(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022105684
(43)【公開日】2022-07-14
(54)【発明の名称】ビタミンD様活性の発現用化粧品
(51)【国際特許分類】
C07J 71/00 20060101AFI20220707BHJP
A61K 8/63 20060101ALI20220707BHJP
A61Q 19/00 20060101ALI20220707BHJP
A23L 33/105 20160101ALI20220707BHJP
A23L 19/00 20160101ALI20220707BHJP
【FI】
C07J71/00
A61K8/63
A61Q19/00
A23L33/105
A23L19/00 Z
【審査請求】有
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022085541
(22)【出願日】2022-05-25
(62)【分割の表示】P 2018106377の分割
【原出願日】2018-06-01
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 公開場所 第22回 日本フードファクター学会 学術集会 日本大学生物資源科学部2号館(神奈川県藤沢市亀井野1866) 公開年月日 平成29年12月2日
(71)【出願人】
【識別番号】599098518
【氏名又は名称】株式会社ディーエイチシー
(74)【代理人】
【識別番号】100099623
【弁理士】
【氏名又は名称】奥山 尚一
(74)【代理人】
【識別番号】100125380
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 綾子
(74)【代理人】
【識別番号】100142996
【弁理士】
【氏名又は名称】森本 聡二
(74)【代理人】
【識別番号】100166268
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 祐
(74)【代理人】
【識別番号】100096769
【弁理士】
【氏名又は名称】有原 幸一
(72)【発明者】
【氏名】内藤 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】工藤 倫子
(72)【発明者】
【氏名】仲條 嵩久
(57)【要約】
【課題】 簡便な工業的手法で効率よくトマチジン又はエスクレオゲニンを製造すること
ができるトマチジン又はエスクレオゲニンの製造方法、並びに得られるトマチジン又はエ
スクレオゲニンの特性を活かしたトマチジン又はエスクレオゲニンの利用物品を提供する
ことを目的とする。
【解決手段】 トマチジンの製造方法は、トマチンを酸処理してトマチジンを含む酸処理
物を得る、酸処理工程と、前記酸処理物を精製して酸処理抽出物を得る、精製工程とを含
むこととし、エスクレオゲニンの製造方法は、エスクレオサイドを酸処理して、エスクレ
オゲニンA及び/又はBを含む酸処理物を得る、酸処理工程と、 前記酸処理物を精製し
て酸処理抽出物を得る、精製工程とを含むこととした。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
トマチンを酸処理してトマチジンを含む酸処理物を得る、酸処理工程と、
前記酸処理物を精製して酸処理抽出物を得る、精製工程と
を含む、トマチジンの製造方法。
【請求項2】
前記酸処理工程が、中和工程を含む、請求項1に記載のトマチジンの製造方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の製造方法で得られるトマチジンを含有することを特徴とする、
トマチジンの利用物品。
【請求項4】
エスクレオサイドを酸処理して、エスクレオゲニンA及び/又はBを含む酸処理物を得
る、酸処理工程と、
前記酸処理物を精製して酸処理抽出物を得る、精製工程と
を含む、エスクレオゲニンの製造方法。
【請求項5】
前記酸処理工程が、中和工程を含む、請求項4に記載のエスクレオゲニンの製造方法。
【請求項6】
請求項4又は5に記載の製造方法で得られるエスクレオゲニンを含有することを特徴と
する、エスクレオゲニンの利用物品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トマチジン又はエスクレオゲニンの製造方法、並びにトマチジン又はエスク
レオゲニンの利用物品に関する。
【背景技術】
【0002】
ステロイド配糖体構造を有するトマチンは未成熟トマトに含まれることが知られており
、根や果実のほか、花、葉、茎に特に多く存在する。トマチンは虫に食べられないように
するため防御的な役割を担う成分と考えられており、毒性を持つことから大量摂取は推奨
されていない。
一方、トマチンのアグリコンであるトマチジンは通常トマトには含まれておらず、土壌
病原菌等に感染した際に、それらの菌が有するトマチナーゼによってトマチンが毒性の無
いトマチジンへと変換することが知られている。このトマチジンには、血中コレステロー
ルの低下、動脈硬化の抑制等に効果があることが知られている(特許文献1)。
【0003】
一方、成熟したトマトにはトマチンはほとんど含まれておらず、エスクレオサイドA(
3-O-β-リコテトラオシル(5S、22S、23S、25S)-23-アセトキシ-
3β、27-ジヒドロキシスピロソラン27-O-β-D-グルコピラノサイド)やその
類縁体であるエスクレオサイドB(3-O-β-リコテトラオシル(5S、22S、23
R、25S)-22、26-エピミノ-16β、23-エポキシ-3β、23、27-ト
リヒドロキシコレスタン22-O-β-D-グルコピラノサイド)というステロイド配糖
体が含まれていることが明らかとされている。これらのエスクレオサイドは抗がん作用等
の生理活性を有することが明らかとされている(非特許文献1)。また、可食性乾燥トマ
ト粉末には、トマトステロイド配糖体として、エスクレオサイドAとBのいずれか一方、
又は両方が含まれていることも報告されている(特許文献2)。
また、エスクレオサイドのアグリコンであるエスクレオゲニンは通常トマトには含まれ
ていないが、エスクレオサイドと同様に抗がん作用等を有することが明らかになっている
。
【0004】
トマチジンは通常トマトに含まれないため、トマチンから有機化学的に得る等の方法が
取り得るが、その際に毒性のあるトマチンを十分に除去するために、多くの工程、時間を
要することから、未だ実用に至っていない。
【0005】
また、エスクレオゲニンを得る方法についても未だ実用に至っていない。
したがって、エスクレオゲニンやトマチジンに係る効果を検証することや、これらを化
粧品等に利用し、評価することも非常に困難である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009-209099号公報
【特許文献2】特開2010-273593号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Tetrahedron60(2004)4915―4920
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、前記事情に対し、簡便な工業的手法で効率よくトマチジン又はエスクレオゲ
ニンを製造することができるトマチジン又はエスクレオゲニンの製造方法、並びに得られ
るトマチジン又はエスクレオゲニンの特性を活かしたトマチジン又はエスクレオゲニンの
利用物品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、鋭意検討した結果、トマチンとエスクレオサイドから、それぞれトマチ
ジンとエスクレオゲニンを工業的に簡便に効率よく製造する方法を見出し、本発明に至っ
た。
【0010】
すなわち、前記目的を達成するため、本発明に係るトマチジンの製造方法は、トマチン
を酸処理してトマチジンを含む酸処理物を得る、酸処理工程と、前記酸処理物を精製して
酸処理抽出物を得る、精製工程とを含む。これにより、少ない工程、時間により、簡便に
効率よくトマチジンを得ることができる。
【0011】
本発明に係るトマチジンの製造方法は、その一態様で、前記酸処理工程に、中和工程を
含む。
【0012】
本発明は、別の側面でトマチジンの利用物品であり、本発明に係るトマチジンの製造方
法で得られるトマチジンを含む。利用物品が化粧品、食品、医薬品である場合、ビタミン
D様活性を得られる他、高い保湿効果を得ることができ、肌荒れを抑制することができる
。
【0013】
また、前記目的を達成するため、本発明に係るエスクレオゲニンの製造方法は、エスク
レオサイドを酸処理して、エスクレオゲニンA及び/又はBを含む酸処理物を得る、酸処
理工程と、前記酸処理物を精製して酸処理抽出物を得る、精製工程とを含む。毒性のある
トマチンをほとんど含まない成熟したトマトから得られるエスクレオサイドを用いること
で、より簡便に効率よくエスクレオゲニンを得ることができる。
【0014】
本発明に係るエスクレオゲニンの製造方法は、その一態様で、前記酸処理工程に、中和
工程を含む。
【0015】
本発明は、別の側面でエスクレオゲニンの利用物品であり、本発明に係るエスクレオゲ
ニンの製造方法で得られるエスクレオゲニンを含む。利用物品が化粧品、食品、医薬品で
ある場合、ビタミンD様活性を得られ、高い保湿効果を得ることができ、肌荒れを抑制す
ることができる。
【0016】
なお、本明細書及び特許請求の範囲において、トマチン由来又はエスクレオサイド由来
とは、トマチン又はエスクレオサイドに所定の処理を行うことにより得られた脱配糖体(
トマチンの脱配糖体はトマチジン、エスクレオサイドの脱配糖体はエスクレオゲニン)に
由来することを意味する。所定の処理とは、酸処理、抽出等の、脱配糖体を得るための任
意の処理のことをいう。また、本発明に係るトマチジン又はエスクレオサイドの製造方法
で得られる酸処理抽出物は、トマチジン又はエスクレオサイドのみを含む態様とすること
ができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、簡便な工業的手法で効率よくトマチジン又はエスクレオゲニンを製造
することができるトマチジン又はエスクレオゲニンの製造方法、並びに得られるトマチジ
ン又はエスクレオゲニンの特性を活かしたトマチジン又はエスクレオゲニンの利用物品が
提供される。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】トマチジンとトマチンのビタミンD様活性の比較を示すグラフである。
【
図2】エスクレオゲニンのビタミンD様活性を示すグラフである。
【
図3】エスクレオゲニンによるフィラグリン遺伝子発現量の測定結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に、本発明に係るトマチジン又はエスクレオゲニンの製造方法、並びにトマチジン
又はエスクレオゲニンの利用物品の実施形態を説明する。ただし、本発明は、以下に説明
する実施の形態によって限定されるものではない。
【0020】
[トマチジンの製造方法]
本発明に係るトマチジンの製造方法は、トマチンを酸処理して、トマチジンを含む酸処
理物を得る、酸処理工程と、前記酸処理物を精製して酸処理抽出物を得る、精製工程とを
含む。
【0021】
原料となるトマチンは、未成熟のトマトの花、葉、茎、根や未熟果実に含まれている公
知の化合物であり、トマトから抽出して得てもよいし、有機化学的に合成して得てもよい
。
【0022】
酸処理工程においては、エタノール等の低級アルコール等の有機溶剤を含む希酸水溶液
を穏やかに加熱することにより行う。用いる酸としては、塩酸、酢酸などを例示すること
ができる。
より具体的には、原料となるトマチンを、エタノールを含む0.1~2N塩酸中で室温
(24℃)~60℃の温度で加温し、0.5~3時間程度反応させる。反応停止は希アル
カリを加えて中和することで行う。これにより、トマチンを脱配糖し、トマチジンを含む
酸処理物を得ることができる。なお、本発明者らは、鋭意検討することにより、このよう
な手順で脱配糖することが最も効率的であり、工業的手法に適することに想到した。
【0023】
精製工程においては、析出物、不溶性残渣等を取り除く。
精製工程では、メッシュサイズの異なる複数のフィルターを用いて段階的にろ過をする
ことで行う。なお、フィルターを用いる他、カラムを用いることによって行うこともでき
る。
このようにして、本発明に係るトマチジンの製造方法によれば、酸処理により簡便な工
業的手法で効率よくトマチンを十分に脱配糖し、トマチンが含まれないようにトマチジン
を抽出して、好適なトマチン由来の酸処理抽出物を製造することができる。
【0024】
本発明のトマチン由来の酸処理抽出物には、残留トマチンの含有量が、酸処理抽出物全
量に対して、10質量%以下であることが好ましく、5質量%以下であることがより好ま
しく、1質量%以下であることがさらに好ましい。
【0025】
[エスクレオゲニンの製造方法]
本発明に係るエスクレオゲニンの製造方法は、エスクレオサイドを酸処理して、エスク
レオゲニンA及び/又はBを含む酸処理物を得る、酸処理工程と、前記酸処理物を精製し
て酸処理抽出物を得る、精製工程とを含む。
【0026】
原料となるエスクレオサイドは公知の化合物であり、成熟したトマトから抽出して得て
もよく、有機化学的に合成して得てもよい。エスクレオサイドには、エスクレオサイドA
及びBがありこれらは互いに類縁体であり、トマトの産地や種類によって、含まれるエス
クレオサイドA及びBの含有量比は異なる。
【0027】
酸処理工程においては、エタノール等の低級アルコール等の有機溶剤を含む希酸水溶液
を穏やかに加熱することにより行う。用いる酸としては、塩酸、酢酸などを例示すること
ができる。
より具体的には、原料となるエスクレオサイドを、エタノールを含む0.1~2N塩酸
中で室温(24℃)~60℃の温度で加温し、0.5~3時間反応させる。反応停止は希
アルカリを加えて中和することで行う。これにより、エスクレオサイドA及び/又はBを
脱配糖し、エスクレオゲニンA及び/又はBを含む酸処理物を得ることができる。なお、
本発明者らは、鋭意検討することにより、このような手順で脱配糖することが最も効率的
であり、工業的手法に適することに想到した。
【0028】
精製工程においては、析出物、不溶性残渣等を取り除く。
精製工程では、メッシュサイズの異なる複数のフィルターを用いて段階的にろ過をする
ことで行う。なお、フィルターを用いる他、カラムを用いることによって行うこともでき
る。
【0029】
前述した通り、原料となるエスクレオサイドには、エスクレオサイドA及びBがありこ
れらは互いに類縁体であり、トマトの産地や種類によって、含まれるエスクレオサイドA
及びBの含有量比は異なる。よって、エスクレオサイドA及びBから脱配糖したエスクレ
オゲニンA及びBも互いに類縁体であり、トマトの産地や種類によって、酸処理抽出物に
含まれるエスクレオゲニンAとBの含有量比は異なる。したがって、エスクレオゲニンA
及びBの構造は特定されているものの、本発明で得られるエスクレオサイド由来の酸処理
抽出物は、エスクレオゲニンAとBを含み、その含有量比は特に限定されるものではない
。
【0030】
[トマチジン又はエスクレオゲニンの利用物品]
本発明者らは、鋭意検討した結果、トマチジン及びエスクレオゲニンにビタミンD様の
効果、特に、保湿効果や肌荒れ抑制効果があることを見出した。
本発明に係るトマチジンの製造方法で得られる、トマチン由来の酸処理抽出物は、この
ような特性を備えるトマチジンを含む。また、本発明に係るエスクレオゲニンの製造方法
で得られる、エスクレオサイド由来の酸処理抽出物は、このような特性を備えるエスクレ
オゲニンを含む。
これらの酸処理抽出物は、本発明に係るトマチジン又はエスクレオゲニンの利用物品に
採用することができる。
本発明に係るトマチジン又はエスクレオゲニンの利用物品は、化粧品、食品、医薬品(
経口投与用又は皮膚外用剤などの非経口投与用を含む)等としての用途がある。
【0031】
本発明に係るトマチジン又はエスクレオゲニンの利用物品は、化粧品として採用される
場合、乳液、クリーム、ローションのようなスキンケア製品等として使用できる。化粧品
として使用することで、肌の乾燥を抑えること、肌荒れを抑えること等の効果が得られる
。
すなわち、本発明に係る利用物品は、以下のような化粧品を包含する。
トマチジンを含む化粧品組成物。
トマチジンを有効成分として含むビタミンD様活性の発現用化粧品。
トマチジンを有効成分として含む肌の保湿用化粧品。
トマチジンを有効成分として含む肌荒れ防止用化粧品。
エスクレオゲニンを含む化粧品組成物。
エスクレオゲニンを有効成分として含むビタミンD様活性の発現用化粧品。
エスクレオゲニンを有効成分として含む肌の保湿用化粧品。
エスクレオゲニンを有効成分として含む肌荒れ防止用化粧品。
【0032】
本発明に係るトマチジン又はエスクレオゲニンの利用物品は、食品として採用される場
合、通常の食品の他、栄養補助食品、機能性食品、健康食品、特定保健用食品等、清涼飲
料、ドリンク剤、サプリメント、飼料等として使用でき、保湿効果や肌荒れ抑制効果など
の美肌効果等の効果を得ることができる。
すなわち、本発明に係る利用物品は、以下のような食品を包含する。
トマチジンを有効成分として含むビタミンD様活性の発現用食品。
トマチジンを有効成分として含む肌の保湿用食品。
トマチジンを有効成分として含む肌荒れ防止用食品。
エスクレオゲニンを有効成分として含むビタミンD様活性の発現用食品。
エスクレオゲニンを有効成分として含む肌の保湿用食品。
エスクレオゲニンを有効成分として含む肌荒れ防止用食品。
【0033】
本発明に係るトマチジン又はエスクレオゲニンの利用物品に含まれるエスクレオゲニン
又はトマチジンは、含有量が、利用物品の全量に対して、1~50質量%であることが好
ましく、5~50質量%であることがより好ましく、10~50質量%であることがさら
に好ましい。
【0034】
本発明に係るトマチジン又はエスクレオゲニンの利用物品は、トマチジン又はエスクレ
オゲニンの他に、本発明の目的を損なわない範囲で他の成分を配合することができる。化
粧品として用いる場合は、他の成分としては、防腐剤、酸化防止剤、生理活性成分、動物
・海藻・微生物・植物由来エキス成分、香料、紛体、アミノ酸、色素、天然ビタミン類等
が挙げられる。また、食品として使用する場合は、他の成分としては、各種油脂、生薬、
アミノ酸、多価アルコール、天然高分子、ビタミン、食物繊維、界面活性剤、精製水、賦
形剤、安定剤、pH調製剤、酸化防止剤、甘味料、呈味成分、有機酸等の酸味料、安定剤
、フレーバー、着色料、香料等を挙げることができる。
【0035】
本発明に係るトマチジン又はエスクレオゲニンの利用物品は、本発明の目的を損なわな
い範囲で、様々な形態をとりうる。例えば、化粧品として用いる場合は、水溶液系、可溶
化系、乳化系、粉末系、油液系、ゲル系、軟膏系、エアゾール系、水―油2層系、水―油
―粉末3層系等、幅広い形態を取り得る。また、食品として用いる場合は、摂取しやすい
形態であれば特に限定されず、固体、粉末、液体、ゲル状、スラリー状等を挙げることが
できる。
【実施例0036】
以下に、実施例を挙げて本発明に係るトマチジン又はエスクレオゲニンの製造方法、並
びにトマチジン又はエスクレオゲニンの利用物品をさらに具体的に説明する。なお、本発
明は、以下の実施例、比較例によって限定されるものではない。
【0037】
実施例1:
[赤色トマト由来のエスクレオゲニン含有の酸処理抽出物の製造]
赤色トマトを水中でホモゲナイズし、粗ろ過した後、HP-20カラムにて精製を行っ
た。HP-20カラムは最初に精製水にて洗浄後、エタノールにて成分の溶出を行った。
溶出した成分は1N塩酸を含む50%エタノール中で60℃にて1時間の酸処理を行った
。水酸化ナトリウム水溶液で中和した後、ろ過精製した後にエバポレーターにて乾固させ
た。得られた固形物はオリーブオイルに再溶させることでエスクレオゲニンを含有する酸
処理抽出物を得ることができた。こうして得られた酸処理抽出物にエスクレオゲニンが存
在すること及びその含有量は高速液体クロマトグラフィー(HPLC-MS/MS)を用
いて確認した。
【0038】
実施例2:
[赤色トマト由来のエスクレオゲニンの製造]
赤色トマトを水中でホモゲナイズし、粗ろ過した後、HP-20カラムにて精製を行っ
た。HP-20カラムは最初に精製水にて洗浄後、メタノールにて成分の溶出を行った。
溶出した成分は1N塩酸を含む50%メタノール中で60℃にて1時間の酸処理を行った
。水酸化ナトリウム水溶液で中和した後、酢酸エチルを用いて分離精製を行った。得られ
た成分を順相カラムを用いて、クロロホルム/メタノール/水をそれぞれ9/1/0.1
の割合で含む溶液で精製することでエスクレオゲニンを得ることができた。エスクレオゲ
ニンが得られたことは、HPLC-MS/MSを用いて確認した。
【0039】
実施例3:
[未成熟トマト由来のトマチジン含有の酸処理抽出物の製造]
実施例1と同様の手順で未成熟トマトを処理することによって、トマチジンを含有する
酸処理抽出物を得ることができた。得られた酸処理抽出物にトマチジンが存在すること及
びその含有量はHPLC-MS/MSを用いて確認した。
【0040】
実施例4:
[未成熟トマト由来のトマチジンの製造]
実施例2と同様の手順で未成熟トマトを処理することによって、トマチジンを得ること
ができた。トマチジンが得られたことは、HPLC-MS/MSを用いて確認した。
【0041】
実施例5:
[トマチジン又はエスクレオゲニンの活性の確認試験(ビタミンD様の効果について)
]
トマチジン及びエスクレオゲニンのビタミンD様の効果を確認した。具体的には、トマ
チジン及びエスクレオゲニンのビタミンDレセプターに対するアゴニスト活性を、ルシフ
ェラーゼアッセイを用いた下記方法により確認した。
まず、ビタミンDレセプター(VDR)―ルシフェラーゼ発現ベクターを、HepG2
細胞(ヒト肝癌由来細胞株、hepatocellular carcinoma、JC
RB細胞バンク)に遺伝子導入した。また、遺伝子導入は市販のCignal VDRE
Reporter Assay Kit(CCS-2029L、QIAGEN製)及び
、Attractene Transfection Reagent(301005、
QIAGEN製)を用い、メーカー推奨の手順に従って行った。HepG2細胞は4×1
0
4個/wellとなるよう96wellプレートに播種し、Opti-MEM(310
85-062、Gibco製)/5%ウシ胎児血清(FBS)培地を用いて37℃、5%
のCO
2の条件下で培養した。
続いて、遺伝子導入16時間経過後にOpti-MEM/0.5%FBS培地 100
μl/wellに培地交換した後、さらに4時間培養した。
遺伝子導入から計20時間経過後、実施例2又は4で調製した被験物質(トマチジン又
はエスクレオゲニン)を添加し、18時間培養し回収した。
その後、Dual-Luciferase Reporter Assay Syst
em(E1910、Promega製)を使用し、メーカー推奨の手順に従って細胞内ル
シフェラーゼ活性を測定した。なお、細胞溶解液及びルシフェラーゼ基質はともに96w
ellの発光測定用白色プレート(MS-8096W、住友ベークライト製)に添加し、
ルシフェラーゼの測定はマイクロプレートリーダー(ARVO MX 1420、Per
kinElmer製)を使用した。
トマチジンのルシフェラーゼ活性の測定結果は
図1に示し、エスクレオゲニンのルシフ
ェラーゼ活性の測定結果は
図2に示した。
図1では、トマチジン及びトマチンを添加して
いない試料をコントロールとし、各試料について、当該コントロールに対する相対値を示
した。また、
図2では、エスクレオゲニンを添加しない試料をコントロールとし、各試料
について、当該コントロールに対する相対値を示した(n=3)。
【0042】
図1の結果から、トマチジンはビタミンDレセプターに対するアゴニスト活性を濃度依
存的に示し、ビタミンD様の効果があることを確認した。特に、10nMでは1.28、
100nMでは1.57、500nMでは1.98、1000nMでは2.20という高
いアゴニスト活性を示した。これに対し、トマチンのビタミンDレセプターに対するアゴ
ニスト活性はコントロールと同程度であり、ビタミンD様の効果はみられなかった。
また、
図2の結果から、エスクレオゲニンもまた、ビタミンDレセプターに対するアゴ
ニスト活性を濃度依存的に示し、ビタミンD様の効果があることを確認した。特に、0.
01nMという低濃度でも2.89という高い効果を示し、0.1nMでは4.40、1
nMでは4.43、10nMでは6.94、100nMでは9.18、1000nMでは
9.12という非常に高いアゴニスト活性を示した。
【0043】
実施例6:
[フィラグリン遺伝子の発現変動の評価(保湿効果)]
ビタミンDは、経口摂取や皮膚に塗布することにより、肌荒れの抑制効果や高い保湿効
果を得られることが知られている。そこで、アトピー性皮膚炎モデル評価系により、エス
クレオゲニンによる皮膚のバリア効果、保湿効果を測定した。具体的には、表皮顆粒層の
角化細胞に存在し、皮膚のバリア機能や保湿効果に重要な役割を果たすフィラグリン遺伝
子のエスクレオゲニンによる発現変動を評価した。
【0044】
(サンプルC)
PSVK1細胞(ヒト角化細胞株、immortalized human norm
al keratinocyte、JCRB細胞バンク)を6well plateに1
×105cells/wellとなるように播種し、37℃、5%CO2の条件下で一晩
培養した。培地は、MCDB 153(M7403、Sigma製)に添加剤(下記※1)
を加えたものを使用した。
(※1)
5μg/mlのインスリン(insulin)、10μg/mlのトランスフェリン(
transferrin)、0.1mMのエタノールアミン(細胞培養用培地添加剤RD
-1を使用した。551-20300-4、極東製薬製)、0.5μg/mlのヒドロコ
ルチゾン(hydrocortisone、093-06351、Wako製)、0.1
mMのホスホエタノールアミン(phosphorylethanolamine、P0
503、Sigma製)、10ng/mlの上皮増殖因子(epidermal gro
wth factor(EGF)、E9644、Sigma製)、及び40μg/mlの
ウシ脳下垂体抽出物(bovine pituitary extract、13028
014、invitrogen)
【0045】
翌日、培地を交換した。培地はMCDB 153(M7403、Sigma製)に添加剤
および1.35mMのCaCl2(06729-55、ナカライテスク製)を加えたもの
を用いた。また、実施例2で調製したエスクレオゲニンを濃度が1μM(=1000nM)
となるように添加し、37℃、5%CO2の条件下で2時間培養した。その後、IL-4
(recombinant human interleukin-4、200-04、
PeproTech製)を終濃度20ng/mlとなるよう添加した。
以降、1日おきに前記の培地交換と、前記エスクレオゲニンの添加、及びその2時間後
のIL-4の添加を1週間行なった。
その後、1×PBS(-)で2回洗浄し、細胞を回収した(サンプルC)。
【0046】
(サンプルB)
エスクレオゲニンを添加しない点以外は、サンプルCと同様の方法で処理・培養を行い
、サンプルBを得た。
【0047】
(サンプルA)
エスクレオゲニンとIL-4を添加しない点以外は、サンプルCと同様の方法で処理・
培養を行い、サンプルAを得た。
【0048】
前記サンプルA~Cの各細胞種から、RNeasy Mini Kit(74106、
QIAGEN製)を用いて回収サンプルよりRNAを抽出した。操作はメーカー推奨の方
法に従って行った。こうして得られたRNAより、PrimeScript(登録商標)
II 1st strand cDNA Synthesis Kit(6210A、
タカラバイオ製)を用いてcDNAを調製した。操作はメーカー推奨の方法に従って行っ
た。
【0049】
cDNAをテンプレートにTaqMan法によるリアルタイム定量PCR(qPCR)
を行い、フィラグリン遺伝子の発現変動を評価した。qPCRに際し、フィラグリンのT
aqMan probeはHs00856927_g1、内在性コントロールは18S
rRNA Hs99999901_s1を用い、Applied Biosystems
(登録商標) 7500 Real Time PCR System(Thermo
Fisher Scientific製)を測定機器として使用した。全ての操作はメー
カー推奨の方法に従って行った(n=3)。
【0050】
各サンプルの、フィラグリン遺伝子発現量の測定結果を
図3に示す。サンプルB、Cの
測定結果は、サンプルAに対する相対値によって示す。
この結果から、サンプルAの1.00に対して、IL-4を添加することでフィラグリ
ン遺伝子の発現量が0.29まで減弱することが確認された(サンプルB)。
これに対し、エスクレオゲニンを添加することで、IL-4の添加によるフィラグリン
遺伝子の発現量の減弱が0.35まで抑制されることが分かった(サンプルC)。
以上の結果より、エスクレオゲニンが、IL-4の添加によるフィラグリン遺伝子発現
量の減弱を抑制する効果があることが示された。よって、エスクレオゲニンには、皮膚の
バリア機能や保湿機能を向上させる効果があることが分かった。また、実施例5で、エス
クレオゲニンと同様に高いビタミンD様効果があることが示されたトマチジンについても
、同様に高い皮膚のバリア機能や保湿機能がある可能性が示された。
【0051】
実施例7:
[官能試験]
実施例1、3で得られたトマチジン又はエスクレオゲニンの利用物品として、化粧品の
使用感に関する評価を以下の評価方法により行った。
トマチジンとエスクレオゲニンのそれぞれについて、利用物品を5名の被験者の肌に塗
布し、塗布時の仕上がりを自己評価した。使用感の評価項目として、保湿感、肌荒れの抑
制効果を各自が以下の評価基準に従って5段階評価し、5名の平均値xを求めた。
評価基準:
5: 非常に良好
4: 良好
3: ふつう
2: やや不良
1: 不良
【0052】
トマチジンの利用物品では、保湿感の平均値xが4.2となり、肌荒れの抑制効果につ
いては平均値xが3.8であった。
また、エスクレオゲニンの利用物品では、保湿感の平均値xが4.0となり、肌荒れの
抑制効果については平均値xが4.2であった。
このように、トマチジン又はエスクレオゲニンを、例えば化粧品として使用すれば、特
に高い保湿効果を得られることから、肌の乾燥を抑え、肌荒れを抑える効果があることが
分かった。