(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022105840
(43)【公開日】2022-07-15
(54)【発明の名称】ポリカーボネート樹脂組成物およびそれからなる樹脂金属複合成形体
(51)【国際特許分類】
C08L 69/00 20060101AFI20220708BHJP
C08K 7/14 20060101ALI20220708BHJP
C08L 23/00 20060101ALI20220708BHJP
C08L 53/00 20060101ALI20220708BHJP
B29C 45/14 20060101ALI20220708BHJP
B32B 15/08 20060101ALI20220708BHJP
B32B 27/20 20060101ALI20220708BHJP
【FI】
C08L69/00
C08K7/14
C08L23/00
C08L53/00
B29C45/14
B32B15/08 Q
B32B27/20 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021000422
(22)【出願日】2021-01-05
(71)【出願人】
【識別番号】000003001
【氏名又は名称】帝人株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100169085
【弁理士】
【氏名又は名称】為山 太郎
(72)【発明者】
【氏名】鬼澤 大光
(72)【発明者】
【氏名】皆川 健
【テーマコード(参考)】
4F100
4F206
4J002
【Fターム(参考)】
4F100AA18B
4F100AA19B
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4F100AB01A
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4F206JL02
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4F206JN11
4J002BB05Y
4J002BB12Y
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4J002GQ00
(57)【要約】
【課題】金属との密着性に優れ、様々な環境下でも接合強度の低下が少ないポリカーボネート樹脂組成物およびそれからなる樹脂金属複合成形体を提供する。
【解決手段】金属成形体と樹脂成形体が接合された複合成形体における樹脂成形体を製造するためのポリカーボネート樹脂組成物であって、(A)下記式[1]で表される構成単位(A)および下記式[2]で表される構成単位(B)を含む変性ポリカーボネート樹脂(A成分)50~100重量%および(B)A成分以外のポリカーボネート樹脂(B成分)0~50重量%からなる樹脂成分100重量部に対し、(C)ガラスの全量中、52.0~57.0重量%のSiO2、13.0~17.0重量のAl2O3、15.0~21.5重量%のB2O3、2.0~6.0重量%のMgO、2.0~6.0重量%のCaO、1.0~4.0重量%のTiO2および1.5重量%未満のF2とを含み、かつ、Li2O、Na2OおよびK2Oの合計量が0.6重量%未満であるガラスを含有する強化充填材(C成分)10~100重量部を含有することを特徴とするポリカーボネート樹脂組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属成形体と樹脂成形体が接合された複合成形体における樹脂成形体を製造するためのポリカーボネート樹脂組成物であって、(A)下記式[1]で表される構成単位(A)および下記式[2]で表される構成単位(B)を含む変性ポリカーボネート樹脂(A成分)50~100重量%および(B)A成分以外のポリカーボネート樹脂(B成分)0~50重量%からなる樹脂成分100重量部に対し、(C)ガラスの全量中、52.0~57.0重量%のSiO
2、13.0~17.0重量のAl
2O
3、15.0~21.5重量%のB
2O
3、2.0~6.0重量%のMgO、2.0~6.0重量%のCaO、1.0~4.0重量%のTiO
2および1.5重量%未満のF
2とを含み、かつ、Li
2O、Na
2OおよびK
2Oの合計量が0.6重量%未満であるガラスを含有する強化充填材(C成分)10~100重量部を含有することを特徴とするポリカーボネート樹脂組成物。
【化1】
(式中、Wは単結合、炭素原子数1~6のアルキレン基、炭素原子数6~10のアリーレン基、または炭素原子数3~8の環状アルキレン基を表す。)
【化2】
【請求項2】
C成分が、繊維断面の長径の平均値が10~50μm、長径と短径の比(長径/短径)の平均値が1.5~8である扁平状断面ガラス繊維(C-1成分)および繊維断面の繊維径が1~30μmである円状断面ガラス繊維(C-2成分)からなる群より選ばれる少なくとも1種のガラスを含有する強化充填材であることを特徴とする請求項1に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項3】
樹脂成分100重量部に対し、(D)ポリオレフィン樹脂(D成分)1~100重量部および(E)スチレン系熱可塑性エラストマー(E成分)1~50重量部を含有することを特徴とする請求項1または2に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項4】
表面に凹凸を有している金属成形体と請求項1~3のいずれか1項に記載のポリカーボネート樹脂組成物からなる樹脂成形体が接合された複合成形体であって、金属成形体の凹凸内に樹脂成形体が入り込むことで、金属成形体と樹脂成形体が接合一体化していることを特徴とする複合成形体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂金属複合成形体を成形するのに適したポリカーボネート樹脂組成物およびそれからなる樹脂金属複合成形体に関する。更に詳しくは、金属との密着性に優れ、様々な環境下でも接合強度の低下が少ないポリカーボネート樹脂組成物およびそれからなる樹脂金属複合成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリカーボネート樹脂は、透明性、耐衝撃性、耐熱性、寸法安定性に優れていることから、エンジニアリングプラスチックとして、電気・電子・OA機器の筐体や部品、自動車用内装・外装部品、家具、楽器、雑貨類などの幅広い分野で使用されている。またガラス繊維などの繊維、タルクなどの板状フィラーおよび炭酸カルシウムなどの粒状フィラーからなる群より選ばれる少なくとも1種が配合された強化ポリカーボネート樹脂から得られる成形体は、繊維やフィラーを含まないポリカーボネート樹脂から得られる成形体に比べ格段に剛性や強度が大きく、部品の成形加工性および軽量化の観点から、金属代替品としての利用が拡大されてきている。特に近年の通信分野の発展に伴い、アンテナカバーなど絶縁性が必要な部分への樹脂部品の適用が増えてきている。しかしながら、全ての金属部品を樹脂で代替することは難しい場合も多い。そのような場合には、金属と樹脂成形体を接合一体化することで新たな複合部品を製造することが考えられる。金属と樹脂成形体を接合一体化する技術は、自動車、家庭電化製品、産業機器等の部品製造等の広い分野から求められており、このために多くの接着剤が開発されている。一方で、より合理的な接合方法として接着剤を使用しない方法も多く開発されている。特許文献1~4では、表面処理された金属形状物とポリアルキレンテレフタレートやポリフェニレンサルファイドのような結晶性樹脂からなる金属樹脂複合体が報告されている。これらは表面処理によって形成された金属表面の凹凸に、溶融した樹脂が入り込み、物理的なアンカー効果によって金属と樹脂の接着強度を向上させるというものである。そのため、融点以上の温度で溶融流動性に優れる結晶性樹脂が用いられている。一方、ポリカーボネート樹脂と金属との接着については特許文献5で芳香族ポリカーボネート樹脂およびビスフェノールの芳香族カルボン酸ジエステルからなる樹脂組成物が報告されている。特許文献6ではポリカーボネート樹脂とポリカプロラクトンからなる樹脂組成物が報告されている。しかしながら、これらはいずれも樹脂成形体に対してのアルミニウムの蒸着性は優れるが、金属形状物と樹脂との密着に対しては、未だ不充分である。特許文献7ではポリカーボネート樹脂と特定のリン系可塑剤からなる金属接合用樹脂組成物が報告されている。該文献には、樹脂組成物と金属形状物との接着強度に優れる事が報告されているが、湿熱条件などの環境下で接着強度が不十分になる場合がある。特許文献8および9では、特定の表面処理を用いて金属形状物の表面粗さを制御した金属部材と非晶性熱可塑性樹脂部材との金属樹脂複合構造体およびその製造方法が報告されている。しかし、これらは非晶性熱可塑性樹脂であっても金属形状物との接着強度に優れるが、湿熱条件や薬液処理条件などの環境下で接着強度が不十分になる場合があり、満足するものではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003-103563号公報
【特許文献2】特開2003-200453号公報
【特許文献3】特開2003-251654号公報
【特許文献4】特開2006-001216号公報
【特許文献5】特開平01-065166号公報
【特許文献6】特開平07-102166号公報
【特許文献7】特開2019-099621号公報
【特許文献8】特開2016-027189号公報
【特許文献9】特開2016-074116号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、金属との密着性に優れ、様々な環境下でも接合強度の低下が少ないポリカーボネート樹脂組成物およびそれからなる樹脂金属複合成形体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記目的を達成せんとして鋭意研究を重ねた結果、特定のカーボネート構成単位を含む変性ポリカーボネート樹脂および特定のガラスを含有する強化充填材からなるポリカーボネート樹脂組成物が、上記目的を満たすことを見出し、本発明に到達した。
【0006】
すなわち、本発明によれば、(1)金属成形体と樹脂成形体が接合された複合成形体における樹脂成形体を製造するためのポリカーボネート樹脂組成物であって、(A)下記式[1]で表される構成単位(A)および下記式[2]で表される構成単位(B)を含む変性ポリカーボネート樹脂(A成分)50~100重量%および(B)A成分以外のポリカーボネート樹脂(B成分)0~50重量%からなる樹脂成分100重量部に対し、(C)ガラスの全量中、52.0~57.0重量%のSiO2、13.0~17.0重量のAl2O3、15.0~21.5重量%のB2O3、2.0~6.0重量%のMgO、2.0~6.0重量%のCaO、1.0~4.0重量%のTiO2および1.5重量%未満のF2とを含み、かつ、Li2O、Na2OおよびK2Oの合計量が0.6重量%未満であるガラスを含有する強化充填材(C成分)10~100重量部を含有することを特徴とするポリカーボネート樹脂組成物が提供される。
【0007】
【0008】
(式中、Wは単結合、炭素原子数1~6のアルキレン基、炭素原子数6~10のアリーレン基、または炭素原子数3~8の環状アルキレン基を表す。)
【0009】
【0010】
本発明のより好適な態様の一つは、(2)C成分が、繊維断面の長径の平均値が10~50μm、長径と短径の比(長径/短径)の平均値が1.5~8である扁平状断面ガラス繊維(C-1成分)および繊維断面の繊維径が1~30μmである円状断面ガラス繊維(C-2成分)からなる群より選ばれる少なくとも1種のガラスを含有する強化充填材であることを特徴とする前記構成(1)に記載のポリカーボネート樹脂組成物である。
【0011】
本発明のより好適な態様の一つは、(3)樹脂成分100重量部に対し、(D)ポリオレフィン樹脂(D成分)1~100重量部および(E)スチレン系熱可塑性エラストマー(E成分)1~50重量部を含有することを特徴とする前記構成(1)または(2)に記載のポリカーボネート樹脂組成物である。
【0012】
本発明のより好適な態様の一つは、(4)表面に凹凸を有している金属成形体と前記構成(1)~(3)のいずれかに記載のポリカーボネート樹脂組成物からなる樹脂成形体が接合された複合成形体であって、金属成形体の凹凸内に樹脂成形体が入り込むことで、金属成形体と樹脂成形体が接合一体化していることを特徴とする複合成形体である。
【0013】
以下、更に本発明の詳細について説明する。
【0014】
<A成分変性ポリカーボネート樹脂>
本発明のA成分として使用されるポリカーボネート樹脂は、下記式[1]で表される構成単位(A)および下記式[2]で表される構成単位(B)を含む変性ポリカーボネート樹脂である。
【0015】
【0016】
(式中、Wは単結合、炭素原子数1~6のアルキレン基、炭素原子数6~10のアリーレン基、または炭素原子数3~8の環状アルキレン基を表す。)
【0017】
【0018】
一般式[1]で表される構成単位は、1,1-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)シクロヘキサン、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)プロパンおよび2,2’-メチル-4,4’-ビフェニルジオールからなる群より選ばれる少なくとも一種から誘導された構成単位であることが好ましく、1,1-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)シクロヘキサンまたは2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)プロパンから誘導された構成単位であることがより好ましい。
【0019】
上記変性ポリカーボネート樹脂は、一般式〔1〕および一般式[2]で表される繰り返し単位を誘導する二価フェノール、および必要に応じて脂肪族および/または脂環式の二官能性アルコールと、カーボネート前駆体とを反応させて得られるものである。反応の方法としては界面重縮合法、溶融エステル交換法、カーボネートプレポリマーの固相エステル交換法および環状カーボネート化合物の開環重合法などを挙げることができる。界面重縮合の場合は通常一価フェノール類の末端停止剤が使用される。また、3官能成分を重合させた分岐ポリカーボネートであってもよく、更に脂肪族ジカルボン酸や芳香族ジカルボン酸並びにビニル系単量体を共重合させた共重合ポリカーボネートであってもよい。
【0020】
カーボネート前駆物質として例えばホスゲンを使用する反応では、通常酸結合剤および
溶媒の存在下に反応を行う。酸結合剤としては例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属水酸化物またはピリジン等のアミン化合物が用いられる。溶媒としては例えば塩化メチレン、クロロベンゼン等のハロゲン化炭化水素が用いられる。また反応促進のために例えば第三級アミンまたは第四級アンモニウム塩等の触媒を用いることもできる。その際、反応温度は通常0~40℃であり、反応時間は数分~5時間である。
【0021】
カーボネート前駆物質として例えば炭酸ジエステルを用いるエステル交換反応は、不活性ガス雰囲気下所定割合の芳香族ジヒドロキシ成分を炭酸ジエステルと加熱しながら撹拌して、生成するアルコールまたはフェノール類を留出させる方法により行われる。反応温度は生成するアルコールまたはフェノール類の沸点等により異なるが、通常120~300℃の範囲である。反応はその初期から減圧にして生成するアルコールまたはフェノール類を留出させながら反応を完結させる。また反応を促進するために通常エステル交換反応に使用される触媒を使用することもできる。前記エステル交換反応に使用される炭酸ジエステルとしては、例えばジフェニルカーボネート、ジナフチルカーボネート、ビス(ジフェニル)カーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジブチルカーボネート等が挙げられる。これらのうち特にジフェニルカーボネートが好ましい。
【0022】
末端停止剤として通常使用される単官能フェノール類を使用することができる。殊にカーボネート前駆物質としてホスゲンを使用する反応の場合、単官能フェノール類は末端停止剤として分子量調節のために一般的に使用され、また得られたポリカーボネート樹脂は、末端が単官能フェノール類に基づく基によって封鎖されているので、そうでないものと比べて熱安定性に優れている。前記単官能フェノール類の具体例としては、例えばフェノール、m-メチルフェノール、p-メチルフェノール、m-プロピルフェノール、p-プロピルフェノール、1-フェニルフェノール、2-フェニルフェノール、p-tert-ブチルフェノール、p-クミルフェノール、イソオクチルフェノール、p-長鎖アルキルフェノール等が挙げられる。
【0023】
本発明のA成分として使用される変性ポリカーボネート樹脂の粘度平均分子量は12,500~50,000の範囲が好ましく、16,000~30,000がより好ましく、18,000~28,000の範囲がさらに好ましく、19,000~26,000の範囲が最も好ましい。分子量が50,000を越えると溶融粘度が高くなりすぎて成形性に劣る場合があり、分子量が12,500未満であると機械的強度に問題が生じる場合がある。なお、本発明でいう粘度平均分子量は、まず次式にて算出される比粘度を塩化メチレン100mlにポリカーボネート樹脂0.7gを20℃で溶解した溶液からオストワルド粘度計を用いて求め、求められた比粘度を次式にて挿入して粘度平均分子量Mを求める。
【0024】
比粘度(ηSP)=(t-t0)/t0
[t0は塩化メチレンの落下秒数、tは試料溶液の落下秒数]
ηSP/c=[η]+0.45×[η]2c(但し[η]は極限粘度)
[η]=1.23×10-4M0.83
c=0.7
【0025】
A成分の全構成単位における一般式[1]で表される構成単位の割合は50~100モル%であることが好ましく、60~100モル%であることがより好ましく、80~100モル%であることがさらに好ましい。一般式[1]で表される構成単位(A)の割合が50モル%未満の場合、金属との密着強度が低下する場合がある。
【0026】
本発明のA成分として用いられる変性ポリカーボネート樹脂の含有量は、A成分とB成分との合計100重量%中、50~100重量%であり、60~100重量%が好ましく、70~100重量%がより好ましい。A成分の含有量が50重量%より少ないと金属との密着強度が低下する。
【0027】
<B成分:A成分以外のポリカーボネート樹脂>
本発明のB成分として使用されるポリカーボネート樹脂はA成分以外のポリカーボネート樹脂であり、上記一般式[2]で表される繰り返し構成単位(B)のみからなるポリカーボネート樹脂であることが好ましく、通常の芳香族ポリカーボネート樹脂を製造するそれ自体公知の反応手段、例えば芳香族ジヒドロキシ成分にホスゲンや炭酸ジエステルなどのカーボネート前駆物質を反応させる方法により製造される。その製造方法について基本的な手段を簡単に説明する。
【0028】
カーボネート前駆物質として、例えばホスゲンを使用する反応では、通常酸結合剤および溶媒の存在下に反応を行う。酸結合剤としては、例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどのアルカリ金属水酸化物またはピリジンなどのアミン化合物が用いられる。溶媒としては、例えば塩化メチレン、クロロベンゼンなどのハロゲン化炭化水素が用いられる。また反応促進のために例えば第三級アミンまたは第四級アンモニウム塩などの触媒を用いることもできる。その際、反応温度は通常0~40℃であり、反応時間は数分~5時間である。カーボネート前駆物質として炭酸ジエステルを用いるエステル交換反応は、不活性ガス雰囲気下所定割合の芳香族ジヒドロキシ成分を炭酸ジエステルと加熱しながら撹拌して、生成するアルコールまたはフェノール類を留出させる方法により行われる。反応温度は生成するアルコールまたはフェノール類の沸点などにより異なるが、通常120~300℃の範囲である。反応はその初期から減圧にして生成するアルコールまたはフェノール類を留出させながら反応を完結させる。また、反応を促進するために通常エステル交換反応に使用される触媒を使用することもできる。
【0029】
本発明において、重合反応においては末端停止剤を使用する。末端停止剤は分子量調節のために使用され、また得られたポリカーボネート樹脂は、末端が封鎖されているので、そうでないものと比べて熱安定性に優れている。かかる末端停止剤としては、下記一般式〔3〕~〔5〕で表される単官能フェノール類を示すことができる。
【0030】
【0031】
[式〔3〕中、Aは水素原子、炭素数1~9のアルキル基、アルキルフェニル基(アルキル部分の炭素数は1~9)、フェニル基、またはフェニルアルキル基(アルキル部分の炭素数1~9)であり、rは1~5、好ましくは1~3の整数である]。
【0032】
【0033】
【0034】
[式〔4〕、〔5〕中、Yは-R-O-、-R-CO-O-または-R-O-CO-である。ここでRは単結合または炭素数1~10、好ましくは1~5の二価の脂肪族炭化水素基を示し、nは10~50の整数を示す。]
【0035】
上記一般式〔3〕で表される単官能フェノール類の具体例としては、例えばフェノール、イソプロピルフェノール、p-tert-ブチルフェノール、p-クレゾール、p-クミルフェノール、2-フェニルフェノール、4-フェニルフェノール、およびイソオクチルフェノールなどが挙げられる。また、上記一般式〔4〕~〔5〕で表される単官能フェノール類は、長鎖のアルキル基あるいは脂肪族エステル基を置換基として有するフェノール類であり、これらを用いてポリカーボネート樹脂の末端を封鎖すると、これらは末端停止剤または分子量調節剤として機能するのみならず、樹脂の溶融流動性が改良され、成形加工が容易になるばかりでなく、樹脂の吸水率を低くする効果があり好ましく使用される。上記一般式〔4〕の置換フェノール類としてはnが10~30、特に10~26のものが好ましく、その具体例としては例えばデシルフェノール、ドデシルフェノール、テトラデシルフェノール、ヘキサデシルフェノール、オクタデシルフェノール、エイコシルフェノール、ドコシルフェノールおよびトリアコンチルフェノール等を挙げることができる。また、上記一般式〔5〕の置換フェノール類としてはYが-R-CO-O-であり、Rが単結合である化合物が適当であり、nが10~30、特に10~26のものが好適であって、その具体例としては例えばヒドロキシ安息香酸デシル、ヒドロキシ安息香酸ドデシル、ヒドロキシ安息香酸テトラデシル、ヒドロキシ安息香酸ヘキサデシル、ヒドロキシ安息香酸エイコシル、ヒドロキシ安息香酸ドコシルおよびヒドロキシ安息香酸トリアコンチルが挙げられる。これら単官能フェノール類の内、上記一般式〔3〕で表される単官能フェノール類が好ましく、より好ましくはアルキル置換もしくはフェニルアルキル置換のフェノール類であり、特に好ましくはp-tert-ブチルフェノール、p-クミルフェノールまたは2-フェニルフェノールである。これらの単官能フェノール類の末端停止剤は、得られたポリカーボネート樹脂の全末端に対して少なくとも5モル%、好ましくは少なくとも10モル%末端に導入されることが望ましく、また、末端停止剤は単独でまたは2種以上混合して使用してもよい。
【0036】
本発明のB成分として使用されるポリカーボネート樹脂の粘度平均分子量は、12,500~50,000の範囲が好ましく、16,000~30,000がより好ましく、18,000~28,000の範囲がさらに好ましく、19,000~26,000の範囲が最も好ましい。分子量が50,000を越えると溶融粘度が高くなりすぎて成形性に劣る場合があり、分子量が12,500未満であると機械的強度に問題が生じる場合がある。
【0037】
<C成分:ガラスを含有する強化充填材>
本発明のC成分として用いられるガラスを含有する強化充填材は、ガラスの全量中、52.0~57.0重量%のSiO2、13.0~17.0重量のAl2O3、15.0~21.5重量%のB2O3、2.0~6.0重量%のMgO、2.0~6.0重量%のCaO、1.0~4.0重量%のTiO2および1.5重量%未満のF2とを含み、かつ、Li2O、Na2OおよびK2Oの合計量が0.6重量%未満であるガラスを含有する強化充填材であり、該組成を有するガラス繊維であることが好ましい。該組成を有するガラスを含む強化充填材以外の充填材を使用した場合、湿熱条件下での接着強度が低下する。
【0038】
また、ガラスを含有する強化充填材は、ガラスの全量中、0.4重量%未満の範囲で、前記した成分以外の不純物を含みうる。含みうる不純物としては、Fe2O3、Cr2O3、ZrO2、MoO3、SO3、Cl2等が挙げられる。これらの中でも、溶融ガラス中の輻射熱の吸収やガラスを含有する強化充填材の着色に影響するため、ガラスの全量中
、Fe2O3の含有量は0.05~0.15重量%の範囲とすることが好ましい。
【0039】
なお、ガラスを含有する強化充填材において、前述した各成分の含有率の測定は、軽元素であるLiについてはICP発光分光分析装置を用いて、その他の元素は波長分散型蛍光X線分析装置を用いて行うことができる。
【0040】
測定方法としては、初めに、ポリカーボネート樹脂組成物を、例えば、300~650℃のマッフル炉で0.5~24時間程度加熱する等して、有機物を分解する。次に、残ったガラスを含有する強化充填材を白金ルツボに入れ、電気炉中で1550℃の温度に6時間保持して撹拌を加えながら溶融させることにより、均質な溶融ガラスを得る。次に、得られた溶融ガラスをカーボン板上に流し出してガラスカレットを作製した後、粉砕し粉末化する。軽元素であるLiについてはガラス粉末をアルカリおよび酸溶融にて分解した後、ICP発光分光分析装置を用いて定量分析する。その他の元素はガラス粉末をプレス機で円盤状に成形した後、波長分散型蛍光X線分析装置を用いて定量分析する。これらの定量分析結果を酸化物換算して各成分の含有量及び全量を計算し、これらの数値から前述した各成分の含有率を求めることができる。
【0041】
本発明において、ポリカーボネート樹脂組成物に含まれるガラス繊維は、30~5000μmの数平均繊維長を有することが好ましい。該ガラス繊維の数平均繊維長が30μm未満であると、該ガラス繊維強化樹脂成形品において十分な引張強度及び衝撃強さを得ることができない場合がある。また、ポリカーボネート樹脂組成物の製造過程で、ガラス繊維の折損が発生するので、該ガラス繊維の数平均繊維長を5000μm超とすることは困難である。なお、本発明のポリカーボネート樹脂組成物中のガラス繊維の数平均繊維長の測定方法としては、初めに、該ポリカーボネート樹脂組成物を、例えば、300~650℃のマッフルで0.5~24時間程度加熱する等して、有機物を分解する。次に、残ったガラス繊維をガラスシャーレに移し、アセトンを用いてシャーレの表面に分散させる。次に、表面に分散した、500本以上のガラス繊維について実体顕微鏡を用いて繊維長を測定し、数平均繊維長を算出する。
【0042】
C成分は、繊維断面の長径の平均値が10~50μm、長径と短径の比(長径/短径)の平均値が1.5~8である扁平状断面ガラス繊維(C-1成分)および繊維断面の繊維径が1~30μmである円状断面ガラス繊維(C-2成分)からなる群より選ばれる少なくとも1種のガラスを含有する強化充填材であることが好ましい。
【0043】
C-1成分の長径と短径の比(長径/短径)の平均値が2.2~6.0であることが好ましく、3.2~4.5であることがより好ましい。ガラス繊維がこのような断面を備える場合、ガラス繊維が円形断面を備える場合と比較して、組成以外は同一の条件でガラス繊維を用いたポリカーボネート樹脂組成物の引張強度及びノッチ付きシャルピー衝撃強さを基準とした、引張強度及びノッチ付きシャルピー衝撃強さの向上率が極めて高くなる場合がある。
【0044】
また、C-1成分は、断面積を真円に換算したときの繊維径(以下、換算繊維径ということもある)が3.0~35.0μmの範囲にある非円形断面を備えることが好ましく、6.0~20.0μmの範囲であることがより好ましく、6.5~16.0μmであることがより好ましい。
【0045】
また、C-1成分の非円形の形状としては、ポリカーボネート樹脂組成物を製造する際の流動性に優れることから、繭形、楕円形又は長円形(長方形の両端に半円状形状を付けたもの、あるいはそれに類似した形状をいう)が好ましく、長円形がより好ましい。
【0046】
なお、本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、前記非円形断面を備えるガラス繊維と円形断面を備えるガラス繊維との両方を含むことができる。前記非円形断面を備えるガラス繊維と円形断面を備えるガラス繊維との両方を含む場合、例えば、前記非円形断面ガラス繊維の含有率(重量%)に対する円形断面ガラス繊維の含有率(重量%)の比(円形断面を備えるガラス繊維(重量%)/非円形断面を備えるガラス繊維(重量%))は、0.1~1.0の範囲とすることができる。
【0047】
また、本発明において、ポリカーボネート樹脂組成物に含まれる円形断面を備えるガラス繊維(C-2成分)は、繊維径が好ましくは1.0~30μm、より好ましくは7.0~13.0μmの範囲にある円形断面を備える。繊維径が1.0μm未満であると強度が十分でない場合があり、30μmを超えるとガラス繊維の加工性に劣る場合がある。
【0048】
C成分の含有量は、樹脂成分100重量部に対し、10~100重量部であり、10~80重量部が好ましく、15~60重量部がより好ましい。C成分の含有量が10重量部未満の場合、密着強度が低下し、さらに湿熱条件下での接着強度も低下する。100重量部を超えると成形加工性が低下する。
【0049】
<D成分:ポリオレフィン樹脂>
本発明の樹脂組成物はD成分としてポリオレフィン樹脂を含有することができる。該ポリオレフィン樹脂は、プロピレンの重合体であることが好ましく、他のモノマーとの共重合体も含まれる。本発明のポリプロピレン樹脂の例には、ホモポリプロピレン樹脂、プロピレンとエチレンおよび炭素数4~10のα-オレフィンとのブロック共重合体(「ブロックポリプロピレン」ともいう)、プロピレンとエチレンおよび炭素数4~10のα-オレフィンとのランダム共重合体(「ランダムポリプロピレン」ともいう)が含まれる。なお、「ブロックポリプロピレン」と「ランダムポリプロピレン」を合わせて、「ポリプロピレン共重合体」ともいう。
【0050】
本発明においては、ポリプロピレン樹脂として上記のホモポリプロピレン樹脂、ブロックポリプロピレン、ランダムポリプロピレンの1種あるいは2種以上を使用してよく、中でもホモポリプロピレン、ブロックポリプロピレンが好ましい。
【0051】
ポリプロピレン共重合体に用いられる炭素数4~10のα-オレフィンの例には、1-ブテン、1-ペンテン、イソブチレン、3-メチル-1-ブテン、1-ヘキセン、3,4-ジメチル-1-ブテン、1-ヘプテン、3-メチル-1-ヘキセンが含まれる。
【0052】
ポリプロピレン共重合体中のエチレンの含有量は、全モノマー中、5重量%以下であることが好ましい。ポリプロピレン共重合体中の炭素数4~10のα-オレフィンの含有量は、全モノマー中20重量%以下であることが好ましい。
【0053】
ポリプロピレン共重合体は、プロピレンとエチレンとの共重合体、またはプロピレンと1-ブテンとの共重合体であることが好ましく、特にプロピレンとエチレンとの共重合体が好ましい。
【0054】
本発明におけるポリプロピレン樹脂のメルトフローレイト(230℃、2.16kg)は、0.1~40g/10分であることが好ましく、0.2~20g/10分であることがより好ましく、0.5~10g/10分であることがさらに好ましい。ポリプロピレン樹脂のメルトフローレートが0.1g/10分未満では高粘度のため成形性に劣る場合があり、40g/10分を越えると引張破壊強度が改善せず、押出加工性にも劣る場合がある。なお、メルトフローレートは「MFR」とも呼ばれる。MFRはISO1133に準拠して測定した。
【0055】
本発明には、無水マレイン酸で変性された変性ポリオレフィン樹脂も単独使用、又は併用できる。変性されたポリオレフィン樹脂としてはポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂等が挙げられ、ポリプロピレン樹脂が好ましい。なお変性ポリプロピレン樹脂には、プロピレン単独重合体、プロピレンランダム共重合体、プロピレンブロック共重合体等を含む。変性オレフィン樹脂の結晶化温度(Tc)は、通常90~125℃、好ましくは110~120℃である。極限粘度は、通常0.1~2.4dl/g、好ましくは0.2~1.6dl/gである。変性ポリオレフィン樹脂の結晶化温度(Tc)は、示差走査熱量計(DSC)によって測定することができる。変性ポリオレフィン樹脂の極限粘度は、テトラリン中、135℃で測定することができる。
【0056】
変性ポリオレフィン樹脂は、無水マレイン酸によりグラフトされた、ランダムプロピレンコポリマーなどの変性ポリプロピレン樹脂を使用するのが好ましい。
【0057】
変性ポリオレフィン樹脂における無水マレイン酸に由来する基の量は、変性ポリオレフィン樹脂の全重量に基づいて1.5~2.2重量%であることが好ましく、1.6~2.2重量%であるのがより好ましく、1.6~2.0重量%がさらに好ましく、1.7~1.9%であるのが特に好ましい。変性量が1.5重量%未満では押出加工性が悪化する場合があり、2.2重量%を超えると外観が損なわれる場合が。
【0058】
変性ポリオレフィン樹脂のISO1133の一般的定義に則して測定したメルトフローレート(MFR)(190℃;2.16kg)は、80~300g/10分であることが好ましく、90~200g/10分であるのがより好ましく、100~150g/10分であるのがさらに好ましい。MFRが80g/10分未満では、引張破壊強度に問題が生じる場合があり、300g/10分を超えると、押出加工性が悪化する場合がある。
【0059】
加えて、変性ポリプロピレン樹脂は、融解温度Tmが120~150℃の範囲内であるのが好ましく、125~145℃の範囲であるのがより好ましく、130~140℃の範囲であるのが最も好ましい。
【0060】
変性ポリプロピレン樹脂は、ポリマー、モノマー、反応開始剤からなる固相グラフト工程から得られたものが好ましく、このようなプロセスステップは、公知技術である。
【0061】
D成分の含有量は、樹脂成分100重量部に対し、1~100重量部であることが好ましく、より好ましくは10~95重量部、さらに好ましくは10~60重量部、特に好ましくは20~60重量部である。D成分の含有量が1重量部未満では、耐薬品性が充分でない場合があり、100重量部を超えると耐熱性、引張破壊強度、寸法安定性、表面外観および押出加工性が充分でなくなる場合がある。
【0062】
<E成分:スチレン系熱可塑性エラストマー>
本発明の樹脂組成物はE成分としてスチレン系熱可塑性エラストマーを含有することができる。該スチレン系熱可塑性エラストマーとしては、スチレン-エチレン・ブチレン-スチレンブロック共重合体、スチレン-水添ブタジエン-スチレントリブロック共重合体、スチレン-イソプレン-スチレントリブロック共重合体、スチレン-水添イソプレン-スチレントリブロック共重合体、スチレン-水添ブタジエンジブロック共重合体、スチレン-水添イソプレンジブロック共重合体、スチレン-イソプレンジブロック共重合体等が挙げられ、その中でもスチレン-エチレン・ブチレン-スチレンブロック共重合体が最も好適である。
【0063】
また、下記式(I)または(II)で表されるブロック共重合体も好適に用いられる。
X-(Y-X)n …(I)
(X-Y)n …(II)
一般式(I)および(II)におけるXはスチレン重合体ブロックで、式(I)においては分子鎖両末端で重合度が同じであってもよいし、異なっていてもよい。Yはイソプレン重合体ブロック、水添されたブタジエン重合体ブロックおよび水添されたイソプレン重合ブロックの中から選ばれた少なくとも1種である。また、nは1以上の整数である。
【0064】
前記ブロック共重合体におけるX成分の含有量は20~80重量%、好ましくは25~70重量%の範囲にあることが望ましい。この量が20重量%未満では樹脂組成物の剛性が低下する傾向があり、また80重量%を超えると成形加工性および衝撃強度が低下する傾向があり、いずれも好ましくない。このようなブロック共重合体の具体例としては、スチレン-水添ブタジエン-スチレントリブロック共重合体、スチレン-イソプレン-スチレントリブロック共重合体、スチレン-水添イソプレン-スチレントリブロック共重合体、スチレン-水添ブタジエンジブロック共重合体、スチレン-水添イソプレンジブロック共重合体、スチレン-イソプレンジブロック共重合体などが挙げられる。
【0065】
スチレン系熱可塑性エラストマーの重量平均分子量は25万以下が好ましく、22万以下がより好ましく、20万以下がさらに好ましい。重量平均分子量が25万を超えると、成形加工性が低下し、熱可塑性樹脂への分散性も悪化する場合がある。また、重量平均分子量の下限については特に限定されないが、4万以上が好ましく、5万以上がより好ましい。なお、重量平均分子量は以下の方法で測定した。すなわち、ゲルパーミエーションクロマトグラフにより、ポリスチレン換算で分子量を測定し、重量平均分子量を算出した。
【0066】
E成分の含有量は、樹脂成分100重量部に対し、1~50重量部であることが好ましく、より好ましくは3~30重量部であり、さらに好ましくは5~20重量部、特に好ましくは5~15重量部である。D成分の含有量が1重量部未満では強度が向上しない場合があり、50重量部を超えると経済的ではない。
【0067】
<その他の成分>
本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、その熱安定性、離型性、意匠性および機能性の改良のために、これらの改良に使用されている添加剤が有利に使用される。以下これら添加剤について具体的に説明する。
【0068】
(I)熱安定剤
本発明のポリカーボネート樹脂組成物には公知の各種安定剤を配合することができる。安定剤としては、リン系安定剤、ヒンダードフェノール系酸化防止剤などが挙げられる。
【0069】
(i)リン系安定剤
本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、加水分解性を促進させない程度において、リン系安定剤が配合されることが好ましい。かかるリン系安定剤は製造時または成形加工時の熱安定性を向上させ、機械的特性、色相、および成形安定性を向上させる。リン系安定剤としては、亜リン酸、リン酸、亜ホスホン酸、ホスホン酸およびこれらのエステル、並びに第3級ホスフィンなどが例示される。具体的にはホスファイト化合物としては、例えば、トリフェニルホスファイト、トリス(ノニルフェニル)ホスファイト、トリデシルホスファイト、トリオクチルホスファイト、トリオクタデシルホスファイト、ジデシルモノフェニルホスファイト、ジオクチルモノフェニルホスファイト、ジイソプロピルモノフェニルホスファイト、モノブチルジフェニルホスファイト、モノデシルジフェニルホスファイト、モノオクチルジフェニルホスファイト、2,2-メチレンビス(4,6-ジ-tert-ブチルフェニル)オクチルホスファイト、トリス(ジエチルフェニル)ホスファイト、トリス(ジ-iso-プロピルフェニル)ホスファイト、トリス(ジ-n-ブチルフ
ェニル)ホスファイト、トリス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)ホスファイト、トリス(2,6-ジ-tert-ブチルフェニル)ホスファイト、ジステアリルペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,6-ジ-tert-ブチル-4-エチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、フェニルビスフェノールAペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(ノニルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ジシクロヘキシルペンタエリスリトールジホスファイトなどが挙げられる。更に他のホスファイト化合物としては二価フェノール類と反応し環状構造を有するものも使用できる。例えば、2,2’-メチレンビス(4,6-ジ-tert-ブチルフェニル)(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)ホスファイト、2,2’-メチレンビス(4,6-ジ-tert-ブチルフェニル)(2-tert-ブチル-4-メチルフェニル)ホスファイト、2,2’-メチレンビス(4-メチル-6-tert-ブチルフェニル)(2-tert-ブチル-4-メチルフェニル)ホスファイト、2,2’-エチリデンビス(4-メチル-6-tert-ブチルフェニル)(2-tert-ブチル-4-メチルフェニル)ホスファイトなどを挙げることができる。ホスフェート化合物としては、トリブチルホスフェート、トリメチルホスフェート、トリクレジルホスフェート、トリフェニルホスフェート、トリクロルフェニルホスフェート、トリエチルホスフェート、ジフェニルクレジルホスフェート、ジフェニルモノオルソキセニルホスフェート、トリブトキシエチルホスフェート、ジブチルホスフェート、ジオクチルホスフェート、ジイソプロピルホスフェートなどを挙げることができ、好ましくはトリフェニルホスフェート、トリメチルホスフェートである。
【0070】
ホスホナイト化合物としては、テトラキス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)-4,4’-ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)-4,3’-ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)-3,3’-ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,6-ジ-tert-ブチルフェニル)-4,4’-ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,6-ジ-tert-ブチルフェニル)-4,3’-ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,6-ジ-tert-ブチルフェニル)-3,3’-ビフェニレンジホスホナイト、ビス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)-4-フェニル-フェニルホスホナイト、ビス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)-3-フェニル-フェニルホスホナイト、ビス(2,6-ジ-n-ブチルフェニル)-3-フェニル-フェニルホスホナイト、ビス(2,6-ジ-tert-ブチルフェニル)-4-フェニル-フェニルホスホナイト、ビス(2,6-ジ-tert-ブチルフェニル)-3-フェニル-フェニルホスホナイト等が挙げられ、テトラキス(ジ-tert-ブチルフェニル)-ビフェニレンジホスホナイト、ビス(ジ-tert-ブチルフェニル)-フェニル-フェニルホスホナイトが好ましく、テトラキス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)-ビフェニレンジホスホナイト、ビス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)-フェニル-フェニルホスホナイトがより好ましい。かかるホスホナイト化合物は上記アルキル基が2以上置換したアリール基を有するホスファイト化合物との併用可能であり好ましい。ホスホネイト化合物としては、ベンゼンホスホン酸ジメチル、ベンゼンホスホン酸ジエチル、およびベンゼンホスホン酸ジプロピル等が挙げられる。第3級ホスフィンとしては、トリエチルホスフィン、トリプロピルホスフィン、トリブチルホスフィン、トリオクチルホスフィン、トリアミルホスフィン、ジメチルフェニルホスフィン、ジブチルフェニルホスフィン、ジフェニルメチルホスフィン、ジフェニルオクチルホスフィン、トリフェニルホスフィン、トリ-p-トリルホスフィン、トリナフチルホスフィン、およびジフェニルベンジルホスフィンなどが例示される。特に好ましい第3級ホスフィンは、トリフェニルホスフィンである。上記リン系安定剤は、1種のみならず2種以上を混合して用いることができる。上記リン系安定剤の中でもトリメチルホスフェートに代表されるアルキルホスフェート化合物が配合されることが好ましい。またかかるアルキルホスフェート化合物と、ホスファイト化合物および/またはホスホナイト化合物との併用も好ましい態様である。
【0071】
(ii)ヒンダードフェノール系安定剤
本発明のポリカーボネート樹脂組成物には、更にヒンダードフェノール系安定剤を配合することができる。かかる配合は例えば成形加工時の色相悪化や長期間の使用における色相の悪化などを抑制する効果が発揮される。ヒンダードフェノール系安定剤としては、例えば、α-トコフェロール、ブチルヒドロキシトルエン、シナピルアルコール、ビタミンE、n-オクタデシル-β-(4’-ヒドロキシ-3’,5’-ジ-tert-ブチルフェル)プロピオネート、2-tert-ブチル-6-(3’-tert-ブチル-5’-メチル-2’-ヒドロキシベンジル)-4-メチルフェニルアクリレート、2,6-ジ-tert-ブチル-4-(N,N-ジメチルアミノメチル)フェノール、3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシベンジルホスホネートジエチルエステル、2,2’-メチレンビス(4-メチル-6-tert-ブチルフェノール)、2,2’-メチレンビス(4-エチル-6-tert-ブチルフェノール)、4,4’-メチレンビス(2,6-ジ-tert-ブチルフェノール)、2,2’-メチレンビス(4-メチル-6-シクロヘキシルフェノール)、2,2’-ジメチレン-ビス(6-α-メチル-ベンジル-p-クレゾール)2,2’-エチリデン-ビス(4,6-ジ-tert-ブチルフェノール)、2,2’-ブチリデン-ビス(4-メチル-6-tert-ブチルフェノール)、4,4’-ブチリデンビス(3-メチル-6-tert-ブチルフェノール)、トリエチレングリコール-N-ビス-3-(3-tert-ブチル-4-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)プロピオネート、1,6-へキサンジオールビス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、ビス[2-tert-ブチル-4-メチル6-(3-tert-ブチル-5-メチル-2-ヒドロキシベンジル)フェニル]テレフタレート、3,9-ビス{2-[3-(3-tert-ブチル-4-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)プロピオニルオキシ]-1,1,-ジメチルエチル}-2,4,8,10-テトラオキサスピロ[5,5]ウンデカン、4,4’-チオビス(6-tert-ブチル-m-クレゾール)、4,4’-チオビス(3-メチル-6-tert-ブチルフェノール)、2,2’-チオビス(4-メチル-6-tert-ブチルフェノール)、ビス(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)スルフィド、4,4’-ジ-チオビス(2,6-ジ-tert-ブチルフェノール)、4,4’-トリ-チオビス(2,6-ジ-tert-ブチルフェノール)、2,2-チオジエチレンビス-[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、2,4-ビス(n-オクチルチオ)-6-(4-ヒドロキシ-3’,5’-ジ-tert-ブチルアニリノ)-1,3,5-トリアジン、N,N’-ヘキサメチレンビス-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシヒドロシンナミド)、N,N’-ビス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオニル]ヒドラジン、1,1,3-トリス(2-メチル-4-ヒドロキシ-5-tert-ブチルフェニル)ブタン、1,3,5-トリメチル-2,4,6-トリス(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)ベンゼン、トリス(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)イソシアヌレート、トリス(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)イソシアヌレート、1,3,5-トリス(4-tert-ブチル-3-ヒドロキシ-2,6-ジメチルベンジル)イソシアヌレート、1,3,5-トリス2[3(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオニルオキシ]エチルイソシアヌレート、およびテトラキス[メチレン-3-(3’,5’-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタンなどが例示される。これらはいずれも入手容易である。上記ヒンダードフェノール系安定剤は、単独でまたは2種以上を組合せて使用することができる。リン系安定剤およびヒンダードフェノール系安定剤の配合量は、それぞれ樹脂成分100重量部に対し、好ましくは0.0001~1重量部、より好ましくは0.001~0.5重量部、さらに好ましくは0.005~0.3重量部である。
【0072】
(iii)前記以外の熱安定剤
本発明のポリカーボネート樹脂組成物には、前記リン系安定剤およびヒンダードフェノール系安定剤以外の他の熱安定剤を配合することもできる。かかる他の熱安定剤としては、例えば3-ヒドロキシ-5,7-ジ-tert-ブチル-フラン-2-オンとo-キシレンとの反応生成物に代表されるラクトン系安定剤が好適に例示される。かかる安定剤の詳細は特開平7-233160号公報に記載されている。かかる化合物はIrganox HP-136(商標、CIBA SPECIALTY CHEMICALS社製)として市販され、該化合物を利用できる。更に該化合物と各種のホスファイト化合物およびヒンダードフェノール化合物を混合した安定剤が市販されている。例えば前記社製のIrganoxHP-2921が好適に例示される。ラクトン系安定剤の配合量は、樹脂成分100重量部に対して、好ましくは0.0005~0.05重量部、より好ましくは0.001~0.03重量部である。
【0073】
またその他の安定剤としては、ペンタエリスリトールテトラキス(3-メルカプトプロピオネート)、ペンタエリスリトールテトラキス(3-ラウリルチオプロピオネート)、およびグリセロール-3-ステアリルチオプロピオネートなどのイオウ含有安定剤が例示される。かかるイオウ含有安定剤の配合量は、A成分とB成分との合計100重量部に対し、好ましくは0.001~0.1重量部、より好ましくは0.01~0.08重量部である。
【0074】
本発明のポリカーボネート樹脂組成物には、エポキシ化合物を配合することができる。かかるエポキシ化合物は、金型腐食を抑制するという目的で配合されるものであり、基本的にエポキシ官能基を有するもの全てが適用できる。好ましいエポキシ化合物の具体例としては、3,4ーエポキシシクロヘキシルメチルー3’,4’ーエポキシシクロヘキシルカルボキシレート、2,2-ビス(ヒドロキシメチル)-1-ブタノールの1,2-エポキシ-4-(2-オキシラニル)シクロセキサン付加物、メチルメタクリレートとグリシジルメタクリレートの共重合体、スチレンとグリシジルメタクリレートの共重合体等が挙げられる。かかるエポキシ化合物の添加量としては、樹脂成分100重量部に対し、0.003~0.2重量部が好ましく、より好ましくは0.004~0.15重量部であり、さらに好ましくは0.005~0.1重量部である。
【0075】
(II)紫外線吸収剤
本発明のポリカーボネート樹脂組成物には紫外線に対する安定剤として紫外線吸収剤を配合することができる。紫外線吸収剤としては、具体的にはベンゾフェノン系では、例えば、2,4-ジヒドロキシベンゾフェノン、2-ヒドロキシ-4-メトキシベンゾフェノン、2-ヒドロキシ-4-オクトキシベンゾフェノン、2-ヒドロキシ-4-ベンジロキシベンゾフェノン、2-ヒドロキシ-4-メトキシ-5-スルホキシベンゾフェノン、2,2’-ジヒドロキシ-4-メトキシベンゾフェノン、2,2’,4,4’-テトラヒドロキシベンゾフェノン、2,2’-ジヒドロキシ-4,4’-ジメトキシベンゾフェノン、2,2’-ジヒドロキシ-4,4’-ジメトキシ-5-ソジウムスルホキシベンゾフェノン、ビス(5-ベンゾイル-4-ヒドロキシ-2-メトキシフェニル)メタン、2-ヒドロキシ-4-n-ドデシルオキシベンソフェノン、および2-ヒドロキシ-4-メトキシ-2’-カルボキシベンゾフェノンなどが例示される。紫外線吸収剤としては、具体的に、ベンゾトリアゾール系では、例えば、2-(2-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)ベンゾトリアゾ-ル、2-(2-ヒドロキシ-5-tert-オクチルフェニル)ベンゾトリアゾ-ル、2-(2-ヒドロキシ-3,5-ジクミルフェニル)フェニルベンゾトリアゾール、2-(2-ヒドロキシ-3-tert-ブチル-5-メチルフェニル)-5-クロロベンゾトリアゾール、2,2’-メチレンビス[4-(1,1,3,3-テトラメチルブチル)-6-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)フェノール]、2-(2-ヒドロキシ-3,5-ジ-tert-ブチルフェニル)ベンゾトリアゾ-ル、2-(2-ヒドロキシ-3,5-ジ-tert-ブチルフェニル)-5-クロロベンゾトリアゾール、2-(2-ヒドロキシ-3,5-ジ-tert-アミルフェニル)ベンゾトリアゾ-ル、2-(2-ヒドロキシ-5-tert-オクチルフェニル)ベンゾトリアゾ-ル、2-(2-ヒドロキシ-5-tert-ブチルフェニル)ベンゾトリアゾ-ル、2-(2-ヒドロキシ-4-オクトキシフェニル)ベンゾトリアゾ-ル、2,2’-メチレンビス(4-クミル-6-ベンゾトリアゾールフェニル)、2,2’-p-フェニレンビス(1,3-ベンゾオキサジン-4-オン)、および2-[2-ヒドロキシ-3-(3,4,5,6-テトラヒドロフタルイミドメチル)-5-メチルフェニル]ベンゾトリアゾ-ル、並びに2-(2’-ヒドロキシ-5-メタクリロキシエチルフェニル)-2H-ベンゾトリアゾールと該モノマーと共重合可能なビニル系モノマーとの共重合体や2-(2’-ヒドロキシ-5-アクリロキシエチルフェニル)―2H―ベンゾトリアゾールと該モノマーと共重合可能なビニル系モノマーとの共重合体などの2-ヒドロキシフェニル-2H-ベンゾトリアゾール骨格を有する重合体などが例示される。紫外線吸収剤は、具体的に、ヒドロキシフェニルトリアジン系では、例えば、2-(4,6-ジフェニル-1,3,5-トリアジン-2-イル)-5-ヘキシルオキシフェノール、2-(4,6-ジフェニル-1,3,5-トリアジン-2-イル)-5-メチルオキシフェノール、2-(4,6-ジフェニル-1,3,5-トリアジン-2-イル)-5-エチルオキシフェノール、2-(4,6-ジフェニル-1,3,5-トリアジン-2-イル)-5-プロピルオキシフェノール、および2-(4,6-ジフェニル-1,3,5-トリアジン-2-イル)-5-ブチルオキシフェノールなどが例示される。さらに2-(4,6-ビス(2,4-ジメチルフェニル)-1,3,5-トリアジン-2-イル)-5-ヘキシルオキシフェノールなど、上記例示化合物のフェニル基が2,4-ジメチルフェニル基となった化合物が例示される。紫外線吸収剤は、具体的に環状イミノエステル系では、例えば2,2’-p-フェニレンビス(3,1-ベンゾオキサジン-4-オン)、2,2’-m-フェニレンビス(3,1-ベンゾオキサジン-4-オン)、および2,2’-p,p’-ジフェニレンビス(3,1-ベンゾオキサジン-4-オン)などが例示される。また紫外線吸収剤としては、具体的にシアノアクリレート系では、例えば1,3-ビス-[(2’-シアノ-3’,3’-ジフェニルアクリロイル)オキシ]-2,2-ビス[(2-シアノ-3,3-ジフェニルアクリロイル)オキシ]メチル)プロパン、および1,3-ビス-[(2-シアノ-3,3-ジフェニルアクリロイル)オキシ]ベンゼンなどが例示される。さらに上記紫外線吸収剤は、ラジカル重合が可能な単量体化合物の構造をとることにより、かかる紫外線吸収性単量体および/または光安定性単量体と、アルキル(メタ)アクリレートなどの単量体とを共重合したポリマー型の紫外線吸収剤であってもよい。前記紫外線吸収性単量体としては、(メタ)アクリル酸エステルのエステル置換基中にベンゾトリアゾール骨格、ベンゾフェノン骨格、トリアジン骨格、環状イミノエステル骨格、およびシアノアクリレート骨格を含有する化合物が好適に例示される。前記の中でも紫外線吸収能の点においてはベンゾトリアゾール系およびヒドロキシフェニルトリアジン系が好ましく、耐熱性や色相の点では、環状イミノエステル系およびシアノアクリレート系が好ましい。具体的には例えばケミプロ化成(株)「ケミソーブ79」、BASFジャパン(株)「チヌビン234」などが挙げられる。前記紫外線吸収剤は単独であるいは2種以上の混合物で用いてもよい。
【0076】
紫外線吸収剤の含有量は、樹脂成分100重量部に対して、好ましくは0.01~3重量部、より好ましくは0.01~1重量部、さらに好ましくは0.05~1重量部、特に好ましくは0.05~0.5重量部である。
【0077】
(III)染顔料
本発明のポリカーボネート樹脂組成物には多様な意匠性の改善のために各種染顔料を配
合することができる。染顔料としては、ペリレン系染料、クマリン系染料、チオインジゴ系染料、アンスラキノン系染料、チオキサントン系染料、紺青等のフェロシアン化物、ペリノン系染料、キノリン系染料、キナクリドン系染料、ジオキサジン系染料、イソインドリノン系染料、およびフタロシアニン系染料などを挙げることができる。更に本発明のポリカーボネート樹脂組成物はメタリック顔料を配合してより良好なメタリック色彩を得ることもできる。メタリック顔料としては、アルミ粉が好適である。また、蛍光増白剤やそれ以外の発光をする蛍光染料を配合することにより、発光色を生かした更に良好な意匠効果を付与することができる。
【0078】
(IV)蛍光増白剤
本発明のポリカーボネート樹脂組成物において蛍光増白剤は、樹脂等の色調を白色あるいは青白色に改善するために用いられるものであれば特に制限はなく、例えばスチルベン系、ベンズイミダゾール系、ベンズオキサゾール系、ナフタルイミド系、ローダミン系、クマリン系、オキサジン系化合物等が挙げられる。具体的には例えばCI Fluorescent Brightener 219:1や、イーストマンケミカル社製EASTOBRITE OB-1や昭和化学(株)製「ハッコールPSR」、などを挙げることができる。ここで蛍光増白剤は、光線の紫外部のエネルギーを吸収し、このエネルギーを可視部に放射する作用を有するものである。蛍光増白剤の含有量は樹脂成分100重量部に対し、0.001~0.1重量部が好ましく、より好ましくは0.001~0.05重量部である。0.1重量部を超えても該組成物の色調の改良効果は小さい。
【0079】
(V)熱線吸収能を有する化合物
本発明のポリカーボネート樹脂組成物は熱線吸収能を有する化合物を含有することができる。かかる化合物としてはフタロシアニン系近赤外線吸収剤、ATO、ITO、酸化イリジウムおよび酸化ルテニウム、酸化イモニウム、酸化チタンなどの金属酸化物系近赤外線吸収剤、ホウ化ランタン、ホウ化セリウムおよびホウ化タングステンなどの金属ホウ化物系や酸化タングステン系近赤外線吸収剤などの近赤外吸収能に優れた各種の金属化合物、ならびに炭素フィラーが好適に例示される。かかるフタロシアニン系近赤外線吸収剤としてはたとえば三井化学(株)製MIR-362が市販され容易に入手可能である。炭素フィラーとしてはカーボンブラック、グラファイト(天然、および人工のいずれも含む)およびフラーレンなどが例示され、好ましくはカーボンブラックおよびグラファイトである。これらは単体または2種以上を併用して使用することができる。フタロシアニン系近赤外線吸収剤の含有量は、A成分とB成分との合計100重量部に対し、0.0005~0.2重量部が好ましく、0.0008~0.1重量部がより好ましく、0.001~0.07重量部がさらに好ましい。金属酸化物系近赤外線吸収剤、金属ホウ化物系近赤外線吸収剤および炭素フィラーの含有量は、ポリカーボネート樹脂組成物中、0.1~200ppm(重量割合)の範囲が好ましく、0.5~100ppmの範囲がより好ましい。
【0080】
(VI)光拡散剤
本発明のポリカーボネート樹脂組成物には、光拡散剤を配合して光拡散効果を付与することができる。かかる光拡散剤としては高分子微粒子、炭酸カルシウムの如き低屈折率の無機微粒子、およびこれらの複合物等が例示される。かかる高分子微粒子は、既にポリカーボネート樹脂の光拡散剤として公知の微粒子である。より好適には粒径数μmのアクリル架橋粒子およびポリオルガノシルセスキオキサンに代表されるシリコーン架橋粒子などが例示される。光拡散剤の形状は球形、円盤形、柱形、および不定形などが例示される。かかる球形は、完全球である必要はなく変形しているものを含み、かかる柱形は立方体を含む。好ましい光拡散剤は球形であり、その粒径は均一であるほど好ましい。光拡散剤の含有量は、樹脂成分100重量部に対し、好ましくは0.005~20重量部、より好ましくは0.01~10重量部、さらに好ましくは0.01~3重量部である。尚、光拡散剤は2種以上を併用することができる。
【0081】
(VII)光高反射用白色顔料
本発明のポリカーボネート樹脂組成物には、光高反射用白色顔料を配合して光反射効果を付与することができる。かかる白色顔料としては二酸化チタン(特にシリコーンなど有機表面処理剤により処理された二酸化チタン)顔料が特に好ましい。かかる光高反射用白色顔料の含有量は、樹脂成分100重量部に対し、3~30重量部が好ましく、8~25重量部がより好ましい。尚、光高反射用白色顔料は2種以上を併用することができる。
【0082】
(VIII)離型剤
本発明のポリカーボネート樹脂組成物には、必要に応じて離型剤を配合することができる。かかる離型剤としてはそれ自体公知のものが使用できる。例えば、飽和脂肪酸エステル、不飽和脂肪酸エステル、ポリオレフィン系ワックス(ポリエチレンワックスまたは1-アルケン重合体が挙げられる。これらは酸変性などの官能基含有化合物で変性されているものも使用できる)、シリコーン化合物(例えば直鎖状または環状のポリジメチルシロキサンオイルやポリメチルフェニルシリコーンオイル)などが挙げられる。これらは酸変性などの官能基含有化合物で変性されているものも使用できる)、フッ素化合物(ポリフルオロアルキルエーテルに代表されるフッ素オイルなど)、パラフィンワックス、蜜蝋などを挙げることができる。これらの中でも飽和脂肪酸エステル類、直鎖状または環状のポリジメチルシロキサンオイルやポリメチルフェニルシリコーンオイルなど、およびフッ素オイルを挙げることができる。好ましい離型剤としては飽和脂肪酸エステルが挙げられ、例えばステアリン酸モノグリセライドなどのモノグリセライド類、デカグリセリンデカステアレートおよびデカグリセリンテトラステアレート等のポリグリセリン脂肪酸エステル類、ステアリン酸ステアレートなどの低級脂肪酸エステル類、セバシン酸ベヘネートなどの高級脂肪酸エステル類、ペンタエリスリトールテトラステアレートなどのエリスリトールエステル類が使用される。かかる離型剤の含有量は樹脂成分100重量部に対し、0.01~1重量部が好ましく、0.01~0.5重量部がより好ましい。尚、離型剤は2種以上を併用することができる。
【0083】
(IX)フィブリル形成能を有するポリテトラフルオロエチレン
本発明のポリカーボネート樹脂組成物には、必要に応じてフィブリル形成能を有するポリテトラフルオロエチレンを配合することができる。フィブリル形成能を有するポリテトラフルオロエチレン(フィブリル化PTFE)としては、フィブリル化PTFE単独であっても、混合形態のフィブリル化PTFEすなわちフィブリル化PTFE粒子と有機系重合体からなるポリテトラフルオロエチレン系混合体であってもよい。フィブリル化PTFEは極めて高い分子量を有し、せん断力などの外的作用によりPTFE同士を結合して繊維状になる傾向を示すものである。その数平均分子量は、150万~数千万の範囲である。かかる下限はより好ましくは300万である。かかる数平均分子量は、特開平6-145520号公報に開示されているとおり、380℃でのポリテトラフルオロエチレンの溶融粘度に基づき算出される。即ち、フィブリル化PTFEは、かかる公報に記載された方法で測定される380℃における溶融粘度が107~1013poiseの範囲であり、好ましくは108~1012poiseの範囲である。かかるPTFEは、固体形状の他、水性分散液形態のものも使用可能である。またかかるフィブリル化PTFEは樹脂中での分散性を向上させ、更に良好な難燃性および機械的特性を得るために他の樹脂との混合形態のPTFE混合物を使用することも可能である。また、特開平6-145520号公報に開示されているとおり、かかるフィブリル化PTFEを芯とし、低分子量のポリテトラフルオロエチレンを殻とした構造を有するものも好ましく利用される。かかるフィブリル化PTFEの市販品としては例えば三井・デュポンフロロケミカル(株)のテフロン(登録商標)6J、ダイキン化学工業(株)のポリフロンMPA FA500、F-201Lなどを挙げることができる。混合形態のフィブリル化PTFEとしては、(1)フィブリル化PTFEの水性分散液と有機重合体の水性分散液または溶液とを混合し共沈殿を行い共凝集混合物を得る方法(特開昭60-258263号公報、特開昭63-154744号公報などに記載された方法)、(2)フィブリル化PTFEの水性分散液と乾燥した有機重合体粒子とを混合する方法(特開平4-272957号公報に記載された方法)、(3)フィブリル化PTFEの水性分散液と有機重合体粒子溶液を均一に混合し、かかる混合物からそれぞれの媒体を同時に除去する方法(特開平06-220210号公報、特開平08-188653号公報などに記載された方法)、(4)フィブリル化PTFEの水性分散液中で有機重合体を形成する単量体を重合する方法(特開平9-95583号公報に記載された方法)、および(5)PTFEの水性分散液と有機重合体分散液を均一に混合後、更に該混合分散液中でビニル系単量体を重合し、その後混合物を得る方法(特開平11-29679号公報などに記載された方法)により得られたものが使用できる。混合形態におけるフィブリル化PTFEの割合としては、かかる混合物100重量%中、フィブリル化PTFEが1重量%~95重量%であることが好ましく、10重量%~90重量%であるのがより好ましく、20重量%~80重量%が最も好ましい。混合形態におけるフィブリル化PTFEの割合がかかる範囲にある場合は、フィブリル化PTFEの良好な分散性を達成することができる。これらの混合形態のフィブリル化PTFEの市販品としては、三菱レイヨン(株)の「メタブレン A3000」(商品名)「メタブレン A3700」(商品名)、「メタブレン A3800」(商品名)で代表されるメタブレンAシリーズ、Shine Polymer社のSN3705(商品名)、およびGEスペシャリティーケミカルズ社製 「BLENDEX B449」(商品名)などが例示される。
【0084】
フィブリル化PTFEは、分岐状ポリテトラフルオロエチレンであることが好ましい。含まれるポリテトラフルオロエチレンが分岐状ポリテトラフルオロエチレンである場合、ポリテトラフルオロエチレンの添加を少なくしても充分な滴下防止効果が得られる。分岐状ポリテトラフルオロエチレンを用いたフィブリル形成能を有するポリテトラフルオロエチレンの市販品としては、Shine polymer社の「SN3306」(商品名)、「SN3300B7」(商品名)などが例示される。
【0085】
フィブリル化PTFEの含有量は、樹脂成分100重量部に対し、0.01~1重量部が好ましく、0.1~0.8重量部がより好ましく、0.1~0.4重量部がさらに好ましく、0.1~0.18重量部が最も好ましい。なお、フィブリル化PTFEの含有量は正味のPTFEの量を示し、混合形態のPTFEの場合であっても、正味のPTFE量を示す。
【0086】
(X)難燃剤
本発明のポリカーボネート樹脂組成物には、ポリカーボネート樹脂の難燃剤として知られる各種の化合物が配合されてよい。かかる化合物の配合は難燃性の向上をもたらすが、それ以外にも各化合物の性質に基づき、例えば帯電防止性、流動性、剛性、および熱安定性の向上などがもたらされる。かかる難燃剤としては、(i)有機金属塩系難燃剤(例えば有機スルホン酸アルカリ(土類)金属塩、有機ホウ酸金属塩系難燃剤、および有機錫酸金属塩系難燃剤など)、(ii)有機リン系難燃剤(例えば、有機基含有のモノホスフェート化合物、ホスフェートオリゴマー化合物、ホスホネートオリゴマー化合物、ホスホニトリルオリゴマー化合物、およびホスホン酸アミド化合物など)、(iii)シリコーン化合物からなるシリコーン系難燃剤、(iv)ハロゲン系難燃性が挙げられ、その中でも有機金属塩系難燃剤、有機リン系難燃剤が好ましい。
【0087】
(X-i)有機金属塩系難燃剤
有機金属塩系難燃剤としては、炭素原子数1~50、好ましくは1~40の有機酸のアルカリ(土類)金属塩、好ましくは有機スルホン酸アルカリ(土類)金属塩であることが好ましい。この有機スルホン酸アルカリ(土類)金属塩には、炭素原子数1~10、好ま
しくは2~8のパーフルオロアルキルスルホン酸とアルカリ金属またはアルカリ土類金属との金属塩の如きフッ素置換アルキルスルホン酸の金属塩、並びに炭素原子数7~50、好ましくは7~40の芳香族スルホン酸とアルカリ金属またはアルカリ土類金属との金属塩が含まれる。金属塩を構成するアルカリ金属としてはリチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウムおよびセシウムが挙げられ、アルカリ土類金属としては、ベリリウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウムおよびバリウムが挙げられる。より好適にはアルカリ金属である。かかるアルカリ金属の中でも、透明性の要求がより高い場合にはイオン半径のより大きいルビジウムおよびセシウムが好適である一方、これらは汎用的でなくまた精製もし難いことから、結果的にコストの点で不利となる場合がある。一方、リチウムおよびナトリウムなどのより小さいイオン半径の金属は逆に難燃性の点で不利な場合がある。これらを勘案してスルホン酸アルカリ金属塩中のアルカリ金属を使い分けることができるが、いずれの点においても特性のバランスに優れたスルホン酸カリウム塩が最も好適である。かかるカリウム塩と他のアルカリ金属からなるスルホン酸アルカリ金属塩とを併用することもできる。
【0088】
パーフルオロアルキルスルホン酸アルカリ金属塩の具体例としては、トリフルオロメタンスルホン酸カリウム、パーフルオロブタンスルホン酸カリウム、パーフルオロヘキサンスルホン酸カリウム、パーフルオロオクタンスルホン酸カリウム、ペンタフルオロエタンスルホン酸ナトリウム、パーフルオロブタンスルホン酸ナトリウム、パーフルオロオクタンスルホン酸ナトリウム、トリフルオロメタンスルホン酸リチウム、パーフルオロブタンスルホン酸リチウム、パーフルオロヘプタンスルホン酸リチウム、トリフルオロメタンスルホン酸セシウム、パーフルオロブタンスルホン酸セシウム、パーフルオロオクタンスルホン酸セシウム、パーフルオロヘキサンスルホン酸セシウム、パーフルオロブタンスルホン酸ルビジウム、およびパーフルオロヘキサンスルホン酸ルビジウム等が挙げられ、これらは1種もしくは2種以上を併用して使用することができる。ここでパーフルオロアルキル基の炭素数は、1~18の範囲が好ましく、1~10の範囲がより好ましく、更に好ましくは1~8の範囲である。これらの中で特にパーフルオロブタンスルホン酸カリウムが好ましい。アルカリ金属からなるパーフルオロアルキルスルホン酸アルカリ(土類)金属塩中には、通常少なからず弗化物イオン(F-)が混入する。かかる弗化物イオンの存在は難燃性を低下させる要因となり得るので、できる限り低減されることが好ましい。かかる弗化物イオンの割合はイオンクロマトグラフィー法により測定できる。弗化物イオンの含有量は、100ppm以下が好ましく、40ppm以下が更に好ましく、10ppm以下が特に好ましい。また製造効率的に0.2ppm以上であることが好適である。かかる弗化物イオン量の低減されたパーフルオロアルキルスルホン酸アルカリ(土類)金属塩は、製造方法は公知の製造方法を用い、かつ含フッ素有機金属塩を製造する際の原料中に含有される弗化物イオンの量を低減する方法、反応により得られた弗化水素などを反応時に発生するガスや加熱によって除去する方法、並びに含フッ素有機金属塩を製造に再結晶および再沈殿等の精製方法を用いて弗化物イオンの量を低減する方法などによって製造することができる。特に有機金属塩系難燃剤は比較的水に溶けやすいこことから、イオン交換水、特に電気抵抗値が18MΩ・cm以上、すなわち電気伝導度が約0.55μS/cm以下を満足する水を用い、かつ常温よりも高い温度で溶解させて洗浄を行い、その後冷却させて再結晶化させる工程により製造することが好ましい。芳香族スルホン酸アルカリ(土類)金属塩の具体例としては、例えばジフェニルサルファイド-4,4’-ジスルホン酸ジナトリウム、ジフェニルサルファイド-4,4’-ジスルホン酸ジカリウム、5-スルホイソフタル酸カリウム、5-スルホイソフタル酸ナトリウム、ポリエチレンテレフタル酸ポリスルホン酸ポリナトリウム、1-メトキシナフタレン-4-スルホン酸カルシウム、4-ドデシルフェニルエーテルジスルホン酸ジナトリウム、ポリ(2,6-ジメチルフェニレンオキシド)ポリスルホン酸ポリナトリウム、ポリ(1,3-フェニレンオキシド)ポリスルホン酸ポリナトリウム、ポリ(1,4-フェニレンオキシド)ポリスルホン酸ポリナトリウム、ポリ(2,6-ジフェニルフェニレンオキシド)ポリスルホン酸ポリカリウム、ポリ(2-フルオロ-6-ブチルフェニレンオキシド)ポリスルホン酸リチウム、ベンゼンスルホネートのスルホン酸カリウム、ベンゼンスルホン酸ナトリウム、ベンゼンスルホン酸ストロンチウム、ベンゼンスルホン酸マグネシウム、p-ベンゼンジスルホン酸ジカリウム、ナフタレン-2,6-ジスルホン酸ジカリウム、ビフェニル-3,3’-ジスルホン酸カルシウム、ジフェニルスルホン-3-スルホン酸ナトリウム、ジフェニルスルホン-3-スルホン酸カリウム、ジフェニルスルホン-3,3’-ジスルホン酸ジカリウム、ジフェニルスルホン-3,4’-ジスルホン酸ジカリウム、α,α,α-トリフルオロアセトフェノン-4-スルホン酸ナトリウム、ベンゾフェノン-3,3’-ジスルホン酸ジカリウム、チオフェン-2,5-ジスルホン酸ジナトリウム、チオフェン-2,5-ジスルホン酸ジカリウム、チオフェン-2,5-ジスルホン酸カルシウム、ベンゾチオフェンスルホン酸ナトリウム、ジフェニルスルホキサイド-4-スルホン酸カリウム、ナフタレンスルホン酸ナトリウムのホルマリン縮合物、およびアントラセンスルホン酸ナトリウムのホルマリン縮合物などを挙げることができる。これら芳香族スルホン酸アルカリ(土類)金属塩では、特にカリウム塩が好適である。これらの芳香族スルホン酸アルカリ(土類)金属塩の中でも、ジフェニルスルホン-3-スルホン酸カリウム、およびジフェニルスルホン-3,3’-ジスルホン酸ジカリウムが好適であり、特にこれらの混合物(前者と後者の重量比が15/85~30/70)が好適である。
【0089】
スルホン酸アルカリ(土類)金属塩以外の有機金属塩としては、硫酸エステルのアルカリ(土類)金属塩および芳香族スルホンアミドのアルカリ(土類)金属塩などが好適に例示される。硫酸エステルのアルカリ(土類)金属塩としては、特に一価および/または多価アルコール類の硫酸エステルのアルカリ(土類)金属塩を挙げることができ、かかる一価および/または多価アルコール類の硫酸エステルとしては、メチル硫酸エステル、エチル硫酸エステル、ラウリル硫酸エステル、ヘキサデシル硫酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルの硫酸エステル、ペンタエリスリトールのモノ、ジ、トリ、テトラ硫酸エステル、ラウリン酸モノグリセライドの硫酸エステル、パルミチン酸モノグリセライドの硫酸エステル、およびステアリン酸モノグリセライドの硫酸エステルなどを挙げることができる。これらの硫酸エステルのアルカリ(土類)金属塩として好ましくはラウリル硫酸エステルのアルカリ(土類)金属塩が挙げられる。芳香族スルホンアミドのアルカリ(土類)金属塩としては、例えばサッカリン、N-(p-トリルスルホニル)-p-トルエンスルホイミド、N-(N’-ベンジルアミノカルボニル)スルファニルイミド、およびN-(フェニルカルボキシル)スルファニルイミドのアルカリ(土類)金属塩などが挙げられる。
【0090】
有機金属塩系難燃剤の含有量は、樹脂成分100重量部に対し、0.01~1.0重量部が好ましく、より好ましくは0.01~0.5重量部、さらに好ましくは0.01~0.3重量部、特に好ましくは0.03~0.15重量部である。
【0091】
(X-ii)リン系難燃剤
リン系難燃剤としては、下記一般式〔6〕で表される化合物および下記一般式〔7〕で表される化合物からなる群より選ばれる少なくとも一種のリン系難燃剤が好適に用いられる。
【0092】
【0093】
【0094】
上記式〔6〕において、Mは、二価フェノールから誘導される二価の有機基を表す。二価フェノールとしては、1,2-ジヒドロキシベンゼン(カテコール)、1,3-ジヒドロキシベンゼン(レゾルシノール)、1,4-ジヒドロキシベンゼン(ハイドロキノン)、4,4’-ジヒドロキシビフェニル、2,2’-ジヒドロキシビフェニル、ビス(4-ヒドロキシフェニル)メタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)エタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)デカン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-1-フェニルエタン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)プロパン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3,3’-ビフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3-イソプロピルフェニル)プロパン、2,2-ビス(3-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ブタン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)オクタン、2,2-ビス(3-ブロモ-4-ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(3,5-ジメチル-4-ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(3-シクロヘキシル-4-ヒドロキシフェニル)プロパン、1,1-ビス(3-シクロヘキシル-4-ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)ジフェニルメタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)シクロペンタン、4,4’-ジヒドロキシジフェニルエ-テル、4,4’-ジヒドロキシ-3,3’-ジメチルジフェニルエ-テル、4,4’-スルホニルジフェノール、4,4’-ジヒドロキシジフェニルスルホキシド、4,4’-ジヒドロキシジフェニルスルフィド、2,2’-ジメチル-4,4’-スルホニルジフェノール、4,4’-ジヒドロキシ-3,3’-ジメチルジフェニルスルホキシド、4,4’-ジヒドロキシ-3,3’-ジメチルジフェニルスルフィド、2,2’-ジフェニル-4,4’-スルホニルジフェノール、4,4’-ジヒドロキシ-3,3’-ジフェニルジフェニルスルホキシド、4,4’-ジヒドロキシ-3,3’-ジフェニルジフェニルスルフィド、1,3-ビス{2-(4-ヒドロキシフェニル)プロピル}ベンゼン、1,4-ビス{2-(4-ヒドロキシフェニル)プロピル}ベンゼン、1,4-ビス(4-ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、1,3-ビス(4-ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、4,8-ビス(4-ヒドロキシフェニル)トリシクロ[5.2.1.02,6]デカン、4,4’-(1,3-アダマンタンジイル)ジフェノール、1,3-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-5,7-ジメチルアダマンタン等が挙げられ、中でも1,2-ジヒドロキシベンゼン(カテコール)、1,3-ジヒドロキシベンゼン(レゾルシノール)、1,4-ジヒドロキシベンゼン(ハイドロキノン)、4,4’-ジヒドロキシビフェニル、2,2’-ジヒドロキシビフェニル、ビス(4-ヒドロキシフェニル)メタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)エタン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパンが好ましい。
【0095】
R1、R2、R3、およびR4は夫々独立して炭素原子数1~10のアルキル基、炭素原子数6~20のシクロアルキル基、炭素原子数2~10のアルケニル基、炭素原子数6~10のアリール基、炭素原子数7~20のアラルキル基からなる群から選ばれる基であ
り、中でも炭素原子数6~10のアリール基が好ましい。R1、R2、R3、およびR4を誘導する一価フェノールの好適な具体例としては、フェノール、クレゾール、キシレノール、イソプロピルフェノール、ブチルフェノール、およびp-クミルフェノールが例示され、中でも好ましくはフェノール、および2,6-ジメチルフェノールである。また、g、h、i及びjは夫々独立して0または1であり、mは0~5の整数であり、重合度mの異なるリン酸エステルの混合物の場合はmはその平均値を表し、0~5の値である。
【0096】
上記式〔7〕において、R5、R6は、夫々独立して炭素原子数1~10のアルコキシ基、炭素原子数6~20のシクロアルコキシ基、炭素原子数2~10のアルケニルオキシ基、炭素原子数6~10のアリールオキシ基、炭素原子数7~20のアラルキルオキシ基からなる群から選ばれる基であり、中でも炭素原子数6~10のアリールオキシ基が好ましい。また、kは3~10の整数であり、4~8が好ましく、5~7がより好ましい。
【0097】
有機リン系難燃剤の含有量は、樹脂成分100重量部に対し、1~20重量部が好ましく、より好ましくは2~15重量部、さらに好ましくは2~10重量部である。
【0098】
(X-iii)シリコーン化合物からなるシリコーン系難燃剤
シリコーン系難燃剤として使用されるシリコーン化合物は、燃焼時の化学反応によって難燃性を向上させるものである。該化合物としては従来芳香族ポリカーボート樹脂の難燃剤として提案された各種の化合物を使用することができる。シリコーン化合物はその燃焼時にそれ自体が結合してまたは樹脂に由来する成分と結合してストラクチャーを形成することにより、または該ストラクチャー形成時の還元反応により、ポリカーボネート樹脂に難燃効果を付与するものと考えられている。したがってかかる反応における活性の高い基を含んでいることが好ましく、より具体的にはアルコキシ基およびハイドロジェン(即ちSi-H基)から選択された少なくとも1種の基を所定量含んでいることが好ましい。かかる基(アルコキシ基、Si-H基)の含有割合としては、0.1~1.2mol/100gの範囲が好ましく、0.12~1mol/100gの範囲がより好ましく、0.15~0.6mol/100gの範囲が更に好ましい。かかる割合はアルカリ分解法より、シリコーン化合物の単位重量当たりに発生した水素またはアルコールの量を測定することにより求められる。尚、アルコキシ基は炭素数1~4のアルコキシ基が好ましく、特にメトキシ基が好適である。一般的にシリコーン化合物の構造は、以下に示す4種類のシロキサン単位を任意に組み合わせることによって構成される。すなわち、M単位:(CH3)3SiO1/2、H(CH3)2SiO1/2、H2(CH3)SiO1/2、(CH3)2(CH2=CH)SiO1/2、(CH3)2(C6H5)SiO1/2、(CH3)(C6H5)(CH2=CH)SiO1/2等の1官能性シロキサン単位、D単位:(CH3)2SiO、H(CH3)SiO、H2SiO、H(C6H5)SiO、(CH3)(CH2=CH)SiO、(C6H5)2SiO等の2官能性シロキサン単位、T単位:(CH3)SiO3/2、(C3H7)SiO3/2、HSiO3/2、(CH2=CH)SiO3/2、(C6H5)SiO3/2等の3官能性シロキサン単位、Q単位:SiO2で示される4官能性シロキサン単位である。シリコーン系難燃剤に使用されるシリコーン化合物の構造は、具体的には、示性式としてDn、Tp、MmDn、MmTp、MmQq、MmDnTp、MmDnQq、MmTpQq、MmDnTpQq、DnTp、DnQq、DnTpQqが挙げられる。この中で好ましいシリコーン化合物の構造は、MmDn、MmTp、MmDnTp、MmDnQqであり、さらに好ましい構造は、MmDnまたはMmDnTpである。
【0099】
ここで、前記示性式中の係数m、n、p、qは各シロキサン単位の重合度を表す1以上の整数であり、各示性式における係数の合計がシリコーン化合物の平均重合度となる。この平均重合度は好ましくは3~150の範囲、より好ましくは3~80の範囲、更に好ましくは3~60の範囲、特に好ましくは4~40の範囲である。かかる好適な範囲である
ほど難燃性において優れるようになる。更に後述するように芳香族基を所定量含むシリコーン化合物においては透明性や色相にも優れる。その結果良好な反射光が得られる。またm、n、p、qのいずれかが2以上の数値である場合、その係数の付いたシロキサン単位は、結合する水素原子や有機残基が異なる2種以上のシロキサン単位とすることができる。
【0100】
シリコーン化合物は、直鎖状であっても分岐構造を持つものであってもよい。またシリコン原子に結合する有機残基は炭素数1~30、より好ましくは1~20の有機残基であることが好ましい。かかる有機残基としては、具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ヘキシル基、およびデシル基などのアルキル基、シクロヘキシル基の如きシクロアルキル基、フェニル基の如きアリール基、並びにトリル基の如きアラルキル基を挙げることがでる。さらに好ましくは炭素数1~8のアルキル基、アルケニル基またはアリール基である。アルキル基としては、特にはメチル基、エチル基、およびプロピル基等の炭素数1~4のアルキル基が好ましい。さらにシリコーン系難燃剤として使用されるシリコーン化合物はアリール基を含有することが好ましい。一方、二酸化チタン顔料の有機表面処理剤としてのシラン化合物およびシロキサン化合物は、アリール基を含有しない方が好ましい効果が得られる点で、シリコーン系難燃剤とはその好適な態様において明確に区別される。シリコーン系難燃剤として使用されるシリコーン化合物は、前記Si-H基およびアルコキシ基以外にも反応基を含有していてもよく、かかる反応基としては例えば、アミノ基、カルボキシル基、エポキシ基、ビニル基、メルカプト基、およびメタクリロキシ基などが例示される。
【0101】
シリコーン系難燃剤の配合量は、樹脂成分100重量部に対し、好ましくは0.01~20重量部、より好ましくは0.5~10重量部、さらに好ましくは1~5重量部である。
【0102】
(X-iv)ハロゲン系難燃剤
ハロゲン系難燃剤としては、臭素化ポリカーボネート(オリゴマーを含む)が特に好適である。臭素化ポリカーボネートは耐熱性に優れ、かつ大幅に難燃性を向上できる。臭素化ポリカーボネートとしては、下記一般式〔8〕で表される構成単位が全構成単位の好ましくは少なくとも60モル%、より好ましくは少なくとも80モル%であり、特に好ましくは実質的に下記一般式〔8〕で表される構成単位からなる臭素化ポリカーボネート化合物である。
【0103】
【0104】
式〔8〕中、Zは炭素数1~4のアルキレン基、炭素数1~4のアルキリデン基または-SO2-である。また、かかる式〔8〕において、好適にはZはメチレン基、エチレン基、イソプロピリデン基、-SO2-、特に好ましくはイソプロピリデン基を示す。臭素化ポリカーボネートは、残存するクロロホーメート基末端が少なく、末端塩素量が0.3ppm以下であることが好ましく、より好ましくは0.2ppm以下である。かかる末端塩素量は、試料を塩化メチレンに溶解し、4-(p-ニトロベンジル)ピリジンを加えて末端塩素(末端クロロホーメート)と反応させ、これを紫外可視分光光度計(日立製作所製U-3200)により測定して求めることができる。末端塩素量が0.3ppm以下で
あると、ポリカーボネート樹脂組成物の熱安定性がより良好となり、更に高温の成形が可能となり、その結果成形加工性により優れた樹脂組成物が提供される。また臭素化ポリカーボネートは、残存する水酸基末端が少ないことが好ましい。より具体的には臭素化ポリカーボネートの構成単位1モルに対して、末端水酸基量が0.0005モル以下であることが好ましく、より好ましくは0.0003モル以下である。末端水酸基量は、試料を重クロロホルムに溶解し、1H-NMR法により測定して求めることができる。かかる末端水酸基量であると、ポリカーボネート樹脂組成物の熱安定性が更に向上し好ましい。臭素化ポリカーボネートの比粘度は、好ましくは0.015~0.1の範囲、より好ましくは0.015~0.08の範囲である。臭素化ポリカーボネートの比粘度は、前述した本発明のA成分であるポリカーボネート樹脂の粘度平均分子量を算出するに際し使用した上記比粘度の算出式に従って算出されたものである。ハロゲン系難燃剤の含有量は、A成分とB成分との合計100重量部に対し、1~30重量部であることが好ましく、より好ましくは2~27重量部、さらに好ましくは3~25重量部である。
【0105】
また、ハロゲン系難燃剤は酸化アンチモン化合物との併用により樹脂組成物の難燃性をさらに高めることができる。酸化アンチモン化合物としては、三酸化アンチモン、四酸化アンチモン、(NaO)p・(Sb2O5)・qH2O(p=0~1、q=0~4)で表される五酸化アンチモンおよびアンチモン酸ナトリウムを使用することができる。酸化アンチモン化合物は、好ましくは粒径0.02~5μmの粒子として用いられる。酸化アンチモン化合物の配合量は、樹脂成分100重量部に対し、0.5~10重量部が好ましく、より好ましくは1~5重量部である。
【0106】
(XI)他の樹脂やエラストマー
本発明のポリカーボネート樹脂組成物には、他の樹脂やエラストマーを本発明の効果を発揮する範囲において、少割合使用することもできる。他の樹脂やエラストマーの配合量はポリカーボネート樹脂組成物100重量%中、好ましくは20重量%以下、より好ましくは10重量%以下、更に好ましくは5重量%以下である。かかる他の樹脂としては、例えばポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリウレタン樹脂、シリコーン樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリフェニレンスルフィド樹脂、ポリスルホン樹脂、ポリメタクリレート樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂等の樹脂が挙げられる。また、エラストマーとしては、例えばイソブチレン/イソプレンゴム、スチレン/ブタジエンゴム、エチレン/プロピレンゴム、アクリル系エラストマー、ポリエステル系エラストマー、ポリアミド系エラストマー、コアシェル型のエラストマーであるMBS(メタクリル酸メチル/スチレン/ブタジエン)ゴム、MB(メタクリル酸メチル/ブタジエン)ゴム、MAS(メタクリル酸メチル/アクリロニトリル/スチレン)ゴム等が挙げられる。
【0107】
(XII)その他の添加剤
本発明のポリカーボネート樹脂組成物には、その他の流動改質剤、抗菌剤、流動パラフィンの如き分散剤、光触媒系防汚剤およびフォトクロミック剤などを配合することができる。
【0108】
<樹脂組成物の製造について>
本発明の樹脂組成物の調製には任意の方法が採用される。例えばA成分、B成分、C成分および任意に他の成分を予備混合し、その後溶融混練し、ペレット化する方法を挙げることができる。予備混合の手段としては、ナウターミキサー、V型ブレンダー、ヘンシェルミキサー、メカノケミカル装置、押出混合機などを挙げることができる。予備混合においては必要に応じて押出造粒器やブリケッティングマシーンなどにより造粒を行うこともできる。他の方法としては例えば、パウダーの形態を有するものを含む場合、かかるパウダーの一部と配合する添加剤とをブレンドしてパウダーで希釈した添加剤のマスターバッ
チを製造し、かかるマスターバッチを利用する方法が挙げられる。予備混合後、ベント式二軸押出機に代表される溶融混練機で溶融混練、およびペレタイザー等の機器によりペレット化する。溶融混練機としては他にバンバリーミキサー、混練ロール、恒熱撹拌容器などを挙げることができるが、ベント式二軸押出機が好ましい。
【0109】
他に、各成分を予備混合することなく、それぞれ独立に二軸押出機に代表される溶融混練機に供給する方法も取ることができる。また一部の成分を予備混合した後、残りの成分と独立に溶融混練機に供給する方法が挙げられる。特に無機充填材が配合される場合には、無機充填材は押出機途中の供給口から溶融樹脂中にサイドフィーダーの如き供給装置を用いて供給されることが好ましい。予備混合の手段や造粒に関しては、前記と同様である。なお、配合する成分に液状のものがある場合には、溶融混練機への供給にいわゆる液注装置、または液添装置を使用することができる。
【0110】
押出機としては、原料中の水分や、溶融混練樹脂から発生する揮発ガスを脱気できるベントを有するものが好ましく使用できる。ベントからは発生水分や揮発ガスを効率よく押出機外部へ排出するための真空ポンプが好ましく設置される。また押出原料中に混入した異物などを除去するためのスクリーンを押出機ダイス部前のゾーンに設置し、異物を樹脂組成物から取り除くことも可能である。かかるスクリーンとしては金網、スクリーンチェンジャー、焼結金属プレート(ディスクフィルターなど)などを挙げることができる。
【0111】
溶融混練機としては二軸押出機の他にバンバリーミキサー、混練ロール、単軸押出機、3軸以上の多軸押出機などを挙げることができる。
【0112】
上記の如く押出された樹脂は、直接切断してペレット化するか、またはストランドを形成した後かかるストランドをペレタイザーで切断してペレット化される。ペレット化に際して外部の埃などの影響を低減する必要がある場合には、押出機周囲の雰囲気を清浄化することが好ましい。更にかかるペレットの製造においては、光学ディスク用ポリカーボネート樹脂において既に提案されている様々な方法を用いて、ペレットの形状分布の狭小化、ミスカット物の低減、運送または輸送時に発生する微小粉の低減、並びにストランドやペレット内部に発生する気泡(真空気泡)の低減を適宜行うことができる。これらの処方により成形のハイサイクル化、およびシルバーの如き不良発生割合の低減を行うことができる。またペレットの形状は、円柱、角柱、および球状など一般的な形状を取り得るが、より好適には円柱である。かかる円柱の直径は好ましくは1~5mm、より好ましくは1.5~4mm、さらに好ましくは2~3.3mmである。一方、円柱の長さは好ましくは1~30mm、より好ましくは2~5mm、さらに好ましくは2.5~3.5mmである。
【0113】
<金属成形体>
本発明の樹脂金属複合成形体を形成する金属材料は表面に凹凸を有している金属材料であり、溝部を有する接合部が形成された金属材料であることが好ましい。金属材料を構成する金属は特に制限されるものではなく、用途に応じて公知の金属から適宜選択することができる。例えば、鉄、各種ステンレス、アルミニウム又はその合金、銅、マグネシウム及びそれらを含む合金から選ばれるものを挙げることができる。これらの中でも、軽量かつ高強度の点から、アルミニウム(アルミニウム単体)およびアルミニウム合金が好ましく、アルミニウム合金がより好ましい。金属成形体は、金属材料を切断、プレス等による塑性加工、打ち抜き加工、切削、研磨、放電加工等の除肉加工によって、例えば平板状、曲板状、棒状、筒状、塊状等に加工される。金属成形体の表面は、樹脂との密着性を向上する上で表面積が大きいものが好ましく、具体的には表面を粗化処理したものが好ましい。金属部材表面の粗化処理方法は、公知のエッチング剤を用いた化学エッチング法やレーザーを用いたレーザー処理法が好適に用いられる。
【0114】
<樹脂金属複合成形体の作成>
本発明の樹脂金属複合成形体は、金属材料の溝部に樹脂成形体が入り込むことで、金属材料と樹脂成形体が接合一体化していることを特徴とする複合成形体である。該複合成形体を作成する方法としては、特に限定されず、射出成形、押出成形、加熱プレス成形、圧縮成形、トランスファーモールド成形、レーザー溶着成形、反応射出成形(RIM成形)、リム成形(LIM成形)、溶射成形等の樹脂成型方法が挙げられる。またアルミニウム表面に樹脂組成物皮膜をコーティングしたアルミニウム樹脂組成物皮膜からなる複合体を製造する場合は、溶剤に樹脂組成物を溶解又は分散させて塗布するコーティング法や、その他の各種塗装方法を挙げることができる。その他の塗装方法としては、焼き付け塗装、電着塗装、静電塗装、紛体塗装、紫外線硬化塗装等が挙げられる。中でも、樹脂組成物部分の形状の自由度や、生産性等の観点から、射出成形、トランスファーモールド成形が好ましい。前記列挙した成形方法の成形条件は、樹脂組成物に応じて公知の条件を採用することができる。
【発明の効果】
【0115】
本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、特定の構成単位を有する変性ポリカーボネート樹脂を含有することにより、金属との密着性が改善された様々な環境下でも接合強度の低下が少ない樹脂組成物である。これらの技術は従来の樹脂金属密着化技術にはないものであり、OA機器分野、電気電子機器分野などの各種工業用途に極めて有用であり、その奏する工業的効果は極めて大である。
【発明を実施するための形態】
【0116】
本発明者らが現在最良と考える本発明の形態は、前記の各要件の好ましい範囲を集約したものとなるが、例えば、その代表例を下記の実施例中に記載する。もちろん本発明はこれらの形態に限定されるものではない。
【実施例0117】
以下に実施例を挙げてさらに説明するが、本発明はそれに限定されるものではない。
尚、評価としては以下の項目について実施した。
【0118】
(i)密着強度
実施例の各組成から得られたペレットを100℃で5時間、熱風乾燥機にて乾燥し、射出成形機[住友重機械工業(株)SG150U・S-M IV]により、シリンダー温度280℃、金型温度90℃でISO19095-2に準拠した樹脂金属密着試験用試験片を成形した。(縦170mm×横10mm、厚さ4mm:突き合せタイプ)なお、金属成形体として、JIS H4000に規定された合金番号5052のアルミニウム板材(厚み:4mm)を、85mm×10mmの寸法に切断した後、レーザーにより金属表面に溝部を有する接合部が形成された金属成形体を使用した。溝部の径は40~80μm、深さは75~125μm、溝部間の間隔は90~120μmであった。得られた試験片を23℃、50%RHの条件下24時間調湿した後、ISO19095-3に従って、樹脂金属密着強度を測定した。(突き合せ試験片による引張強度)
(ii)湿熱試験後の金属密着強度
「(i)密着強度」に用いた複合成形体を80℃、85%RHにて200hr処理し、処理後の樹脂金属密着強度を測定した。
【0119】
[実施例1~6、比較例1~6]
表2記載の配合割合からなる樹脂組成物を以下の要領で作成した。尚、説明は以下の表中の記号にしたがって説明する。表の割合の各成分を計量して、タンブラーを用いて均一に混合し、かかる混合物を押出機に投入して樹脂組成物の作成を行った。押出機は、ベン
ト式二軸押出機(株)日本製鋼所製:TEX-30XSST(完全かみ合い、同方向回転、2条ネジスクリュー)を使用した。押出条件は吐出量20kg/h、スクリュー回転数150rpm、ベントの真空度3kPaであり、また押出温度は260~290℃とした。なお、強化充填材は上記押出機のサイドフィーダーを使用し第二供給口から供給し、残りのポリカーボネート樹脂および添加剤は第一供給口から押出機に供給した。ここでいう第一供給口とはダイスから最も離れた供給口であり、第二供給口とは押出機のダイスと第一供給口の間に位置する供給口である。得られたペレットを使用して上記のとおり、射出成形機を用いて評価用の試験片を成形した。各評価結果を表2に示す。なお、比較例4はペレット化ができなかった。
【0120】
なお、表2中記号表記の各成分は下記の通りである。
(A成分:変性ポリカーボネート樹脂)
A-1:下記製法により得られた粘度平均分子量22,300の変性ポリカーボネート樹脂パウダー
温度計、撹拌機および還流冷却器の付いた反応器に、48%水酸化ナトリウム水溶液4229部およびイオン交換水20,000部を仕込み、これに1,1-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)プロパン(以下Bis-1と略す)2191部、ビスフェノールA1951部およびハイドロサルファイト8.3部を溶解した後、塩化メチレン11,620部を加え、撹拌下、15~25℃でホスゲン2,200部を約60分かけて吹き込んだ。ホスゲンの吹き込み終了後、48%水酸化ナトリウム水溶液704部およびp-tert-ブチルフェノール102部を加え、撹拌を再開、乳化後トリエチルアミン4.32部を加え、さらに28~33℃で1時間撹拌して反応を終了した。反応終了後生成物を塩化メチレンで希釈して水洗した後、塩酸酸性にして水洗し、さらに水相の導電率がイオン交換水とほぼ同じになるまで水洗を繰り返し、ポリカーボネート樹脂の塩化メチレン溶液を得た。次いで、この溶液を目開き0.3μmのフィルターに通過させ、さらに軸受け部に異物取出口を有する隔離室付きニーダー中の温水に滴下、塩化メチレンを留去しながらポリカーボネート樹脂をフレーク化し、引続き該含液フレークを粉砕・乾燥してパウダーを得た。(構成単位(A)の含有量:50モル%)
A-2:粘度平均分子量22,100の変性ポリカーボネート樹脂パウダー
Bis-1を4382部、ビスフェノールAを0部に変更した以外はA-1と同様の方法によりパウダーを得た。(構成単位(A)の含有量:100モル%)
【0121】
(B成分:ポリカーボネート樹脂)
B-1:芳香族ポリカーボネート樹脂(ビスフェノールAとホスゲンから常法によって作られた粘度平均分子量19,800のポリカーボネート樹脂パウダー、帝人(株)製 パンライトL-1225WX(製品名))
【0122】
(C成分:強化充填材)
C-i:表1記載の組成1からなる円形断面ガラス繊維(繊維径11μm、カット長3mm、長径/短径比=1.0)
C-ii:表1記載の組成1からなる非円形断面ガラス繊維(繊維径15μm、カット長3mm、長径28μm、短径7μm)
(C成分以外:強化充填材)
C-iii:表1記載の組成2からなる円形断面ガラス繊維(繊維径11μm、カット長3mm、長径/短径比=1.0)
C-iv:表1記載の組成2からなる非円形断面ガラス繊維(繊維径15μm、カット長3mm、長径28μm、短径7μm)
なお、断面形状が非円形のガラス繊維における繊維径は、断面積を真円に換算したときの繊維径(換算繊維径)を意味する。
【0123】
【0124】
(D成分:ポリオレフィン樹脂)
D-1:ホモポリプロピレン樹脂((株)サンアロマー製 サンアロマーPL400A(製品名) MFR=2.0g/10min)
(E成分:スチレン系熱可塑性エラストマー)
E-1:スチレン-エチレン・プロピレン-スチレンブロック共重合体[スチレン含有量:65wt%、MFR:0.4g/10min、(株)クラレ製 セプトン2104(製品名)]
【0125】