(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022105750
(43)【公開日】2022-07-14
(54)【発明の名称】ブッシング、及びガラス繊維の製造方法
(51)【国際特許分類】
C03B 37/083 20060101AFI20220707BHJP
【FI】
C03B37/083
【審査請求】有
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022087023
(22)【出願日】2022-05-27
(62)【分割の表示】P 2018122378の分割
【原出願日】2018-06-27
(71)【出願人】
【識別番号】000232243
【氏名又は名称】日本電気硝子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】柳瀬 智基
(72)【発明者】
【氏名】松浦 禅
(57)【要約】
【課題】ブッシングの寿命を延ばすことで、ガラスフィラメントの生産性を高めることを可能にしたブッシング、及びガラス繊維の製造方法を提供する。
【解決手段】ブッシング11は、ガラスフィラメントGFが引き出されるノズル群を有する。ブッシング11のノズル群は、ノズルの壁厚、及びノズルの材料中のロジウム含有量の少なくとも一方が互いに異なる複数のノズル(第1ノズル14及び第2ノズル15)を含む(但し、複数のノズルが2重管ノズルである場合を除く。)。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラスフィラメントが引き出されるノズル群を有するブッシングであって、
前記ノズル群は、ノズルの壁厚、及びノズルの材料中のロジウム含有量の少なくとも一方が互いに異なる複数のノズルを含む(但し、前記複数のノズルが2重管ノズルである場合を除く。)ことを特徴とするブッシング。
【請求項2】
前記ノズル群は、第1ノズル群と、前記第1ノズル群よりもノズル数の多い第2ノズル群とから構成され、
前記第1ノズル群を構成するノズルの壁厚の平均値AW1と、前記ノズル群を構成する全てのノズルの壁厚の平均値AWTとは、下記式(1):
AW1>AWT・・・(1)
で表される関係を満たすことを特徴とする請求項1に記載のブッシング。
【請求項3】
前記ノズル群は、第1ノズル群と、前記第1ノズル群よりもノズル数の多い第2ノズル群とから構成され、
前記第1ノズル群を構成するノズル中のロジウム含有量の平均値AR1と、前記ノズル群を構成する全てのノズル中のロジウム含有量の平均値ARTとは、下記式(2):
AR1>ART・・・(2)
で表される関係を満たすことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のブッシング。
【請求項4】
前記第1ノズル群は、前記ブッシングの底面の外周縁に最も近い位置であり、前記外周縁に沿って環状に配列されるノズルから構成され、
前記第2ノズル群は、前記第1ノズル群よりも内側に配列されるノズルから構成されることを特徴とする請求項2又は請求項3に記載のブッシング。
【請求項5】
前記ブッシングの底面は、長方形状であり、
前記第1ノズル群は、前記ブッシングの底面における一方の長辺に最も近い位置で前記一方の長辺に沿って配列されるノズルから構成され、
前記第2ノズル群は、前記第1ノズル群よりも前記ブッシングの底面における他方の長辺側に配置されるノズルから構成されることを特徴とする請求項2又は請求項3に記載のブッシング。
【請求項6】
前記ブッシングの底面は、長方形状であり、
前記第1ノズル群は、前記ブッシングの底面における一方の短辺に最も近い位置で前記一方の短辺に沿って配列されるノズルから構成され、
前記第2ノズル群は、前記第1ノズル群よりも前記ブッシングの底面における他方の短辺側に配置されるノズルから構成されることを特徴とする請求項2又は請求項3に記載のブッシング。
【請求項7】
前記ノズルの材料は、白金ロジウム合金であることを特徴とする請求項1から請求項6のいずれか一項に記載のブッシング。
【請求項8】
請求項1から請求項7のいずれか一項に記載のブッシングに溶融ガラスを供給し、前記ノズル群から複数のフィラメントを引き出した後、複数のフィラメントを集束することで、ガラス繊維を製造することを特徴とするガラス繊維の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ブッシング、及びガラス繊維の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ガラスフィラメントの紡糸には、溶融ガラスを流出させる複数のノズルを備えるブッシングが用いられている(特許文献1)。特許文献1には、ブッシングにおいて周囲の気流により摩耗し易い最外層のノズル列を目封止することで、ノズル群の劣化(摩耗)を抑える構成が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記従来のブッシングでは、ブッシングの寿命を延ばすことで、ガラスフィラメントの生産性を高めることができる。ところが、目封止されたノズルは、ガラスフィラメントの紡糸に利用できないため、所定本数のガラスフィラメントを得るためには、目封止されたノズル数に応じてノズル数を増やしたブッシングを設計することになる。目封止されたノズル数に応じて紡糸できるノズル数を増やすことは、例えば、ブッシングの外形寸法に制限がある場合、ノズルの配置が困難となったり、ノズルの材料コストが増大したりするおそれがある。このように、ガラスフィラメントの生産性を高めるという観点で未だ改善の余地がある。
【0005】
本発明は、こうした実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、ブッシングの寿命を延ばすことで、ガラスフィラメントの生産性を高めることを可能にしたブッシング、及びガラス繊維の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するブッシングの一態様は、ガラスフィラメントが引き出されるノズル群を有するブッシングであって、前記ノズル群は、ノズルの壁厚、及びノズルの材料中のロジウム含有量の少なくとも一方が互いに異なる複数のノズルを含む(但し、前記複数のノズルが2重管ノズルである場合を除く。)。
【0007】
上記課題を解決するブッシングの別の態様は、ガラスフィラメントが引き出されるノズル群を有するブッシングであって、前記ノズル群は、ノズルの壁厚、及びノズルの材料中のロジウム含有量の少なくとも一方が互いに異なる複数のノズルを含む。
【0008】
この構成によれば、ブッシングのノズル群において、劣化し易い環境下に配置されるノズルとして、壁厚の大きいノズルや、ロジウム含有量の多いノズルを用いることで、劣化し易い環境下に配置されるノズルの寿命を延ばすことができる。これにより、ブッシングのノズル群において、劣化し易い環境下に配置されるノズルの寿命を、劣化し難い環境下に配置されるノズルの寿命に近づけることが可能となる。
【0009】
上記ブッシングにおいて、前記ノズル群は、第1ノズル群と、前記第1ノズル群よりもノズル数の多い第2ノズル群とから構成され、前記第1ノズル群を構成するノズルの壁厚の平均値AW1と、前記ノズル群を構成する全てのノズルの壁厚の平均値AWTとは、下記式(1)で表される関係を満たすことが好ましい。
【0010】
AW1>AWT・・・(1)
上記ブッシングにおいて、前記ノズル群は、第1ノズル群と、前記第1ノズル群よりもノズル数の多い第2ノズル群とから構成され、前記第1ノズル群を構成するノズル中のロジウム含有量の平均値AR1と、前記ノズル群を構成する全てのノズル中のロジウム含有量の平均値ARTとは、下記式(2)で表される関係を満たすことが好ましい。
【0011】
AR1>ART・・・(2)
上記構成によれば、ブッシングのノズル群において、劣化し易い環境下に配置されるノズル群として第1ノズル群を用いることで、劣化し易い環境下に配置されるノズル群の寿命を延ばすことができる。これにより、ブッシングのノズル群において、劣化し易い環境下に配置されるノズル群の寿命を、劣化し難い環境下に配置されるノズル群の寿命に近づけることが可能となる。ここで、ノズルの壁厚に伴う重量減や希少かつ高価なロジウムの使用量削減により、第2ノズル群の材料コストを第1ノズル群よりも低くすることが可能となるため、第2ノズル群のノズル数を第1ノズル群のノズル数よりも多くすることで、ノズル群の材料コストを低く抑えることが可能となる。
【0012】
上記ブッシングにおいて、前記第1ノズル群は、前記ブッシングの底面の外周縁に最も近い位置であり、前記外周縁に沿って環状に配列されるノズルから構成され、前記第2ノズル群は、前記第1ノズル群よりも内側に配列されるノズルから構成されてもよい。
【0013】
上記ブッシングにおいて、前記ブッシングの底面は、長方形状であり、前記第1ノズル群は、前記ブッシングの底面における一方の長辺に最も近い位置で前記一方の長辺に沿って配列されるノズルから構成され、前記第2ノズル群は、前記第1ノズル群よりも前記ブッシングの底面における他方の長辺側に配置されるノズルから構成されてもよい。
【0014】
上記ブッシングにおいて、前記ブッシングの底面は、長方形状であり、前記第1ノズル群は、前記ブッシングの底面における一方の短辺に最も近い位置で前記一方の短辺に沿って配列されるノズルから構成され、前記第2ノズル群は、前記第1ノズル群よりも前記ブッシングの底面における他方の短辺側に配置されるノズルから構成されてもよい。
【0015】
上記ブッシングにおいて、前記ノズルの材料は、白金ロジウム合金であることが好ましい。
上記課題を解決するガラス繊維の製造方法は、上記ブッシングに溶融ガラスを供給し、前記ノズル群から複数のフィラメントを引き出した後、複数のフィラメントを集束することで、ガラス繊維を製造する。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、ブッシングの寿命を延ばすことで、ガラスフィラメントの生産性を高めることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】(a)は、実施形態におけるガラス繊維の製造を説明する説明図であり、(b)は、ブッシングの部分断面図である。
【
図2】ブッシングにおけるノズルの配置を説明する説明図である。
【
図3】ブッシングにおけるノズルの配置の変更例を説明する説明図である。
【
図4】ブッシングにおけるノズルの配置の変更例を説明する説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
(第1実施形態)
以下、ブッシング及びガラス繊維の製造装置の第1実施形態について図面を参照して説明する。
【0019】
図1に示すように、ブッシング11は、ガラス繊維(ガラスストランドGS)の製造に用いられる。ガラス繊維の製造装置は、ブッシング11と、ブッシング11から引き出された多数のガラスフィラメントGFに液体状の集束剤を塗布するアプリケータ12とを備えている。ガラス繊維の製造装置は、集束剤が塗布された多数のガラスフィラメントGFを集束させるギャザリングシュー13を備えている。多数のガラスフィラメントGFは、ギャザリングシュー13により集束されることで、ガラスストランドGSが得られる。なお、図示を省略するが、ガラス繊維の製造装置は、ガラスストランドGSを往復移動させるトラバースと、トラバースを通過したガラスストランドGSを巻き取るコレットとを備えている。
【0020】
図1(b)に示すように、ブッシング11は、溶融ガラスMGが供給されるブッシング本体11aと、ブッシング本体11aの底部に設けられたベースプレート11bとを備えている。なお、図示を省略するが、ブッシング本体11aは、溶融ガラスMGが供給される供給口、ベースプレート11b上に異物が堆積するのを抑制するスクリーン、抵抗加熱用のターミナル等を有している。
【0021】
図1(a)及び
図1(b)に示すように、ブッシング11は、ガラスフィラメントGFが引き出されるノズル群を有している。ノズル群を構成する複数のノズルは、ベースプレート11bに設けられている。ノズル群は、第1ノズル14と第2ノズル15とを備えている。第1ノズル14の壁厚W1は、第2ノズル15の壁厚W2よりも厚い。なお、各ノズルの形状は、円筒状であり、各ノズルの基端(上端)から先端(下端)にわたって一定の流路径を有している。つまり、第1ノズル14の外径寸法は、第2ノズル15の外径寸法よりも大きい。なお、第1ノズル14の内径寸法は、第2ノズル15の内径寸法と同じである。
【0022】
図2に示すように、ブッシング11の底面(ベースプレート11b)の形状は、長方形状である。すなわち、ブッシング11の底面は、対向する一対の長辺L1,L2と、対向する一対の短辺S1,S2とを有している。
【0023】
ブッシング11のノズル群は、第1ノズル群16と、第1ノズル群16よりもノズル数の多い第2ノズル群17とから構成されている。ブッシング11のノズル数は、800~10000本であることが好ましく、2000~8000本であることがより好ましい。
【0024】
図2には、第1ノズル群16を構成する第1ノズル14を黒丸印で示し、第2ノズル群17を構成する第2ノズル15を白丸印で示している。
第1ノズル群16は、ブッシング11の底面の外周縁に最も近い位置であり、その外周縁に沿って環状に配列される第1ノズル14から構成されている。第1ノズル群16は、ベースプレート11bの各長辺L1,L2に沿った第1ノズル14の列と、ベースプレート11bの各短辺S1,S2に沿った第1ノズル14の列とから構成されている。
【0025】
第2ノズル群17は、第1ノズル群16よりも内側に配列される第2ノズル15から構成されている。詳述すると、第2ノズル群17は、第1ノズル群16よりもブッシング11の底面の中央側(二点鎖線で囲まれる範囲内)に配列される第2ノズル15から構成されている。第2ノズル群17を構成する第2ノズル15は、両長辺L1,L2と両短辺S1,S2とに沿って配列(整列)されている。
【0026】
第1ノズル群16を構成するノズル(第1ノズル14)の壁厚の平均値AW1と、ブッシング11のノズル群を構成する全てのノズル(第1ノズル14及び第2ノズル15)の壁厚の平均値AWTとは、下記式(1)で表される関係を満たす。
【0027】
AW1>AWT・・・(1)
ブッシング11のノズル群を構成する全てのノズルの壁厚の平均値AWTに対する第1ノズル群16を構成するノズルの壁厚の平均値AW1の比率R1(R1=AW1/AWT)は、1.1以上であることが好ましく、より好ましくは1.2以上である。なお、この比率R1は、2.0以下であることが好ましい。
【0028】
第1ノズル群16を構成する第1ノズル14の壁厚の標準偏差を平均値AW1で除した変動係数CVW1は、ノズル群を構成する全てのノズルの壁厚の標準偏差を平均値AWTで除した変動係数CVWTよりも小さいことが好ましい。このように第1ノズル群16の壁厚のばらつきを抑えることで、第1ノズル群16の耐久性を高めるとともに、材料コストを抑えることができる。第1ノズル14の壁厚の変動係数CVW1は、0.2以下であることが好ましい。
【0029】
ブッシング11のノズル群を構成する全てのノズルの壁厚は、ノズル群の耐久性をより高めるという観点から、例えば、0.2mm以上であることが好ましい。ブッシング11のノズル群を構成する全てのノズルの壁厚は、ノズル群の材料コストを低く抑えるという観点から、例えば、0.6mm以下であることが好ましい。ブッシング11のノズル群を構成する全てのノズルは、例えば、0.70~2.00mmの範囲内における所定の内径を有していることが好ましい。
【0030】
ブッシング本体11a、ベースプレート11b、第1ノズル14及び第2ノズル15の材料としては、貴金属又は貴金属合金が挙げられる。貴金属は、金、銀、白金、パラジウム、ロジウム、イリジウム、ルテニウム、又はオスミウムである。
【0031】
第1ノズル14及び第2ノズル15の材料は、第1ノズル14及び第2ノズル15の耐久性を高めるという観点から、白金、又は白金ロジウム合金であることが好ましく、白金ロジウム合金であることがより好ましい。なお、ブッシング本体11a及びベースプレート11bの材料についても、第1ノズル14及び第2ノズル15の材料と同種の材料であることが好適である。つまり、ブッシング本体11a及びベースプレート11bの材料は、白金、又は白金ロジウム合金であることが好ましく、白金ロジウム合金であることがより好ましい。
【0032】
ガラス繊維(ガラスストランドGS)は、ブッシング11に溶融ガラスMGを供給し、ノズル群から複数のフィラメントを引き出した後、複数のフィラメントを集束することで製造することができる。
【0033】
ガラス繊維の形態としては、例えば、ガラスストランドGSを巻回したケーキが挙げられる。ガラスストランドGSは、例えば、所定長さにカットされたチョップドストランド、ミルドファイバ、ロービング、ヤーン、マット、クロス、テープ、又は組布等として利用することができる。ガラス繊維の用途としては、例えば、車両用途、電子材料用途、建材用途、土木用途、航空機関連用途、造船用途、物流用途、産業機械用途、及び日用品用途が挙げられる。
【0034】
次に、本実施形態の作用及び効果について説明する。
(1-1)ブッシング11のノズル群は、ノズルの壁厚が互いに異なる第1ノズル14及び第2ノズル15を含む。第1ノズル14の壁厚W1は、第2ノズル15の壁厚W2よりも厚い。
【0035】
この構成によれば、ブッシング11のノズル群において、劣化し易い環境下に配置されるノズルとして第1ノズル14を用いることで、劣化し易い環境下に配置されるノズルの寿命を延ばすことができる。これにより、ブッシング11のノズル群において、劣化し易い環境下に配置されるノズルの寿命を、劣化し難い環境下に配置されるノズルの寿命に近づけることができる。従って、ブッシング11の寿命を延ばすことで、ガラスフィラメントGFの生産性を高めることが可能となる。
【0036】
(1-2)ブッシング11のノズル群は、第1ノズル群16と、第1ノズル群16よりもノズル数の多い第2ノズル群17とから構成される。第1ノズル群16を構成するノズルの壁厚の平均値AW1と、ノズル群を構成する全てのノズルの壁厚の平均値AWTとは、上記式(1)で表される関係を満たす。
【0037】
この場合、ブッシング11のノズル群において、劣化し易い環境下に配置されるノズル群として第1ノズル群16を用いることで、劣化し易い環境下に配置されるノズル群の寿命を延ばすことができる。これにより、ブッシング11のノズル群において、劣化し易い環境下に配置されるノズル群の寿命を、劣化し難い環境下に配置されるノズル群の寿命に近づけることが可能となる。ここで、第2ノズル群17の材料コストを第1ノズル群16よりも低くすることが可能となるため、第2ノズル群17のノズル数を第1ノズル群16のノズル数よりも多くすることで、ノズル群の材料コストを低く抑えることが可能となる。従って、ノズル群の材料コストを低く抑えるとともに、ガラスフィラメントGFの生産性を高めることができる。
【0038】
(1-3)ブッシング11の第1ノズル群16は、ブッシング11の底面の外周縁に最も近い位置であり、その外周縁に沿って環状に配列されるノズルから構成される。ブッシング11の第2ノズル群17は、第1ノズル群16よりも内側に配列されるノズルから構成される。
【0039】
ここで、ブッシング11の底面の外周縁に最も近い位置のノズルは、例えば、紡糸することにより発生する随伴気流の影響によって劣化し易い場合がある。上記のようにブッシング11における第1ノズル群16及び第2ノズル群17を構成することで、ノズル群の材料コストを低く抑えるとともに、ガラスフィラメントGFの生産性を高めることができる。
【0040】
(1-4)第1ノズル14及び第2ノズル15の材料は、白金ロジウム合金であることが好ましい。この場合、ノズル群の耐久性をより高めることができる。
(第2実施形態)
次に、第2実施形態について上記第1実施形態と異なる点を中心に説明する。
【0041】
第2実施形態のブッシング11において、第1ノズル14の材料中のロジウム含有量は、第2ノズル15の材料中のロジウム含有量よりも多い。ノズルの材料中のロジウム含有量を多くすることで、耐熱性を高めることができるため、ノズルが劣化し難くなる。すなわち、ノズルの摩耗を抑えることでノズルの耐久性を高めることができる。
【0042】
図2に示すように、ブッシング11のノズル群は、第1ノズル群16と、第1ノズル群16よりもノズル数の多い第2ノズル群17とから構成されている。第1ノズル群16を構成するノズル中のロジウム含有量の平均値AR1と、ノズル群を構成する全てのノズル中のロジウム含有量の平均値ARTとは、下記式(2)で表される関係を満たす。
【0043】
AR1>ART・・・(2)
ノズル群を構成する全てのノズル中のロジウム含有量の平均値ARTに対する第1ノズル群16を構成するノズル中のロジウム含有量の平均値AR1の比率R2(R2=AR1/ART)は、2以上であることが好ましい。なお、この比率R2は、5以下であることが好ましい。
【0044】
第1ノズル群16を構成する第1ノズル14中のロジウム含有量の標準偏差を平均値AR1で除した変動係数CVR1は、ノズル群を構成する全てのノズル中のロジウム含有量の標準偏差を平均値ARTで除した変動係数CVRTよりも小さいことが好ましい。このように第1ノズル群16のロジウム含有量のばらつきを抑えることで、第1ノズル群16の耐久性を高めるとともに、材料コストを抑えることができる。第1ノズル14の壁厚の変動係数CVR1は、0.3以下であることが好ましい。
【0045】
ブッシング11のノズル群を構成する全てのノズル中のロジウム含有量は、ノズル群の耐久性をより高めるという観点から、例えば、5質量%以上であることが好ましい。ブッシング11のノズル群を構成する全てのノズル中のロジウム含有量は、ノズル群の材料コストを低く抑えるという観点から、例えば、20質量%以下であることが好ましい。
【0046】
第1ノズル14及び第2ノズル15の材料は、ロジウムと、ロジウム以外の貴金属を含む。第1ノズル14及び第2ノズル15の材料は、ロジウム及び白金を含むことが好ましく、白金ロジウム合金であることがより好ましい。なお、第2ノズル15の材料は、ロジウムを含有しない材料(例えば、白金)から構成されてもよい。第2ノズル15の材料についても、例えば、ノズルの材料の再利用を容易にするという観点から、白金ロジウム合金であることがより好ましい。なお、ブッシング本体11a及びベースプレート11bの材料については、ブッシング11の材料コストを抑えるという観点から、第2ノズル15と同様の組成を有する材料であることが好適である。
【0047】
第2実施形態のブッシング11において、第1ノズル14の壁厚W1は、第2ノズル15の壁厚W2よりも厚くてもよいし、第1ノズル14の壁厚W1と第2ノズル15の壁厚W2とは、同じ壁厚であってもよい。なお、上記のロジウム含有量によって、第1ノズル14の耐久性が第2ノズル15の耐久性よりも高まる場合は、第1ノズル14の壁厚W1は、第2ノズル15の壁厚W2よりも薄くてもよい。ブッシング11のノズル群を構成する全てのノズルは、例えば、0.70~2.00mmの範囲内における所定の内径を有していることが好ましい。
【0048】
次に、本実施形態の作用及び効果について説明する。
(2-1)ブッシング11のノズル群は、ノズルの材料中のロジウム含有量が互いに異なる第1ノズル14及び第2ノズル15を含む。第1ノズル14の材料中のロジウム含有量は、第2ノズル15の材料中のロジウム含有量よりも多い。この場合であっても、上記第1実施形態の(1-1)欄で述べた効果を得ることができる。
【0049】
(2-2)ブッシング11のノズル群は、第1ノズル群16と、第1ノズル群16よりもノズル数の多い第2ノズル群17とから構成される。第1ノズル群16を構成するノズル中のロジウム含有量の平均値AR1と、ノズル群を構成する全てのノズル中のロジウム含有量の平均値ARTとは、上記式(2)で表される関係を満たす。この場合であっても、上記第1実施形態の(1-2)欄で述べた効果を得ることができる。
【0050】
(2-3)第2実施形態においても、第1実施形態の(1-3)、(1-4)欄で述べた効果を得ることができる。
(変更例)
本実施形態は、以下のように変更して実施することができる。本実施形態及び以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
【0051】
・ブッシング11の第1ノズル群16の配置は、ノズル群のうち、劣化し易い環境下に曝されるノズル群に応じて変更することができる。ブッシング11の第2ノズル群17の配置は、第1ノズル群16の配置に応じて変更することができる。
【0052】
例えば、
図3に示すブッシング11の第1ノズル群16は、ブッシング11の底面における一方の長辺L1に最も近い位置でその一方の長辺L1に沿って配列されるノズルから構成されている。このブッシング11の第2ノズル群17は、第1ノズル群16よりもブッシング11の底面における他方の長辺L2側に配置されるノズルから構成されている。この構成によれば、上記一方の長辺L1に最も近い位置のノズルが劣化し易い環境下であり、かつ他方の長辺L2側のノズルについては比較的劣化し難い環境下において、ブッシング11を好適に用いることができる。
【0053】
例えば、
図4に示すブッシング11の第1ノズル群16は、ブッシング11の底面における一方の短辺S1に最も近い位置でその一方の短辺S1に沿って配列されるノズルから構成されている。このブッシング11の第2ノズル群17は、第1ノズル群16よりもブッシング11の底面における他方の短辺S2側に配置されるノズルから構成されている。この構成によれば、上記一方の短辺S1に最も近い位置のノズルが劣化し易い環境下であり、かつ他方の短辺S2側のノズルについては比較的劣化し難い環境下において、ブッシング11を好適に用いることができる。
【0054】
また、ブッシング11の第1ノズル群16は、例えば、ノズル群の最外周を構成するノズルよりも内側の範囲に位置するノズルから構成することもできる。
・ブッシング11の第1ノズル群16の配置は、さらに次のように変更することもできる。
【0055】
ブッシング11の第1ノズル群16は、互いに離間して配置される複数の第1ノズル群16であってもよい。例えば、ブッシング11の第1ノズル群16は、ブッシング11の底面における両長辺L1,L2に最も近い位置で両長辺L1,L2に沿って配列される一対の第1ノズル群16,16であってもよい。また、例えば、ブッシング11の第1ノズル群16は、ブッシング11の底面における両短辺S1,S2に最も近い位置で両短辺S1,S2に沿って配列される一対の第1ノズル群16,16であってもよい。
【0056】
・ブッシング11の第1ノズル群16は、一方の長辺L1に沿って配列されるノズルと、一方の短辺S1に沿って配列されるノズルとから構成してもよい。一方の長辺L1に沿って配列されるノズルは、ブッシング11の底面における両長辺L1,L2のうち一方の長辺L1に最も近い位置で配列される。一方の短辺S1に沿って配列されるノズルは、両短辺S1,S2のうち一方の短辺S1に最も近い位置で配列される。
【0057】
・上記ブッシング11において、第2ノズル群17を第2ノズル15のみから構成せずに、第2ノズル群17の一部を第1ノズル14から構成することもできる。
・ブッシング11の底面は、例えば、正方形等の形状に変更することもできる。
【0058】
・上記ブッシング11のノズルの形状は、円筒状であり、ノズルの基端から先端にわたって一定の外径を有しているが、ノズルの形状を基端から先端に向かうにつれて外径が小さくなる先細形状に変更してもよい。先細形状のノズルでは、ノズルの基端から先端にわたって流路径が一定とされるため、ノズルの壁厚は、基端から先端に向かうにつれて薄くなる。ここで、ブッシング11の使用時のノズルは、先端により近い部分の劣化(腐食)が進行し易い。ノズルの先端の劣化(腐食)が進行することで、ノズルの流路径や流路長が変化すると、ガラスフィラメントGFの引き出しが不能となる。ブッシング11のノズルの寿命は、ノズルの先端部分の寿命ともいえる。このため、本明細書では、基端から先端にわたって壁厚が変化するノズルを用いる場合、第1ノズル14の壁厚W1及び第2ノズル15の壁厚W2は、ノズルの流路の先端位置の壁厚をいう。
【0059】
・第1実施形態において、第1ノズル14のロジウム含有量は、第2ノズル15のロジウム含有量よりも多くてもよいし、第1ノズル14のロジウム含有量と第2ノズル15のロジウム含有量とは、同じであってもよい。なお、ノズルの壁厚によって、第1ノズル14の耐久性が第2ノズル15の耐久性よりも高まる場合は、第1ノズル14のロジウム含有量は、第2ノズル15のロジウム含有量よりも少なくてもよい。
【0060】
・上記ブッシング11のノズルは、ブッシング11の底面の両長辺L1,L2に沿って直線状に配列されているが、ブッシング11の底面の両長辺L1,L2に沿って千鳥状に配列されていてもよい。上記ブッシング11のノズルは、ブッシング11の底面の両短辺S1,S2に沿って直線状に配列されているが、ブッシング11の底面の両短辺S1,S2に沿って千鳥状に配列されていてもよい。
【符号の説明】
【0061】
11…ブッシング、14…第1ノズル、15…第2ノズル、16…第1ノズル群、17…第2ノズル群、GF…ガラスフィラメント、GS…ガラスストランド(ガラス繊維)、MG…溶融ガラス、L1,L2…長辺、S1,S2…短辺、W1,W2…壁厚。