(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022106051
(43)【公開日】2022-07-19
(54)【発明の名称】摺動材
(51)【国際特許分類】
C08L 61/00 20060101AFI20220711BHJP
C08G 16/06 20060101ALI20220711BHJP
F16C 33/20 20060101ALI20220711BHJP
【FI】
C08L61/00
C08G16/06
F16C33/20 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021000746
(22)【出願日】2021-01-06
(71)【出願人】
【識別番号】501186173
【氏名又は名称】国立研究開発法人森林研究・整備機構
(71)【出願人】
【識別番号】517132810
【氏名又は名称】地方独立行政法人大阪産業技術研究所
(71)【出願人】
【識別番号】591001282
【氏名又は名称】大同メタル工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103517
【弁理士】
【氏名又は名称】岡本 寛之
(74)【代理人】
【識別番号】100149607
【弁理士】
【氏名又は名称】宇田 新一
(72)【発明者】
【氏名】大橋 康典
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼田 依里
(72)【発明者】
【氏名】山田 竜彦
(72)【発明者】
【氏名】木村 肇
(72)【発明者】
【氏名】米川 盛生
(72)【発明者】
【氏名】尾崎 幸樹
(72)【発明者】
【氏名】今給黎 孝允
【テーマコード(参考)】
3J011
4J002
4J033
【Fターム(参考)】
3J011DA01
3J011JA01
3J011KA01
3J011KA07
3J011MA01
3J011PA10
3J011SA02
3J011SA03
3J011SA04
3J011SA05
3J011SA06
3J011SA07
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3J011SC20
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3J011SE02
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3J011SE06
4J002CC07W
4J002CC12X
4J002FA040
4J002FD010
4J002FD140
4J002GM00
4J002GR00
4J033GA05
4J033GA11
4J033HA14
(57)【要約】
【課題】優れた摺動特性および耐熱性を有し、さらに、優れた撓み特性を有する摺動材を提供すること。
【解決手段】バインダーを含有する摺動材において、バインダーが、ノボラック型フェノール樹脂と、ポリエチレングリコールにより変性されたリグニンとを含有する。摺動材は、優れた摺動特性および耐熱性を有し、さらに、優れた撓み特性を有する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
バインダーを含有する摺動材であり、
前記バインダーが、ノボラック型フェノール樹脂と、ポリエチレングリコールにより変性されたリグニンとを含有する、摺動材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、摺動材に関し、詳しくは、摺動性を担保するための摺動材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、回転機器および摺動機器には、摺動材が用いられている。摺動材は、例えば、グラファイトなどの潤滑材と、フェノール樹脂などのバインダーとを含む樹脂成形品である。摺動材は、例えば、各種回転機器の軸受部、および、摺動機器のシール部に配置される。摺動材により、摺動性が担保され、また、摩擦による損傷が低減される。
【0003】
摺動材には、優れた摺動特性および耐熱性が要求される。そこで、バインダーを含有する摺動材において、バインダーにノボラック型フェノール樹脂とリグニンとを含有させることが、提案されている(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一方、摺動材には、用途に応じて、撓み特性が要求される場合がある。そのため、優れた摺動特性および耐熱性を有し、さらに、優れた撓み特性を有する摺動材が、要求される。
【0006】
本発明は、優れた摺動特性および耐熱性を有し、さらに、優れた撓み特性を有する摺動材である。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明[1]は、バインダーを含有する摺動材であり、前記バインダーが、ノボラック型フェノール樹脂と、ポリエチレングリコールにより変性されたリグニンとを含有する、摺動材を含んでいる。
【発明の効果】
【0008】
本発明の摺動材は、バインダーを含有し、そのバインダーが、ノボラック型フェノール樹脂と、ポリエチレングリコールにより変性されたリグニンとを含有する。そのため、本発明の摺動材は、優れた摺動特性および耐熱性を有し、さらに、優れた撓み特性を有する。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の摺動材は、バインダー(結合剤)を含有している。
【0010】
バインダーは、ノボラック型フェノール樹脂と、ポリエチレングリコール(PEG)により変性されたリグニン(以下、PEG変性リグニンと称する場合がある。)とを含有している。バインダーは、好ましくは、ノボラック型フェノール樹脂と、PEG変性リグニンとからなる。
【0011】
ノボラック型フェノール樹脂は、例えば、フェノール類と、アルデヒド類との、酸触媒下における反応生成物である。
【0012】
フェノール類は、フェノールおよびフェノール誘導体(フェノール変性体)である。フェノール類としては、例えば、フェノール、2官能性フェノール誘導体、3官能性フェノール誘導体および4官能性フェノール誘導体が挙げられる。2官能性フェノール誘導体としては、例えば、o-クレゾール、p-クレゾール、p-ter-ブチルフェノール、p-フェニルフェノール、p-クミルフェノール、p-ノニルフェノール、2,4-キシレノールおよび2,6-キシレノールが挙げられる。3官能性フェノール誘導体としては、例えば、m-クレゾール、レゾルシノール、および、3,5-キシレノールが挙げられる。4官能性フェノール誘導体としては、例えば、ビスフェノールAおよびジヒドロキシジフェニルメタンが挙げられる。また、フェノール誘導体としては、ハロゲン化フェノール類も挙げられる。ハロゲン化フェノール類は、フェノールまたはフェノール誘導体のハロゲン化物である。ハロゲンとしては、例えば、塩素および臭素が挙げられる。これらフェノール類は、単独使用または2種類以上併用することができる。なお、フェノールの誘導体において、フェノールが誘導体化(変性)されるタイミングは特に制限されない。例えば、フェノールの誘導体化は、フェノール類とアルデヒド類との反応前であってもよく、反応後であってもよく、反応と同時であってもよい。フェノール類として、好ましくは、フェノールが挙げられる。
【0013】
アルデヒド類としては、例えば、ホルムアルデヒド、パラホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド、n-ブチルアルデヒド、イソブチルアルデヒド、フルフラール、グリオキサール、ベンズアルデヒド、トリオキサン、および、テトラオキサンが挙げられる。また、アルデヒドの一部が、フルフリルアルコールなどに置換されていてもよい。これらアルデヒド類は、単独使用または2種類以上併用することができる。アルデヒド類として、好ましくは、ホルムアルデヒドおよびパラホルムアルデヒドが挙げられる。
【0014】
また、アルデヒド類は、例えば、水溶液として用いることができる。そのような場合において、アルデヒド類の濃度は、例えば、10質量%以上、好ましくは、20質量%以上であり、例えば、99質量%以下、好ましくは、95質量%以下である。
【0015】
また、アルデヒド類とともに、ケトン類を配合することもできる。ケトン類としては、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、アセトフェノン、および、ジフェニルケトンが挙げられる。これらケトン類は、単独使用または2種類以上併用することができる。ケトン類が配合される場合、ケトン類の配合割合は、固形分基準で、アルデヒド類100質量部に対して、例えば、0.01質量部以上、好ましくは、1質量部以上であり、例えば、200質量部以下、好ましくは、100質量部以下である。
【0016】
酸触媒としては、例えば、有機酸および無機酸が挙げられる。有機酸としては、例えば、カルボン酸化合物、スルホン酸化合物およびリン酸化合物が挙げられる。カルボン酸化合物としては、例えば、ギ酸、酢酸およびシュウ酸が挙げられる。スルホン酸化合物としては、例えば、メタンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸、ドデシルベンゼンスルホン酸、キュメンスルホン酸、ジノニルナフタレンモノスルホン酸、および、ジノニルナフタレンジスルホン酸が挙げられる。リン酸化合物としては、例えば、リン酸エステル類が挙げられる。リン酸エステル類として、より具体的には、例えば、炭素数1~18のアルキル基を有するリン酸エステル類が挙げられる。リン酸化合物としては、例えば、リン酸トリメチル、リン酸トリエチル、リン酸モノブチル、リン酸ジブチル、リン酸トリブチル、および、リン酸トリオクチルが挙げられる。無機酸としては、例えば、リン酸、塩酸、硫酸および硝酸が挙げられる。これら酸触媒は、単独使用または2種類以上併用することができる。酸触媒として、好ましくは、有機酸、より好ましくは、カルボン酸化合物、さらに好ましくは、シュウ酸が挙げられる。
【0017】
フェノール類とアルデヒド類との反応において、アルデヒド類の配合割合は、フェノール類100質量部に対して、例えば、5質量部以上、好ましくは、10質量部以上である。また、アルデヒド類の配合割合は、フェノール類100質量部に対して、例えば、35質量部以下、好ましくは、30質量部以下である。
【0018】
また、酸触媒の配合割合は、フェノール類100質量部に対して、例えば、0.1質量部以上、好ましくは、0.3質量部以上である。また、酸触媒の配合割合は、フェノール類100質量部に対して、例えば、10質量部以下、好ましくは、5質量部以下である。
【0019】
なお、酸触媒の添加のタイミングは、特に制限されない。例えば、酸触媒は、フェノール類および/またはアルデヒド類に予め添加されていてもよい。また、酸触媒は、フェノール類およびアルデヒド類の配合時に同時に添加されてもよい。さらに、酸触媒は、フェノール類およびアルデヒド類の配合後に添加されてもよい。
【0020】
反応条件としては、大気圧下が挙げられる。また、反応温度が、例えば、50℃以上、好ましくは、80℃以上である。また、反応温度が、例えば、200℃以下、好ましくは、180℃以下である。また、反応時間が、例えば、1時間以上、好ましくは、2時間以上である。また、反応時間が、例えば、20時間以下、好ましくは、15時間以下である。
【0021】
これにより、フェノール類およびアルデヒド類の反応生成物として、ノボラック型フェノール樹脂が得られる。また、ノボラック型フェノール樹脂として、市販品を用いることもできる。
【0022】
PEG変性リグニンにおいて、ポリエチレングリコール(PEG)は、優れた摺動特性、耐熱性および撓み特性の向上を図るために、用いられる。
【0023】
ポリエチレングリコールの数平均分子量は、例えば、100以上、好ましくは、200以上、より好ましくは、300以上、さらに好ましくは、400以上である。また、ポリエチレングリコールの数平均分子量は、例えば、1000以下、好ましくは、900以下、より好ましくは、800以下、さらに好ましくは、600以下である。数平均分子量が上記範囲であれば、摺動特性、耐熱性および撓み特性の両立を図ることができる。なお、数平均分子量は、公知のゲルパーミエーションクロマトグラム法により、ポリエチレングリコール換算分子量として求めることができる。
【0024】
PEG変性リグニンにおいて、リグニンは、高分子フェノール性化合物である。リグニンは、天然物(天然リグニン)として、植物全般に含まれている。リグニンの基本骨格としては、例えば、グアイアシルリグニン(G型)、シリンギルリグニン(S型)、および、p-ヒドロキシフェニルリグニン(H型)が挙げられる。
【0025】
リグニンは、植物材料から工業的に取り出される。植物材料としては、例えば、リグノセルロースが挙げられる。また、リグニンとしては、例えば、ソーダリグニン、サルファイトリグニンおよびクラフトリグニンが挙げられる。また、リグニンを取り出す方法としては、例えば、ソーダ法、亜硫酸法、水蒸気爆砕法、加溶媒分解法、および、クラフト法が挙げられる。
【0026】
リグニンとして、より具体的には、木本系植物由来リグニン、および、草本系植物由来リグニンが挙げられる。
【0027】
木本系植物由来リグニンとしては、例えば、針葉樹(例えば、スギなど)に含まれる針葉樹系リグニン、および、広葉樹に含まれる広葉樹系リグニンが挙げられる。なお、木本系植物由来リグニンは、H型の基本骨格を含まない。より具体的には、木本系植物由来リグニンのうち、針葉樹系リグニンは、S型の基本骨格を含まず、G型の基本骨格を有している。また、広葉樹系リグニンは、G型の基本骨格およびS型の基本骨格を有している。
【0028】
草本系植物由来リグニンとしては、例えば、イネ科植物に含まれるイネ系リグニンが挙げられる。イネ科植物としては、例えば、麦わら、稲わら、とうもろこし、および、タケが挙げられる。なお、草本系植物由来リグニンは、H型、G型およびS型の全ての基本骨格を有している。
【0029】
これらのリグニンは、単独使用または2種類以上併用することができる。リグニンとして、好ましくは、H型の基本骨格を含まない木本系植物由来リグニンが挙げられ、より好ましくは、S型の基本骨格を含まず、G型の基本骨格を有する針葉樹系リグニンが挙げられ、とりわけ好ましくは、スギに由来する針葉樹系リグニンが挙げられる。スギに由来する針葉樹系リグニンから得られるPEG変性リグニンは、優れた均質性を有する。
【0030】
PEG変性リグニンは、例えば、特開2017-197517号公報に記載される方法に準拠して、製造される。
【0031】
この方法では、例えば、リグニンの原料となる植物材料(リグノセルロース)を、ポリエチレングリコールを用いて蒸解する。
【0032】
蒸解方法としては、特に制限されないが、例えば、リグニンの原料となる植物材料と、ポリエチレングリコールと、酸触媒としての無機酸(例えば、塩酸、硫酸など)とを混合し、反応させる。
【0033】
ポリエチレングリコールの配合割合は、リグニンの原料となる植物材料100質量部に対して、例えば、200質量部以上、好ましくは、300質量部以上である。また、ポリエチレングリコールの配合割合は、リグニンの原料となる植物材料100質量部に対して、例えば、1000質量部以下、好ましくは、600質量部以下である。
【0034】
また、無機酸(100%換算)の配合割合は、ポリエチレングリコール100質量部に対して、例えば、0.1質量部以上、好ましくは、0.2質量部以上である。また、無機酸(100%換算)の配合割合は、ポリエチレングリコール100質量部に対して、例えば、2質量部以下、好ましくは、1質量部以下である。
【0035】
また、反応条件としては、常圧下が挙げられる。また、反応温度が、例えば、120℃以上、好ましくは、130℃以上である。また、反応温度が、例えば、180℃以下、好ましくは、150℃以下である。また、反応時間が、例えば、60分以上である。また、反応時間が、例えば、240分以下、好ましくは、120分以下である。
【0036】
また、反応終了後、反応液にアルカリを適宜の割合で添加し、pHを調整する。アルカリとしては、例えば、アンモニアおよび水酸化ナトリウムが挙げられる。これにより、PEG変性リグニンを、溶液に抽出する。調整後のpHは、例えば、8以上、好ましくは、10以上、より好ましくは、10.5以上であり、例えば、14以下である。
【0037】
このような方法によって、固形成分としてパルプが得られるとともに、溶液成分としてPEG変性リグニンが得られる。
【0038】
次いで、この方法では、濾過、プレス、遠心分離などの公知の分離方法によって、反応生成物から固形成分(パルプ)を分離し、溶液成分を回収する。
【0039】
また、この方法では、必要に応じて、固形成分(パルプ)を洗浄し、固形成分に含浸される溶液(PEG変性リグニン)を、回収することもできる。
【0040】
その後、この方法では、無機酸(例えば、塩酸、硫酸など)などを添加し、pHを、調整して、PEG変性リグニンを析出および沈殿させる。
【0041】
調整後のpHは、例えば、1.5以上であり、例えば、5以下、好ましくは、3以下、より好ましくは、2以下である。
【0042】
これにより、PEG変性リグニンを沈殿させることができる。また、得られた沈殿を、例えば、濾過、プレス、遠心分離などの公知の方法で回収することにより、固形分として、PEG変性リグニンを得ることができる。
【0043】
そして、バインダー(結合剤)は、ノボラック型フェノール樹脂と、PEG変性リグニンとを含んでいる。つまり、バインダーとしては、ノボラック型フェノール樹脂と、PEG変性リグニンとの混合物が挙げられる。
【0044】
ノボラック型フェノール樹脂とPEG変性リグニンとの配合割合は、固形分(不揮発分)基準で、ノボラック型フェノール樹脂100質量部に対して、PEG変性リグニンが、例えば、10質量部以上、好ましくは、20質量部以上である。また、ノボラック型フェノール樹脂100質量部に対して、PEG変性リグニンが、例えば、300質量部以下、好ましくは、200質量部以下である。
【0045】
ノボラック型フェノール樹脂とPEG変性リグニンとの配合割合が上記範囲であれば、粘度の過度な上昇を抑制するとともに、優れた成形性を確保することができ、さらに、得られる摺動材の各種物性の向上を図ることができる。
【0046】
また、混練方法としては、特に制限されず、公知の混練機が使用される。混練機としては、例えば、単軸押出機、多軸押出機、ロール混練機、ニーダー、ヘンシエルミキサーおよびバンバリーミキサーが挙げられる。
【0047】
また、混練温度が、80℃以上、好ましくは、90℃以上、より好ましくは、100℃以上である。また、混練温度が、180℃以下、好ましくは、170℃以下、より好ましくは、160℃以下である。また、混練時間が、例えば、3分以上、好ましくは、5分以上である。また、混練時間が、例えば、30分以下、好ましくは、20分以下である。
【0048】
これにより、ノボラック型フェノール樹脂と、PEG変性リグニンとを含有する樹脂組成物として、バインダー(結合剤)が得られる。
【0049】
すなわち、上記のバインダーは、ノボラック型フェノール樹脂とPEG変性リグニンとを含有している。そのため、上記のバインダーによれば、摺動特性、耐熱性および撓み特性の向上を図ることができる。
【0050】
また、バインダーは、必要により、フェノール樹脂硬化剤を含有できる。フェノール樹脂硬化剤としては、特に制限されず、公知の硬化剤が挙げられる。フェノール樹脂硬化剤としては、例えば、ヘキサメチレンテトラミン、メチロールメラミンおよびメチロール尿素が挙げられる。これらフェノール樹脂硬化剤は、単独使用または2種類以上併用することができる。フェノール樹脂硬化剤の配合割合は、本発明の優れた効果を阻害しない範囲において、目的および用途に応じて、適宜設定される。
【0051】
また、バインダーは、さらに、添加剤を含有できる。添加剤としては、バインダーに添加される公知の添加剤が挙げられる。添加剤としては、例えば、充填剤、着色剤、可塑剤、安定剤、離型剤が挙げられる。充填材としては、例えば、木粉、パルプおよびガラス繊維が挙げられる。離型剤としては、例えば、金属石鹸が挙げられ、より具体的には、ステアリン酸亜鉛が挙げられる。これら添加剤は、単独使用または2種類以上併用することができる。なお、添加剤の添加のタイミングは、特に制限されず、目的および用途に応じて、適宜設定される。添加剤の配合割合は、本発明の優れた効果を阻害しない範囲において、目的および用途に応じて、適宜設定される。
【0052】
また、摺動材は、必要に応じて、その他のバインダーを含有できる。その他のバインダーは、上記の樹脂組成物(ノボラック型フェノール樹脂およびPEG変性リグニンの混合物)を除くバインダーである。その他のバインダーとしては、例えば、公知の熱硬化性樹脂が挙げられる。熱硬化性樹脂としては、例えば、メラミン樹脂およびエポキシ樹脂が挙げられる。その他のバインダーは、単独使用または2種類以上併用することができる。
【0053】
その他のバインダーが配合される場合、その配合割合は、本発明の効果を損なわない範囲において、適宜設定される。好ましくは、その他のバインダーは、配合されない。つまり、好ましくは、摺動材は、バインダーとして、上記の樹脂組成物のみを含有する。
【0054】
また、摺動材は、好ましくは、潤滑材を含有する。潤滑材としては、特に制限されず、公知の固体潤滑材が挙げられる。固体潤滑材としては、例えば、グラファイトおよび二硫化モリブデンが挙げられる。これら潤滑材は、単独使用または2種類以上併用することができる。潤滑材として、好ましくは、グラファイトが挙げられる。
【0055】
潤滑材の平均粒子径は、例えば、1μm以上、好ましくは、5μm以上である。また、潤滑材の平均粒子径は、例えば、1000μm以下、好ましくは、500μm以下である。
【0056】
また、摺動材は、好ましくは、繊維基材を含有する。繊維基材としては、特に制限されないが、例えば、有機繊維、金属繊維および無機繊維が挙げられる。有機繊維としては、例えば、芳香族ポリアミド繊維(アラミド繊維)および耐炎化アクリル繊維が挙げられる。金属繊維としては、例えば、銅繊維および真鍮繊維が挙げられる。無機繊維としては、例えば、Al2O3-SiO2系セラミック繊維、チタン酸カリウム繊維、生体溶解性セラミック繊維、ガラス繊維および炭素繊維が挙げられる。これら繊維基材は、単独使用または2種類以上併用することができる。繊維基材として、摺動性の観点から、好ましくは、無機繊維が挙げられ、より好ましくは、ガラス繊維が挙げられる。
【0057】
繊維基材の平均繊維長さは、例えば、5μm以上、好ましくは、10μm以上である。また、繊維基材の平均繊維長さは、例えば、30000μm以下、好ましくは、25000μm以下である。
【0058】
摺動材の製造では、例えば、まず、上記のバインダーと、潤滑材および繊維基材とを配合および混練し、摺動材用成形材料(組成物)を製造する。
【0059】
摺動材用成形材料において、繊維基材と潤滑材との総量が、上記のバインダー100質量部に対して、例えば、25質量部以上、好ましくは、50質量部以上である。また、繊維基材と潤滑材との総量が、上記のバインダー100質量部に対して、例えば、200質量部以下、好ましくは、150質量部以下である。
【0060】
また、バインダーと、潤滑材および繊維基材との総量100質量部に対して、バインダーの含有割合が、例えば、30質量部を超過し、好ましくは、40質量部を超過する。また、バインダーと、潤滑材および繊維基材との総量100質量部に対して、バインダーの含有割合が、例えば、90質量部以下、好ましくは、80質量部以下である。
【0061】
また、バインダーと、潤滑材および繊維基材との総量100質量部に対して、繊維基材の含有割合が、例えば、1質量部以上、好ましくは、5質量部以上である。また、バインダーと、潤滑材および繊維基材との総量100質量部に対して、繊維基材の含有割合が、例えば、65質量部以下、好ましくは、30質量部以下である。
【0062】
また、バインダーと、潤滑材および繊維基材との総量100質量部に対して、潤滑材の含有割合が、例えば、1質量部以上、好ましくは、3質量部以上である。また、バインダーと、潤滑材および繊維基材との総量100質量部に対して、潤滑材の含有割合が、例えば、30質量部以下、好ましくは、25質量部以下である。
【0063】
混練方法としては、特に制限されず、公知の混練機が用いられる。混練機としては、例えば、単軸押出機、多軸押出機、ロール混練機、ニーダー、ヘンシエルミキサーおよびバンバリーミキサーが挙げられる。
【0064】
混練温度は、例えば、80℃以上、好ましくは、90℃以上、より好ましくは、100℃以上である。また、混練温度は、例えば、180℃以下、好ましくは、170℃以下、より好ましくは、160℃以下である。また、混練時間が、例えば、3分以上、好ましくは、5分以上である。また、混練時間が、例えば、30分以下、好ましくは、20分以下である。
【0065】
このような摺動材用成形材料は、バインダーとして、上記のノボラック型フェノール樹脂およびPEG変性リグニンの混合物を含有するため、摺動特性および耐熱性に優れ、撓み特性にも優れる摺動材を得ることができる。
【0066】
次いで、この方法では、上記の摺動材用成形材料を、公知の方法で成形する。これにより、摺動材が得られる。
【0067】
成形方法としては、公知の方法が採用される。成形方法として、より具体的には、例えば、トランスファ成形および圧縮成形が挙げられる。なお、成形条件は、特に制限されず、目的および用途に応じて、適宜設定される。
【0068】
例えば、温度条件が、例えば、140℃以上、好ましくは、150℃以上である。また、温度条件が、例えば、200℃以下、好ましくは、180℃以下である。また、圧力条件が、例えば、20MPa以上、好ましくは、30MPa以上である。また、圧力条件が、例えば、100MPa以下、好ましくは、80MPa以下である。また、処理時間が、例えば、2分以上、好ましくは、10分以上である。また、処理時間が、例えば、60分以下、好ましくは、30分以下である。
【0069】
このように、摺動材用成形材料を成形することによって、摺動材が得られる。
【0070】
また、摺動材は、必要に応じて、公知の方法で処理されていてもよい。処理としては、例えば、脱脂処理およびプライマー処理が挙げられる。また、成形された摺動材は、公知の方法でアフターキュア(熱硬化処理)されていてもよい。
【0071】
アフターキュアにおける処理条件は、特に制限されないが、常圧下が採用される。また、温度条件が、例えば、上記の成形時における温度より10~100℃高い。温度条件は、例えば、150℃以上、好ましくは、160℃以上である。また、温度条件は、例えば、300℃以下、好ましくは、200℃以下である。また、処理時間が、例えば、1時間以上、好ましくは、2時間以上である。また、処理時間が、例えば、10時間以下、好ましくは、8時間以下である。アフターキュアにより、摺動特性および耐熱性の向上を図ることができる。
【0072】
そして、摺動材は、バインダーを含有し、そのバインダーが、ノボラック型フェノール樹脂と、ポリエチレングリコールにより変性されたリグニンとを含有する。そのため、上記の摺動材は、優れた摺動特性および耐熱性を有し、さらに、優れた撓み特性を有する。
【0073】
その結果、摺動材は、例えば、各種回転機器の軸受部、摺動機器のシール部などにおいて、好適に用いられる。
【実施例0074】
次に、本発明を、実施例および比較例に基づいて説明するが、本発明は、下記の実施例によって限定されるものではない。また、以下の説明において特に言及がない限り、「部」および「%」は質量基準である。なお、以下の記載において用いられる配合割合(含有割合)、物性値、パラメータなどの具体的数値は、上記の「発明を実施するための形態」において記載されている、それらに対応する配合割合(含有割合)、物性値、パラメータなど該当記載の上限値(「以下」、「未満」として定義されている数値)または下限値(「以上」、「超過」として定義されている数値)に代替することができる。
【0075】
製造例1(Mn200-PEG変性リグニン)
以下の方法で、数平均分子量200のポリエチレングリコールにより変性されたリグニン(以下、Mn200-PEG変性リグニン)を製造した。
【0076】
すなわち、市販の数平均分子量200のポリエチレングリコール(PEG200)230質量部と、酸触媒としての硫酸0.69質量部(PEG200 100質量部に対して、0.3質量部)を、反応容器に入れて撹拌した。次いで、絶乾スギ木粉46質量部を、反応容器に投入し、常圧下140℃に昇温して、撹拌しながら90分反応させた。次いで、反応容器を冷却し、温度が40℃以下になったことを確認した後、水酸化ナトリウム(0.2mol/L)を280質量部投入して、30分間撹拌した。次いで、得られた固形成分(パルプ)を、フィルタープレスにより除去し、溶液成分を回収した。次いで、得られた溶液成分に、硫酸を添加し、pHを2.0に調整した。これにより、Mn200-PEG変性リグニンの懸濁液を得た。その後、Mn200-PEG変性リグニンを、遠心分離により回収した。
【0077】
製造例2(Mn400-PEG変性リグニン)
数平均分子量200のポリエチレングリコールに代えて、数平均分子量400のポリエチレングリコール(以下、Mn400-PEG)を用いた以外は、製造例1と同じ方法で、Mn400-PEG変性リグニンを得た。
【0078】
製造例3(Mn600-PEG変性リグニン)
数平均分子量200のポリエチレングリコールに代えて、数平均分子量600のポリエチレングリコール(以下、Mn600-PEG)を用いた以外は、製造例1と同じ方法で、Mn600-PEG変性リグニンを得た。
【0079】
製造例4(クラフトリグニン)
クラフトリグニン(SIGMA-ALDRICH社製、木本系植物由来、脂肪族水酸基含有量4.4質量%)を用意した。
【0080】
製造例5(フェノール変性クラフトリグニン)
フェノール328.9質量部をフラスコに入れ、50℃程度まで加熱してフェノールを液化させ、その後、クラフトリグニン(SIGMA-ALDRICH社製、木本系植物由来、脂肪族水酸基含有量4.4質量%)100質量部を添加した。
【0081】
次いで、98%濃硫酸(酸触媒)3質量部を添加し、その後、130℃、2.5時間反応させた。これにより、クラフトリグニンをフェノールにより変性させた。
【0082】
次いで、得られた生成物を、1000質量部の水によってpHが6~7になるまで繰り返し洗浄し、その後、濾紙(Advantec No.101)を用いた吸引濾過によって、クラフトリグニンのフェノール変性物(フェノール変性リグニン)を取り出した。
【0083】
製造例6(酢酸リグニン)
コーンストーバー100質量部を、95質量%の酢酸1000質量部および硫酸3質量部と混合し、還流下において4時間反応させた。反応後、濾過してパルプを除去し、パルプ廃液を回収した。次いで、ロータリーエバポレーターを用いてパルプ廃液中の酢酸を除去し、体積が1/10になるまで濃縮した後、その濃縮液の10倍量(質量基準)の水を添加し、濾過することにより酢酸により変性されたリグニン(酢酸リグニン)を得た。
【0084】
製造例7(フェノール変性酢酸リグニン)
クラフトリグニンに代えて酢酸リグニンを使用した。その他は、製造例5と同様に操作した。これにより、フェノールにより変性された酢酸リグニン(フェノール変性酢酸リグニン)を得た。
【0085】
実施例1~9および比較例1~6
ノボラック型フェノール樹脂(旭有機材工業社製CP506)と、製造例1~5のリグニンと、ヘキサメチレンテトラミン(フェノール樹脂硬化剤、リグナイト製)と、ステアリン酸亜鉛(離型剤、和光純薬工業製)とを、表1~表2に記載の割合で混練した。これにより、バインダーを得た。
【0086】
次いで、バインダーと、ガラス繊維(日東紡製 CS3SK-406)と、グラファイト(SECカーボン製 SGP-100)とを、表1~表2に記載の割合で混合した。次いで、混合物を、2本の熱ロールを用いて、100℃で5分間混練した。これにより、摺動材用成形材料を得た。
【0087】
その後、摺動材用成形材料を、170℃で15分間圧縮成形した。これにより、摺動材として、100mmφの円盤形試験片を得た。また、得られた摺動材を、180℃で4時間熱硬化(アフターキュア)させた。
【0088】
<<評価>>
各実施例および各比較例において得られた摺動材を、下記の方法により評価した。その結果を、表3~表4に示す。
【0089】
(1)ガラス転移温度
Rheogel-E4000(ユ-ビーエム社製)を用い、固体動的粘弾性を測定した(周波数1Hz、昇温速度2℃/分)。そして、得られるtanδ曲線のピーク温度を、ガラス転移温度(Tg)として求めた。
【0090】
(2)摩擦係数
ASTM D1894に準拠して、表面性試験機(新東科学 HEIDON-14S/D)を用いて、摩擦係数(静摩擦係数および動摩擦係数)を求めた。摩擦係数を求めるための各種条件および用いた試験片の寸法を以下に示す。
試験片:直径100mm、厚さ約3mmの円板試験片
相手材 :直径19mm円筒
相手材の材質:S45C
試験速度 :100mm/分
なお、摺動材には、静摩擦係数が0.15以下であることが要求される。また、摺動材には、動摩擦係数が0.10以下であることが要求される。
【0091】
(3)摩耗試験(テーバー型)
JIS-K7204(1999年版)に準拠して摩耗量を測定し、摩耗量を最初のサンプルの質量からどれだけ質量が減少したかを質量%で計算した。摩耗試験の条件および用いた試験片の寸法を以下に示す。
(摩耗試験条件)
荷重 :10N
回転速度 :60rpm
摩耗輪 :H-18
回転数 :1000回転、2000回転
(試験片)
直径100mm、厚さ約3mmの円板試験片
なお、摺動材には、1000回転摩耗試験における質量減少率が2.5%以下であることが要求される。また、摺動材には、2000回転摩耗試験における質量減少率が4.0%以下であることが要求される。
【0092】
(4)最大点伸度
JIS K6911(1995)に準拠して、クロスヘッド速度3mm/分、スパン100mmにて、3点曲げ試験し、最大点伸度を測定した。なお、最大点伸度は、破損するまで撓ませたときのひずみ(最大点伸度)であり、下記式により求めた。
【0093】
最大点伸度(ε)=[6T/L2]× ΔL
(T:サンプルの厚み、L:支点間距離、ΔL:曲げ撓み量)
【0094】
【0095】
【0096】
【0097】