように撮影することを5回繰り返して、合計約2,500μmの連続した写真を撮影して、各写真をカラーでそれぞれA4ヨコの大きさで印刷する。糸の総繊度が太い場合は、倍率を300倍に落として、2,500μm分の連続した写真がとれればよい。次に、印刷した写真から、最外周に位置して糸の側面の表面に露出している全繊維とアクリル繊維Aの本数を目視で数える。次に、最外周に位置して糸の側面の表面に露出している全繊維の本数に対するアクリル繊維Aの本数の割合を百分率(%)で求める。尚、アクリル繊維Aと繊維Bの選別は、色の違い、繊維の太さ、或いは繊維表面の形状から見分ける。
【0042】
<外観>
筒編地表面の外観を目視で観察し、芯部の被覆の程度(イラツキ感)を以下の◎~×の4段階で評価した。なお、◎及び〇は、良好な外観と判断される。
◎:芯部の繊維をほとんど視認できない。
〇:芯部の繊維が単繊維状態で僅かに紡績糸表面に出ているが外観を悪くしない。
△:芯部の繊維が単繊維状態でところどころ表面に出てイラついており、外観を悪くしている。
×:芯部の繊維がまとまった形で表面に視認されて、単一の色に染まっておらず杢調の外観になっている。
【0043】
[実施例1]
収縮性アクリル繊維(日本エクスラン工業社製 UX49-1.0T38)、沸水収縮率38%、1dtex、繊維長38mm)と、赤く染色したスーピマ綿(有効繊維長34mm,マイクロネヤ繊度3.9μg/inch)を15:85の質量比として綿紡績法で紡績糸を作製した。まず常法に従って収縮性アクリル繊維のスライバーと綿のスライバーを別々に準備し、次に練条工程を2回行い、3回目(最後)のダブリングにおいて、収縮性アクリル繊維のスライバー1本の周りを綿のスライバー7本で囲んでドラフトし、さらに通常の粗紡工程、精紡工程を経て、英式綿番手60番手、撚係数3.0のアクリル混紡糸を得た。得られたアクリル混紡糸の断面写真を
図1に示す。このアクリル混紡糸を編機(釜径3.5インチ、針本数240本、英光産業(株)製NE450W)に仕掛けて1本給糸で筒編地を作成した。この筒編地を100℃の熱水に浸漬して20分処理した後、無緊張下で冷却速度0.5℃/分で室温まで徐冷してから乾燥した。これらを各種の評価に供した。
【0044】
[実施例2]
実施例1において、収縮性アクリル繊維とスーピマ綿の質量比を22:78に変更すること以外は同様にして実施例2の芯鞘構造紡績糸及び筒編地を得た。これらを各種の評価に供した。
【0045】
[実施例3]
収縮性アクリル繊維(日本エクスラン工業社製 UX49-1.0T38)、沸水収縮率38%、1dtex、繊維長38mm)と低収縮性のマイクロファイバーアクリル繊維(日本エクスラン工業製UFタイプ、0.5dtex、繊維長32mm、沸水収縮率3.0%)を12.5:87.5の質量比として綿紡績法で紡績糸を作製した。まず常法に従って収縮性アクリル繊維のスライバーと低収縮性のマイクロファイバーアクリル繊維のスライバーを別々に準備し、次に練条工程の最後のダブリングにおいて、収縮性アクリル繊維のスライバー1本の周りを低収縮性のマイクロファイバーアクリル繊維のスライバー7本で囲んでドラフトし、さらに通常の粗紡工程、精紡工程を経て、英式綿番手60番手、撚係数3.0のアクリル混紡糸を得た。このアクリル混紡糸を編機(釜径3.5インチ、針本数240本、英光産業(株)製NE450W)に仕掛けて1本給糸で筒編地を作成した。この筒編地を100℃の熱水に浸漬して20分処理した後、無緊張下で冷却速度0.5℃/分で室温まで徐冷してから乾燥した。これらを評価に供した。
【0046】
[比較例1]
実施例1において、収縮性アクリル繊維とスーピマ綿の質量比を30:70に変更すること以外は同様にして比較例1の芯鞘構造紡績糸及び筒編地を得た。これらを各種の評価に供した。
【0047】
[比較例2]
実施例1で用いた綿を常法に従って粗糸とし、次にこれらの粗糸を用いて精紡交撚を行い、高収縮アクリル繊維:綿=15:85の質量比であり、英式綿番手60番手、撚係数2.7のアクリル混紡糸を得た。該アクリル混紡糸を100℃の熱水に浸漬して20分処理した後、無緊張下で冷却速度0.5℃/分で室温まで徐冷を行い、乾燥することで比較例2の紡績糸を得た。また、実施例3と同様にして筒編地を得た。これらを各種の評価に供した。
【0048】
[比較例3]
赤く染色したスーピマ綿のみを使って常法に従って英式綿番手60番手、撚係数3.0の綿100%のコーマ単糸を得た。このコーマ糸を100℃の熱水に浸漬して20分処理した後、無緊張下で冷却速度0.5℃/分で室温まで徐冷を行い、乾燥することで比較例3の紡績糸を得た。また、実施例3と同様にして筒編地を得た。これらを各種の評価に供した。
【0049】
各実施例、比較例における評価結果を表1に示す。
【0050】
【0051】
表1からわかるように、実施例1~3は、最外周に位置するアクリル繊維の本数の割合が小さく、芯部の繊維が鞘部の表面にほとんど現れていない芯鞘構造紡績糸を得ることができた。そのため、外観、嵩高性、保温性のいずれにおいても良好な結果を得た。これに対して、比較例1では、低収縮性繊維である綿の含有量がやや少なく、収縮性アクリル繊維がところどころ表面に出てきており、劣った外観となった。また、比較例2では、練条工程において、収縮性アクリル繊維のスライバーの周りに綿のスライバーを配置してドラフトを実施しておらず、鞘部による被覆が不十分で表面から芯部が視認でき、劣った外観となった。また、芯部の露出が大きいため、嵩高性及び保温性にも劣っていた。さらに、比較例3では、芯鞘構造をとらず、綿繊維のみを使用するため、良好な外観を有していたが、嵩高性及び保温性が最も劣る結果となった。また、ピリング性について検討すると、実施例1,2、比較例1,2では、鞘部の繊維が綿であり、比較例3では、芯鞘構造をとらず、綿繊維のみを使用している。綿は、アクリルと比べて元々ピリングしにくいという性質を有する。従って、比較例3や実施例1は、ピリング性の等級が高く、ピリングが発生しにくい。これに対して、実施例2、比較例1,2では、芯のアクリル繊維が実施例1よりも多く表面に出てきているので、ピリング性の等級が比較例3や実施例1より低く、ピリングが発生しやすくなっている。一方、実施例3は、鞘部の繊維がアクリルであり、本来はピリング性の等級が低くなるはずだが、繊度の低いマイクロファイバーを使用しているので、実施例2と同レベルのピリング性を達成することができている。
本発明の芯鞘構造複合糸は、木綿100%のみ又はアクリル原綿のみからできているような綺麗な外観と、それぞれの構成繊維が持つ機能性及び高い嵩高性を持つことができる。そのため、それを使用した織編物は、スポーツシャツ、Tシャツ、ポロシャツ、婦人衣料、アウター、手袋、帽子、インテリア材料、寝具等の様々な用途に好適に使用することができる。