(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022105416
(43)【公開日】2022-07-14
(54)【発明の名称】呼気分析による野菜及び/又は食物繊維の摂取量推定方法
(51)【国際特許分類】
G01N 33/497 20060101AFI20220707BHJP
【FI】
G01N33/497 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021000197
(22)【出願日】2021-01-04
(71)【出願人】
【識別番号】593106918
【氏名又は名称】株式会社ファンケル
(74)【代理人】
【識別番号】100162396
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 泰之
(74)【代理人】
【識別番号】100194803
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 理弘
(72)【発明者】
【氏名】雄長 誠
(72)【発明者】
【氏名】清水 良樹
(72)【発明者】
【氏名】串岡 拓也
【テーマコード(参考)】
2G045
【Fターム(参考)】
2G045CB22
2G045DA80
(57)【要約】
【課題】呼気に含まれる成分を測定することによって、食事から摂取した野菜量や食物繊維量を推定する方法を提供することを課題とする。
【解決手段】呼気中に含まれるジメチルスルフィド(dimethyl sulfide)、セレン化ジメチル(dimethyl selenide)、 2-ブタノン(2-Butanone)のいずれか1以上を指標とする、食事による一日の野菜及び/又は食物繊維の摂取量を推定する方法。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
呼気中に含まれるジメチルスルフィド(dimethyl sulfide)、セレン化ジメチル(dimethyl selenide)、2-ブタノン(2-Butanone)のいずれか1以上を指標とする、食事による一日の野菜及び/又は食物繊維の摂取量を推定する方法。
【請求項2】
呼気が最終の食事終了後一夜(8時間以上)経過した後に採取したものである請求項1に記載の方法。
【請求項3】
次の工程を含む、食事による一日の野菜及び/又は食物繊維の摂取量を推定する方法
工程1:呼気及び被験者の呼気採取時環境の空気を採取する採取工程
工程2:工程1の採取工程で採取された呼気及び環境空気中のジメチルスルフィド(dimethyl sulfide)、セレン化ジメチル(dimethyl selenide)、2-ブタノン(2-Butanone)のいずれか1以上の含有量を測定する測定工程
工程3:工程2の測定工程で得られたジメチルスルフィド(dimethyl sulfide)、セレン化ジメチル(dimethyl selenide)、2-ブタノン(2-Butanone)のいずれかの呼気中の含有量の値と環境の空気中の含有量の値の差を求める演算工程
工程4:工程3で得られた差をあらかじめ作成した呼気成分と一日の野菜及び/又は食物繊維の摂取量の一次回帰式に代入して、食事による一日の野菜及び/又は食物繊維の摂取量を求める換算工程
【請求項4】
推定する摂取量値が1ヶ月間の平均値である請求項1~3のいずれかに記載の一日の野菜及び/又は食物繊維の摂取量を推定する方法。
【請求項5】
ヒト一日当たりの食物繊維推奨量と請求項1~4に記載のいずれかに記載の方法による一日の食物繊維摂取推定量との差に相当する量の食物繊維量を含有する、食物繊維不足評価解消用組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、呼気成分の分析に基づく、一日の食事における野菜及び/又は食物繊維の摂取量推定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
食物繊維は「人の消化酵素で消化されない食物中の難消化性成分の総体」と栄養学上定義されている。食物繊維は、大腸内の環境を整え、腸内菌叢フローラを安定化し、様々な疾病に予防効果を発揮するため、近年では栄養学上の重要な成分として見直されてきた。
食生活が変化し、多様化した結果、食物繊維分摂取量の低下が指摘されている。食物繊維の不足を補うために、難消化性デキストリンなどを添加した食品が提供されている。食物繊維は、動物性の食品にはほとんど含有されておらず、食物繊維を摂取するためには、積極的に野菜や海藻などを食事としてとらなければならない。特に野菜の摂取が推奨されている。このため食物繊維を日常の食事から摂取するために、野菜を積極的に食事メニューに取り入れる必要がある。食事中の食物繊維含有量は、公知の方法で定量することが可能である。
食品中の食物繊維の定量法は、プロスキー法(酵素-重量法)、高速液体クロマトグラフ法(酵素-HPLC法)、プロスキー変法、Southgate法及びEnglyst法などがあり、食品表示基準の分析方法では、プロスキー法と高速液体クロマトグラフ法が採用されており、高分子の食物繊維だけでなく、低分子の食物繊維まで定量することができる。Association of Official Analytical Chemists(AOAC)では、プロスキー法、高速液体クロマトグラフ法に加えて、プロスキー変法も採用されており、高分子及び低分子の食物繊維に加えて、水溶性と不溶性の食物繊維を分別して定量することができる。しかし、これらの分析方法を精度よく実施するには、高度な技術が必要である。
【0003】
食物繊維をはじめとする、主要な食事中の主要な栄養成分の含有量は、化学的な分析手法で測定可能である。栄養成分測定方法は、煩雑で且つ長時間が必要となるため、あらかじめ分析済みの食品中の含有量に基づく食事調査によって、食事中の含有量が推定されており、公的にも認められている。この推定手法は、食品標準成分表に基づいて得ることができる。そして、その正確性は科学的に担保されている。
食事調査の結果は、ヒトの栄養状態の評価に用いる重要な基礎情報として利用されている。これについては、厚生労働省により行われる大規模な食事調査の報告書がある。日本人が健康を保つために必要なエネルギーおよび各栄養素の標準的な摂取量の数値、「国民栄養所要量」として公表されている。具体的には、年齢や性別に応じて一日当たりに必要なエネルギーや各栄養素について、それぞれの数値が定められており、バランスのとれた食事のための献立づくりの基準として、幅広く用いられ、ヒトの栄養所要量として定められている(非特許文献1参照)。
しかし、ヒト一人一人の食事調査によって栄養評価を正しく行うことは、困難な作業である。例えば、簡易型自記式食事歴法質問票(Brief-type self-administered diet history questionnaire、BDHQ)と呼ばれる質問票(非特許文献2)が、食事調査による栄養成分の摂取推定ツールとして普及している。しかしこのような質問票を、正しく記載するためには記入者にとって多大な努力が必要である。BDHQは、専用の栄養価計算のためのコンピュータプログラムが開発されており、およそ30種類の栄養素と50種類の食品の摂取量を算出できる。しかしこのプログラムは、すべてのヒトに開放されているものではなく、だれもが自由に使用できるものでもない。また質問票に正しく正確に記入するためには、1回あたり30分程度が必要となり、被験者に記載の煩雑さが嫌われて、記入を忌避される場合もある。
【0004】
またBDHQ以外にも食事バランスを管理するサービスや、ヒトの栄養状態を評価する手法が、多数提案されている。食事バランスの評価は、食品の栄養成分表や食品交換表のデータに基づいて評価するが、専門の栄養士や管理栄養士の知識が必要となるため簡単ではない。このため食事の写真をもとに、これを専門家が評価する方法も普及している。特許文献1には、このような業務を専門に行う管理栄養士の負担を軽減し、さらに食事指導が必要とされるヒトが簡便且つ自律的に食事指導を受けることができる食事指導支援方法、及び装置が記載されている。
【0005】
一方、食事によって吸収された栄養成分は、血液中に出現し、あるいは肝臓などで代謝されて血液の成分を変化させ、さらには呼気の成分を変化させることが知られている(非特許文献3)。この血中の成分変化を利用して、皮膚中のカロテイド類を検出し、カロテノイド数値から、被験者の野菜類の摂取量を測定する方法が提案されている(特許文献1)。またこの発明を利用したカロティノイドスコアを測定装置により測定することで野菜摂取状況を評価するベジメーター(登録商標)が開発され(特許文献2)販売されている。
呼気の分析は、近年ガスセンサやニオイセンサ(臭覚センサ)の研究が進み、これを利用した呼気の分析や解析が普及しつつある。しかし呼気の分析から食物繊維の摂取量や野菜の摂取量を推測する方法や装置は開発されていない。
ヒト一日の食事による食物繊維の摂取量は、これまでは特許文献3に記載の食事メニューに基づく調査表やBDHQによって行うのが一般的であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第5574246号公報
【特許文献2】特開2020-140741号公報
【特許文献3】特開2002-297777号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】日本人の食事摂取基準(2020年版):厚生労働省「日本人の食事摂取基準」策定検討会報告書(https://www.mhlw.go.jp/content/10904750/000586553.pdf)
【非特許文献2】Sasaki S, Yanagibori R, Amano K. Self-administered diet history questionnaire developedfor health education: a relative validation of the test-version by comparison with 3-daydiet record in women. J Epidemiol 1998; 8: 203-215.
【非特許文献3】Analyst, 2013, Vol.138, 2134-2145
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、呼気に含まれる成分の含有量を測定し、この測定結果を指標とすることによって、食事から摂取した食物繊維量や野菜量を推定する方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は以下の構成である。
(1)呼気中に含まれるジメチルスルフィド(dimethyl sulfide)、セレン化ジメチル(dimethyl selenide)、2-ブタノン(2-Butanone)のいずれか1以上を指標とする、食事による一日の野菜及び/又は食物繊維の摂取量を推定する方法。
(2)呼気が最終の食事終了後一夜(8時間以上)経過した後に採取したものである(1)に記載の方法。
(3)次の工程を含む、食事による一日の野菜及び/又は食物繊維の摂取量を推定する方法
工程1:呼気及び被験者の呼気採取時環境の空気を採取する採取工程
工程2:工程1の採取工程で採取された呼気及び環境空気中のジメチルスルフィド(dimethyl sulfide)、セレン化ジメチル(dimethyl selenide)、2-ブタノン(2-Butanone)のいずれか1以上の含有量を測定する測定工程
工程3:工程2の測定工程で得られたジメチルスルフィド(dimethyl sulfide)、セレン化ジメチル(dimethyl selenide)、2-ブタノン(2-Butanone)のいずれかの呼気中の含有量の値と環境の空気中の含有量の値の差を求める演算工程
工程4:工程3で得られた差をあらかじめ作成した呼気成分と一日の野菜及び/又は食物繊維の摂取量の一次回帰式に代入して、食事による一日の野菜及び/又は食物繊維の摂取量を求める換算工程
(4)推定する摂取量値が1ヶ月間の平均値である(1)~(3)のいずれかに記載の一日の野菜及び/又は食物繊維の摂取量を推定する方法。
(5)ヒト一日当たりの食物繊維推奨量と(1)~(4)に記載のいずれかに記載の方法による一日の食物繊維摂取推定量との差に相当する量の食物繊維量を含有する、食物繊維不足評価解消用組成物。
【発明の効果】
【0010】
本発明の方法によれば、呼気の分析を行うことで、一日の食事によって摂取した野菜及び/又は食物繊維の量を推定することができる。
また、本発明の方法は、非侵襲的な操作で呼気を採取するだけであるため、被験者の負担が少ない。また従来のような調査票を記録するために必要とする記憶に頼ることがないので、老人や幼児などの機能低下や脳機能未発達で記録の実施や記憶の想起が困難な人であっても、一日の野菜及び/又は食物繊維の摂取量を容易に推定できる。そして、栄養管理を必要としながら、野菜及び/又は食物繊維の摂取量の正確な把握が困難な老人や幼児であっても栄養管理が可能となる。
さらにまた、本発明は、個人ごとの国民栄養所要量で推奨される食物繊維量に比較すると、摂取不足量が明らかになるため、不足量を補充することのできる個人用の経口組成物を容易に調整することが可能となる。すなわち本発明により、食物繊維不足を解消するための食物繊維供給用組成物を含む所謂オーダーメイドの栄養補給サプリメントを調製することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】ジメチルスルフィドの分析値と野菜摂取量調査値の散布図である。直線は一次回帰直線であり、図上部に一次回帰式、相関係数、一次回帰推定の危険率を示す。
【
図2】セレン化ジメチルの分析値と野菜摂取量調査値の散布図である。直線は一次回帰直線であり、図上部に一次回帰式、相関係数、一次回帰推定の危険率を示す。
【
図3】2-ブタノンの分析値と野菜摂取量調査値の散布図である。直線は一次回帰直線であり、図上部に一次回帰式、相関係数、一次回帰推定の危険率を示す。
【
図4】セレン化ジメチルの分析値と食物繊維摂取量調査値の散布図である。直線は一次回帰直線であり、図上部に一次回帰式、相関係数、一次回帰推定の危険率を示す。
【
図5】2-ブタノンの分析値と野菜摂取量調査値の散布図である。直線は一次回帰直線であり、図上部に一次回帰式、相関係数、一次回帰推定の危険率を示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明は、呼気を分析することによって、一日に摂取した野菜及び/又は食物繊維の量を推定する方法に係る発明である。
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明の野菜及び/又は食物繊維の摂取量の推定方法は、呼気に含まれるジメチルスルフィド(dimethyl sulfide)、セレン化ジメチル(dimethyl selenide)、2-ブタノン(2-Butanone)の食事による変動を指標として推定することを特徴としている。
本発明における呼気とは、翌日の午前中(12:00まで)の呼気であればよい。好ましくは、9:00~12:00に採取して分析を行う。また最終の食事終了後好ましくは8時間以上経過後、より好ましくは12~18時間経過後に採取する。14~16時間経過後の採取が特に好ましい。
【0013】
ジメチルスルフィド、セレン化ジメチル、2-ブタノンは、野菜及び/又は食物繊維の摂取量を反映し、摂取量が増加すると呼気中に増加し、摂取量が低下すると、呼気中の含有量が低下することを本発明者が見出した。これらの3物質は、野菜及び/又は食物繊維の摂取量と正の相関関係を示す。したがってこれらの3成分の分析結果を指標とすることで容易に呼気によって摂取した野菜及び/又は食物繊維の量を知ることが可能となる。
【0014】
呼気中のジメチルスルフィド、セレン化ジメチル、2-ブタノンの測定は、呼気採取用の密封性の高い樹脂容器に呼気を吹き込んで採取した後、公知のガス分析装置や方法によって測定する。樹脂容器に呼気を吹き込んで採取した後、ガス分析装置で分析する方法が簡便である。あるいは、上記に述べたジメチルスルフィド、セレン化ジメチル、2-ブタノンでキャリブレーションした高感度の呼気分析センサなどに、呼気を直接導入することで、呼気を採取することなく直接測定しても良い。
本発明にあっては、呼気の分析方法に特段の制限はない。
【0015】
採取した呼気は、上記の通り公知の分析装置であるガスマスクロマトグラフィー装置などを用いて直接分析を行うことができる。あるいは呼気を採取後、ガス成分を濃縮した後分析に供しても良い。
なお、呼気の分析結果は、被験者の呼気を採取した環境の空気(環境空気)の分析値を減じた値を真の呼気分析値として、本発明においては取り扱うものとする。
【0016】
以上の呼気の採取及び分析結果に基づいて、一日の野菜及び/又は食物繊維の摂取量を推定する方法は、次の4工程を含むことが好ましい。
工程1:呼気及び被験者の呼気採取時環境の空気を採取する採取工程
工程2:工程1の採取工程で採取された呼気及び環境空気の中のジメチルスルフィド、セレン化ジメチル、2-ブタノンの含有量を測定する測定工程
工程3:工程2の測定工程で得られた呼気のジメチルスルフィド、セレン化ジメチル、2-ブタノンの含有量の値と環境空気中の含有量の値の差を求める演算工程
工程4:工程3で得られた差をあらかじめ作成した回帰式に代入して、食事による一日の野菜及び/又は食物繊維の摂取量を求める換算工程
【0017】
かくして、ヒト個人別の、一日当たりの野菜摂取量及び/又は食物繊維摂取量を推定することが可能となる。この個人別の、一日当たりの野菜摂取量及び/又は食物繊維摂取量の推定値は、国民栄養所要量で推奨されている野菜又は食物繊維の摂取推奨量と対比することで、ヒト個人別の不足量が明らかとなり、該当する個人の栄養管理に反映させることができる。
さらに食物繊維量の不足量の推定値に基づき、食物繊維不足量を必須成分として含有する、個人の専用の組成物を提供することが可能となる。すなわち、一日の食物繊維推定量と、ヒト一日当たりの食物繊維摂取推奨量の差量の食物繊維量を含有する、食物繊維不足量を摂取できる、所謂オーダーメイドの経口組成物を調製することが可能となる。
本発明により、新たに提供されるオーダーメイド経口組成物は、不足する食物繊維を含有する医薬品(医薬部外品を含む)や、栄養補助食品、栄養機能食品、特定保健用食品、機能性表示食品、病者用食品等の機能性食品、一般的な食品、食品添加剤として用いることができる。
このオーダーメイド経口組成物は、継続的な摂取が行いやすいように、例えば、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤、丸剤、チュアブル錠、口腔内崩壊錠、ドリンク剤、ゼリー状の形態を有することが好ましい。棒状、板状、グミ状に加工した食品であっても良い。一般的な食品に食物繊維の不足量を添加した食品であってもよい。
具体的には健康食品用サプリメントの形態が特に好ましい。
本発明のオーダーメイド経口組成物に使用する食物繊維としては、水溶性食物繊維としてペクチン、グアー豆酵素分解物、グルコマンナン、βグルカン、ポリデキストロース、フルクタン、イヌリン、アラビアガム、マルチトール、サイリウム、難消化性オリゴ糖、難消化性デキストリン、アガロース、アルギン酸ナトリウム、カラギーナン、フコイダン、ポルフィラン、ラミナランを例示できる。また水不溶性食物繊維としてセルロース、ヘミセルロース、リグニン、キチン、キトサンを例示できる。これらの食物繊維の1種、又は複数種を経口用組成物の形態に合わせて適宜が使用することができる。
【実施例0018】
以下にヒトの一日当たりの野菜及び/又は食物繊維摂取量を推定する方法の一例を示して本発明を具体的に説明する。なお本発明は、実施例に記載に限定されるものでないことは言うまでもない。
≪野菜及び/又は食物繊維摂取量を推定するための一次回帰式の取得≫
1.試験方法
<被験者>
20-60代の健常人、男女136名により試験を行った。
被験者には前日の激しい運動と飲酒、前日21時から午前中の呼気採取時間までの間、水以外の飲食を禁止した。
また、被験者は、呼気成分に影響を与えないよう、検査当日の午前7時までに歯のブラッシングを終わらせることとした。
【0019】
<BDHQ調査票による一日の野菜及び/又は食物繊維の摂取量調査>
非特許文献2の簡易型自記式食事歴法質問票(Brief-type self-administered diet history questionnaire、BDHQ)を用いて被験者一日の野菜及び/又は食物繊維の摂取量を調査した。すなわち、被験者は、呼気採取前の1ケ月間の食事内容を思い出してアンケートに回答した。このアンケート調査票に基づいて被験者の一日あたりの平均野菜摂取量と食物繊維摂取量を算出した。
【0020】
<呼気の採取>
被験者は、呼気を採取する部屋(環境)で15分以上座位にて通常の呼吸を行い、呼気と外気との交換を行った。次いで、被験者は呼気を採取する直前、3回小さく深呼吸を行った後に、死呼気を吐き出した状態で口を閉じて10秒間息を止めさせた。
その後、被験者に1L容量のガスサンプリングバッグ(シグマアルドリッチ社製)へ息を吹き込ませ、呼気を採取した。なお被験者による呼気採取室の環境空気の汚染(コンタミネーション)を防止するため、呼気を採取する部屋(環境)を日程毎にわけ、被験者を各日程あたり10人から14人ずつ振り分けて環境空気の汚染が起こらないように注意して採取した。最終的に、合計136名の呼気を採取することができた。
【0021】
<環境空気の採取>
被験者の呼気を採取した部屋の空気(環境空気)は、ハミルトンシリンジを用いて呼気を採取したものと同じ1Lのガスサンプリングバッグに捕集した。採取は、呼気を採取する直前に実施した。
【0022】
<呼気及び環境空気中の成分の分析>
サンプリングバッグに捕集した呼気又は環境空気を、固相マイクロ抽出(Solid Phase Micro Extraction 以下、SPME)を用いて、抽出及び濃縮を行った。採取した呼気成分を濃縮するためマイクロ固相抽出(SPME)ファイバー(シグマアルドリッチ社)、およびガスクロマトグラフィー(GC/MS)を用いた。SPMEのマニュアルに従って、シリンジの針(ニードル)をガスパックに挿入した。またSPMEファイバーは、75μm Carboxen/PDMS(シグマアルドリッチ社製:ガス状および低分子化合物(分子量:30-225)の吸着に優れる。)を用いた。
抽出条件は25℃、60分とした。
抽出後、SPMEの先端をセプタム(商標:アジレント社 高性能セプタム 11mm)で塞ぎ、分析まで4℃で保存し、2日以内にGC/MSで測定した。
抽出した揮発性有機化合物は250℃のインジェクターを用いて離脱させ、GC/MSで測定した。GC/MSの測定データはMassHunter(アジレント社)を使用し、各ピークのピーク面積値を算出した。各ピークの化合物の定性はNIST/EPA/NIH Mass Spectral Libraryを使用した。
なお検出できた呼気及び環境空気中に含まれる各成分含有量は、SPME処理後のGC/MSのクロマトグラフのピーク面積値を仮の含有量データとして、以下の試験結果の解析に用いた。
【0023】
2.試験結果の解析
呼気及び環境空気中の、上記GC/MS測定により検出できた成分は53成分であった。この53成分のうち、20成分において、呼気中の分析値が環境空気の分析値より高い結果となった。すなわち呼気中の濃度の高い成分として特定できた。
これらの20成分の呼気と環境空気の差値(呼気と環境空気の数値の差)とBDHQ調査票による一日の野菜及び食物繊維摂取量のデータを、一元配置分散分析して、呼気数値と野菜又は食物繊維量の相関係数及び相関式を求めた。
各呼気成分と野菜摂取量又は食物繊維摂取量の一元配置分散分析の結果得られた相関係数とその相関係数の危険率(P値)を下記の表1に示した。
【0024】
【0025】
表1に示した相関係数値推定の危険率(P値)が0.01未満の場合、この相関係数の信頼性が高く、したがって一次回帰式によって野菜摂取量又は食物繊維摂取量の推定が可能であると評価し、〇印を付した。
すなわち、野菜摂取量の推定にはジメチルスルフィド(Dimethyl sulfide:DMS)、セレン化ジメチル(Dimethyl selenide)、2-ブタノン(2-Butanone)の3成分の含有量の値が使用可能であると判断した。また、食物繊維量の推定にはセレン化ジメチル(dimethyl selenide)、2-ブタノン(2-Butanone)の2成分の含有量の値が使用可能であると判断した。
【0026】
3.野菜及び/又は食物繊維摂取量の推定のために得られた一次回帰式
以上の試験結果から、一日当たりの野菜及び/又は食物繊維摂取量を推定するための一次回帰式を得た。
(1)呼気分析による野菜摂取量の推定のための回帰式
ジメチルスルフィド分析の場合:y=0.0071x+185.02
セレン化ジメチル分析の場合:y=0.0847x+145.19
2-ブタノン分析の場合:y=0.0392x+76.084
【0027】
(2)呼気分析による食物繊維摂取量の推定のための回帰式
セレン化ジメチル分析の場合:y=0.0026x+8.4858
2-ブタノン分析の場合:y=0.001x+7.17
上記の回帰式のxに、呼気及び環境空気のジメチルスルフィド、セレン化ジメチル、2-ブタノンの分析値(GC/MSのピーク面積値)の差を代入することで、1ヶ月に摂取した野菜及び/又は食物繊維の1日当たりの量(y)を1日当たりの野菜又は食物繊維摂取量推定値として得ることができた。