(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022105463
(43)【公開日】2022-07-14
(54)【発明の名称】プリント基板のレーザ加工方法およびプリント基板のレーザ加工機
(51)【国際特許分類】
B23K 26/386 20140101AFI20220707BHJP
H05K 3/00 20060101ALI20220707BHJP
【FI】
B23K26/386
H05K3/00 N
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】書面
(21)【出願番号】P 2021017801
(22)【出願日】2021-01-02
(71)【出願人】
【識別番号】512052904
【氏名又は名称】大船企業日本株式会社
(72)【発明者】
【氏名】荒井 邦男
(72)【発明者】
【氏名】金谷 保彦
(72)【発明者】
【氏名】波多 泉
(72)【発明者】
【氏名】北 泰彦
(72)【発明者】
【氏名】立石 秀典
(72)【発明者】
【氏名】石井 和久
【テーマコード(参考)】
4E168
【Fターム(参考)】
4E168AD12
4E168AD14
4E168CB04
4E168DA23
4E168DA43
4E168DA52
4E168EA11
4E168EA15
4E168JA04
4E168JA14
4E168JA17
4E168JA23
4E168JB01
(57)【要約】 (修正有)
【課題】プリント基板の配線長の短縮化を可能にすると共に、品質に優れる穴を能率良く加工することができるプリント基板のレーザ加工方法およびプリント基板のレーザ加工機を提供する。
【解決手段】高周波パルスRF出力により出力制御されるレーザ出力装置から出力されたレーザをワークに照射してワークを加工するプリント基板のレーザ加工方法において、高周波パルスRF出力をオンしてから実際にレーザが出力されるまでの時間t0を予め求めておくと共に、レーザの進行経路中にレーザの進行方向を変える手段を設けておき、前記高周波パルスRF出力をオンしている間の時間t1は前記レーザを総てワークに照射し、前記高周波パルスRF出力をオフすると同時に前記レーザの少なくとも一部をワークから外すようにする。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
高周波パルスRF出力により出力制御されるレーザ出力装置から出力されたレーザをワークに照射してワークを加工するプリント基板のレーザ加工方法において、
高周波パルスRF出力をオンしてから実際にレーザが出力されるまでの時間t0を予め求めておくと共に、
レーザの進行経路中にレーザの進行方向を変える手段を設けておき、
前記高周波パルスRF出力をオンしている間は前記レーザを総てワークに照射し、
前記高周波パルスRF出力をオフすると同時に前記レーザの少なくとも一部をワークから外す
ことを特徴とするプリント基板のレーザ加工方法。
【請求項2】
高周波パルスRF出力により出力制御されるレーザ出力装置から出力されたレーザをワークに照射してワークを加工するプリント基板のレーザ加工方法において、
高周波パルスRF出力をオンしてから実際にレーザが出力されるまでの期間t0を予め求めておくと共に、
前記期間t0に続く第2の期間t10と、前記期間t10に続く第3の期間t1と、を定める期間設定手段と、
レーザの進行経路中にレーザの進行方向を変える手段と、
を設けておき、
前記期間t0、t10,t1は高周波パルスRF出力をオンにすると共に、
前記期間t0と前記t10は前記レーザの少なくとも一部をワークから外し、
前記期間t1は前記レーザを総てワークに照射し、
前記期間t1が経過した時、前記高周波パルスRF出力をオフすると同時に前記レーザの少なくとも一部をワークから外す
ことを特徴とするプリント基板のレーザ加工方法。
【請求項3】
高周波パルスRF出力により出力制御されるレーザ出力装置を備え、前記レーザ出力装置から出力されたレーザをワークに照射してワークを加工するプリント基板のレーザ加工装置において、
予め高周波パルスRF出力をオンしてから実際に前記レーザが出力されるまでの時間t0を予め求めておくと共に、
前記レーザ出力装置と前記ワークとの間に前記レーザの進行方向を変える進路変更装置を設け、
前記進路変更装置は、前記前記レーザ出力装置がオンの間は前記レーザの総てをワークに照射し、
前記高周波パルスRF出力がオフの間は前記レーザの少なくとも一部をワークから外すことを特徴とするプリント基板のレーザ加工装置。
【請求項4】
高周波パルスRF出力により出力制御されるレーザ出力装置を備え、前記レーザ出力装置から出力されたレーザをワークに照射してワークを加工するプリント基板のレーザ加工装置において、
予め高周波パルスRF出力をオンしてから実際に前記レーザが出力されるまでの時間t0を予め求めておくと共に、
前記期間t0に続く第2の期間t10と、前記期間t10に続く第3の期間t1と、を設定する手段と、
前記レーザの進行方向を変える進路変更装置とを
を設け、
前記進路変更装置を前記レーザ出力装置と前記ワークとの間に配置しておき、
前記期間t0、t10,t1は前記高周波パルスRF出力をオンにすると共に、
前記期間t0と前記t10は前記レーザの少なくとも一部をワークから外し、
前記期間t1は前記レーザの総てをワークに照射し、
前記期間t1が経過した時、前記高周波パルスRF出力をオフすると同時に前記レーザの少なくとも一部をワークから外す
ことを特徴とするプリント基板のレーザ加工装置。
【請求項5】
前記進路変更装置がEOMである
ことを特徴とする請求項3または請求項4いずれかに記載のプリント基板のレーザ加工装置。
【請求項6】
前記進路変更装置がAOMである
ことを特徴とする請求項3または請求項4いずれかに記載のプリント基板のレーザ加工装置。
【請求項7】
前記進路変更装置がシャッタである
ことを特徴とする請求項3または請求項4いずれかに記載のプリント基板のレーザ加工装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ビルドアップ式のプリント基板の所望の位置に表面の銅層と下層の銅層を接続するブラインドホール(行止まり穴。以下、単に穴またはBHという。)あるいは両面基板を表と裏からそれぞれ加工して表面の銅層と裏面の銅層を接続するスルーホール(貫通穴。以下、貫通穴またはTHという。)を形成するようにしたプリント基板のレーザ加工方法およびプリント基板のレーザ加工機に関する。
【0002】
ビルドアップ式のプリント基板は導体である銅層とガラス繊維やフィラを含有する樹脂で形成された絶縁層(以下、単に「絶縁層」という。)とから構成されている。銅層としてはレーザの吸収を高める目的で表面処理(黒化処理やブラウン処理等と呼ばれる)がされた厚さ5~12μmのものだけで無く、表面処理がされていない光沢面の厚さ1.5~2μmのものも使用されている。また、絶縁層の厚さは20~200μmである。また、炭酸ガスレーザにより穴を加工する場合、表面の銅層と下層の銅層をめっきで接続する層間接続用として40~120μmの穴を、また、基板の表面回路と裏面回路をめっきで接続するため、基板の表面と裏面を接続する断面が砂時計形状の80~100μmの貫通穴を、さらに、回路パターンを形成する場合に基準穴として使用される120~250μmの穴を、それぞれ加工する。そして、レーザ加工としては、後工程であるめっき工程を容易にする加工結果が要求されている。
【0003】
初めに、従来のレーザ加工機の構成について説明する。
図9は、従来のレーザ加工機の構成図である。
レーザ発振器1は、パルス状直線偏光のレーザ2を出力する。
レーザ発振器1とプレート6との間に配置されたビーム径調整装置3はレーザ2のエネルギ密度を調整するための装置であり、レーザ発振器1から出力されたレーザ2の外径を変更することによりレーザ2のエネルギ密度を調整する。すなわち、ビーム径調整装置3の前後におけるレーザ2のエネルギは変化しない。したがって、ビーム径調整装置3から出射されたレーザ2はレーザ発振器1から出力されたレーザ2と見なすことができるので、以下、レーザ発振器1とビーム径調整装置3と、を併せてレーザ出力装置1Aという。なお、ビーム径調整装置3は使用されない場合もある。
ビーム径調整装置3とプレート6との間には偏光変換装置5が配置されている。偏光変換装置5は直線偏光のレーザ2を円偏光のレーザ4に変換する。なお、偏光変換装置5は加工中において加工部で反射されたレーザ4を遮断する反射光遮断機構(詳細は省略する。)を備えており、加工部で反射されたレーザ4によるレーザ発振器1の損傷を予防する機能を備えている。
偏光変換装置5とガルバノミラー7aとの間に配置されたプレート6はレーザ4を透過させない材質(例えば、銅)で形成されており、所定の位置にアパーチャ(窓であり、この場合は円形の貫通穴)8が複数個かつ選択可能に形成されている。
プレート6は図示を省略する駆動装置により駆動され、選択されたアパーチャ8の軸線をレーザ4の軸線と同軸に位置決めする。ガルバノ装置7は一対のガルバノミラー7a、7bで構成され、図中矢印で示すように回転軸の回りに回転自在であり、反射面を任意の角度に位置決めすることができる。fθレンズ(集光レンズ)9は、図示を省略する加工ヘッドに保持されている。ガルバノミラー7a、7bとfθレンズ9とでレーザ4の光軸をプリント基板10の所望の位置に位置決めする光軸位置決め装置を構成しており、ガルバノミラー7a、7bの回転角度とfθレンズ9の直径とで定まるスキャン領域(すなわち、加工領域)11は、50mm×50mm程度の大きさである。ワークである銅層10cと絶縁層10zとからなるプリント基板10は、X-Yテーブル12に固定されている。制御装置20は入力された制御プログラムに従い、レーザ発振器1、ビーム径調整装置3、プレート6の駆動装置、ガルバノミラー7a、7bおよびX-Yテーブル12を制御する。
【0004】
そして、穴を加工をする場合は、X-Yテーブル12を移動させてfθレンズ9を指定された加工領域11に対向させた後、先ず、当該加工領域11内の総ての銅層を1回のビーム照射(すなわち、1パルスの照射)により穴を加工し(なお、銅層10cに開けた穴をウインドウという)、その後、1ないし複数回のパルス照射によりウインドウ下部の絶縁層を加工して、当該加工領域11内の穴を完成させる。なお、絶縁層10zを加工する際、1つの穴に複数回のパルス照射をする場合は、当該加工領域11内の同径の穴をいわゆるサイクル加工法で加工する。
また、貫通穴を加工する場合は、プリント基板10の一方の側から総ての穴を途中まで加工し、その後プリント基板10を反転させ、他方の側から総ての穴を加工して、断面が砂時計状の貫通穴を完成させる。
【0005】
次に、レーザが炭酸ガスレーザである場合についてその特性を説明する。
図10は特許文献1に開示されているレーザ発振器1の出力を説明する図であり、上段はレーザ発振器1の制御信号によって起動される高周波パルスRF出力である。また、下段はレーザ4の1パルスの出力波形であり、縦軸は出力レベルを、横軸は時間を、それぞれ表している。レーザ発振器1を起動すると(時刻T0)、レーザ発振器1内部のレーザ媒体に高周波パルスRFが印可されエネルギのチャージが開始される。そして、エネルギが飽和するとレーザ4が発振される(時刻T1)。レーザ2は発振直後に出力が急上昇した後(時刻Tj)、一旦下がり(時刻Td)、以降、出力が増大した後、ゆるやかに下がる(なお、同図は出力増大中の図である)。そして、レーザ発振器1を停止、すなわち高周波パルスRFの印可を停止(時刻T2)しても、引き続きエネルギは減衰しながら出力され、時刻T3で0になる。そして、1パルスのパルスエネルギEpは、時刻T1から出力レベルが0となる時刻T3までの期間の総エネルギ量である。
以下、時刻Tjの出力レベルを第1のピーク出力PW1と言い、一旦下がった(時刻Td)以降の出力が最大となるときの出力レベルを第2のピーク出力PW2と言う。なお、
図10においては、出力が増大中であるため、第2のピーク出力PW2は表示されていない。
また、レーザ発振器から発振されるレーザの出力は、上記レーザ発振器のようにレーザの発振が開始されてから出力が徐々に増加した後に一旦出力が低下し、再び増加してほぼ一定値になった後消滅するものだけではなく、発振が開始されてから出力が徐々に増加して(増加する出力の割合は緩急いろいろである。)ほぼ一定値になった後消滅するもの(特許文献2)など、様々な出力形態がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記特許文献1の技術に依れば、表面処理がされている表面の銅層の厚さが7μm、絶縁層の厚さが60μmのプリント基板7や表面処理がされていない表面の銅層の厚さが1.5μm、絶縁層の厚さが40μmのプリント基板を加工できるとしているが、加工できる穴の径に関して不明瞭であり、実務上は加工する穴の数を増す(例えば、2割り増し)ことにより、加工の信頼性を向上させていた。
近年、多層プリント基板の電送信号の安定化をはかるため、配線長の短縮が要求されており、従来の技術では加工が困難であった以下の加工を可能にすることが要求されている。また、さらなる加工の能率化も要求されている。
すなわち、
(1)板厚が12μm以下の表面粗化された内層銅層(穴底の銅層)に、厚さが60μm以下の絶縁層をはさむようにしてビルドアップされた板厚が2μmの光沢面銅層とからなるビルドアップ基板に直径が60μm以下のBHを加工すること。
(2)厚さが60μm以下の絶縁層を挟み、表面と裏面の銅層が光沢面の板厚が1.5~2μmの両面基板に、穴径60μm以下のTHを加工すること。
である。
【0007】
本発明の目的は、プリント基板の配線長の短縮化を可能にすると共に、品質に優れる穴を能率良く加工することができるプリント基板のレーザ加工方法およびプリント基板のレーザ加工機を提供するにある。
【0008】
上記課題を解決するため、請求項1の発明は、
高周波パルスRF出力により出力制御されるレーザ出力装置から出力されたレーザをワークに照射してワークを加工するプリント基板のレーザ加工方法において、
高周波パルスRF出力をオンしてから実際にレーザが出力されるまでの時間t0を予め求めておくと共に、
レーザの進行経路中にレーザの進行方向を変える手段を設けておき、
前記高周波パルスRF出力をオンしている間は前記レーザを総てワークに照射し、
前記高周波パルスRF出力をオフすると同時に前記レーザの少なくとも一部をワークから外す
ことを特徴とするプリント基板のレーザ加工方法
である。
【0009】
また、請求項2の発明は、
高周波パルスRF出力により出力制御されるレーザ出力装置から出力されたレーザをワークに照射してワークを加工するプリント基板のレーザ加工方法において、
高周波パルスRF出力をオンしてから実際にレーザが出力されるまでの期間t0を予め求めておくと共に、
前記期間t0に続く第2の期間t10と、前記期間t10に続く第3の期間t1と、を定める期間設定手段と、
レーザの進行経路中にレーザの進行方向を変える手段と、
を設けておき、
前記期間t0、t10,t1は高周波パルスRF出力をオンにすると共に、
前記期間t0と前記t10は前記レーザの少なくとも一部をワークから外し、
前記期間t1は前記レーザを総てワークに照射し、
前記期間t1が経過した時、前記高周波パルスRF出力をオフすると同時に前記レーザの少なくとも一部をワークから外す
ことを特徴とするプリント基板のレーザ加工方法
である。
【0010】
また、請求項3の発明は、
高周波パルスRF出力により出力制御されるレーザ出力装置を備え、前記レーザ出力装置から出力されたレーザをワークに照射してワークを加工するプリント基板のレーザ加工装置において、
予め高周波パルスRF出力をオンしてから実際に前記レーザが出力されるまでの時間t0を予め求めておくと共に、
前記レーザ出力装置と前記ワークとの間に前記レーザの進行方向を変える進路変更装置を設け、
前記進路変更装置は、前記前記レーザ出力装置がオンの間は前記レーザの総てをワークに照射し、
前記高周波パルスRF出力がオフの間は前記レーザの少なくとも一部をワークから外すことを特徴とするプリント基板のレーザ加工装置
である。
【0011】
また、請求項4の発明は、
高周波パルスRF出力により出力制御されるレーザ出力装置を備え、前記レーザ出力装置から出力されたレーザをワークに照射してワークを加工するプリント基板のレーザ加工装置において、
予め高周波パルスRF出力をオンしてから実際に前記レーザが出力されるまでの時間t0を予め求めておくと共に、
前記期間t0に続く第2の期間t10と、前記期間t10に続く第3の期間t1と、を設定する手段と、
前記レーザの進行方向を変える進路変更装置とを
を設け、
前記進路変更装置を前記レーザ出力装置と前記ワークとの間に配置しておき、
前記期間t0、t10,t1は前記高周波パルスRF出力をオンにすると共に、
前記期間t0と前記t10は前記レーザの少なくとも一部をワークから外し、
前記期間t1は前記レーザの総てをワークに照射し、
前記期間t1が経過した時、前記高周波パルスRF出力をオフすると同時に前記レーザの少なくとも一部をワークから外す
ことを特徴とするプリント基板のレーザ加工装置
である。
【0012】
また、請求項5の発明は、前記進路変更装置がEOMである
ことを特徴とする請求項3または請求項4いずれかに記載のプリント基板のレーザ加工装置である。
【0013】
また、請求項6の発明は、前記進路変更装置がAOMである
ことを特徴とする請求項3または請求項4いずれかに記載のプリント基板のレーザ加工装置である。
【0014】
また、請求項7の発明は、前記進路変更装置がシャッタである
ことを特徴とする請求項3または請求項4いずれかに記載のプリント基板のレーザ加工装置である。
【発明の効果】
【0015】
本発明に依れば、板厚が12μm以下の表面粗化された内層銅層(穴底の銅層)に、厚さが40μm以下の絶縁層をはさむようにしてビルドアップされた板厚が1.5~2μmの光沢面銅層とからなるビルドアップ基板に直径が40μm以下の穴を加工すること、また、厚さが40μm以下の絶縁層を挟み、表面と裏面の銅層が光沢面の板厚が1.5~2μmの両面基板に、穴径40μm以下の貫通穴を加工することが可能になるので、プリント基板の配線長の短縮化可能にすると共に、品質に優れる穴および貫通穴を能率良く加工することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図2】電気光学素子EOMの動作を模式的に説明する動作説明図である。
【
図6】音響光学素子AOMの動作を模式的に説明する動作説明図である。
【
図10】レーザ発振器1の出力を説明する図である。
【
図11】高周波パルスRFの印可期間とレーザ出力との関係を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明者は、従来の加工データを参照すると共に、種々の条件で加工を行った。その結果、表面の銅層と絶縁層の少なくとも一方が薄いワークに直径が60μm以下の穴を加工する場合、
(A)銅層加工時にパルス期間を長くすると、加工時の熱が拡散してウインドウに対応する絶縁層およびウインドウ周辺の絶縁層が損傷してえぐれが大きくなる。したがって、銅層下部のえぐれを小さくするためには、
(1)銅層をできるだけ短時間で加工すること。
(2)加工結果のばらつきを小さくするためには、加工時間を正確に制御すること。
さらに、
(3)絶縁層の焼損が増加することを防止するため、ウインドウが形成された後、加工部 に供給されるエネルギを抑えること。
とすれば可能であると考えた。
【0018】
レーザ発振器が炭酸ガスレーザ発振器の場合、以下の順で、レーザが発振される。すなわち、
(1)高周波パルスRFを印可。
(2)印可された高周波パルスRFによりレーザ媒体中のN2ガス分子が励起され、エネ ルギ準位が上昇する。
(3)N2ガス分子のエネルギ準位が上昇すると、N2ガス分子のエネルギがCO2ガス 分子へ遷移され、CO2ガス分子のエネルギ準位が高まる。
(4)CO2ガスのエネルギ準位が高まり、飽和すなわち反転分布状態に達すると基底状態に戻る際にパルスが出力すなわちレーザが発振される。
そして、高周波パルスRF印可中は再励起されることにより基底状態に戻らず、パルス期間が継続する。
(5)レーザが発振される際は、高周波パルスRFがされてからレーザが発振されるまでの間に(時刻T0から時刻T1までの間)N2ガス分子、CO2ガス分子に蓄積されたエネルギが一度に出力されるため、比較的高い初期出力WP1が出力される。その後、一旦出力は下がるが、励起が継続して行われるため、出力は再上昇する。
ところで、上記特許文献1の場合、レーザ媒体に高周波パルスRFが印可されてから安定したパルスが出力されるまでの時間に±0.3μsのばらつきがあるとしている。しかし、パルス出力期間を細かく制御するためには、レーザ出力開始時刻のばらつきをできるだけ小さくする必要がある。
【0019】
そこで、第1の段階として、高周波パルスRF印可期間とパルス発生時刻との関係を調べた。
図11は高周波パルスRFの印可期間とレーザ出力との関係を説明する図であり、上段は高周波パルスRFのオンオフを、下段はレーザ出力を示す。また、横軸は時間であり、T0は時刻0である。
同図(a)に示すように、高周波パルスRFを3.0μs間印可したとき、高周波パルスRF印可停止後2.3μsでレーザが出力され、ピーク出力は0.35WP1であった。(ただし、WP1は高周波パルスRFを印可し続けたときのピーク値である。)
また、(b)に示すように、高周波パルスRFを3.6μs間印可したとき、高周波パルスRF印可停止後3.2μsでレーザが出力され、ピーク出力は0.8WP1であった。
また、(c)に示すように、高周波パルスRFを4.2μs間印可したとき、高周波パルスRF印可停止後0.4μsでレーザが出力され、ピーク出力は0.95WP1であった。
また、(d)に示すように、高周波パルスRFを4.6μs間印可したとき、高周波パルスRF印可終了と同時にレーザが出力され、ピーク出力はWP1であった。
また、(e)に示すように、高周波パルスRFを6μs間印可し続けたとき、さらに、(f)に示すように、高周波パルスRFを8μs間印可し続けたとき、いずれの場合も(d)の場合と同様に、4.6μsでレーザが出力され、ピーク出力はWP1であった。
以上の結果から、試験に用いたレーザ発振器の場合、時刻T0から4.6μs経過した時刻をレーザ出力時刻T1とすることができることを確認した。この結果、レーザ出力開始時刻のばらつきを0にすることができた。さらに、上記の試験において、時刻Tdがほとんど変動しないことに気がついた。
【0020】
次に、第2の段階として、絶縁物の損傷を減らす具体的な手段を検討するに当たり、絶縁物の損傷は銅層加工完了後すなわちウインドウ形成後に拡大すると仮定した。
そして、
(イ)銅層に穴すなわちウインドウが完成すると同時(時刻T2)に高周波パルスRFを 停止しても、レーザ発振器1内に残っているエネルギが消滅するまでレーザが出力され ること
(ロ)レーザ発振器1内に残っているエネルギは高周波パルスRF停止時(時刻T2)の レーザ出力に対応し、その時の出力が小さければ小さいほど小さくなること
(ハ)出力が第1のピークから第2のピークに移行する際の出力の谷間になる時刻Tdは 約0.5μsで、ほとんど変化しないことの観点から、時刻Tdに着目した。
そして、従来の加工データに基づき、厚さ2μの銅層に40μmの穴を空けるためのエネルギEwcは、1.3~1.8mJであることを演算により求めた。なお、演算に際しての加工対象の諸元を、ウインドウ径が40μm、また、ウインドウ加工と同時に直径が40μmで深さが20~30μmの穴が絶縁層に形成されるとした。また、光沢ある銅層はレーザを吸収しにくいこと、銅の熱伝導率が高いことにより加工部周辺に拡散するエネルギが大きいことも考慮した。さらに、パルス照射時間を0.5μsとした時にエネルギEwc以上が得られる場合のピーク出力PW1の値を演算により求め、PW1の値を3kW以上にすれば良いとの見通しを得た。
試験に用いたレーザ発振器1の特性を確認した結果、
(1)高いRF出力を印可して励起した場合、上記第1の出力レベルWP1、第2の出力レベルWP2はほぼ一定の比率で高くなる。そして、WP1は約3KWであり、WP2の約2倍である。
(2)ガス圧を高めて、比較的高いRFで励起すると、出力立ち上がりが速い、比較的大きな出力が得られる。
(3)電極ギャップを狭くし、また、単位空間のレーザ媒体量を増やしてガス圧を高めた状態で高い高周波パルスRFを印可すると、出力の立ち上がりが速い、比較的大きな出力が得られる。
ことを見いだした。
以上の結果から、レーザ発振器1の出力特性として、第1のピーク出力の値を予め出力PW1に設定できることを確認した。
なお、レーザ発振器1の出力特性はレーザ発振器1毎に僅かに異なるが、一度設定した特性は経年変化によりほとんど変化しないことも確認した。
【0021】
そして、上記第1の段階と第2の段階の結果を加工に適用し、2μmの銅層に直径60μmのウインドウを加工できることを確認した。しかし、絶縁層の成分のばらつきにより、ウインドウ下部およびウインドウ周辺の絶縁物の損傷が大きくなる場合があった。
また、絶縁層の厚さが薄い場合、開いた穴の先端が下層の銅層に到達する場合があり、場合によっては下層の銅層まで直径がほとんど変化しない穴が形成された。
穴(BH)の場合、表面銅層と底面の銅層を接続する穴としては、底面の穴の直径がウインドウの直径の80%である断面がすり鉢状の穴が理想的である。
また、貫通穴(TH)の場合、裏面から加工する穴の直径を表面側と同じにするためには、加工時に銅層下部で蒸発した絶縁物が蒸発するときの膨張力を利用することが必要になる。このため、下層の銅層の上部にある程度の絶縁層を残す必要がある。また、貫通穴の断面形状として砂時計状になることが望まれている。
このように、ウインドウ加工時に絶縁物の損傷が大きくなったり、絶縁物の穴径が大きくなるのは、高周波パルスRF停止後に加工部に供給されるパルスエネルギが原因であると推定した。
【0022】
そこで、第3の段階として、高周波パルスRF停止後に加工部に供給されるパルスエネルギを減衰させることとし、パルスエネルギの減衰手段として、先ずEOM(電気光学素子)を採用することにした。
そして、高周波パルスRFを停止させるタイミングでEOMを動作させ、高周波パルスRF停止後に供給されるパルスエネルギのほとんど(ほぼ100%)を加工部以外に導くことができる結果、絶縁物の損傷および穴径の拡大を軽減できることを確認した。
【0023】
以下、図面を用いて具体的に説明する。
図1は本発明に係るレーザ加工機の構成図であり、従来と同じ物あるいは同じ機能の物は同一の符号を付して重複する説明を省略する。
図1において、レーザの進行方向を変える進路変更装置30はビーム径調整装置3と偏光変換装置5との間に配置されている。この実施例では進路変更装置30として電気光学素子EOMを採用しているので、以下、進路変更装置30を電気光学素子EOM30という。制御装置20は、入力された制御プログラムに従い、レーザ発振器1、ビーム径調整装置3、プレート5の駆動装置、ガルバノミラー7a、7bおよびX-Yテーブル12の制御に加えてEOM30のオンオフを制御する。
【0024】
図2は電気光学素子EOM30の動作を模式的に説明する動作説明図である。
同図(a)に示すように、電気光学素子EOM30に高電圧を印加しない場合(すなわち、EOM30がオフの場合)、EOM30に入射した出力Ecのレーザ4はEOM30の内部を直進し、入射光と同軸の出力Ecレーザ4として出射する。
一方、同図(b)に示すように、電気光学素子EOM30に高電圧を印加した場合(すなわち、EOM30がオンの場合)、入射した出力Ecのレーザ4はEOM30の内部で反射され(反射率はほぼ100%である。また、動作時間は0.1μs以下である。)、入射方向に対して角度αの出力Ecのレーザ4として出射する。
電気光学素子EOM30は、電気光学素子EOM30がオンの場合に出射する出射光がガルバノミラー7aに入射するようにして、プレート5とガルバノミラー7aとの間に配置されている。また、電気光学素子EOM30がオフの場合に出射するレーザ4はビームダンパ31に入射して熱に変えられる。
以下、具体的な動作を説明する。
【0025】
(A)
図3は、表面の銅層が厚さが2μmの光沢銅層であり、絶縁層の厚さが40~60μmのプリント基板10に直径が40μmのウインドウを加工する場合のパルス波形であり、EOM30のオンオフおよび高周波パルスRFのオンオフを合わせて示している。また、縦軸は出力レベルを、横軸は時間を、それぞれ表している。
EOM30をオンにした状態で高周波パルスRFをオン(時刻T0)してから期間t0が経過した時刻T1にレーザ4が発生する。そして、時刻T1から期間t1が経過した時刻T2においてEOM30および高周波パルスRFがオフされる。同図に示すように、時刻T1以降時刻Tjまではレーザ出力が増加し、時刻Tj以降時刻Tdまではレーザ出力が減少し、時刻Td以降は再びレーザ出力が増加する。そして、時刻T2において高周波パルスRFがオフされると共にEOM30がオフされる。時刻T0から時刻T2までの間はEOM30がオンであるから、レーザ出力装置1Aから出力されたレーザ4は総てワークであるプリント基板10に供給される。また、ウインドウが完成した時刻T2以降出力が0となる時刻T3までの期間において、レーザ出力装置1Aから出力されたレーザ4は総てビームダンパ31に入射する。すなわち、同図に斜線を付して示すように、時刻T2以降レーザ出力装置1Aから出力されたレーザ4のエネルギは絶縁層に供給されないので、ウインドウ下部およびウインドウ周辺の絶縁層の損傷を防止できる。なお、時刻T1から時刻T2に供給されるエネルギは1.3~1.8mJである。
【0026】
(B)
図4は表面の銅層が厚さが2μmの光沢銅層であり、絶縁層の厚さが40~60μmのプリント基板10に直径が40μmのウインドウを加工する場合のパルス波形であり、EOM30のオンオフおよび高周波パルスRFのオンオフを合わせて示している。また、縦軸は出力レベルを、横軸は時間を、それぞれ表している。
EOM30をオンした状態で高周波パルスRFをオン(時刻T0)してから期間t0が経過した時刻T1にレーザ4が発生する。そして、時刻T1から期間t1が経渦した時刻T2においてEOM30および高周波パルスRFがオフされる。同図に示すように、時刻T1以降時刻T2まではレーザ出力が増加する。そして、時刻T2において高周波パルスRFがオフされると共にEOM30がオフされる。時刻T0から時刻T2までの間はEOM30がオンであるから、レーザ出力装置1Aから出力されたレーザ4は総てワークであるプリント基板10に供給される。また、ウインドウが完成した時刻T2以降において、レーザ出力装置1Aから出力されたレーザ4は総てビームダンパ31に入射する。すなわち、同図に斜線を付して示すように、時刻T2以降出力が0となる時刻T3までの期間において、レーザ出力装置1Aから出力されたレーザ4のエネルギは絶縁層に供給されない。したがって、ウインドウ下部およびウインドウ周辺の絶縁層の損傷を防止できる。なお、時刻T1から時刻T2に供給されるエネルギは1.3~1.8mJ程度である。
【0027】
ところで、ウインドウ径が80μm以上の穴を加工する場合、出力がほぼ安定したレーザ4を用いて加工することにより加工品質のばらつきを小さくできる場合がある。
(C)
図5は表面の銅層が厚さが7μm以上の光沢銅層であり、絶縁層の厚さが60μm以上のプリント基板10に直径が60μm以上のウインドウを加工する場合のパルス波形であり、EOM30のオンオフおよび高周波パルスRFのオンオフを合わせて示している。また、縦軸は出力レベルを、横軸は時間を、それぞれ表している。
EOM30をオフにした状態で高周波パルスRFをオン(時刻T0)する。そして、時刻T1からさらに期間t10が経過した時刻THまで、EOM30はオフの状態を継続する。そして、時刻THにおいてEOM30がオンされ、時刻THから期間t12が経過する時刻T2においてEOM30は再びオフされ、時刻T3を超えるまでオフの状態を継続する。この結果、レーザ4は時刻THから時刻T2までの期間t1だけワークであるプリント基板10に供給され、その他の期間はレプリント基板10に供給されない。この結果、同図に斜線を付して示すように、時刻T2以降レーザ出力装置1Aから出力されたレーザ4のエネルギは絶縁層に供給されない。したがって、ウインドウ下部およびウインドウ周辺の絶縁層の損傷を防止できる。なお、図示を省略するが、レーザ発振器1によっては、レーザの出力が徐々に増加するタイプの物があるが、そのようなレーザ発振器1であっても、例えば出力が3kWを超えた時点を基準にしてレーザ4を0.5μsの間ワークに供給するようにすることにより、前記(A)の場合と同様に、表面の銅層が厚さが2μmの光沢銅層であっても、絶縁層の厚さが40~60μmのプリント基板10に直径が60μmのウインドウを加工することができる。
なお、同図に斜線を付して示す時刻T1~時刻THまでレーザ出力は総てビームダンパ31に入射することは言うまでも無い。
【0028】
次に、上記電気光学素子EOMに代えて、音響光学素子AOMを進路変更装置30として採用する場合について説明する。なお、音響光学素子AOMは
図1における電気光学素子EOM30の位置に配置すれば良いので、全体図の図示を省略する。
図6は音響光学素子AOMの動作を模式的に説明する動作説明図である。
同図(a)に示すように、音響光学素子AOMに超音波を付加しない場合(すなわち、音響光学素子AOMがオフの場合)、音響光学素子AOMに入射した出力がEcのレーザ4は音響光学素子AOMの内部を直進して、入射光と同軸の出力がEcのレーザ4として出射する。
一方、同図(b)に示すように、音響光学素子AOMに超音波を付加した場合(すなわち音響光学素子AOMがオンの場合)、出力が0.85Ec(すなわち、入射したレーザ4の出力の85%)である1次回折光が入射方向に対して角度βの出射光として出射すると共に、出力が0.15Ec(すなわち、入射したレーザ4の出力の15%)である0次光が入射光と同軸のレーザ4として出射する。なお、音響光学素子AOMの動作時間すなわち超音波がビームを通過するのに要する時間は1.0μs程度である。
音響光学素子AOM30は、0次光がガルバノミラー7aに入射するようにして、プレート5とガルバノミラー7aとの間に配置されている。また、音響光学素子AOM30がオンである場合に音響光学素子AOM30から出射する1次回折光はビームダンパ31に入射して熱に変えられる。
【0029】
以下、具体的な動作を説明する。
(D)
図7は、表面の銅層が厚さが2μmの光沢銅層であり、絶縁層の厚さが40~60μmのプリント基板10に直径が60μmのウインドウを加工する場合のパルス波形であり、AOM30のオンオフおよび高周波パルスRFのオンオフを合わせて示している。また、縦軸は出力レベルを、横軸は時間を、それぞれ表している。なお、この
図7は、上記
図4に対応する図である。
AOM30をオフにした状態で高周波パルスRFをオン(時刻T0)してから期間t0が経過した時刻T1にレーザ4が発生する。そして、時刻T1から期間t1が経過した時刻T2において高周波パルスRFがオフされると同時にAOM30がオンされる。同図に示すように、時刻T1以降時刻Tjまではレーザ出力が増加し、時刻Tj以降時刻Tdまではレーザ出力が減少し、時刻Td以降は再びレーザ出力が増加する。そして、時刻T2において高周波パルスRFがオフされると共にAOM30がオンされる。時刻T0から時刻T2までの間はAOM30がオフであるから、レーザ出力装置1Aから出力されたレーザ4は総てワークであるプリント基板10に供給される。また、ウインドウが完成した時刻T2以降出力が0となる時刻T3までの期間はAOM30がオンされるので、レーザ出力装置1Aから出力されたレーザ4のうち1次回折光はビームダンパ31に入射し、0次光はワークであるプリント基板10に入射する。この結果、同図に斜線を付して示すように、時刻T2以降レーザ出力装置1Aから出力されるレーザ4のうちの85%のエネルギは絶縁層に供給されない。したがって、ウインドウ下部およびウインドウ周辺の絶縁層の損傷を無視できる程度に軽減することができる。
なお、上記(B)の場合については、この実施形態から容易に理解できるので、説明を省略する。
【0030】
(E)
図8は、上記(C)で説明した加工を音響光学素子AOMを用いて加工する場合の説明図である、すなわち、表面の銅層が厚さが7μm以上の光沢銅層であり、絶縁層の厚さが60μm以上のプリント基板10に直径が80μm以上のウインドウを加工する場合のパルス波形であり、AOM30のオンオフおよび高周波パルスRFのオンオフを合わせて示している。また、縦軸は出力レベルを、横軸は時間を、それぞれ表している。なお、図中二点鎖線部は全パルスエネルギを、点線部は0次光成分を示している。
AOM30をオンにした状態で高周波パルスRFをオン(時刻T0)する。そして、時刻T1からさらに期間t10が経過した時刻THまで、AOM30はオンの状態を継続する。この結果、時刻T1から時刻THまでの期間はレーザ4の0次光成分だけが加工部に供給され、レーザ4の1次回折光の成分は加工部に供給されない。そして、時刻THにおいてAOM30がオフされ、時刻THから期間t1が経過する時刻T2においてAOM30は再びオンされ、時刻T3を超えるまでオンの状態を継続する。この結果、時刻THから時刻T2までの間(期間t1)はレーザ4の総てが加工部に供給され、時刻T3以降はレーザ4の0次光の成分だけが加工部に供給される。この場合、時刻T1から時刻THまでの期間に供給されるレーザ4の0次光は銅層を予熱する。また、時刻T2以降は斜線で示すレーザ4の0次光の成分のエネルギだけが加工部に供給されるので、ウインドウ下部およびウインドウ周辺の絶縁層の損傷を無視できる程度に抑えることができる。
【0031】
ここで、レーザ4に関して、本発明と特許文献2との違いを説明する。
特許文献2の場合、銅層を加工するのにレーザ4の1次回折光だけを使用する構成であるから、レーザ4の出力エネルギの85%しか利用できない。一方、本発明はレーザ4の出力の総てを銅層加工に使用するので、特許文献2に比べて加工条件の裕度を大きくすることができる。
【0032】
なお、進路変更装置30として上記EOMを用いる場合、高周波パルスRFをオフしたときの動作はレーザの進路を完全に塞いだ場合と等価である。そこで、上記EOMに代えてレーザの進路を塞ぐことが可能なシャッタを進路変更装置30として採用しても良い。
【0033】
ところで、EOM30の場合、高電圧を印加するとことにより、EOM内部の位相シフト手段(反射手段)が動作する。本発明では、段落0024において、高電圧を印加するとことにより出射光が角度α曲がるようにしたが、位相シフト手段を本実施例の場合に関して90度回しておくことにより出射角度を0にすることができる。ただし、このように構成した場合、高電圧を印加しない状態でEOM30に入射した入射光は角度αで出射する。したがって、位相シフト手段を本実施例の場合に関して90度回した場合は、高電圧を印加した状態でEOM30から出射するレーザをビームダンパ31に入射させ、高電圧を印加しない状態でEOM30から出射するレーザをガルバノミラー7aに入射させる必要がある。
【符号の説明】
【0034】
4 レーザ
30 レーザ4の進路変更装置
RF 高周波パルス
t0 高周波パルスRF出力をオン後、レーザ4が出力されるまでの時間
【手続補正書】
【提出日】2021-11-18
【手続補正1】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ビルドアップ式のプリント基板の所望の位置に表面の銅層と下層の銅層を接続するブラインドホール(行止まり穴。以下、単に穴またはBHという。)あるいは両面基板を表と裏からそれぞれ加工して表面の銅層と裏面の銅層を接続するスルーホール(貫通穴。以下、貫通穴またはTHという。)を形成するようにしたプリント基板のレーザ加工方法およびプリント基板のレーザ加工機に関する。
【背景技術】
【0002】
ビルドアップ式のプリント基板は導体である銅層とガラス繊維やフィラを含有する樹脂で形成された絶縁層(以下、単に「絶縁層」という。)とから構成されている。銅層としてはレーザの吸収を高める目的で表面処理(黒化処理やブラウン処理等と呼ばれる)がされた厚さ5~12μmのものだけで無く、表面処理がされていない光沢面の厚さ1.5~2μmのものも使用されている。また、絶縁層の厚さは20~200μmである。また、炭酸ガスレーザにより穴を加工する場合、表面の銅層と下層の銅層をめっきで接続する層間接続用として40~120μmの穴を、また、基板の表面回路と裏面回路をめっきで接続するため、基板の表面と裏面を接続する断面が砂時計形状の80~100μmの貫通穴を、さらに、回路パターンを形成する場合に基準穴として使用される120~250μmの穴を、それぞれ加工する。そして、レーザ加工としては、後工程であるめっき工程を容易にする加工結果が要求されている。
【0003】
初めに、従来のレーザ加工機の構成について説明する。
図9は、従来のレーザ加工機の構成図である。
レーザ発振器1は、パルス状直線偏光のレーザ2を出力する。
レーザ発振器1とプレート6との間に配置されたビーム径調整装置3はレーザ2のエネルギ密度を調整するための装置であり、レーザ発振器1から出力されたレーザ2の外径を変更することによりレーザ2のエネルギ密度を調整する。すなわち、ビーム径調整装置3の前後におけるレーザ2のエネルギは変化しない。したがって、ビーム径調整装置3から出射されたレーザ2はレーザ発振器1から出力されたレーザ2と見なすことができるので、以下、レーザ発振器1とビーム径調整装置3と、を併せてレーザ出力装置1Aという。なお、ビーム径調整装置3は使用されない場合もある。
ビーム径調整装置3とプレート6との間には偏光変換装置5が配置されている。偏光変換装置5は直線偏光のレーザ2を円偏光のレーザ4に変換する。なお、偏光変換装置5は加工中において加工部で反射されたレーザ4を遮断する反射光遮断機構(詳細は省略する。)を備えており、加工部で反射されたレーザ4によるレーザ発振器1の損傷を予防する機能を備えている。
偏光変換装置5とガルバノミラー7aとの間に配置されたプレート6はレーザ4を透過させない材質(例えば、銅)で形成されており、所定の位置にアパーチャ(窓であり、この場合は円形の貫通穴)8が複数個かつ選択可能に形成されている。
プレート6は図示を省略する駆動装置により駆動され、選択されたアパーチャ8の軸線をレーザ4の軸線と同軸に位置決めする。ガルバノ装置7は一対のガルバノミラー7a、7bで構成され、図中矢印で示すように回転軸の回りに回転自在であり、反射面を任意の角度に位置決めすることができる。fθレンズ(集光レンズ)9は、図示を省略する加工ヘッドに保持されている。ガルバノミラー7a、7bとfθレンズ9とでレーザ4の光軸をプリント基板10の所望の位置に位置決めする光軸位置決め装置を構成しており、ガルバノミラー7a、7bの回転角度とfθレンズ9の直径とで定まるスキャン領域(すなわち、加工領域)11は、50mm×50mm程度の大きさである。ワークである銅層と絶縁層とからなるプリント基板10は、X-Yテーブル12に固定されている。制御装置20は入力された制御プログラムに従い、レーザ発振器1、ビーム径調整装置3、プレート6の駆動装置、ガルバノミラー7a、7bおよびX-Yテーブル12を制御する。
【0004】
そして、穴を加工をする場合は、X-Yテーブル12を移動させてfθレンズ9を指定された加工領域11に対向させた後、先ず、当該加工領域11内の総ての銅層を1回のビーム照射(すなわち、1パルスの照射)により穴を加工し(なお、銅層10cに開けた穴をウインドウという)、その後、1ないし複数回のパルス照射によりウインドウ下部の絶縁層を加工して、当該加工領域11内の穴を完成させる。なお、絶縁層10zを加工する際、1つの穴に複数回のパルス照射をする場合は、当該加工領域11内の同径の穴をいわゆるサイクル加工法で加工する。
また、貫通穴を加工する場合は、プリント基板10の一方の側から総ての穴を途中まで加工し、その後プリント基板10を反転させ、他方の側から総ての穴を加工して、断面が砂時計状の貫通穴を完成させる。
【0005】
次に、レーザが炭酸ガスレーザである場合についてその特性を説明する。
図10は特許文献1に開示されているレーザ発振器1の出力を説明する図であり、上段はレーザ発振器1の制御信号によって起動される高周波パルスRF出力である。また、下段はレーザ2の1パルスの出力波形であり、縦軸は出力レベルを、横軸は時間を、それぞれ表している。レーザ発振器1を起動すると(時刻T0)、レーザ発振器1内部のレーザ媒体に高周波パルスRFが印可されエネルギのチャージが開始される。そして、エネルギが飽和するとレーザ2が発振される(時刻T1)。レーザ2は発振直後に出力が急上昇した後(時刻Tj)、一旦下がり(時刻Td)、以降、出力が増大した後、ゆるやかに下がる(なお、同図は出力増大中の図である)。そして、レーザ発振器1を停止、すなわち高周波パルスRFの印可を停止(時刻T2)しても、引き続きエネルギは減衰しながら出力され、時刻T3で0になる。そして、1パルスのパルスエネルギEpは、時刻T1から出力レベルが0となる時刻T3までの期間の総エネルギ量である。
以下、時刻Tjの出力レベルを第1のピーク出力WP1と言い、一旦下がった(時刻Td)以降の出力が最大となるときの出力レベルを第2のピーク出力WP2と言う。なお、
図10においては、出力が増大中であるため、第2のピーク出力WP2は表示されていない。
また、レーザ発振器から発振されるレーザの出力は、上記レーザ発振器のようにレーザの発振が開始されてから出力が徐々に増加した後に一旦出力が低下し、再び増加してほぼ一定値になった後消滅するものだけではなく、発振が開始されてから出力が徐々に増加して(増加する出力の割合は緩急いろいろである。)ほぼ一定値になった後消滅するもの(特許文献2)など、様々な出力形態がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2020-108904号公報
【特許文献2】特開2000-263271号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記特許文献1の技術に依れば、表面処理がされている表面の銅層の厚さが7μm、絶縁層の厚さが60μmのプリント基板7や表面処理がされていない表面の銅層の厚さが1.5μm、絶縁層の厚さが40μmのプリント基板を加工できるとしているが、加工できる穴の径に関して不明瞭であり、実務上は加工する穴の数を増す(例えば、2割り増し)ことにより、加工の信頼性を向上させていた。
近年、多層プリント基板の電送信号の安定化をはかるため、配線長の短縮が要求されており、従来の技術では加工が困難であった以下の加工を可能にすることが要求されている。また、さらなる加工の能率化も要求されている。
すなわち、
(1)板厚が12μm以下の表面粗化された内層銅層(穴底の銅層)に、厚さが60μm以下の絶縁層をはさむようにしてビルドアップされた板厚が2μmの光沢面銅層とからなるビルドアップ基板に直径が60μm以下のBHを加工すること。
(2)厚さが60μm以下の絶縁層を挟み、表面と裏面の銅層が光沢面の板厚が1.5~2μmの両面基板に、穴径60μm以下のTHを加工すること。
である。
【0008】
本発明の目的は、プリント基板の配線長の短縮化を可能にすると共に、品質に優れる穴を能率良く加工することができるプリント基板のレーザ加工方法およびプリント基板のレーザ加工機を提供するにある。
【0009】
上記課題を解決するため、請求項1の発明は、
高周波パルスRF出力により出力制御されるレーザ出力装置から出力されたレーザをワークに照射してワークを加工するプリント基板のレーザ加工方法において、
高周波パルスRF出力をオンしてから実際にレーザが出力されるまでの時間t0を予め求めておくと共に、
レーザの進行経路中にレーザの進行方向を変える手段を設けておき、
前記高周波パルスRF出力をオンしている間は前記レーザを総てワークに照射し、
前記高周波パルスRF出力をオフすると同時に前記レーザの少なくとも一部をワークから外す
ことを特徴とするプリント基板のレーザ加工方法
である。
【0010】
また、請求項2の発明は、
高周波パルスRF出力により出力制御されるレーザ出力装置から出力されたレーザをワークに照射してワークを加工するプリント基板のレーザ加工方法において、
高周波パルスRF出力をオンしてから実際にレーザが出力されるまでの期間t0を予め求めておくと共に、
前記期間t0に続く第2の期間t10と、前記期間t10に続く第3の期間t1と、を定める期間設定手段と、
レーザの進行経路中にレーザの進行方向を変える手段と、
を設けておき、
前記期間t0、t10,t1は高周波パルスRF出力をオンにすると共に、
前記期間t0と前記t10は前記レーザの少なくとも一部をワークから外し、
前記期間t1は前記レーザを総てワークに照射し、
前記期間t1が経過した時、前記高周波パルスRF出力をオフすると同時に前記レーザの少なくとも一部をワークから外す
ことを特徴とするプリント基板のレーザ加工方法
である。
【0011】
また、請求項3の発明は、
高周波パルスRF出力により出力制御されるレーザ出力装置を備え、前記レーザ出力装置から出力されたレーザをワークに照射してワークを加工するプリント基板のレーザ加工装置において、
予め高周波パルスRF出力をオンしてから実際に前記レーザが出力されるまでの時間t0を予め求めておくと共に、
前記レーザ出力装置と前記ワークとの間に前記レーザの進行方向を変える進路変更装置を設け、
前記進路変更装置は、前記前記レーザ出力装置がオンの間は前記レーザの総てをワークに照射し、
前記高周波パルスRF出力がオフの間は前記レーザの少なくとも一部をワークから外すことを特徴とするプリント基板のレーザ加工装置
である。
【0012】
また、請求項4の発明は、
高周波パルスRF出力により出力制御されるレーザ出力装置を備え、前記レーザ出力装置から出力されたレーザをワークに照射してワークを加工するプリント基板のレーザ加工装置において、
予め高周波パルスRF出力をオンしてから実際に前記レーザが出力されるまでの時間t0を予め求めておくと共に、
前記期間t0に続く第2の期間t10と、前記期間t10に続く第3の期間t1と、を設定する手段と、
前記レーザの進行方向を変える進路変更装置とを
を設け、
前記進路変更装置を前記レーザ出力装置と前記ワークとの間に配置しておき、
前記期間t0、t10,t1は前記高周波パルスRF出力をオンにすると共に、
前記期間t0と前記t10は前記レーザの少なくとも一部をワークから外し、
前記期間t1は前記レーザの総てをワークに照射し、
前記期間t1が経過した時、前記高周波パルスRF出力をオフすると同時に前記レーザの少なくとも一部をワークから外す
ことを特徴とするプリント基板のレーザ加工装置
である。
【0013】
また、請求項5の発明は、前記進路変更装置がEOMである
ことを特徴とする請求項3または請求項4いずれかに記載のプリント基板のレーザ加工装置である。
【0014】
また、請求項6の発明は、前記進路変更装置がAOMである
ことを特徴とする請求項3または請求項4いずれかに記載のプリント基板のレーザ加工装置である。
【0015】
また、請求項7の発明は、前記進路変更装置がシャッタである
ことを特徴とする請求項3または請求項4いずれかに記載のプリント基板のレーザ加工装置である。
【発明の効果】
【0016】
本発明に依れば、板厚が12μm以下の表面粗化された内層銅層(穴底の銅層)に、厚さが40μm以下の絶縁層をはさむようにしてビルドアップされた板厚が1.5~2μmの光沢面銅層とからなるビルドアップ基板に直径が40μm以下の穴を加工すること、また、厚さが40μm以下の絶縁層を挟み、表面と裏面の銅層が光沢面の板厚が1.5~2μmの両面基板に、穴径40μm以下の貫通穴を加工することが可能になるので、プリント基板の配線長の短縮化可能にすると共に、品質に優れる穴および貫通穴を能率良く加工することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図2】電気光学素子EOMの動作を模式的に説明する動作説明図である。
【
図6】音響光学素子AOMの動作を模式的に説明する動作説明図である。
【
図10】レーザ発振器1の出力を説明する図である。
【
図11】高周波パルスRFの印可期間とレーザ出力との関係を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明者は、従来の加工データを参照すると共に、種々の条件で加工を行った。その結果、表面の銅層と絶縁層の少なくとも一方が薄いワークに直径が60μm以下の穴を加工する場合、
(A)銅層加工時にパルス期間を長くすると、加工時の熱が拡散してウインドウに対応する絶縁層およびウインドウ周辺の絶縁層が損傷してえぐれが大きくなる。したがって、銅層下部のえぐれを小さくするためには、
(1)銅層をできるだけ短時間で加工すること。
(2)加工結果のばらつきを小さくするためには、加工時間を正確に制御すること。
さらに、
(3)絶縁層の焼損が増加することを防止するため、ウインドウが形成された後、加工部に供給されるエネルギを抑えること。
とすれば可能であると考えた。
【0019】
レーザ発振器が炭酸ガスレーザ発振器の場合、以下の順で、レーザが発振される。すなわち、
(1)高周波パルスRFを印可。
(2)印可された高周波パルスRFによりレーザ媒体中のN2ガス分子が励起され、エネルギ準位が上昇する。
(3)N2ガス分子のエネルギ準位が上昇すると、N2ガス分子のエネルギがCO2ガス分子へ遷移され、CO2ガス分子のエネルギ準位が高まる。
(4)CO2ガスのエネルギ準位が高まり、飽和すなわち反転分布状態に達すると基底状態に戻る際にパルスが出力すなわちレーザが発振される。
そして、高周波パルスRF印可中は再励起されることにより基底状態に戻らず、パルス期間が継続する。
(5)レーザが発振される際は、高周波パルスRFがされてからレーザが発振されるまでの間に(時刻T0から時刻T1までの間)N2ガス分子、CO2ガス分子に蓄積されたエネルギが一度に出力されるため、比較的高い初期出力WP1が出力される。その後、一旦出力は下がるが、励起が継続して行われるため、出力は再上昇する。
ところで、上記特許文献1の場合、レーザ媒体に高周波パルスRFが印可されてから安定したパルスが出力されるまでの時間に±0.3μsのばらつきがあるとしている。しかし、パルス出力期間を細かく制御するためには、レーザ出力開始時刻のばらつきをできるだけ小さくする必要がある。
【0020】
そこで、第1の段階として、高周波パルスRF印可期間とパルス発生時刻との関係を調べた。
図11は高周波パルスRFの印可期間とレーザ出力との関係を説明する図であり、上段は高周波パルスRFのオンオフを、下段はレーザ出力を示す。また、横軸は時間であり、T0は時刻0である。
同図(a)に示すように、高周波パルスRFを3.0μs間印可したとき、高周波パルスRF印可停止後2.3μsでレーザが出力され、ピーク出力は0.35WP1であった。(ただし、WP1は高周波パルスRFを印可し続けたときのピーク値である。)
また、(b)に示すように、高周波パルスRFを3.6μs間印可したとき、高周波パルスRF印可停止後1.2μsでレーザが出力され、ピーク出力は0.8WP1であった。
また、(c)に示すように、高周波パルスRFを4.2μs間印可したとき、高周波パルスRF印可停止後0.4μsでレーザが出力され、ピーク出力は0.95WP1であった。
また、(d)に示すように、高周波パルスRFを4.6μs間印可したとき、高周波パルスRF印可終了と同時にレーザが出力され、ピーク出力はWP1であった。
また、(e)に示すように、高周波パルスRFを6μs間印可し続けたとき、さらに、(f)に示すように、高周波パルスRFを8μs間印可し続けたとき、いずれの場合も(d)の場合と同様に、4.6μsでレーザが出力され、ピーク出力はWP1であった。
以上の結果から、試験に用いたレーザ発振器の場合、時刻T0から4.6μs経過した時刻をレーザ出力時刻T1とすることができることを確認した。この結果、レーザ出力開始時刻のばらつきを0にすることができた。さらに、上記の試験において、時刻Tdがほとんど変動しないことに気がついた。
【0021】
次に、第2の段階として、絶縁物の損傷を減らす具体的な手段を検討するに当たり、絶縁物の損傷は銅層加工完了後すなわちウインドウ形成後に拡大すると仮定した。
そして、
(イ)銅層に穴すなわちウインドウが完成すると同時(時刻T2)に高周波パルスRFを停止しても、レーザ発振器1内に残っているエネルギが消滅するまでレーザが出力されること
(ロ)レーザ発振器1内に残っているエネルギは高周波パルスRF停止時(時刻T2)のレーザ出力に対応し、その時の出力が小さければ小さいほど小さくなること
(ハ)出力が第1のピークから第2のピークに移行する際の出力の谷間になる時刻Tdは約0.5μsで、ほとんど変化しないことの観点から、時刻Tdに着目した。
そして、従来の加工データに基づき、厚さ2μの銅層に40μmの穴を空けるためのエネルギEwcは、1.3~1.8mJであることを演算により求めた。なお、演算に際しての加工対象の諸元を、ウインドウ径が40μm、また、ウインドウ加工と同時に直径が40μmで深さが20~30μmの穴が絶縁層に形成されるとした。また、光沢ある銅層はレーザを吸収しにくいこと、銅の熱伝導率が高いことにより加工部周辺に拡散するエネルギが大きいことも考慮した。さらに、パルス照射時間を0.5μsとした時にエネルギEwc以上が得られる場合のピーク出力WP1の値を演算により求め、WP1の値を3kW以上にすれば良いとの見通しを得た。
試験に用いたレーザ発振器1の特性を確認した結果、
(1)高いRF出力を印可して励起した場合、上記第1の出力レベルWP1、第2の出力レベルWP2はほぼ一定の比率で高くなる。そして、WP1は約3KWであり、WP2の約2倍である。
(2)ガス圧を高めて、比較的高いRFで励起すると、出力立ち上がりが速い、比較的大きな出力が得られる。
(3)電極ギャップを狭くし、また、単位空間のレーザ媒体量を増やしてガス圧を高めた状態で高い高周波パルスRFを印可すると、出力の立ち上がりが速い、比較的大きな出力が得られる。
ことを見いだした。
以上の結果から、レーザ発振器1の出力特性として、第1のピーク出力の値を予め出力WP1に設定できることを確認した。
なお、レーザ発振器1の出力特性はレーザ発振器1毎に僅かに異なるが、一度設定した特性は経年変化によりほとんど変化しないことも確認した。
【0022】
そして、上記第1の段階と第2の段階の結果を加工に適用し、2μmの銅層に直径60μmのウインドウを加工できることを確認した。しかし、絶縁層の成分のばらつきにより、ウインドウ下部およびウインドウ周辺の絶縁物の損傷が大きくなる場合があった。
また、絶縁層の厚さが薄い場合、開いた穴の先端が下層の銅層に到達する場合があり、場合によっては下層の銅層まで直径がほとんど変化しない穴が形成された。
穴(BH)の場合、表面銅層と底面の銅層を接続する穴としては、底面の穴の直径がウインドウの直径の80%である断面がすり鉢状の穴が理想的である。
また、貫通穴(TH)の場合、裏面から加工する穴の直径を表面側と同じにするためには、加工時に銅層下部で蒸発した絶縁物が蒸発するときの膨張力を利用することが必要になる。このため、下層の銅層の上部にある程度の絶縁層を残す必要がある。また、貫通穴の断面形状として砂時計状になることが望まれている。
このように、ウインドウ加工時に絶縁物の損傷が大きくなったり、絶縁物の穴径が大きくなるのは、高周波パルスRF停止後に加工部に供給されるパルスエネルギが原因であると推定した。
【0023】
そこで、第3の段階として、高周波パルスRF停止後に加工部に供給されるパルスエネルギを減衰させることとし、パルスエネルギの減衰手段として、先ずEOM(電気光学素子)を採用することにした。
そして、高周波パルスRFを停止させるタイミングでEOMを動作させ、高周波パルスRF停止後に供給されるパルスエネルギのほとんど(ほぼ100%)を加工部以外に導くことができる結果、絶縁物の損傷および穴径の拡大を軽減できることを確認した。
【0024】
以下、図面を用いて具体的に説明する。
図1は本発明に係るレーザ加工機の構成図であり、従来と同じ物あるいは同じ機能の物は同一の符号を付して重複する説明を省略する。
図1において、レーザの進行方向を変える進路変更装置30はビーム径調整装置3と偏光変換装置5との間に配置されている。この実施例では進路変更装置30として電気光学素子EOMを採用しているので、以下、進路変更装置30を電気光学素子EOM30という。制御装置20は、入力された制御プログラムに従い、レーザ発振器1、ビーム径調整装置3、プレート5の駆動装置、ガルバノミラー7a、7bおよびX-Yテーブル12の制御に加えてEOM30のオンオフを制御する。
【0025】
図2は電気光学素子EOM30の動作を模式的に説明する動作説明図である。
同図(a)に示すように、電気光学素子EOM30に高電圧を印加しない場合(すなわち、EOM30がオフの場合)、EOM30に入射した出力Ecのレーザ2はEOM30の内部を直進し、入射光と同軸の出力Ecレーザ2として出射する。
一方、同図(b)に示すように、電気光学素子EOM30に高電圧を印加した場合(すなわち、EOM30がオンの場合)、入射した出力Ecのレーザ2はEOM30の内部で反射され(反射率はほぼ100%である。また、動作時間は0.1μs以下である。)、入射方向に対して角度αの出力Ecのレーザ2として出射する。
電気光学素子EOM30は、電気光学素子EOM30がオンの場合に出射する出射光がガルバノミラー7aに入射するようにして、ビーム径調整装置3と偏光変換装置5との間に配置されている。また、電気光学素子EOM30がオフの場合に出射するレーザ2はビームダンパ31に入射して熱に変えられる。
以下、具体的な動作を説明する。
【0026】
(A)
図3は、表面の銅層が厚さが2μmの光沢銅層であり、絶縁層の厚さが40~60μmのプリント基板10に直径が40μmのウインドウを加工する場合のパルス波形であり、EOM30のオンオフおよび高周波パルスRFのオンオフを合わせて示している。また、縦軸は出力レベルを、横軸は時間を、それぞれ表している。
EOM30をオンにした状態で高周波パルスRFをオン(時刻T0)してから期間t0が経過した時刻T1にレーザ2が発生する。そして、時刻T1から期間t1が経過した時刻T2においてEOM30および高周波パルスRFがオフされる。同図に示すように、時刻T1以降時刻Tjまではレーザ出力が増加し、時刻Tj以降時刻Tdまではレーザ出力が減少し、時刻Td以降は再びレーザ出力が増加する。そして、時刻T2において高周波パルスRFがオフされると共にEOM30がオフされる。時刻T0から時刻T2までの間はEOM30がオンであるから、レーザ出力装置1Aから出力されたレーザ2は総てワークであるプリント基板10に供給される。また、ウインドウが完成した時刻T2以降出力が0となる時刻T3までの期間において、レーザ出力装置1Aから出力されたレーザ2は総てビームダンパ31に入射する。すなわち、同図に斜線を付して示すように、時刻T2以降レーザ出力装置1Aから出力されたレーザ2のエネルギは絶縁層に供給されないので、ウインドウ下部およびウインドウ周辺の絶縁層の損傷を防止できる。なお、時刻T1から時刻T2に供給されるエネルギは1.3~1.8mJである。
【0027】
(B)
図4は表面の銅層が厚さが2μmの光沢銅層であり、絶縁層の厚さが40~60μmのプリント基板10に直径が40μmのウインドウを加工する場合のパルス波形であり、EOM30のオンオフおよび高周波パルスRFのオンオフを合わせて示している。また、縦軸は出力レベルを、横軸は時間を、それぞれ表している。
EOM30をオンした状態で高周波パルスRFをオン(時刻T0)してから期間t0が経過した時刻T1にレーザ2が発生する。そして、時刻T1から期間t1が経過した時刻T2においてEOM30および高周波パルスRFがオフされる。同図に示すように、時刻T1以降時刻T2まではレーザ出力が増加する。そして、時刻T2において高周波パルスRFがオフされると共にEOM30がオフされる。時刻T0から時刻T2までの間はEOM30がオンであるから、レーザ出力装置1Aから出力されたレーザ2は総てワークであるプリント基板10に供給される。また、ウインドウが完成した時刻T2以降において、レーザ出力装置1Aから出力されたレーザ2は総てビームダンパ31に入射する。すなわち、同図に斜線を付して示すように、時刻T2以降出力が0となる時刻T3までの期間において、レーザ出力装置1Aから出力されたレーザ2のエネルギは絶縁層に供給されない。したがって、ウインドウ下部およびウインドウ周辺の絶縁層の損傷を防止できる。なお、時刻T1から時刻T2に供給されるエネルギは1.3~1.8mJ程度である。
【0028】
ところで、ウインドウ径が80μm以上の穴を加工する場合、出力がほぼ安定したレーザ4を用いて加工することにより加工品質のばらつきを小さくできる場合がある。
(C)
図5は表面の銅層が厚さが7μm以上の光沢銅層であり、絶縁層の厚さが60μm以上のプリント基板10に直径が60μm以上のウインドウを加工する場合のパルス波形であり、EOM30のオンオフおよび高周波パルスRFのオンオフを合わせて示している。また、縦軸は出力レベルを、横軸は時間を、それぞれ表している。
EOM30をオフにした状態で高周波パルスRFをオン(時刻T0)する。そして、時刻T1からさらに期間t10が経過した時刻THまで、EOM30はオフの状態を継続する。そして、時刻THにおいてEOM30がオンされ、時刻THから期間t12が経過する時刻T2においてEOM30は再びオフされ、時刻T3を超えるまでオフの状態を継続する。この結果、レーザ2は時刻THから時刻T2までの期間t1だけワークであるプリント基板10に供給され、その他の期間はレプリント基板10に供給されない。この結果、同図に斜線を付して示すように、時刻T2以降レーザ出力装置1Aから出力されたレーザ2のエネルギは絶縁層に供給されない。したがって、ウインドウ下部およびウインドウ周辺の絶縁層の損傷を防止できる。なお、図示を省略するが、レーザ発振器1によっては、レーザの出力が徐々に増加するタイプの物があるが、そのようなレーザ発振器1であっても、例えば出力が3kWを超えた時点を基準にしてレーザ4を0.5μsの間ワークに供給するようにすることにより、前記(A)の場合と同様に、表面の銅層が厚さが2μmの光沢銅層であっても、絶縁層の厚さが40~60μmのプリント基板10に直径が60μmのウインドウを加工することができる。
なお、同図に斜線を付して示す時刻T1~時刻THまでレーザ出力は総てビームダンパ31に入射することは言うまでも無い。
【0029】
次に、上記電気光学素子EOMに代えて、音響光学素子AOMを進路変更装置30として採用する場合について説明する。なお、音響光学素子AOMは
図1における電気光学素子EOM30の位置に配置すれば良いので、全体図の図示を省略する。
図6は音響光学素子AOMの動作を模式的に説明する動作説明図である。
同図(a)に示すように、音響光学素子AOMに超音波を付加しない場合(すなわち、音響光学素子AOMがオフの場合)、音響光学素子AOMに入射した出力がEcのレーザ2は音響光学素子AOMの内部を直進して、入射光と同軸の出力がEcのレーザ2として出射する。
一方、同図(b)に示すように、音響光学素子AOMに超音波を付加した場合(すなわち音響光学素子AOMがオンの場合)、出力が0.85Ec(すなわち、入射したレーザ2の出力の85%)である1次回折光が入射方向に対して角度βの出射光として出射すると共に、出力が0.15Ec(すなわち、入射したレーザ2の出力の15%)である0次光が入射光と同軸のレーザ2として出射する。なお、音響光学素子AOMの動作時間すなわち超音波がビームを通過するのに要する時間は1.0μs程度である。
音響光学素子AOM30は、0次光がガルバノミラー7aに入射するようにして、ビーム径調整装置3と偏光変換装置5との間に配置されている。また、音響光学素子AOM30がオンである場合に音響光学素子AOM30から出射する1次回折光はビームダンパ31に入射して熱に変えられる。
【0030】
以下、具体的な動作を説明する。
(D)
図7は、表面の銅層が厚さが2μmの光沢銅層であり、絶縁層の厚さが40~60μmのプリント基板10に直径が60μmのウインドウを加工する場合のパルス波形であり、AOM30のオンオフおよび高周波パルスRFのオンオフを合わせて示している。また、縦軸は出力レベルを、横軸は時間を、それぞれ表している。なお、この
図7は、上記
図4に対応する図である。
AOM30をオフにした状態で高周波パルスRFをオン(時刻T0)してから期間t0が経過した時刻T1にレーザ2が発生する。そして、時刻T1から期間t1が経過した時刻T2において高周波パルスRFがオフされると同時にAOM30がオンされる。同図に示すように、時刻T1以降時刻Tjまではレーザ出力が増加し、時刻Tj以降時刻Tdまではレーザ出力が減少し、時刻Td以降は再びレーザ出力が増加する。そして、時刻T2において高周波パルスRFがオフされると共にAOM30がオンされる。時刻T0から時刻T2までの間はAOM30がオフであるから、レーザ出力装置1Aから出力されたレーザ2は総てワークであるプリント基板10に供給される。また、ウインドウが完成した時刻T2以降出力が0となる時刻T3までの期間はAOM30がオンされるので、レーザ出力装置1Aから出力されたレーザ2のうち1次回折光はビームダンパ31に入射し、0次光はワークであるプリント基板10に入射する。この結果、同図に斜線を付して示すように、時刻T2以降レーザ出力装置1Aから出力されるレーザ2のうちの85%のエネルギは絶縁層に供給されない。したがって、ウインドウ下部およびウインドウ周辺の絶縁層の損傷を無視できる程度に軽減することができる。
なお、上記(B)の場合については、この実施形態から容易に理解できるので、説明を省略する。
【0031】
(E)
図8は、上記(C)で説明した加工を音響光学素子AOMを用いて加工する場合の説明図である、すなわち、表面の銅層が厚さが7μm以上の光沢銅層であり、絶縁層の厚さが60μm以上のプリント基板10に直径が80μm以上のウインドウを加工する場合のパルス波形であり、AOM30のオンオフおよび高周波パルスRFのオンオフを合わせて示している。また、縦軸は出力レベルを、横軸は時間を、それぞれ表している。なお、図中二点鎖線部は全パルスエネルギを、点線部は0次光成分を示している。
AOM30をオンにした状態で高周波パルスRFをオン(時刻T0)する。そして、時刻T1からさらに期間t10が経過した時刻THまで、AOM30はオンの状態を継続する。この結果、時刻T1から時刻THまでの期間はレーザ2の0次光成分だけが加工部に供給され、レーザ2の1次回折光の成分は加工部に供給されない。そして、時刻THにおいてAOM30がオフされ、時刻THから期間t1が経過する時刻T2においてAOM30は再びオンされ、時刻T3を超えるまでオンの状態を継続する。この結果、時刻THから時刻T2までの間(期間t1)はレーザ2の総てが加工部に供給され、時刻T2以降はレーザ2の0次光の成分だけが加工部に供給される。この場合、時刻T1から時刻THまでの期間に供給されるレーザ2の0次光は銅層を予熱する。また、時刻T2以降は斜線で示すレーザ2の0次光の成分のエネルギだけが加工部に供給されるので、ウインドウ下部およびウインドウ周辺の絶縁層の損傷を無視できる程度に抑えることができる。
【0032】
ここで、レーザ2に関して、本発明と特許文献2との違いを説明する。
特許文献2の場合、銅層を加工するのにレーザ2の1次回折光だけを使用する構成であるから、レーザ2の出力エネルギの85%しか利用できない。一方、本発明はレーザ2の出力の総てを銅層加工に使用するので、特許文献2に比べて加工条件の裕度を大きくすることができる。
【0033】
なお、進路変更装置30として上記EOMを用いる場合、高周波パルスRFをオフしたときの動作はレーザの進路を完全に塞いだ場合と等価である。そこで、上記EOMに代えてレーザの進路を塞ぐことが可能なシャッタを進路変更装置30として採用しても良い。
【0034】
ところで、EOM30の場合、高電圧を印加するとことにより、EOM内部の位相シフト手段(反射手段)が動作する。本発明では、段落0024において、高電圧を印加するとことにより出射光が角度α曲がるようにしたが、位相シフト手段を本実施例の場合に関して90度回しておくことにより出射角度を0にすることができる。ただし、このように構成した場合、高電圧を印加しない状態でEOM30に入射した入射光は角度αで出射する。したがって、位相シフト手段を本実施例の場合に関して90度回した場合は、高電圧を印加した状態でEOM30から出射するレーザをビームダンパ31に入射させ、高電圧を印加しない状態でEOM30から出射するレーザをガルバノミラー7aに入射させる必要がある。
【符号の説明】
【0035】
4 レーザ
30 レーザ4の進路変更装置
RF 高周波パルス
t0 高周波パルスRF出力をオン後、レーザ4が出力されるまでの時間
【手続補正2】
【補正対象書類名】図面
【補正方法】変更
【補正の内容】
【手続補正3】
【補正対象書類名】図面
【補正方法】変更
【補正の内容】
【手続補正4】
【補正対象書類名】図面
【補正方法】変更
【補正の内容】
【手続補正5】
【補正対象書類名】図面
【補正方法】変更
【補正の内容】