(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022105884
(43)【公開日】2022-07-15
(54)【発明の名称】ダプトマイシン含有製剤
(51)【国際特許分類】
A61K 38/10 20060101AFI20220708BHJP
A61P 31/04 20060101ALI20220708BHJP
A61K 47/02 20060101ALI20220708BHJP
A61K 9/19 20060101ALI20220708BHJP
【FI】
A61K38/10
A61P31/04
A61K47/02
A61K9/19
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021000486
(22)【出願日】2021-01-05
(71)【出願人】
【識別番号】000209049
【氏名又は名称】沢井製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000408
【氏名又は名称】特許業務法人高橋・林アンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】植野 真伍
(72)【発明者】
【氏名】上口 達也
【テーマコード(参考)】
4C076
4C084
【Fターム(参考)】
4C076AA29
4C076BB11
4C076CC31
4C076DD23Q
4C076DD30Q
4C076FF33
4C076FF63
4C084AA02
4C084AA03
4C084BA01
4C084BA09
4C084BA18
4C084BA27
4C084CA62
4C084DA43
4C084MA05
4C084MA17
4C084MA43
4C084MA66
4C084NA02
4C084NA03
4C084ZB35
(57)【要約】
【課題】
安定性に優れ、再溶解時間に要する短いダプトマイシン含有製剤を提供する。
【解決手段】
本発明の一実施形態によると、ダプトマイシンとナトリウムを含むダプトマイシン含有製剤であって、前記ダプトマイシン含有製剤が粉末又は粉末の凝集物であり、前記ダプトマイシン含有製剤を水に溶解した場合に、前記ダプトマイシン100質量%に対して、ナトリウムイオンを3質量%以上含むダプトマイシン含有製剤が提供される。一実施形態において、前記ダプトマイシン100質量%に対して、前記ナトリウムイオンを7.79質量%未満含んでもよい。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ダプトマイシンとナトリウムを含むダプトマイシン含有製剤であって、
前記ダプトマイシン含有製剤が粉末又は粉末の凝集物であり、
前記ダプトマイシン含有製剤を水に溶解した場合に、前記ダプトマイシン100質量%に対して、ナトリウムイオンを3質量%以上含むことを特徴とするダプトマイシン含有製剤。
【請求項2】
前記ダプトマイシン100質量%に対して、前記ナトリウムイオンを7.79質量%未満含むことを特徴とする請求項1に記載のダプトマイシン含有製剤。
【請求項3】
前記ナトリウムイオンが、水酸化ナトリウム又は塩化ナトリウムとして含まれることを特徴とする請求項1又は2に記載のダプトマイシン含有製剤。
【請求項4】
前記ダプトマイシンを350mg含むことを特徴とする請求項1乃至3の何れか一に記載のダプトマイシン含有製剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ダプトマイシン含有製剤に関する。特に、その凍結乾燥製剤に関する。
【背景技術】
【0002】
ダプトマイシン(N-(Decanoyl)-L-tryptophyl-D-asparaginyl-L-aspartyl-L-threonylglycyl-L-ornithyl-L-aspartyl-D-alanyl-L-aspartylglycyl-D-seryl-(3R)-3-methyl-L-glutamyl-3-(2-aminobenzoyl)-L-alanine1.13→3.4-lactone)は、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)を含む好気性グラム陽性菌に対する殺菌作用を示すことから、他の抗菌薬に耐性を示す好気性グラム陽性菌による感染症の治療に用いられている。ダプトマイシンは、例えば、凍結乾燥注射剤であるキュビシン(登録商標)静注用として、MSD株式会社より提供されている。
【0003】
一方で、凍結乾燥注射剤は、患者への投与前に生理的食塩液を添加して溶解させる必要があるが、既存のダプトマイシン凍結乾燥注射剤は溶解に時間を要するという問題があった。また、ダプトマイシンは熱安定性が低く、製剤の保管下でダプトマイシンの類縁物質が増加することが知られている。これらの問題に対して、例えば、特許文献1には、ショ糖とともに凍結乾燥することで、再構成に掛かる時間が短く、化学的安定性を有するダプトマイシン製剤が得られることが記載されている。また、特許文献2には、ダプトマイシンと塩化カルシウムを含む溶液が冷蔵貯蔵で長期間安定であることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表2013-511557号公報
【特許文献2】特表2013-511522号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、安定性に優れ、再溶解に要する時間が短いダプトマイシン含有製剤を提供することを目的の一つとする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一実施形態によると、ダプトマイシンとナトリウムを含むダプトマイシン含有製剤であって、前記ダプトマイシン含有製剤が粉末又は粉末の凝集物であり、前記ダプトマイシン含有製剤を水に溶解した場合に、前記ダプトマイシン100質量%に対して、ナトリウムイオンを3質量%以上含むことを特徴とするダプトマイシン含有製剤が提供される。
【0007】
前記ダプトマイシン100質量%に対して、前記ナトリウムイオンを7.79質量%未満含んでもよい。
【0008】
前記ナトリウムイオンが、水酸化ナトリウム又は塩化ナトリウムとして含まれてもよい。
【0009】
前記ダプトマイシンを350mg含んでもよい。
【発明の効果】
【0010】
本発明の一実施形態によると、安定性に優れ、再溶解に要する時間が短いダプトマイシン含有製剤が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の一実施形態に係るダプトマイシン含有製剤の製造工程を説明するフロー図を示す図である。
【
図2】本発明の一実施例に係るダプトマイシン含有製剤におけるダプトマイシンとナトリウムイオンとの安定性の関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明に係るダプトマイシン含有製剤について詳細に説明する。ただし、本発明のダプトマイシン含有製剤は、以下に示す実施形態及び実施例の記載内容に限定して解釈されるものではない。
【0013】
本発明に係るダプトマイシン含有製剤は、静注用注射剤である。なお、ダプトマイシン含有製剤を点滴静注してもよい。一実施形態において、ダプトマイシン含有製剤は凍結乾燥製剤であり、ダプトマイシン含有製剤は粉末又は粉末の凝集物として提供される。一実施形態において、ダプトマイシン含有製剤は、1バイアル当たり、有効量としてダプトマイシンを350mg含むが、治療効果が得られる範囲でダプトマイシンの含有量を変更してもよい。
【0014】
本発明に係るダプトマイシン含有製剤は、ダプトマイシンとナトリウムを含む。本ダプトマイシン含有製剤は、一実施形態において、ダプトマイシン含有製剤を水に溶解した場合に、ダプトマイシン100質量%に対して、ナトリウムイオンを3質量%以上含む。ダプトマイシン100質量%に対して、ナトリウムイオンを4質量%以上含むことが好ましい。本発明に係るダプトマイシン含有製剤は、ダプトマイシン100質量%に対して、ナトリウムイオンを3質量%以上含むことにより、類縁物質の生成を有意に抑制することができる。また、本発明に係るダプトマイシン含有製剤は、再溶解に要する時間が短い。
【0015】
ダプトマイシン含有製剤は、好ましくは、ダプトマイシン100質量%に対して、ナトリウムイオンを7.79質量%未満含む。ダプトマイシン100質量%に対して、ナトリウムイオンを7.5質量%未満含むことが、より好ましい。ダプトマイシン100質量%に対して、ナトリウムイオンを3質量%以上7.79質量%未満含むことにより、類縁物質の生成を顕著に抑制することができる。
【0016】
一実施形態において、ダプトマイシン含有製剤を生理食塩水に溶解することもできる。例えば、7mlの生理食塩水でダプトマイシン含有製剤を溶解した場合、ダプトマイシン100質量%に対して、ナトリウムイオンを3質量%以上、好ましくは4.05質量%以上含む。または、ダプトマイシン含有製剤は、ダプトマイシン100質量%に対して、ナトリウムイオンを7.81質量%未満、好ましくは7.5質量%未満含む。
【0017】
ダプトマイシン含有製剤が粉末又は粉末の凝集物として提供される場合、ナトリウムイオンは、水酸化ナトリウム又は塩化ナトリウムとして、ダプトマイシン含有製剤に含まれてもよい。一実施形態において、ダプトマイシン含有製剤は、pHが4.0~5.0に調整されている。
【0018】
ダプトマイシン含有製剤に対するナトリウムイオン濃度は、表1の条件のイオンクロマトグラフィーにより測定することができる。ダプトマイシン含有製剤を水(純水)に溶解し、水溶液中のナトリウムイオンの量を測定することができる。
【表1】
【0019】
ダプトマイシン含有製剤は、投与前に、水(注射水)若しくは生理食塩液、又は注射水と生理食塩液とにより溶解する。一実施形態において、ダプトマイシンが350mg含まれる場合、7mlの注射水若しくは生理食塩液、又は注射水と生理食塩液とにより、ダプトマイシンを溶解する。このとき、ダプトマイシン含有製剤に含まれる水酸化ナトリウム又は塩化ナトリウムはイオン化し、ナトリウムイオンが生成される。溶解時に、浸透圧が生理食塩液に対して、1以上1.3以下となることが好ましい。ダプトマイシン含有製剤の保存時の安定性及びダプトマイシンの速やかな溶解の観点から、ダプトマイシン含有製剤に対するナトリウムイオン濃度を7.79質量%以上としてもよいが、生理食塩液に対する浸透圧を上記の範囲とするために、治療効果が得られる範囲で、注射水で希釈する。
【0020】
[ダプトマイシン含有製剤の製造方法]
図1は、本発明の一実施形態に係るダプトマイシン含有製剤の製造工程を説明するフロー図である。水(注射用水)に塩酸及び水酸化ナトリウムを添加し、ナトリウムイオンの含有量を調整し溶媒を準備する(工程S101)。なお、一実施形態において、塩酸及び水酸化ナトリウムに代えて、塩化ナトリウムを添加して、ナトリウムイオンの含有量を調整してもよい。また、一実施形態において、塩酸及び水酸化ナトリウムと、塩化ナトリウムとを組合せて、ナトリウムイオンの含有量を調整してもよい。
【0021】
溶媒にダプトマイシンを添加し、ダプトマイシンを溶解する(工程S103)。ダプトマイシン水溶液に水酸化ナトリウムを添加し、pHを4.0~5.0に調整する(工程S105)。pHを調整したダプトマイシン水溶液に水を添加し、定容する(工程S107)。定容したダプトマイシン水溶液をろ過する(工程S109)。ろ過したダプトマイシン水溶液をバイアル(例えば、10mlバイアル)に充填する(工程S111)。充填したダプトマイシン水溶液を凍結乾燥し、粉末又は粉末の凝集物であるダプトマイシン含有製剤を製造する(工程S113)。ダプトマイシン含有製剤を収容したバイアルを封止し、必要に応じてパッケージに梱包する。
【実施例0022】
[ダプトマイシン含有製剤の製造]
注射用水2mlに、塩化ナトリウムを規定量添加し、ナトリウムイオンの含有量を調整した塩化ナトリウム水溶液を準備した。塩化ナトリウム水溶液にダプトマイシン0.3675gを添加し、ダプトマイシンを溶解した。ダプトマイシン水溶液に水酸化ナトリウムを適量添加して、pHを4.6に調整した。pHを調整したダプトマイシン水溶液に注射用水を添加し、3.5mlのダプトマイシン水溶液を得た。ダプトマイシン水溶液をフィルタ(メルク社、ミリポアPVDF0.22μm)でろ過し、10mlバイアルに充填した。バイアル中のダプトマイシン水溶液を凍結乾燥し、ダプトマイシン含有製剤を製造した。ダプトマイシン含有製剤を収容したバイアルを封止した。
【0023】
[ダプトマイシン含有製剤の安定性の評価]
ダプトマイシン含有製剤を60℃、60%RHにて1週間保存した。保存後のダプトマイシン含有製剤を7mlの注射用水で溶解し、表2に記載したHPLC法を用いて、ダプトマイシン含有製剤の安定性を評価した。面積百分率法により、クロマトグラム上に得られたダプトマイシン及びダプトマイシン由来の類縁物質の各成分のピーク面積の総和を100とし、ピーク面積の比から、ダプトマイシン由来の類縁物質の生成量(%)を算出した。
【表2】
【0024】
製剤の保管下で経時的に増加するダプトマイシン類縁物質として、特許文献1にて無水ダプトマイシンが言及されており、上記の分析において、相対保持時間1.30にピークが検出される。相対保持時間(RRT)1.30に検出された無水ダプトマイシンについて、保存前と保存後の値から増加量を算出し、ダプトマイシンに対するナトリウムイオンの割合に対してプロットした。
図2は、本発明の一実施例に係るダプトマイシン含有製剤におけるダプトマイシンとナトリウムイオンとの安定性の関係を示す図である。また、それぞれの値を表3に示す。
【表3】
【0025】
図2の結果より、ダプトマイシン100質量%に対して、ナトリウムイオンを3質量%以上含むことにより、類縁物質の生成を有意に抑制することができることが明らかとなった。また、ダプトマイシン100質量%に対して、ナトリウムイオンを3質量%以上7.79質量%未満含むときに、類縁物質の生成を顕著に抑制することができることが明らかとなった。
【0026】
試験例1、2、9のダプトマイシン含有性剤について、7mlの注射用水で溶解したときの、再溶解に要する時間を計測した。表2の結果より、ダプトマイシン100質量%に対して、ナトリウムイオンを3質量%以上含むことにより、再溶解に係る時間が短縮された。
【表4】