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特開2022-105961温度応答性蛍光粒子を利用した標的生体分子の検出方法又は定量方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022105961
(43)【公開日】2022-07-15
(54)【発明の名称】温度応答性蛍光粒子を利用した標的生体分子の検出方法又は定量方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/543 20060101AFI20220708BHJP
   G01N 21/64 20060101ALI20220708BHJP
【FI】
G01N33/543 575
G01N33/543 515B
G01N21/64 F
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021000617
(22)【出願日】2021-01-05
(71)【出願人】
【識別番号】599081255
【氏名又は名称】株式会社エフ・ピー・エス
(71)【出願人】
【識別番号】509071242
【氏名又は名称】ナノシータ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】230116447
【弁護士】
【氏名又は名称】野中 啓孝
(72)【発明者】
【氏名】堀 昌司
(72)【発明者】
【氏名】尾崎 雅良
(72)【発明者】
【氏名】晝間 信治
【テーマコード(参考)】
2G043
【Fターム(参考)】
2G043AA01
2G043BA16
2G043EA01
2G043LA03
(57)【要約】
【課題】簡便かつ短時間で低濃度の標的生体分子を検出又は定量できる方法及び装置を提供する。
【解決手段】温度応答性蛍光粒子の表面を修飾した温度応答性プローブ粒子を作製し、これを用いた改良ELISA法である検出方法等を発明した。温度応答性プローブ粒子はある特定の温度以上になると蛍光特性を示すものであり、蛍光発光も強いという性質を有する。この特性を利用して、励起光や蛍光を透過させる透明検査容器1、透明ホットプレート2を用いて、透明検査容器内の底面に固定化された温度応答性プローブ粒子が先に温められて相転移温度を超えて蛍光発光したタイミングを、透明ホットプレート2の下側に配置されている検出部4において測定する。
【選択図】図1

【特許請求の範囲】
【請求項1】
温度応答性蛍光粒子の表面を修飾した温度応答性プローブ粒子と、生体試料と、捕獲用生体分子認識素子と、を接触させた後に蛍光発光強度を測定することによって前記生体試料中に含まれる標的生体分子の検出又は定量を行う方法であって、
前記捕獲用生体分子認識素子が底面内側に固定化された透明検査容器を準備するステップ、
前記温度応答性プローブ粒子と、前記生体試料と、前記捕獲用生体分子認識素子と、を接触させて前記透明検査容器内に測定対象を得るステップ、
前記透明検査容器の底面を透明ホットプレートの上に配置するステップ、
前記透明ホットプレートを加熱するステップ、
前記透明ホットプレートの下側から前記透明検査容器内の底面近傍の蛍光発光強度を測定するステップ、
を含むことを特徴とする方法。
【請求項2】
前記ステップ(2)において、前記測定対象を得るに際して、前記透明検査容器内を洗浄する工程を含まないことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記透明ホットプレートがガラス製であることを特徴とする請求項1又は2のいずれか1項に記載の方法。
【請求項4】
光源部と、透明ホットプレートと、前記透明ホットプレートの下側に配置された検出部とを備えることを特徴とする生体試料中に含まれる標的生体分子の検出装置。
【請求項5】
請求項1~3のいずれか1項に記載の方法に用いられることを特徴とする請求項5記載の検出装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、温度応答性蛍光粒子を利用した標的生体分子の検出方法又は定量方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、生体分子(バイオマーカー)の検出及び定量にはELISA法が多用されている。ELISA法は、抗原-抗体反応を利用するため、高い特異性が得られる一方、試薬の洗浄や酵素反応などの操作が煩雑で時間が掛かかる上、生体分子の検出濃度は1pM程度が限界であった。
【0003】
すなわち、ELISA法においては、固相化されずに浮遊する光標識物質がバックグラウンドノイズとなるため、検出感度が悪くなるといった本質的な問題がある。光標識物質としては、周囲環境に関係なく常時蛍光特性を示す蛍光物質が用いられていたため、固相化された光標識物質だけを選択的に蛍光発光させることはできなかった。
【0004】
このような事情から、洗浄プロセスによってバックグラウンドノイズとなる浮遊する光標識物質を除去することがなされているが、今度は検査工程が複雑になるという問題がある。
【0005】
また、ELISA法に用いられてきた光標識物質としては、蛍光発光が弱く、高感度での測定が難しいという問題もある。
【0006】
そこで、ELISA法をさらに進展させた生体分子の検出法も開発されている。例えば、デジタルELISA法と呼ばれる方法では、反応デバイスを工夫して微小液滴(フェムトリットル)中で酵素反応を行うことで高感度化を実現している(非特許文献1、2)。しかし、これらの方法の測定原理はELISA法と同じであり、従来のELISA法より操作が煩雑になり時間がかかる問題がある。
【0007】
Single Molecule Counting (SMCTM) Immunoassay Technologyが、分子検出技術として開発されている(非特許文献3)。この技術もELISA法を原理としているが、検出器の光学系を工夫することで、検出領域を微小化して検出感度を向上させている。しかし、専用の高価な検出器が必要で、微小領域を繰り返しスキャンして測定するため測定に時間がかかる問題がある。
【0008】
また、イムノクロマト法が使用されているが(非特許文献4)、感度が低いため疾病や感染の早期発見には使えない、目視判定による判定者の視認感度差などがあり、偽陰性率(20~30%)も高いとの欠点を有する。
【0009】
バイオマーカーによる疫病や感染の早期診断には1pM以下の検出感度が必要であるため、より高感度で、簡便で、短時間で実施可能な検出法の開発が待たれている。
【0010】
更に、最近、検出感度の高い温度応答性蛍光粒子について報告されているが(特許文献1)、これを利用して最適に検出又は定量する方法については、具体的に開示されていない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】Rissin D.M., et al, Nat Biotechnol. 2010:28(6):595-9.
【非特許文献2】Kim S.H., et al, Lab Chip, 2012, 12, 4986-4991.
【非特許文献3】Hwang J., et al, Methods, 2019, 158, 69-79.
【非特許文献4】Hurt C. A., et al, J.Clin.Virol., 2007, 39, 132-135.
【特許文献1】WO2020/241830
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
そこで発明者らは、鋭意検討の結果、温度応答性蛍光粒子の表面を修飾した温度応答性プローブ粒子を作製し、これを用いた改良ELISA法である検出方法等を発明した。温度応答性プローブ粒子は、ある特定の温度以上になると蛍光特性を示すものであり、蛍光発光も強いという性質を有する。この特性を利用して、励起光や蛍光を透過させる透明検査容器、透明ホットプレートを用いて、透明検査容器内の底面に固定化された温度応答性プローブ粒子が先に温められて相転移温度を超えて蛍光発光したタイミングを、透明ホットプレートの下側に配置されている検出部において測定する。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の一態様は、温度応答性蛍光粒子の表面を修飾した温度応答性プローブ粒子と、生体試料と、捕獲用生体分子認識素子と、を接触させた後に蛍光発光強度を測定することによって前記生体試料中に含まれる標的生体分子の検出又は定量を行う方法であって、(1)捕獲用生体分子認識素子が底面内側に固定化された透明検査容器を準備するステップ、(2)温度応答性プローブ粒子と、生体試料と、捕獲用生体分子認識素子と、を接触させて透明検査容器内に測定対象を得るステップ、(3)温度応答性プローブ粒子と、生体試料と、捕獲用生体分子認識素子と、を接触させて透明検査容器内に測定対象を得るステップ、(4)透明検査容器の底面を透明ホットプレートの上に配置するステップ、(5)透明ホットプレートを加熱するステップ、(6)透明ホットプレートの下側から前記透明検査容器内の底面近傍の蛍光発光強度を測定するステップ、を含むことを特徴とする方法である。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、簡便かつ短時間で低濃度の標的生体分子を検出又は定量できる方法及び装置を提供することが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の検出装置の概略図である。
図2】本発明の透明検査容器1を検査容器ホルダ10に配置した状況を示す斜視図である。
図3】本発明の透明検査容器1を検査容器ホルダ10に配置した状況を示す断面図である。
図4】本発明の透明ホットプレート2の一例の断面図である。
図5】本発明の透明ホットプレート2の一例に用いられる透明ホットシート20の平面図である。
図6】本発明の検出方法のうち蛍光発光強度測定の概要を説明する図(1)である。
図7】本発明の検出方法のうち蛍光発光強度測定の概要を説明する図(2)である。
図8】本発明の温度応答性蛍光粒子の消光と蛍光発光を説明する図である。
図9】本発明の検出方法の一例を示す図(1)である。
図10】本発明の検出方法の一例を示す図(2)である。
図11】標的生体分子が存在している場合の透明容器1内の蛍光発光強度の時間変化を説明する図である。
図12】標的生体分子が存在していない場合の透明容器1内の蛍光発光強度の時間変化を説明する図である。
図13】本発明の検出方法の原理を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を実施するための実施形態について詳細に説明する。但し、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではない。また、各図において図面の寸法比と実際の寸法比は必ずしも一致しない。
【0017】
(本発明の検出装置の概要)
図1を用いて、本発明の検出装置の概要を説明する。検出装置100は、検出の際に外部からノイズ光が入らないように全体が筐体9で遮光されている。検出装置100内部の上部には、透明ホットプレート2が設置されている。透明ホットプレート2の下側には、光源部3、検出部4が配置されている。なお、検出部4から発光された蛍光を測定しやすくするために、フィルタ5が配置されていてもよい。
【0018】
光源部3は、ここから発光された光が透明ホットプレート2及びその上部に配置されることになる透明検査容器1に届くように配置されている。検出部4は、透明ホットプレート2越しに透明検査容器1内の底面近傍の蛍光発光強度を測定することから、透明ホットプレート2の略重力方向下側に設置される。光源部3は、検出部4の測定の際に障害とならない位置に配置される必要がある。
【0019】
(本発明の検出方法の概要)
測定は、測定対象が入っている透明検査容器1を透明ホットプレート2上に置いて透明検査容器1を底面から加熱すると共に、光源部3から励起光を発光して、検出部4によって透明検査容器内の底面近傍の蛍光発光強度を測定することによって行う。
【0020】
(透明検査容器)
本発明で用いられる透明検査容器1の素材としては、透明プラスチック製、ガラス製など、光源部3の発する励起光及び測定対象が発する蛍光を遮断又は吸収しない素材が好ましい。透明検査容器1の形状としては、例えば、上部が開口した円筒形の容器があるが、これに限定されない。
【0021】
(検査容器ホルダ)
透明検査容器1は、直接透明ホットプレート2上に置いてもよいが、図1、2のように、検査容器ホルダ10に固定することもできる。これにより、同時に多くの透明検査容器1を測定に用いることが可能となる。なお、検査容器ホルダ10は、本発明の検出方法の妨げにならないように、図3(a)のように、透明検査容器1の底面を覆わない構造になっているか、図3(b)のように、底面が透明素材でできていることが好ましい。また、検査容器ホルダ10を構成する基本部材は、光の反射によって蛍光発光強度測定の妨げにならない様、黒色であることが好ましい。
【0022】
前者の例としては、透明検査容器1の上部に隆起部を設けて検査容器ホルダ10の穴部に引っかけて固定することが考えられる。検査容器ホルダ10を透明ホットプレート2上に置いたときに、透明検査容器1が透明ホットプレート2に接するように設計してもよいし、数ミリ程度浮くように設計してもよい。
後者の例としては、底面が、透明プラスチック製、ガラス製など、光源部3の発する励起光及び測定対象が発する蛍光を遮断又は吸収しない透明底11で作られている場合が挙げられる。
【0023】
(透明ホットプレート)
透明ホットプレート2の素材としては、透明プラスチック製、ガラス製など、光源部3の発する励起光及び測定対象が発する蛍光を遮断又は吸収しない素材が好ましい。温度が迅速かつ均一に伝わりやすいという観点から、ガラス製が特に好ましい。
【0024】
図4に、透明ホットプレート2の構造の一例を挙げる。透明ホットシート20は、全体として透明であるが、電気を通すことによって発熱するシートである。透明ホットプレート2の構造の一例は、この透明ホットシート20をガラスプレート21が挟み込む3層構造を採っている。
【0025】
図5は、透明ホットシート20の平面図である。透明ホットシート20は、基板となる透明フィルム24に細い電熱線22を複数本配置して、この電熱線22を電極23に接続することで構成される。透明フィルム24は、光源部3の発する励起光及び測定対象が発する蛍光を遮断又は吸収しない素材であれば何でもよい。電熱線22は、ニクロム線などの発熱素子からなる細い線であり、透明フィルム24に組み込まれているか又は貼り付けられている。電極23に通電することにより、この電熱線22が発熱することになる。電熱線22は、透明フィルム24に複数本配置されているが、細い線であるので、測定の妨げになることはない。
【0026】
透明ホットプレート2としては、上記以外にも、ガラスやプラスチックの板を単独で用いて、端部から加熱することで伝熱によって全体を加熱させるものであってもよい。その他、透明ホットプレート2の構成に限定はない。
【0027】
(光源部)
光源部3としては、光標識物質の励起波長を出力することのできる光源であれば足りる。例えば、発光ダイオードのように特定の波長を出力できるものや、予め広範囲な波長を出力できるレーザー光源のレーザー光路途中に特定の波長のみが通過できるフィルタを設置することなどが考えられる。
【0028】
(検出部)
検出部4としては、一般的な市販の蛍光光度計の他、汎用のデジタルカメラ、スマートフォンやタブレットの内蔵カメラなどが用いられる。本発明の検査方法によれば、温度応答性蛍光粒子の蛍光が強いため、条件次第では、スマートフォン、タブレットなどの汎用機器でも実用的に検出できる。
【0029】
(フィルタ)
本発明においては、検出部4に入る光を制限するために、検出部4の上部などにフィルタ5を設けてもよい。フィルタ5は、励起光など蛍光発光以外のノイズとなる光をカットするフィルムである。
【0030】
(本発明の蛍光発光強度測定の概要)
図6は、本発明の方法のうち、蛍光発光強度測定の概要を説明する図である。光源部3が透明ホットプレート2の略重力方向下側から温度応答性蛍光粒子に対応する励起光を照射し、励起光は透明ホットプレート2及び透明検査容器1の底面を透過して測定対象に照射される。
【0031】
この際、図7で示すように、透明ホットプレート2が透明検査容器1の底面から徐々に加熱していることから、透明検査容器1の液体には温度分布が生じ、底面に近いほど温かいという状況が生まれる。底面に固定化された温度応答性蛍光粒子が後述する相転移温度を超えた場合、温度応答性蛍光粒子が蛍光特性を示し、蛍光発光することになる(図8)。すなわち、温度分布を調整することにより、底面に固定化されている温度応答性蛍光粒子が蛍光特性を示し、浮遊する温度応答性蛍光粒子は蛍光特性を示さないというタイミングを作り出すことができる。
図6に戻って、検出部4は、このときに発光された蛍光の強度を測定する。上記タイミングにおいては、底面に固定化されている温度応答性蛍光粒子が発光する蛍光のみを検出することができる。
【0032】
(温度応答性蛍光粒子)
温度応答性蛍光粒子は、少なくとも一種の両親媒性分子を含み構成される分子集合体中に、少なくとも一種の蛍光分子を含む。即ち、本発明の温度応答性蛍光粒子は、相転移(即ち、固相から液相への転移、あるいはゲル相から液晶相への転移)に伴って蛍光分子の凝集による消光状態が解離して発光状態になるとの現象を利用したものである(図8)。
【0033】
よって、本発明で用いる温度応答性蛍光粒子は、分子集合体形態を保ったまま、固相状態から液相状態に相転移が起こるものであれば特に制限なく用いることができる。前記分子集合体は、好ましくは、単分子膜又は二分子膜を有する、より好ましくは、前記分子集合体は、脂質二分子膜(脂質二重層とも言う。)を有する。
【0034】
前記両親媒性分子(例:脂質分子)は、生体由来の脂質に限定されるものではなく、半合成、合成により製造されるリン脂質などの低分子やその誘導体、高分子、ペプチド、アミノ酸、カルボン酸などを原料として合成により製造できる両親媒性分子を含む。
【0035】
前記温度応答性蛍光粒子は、温度に応答する固相-液相転移により、前記分子集合体が液相のときに前記蛍光分子が解離して蛍光発光し、固相のときに凝集して消光し、これにより、温度に応答して蛍光分子の蛍光発光と、消光とを可逆的に変換することができる(図8)。
【0036】
すなわち、前記分子集合体は、温度に応答する固相-液相転移を示し、液相のときに解離した蛍光分子を有し蛍光発光し、固相のときに凝集した蛍光分子を有し凝集起因消光(aggregation-caused quenching)により消光する。前記分子集合体が脂質二重層を有する分子集合体である場合には、前記固相はゲル相であり、また前記液相は液晶相である。
【0037】
前記蛍光分子は、水相中で分子集合状態となって構築される疎水性の領域、例えば、単分子膜で囲まれた領域、あるいは脂質二分子膜などの二分子膜中、に配置されるため、両親媒性ないし脂溶性の蛍光分子が好適である。通常、蛍光分子は凝集により消光する性質を有しているので、固相-液相転移(例えば、脂質二分子膜のゲル-液晶相転移)に応答して凝集と解離を示す蛍光分子であれば、消光と発光を変換できる。
【0038】
該蛍光分子の例として、下記一般式(A)で表される化合物を挙げることができる。
【0039】
【化1】
【0040】
生体分子には、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸、フラビン類、タンパク質、アミノ酸など、600 nm以下の波長の光を吸収して600 nm以下の波長の蛍光(自家蛍光)を発光するものがある。このため、生体分子の検出に最大吸収波長と最大蛍光発光波長が600 nm以下の蛍光プローブを使うと、蛍光測定において夾雑分子の自家蛍光による干渉が問題となる場合がある。よって、本発明の一般式(A)で表される化合物は、最大吸収波長と最大蛍光発光波長が600 nm以上にある蛍光分子であることが望ましく、さらに980 nm以上の波長の光を水に照射すると水の吸収による発熱が温度応答性粒子に作用することを考慮すると、最大吸収波長と最大蛍光発光波長が600~900 nm の範囲にある蛍光分子であることがより望ましい。
【0041】
前記蛍光分子の前記式(A)の化合物のより具体的な例としては、スクアリン酸誘導体を挙げることができる。
【0042】
前記スクアリン酸誘導体の例としては、下記一般式(I)で表される化合物を挙げることができる。
【0043】
【化2】
【0044】
ただし、R1及びR2は、各々独立し、同一であってもよく又は異なってもよい、疎水性基を表す。
【0045】
一般式(A)又は一般式(I)で表される化合物は、フリー体だけでなく、その塩も包含されるものとする。係る塩は化合物の種類によって異なるが、例えば、アルカリ金属塩(ナトリウム塩、カリウム塩等)、アルカリ土類金属塩(カルシウム塩、マグネシウム塩等)、アルミニウム塩、アンモニウム塩等の無機塩基塩、並びにトリメチルアミン、トリエチルアミン、ピリジン、ピコリン、エタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、ジシクロヘキシルアミン、N,N’-ジベンジルエチレンジアミン等の有機塩基塩などの塩基付加塩、あるいは塩酸塩、臭化水素酸塩、硫酸塩、ヨウ化水素酸塩、硝酸塩、リン酸塩等の無機酸塩、クエン酸塩、シュウ酸塩、酢酸塩、ギ酸塩、プロピオン酸塩、安息香酸塩、トリフルオロ酢酸塩、マレイン酸塩、酒石酸塩、メタンスルホン酸塩、ベンゼンスルホン酸塩、パラトルエンスルホン酸塩等の有機酸塩などの酸付加塩が挙げられる。
【0046】
前記スクアリン酸誘導体において、R1及びR2は、直鎖炭化水素であってもよく、分岐鎖炭化水素であってもよく、また、飽和炭化水素であってもよく、不飽和炭化水素であってもよい。好ましくは、直鎖飽和炭化水素を挙げることができるが、前記分子集合体の液晶相で前記蛍光分子が解離し、ゲル相で凝集する限りこれに限定されない。
【0047】
1及びR2のより具体的な例としては、例えば、炭素数2~10の炭化水素基が挙げられ、より具体的には、n-ブチル基、n-ペンチル基又はn-ヘキシル基から選択することができるが、前記分子集合体の液晶相で解離し、ゲル相で凝集する限りこれに限定されない。
【0048】
前記両親媒性分子の例としては、リン脂質を挙げることができる。
【0049】
リン脂質の種類に特に限定はないが、グリセロリン脂質(ジアシル型リン脂質とも言う。)が好ましく、特に相転移を示す安定な脂質二分子膜を形成するには、親水部にホスホコリン基を有するジアシル型リン脂質が好ましい。ジアシル型リン脂質のアシル鎖長は同じであっても異なっていても良い。ホスホコリン基を有するジアシル型リン脂質には、飽和リン脂質および不飽和リン脂質が含まれ、本発明ではいずれのものでも使用でき、また、これらを組み合わせて用いてもよい。飽和ホスホコリンは、合成、半合成、例えば100%に近い水添率の水添卵黄レシチン、水添大豆レシチンなどの天然系リン脂質及びその誘導体、また、ジミリストイルホスホコリン、ジペンタデカノイルホスホコリン、ジパルミトイルホスホコリン、ジヘプタデカノイルホスホコリン、ジステアロイルホスホコリン等を用いることができる。
【0050】
そして、前記分子集合体の例として、単分子膜(単層とも言う。)で囲まれた疎水性コアを有するエマルジョンや脂質ナノ粒子、球殻状に閉じた膜構造を有する小胞であるベシクルを挙げることができる。かかるベシクルとしては、脂質二分子膜ベシクル(リポソームとも言う。)を挙げることができるが、これに限定されない。本発明の温度応答性蛍光粒子として使用できる、すなわち、前記分子集合体として使用可能な粒子は、特定の温度で固相-液相転移又はゲル-液晶相転移する分子集合体である限り、多重層若しくは単層、又は、粒子径等によって限定されない。
【0051】
脂質ベシクルなどの分子集合体の凝集や融合を防止するため、親水部に荷電残基や高分子鎖をもつ両親媒性分子を構成成分に含ませることができる。こうして得られる脂質ベシクルなどの分子集合体は、電荷による静電反発や高分子鎖による立体排除効果により高い分散安定性を有している。
【0052】
荷電残基をもつ両親媒性分子の例として、該分子が脂質分子の場合には、ホスファチジルグリセロール、ホスファチジルセリン、ホスファチジン酸を親水部に有するアニオン性リン脂質やL-glutamic acid, N-(3-carboxy-1-oxo propyl)-, 1,5-dihexadecyl ester(SA)などのカルボン酸型脂質、アミノ酸を親水基に有するアミノ酸型脂質が挙げられる。
【0053】
また、高分子鎖をもつ両親媒性分子の例として、該分子が脂質分子の場合には、1,2-distearoyl-sn-glycero-3-phosphoethanolamine-N-monomethoxy poly(ethylene glycol)が挙げられる。Poly(ethylene glycol)の分子量に制限はないが、脂質ベシクルの凝集を防止するには1000~5000の分子量が好ましい。
【0054】
また、両親媒性分子として、該分子が脂質分子の場合には、1,2-dimyristoyl-sn-glycero-3-phosphocholine(PC14)、1,2-dipentadecanoyl-sn-glycero-3-phosphocholine(PC15)(Avanti Polar Lipids Inc.製)、1,2-diheptade canoyl-sn-glycero-3-phosphocholine(PC17)(Avanti Polar Lipids Inc.製)、1,2-distearoyl-sn-glycero-3-phosphocholine(PC18)、1,2-dipalmitoy l-sn-glycero-3-phosphocholine(PC16(DPPCとも言う。))、1,2-Dioleoyl- sn-glycero-3-phosphocholine (DOPC)、1,5-dihexadecyl-N-succiny-L-gluta mate(DHSG)、1,2-Distearoyl-sn-glycero-3-phosphoethanolamine(DSPE) などを用いることもできる。
【0055】
前記脂質ベシクルなどの分子集合体における蛍光分子の凝集起因消光は、該分子集合体中の濃度に依存し、蛍光分子の濃度の低下に伴って、凝集起因消光も低下する。そこで、本発明の温度応答性蛍光粒子は、前記一般式(I)で表される化合物を0.3mol%以上、好ましくは0.7mol%以上、より好ましくは1.0mol%以上の濃度で含有する。
【0056】
係る温度応答性蛍光粒子の製造は、前記分子集合体の製造の際に前記式(I)の化合物を共存させることによって取得することができる。分子集合体の製造の例としては、公知の脂質ベシクルの製造方法に従って製造することができる(Sheng Dong et al, ACS Appl. Nano Mater. 2018, 1, 1009-1013)。
【0057】
本発明の温度応答性蛍光粒子は、下記の温度応答性プローブ粒子の製造に利用できる。
【0058】
(温度応答性プローブ粒子)
温度応答性プローブ粒子は、温度応答性蛍光粒子の表面を生体分子認識素子で修飾することにより取得できる。本明細書において、「素子」とは、特定の機能、例えば、生体分子認識機能など、を発揮する分子を意味し、「素子」と「分子」との用語は互換的に用いることができる。また、本明細書において、「認識」とは、標的の分子を認識し、該分子に結合すること意味する。さらに、「生体分子認識素子」は、それ自体が直接生体分子を認識するものだけでなく、他の分子や分子複合体(例:ストレプトアビジンと、生体分子を認識するビオチン化抗体との複合体等)との結合を介して、間接的に生体分子を認識するものも包含されるものとする。
【0059】
前記生体分子認識素子の例として、抗体又は該抗体の可変領域若しくは該抗体のfab断片(以下、「抗体等」と記載)を挙げることができる。本明細書において、係る素子、例えば抗体等は、下記で説明するように「検出用生体分子認識素子」と言い、素子が抗体等の場合には、「検出抗体」とも言う。
【0060】
一方、標的生体分子を測定容器底面等に固着する目的で、標的生体分子の別のエピトープに対する素子、例えば抗体等を使用する場合がある。本明細書において、かかる素子を、「捕獲用生体分子認識素子」と言い、素子が抗体等の場合には、「捕獲抗体」とも言う。
【0061】
前記生体分子認識素子は、検出又は測定対象とする標的生体分子と結合することにより、標的生体分子と前記温度応答性蛍光粒子との複合体を形成することができる。
【0062】
従来技術であるサンドイッチELISA法で使用されるように、前記生体分子認識素子として抗体を使用する場合、同一抗原の異なるエピトープに対して結合する検出抗体と捕獲抗体の2種類の抗体を使用する。検出抗体は、該抗体を介して抗原と温度応答性蛍光粒子とを結合させる。捕獲抗体はウェル等の測定容器の底面等に固定することにより被験対象である標的生体分子を測定容器の底面等に捕獲し、固着させる役割を有する。
【0063】
サンドイッチELISA法と同様に、本発明の温度応答性プローブ粒子において、検出抗体を前記温度応答性蛍光粒子に結合させるための抗体として、また、捕獲抗体をウェル等の測定容器の底面等に標的生体分子を固着させるための抗体として使用する。
【0064】
すなわち、前記生体分子認識素子が抗体のとき、(a)前記温度応答性蛍光粒子と検出抗体とで構成される温度応答性プローブ粒子、(b) 検出抗体と捕獲抗体の抗原である標的生体分子、(c)ウェル等の測定容器の底面に固定された捕獲抗体とが、温度応答性プローブ粒子(検出抗体が膜表面に修飾された温度応答性蛍光粒子)-標的生体分子(抗原)-捕獲抗体-測定容器の複合体を形成するときに、温度応答性プローブ粒子は測定容器底面に固着された状態となる。この状態で、測定容器底面を加温すると、測定容器底面からの熱伝導により前記複合体の温度は速やかに上昇する(図11(b))。このとき複合体中の温度応答性プローブ粒子が固相から液相に相転移することにより、固相では凝集し消光していた温度応答性蛍光粒子中の蛍光分子が解離し、蛍光発光する。一方、被験試料中に標的生体分子、すなわち抗原が存在しないとき、前記複合体は形成されない。そこで、温度応答性プローブ粒子は測定容器底面に固着することはできず、測定容器底面を加熱しても、溶媒を介した熱伝達による緩徐な昇温に留まるため、固相の状態をより長時間維持し、消光状態を維持する(図12(b))。
【0065】
本発明の温度応答性プローブ粒子、すなわち、上記の表面が生体分子認識素子で修飾された温度応答性蛍光粒子は、公知の方法に従って、検出抗体で修飾された脂質ベシクルを製造し、取得することができる(国際公開パンフレットWO2020/241830、WO2000/064413、特開2003-73258号公報、特開昭58-134032号公報、Manjappa S. A., et al, J. Controlled Release 2011, 150, 2-22、Li T., et al, Nanomed.: Nanotechnol. Biol. Medicine, 2017, 13, 1219-1227)。
【0066】
その他、本発明の温度応答性蛍光粒子、温度応答性プローブ粒子の製法は、公知の方法(Scientific Reports volume 10, Article number: 18086 (2020)など)を参照することができる。
【0067】
従来技術であるELISA法の測定操作では、標的生体分子に結合した抗体-酵素コンジュゲートと、標的生体分子に結合しなかった抗体-酵素コンジュゲートとを分離する操作、及び/又は、標的生体分子に結合しなかった抗体- 酵素コンジュゲートとを洗浄する操作を必要とする。一方、本発明は、標的生体分子のエピトープに対する抗原-抗体反応を利用して熱源近傍に固着した温度応答性プローブ粒子への熱伝導による速やかな昇温と、標的生体分子に結合していない温度応答性蛍光粒子に対した溶媒を介した熱伝達による緩徐な温度変化の差を利用するため、ELISA法で必要な分離操作や洗浄操作を行うことなく、蛍光発光強度を測定することで、簡便、短時間かつ高感度で標的生体分子を検出できる。
【0068】
一方、サンドイッチELISA法は、すでに各種生体分子に対する測定キットが商業的に利用されている。すなわち、測定容器としてのウェルの底面等に捕獲抗体が固定された測定用マイクロウェルプレートや検出抗体がキットに含まれる。そこで、例えば、このような商業的に利用可能なサンドイッチELISA 測定キットを利用することができる。本発明の温度応答性プローブ粒子を作製し、このようなキットに含まれる検出抗体や、捕獲抗体がウェル底面等に固定されたマイクロウェルプレート等を入手すれば、本発明を実施することができる。
【0069】
また、サンドイッチELISA法では、マイクロウェルプレートのウェルの底面に固定させた捕獲抗体と、抗原(標的生体分子)と、ビオチン化された検出抗体と、西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)標識ストレプトアビジンとの複合体を形成させることにより抗原を測定する測定キットが商業的に利用できる(図9(a)参照)。そこで、本発明の温度応答性プローブ粒子として、表面をビオチンで標識した温度応答性蛍光粒子を製造し、マイクロプレートのウェルの底面に固定させた捕獲抗体と、抗原(標的生体分子)と、ビオチン化された検出抗体と、ストレプトアビジンと、該表面をビオチンで標識した温度応答性蛍光粒子とを混合し,これらの複合体を形成させ、マイクロプレートのウェル底面を熱源で加熱し、温度応答性蛍光粒子を速やかに相転移させて蛍光発光させることにより、被験試料中の抗原(標的生体分子)を測定することができる(図9(b)参照)。すなわち、この場合の生体認識素子としては、検出抗体単独ではなく、温度応答性蛍光粒子の表面を修飾したビオチン-ストレプトアビジン-ビオチン化検出抗体の複合体といえる。あるいは、マレイミド末端ポリエチレングリコール型脂質を導入することにより脂質ベシクルの表面をマレイミド基にて修飾し、検出抗体をペプシン処理後還元して得られた断片化抗体であるFab’のチオール基を反応させることによって作製された複合体も、温度応答性蛍光脂質ベシクル-断片化検出抗体の複合体といえる。このように、生体認識素子として、抗体単独に限定されることはなく、また、ビオチン-ストレプトアビジンに限定されることもなく、分子認識等により強い結合性を有する複合体を形成する各種の分子を利用することによって、本発明の温度応答性プローブ粒子を製造し、使用することができる。
【0070】
分子認識による複合体形成に利用できる分子種として、例えば、糖鎖とレクチンの組み合わせ、核酸の相補的塩基配列、受容体とリガンド分子の組み合わせ、核酸アプタマー、ペプチドアプタマーを挙げることができるが、これらに限定されない。
【0071】
(標的生体分子の検出又は定量法)
本発明の標的生体分子の検出又は定量法は、従来の検出法、例えばエンドサイトーシスや膜融合により、蛍光プローブ粒子や、該粒子に含まれる蛍光分子を細胞膜へと輸送し、細胞を検出する方法や、蛍光分子が蛍光プローブ粒子から放出されることにより生じる蛍光を検出する方法など、とは全く異なる。
【0072】
上記で説明のとおり、上記温度応答性プローブ粒子及び温度応答性蛍光粒子は、分離操作や洗浄操作を行うことなく、蛍光発光強度を測定することで、短時間、簡便かつ高感度で標的生体分子を検出又は測定できる。あるいは、加熱ではなく洗浄操作により、生体分子を検出又は定量することもできる。また、被験試料を微小液滴化することにより、標的生体試料の分子検出法としても利用できる。
【0073】
(本発明の検出方法のステップ(1))
本発明の検出方法のステップ(1)は、捕獲用生体分子認識素子が底面内側に固定化された透明検査容器を準備するステップである。捕獲用生体分子認識素子を固定化する方法は、公知の方法による。なお、当該ステップ(1)として、捕獲用生体分子認識素子が底面内側に固定化された透明検査容器の市販品を利用することもできる。
【0074】
(本発明の検出方法のステップ(2))
本発明の検出方法のステップ(2)は、前記温度応答性プローブ粒子と、前記生体試料と、前記捕獲用生体分子認識素子と、を接触させて前記透明検査容器内に測定対象を得るステップである。
【0075】
本発明の生体分子の検出又は定量法に用いる温度応答性プローブ粒子の濃度は、特に限定されないが、捕獲用生体分子認識素子の接触時において、温度応答性プローブ粒子が、溶液中に1.0μg/ml以上、より好ましくは2.0μg/ml以上、さらに好ましくは5.0μg/ml以上の濃度で含まれていることが好ましい。
【0076】
上記本発明の生体分子の検出又は定量法に用いる生体試料としては、例えば、動物又は細胞から採取した試料が挙げられる。また、前記試料は、標的の生体分子を含むことが既知の試料であってもよいし、標的の生体分子が含まれるか不明な試料であってもよい。かかる動物又は細胞としては、例えば、マウス、ラット、ハムスター、モルモット、イヌ、サル、オランウータン、チンパンジー、ヒトなどの哺乳動物又は該動物に由来する細胞が挙げられる。動物由来の試料としては、例えば、血液、血清、血漿、唾液、尿、涙、汗、乳汁、鼻汁、精液、胸水、消化管分泌液、脳脊髄液、組織間液、及びリンパ液などが挙げられ、好ましくは血液、血清又は血漿である。これらの試料は、自体公知の方法により得ることができ、例えば、血清や血漿は、常法に従って被検動物から採血し、液性成分を分離することにより調製することができ、脳脊髄液は、脊椎穿刺等の公知の手段により採取することができる。
【0077】
温度応答性プローブ粒子と、生体試料とを、基板に固定された捕獲用生体分子認識素子に接触させる方法は特に限定されない。例えば、生体試料を含む溶液と、温度応答性プローブ粒子とを、この順に基板上に添加することにより行うことができるが、この方法に限定されない。あるいは、あらかじめ生体試料と温度応答性プローブ粒子とを混合して作製した溶液を、基板上に添加してもよい(即ち、生体試料と温度応答性プローブ粒子とを同時に基板に接触させてもよい)。上記接触の際の条件としては、特に制限されないが、通常0~45℃の温度下で接触させ、好ましくは0~40℃の温度下で接触させ、より好ましくは4~37℃の温度下で、さらに好ましくは25℃~37℃の温度下で接触させる。また、接触させる時間としても特に制限はないが、典型的には6時間以下であり、好ましくは2時間以下、より好ましくは1時間以下である。また、接触時間の下限も特に制限されないが、典型的には1 0秒以上、好ましくは1分以上、より好ましくは10分以上である。
【0078】
また、温度応答性プローブ粒子が有する生体分子認識素子(例:ビオチン等)と同一のものを、検出用生体分子認識素子に付加することで、該生体分子認識素子を認識する素子(例:ストレプトアビジン等)を介して、温度応答性プローブ粒子と、検出用生体分子認識素子とを結合させてもよい。従って、一態様において、ステップ(2)が、温度応答性プローブ粒子と、生体分子認識素子を認識する素子と検出用生体分子認識素子と、生体試料とを、基板に固定された捕獲用生体分子認識素子に接触させるステップであってもよい。接触方法については、上記で記載の方法と同様に行うことができる。例えば、生体試料を含む溶液と、検出用生体分子認識素子、生体分子認識素子を認識する素子及び温度応答性プローブ粒子を含む溶液とを、この順に基板上に添加することにより行うことができるが、この順番に限定されない。また、検出用生体分子認識素子と、生体分子認識素子を認識する素子と、温度応答性プローブ粒子を、別々に捕獲用生体分子認識素子と接触させてもよい。あるいは、あらかじめ生体試料、検出用生体分子認識素子、生体分子認識素子を認識する素子及び温度応答性プローブ粒子を混合して作製した溶液を、基板上に添加してもよい(即ち、生体試料、温度応答性蛍光プローブ生体分子認識素子を認識する素子及び検出用生体分子認識素子を同時に基板に接触させてもよい)。本方法の模式図を、図10(a)~(c)として示す。かかる方法により、図10(c)に示すように、1つの生体分子に対して複数の温度応答性プローブ粒子が結合することになり、検出感度を向上させることが可能となる。好ましい態様において、上記生体分子認識素子はビオチンであり、生体分子認識素子を認識する素子は、ストレプトアビジン、アビジン又はニュートラアビジンである。
【0079】
(本発明の検出方法のステップ(3))
本発明の検出方法のステップ(3)は、透明検査容器の底面を透明ホットプレートの上に配置するステップである。この態様としては、透明検査容器1個又は複数個を直接透明ホットプレートの上に置いてもよいし、検査容器ホルダに入れた上で透明ホットプレートの上に置いてもよい。透明ホットプレートの熱が透明検査容器に伝わる態様であれば、限定はされず、透明検査容器が透明ホットプレートから浮いていたり、透明シートなどが挟まったりしても問題はない。ただし、光源部3の発する励起光及び測定対象が発する蛍光を遮断又は吸収しない態様である必要がある。
【0080】
(本発明の検出方法のステップ(4))
本発明の検出方法のステップ(4)は、透明ホットプレートを加熱するステップである。加熱のタイミングは、透明検査容器の底面を透明ホットプレートの上に配置してから加熱しても、配置する前段階から加熱しておいてもよい。
【0081】
透明ホットプレートは、それ自身発熱するもの、電気や光の作用によって発熱するもの、他の熱源から熱伝導で熱を得るもの、などその方法は問わない。使用する温度応答性蛍光粒子が、相転移(即ち、固相から液相への転移、あるいはゲル相から液晶相への転移)する温度(相転移温度)を予め測定しておき、透明ホットプレートを相転移温度以上に加熱する必要がある。
【0082】
その際、透明ホットプレートの設定温度と、相転移温度の差が大きい程、透明検査容器の底面が早く温まり、相転移も早く起きることになる。あまり差が大きすぎると、温度上昇が急激になり、透明検査容器全体が早く相転移温度を超えることになるため、透明検査容器の底面に補足されている測定対象の温度応答性プローブ粒子と、透明検査容器内の補足されずに浮遊している温度応答性プローブ粒子とが相転移温度を超えるまでの時間差が小さくなるために、蛍光発光強度測定がしにくくなるという問題が生じる。
他方で、あまり差が小さすぎると、透明検査容器の底面に補足されている測定対象の温度応答性プローブ粒子自体がなかなか温まらず、蛍光発光強度測定に時間がかかりすぎることになる。
このため、透明ホットプレートの設定温度は、蛍光発光強度測定が数秒から1分以内で完了するような温度にすることが好ましい。
【0083】
(本発明の検出方法のステップ(5))
本発明の検出方法のステップ(5)は、透明ホットプレートの下側から透明検査容器内の底面近傍の蛍光発光強度を測定するステップである。
【0084】
蛍光発光の検出又は測定方法に特に限定はないが、一般的な光ファイバ型蛍光検出器、マイクロプレートリーダー、蛍光顕微鏡、カメラ(例:CMOS素子搭載カメラ)を備えた検出器(例:ゲルイメージャー)などを用いれば検出又は測定できる。また、ELISA法での方法と同様に、標的生体分子の濃度が既知の試料(標準品)を用いて検量線を作成し、該検量線を用いて、生体試料中の標的生体分子の濃度を定量することもできる。さらに、以下に記載の生体分子の定量法により定量することもできる。即ち、本発明の生体分子の検出法は、生体分子の定量法として応用できる。
【0085】
検出の基本的な原理としては、透明ホットプレートの下側に配置された光源部から透明検査容器内に向けて励起光を当てることにより、相転移温度を超えて蛍光分子の凝集による消光状態が解離して発光状態になった温度応答性プローブ粒子を選択的に蛍光発光させ、検出部において、その強度を測定するというものである。
【0086】
その際、測定対象の温度応答性プローブ粒子は、透明検査容器の底面に補足されていることから、透明検査容器内の補足されずに浮遊している温度応答性プローブ粒子と比較して、透明ホットプレートによってより早いタイミングで相転移温度を超えることになる。
【0087】
図11は、生体試料中に標的生体分子が存在している場合の時間の経過と蛍光強度の関係を示したものである。(a)透明検査容器を透明ホットプレート上に置いた瞬間は、測定対象の温度応答性プローブ粒子の温度は相転移温度未満であるので、光源部から励起光を当てたとしても、蛍光発光しない。その後、(b)透明検査容器が透明ホットプレートで温まってくると、先に透明検査容器内の底面に補足されている測定対象の温度応答性プローブ粒子が温められて相転移温度を超えることにより、蛍光発光することになる。ただ、この時点では、透明検査容器内の補足されずに浮遊している温度応答性プローブ粒子は相転移温度を超えていないので、蛍光発光しない。さらにその後、(c)透明検査容器内の補足されずに浮遊している温度応答性プローブ粒子も温められて相転移温度を超えることにより、蛍光発光することになる。これを下側の検出部から測定すると、図11下部のグラフのようになる。
【0088】
図12は、生体試料中に標的生体分子が存在していない場合の時間の経過と蛍光強度の関係を示したものである。図11と比較して、透明検査容器内の底面に補足されている測定対象の温度応答性プローブ粒子が存在しないことから、透明検査容器内の温度応答性プローブ粒子はほとんどが浮遊している状態であり、透明検査容器内の底面だけが温められた(b)の状態であっても、蛍光発光強度は弱い。その後、透明検査容器内の補足されずに浮遊している温度応答性プローブ粒子も温められた場合には、蛍光発光強度は最大値になる(c)。
【0089】
図13は、図11、12の下部のグラフを重ね合わせたものである。生体試料中に標的生体分子が存在している場合と存在していない場合とでは、透明検査容器内の補足されずに浮遊している温度応答性プローブ粒子も温められた場合の蛍光発光強度は同じである。ただ、生体試料中に標的生体分子が存在している場合には、透明検査容器内の底面に測定対象の温度応答性プローブ粒子が補足されて局在化しているために、存在していない場合と比較してより早いタイミングで蛍光発光強度が強くなることになる。この時間差を測定することにより、標的生体分子が存在するかどうかを判断することができる。
なお、標的生体分子が特定量存在することが分かっているサンプルを用いることによって検量することにより、標的生体分子が含まれる量を定量することもできる。
【符号の説明】
【0090】
1 透明検査容器
2 透明ホットプレート
3 光源部
4 検出部
5 フィルタ
9 筐体
10 検査容器ホルダ
40 抗原
41 捕捉抗体
42 光標識物質
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13