(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022105471
(43)【公開日】2022-07-14
(54)【発明の名称】ライソゾームを標的とした新規DDSの開発
(51)【国際特許分類】
C12N 9/64 20060101AFI20220707BHJP
C12N 9/24 20060101ALI20220707BHJP
A61K 38/47 20060101ALI20220707BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20220707BHJP
C12N 15/56 20060101ALN20220707BHJP
C12N 15/57 20060101ALN20220707BHJP
【FI】
C12N9/64 Z ZNA
C12N9/24
A61K38/47
A61P43/00 105
C12N15/56
C12N15/57
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021178052
(22)【出願日】2021-10-29
(31)【優先権主張番号】P 2021000120
(32)【優先日】2021-01-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
(71)【出願人】
【識別番号】304020292
【氏名又は名称】国立大学法人徳島大学
(71)【出願人】
【識別番号】591286270
【氏名又は名称】株式会社伏見製薬所
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】特許業務法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 孝司
(72)【発明者】
【氏名】木下 崇司
(72)【発明者】
【氏名】三谷 藍
【テーマコード(参考)】
4B050
4C084
【Fターム(参考)】
4B050CC03
4B050DD11
4B050GG04
4B050LL01
4C084AA02
4C084AA06
4C084AA07
4C084CA53
4C084DC22
4C084NA13
4C084NA14
4C084ZB211
4C084ZB212
(57)【要約】
【課題】ライソゾーム病の酵素補充療法において用いる加水分解酵素の提供。
【解決手段】欠損によりライソゾーム病の原因となるライソゾーム中に存在する加水分解酵素であって、末端にシアル酸が付いた2分岐糖鎖を有する糖鎖を少なくとも1つ含む加水分解酵素。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
欠損によりライソゾーム病の原因となるライソゾーム中に存在する加水分解酵素であって、末端にシアル酸が付いた2分岐糖鎖を有する糖鎖を少なくとも1つ含む加水分解酵素。
【請求項2】
欠損によりライソゾーム病の原因となるライソゾーム中に存在する加水分解酵素であって、末端にマンノースを有する元々有している糖鎖の少なくとも1つが末端にシアル酸を有する糖鎖に挿げ替えられている、請求項1記載の末端にシアル酸が付いた2分岐糖鎖を有する糖鎖を少なくとも1つ含む加水分解酵素。
【請求項3】
α-L-イズロニダーゼ(IDUA)又はカテプシンA(CTSA)である、請求項1又は2に記載の加水分解酵素。
【請求項4】
請求項1又は2に記載の加水分解酵素を有効成分として含む、ライソゾーム病治療薬。
【請求項5】
請求項3記載の加水分解酵素を有効成分として含み、ライソゾーム病がムコ多糖症I型である、請求項4記載のライソゾーム病治療薬。
【請求項6】
糖鎖の末端に含まれるシアル酸と細胞表面のシアル酸レセプターとの結合を介してライソゾーム中に取り込まれる、請求項4又は5に記載のライソゾーム病治療薬。
【請求項7】
以下の(i)~(vi)のいずれかの、欠損によりライソゾーム病の原因となるライソゾーム中に存在する加水分解酵素であって、末端にシアル酸が付いた2分岐糖鎖を有する糖鎖を少なくとも1つ含む加水分解酵素の製造方法:
(i)欠損によりライソゾーム病の原因となる加水分解酵素をコードする遺伝子を哺乳動物細胞に導入し、哺乳動物細胞で発現させる;
(ii)欠損によりライソゾーム病の原因となる加水分解酵素をコードする遺伝子を、シアル酸転移酵素遺伝子を導入した昆虫細胞又はカイコ自体で発現させる;
(iii)遺伝子組み換えにより、発現タンパク質にヒト型糖鎖が付くようにした酵母で発現させる;
(iv)原核微生物で発現させたペプチドにジスルフィド結合により糖鎖を付加し、その後ペプチドを繋げる;
(v)原核微生物で発現させたタンパク質に対して、末端にシアル酸が付いた2分岐糖鎖を有する糖オキサゾリン体を糖供与体とし、前記タンパク質を糖受容体とし、末端にシアル酸が付いた2分岐糖鎖を有する糖を前記タンパク質のリジン残基の1級アミンへ、付加させる;又は
(vi)末端にシアル酸が付いた2分岐糖鎖を有するアスパラギンを出発原料に、ペプチド合成によってタンパク質を調製する。
【請求項8】
欠損によりライソゾーム病の原因となる加水分解酵素と、末端シアル酸を有する糖鎖のドナーとなる糖タンパク質若しくは糖ペプチドと、エンドグリコシダーゼとを混合して反応させることにより、末端にシアル酸が付いた2分岐糖鎖を有する糖鎖を少なくとも1つ含む加水分解酵素を製造する方法。
【請求項9】
エンドグリコシダーゼが、Endo-M、Endo-M D175Q、Endo-A、Endo-S、Endo-S D233Q、Endo-CC、Endo-SB、Endo-CoM、Endo-CE、Endo-HS、Endo-Tsp1006、Endo-Tsp1263及びEndo-Tsp1457、並びにエンドグリコシダーゼの180番目のアスパラギンを他のアミノ酸に変換したEndo-CC N180H、Endo-CC N180A、Endo-CC N180D及びEndo-CC N180Qからなる群から選択される、請求項8記載の方法。
【請求項10】
加水分解酵素がα-L-イズロニダーゼ(IDUA)又はカテプシンA(CTSA)である、請求項8又は9に記載の方法。
【請求項11】
欠損によりライソゾーム病の原因となるライソゾーム中に存在する加水分解酵素であって、末端にシアル酸が付いた2分岐糖鎖を有する糖鎖を少なくとも1つ含む加水分解酵素を、糖鎖の末端に含まれるシアル酸と細胞表面のシアル酸レセプターとの結合を介してライソゾーム中に取り込ませることを含む、前記加水分解酵素をライソゾームにデリバリーする方法。
【請求項12】
加水分解酵素がα-L-イズロニダーゼ(IDUA)又はカテプシンA(CTSA)である、請求項11記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はライソゾームを標的としたDDS(ドラッグデリバリーシステム)に関する。具体的には、末端にシアル酸を有する糖鎖を含む酵素を細胞表面のシアル酸レセプターとの結合を介してライソゾームに到達させる技術に関する。
【0002】
また、本発明は、欠損によりライソゾーム病の原因となる加水分解酵素であって、末端にシアル酸が付いた2分岐糖鎖を有する糖鎖を少なくとも1つ含む加水分解酵素、及び該加水分解酵素を含むライソゾーム病の治療薬に関する。
【背景技術】
【0003】
ライソゾームは、タンパク質、糖や脂質等の生体高分子の分解を行う細胞内小器官である。ライソゾームにおいては、約60種類の加水分解酵素が関与し、エンドサイトーシスやオートファジーによってライソゾーム内に取り込まれた生体高分子を分解する。これらの酵素の欠損や異常によりライソゾームの分解機能が失われ、分解されるべき物質が老廃物として体内に蓄積してしまう先天代謝異常疾患をライソゾーム病という。欠損している酵素の違いにより、約50種類の疾患がある。その多くは神経症状を有する「神経難病」である。
【0004】
ライソゾーム病に対しては、機能が失われている酵素を細胞内に取り込ませる酵素補充療法が行なわれている(非特許文献1を参照)。多くのライソゾーム加水分解酵素は、翻訳後糖鎖修飾を受け、マンノース(Man)が付加され、また、マンノースにリン酸基が付加されマンノース6-リン酸(M6P)となり、末端にマンノース(Man)又はマンノース6-リン酸(M6P)を有する糖鎖構造を有する。酵素補充療法においては酵素が有する末端マンノース又はマンノース6-リン酸含有糖鎖と細胞表面のマンノースレセプター(MR)又はマンノース6-リン酸レセプター(M6PR)との結合を利用して細胞内に取り込ませる。
【0005】
現在、10種類のライソゾーム病に対して組換え酵素製剤が臨床応用されている。酵素製剤は製造コストが高く、また細胞内に取り込ませるためには大量の酵素製剤を投与する必要があった。例えば、組換え酵素製剤を静脈投与により、1~2週間ごとに1~20mg/kg体重投与していた。
【0006】
タンパク質の糖鎖を挿げ替えることにより所望の特性を有する糖タンパク質を製造することが知られ、そのような糖タンパク質を製造し得る糖鎖(特許文献1を参照)の挿げ替えには元々有する糖鎖を切断し、他のタンパク質の糖鎖を結合させる必要があるが、1工程のみで(ワンポット反応で)、糖鎖の挿げ替えが可能なエンドグリコシダーゼが開発されている(特許文献2を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2015-80453号公報
【特許文献2】特開2020-10662号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Wraith JM et al., PEDIATRICS, Volume 120, Number 1, July 2007, e37-e46
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、ライソゾーム病の酵素補充療法において用いる加水分解酵素の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、ライソゾーム病の酵素補充療法に用い得る酵素であって、従来の酵素よりも効率的にライソゾームに取り込まれる酵素を低コストで製造する方法について鋭意検討を行った。
【0011】
本発明者らは、欠損によりライソゾーム病の原因となるライソゾーム中に存在する加水分解酵素であって、末端にシアル酸が付いた2分岐糖鎖を有する糖鎖を少なくとも1つ含む加水分解酵素が、細胞表面のシアル酸レセプターを介して効率的に細胞中のライソゾームに取り込まれること、及びライソゾーム中に取り込まれた加水分解酵素はライソゾーム中の高分子化合物を分解することができ老廃物の蓄積を防止し、ライソゾーム病の治療薬として用いることができることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0012】
すなわち、本発明は以下のとおりである。
[1] 欠損によりライソゾーム病の原因となるライソゾーム中に存在する加水分解酵素であって、末端にシアル酸が付いた2分岐糖鎖を有する糖鎖を少なくとも1つ含む加水分解酵素。
[2] 欠損によりライソゾーム病の原因となるライソゾーム中に存在する加水分解酵素であって、末端にマンノースを有する元々有している糖鎖の少なくとも1つが末端にシアル酸を有する糖鎖に挿げ替えられている、[1]の末端にシアル酸が付いた2分岐糖鎖を有する糖鎖を少なくとも1つ含む加水分解酵素。
[3] α-L-イズロニダーゼ(IDUA)又はカテプシンA(CTSA)である、[1]又は[2]の加水分解酵素。
[4] [1]又は[2]の加水分解酵素を有効成分として含む、ライソゾーム病治療薬。
[5] [3]の加水分解酵素を有効成分として含み、ライソゾーム病がムコ多糖症I型である、[4]のライソゾーム病治療薬。
[6] 糖鎖の末端に含まれるシアル酸と細胞表面のシアル酸レセプターとの結合を介してライソゾーム中に取り込まれる、[4]又は[5]のライソゾーム病治療薬。
[7] 以下の(i)~(vi)のいずれかの、欠損によりライソゾーム病の原因となるライソゾーム中に存在する加水分解酵素であって、末端にシアル酸が付いた2分岐糖鎖を有する糖鎖を少なくとも1つ含む加水分解酵素の製造方法:
(i)欠損によりライソゾーム病の原因となる加水分解酵素をコードする遺伝子を哺乳動物細胞に導入し、哺乳動物細胞で発現させる;
(ii)欠損によりライソゾーム病の原因となる加水分解酵素をコードする遺伝子を、シアル酸転移酵素遺伝子を導入した昆虫細胞又はカイコ自体で発現させる;
(iii)遺伝子組み換えにより、発現タンパク質にヒト型糖鎖が付くようにした酵母で発現させる;
(iv)原核微生物で発現させたペプチドにジスルフィド結合により糖鎖を付加し、その後ペプチドを繋げる;
(v)原核微生物で発現させたタンパク質に対して、末端にシアル酸が付いた2分岐糖鎖を有する糖オキサゾリン体を糖供与体とし、前記タンパク質を糖受容体とし、末端にシアル酸が付いた2分岐糖鎖を有する糖を前記タンパク質のリジン残基の1級アミンへ、付加させる;又は
(vi)末端にシアル酸が付いた2分岐糖鎖を有するアスパラギンを出発原料に、ペプチド合成によってタンパク質を調製する。
[8] 欠損によりライソゾーム病の原因となる加水分解酵素と、末端シアル酸を有する糖鎖のドナーとなる糖タンパク質若しくは糖ペプチドと、エンドグリコシダーゼとを混合して反応させることにより、末端にシアル酸が付いた2分岐糖鎖を有する糖鎖を少なくとも1つ含む加水分解酵素を製造する方法。
[9] エンドグリコシダーゼが、Endo-M、Endo-M D175Q、Endo-A、Endo-S、Endo-S D233Q、Endo-CC、Endo-SB、Endo-CoM、Endo-CE、Endo-HS、Endo-Tsp1006、Endo-Tsp1263及びEndo-Tsp1457、並びにエンドグリコシダーゼの180番目のアスパラギンを他のアミノ酸に変換したEndo-CC N180H、Endo-CC N180A、Endo-CC N180D及びEndo-CC N180Qからなる群から選択される、[8]の方法。
[10] 加水分解酵素がα-L-イズロニダーゼ(IDUA)又はカテプシンA(CTSA)である、[8]又は[9]の方法。
[11] 欠損によりライソゾーム病の原因となるライソゾーム中に存在する加水分解酵素であって、末端にシアル酸が付いた2分岐糖鎖を有する糖鎖を少なくとも1つ含む加水分解酵素を、糖鎖の末端に含まれるシアル酸と細胞表面のシアル酸レセプターとの結合を介してライソゾーム中に取り込ませることを含む、前記加水分解酵素をライソゾームにデリバリーする方法。
[12] 加水分解酵素がα-L-イズロニダーゼ(IDUA)又はカテプシンA(CTSA)である、[11]の方法。
【発明の効果】
【0013】
キトビオース結合を加水分解し、また同時に糖鎖の転移反応を触媒する機能を有する酵素と末端シアル酸を有する糖鎖のドナーとなる糖タンパク質若しくは糖ペプチドと欠損によりライソゾーム病の原因となる加水分解酵素であるアクセプター糖タンパク質を含むワンポット反応系で得られる、2分岐型末端シアル酸含有加水分解酵素は、ライソゾーム病患者の細胞に、シアル酸残基依存的に取り込まれ、ライソゾームまで輸送され、欠損した加水分解酵素活性を回復させることによりライソゾーム病を治療することができる。該加水分解酵素は、従来の酵素よりも効率的にライソゾームに取り込まれる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】ワンポットでIDUAの糖鎖の少なくとも1つを末端にシアル酸を有する糖鎖に挿げ替える方法の概要を示す図である。
【
図2】MSPSI-jpにおける酵素補充の効果を示す図である。
【
図3】SG-IDUAのMPSI-jpへの細胞内取り込み競合阻害効果を示す図である。
【
図4】SG-IDUAのF17への細胞内取り込み効果を示す図である。
【
図5】Endo-CC (N180H)によるカテプシンA(CTSA)糖鎖挿げ替えにおけるCBB染色の結果(
図5A)、SSAレクチンブロッティングの結果(
図5B)及びCon Aレクチンブロッティングの結果(
図5C)を示す図である。
【
図6】SG-CTSAの32kDa又は20kDaドメインいずれかのN型糖鎖の挿げ替えにおけるSSAレクチンブロッティングの結果を示す図である。
【
図7】SG-CTSAの32kDa又は20kDaドメインいずれかのN型糖鎖の挿げ替えにおけるCBB染色の結果を示す図である。
【
図8】繭由来CTSA前駆体(proCTSA)及びα2,6-SG-CTSAのGSモデルマウス脳室内投与における投与部位を示す図である。
【
図9】繭由来CTSA前駆体(proCTSA)及びα2,6-SG-CTSAのGSモデルマウス脳室内投与におけるCtsa比活性(
図9A)及びNeu比活性(
図9B)を示す図である。
【
図10】繭由来CTSA前駆体(proCTSA)を投与したマウスの肝臓(
図10A)、脾臓(
図10B)、心臓(
図10C)における蓄積シアリル基質の減少を示す図である。
【
図11】繭由来CTSA前駆体(proCTSA)を投与したマウスの腎臓(
図11A)、肺(
図11B)における蓄積シアリル基質の減少を示す図である。
【
図12】繭由来CTSA前駆体(proCTSA)を投与したマウスにおける、シアリル基質の尿中排泄に対する抑制効果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明はライソゾームを標的としたDDS(ドラッグデリバリーシステム)に関する発明である。本発明のDDSにより、欠損によりライソゾーム病の原因となる酵素をライソゾーム病患者の細胞中のライソゾームに取り込ませることにより酵素補充療法を行うことができる。
【0016】
欠損によりライソゾーム病の原因となる酵素は、ライソゾーム中に存在する加水分解酵素(ライソゾーム酵素)であり、エンドサイトーシスやオートファジーによってライソゾーム内に取り込まれたタンパク質、糖、脂質等の生体高分子を加水分解する酵素である。これらの酵素の欠損や異常によりライソゾーム中の生体高分子が分解されずに老廃物として蓄積しライソゾーム病を発症する。
【0017】
欠損によりライソゾーム病の原因となる酵素として以下の酵素が挙げられる。括弧内はその酵素の欠損が原因となるライソゾーム病を示す。これらの酵素は一例であり、本発明においてライソゾーム病の原因となる酵素はこれらの酵素に限定されない。
【0018】
α-L-イズロニダーゼ(ムコ多糖症I型)、イズロン酸-2-スルファダーゼ(ムコ多糖症II型、ハンター症候群)、ヘパラン-N-スルファターゼ(ムコ多糖症III(A)型)、α-N-アセチルグルコサミニダーゼ(ムコ多糖症III(B)型)、アセチルCoAα-グルコサミニド-N-アセチルトランスフェラーゼ(ムコ多糖症III(C)型)、N-アセチルグルコサミン-6-スルファターゼ(ムコ多糖症III(D)型)、N-アセチルガラクトサミン-6-スルフェイトスルファターゼ(ムコ多糖症IV(A)型)、βガラクトシダーゼ(ムコ多糖症IV(B)型、GM1-ガングリオシドーシス)、N-アセチルガラクトサミン-4-スルファターゼ(ムコ多糖症VI型)、β-グルクロニダーゼ(ムコ多糖症VII型)、ヒアルロニダーゼ(ムコ多糖症IX型)、β-グルコセレブロシダーゼ(ゴーシェ病)、α-ガラクトシダーゼ(ファブリー病)、酸性スフィンゴミエリナーゼ(ニーマンピック病A型、B型)、酸性セラミダーゼ(ファーバー病)、β-ヘキソサミニダーゼA, B(GM2-ガングリオシドーシス)、アリルスルファターゼA, B, C(異染性白質ロイコジストロフィー、マルチプルスルファターゼ欠損症)、β-ガラクトセレブロシダーゼ(クラッベ病)、酸性α-グルコシダーゼ(ポンペ病)、カテプシンA(CTSA)(ガラクトシアリドーシス)、ノイラミニダーゼ1(シアリドーシス)、α-マンノシダーゼ(α-マンノシドーシス)、β-マンノシダーゼ(β-マンノシドーシス)、フコシダーゼ(フコシドーシス)、アスパチルグルコサミニダーゼ(アスパスチルグルコサミン尿症)、プロサポシン(プロサポシン欠損症)、サポシンA(サポシンA欠損症)、サポシンB(サポシンB欠損症)、サポシンC(サポシンC欠損症)、α-N-アセチルグルコサミニダーゼ(シンドラー-神崎病)、酸性リパーゼ(ウォルマン病)、カテプシンK(カテプシンK欠損症)、パルミトイルプロテインチオエステラーゼ(神経セロイドリポフスチノーシス1型)、トリペプチジルペプチダーゼ1(神経セロイドリポフスチノーシス2型)、CLN5タンパク質(神経セロイドリポフスチノーシス5型)、カテプシンD(神経セロイドリポフスチノーシス10型)、酸性フォスファターゼ(酸性フォスファターゼ欠損症)。それぞれのライソゾーム病においてライソゾーム中に蓄積する物質は、ムコ多糖症では、ムコ多糖であり、例えば、ムコ多糖症I型及びII型ではデルマタン硫酸及びヘパラン硫酸が蓄積し、ムコ多糖症III型ではヘパラン硫酸が蓄積し、ムコ多糖症IV型ではケラタン硫酸が蓄積し、ムコ多糖症VI型ではデルマタン硫酸が蓄積する。
【0019】
本発明においては、欠損によりライソゾーム病の原因となる加水分解酵素であって、末端にシアル酸が付いた2分岐糖鎖を有する糖鎖を少なくとも1つ含む加水分解酵素を用いる。
【0020】
これらの酵素は、本来、翻訳後糖鎖修飾を受け、マンノース(Man)が付加され、また、マンノースにリン酸基が付加されマンノース6-リン酸(M6P)となり、末端にマンノース(Man)又はマンノース6-リン酸(M6P)を有する糖鎖構造を有する。これらの酵素は細胞のマンノースレセプター(MR)又はマンノース6-リン酸レセプター(M6PR)を介して細胞内のエンドソームに取り込まれエンドソームがライソゾームと融合することにより細胞中のライソゾーム中に取り込まれ、加水分解活性を発揮する。
【0021】
欠損によりライソゾーム病の原因となる加水分解酵素であって、末端にシアル酸が付いた2分岐糖鎖を有する糖鎖を少なくとも1つ含む加水分解酵素は、例えば、以下の方法で製造することができる。
【0022】
(i) 末端にシアル酸が付いた2分岐糖鎖が付いたリコンビナントタンパク質を産生し得る哺乳動物細胞を用いて発現させる。欠損によりライソゾーム病の原因となる加水分解酵素をコードする遺伝子をクローニングし、発現ベクターに組込んで、これを宿主である哺乳動物細胞に導入し、該細胞を培養することにより、末端にシアル酸が付いた2分岐糖鎖が付いた加水分解酵素を得ることができる。発現ベクターの構築に用いられるベクターとしては、公知のものを用いることができる。例えば、Flexi(登録商標)ベクター(プロメガ社)、pUC19、pTV118 N(宝酒造社製)、pUEX2(アマシャム社製)、pGEX-4T、pKK233-2(ファルマシア社製)、pMAM-neo(クロンテック社製)等が挙げられる。発現ベクターは公知の方法で宿主細胞に導入し、宿主細胞を形質転換すればよい。例えば、エレクトロポレーション法、リン酸カルシウム沈殿法、DEAE-デキストラントランスフェクション法等が挙げられる。このような哺乳動物細胞として、ヒト胎児腎細胞株であるHEK293細胞若しくはHEK293T細胞、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞、サルCOS細胞等が挙げられる。
【0023】
(ii) カイコ細胞等の昆虫の細胞又はカイコ自体にシアル酸転移酵素遺伝子を遺伝子組換えにより導入し、シアル酸転移酵素を導入した昆虫細胞又はカイコを用いた発現系で発現させる。昆虫細胞としては、カイコ等の鱗翅目昆虫細胞であるSf21細胞、Sf9細胞、TN5細胞等を用いることができる。例えば、欠損によりライソゾーム病の原因となる加水分解酵素をコードする遺伝子をバキュロウイルスベクターに組込み、該ベクターを昆虫細胞に導入すればよい。細胞及びカイコ虫体へのシアル酸転移酵素遺伝子の導入は公知の方法で行うことができる。カイコ虫体を用いての産生は公知の方法により行うことができる。これらの方法は、特許第3598374号公報の記載に従って行うことができる。
【0024】
(iii) 酵母等の糖鎖が発現する真菌に属する微生物を、遺伝子組み換えにより、発現タンパク質にヒト型糖鎖が付くようにした発現系で発現させる。すなわち、シチジンモノフォスフェート-シアル酸(CMP-Sia)を欠く酵母等の真菌中にCMP-Sia合成経路を遺伝子工学的手法で形成させ、CMP-Siaを合成させる。CMP-Sia合成経路は、例えば、酵母等の真菌中に哺乳動物由来のUDP-GlcNAcエピメラーゼ、シアル酸シンターゼ、CMP-シアル酸シンターゼ、UDP-N-アセチルグルコサミン-2-エピメラーゼ、N-アセチルマンノサミンキナーゼ、N-アセチルノイラミネート-9-ホスフェートシンターゼ、N-アセチルノイラミネート-9-フォスファターゼ及びCMP-シアル酸シンターゼから選択される少なくとも1つの酵素を導入すればよい。
【0025】
酵母として、ピキア(Pichia)属酵母、カンジダ(Candida)属酵母、ハンゼヌラ(Hansenula)属酵母、サッカロマイセス(Saccharomyces)属酵母、クルイウェロマイセス(Kluyveromyces)属酵母等が挙げられる。また、その他の真核生物として、アスペルギルス(Aspergillus)属麹菌、トリコデルマ(Trichoderma)属子嚢菌、クリソスポリウム(Chrysosporium)属真菌、フザリウム(Fusarium)属菌類、アカパンカビ(Neurospora)属子嚢菌等が挙げられる。
【0026】
ピキア(Pichia)属酵母としてピキア・パストリス(Pichia pastoris)、ピキア・メタノリカ(Pichia methanolica)、ピキア・ブルトニー(Pichia burtonii)等、カンジダ(Candida)属酵母としてカンジダ・アルティス(Candida ulitis)、カンジダ・ボイジニ(Candid boidinii)、カンジダ・マイコデルマ(Candida mycoderma)等、ハンゼヌラ(Hansenula)属酵母としてハンゼヌラ・ポリモルファ(Hansenula polymorpha)、ハンゼヌラ・アノマラ(Hansenula anomala)、ハンゼヌラ・カプスラータ(Hansenula capsulata)等、サッカロマイセス(Saccharomyces)属酵母として、サッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)等、クルイウェロマイセス(Kluyveromyces)属酵母として、クルイウェロマイセス・ラクティス(Kluyveromyces lactis)等が挙げられる。また、アスペルギルス(Aspergillus)属麹菌としてアスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger)、アスペルギルス・オリゼー(Aspergillus oryzae)等が、トリコデルマ(Trichoderma)属子嚢菌としてトリコデルマ・リーゼイ(Trichoderma reesei)等が、クリソスポリウム(Chrysosporium)属真菌としてクリソスポリウム・ロックンオウンズ(Chrysosporium lucknowense)等が、フザリウム(Fusarium)属菌類としてフザリウム・エスピー(Fusarium sp.)等が、アカパンカビ(Neurospora)属子嚢菌として、ネウロスポラ・クラッサ(Neurospora crassa)等が挙げられる。
これらの方法は、特許第4932699号公報の記載に従って行うことができる。
【0027】
(iv) 発現タンパク質が糖鎖修飾されない大腸菌等の原核微生物で発現させたペプチドにジスルフィド結合を用いて糖鎖を付加し、その後ペプチドを繋げて、タンパク質を作製する。原核微生物として、大腸菌、枯草菌、糸状菌、麹菌、放線菌等が挙げられる。
これらの方法は、N.Yamamoto et al., Tetrahedron Lett, (2004), 45(16), 3287-3290の記載に従って行うことができる。
【0028】
(v)原核微生物で発現させたタンパク質に対して、末端にシアル酸が付いた2分岐糖鎖を有する糖オキサゾリン体を糖供与体とし、前記タンパク質を糖受容体とし、末端にシアル酸が付いた2分岐糖鎖を有する糖を前記タンパク質のリジン残基の1級アミンへ、付加させる。原核微生物として、大腸菌、枯草菌、糸状菌、麹菌、放線菌等が挙げられる。これらの方法は、特許第6342968号公報の記載に従って行うことができる。
【0029】
(vi) 末端にシアル酸が付いた2分岐糖鎖を有するアスパラギンを出発原料に、ペプチド合成によってタンパク質を調製する。これらの方法は、N.Yamamoto et al., J. Am. Chem. Soc, (2008), 130(2), 501-510の記載に従って行うことができる。
【0030】
さらに、加水分解酵素のアスパラギンに結合している末端にマンノース又はマンノース6-リン酸を有するN-結合型糖鎖の少なくとも1つを末端にシアル酸(Neu5Ac)を有する糖鎖に挿げ替えることにより、末端にシアル酸が付いた2分岐糖鎖を有する糖鎖を少なくとも1つ含む加水分解酵素を作製することができる。
【0031】
糖鎖の挿げ替え(リモデリング)は、最初に、加水分解酵素に元々結合している末端にマンノース又はマンノース6-リン酸を有するN-結合型糖鎖を切断し、その後末端にシアル酸が付いた2分岐糖鎖を有する糖鎖をドナーから転移する。すなわち、加水分解酵素のN-結合型糖鎖の還元末端側に存在するN,N’-ジアセチルキトビオース間を加水分解し、糖鎖をエンド型に遊離し、加水分解酵素のアスパラギン(Asn)に結合しているN型複合型糖鎖の還元末端のN-アセチルグルコサミン(GlcNAc)1残基を残して、糖鎖を切断する。末端にマンノース又はマンノース6-リン酸を有するN-結合型糖鎖としては、マンノースの数によりMan3型、Man5型、Man6型、Man8型、Man9型で表される高マンノース型糖鎖が存在する。マンノースが5個以下の高マンノース型糖鎖を切断する。次いで、ドナーから末端にシアル酸を有する糖鎖を転移する。ドナーとしては、末端にシアル酸が付いた2分岐糖鎖を有する糖鎖(シアリル糖鎖)を有する糖タンパク質又は糖ペプチドを用いることができ、例えば、2分岐型末端シアル酸を有するシアリルグリコペプチド(α2,6-SGP)を用いればよい。シアリルグリコペプチドは、卵黄から調製することができる。卵黄由来のシアリルグリコペプチドとして、CAS No.189035-43-6(C112H189N15O70、分子量2865.781)を用いることができ、伏見製薬所製のもの(商品番号:171801)を用いることができる。糖鎖の挿げ替えを行う酵素は、原核微生物、真菌、昆虫の細胞若しくはカイコ、又は哺乳動物細胞を用いて発現させて作製したものを用いればよい。
【0032】
上記の糖鎖の挿げ替えは、キトビオース結合を加水分解し、また同時に糖鎖の転移反応を触媒する機能を有する酵素を用いて行うことができる。このような酵素として、GH85ファミリー(Glycoside Hydrolase family)やGH18ファミリーに属するエンド-β-N-アセチルグルコサミニダーゼ(Endo-β-N-acetylglucosaminidase:ENGase)(エンドグリコシダーゼ)が挙げられる。これらのエンド-β-N-アセチルグルコサミニダーゼとして、Endo-M(Mucor hiemalis由来: M. Umekawa et al., J Biol Chem, 2008, Feb 22; 283(8):4469-79)、Endo-A(Arthrobacter protophormiae由来)、Endo-S(Streptococcus pyogenes由来; Collin, M. et al., (2001) The EMBO Journal, 20, 3046-3055)、Endo-CC(Coprinus cinreus由来)、Endo-SB(特開2019-17259号公報)、Endo-CoM(特開2019-17259号公報)、Endo-CE(T Kato, Glycobiology, Volume12, Issue 10, 1 October 2002, pp.581-587)、Endo-HS(特許第6341571号公報)、Endo-Tsp1006とEndo-Tsp1263とEndo-Tsp1457(S.Takashima et al., Glycobiology, Volume 30, Issue 11, November 2020, pp.923-934)等を用いることができる。これらの酵素を用いることにより1工程のみで(ワンポット反応で)、元々のマンノースを含む糖鎖の切断とドナーからのシアル酸を含む糖鎖の転移による糖鎖の挿げ替えを行うことができる。特に、真正担子菌綱ハラタケ目ヒトヨタケ科に属するCoprinopsis cinerea(Coprinus cinereus)由来のエンド-β-N-アセチルグルコサミニダーゼであるEndo-CCを用いればよい。Endo-CCは、特開2015-080453号公報に記載されている。Endo-CCの酵素の塩基配列を配列番号1に、アミノ酸配列を配列番号2に示す。該酵素の180番目のアスパラギンをヒスチジンに変換した変異体であるEndo-CC N180Hを用いることにより1工程のみで(ワンポット反応で)、元々のマンノースを含む糖鎖の切断とドナーからのシアル酸を含む糖鎖の転移による糖鎖の挿げ替えを行うことができる。Endo-CC N180H及びそれを用いた糖鎖の挿げ替え法については、特開2020-10662号公報及びManabe S.et al., R Soc Open Sci, 5(5), 171521 2018 16 eCollection May (2018)に記載されている。また、Endo-CC N180Hとして市販の酵素(伏見製薬所製、商品番号:171832)を用いることができる。なお、180番目のアスパラギンをアラニンに変換した変異体であるEndo-CC N180A、180番目のアスパラギンをグルタミンに変換した変異体であるN180Q、180番目のアスパラギンをアスパラギン酸に変換した変異体であるN180D等の酵素も、同様に加水分解活性、糖転移活性も有する変異体であるので、Endo-CC N180Hと同様に使用することができ、前記本発明の効果と同様な効果を奏すると考えられる。Endo-CC N180A、N180Q、N180Dの製造方法は、https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/27714557に「Highly efficient transglycosylation of sialo-complex-type oligosaccharide using Coprinopsis cinerea endoglycosidase and sugar oxazoline.」として記載されている。また、ワンポット反応ではなく、複数の酵素を用いて分解と転移反応を行わせてもよい。
【0033】
該方法においては、欠損によりライソゾーム病の原因となる酵素、末端にシアル酸が付いた2分岐糖鎖を有する糖鎖のドナーとなる糖タンパク質若しくは糖ペプチド、並びにEndo-CC N180H若しくは同等の活性を有するエンド-β-N-アセチルグルコサミニダーゼを混合して反応させることにより行うことができる。
【0034】
本発明の製造方法においては、エンド-β-N-アセチルグルコサミニダーゼは、磁性体樹脂ビーズに固定化されて、欠損によりライソゾーム病の原因となる酵素、並びに末端にシアル酸が付いた2分岐糖鎖を有するドナー糖鎖となる糖タンパク質若しくは糖ペプチドと混合することが好ましい。欠損によりライソゾーム病の原因となる酵素は糖鎖を挿げ替えられるのでアクセプタータンパク質と呼ぶ。
【0035】
エンド-β-N-アセチルグルコサミニダーゼを、磁性体樹脂ビーズに固定化することにより、酵素が反応系に均一に分散されるので、反応を効率よく行うことができるとともに、反応後、磁石の作用により磁性体樹脂ビーズを反応系内の一部に集めて他の反応系との分離を容易に行うことができるので、反応系の分離、取り出しが容易になり好ましい。
【0036】
磁性体樹脂ビーズに固定化されたエンド-β-N-アセチルグルコサミニダーゼは、緩衝液中に、磁性体樹脂ビーズとエンド-β-N-アセチルグルコサミニダーゼを加え、両者を接触させることにより製造することができる。磁性体樹脂ビーズとしては、Cytiva(グローバルライフテクノロジーズジャパン株式会社)や多摩川精機社等から市販されている市販品を用いることができる。
【0037】
欠損によりライソゾーム病の原因となる酵素、末端シアル酸を有する糖鎖のドナーとなる糖タンパク質若しくは糖ペプチド(SGPドナー)と、エンド-β-N-アセチルグルコサミニダーゼとの混合及び反応は、例えば、これらを容器内に入れて、当該容器を振盪することにより行うことができる。
【0038】
欠損によりライソゾーム病の原因となる酵素、末端シアル酸を有するドナー糖鎖となる糖タンパク質若しくは糖ペプチドとの反応モル比は、1:1~10000:1程度の範囲から選択すればよい。エンド-β-N-アセチルグルコサミニダーゼの使用量は、末端シアル酸を有するドナー糖鎖となる糖タンパク質若しくは糖ペプチドの1ナノモルに対して、1~300munitsの範囲から選択すればよい。反応温度は10~60℃程度の範囲から、反応時間は数分から数十時間の範囲、具体的には5分から30時間程度の範囲から選択すればよい。また、反応時のpHは好ましくはpH5.0~8.0である。前記の反応条件の好ましい範囲は、前記化合物や前記糖タンパク又は糖ペプチドの種類やモル比、エンド-β-N-アセチルグルコサミニダーゼの配合量等により変動するので、予め簡易な予備実験等により最適な条件を選択することが好ましい。
【0039】
エンド-β-N-アセチルグルコサミニダーゼを磁性体樹脂ビーズに固定化して用いる場合は、当該磁性体樹脂ビーズを磁石により反応容器の1部分に集めることにより、他の反応系と分離することができる。そして、分離された他の反応系をクロマトグラフィー等により精製することにより、反応生成物である、末端シアル酸を含む糖鎖を有する加水分解酵素を得ることができる。
【0040】
上記の(i)~(vi)のいずれかの方法で製造した欠損によりライソゾーム病の原因となる酵素は少なくとも1つの末端にシアル酸が付いた2分岐糖鎖を有する糖鎖を含む。また、エンド-β-N-アセチルグルコサミニダーゼを用いる上記方法で糖鎖を挿げ替えた、欠損によりライソゾーム病の原因となる酵素は少なくとも1つの末端にシアル酸が付いた2分岐糖鎖を有する糖鎖及び末端にマンノース又はマンノース6-リン酸を有する糖鎖を含む。少なくとも1つの末端にシアル酸が付いた2分岐糖鎖を有する糖鎖を含む糖鎖は、細胞表面のα2,6シアル酸レセプターとの結合を介して細胞中のライソゾーム中に取り込まれる。また、糖鎖が挿げ替えられた酵素は、細胞表面のマンノースレセプター又はマンノース6-リン酸レセプターと元々有する末端にマンノース又はマンノース6-リン酸を有する糖鎖との結合、あるいは細胞表面のα2,6シアル酸レセプターとの結合を介して細胞中のライソゾーム中に取り込まれる。すなわち、上記の(i)~(vi)のいずれかの方法で製造した欠損によりライソゾーム病の原因となる酵素であって少なくとも1つの末端にシアル酸が付いた2分岐糖鎖を有する糖鎖を含む酵素や糖鎖が挿げ替えられた酵素は、細胞のシアル酸含有糖鎖を有するタンパク質又はペプチドの輸送機構を利用して細胞のライソゾームに取り込ませることができる。このため、効率的にライソゾーム中に取り込まれる。効率的に取り込まれるため、投与量も少なくて済む。ライソゾーム中に取り込まれた加水分解酵素は欠損した加水分解酵素活性を回復させることによりライソゾーム中の老廃物を分解する。この結果、ライソゾーム病の治療又は症状の軽減を達成することができる。
【0041】
以下、加水分解酵素として、α-L-イズロニダーゼ(IDUA)を用い、エンド-β-N-アセチルグルコサミニダーゼとしてEndo-CC N180Hを用いる場合について詳述する。
【0042】
IDUAは、例えば、特開2017-184736号公報の段落[0108]に記載の方法によりヒトαイズロニダーゼ(IDUA)遺伝子を導入したトランスジェニックカイコ(TGカイコ)を作製し、このTGカイコより同公報の段落[0112]~[0114]に記載の方法により製造することができる(TGカイコ由来のIDUA)。
【0043】
図1にワンポットでIDUAの糖鎖の少なくとも1つを末端にシアル酸を有する糖鎖に挿げ替える方法を示す。IDUAは、
図1に示すように6個の糖鎖を有し、そのうち1個又は2個は5つより多いマンノースを有する高マンノース型糖鎖である。これらの高マンノース型糖鎖は酵素活性に必須であるので、少なくとも1つの高マンノース型糖鎖を他の糖鎖と挿げ替えることなく維持する。従って、6個の糖鎖のうち1~5個の糖鎖を挿げ替えればよい。上記のように、IDUAとドナー糖鎖であるシアリルグリコペプチドとEndo-CC 180Hを反応させることにより、糖鎖を挿げ替えることができる。この際、酵素の量やドナー糖鎖の量や反応時間を調整することにより、挿げ替えられる糖鎖の数を調節することができる。ただし、5つより多いマンノースを有する高マンノース型糖鎖は切断されないので、挿げ替えられることはない。
図1の酵素反応の産物であるSG-IDUAにおいては、1つの高マンノース型糖鎖は挿げ替えられることなく維持され、それ以外の5個の糖鎖が末端にシアル酸を有する糖鎖に挿げ替えられている。
【0044】
SG-IDUAは、少なくとも1つの末端にシアル酸を有する糖鎖及び末端にマンノース又はマンノース6-リン酸を有する糖鎖を含む。糖鎖が挿げ替えられたSG-IDUAは、細胞表面のマンノースレセプター又はマンノース6-リン酸レセプターと元々有する末端にマンノース又はマンノース6-リン酸を有する糖鎖との結合、あるいは細胞表面のα2,6シアル酸レセプターとの結合を介して細胞中のライソゾーム中に取り込まれる。ライソゾーム中に取り込まれたSG-IDUAは欠損したIDUAに代わって、ムコ多糖症I型患者の細胞中に蓄積するライソゾーム中のヘパラン硫酸及びデルマタン硫酸を分解する。この結果、IUDAの欠損が原因となるムコ多糖症I型の治療又は症状の軽減を達成することができる。
【0045】
本発明は、上記の(i)~(vi)のいずれかの方法で製造した欠損によりライソゾーム病の原因となる酵素であって少なくとも1つの末端にシアル酸が付いた2分岐糖鎖を有する糖鎖を含む加水分解酵素、及び上記の方法で末端にマンノース又はマンノース6-リン酸を有する糖鎖を有する加水分解酵素の糖鎖のうちの少なくとも1つの糖鎖を末端にシアル酸を有する糖鎖に挿げ替えた加水分解酵素、並びにこれらの酵素を有効成分として含むライソゾーム病治療薬を包含する。
【0046】
そのような酵素の一例として、6個ある末端にマンノースを有する糖鎖のうちの、酵素活性に必要な少なくとも1個の高マンノース型糖鎖を除いた少なくとも1つ、すなわち、1つ、2つ、3つ、4つ又は5つの糖鎖を末端に2分岐型末端シアル酸を有する糖鎖に挿げ替えたIDUA(SG-IDUA)又はCTSA(SG-CTSA)が挙げられる。該酵素は、ムコ多糖症I型の治療又は症状の軽減に用いることができる。
【0047】
本発明のライソゾーム病治療薬の投与形態は限定されず、経口、非経口等により投与することができる。非経口投与として、静脈内、皮下、筋肉内、腹腔内注射等が挙げられる。製剤の投与形態としては、経口液剤、錠剤、カプセル剤、丸剤、散剤等が挙げられる。カプセル剤、錠剤、散剤、顆粒剤などは、乳糖、ブドウ糖、ショ糖、マンニトールなどの賦形剤;デンプン、アルギン酸ナトリウムなどの崩壊剤;ステアリン酸マグネシウム、タルクなどの滑沢剤;ポリビニルアルコール、ヒドロキシプロピルセルロース、ゼラチンなどの結合剤;脂肪酸エステルなどの界面活性剤;グリセリンなどの可塑剤などを添加剤として用いて製造できる。
【0048】
乳剤及びシロップ剤のような液体調製物は、水、ショ糖、ソルビトール、果糖などの糖類;ポリエチレングリコール、プロピレングリコールなどのグリコール類;ごま油、オリーブ油、大豆油などの油類;p-ヒドロキシ安息香酸エステル類などの防腐剤;ストロベリーフレーバー、ペパーミントなどのフレーバー類などを添加剤として用いて製造できる。
【0049】
注射剤は、水、ショ糖、ソルビトール、キシロース、トレハロース、果糖などの糖類;マンニトール、キシリトール、ソルビトールなどの糖アルコール;リン酸緩衝液、クエン酸緩衝液、グルタミン酸緩衝液などの緩衝液;脂肪酸エステルなどの界面活性剤などを添加剤として用いることができる。
【0050】
治療に用いるのに必要なライソゾーム病治療薬の投与量は、投与する患者の年齢、性別、重篤度等により変えることができるが、最終的には担当医師が決めることができる。例えば、ライソゾーム病治療薬を1回あたり0.05~10mg/kg体重、好ましくは0.1~2mg/kg体重で投与すればよい。所定の投与量は1回の投与で与えてもよいし、1日当たり2回、3回、4回またはそれ以上の分割投与とし、1日から数年にわたって、適当な間隔で投与してもよい。
【0051】
本発明は、上記の(i)~(vi)のいずれかの、欠損によりライソゾーム病の原因となる酵素であって少なくとも1つの末端にシアル酸が付いた2分岐糖鎖を有する糖鎖を含む加水分解酵素の製造方法を包含する。
【0052】
また、本発明は、末端にマンノース又はマンノース6-リン酸を有する糖鎖を有する加水分解酵素の糖鎖のうちの少なくとも1つの糖鎖を末端にシアル酸を有する糖鎖に挿げ替えた加水分解酵素の製造法を包含する。該方法は、欠損によりライソゾーム病の原因となる加水分解酵素と、末端シアル酸を有する糖鎖のドナーとなる糖タンパク質若しくは糖ペプチドと、エンドグリコシダーゼの180番目のアスパラギンをヒスチジンに変換したEndo-CC N180Hとを混合して反応させることにより、末端にシアル酸を有する糖鎖を少なくとも1つ含む加水分解酵素を製造する方法である。該方法により、低コストでライソゾーム病治療薬を製造することができる、また、エンドグリコシダーゼの180番目のアスパラギンをヒスチジンに変換したEndo-CC N180Hを用いて製造する際の条件を均一にすることにより、糖鎖構造が均一な加水分解酵素を製造することができる。
【0053】
末端にシアル酸が付いた2分岐糖鎖を有する糖鎖を含む加水分解酵素を細胞の細胞表面のα2,6シアル酸レセプターとの結合を介した新しいドラッグデリバリーシステムで細胞中にデリバリーすることができる。さらに、末端にマンノース又はマンノース6-リン酸を有する糖鎖を有する加水分解酵素の糖鎖のうちの少なくとも1つの糖鎖を末端にシアル酸を有する糖鎖に挿げ替えることにより該酵素を細胞の細胞表面のα2,6シアル酸レセプターとの結合を介した新しいドラッグデリバリーシステムで細胞中にデリバリーすることができる。
【実施例0054】
本発明を以下の実施例によって具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0055】
[実施例1] Endo-CC(N180H)によるワンポット糖鎖修飾
カイコ繭で発現させたIDUAに特開2020-10662号公報の製造例1~3及び実施例1及び2に記載の方法を用いて糖鎖構造をSGに挿げ替えたSG-IDUAの調製を行った。
【0056】
[実施例2] MPSI-jpにおける酵素補充の効果
自然発症ムコ多糖症I型の疾患モデル細胞としてニホンザルから単離、株化された耳繊維芽細胞(MPSI-jp)を、コントロールとしてニホンザルの皮膚繊維芽細胞のjm1481を用いた。MPSI-jpは1.0×105cell、jm1481は2.0×105cellを35mm dishに播種し、細胞がdishに張り付き増えたのを確認した後、MPSI-jpには、バッファーのみ、カイコ繭で発現させたIDUA(silkworm-IDUA)、カイコ繭で発現させ、実施例1で糖鎖の挿げ替えを行ったSG-IDUAを各1μgずつ添加した。コントロールとして用いたニホンザルの皮膚繊維芽細胞のjm1481には、バッファーのみを添加し、それぞれ一晩インキュベートした。培地を捨て、PBS 1mLを用いて洗浄した後、PBS 1mLを加えスクレーバーで細胞をはがした。1.5mLチューブに回収した後dishにPBS 500μLを加え、残りの細胞も回収した。500×gで5分間遠心し上清を取り除いた。プロテアーゼインヒビター(EDTA、ぺプスタチンA、ロイペプチン)入り細胞抽出バッファー(50mM NaOAc(pH4.5)/150mM NaCl/1(w/v)% TritonX-100)100μLを加えよくピペッティングした。10分間、氷上でソニケーションし18,000×gで5分間遠心し、上清を回収した。この細胞抽出上清15μLに2mM 4-MU-Idopyranoside,500mM NaClを含む0.1M酢酸ナトリウムバッファー(pH 4.5)を15μL加え、37℃で30分間インキュベートした。0.2M glycine-NaOH(pH10.7)を380μL加えて反応を停止し、96wellプレートに300μLずつ分注してEx360nm、Em448nmで蛍光強度を測定した。
【0057】
細胞抽出上清タンパク質1mgが1時間に4-MU-Idopyranosideを4-MUに酵素消化し、蛍光発光する量を評価した(
図2)。
【0058】
コントロールであるjm1481において4-MU-Idopyransideが4-MUに分解される量を100%とした際に、MPSI-jpは10%まで酵素活性は低下するが、Silkworm-IDUAは100.7%まで上昇し、SG-IDUAについては153.5%まで上昇することがわかった。
【0059】
なお、silkworm-IDUAは、カイコ繭で発現させているため、糖鎖構造がパウチマンノース型、もしくはハイマンノース型であることがわかっている。また、これらの糖鎖においては、細胞内に取り込まれないことがすでにわかっているため、111%まで酵素活性が上昇しているが、それらは細胞膜に非特異的吸着したため酵素活性の上昇が見られたと考えている。SG-IDUAでも同様に酵素活性の上昇がみられた。この場合もsilkworm-IDUAと同様に細胞膜に非特異的吸着を起こしていると考えているため、実際に細胞内に取り込まれたのは、SG-IDUAとsilkworm-IDUAの差分、43%分の酵素活性が細胞内で示す酵素活性と考えている。
【0060】
[実施例3] SG-IDUAのMPSI-jpへの細胞内取り込み競合阻害効果
MPSI-jp 1.0×10
5cellを35mm dishに播種し、細胞がdishに張り付き増えたのを確認した後、MPSI-jpには、(1)バッファーのみ、(2)SG-IDUAを1μg、(3)SG-IDUAを1μgと5mM シアル酸(SA)、(4)SG-IDUAを1μgと5mM SG、(5)SG-IDUAを1μgと5mMマンノース6-リン酸(M6P)をそれぞれ添加した。一晩インキュベートし、培地を捨て、PBS1mLを用いて洗浄した後、PBS 1mLを加え、スクレーバーで細胞をはがした。1.5mLチューブに回収した後、dishにPBS 500μLを加え、残りの細胞も回収した。500×gで5分間遠心し上清を取り除いた。プロテアーゼインヒビター(EDTA、ぺプスタチンA、ロイペプチン)入り細胞抽出バッファー(50mM NaOAc(pH4.5)/150mM NaCl/1(w/v)% TritonX-100)100μLを加え、よくピペッティングした。10分間、氷上でソニケーションし18,000×gで5分間遠心し、上清を回収した。この細胞抽出上清15μLに2mM 4-MU-Idopyranoside,500mM NaClを含む0.1M酢酸ナトリウムバッファー(pH 4.5)を15μL加え、37℃で30分間インキュベートした。0.2M glycine-NaOH(pH10.7)を380μL加えて反応を停止し、96wellプレートに300μLずつ分注してEx360nm、Em448nmで蛍光強度を測定した(
図3)。
【0061】
SG-IDUAのみを添加したときの酵素活性を100%としたときに、5mM SA、5mM SG、5mM M6Pを添加したとき、酵素活性の低下が見られたことから、SG-IDUAは、SA、SG、M6Pと競合すると考えられる。
【0062】
[実施例4] F17(MPSI患者皮膚繊維芽細胞)細胞内取り込み
ヒトMPSI患者皮膚繊維芽細胞(F17)への取り込みを評価するために、予めIDUAを酸性領域で蛍光を発光する試薬AcidiFluor(五稜化薬株式会社製)を用いて標識を行った。Silkworm-IDUA 10μg、SG-IDUA 10μgをそれぞれ0.1M炭酸水素ナトリウムバッファー(pH8.3)で300μLまでメスアップした。AcidiFluor ORANGE 2.1μLをそれぞれに加え、遮光して常温で2時間撹拌した。Amicon Ultra-0.5mL(10KDa;メルクミリポア社製)を用いてSG-IDUA-AFOを5,000×gで5分間限外ろ過を行った。さらに0.1M炭酸水素ナトリウムバッファー(pH8.3)を300μLアプライし限外ろ過、5,000×gで5分間限外ろ過を行い5回繰り返しSG-IDUA-APOを得た。
【0063】
8well chamber(Thermo Scientific製)をcollagenでコートし、クリーンベンチ内で1時間静置した。表面のコラーゲンを除きPBS 1mLで洗浄後、細胞を1×10
4cellずつ各wellに播いた。細胞が張り付いたのを確認した後、培地を除き、PBSで2回洗浄した。SG-IDUA-APO 1μgを培地で200μLに希釈した後、細胞に添加した。阻害効果の検討を行うためSG-IDUA-APOに5mM シアル酸を加えたサンプルも用意し細胞に添加を行った。37℃、5%CO
2下で24時間インキュベートした。蛍光顕微鏡(BZ9000,BIO-REVO)を用いて、励起波長532nm、蛍光波長568nmで観察を行った。SG-IDUA-APOは、酸性環境下において、赤色の蛍光が観察される。結果を
図4に示す。
図4に示すように、SG-IDUA-APOは、F17細胞に取り込まれ、赤色の蛍光が観察されたが、5mM Sialic Acidによって、細胞内取り込みが阻害されることより、赤色の蛍光が減少することがわかった。このことよりSG-IDUA-APOは、SG依存的に細胞内に取り込まれ、酸性pH環境下のリソソーム内へと輸送されることが明らかになった。
【0064】
[実施例5] Endo-CC (N180H)によるカテプシンA(CTSA)糖鎖挿げ替え
カイコ繭で発現させたCTSAにEndo-CC(N180H)を用いて糖鎖構造をSGに挿げ替えたSG-CTSAの調製を行った。
【0065】
方法
サンプルとして、U-32-2a×mari1-2繭由来CTSA(butyl 0M, 8.3mg/mL, 2019/10/08精製, -30℃保存)を用いた。Endo-CC (N180H) 1mU/μL, 352μg/mL(伏見製薬, J2717A)及びSGP 250nmol/μL(伏見製薬, Product code : 171801, #N1617vB)を用いて以下の方法で糖鎖の挿げ替えを行った。
【0066】
1.糖鎖挿げ替え反応
表1に示すように反応液を調製した。ドナー:アクセプター=1000:1(モル比)
【0067】
【0068】
30℃、エアインキュベーターで反応し、0, 4, 8, 24時間で1μLずつ回収し、6×dye(+)を加えて3分間煮沸した。さらに、SDS-PAGEを行い、CBB染色、SSAレクチブロッティング、及びConA レクチンブロッティングを行った。
【0069】
2.CBB染色
染色液でovernight染色し、10%酢酸で脱色した。
【0070】
3.レクチンブロッティング
(1) PVDF膜をMeOHで親水化した。
(2) 泳動後のゲル、ろ紙、PVDF膜をブロッティングバッファーで振盪した。
(3) 15V、1時間、ブロッティングした。
(4) 50(w/v)% Blocking One/TBSでR.T. 1時間、ブロッティングした。
(5) 1stプローブとして、biotin labeled SSA(500倍希釈)を用い、4℃、overnightで反応させ、PBS-0.1(w/v)%Tween20で5分間、3回洗浄した。
(6) 2ndプローブとしてanti-biotin HRP linked Ab #32 (CST)(1000倍希釈)を用い、R.T.で1時間反応させ、PBS-0.1(w/v)%Tween20で5分間、3回洗浄した。
(7) PBSで5分間洗浄した。
(8) Western lightning ultra-ECLで検出した。
(9) Stripping buffer(10% SDS 5mL, 4×Upper buffer 3.125mL, 2-メルカプトエタノール 176μL, MQ up to 25mL)で50℃、1時間、reprobeした。
(10) 50(w/v)% Blocking One/TBSでR.T. 1時間、ブロッキングした。
(11) 1stプローブとして、biotin labeled ConA(250倍希釈)を用い、4℃、overnight反応させた。
(12) PBS-0.1(w/v)%Tween20で5分間、3回洗浄した。
(13) 2ndプローブとして、anti-biotin HRP linked Ab #32 (CST)(1000倍希釈)を用い、R.T.で1時間反応させた。
(14) PBS-0.1(w/v)%Tween20で5分間、3回洗浄した。
(15) PBSで5分間洗浄した。
(16) Western lightning plus-ECLで検出した。
【0071】
結果
図5に、CBB染色の結果(
図5A)、SSAレクチンブロッティングの結果(
図5B)及びCon Aレクチンブロッティングの結果(
図5C)を示す。
SSAレクチンブロッティングの結果より、4, 8, 24hrのサンプルではSGPへの挿げ替えが行えていると判断できる。また、CBB染色の結果より、24hrでSGPに挿げ替わったものと考えられるバンドが4, 8hrより濃くなっている。これは、反応時間が長い方が糖鎖を挿げ替えることができることを示している。挿げ替え効率は、約50%であった。
【0072】
[実施例6] SG-CTSAトリプシン処理
実施例5より、繭由来CTSA前駆体(proCTSA)はEndo-CC(N180H)によりSG型糖鎖へ挿げ替えられることが確認された。そこで、実施例5で作製した糖鎖をSG型糖鎖へ挿げ替えたSG-CTSAの32kDa, 20kDaドメインのいずれのN型糖鎖が挿げ替えられているかを確認した。
【0073】
方法
サンプルとして、SG-CTSA(1mg/mL, -30度保存)を用いた。
反応条件は、SG-CTSA : トリプシン=1 : 3(モル比)とし、pH6.0で37℃、2時間反応させた。反応液の組成を表2に示す。
【0074】
【0075】
以下の工程で糖鎖の挿げ替えを確認した。
(1) 上記の条件で反応を開始し、2時間後に3μg分取し6×dyeを加えて煮沸した。
(2) SDS-PAGEを行った(12.5(w/v)% SDS-PAGE gel, stacking : 15mA, running : 20mA)。
(3) 泳動が終了したゲルをブロッティングバッファーで30分間振盪した。
(4) 15Vで1時間、ブロッティングした。
(5) Blocking ONE/TBSで1時間、ブロッティングした。
(6) 1stプローブとして、SSA-biotin (500倍希釈、Blocking ONE 500μL:lectin 1μL)を用い、4℃でovernight反応させた。
(7) PBS-0.1(w/v)%Tween20を用い、5分間、3回洗浄した。
(8) 2ndプローブとして、anti-biotin HRP-linked Ab (CST) #33 (1000倍希釈、Blocking ONE 500μL:Ab 0.5μL)を用い、1時間、r.t.で反応させた。
(9) PBS-0.1(w/v)%Tween20を用い、5分間、3回洗浄した。
(10) PBSを用い、5分間洗浄した。
(11) Western lightning ultra-ECL(Chemi Hi Resolution、23.588sec)で検出した。
(12) 20kDaのドメインはPVDF膜に転写されにくいので、再度SDS-PAGEを行い(1μg分)、CBB染色を行った。
【0076】
結果
結果を
図6及び
図7に示す。
図6は、SSAレクチンブロッティングの結果を示し、
図7はCBB染色の結果を示す。
図7中のaのレーンは、CTSA+トリプシンの染色結果であり、bのレーンはSG-CTSA+トリプシンの染色結果である。
SSAレクチンブロッティングの結果より、SG-CTSAの32kDa, 20kDaドメインいずれのN型糖鎖も挿げ替えられていると考えられる。また、CBB染色の結果より、20kDaドメインに比べて32kDaドメインで高分子量側のシフトが確認されており、この結果は、32kDa側のハイマンノース型糖鎖がシアリル糖鎖に挿げ替わったことを示す。したがって、32kDaドメインのN型糖鎖の方が挿げ替わりやすいと考えられる。
【0077】
[実施例7] 繭由来CTSA前駆体(proCTSA)及びα2,6-SG-CTSAのGSモデルマウス脳室内投与(中枢神経系への酵素補充療法)
3mg/kg・体重で繭由来CTSA前駆体及びSG-CTSAをGS(ガラクトシアリドーシス)モデルマウス(6週~7週齢成体マウス)に投与した後24時間で解剖し、Ctsa活性、Neu活性がどの程度回復するかを用いて確認した。GSモデルマウスは、ユニーテック社に作製を委託した。
【0078】
Neu活性とは、末端α2,3、α2,6またはα2,8結合したシアル酸含有糖鎖のシアル酸残基を切断する加水分解酵素ノイラミニダーゼ(シアリダーゼ)の触媒活性を示す。本実施例では、人工蛍光基質4-MU-N-Acetyl-neuraminic acidの分解活性を測定した。細胞内に取り込まれたproCTSAまたは成熟体が内在性のNeu1と会合して活性化され、Neu活性を示すようになり、GSマウスで欠損しているCtsaとNeu1の両方の活性を回復させることができるという治療効果(有効性)を示すことができる。
【0079】
方法
マウスに投与するサンプルとして、繭由来CTSA前駆体、実施例5で作製したα2,6-SG-CTSA及びPBSを用いた。
表3に、用いたマウス番号、遺伝子型、性別、週齢及び投与サンプルを示す。
【0080】
【0081】
以下の工程で実験を行った。
1.マウスへの脳室内投与
(1) イソフルランで予備麻酔をした。
(2) ソムノペンチル150μLを腹腔内投与した。
(3) 頭皮を切り開き、各サンプルを3mg/kg・体重となるように右脳に脳室内投与した。
図8に投与部位を示す。
(4) 頭皮を元に戻し、ゲージに入れた。
【0082】
2.解剖
(1) イソフルランで麻酔をかけた。
(2) 心臓からPBS約20mLで還流した。
(3) 脳、肝臓を取り出し、1.5mLチューブに入れ、氷上で冷やした。
(4) 各臓器は-80℃で保存した。
【0083】
3.抽出液の作製
(1) 表4に示す組成で抽出バッファーを調製した。この際、サンプル数+1本分を調製した。
【表4】
(2) サンプルに抽出バッファーを5倍量加え、ペッスルでホモジナイズした。
(3) タンパク定量・NEU1活性測定用に、抽出液を半量1.5mLチューブに分注した(遠心前sample)。
(4) 残りの抽出液を12000rpm, 4℃, 15分間遠心した。
(5) 上清を回収し、遠心後サンプルとした。
【0084】
4.NEU1活性測定
(1) 表5に示す組成で基質を調製した。この際、サンプル数×2+2本分を調製した。
【表5】
(2) 調製した基質を20μLずつ1.5mLチューブに分注した。この際、酵素(-)も調製した。
(3) 分注した基質に抽出液を20μLずつ加え、37℃, 30分間インキュベーションを行った。
(4) 0.2M Gly-NaOH (pH10.7)を370μL加え、反応を停止した。
(5) 表6に示すように検量線を作成した。
【表6】
(6) 各サンプル、検量線を300μLずつ96wellプレートにアプライし、460nmで蛍光測定した。
【0085】
5.カテプシンAの酵素活性測定
5-1.一次反応:Leuを遊離させる反応
(1) 表7に示す組成で反応液を調製した。この際、サンプル数×2+2本分を調製した。
【表7】
(2) サンプル25μLずつ1.5mLチューブに分注(duplicate)で行った。基質(-)は各サンプル1つずつ調製(計3本/サンプル数用意)した。
(3) 1.5mLチューブのふたを全部開けておき、すばやく反応液25μLを入れた。ただし、基質(-)には反応液ではなく、0.2M NaOAcバッファー(pH5.6)を25μL加えた。
(4) 30分間, 25℃反応させた。
(5) 100℃, 2分間沸騰水につけて、反応停止した。得られた反応液を1次反応液とした。
(6) 表8に示すように検量線を作成した。
【表8】
【0086】
5-2.二次反応:発色反応
(1) 二次反応混液を表9に示すように調製した。この際、検量線の分も作製した。
【表9】
(2) 二次反応混液500μLを各サンプルと検量線に加え、37℃, 40分間インキュベーションした。
(3) 6N HClを500μLずつ加え、反応停止した。
(4) 96wellプレートに300μLずつアプライし、OD540nmで吸光度を測定した。
(5) (4)の結果とタンパク定量の結果からCathA活性(Ctsa活性)を算出した。
【0087】
結果
図9にCtsa比活性(
図9A)及びNeu比活性(
図9B)を示す。
1.Ctsa活性
WTの平均は、108 nmol/h/mg proteinであった。
PBS投与では、2.2 nmol/h/mg proteinであった。
CTSA投与群の平均は、32 nmol/h/mg proteinであった。
SG-CTSA投与群の平均は、54 nmol/h/mg proteinであった。
【0088】
2.Neu活性
PBS投与では、5.56 nmol/h/mg proteinであった。
CTSA投与群の平均は、0.34 nmol/h/mg proteinであった。
SG-CTSA投与群の平均は、1.35 nmol/h/mg proteinであった。
WTの平均は、0.84 nmol/h/mg proteinであった。
【0089】
GSマウス脳室内へのMan-proCTSA(繭由来CTSA前駆体)及びSG-proCTSA投与24時間後の大脳において、Ctsa及びNeu1活性が回復しており、その回復程度はSG-CTSAの方が高かった。繭由来Man-proCTSAはManレセプターを発現するミクログリアにのみ取り込まれたと考えられる。一方、SG-proCTSAは末端マンノース型とシアル酸含有糖鎖の両方を有するため、ミクログリア以外の細胞にも取り込まれたため、Man-proCTSAよりも高い活性の回復を示したことが示唆された。活性の回復は、ライソゾーム中に取り込まれたことを示唆している。
【0090】
[実施例8] 繭由来CTSA前駆体(proCTSA)及びα2,6-SG-CTSAのGSモデルマウス尾静脈内投与
GS(ガラクトシアリドーシス)モデルマウス(6週~7週齢成体マウス)に対し、TGカイコ繭由来CTSA前駆体のSG型糖鎖改変体であるSG-proCTSA(
図10では、SGW群)を、尾静脈内に3 mg/kg体重で、毎週投与(計4回)した。実験は3回実施した。
最終投与7日後に、各マウスを解剖し、肝臓、脾臓、心臓、腎臓、肺を摘出して、各臓器抽出液中のNeu活性、またその蓄積シアリル基質(シアル酸量)の減少を指標に、非投与群(PBS投与コントロール、
図10ではCT群)、CHO細胞由来CTSA前駆体(CHO-proCTSA、
図10ではCHO群)及びTGカイコ繭由来CTSA前駆体(Man型proCTSA、
図10ではSW群)の投与群間の比較を行った。
図10のWT群は野生型マウスである。
また各CTSA前駆体の、第1回投与前(Pre)、第2回投与前(Day7)、第4回投与前(Day22)で採取した尿中の末端シアル酸含有糖鎖(シアリル糖鎖)量を、レゾルシノール法により定量し、投与後の尿中排泄量の減少を指標に、投与による有効性を評価した。
【0091】
方法
抽出液の作製
(1) 表10に示す組成で抽出バッファーを調製した。サンプル数+1本分を調製した。
【表10】
(2) サンプルに抽出バッファーを5倍量加え、ペッスルでホモジナイズした。
(3) タンパク定量・NEU1活性測定用に、抽出液を半量1.5mLチューブに分注した(遠心前サンプル)。
(4) 残りの抽出液を12000rpm, 4℃, 15min遠心した。
(5) 上清を回収した(遠心後サンプル)。
【0092】
NEU1活性測定
(1) 表11に示す組成で基質を調製した。サンプル数×2+2本分を調製した。
【表11】
(2) 遠心前サンプルを20μLずつ1.5mLチューブに分注した。酵素(-)も調製した。
(3) 調製した基質を20μLずつ加え、37℃, 30min, インキュベーションした。
(4) 0.2M Gly-NaOH (pH10.7)を370μL加え、反応を停止した。
(5) 表12のように検量線を作成した。
【表12】
(6) 各サンプル、検量線を200μLずつ96wellプレートにアプライし、460nmで蛍光測定した。
【0093】
カテプシンA(Cathepsin A)の酵素活性測定
一次反応:Leuを遊離させる反応
(1) 表13に示す組成で反応液を調製した。サンプル数×2+2本分を調製した。
【表13】
(2) 遠心後、サンプル25μLずつ1.5mLチューブに分注(duplicate)で行い、基質(-)は各Sample 1つずつ調製した。計3本/サンプル数用意した。
(3) 1.5mLチューブのふたを全部開けておき、すばやく反応液25μLを入れた。基質(-)には反応液ではなく、0.2M NaOAc バッファー(pH5.6)を25μL加えた。
(4) 30min, 25℃でインキュベーションした。
(5) 100℃, 2min沸騰水につけて、反応停止した(1次反応液)。
(6) 表14に示すように検量線を作成した。
【表14】
【0094】
二次反応:発色反応
(1) 二次反応混液を表15に示すように調製した。検量線の分も調製した。
【表15】
(2) 二次反応混液500μLを各サンプルと検量線に加え、37℃, 40min, インキュベーションした。
(3) 6N HCl 500μLずつ加え、反応停止した。
(4) 96wellプレートに300μLずつアプライし、OD540nmで吸光度を測定した。
(5) (4)の結果とタンパク定量の結果からCathA活性を算出した。
【0095】
β-Hexの酵素活性測定
(1) 遠心後サンプルを15μLずつ分注した(duplicate)。
(2) 酵素(-)としてMQ-H
2O 15μLを1.5mLチューブに分注した。
(3) MUG 15μLずつ加え、37℃, 15min, インキュベーションした。
(4) 0.2M Gly-NaOH (pH10.7)を380μL加え、反応停止した。
(5) 表16に示すように検量線を作成した。
【表16】
(6) 各サンプル、検量線を200μLずつ96wellプレートにアプライし、460nmで蛍光測定した。
【0096】
β-Galの酵素活性測定
(1) 遠心後サンプルを15μLずつ分注した(duplicate)。
(2) 酵素(-)としてMQ-H
2O 15μLを1.5mLチューブに分注した。
(3) 4MU-Gal 15μLずつ加え、37℃, 30min, インキュベーションした。
(4) 0.2M Gly-NaOH (pH10.7)を380μL加え、反応停止した。
(5) 表17に示すように検量線を作成した。
【表17】
(6) 各サンプル、検量線を200μLずつ96wellプレートにアプライし、460nmで蛍光測定した。
【0097】
シアル酸定量
(1) 検量線としてシアル酸を表18に示すように調製した。0.2mLチューブを用いた。
【表18】
(2) 遠心前サンプルを50μL×3本、0.2mLチューブに分注した。
(3) 40mM NaIO
4を10μLずつサンプルに加え、混和
(4) 以下のようにレゾルシノール(-)溶液、レゾルシノール溶液を作製した。
・レゾルシノール溶液 組成(1mL当たり)
6(w/v)%レゾルシノール/18%HCl溶液 100μL
6N HCl 300μL
0.185(w/v)% CuSO
4 16μL
MilliQ 584μL
・レゾルシノール(-)溶液 組成(1mL当たり)
6N HCl 334μL
0.185(w/v)% CuSO
4 16μL
MilliQ 650μL
(5) 1本にはレゾルシノール(-)溶液、2本にレゾルシノール溶液を125μLずつサンプルに加え、混和した。
(6) サーマルサイクラーを用い、以下の処理を行った。
4.0℃ 5min
99.9℃ 15min
37.0℃
(7) Tert-ブチル-アルコールを125μLずつ96well プレートに分注した。
(8) 反応液とTert-ブチル-アルコール125μLとをwell内で混和した。
(9) OD630nmの吸光度を測定した(中央機器室プレートリーダー)。
【0098】
図10に、SG-proCTSA投与(SGW)群において、PBS投与(CT)群を100%としたときの、肝臓(
図10A)、脾臓(
図10B)及び心臓(
図10C)における、Neu基質であるシアリル基質の蓄積量を示す。
図10に示すように、肝臓、脾臓及び心臓で、シアル酸含量はWTと同程度まで減少していた。
図11に、同様に腎臓(
図11A)、肺(
図11B)における、Neu基質であるシアリル基質の蓄積量を示す。
図11に示すように、腎臓ではCHO-CTSA投与群でcontrolと比較してシアル酸量は減少していた。肺ではCHO-CTSA、SG-CTSA投与群でcontrolと比較して有意にシアル酸量が減少しており、SW-CTSA投与群でも減少傾向にあった。
【0099】
また、
図12に、尿中排泄におけるNeu基質であるシアリル基質の蓄積量を示す。各個体のPre(投与前)の尿中シアル酸量を100として、D7(投与1回目の翌日)、D22(投与3回目の翌日)の尿中シアル酸量を表すと、CHO-CTSAおよびSG-CTSA投与群ではD22において、CTと比較して有意に尿中シアル酸量が減少した。SW-CTSA投与群でも有意差はつかなかったが尿中シアル酸量は減少傾向にあった。
【0100】
肝臓・脾臓・心臓においては、マクロファージ・単球等に存在するM6PR、ManRまたはSiaRを介してCHO由来M6P型proCTSA、TGカイコ繭由来Man型proCTSAまたはSG-proCTSAは、細胞内に取り込まれ、蓄積シアリル基質が有意に減少し、治療効果(有効性)が認められたと考えられる。
【0101】
腎臓・肺においては、組織構成細胞のM6PRを介して、CHO由来M6P型proCTSAが細胞内に取り込まれ、蓄積シアリル基質の有意な減少(有効性)が現れたと考えられる。SG型-proCTSAは、肺構成細胞に取り込まれ、基質の有意な減少作用を示す。しかしTGカイコ繭由来Man型proCTSAは、細胞内に取り込まれないため、有効性が現れないと考えられる。
【0102】
本GSモデルマウスにおける蓄積シアリル基質の尿中排泄に対し、CHO由来M6P型正常proCTSAまたはSG型-proCTSAの静脈内複数回投与の抑制作用を示した。
【0103】
肝臓、脾臓、心臓(以上、スライド8に記載)及び肺(TGカイコ繭由来のMan型proCTSAでは有意差なし)の結果及びシアリル基質(糖鎖)の尿中排泄の有意な減少は、SG-proCTSAの特異的な機能及び有効性を示している。