IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 渋谷 俊一の特許一覧

特開2022-105465家蚕の初期SRヘテロ卵を用いた卵寄生蜂の大量増殖法
<>
  • 特開-家蚕の初期SRヘテロ卵を用いた卵寄生蜂の大量増殖法 図1
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022105465
(43)【公開日】2022-07-14
(54)【発明の名称】家蚕の初期SRヘテロ卵を用いた卵寄生蜂の大量増殖法
(51)【国際特許分類】
   A01M 99/00 20060101AFI20220707BHJP
   A01N 63/14 20200101ALI20220707BHJP
   A01N 61/00 20060101ALI20220707BHJP
   A01P 7/04 20060101ALI20220707BHJP
【FI】
A01M99/00
A01N63/14
A01N61/00 Z
A01P7/04
【審査請求】有
【請求項の数】3
【出願形態】書面
(21)【出願番号】P 2021017803
(22)【出願日】2021-01-04
(71)【出願人】
【識別番号】505257899
【氏名又は名称】渋谷 俊一
(72)【発明者】
【氏名】渋谷 俊一
【テーマコード(参考)】
2B121
4H011
【Fターム(参考)】
2B121AA11
2B121CC02
2B121CC39
2B121EA21
2B121FA20
4H011AC01
4H011AC08
4H011BB20
4H011DA23
(57)【要約】      (修正有)
【課題】初期SRヘテロ未孵化卵を得、薬剤抵抗性の発現のない同一系統農薬の連用を可能とする卵寄生蜂を利用した生物的防除法を提供すること。
【解決手段】殺虫剤無散布の家蚕(Bombyx.mori)で低濃度薬剤処理により薬剤抵抗性の雌蛹(成虫)を選抜し、無処理の野生型(wild type)感受性SS個体と交尾させ、初期ヘテロSR卵(卵黄豊富な胚盤葉期等の初期胚子発育段階で発育停止する卵)を産下させ、卵寄生蜂の好適な餌とし、卵寄生蜂の大量生産を図る生物的防除法。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
殺虫剤無散布の家蚕(Bombyx.mori)で低濃度薬剤処理により薬剤抵抗性の雌蛹(成虫)を選抜し、無処理の野生型(wild type)感受性SS個体と交尾させ、初期ヘテロSR卵(卵黄豊富な胚盤葉期等の初期胚子発育段階で発育停止する卵)を産下させ、卵寄生蜂の好適な餌とし、卵寄生蜂の大量生産を図る生物的防除法。
【請求項2】
圃場周辺に卵寄生蜂が在来する場合、未寄生の初期SR未孵化蚕卵をこれら害虫の産卵盛期を狙いそれら害虫の卵に寄生する卵寄生蜂のおとり卵とし、卵寄生蜂の発生予察を行い、飼育した卵寄生蜂の放虫を視野に入れながら、圃場周辺(風上側は必須)に栽植した殺虫剤無散布のバンカープラント(桑等)に大量生産した未寄生の初期SR未孵化卵を貼った卵カードを取り付け、在来卵寄生蜂による寄生とその寄生次世代の大量羽化を狙う特許6667929の生物的防除法を包括する請求項1による生物的防除法。
【請求項3】
卵寄生蜂が在来しないか、極端に少ない場合、化学的防除剤散布後卵寄生蜂が薬剤の影響を回避できる数日内の適期に、卵寄生蜂の放虫とともに未寄生の初期SR未孵化卵のカードを大量に設置し害虫に対する薬剤の残効がなくなる発生時期の後半に次世代卵寄生蜂の大量発生を図り、長期にわたり害虫の産卵への卵寄生蜂の高い防除効果を維持する請求項1,及び請求項2に記載の家蚕卵による卵寄生蜂の圃場での大量増殖に依存した生物的防除と化学的防除を組み合わせた総合防除法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
特許6667929の薬剤抵抗性の発現を阻止できる天敵卵寄生蜂による生物的防除と化学的防除の総合防除。
【背景技術】
【0002】
一化性で単食性のイネドロオイムシでは高地・寒冷地で成虫の圃場内出現が著しく遅れ、産卵期に亜致死濃度状態になり易く、卵寄生蜂在来であれば、特許6667929により生物的防除で薬剤感受性低下対策を取ることができる。多化性で長距離飛来性の果樹カメムシ類は好適な果実の熟期に合わせて成虫がの圃場飛来・加害・逃亡を繰り返すため、薬剤散布の地域、時期に斉一性が得にくく、ピンポイントな散布ができず、多数回多重散布となり亜致死濃度状態になり易い。圃場でより早く劣性遺伝の薬剤抵抗性の兆し(初期SR:胚盤葉期等で停止する未孵化卵)を確認し、卵寄生蜂の高度寄生に誘導することが必要。
量的遺伝では掛け合せ(RR×SS→4SR)により生じる全個体4SRが淘汰圧により死亡するのは理論的にはピンポイントである。薬剤感受性の強弱だけが情報の量的遺伝ではヘテロ遺伝子(SR)は感受性の優性遺伝子Sの様々な組み合わせとなり、分離の法則に従うことになる。掛け合せ例:
almost最強な薬剤抵抗性個体(RR≒s)とalmost最強な薬剤感受性個体(SS≒S
掛け合せ → 様々な感受性の4種類の感受性優性個体(薬剤感受性の強さで並べる
情報量)。優性遺伝の法則に従っている様に見えるが4個体とも遺伝情報は異なる。Sはalmost最強な薬剤抵抗性個体(RR≒s)にかなり近い存在である。量的遺伝子に支配される初期SRヘテロ未孵化卵は殺虫剤連用下で分離の法則に従い、薬剤感受性低下が進み、胚子発育を全うし、孵化する個体もでてくる。
ショウジョウバエ致死遺伝子の感受性低下は古くから知られている。また、殺虫剤JHAで交尾後蚕蛾成虫腹部への濃度を変えた薬剤注入例が報告されており、比較的濃い濃度では卵は胚子発生の初期段階(胚盤葉期等)で停止し、より薄い濃度では様々な発育段階で停止することが知られている。卵寄生蜂の大量生産技術が必要である。
ブロックローテーションでは同じ薬剤に対する薬剤抵抗性遺伝子(RR)、(SR)の減少や薬剤感受性遺伝子(SS)の増加は望めない。遺伝子をヘテロに持った未孵化卵(SR)の初期段階を狙う寄生蜂による生物的防除法(特許6667929)で卵R遺伝子を排除すべきである。
【先行技術文献】
【0003】
【特許文献】
【特許文献】特許6667929:卵寄生蜂を利用する生物的防除法
【0004】
【非特許文献】
【非特許文献】・Kazunori Matsuo,(2018)Discovery of a new species of Telenomus(Hymenoptera;Scelionidae)Parasitic on Eggs of Bombyx mandarina and Bombyx mori(Lepidoptera:Bombycidae)in Japan and Taiwan.Journal of insect Science,18(4):10;1-7
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
生糸の需要減少で蚕業生産物の多目的使用が課題となっている。生物的防除需要が世界的に増加している。蚕業では農薬非散布の桑で家蚕(Bombyx.mori)幼虫を飼育し、生糸の原料となる繭(蛹)を生産している。卵寄生蜂を利用する生物的防除への転用が考えられてている。しかし、蚕卵では卵黄が豊富な初期胚子発生終了(25℃で1日程度)後、卵寄生蜂の寄生が不可能な後胚子発生に入ってしまう(全発育期間はほぼ10日)。真の卵寄生蜂が寄生可能な発育段階が卵黄の豊富な胚子発生の初期段階にのみ限られるため、蚕卵で卵寄生蜂を大量生産するためには卵休眠以外の方法で卵寄生蜂の発育段階を寄生に好適な初期胚子発育段階で止める必要がある。初期SRヘテロ未孵化卵を得、薬剤抵抗性の発現のない同一系統農薬の連用を可能とする卵寄生蜂を利用した特許6667929による総合防除が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
薬剤感受性低下の過程のかなり早い時期に生じる初期SRヘテロ卵は胚盤葉期等の初期発育段階で発育停止する。最近、日本でも新たに蚕卵に寄生する卵寄生蜂Telenomus.sp(T.moricolus for Bombyx mori and B.Mandarina)は鱗翅目、半翅目(果樹害虫カメムシ類)及びその他害虫を襲うScelionidaeに属する卵寄生蜂として知られており、特許6667929を利用して、薬剤抵抗性の蚕雌蛹♀ホモ(RR)個体と薬剤無処理のwild type薬剤感受性ホモSS♂個体の交尾により初期SRヘテロ未孵化蚕卵を大量生産し、卵寄生蜂の高度寄生を誘導し、蚕卵を生物的防除資材とする蚕業の需要増加を図る。
【発明の効果】
【0007】
卵寄生蜂の大量生産、放虫は在来の卵寄生蜂がいなかった地域でも、圃場に大量の卵寄生蜂を発生させることができる。
直接防除効果が非常に高い化学的防除でも、散布直後から薬効は徐々に低下し、害虫の次世代発生期までには残効切れとなりやすい、害虫の産卵最盛期に同時に化学的防除剤と天敵卵寄生蜂の放虫は相補的防除効果が発揮でき、次世代害虫の産卵盛期以降もさらなる長期間防除効果が期待できる。
卵寄生蜂による生物的防除と化学的防除の部分防除(額縁処理:バンカープラント法)下の薬剤抵抗性害虫が亜致死濃度下で産下される初期SR卵は胚発生の初期発育段階で停止し(胚盤葉期等で停止:薬剤抵抗性発達の兆しであるSR個体の最初の段階)、宿主卵が存在している間中、卵寄生蜂の寄生が可能であり、卵寄生蜂と害虫の発生予察が可能となる。
特許6667929により、野外で化学的防除剤の亜致死濃度下で出現した薬剤抵抗性個体(RR)成虫が野生型感受性個体群(SS)とともに圃場に侵入し、薬剤抵抗性が発現するはるか以前の初期SRヘテロ卵の段階で効果的な卵寄生蜂を導入により薬剤抵抗性遺伝子Rの侵入を遮断する。
大量生産された卵寄生蜂の放虫と蚕のSRヘテロ卵カードの設置は、害虫の産卵期間中、宿主卵への卵寄生蜂の産卵を累積し、寄生率は非常に高いものとなる。次世代の卵寄生蜂は大量に発生し、卵寄生蜂を利用した生物的防除剤と化学的防除剤との同時防除により、地域内の薬剤感受性個体(SR)の減少が図られ同一薬剤(同一系統)の連用が半永久的に可能となる。
【発明の残された課題】
【0008】
図1にある通り、卵寄生蜂は密度過多から生じる重複寄生にもかかわらず初期SRヘテロ未孵化卵を全て利用していない。薬剤により、濃度調整や散布時期による初期SRヘテロ未孵化卵の被寄生精度の向上が必要。また、2020年7月下旬から8月上旬にかけて採集したTelenomus.spの成虫64頭(脱出孔数から推定)は2021年1月3日現在500頭前後(重複寄生:4成虫/1卵,性比♂/♀=0.287)に数量限定で継代飼育を重ねているが、最初の蚕卵が得られる翌年7月上旬迄初期SRヘテロ未孵化卵で飼育可能かどうかを検討している。日本の蚕業で生産される繭(蛹)だけで卵寄生蜂の周年飼育が可能となる。
図1
【手続補正書】
【提出日】2021-05-26
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
低濃度の薬剤処理により家蚕(Bombyx.mori)の薬剤抵抗性雌蛹(成虫)を選抜し、無処理の野生型感受性SS個体(wild type)と交尾させ、初期ヘテロSR卵(特許6667929による卵黄豊富な胚盤葉期等の初期胚子発育段階で発育停止する卵)を産下させ、卵寄生蜂の好適な餌とし、卵寄生蜂の大量生産を図る生物的防除法。
【請求項2】
これまでの害虫卵を用いて卵寄生蜂を生産するシステムと異なり、請求項1により生産される初期ヘテロSR家蚕卵は益虫由来のおとり卵となるので、野外圃場に設置時に、寄生漏れにより害虫の幼虫が孵化することがなく、害虫の産卵期間中を通じて等しく高い被寄生率を示すので、飛来する害虫の産卵を追って出現する卵寄生蜂の量と時期を捉えることがが可能となる請求項1による生物的防除法(予察)。
【請求項3】
特許6667929による天然増殖の生物的防除法に応用できるとともに、長期にわたり飛来するカメムシ類の様な害虫に対して、産卵直前成虫に対しては殺虫剤による化学的防除で、害虫の産下卵に対しては、無接種のおとり卵と卵寄生蜂の羽化を予定する接種した初期ヘテロSR家蚕卵とを併設し、卵寄生蜂の圃場大量増殖を可能とすることにより、成虫飛来初期には殺虫剤で、薬剤の残効がなくなる成虫飛来時期の後半には卵寄生蜂で、その次世代にはさらに増殖した卵寄生蜂により、カメムシ類のさらなる飛来に対し、高い防除効果を長期間維持できる、請求項1,及び請求項2に記載の防除法(総合防除法)。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
自然界で、卵寄生蜂が薬剤抵抗性の発現の初期に大量増殖することにより発現を阻止している現象(特許6667929)から、益虫である家蚕の卵を初期SRヘテロ卵として作製、大量増殖し、さらに圃場で圃場に天敵卵寄生蜂を大量増殖する生物的防除と殺虫剤による化学的防除を組みあわせる総合防除法
【背景技術】
【0002】
一化性で単食性のイネドロオイムシでは高地・寒冷地で成虫の圃場内出現が著しく遅れ、産卵期に亜致死濃度状態になり易く、卵寄生蜂存在下であれば、特許6667929により生物的防除で薬剤感受性低下対策を取ることができる。多化性で長距離飛来性の果樹カメムシ類は好適な果実の熟期に合わせて成虫が圃場飛来・加害・逃亡を繰り返すため、薬剤散布の地域、時期に斉一性が得にくく、ピンポイントな散布ができず、多数回多重散布となり亜致死濃度状態になり易い。圃場でより早く劣性遺伝の薬剤抵抗性の兆し(初期SRヘテロ卵:胚盤葉期等で停止する未孵化卵)を確認し、卵寄生蜂の高度寄生に誘導することが必要。質的遺伝では掛け合せ(RR×SS→4SR)により生じる4SRは同質であるが、量的遺伝では多様性が著しい組み合わせとなるため、それぞれである。薬剤感受性の強弱だけが情報の量的遺伝ではヘテロ遺伝子(SR)は感受性の優性遺伝子Sの様々な組み合わせとなり、分離の法則に従うことになる。字の大きさを表すポイント値を量的遺伝子の活性として表すと、4個体の感受性S字のポイント値の理論値は、質的遺伝の4SR(S字P値は22+5=27)値の周辺に23,24.5,27,28.5とばらつく漸増値となる。
見かけ上、感受性はほぼ同一の情報量であり、質的遺伝の優性遺伝の法則に従っている様に見える。しかし、全個体死亡する場合もあるが、4個体とも遺伝情報は異なる。この4SRの中で最大感受性の個体sS(S字P数5+18=23)は最強な薬剤抵抗性個体(RR≒s;S字P値5+6.5=11.5)に最も近いが、まだまだ遠い値である。初期SRヘテロ未孵化卵は殺虫剤連用下で分離の法則に従い、最初は卵期で全卵死亡するものが多いが、低濃度薬剤処理下で感受性低下が進行し、多様性豊かな量的遺伝では、当然最終的には胚子発育を全うし孵化するS字P値11.5(RR≒s)に近い値の個体が出現する。
ショウジョウバエ致死遺伝子の感受性低下は古くから知られている。また、殺虫剤JHAで交尾後蚕蛾成虫腹部への濃度を変えた薬剤注入例が報告されており、比較的濃い濃度では卵は胚子発生の初期段階(胚盤葉期等)で停止し、より薄い濃度では孵化直前幼虫の形態まで様々な発育段階で停止することが知られている。いわゆる量的遺伝の初期段階の4SRを示すこの時期に、卵寄生蜂を大量生産させる技術が必要である。
ブロックローテーションによる薬剤変更では薬剤感受性遺伝子(SS)の増加は望めない。圃場で4SRの状態となっている場合、同一薬剤に対するR遺伝子の減少のため(RR≒s)、(SR≒Ss)遺伝子をヘテロに持った初期SRヘテロ未孵化卵を産下させ、産下卵の全てを卵寄生蜂が攻撃できる状態を数年継続し、特許6667929による「卵寄生蜂による生物的防除」で、感受性遺伝子Sの適切な導入によりR遺伝子を排除すべきである。
【先行技術文献】
【0003】
【特許文献】特許6667929:卵寄生蜂を利用する生物的防除法
【0004】
【非特許文献】・Kazunori Matsuo,(2018)Discovery of a new species of Telenomus(Hymenoptera;Scelionidae)Parasitic on Eggs of Bombyx mandarina and Bombyx mori(Lepidoptera:Bombycidae)in Japan and Taiwan.Journal of insect Science,18(4):10;1-7
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
生糸の需要減少で蚕業生産物の多目的使用が課題となっている。養蚕業では殺虫剤無散布の桑で家蚕(Bombyx.mori)幼虫を飼育し、生糸の原料となる繭(蛹)を生産しているので蛹を利用し、家蚕で卵寄生蜂を飼育する生物的防除への転用が考えられる。しかし、蚕卵では卵黄が豊富な初期胚子発生終了(25℃で1日程度)後、卵寄生蜂の寄生が不可能な胚子発育段階に入ってしまう(蚕卵の全発育期間はほぼ10日)。真の卵寄生蜂が寄生可能な発育段階は卵黄の豊富な胚子発生の初期段階にのみ限られるため、蚕卵で卵寄生蜂を大量生産するために、卵休眠以外の方法で卵寄生蜂の発育を寄生に好適な初期胚子発育段階で止める。
【課題を解決するための手段】
【0006】
薬剤抵抗性の発現のない同一系統薬剤の連用を可能とする卵寄生蜂を利用した特許6667929による総合防除が求められている。生物的防除需要が世界的に増加しており、蚕の初期SRヘテロ卵を得、蚕卵を生物的防除資材とする大量生産は養蚕業の大幅な需要増加に繋がる。特許6667929により薬剤感受性低下過程の早い時期に、胚盤葉期等の初期発育段階で発育停止する初期SRヘテロ卵(薬剤抵抗性の蚕雌蛹♀ホモ(RR)個体と薬剤無処理のwild type薬剤感受性ホモSS♂個体の交尾により産生される)による卵寄生蜂の高度寄生誘導を蚕卵に応用し、初期SRヘテロ未孵化蚕卵を大量生産し、蚕卵を生物的防除資材とし、生物的防除の普及を図る。
最近、鱗翅目、半翅目(果樹害虫カメムシ類)及びその他害虫を襲うScelionidaeに属する新たな蚕卵に寄生する卵寄生蜂(T.moricolus for Bombyx mori and B.Mandarina)が日本でも知られるようになっており、初期SRヘテロ未孵化蚕卵に寄生したTelenomus.spは家蚕の卵に寄生するTelenomus moricolusと見られ、これを生物的防除に利用する。
【発明の効果】
【0007】
卵寄生蜂の大量生産、放虫は在来の卵寄生蜂がいなかった地域でも、圃場に大量の卵寄生蜂を発生させることができる。直接防除効果が非常に高い化学的防除でも、散布直後から薬効は徐々に低下し、害虫の次世代発生期までには残効切れとなる。害虫の産卵最盛期前半に直接効果的な化学的防除剤と後半ほど効果的になる天敵卵寄生蜂の放虫との同時期処理は相補的防除効果が発揮でき、次世代害虫の産卵盛期以降もさらなるおとり卵設置により、長期間防除効果が期待できる。
卵寄生蜂による生物的防除と化学的防除の部分防除(額縁処理:バンカープラント法)で薬剤抵抗性害虫が亜致死濃度下で産下する初期SRヘテロ卵は胚発生の初期発育段階で停止し(胚盤葉期等で停止:薬剤抵抗性発達の兆しであるSR個体の最初の段階)、宿主卵が存在している間中、卵寄生蜂の寄生が可能となり卵寄生蜂の発生予察、害虫の産卵時期の推定とその産卵に対する防除が可能となる。水田圃場で化学的防除剤(育苗箱処理剤)処理の亜致死濃度下で出現した薬剤抵抗性(RR)イネドロオイムシ成虫が野生型感受性個体群(SS)とともに圃場に侵入し、薬剤抵抗性発現の初期段階には初期SRヘテロ卵が大量発生し、これを追う卵寄生蜂が大量増殖し、薬剤抵抗性の発現を阻止している現象から(特許6667929)、この状態を益虫の蚕卵を用い、人工的に初期SRヘテロ蚕卵(おとり卵)を造り出し、卵寄生蜂の大量増殖を可能とする。
長期にわたり飛来するカメムシ類の様な害虫に対して、産卵直前成虫に対しては殺虫剤による化学的防除で、害虫の産下卵に対しては、無接種のおとり卵と卵寄生蜂羽化予定の接種済み初期ヘテロSR家蚕卵を併設設置することにより、卵寄生蜂の果樹園での大量増殖が可能となる。
〔発明の残された課題〕
【0008】
薬剤の濃度調整や暴露時期により、初期SRヘテロ未孵化卵(おとり卵)の被寄生精度のさらなる向上。当年得た家蚕由来おとり卵を翌年の養蚕業開始時期迄提供する保存技術と飼育技術の向上を図る。
2020年7月下旬から8月上旬にかけて採集したTelenomus.spの成虫64頭で継代飼育した結果、2021年1月3日現在500頭:数量限定の冬季飼育(3瓶3,000頭、重複寄生:4成虫/1卵を確認,性比♂/♀=0.287)、3月以降、増殖目途の継代飼育2021年5月25日までに(26瓶26,000頭、重複寄生:7成虫死籠り/1卵を確認)に増殖中、おとり卵に変化は少なく、養蚕農家による最初の出荷繭から蚕卵が得られる翌年7月上・中旬頃まで、1年以上の継代飼育は十分可能と考えている。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は蚕の初期SRヘテロ卵に寄生する卵寄生蜂Telenomus.spの寄生構成の推移を、1週間毎に▲1▼寄生されなかった未孵化卵数、▲2▼増殖用にTelenomus.spを採集した羽化脱出後の卵殻数、▲3▼▲4▼▲5▼重複寄生数(▲3▼単寄生、▲4▼2頭寄生、▲5▼3頭寄生)を調査し、それぞれ100卵当たりに換算して構成率で示した図である。7月21日から9月11日まで1週間毎に桑樹に卵カードを吊るし、回収し、期間毎に卵寄生蜂の羽化を確認した結果、寄生されなかった▲1▼の初期SRヘテロ未孵化卵は経時的に劣化が著しい未授精卵であり、おとり卵として適さない卵であり、▲1▼を除く全卵が寄生可能であった。見かけ上の寄生率は▲2▼+▲3▼+▲4▼+▲5▼を合計した7月21~30日で76.5%、7月30日~8月7日で53%だった。卵寄生蜂による密度過多から生じた重複寄生が著しく、7月30日、8月7日採集・卵寄生蜂羽化後調査では両卵塊とも単寄生率は50%、2頭寄生率は35%前後(±2.5%)、3頭寄生は14.5%前後(±2%)と差はなかった。密度過多が著しい実験室内のおとり卵では、卵寄生蜂を接種増殖中に1卵に7頭の卵寄生蜂(死籠り)を確認した例もある。
【符号の説明】
【0010】
Y軸:蚕の初期SRヘテロ卵100卵当たりのTelenomus.sp寄生卵の構成率
Y axis: Egg Constitutions rate for early SR hetero 100 eggs
X軸:蚕の初期SRヘテロ卵のカードを桑樹に吊るした期間と採集日
X axis:Day Collected & Setting term on Mulberry
凡例
蚕の未孵化卵
:Unhatched Bombyx mori eggs
Telenomus.spが羽化・脱出し、残された卵殻
:Egg chorion emergenced by Telenomus.sp
Telenomus.spによる多重寄生
:Tripple,double,single parasitism by Telenomus.sp
【手続補正書】
【提出日】2021-11-08
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
低濃度の薬剤処理により家蚕(Bombyx.mori)の薬剤抵抗性雌蛹(成虫)を選抜し、無処理の野生型感受性SS個体(wild type)と交尾させ、初期ヘテロSR卵(特許6667929記載の殺虫剤ストレス個体群雌と無ストレス雄の交雑で生ずる卵黄豊富な胚盤葉期等の初期胚子発育段階で発育停止する卵)を産下させ、卵寄生蜂の好適な餌とし、卵寄生蜂の大量生産を図る生物的防除法。
【請求項2】
これまでの害虫卵を用いて卵寄生蜂を生産するシステムと異なり、請求項1により生産される初期ヘテロSR家蚕卵は益虫由来のおとり卵となるので、野外圃場に設置時に、寄生漏れにより害虫の幼虫が孵化することがなく、害虫の産卵期間中を通じて等しく高い被寄生率を示すので、飛来する害虫の産卵を待ち構える卵寄生蜂の量と時期を捉えることが可能となる請求項1による生物的防除法。
【請求項3】
天然増殖の生物的防除法に応用できるとともに、長期にわたり飛来するカメムシ類の様な害虫に対して、産卵直前成虫に対しては殺虫剤による化学的防除で、害虫の産下卵に対しては、無接種のおとり卵と卵寄生蜂の羽化を予定する接種した初期ヘテロSR家蚕卵とを併設し、卵寄生蜂の圃場大量増殖を可能とすることにより、成虫飛来初期には殺虫剤で、薬剤の残効がなくなる成虫飛来時期の後半には卵寄生蜂で、その次世代にはさらに増殖した卵寄生蜂により、カメムシ類のさらなる飛来・産卵に対し、高い防除効果を長期間維持できる、請求項1,又は請求項2に記載の防除法(総合防除法)。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0002
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0002】
一化性で単食性のイネドロオイムシでは高地・寒冷地で成虫の圃場内出現が著しく遅れ、産卵期に亜致死濃度状態になり易く、卵寄生蜂存在下であれば、特許6667929記載の殺虫剤ストレスにより出現する大量の卵寄生蜂を利用した生物的防除で薬剤感受性低下対策を取りながら総合防除が可能である。
一方、多化性のカメムシ類は成虫態越冬であり、通年成虫が認められ、有効積算温量により化性が変更し、産卵時期が捉えにくく、防除対策が取りにくい害虫である。その高い飛翔能力から定点調査は意味がなく、種々の誘引発生消長調査にたまたま入る成虫では世代が不明で、産卵期は越冬後成虫の卵巣形成の進行状況からを推測されるのみである。
成・幼虫による加害盛期を予測するためには、その地域で越冬後成虫が春先に集中し、卵巣形成を全うする加害植物での産卵消長、さらに加害の主体となる新世代成虫の産卵消長を予測すべきである。
果樹ではウメ、オウトウでクサギカメムシ(Halyomorpha mista(Uhler))、ナシカメムシ(Urochela luteovaria Distant)、モモ・スモモでアオクサカメムシ(Nezara antennata Scott)、オオホシカメムシ(Physopelta gutta(Burmeister))、チャバネアオカメムシ(Plautia stali Scott)、ツヤアオカメムシ(Claucias subpunctatus(Walker))、クサギカメムシ(Halyomorpha mista(Uhler))、ミナミアオカメムシ(Nezara viridula(Linnaeus))、ヨツボシカメムシ(Homalogonia obtusa(Walker))、ナシ類でアオクサカメムシ(Nezara antennata Scott)、キマダラカメムシ(Erythesina fullo(Thunberg))、クサギカメムシ(Halyomorpha mista(Uhler))、チャバネアオカメムシ(Plautia stali Scott)、ツヤアオカメムシ(Claucias subpunctatus(Walker))、ナシカメムシ(Urochela luteovaria Distant)、ミナミアオカメムシ(Nezara viridula(Linnaeus))、リンゴでアオクサカメムシ(Nezara antennata Scott)、エゾアオカメムシ(Palomena angulosa(Motschulsky))、クサギカメムシ(Halyomorpha mista(Uhler))、セアカツノカメムシ(Acanthosoma denticauda Jakovlev)、チャバネアオカメムシ(Plautia stali Scott)、ナシカメムシ(Urochela luteovaria Distant)、ヒメナガカメムシ(Nysius plebejus Distant)、ヒメホシカメムシ(Physopelta cincticollis Stal)、ホシハラビロホシカメムシ(Homoeocerus unipunctatus(Thunberg))、マルカメムシ(Megacopta punctatissimum(Montandon))、ヨツボシカメムシ(Homalogonia obtusa(Walker))、カンキツでアオクサカメムシ(Nezara antennata Scott)、ウシカメムシ(Alcimocoris japonensis Scott)、オオホシカメムシ(Physopelta gutta(Burmeister))、オオメナガカメムシ(Piocoris varius(Uhler))、クサギカメムシ(Halyomorpha mista(Uhler))、クモヘリカメムシ(Leptocorisa chinensis(Dallas))、チャバネアオカメムシ(Plautia stali Scott)、ツマキヘリカメムシ(Hygia opaca(Uhler))、トゲカメムシ(Carbula humerigera(Uhler))、ヒメナガカメムシ(Nysius plebejus Distant)、ヒメホシカメムシ(Physopelta cincticollis Stal)、ホシハラビロヘリカメムシ(Homoeocerus unipunctatus(Thunberg))、ホソクモヘリカメムシ(Leptocorisa acuta(Thunberg))、ホソハリカメムシ(Cletus punctiger(Dallas))、ホソヘリカメムシ(Riptortus clavatus(Thunberg))、マルカメムシ(Megacopta punctatissimum(Montandon))、ミカントゲカメムシ(Rhynchocoris humeralis(Thunberg))、ミナミアオカメムシ(Nezara viridula(Linnaeus))、ミナミトゲヘリカメムシ(381)、ブドウでクサギカメムシ(Halyomorpha mista(Uhler))、チャバネアオカメムシ(Plautia stali Scott)、カキでアオクサカメムシ(Nezara antennata Scott)、イチモンジカメムシ(Piezodorus hybneri(Gmelin))、オオクモヘリカメムシ(Anacanthocoris striicornis(Scott))、クサギカメムシ(Halyomorpha mista(Uhler))、クモヘリカメムシ(Leptocorisa chinensis(Dallas))、クリでウシカメムシ(Alcimocoris japonensis Scott)、その他の果樹ではビワにミナミアオカメムシ(Nezara viridula(Linnaeus))、イチジクにツマキヘリカメムシ(Hygia opaca(Uhler))、マルシラホシカメムシ(Eysarcoris guttiger(Thunberg))、キウイにクサギカメムシ(Halyomorpha mista(Uhler))、ツヤアオカメムシ(Claucias subpunctatus(Walker))、バナナにミナミアオカメムシ(Nezara viridula(Linnaeus))等が知られ、カメムシ類は加害樹種が重複し、強い選択性はなく(農林有害動物・昆虫名鑑:日本応用動物昆虫学会編)、越冬後成虫の卵巣成熟には多種植物の吸汁が必要である。
また、特用作物ではクワ・コウゾでオオメダカナガカメムシ(391)のみが害虫とし知られているが、クワにはmulberry(桑子)が熟し、記載のないチャバネアオカメムシ等の大型のカメムシ類が認められ、飛来・吸汁・産卵しているものと考えられる。養蚕が行われている地域では殺虫剤無散布の桑園に大型のカメムシ類の越冬後成虫が集中し、春先の卵巣形成樹種となっている可能性が高い。その産卵消長が捉えられていない現在、化学的防除だけでは、卵に対する防除漏れが生じ、各種の果樹で過剰なカメムシ類防除が強いられる。
多化性で長距離飛来性の果樹カメムシ類は好適な果実の熟期に合わせて成虫が圃場飛来・加害・逃亡を繰り返すため、薬剤散布の地域、時期に斉一性が得にくく、ピンポイントな散布ができず、多数回多重散布となり亜致死濃度状態になり易い。圃場でより早く劣性遺伝の薬剤抵抗性の兆し(初期SRヘテロ卵:胚盤葉期等で停止する未孵化卵)を確認し、卵寄生蜂の高度寄生に誘導することが必要。
質的遺伝では掛け合せ(RR×SS→4SR)により生じる4SRは同質であるが、量的遺伝では多様性が著しい組み合わせとなるため、それぞれである。薬剤感受性の強弱だけが情報となる量的遺伝ではヘテロ遺伝子(SR)は感受性の優性遺伝子Sの様々な組み合わせとなり、分離の法則に従うことになる。字の大きさを表すポイント値を量的遺伝子の活性として表すと、4個体の感受性S字のポイント値の理論値は、質的遺伝の4SR(S字P値は22+5=27)値の周辺に23,24.5,27,28.5とばらつく漸増値となる。
見かけ上、感受性はほぼ同一の情報量であり、質的遺伝の優性遺伝の法則に従っている様に見える。しかし、全個体死亡する場合もあるが、4個体とも遺伝情報は異なる。この4
孵化卵は殺虫剤連用下で分離の法則に従い、最初は卵期で全卵死亡するものが多いが、低濃度薬剤処理下で感受性低下が進行し、多様性豊かな量的遺伝では、当然最終的には胚子
ショウジョウバエ致死遺伝子の感受性低下は古くから知られている。また、殺虫剤JHAで交尾後蚕蛾成虫腹部への濃度を変えた薬剤注入例が報告されており、比較的濃い濃度では卵は胚子発生の初期段階(胚盤葉期等)で停止し、より薄い濃度では孵化直前幼虫の形態まで様々な発育段階で停止することが知られている。いわゆる量的遺伝の初期段階の4SRを示すこの時期に、卵寄生蜂を大量出現させる技術が必要である。
産卵期が不明瞭なカメムシ類では多数回多重散布となり易く、卵寄生蜂による生物的防除を組み合わせた総合防除で化学的防除の回数を減らす必要がある。
ブロックローテーションによる薬剤変更では薬剤感受性遺伝子(SS)の増加は望めない。圃場で4SRの状態となっている場合、同一薬剤に対するR遺伝子の減少のため
産下卵の全てを卵寄生蜂が攻撃できる状態を数年継続し、特許6667929による「卵寄生蜂による生物的防除」で、感受性遺伝子Sの適切な導入によりR遺伝子を排除すべきである。
【手続補正書】
【提出日】2022-03-09
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】請求項1
【補正方法】変更
【補正の内容】
【請求項1】
水田から越冬地へ広範囲から集まるイネドロオイムシ成虫が休眠後、翌春水田へ侵入する過程での交雑で産卵期に亜致死濃度状態になり易く、誘起される殺虫剤ストレス個体群雌と無ストレス雄の交雑で卵黄豊富な胚盤葉期等の初期胚子発育段階で発育停止する卵が生じ、卵寄生蜂(ドロムシムクゲタマゴバチ)がこれを好餌とすることから、人工的に室内で低濃度の薬剤処理により、家蚕(Bombyx.mori)の薬剤抵抗性雌蛹(成虫)を選抜し、無処理の感受性SS個体(wild type)と交尾させ、初期ヘテロSR卵を産下させ、卵寄生蜂の好適な餌とし、卵寄生蜂の大量生産を図る生物的防除法。