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特開2022-105740面発光レーザ及び面発光レーザの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022105740
(43)【公開日】2022-07-14
(54)【発明の名称】面発光レーザ及び面発光レーザの製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01S 5/11 20210101AFI20220707BHJP
   H01S 5/185 20210101ALI20220707BHJP
   H01S 5/323 20060101ALI20220707BHJP
【FI】
H01S5/11
H01S5/185
H01S5/323 610
【審査請求】有
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022086644
(22)【出願日】2022-05-27
(62)【分割の表示】P 2019501872の分割
【原出願日】2018-02-27
(31)【優先権主張番号】P 2017035504
(32)【優先日】2017-02-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成28年度国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「高輝度・高効率次世代レーザー技術開発/次々世代加工に向けた新規光源・要素開発/フォトニック結晶レーザーの短パルス化・短波長化」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】504132272
【氏名又は名称】国立大学法人京都大学
(71)【出願人】
【識別番号】000002303
【氏名又は名称】スタンレー電気株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001025
【氏名又は名称】弁理士法人レクスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】野田 進
(72)【発明者】
【氏名】田中 良典
(72)【発明者】
【氏名】デ ゾイサ メーナカ
(72)【発明者】
【氏名】園田 純一
(72)【発明者】
【氏名】小泉 朋朗
(72)【発明者】
【氏名】江本 渓
(57)【要約】
【課題】均一な屈折率周期を有し、高い回折効果を有するフォトニック結晶を備えた面発光レーザ及びその製造方法を提供する。
【解決手段】
MOVPE法によりIII族窒化物半導体からなる面発光レーザを製造する製造方法であって、(a)基板上に第1導電型の第1のクラッド層を成長する工程と、(b)第1のクラッド層上に第1導電型の第1のガイド層を成長する工程と、(c)第1のガイド層に、エッチングにより第1のガイド層に平行な面内において2次元的な周期性を有する空孔を形成する工程と、(d)III族原料及び窒素源を含むガスを供給して、空孔の開口上部に所定の面方位のファセットを有する凹部が形成されるように成長を行って、空孔の開口部を塞ぐ工程と、(e)空孔の開口部を塞いだ後、マストランスポートによって凹部を平坦化する工程と、を有し、工程(e)の実行後における空孔の側面のうち少なくとも1つが{10-10}ファセットである。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
III族窒化物半導体からなる面発光レーザであって、
基板上に形成された第1導電型の第1のクラッド層と、
前記第1のクラッド層上に形成され、層に平行な面内において2次元的な周期性を有して配された空孔を内部に有する前記第1導電型の第1のガイド層と、
前記第1のガイド層上に形成された活性層と、
前記活性層上に形成された、前記第1導電型と反対導電型の第2導電型の第2のガイド層と、
前記第2のガイド層上に形成された前記第2導電型の第2のクラッド層と、を有し、
前記第1のガイド層は、前記空孔の側部及び底部が形成された空孔形成層と、前記空孔形成層上に形成されて前記空孔の上部を閉塞しかつ前記空孔の上方に錐状の凹部を有する空孔閉塞層と、前記錐状の凹部を埋めている埋設部と、を有し、
前記第1のガイド層内に前記空孔によってフォトニック結晶層が形成されている面発光レーザ。
【請求項2】
前記空孔閉塞層は、前記空孔形成層上に結晶成長によって形成された層である請求項1に記載の面発光レーザ。
【請求項3】
前記空孔閉塞層の上面と前記埋設部の上面とからなる前記第1のガイド層の上面が平坦である請求項1又は2に記載の面発光レーザ。
【請求項4】
前記活性層に接する前記第1のガイド層の面は(0001)面であり、前記空孔の前記活性層側の面が(000-1)面である請求項1ないし3のいずれか1に記載の面発光レーザ。
【請求項5】
前記空孔は多角柱形状を有し、前記空孔の側面のうち少なくとも1つが{10-10}ファセットである請求項1ないし4のいずれか1に記載の面発光レーザ。
【請求項6】
前記空孔は多角柱形状を有し、前記第1のガイド層に平行な断面における対角線に関して非対称な断面を有する請求項1ないし5のいずれか1に記載の面発光レーザ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、面発光レーザ及び面発光レーザの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、フォトニック結晶を用いた面発光レーザの開発が進められており、例えば、特許文献1には、融着貼り付けを行なわずに製造することを目的とした半導体レーザ素子について開示されている。
【0003】
また、特許文献2には、フォトニック結晶の微細構造をGaN系半導体に作製する製造法が開示されている。非特許文献1には、減圧成長により横方向成長の速度を高め、フォトニック結晶を作製することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第5082447号公報
【特許文献2】特許第4818464号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】H. Miyake et al. : Jpn. J. Appl. Phys. Vol.38(1999) pp.L1000-L1002
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
フォトニック結晶を備えた面発光レーザにおいて、高い共振効果を得るためには、フォトニック結晶層における回折効果を高めることが求められる。すなわち、回折効果を高めるためには、フォトニック結晶における2次元的な屈折率周期が均一であること、フォトニック結晶における異屈折率領域の母材に対する占める割合(フィリングファクタ)が大きいこと、フォトニック結晶中に分布する光強度(光フィールド)の割合(光閉じ込め係数)が大きいこと、などが求められる。
【0007】
本発明は上記した点に鑑みてなされたものであり、均一な屈折率周期を有し、高い回折効果を有するフォトニック結晶を備えた面発光レーザ及びその製造方法を提供することを目的としている。また、フィリングファクタが大きく、また大きな光閉じ込め係数を有するフォトニック結晶を備えた面発光レーザ及びその製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の1実施態様によるによる製造方法は、MOVPE法によりIII族窒化物半導体からなる面発光レーザを製造する製造方法であって、
(a)基板上に第1導電型の第1のクラッド層を成長する工程と、
(b)前記第1のクラッド層上に前記第1導電型の第1のガイド層を成長する工程と、
(c)前記第1のガイド層に、エッチングにより前記第1のガイド層に平行な面内において2次元的な周期性を有する空孔を形成する工程と、
(d)III族原料及び窒素源を含むガスを供給して、前記空孔の開口上部に所定の面方位のファセットを有する凹部が形成されるように成長を行って、前記空孔の開口部を塞ぐ工程と、
(e)前記空孔の前記開口部を塞いだ後、マストランスポートによって前記凹部を平坦化する工程と、を有し、
前記工程(e)の実行後における前記空孔の側面のうち少なくとも1つが{10-10}ファセットであることを特徴としている。
【0009】
また、本発明の1実施態様によるによる面発光レーザは、III族窒化物半導体からなる面発光レーザであって、
基板上に形成された第1導電型の第1のクラッド層と、
前記第1のクラッド層上に形成され、層に平行な面内において2次元的な周期性を有して配された空孔を内部に有する前記第1導電型の第1のガイド層と、
前記第1のガイド層上に形成された発光層と、
前記発光層上に形成された、前記第1導電型と反対導電型の第2導電型の第2のガイド層と、
前記第2のガイド層上に形成された前記第2導電型の第2のクラッド層と、を有し、
前記空孔の側面のうち少なくとも1つが{10-10}ファセットであることを特徴としている。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】フィリングファクタ(FF)とフォトニック結晶部の出射方向への放射係数の関係を示す図である。
図2】実施例1に係るフォトニック結晶面発光レーザの構造を模式的に示す断面図である。
図3】空孔CHの形成工程を模式的に示す断面図である。
図4】空孔CHの形成後の工程におけるガイド層基板の表面及び断面のSEM像を示している。
図5図4の(a1),(a4),(b)に対応するガイド層基板の断面を模式的に説明する断面図である。
図6】フォトニック結晶層14P及びフォトニック結晶層14P中に配列された空孔14Cを模式的に示す断面図である。
図7】比較例1における、成長前及び熱処理後の空孔CHの表面(上段)及び断面(下段)を示すSEM像である。
図8】比較例2における、成長前及び熱処理後の空孔CHの表面(上段)及び断面(下段)を示すSEM像である。
図9】実施例2のフォトニック結晶面発光レーザにおけるフォトニック結晶層14Pの形成工程について示す図である。
図10】実施例2の空孔14Cの成長面内における形状の変化を模式的に説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下においては、本発明の好適な実施例について説明するが、これらを適宜改変し、組合せてもよい。また、以下の説明及び添付図面において、実質的に同一又は等価な部分には同一の参照符を付して説明する。
[フォトニック結晶面発光レーザの共振効果]
フォトニック結晶部を備えた面発光レーザ(以下、単にフォトニック結晶面発光レーザという場合がある。)において共振効果を得るためには、フォトニック結晶部での回折効果が高いことが望まれる。
【0012】
すなわち、フォトニック結晶面発光レーザにおいて回折効果を高めるためには、
(1)発振波長をλ、フォトニック結晶部の実効的な屈折率をneffとしたとき、フォトニック結晶部における2次元的な屈折率周期Pが、正方格子2次元フォトニック結晶の場合はP=mλ/neff(mは自然数)を、三角格子2次元フォトニック結晶の場合はP=mλ×2/(31/2×neff)(mは自然数)を満たす、
(2)フォトニック結晶部における母材に対する異屈折率領域の占める割合(FF:フィリングファクタ)が十分に大きい、
(3)フォトニック結晶面発光レーザにおける光強度分布のうち、フォトニック結晶部に分布する光強度の割合(ΓPC:閉じ込め係数)が十分に大きい、
ことが望まれる。
【0013】
上記(1)を満たすためには、フォトニック結晶レーザの発振波長に合わせて格子定数を適切に設定する必要がある。例えば、窒化ガリウム系の材料を用いて波長405nmで発振する場合においては、neffが2.5程度であるため、正方格子2次元フォトニック結晶を用いる場合、162nm程度とするとよい。
【0014】
上記(2)に関しては、例えば周期が161nm、活性層とフォトニック結晶部の距離が80nmの場合の正方格子2次元フォトニック結晶の、フィリングファクタ(FF)とフォトニック結晶部の出射方向への放射係数の関係を図1に示す。
【0015】
フォトニック結晶部の放射係数とは、フォトニック結晶中に導波モードとして存在する光のうち、単位長さを導波する間に回折によってフォトニック結晶面と垂直方向(出射方向)に放射される光の割合である。フォトニック結晶部では、レーザ発振のためには損失は小さい方が望ましいが、FFが5%よりも小さくなるような場合には放射係数はおよそ0となり、光を外に取り出すことが困難になる。すなわちフォトニック結晶面発光レーザとして機能するためには、フィリングファクタ(FF)は5%以上であることが望まれる。
【0016】
また、上記(3)を満たすためには、フォトニック結晶部と活性層との距離、具体的には、フォトニック結晶部の活性層側の上面とMQW活性層のフォトニック結晶部側の1つ目のバリア層の下面との距離が小さい必要がある。フォトニック結晶部の厚さを増やすことでΓPCを高めることができるが、一般的にレーザの光強度分布は、活性層の光閉じ込め係数ΓMQWを大きくするため活性層付近を中心として急峻な強度分布となる。したがってフォトニック結晶部の厚さを増やしてもΓPC(フォトニック結晶部の光閉じ込め係数)を向上させるのには限界がある。また、フォトニック結晶部の厚さを増やすと、ガイド層の屈折率が低下するため、ΓMQWが小さくなり好ましくない。したがって、十分なΓPCを得るためには上記の距離を短くしフォトニック結晶部と活性層とを近づけることが望まれる。
【0017】
これらのことに鑑みると、従来技術には以下のような問題がある。例えば、上記の特許文献1のような技術においては、III族原子を供給せず窒素源を含むガス雰囲気中において熱処理し、その後、当該工程よりも高い温度で熱処理を行い細孔が塞がれる。しかしながら、この方法により空孔を埋め込むと、最初の加熱工程にて孔が狭まり、十分なFFを得ることができない。また、たとえ当該最初の加熱工程を抜いたとしても、昇温中に空孔が狭まり十分なFFの状態で空孔を埋め込むことができない。
【0018】
また、例えば、上記の特許文献2のような技術においては、減圧雰囲気においてIII族原子および窒素源を供給し、III族窒化物の横方向への成長を促進しながら成長することにより細孔が塞がれる。しかしながら、この方法により空孔を埋め込むと、比較的空孔の径を維持したまま空孔を埋め込むことができる。しかし、非特許文献1を参照すると、減圧により横方向成長の速度を高めたとしても縦方向の成長速度に対して0.7倍程度の成長速度までしか向上させることができない。すなわち、埋め込む空孔の径を維持できたとしても、フォトニック結晶部と活性層との距離が離れ十分に大きなΓpcを得ることができない。
【0019】
また、SiO2やMgFなどの低屈折率材料を空孔の底に敷き、これらをマスクとして空孔を埋め込む手法についても記載されているが、この場合、埋め込まれる空孔の形状はドライエッチングなどで加工した形状がそのまま残ることとなる。ドライエッチングなどにより空孔を作成する場合、ガイド層の面内方向に対して完全に垂直にエッチングすることが難しく、孔ごとに深さ方向で径のバラつきが生じる。すなわち、単一周期の構造を得ることが難しくなる。
【実施例0020】
図2は、実施例1のフォトニック結晶層を備えた面発光レーザ(以下、単にフォトニック結晶面発光レーザという場合がある。)10の構造を模式的に示す断面図である。図2に示すように、半導体構造層11が基板12上に形成されている。より詳細には、基板12上に、n-クラッド層13、n-ガイド層14、活性層15、ガイド層16、電子障壁層17、p-クラッド層18がこの順で順次形成されている。すなわち、半導体構造層11は半導体層13、14、15、16、17、18から構成されている。また、n-ガイド層14は、フォトニック結晶層14Pを含んでいる。
【0021】
また、n-クラッド層12上(裏面)にはn電極19Aが形成され、p-クラッド層18上(上面)にはp電極19Bが形成されている。
【0022】
面発光レーザ10からの光は、活性層15に垂直な方向に半導体構造層11の上面(すなわち、p-クラッド層18の表面)から外部に取り出される。
[クラッド層及びガイド層の成長]
半導体構造層11の作製工程について以下に詳細に説明する。結晶成長方法としてMOVPE(Metalorganic Vapor Phase Epitaxy)法を用い、常圧(大気圧)成長により成長基板11上に半導体構造層11を成長した。
【0023】
半導体構造層11の成長用基板として、成長面が+c面のn型GaN基板12を用いた。基板12上に、n-クラッド層13としてAl(アルミニウム)組成が4%のn型AlGaN(層厚:2μm)を成長した。III族のMO(有機金属)材料としてトリメチルガリウム(TMG)及びトリメチルアルミニウム(TMA)を用い、V族材料としてアンモニア(NH3)を用いた。また、ドーピング材料としてジシラン(Si26)を供給した。室温でのキャリア密度は、およそ5×1018cm-3であった。
【0024】
続いて、TMG及びNH3を供給し、n-ガイド層14としてn型GaN(層厚:300nm)を成長した。また、ジシラン(Si26)を成長と同時に供給しドーピングを行った。キャリア密度は、およそ5×1018cm-3であった。
【0025】
[ガイド層への空孔形成]
n-ガイド層14を成長後の基板、すなわちガイド層付きの基板(以下、ガイド層基板という。)をMOVPE装置から取り出し、n-ガイド層14に微細な空孔(ホール)を形成した。図3及び図4を参照して、空孔の形成について以下に詳細に説明する。なお、図3は当該空孔CHの形成工程を模式的に示す断面図である。また、図4は、空孔CHの形成後の工程におけるガイド層基板の表面及び断面の走査型電子顕微鏡(SEM:Scanning Electron Microscope)の像を示している。なお、図4の上段にはガイド層基板の表面SEM像が示され、下段に表面SEM像中に示した破線(白色)に沿った断面SEM像が示されている。
【0026】
基板12上にn-クラッド層13及びn-ガイド層14を成長したガイド層基板の洗浄を行い清浄表面を得た(図3、(i))。その後、プラズマCVDによってシリコン窒化膜(SiNx)SNを成膜(膜厚120nm)した(図3、(ii))。
【0027】
次に、SiNx膜SN上に電子線(EB:Electron Beam)描画用レジストRZをスピンコートで300nm程度の厚さで塗布し、電子線描画装置に入れてガイド層基板の表面上において2次元周期構造を有するパターンを形成した(図3、(iii))。より具体的には、直径(φ)が100nm の円形状のドットを周期PC=186nmで正三角格子状にレジストRZの面内で2次元配列したパターニングを行った。
【0028】
パターニングしたレジストRZを現像後、ICP-RIE(Inductive Coupled Plasma - Reactive Ion Etching)装置によってSiNx膜SNを選択的にドライエッチングした(図3、(iv))。これにより、面内周期PCが186nmで正三角格子状に2次元配列された直径(φ)が約100nmの貫通孔がSiNx膜SNに形成された。
【0029】
続いて、レジストRZを除去し、パターニングしたSiNx膜SNをハードマスクとしてn-ガイド層14(GaN)の表面から内部に至る空孔CHを形成した。より具体的には、ICP-RIE装置において塩素系ガスを用いてドライエッチングすることにより、n-ガイド層14に2次元配列された空孔CHを形成した(図3、(v))。
【0030】
このときのn-ガイド層14に形成された空孔CHの表面SEM像(上段)及び断面SEM像(下段)を図4に示す(図4、(a1))。表面SEM像に示すように、正三角格子状(すなわち、正六角形の頂点及び中心)に2次元的に、空孔間の間隔(周期)PCが186nmで配列された複数の空孔CHが形成された。また、断面SEM像に示すように、n-ガイド層14に形成された空孔CHの深さは約250nm、空孔CHの直径は約100nmであった。すなわち、空孔CHは上面で開口する穴(ホール)であり、底部を除いて略円柱形状を有している。
【0031】
[空孔の閉塞]
n-ガイド層14に2次元的な周期性を持つ空孔CHを形成したガイド層基板のSiNx膜SNをフッ酸(HF)を用いて除去し(図3、(vi))、脱脂洗浄を行って清浄表面を得、再度MOVPE装置内に導入した。
【0032】
MOVPE装置内において、ガイド層基板を1100℃(成長温度)に加熱し、III族材料ガス(TMG)及びV族材料ガス(NH3)を供給することで{10-11}ファセット(所定の面方位のファセット)を有する凹部を形成するように成長を行って、空孔CHの開口部を閉じた。なお、当該成長温度は、900~1150℃の範囲内の温度であることが好ましい。
【0033】
このときの空孔CHの形状の成長時間に対する変化を図4(図中、(a2)-(a4))に示す。また、図5は、図4の(a1),(a4),(b)に対応するガイド層基板の断面を模式的に説明する断面図である。
【0034】
図4に示すように、成長時間の経過(1min、3min、5min)とともに{10-11}ファセットが優先的に成長する。成長開始から5min後に、互いに対向する面から成長する{10-11}ファセットが互いにぶつかることで空孔CHが閉塞されている(図4、(a4))。また、埋め込まれた空孔CHの活性層15側の面(上面)には(000-1)面が、空孔CHの側面には{10-10}面が現れ、基板12側の底部は{1-102}ファセットが現れる。
【0035】
このとき、埋め込まれた空孔CHの上面である(000-1)面とn-ガイド層14の最表面の(0001)面との距離D1はおよそ140nmであった(図5、(a4))。また、{10-11}ファセットの開口半径Rはおよそ82nmであった(図5、(a4))。
【0036】
[表面平坦化]
空孔CHが{10-11}ファセットで閉塞された後、III族材料ガスの供給を停止し、V族材料ガス(NH3)を供給しながら100℃/minの昇温速度で1200℃まで昇温し、温度を保持した。1200℃で1分保持(熱処理)した後の空孔の表面は図4に示すように変化した(図4、(b))。すなわち、n-ガイド層14の表面に形成されていた{10-11}ファセットは消失し、表面は平坦な(0001)面となった。すなわち、マストランスポートによって表面が平坦化され、n-ガイド層14の表面を(0001)面に変化させた。
【0037】
このとき、埋め込まれて形成された空孔(キャビティ)14Cの活性層15側の面(上面、(000-1)面)とn-ガイド層14の表面(すなわち、(0001)面)との間の距離D2はおよそ105nmであった(図5、(b))。また、空孔14Cの高さHCは約110nm、空孔CHの径(当該断面における幅)WCは約60nmであった。
【0038】
図6は、上記した工程により形成されたフォトニック結晶層14P及びフォトニック結晶層14P中に配列された空孔14Cを模式的に示す断面図である。図6に示すように、空孔14Cがn-ガイド層14に平行な面内において、周期PCで正三角格子状に2次元配列されて埋め込まれたフォトニック結晶層14Pが形成された。また、図5に示すように、空孔14Cは、上面が(000-1)面、側面が{10-10}面により構成されている。また、基板12側の底部は{1-102}ファセットにより構成された多角錐状を有している。なお、空孔14Cは、底部を除いて、多角柱形状を有することが好ましく、空孔14Cの側面のうち、少なくとも1つの側面が{10-10}面(ファセット)であることが好ましい。
【0039】
すなわち、一定の周期(PC)で2次元配列された空孔14Cを有するフォトニック結晶層14Pがn-ガイド層14内に埋め込まれた形態で形成された。フォトニック結晶層14P内の各空孔14Cは、n-ガイド層14内において略同一の深さ(上面の深さがD2)であるように整列して配列され、従ってフォトニック結晶層14P内に形成された各空孔14Cの上面はフォトニック結晶層14Pの上面を形成している。また、フォトニック結晶層14P内の空孔14Cは略同一の高さHCを有している。すなわち、フォトニック結晶層14Pは層厚HCであるように形成されている。また、n-ガイド層14は平坦な表面を有している。
【0040】
なお、マストランスポートによる変形前後で埋め込まれた空孔14Cの上に形成されるGaN層の合計体積には変化がないと考えられるため、変形前後の空孔14Cの上面(すなわち、(000-1)面)とn-ガイド層14の表面(すなわち、(0001)面)との間の距離をそれぞれD,d(ここでは、D=D1,d=D2)、変形前の{10-11}ファセットの開口半径をr(r=R、直径2R)、フォトニック結晶の空孔14Cの周期をp(ここでは、p=PC)とすると、
【0041】
【数1】
から推定することができる。式(1)から推定される距離dは110nmであり、実測値とほとんど同等の距離であった。従って、表面近傍のGaが拡散することにより表面は{10-11}ファセットから(0001)面へと変形したと理解される。
【0042】
これにより、表面が平坦な(0001)面であるn-ガイド層14内に空孔14Cを埋め込み、n-ガイド層14内にフォトニック結晶層14Pを形成することができた。
【0043】
このとき、フォトニック結晶層における母材(GaN)に対する異屈折率領域(空孔14C)の占める割合であるフィリングファクタ(FF)は、10.4%であった。したがって、発振波長λに対して回折効果の高いフォトニック結晶層を得ることができた。
【0044】
なお、マストランスポートの温度が1200℃である場合を例に説明したが、1100℃以上であることが好ましい。
【0045】
[活性層及びp型半導体層の成長]
続いて活性層15として、5層の量子井戸層を含む多重量子井戸(MQW) 層を成長した。多重量子井戸のバリア層及び井戸層はそれぞれGaN及びInGaNで構成され、それぞれの層厚は、5.0nm、3.5nmであった。また、本実施例における活性層からのPL発光の中心波長は405nmであった。
【0046】
なお、バリア層は、成長温度を850℃に降温し、トリエチルガリウム(TEG)及びNH3を供給して成長した。井戸層は、バリア層と同じ温度で、TEG、トリメチルインジウム(TMI)及びNH3を供給して成長した。
【0047】
活性層15の成長後、基板を1100℃まで昇温し、p側のガイド層であるガイド層16(層厚:100nm)を成長した。ガイド層16にはドーパントをドープせずに、ノンドープGaN層を成長した。
【0048】
ガイド層16上に、成長温度を1100℃に保持したまま、電子障壁層(EBL:Electron Blocking Layer)17及びp-クラッド層18を成長した。電子障壁層17及びp-クラッド層18の成長は、TMG、TMA及びNH3を供給して行った。
【0049】
電子障壁層17は、Al組成が18%のAlGaN層(層厚:20nm)であり、p-クラッド層18は、Al組成が6%のAlGaN層(層厚:600nm)であった。また、電子障壁層17及びp-クラッド層18の成長時にはCP2Mg(Bis-cyclopentadienyl magnesium)を供給し、キャリア密度は4×1017cm-3であった。
【0050】
上記した方法により、フォトニック結晶を備えた面発光レーザの積層構造を得ることができた。
【0051】
[検討1]空孔の閉塞
上記実施例1においては、{10-11}ファセットを成長させることで、空孔CHを閉塞した。閉塞された空孔CHの上面には(000-1)面が現れ、側面には{10-10}面が現れる。
【0052】
すなわち、表面付近には多量のN(窒素)原子が存在しているため、N極性面が選択的に成長しやすい。従って、N極性を持つことのできる{10-11}が斜めファセットとして形成される。同じくN極性を持つことのできる斜めファセットである{11-22}ではなく、{10-11}が現れるのはダングリングボンド密度が小さく表面エネルギーが小さいからであると考えられる。成長時間の経過とともに{10-11}ファセットが優先的に成長し、対面から成長する{10-11}ファセットとぶつかると空孔は閉塞される。
【0053】
そして、空孔CHが閉塞されると空孔CHの各面は最も安定な面が形成される。上面は最もN極性で最もダングリングボンド密度の低い(000-1)面が、下面にはN極性の{1-102}ファセットが形成される。また、成長方向と平行な方向に対してはIII族窒化物は極性を持たないため、側面に現れる面は同一面内で最もダングリングボンド密度の小さな{10-10}面が現れる。
【0054】
[検討2]表面平坦化
表面平坦化においては、埋め込まれた空孔CHの上部の{10-11}ファセットを、マストランスポートによって平坦化させ、ガイド層の表面を(0001)面に変化させる。
【0055】
上記したように、空孔CHが{10-11}ファセットによって閉塞された後、III族原子の供給を停止し、窒素源を供給しながら昇温・加熱する。
【0056】
すなわち、n-ガイド層14の表面に付着するN原子の脱離が増加する温度まで昇温すると、N極性面が必ずしも安定的ではなくなる。安定な表面は、表面エネルギーの小さな、すなわちダングリングボンド密度の最も低い面となる。III族窒化物においては、最もダングリングボンド密度の低い(0001)面が現れる。このとき、III族原子の供給は止められているため、同表面内にてIII族原子の拡散が発生する。最もエネルギー的に不安定な{10-11}ファセットの山部の原子が、最もエネルギー的に安定な{10-11}ファセットの谷部に拡散・付着し(0001)面が形成される。
【0057】
これにより、埋め込まれた空孔14Cの(000-1)面からn-ガイド層14の最表面である(0001)面までの距離は短くなり、フォトニック結晶層14Pと活性層15との距離を近づけることができる。n-ガイド層14を構成するIII族窒化物が昇華しなければ、変形前後での合計体積には変化がなく、n-ガイド層14の最表面の{10-11}ファセットにより形成された凹部を埋める体積分だけ、埋め込まれた空孔14Cの(000-1)面とn-ガイド層14の最表面の(0001)面との間の距離は短くなる。これにより、2次元的な周期をもつ空孔14Cが、上部が平坦な(0001)面となるn-ガイド層14に、フォトニック結晶層14Pと活性層15との距離を離すことなく埋め込まれる。
【0058】
[検討3]比較例との対比
比較例1として、実施例1の平坦化工程(マストランスポート)と同様な工程のみによって空孔CHの埋め込みを行った。すなわち、III族原料の供給を停止し、窒素源を供給しながら昇温・加熱する工程のみによって空孔CHの埋め込みを行った。
【0059】
図7を参照して以下に説明する。実施例1と同様の工程にてSiNxをハードマスクとして、正三角格子状に周期186nmで空孔CHを2次元的に形成した。この後、HFにてSiNxを除去、脱脂洗浄を行い清浄表面を有するガイド層基板を得た。このときの空孔CHの表面SEM写真(上段)及び断面SEM写真(下段)を図7の(i)に示す。
【0060】
当該ガイド層基板をMOVPE装置内に導入し、NH3を供給しながら、100℃/minの昇温速度で1200℃まで昇温し、温度を保持した。1200℃で1分間保持した後の空孔CHの表面は図7の(ii)に示すように変化し、ガイド層表面は平坦な(0001)面となった。
【0061】
このときの埋め込まれた空孔CHの活性層側の面である(000-1)面とガイド層の最表面である(0001)面との間の距離D2は83nm、高さHCは113nmであったが、空孔CHの径(当該断面における幅)WCは38nmと非常に細くなった。このときの空孔のFFは4.2%となり、放射係数はほぼ0となり光を出射方向に取り出すことができない。
【0062】
また、比較例2として、実施例1の空孔閉塞工程と同様な工程のみによって空孔CHの埋め込みを行った。図8を参照して以下に説明する。
【0063】
すなわち、実施例1と同様の工程にて正三角格子状に周期186nmで空孔CHを2次元的に形成した。このときの空孔CHの表面SEM写真(上段)及び断面SEM写真(下段)を図8の(i)に示す。
【0064】
当該ガイド層基板をMOVPE装置内に導入し、100℃/minの昇温速度で1100℃まで加熱し、TMG及びNH3を供給し、空孔CHを閉塞した。成長時間が10minの時の表面及び断面写真を図8の(ii)に示す。
【0065】
FFについては、実施例1とほとんど同等サイズの空孔CHで埋め込むことができている。しかし、空孔CHの活性層側の面である(000-1)面からガイド層の最表面である(0001)面までの距離D2は164nmであった。なお、空孔CHの径WCは61nm、高さHCは113nmであった。
【0066】
また、成長時間が8minの場合にはガイド層の表面には斜めファセットが残っており、平坦な(0001)面が得られていなかった。したがって、III族原料及びNH3を供給する工程のみで空孔を埋め込むと、空孔の(000-1)面とガイド層表面である(0001)面との距離は離れてしまい、ΓPCを大きくすることができない。
【0067】
比較例1及び2の結果から、埋め込まれる空孔上面の(000-1)面とガイド層の活性層側の上面(0001)面との距離を小さくしつつ、フォトニック結晶部の空孔のFFを十分に大きくすることは困難であった。
【実施例0068】
図9は、実施例2のフォトニック結晶面発光レーザ10におけるフォトニック結晶層14Pの形成について示す図である。より具体的には、図9は、n-ガイド層14に形成された空孔CHの表面SEM像(上段)及び断面SEM像(下段)を示している。なお、フォトニック結晶面発光レーザ10の構造は実施例1の場合と同様である(図2)。
【0069】
図9に示すように、実施例1と同様の工程によって、ガイド層基板の表面上に、SiNx膜SNを形成した。次に、ICP-RIE装置によってSiNx膜SNを選択的にドライエッチングし、面内周期PC=161nmで正方格子状に2次元配列された貫通孔がSiNx膜SNを形成した。すなわち、短辺長が100nmの直角二等辺三角形の貫通孔がSiNx膜SNを貫通するように形成した。
【0070】
続いて、パターニングしたSiNx膜SNをハードマスクとしてn-ガイド層14(GaN)の表面から空孔CHを形成した。より具体的には、ICP-RIE装置を用いてドライエッチングすることにより、n-ガイド層14に深さが約230nm、短辺長が100nmの直角二等辺三角形の空孔CHを正方格子状に周期PC=161nmで面内に2次元配列された複数の空孔CHを形成した(図9、(a1))。
【0071】
次に、実施例1と同様に、MOVPE装置内において、ガイド層基板を1100℃に加熱し、III族材料ガス(TMG)及びV族材料ガス(NH3)を供給することで{10-11}ファセットを形成し空孔CHの開口部を閉塞した。このときの空孔CHの形状の成長時間に対する変化を図9(図中、(a2)-(a4))に示す。
【0072】
図9に示すように、実施例1と同様に、成長時間の経過(1min、3min、5min)とともに{10-11}ファセットが優先的に成長し、成長開始から5min後に、互いに対向する面から成長する{10-11}ファセットが互いにぶつかることで空孔CHが閉塞されている(図9、(a4))。このとき、埋め込まれて形成された空孔14Cの上面である(000-1)面とn-ガイド層14の表面の(0001)面との距離D1はおよそ140nmであった(図9、(a4))。
【0073】
なお、この際、n-ガイド層14の表面に、{10-11}ファセットにより形成される空隙の成長面内における形状は、実施例1では正六角形であったのに対し、実施例2では各辺の長さの異なる不等辺六角形である(図9、(a3),(a4)上面像)。埋め込まれる空孔の断面形状は、これと相似形になるため、パターニングの初期形状を調整することで非対称な形状の空孔14Cが埋め込まれたフォトニック結晶層14Pを形成することができる。
【0074】
空孔CHが{10-11}ファセットで閉塞された後、実施例1と同様に、III族材料ガスの供給を停止し、V族材料ガス(NH3)を供給しながら100℃/minの昇温速度で1200℃まで昇温し、温度を保持した。1200℃で1分保持(熱処理)した後の空孔の表面は図9に示すように変化した(図9、(b))。すなわち、n-ガイド層14の表面に形成されていた{10-11}ファセットは消失し、表面は平坦な(0001)面となった。すなわち、マストランスポートによって表面が平坦化され、n-ガイド層14の表面は平坦な(0001)面となった。
【0075】
このとき、形成された空孔14Cの活性層15側の面(すなわち、(000-1)面)とn-ガイド層14の表面(すなわち、(0001)面)との間の距離D2はおよそ94nmであった(図9、(b))。また、空孔14Cの高さHCは約136nm、空孔CHの当該断面における幅WCは約58nmであった。
【0076】
なお、上記したように、実施例2においては、空孔14Cは、成長面内における形状が、各辺の長さの異なる不等辺六角形となる。図10は、空孔14Cの成長面内における形状の変化を模式的に説明する図である。
【0077】
より詳細には、n-ガイド層14に形成された空孔CHの形状は、直角二等辺三角形abcである。平坦化成長及びマストランスポートによって空孔CHの形状は変化し、平坦化成長及びマストランスポート後の空孔14Cの各側面は{10-10}面(m面)で構成され、成長面内における形状は不等辺六角形pqrstuとなる。すなわち、空孔14Cは、各側面が{10-10}面である多角柱形状を有し、n-ガイド層14に平行な面内における対角線(例えば、対角線ps、qtなど)に関して非対称な形状を有している。
【0078】
なお、上記実施例における種々の数値等は例示に過ぎない。本発明の範囲を逸脱しない範囲で、適宜変更することができる。
【0079】
また、上記実施例においては、半導体構造層11が電子障壁層17を有する場合を例に説明したが、電子障壁層17は設けられていなくともよい。あるいは、半導体構造層11は、コンタクト層、電流拡散層その他の半導体層を含んでいてもよい。
【0080】
また、本明細書においては、第1導電型の半導体(n型半導体)、活性層及び第2導電型の半導体(第1導電型とは反対導電型であるp型半導体)をこの順に成長する場合を例に説明したが、第1導電型がp型であり、第2導電型がn型であってもよい。
【0081】
以上、詳細に説明したように、本発明によれば、均一な屈折率周期を有し、高い回折効果を有するフォトニック結晶を備えた面発光レーザ及びその製造方法を提供することができる。また、フィリングファクタが大きく、また大きな光閉じ込め係数を有するフォトニック結晶を備えた面発光レーザ及びその製造方法を提供することができる。
【符号の説明】
【0082】
10:フォトニック結晶面発光レーザ
12:基板
13:n-クラッド層
14:n-ガイド層
14P:フォトニック結晶層
14C:空孔
15:活性層
16:ガイド層
18:p-クラッド層
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10