(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022105921
(43)【公開日】2022-07-15
(54)【発明の名称】清拭装置及びロボットシステム
(51)【国際特許分類】
A47L 11/24 20060101AFI20220708BHJP
B25J 9/06 20060101ALI20220708BHJP
A47L 9/28 20060101ALI20220708BHJP
【FI】
A47L11/24
B25J9/06 B
A47L9/28 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021000558
(22)【出願日】2021-01-05
(71)【出願人】
【識別番号】515130201
【氏名又は名称】株式会社Preferred Networks
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】アギーレ ドミンゲス ゴンサロ
【テーマコード(参考)】
3B057
3C707
【Fターム(参考)】
3B057DE06
3C707AS15
3C707BS10
(57)【要約】
【課題】簡易な構造で清拭作業が可能な清拭装置を提供する。
【解決手段】清拭装置1は、シートSを送り出すロール保持部3と、ロール保持部3から送り出されたシートSのうち外部に露出する部分が設置される平らな表面を有するスポンジ8と、スポンジ8の平らな表面に設置されたシートSの部分を回収するロールドライバ9と、回収を自動で行わせるモータ95と、を備える。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
シートを送り出す送り出し部と、
前記送り出し部から送り出された前記シートのうち外部に露出する部分が設置される平らな表面を有する設置部と、
前記設置部の前記平らな表面に設置された前記シートの部分を回収する回収部と、
前記回収を自動で行わせる駆動部と、
を備える、
清拭装置。
【請求項2】
前記表面は、接触力を受けていない無変形状態において平らである、
請求項1に記載の清拭装置。
【請求項3】
当該清拭装置は、前記送り出し部及び前記回収部を内部に収容する筐体を備え、
前記設置部は、前記筐体の表面に固設され、
前記駆動部は、前記回収部を駆動し、
前記回収部は、前記駆動部によって駆動されることで、前記設置部の前記平らな表面上で前記対象面の清拭に使用された前記シートの部分を巻き取って回収し、
前記送り出し部は、前記シートを巻回したロールを軸支し、前記駆動部によって駆動された前記回収部によるシートの巻き取りに伴って、前記軸支されたロールから新しいシートを送り出す、
請求項1または2に記載の清拭装置。
【請求項4】
前記設置部は、弾性部材で形成され、前記設置部上に配置される前記シートが前記対象面から受ける外力に応じて変形可能である、
請求項1~3のいずれか1項に記載の清拭装置。
【請求項5】
前記シートの送り出し量を計測する計測部を備える、
請求項1~4のいずれか1項に記載の清拭装置。
【請求項6】
前記送り出し部から送り出された前記シートに薬剤を塗布する薬剤塗布部を備える、
請求項1~5のいずれか1項に記載の清拭装置。
【請求項7】
前記薬剤塗布部は、前記薬剤を前記シートの清拭面に塗布する、
請求項6に記載の清拭装置。
【請求項8】
前記薬剤塗布部は、前記シートの幅方向に沿って延在する細長い孔を有するノズルを用いて前記薬剤を前記シートに直接塗布する、
請求項6または7に記載の清拭装置。
【請求項9】
前記薬剤塗布部は、前記シートの幅方向に沿って延在する細長い孔を有するノズルを用いて前記薬剤を前記シートと接触するローラに塗布し、前記ローラを介して前記薬剤を前記シートに塗布する、
請求項6または7に記載の清拭装置。
【請求項10】
前記薬剤塗布部は、前記シートと接触するローラの軸支部から前記ローラの周面に前記薬剤を供給し、前記ローラを介して前記薬剤を前記シートに塗布する、
請求項6または7に記載の清拭装置。
【請求項11】
ロボットアームと連結可能な連結部を備え、
前記連結部によって前記ロボットアームと連結することによって前記ロボットアームのエンドエフェクタとして使用される、
請求項1~10のいずれか1項に記載の清拭装置。
【請求項12】
清拭装置とマニピュレータロボットとを備えるロボットシステムであって、
前記清拭装置は、
シートを送り出す送り出し部と、
前記送り出し部から送り出された前記シートのうち外部に露出する部分が設置される平らな表面を有する設置部と、
前記設置部の前記平らな表面に設置された前記シートの部分を回収する回収部と、
前記回収を自動で行わせる駆動部と、
ロボットアームと連結可能な連結部と、
を備え、
前記マニピュレータロボットは、
前記清拭装置と連結可能な前記ロボットアームと、
前記連結部を介して前記駆動部の制御信号を出力し、かつ、前記ロボットアームの動作を制御する、制御装置と、
を備える、ロボットシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、清拭装置及びロボットシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
人手で行っていた拭き取り作業(以下、清拭作業)をロボットに行わせることが試みられている。特許文献1には、自律走行可能でロボット本体の自重で床に押し付けたシートで床を拭くロボットが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、清拭作業の効率性を考えると、ロボットアームのエンドエフェクタに清拭機能を持たせるのが好ましい。ロボットのエンドエフェクタにこの機能を適用するためには簡略化、軽量化、小型化などの点で改善された構造が望ましい。
【0005】
本開示は、簡易な構造で清拭作業が可能な清拭装置及びロボットシステムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の実施形態の一観点に係る清拭装置は、シートを送り出す送り出し部と、前記送り出し部から送り出された前記シートのうち外部に露出する部分が設置される平らな表面を有する設置部と、前記設置部の前記平らな表面に設置された前記シートの部分を回収する回収部と、前記回収を自動で行わせる駆動部と、を備える。
【発明の効果】
【0007】
本開示によれば、簡易な構造で清拭作業が可能な清拭装置及びロボットシステムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】実施形態に係る清拭装置のz正方向側から視た斜視図
【
図2】実施形態に係る清拭装置のz負方向側から視た斜視図
【
図3】実施形態に係る清拭装置をロボットのエンドエフェクタとして適用した構成の一例
【
図14】実施形態の清拭装置のシートの清拭面の更新動作のフローチャート
【
図15】清拭装置へのシートの取り付け手順のフローチャート
【
図16】清拭装置からのシートの取り外し手順のフローチャート
【
図20】設置部としてのスポンジの変形例を示す模式図
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、添付図面を参照しながら実施形態について説明する。説明の理解を容易にするため、各図面において同一の構成要素に対しては可能な限り同一の符号を付して、重複する説明は省略する。
【0010】
なお、以下の説明において、x方向、y方向、z方向は互いに垂直な方向である。x方向はスポンジ8上でのシートSの移動方向である。y方向は、シートの幅方向である。また、以下では説明の便宜上、z正方向側を上側、z負方向側を下側とも表現する場合がある。
【0011】
[第1実施形態]
図1~
図16を参照して第1実施形態を説明する。
【0012】
図1は、実施形態に係る清拭装置1のz正方向側から視た斜視図である。
図2は、実施形態に係る清拭装置1のz負方向側から視た斜視図である。
図3は、実施形態に係る清拭装置1をマニピュレータロボット100(以下では単に「ロボット100」とも表記する)のエンドエフェクタとして適用した構成の一例である。
【0013】
清拭装置1は、
図2に示すように、筐体2のz負方向側の面に長尺状のシートSの一部が露出する。この露出するシート部分は、スポンジ8の表側の主面を覆うように平面状に設置される。このシート部分と接触するスポンジ8の表面は、シートが平面状に広がるように平らであり、シートが平面状に設置される設置部として機能する。すなわち、この表面は、接触力を受けていない無変形状態において平らである。清拭装置1では、このシートSの平面状の部分の外側(z負方向側)の面が清拭面S1となり、清拭面S1によって対象面を清拭する。また、
図2に矢印で示すように、シートSはスポンジ8上においてx正方向側に移動可能に構成され、これにより清拭面S1が任意のタイミングで未使用の部分に入れ替えられる。
【0014】
また、清拭装置1は、シートSが露出する側とは反対側の筐体2のz正方向側の面に、ロボット100と連結可能なロボットインタフェース11(連結部)を備える。例えば
図3に示すように、多自由度のロボットアーム101と移動機構102とを備えるロボット100にロボットインタフェース11を介して連結され、ロボットアーム101のエンドエフェクタとして用いることができる。
【0015】
ロボットインタフェース11は、清拭装置1とロボットアーム101とを機械的、かつ、電気的に接続する。ロボットインタフェース11は、電力、USB接続、清拭力をロボット100から支援できるための安定で強固な連結状態を、清拭装置1に提供できる。ロボットインタフェース11は、例えば、端面が略円形状で、端面の中心位置にロック孔111が設けられ、端面の直径上に2つのアライメント孔112が設けられ、さらに複数のピン113が設けられる(
図5参照)。ロック孔111は、ロボット100側のロック用の棒部材が篏合する孔である。アライメント孔112は、ロックピン篏合時の位置揃え用の棒が篏合する孔である。ピン113は、例えば電力供給用またはUSB接続用のものである。ロボット100は、ロボットインタフェース11(ピン113)を介して、電力を清拭装置1に供給し、かつ、コントローラ10と制御情報を相互に通信する。
【0016】
なお、ロボットインタフェース11は、清拭装置1を外部機器と連結させるための連結部の一例であり、ロボットインタフェース11とは異なる要素を連結部として適用することも可能である。
【0017】
清拭装置1をロボット100のエンドエフェクタとして用いることにより、ロボット100の視覚機能や移動機能などを利用して、より広範囲かつ精細な清拭作業を行うことが可能となる。なお、清拭装置1をロボット100のエンドエフェクタとして用いる場合には、システム全体の総称として「清拭装置1とマニピュレータロボット100とを備えるロボットシステム」とも表現できる。
【0018】
本実施形態では、清拭装置1をエンドエフェクタとして取り付けられたロボット100は、具体的には対象物の消毒作業を実行可能であり、その一例として薬品等を含ませた布などで対象物の表面を拭く清拭消毒を行う。ウイルス等の接触感染症及び飛沫感染症の拡大を防止するためには、感染者が高頻度で接触する環境表面(ドアの取っ手、手すり、照明スイッチ等)や、診察室等の環境表面の消毒が定期的に必要となる。消毒にはウイルスや細菌の物理的除去を兼ねた清拭が標準予防策として推奨されている。このような清拭による消毒作業をロボットに行わせることができると、作業員の安全性向上や負荷軽減が期待できる。この場合、必要なタスクとしては、清拭の対象面に沿ってエンドエフェクタを移動させるように多関節アームの軌道(および、必要に応じてロボット本体の移動経路)を生成することが考えられる。また、所定の清拭作業を完了後に、清拭装置1のシートSをスポンジ8上から移動する処理を実行させて、清拭面S1を使用前のものに入れ替えるタスクも考えられる。
【0019】
図1、
図2に示すように、筐体2は、y方向に沿って内部空間が第1領域21と第2領域22とに区分されている。第1領域21には、シートSや薬剤塗布部など、清拭作業において薬剤Dなどと接触して濡れる場合がある要素が収容されている。第2領域22には、モータ95(駆動部)やエンコーダ63など、薬剤D当により濡れることを回避する必要がある電気部品類が収容されている(
図5参照)。
【0020】
図4は、第1実施形態に係る清拭装置1の縦断面図である。
図5は、第1実施形態に係る清拭装置1の横断面図である。
図4の縦端面とは、y方向と直交する断面である。
図5の横断面とは、z方向と直交する断面である。なお、
図4、
図5は、完全な断面形状を図示するものではなく、例えばロボットインタフェース11が側面視や平面視で示されるなど、清拭装置1の内部構成を模式的に示すものである。
【0021】
清拭装置1は、ロール保持部3(送り出し部)と、ストッパ4と、ノズル5(薬剤塗布部)と、コントロールローラ6(薬剤塗布部)と、ガイドローラ7と、スポンジ8と、ロールドライバ9(回収部)と、コントローラ10と、を備える。
【0022】
ロール保持部3は、長尺状のシートSを巻回した中空のロールRを軸支する。
図6は、ロール保持部3の斜視図である。
図5、
図6に示すように、ロール保持部3は、ロールホルダ31とスプリングホルダ32とを有する。ロールRは、軸心に沿ってy方向に貫通する貫通孔Hを有する。ロールホルダ31とスプリングホルダ32とは、共に円錐台形状に形成されており、貫通孔Hのy負方向側の開口と、y正方向側の開口からそれぞれの円錐面が開口と当接するように貫通孔Hに嵌入される。これにより、ロールホルダ31とスプリングホルダ32は、様々な径の貫通孔Hに篏合可能となり、さまざまな種類、外径、穴径のロールRを保持できる。
【0023】
ロールホルダ31のy負方向側の端面には篏合孔33が設けられる。篏合孔33にはストッパ4の連結軸41が連結される。スプリングホルダ32は、内部に軸方向に沿って伸縮自在のスプリングが内蔵されており、このスプリングによりy正方向側に付勢される伸縮軸34が設けられる。伸縮軸34は、スプリングホルダ32のy正方向側の端面から突出して設けられ、先端が押圧されることでスプリングホルダ32の内部に収縮する。
【0024】
ロール保持部3は、ロールホルダ31とスプリングホルダ32とがロールRに嵌入された状態で、伸縮軸34の先端を筐体2の受け部30Aに篏合する。この状態でロールRをy正方向側に押圧することで伸縮軸34がスプリングホルダ32の内部に縮退して、これにより、篏合孔33をストッパ4の連結軸41と正対する位置に配置する。そして、ロールRへの押圧を止めると、伸縮軸34が伸長してロールR全体を連結軸41側に移動し、この結果篏合孔33に連結軸41が篏合する。このようにしてシートSのロールがロール保持部3によって筐体2内に設置される。
【0025】
なお、ロール保持部3によるロールRの保持構造は、本実施形態で例示するものに限られない。例えば、当該保持構造はスプリングレスの構造であってもよい。ロール保持部3は、少なくともロールRを筐体2の内部(使用前領域23)に回動可能に設置できる構成であればよい。
【0026】
ストッパ4は、ロール保持部3及びロールRの回動を停止させる。
図7は、ストッパ4の斜視図である。ストッパ4は、上述の連結軸41の先端にロールホルダ31の篏合孔33と篏合するための篏合部42を有する。篏合部42及び篏合孔33は、例えば
図6、
図7に示すように、軸方向断面が矩形状に形成されており、これにより篏合時に連動するように構成されている。
【0027】
また、連結軸41の周方向外側には歯車43が設けられる。ストッパ4は、駆動部46により連結軸41と直交する方向、かつ、歯車43の径方向、すなわちx方向に沿って移動可能な可動軸44を有する。可動軸44は、歯車43のx正方向側に配置される。可動軸44のx負方向側の先端に歯車43の歯の間に挿入可能な形状の係止部45が設けられる。可動軸44がx負方向側に移動することによって、係止部45が歯車43の歯の間に挿入されて、これにより歯車43と連動する連結軸41の回転が規制される。すなわち、係止部45が歯車43の回転を規制することによって、連結軸41と連結されるロールホルダ31(すなわちロール保持部3及びロールR)の回転も規制される。一方、可動軸44がx正方向側に移動することによって、係止部45が歯車43から外れて、これによりロールRが回転可能となる。なお、可動軸44及び駆動部46としては、例えばソレノイドアクチュエータを適用できる。なお、ストッパ4の構造はこれに限られず、例えば摩擦力によってロールホルダ31の回転を規制する構造であってもよい。
【0028】
ノズル5は、ロール保持部3から送り出されたシートSに薬剤Dを塗布する。
図8は、ノズル5の斜視図である。
図8に示すように、ノズル5は、シートSの幅方向(y方向)を長手方向とする中空の部材であり、x負方向側の面のy方向の略中央の位置に薬剤Dを内部に導入する導入孔51が設けられる。ノズル5のx正方向側には、y方向に沿って延在する吐出孔52が設けられている。吐出孔52は、y方向を長手方向、z方向を短手方向とする略長方形状の孔であり、シートSの幅方向に沿って延在する細長い孔である。吐出孔52は、コントロールローラ6の周面の軸方向(y方向)の全域に亘って対向するよう設置される。吐出孔52は、導入孔51からノズル5の内部に導入された薬剤Dをコントロールローラ6側に吐出する。
【0029】
図4、
図5に示すように、ノズル5の導入孔51にはチューブ54を介してポンプ53が接続されている。ポンプ53は図示しない薬剤タンクにも接続されており、薬剤タンクから吸い上げた薬剤Dを、チューブ54を通してノズル5に供給する。なお、薬剤Dを貯留する薬剤タンクは、清拭装置1の筐体2の内部または外部に設置されてもよいし、清拭装置1がロボットインタフェース11を介して連結されるロボット100などの外部機器に設置される構成でもよい。ノズル5は、ポンプ53の出力を調整することによって、薬剤Dの吐出量を制御できる。
【0030】
コントロールローラ6は、ロール保持部3から送り出されたシートSをさらに下流側のガイドローラ7へ送り出す。
図9は、コントロールローラ6の斜視図である。コントロールローラ6は、上述のとおりノズル5によって薬剤Dがその周面61に塗布され、この周面61に塗布された薬剤Dを、周面61に巻回されるシートSに塗布する。
【0031】
このように本実施形態では、ノズル5とコントロールローラ6とが、薬剤DをシートSに塗布する薬剤塗布部として機能する。
図10は、薬剤塗布部を拡大視した模式図である。
図10に示すように、ノズル5の吐出孔52と、コントロールローラ6との間にはギャップgが取られている。このギャップgによって、吐出孔52から吐出された薬剤Dはコントロールローラ6の幅方向(y方向)に沿って、周面61に塗布される厚さがほぼ均等に揃えられる。周面61に塗布された薬剤Dは、コントロールローラ6の回転に伴ってシートSの清拭面S1と接触し、接触状態を維持したままさらに回転して、やがてシートSが下流側のガイドローラ7に向かうべく周面61から離れると、薬剤DはシートS側に遷移してシートSと共にコントロールローラ6の周面61から離間する。
【0032】
このように、本実施形態では、ノズル5を用いて薬剤Dをコントロールローラ6に塗布し、コントロールローラ6を介してこのコントロールローラ6と接触するシートSに薬剤Dを塗布(転写)する。このような薬剤Dの塗布構造により、薬剤DをシートSの幅方向に均一に塗布することが可能となる。
【0033】
また、本実施形態では、薬剤DをシートSの清拭面S1に直に塗布することができる。これにより、シートSに浸透性のある素材を必ずしも用いる必要がなく、浸透性の無い材料を用いることも可能となり、より多種のシートを適用可能となる。一方、本実施形態とは異なり、薬剤DをシートSの清拭面S1とは反対側の面から付着させる構成の場合には、薬剤DをシートSに滲み込ませて清拭面S1側まで到達させる必要があるので、シートSには必ず浸透性のある素材を用いなければならないという制約がある。本実施形態ではそのような制約は無いので、シートSの材料としては、例えばファブリック(生地、織物)などの浸透性のある素材を用いてもよいし、樹脂製のフィルムなど浸透性の無い材料を用いることもできる。
【0034】
なお、薬剤塗布部の構造は
図10に示したものに限られない。
図11は、薬剤塗布部の第1変形例を示す模式図である。例えば
図11に示すように、薬剤塗布部は、ノズル5を用いて薬剤DをシートSに直接塗布する構成でもよい。この場合、ノズル5は、コントロールローラ6には薬剤Dを塗布せずに、コントロールローラ6の下流側にシートSの清拭面S1と対向するよう設置される。ノズル5の吐出孔52は、シートSの幅方向(y方向)に沿って長手方向が延在するように配置される。
【0035】
図12は、薬剤塗布部の第2変形例を示す模式図である。
図12に示すように、薬剤塗布部は、シートSと接触するコントロールローラ6の軸支部64からコントロールローラ6の周面61に薬剤Dを供給し、コントロールローラ6を介して薬剤DをシートSに塗布する構成でもよい。
【0036】
軸支部64は、例えば
図12に示すように、コントロールローラ6の周面61と対向する凹曲面66を有する。凹曲面66は、周面61の幅方向のほぼ全体を覆うようy方向に延在して形成され、また、周面61の周方向の少なくとも半分を覆うように周面61とほぼ同一の曲率で形成され、コントロールローラ6が篏合した状態で回転可能に形成されている。軸支部64は、このような凹曲面66にコントロールローラ6と篏合することによって、コントロールローラ6を回転可能に軸支できる。
【0037】
軸支部64には、実施形態の導入孔51と同様に、薬剤Dを薬剤導入路65に導入するチューブ54と接続する端部が形成され、実施形態の吐出孔52と同様に、シートSの幅方向に沿って延在する細長い孔である薬剤導入路65が凹曲面66に開口されている。薬剤導入路65は、コントロールローラ6の周面61の軸方向(y方向)の全域に亘って対向するよう設置されており、これにより吐出孔52と同様に周面61の幅方向の全体に均等に薬剤Dを塗布できる。このように軸支部64によりコントロールローラ6を軸支する構成の場合には、軸支部64からコントロールローラ6の周面61に薬剤Dを塗布する構成とすることによって、軸支部64がノズル5の役割も兼用できるので、部品点数を削減できる。
【0038】
図9に戻り、コントロールローラ6のy負方向側の端部には、周面61より径方向外側に突出する回転板62が設置され、この回転板62を介してコントロールローラ6の回転数を計測するエンコーダ63(計測部)が設置されている。エンコーダ63の計測手法は周知であり、例えば光センサやホールセンサにより回転板62の回転量を計測する。エンコーダ63が計測する回転数と、コントロールローラ6の周面61の周長やローラ径などの幾何的情報に基づいて、シートSの送り出し量を算出することができる。送り出し量の計算は、例えばコントローラ10が行う。計測部は、エンコーダ63の代わりに、例えばレゾルバや回転性可変差動変圧器(RVDT)を用いてもよい。
【0039】
つまりコントロールローラ6は、シートSの送り出し量を計測する機能と、薬剤DをシートSに塗布する機能とを有する。これらの機能を実現するためには、コントロールローラ6の周面61は、滑りにくい材料で形成されるのが好ましく、洗浄用や消毒用の化学薬品への耐性がある材料で形成されることが好ましい。コントロールローラ6の周面61は、例えばウレタンで形成される。また、コントロールローラ6の回転部分にはボールベアリングを用いて、回転時の抵抗を少なくできる構成とするのが好ましい。しかし原価低減のためボールベアリングの代わりに低摩擦プラスチックを用いてもよい。
【0040】
ガイドローラ7は、コントロールローラ6から送り出されたシートSの移動方向を変えて、進出口27からスポンジ8へと送り出す。なお、ガイドローラ7は、周面に接触するシートSを下流側に送り出す構成であればよく、回転可能な構成でもよいし、回転不能で周面が滑りやすい素材で形成されて、シートSが周面を滑って移動可能な構成でもよい。
【0041】
スポンジ8は、ロール保持部3から送り出されたシートSのうち外部に露出する部分が配置される平らな表面を持つ部材である。スポンジ8は、筐体2のスポンジベース26の外表面側に、接着材や面ファスナーなどによって固設される。筐体2の進出口27から外部に送り出されたシートSは、スポンジ8の平面状の表面を覆って、適度な張力を付加されることで、スポンジ8の表面に合わせて平面状に設置される。スポンジ8はシートSを清拭対象面に押し当て、スポンジ8上に設置されたシートSの清拭面S1は対象面の清拭に用いられる。清拭作業後の清拭面S1は、さらに下流に送り出され、スポンジ8から筐体2の進入口28に進入する。
【0042】
スポンジ8は、弾性部材であるので、スポンジ8上に配置されるシートSが清拭の対象面から受ける外力に応じて変形可能である。これにより、清拭装置1をロボット100のエンドエフェクタとして用いる場合に、精細なトルク制御を考慮しなくてもロボットアーム101のより柔軟な制御が可能となるので、制御を容易にできる。また、清拭面が硬い場合や非平面の場合でも、清拭面S1から対象面に適度な押圧力を加えれば、スポンジ8と清拭面S1とが対象面の形状に合わせて適宜変形できるので、対象面の清拭を容易かつ確実にできる。また、ロボット100の移動中や、清拭装置1を対象面に移動させている途中に不意に周辺の物体や人にぶつかった場合でもスポンジ8で衝撃を吸収できるので安全性を担保できる。なお、スポンジ8は、弾性を持つ部材の一例として例示されているのであって、スポンジ8の代わりに、表面が平らなプレートとそのプレートに接触する弾性体のセットを用いてよい。このセットによれば、プレート表面は設置部として機能し、かつ、弾性体はプレートが受ける外力を吸収することができる。プレートの材質は適切な摩擦係数を有するものを選択すればよい。
【0043】
また、スポンジ8の表面(シートSが接触する面)は、滑りにくい材料で形成されるのが好ましい。表面の摩擦力が高いと、清拭作業中にシートSがスポンジ8に対して滑って清拭面S1が偏ったり、清拭面S1にしわができたりすることを抑制できる。また、スポンジ8の厚み(z方向の寸法)は、シートSが非平面の対象面でもスポンジ8の厚さ方向の変形によって清拭可能となる程度に厚いことが好ましい。
【0044】
スポンジ8の表面は略矩形状であるので、スポンジ8上に設置されるシートSの清拭面S1も略矩形状の範囲となる。このため、清拭面S1でより広い範囲をカバーできるので、より少ない移動でより速く対象面の全域の清拭を完了することが可能となる。
【0045】
ロールRでは、外周側に清拭面S1が配置されるようにシートSが巻回されている。このロールRから引き出されたシートSは、コントロールローラ6の周面61と清拭面S1とが接触するようにコントロールローラ6に巻回され、次いで清拭面S1の反対側の面が接触するようにガイドローラ7に巻回される。
【0046】
ロールドライバ9は、スポンジ8上で対象面の清拭に使用されたシートSの部分を巻き取り回収する。
図13は、ロールドライバ9の斜視図である。
図13に示すように、ロールドライバ9は、周面91を有する円柱状のローラである。ロールドライバ9は、シートSの端部を係止するシートストッパ92が周面91の外周側に配置される。シートストッパ92は、例えば金属性の棒材であり、ロールドライバ9の軸方向に沿って周面91上に設置されることによって、シートSを周面91側に押圧して、周面91との隙間にシートSを挟持する。また、ロールドライバ9のy負方向側の端部には篏合孔93が設けられる。篏合孔93にはモータ95の駆動軸96が連結される。
【0047】
ロールドライバ9の内部には、スプリングホルダ32と同様に軸方向に沿って伸縮自在のスプリングが内蔵されており、このスプリングによりy正方向側に付勢される伸縮軸94が設けられる。伸縮軸94は、ロールドライバ9のy正方向側の端面から突出して設けられ、先端が押圧されることでロールドライバ9の内部に収縮する。
【0048】
ロールドライバ9は、伸縮軸94の先端を筐体2の受け部30Bに篏合する。この状態でロールドライバ9をy正方向側に押圧することで伸縮軸94がロールドライバ9の内部に縮退して、これにより、篏合孔93をモータ95の駆動軸96と正対する位置に配置する。そして、ロールドライバ9への押圧を止めると、伸縮軸94が伸長してロールドライバ9全体を駆動軸96側に移動し、この結果篏合孔93に駆動軸96が篏合する。このようにしてロールドライバ9が筐体2内に設置される。なお、ロールドライバ9を筐体2内に設置するための機構としては、上記説明したスプリング機構以外の機構であってもよい。
【0049】
ロールドライバ9は、モータ95の駆動によって回転する。シートストッパ92にシートSの端部が係止された状態でモータ95を駆動することで、ロールドライバ9が回転しながらシートSを巻き付け、これによりシートSがロールドライバ9側に引っ張られて、ロール保持部3からシートSが引き出される。
【0050】
なお、ロールドライバ9は、筐体2の内部(使用後領域24)に回動可能に設置でき、使用済のシートSを回収できる構成であればよく、筐体2内部への設置構造は本実施形態に例示するものに限られない。また、シートSのロールドライバ9への固定構造は、本実施形態のシートストッパ92を周面91に押圧する構成以外の手法でもよい。例えばクリップや爪やローラなどでシートSを固定する構成でもよい。
【0051】
コントローラ10は、清拭装置1の各部の動作を制御する。コントローラ10は、モータ95の動作を制御することによって、シートSの移動を制御する。また、コントローラ10は、エンコーダ63の計測信号に基づき、シートSの引き出し量の情報を取得でき、この情報に基づき、モータ95の駆動を制御してロールドライバ9の巻取量、すなわちロール保持部3に保持されるロールRからのシートSの引き出し量を制御する。
【0052】
また、清拭装置1がロボット100のエンドエフェクタとして用いられる場合、コントローラ10はロボットインタフェース11を介してロボット100(例えばロボットの動作を制御する制御装置(プロセッサ))との間で下記のような清拭装置1の状態や動作に関する情報の送受信を行うことができる。
・シートSの送り出しシーケンスの開始、停止
・構成要素の状態更新の要求
・特定の構成要素のテストの要求
・各構成要素の個別の操作要求(送り出しシーケンス以外。たとえばモータ95の正転や逆転、ストッパ4の無効化、ポンプ53の始動や停止など)
・エラー状態の解消、リセット
・エンコーダ63のカウントのリセット
【0053】
コントローラ10は、例えば下記のようなエラー発生の有無を監視して、清拭装置1の各要素が適切に作動しているかを確認でき、また、ロボット100に清拭装置1の状態を報知することができる。
【0054】
・電力供給レベル:ロボットインタフェース11からの電力供給が適切でない(低すぎる、または、高すぎる)場合には、「電力供給に関するエラー」を検知する。
【0055】
・内部接続:定期的に各構成要素(エンコーダ63、モータ95、ポンプ53、ストッパ4など)の電圧、電流、制御信号などをチェックして、状態(使用可能または異常)を判定する。異常判定時には「構成要素に関するエラー」を検知する。
【0056】
・ロールRの汚染を防止するためのカバー(例えば筐体2に設けられ、ロールRを内部へ収容する際に開く蓋体など)が開いているときに「カバーオープンに関するエラー」を検知する。
【0057】
・送り出しシーケンスが所定時間内に完了しない場合に「送り出しシーケンスに関するエラー」を検知する。例えば下記の2例のようにより具体的なエラーを検知してもよい。
(例1)モータ95がロールドライバ9を回転させているが、エンコーダ63のカウント値が変わらない場合、コントローラ10は、「ローラRに関するエラー」(ローラRがロール保持部3に設置されていない可能性が高い)を検知する。
(例2)所定回数の試行後でもストッパ4が開かない場合、コントローラ10は、「ストッパ4に関するエラー」(可動軸44がスタックしている可能性が高い)を検知する。
【0058】
・ユーザによりロボットインタフェース11を介して要求されたテストが失敗した場合、「各テストに関するエラー」をロボット100側に送信する。
【0059】
・ロボットインタフェース11から間違えた指令を受信した場合、通信エラーをロボット100側に送信する。
【0060】
コントローラ10は、物理的には、CPU(Central Processing Unit)、主記憶装置であるRAM(Random Access Memory)およびROM(Read Only Memory)、通信モジュール、補助記憶装置、などを含むコンピュータシステムとして構成することができる。コントローラ10の各機能は、CPU、RAM等のハードウェア上に所定のコンピュータソフトウェアを読み込ませることにより、CPUの制御のもとで通信モジュールなどを動作させるとともに、RAMや補助記憶装置におけるデータの読み出し及び書き込みを行うことで実現される。
【0061】
また、コントローラ10の各機能は、アナログ回路、デジタル回路又はアナログ・デジタル混合回路で構成された回路であってもよい。また、各機能の制御を行う制御回路を備えていてもよい。各回路の実装は、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)、FPGA(Field Programmable Gate Array)等によるものであってもよい。
【0062】
コントローラ10の各機能の少なくとも一部はハードウェアで構成されていてもよいし、ソフトウェアで構成され、ソフトウェアの情報処理によりCPU等が実施をしてもよい。ソフトウェアで構成される場合には、コントローラ10及びその少なくとも一部の機能を実現するプログラムをフレキシブルディスクやCD-ROM等の記憶媒体に収納し、コンピュータに読み込ませて実行させるものであってもよい。記憶媒体は、磁気ディスクや光ディスク等の着脱可能なものに限定されず、ハードディスク装置やメモリなどの固定型の記憶媒体であってもよい。すなわち、ソフトウェアによる情報処理がハードウェア資源を用いて具体的に実装されるものであってもよい。さらに、ソフトウェアによる処理は、FPGA等の回路に実装され、プロセッサ等のハードウェアが実行するものであってもよい。ジョブの実行は、例えば、GPU(Graphics Processing Unit)等のアクセラレータを使用して行ってもよい。
【0063】
例えば、コンピュータが読み取り可能な記憶媒体に記憶された専用のソフトウェアをコンピュータが読み出すことにより、コンピュータを上記の実施形態の装置とすることができる。記憶媒体の種類は特に限定されるものではない。また、通信ネットワークを介してダウンロードされた専用のソフトウェアをコンピュータがインストールすることにより、コンピュータを上記の実施形態の装置とすることができる。こうして、ソフトウェアによる情報処理が、ハードウェア資源を用いて、具体的に実装される。なお、メモリ、プロセッサ、コンピュータ等のハードウェアは、それぞれ1つ、または1つ以上備えられてもよい。
【0064】
コントローラ10は、
図4、
図5では清拭装置1の内部に搭載される構成が例示されているが、あくまで一例であり、清拭装置1の外部に設置されて清拭装置1と有線または無線で通信可能に接続される構成でもよい。また、清拭装置1がロボット100のエンドエフェクタとして用いられる場合には、コントローラ10はロボット100の他の箇所に搭載される構成でもよいし、ロボット100の動作を制御する制御装置の一部がコントローラ10として機能する構成でもよい。
【0065】
筐体2の内部空間の第1領域21は、x方向の略中央の位置でy方向及びz方向に延在するセパレーションウォール25によって、使用前のシートSを収容する使用前領域23と、清拭に使用されたシートSを収容する使用後領域24とに区分されている。これにより、使用前のシートSが使用後のシートSによって汚されるのを防止できる。
図4に示すように、使用前領域23にはロール保持部3、ノズル5、コントロールローラ6、ガイドローラ7が収容される。使用後領域24には、ロールドライバ9が収容される。また、
図5に示すように、第2領域22には、ストッパ4、エンコーダ63、モータ95、コントローラ10が収容されている。
【0066】
また、筐体2の使用後領域24への進入口28にはワイパ29が設けられている。ワイパ29は、使用後領域24を密封して、清拭に使用されて汚れており、使用後領域24に収容されているシートSが外部の要素を汚すことを防止するために設けられる。
【0067】
図14は、実施形態の清拭装置1のシートSの清拭面S1の更新動作のフローチャートである。この動作は、例えば同一の清拭面S1を用いて清拭作業を所定時間や所定回数実施した後などにコントローラ10によって実施される。
【0068】
まずストッパ4の無効化処理が行われる(ステップS101)。ストッパ4は、コントローラ10からの指令に応じて、
図5、
図7に示す駆動部46を駆動させて可動軸44をx正方向側に移動させ、これにより係止部45を歯車43から外し、歯車43及び連結軸41が連結されるロール保持部3の回転停止状態を解除する。なお、ストッパ4の係止部45が歯車43に係合して、ロール保持部3が回転停止状態となることは、「ストッパ4を有効化する」や「ストッパ4を閉じる」とも表現できる。一方、ストッパ4の係止部45が歯車43から外れて、ロール保持部3が回転可能状態となることは、「ストッパ4を無効化する」や「ストッパ4を開く、解除する」とも表現できる。ストッパ4は、清拭作業が行われる通常時には有効化されており、シートSを送り出すときのみ無効化される。
【0069】
ステップS101の処理の結果、ストッパ4が解除された場合(S102のYes)にはステップS104に進む。ストッパ4が作動状態のままの場合(S102のNo)にはステップS103に進み、所定回数試行されたか否かが判定される。所定回数試行されていない場合(S103のNo)にはステップS101に戻り無効化処理が繰り返される。例えば、ストッパ4には開状態か閉状態かを検知するセンサが設けられ、コントローラ10はこのセンサからの情報に基づきストッパ4の状態を判断できる。
【0070】
一方、所定回数試行済の場合(S103のYes)には、ステップS112に進み、ストッパ4に何らかの異常が発生しており、正常に作動していない状況と判断し、エラー発生(例えば上述の「ストッパ4に関するエラー」)を検出して本制御フローを終了する。
【0071】
ステップS102にてストッパ4解除が確認されると(S102のYes)、まずポンプ53が始動し(S104)、次にモータ95が始動する(S105)。これにより、ロールドライバ9がモータ95駆動によって回転してシートSを巻き取り始めるので、スポンジ8上の清拭面S1が移動し始める。また、ポンプ53から吐出される薬剤Dがノズル5からコントロールローラ6の周面61を介して、コントロールローラ6を通過するシートSの清拭面S1に塗布されて送り出される。
【0072】
次にエンコーダ63のカウントがリセットされ(S106)、ステップS105のシートSの移動開始後の送り出し量の計測が開始される。コントローラ10は、エンコーダ63のカウント数を監視して、所定回数に到達するまで、すなわちシートSを所定の送り出し量だけ送り出すまで、モータ95等によるシートSの送り出し動作を継続させる。ここで、所定の送り出し量とは、例えばスポンジ8のx方向の寸法である。これにより、スポンジ8上に配置されるシートSの清拭面S1の全体を未使用のものに入れ替えることができる。
【0073】
エンコーダ63が取り付けられるコントロールローラ6の直径は既知の定数である。したがって、本実施形態では、コントロールローラ6の回転数(または回転角度)という1つの情報だけ取得するだけで、コントロールローラ6の直径と回転数の情報を用いてシートSの送り出し量を算出できる。
【0074】
ところで、ロール保持部3に取り付けられるロールRは、シートSの素材の種類やロールRの製造者によって初期状態の直径が違ったり、シートSの厚みが違うなどの個体差があると考えられる。また、ロールRは初期状態からシートSがどれだけ引き出されたかに応じて径も変化する。したがって、ロールRの情報に基づきシートSの引き出し量を算出しようとすると、考慮する要素が多く計算も煩雑となると考えられる。これに対して本実施形態では、ロール保持部3やロールRとは異なるコントロールローラ6の情報を用いる構成であるので、ロール保持部3に取り付けられているロールRの現在の径の情報や、ロールRの種類などの情報を知らなくても、シートSの引き出し量を簡易に算出できる。
【0075】
具体的には、まずエンコーダ63のカウントが所定回数に到達してカウント終了状態となっているか否かが判定され(S107)、所定回数に到達していない場合には(S107のNo)所定時間経過してタイムアウト状態となっているか否かが判定され(S108)、タイムアウト状態でない場合には(S108のNo)、ステップS107に戻りカウント終了状態となるまでシートSの送り出し動作が繰り返される。
【0076】
ここで、カウント終了状態となるカウントの所定回数は、例えば下記の式で算出できる。
所定回数 =
(所望のシートSの引き出し量×コントロールローラ6の1回転あたりのカウント数)
/(π×コントロールローラ6の直径)
【0077】
一方、タイムアウト状態となっている場合には(S108のYes)、ステップS112に進み、エンコーダ63かコントロールローラ6に何らかの異常が発生しているか、または、シートSの送り出しに何らかの異常が発生している状況と判断し、エラー発生(例えば上述の「ローラRに関するエラー」)を検出して本制御フローを終了する。シートSの送り出しの異常とは、例えば、シートSがロール保持部3から引き出されていなかったり、そもそもロールRがロール保持部3に設置されていない、などの状況が挙げられる。
【0078】
ステップS107にてカウント終了が確認されると(S107のYes)、ストッパ4が有効化に切り替えられ、かつ、ポンプ53が停止される(S109)。この状態では、ストッパ4が作動してロール保持部3が回転停止状態となってシートSが送り出されず、かつ、ノズル5からシートSへの薬剤Dの塗布も停止する。その一方で、ロールドライバ9がモータ95駆動によって回転してシートSを巻き取り続ける。
【0079】
この状態を継続することで、送り出されて全体的に弛んだ状態のシートSが基端側を固定した状態でロールドライバ9側に引っ張られることになる。この結果、スポンジ8上のシートSに移動方向の両側から適度に張力が加わり、シートSの清拭面S1がスポンジ8の表面上に密着した状態で配置されるまで待機する(S110)。なお、ステップS110の待機とは、具体的にはステップS109の実施後に所定時間経過するまで、などのように経過時間で制御することができる。または、ロールドライバ9のモータ95の電流値からモータトルクを推定して、推定したモータトルクが所定値以上になるまで(すなわちシートSの張力が目標値に到達するまで)モータ95を作動させるなど、モータトルクに基づき待機状態を制御することもできる。
【0080】
そして、ステップS110の処理が完了して、新たな清拭面S1がスポンジ8上にきちんと設置された状態となると、モータ95を停止して、本制御フローを終了する。
【0081】
なお、
図14のフローチャートに示すシートSの清拭面S1の更新動作は、ロボット100の制御装置によって実施タイミングを制御する構成でもよい。例えばスポンジ8の平らかな表面に設置されたシートSが対象面と非接触である状態において、モータ95がロールドライバ9を駆動してシートSを自動回収させる構成とすることもできる。設置されたシートSが対象と非接触であるかどうかの判定は、例えばロボット100の制御装置が、清拭動作中であるか否かに基づき判断することができる。この場合、ロボット100の制御装置は、清拭動作中であればシートSは対象と接触していると判断し、清拭動作中でなければシートSは対象と非接触であると判断する。ロボット100の制御装置は、シートSが対象と非接触の状態であり、シートSを自動的に送る必要があると判断した場合には、ロボットインタフェース11を介して、シート送りの制御指令を清拭装置1のコントローラ10に指示する。
【0082】
図15は、清拭装置1へのシートSの取り付け手順のフローチャートである。
【0083】
まずストッパ4が無効化されて(S201)、ロール保持部3が装着されたファブリックロールRが筐体2の受け部30Aとストッパ4の篏合部42との間に挿入される(S202)。
【0084】
次にシートSの先端部が引き出されて、シートSがコントロールローラ6及びガイドローラ7に巻き回されて、スポンジ8の位置まで引き出される(S203)。さらにシートSの先端部が進入口28から筐体2の使用後領域24に挿入されて、シートストッパ92に巻き付けられる(S204)。このときシートストッパ92はロールドライバ9から取り外されている。
【0085】
シートSが巻き付けられたシートストッパ92がロールドライバ9の周面91上に設置されて(S205)、シートSが周面91とシートストッパ92によって挟持されることでロールドライバ9に固定される。そしてロールドライバ9が筐体2の受け部30Bとモータ95の駆動軸96との間に挿入される(S206)。この結果、シートSが清拭装置1に正確に取り付けられた状態となり、本制御フローを終了する。
【0086】
図16は、清拭装置1からのシートSの取り外し手順のフローチャートである。
【0087】
まずシートSに張力が無くなるまでモータ95を逆回転させ(S301)、シートSを全体的に弛める。
【0088】
次に、ロール保持部3が装着されたファブリックロールRが筐体2の受け部30Aとストッパ4の篏合部42との間から取り外される(S302)。
【0089】
次に、ロールドライバ9が筐体2の受け部30Bとモータ95の駆動軸96との間から取り外される(S303)。この結果、シートSが清拭装置1から取り外された状態となり、本制御フローを終了する。
【0090】
実施形態に係る清拭装置1は、シートSを送り出すロール保持部3と、ロール保持部3から送り出されたシートSのうち外部に露出する部分が設置される平らな表面を有するスポンジ8と、スポンジ8の平らな表面に設置されたシートSの部分を回収するロールドライバ9と、回収を自動で行わせるモータ95と、を備える。より詳細には、スポンジ8の表面は、接触力を受けていない無変形状態において平らである。さらに詳細には、清拭装置1は、ロール保持部3及びロールドライバ9を内部に収容する筐体2を備え、スポンジ8は筐体2の表面のスポンジベース26に固設され、モータ95はロールドライバ9を駆動し、ロールドライバ9は、モータ95により駆動されることで、スポンジ8の平らな表面上で対象面の清拭に使用されたシートSの部分S1を巻き取って回収し、ロール保持部3は、シートSを巻回したロールRを軸支し、モータ95によって駆動されたロールドライバ9によるシートSの巻き取りに伴って、軸支されたロールRから新しいシートSを送り出す。
【0091】
清拭装置1は、このような簡易な構造で清拭作業が可能である。また、清拭に用いるシートSが配置される平面状のスポンジ8は筐体2のスポンジベース26に固設されるので、清拭面S1を広範囲で安定させて設置することができる。
【0092】
[第2実施形態]
図17、
図18を参照して第2実施形態を説明する。
【0093】
図17は、第2実施形態に係る清拭装置1Aの縦断面図である。
図18は、第2実施形態に係る清拭装置1Aの横断面図である。
図17、
図18の概要は、第1実施形態の
図4、
図5と同様である。
【0094】
第2実施形態に係る清拭装置1Aは、薬剤噴射部を備えていない点で第1実施形態の清拭装置1と相違する。具体的には、ノズル5と、ガイドローラ7とを備えない構成となる。
【0095】
第2実施形態において、ロールRでは、内周側に清拭面S1が配置されるようにシートSが巻回されている。このロールRから引き出されたシートSは、コントロールローラ6の周面61と、清拭面S1の反対側の面とが接触するようにコントロールローラ6に巻回される。コントロールローラ6から送り出されたシートSは筐体2の進出口27から外部に送り出されてスポンジ8の表面に清拭面S1が表側になるように設置される。
【0096】
図19は、第1実施形態および第2実施形態で説明した筐体2の内部構造の変形例である。
図19に示す清拭装置1Bでは、筐体2の第1領域を区分するセパレーションウォール25A、25Bが二重に配置される。セパレーションウォール25A、25Bは、z方向に沿って略平行に配置される。これにより、2つの対向配置されるセパレーションウォール25A、25Bの間に新たな内部空間22Aが形成される。この内部空間22Aに電気コンポーネントを配置することができる。これにより、上記実施形態の構成に対して、y負方向側に第2領域22を設ける必要がなくなるので、筐体2のy方向の寸法を縮小でき、清拭装置1Bの小型化を図れる。
【0097】
図20は、設置部としてのスポンジの変形例を示す模式図である。上記実施形態では、スポンジ8の表側の主面の形状は、
図2などに示したように、その外側を覆って設置されるシートSが平面状となるように、一体的に成形されて平面状に形成される構成を例示し、このようなスポンジ8の形状を「平らな表面」と表現した。ここで、スポンジ8の「平らな表面」には、完全な平面ではないもの、つまり実質的に平らな表面も含まれる。
【0098】
例えば、
図20(A)に示すスポンジ8Aのように、表面が所定方向に沿って波打つなど表面に多少の凹凸があるものであっても、その表面上にシートSを略平面状に張って設置することが可能であり、かつ、シートSを表面上で移動させるのを阻害するほどの負荷をシートSに付加しない形状の表面(すなわち実質的に平らな表面)であれば、シートSの設置部として適用できる。
【0099】
また、
図20(B)に示すスポンジ8Bのように、一体のスポンジ8の代わりに、表面が平らな複数の部材を面状に並べて平らな表面を有する設置部を構成するものでもよい。また、
図20(C)に示すスポンジ8Cのように、複数の小径の円柱部材を面状に並べて平らな表面を有する設置部を構成するものでもよい。これらのスポンジ8B、8Cの表面も、スポンジ8Aと同様な「実質的に平らな表面」といえる。なお、これら複数の部材は、実質的に平らな表面を構成する範囲であれば、部材間が接触していても、部材間に隙間があってもよい。
【0100】
なお、
図20に示すスポンジ8A、8B、8Cの材質は、シートを送れ、かつ、清拭時にシートSが撚れない程度の摩擦係数を持つものであれば良い。また、特に
図20(C)に示すスポンジ8Cを形成する小径の円柱部材は、回動可能に軸支されていても良い。
【0101】
図20(A)~(C)に示した各変形例のスポンジ8A~8Cも、上記実施形態のスポンジ8と同様に、接触力を受けない無変形状態において表面が実質的に平らに維持されている。
【0102】
以上、具体例を参照しつつ本実施形態について説明した。しかし、本開示はこれらの具体例に限定されるものではない。これら具体例に、当業者が適宜設計変更を加えたものも、本開示の特徴を備えている限り、本開示の範囲に包含される。前述した各具体例が備える各要素およびその配置、条件、形状などは、例示したものに限定されるわけではなく適宜変更することができる。前述した各具体例が備える各要素は、技術的な矛盾が生じない限り、適宜組み合わせを変えることができる。