(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022105781
(43)【公開日】2022-07-15
(54)【発明の名称】乳酸菌発酵物を含む肥料又は植物成長調整剤
(51)【国際特許分類】
A01N 63/20 20200101AFI20220708BHJP
A01P 21/00 20060101ALI20220708BHJP
C05F 11/10 20060101ALI20220708BHJP
A01G 7/00 20060101ALI20220708BHJP
A01G 22/15 20180101ALI20220708BHJP
A01G 22/25 20180101ALI20220708BHJP
【FI】
A01N63/20
A01P21/00
C05F11/10
A01G7/00 604Z
A01G22/15
A01G22/25 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021000315
(22)【出願日】2021-01-05
(71)【出願人】
【識別番号】519127797
【氏名又は名称】三菱商事ライフサイエンス株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】591148613
【氏名又は名称】エムシー・ファーティコム株式会社
(72)【発明者】
【氏名】相内 淳
(72)【発明者】
【氏名】太田 靖司
(72)【発明者】
【氏名】安松 良恵
(72)【発明者】
【氏名】阿孫 健一
【テーマコード(参考)】
2B022
4H011
4H061
【Fターム(参考)】
2B022AA01
2B022AB11
2B022AB13
2B022EA01
4H011AB03
4H011BB21
4H011DG06
4H061DD11
4H061EE27
4H061EE63
4H061EE66
4H061GG48
4H061JJ01
4H061KK02
(57)【要約】 (修正有)
【課題】葉菜類及び根菜類などの野菜類において、植物の収穫量を向上させるため、植物の成長に影響を及ぼす、生物的ストレス、物理的ストレス若しくは化学的ストレスに対する抵抗性を植物に付与する方法を提供する。
【解決手段】乳酸菌発酵液を含む植物成長調整剤による。前記植物成長調整剤は、マンニトールを5~70質量%、酢酸を1~10質量%、グルタミン酸ナトリウムを1~10質量%含有する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
乳酸菌発酵液を含む植物成長調整剤。
【請求項2】
マンニトールを5~70質量%、酢酸を1~10質量%、グルタミン酸ナトリウムを1~10質量%含有する請求項1の植物成長調整剤
【請求項3】
マンニトール-2-デヒドロゲナーゼを発現する乳酸菌を、5質量%以上のグルタミン酸を含有する酵母エキス、及びフルクトースを含有する培地で発酵させる工程を有する、請求項1又は2の植物成長調整剤の製造方法。
【請求項4】
請求項1又は2記載の植物成長調整剤を施用する葉菜類又は根菜類植物の抽苔抑制方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乳酸菌発酵物を含む組成物を利用した根菜類、葉菜類の抽苔を抑制する抑制剤、又はその方法に関する。
【背景技術】
【0002】
野菜における葉菜類及び根菜類は、温度条件の変化、日長条件の変化又は栽培期間の長期化により、花茎が伸び出すことが知られており、この現象は抽苔と呼ばれている。葉菜類や根菜類では、抽苔により、可食部として利用する葉や根の生長が停止、または望まれる形態とは異なる形態となり、食味も落ちることで、商品価値が著しく低下、または失われる。
【0003】
抽苔がする原因は、種々知られているが、最適な環境要因よりも、低照度、低温、高温、肥料不足や水分不足、水分過多等の環境ストレスなどにより、抽苔が起こることが知られている。
【0004】
これら抽苔を抑制する方法として、5-アミノレブリン酸、その誘導体又はその塩を施用する方法(特許文献1)、LED照明等により、日照時間を調整する方法(特許文献2)、カルス誘導を用いる方法(特許文献3)、植物ホルモンとして知られているアブシジン酸を用いる方法(特許文献4)などが知られている。
【0005】
また、植物の成長を調整する方法が種々検討されており、例えば、フェニル乳酸は、発根促進効果があることから、乳酸菌を活用した方法が検討されている(特許文献5)。
【0006】
乳酸菌は食品分野では、乳酸菌の整腸作用などを活用する方法、乳酸菌発酵組成物を調味料として利用する方法(特許文献6、7)などで活用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2011-121878
【特許文献2】特開2007-252211
【特許文献3】特開平6-343360
【特許文献4】特開平4-217603
【特許文献5】特開2014-080398
【特許文献6】WO2018/110633
【特許文献7】特開2020-103045
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、葉菜類及び根菜類などの野菜類において、植物の収穫量の向上させるため、植物の成長に影響を及ぼす、生物的ストレス、物理的ストレス若しくは化学的ストレスに対する抵抗性を植物に付与する方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、かかる現状に鑑み鋭意研究を行ったところ、特定の成分を含有する乳酸菌発酵組成物を通常の培養条件で根菜類に施用することで、タマネギの抽苔率が優位に低下することを見出し、成長に影響を及ぼす、生物的ストレス、物理的ストレス若しくは化学的ストレスに対する抵抗性を植物に付与する組成物及び方法本発明を完成させた。
【0010】
本発明は以下のような発明である。
(1) 乳酸菌発酵液を含む植物成長調整剤。
(2) マンニトールを5~70質量%、酢酸を1~10質量%、グルタミン酸ナトリウムを1~10質量%含有する(1)の植物成長調整剤
(3) マンニトール-2-デヒドロゲナーゼを発現する乳酸菌を、5質量%以上のグルタミン酸を含有する酵母エキス、及びフルクトースを含有する培地で発酵させる工程を有する、(1)又は(2)の植物成長調整剤の製造方法。
(4) (1)又は(2)記載の植物成長調整剤を施用する葉菜類又は根菜類植物の抽苔抑制方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によると、葉菜類又は根菜類植物の抽苔率を低下させることができるため、葉菜類又は根菜類植物の収穫時期を調整することができ、秀品率の向上に寄与することができる。本発明により、抽苔率を低下させる機序については、解明されていないが、乳酸菌発酵物を施用することにより、植物の栄養の同化・転用・使用が促進されたことによると推測している。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の植物成長調整剤に含まれる、乳酸菌発酵液は、培地にフルクトースと酵母エキスを用い、マンニトール-2-デヒドロゲナーゼを有する乳酸菌を培養し、その培養上清を濃縮などをする事により得られる。また、粉末化が必要な場合は、適宜賦形剤を使用する事によって乾燥化が可能である。本発明の植物成長調整剤には、マンニトールを5~70質量%、酢酸を1~10質量%、グルタミン酸ナトリウムを1~10質量%含有する。また、乳酸については、1.5~20質量%含有していても良い。
【0014】
本発明のマンニトールは、後段のマンニトール-2-デヒドロゲナーゼを発現する乳酸菌により、培地に使用したフルクトースから得られるマンニトールである。そのため、本発明のマンニトール含量は、上記の含量になるよう乳酸菌発酵を行う。マンニトール含量は、デキストリン等の賦形剤で調整することもできる。
【0015】
本発明の製造に用いられる乳酸菌としては、マンニトール-2-デヒドロゲナーゼを発現し、食品製造に使用できる乳酸菌であれば、特に制限はない。例えば、ラクトバチルス属、ロイコノストック属など、マンニトール-2-デヒドロゲナーゼを発現する乳酸菌を使用する事ができる。
【0016】
本発明の乳酸菌発酵に用いる培地には、酵母エキスを添加する。使用する酵母エキスは、グルタミン酸を5%以上含有するものを用いる。好ましくは15%以上、さらに好ましくは20%以上のグルタミン酸を含有する酵母エキスを用いる。培地に添加する当該酵母エキスの含量は、乳酸菌発酵に通常用いる酵母エキスと同様の添加量でよく、任意に調整できる。このような酵母エキスは、トルラ酵母、ビール酵母、パン酵母などを原料に製造される。また、市販のものを用いても良い。市販の酵母エキスとしては、三菱商事ライフサイエンス社の「アジトップ」、アサヒグループ食品社「ハイパーミースト」、富士食品工業社の「ハイマックスGL」などがある。
なお、本発明でのグルタミン酸含量は、乾燥粉末状の酵母エキス中の遊離グルタミン酸をいい、常法に従いアミノ酸分析計L8800(HITACHI製)により測定した。
このような、酵母エキスを培地に用いることで、本発明の乳酸発酵液中に、グルタミン酸ナトリウムを含む植物成長調整剤を得ることができる。本発明の乳酸発酵液中のグルタミン酸ナトリウム含量は、培地への酵母エキス添加量により異なるが、本願実施例のような添加量であれば、2質量%以上の含量とすることができる。
【0017】
前段の乳酸菌を発酵させて培地組成として前段の酵母エキス以外に、フルクトースを用いる。また、フルクトースとグルコースを併用することもできる。また、これらを含有する液糖類を用いても良い。
【0018】
本発明の調味料を発酵製造するには、さらに、塩化マグネシウム、にがりなど、その他、乳酸菌発酵に必要な、窒素源、炭素源、ビタミン類など、通常の乳酸菌発酵の際に、培地に添加される成分を添加しても良い。添加量などは、乳酸菌培養において、当業者が選択できる量や種類を適宜選択して添加して良い。
【0019】
本発明の植物成長調整剤の製造方法をさらに具体的に例示して以下に説明する。
前述の培地組成物を乳酸菌発酵に一般的に用いる手法で混合する。例えば、100-150g/Lのフルクトース、10-50g/Lの酵母エキスを混合し加熱殺菌する。乳酸菌発酵に必要なミネラルを添加する場合には、0.05-5ml/Lのにがり等をさらに混合しても良い。冷却後、乳酸菌を培養する。培地成分として、10-60g/Lのグルコースを併用する事もできる。
【0020】
本発明での培養条件は、乳酸菌発酵で一般的に採用される温度、pHで可能である。使用する菌種によりことなるが、一般的には、20℃~40℃であり、好ましくは、25~30℃で培養する。さらに、半嫌気的条件下が好ましい。培養時は有機酸産生に伴う培養液のpH低下が生じるため、培養時のpHを乳酸菌の生育に好ましいpHに保つよう、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどで調整しても良い。例えば、水酸化ナトリウムを適宜添加し、例えば、pH5.0~6.0になるよう培地pHを調整する。
【0021】
本発明の植物成長調整剤は、乳酸菌発酵液である培養上清を回収する事により得る事ができる。具体的には、培養終了後、必要に応じて培地に水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどを用いて適宜pH調整を行う。加熱処理を行った後に、遠心分離やフィルター濾過により、菌体を除去し、培養上清を回収することで、本発明品を得ることができる。回収した培養上清はそのままでも良いが、濃縮乾燥させる事も可能である。乾燥方法は、特に限定なく採用でき、スプレードライ法、ドラムドライ法、凍結乾燥法など、公知の乾燥方法を採用できる。
【0022】
以上のような方法で製造した本願発明の乳酸菌発酵液は、マンニトールを5~70質量%、酢酸を1~10質量%、グルタミン酸ナトリウムを1~10質量%含有する。また、乳酸については、1.5~20質量%含有していても良い。各成分の含量は、乳酸菌発酵の当業者であれば、前記範囲で適宜調整できる。
【0023】
さらに、本発明の植物成長調整剤は、必要により、他の植物生長調節剤、糖類、含窒素化合物、酸類、アルコール類、ビタミン類、微量要素、金属塩、キレート剤、防腐剤、防黴剤等を配合することができる。これらの配合物は、本願の効果に影響のない範囲で制限なく、当業者が適宜選択できるものを配合することができる。一部を例示すると、他の植物成長調整剤としては、例えば、インドール酢酸、インドール酪酸、1 -ナフチルアセトアミド剤、4-CPA剤、ジベレリン、クロキシホナック、ベジルアミノプリン、ホルクロルフェニュロン、パクロブトラゾール、ウニコナゾール、イナペンフィド、クロルメコート、炭酸カルシウム剤などを挙げることができる。糖類としては、例えば、グルコース、シュークロース、ガラクトース、キシロース、アラビノースなどを挙げることができ、さらに、乳酸菌発酵で生成されるマンニトール以外に、本発明の含量の範囲内で、さらにマンニトールを添加しても良い。含窒素化合物としては、例えば、アミノ酸、アンモニアなどが挙げられる。酸類としては、乳酸菌発酵で生成される、乳酸、酢酸などを本発明の含量の範囲内で、さらに添加しても良く、その他の有機酸、硫酸、リン酸、ポリリン酸などを例示することができる。アルコール類としては、メタノール、エタノールなど、ビタミン類としては、ビタミンC、ビタミンB類、ニコチン酸アミド、ニコチン酸、葉酸、などを例示できる。金属塩としては、例えばカルシウム塩、カリウム塩、マグネシウム塩など、微量要素としては、例えばホウ素、マンガン、亜鉛、銅、鉄、モリブデン、塩素などを挙げることができる。
【0024】
本発明の植物成長調整剤は、肥料として使用することができる。植物への施用方法は、根、茎、葉等の植物体に接触する方法であれば、特に制限されず、農園芸分野において公知の施用方法を採用することができる。また、植物への施用方法は、対象となる植物の種類等に応じて適宜決定することができる。例えば、茎葉散布、浸漬処理、土壌潅注、種子処理、水耕液処理、くん煙処理、常温煙霧処理等による施用が好ましいものとして挙げることができる。本発明の方法は、土壌栽培、水耕栽培などの栽培形態によって制限されずに使用可能である。施用量は、気象条件、製剤形態、施用時期、施用方法、施用場所、対象作物等に応じて、当業者が適宜決定することができる。施用回数も制限なく、1回の施用でも良く、複数回処理することもできる。複数回の施用をする場合には、本願明細書記載の方法を組合せることもできる。タマネギであれば、1回目の越冬後の茎葉回復期、2回目は球肥大開始期に葉面散布する方法を例示することができる。
【0025】
施用する植物の栽培条件は、特に制限なく、施用する植物の種類、地域、季節などに応じて、当業者が適宜選択できる栽培条件で良い。
【0026】
適用対象となる植物としては、葉菜類又は根菜類であれば特に限定されないが、例えば、タマネギ、ニンニク、ラッキョウ、ニラ、ネギ、アサツキ、ワケギなどのユリ科、ホウレンソウ、テンサイなどのアカザ科、アブラナ、コマツナ、ハクサイ、キャベツ、ダイコン、カブなどのアブラナ科、レタス、シュンギク、ゴボウなどのキク科、ニンジン、セロリーなどのセリ科、ショウガ、ミョウガなどのショウガ科、その他、 ジャガイモ、ヤマノイモ、ヤマノイモ、サトイモ、レンコン、サツマイモ、タケノコを挙げることができる。 さらに、これらの植物の品種においても、特に制限はなく、使用することができる。
【実施例0027】
次に実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、これらは単に例示であって、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0028】
(乳酸菌発酵組成物を製造例)
グルコース60g/L、フルクトース150g/L、「アジトップ(興人ライフサイエンス社製)」50g/L、混合殺菌し培地を作製した。乳酸菌(ロイコノストック シュードメセンテロイデス(ATC12291))はMRS液体培地にて37℃1日の前培養を実施した。2L容量のジャーファーメンターに前記培地1Lと前培養した乳酸菌10mlを入れ、30℃で培養した。エアレーションは実施せず、撹拌回転数70rpmの半嫌気的条件とした。培養中は水酸化ナトリウムで培養液がpH5.3になるようにコントロールし、96時間培養した。培養終了後に水酸化ナトリウムでpH6.0に調整し、90℃10分の加熱実施を行った後に8,000rpm10分の遠心分離を実施し、菌体を分離して培養上清を回収した。回収した上清をエバポレーターにて濃縮し、Brix70%の調味料を取得し、実施例1のサンプルとした。当該サンプル中のマンニトール含量は50 質量%であった。マンニトールの分析にはHPLCを用い、測定条件は、検出器:RI、移動相:超純水、カラム:SUGAR SP0810、カラム温度:80℃、流速:0.7ml/minとした。得られたサンプルにデキストリンを添加し、マンニトール含量が25質量%となるよう調整し、なおデキストリン添加後のグルタミン酸ナトリウム含量は、2.7質量%であった。また、デキストリン添加後の酢酸含量は、4.0質量%、乳酸は、7.0質量%であった。
【0029】
(タマネギへの施用試験)
タマネギ(ネオアース)を圃場に定植し慣行法に従い栽培した。肥料は、緩効性肥料(シグモイド型)、又は緩効性肥料(リニア型)(いずれもエムシー・ファーティコム社)を使用し、播種後、3か月後に定植し、7か月後に収穫し調査を行った。
本発明品は、水稲用育苗箱(サイズは長さ580×幅280mm×厚み28mm)を使用し、苗箱あたり2.0g施用し、定植後 1回目は19週目(越冬後の茎葉回復期)、2回目は23週目(球肥大開始期)葉面散布にて2回施用した。本発明以外は、使用した植物成長剤の常用量を施用した。作付けは、2面(北、南と表記)に行った。
結果は、秀品率(
図1)、抽苔率(
図2)に示す。なお、1:対象区、2:過酸化水素入り液肥、3:植物抽出物由来肥料、4:海藻エキス肥料、5:本発明品となる。
【0030】
本発明品を施用した試験区では、抽苔率が優位に低下し、秀品率が向上していた。