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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022105586
(43)【公開日】2022-07-14
(54)【発明の名称】S-アリルシステインの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07C 323/58 20060101AFI20220707BHJP
   A61K 31/198 20060101ALI20220707BHJP
   A61K 8/44 20060101ALI20220707BHJP
   A61Q 19/00 20060101ALI20220707BHJP
   A23L 33/105 20160101ALI20220707BHJP
   A23L 5/00 20160101ALI20220707BHJP
【FI】
C07C323/58
A61K31/198
A61K8/44
A61Q19/00
A23L33/105
A23L5/00 K
【審査請求】有
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022078752
(22)【出願日】2022-05-12
(62)【分割の表示】P 2018073905の分割
【原出願日】2018-04-06
(71)【出願人】
【識別番号】000002901
【氏名又は名称】株式会社ダイセル
(74)【代理人】
【識別番号】100124431
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 順也
(74)【代理人】
【識別番号】100174160
【弁理士】
【氏名又は名称】水谷 馨也
(72)【発明者】
【氏名】江口 晃一
(72)【発明者】
【氏名】高柳 勝彦
(57)【要約】
【課題】
短時間でS-アリルシステインを製造する方法を提供する。
【解決手段】
アリシンと、L-シスチンとを、アルカリ土類金属水酸化物及びアルカリ土類金属酸化物からなる群より選択される少なくとも1種の存在下に、溶媒中で共存させる工程を備える、S-アリルシステインの製造方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
カルシウム及びマグネシウムからなる群から選択される少なくとも1種を1質量%以上含む、S-アリルシステイン含有組成物。
【請求項2】
請求項1のS-アリルシステイン含有組成物を含む、食品、医薬品、医薬部外品、又は化粧品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、S-アリルシステインの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ニンニク、タマネギなどのアリウム属の植物には、種々の含硫アミノ酸が含まれることが知られており、近年、含硫アミノ酸の一種であるS-アリルシステインの有する様々な生理学的作用が注目されている。
【0003】
しかしながら、例えば、ニンニクなどに含まれるS-アリルシステインの含有量は、ごく僅かである。
【0004】
例えば、特許文献1には、システインを添加する工程を含むアリウム属植物の加工方法に関する発明が開示されている。引用文献1には、当該加工方法により、S-アリルシステインの生成量が数日程度で増加することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平3-167129号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載された加工方法によれば、数日程度でS-アリルシステインの生成量を増加させることが可能とされているが、工業的にS-アリルシステインを製造する観点からは、S-アリルシステインの生成が遅すぎるという問題がある。
【0007】
このような状況下、本発明は、短時間でS-アリルシステインを製造する方法を提供することを主な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、このような課題を解決するために鋭意検討を行った。その結果、アリシンと、L-シスチンとを、アルカリ土類金属水酸化物又はアルカリ土類金属酸化物の存在下に、溶媒中で共存させることにより、S-アリルシステインが短時間で効率的に生成することを見出した。本発明は、これらの知見に基づいて、さらに検討を重ねることにより完成された発明である。
【0009】
すなわち、本発明は、下記に掲げる態様の発明を提供する。
項1. アリシンと、L-シスチンとを、アルカリ土類金属水酸化物及びアルカリ土類金属酸化物からなる群より選択される少なくとも1種の存在下に、溶媒中で共存させる工程を備える、S-アリルシステインの製造方法。
項2. 前記アリシンとして、アリウム属の植物、前記植物の搾汁、及び前記植物の抽出物からなる群から選択された少なくとも1種を用いる、項1に記載のS-アリルシステインの製造方法。
項3. 前記アリウム属の植物が、ニンニク、タマネギ、ラッキョウ、ギョウジャニンニク、及びアサツキからなる群から選択された少なくとも1種である、請求1又は2のいずれかに記載のS-アリルシステインの製造方法。
項4. 前記アルカリ土類金属水酸化物が、水酸化マグネシウム及び水酸化カルシウムの少なくとも一方であり、
前記アルカリ土類金属酸化物が、酸化マグネシウム及び酸化カルシウムの少なくとも一方である、項1~3のいずれかに記載のS-アリルシステインの製造方法。
項5. 前記工程において、アルカリ土類金属水酸化物及びアルカリ土類金属酸化物からなる群より選択される少なくとも1種と、L-シスチンとの混合物を用意し、当該混合物と、前記アリシンとを前記溶媒中で混合する、項1~4のいずれかに記載のS-アリルシステインの製造方法。
項6. 前記工程における温度が、20~60℃である、項1~5のいずれかに記載のS-アリルシステインの製造方法。
項7. 前記工程において、前記溶媒のpHが9以上となり、酸化還元電位が-300mV以下となる、項1~6のいずれかに記載のS-アリルシステインの製造方法。
項8. カルシウム及びマグネシウムからなる群から選択される少なくとも1種を1質量%以上含む、S-アリルシステイン含有組成物。
項9. 項8のS-アリルシステイン含有組成物を含む、食品、医薬品、医薬部外品、又は化粧品。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、短時間でS-アリルシステインを製造する方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】実施例1のS-アリルシステイン(SAC)生成量推移を示すグラフである。
図2】実施例1のpH値推移を示すグラフである。
図3】実施例1のORP値推移を示すグラフである。
図4】実施例2のS-アリルシステイン(SAC)生成量推移を示すグラフである。
図5】実施例2のpH値推移を示すグラフである。
図6】実施例2のORP値推移を示すグラフである。
図7】比較例1のS-アリルシステイン(SAC)生成量推移を示すグラフである。
図8】比較例1のpH値推移を示すグラフである。
図9】比較例1のORP値推移を示すグラフである。
図10】実施例1,2及び比較例1のS-アリルシステイン(SAC)生成量推移を比較したグラフである。
図11】実施例1,2及び比較例1のpH値推移を比較したグラフである。
図12】実施例1,2及び比較例1のORP値推移を比較したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明のS-アリルシステインの製造方法は、アリシンと、L-シスチンとを、アルカリ土類金属水酸化物及びアルカリ土類金属酸化物からなる群より選択される少なくとも1種の存在下に、溶媒中で共存させる工程(以下、反応工程ということがある)を備えることを特徴としている。本発明のS-アリルシステインの製造方法は、このような構成を備えていることにより、短時間(例えば、24時間以内程度)でS-アリルシステインを効率的に製造することができる。以下、本発明のS-アリルシステインの製造方法について、詳述する。
【0013】
本発明の製造方法によって製造されるS-アリルシステインは、下記一般式で示される化学構造を有する。なお、下記一般式の立体構造については、天然物として一般的な構造を示している。
【化1】
【0014】
本発明において、生成物であるS-アリルシステインは、上記構造を有するS-アリルシステインの他、これの光学異性体であってもよいし、各光学異性体の混合物であってもよい。
【0015】
本発明において、原料となるアリシンは、含硫アミノ酸の一種である。原料となるアリシンとしては、化学合成されたアリシンを用いてもよい。また、アリシンの精製物を用いてもよい。
【0016】
また、本発明においては、アリシンとして、アリシンを含む素材を用いることもできる。アリシンを含む素材としては、好ましくは、アリウム属の植物、アリウム属の植物の搾汁、及びアリウム属の植物の抽出物からなる群から選択された少なくとも1種が挙げられる。アリシンは、例えば、アリインを含むアリウム属の植物の組織を破壊することによって、内在する酵素を作用させると、アリインから変換されて生成することが知られている。従って、原料となるアリシンとして、アリウム属の植物を用いる場合には、アリウム属の植物を傷つけたり、切断するなどして、組織を破壊し、アリインにアリイナーゼを作用させることによって、アリシンを生成したアリウム属の植物(すなわち、アリシンを含んだ状態のアリウム属の植物)を用いる。
【0017】
なお、アリウム属の植物に含まれるアリイナーゼは、高温での加熱などによって失活することが知られている。このため、アリウム属の植物をアリシンの供給源として用いる場合には、アリイナーゼの失活処理が行われていないアリウム属の植物の組織を破壊し、アリインにアリイナーゼを作用させることによって、アリシンを生成させたアリウム属の植物を用いることが好ましい。
【0018】
アリシンとして、アリウム属の植物(すなわち、アリシンを含んだ状態のアリウム属の植物)を用いる場合、当該植物の切断物、破砕物、磨砕物、粉末などの形態であることが好ましい。アリウム属の植物の切断物、破砕物、磨砕物、粉末は、例えば、当該植物をクラッシャー、ミキサー、フードプロセッサー、パルパーフィッシャーなどを用いて切断、破砕、磨砕、粉末化することによって得られる。また、アリウム属の植物の搾汁は、例えばフィルタープレス、ジューサーミキサーなどを用いて調製することができる。搾汁は、上記磨砕物を、濾布などを用いて濾過することによっても調製することができる。アリウム属の植物の切断物、破砕物、磨砕物、及び搾汁は、希釈物または濃縮物であってもよい。希釈物としては、例えば、当該植物の切断物、破砕物、磨砕物、搾汁などを水で1~50倍程度に希釈したものが挙げられる。また、濃縮物としては、例えば、当該植物の切断物、破砕物、磨砕物、搾汁などを凍結濃縮、減圧濃縮などの手段によって1~100倍に濃縮したものなどが挙げられる。アリウム属の植物の切断物、破砕物、磨砕物、搾汁は、冷凍したものであってもよい。アリウム属の植物の抽出物は、前述のアリウム属の植物や当該切断物等を、例えば水などの溶媒により抽出することにより得ることができる。本発明において、アリシンを含む素材は、1種類単独で使用してもよいし、2種類以上を組み合わせて使用してもよい。
【0019】
アリウム属の植物としては、700種類以上が知られており、アリシンを供給できるものであればいずれを素材として用いてもよい。アリウム属の植物の具体例としては、ニンニク、タマネギ、ギョウジャニンニク、ヒメニラ、ニラ、カンケイニラ、イトラッキョウ、キイイトラッキョウ、ミヤマラッキョウ、ノビル、ヤマラッキョウ、アサツキ、エゾネギ、ヒメエゾネギ、シブツアサツキ、シロウマアサツキ、イズアサツキ、ツリーオニオン、ネギ、ワケギ、リーキ、ラッキョウ、シマラッキョウ、シャロット、エシャロット、青ネギ、チャイブ、ヤグラネギ、白ネギなどが挙げられる。これらの中でも、アリインなどの含硫アミノ酸を高濃度に含む観点から、ニンニク(Allium sativum L.)、タマネギ(Allium cepa L.)、アサツキ(Allium schoenoprasum L.)、ラッキョウ(Allium chinense G.Don)、ギョウジャニンニク(Allium victorialis subsp. platyphyllum)などが好ましく、ニンニク(Allium sativum L.)がより好ましい。
【0020】
本発明において、原料となるL-シスチン(3,3’-ジチオビス(2-アミノプロピオン酸))は、含硫アミノ酸の一種である。シスチンは、2分子のシステインが、チオール基(-SH)の酸化によって生成するジスルフィド結合(-S-S-)を介してつながった構造を有する。本発明において、原料となるL-シスチンとしては、化学合成されたL-シスチンを原料として用いてもよいし、L-シスチンを含む素材を原料として用いてもよい。
【0021】
L-シスチンは、精製物が容易に入手可能である。また、S-アリルシステインの生成速度を高める観点から、L-シスチンの精製物を用いることが好ましい。L-シスチンの精製物としては、一般的に、試薬、医薬品成分、食品成分などとして市販されているものが挙げられる。
【0022】
本発明の製造方法において、アリシンとL-シスチンとの割合は、S-アリルシステインが生成すれば特に制限されないが、S-アリルシステインの生成速度を高める観点からは、アリシン100モルに対して、L-シスチンを好ましくは300モル以上、より好ましくは500モル以上、さらに好ましくは700モル以上とする。また、本発明において、上記のアリシンを含む素材、L-シスチンを含む素材などを用いる場合には、これらの使用量は、アリシン及びL-シスチンの割合が好ましくはこのような比率となるようにして、適宜設定すればよい。
【0023】
本発明の製造方法においては、アルカリ土類金属水酸化物及びアルカリ土類金属酸化物の少なくとも1種の存在下に、アリシンとL-シスチンとを共存させることによって、S-アリルシステインが短時間で効率的に生成する。
【0024】
アルカリ土類金属水酸化物としては、好ましくは水酸化マグネシウム、水酸化カルシウムが挙げられる。アルカリ土類金属酸化物としては、好ましくは酸化マグネシウム、酸化カルシウムが挙げられる。アルカリ土類金属水酸化物及びアルカリ土類金属酸化物は、それぞれ、1種類のみを用いてもよいし、2種類以上を混合して用いてもよい。また、アルカリ土類金属水酸化物及びアルカリ土類金属酸化物を1種類単独で用いてもよいし、2種類以上併用してもよい。これらの中でも、S-アリルシステインの生成速度を高める観点から、アルカリ土類金属水酸化物及びアルカリ土類金属酸化物の少なくとも一方を用いることが好ましく、アルカリ土類金属酸化物を用いることがより好ましい。特に、酸化マグネシウム及び酸化カルシウムの少なくとも一方を用いることが好ましい。
【0025】
アルカリ土類金属水酸化物、及びアルカリ土類金属酸化物の使用量(合計使用量)としては、特に制限されないが、本発明の製造方法の反応工程における溶媒のpHが、例えば9.5以上、好ましくは9.5~12、より好ましくは10~12程度、さらに好ましくは11~12程度となる量とすることが好ましい。
【0026】
溶媒としては、S-アリルシステインの生成を阻害しなければ、特に制限されないが、好ましくは水、エタノールなどを使用することができる。溶媒は、1種類のみを用いてもよいし、2種類以上を混合して用いてもよい。
【0027】
溶媒中のアリシンの濃度としては、S-アリルシステインが生成すれば特に制限されないが、好ましくは800~2,000mg/L程度、より好ましくは1,500~2,000mg/L程度が挙げられる。同様の観点から、溶媒中におけるL-シスチンの濃度としては、好ましくは7,000~17,000mg/L程度、より好ましくは12,000~17,000mg/L程度が挙げられる。なお、S-アリルシステインが生成するに従い、アリシンとL-シスチンとが消費されて、溶媒中のアリシン濃度及びL-シスチン濃度は低下する。本発明において、上記のアリシンを含む素材、L-シスチンを含む素材などを用いる場合には、これらの使用量は、溶媒中のアリシン及びL-シスチンの濃度が好ましくはこのような範囲となるようにして、適宜設定すればよい。
【0028】
本発明において、反応工程の温度としては、S-アリルシステインが生成すれば特に制限されないが、より短時間でS-アリルシステインを製造する観点からは、好ましくは20~60℃程度、より好ましくは30~60℃程度、さらに好ましくは35~55℃程度、特に好ましくは40~50℃程度が挙げられる。
【0029】
また、反応工程における溶媒のpHは、S-アリルシステインが生成すれば特に制限されないが、例えばpH9.5以上であり、9.5~12程度となることが好ましく、10~12程度となることがより好ましく、11~12程度となることがさらに好ましい。なお、溶媒のpHは、反応工程の少なくとも一部において、上記pH値となればよいが、反応工程開始後5時間以内、さらには3時間以内、さらには2時間以内、特に1時間以内に、上記pH値となることがより好ましい。
【0030】
また、反応工程における溶媒の酸化還元電位は、S-アリルシステインが生成すれば特に制限されないが、-300mV以下となることが好ましく、-400~-650mV程度となることがより好ましく、-500~-650mV程度となることがさらに好ましい。なお、溶媒の酸化還元電位は、反応工程の少なくとも一部において、上記酸化還元電位となればよいが、反応工程開始後5時間以内、さらには3時間以内、さらには2時間以内、特に1時間以内に、上記酸化還元電位となることがより好ましい。
【0031】
反応工程の時間は、S-アリルシステインが所望量生成すれば特に制限されず、使用する原料の種類、量などによっても異なるが、通常1~24時間程度、好ましくは4~12時間の範囲に設定することが好ましい。
【0032】
本発明の製造方法において、アルカリ土類金属水酸化物及びアルカリ土類金属酸化物の少なくとも1種の存在下に、アリシンとL-シスチンとを溶媒中で共存させることができればよく、各成分の混合順序は特に制限されない。例えば、反応工程においては、アルカリ土類金属水酸化物及びアルカリ土類金属酸化物からなる群より選択される少なくとも1種と、L-シスチンとの混合物を用意し、当該混合物と、アリシンとを溶媒中で混合させてもよい。また、反応工程において、アルカリ土類金属水酸化物及びアルカリ土類金属酸化物からなる群より選択される少なくとも1種と、アリシンと、L-シスチンとを溶媒中で均一に混合した後、これらの反応を攪拌してもよいし、静置してもよい。攪拌方法としては、特に制限されず、例えば、攪拌羽、ミキサー、スターラーなどを用いて攪拌する方法が挙げられる。
【0033】
反応工程の後、混合物から、濾過、遠心分離、濃縮、抽出等の通常の単離操作によってS-アリルシステインを分離する単離工程を行うことができる。さらに、S-アリルシステインの純度を高めるために、カラムクロマトグラフィー、再結晶等の通常の精製操作によって、S-アリルシステインを精製する精製工程を行うことができる。また、反応混合物を、フリーズドライ、スプレードライなどの方法によって乾燥させて固形物(粉末、顆粒など)とすることもできる。本発明の製造方法によって得られるS-アリルシステインの精製物や、S-アリルシステインを含む反応混合物は、医薬品、医薬部外品、飲食品、化粧品、飼料、健康食品などとして好適に使用することができる。
【0034】
前記の通り、本発明のS-アリルシステインの製造方法は、アリシンと、L-シスチンとを、アルカリ土類金属水酸化物及びアルカリ土類金属酸化物からなる群より選択される少なくとも1種の存在下に、溶媒中で共存させる工程を備えている。このため、本発明の製造方法によれば、例えば、アルカリ土類金属(カルシウム、マグネシウムなど)を、例えば1質量%以上、好ましくは3質量%以上、更に好ましくは5質量%以上含む、S-アリルシステイン含有組成物が好適に得られる。本発明は、当該S-アリルシステイン含有組成物を含む、食品、医薬品、医薬部外品、化粧品などを好適に提供することができる。
【実施例0035】
以下に、実施例及び比較例を示して本発明を詳細に説明する。ただし、本発明は、実施例に限定されない。なお、実施例及び比較例中の測定方法は次の通りである。
【0036】
(HPLC分析条件)
カラム:Unison US-C18 5μm (250mm×4.6mm) インタクト株式会社製
カラム温度:45℃
移動相:[A液]10mM りん酸2水素カリウム緩衝液(pH2.5/りん酸)、[B液]アセトニトリル
流速:1mL/min
測定波長:210nm
【0037】
(実施例1)
皮をむいて台座を除去して、鱗片に分けたにんにく(品種名:福地ホワイト)100gに、等重量のイオン交換水を加えて市販の家庭用ジューサー(SUNVIGOR ジュースミキサー,SML-G22)で摩砕し、にんにくペーストを得た。にんにくペースト100質量部に対して、酸化マグネシウム(ナカライテスク製)6質量部と、L-シスチン(プロテインケミカル製)4質量部を、それぞれ添加し、更にイオン交換水をにんにく重量に対して2倍量を添加し、40~50℃に加温して攪拌した。酸化マグネシウム及びL-シスチン添加から0時間目、2時間目、4時間目、6時間目、8時間目、24時間目にサンプリングを行い、サンプリング液中のS-アリルシステインの含有量をHPLC法で分析したところ、最大で4.06g/kgのS-アリルシステインが産生していることを確認した。S-アリルシステイン(SAC)生成量推移を示すグラフを図1に示す。また、サンプリング液のpHと酸化還元電位(ORP)を測定したところ、pHが最大で9.82、酸化還元電位は最低で-465mVであった。pH値推移とORP値推移を示すグラフをそれぞれ図2及び図3に示す。
【0038】
(実施例2)
酸化マグネシウムの代わりに酸化カルシウムを用いたこと以外は、実施例1と同様の手順で実施したところ、にんにく重量に対して最大で4.15g/kgのS-アリルシステインが産生していることを確認した。S-アリルシステイン(SAC)生成量推移を示すグラフを図4に示す。また、pHは最大で11.9、酸化還元電位は最低で-593mVであった。pH値推移とORP値推移を示すグラフをそれぞれ図5及び図6に示す。
【0039】
(比較例1)
酸化マグネシウムの代わりにアルカリ金属水酸化物である水酸化ナトリウムを用いて、初期PHを12に調整したこと以外は、実施例1と同様の手順で実施したところ、にんにく重量に対して最大で2.54 g/kgのS-アリルシステインが産生していることを確認した。S-アリルシステイン(SAC)生成量推移を示すグラフを図7に示す。また、pHは最大で9.97、酸化還元電位は最低で-336 mVであった。pH値推移とORP値推移を示すグラフをそれぞれ図8及び図9に示す。
【0040】
実施例1,2及び比較例1におけるS-アリルシステイン(SAC)生成量推移、pH推移、及び酸化還元電位推移の比較をそれぞれ図10~12に示す。実施例1,2と比較例1との比較から、アリシンと、L-シスチンとを、アルカリ土類金属(水酸化物又は金属酸化物)存在下に溶媒中で共存させる方法は、アルカリ金属(水酸化物)の存在下に溶媒中で共存させる方法に比して、S-アリルシステイン(SAC)生成量が非常に多く、また生成速度が非常に速く、短時間でS-アリルシステインを製造できることが分かる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12