(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022105635
(43)【公開日】2022-07-14
(54)【発明の名称】飛翔害虫捕獲器
(51)【国際特許分類】
A01M 1/14 20060101AFI20220707BHJP
【FI】
A01M1/14 S
【審査請求】有
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022084249
(22)【出願日】2022-05-24
(62)【分割の表示】P 2017221707の分割
【原出願日】2017-11-17
(71)【出願人】
【識別番号】000207584
【氏名又は名称】大日本除蟲菊株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100141586
【弁理士】
【氏名又は名称】沖中 仁
(74)【代理人】
【識別番号】100171310
【弁理士】
【氏名又は名称】日東 伸二
(72)【発明者】
【氏名】三石 帆波
(72)【発明者】
【氏名】田村 悠記子
(72)【発明者】
【氏名】引土 知幸
(72)【発明者】
【氏名】中山 幸治
(57)【要約】
【課題】飛翔害虫に対して、優れた誘引効果及び捕獲効果を発揮する飛翔害虫捕獲器を提供する。
【解決手段】飛翔害虫を誘引して捕獲する飛翔害虫捕獲器100であって、飛翔害虫が付着する粘着シート30と、粘着シート30が設置される本体10と、粘着シート30を覆うように装着されるカバー部20と、カバー部20に設けられる飛翔害虫が侵入する侵入口40と、を備え、本体10にカバー部20を装着したとき、本体10とカバー部20との間に粘着シート30を収容する内部空間Sが形成されるとともに、当該内部空間Sが侵入口40を介して飛翔害虫が生息する外部環境と連通するように構成され、カバー部20の外表面に止まった飛翔害虫を侵入口に誘導するエッジ部70が、侵入口40の付近に設けられている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
飛翔害虫を誘引して捕獲する飛翔害虫捕獲器であって、
前記飛翔害虫が付着する粘着シートと、
前記粘着シートが設置される本体と、
前記粘着シートを覆うように装着されるカバー部と、
前記カバー部に設けられる前記飛翔害虫が侵入する侵入口と、
を備え、
前記本体に前記カバー部を装着したとき、前記本体と前記カバー部との間に前記粘着シートを収容する内部空間が形成されるとともに、当該内部空間が前記侵入口を介して前記飛翔害虫が生息する外部環境と連通するように構成され、
前記カバー部の外表面に止まった飛翔害虫を前記侵入口に誘導するエッジ部が、前記侵入口の付近に設けられており、
前記粘着シートは、前記飛翔害虫が感受可能な波長の紫外線を吸収するUV吸収部と、前記紫外線を反射するUV反射部とを備え、
前記粘着シートにおいて、前記UV吸収部及び前記UV反射部が矩形に構成されるとともに、両者が市松模様状に配置され、
前記市松模様状に配置された前記UV吸収部及び前記UV反射部は、最も短い辺が10mmより大きく50mm以下の矩形部として構成される飛翔害虫捕獲器。
【請求項2】
前記エッジ部は、前記侵入口の輪郭に沿うように形成された環状エッジ部を含む請求項1に記載の飛翔害虫捕獲器。
【請求項3】
前記エッジ部は、前記侵入口の輪郭に並列するように形成された線状エッジ部をさらに含む請求項2に記載の飛翔害虫捕獲器。
【請求項4】
前記粘着シートにおいて、前記UV吸収部がPCCS色相環における色相番号7~9に着色されているとともに、前記UV反射部がPCCS色相環における色相番号4~6に着色されている請求項1~3の何れか一項に記載の飛翔害虫捕獲器。
【請求項5】
飛翔害虫誘引性植物に由来する香り成分を揮散させる薬剤部をさらに備える請求項1~4の何れか一項に記載の飛翔害虫捕獲器。
【請求項6】
前記カバー部の中央付近に前記薬剤部が配置されているとともに、当該薬剤部の周囲に前記侵入口が複数配置されている請求項5に記載の飛翔害虫捕獲器。
【請求項7】
前記飛翔害虫誘引性植物は、サトイモ亜科の植物である請求項5又は6に記載の飛翔害虫捕獲器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、飛翔害虫を誘引して捕獲する飛翔害虫捕獲器に関する。
【背景技術】
【0002】
コバエ等の飛翔害虫を防除する目的で、内部に誘引剤を備えた種々の飛翔害虫捕獲器が市販されている。飛翔害虫捕獲器に飛翔害虫を効率よく誘引するためには、飛翔害虫捕獲器の構造や、使用する誘引剤について工夫する必要がある。
【0003】
従来、誘引剤によって誘引された飛翔害虫を捕獲器内部に侵入させるため、飛翔害虫が侵入する侵入口に対して高低差のある通風口を設けた捕獲器があった(例えば、特許文献1を参照)。特許文献1の捕獲器は、上部を平坦な曲面で構成されたドーム形状とし、このドーム部の曲面上に侵入口を設けている。これにより、侵入口付近に誘引された害虫がドーム部の表面に止まることなく容器内部に誘引され、捕獲できるとされている。
【0004】
また、容器の上方に向けて突出する角型形状の突出部を設け、飛翔害虫に止まり木を与える捕獲器も知られている(例えば、特許文献2を参照)。特許文献2には、突出部の側部に飛翔害虫が侵入する開口部が設けられており、突出部に集まって止まった飛翔害虫を開口部から容器内部に誘引することができるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002-171889号公報
【特許文献2】特開2010-57502号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところが、実際のところ、飛翔害虫は侵入口(開口部)から容器内部へとスムーズに侵入するとは限らず、不規則な軌跡で飛び続けることがある。また、飛翔害虫は捕獲器付近に常に滞留しているわけでもないため、侵入口から揮散する誘引成分を効果的に作用させることは難しい。従って、飛翔害虫を捕獲する場合、自由に飛翔させるのではなく、むしろ積極的に何らかの物体に止まらせる方が飛翔害虫の挙動をコントロールし易い。そうすることで、容器内部から外部に揮散する誘引成分を飛翔害虫に確実に作用させ、容器内部に誘引することができると考えられる。
【0007】
この点、特許文献1の捕獲器は、上述のように、外側が平坦な曲面で構成されているため、飛翔害虫が捕獲器の外表面に止まり難くなっている。そのため、誘引成分によって捕獲器に接近した飛翔害虫がそのままスムーズに容器内部に侵入しない限り、捕獲することができない。
【0008】
一方、特許文献2の捕獲器には、飛翔害虫を止まらせるための突出部が設けられている。この突出部は、蓋の一部を上方に膨出させて角型形状に露出させたものである。このような角型形状を有する突出部は、飛翔害虫が止まったとしても、周囲に大きく露出しているため警戒され易く、人の気配等を感じて飛翔害虫が突出部から逃げてしまう虞がある。その上、この捕獲器では、突出部とその側部に設けられている開口部とが適切に配置されておらず、両者間の距離が比較的大きいため、飛翔害虫が突出部から開口部に移動することも容易ではない。
【0009】
このように、現状の捕獲器においては、容器の外表面に止まった飛翔害虫を、容器内部に誘導して確実に捕獲するという点で改善の余地が大きい。本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、飛翔害虫、特に、ショウジョウバエ、ノミバエ、クロバネキノコバエ、キノコバエ、チョウバエ等のコバエ類に代表される飛翔害虫に対して、優れた誘引効果及び捕獲効果を発揮する飛翔害虫捕獲器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するための本発明に係る飛翔害虫捕獲器の特徴構成は、
飛翔害虫を誘引して捕獲する飛翔害虫捕獲器であって、
前記飛翔害虫が付着する粘着シートと、
前記粘着シートが設置される本体と、
前記粘着シートを覆うように装着されるカバー部と、
前記カバー部に設けられる前記飛翔害虫が侵入する侵入口と、
を備え、
前記本体に前記カバー部を装着したとき、前記本体と前記カバー部との間に前記粘着シートを収容する内部空間が形成されるとともに、当該内部空間が前記侵入口を介して前記飛翔害虫が生息する外部環境と連通するように構成され、
前記カバー部の外表面に止まった飛翔害虫を前記侵入口に誘導するエッジ部が、前記カバー部前記侵入口の付近に設けられていることにある。
【0011】
本構成の飛翔害虫捕獲器によれば、侵入口の付近に設けられたエッジ部が、カバー部の外表面に止まった飛翔害虫を侵入口に誘導するように機能するため、飛翔害虫が飛翔害虫捕獲器の近傍まで誘引されてカバー部の外表面に止まると、飛翔害虫がエッジ部を介して侵入口から内部空間に侵入し易く、高い確率で飛翔害虫を捕獲することができる。
【0012】
本発明に係る飛翔害虫捕獲器において、
前記エッジ部は、前記侵入口の輪郭を取り囲むように形成された環状エッジ部を含むことが好ましい。
【0013】
本構成の飛翔害虫捕獲器によれば、環状エッジ部は、侵入口を取り囲むように形成されているため、カバー部の外表面に止まった飛翔害虫は、環状エッジ部のある位置に到達すると、それを伝って侵入口から飛翔害虫捕獲器の内部に侵入し易くなる。その結果、飛翔害虫を高い確率で捕獲することができる。
【0014】
本発明に係る飛翔害虫捕獲器において、
前記エッジ部は、前記侵入口の輪郭に並列するように形成された線状エッジ部をさらに含むことが好ましい。
【0015】
本構成の飛翔害虫捕獲器によれば、線状エッジ部は、侵入口の輪郭に並列するように形成されているため、カバー部の外表面に止まった飛翔害虫は、線状エッジ部のある位置に到達すると、侵入口から離れるよう移動することが少なく、侵入口から飛翔害虫捕獲器の内部に侵入する可能性が高まる。
【0016】
本発明に係る飛翔害虫捕獲器において、
前記粘着シートは、前記飛翔害虫が感受可能な波長の紫外線を吸収するUV吸収部と、前記紫外線を反射するUV反射部とを備えていることが好ましい。
【0017】
本構成の飛翔害虫捕獲器によれば、UV吸収部において紫外線が吸収され、UV反射部において紫外線が反射されるため、紫外線反射光によって粘着シート上に強いコントラストの明暗パターンが生じる。コバエ等の飛翔害虫は、紫外線に対する感度の高い視細胞を有し、広い視野を有する複眼において明暗変化を検知するため、粘着シート上に生じる紫外線反射光の明暗パターンによって、飛翔害虫に強い誘引刺激を与えることができる。この結果、飛翔害虫を効果的に誘引し、捕獲することができる。
【0018】
本発明に係る飛翔害虫捕獲器において、
前記粘着シートにおいて、前記UV吸収部及び前記UV反射部が矩形に構成されるとともに、両者が市松模様状に配置されていることが好ましい。
【0019】
本構成の飛翔害虫捕獲器によれば、粘着シート上において紫外線反射光の明暗パターンが市松模様状に生じるため、飛翔害虫が飛翔害虫捕獲器の近傍まで誘引され、粘着シートの一部領域のみが複眼視野内に捉えられた状態でも、適切に紫外線反射光の明暗パターンによる誘引刺激を与えることができる。その結果、飛翔害虫捕獲器の近傍に誘引された飛翔害虫を確実に内部空間にまで導き、効率的に捕獲することができる。
【0020】
本発明に係る飛翔害虫捕獲器において、
前記粘着シートにおいて、前記UV吸収部がPCCS色相環における色相番号7~9に着色されているとともに、前記UV反射部がPCCS色相環における色相番号4~6に着色されていることが好ましい。
【0021】
本構成の飛翔害虫捕獲器によれば、粘着シートが備えるUV吸収部及びUV反射部の配色として、上記の好ましい色相の組み合わせが選択されるため、飛翔害虫捕獲器に近づいてきた飛翔害虫を粘着シートが設置されている内部空間に確実に誘引し、捕獲することができる。
【0022】
本発明に係る飛翔害虫捕獲器において、
飛翔害虫誘引性植物に由来する香り成分を揮散させる薬剤部をさらに備えることが好ましい。
【0023】
本構成の飛翔害虫捕獲器によれば、飛翔害虫誘引性植物に由来する香り成分(誘引剤)を含む薬剤部を備えることで、UV吸収部及びUV反射部により粘着シートに生じる紫外線反射光の明暗パターンと合わせて相乗的に飛翔害虫を誘引することができる。
【0024】
本発明に係る飛翔害虫捕獲器において、
前記カバー部の中央付近に前記薬剤部が配置されているとともに、当該薬剤部の周囲に前記侵入口が複数配置されていることが好ましい。
【0025】
本構成の飛翔害虫捕獲器によれば、薬剤部の周囲に侵入口が複数配置されているため、侵入口から飛翔害虫誘引性植物に由来する香り成分(誘引剤)をまんべんなく揮散させ、飛翔害虫を誘引することができる。
【0026】
本発明に係る飛翔害虫捕獲器において、
前記飛翔害虫誘引性植物は、サトイモ亜科の植物であることが好ましい。
【0027】
本構成の飛翔害虫捕獲器によれば、飛翔害虫を誘引する虫媒花のサトイモ亜科の植物に由来する香り成分を誘引剤に含ませているため、飛翔害虫に対する誘引効果が非常に高いものとなり、優れた飛翔害虫捕獲器を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図1】
図1は、実施形態に係る飛翔害虫捕獲器の使用状態の説明図である。
【
図2】
図2は、実施形態に係る飛翔害虫捕獲器の組立手順の説明図である。
【
図3】
図3は、
図1(b)中のA-A線における飛翔害虫捕獲器の断面図である。
【
図4】
図4は、
図1(b)中のB-B線における飛翔害虫捕獲器の断面図である。
【
図5】
図5は、粘着シートにおけるUV吸収部及びUV反射部の配置を例示したイメージ図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
コバエ類に代表される飛翔害虫を捕獲する飛翔害虫捕獲器は、捕獲対象の飛翔害虫が興味を示す状態(例えば、飛翔害虫が止まり易い容器形状、飛翔害虫が好む誘引成分の揮散等)を実現することにより、飛翔害虫を飛翔害虫捕獲器に引き寄せ、内部に捕獲するものである。このような仕組みは、自然界にも存在する。例えば、昆虫を捕獲し、栄養源とする食虫植物がその例である。食虫植物とは、葉や茎の一部が捕虫器官として発達した植物であり、当該捕虫器官の形状やそこから発散される匂い等によって昆虫をおびき寄せ、これを捕らえて自身の栄養としている。食虫植物の捕虫方式には、落とし穴式、粘着式、挟み罠式、袋罠式等がある。これらのうち、例えば、落とし穴式の食虫植物として、ウツボカズラやフクロユキノシタが知られている。ウツボカズラには、消化液の入った袋状の捕虫器官が備わっており、袋の表側には翼(よく)と呼ばれる筋状の線状突起が袋の開口部から下方に延在するように形成されている。昆虫は線状突起に止まると、それを伝って移動する習性がある。そのため、昆虫がウツボカズラの袋の表面に止まると、翼を伝って袋の開口部まで移動し、当該開口部から袋の内部に落下して捕獲される。また、フクロユキノシタにも、ウツボカズラと同様のキールと呼ばれる筋状の線状突起を有する捕虫用の袋が備わっており、キールに止まった昆虫を袋の内部に落下させて捕獲することができる。
【0030】
一方、食虫植物の仲間ではないが、捕獲した昆虫に花粉を付着させて繁殖する植物(「虫媒花」又は「捕虫植物」と称される場合あり)がある。例えば、マムシグサは、サトイモ亜科のテンナンショウ属植物の一種であり、昆虫が好む匂いを発散して昆虫を誘引するものである。このとき、マムシグサの花粉が昆虫に付着するため、花粉が付着した昆虫がマムシグサから飛び立つと、広範囲に繁殖することができる。
【0031】
このような自然界に見られる食虫植物等の昆虫捕獲システムには、当該植物が繁殖していくための様々な工夫がなされており、それらは合理的な仕組みで機能している。本発明者らは、この自然界に見られる食虫植物等の優れた捕虫メカニズムに着目し、これを飛翔害虫捕獲器に応用できないかと考え、本発明を着想するに至った。すなわち、本発明は、食虫植物を模倣したバイオミメティックス型の飛翔害虫捕獲器であり、従来には無かった全く新しいタイプの防虫製品である。
【0032】
以下、本発明の飛翔害虫捕獲器に関する実施形態について、
図1~
図5を参照しながら説明する。ただし、本発明は、以下に説明する実施形態や図面に記載される構成に限定されることを意図しない。
【0033】
〔飛翔害虫捕獲器の全体構成〕
図1は、本発明の実施形態に係る飛翔害虫捕獲器100の使用状態の説明図である。
図1(a)は、飛翔害虫捕獲器100の斜視図である。
図1(b)は、飛翔害虫捕獲器100の正面図である。
図2は、本発明の実施形態に係る飛翔害虫捕獲器100の組立手順の説明図である。
図2(a)は、飛翔害虫捕獲器100を展開した状態の分解斜視図である。
図2(b)は、飛翔害虫捕獲器100を組み立てる途中状態の斜視図である。
図2(c)は、飛翔害虫捕獲器100を組み立てた状態の斜視図である。
【0034】
飛翔害虫捕獲器100は、コバエ類(例えば、ショウジョウバエ、ノミバエ、クロバネキノコバエ、キノコバエ、チョウバエ)や、ハエ類(例えば、イエバエ、クロバエ、キンバエ、ニクバエ)等の飛翔害虫を誘引して捕獲する装置であり、
図1に示すように、立直状態(例えば、軒先に吊るした状態)で使用される。
【0035】
飛翔害虫捕獲器100は、本体10と、本体10に装着されるカバー部20とを備えている。
図2(a)に示すように、本体10には平坦な面状部11が形成され、面状部11に飛翔害虫が付着する粘着シート30が設置される。本発明では、この粘着シート30に一つの特徴があり、その構成については、後述の「粘着シート」の項目で詳しく説明する。本体10の先端側には、本体側接合部12が形成され、本体側接合部12に設けられた凸部12aを後述するカバー部20のカバー側接合部22に設けられた凹部22aに合わせて差し込むことで、本体10とカバー部20とが接合され、飛翔害虫捕獲器100の外形が形成される。また、本体10には、面状部11の幅方向両側に支持部13が設けられる。支持部13は、後述する飛翔害虫捕獲器100の内部空間Sの形成に寄与する。さらに、本体10には、
図2(a)に示すように、フック14が一体に設けられており、フック14を本体10の裏側に折り曲げると、
図1(a)に示すように、飛翔害虫捕獲器100を吊り下げて使用することが可能となる。なお、フック14を本体10から折り曲げない状態で、飛翔害虫捕獲器100を使用することも可能である。
【0036】
カバー部20は、本体10に設置した粘着シート30を覆うように、本体10に装着される。カバー部20には、飛翔害虫が侵入するための侵入口40が設けられる。また、
図2(a)に示すように、カバー部20には、カバー部20を本体10に装着したとき、本体10に設置された粘着シート30を固定する押さえ部50が設けられる。押さえ部50の機能については、次の「飛翔害虫捕獲器の組み立て」の項目の中で説明する。さらに、カバー部20には、飛翔害虫を誘引する誘引剤を収納するための薬剤部60が中央付近に設けられる。薬剤部60に収納する誘引剤については、後述の「誘引剤」の項目で詳述する。
【0037】
侵入口40は、薬剤部60の周囲に複数配置されるが、本実施形態では、
図1(b)に示すように、薬剤部60の上下に分けて設けられる。
図1(b)では、侵入口40は、薬剤部60の上側でカバー部20の幅方向に配列するように配置された4個の上側開口部40aと、薬剤部60の下側でカバー部20の幅方向に配列するように配置された4個の下側開口部40bとの合計8個の開口部によって構成され、1個あたりの開口面積は2~12cm
2、好ましくは2~8cm
2、より好ましくは3~7cm
2に設定されている。
【0038】
さらに、カバー部20には、エッジ部70が設けられる。エッジ部70は、侵入口40の付近に設けられる。侵入口40の付近とは、侵入口40の縁部に接する位置(すなわち、0mm)だけでなく、侵入口40の縁部から若干離間した位置(例えば、0.5~2mm程度)も含まれる。本実施形態では、
図1(b)に示すように、エッジ部70は、侵入口の輪郭を取り囲むように形成された環状エッジ部71と、侵入口の輪郭に並列するように形成された線状エッジ部72とによって構成される。
【0039】
図3は、
図1(b)中のA-A線における飛翔害虫捕獲器の断面図である。
図4は、
図1(b)中のB-B線における飛翔害虫捕獲器の断面図である。エッジ部70は、カバー部20の外表面が外方へ突出するように形成されている。このエッジ部70の構造は、食虫植物等に見られる構造を模倣したものであり、カバー部20の外表面に止まった飛翔害虫を侵入口40に誘導するように機能する。すなわち、エッジ部70に飛翔害虫が止まると、その習性により、飛翔害虫はエッジ部70に沿って移動する。これは、ウツボカズラやフクロユキノシタ等の落とし穴式の食虫植物を模倣したものである。このような構造によって、カバー部20の外表面に止まった飛翔害虫は、エッジ部70のある位置に到達すると、侵入口から離れるよう移動することが少なく、侵入口40から飛翔害虫捕獲器100の内部に侵入する可能性が高まる。なお、
図1及び
図2では、環状エッジ部71及び線状エッジ部72で構成されたエッジ部70を例示しているが、環状エッジ部71又は線状エッジ部72のみでエッジ部70を構成することも可能である。
【0040】
エッジ部70のカバー部20の外表面からの突出高さは、0.1~5mmが好ましく、1~3mmがより好ましい。エッジ部70のカバー部20の外表面からの突出高さが0.1mm未満の場合、突出量が不足するため、飛翔害虫が移動中にエッジ部70から外れてしまい、侵入口40まで誘導できない虞がある。エッジ部70のカバー部20の外表面からの突出高さが5mmを超える場合、エッジ部70の上端部から侵入口40の内側までの距離が大きくなるため、飛翔害虫が侵入口40の周囲まで接近しても、飛翔害虫捕獲器100の内部まで移動できない虞がある。エッジ部70の幅は、0.5~5mmが好ましく、1~3mmがより好ましい。エッジ部70の幅が0.5mm未満の場合、幅が不足するため、飛翔害虫がエッジ部70に止まり難くなり、侵入口40まで誘導できない虞がある。エッジ部70の幅が5mmを超える場合、エッジ部70に止まった飛翔害虫がその場で留まり易くなり、侵入口40まで誘導できない虞がある。なお、エッジ部70は、角を面取りしたものや、丸めたものであってもよい。この場合、カバー部20の外表面に止まった飛翔害虫は、エッジ部70による段差を越えることが容易となるため、特に、侵入口40の周囲におびき寄せた飛翔害虫については侵入口40に落下し易くなり、その捕獲効果を高めることができる。
【0041】
本体10及びカバー部20の構成材料は、成形性に優れるとともに、後述する誘引剤に含まれる飛翔害虫誘引成分を透過させないものが使用される。そのような材料として、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ポリスチレン等の樹脂材料が挙げられる。
【0042】
〔飛翔害虫捕獲器の組み立て〕
飛翔害虫捕獲器100は、通常、コンパクト化又は薄型化した包装形態(パッケージ)で販売されるため、使用の際には飛翔害虫捕獲器100をパッケージから取り出して組み立てる必要がある。飛翔害虫捕獲器100の組み立て作業は、
図2(a)~(c)の手順に従って行う。使用前の飛翔害虫捕獲器100は、本体10に対してカバー部20が展開された状態となっている。具体的には、
図2(a)に示すように、本体10及びカバー部20は、長さ方向に並置した状態で、端部どうしがヒンジ接続されている。組み立て前に本体10の面状部11に粘着シート30を設置する。粘着シート30は、面状部11に接触する載置面(
図2(a)では裏側の面)と、飛翔害虫の体に付着する粘着剤が塗布された粘着面(
図2(a)では表側の面)とを備えており、粘着面は使用直前まで離けい紙(図示せず)によって保護されている。面状部11に粘着シート30を設置する際には、面状部11に両面テープを貼着し、その上から粘着シート30を載置する。なお、粘着シート30の両面を粘着面として構成し、一方の粘着面を面状部11に直接貼り付けるようにしても構わない。面状部11に粘着シート30を設置したら、離けい紙を剥離して粘着面を露出させるとともに、カバー部20の薬剤部60に誘引剤を注入する。
【0043】
次に、
図2(b)に示すように、カバー部20を本体10の方向に回動させて折り込む。薬剤部60に注入した誘引剤が流動性を有する場合は、誘引剤がこぼれないように本体10をカバー部20の方向に回動させることも可能である。
【0044】
さらに、
図2(c)に示すように、カバー部20の端部と本体10の端部とを合わせて接合する。このとき、
図2(c)では図示されていないが、本体10の本体側接合部12に設けられた凸部12aが、カバー部20のカバー側接合部22に設けられた凹部22aに差し込まれる。また、内部空間Sでは、カバー部20に設けられた押さえ部50が本体10に設置された粘着シート30の表面を押圧し、粘着シート30の位置が固定される。従って、飛翔害虫捕獲器100を立て掛けた状態で使用することが可能となる。なお、押さえ部50が接触する粘着シート30の表面は、使用性の点を考慮し、粘着剤が塗布されていない非粘着面としても構わない。
【0045】
本体10には、さらに、面状部11の幅方向両側に2つの支持部13が設けられており、支持部13は本体10から1.5~4cm程度突出している。カバー部20を本体10に装着すると、カバー部20は本体10から離間する方向に湾曲した状態で支持部13によって支持され、その結果、本体10の面状部11に設置された粘着シート30と、カバー部20の湾曲面とによって囲まれた内部空間Sが形成される。内部空間Sは、カバー部20に設けられた侵入口40を介して飛翔害虫が生息する外部環境と連通する。ここで、支持部13は、カバー部20の長さ方向において、中央よりもカバー側接合部22側に位置するように設けることが好ましい。このように支持部13を設けると、例えば、飛翔害虫捕獲器100を立て掛けた姿勢で使用した場合、カバー部20の湾曲面の頂部が飛翔害虫捕獲器100の上寄りに位置することになって目立つため、飛翔害虫が内部空間Sに侵入し易くなる。内部空間Sのサイズは、横幅が6~15cm、長さが10~20cm、高さが最大(粘着シート30から侵入口40までの距離)で1.5~4cmとなるように設計される。
【0046】
以上のように、飛翔害虫捕獲器100は容易に組み立てることができるため、商品としての包装形態を簡素化することができる。その結果、製品のコストダウンにも寄与し得るものとなる。
【0047】
〔粘着シート〕
図5は、粘着シートにおけるUV吸収部及びUV反射部の配置を例示したイメージ図である。
図5(a)は、正方形に構成したUV吸収部P及びUV反射部Qを市松模様状に配置した例である。
図5(b)は、長方形に構成したUV吸収部P及びUV反射部Qを市松模様状に配置した例である。本発明において、粘着シート30は、飛翔害虫の体に付着して捕獲するだけでなく、飛翔害虫を飛翔害虫捕獲器100の内部空間Sに誘引する機能も有している。本発明者らは、飛翔害虫の誘引性について種々検討を行い、粘着シート30に、飛翔害虫が感受可能な波長の紫外線を吸収するUV吸収部Pと、この紫外線を反射するUV反射部Qとを設けることで、飛翔害虫を効果的に誘引できることを突き止めた。UV吸収部Pで吸収し、UV反射部Qで反射する紫外線の波長としては、200~400nmであることが好ましく、300~380nmであることがより好ましい。このような構成では、UV吸収部Pにおいて紫外線が吸収され、UV反射部Qにおいて紫外線が反射されるため、紫外線の反射光によって粘着シート30に強いコントラストの明暗パターンが生じる。コバエ等の飛翔害虫は、波長380nm近辺の紫外線に対する感度の高い視細胞を有し、広い視野を有する複眼において明暗変化を検知するため、粘着シート30に生じる紫外線の反射光の明暗パターンによって、飛翔害虫に強い誘引刺激を与えることができる。UV吸収部P及びUV反射部Qに付する色の組み合わせとしては、PCCS色相環において、UV吸収部Pを色相番号7(赤みの黄)~9(緑みの黄)に着色し、UV反射部Qを色相番号4(赤みの橙)~6(黄みの橙)に着色したものが好ましい。PCCS色相環とは、2(赤)、8(黄)、12(緑)、18(青)の4原色をベースとし、この4原色及び当該4原色を補間する20種の中間色からなる24色相を知覚的に等歩度に移行するように円環状に配列したものである。
【0048】
このようにUV吸収部P及びUV反射部Qを粘着シート30に設けると、飛翔害虫捕獲器100の近傍に誘引された飛翔害虫を確実に内部空間Sにまで導き、効率的に捕獲することが可能となる。本実施形態の飛翔害虫捕獲器100は、飛翔害虫に対する誘引機能と捕獲機能とを連携させたものであり、高い相乗効果を奏するものとなる。
【0049】
UV吸収部P及びUV反射部Qは、
図5に示したように、矩形に構成されるとともに、粘着シート30において両者が市松模様状に配置されていることが好ましい。ここで、「矩形」とは、その形状を厳密に規定する必要はなく、視覚的に矩形をしていればよい。従って、幾何学的に完全な正方形又は長方形のものだけでなく、略正方形又は略長方形のものも含まれる。このような構成であれば、粘着シート30における紫外線の反射光の明暗パターンが市松模様状になり、粘着シートの一部の領域を見ても、紫外線の明暗パターンが含まれる。そのため、飛翔害虫捕獲器100の近傍まで誘引された飛翔害虫が、例えば、
図5(a)において破線で囲んだ領域のみを複眼視野内に捉えた状態でも、明暗パターンによる誘引刺激を与えることができる。その結果、飛翔害虫捕獲器100の近傍に誘引された飛翔害虫を効率よく内部空間Sにまで導き、粘着シート30によって捕獲することができる。市松模様状に配置されたUV吸収部P及びUV反射部Qは、最も短い辺が5~50mm、好ましくは10~30mmの矩形部として構成されることが好ましい。UV吸収部P及びUV反射部Qの最も短い辺が5~50mmであれば、飛翔害虫捕獲器100から離れて飛翔する飛翔害虫、及び飛翔害虫捕獲器100の近傍に誘引されカバー部20の外表面に止まった飛翔害虫の何れも複眼視野内に明暗パターンを捉えることができ、これらに適切な誘引刺激を与えることができる。UV吸収部P及びUV反射部Qの最も短い辺が5mmより小さいと、飛翔害虫捕獲器100から離れた位置での明暗パターンの識別が困難になるため、飛翔する飛翔害虫に明暗パターンによる誘引刺激を効果的に与えることができない可能性がある。UV吸収部P及びUV反射部Qの最も短い辺が50mmより大きいと、飛翔害虫捕獲器100の近傍まで誘引された飛翔害虫、特に、カバー部20の外表面に止まった飛翔害虫の複眼視野内に、UV吸収部P及びUV反射部Qの何れか一方の領域のみが捉えられ、明暗パターンによる誘引刺激を与えることができない可能性がある。
【0050】
市松模様については、種々のバリエーションが考えられる。例えば、UV吸収部P及びUV反射部Qを構成する矩形部のうち、侵入口40の近傍の位置に配置する矩形部が、その他の位置に配置する矩形部よりも小さくなるよう構成してもよい。このような構成では、飛翔害虫捕獲器100から離れて飛翔する飛翔害虫は、大きな矩形部により構成されたUV吸収部P及びUV反射部Qの明暗パターンを認識し易く、カバー部20の外表面に止まった飛翔害虫は、侵入口40の近傍の小さな矩形部により構成されたUV吸収部P及びUV反射部Qの明暗パターンを認識し易い。その結果、離れて飛翔する飛翔害虫、及びカバー部20の外表面に止まった飛翔害虫の何れにも、効果的に明暗パターンによる誘引刺激を与え、高い確率で飛翔害虫を内部空間Sまで誘引することができる。
【0051】
粘着シート30の紫外線の反射光による明暗パターンに誘引され、飛翔害虫捕獲器100の侵入口40から内部空間Sに侵入した飛翔害虫は、粘着シート30の基材に塗布された粘着剤に付着することで捕獲される。粘着剤は、粘着シート30の表面に凹凸をなすように塗布されることが好ましい。凹凸をなすように塗布することで、接触した飛翔害虫に、粘着剤を効果的に付着させることができる。また、粘着剤は、粘着シート30における紫外線の反射光による明暗パターンを粘着剤の側から視認できるものであれば(すなわち、一定の紫外線透過性を有するものであれば)特に限定されず、例えば、ゴム系粘着剤、アクリル系粘着剤、シリコーン系粘着剤等を使用することができる。ゴム系粘着剤には、天然ゴム系粘着剤、スチレン・ブタジエンゴム系粘着剤、再生ゴム系粘着剤、ポリイソブチレン・ブチレンゴム系粘着剤、ブロックコポリマー系粘着剤等が含まれる。これらの粘着剤は、単独又は組み合わせて使用可能である。さらに、粘着剤には、必要に応じて、軟化剤、老化防止剤、架橋剤等を添加することも可能である。また、粘着シート30は、紫外線を一様に反射する基材を用いて、基材に紫外線透過性を有していない粘着剤を塗布した領域をUV吸収部Pとし、基材に紫外線透過性を有する粘着剤を塗布した領域をUV反射部Qとするように構成することも可能である。
【0052】
〔誘引剤〕
上述のように、本実施形態の飛翔害虫捕獲器100は、カバー部20に形成されたエッジ部70と、粘着シート30の紫外線のUV吸収部P及びUV反射部Qによる紫外線の明暗パターンとによって内部空間Sへ飛翔害虫を誘引することができるが、飛翔害虫捕獲器100の外部に生息する飛翔害虫を飛翔害虫捕獲器100に近づけるためには誘引剤を併用することが効果的である。飛翔害虫捕獲器100には、カバー部20に薬剤部60が設けられているため、この薬剤部60に飛翔害虫を誘引する誘引剤を収納しておくと、誘引剤は内部空間Sに拡散し、さらに侵入口40から外部環境に揮散する。その結果、エッジ部70と、粘着シート30の紫外線のUV吸収部P及びUV反射部Qと合わせて相乗的に飛翔害虫を誘引することが可能となる。
【0053】
以下、本発明の飛翔害虫捕獲器100において使用可能な誘引剤について説明する。誘引剤の剤型は、薬剤部60からこぼれたり、液漏れしたりしないように、ゲル状のものを使用することが好ましい。ゲル状誘引剤は、有効成分である飛翔害虫誘引成分を含む液状物をゲル化剤でゲル化したものである。飛翔害虫誘引成分としては、飛翔害虫誘引性植物に由来する香り成分を含むものの使用が好ましい。飛翔害虫誘引性植物としては、食虫植物であるウツボカズラ属やフクロユキノシタ属、虫媒花であるサトイモ亜科に含まれるテンナンショウ属植物、チューリップ等のチューリップ属植物、ジャスミン等のソケイ属植物などが挙げられる。これらの飛翔害虫誘引性植物のうち、テンナンショウ属植物が好ましい。なお、テンナンショウ属植物は、アルム属植物を含めて分類される場合がある。そこで、本明細書では、テンナンショウ属植物とアルム属植物とを合わせて、テンナンショウ属植物として取り扱うものとする。
【0054】
なお、テンナンショウ属植物の植物に由来する香り成分としては、フェニルエチルアルコール、酪酸メチル、α-ピネン、オシメン等である。これらのうち、フェニルエチルアルコールは、濃度が一定未満であれば飛翔害虫に対して誘引作用を示すため、防虫製品の誘引剤として好適に使用することができるが、濃度が一定以上となった場合には飛翔害虫に対して忌避作用を示すことがある。従って、誘引剤としてフェニルエチルアルコールを使用する場合、その濃度を適切に調整することにより、防虫製品の特性をコントロールすることが可能となる。
【0055】
飛翔害虫誘引性植物に由来する香り成分は、他の誘引剤と併用することも可能である。併用可能な他の誘引剤としては、例えば、バルサミコ酢、リンゴ酢、米酢、玄米酢、粕酢、大豆酢、黒酢、ワインビネガー、すだち酢、赤酢、柿酢、麦芽酢、紫イモ酢、サトウキビ酢等の酢類、砂糖、黒砂糖、ハチミツ類、液糖、ブドウ糖、ショ糖、麦芽糖、三温糖、オリゴ糖、多糖類、甜菜糖、メープルシロップ、トレハロース等の糖類、酒類、酒粕、果実、果実加工品、乳酸製品、魚介類、魚介類加工品、魚介類抽出物、食肉、食肉加工品、食肉抽出物、香料等が挙げられる。これらの誘引剤のうち、バルサミコ酢及び三温糖は、飛翔害虫に対する誘引効果が特に優れているため、飛翔害虫誘引性植物に由来する香り成分と併用した場合、顕著な誘引効果を発揮できる。
【0056】
飛翔害虫誘引成分を含む液状物をゲル化させるゲル化剤としては、水溶性多糖類及び/又は吸水性樹脂が挙げられる。水溶性多糖類には、グァーガム、キサンタンガム、ラムダカラギーナン、ジュランガム、アラビアガム、ローカストビーンガム、アルギン酸ソーダ等が挙げられる。これらのうち、グァーガム、キサンタンガム、及びラムダカラギーナンは、誘引効果に優れており、製造も容易であるため好ましく使用される。吸水性樹脂には、イソブチレン-無水マレイン酸共重合体、ポリアクリル酸塩系ポリマー、澱粉-ポリアクリル酸塩系ポリマー、PVA-ポリアクリル酸塩系ポリマー、PVA系ポリマー、カルボキシメチルセルロース系ポリマー等が挙げられる。上記のゲル化剤は、単独又は組み合わせて使用可能である。ゲル化剤は、溶剤としての水に溶解させた状態で使用することが好ましい。
【0057】
ゲル状誘引剤には、前述した各成分の他に、その他の成分を適宜添加することができる。その他の成分としては、例えば、小麦粉、マッシュルーム、きな粉、乾燥酵母等の食餌成分や基材成分、エタノール(例:発酵エタノール、合成エタノール)等の溶剤、殺菌剤、防腐剤、防黴剤、安定剤、界面活性剤、分散剤、甘味料、苦味剤、pH調整剤、着色剤等の各種補助成分が挙げられる。上記のその他の成分は、単独又は組み合わせて使用可能である。
【0058】
ゲル状誘引剤には、誘引性に影響を及ぼさない範囲で殺虫成分を添加することも可能である。殺虫成分としては、天然ピレトリン、アレスリン、フラメトリン、プラレトリン、レスメトリン、フタルスリン、トランスフルトリン、フェノトリン、シフェノトリン、ペルメトリン、エトフェンプロックス等のピレスロイド系殺虫成分、シラフルオフェン等の有機ケイ素系殺虫成分、ジノテフラン、イミダクロプリド、クロチアニジン、チアメトキサム等のネオニコチノイド系殺虫成分、フェニトロチオン、ダイアジノン、マラソン、プロチオホス等の有機リン系殺虫成分、メトキサジアゾン等のオキサジアゾール系殺虫成分、フィプロニル等のピラゾール系殺虫成分、ピリプロキシフェン、ハイドロプレン等の昆虫成長制御剤などが挙げられる。これらの殺虫成分は、単独又は組み合わせて使用可能である。
【0059】
このように、本発明の飛翔害虫捕獲器100は、食虫植物を模倣したバイオミメティックス型の飛翔害虫捕獲器であり、これは、従来には無かった全く新しいタイプの画期的な防虫製品である。
【実施例0060】
〔捕獲試験1:エッジ部による効果確認〕
本発明のエッジ部を有する飛翔害虫捕獲器を使用し、代表的な飛翔害虫であるショウジョウバエについて捕獲試験を実施した。また、エッジ部を有さない飛翔害虫捕獲器についても同様の試験を行い、本発明の飛翔害虫捕獲器の結果と比較した。
【0061】
捕獲試験1に使用した飛翔害虫捕獲器は、横幅が約10cm、長さが約16cm、高さが最大約1cmの内部空間を有するものであった。侵入口のサイズは2~5cm2であり、本体に各種パターンを有する粘着シートを設置し、カバー部の薬剤部に誘引剤(誘引剤としてバルサミコ酢及び三温糖、ゲル化剤としてキサンタンガム、その他成分として精製水等を含む)を充填した。
【0062】
捕獲試験1の手順として、約25m3の試験室の中央の床面に実施例及び比較例の飛翔害虫捕獲器を設置し、ショウジョウバエ約100匹を放ち、24時間経過後、飛翔害虫捕獲器の内部の粘着シートに捕獲されたショウジョウバエの数をカウントした。この捕獲試験を3回繰り返し、平均捕獲虫数を算出した。捕獲試験1の結果を表1に示す。
【0063】
【0064】
カバー部に環状エッジ部及び線状エッジ部、或いはその何れか一方を形成した実施例1~10の飛翔害虫捕獲器は、平均捕獲虫数が約40匹以上となった。特に、粘着シートについて、色相番号4(赤みの橙)および色相番号7(赤みの黄)の2色が市松模様状に配置されている実施例1は、ショウジョウバエの捕獲数が70匹以上に達しており、優れた捕獲性能が示された。これに対し、カバー部に環状エッジ部及び線状エッジ部の何れも形成しなかった比較例1及び2の飛翔害虫捕獲器は、平均捕獲虫数が20匹以下に留まった。このように、カバー部にエッジ構造を有する本発明の飛翔害虫捕獲器は、エッジ構造を有さない飛翔害虫捕獲器と比較し、優れた防虫製品であることが確認された。
【0065】
〔捕獲試験2:飛翔害虫誘引性植物に由来する香り成分による効果確認〕
実施例1で使用した環状エッジ部及び線状エッジ部を有する飛翔害虫捕獲器の内部に、色相番号4(赤みの橙)および色相番号7(赤みの黄)の2色が市松模様状に配置されている粘着シートを設置したものにおいて、実施例1で使用した誘引剤の代わりに、飛翔害虫誘引性植物に由来する香り成分、キサンタンガム、及びその他成分(精製水等)を含む誘引剤を薬剤部に充填したものを使用し、捕獲試験1と同様の手順で捕獲試験2を実施した。捕獲試験2の結果を表2に示す。
【0066】
なお、表2中に示した各実施例の飛翔害虫誘引性植物に由来する香り成分について、フェニルエチルアルコール(実施例11)、酪酸メチル(実施例12)、α-ピネン(実施例13)、及びオシメン(実施例14)はテンナンショウ属植物に由来するものであり、サリチル酸メチル(実施例15)、及びベンズアルデヒド(実施例15)はチューリップ属植物に由来するものであり、ジャスミンラクトン(実施例17)、及びインドール(実施例18)はソケイ属植物に由来するものである。
【0067】
【0068】
飛翔害虫誘引性植物に由来する香り成分を薬剤に含ませた実施例11~18の飛翔害虫捕獲器は、何れも平均捕獲虫数が約40匹以上となり、誘引剤としてバルサミコ酢及び三温糖を含む実施例1~10の飛翔害虫捕獲器と同等又はそれ以上の捕獲効果が認められた。特に、テンナンショウ属植物に由来する香り成分を使用した実施例11~14の飛翔害虫捕獲器は、平均捕獲虫数が65匹以上となり、極めて顕著な捕獲効果が認められた。
本発明の飛翔害虫捕獲器は、飛翔害虫のうち特に、ショウジョウバエ、ノミバエ、クロバネキノコバエ、キノコバエ、チョウバエ等のコバエ類に対して好適に利用可能であるが、イエバエ、クロバエ、キンバエ、ニクバエ等のハエ類に対しても利用可能である。