(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022105864
(43)【公開日】2022-07-15
(54)【発明の名称】X線撮影装置およびX線管回転制御装置
(51)【国際特許分類】
H05G 1/66 20060101AFI20220708BHJP
H01J 35/10 20060101ALI20220708BHJP
A61B 6/00 20060101ALI20220708BHJP
【FI】
H05G1/66 C
H01J35/10 N
A61B6/00 300B
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021000460
(22)【出願日】2021-01-05
(71)【出願人】
【識別番号】000001993
【氏名又は名称】株式会社島津製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100104433
【弁理士】
【氏名又は名称】宮園 博一
(74)【代理人】
【識別番号】100155608
【弁理士】
【氏名又は名称】大日方 崇
(72)【発明者】
【氏名】森 一博
【テーマコード(参考)】
4C092
4C093
【Fターム(参考)】
4C092AA01
4C092AB19
4C092AB26
4C092AC01
4C092AC16
4C092BD05
4C092BD17
4C092CE04
4C092CF35
4C093AA01
4C093CA38
4C093EA02
4C093EC16
4C093FA15
4C093FA45
(57)【要約】
【課題】X線管またはX線保持部の構造の変更を行わずとも、X線管とX線管保持部との間での共振の発生を抑制することが可能なX線撮影装置を提供することである。
【解決手段】このX線撮影装置100は、回転陽極53aが回転する回転陽極型のX線管53と、X線管53を保持するX線管保持部3と、X線管53によるX線撮影時に、X線管53の回転陽極53aの回転数を変動させながら、X線管53の回転制御を行うX線管制御部54と、を備える。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転陽極が回転する回転陽極型のX線管と、
前記X線管を保持するX線管保持部と、
前記X線管によるX線撮影時に、前記X線管の前記回転陽極の回転数を変動させながら、前記X線管の回転制御を行うX線管制御部と、を備える、X線撮影装置。
【請求項2】
前記X線管制御部は、前記X線管の冷却効率に基づいて決まる前記X線管の駆動時回転数に対する低速側および高速側の両側に、前記X線管の前記回転陽極の回転数を変動させる制御を行うように構成されている、請求項1に記載のX線撮影装置。
【請求項3】
前記X線管の前記回転陽極の回転数を検出するための回転数検出部をさらに備え、
前記X線管制御部は、前記回転数検出部による前記X線管の前記回転陽極の回転数の検出結果に基づいて、フィードバック制御を行いながら、前記X線管の駆動時回転数に対する低速側に前記X線管の前記回転陽極の回転数を変動させる制御を行うとともに、フィードバック制御を行いながら、前記X線管の駆動時回転数に対する高速側に、前記X線管の前記回転陽極の回転数を変動させる制御を行うように構成されている、請求項2に記載のX線撮影装置。
【請求項4】
前記X線管制御部は、前記X線管によるX線撮影時に、前記X線管の前記回転陽極の回転数を連続的に変動させながら、前記X線管の回転制御を行うように構成されている、請求項1~3のいずれか1項に記載のX線撮影装置。
【請求項5】
前記X線管制御部は、振動に関する条件に基づいて、前記X線管の前記回転陽極の回転数を変動させる前記X線管の回転制御を行うか、または、前記X線管の前記回転陽極の回転数を変動させない前記X線管の通常の回転制御を行うかを決定する制御を行うように構成されている、請求項1~4のいずれか1項に記載のX線撮影装置。
【請求項6】
前記X線管制御部は、前記X線管のX線撮影時の回転数の条件に基づいて、前記X線管の前記回転陽極の回転数を変動させる前記X線管の回転制御を行うか、または、前記X線管の前記回転陽極の回転数を変動させない前記X線管の通常の回転制御を行うかを決定する制御を行うように構成されている、請求項5に記載のX線撮影装置。
【請求項7】
前記X線管制御部は、前記X線管のX線撮影時の位置の条件に基づいて、前記X線管の前記回転陽極の回転数を変動させる前記X線管の回転制御を行うか、または、前記X線管の前記回転陽極の回転数を変動させない前記X線管の通常の回転制御を行うかを決定する制御を行うように構成されている、請求項5または6に記載のX線撮影装置。
【請求項8】
振動を検出するための振動検出部をさらに備え、
前記X線管制御部は、前記振動検出部により検出したX線撮影時の振動の条件に基づいて、前記X線管の前記回転陽極の回転数を変動させる前記X線管の回転制御を行うか、または、前記X線管の前記回転陽極の回転数を変動させない前記X線管の通常の回転制御を行うかを決定する制御を行うように構成されている、請求項5~7のいずれか1項に記載のX線撮影装置。
【請求項9】
X線管保持部により保持された、回転陽極が回転する回転陽極型のX線管と、
前記X線管によるX線撮影時に、前記X線管の前記回転陽極の回転数を変動させながら、前記X線管の回転制御を行うX線管制御部と、を備える、X線管回転制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、X線撮影装置およびX線管回転制御装置に関し、特に、回転陽極が回転する回転陽極型のX線管を備えるX線撮影装置およびX線管回転制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、回転陽極が回転する回転陽極型のX線管を備えるX線管回転制御装置が知られている(たとえば、特許文献1参照)。
【0003】
上記特許文献1には、回転陽極が回転する回転陽極型のX線管装置を備えるX線装置(X線管回転制御装置)が開示されている。このX線装置では、撮影が終了すると、X線管装置の回転陽極を惰性運転させるとともに、X線管装置の回転陽極の回転数がX線管装置の共振周波数近傍まで落ちると、X線管装置の回転陽極を制動させる。これにより、このX線装置では、X線管装置の回転陽極の回転数が共振周波数近傍を通過する時間を短くして、X線管装置での共振の発生を抑制している。また、このX線装置は、X線撮影装置に搭載されて用いられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ここで、上記特許文献1には明記されていないが、従来のX線撮影装置では、X線管の回転陽極の回転に起因して発生する振動の振動数と、X線管を保持するX線管保持部(たとえば、Cアーム型のX線管保持部)の固有振動数(共振点)とが一致した場合にも、共振が発生する。この場合、X線管またはX線管保持部の構造の変更を行うことにより、共振の発生を抑制することも考えられる。しかしながら、X線管またはX線管保持部の構造の変更を行う場合には、多くの労力を必要とするという不都合がある。このため、X線管またはX線保持部の構造の変更を行わずに、X線管とX線管保持部との間での共振の発生を抑制することが困難であるという問題点がある。
【0006】
この発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、この発明の1つの目的は、X線管またはX線保持部の構造の変更を行わずとも、X線管とX線管保持部との間での共振の発生を抑制することが可能なX線撮影装置およびX線管回転制御装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、この発明の第1の局面におけるX線撮影装置は、回転陽極が回転する回転陽極型のX線管と、X線管を保持するX線管保持部と、X線管によるX線撮影時に、X線管の回転陽極の回転数を変動させながら、X線管の回転制御を行うX線管制御部と、を備える。
【0008】
また、上記目的を達成するために、この発明の第2の局面におけるX線管回転制御装置は、X線管保持部により保持された、回転陽極が回転する回転陽極型のX線管と、X線管によるX線撮影時に、X線管の回転陽極の回転数を変動させながら、X線管の回転制御を行うX線管制御部と、を備える。
【発明の効果】
【0009】
上記第1の局面におけるX線撮影装置および上記第2の局面によるX線管回転制御装置では、X線管によるX線撮影時に、X線管の回転陽極の回転数を変動させながら、X線管の回転制御を行うX線管制御部を設ける。これにより、X線管の回転陽極の回転数を変動させるので、X線管の回転陽極の回転に起因して発生する振動の振動数を変動させることができる。その結果、X線管の回転陽極の回転に起因して発生する振動の振動数と、X線管保持部の固有振動数(共振点)とが一致すること(一致し続けること)を抑制することができる。これにより、X線管またはX線保持部の構造の変更を行わずとも、X線管とX線管保持部との間での共振の発生を抑制することができる。
【0010】
また、たとえばCアーム型のX線管保持部のように、X線管保持部がX線管を移動させることが可能なように保持している場合、X線管を移動させることに起因してX線管保持部の剛性が変化する場合がある。この場合、X線管保持部の固有振動数はX線管保持部の剛性に応じて変化するため、X線管保持部の剛性の変化に応じてX線管保持部の固有振動数が変化する。このように、X線管の移動した位置に応じて、X線管保持部の固有振動数が変化する場合、避けるべきX線管保持部の固有振動数が多数存在するため、X線管またはX線保持部の構造の変更だけで、X線管とX線管保持部との共振の発生を抑制することは非常に困難である。このため、たとえばCアーム型のX線管保持部のように、X線管保持部がX線管を移動させることが可能なように保持している場合に、X線管またはX線保持部の構造の変更を行わずに、X線管の回転陽極の回転数を変動させることにより、X線管とX線管保持部との間での共振の発生を抑制することができることは、非常に効果的である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】一実施形態によるX線撮影装置の構成を説明するための模式図である。
【
図2】一実施形態によるX線管回転制御装置の構成を説明するための模式図である。
【
図3】一実施形態によるX線管回転制御装置によるX線管の通常の回転制御を説明するための模式的なグラフである。
【
図4】一実施形態によるX線管回転制御装置によるX線管のゆらぎの回転制御を説明するための模式的なグラフである。
【
図5】一実施形態によるX線管の回転陽極の回転数に基づくX線管のゆらぎの回転制御と、X線管の通常の回転制御との切り替えを説明するための模式的なグラフである。
【
図6】一実施形態によるX線管の位置に基づくX線管のゆらぎの回転制御と、X線管の通常の回転制御との切り替えを説明するための模式図である。
【
図7】一実施形態による振動に基づくX線管のゆらぎの回転制御と、X線管の通常の回転制御との切り替えを説明するための模式図である。
【
図8】X線管のゆらぎの回転制御による振動抑制の確認実験に用いたX線管の周波数特性を示すグラフである。
【
図9】X線管のゆらぎの回転制御による振動抑制の確認実験の結果を示すグラフである。
【
図10】一実施形態によるX線撮影装置によるX線検査処理を説明するためのフローチャートである。
【
図11】一実施形態によるX線撮影装置によるゆらぎの回転制御処理を説明するためのフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を具体化した一実施形態を図面に基づいて説明する。
【0013】
(X線撮影装置の構成)
図1~
図7を参照して、本発明の一実施形態によるX線撮影装置100の構成について説明する。
【0014】
図1および
図2に示すように、X線撮影装置100は、X線源1と、X線検出器2と、X線管保持部3と、寝台4と、X線管回転制御装置5(
図2参照)と、振動検出部6と、を備えている。本実施形態では、X線撮影装置100は、X線により被検者80を撮影することにより、被検者80の関心領域の治療および診断などを行うためのX線画像を取得するように構成されている。なお、
図1に示す例では、上下方向をZ方向とし、上方向をZ1方向、下方向をZ2方向としている。また、Z方向と直交する水平面内において互いに直交する方向を、X方向およびY方向としている。X方向のうち、一方側をX1方向、他方側をX2方向としている。また、Y方向のうち、一方側をY1方向、他方側をY2方向としている。
【0015】
X線源1は、被検者80にX線を照射するように構成されている。X線源1は、高電圧が印加されることにより、X線を発生させるとともに、発生させたX線をX線検出器2に向けて照射するように構成されている。X線源1は、後述する回転陽極型のX線管53(
図2参照)を含んでいる。
【0016】
X線検出器2は、X線源1から照射されたX線を検出するように構成されている。また、X線検出器2は、検出されたX線を電気信号に変換し、変換された電気信号を画像信号として読み取るように構成されている。X線検出器2は、たとえば、FPD(Flat Panel Detector)である。
【0017】
X線管保持部3は、アーム31と、アーム保持部32とを含んでいる。アーム31は、少なくともX線管53を含むX線源1を保持するように構成されている。具体的には、アーム31は、X線管53を含むX線源1と、X線検出器2とを保持するように構成されている。より具体的には、アーム31は、円弧状の形状を有しており、一端と他端とに、X線源1と、X線検出器2とを保持している。アーム31は、いわゆるCアームである。また、アーム31は、アーム保持部32に保持されている。アーム31は、アーム保持部32に回転可能に保持されている。
【0018】
アーム保持部32は、アーム31を保持するように構成されている。また、アーム保持部32は、アーム31を駆動するように構成されている。本実施形態では、アーム保持部32は、矢印70に示すように、回転軸線71周りに回動可能にアーム31を保持している。また、アーム保持部32は、アーム31をアーム31の周方向(矢印72方向)に移動可能に構成されている。アーム保持部32は、アーム31を駆動するための駆動源としてモータを含んでいる。なお、アーム31をアーム31の周方向(矢印72方向)に移動させた場合、アーム保持部32から見た場合のアーム31の一方側(X線源1側)と他方側(X線検出器2側)との長さが変化する。この場合、X線管保持部3の全体の剛性が変化するとともに、X線管保持部3の全体の固有振動数はX線管保持部3の全体の剛性に応じて変化するため、X線管保持部3の全体の固有振動数が変化する。
【0019】
寝台4は、天板4aと、天板移動機構4bとを含んでいる。天板4aには、被検者80が載置される。なお、X方向は、天板4aの長手方向である。言い換えると、X方向は、被検者80の頭足(体長)方向である。また、Y方向は、天板4aの短手方向である。言い換えると、Y方向は、被検者80の体軸方向である。
【0020】
天板移動機構4bは、天板4aを移動させるように構成されている。具体的には、天板移動機構4bは、天板4aをZ方向に移動させるように構成されている。また、天板移動機構4bは、天板4aを、XY平面において平行移動させるように構成されている。また、天板移動機構4bは、天板4aを傾斜させることが可能なように構成されている。
【0021】
図2に示すように、X線管回転制御装置(スタータ)5は、整流平滑回路51と、インバータ52と、X線管53と、X線管制御部54と、回転数検出回路55とを含んでいる。整流平滑回路51は、商用電源200に接続されており、商用電源200からの交流電力を所定の直流電力に変換するように構成されている。インバータ52は、整流平滑回路51に接続されており、整流平滑回路51からの所定の直流電力を所定の交流電力(50Hz、60Hz、180Hzなど)に変換するように構成されている。インバータ52により変換された所定の交流電力は、X線管53の後述するコイル53bおよび53cに供給される。
【0022】
X線管53は、回転陽極型のX線管である。X線管53は、回転陽極53aと、2つのコイル53bおよび53cとを有している。回転陽極53aは、電子ビームの衝突によりX線を発生させるように構成されている。また、回転陽極53aは、電子ビームの衝突により発生する熱の冷却のために、回転されるように構成されている。回転陽極53aは、ベアリングを含む回転機構に回転可能に保持されている。コイル53bおよび53cは、インバータ52からの所定の交流電力により、モータと同様の原理で、回転陽極53aを回転させるように構成されている。コイル53bおよび53cは、ステータコイルとして機能する。また、コイル53cは、進相コンデンサ56に接続されており、進相コンデンサ56により90度位相が進められた所定の交流電力が供給されるように構成されている。
【0023】
X線管制御部54は、駆動シーケンス記憶部54aと、周波数切替回路54bと、周波数制御回路54cと、駆動回路54dとを有している。駆動シーケンス記憶部54aには、X線管53を駆動するための駆動条件(起動時間、間欠駆動時間など)が記憶されている。周波数切替回路54bは、X線管53の駆動周波数(すなわち、回転陽極53aの回転数)を切り替えるように構成されている。周波数制御回路54cは、周波数切替回路54bで切り替えた駆動周波数でX線管53を駆動するための制御信号を駆動回路54dに出力するように構成されている。駆動回路54dは、周波数制御回路54cからの制御信号に基づいて、駆動周波数でX線管53を駆動するようにインバータ52を駆動するように構成されている。
【0024】
回転数検出回路55は、X線管53の回転陽極53aの回転数を検出するように構成されている。また、回転数検出回路55は、X線管53の回転陽極53aの回転数の検出結果をX線管制御部54の周波数制御回路54cに出力するように構成されている。X線管制御部54は、X線管53の回転陽極53aの回転数の検出結果に基づいて、X線管53の回転陽極53aの回転数に対するフィードバック制御を行うことが可能なように構成されている。なお、回転数検出回路55は、特許請求の範囲の「回転数検出部」の一例である。
【0025】
図1に示すように、振動検出部6は、X線撮影装置100の振動を検出するように構成されている。本実施形態では、振動検出部6は、X線管53とX線管保持部3との間での共振を検出するために設けられている。振動検出部6としては、たとえば、加速度センサおよび速度センサなどの振動センサを採用することができる。なお、
図1に示す例では、X線管保持部3のアーム31に振動検出部6が設けられているが、X線管53とX線管保持部3との共振を検出できれば、振動検出部6はX線管保持部3のアーム31以外に設けられていてもよい。たとえば、振動検出部6は、X線管保持部3のアーム保持部32に設けられていてもよいし、X線源1に設けられていてもよい。
【0026】
(X線管の通常の回転制御)
次に、
図3を参照して、X線管53の通常の回転制御について説明する。
【0027】
X線管制御部54は、略一定の駆動時回転数でX線管53の回転陽極53aが回転するように、X線管53の通常の回転制御を行うように構成されている。具体的には、X線管制御部54は、X線の発生量が少ない低負荷X線撮影時(いわゆる透視撮影時)には、低負荷X線撮影用の駆動時回転数(たとえば60Hz)で、X線管53の回転陽極53aが回転するように、X線管53の通常の回転制御を行うように構成されている。また、X線管制御部54は、X線の発生量が多い高負荷X線撮影時(いわゆる一般撮影時)には、高負荷X線撮影用の駆動時回転数(たとえば180Hz)で、X線管53の回転陽極53aが回転するように、X線管53の通常の回転制御を行うように構成されている。なお、駆動時回転数は、X線管53に必要な冷却効率に基づいて、予め決定されている。
【0028】
(X線管のゆらぎの回転制御)
ここで、本実施形態では、
図4に示すように、X線管制御部54は、X線管53によるX線撮影時に、X線管53の回転陽極53aの回転数を変動させながら、X線管53の回転制御を行うように構成されている。具体的には、X線管制御部54は、X線管53によるX線撮影時に、X線管53の回転陽極53aの回転数を連続的に変動させながら、X線管53の回転制御を行うように構成されている。より具体的には、X線管制御部54は、X線管53によるX線撮影時に、X線管53の回転陽極53aの回転数を略一定のインターバルで変動させながら、X線管53の回転制御を行うように構成されている。なお、以下では、適宜、X線管53の回転陽極53aの回転数を変動させるX線管53の回転制御を、ゆらぎの回転制御と称する。
【0029】
また、本実施形態では、X線管制御部54は、X線管53の冷却効率に基づいて決まるX線管53の駆動時回転数に対する低速側および高速側の両側に、X線管53の回転陽極53aの回転数を変動させる制御を行うように構成されている。たとえば、低負荷X線撮影時に、ゆらぎの回転制御を行う場合には、X線管制御部54は、低負荷X線撮影用のX線管53の駆動時回転数(60Hz)に対する低速側(60Hzよりも小さい側)および高速側(60Hzよりも大きい側)の両側に、X線管53の回転陽極53aの回転数を変動させる制御を行うように構成されている。また、たとえば、高負荷X線撮影時に、ゆらぎの回転制御を行う場合には、X線管制御部54は、高負荷X線撮影用のX線管53の駆動時回転数(180Hz)に対する低速側(180Hzよりも小さい側)および高速側(180Hzよりも大きい側)の両側に、X線管53の回転陽極53aの回転数を変動させる制御を行うように構成されている。
【0030】
具体的には、X線管制御部54は、回転数検出回路55によるX線管53の回転陽極53aの回転数の検出結果に基づいて、フィードバック制御を行いながら、X線管53の駆動時回転数に対する低速側にX線管53の回転陽極53aの回転数を変動させる制御を行うとともに、フィードバック制御を行いながら、X線管53の駆動時回転数に対する高速側に、X線管53の回転陽極53aの回転数を変動させる制御を行うように構成されている。
【0031】
低速側への回転数の変動時には、X線管制御部54は、回転数検出回路55によるX線管53の回転陽極53aの回転数の検出結果に基づいて、駆動時回転数よりも小さい予め決められた下限回転数を目標値として、フィードバック制御を行うように構成されている。すなわち、X線管制御部54は、X線管53の回転陽極53aの回転数が下限回転数になるように、フィードバック制御を行うように構成されている。また、高速側への回転数の変動時には、X線管制御部54は、回転数検出回路55によるX線管53の回転陽極53aの回転数の検出結果に基づいて、駆動時回転数よりも大きい予め決められた上限回転数を目標値として、フィードバック制御を行うように構成されている。すなわち、X線管制御部54は、X線管53の回転陽極53aの回転数が上限回転数になるように、フィードバック制御を行うように構成されている。なお、下限回転数および上限回転数としては、実験などにより予め適切な値が求められている。
【0032】
ここで、X線管53の回転陽極53aは、所定の周波数の交流電圧を印加すると、所定の周波数よりもX線管53の回転陽極53aの回転数が小さい場合には、加速する(回転数が大きくなる)とともに、所定の周波数よりもX線管53の回転陽極53aの回転数が大きい場合には、減速する(回転数が小さくなる)。
【0033】
このため、X線管制御部54は、低速側への回転数の変動時には、X線管53の回転陽極53aに現在回転数よりも小さい周波数の交流電圧を印加することにより、X線管53の回転陽極53aの回転数を減速させるように構成されている。また、X線管制御部54は、高速側への回転数の変動時には、X線管53の回転陽極53aに現在回転数よりも大きい周波数の交流電圧を印加することにより、X線管53の回転陽極53aの回転数を加速させるように構成されている。ゆらぎの回転制御において、X線管制御部54は、現在回転数よりも小さい周波数および現在回転数よりも大きい周波数の2種類の交流電圧の印加を交互に行うことにより、X線管53の回転陽極53aの回転数の加速と減速とを交互に行うように構成されている。
【0034】
また、本実施形態では、
図5~
図7に示すように、X線管制御部54は、振動に関する条件に基づいて、X線管53の回転陽極53aの回転数を変動させるX線管53の回転制御(ゆらぎの回転制御)を行うか、または、X線管53の回転陽極53aの回転数を変動させないX線管53の通常の回転制御を行うかを決定する制御を行うように構成されている。
【0035】
たとえば、
図5に示すように、X線管制御部54は、X線管53のX線撮影時の回転数の条件に基づいて、X線管53の回転陽極53aの回転数を変動させるX線管53の回転制御(ゆらぎの回転制御)を行うか、または、X線管53の回転陽極53aの回転数を変動させないX線管53の通常の回転制御を行うかを決定する制御を行うように構成されている。具体的には、X線管制御部54は、X線撮影が、低回転数でX線管53の回転陽極53aを回転させる低負荷X線撮影であるか、または、高回転数でX線管53の回転陽極53aを回転させる高負荷X線撮影であるかに基づいて、X線管53の回転陽極53aの回転数を変動させるX線管53の回転制御(ゆらぎの回転制御)を行うか、または、X線管53の回転陽極53aの回転数を変動させないX線管53の通常の回転制御を行うかを決定する制御を行うように構成されている。
【0036】
低負荷X線撮影時および高負荷X線撮影時のいずれにおいてX線管53のゆらぎの回転制御が行われてもよいが、
図5に示す例では、高負荷X線撮影時にX線管53のゆらぎの回転制御が行われるとともに、低負荷X線撮影時にX線管53の通常の回転制御が行われる例を示している。この場合、エネルギが高く共振時の振動が大きくなりやすい高速回転において、X線管53とX線管保持部3との間での共振の発生を効果的に抑制することが可能である。また、低負荷X線撮影時および高負荷X線撮影時のいずれにおいて、X線管53とX線管保持部3との間での共振が発生するかについては、実験などにより予め特定しておくことが可能である。このため、低負荷X線撮影時および高負荷X線撮影時のうち、X線管53とX線管保持部3との間での共振が発生する方で、X線管53のゆらぎの回転制御を行えばよい。
【0037】
また、たとえば、
図6に示すように、X線管制御部54は、X線管53のX線撮影時の位置の条件に基づいて、X線管53の回転陽極53aの回転数を変動させるX線管53の回転制御(ゆらぎの回転制御)を行うか、または、X線管53の回転陽極53aの回転数を変動させないX線管53の通常の回転制御を行うかを決定する制御を行うように構成されている。具体的には、X線管制御部54は、X線管53の位置が所定の位置範囲に存在するか否かに基づいて、X線管53の回転陽極53aの回転数を変動させるX線管53の回転制御(ゆらぎの回転制御)を行うか、または、X線管53の回転陽極53aの回転数を変動させないX線管53の通常の回転制御を行うかを決定する制御を行うように構成されている。なお、X線管53の位置は、たとえば、X線管保持部3のモータの位置検出部(エンコーダなど)の出力などに基づいて、取得することが可能である。
【0038】
X線管制御部54は、X線管53の位置が所定の位置範囲に存在する場合、X線管53の回転陽極53aの回転数を変動させるX線管53の回転制御(ゆらぎの回転制御)を行うように構成されている。また、X線管制御部54は、X線管53の位置が所定の位置範囲に存在しない場合、X線管53の回転陽極53aの回転数を変動させないX線管53の通常の回転制御を行うように構成されている。また、いずれの位置において、X線管53とX線管保持部3との間での共振が発生するかについては、実験などにより予め特定しておくことが可能である。このため、X線管53とX線管保持部3との間での共振が発生する位置範囲を、所定の位置範囲として設定することが可能である。
【0039】
また、たとえば、
図7に示すように、X線管制御部54は、振動検出部6により検出したX線撮影時の振動の条件に基づいて、X線管53の回転陽極53aの回転数を変動させるX線管53の回転制御(ゆらぎの回転制御)を行うか、または、X線管53の回転陽極53aの回転数を変動させないX線管53の通常の回転制御を行うかを決定する制御を行うように構成されている。具体的には、X線管制御部54は、振動検出部6により検出した振動の振動値(振幅)が基準値以上であるか否かに基づいて、X線管53の回転陽極53aの回転数を変動させるX線管53の回転制御(ゆらぎの回転制御)を行うか、または、X線管53の回転陽極53aの回転数を変動させないX線管53の通常の回転制御を行うかを決定する制御を行うように構成されている。なお、基準値は、X線管53とX線管保持部3との間での共振が発生したか否かを判定するためのものであり、実験などにより予め求められている。
【0040】
X線管制御部54は、振動検出部6により検出した振動の振動値が基準値以上である場合、X線管53の回転陽極53aの回転数を変動させるX線管53の回転制御(ゆらぎの回転制御)を行うように構成されている。また、X線管制御部54は、振動検出部6により検出した振動の振動値が基準値未満である場合、X線管53の回転陽極53aの回転数を変動させないX線管53の通常の回転制御を行うように構成されている。
【0041】
(振動抑制の確認実験)
次に、
図8および
図9を参照して、X線管のゆらぎの回転制御による振動抑制の確認実験について説明する。
【0042】
図8は、確認実験で用いたX線管の周波数特性を示すグラフである。
図8に示すグラフでは、縦軸は、X線管の振幅(振動値)を示し、横軸は、X線管の回転数を示している。
図8に示すグラフでは、X線管の回転数が70Hzである場合に、X線管の振幅の最大のピークが得られた。このことから、確認実験で用いたX線管の共振周波数が70Hzであることが分かった。
【0043】
図9は、確認実験で用いたX線管の回転数と振幅との関係を示すグラフである。
図9に示すグラフでは、左側の縦軸は、X線管の振幅(振動値)を示し、右側の縦軸は、X線管の回転数を示し、横軸は、時間を示している。確認実験では、X線管の回転陽極を共振周波数(70Hz)になるまで加速して振幅を測定した後、X線管の回転陽極の回転数を共振周波数の近傍で高速側および低速側の両側に変動させながら振幅を測定した。すなわち、X線管の通常の回転制御時のX線管の振幅を測定した後、X線管のゆらぎの回転制御時のX線管の振幅を測定した。
【0044】
図9に示すグラフから、X線管のゆらぎの回転制御を行った場合、X線管の通常の回転制御を行った場合に比べて、X線管の振幅が半分程度まで減少することが分かった。また、X線管のゆらぎの回転制御を行った場合のX線管の振幅は、X線管の回転数がX線管の共振周波数を通過する時間Δtと相関することが分かった。X線管の回転数がX線管の共振周波数を通過する時間Δtは、X線管のゆらぎの回転制御時の、加速と減速とを含む速度制御の幅、および、X線管への印加電圧などで制御することができる。このため、X線管のゆらぎの回転制御時の、加速と減速とを含む速度制御の幅、および、X線管への印加電圧などを制御することで、振幅を所望の振幅まで低減することができる。
【0045】
なお、確認実験では、実験の容易化のため、X線管の共振周波数(固有振動数)に対して、X線管のゆらぎの回転制御を行っているが、X線管を保持するX線管保持部の共振周波数(固有振動数)に対しても、X線管の場合と同様に、振幅の低減効果(共振の抑制効果)が得られると考えられる。
【0046】
(X線検査処理)
次に、
図10を参照して、本実施形態のX線撮影装置100によるX線検査処理をフローチャートに基づいて説明する。
【0047】
図10に示すように、まず、ステップ101において、X線検査が開始される。
【0048】
そして、ステップ102において、X線撮影が透視撮影(低負荷X線撮影)であるか否かが判断される。X線撮影が透視撮影であると判断された場合、ステップ103に進む。
【0049】
そして、ステップ103において、振動抑制(共振抑制)するか否かが判断される。振動抑制しないと判断された場合、ステップ114に進み、X線管53の通常の回転制御が行われる。また、振動抑制すると判断された場合、ステップ104に進む。
【0050】
そして、ステップ104において、メカ位置制御するか否か判断される。メカ位置制御しないと判断された場合、ステップ113に進み、X線管53のゆらぎの回転制御が行われる。また、メカ位置制御すると判断された場合、ステップ105に進む。
【0051】
そして、ステップ105において、X線管53の位置がメカ位置範囲内(所定の位置範囲内)であるか否かが判断される。X線管53の位置がメカ位置範囲内でないと判断された場合、ステップ114に進み、X線管53の通常の回転制御が行われる。また、X線管53の位置がメカ位置範囲内であると判断された場合、ステップ106に進む。
【0052】
そして、ステップ106において、振動検出部6により共振検出するか否かが判断される。振動検出部6により共振検出しないと判断された場合、ステップ113に進み、X線管53のゆらぎの回転制御が行われる。また、振動検出部6により共振検出すると判断された場合、ステップ107に進む。
【0053】
そして、ステップ107において、振動検出部6により共振(振動)検出したか否かが判断される。振動検出部6により共振検出していないと判断された場合、ステップ114に進み、X線管53の通常の回転制御が行われる。また、振動検出部6により共振検出したと判断された場合、ステップ113に進み、X線管53のゆらぎの回転制御が行われる。
【0054】
また、ステップ102において、X線撮影が透視撮影でないと判断された場合(高負荷撮影であると判断された場合)、ステップ108に進む。
【0055】
そして、ステップ108において、振動抑制(共振抑制)するか否かが判断される。振動抑制しないと判断された場合、ステップ114に進み、X線管53の通常の回転制御が行われる。また、振動抑制すると判断された場合、ステップ109に進む。
【0056】
そして、ステップ109において、メカ位置制御するか否か判断される。メカ位置制御しないと判断された場合、ステップ113に進み、X線管53のゆらぎの回転制御が行われる。また、メカ位置制御すると判断された場合、ステップ110に進む。
【0057】
そして、ステップ110において、X線管53の位置がメカ位置範囲内(所定の位置範囲内)であるか否かが判断される。X線管53の位置がメカ位置範囲内でないと判断された場合、ステップ114に進み、X線管53の通常の回転制御が行われる。また、X線管53の位置がメカ位置範囲内であると判断された場合、ステップ111に進む。
【0058】
そして、ステップ111において、振動検出部6により共振検出するか否かが判断される。振動検出部6により共振検出しないと判断された場合、ステップ113に進み、X線管53のゆらぎの回転制御が行われる。また、振動検出部6により共振検出すると判断された場合、ステップ112に進む。
【0059】
そして、ステップ112において、振動検出部6により共振(振動)検出したか否かが判断される。振動検出部6により共振検出していないと判断された場合、ステップ114に進み、X線管53の通常の回転制御が行われる。また、振動検出部6により共振検出したと判断された場合、ステップ113に進み、X線管53のゆらぎの回転制御が行われる。
【0060】
なお、ステップ107および112の共振検出処理は、X線管53の通常の回転制御中にも行われてもよい。
【0061】
(ゆらぎの回転制御処理)
次に、
図11を参照して、
図10のステップ113のゆらぎの回転制御処理の詳細をフローチャートに基づいて説明する。
【0062】
図11に示すように、まず、ステップ201において、X線管53の回転陽極53aの回転数を加速する制御が行われる。
【0063】
そして、ステップ202において、回転数検出回路55により検出されたX線管53の回転陽極53aの回転数が上限回転数よりも大きいか否かが判断される。回転数検出回路55により検出されたX線管53の回転陽極53aの回転数が上限回転数よりも大きくないと判断された場合、ステップ203に進む。
【0064】
そして、ステップ203において、X線管53のゆらぎの回転制御を終了するか否かが判断される。X線管53のゆらぎの回転制御を終了すると判断された場合、ゆらぎの回転制御処理が終了される。また、X線管53のゆらぎの回転制御を終了しないと判断された場合、ステップ201に進む。そして、X線管53の回転陽極53aの回転数を加速する制御が継続される。そして、回転数検出回路55により検出されたX線管53の回転陽極53aの回転数が上限回転数よりも大きくなるまで、ステップ201~203の処理が繰り返される。
【0065】
また、ステップ202において、回転数検出回路55により検出されたX線管53の回転陽極53aの回転数が上限回転数よりも大きいと判断された場合、ステップ204に進む。
【0066】
そして、ステップ204において、X線管53の回転陽極53aの回転数を減速する制御が行われる。
【0067】
そして、ステップ205において、回転数検出回路55により検出されたX線管53の回転陽極53aの回転数が下限回転数よりも小さいか否かが判断される。回転数検出回路55により検出されたX線管53の回転陽極53aの回転数が下限回転数よりも小さくないと判断された場合、ステップ206に進む。
【0068】
そして、ステップ206において、X線管53のゆらぎの回転制御を終了するか否かが判断される。X線管53のゆらぎの回転制御を終了すると判断された場合、ゆらぎの回転制御処理が終了される。また、X線管53のゆらぎの回転制御を終了しないと判断された場合、ステップ204に進む。そして、X線管53の回転陽極53aの回転数を減速する制御が継続される。そして、回転数検出回路55により検出されたX線管53の回転陽極53aの回転数が下限回転数よりも小さくなるまで、ステップ204~206の処理が繰り返される。
【0069】
また、ステップ205において、回転数検出回路55により検出されたX線管53の回転陽極53aの回転数が下限回転数よりも小さいと判断された場合、ステップ201に進む。そして、ゆらぎの回転制御処理が終了されるまで、X線管53の回転陽極53aの回転数を加速する制御と、X線管53の回転陽極53aの回転数を減速する制御とが交互に繰り返される。
【0070】
(本実施形態の効果)
本実施形態では、以下のような効果を得ることができる。
【0071】
本実施形態では、上記のように、X線撮影装置100は、回転陽極53aが回転する回転陽極型のX線管53と、X線管53を保持するX線管保持部3と、X線管53によるX線撮影時に、X線管53の回転陽極53aの回転数を変動させながら、X線管53の回転制御を行うX線管制御部54と、を備える。
【0072】
これにより、X線管53の回転陽極53aの回転数を変動させるので、X線管53の回転陽極53aの回転に起因して発生する振動の振動数を変動させることができる。その結果、X線管53の回転陽極53aの回転に起因して発生する振動の振動数と、X線管保持部3の固有振動数(共振点)とが一致すること(一致し続けること)を抑制することができる。これにより、X線管53またはX線管保持部3の構造の変更を行わずとも、X線管53とX線管保持部3との間での共振の発生を抑制することができる。
【0073】
また、本実施形態のCアーム型のX線管保持部3のように、X線管保持部3がX線管53を移動させることが可能なように保持している場合、X線管53を移動させることに起因してX線管保持部3の剛性が変化する場合がある。この場合、X線管保持部3の固有振動数はX線管保持部3の剛性に応じて変化するため、X線管保持部3の剛性の変化に応じてX線管保持部3の固有振動数が変化する。このように、X線管53の移動した位置に応じて、X線管保持部3の固有振動数が変化する場合、避けるべきX線管保持部3の固有振動数が多数存在するため、X線管53またはX線管保持部3の構造の変更だけで、X線管53とX線管保持部3との共振の発生を抑制することは非常に困難である。このため、たとえばCアーム型のX線管保持部3のように、X線管保持部3がX線管53を移動させることが可能なように保持している場合に、X線管53またはX線管保持部3の構造の変更を行わずに、X線管53の回転陽極53aの回転数を変動させることにより、X線管53とX線管保持部3との間での共振の発生を抑制することができることは、非常に効果的である。
【0074】
また、上記実施形態では、以下のように構成したことによって、下記のような更なる効果が得られる。
【0075】
すなわち、本実施形態では、上記のように、X線管制御部54は、X線管53の冷却効率に基づいて決まるX線管53の駆動時回転数に対する低速側および高速側の両側に、X線管53の回転陽極53aの回転数を変動させる制御を行うように構成されている。これにより、X線管53の駆動時回転数に対する低速側にのみ、X線管53の回転陽極53aの回転数を変動させる場合と異なり、X線管53の回転陽極53aの回転数の低下に起因するX線管53の冷却効率の低下を抑制することができる。また、X線管53の駆動時回転数に対する高速側にのみ、X線管53の回転陽極53aの回転数を変動させる場合と異なり、X線管53の回転陽極53aの回転数の増加に起因するX線管53のベアリングの消耗を抑制することができる。
【0076】
また、本実施形態では、上記のように、X線撮影装置100は、X線管53の回転陽極53aの回転数を検出するための回転数検出回路55を備える。また、X線管制御部54は、回転数検出回路55によるX線管53の回転陽極53aの回転数の検出結果に基づいて、フィードバック制御を行いながら、X線管53の駆動時回転数に対する低速側にX線管53の回転陽極53aの回転数を変動させる制御を行うとともに、フィードバック制御を行いながら、X線管53の駆動時回転数に対する高速側に、X線管53の回転陽極53aの回転数を変動させる制御を行うように構成されている。これにより、X線管53の冷却効率を維持できる所定の回転数範囲において、X線管53の回転陽極53aの回転数を正確に制御することができるので、X線管53の冷却効率を維持しつつ、X線管53とX線管保持部3との間での共振の発生を抑制することができる。
【0077】
また、本実施形態では、上記のように、X線管制御部54は、X線管53によるX線撮影時に、X線管53の回転陽極53aの回転数を連続的に変動させながら、X線管53の回転制御を行うように構成されている。これにより、X線管53の回転陽極53aの回転数を常に変動させることができるので、X線管53の回転陽極53aの回転数を変動させるX線管53の回転制御において、X線管53の回転陽極53aの回転数が略一定になる区間が発生しない。その結果、X線管53の回転陽極53aの回転に起因して発生する振動の振動数と、X線管保持部3の固有振動数とが一致すること(一致し続けること)を確実に抑制することができる。
【0078】
また、本実施形態では、上記のように、X線管制御部54は、振動に関する条件に基づいて、X線管53の回転陽極53aの回転数を変動させるX線管53の回転制御を行うか、または、X線管53の回転陽極53aの回転数を変動させないX線管53の通常の回転制御を行うかを決定する制御を行うように構成されている。これにより、X線管53とX線管保持部3との間で共振が発生する可能性がある場合に、X線管53の回転陽極53aの回転数を変動させるX線管53の回転制御を行いつつ、X線管53とX線管保持部3との間で共振が発生する可能性がない場合に、X線管53の回転陽極53aの回転数を変動させないX線管53の通常の回転制御を行うことができる。その結果、常に、X線管53の回転陽極53aの回転数を変動させるX線管53の回転制御を行う場合に比べて、X線管53の回転制御が複雑化することを抑制することができるとともに、X線管53の回転陽極53aの回転数の変動によるX線管53の負荷の増大を抑制することができる。
【0079】
また、本実施形態では、上記のように、X線管制御部54は、X線管53のX線撮影時の回転数の条件に基づいて、X線管53の回転陽極53aの回転数を変動させるX線管53の回転制御を行うか、または、X線管53の回転陽極53aの回転数を変動させないX線管53の通常の回転制御を行うかを決定する制御を行うように構成されている。これにより、X線管53とX線管保持部3との間で共振が発生するX線管53の回転陽極53aの回転数が予め判明している場合において、X線管53とX線管保持部3との間で共振が発生するX線管53の回転陽極53aの回転数において、X線管53の回転陽極53aの回転数を変動させるX線管53の回転制御を行いつつ、X線管53とX線管保持部3との間で共振が発生するX線管53の回転陽極53aの回転数以外の回転数において、X線管53の回転陽極53aの回転数を変動させないX線管53の通常の回転制御を行うことができる。
【0080】
また、本実施形態では、上記のように、X線管制御部54は、X線管53のX線撮影時の位置の条件に基づいて、X線管53の回転陽極53aの回転数を変動させるX線管53の回転制御を行うか、または、X線管53の回転陽極53aの回転数を変動させないX線管53の通常の回転制御を行うかを決定する制御を行うように構成されている。これにより、X線管53とX線管保持部3との間で共振が発生するX線管53の位置が予め判明している場合において、X線管53とX線管保持部3との間で共振が発生するX線管53の位置において、X線管53の回転陽極53aの回転数を変動させるX線管53の回転制御を行いつつ、X線管53とX線管保持部3との間で共振が発生するX線管53の位置以外の位置において、X線管53の回転陽極53aの回転数を変動させないX線管53の通常の回転制御を行うことができる。
【0081】
また、本実施形態では、上記のように、X線撮影装置100は、振動を検出するための振動検出部6を備える。また、X線管制御部54は、振動検出部6により検出したX線撮影時の振動の条件に基づいて、X線管53の回転陽極53aの回転数を変動させるX線管53の回転制御を行うか、または、X線管53の回転陽極53aの回転数を変動させないX線管53の通常の回転制御を行うかを決定する制御を行うように構成されている。これにより、振動検出部6によりX線管53とX線管保持部3との間での共振に対応する振動を検出した場合に、X線管53の回転陽極53aの回転数を変動させるX線管53の回転制御を行いつつ、振動検出部6によりX線管53とX線管保持部3との間での共振に対応する振動を検出していない場合に、X線管53の回転陽極53aの回転数を変動させないX線管53の通常の回転制御を行うことができる。
【0082】
[変形例]
なお、今回開示された実施形態は、すべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した実施形態の説明ではなく特許請求の範囲によって示され、さらに特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更(変形例)が含まれる。
【0083】
たとえば、上記実施形態では、Cアーム型のX線管保持部を備えるX線撮影装置に、本発明を適用する例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明は、Cアーム型のX線管保持部を備えるX線撮影装置以外のX線撮影装置に適用されてもよい。また、本発明は、たとえばCアーム型のX線管保持部のように、X線管保持部がX線管を移動させることが可能なように保持しているX線撮影装置に対して、特に好適である。このようなX線撮影装置としては、Cアーム型のX線管保持部を備えるX線撮影装置以外に、たとえば、X線管を天井から吊り下げるように保持する天吊り型のX線管保持部を備えるX線撮影装置などが挙げられる。
【0084】
また、上記実施形態では、X線管の駆動時回転数に対する低速側および高速側の両側に、X線管の前記回転陽極の回転数を変動させる例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、X線管の駆動時回転数に対する低速側にのみ、X線管の前記回転陽極の回転数を変動させてもよい。また、X線管の駆動時回転数に対する高速側にのみ、X線管の前記回転陽極の回転数を変動させてもよい。
【0085】
また、上記実施形態では、フィードバック制御を行いながら、X線管の駆動時回転数に対する低速側および高速側にX線管の回転陽極の回転数を変動させる例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、X線管の回転陽極の回転数を変動させることができれば、フィードバック制御を必ずしも行わなくてもよい。たとえば、X線管の回転陽極に駆動時回転数よりも小さい一定の周波数の交流電圧を印加することにより、駆動時回転数に対する低速側にX線管の回転陽極の回転数を変動させるとともに、X線管の回転陽極に駆動時回転数よりも大きい一定の周波数の交流電圧を印加することにより、駆動時回転数に対する高速側にX線管の回転陽極の回転数を変動させてもよい。また、フィードバック制御を行わない場合、回転数検出部を必ずしも設けなくてもよい。
【0086】
また、上記実施形態では、振動に関する条件として、X線管のX線撮影時の回転数の条件、X線管のX線撮影時の位置の条件、および、振動検出部により検出したX線撮影時の振動の条件を用いる例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、振動に関する条件として、X線管のX線撮影時の回転数の条件、X線管のX線撮影時の位置の条件、および、振動検出部により検出したX線撮影時の振動の条件のうちのいずれか1つまたは2を用いてもよい。また、振動に関する条件として、X線管のX線撮影時の回転数の条件、X線管のX線撮影時の位置の条件、および、振動検出部により検出したX線撮影時の振動の条件以外の条件を用いてもよい。
【0087】
[態様]
上記した例示的な実施形態は、以下の態様の具体例であることが当業者により理解される。
【0088】
(項目1)
回転陽極が回転する回転陽極型のX線管と、
前記X線管を保持するX線管保持部と、
前記X線管によるX線撮影時に、前記X線管の前記回転陽極の回転数を変動させながら、前記X線管の回転制御を行うX線管制御部と、を備える、X線撮影装置。
【0089】
(項目2)
前記X線管制御部は、前記X線管の冷却効率に基づいて決まる前記X線管の駆動時回転数に対する低速側および高速側の両側に、前記X線管の前記回転陽極の回転数を変動させる制御を行うように構成されている、項目1に記載のX線撮影装置。
【0090】
(項目3)
前記X線管の前記回転陽極の回転数を検出するための回転数検出部をさらに備え、
前記X線管制御部は、前記回転数検出部による前記X線管の前記回転陽極の回転数の検出結果に基づいて、フィードバック制御を行いながら、前記X線管の駆動時回転数に対する低速側に前記X線管の前記回転陽極の回転数を変動させる制御を行うとともに、フィードバック制御を行いながら、前記X線管の駆動時回転数に対する高速側に、前記X線管の前記回転陽極の回転数を変動させる制御を行うように構成されている、項目2に記載のX線撮影装置。
【0091】
(項目4)
前記X線管制御部は、前記X線管によるX線撮影時に、前記X線管の前記回転陽極の回転数を連続的に変動させながら、前記X線管の回転制御を行うように構成されている、項目1~3のいずれか1項に記載のX線撮影装置。
【0092】
(項目5)
前記X線管制御部は、振動に関する条件に基づいて、前記X線管の前記回転陽極の回転数を変動させる前記X線管の回転制御を行うか、または、前記X線管の前記回転陽極の回転数を変動させない前記X線管の通常の回転制御を行うかを決定する制御を行うように構成されている、項目1~4のいずれか1項に記載のX線撮影装置。
【0093】
(項目6)
前記X線管制御部は、前記X線管のX線撮影時の回転数の条件に基づいて、前記X線管の前記回転陽極の回転数を変動させる前記X線管の回転制御を行うか、または、前記X線管の前記回転陽極の回転数を変動させない前記X線管の通常の回転制御を行うかを決定する制御を行うように構成されている、項目5に記載のX線撮影装置。
【0094】
(項目7)
前記X線管制御部は、前記X線管のX線撮影時の位置の条件に基づいて、前記X線管の前記回転陽極の回転数を変動させる前記X線管の回転制御を行うか、または、前記X線管の前記回転陽極の回転数を変動させない前記X線管の通常の回転制御を行うかを決定する制御を行うように構成されている、項目5または6に記載のX線撮影装置。
【0095】
(項目8)
振動を検出するための振動検出部をさらに備え、
前記X線管制御部は、前記振動検出部により検出したX線撮影時の振動の条件に基づいて、前記X線管の前記回転陽極の回転数を変動させる前記X線管の回転制御を行うか、または、前記X線管の前記回転陽極の回転数を変動させない前記X線管の通常の回転制御を行うかを決定する制御を行うように構成されている、項目5~7のいずれか1項に記載のX線撮影装置。
【0096】
(項目9)
X線管保持部により保持された、回転陽極が回転する回転陽極型のX線管と、
前記X線管によるX線撮影時に、前記X線管の前記回転陽極の回転数を変動させながら、前記X線管の回転制御を行うX線管制御部と、を備える、X線管回転制御装置。
【符号の説明】
【0097】
3 X線管保持部
5 X線管回転制御装置
6 振動検出部
53 X線管
53a 回転陽極
54 X線管制御部
55 回転数検出回路(回転数検出部)
100 X線撮影装置