(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022105461
(43)【公開日】2022-07-14
(54)【発明の名称】シソ目シソ科シソ属の植物を原料とする植物生育活性剤・植物病害防除剤
(51)【国際特許分類】
A01N 65/22 20090101AFI20220707BHJP
A01P 21/00 20060101ALI20220707BHJP
A01P 3/00 20060101ALI20220707BHJP
【FI】
A01N65/22
A01P21/00
A01P3/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021000292
(22)【出願日】2021-01-04
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 2020年3月21日発行 園芸学研究 第19巻 別冊1 予稿集 2020年3月21日~22日開催 園芸学会令和2年度春季大会にて発表
(71)【出願人】
【識別番号】504139662
【氏名又は名称】国立大学法人東海国立大学機構
(74)【代理人】
【識別番号】100147038
【弁理士】
【氏名又は名称】神谷 英昭
(72)【発明者】
【氏名】松原 陽一
【テーマコード(参考)】
4H011
【Fターム(参考)】
4H011AA01
4H011AB03
4H011BB22
4H011DA02
4H011DA13
4H011DD04
(57)【要約】
【課題】本発明は、化学農薬や有用微生物などを利用することなく、より安全で安定した効果を発揮する新たな栽培方法を提供することを目的とする。
【解決手段】 シソ目シソ科シソ属の植物からの水抽出又は熱水抽出後の溶液を乾燥残渣に換算するか、或いはシソ目シソ科シソ属の植物を乾燥・粉砕して得られるパウダーを、投与対象の植物一苗当たり、1.0~2.0gの範囲で含む、対象植物の生育改善剤及び/又は病害防除剤。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
シソ目シソ科シソ属の植物からの水抽出又は熱水抽出後の溶液を乾燥残渣に換算するか、或いはシソ目シソ科シソ属の植物を乾燥・粉砕して得られるパウダーを、
投与対象の植物一苗当たり、1.0~2.0gの範囲で含む、
対象植物の生育改善剤及び/又は病害防除剤。
【請求項2】
前記シソ目シソ科シソ属の植物が、青ジソ(大葉)または赤ジソであることを特徴とする請求項1に記載の対象植物の生育改善剤及び/又は病害防除剤。
【請求項3】
前記乾燥残渣またはパウダー中に、ロスマリン酸、クロロゲン酸、クマル酸、シキミ酸、アピゲニンのいずれか一種以上が含まれていることを特徴とする請求項1又は2に記載の対象植物の生育改善剤及び/又は病害防除剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シソ目シソ科シソ属の植物の乾燥粉末、水抽出液・熱水抽出液等を利用して対象植物の生育改善剤・病害防除剤としての利用に関する。
【背景技術】
【0002】
シソ科に属する大葉は、食用および精油採取を目的に栽培されており、複合短期型栽培では、収穫適期を過ぎた大葉が年複数回の周期で大量に廃棄されている。また、精油抽出工程においては、抽出されるわずかな精油量に対して、蒸留残液分画(熱水抽出液)が大量の廃液として生じており、これら廃棄大葉・蒸留廃液を農業利用に役立てることができれば、環境負荷軽減に配慮した安心・安全な栽培方法を提供することができる。
【0003】
一方、イチゴ炭疽病の防除剤としては、プロピネブやジエチフェンカルブ等を含む化学農薬の散布が有効とされているが、他の植物への薬害や、人体、魚類等に対する安全性も考慮しなければならないため、新たな病害防除法が求められているところである。
【0004】
化学農薬に代わって、例えば、バークホルデリア属の微生物を利用して防除手段を提供するもの(特許文献1)や、アグロバクテリウム属、エルビニア属等を有用微生物として作物の土壌伝染性病害防除法を提供するもの(特許文献2)などが提案されている。これらは植物病原菌に対して抗菌作用を示す微生物を、植物の葉面に散布等することで病害防除を行おうとする技術である。これらの技術は、化学薬剤に比べて薬害の発生を抑える点で優れているが、特定菌種を環境に放出することによる生態系への影響については十分に考慮する必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010-47532号公報
【特許文献2】特開2015-61826号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、化学農薬や有用微生物などを利用することなく、より安全で安定した効果を発揮する新たな栽培方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明では、シソ目シソ科シソ属の植物の水抽出液・熱水抽出液・パウダー(乾燥粉末)を用いて、対象植物の生育改善や病害防除を行うものであり、特にイチゴの成長促進、イチゴ炭疽病・イチゴ萎黄病の発病抑制、メロンの成長促進、メロンつる割病の発病抑制に関して検討した。その結果、イチゴ又はメロンの一苗当たり、パウダーの場合で1.0~2.0g、5~20%濃度の水抽出液又は熱水抽出液で30~150mlを、散布または噴霧することにより、イチゴの炭疽病や萎黄病又はメロンつる割病の発病を抑制するとともに、イチゴやメロンの成長を促進することがわかった。
【0008】
すなわち本発明は、シソ目シソ科シソ属の植物からの水抽出又は熱水抽出後の溶液を乾燥残渣に換算して、或いはシソ目シソ科シソ属の植物(以下、単に「シソ属植物」ともいう。)のパウダーを、投与する対象植物の一苗当たり1.0~2.0gの範囲で含む、対象植物の生育改善剤及び/又は病害防除剤(以下、単に「本剤」ともいう。)に係るものである。
【0009】
本発明で用いるシソ属植物としては、青ジソ(大葉)、赤ジソが挙げられる。
【0010】
水抽出液・熱水抽出液は、原液のまま或いは水を適当量加えて10%濃度程度に希釈して、対象とする植物の葉や茎への直接噴霧、または根元に散布しても良い。
【0011】
散布する対象植物は、イチゴ又はメロンが好ましく、本剤はこれら果実の商品価値の向上と病害防除による安定した生産を補助するものである。
【発明の効果】
【0012】
シソ目シソ科シソ属の植物を農業的に利用する場合には、一般に安全性に関して問題はなく、化学薬品のように耐性菌を作る心配もない。また、本剤の原料としては、元々廃棄される予定であったシソ属植物、或いは、その抽出残渣を利用することができ、これらを活用すれば、新たな需要を生み出すことができる。また、廃棄予定のものを原料とすることで、入手コスト及び、廃棄物処理に対する環境負荷を低減することができる。
【0013】
本剤は、イチゴやメロンといった生食を基本とする果実に直接適用することができるので、化学薬品のように散布時期の調整や、散布後の果実を厳密に洗浄等する必要がなく出荷することができ、従来の収穫適期を逃すおそれはない。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】
図1は、イチゴ‘よつぼし’における、青じそ(大葉)の水抽出液・熱水抽出液・パウダーの根元への散布または地上部への噴霧処理がイチゴの地上部・地下部乾物重に及ぼす影響を示した図である。
【
図2】
図2は、イチゴ‘章姫’における、青じその水抽出液・熱水抽出液・パウダーの根元への散布または地上部への噴霧処理がイチゴの地上部・地下部乾物重に及ぼす影響を示した図である。
【
図3】
図3は、イチゴ‘よつぼし’における、赤じその水抽出液・パウダーの根元への散布または地上部への噴霧処理がイチゴの地上部・地下部乾物重に及ぼす影響を示した図である。
【
図4】
図4は、イチゴ‘よつぼし’における、青じその水抽出液・熱水抽出液・パウダーの根元への散布処理がイチゴ萎黄病発病率・発病程度、発病指数に及ぼす影響を示した図である。
【
図5】
図5は、イチゴ‘章姫’における、青じその水抽出液・熱水抽出液・パウダーの根元への散布処理がイチゴ萎黄病発病率・発病程度、発病指数に及ぼす影響を示した図である。
【
図6】
図6は、イチゴ‘よつぼし’における、赤じその水抽出液・パウダーの根元への散布処理がイチゴ萎黄病発病率・発病程度、発病指数に及ぼす影響を示した図である。
【
図7】
図7は、青じその水抽出液・熱水抽出液・パウダー抽出液の地上部への噴霧処理が、イチゴ炭疽病発病率・発病程度、発病指数に及ぼす影響を示した図である。
【
図8】
図8は、青じその水抽出液・熱水抽出液・パウダーの根元への散布処理が、メロン(‘アールス雅春秋系’)の成長に及ぼす影響を示した図である。
【
図9】
図9は、青じその水抽出液・熱水抽出液・パウダーの根元への散布処理が、メロンつる割病発病率・発病程度、発病指数に及ぼす影響を示した図である。
【
図10】
図10は、青じその水抽出液・熱水抽出液がin vitroにおけるメロンつる割病菌(Fusarium oxysporum f. sp. melonis)の増殖指数に及ぼす影響を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明のシソ属の植物としては、青ジソ(大葉)、赤ジソから選択される。これらは加工食品等としての生産・流通量が多く、それに伴って廃棄される部分も多いからである。もちろん、本剤を製造する上において、廃棄物からの再利用のみに限定する必要はない。
【0016】
本剤の原料の一つである青ジソは、「大葉」とも呼ばれ、スーパー等の野菜売り場で販売されている。大葉は、生のままで刺身のツマに使用されたり、衣を付けて天ぷらにしたり、あるいはドレッシングの原料としても広く用いられている。これに対して赤ジソは、紫色をした葉を持つシソで、梅干しの材料として、あるいは乾燥させたものを細かくしてふりかけとしても使用される。
【0017】
このような青ジソや赤ジソは、薬効がある植物として重宝されており、ビタミン、ミネラルが豊富で、栄養的にも優れた野菜である。青ジソが刺身のツマとして使われる理由は、青ジソの持つ防腐効果と香りにある。粕谷らによる1988年の報告によれば、カツオやアジなどの青魚に寄生している線虫のアニサキスに対する殺虫作用があることが報告されており、昔から刺身を食べる際は青ジソの葉や穂ジソなどを薬味として用いているが、このときアニサキスが胃壁などに絡みつくために起こる胃痛を防ぐという効果もあったことを示している。
【0018】
また、シソの香り成分にもなっている精油は、ペリルアルデヒドを約55%含み、この成分が防腐作用と殺菌作用を持っている。シソに含まれる成分では、この他に、ロスマリン酸、クロロゲン酸、クマル酸などがある。これらの成分はポリフェノール類であり、抗酸化作用が強く、動脈硬化など生活習慣病の予防に役立つと言われる。本発明では、これらの成分も植物生育改善効果及び植物病害防除効果をもたらしていると考えている。
【0019】
本発明の植物生育改善剤とは、本剤を使用した対象植物において、使用しない対象植物とを、生育後の地上部及び/又は地下部を乾燥重量で比較したときに、本剤の使用によって重量増が認められることを意味する。
【0020】
また、前記植物病害防除剤とは、対象植物の病気が発病する前に本剤の散布等により病気の発生を予防しうることをいい、発病した病気を治癒することまでを含むものではない。
【0021】
本発明の植物生育改善剤及び/又は植物病害防除剤は、シソ目シソ科シソ属の植物からの水抽出又は熱水抽出後の溶液を乾燥残渣に換算して、或いはシソ目シソ科シソ属の植物の乾燥・粉砕したパウダーを、投与する対象植物の一苗当たり1.0~2.0gの範囲で含むことを特徴とする。この場合、「換算する」とは、本剤として利用するに際しては、水や熱水で抽出された後の水溶液をそのまま又は適当に水で希釈して使用するのであるが、これらの溶液には溶媒として水が含まれているため有効成分として含めることは適切ではなく、当該水を除いて計算することを意味する。
【0022】
その使用量は、投与する対象植物によって異なるが、概ね一苗当たり、シソ属植物の乾燥重量換算で1.0~2.0gを散布する。この範囲よりも少ないと生育改善や病害防除の効果が低下して、本剤を使用しない場合と差異がなくなる。また、この範囲より多くてもより一層効果が向上する訳ではなく、却って手間とコストの増大を招くおそれもある。
【0023】
本剤の散布時期は、これも対象植物によって異なるが、播種直後~1か月程度までの間に適宜処理するのが好ましい。さらに、本剤の原料は前記の通り古くから食用として用いられ安全性において問題はなく、耐性菌の懸念がない天然原料を使用するので、数日間の連続使用や、連作での使用も可能である。
【0024】
本発明において、シソ属植物を乾燥させてパウダーとして利用するのは、本剤の製造・処理等における取り扱いの容易さが大きな理由である。水分を含んだ状態では、細かく粉砕することが困難であるだけでなく、本剤を植物に散布するまでの保存期間が相対的に短くなる。また、乾燥状態のものを取扱う方が、計量しやすく、全体の重量が軽い点で優れている。なお、パウダーとして利用する際の粒子の大きさには特に制限はない。
【0025】
シソ属植物からの水抽出又は熱水抽出後の溶液を利用する場合、多くはエッセンシャルオイル(精油)として利用するための製造工程で廃棄される部分(すなわち水又は熱水抽出後の残分)を、再利用することになる。また、廃棄される生葉はそのまま乾燥させてパウダーとして利用することも可能であるため、投与作物の栽培体系・利用場面に応じた手法選択が可能である。
【0026】
一般にエッセンシャルオイル(精油)を抽出する際には、シソ属植物の葉茎を、そのまま或いは適宜切断する等して蒸留釜に入れ、そこに水蒸気を送り込むか、水又は熱水中に浸漬させる。水蒸気を送り込む場合には、シソ属植物中にある精油成分が遊離、気化して水蒸気と一緒に取り出せるので、この水蒸気を冷却して液体状態に戻した際に精油と水との2層に分かれて溜り、ここから水層を分離して取り出すことにより、精油を得ることができる。
【0027】
水又は熱水中に浸漬させた場合には、好適には70~100℃まで加熱して、30秒~数時間かけて水蒸気を取り出し、後は前記と同様にして冷却後に分離する。
【0028】
本発明では、精油を利用する訳ではなく、蒸留釜に残る部分を用いる。これらは精油に比べて含有成分が酸化されやすいとか、微生物が繁殖しやすい、精油のような効能効果がないため他に使途がなく、通常は廃棄される。
【0029】
なお、植物から精油を抽出方法は他にもあり、例えば、圧搾法(主に柑橘系果実の果皮から抽出する方法として用いられ、圧搾するだけで精油を取り出せる。)、溶剤抽出法(水の代わりにアルコール等の揮発性溶剤を使用する。)、油脂吸着法(動物性の脂により植物から抽出する方法)、超臨界抽出法(高圧下で液化させた二酸化炭素等を溶剤として使用して精油を取り出す方法)などがある。本発明では、これらの方法で精油を取り出した後の残分を利用しないという訳ではないが、シソ属植物から精油を取り出す際に用いられる方法としては、水・熱水(水蒸気を含む)を利用する方法が一般的であるため、廃棄される部分(量)も多く、それを有効活用できれば、新たな需要を生み出すことに繋がると考えている。
【0030】
さて、熱水抽出液(蒸留残液分画)を本発明で使用する際には、水等で適宜希釈する他、水溶液であれば保存性を高めるために加熱処理等の殺菌処理を施しても良く、遠心分離やろ過によって不純物を取り除いても良い。
【0031】
乾燥パウダーまたは熱水抽出液(蒸留残液分画)は、適当な容器に詰めて保存流通させることができる。容器の形態に限定はなく、例えば、ポリプロピレン等の袋や、樹脂製のボトル、アルミ製の缶や、ガラス瓶などを挙げることができる。特に乾燥状態で扱う場合には、投与対象植物への散布が根元や茎周辺の土壌になりやすく、水溶液の場合には葉や茎に直接散布する方法が採用される。
【0032】
本発明では、本剤を対象植物へ投与または散布することによって、当該植物の生育改善や病害防除の効果を目的とする。生育改善の評価方法としては、本剤を投与対象植物に適用後、1週間から数週間生育させ、対象植物の地上部と地下部の乾物重量を測定することによって行うことができる。
【0033】
また、病害防除の効果を測定する方法としては、前記と同様にして数週間生育させた後に、病原菌を適当量接種し、数日ないし1週間後の対象植物の地上部と地下部の乾物重量を測定する他、発病率・発病指数を計測する。
【0034】
評価方法の一つとして、地上部と地下部の乾物重量測定を採用した理由は、植物全体としての重量評価よりも、どちらか一方により大きな影響がでる可能性があるために、それを把握することが目的である。また、発病率・発病指数の具体的な求め方は、下記実施例中にて後述する。
【0035】
以下本発明をより具体的に明らかにするために、いくつかの例を示す。
【0036】
(実施例1)
本実施例では、シソ属植物として青ジソ(大葉)を選択し、(1)生葉を乾燥して粉砕しパウダー状(以下「パウダー」)にしたもの、(2)生葉0.5~2gに対して蒸留水10mlを添加して、(精油を得る工程の代用として)オートクレーブ処理(121℃で15分)し、濾紙(ADVANTEC(株), No.1)を使用してろ過して抽出液(以下「熱水抽出液」)としたもの、(3)生葉0.5~2.0gに対して蒸留水10mlを添加してミキサーで1分混合後、濾紙を使用してろ過して抽出液(以下「水抽出液」)としたもの、(4)パウダー0.2~0.4gと蒸留水10mlを添加してミキサーで1分混合後、濾紙を使用してろ過して抽出液(以下「パウダー抽出液」)としたもの、の4種を準備した。
【0037】
熱水抽出液中に含まれる乾燥残渣は0.05~0.2g、水抽出液中に含まれる乾燥残渣は0.05~0.2g、パウダー抽出液中に含まれる乾燥残渣は0.2~0.4gであった。
【0038】
次に(2)については、当該抽出液を蒸留水で20倍(5%)、10倍(10%)、5倍(20%)に希釈して散布用の試料とし、(3)については、当該抽出液を蒸留水で20倍(5%)、10倍(10%)、5倍(20%)に希釈して散布用の試料とし、(4)については、当該抽出液を蒸留水で50倍(2%)、25倍(4%)に希釈して散布用の試料とした。
【0039】
対象植物には、‘よつぼし’(イチゴ)または‘章姫’(イチゴ)を選択し、発芽・ランナー採苗30日後の一苗当たりに、
(A)(1)のパウダーを一苗当たり1g又は2gを根元に散布して7週間栽培、または、
(B)(2)と(3)の、5%又は10%の試料50mlを、それぞれ根元に散布して1週間栽培後、再度同量追加で散布し4週間栽培(合計5週間栽培)、または、
(C)(2)と(3)の、10%又は20%の試料10mlを、それぞれ葉及び茎の部分に散布して1週間栽培後、再度同量追加で散布して4週間栽培(合計5週間栽培)、または、
(D)(4)の2%又は4%の試料10mlを、それぞれ葉及び茎の部分に散布して1週間栽培後、再度同量追加で散布して4週間栽培(合計5週間栽培)した。
【0040】
前記(A)~(D)の4パターンで栽培した後の、イチゴの地上部(茎・葉)と地下部(根)の乾燥重量をそれぞれ測定して、イチゴの成長促進にどの程度寄与しているかを調べた。その結果を
図1及び
図2に示す。なお、各苗に本剤を散布しない間は、24時間ごとに蒸留水を50ml散布した。また、対照区として、前記(A)~(D)の散布に代えて蒸留水を10~50ml散布した。
【0041】
図1は‘よつぼし’に関する乾燥重量の結果を示しており、地上部はいずれも重量増を認めた。地下部については(A)のパウダー2g処理の場合に重量増を認めた。
【0042】
図2は‘章姫’に関する乾燥重量の結果を示しており、地上部はいずれも重量増を認めた。また、地下部については(B)の水抽出液10%または熱水抽出液10%散布の場合に顕著な重量増が認められた。
【0043】
(実施例2)
本実施例では、シソ属植物として赤ジソを選択し、(1)生葉を乾燥して粉砕しパウダー状(以下「パウダー」)にしたもの、(2)赤ジソの生葉1~2gに対して蒸留水10mlを添加してミキサーで1分混合後、濾紙を使用してろ過して抽出液(以下「水抽出液」)としたもの、(3)パウダー0.4gと蒸留水10mlを添加してミキサーで1分混合後、濾紙を使用してろ過して抽出液(以下「パウダー抽出液」)としたもの、の3種を準備した。
【0044】
水抽出液中に含まれる乾燥残渣は0.1~0.2g、パウダー抽出液中に含まれる乾燥残渣は0.4gであった。
【0045】
次に(2)については、当該抽出液を蒸留水で10倍(10%)、5倍(20%)に希釈して散布用の試料とし、(3)については、当該抽出液を蒸留水で25倍(4%)に希釈して散布用の試料とした。
【0046】
対象植物には、‘よつぼし’(イチゴ)を選択し、発芽30日後の一苗当たりに、
(A)(1)のパウダー2gを根元に散布して4週間栽培、または、
(B)(2)の、10%の試料50mlを、根元に散布して1週間栽培後、再度同量追加で散布し3週間栽培(合計4週間栽培)、または、
(C)(2)の20%の試料10ml又は(3)の4%の試料10mlを、それぞれ葉及び茎の部分に散布して1週間栽培後、再度同量追加で散布して3週間栽培(合計4週間栽培)
した。
【0047】
前記(A)~(C)の3パターンで栽培した後の、イチゴの地上部(茎・葉)と地下部(根)の乾燥重量をそれぞれ測定して、イチゴの成長促進にどの程度寄与しているかを調べた。その結果を
図3に示す。なお、各苗に本剤を散布しない間は、24時間ごとに蒸留水を1苗当たり50ml散布した。また、対照区として、前記(A)~(C)の散布に代えて蒸留水を10~50ml散布した。
【0048】
図3は赤ジソを処理した‘よつぼし’に関する乾燥重量の結果を示しており、地上部はいずれも重量増を認めた。地下部については、(A)のパウダー2g処理の場合に重量増が認められ、その他は対照区と同等の重量増であった。
【0049】
(実施例3)
本実施例では、実施例1と同様にして準備した青じその、パウダー、水抽出液、熱水抽出液を用いて、イチゴ萎黄病に対する病害防除効果を調べた。なお、水抽出液を蒸留水で20倍(5%)、10倍(10%)に希釈して散布用の試料とし、熱水抽出液については、蒸留水で20倍(5%)、10倍(10%)に希釈して散布用の試料とした。
【0050】
対象植物には、‘よつぼし’または‘章姫’を選択し、発芽・ランナー採苗30日後の一苗当たりに
(A)パウダー1gまたは2gを根元に散布して9週間栽培後、或いは、
(B)5%又は10%希釈の水抽出液50ml、或いは、5%又は10%希釈の熱水抽出液50ml、を散布後1週間栽培し、再度同量の各濃度の抽出液をそれぞれ散布して6週間栽培し、さらに再度同量の各濃度の抽出液をそれぞれ散布(合計7週間栽培)して、栽培中の対象植物を用意した。
なお、各苗に本剤を散布しない間は、24時間ごとに蒸留水を50ml散布した。また、対照区として、前記(A)または(B)の散布に代えて蒸留水を10~50ml散布した。
【0051】
次に上記(A)または(B)のイチゴ一苗あたり、萎黄病菌(Fusarium oxysporum f. sp. fragariae, 2S, Fof)を106/ml含む溶液を50ml散布して、感染させ、5日間栽培を継続した。なお、各苗には24時間ごとに蒸留水を50ml散布した。
【0052】
また、前記栽培継続後のイチゴの葉の色を観察して地上部発病率・発病指数を以下の式にて計算し、地下部(根)の褐変程度を観察して、地下部発病率・発病指数を以下の式にて計算した。
発病率の算出法
地上部発病率は全苗数に対する発病苗数で算出し、発病段階はイチゴ一苗当たりの全葉数に対する発病葉数の割合で算出した。発病段階は0:0%、1:0~20%、2:20~40%、3:40~60%、4:60~80%、5:80%~(最重度段階)に分類した。
地下部発病率は全苗数に対する発病苗数で算出し、発病段階はイチゴ一苗の根系について1:一部褐変、2:半分褐変、3:全褐変(最重度段階)に分類した。
発病指数は以下の式により算出される。
【0053】
【0054】
その結果を
図4(‘よつぼし’)及び
図5(‘章姫’)に示す。
【0055】
図4は‘よつぼし’に関する結果を示しており、特に地上部では水抽出液10%で、地下部ではパウダー1g・2g区で顕著な病害防除効果であった。
【0056】
図5は‘章姫’に関する結果を示しており、地上部・地下部とも、水抽出液5%・パウダー1g・2g区で病害防除効果が大きかった。
【0057】
図4および
図5に示す結果から、‘よつぼし’、‘章姫’共に、水抽出液5%または10%、パウダー1g・2gの散布が病害防除に特に効果的であることが示された。
【0058】
(実施例4)
本実施例では、実施例2と同様にして準備した赤ジソの、パウダー、水抽出液を用いて、イチゴ(‘よつぼし’)の萎黄病菌(Fusarium oxysporum f. sp. fragariae, 2S, Fof)に対する病害防除効果を調べた。なお、水抽出液は蒸留水で5倍(20%)に希釈して散布用の試料とした。
【0059】
対象植物には、‘よつぼし’を選択し、発芽30日後の一苗当たりに
(A)パウダー2gを根元に散布して6週間栽培後、或いは、
(B)20%希釈の水抽出液50mlを2日間継続して散布後栽培して、
栽培中の対象植物を用意した。
なお、各苗に本剤を散布しない期間は、24時間ごとに蒸留水を50ml散布した。また、対照区として、前記(A)または(B)の散布に代えて蒸留水を10~50ml散布した。
【0060】
次に上記(A)または(B)のイチゴ一苗あたり、萎黄病菌を106/ml含む溶液を50ml散布して、感染させ、5日間栽培を継続した。なお、各苗には24時間ごとに蒸留水を50ml散布した。
【0061】
図6に、発病率、発病指数の結果を示している。水抽出液、パウダー共に、散布することで青じそと同様、病害防除効果があることが判った。
【0062】
(実施例5)
本実施例では、実施例1と同様にして準備した青じその、パウダー、水抽出液、熱水抽出液、パウダー抽出液を用いて、イチゴ炭疽病に対する病害防除効果を調べた。なお、水抽出液・熱水抽出液は共に、蒸留水で10倍(10%)、5倍(20%)に希釈して散布用の試料とし、パウダー抽出液については、蒸留水で25倍(4%)に希釈して散布用の試料とした。
【0063】
対象植物には、‘章姫’を選択し、ランナー採苗30日後の一苗当たりに
(A)パウダー1gを根元に散布、
(B)10%又は20%の、水抽出液または熱水抽出液を各10ml、或いは、4%のパウダー抽出液10ml、を地上部(葉・茎)に散布、
(C)10%の、水抽出液または熱水抽出液各50mlを根元に散布、
して試験用の苗を準備した。なお、対照区として(A)~(C)の散布に代えて蒸留水50mlを根元に散布した。
【0064】
次に上記(A)~(C)のイチゴ一苗あたり、炭疽病菌(Colletotrichum fructicola, Cf)を5.0×104/ml含む溶液を10ml散布して、感染させ、5日間栽培を継続した。炭疽病菌溶液散布後は、各苗に24時間ごとに蒸留水を50ml散布した。
【0065】
また、前記栽培継続後のイチゴの葉の色を観察して地上部発病率・発病指数を以下の式にて計算した。
発病率の算出法
地上部発病率は全苗の累積総葉数に対する発病・枯死葉数の割合で算出し、発病段階は0:無病徴葉、1:発病葉、2:枯死葉(最重度段階)に分類した。
発病指数は以下の式により算出される。
【0066】
【0067】
図7には、本試験の発病率と発病指数を示した。この結果から、熱水抽出液10%・パウダー抽出液4%区での病害防除効果が高かった。
【0068】
(実施例6)
本実施例では、実施例1と同様にして準備した青じそ(大葉)の、パウダー、水抽出液、熱水抽出液を用いて、メロンの成長促進効果を調べた。なお、水抽出液・熱水抽出液は共に、蒸留水で10倍(10%)に希釈して散布用の試料とした。
【0069】
対象植物には、メロン(Cucumis melo, ‘アールス雅春秋系’)を選択し、播種後に一苗当たり、
(A)パウダー2gを根元に散布して、27日間栽培
(B)12日間培養した後、10%の水抽出液または10%の熱水抽出液をそれぞれ50ml散布し、更に4日栽培して、再び同量の本剤を散布して11日間栽培、
した。なお、各苗に本剤を散布しない間は、24時間ごとに蒸留水を50ml散布した。また、対照区として、前記(A)又は(B)の散布に代えて蒸留水を50ml散布した。
【0070】
前記栽培後の、メロンの地上部(茎・葉)と地下部(根)の乾燥重量をそれぞれ測定して、青じそがメロンの生育にどの程度影響しているかを調べ、
図8に示した。この結果から、抽出液・パウダーを散布したいずれの例でも地上部・地下部の乾燥重量が対照区と比較して増加しており成長促進効果が認められた。
【0071】
(実施例7)
本実施例では、実施例1と同様にして準備した青じその、パウダー、水抽出液、熱水抽出液を用いて、メロンつる割病に対する病害防除効果を調べた。なお、水抽出液・熱水抽出液は共に、蒸留水で10倍(10%)に希釈して散布用の試料とした。
【0072】
対象植物には、メロン(Cucumis melo, ‘アールス雅春秋系’)を選択し、
(A)播種と同時にパウダー2gを散布して26日間栽培
(B)10%の、水抽出液または熱水抽出液各50mlずつを、播種から12日後、更に4日後、更に10日後の計3回散布して栽培(この場合は3回目の水抽出液または熱水抽出液を散布直後に、下記の菌液を散布することになる)した後、メロン一苗当たり、つる割病菌(Fusarium oxysporum f. sp. melonis,レース1, 2y, Fom)を1.0×106/ml含む溶液を50ml散布して感染させ、8日間栽培を継続した。本剤を散布する以外の時間およびつる割病菌溶液散布後は、各苗に24時間ごとに蒸留水を50ml散布した。
【0073】
また、前記栽培継続後のメロンの地上部を観察して発病率を以下の式にて計算した。
発病率の算出法
発病率は全苗数に対する発病苗の割合で算出し、発病段階はメロン地上部における病徴を0:萎凋・黄化なし、1:一部萎凋・黄化、2:半分萎凋・黄化、3:全萎凋・黄化(最重度段階)に分類し、全苗数に対する各段階の割合で算出した。
発病指数は以下の式により算出される。
【0074】
【0075】
図9には、実施例7の発病率と発病指数を示した。こちらの結果から全ての処理区で病害防除効果が示されており、肥料等のように前もって植物に作用させておくことで、菌への抵抗性を上げることができる。このことから、本剤が、病原菌を殺菌するなどの抗菌剤として働くことの他に、植物の病原菌に対する耐性を向上させる働き(病害防除効果)があると思われる。
【0076】
(参考試験例1)
青じその水抽出液、精油を抽出する工程で廃棄される蒸留釜に残る部分(熱水抽出液)を用いて、イチゴ炭疽病菌に対する抗菌試験を行った。試験方法は、水抽出液(8・16%)、熱水抽出液を25倍(4%)、12.5倍(8%)に希釈した試験液を準備し、各試験液20mlとCzapek-Dox Agar培地20mlをシャーレにとって、イチゴ炭疽病菌(Colletotrichum fructicola, Cf)を接種した後、25℃で1週間培養して菌叢半径を測定し、対照区を100として比較することにより、増殖指数を算出した。
【0077】
図10に各試験液と増殖指数との関係を示す。この図からすべての処理区で増殖抑制が確認された。また、水抽出液・熱水抽出液の液体クロマトグラフ質量分析計(ACQUITY UPLC, Waters社)を用いた解析結果より、ロスマリン酸、クロロゲン酸、クマル酸、シキミ酸、アピゲニンのピークが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0078】
シソ目シソ科シソ属の植物を農業的に利用する場合には、一般に安全性に関して問題はなく、化学薬品のように耐性菌を作る心配もない。また、本剤の原料としては、元々廃棄される予定であったシソ属植物、或いは、その抽出残渣を利用することができ、これらを活用すれば、新たな需要を生み出すことができる。