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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022106153
(43)【公開日】2022-07-19
(54)【発明の名称】栽培装置及び栽培方法
(51)【国際特許分類】
   A01G 7/00 20060101AFI20220711BHJP
   A01G 22/15 20180101ALI20220711BHJP
   A01G 31/00 20180101ALI20220711BHJP
【FI】
A01G7/00 604D
A01G7/00 601A
A01G22/15
A01G31/00 612
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021000945
(22)【出願日】2021-01-06
(71)【出願人】
【識別番号】514108263
【氏名又は名称】株式会社ファームシップ
(74)【代理人】
【識別番号】100152984
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 秀明
(74)【代理人】
【識別番号】100148080
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 史生
(74)【代理人】
【識別番号】100168985
【弁理士】
【氏名又は名称】蜂谷 浩久
(74)【代理人】
【識別番号】100149401
【弁理士】
【氏名又は名称】上西 浩史
(72)【発明者】
【氏名】宇佐美 由久
(72)【発明者】
【氏名】北島 正裕
【テーマコード(参考)】
2B022
2B314
【Fターム(参考)】
2B022AB11
2B022DA01
2B314MA38
2B314MA41
2B314NA33
2B314NB18
2B314ND32
2B314PD37
2B314PD54
2B314PD59
(57)【要約】
【課題】 人工光を用いた植物栽培においてチップバーンの発生及び成長ムラを抑えて植物を栽培する。
【解決手段】 本発明の栽培装置は、第1方向において植物と対向する位置に設けられた風供給部と、第1方向において風供給部が位置する側に位置する照明部と、風供給部から供給される風を、第1方向において植物が位置する側へ案内する壁部と、を備える。壁部は、遮光性を有し、且つ、第1方向から壁部を見た場合において、壁部の少なくとも一部が風供給部と照明部との間に配置されている。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1方向において植物と対向する位置に設けられた風供給部と、
前記第1方向において前記風供給部が位置する側から前記植物に向けて光を照射する照明部と、
前記風供給部から供給される風を、前記第1方向において前記植物が位置する側へ案内する壁部と、を備え、
前記壁部が遮光性を有し、且つ、前記第1方向から前記壁部を見た場合において、前記壁部の少なくとも一部が前記風供給部と前記照明部との間に配置されている、栽培装置。
【請求項2】
複数の前記照明部が前記風供給部の周りに配置されており、
前記第1方向から前記壁部を見た場合において、前記壁部が前記風供給部と前記照明部との間に配置されている、請求項1に記載の栽培装置。
【請求項3】
前記第1方向における一つの端面が前記植物と対向する筐体をさらに備え、
前記風供給部は、前記筐体に収容された送風機と、前記送風機からの風を排出するために前記一つの端面に設けられた通風口と、を有し、
複数の前記照明部の各々は、前記筐体に収容された光源と、前記光源からの光を出射させるために前記一つの端面に設けられた光出射領域と、を有し、
前記第1方向から前記壁部を見た場合において、前記壁部が前記通風口と前記光出射領域の間に配置されている、請求項2に記載の栽培装置。
【請求項4】
前記一つの端面において、前記通風口が前記一つの端面の中央部に設けられており、且つ、複数の前記光出射領域が前記通風口を中心として対称的に設けられている、請求項3に記載の栽培装置。
【請求項5】
前記一つの端面において複数の前記光出射領域が前記通風口の周囲に設けられており、
複数の前記光出射領域のうち、前記通風口により近い前記光出射領域から出射される光よりも、前記通風口から離れた前記光出射領域から出射される光の方が明るい、請求項3又は4に記載の栽培装置。
【請求項6】
前記壁部は、前記第1方向に沿って延びた筒体によって構成されており、
前記第1方向から前記通風口及び前記筒体を見た場合において、前記通風口が前記筒体の内壁面よりも内側に位置している、請求項3乃至5のいずれか一項に記載の栽培装置。
【請求項7】
前記筒体が円筒形状であり、且つ、前記光出射領域が円形の領域であり、
前記第1方向における前記筒体の長さをL(mm)とし、前記筒体の中心軸と前記光出射領域の中央位置との間の距離をd(mm)とし、前記筒体の外径の1/2に相当する長さをr(mm)とし、前記光出射領域から出射される光の配光角度の1/2に相当する角度をθ(°)とした場合、複数の前記光出射領域の中に、下記の式(1)を満たす前記光出射領域が存在する、請求項6に記載の栽培装置。
tanθ > (d-r)/L (1)
【請求項8】
前記筒体のうち、前記通風口とは反対側に位置する先端部の形状は、前記通風口から離れるほど太くなるテーパ形状である、請求項6に記載の栽培装置。
【請求項9】
前記筒体における前記通風口側の端面が、前記筐体における前記一つの端面に接合されている、請求項6乃至8のいずれか一項に記載の栽培装置。
【請求項10】
前記照明部が発する光の最大ピーク波長における、前記光に対する前記壁部の反射率が50%以上である、請求項1乃至9のいずれか一項に記載の栽培装置。
【請求項11】
請求項1乃至10のいずれか一項に記載の栽培装置を用いて植物を栽培する、栽培方法。
【請求項12】
前記植物が、結球性を有する葉菜類の植物である、請求項11に記載の栽培方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、栽培装置及び栽培方法に係り、特に、人工光と人工的な送風によって植物を栽培する栽培装置及び栽培方法に関する。
【背景技術】
【0002】
人工光を照射して野菜等の植物を栽培することは、既に知られており、植物工場等での大規模栽培では、例えば、人工光の照射量を増やす等して栽培対象の植物の生長を促すことがある。
【0003】
一方、植物の生育中、葉先が褐変するチップバーンと呼ばれる生育障害が発生する場合がある。チップバーンが起きる原因としては、葉からの蒸散が不足するためにカルシウム等の特定の栄養分が葉先まで行き亘らず葉先での栄養が不足すること等が考えられる。また、より高い照度で人工光が照射される環境下では、チップバーンが一層発生し易くなる。
【0004】
チップバーン対策の一例としては、栽培中の植物に風を送ることで葉からの蒸散を促すことが知られている(例えば、特許文献1及び2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002-142585号公報
【特許文献2】国際公開第2014/162848号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
一方、高い照度の下で植物を栽培する場合、チップバーンの他に、照度分布に起因した成長ムラが生じ得る。例えば、栽培中の植物において、より明るい光が照射される部分(照度がより高くなる部分)が存在すると、その部分での成長が促進される結果、植物各部の成長量にばらつきが生じる。また、前述したように、照度が高くなる部分ではチップバーンが発生し易くなるので、チップバーンの発生を抑える理由から、照度が高くなる部分に向けて風を送ると、その部分での蒸散が促進されるために成長量が益々大きくなる。
【0007】
そして、成長量のばらつき(成長ムラ)は、栽培対象の植物の品質、特に植物の外観等に好ましくない影響をもたらす場合がある。このような状況は、レタス及びキャベツのような結球性作物を栽培するケースでは特に顕著となり、成長ムラにより良好な結球形状が得られ難くなってしまう。
【0008】
以上の理由から、人工光を照射して植物を栽培する際にはチップバーンと成長ムラを抑えながら適切に植物を栽培することが求められており、それを実現するための栽培装置及び栽培方法の開発が期待されている。
【0009】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたものであり、人工光を用いた植物栽培においてチップバーン及び成長ムラの発生を抑えて植物を適切に栽培するための栽培装置及び栽培方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の目的を達成するために、本発明の栽培装置は、第1方向において植物と対向する位置に設けられた風供給部と、第1方向において風供給部が位置する側から植物に向けて光を照射する照明部と、風供給部から供給される風を、第1方向において植物が位置する側へ案内する壁部と、を備え、壁部が遮光性を有し、且つ、第1方向から壁部を見た場合において、壁部の少なくとも一部が風供給部と照明部との間に配置されていることを特徴とする。
【0011】
上記のように構成された本発明の栽培装置は、風供給部から供給される風を壁部によって栽培対象の植物に向かうように案内する。これにより、植物の蒸散を促してチップバーンの発生を抑えることができる。また、風供給部と照明部との間に壁部の少なくとも一部が配置されている。ここで、壁部は、遮光性を有するので、壁部によって風が案内される場所での照度を下げることができ、その場所での植物の成長を調整することができる。この結果、成長ムラを抑えるように照度分布を調整して植物を適切に栽培することができる。
【0012】
また、上記の栽培装置の好適な構成を述べると、複数の照明部が風供給部の周りに配置されており、第1方向から壁部を見た場合において、壁部が風供給部と照明部との間に配置されていてもよい。
複数の照明部が風供給部の周りに配置されていると、本来、風供給部から風が送られる場所での照度が高くなる傾向にあるが、壁部により、その場所での照度を下げることができる。つまり、壁部によって光を遮る効果が、より有効に発揮されることになる。
【0013】
また、上記の栽培装置の好適な構成を述べると、第1方向における一つの端面が植物と対向する筐体をさらに備え、風供給部は、筐体に収容された送風機と、送風機からの風を排出するために一つの端面に設けられた通風口と、を有してもよい。この場合、複数の照明部の各々は、筐体に収容された光源と、光源からの光を出射させるために一つの端面に設けられた光出射領域と、を有し、第1方向から壁部を見た場合において、壁部が通風口と光出射領域の間に配置されているとよい。
上記の構成によれば、通風口と対向する場所に風が送られる一方で、壁部により、その場所での照度を下げることができる。
【0014】
また、上記の栽培装置のより好適な構成を述べると、一つの端面において、通風口が一つの端面の中央部に設けられており、且つ、複数の光出射領域が通風口を中心として対称的に設けられているとよい。
上記の構成によれば、通風口と対向する場所での照度を壁部によって下げる効果が、より際立って発揮されるようになる。
【0015】
また、上記の栽培装置のより好適な構成を述べると、一つの端面において複数の光出射領域が通風口の周囲に設けられているとよい。この場合、複数の光出射領域のうち、通風口により近い光出射領域から出射される光よりも、通風口から離れた光出射領域から出射される光の方が明るいと、より好適である。
上記の構成によれば、通風口と対向する場所での照度をより一層下げることができる。
【0016】
また、上記の栽培装置のより好適な構成を述べると、壁部は、第1方向に沿って延びた筒体によって構成されており、第1方向から通風口及び筒体を見た場合において、通風口が筒体の内壁面よりも内側に位置しているとよい。
上記の構成によれば、通風口から排出される風が流れる空間が筒体によって囲まれるため、通風口と対向する場所(すなわち、風が当たる場所)に入射される光を効果的に遮ることができる。
【0017】
また、上記の栽培装置のより好適な構成を述べると、筒体が円筒形状であり、且つ、光出射領域が円形の領域であるとよい。ここで、第1方向における筒体の長さをL(mm)とし、筒体の中心軸と光出射領域の中央位置との間の距離をd(mm)とし、筒体の外径の1/2に相当する長さをr(mm)とし、光出射領域から出射される光の配光角度の1/2に相当する角度をθ(°)とした場合、複数の光出射領域の中に、下記の式(1)を満たす光出射領域が存在するとよい。
tanθ < (d-r)/L (1)
上記の構成によれば、上記の式(1)を満たす光出射領域から出射されて通風口と対向する場所に向かう光を、筒体によって効果的に遮ることができる。
【0018】
また、上記の栽培装置のより好適な構成を述べると、筒体のうち、通風口とは反対側に位置する先端部の形状は、通風口から離れるほど太くなるテーパ形状であるとよい。
上記の構成によれば、通風口と対向する場所での照度を、より一層下げることができる。
【0019】
また、上記の栽培装置のより好適な構成を述べると、筒体における通風口側の端面が、筐体における一つの端面に接合されているとよい。
上記の構成によれば、筐体と筒体との隙間がないため、当該隙間から筒体の内側に光が漏れ込むのを抑え、通風口と対向する場所での照度をさらに下げることができる。
【0020】
また、上記の栽培装置の好適な構成を述べると、照明部が発する光の最大ピーク波長における、光に対する壁部の反射率が50%以上であるとよい。
上記の構成によれば、照明部が発する光の一部又は全部を壁部によって遮ることができ、壁部によって風が案内される場所への光の入射量を下げることができる。
【0021】
また、前述の課題を解決するため、本発明の栽培方法は、以上までに述べてきた栽培装置のいずれかを用いて植物を栽培することを特徴とする。かかる栽培方法によれば、人工光を用いた植物栽培においてチップバーンの発生及び成長ムラを抑えつつ植物を適切に栽培することができる。
【0022】
また、上記の栽培方法において、植物が、結球性を有する葉菜類の植物であってもよい。この場合には、成長ムラを抑えて植物を適切に栽培することができる本発明の効果が、より有効に発揮され、具体的には、栽培対象である植物の形状(外観)をより良好にすることができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、人工光を用いた植物栽培においてチップバーンの発生及び成長ムラを抑えて、植物を適切に栽培することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】本発明の一実施形態に係る栽培装置を組み込んだ栽培棚の前面図である。
図2】本発明の一実施形態に係る栽培装置を組み込んだ栽培棚の側面図である。
図3】植物栽培用の容器及び栽培装置の断面図である。
図4】本発明の一実施形態に係る栽培装置を下方側から見たときの斜視図である。
図5】筐体の外観を側方から見た図である。
図6】栽培装置を下方から見た図であり、筐体の底面における通風口及び光出射領域の配置パターンの第1例を示す。
図7】筐体の底面における通風口及び光出射領域の配置パターンの第2例を示す図である。
図8】筐体の底面における通風口及び光出射領域の配置パターンの第3例を示す図である。
図9】筐体の底面における通風口及び光出射領域の配置パターンの第4例を示す図である。
図10】筐体の底面における通風口及び光出射領域の配置パターンの第5例を示す図である。
図11A】筒体の形状の第1の変形例を示す図である。
図11B】筒体の形状の第2の変形例を示す図である。
図11C】筒体の形状の第3の変形例を示す図である。
図11D】筒体の形状の第4の変形例を示す図である。
図12】壁部のサイズ、照明部が発する光の照射角度、並びに、壁部と照明部との位置関係についての説明図である。
図13】本発明の他の実施形態に係る栽培装置を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明の一実施形態(以下、本実施形態)について、添付の図面に示す好適な実施形態を参照しながら具体的に説明する。ただし、以下の実施形態は、本発明の理解を容易にするための一例であり、本発明を限定するものではない。すなわち、本発明は、その趣旨を逸脱しない限り、以下に説明する実施形態から変更又は改良され得る。また、本発明には、その等価物が含まれる。
【0026】
なお、本明細書にて参照する図面では、図示の便宜上、機器又は装置の一部を省略又は簡略化して図示する場合がある。例えば、図6では、送風機22が、内部構造が省略されて単純な四角形で図示されている。
また、図6では、筐体12内に配置されているために筐体12の外側からは本来見えない一部の機器(例えば、光源32及び後述のDMXデコーダ19)が破線にて示されている。
【0027】
また、本明細書において、機器の位置、方向及び向き等を説明する際には、特に断る場合を除き、当該機器が利用されている状態での位置、方向及び向き等を説明する。また、本明細書において、「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。
【0028】
[栽培棚について]
本実施形態に係る栽培装置は、図1及び2に示す栽培棚100に搭載されて利用される。栽培棚100は、例えば、植物工場のような建物内で植物を一度に大量に栽培するために用いられ、幅と奥行きと高さを有する。栽培棚100の幅方向、奥行方向、及び高さ方向は、それぞれ、図1及び2に示すX方向、Y方向及びZ方向と対応し、互いに直交する方向である。なお、Z方向は、第1方向に相当し、具体的には鉛直方向(上下方向)に相当する。
【0029】
栽培棚100は、図1及び2に示すように多段の棚であり、Y方向に長く延びている。栽培棚100における各段の棚102は、Y方向に一定の間隔を空けて並べられた複数の栽培装置10によって構成されている。各栽培装置10の上では植物Pが栽培される。本実施形態において栽培される植物Pは、結球性を有する葉菜類に属し、具体的にはレタス、ハクサイ、キャベツ及び芽キャベツ等が該当する。
【0030】
本実施形態において、植物Pは、栽培用の養液(以下、養液L)が貯められた容器1に入れられた状態で、後述の照明部30から照射される人工光を利用して光合成を行うことで生長する。
【0031】
具体的に説明すると、図1及び2に示すように、栽培棚100では、各段の棚102を構成する複数の栽培装置10の各々の、X及びY方向における位置が棚102間で揃っている。つまり、それぞれの棚102に設けられた各栽培装置10は、その直上段の棚102に設けられた各栽培装置10とZ方向(上下方向)において重なっている。
【0032】
また、最上段を除く段の棚102を構成する複数の栽培装置10の各々には、植物Pが入った容器1が載置されている。植物Pは、図3に示すように植物Pの根部及び茎の下部が容器1内の養液Lに浸った状態で栽培され、つまり水耕栽培される。
【0033】
詳しく説明すると、ウレタン及びロックウール等からなる培地Vが、植物Pの根部を保持した状態で、小鉢型のカップW内に収容されている。カップWの底には露出孔が形成されており、培地Vの下面が露出孔に通じて露出している。容器1の上部には開口1aが形成されており、この開口1aに、培地Vを収容したカップWが嵌り込んでいる。これにより、植物Pの根部が養液Lに浸る。一方、植物Pのうち、培地Vよりも上方にある葉部及び茎の上部は、図3に示すように容器1の外側、厳密には容器1よりも上方に出ている。
【0034】
なお、容器1は、比較的小型の容器であり、一個の容器1あたりに一株、若しくは二株~四株程度の植物Pを栽培することが可能である。また、容器1の形状は、特に限定されないが、図3に示す略箱型形状でもよく、あるいは瓶形状又は鉢形状でもよい。
【0035】
ここで、Z方向において隣り合う2つの栽培装置10のうち、上方(+Z側)に位置する栽培装置10を「上側の栽培装置10」と呼び、下方(-Z側)に位置する栽培装置10を「下側の栽培装置10」と呼ぶこととする。つまり、上側の栽培装置10が配置された棚102は、下側の栽培装置10が配置された棚102の直上段にある。
【0036】
下側の栽培装置10に載せた容器1に入れられている植物Pに対しては、図3に示すように、上側の栽培装置10に設けられた照明部30から人工光が照射される。容器1の外に出た植物Pの葉部及び茎部は、照明部30からの照射光を利用して光合成を行うことで生長する。特に、葉部の中で光が照射される部分では、照射光の強度に応じて成長速度が速くなり、換言すると、単位時間あたりの成長量が大きくなる。
【0037】
また、本実施形態では、下側の栽培装置10に載せた容器1に入れられている植物Pに対しては、上側の栽培装置10に設けられた風供給部20から風(気流)が供給される。これにより、植物Pのうち、風供給部20から送られてくる風が当たる部分では、その周辺の空気が換気されるために蒸散が促進される。その結果、植物Pの葉部、特に風が当たる部分では、葉先まで栄養分が行き亘らない場合に生じるチップバーン現象の発生を抑えることができる。
【0038】
なお、本実施形態では、最上段の棚102を構成する栽培装置10の上には容器1が載置されず、すなわち植物Pが栽培されず、その直下の棚102にて栽培される植物Pに対して光又は風を供給する目的のために利用される。ただし、これに限定されず、最上段の棚102に配置された栽培装置10の上に、植物Pを入れた容器1を載せてもよい。その場合には、最上段の棚102の直上位置に別途の照明機器及び送風機器を設けるのがよい。
【0039】
[栽培装置の構成]
本実施形態に係る栽培装置10は、図4~6に示す外観をなしており、図3に示すように、筐体12と、風供給部20と、照明部30と、筒体40とを有する。
【0040】
筐体12は、中空状の台であり、平面視で略方形形状であり、数cm程度の厚みを有する。筐体12は、図4~6に示すように、一つの上面12Aと、一つの下面12Bと、四つの側面12Cを有する。下面12Bは、Z方向(第1方向)における一つの端面に相当し、本実施形態では平坦面である。また、図3に示すように、上側の栽培装置10に備えられた筐体12の下面12Bは、Z方向において、下側の栽培装置10に載った容器1に入れられている植物Pと対向する。
【0041】
筐体12は、栽培棚100の各段に配置されて棚102を構成する。具体的に説明すると、棚102は、X方向に間隔を空けて並んだ一対のレール部材104を有する。一対のレール部材104は、互いに平行な状態でY方向に長く延びた金属体であり、それぞれ、リップ溝型鋼(C形鋼)のような外形形状を有する。
【0042】
また、一対のレール部材104は、各々のリップ部(開口端)が互いに向かい合った状態で支柱106に支持されている。一対のレール部材104の間には、一個又は二個以上の筐体12がY方向にスライド移動可能な状態で挿し込まれる。詳しく説明すると、筐体12は、一対のレール部材104の各々のリップ部に筐体12のX方向端部が挿し込まれた状態で、一対のレール部材104の間に配置される。これにより、筐体12が一対のレール部材104の間に掛け渡されて棚102の一部分を構成するようになる。
【0043】
筐体12の上面12Aは、平坦面となっており、上面12Aには容器1が載置される。なお、本実施形態では、一つの栽培装置10が有する筐体12には一つの容器1が載せられるが、これに限定されず、一つの筐体12に複数の容器1を載せてもよい。
【0044】
筐体12内には、図3に示すように、送風機22と、光源32と、送風機22及び光源32への電力供給回路を備えた回路基板18とが収容されている。
【0045】
送風機22は、例えばファンによって構成されており、植物Pの栽培中、作動して送風する。ファンとしては、公知のファン、好ましくはDCファンが利用可能であり、一例を挙げると、プロペラファン、シロッコファン、ターボファン、斜流ファン、及びラインフローファン(登録商標)等が利用可能である。
【0046】
送風機22は、筐体12に設けられた空気取込み孔13を通じて筐体12の外側の空気を取り込み、筐体12の下面に形成された通風口14から筐体12の外側に風を送る。これにより、上側の栽培装置10では、筐体12内の送風機22から通風口14を通じて風が供給され、下側の栽培装置10では、筐体12に載った容器1に入れられている植物Pが、上方から供給される風(気流)を受ける。
【0047】
なお、送風機22の送風能力は、植物栽培に利用する上で好適な風量又は好適な風速が得られるものである限り、特に制限されない。本実施形態では、送風機22から送られる風の風速(詳しくは、通風口14から100mm下がった位置で測定した場合の風速)が、例えば、筒体40を備えていない状態では0.5m/s程度であることとする。
【0048】
本実施形態において、筐体12の下面12Bに設けられた通風口14は、図3に示すように、送風機22とともに風供給部20を構成し、Z方向において、その直下にある植物Pと対向する位置に設けられている。
【0049】
具体的に説明すると、本実施形態では、図6に示すように、通風口14が円孔であり、筐体12の下面12Bの中央部に設けられている。栽培棚100の各段において、各栽培装置10は、当該各栽培装置10が備える筐体12の通風口14が、その直下で栽培される植物Pの中心部分とZ方向において重なるように配置される。植物Pの中心部分とは、結球性の葉菜類の植物を真上から見たときの中心部分であり、具体的には芯又は茎が存在する部分である。
【0050】
なお、通風口14の形状は、円形に限定されず、例えば、三角形及び四角形等の多角形、楕円形、星形又は不定形状でもよい。また、通風口14の配置位置は、下面12Bの中央部に限定されず、例えば、中央部から幾分ずれた位置でもよい。また、通風口14の口径は、特に限定されないが、口径の上限は、10mm~100mmであるのが好ましく、口径の下限は、20mm~60mmとするのが好ましい。
【0051】
光源32は、回路基板18の下面に実装された点光源であり、例えば、LED(Light Emitting Diode)、エレクトロルミネッセンス素子、又は半導体レーザ用素子等からなる。光源32は、植物Pの栽培中、作動して光を発する。光源32からの光は、筐体12の下面12Bに形成されたレンズ穴16を通じて筐体12の外側に出射される。
【0052】
図3を参照しながら詳しく説明すると、略円筒形状のレンズ保持体34が光源32を取り囲むように回路基板18の下面に装着されている。レンズ保持体34は、回路基板18から筐体12の下端に向かって延びており、その先端部(筐体12の下面12Bに近い方の端部)には光拡散用のレンズ36が嵌め込まれている。レンズ36の材質は、光を拡散するものであれば特に限定されないが、一例としてはPMMA(Polymethyl Methacrylate)等が挙げられる。
【0053】
筐体12の下面12Bに形成されたレンズ穴16は、レンズ保持体34の外径と略同径の円孔であり、レンズ穴16には、レンズ36が嵌め込まれたレンズ保持体34の先端部が嵌合している。つまり、筐体12の下面12Bではレンズ36が露出している(図6参照)。
【0054】
以上の構成により、光源32が光を発すると、その光がレンズ36によって拡散され、筐体12の下面12Bから下側に出射される。すなわち、筐体12の下面12Bにおいてレンズ36が露出した領域(換言すると、レンズ穴16が形成されている領域)は、光出射領域38に相当する。光出射領域38は、円形の領域であり、光源32、レンズ保持体34及びレンズ36とともに照明部30を構成する。
【0055】
なお、光出射領域38の形状、換言するとレンズ穴16の形状は、円に限定されず、三角形及び四角形等の多角形、楕円形、星形又は不定形状でもよい。また、光出射領域38のサイズ、すなわちレンズ穴16の口径は、特に限定されないが、口径の下限は、5~15mmであるのが好ましく、例えば、5mm、8mm、10mm、又は15mmのいずれかであるとよい。口径の上限は、75mm~300mmであるのが好ましく、例えば、75mm、100mm、200mm、又は300mmのいずれかであるとよい。
【0056】
照明部30は、Z方向において風供給部20が位置する側(+Z側)から植物Pに向けて光を照射する。詳しく説明すると、上側の栽培装置10に備えられた栽培装置10において、筐体12内の光源32が発光すると、その光がレンズ36にて拡散されて筐体12の下面12B(詳しくは、光出射領域38)から出射される。出射された光は、下側の栽培装置10に載った容器1に入れられている植物Pに対して照射される。
【0057】
なお、光出射領域38から出射される光の配光角度(換言すると、レンズ36の配光角度)は、特に限定されないが、指向角(半減角又は半値角とも言う)を配光角度とし、その1/2に相当する角度をθとした場合、θの下限が5~20°であるのが好ましく、上限が30~45°であるのが好ましい。ちなみに、上記の角度θは、光出射領域38の出射光の光度がレンズ36の中心軸における光度の1/2となる角度である。また、2θである指向角(半減角又は半値角θは、公知の測定方法、例えばJIS規格(JIS C8105-5:2011)に従った方法にて測定することができる。
【0058】
本実施形態では、一つの栽培装置10につき、複数の照明部30が設けられており、それぞれの照明部30は、光源32、レンズ保持体34及びレンズ36を有する。つまり、筐体12の下面12Bには、図6に示すように、レンズ穴16を通じてレンズ36が露出する領域、すなわち円形の光出射領域38が複数存在する。複数の光出射領域38の各々は、下面12Bの直下に位置する植物Pに向けて光を出射し、その植物Pは、様々な方向において、各光出射領域38から出射された光を受ける。
【0059】
本実施形態では、下面12Bにおいて、複数の光出射領域38が通風口14の周囲に設けられており、詳しくは通風口14を中心として対称的に配置されている。光出射領域38の配置パターンについては、特に限定されないが、図6図9に示す配置パターンが具体例として挙げられる。図6の配置パターンでは、光出射領域38の群が列(以下、光出射領域列)をなし、筐体12の下面12Bの外縁をなす四辺のそれぞれと平行に4つの光出射領域列が略井桁状に交差して配置されている。また、下面12Bにおいて、4つの光出射領域列によって囲まれる箇所には通風口14が設けられている。
【0060】
図7~9の配置パターンでは、2つの光出射領域列が下面12Bの中央位置で互いに直交している。さらに、上記2つの光出射領域列によって区画された4つの領域(象限)の各々に、一つ又は複数の光出射領域38が象限間で対称的な配置となるように設けられている。
また、下面12Bにおいて、図10に示すように複数の光出射領域38が不規則な位置に配置されてもよい。
【0061】
複数の光出射領域38の各々から出射される光の明るさ(強度)は、光出射領域の間で揃ってもよく、あるいは光出射領域の間で異なってもよい。
【0062】
一方、下面12Bの中央位置から離れた光出射領域38から出射される光は、下面12Bの中央位置に近い光出射領域38から出射される光と比較して、植物Pに到達するまでの間により広範囲に広がる。したがって、下面12Bの中央位置から離れた光出射領域38から出射される光については、植物Pに入射される光の量(入射量)がより小さくなる。植物Pのうち、光の入射量がより小さい部分では、その部分での光合成速度が低下し、生育量も減少する。
【0063】
以上のことを踏まえ、下面12Bの中央位置から離れた光出射領域38からは、下面12Bの中央位置に近い光出射領域38よりも強度が高い光を出射するのがよい。換言すると、複数の光出射領域38のうち、通風口14により近い光出射領域38から出射される光よりも、通風口14から離れた光出射領域38から出射される光をより明るくする(高輝度とする)とよい。
【0064】
なお、各光出射領域38から出射される光の明るさ(輝度)は、その光出射領域38と対応する光源32の出力によって調整される。各光源32の出力調整(調光)は、回路基板18に設けられたDMX(光源制御用の通信プロトコル)デコーダ19によって行うことができる。
【0065】
筒体40は、風案内用の壁部であり、Z方向に延びており、風供給部20から供給される風を、Z方向において植物Pが位置する側(-Z側)へ案内する。本実施形態の筒体40は、円筒形状であり、厳密には、同径のまま延びたストレート管によって構成されている。
【0066】
筒体40は、図4に示すように、筒体40における通風口14側の端面(すなわち、+Z側の端面)が筐体12の下面12Bに接合されることで筐体12に取り付けられている。筒体40の端面と筐体12の下面12Bとの接合方法は、特に限定されず、例えば接着剤、接着テープ又は面ファスナー等が利用可能である。
【0067】
また、筒体40は、通風口14を取り囲むように配置されている。換言すると、Z方向(厳密には-Z側)から通風口14及び筒体40を見た場合、通風口14が筒体40の内壁面よりも内側に位置している。
【0068】
上記の筒体40が設けられていることにより、風供給部20から供給される風を、筒体40の直下位置で栽培される植物Pに向けて効果的に送ることができる。
【0069】
より詳しく説明すると、図3に示すように、上側の栽培装置10に備えられた送風機22が送る風は、筐体12の通風口14から筒体40内に流入し、筒体40内を-Z側に流れ、その後に筒体40の下側開口端から流出する。下側の栽培装置10に載った容器1に入れられている植物Pは、筒体40から流出した風を受ける。このとき、筒体40から流出した風は、主として、植物Pの中心部分に当たる。これにより、植物Pの中心部分付近の空気が換気され、植物Pの中心部分での蒸散が促進される。この結果、植物Pにおけるチップバーンの発生を効果的に抑えることができる。
【0070】
風供給部20から供給される風は、筒体40内を流れることで加速される。本実施形態では、例えば、筒体40を設けた場合の風速が訳1.5m/sとなり、筒体40を設けない場合の風速(=約0.5m/s)よりも格段に早くなる。なお、上記の風速は、筐体12の下面12Bから100mm下がった場所で測定したときの測定値である。
【0071】
なお、筒体40の全長(Z方向における長さ)は、特に限定されないが、例えば、20mm~500mmであるのが好ましく、40mm~300mmであるのがより好ましく、80mm~200mmであるのが特に好ましい。筒体40の全長が短すぎると、風を遠方に送り難くなり、また、筒体40の遮光効果(遮光効果については後の項で説明する)によって照度が下がる範囲が小さくなる。反対に、筒体40の全長が長すぎると、筒体40内を風が流れる際に生じる摩擦に起因したエネルギーロスが大きくなる。そのため、筒体40の全長の下限は、10mm~40mmとするのが好ましく、上限は、150mm~500mmとするのが好ましい。
【0072】
また、筒体40の径(外径及び内径)は、特に限定されないが、通風口14を取り囲むことが可能であり、且つ筐体12の下面12Bにおいて光出射領域38と干渉しない(差し掛からない)範囲で設定されるとよい。具体的には、例えば、筒体40の内径については、下限が10mm~20mmであるのが好ましく、上限が60mm~100mmであるのが好ましい。筒体40の外径については、上限が50mm~200mmであるのが好ましい。
【0073】
また、本実施形態では、筒体40がストレート管であり、Z方向における一端から他端に亘って外径及び内径が一定であるが、これに限定されるものではない。Z方向における筒体40の各部分での外径及び内径が異なっていてもよく、例えば、図11Aに示すように、筒体40のうち、通風口14とは反対側(-Z側)に位置する先端部42の形状が、通風口14から離れるほど太くなるテーパ形状であってもよい。この場合には、筒体40によって風を送る範囲が広がる一方で、風の供給速度(風速)が低下する。また、後述する筒体40の遮光効果によって照度が下がる範囲が広くなる。
【0074】
反対に、先端部42の形状が、図11B又は図11Cに示すように通風口14から離れるほど細くなるテーパ形状であってもよい。この場合には、風速が増加する一方で、筒体40によって風を送る範囲、及び、筒体40の遮光効果によって照度が下がる範囲が狭くなる。
なお、筒体40の形状については、上記以外の形状にもバリエーションが考えられる。例えば図11Dに示すように、筒体40において、通風口14側の端から途中位置までは、通風口14から離れるほど太くなり、途中位置から筒体40の先端までは、通風口14から離れるほど細くなる形状でもよい。
【0075】
また、本実施形態では、筒体40が円筒形状であることとしたが、これに限定されず、例えば切断面(Z方向に垂直な切断面)が三角形及び四角形等の多角形となる角筒形状であってもよい。また、本実施形態とは異なるが、筒体40の外周壁には若干の貫通孔又はスリットが設けられてもよい。また、風案内用の壁部としては、筒体40のように周方向に亘って連続した壁部に限定されず、周方向において断続的に配置された壁部(具体的には、壁部の間に若干の隙間が空けて並べられた複数の壁片からなる壁部)であってもよい。
【0076】
本実施形態において、筒体40は、風案内用に用いられるとともに、植物Pにおいて光が照射される範囲を制限する用途として兼用される。より詳しく説明すると、本実施形態において、筒体40は、風供給部20から供給される風が当たる植物Pの中心部分での光の入射量を小さくするために用いられる。
【0077】
筒体40は、遮光性を有する。遮光性は、筒体40をなす材質によって発現する性質のうち、照明部30が発する光を遮る性質、厳密には光を吸収又は反射する性質(性能)を表す。
【0078】
本実施形態の筒体40は、照明部30が発して(詳しくは、光出射領域38から出射されて)筒体40の外表面に到達した光を遮り、厳密には反射する。具体的に説明すると、本実施形態では、照明部30が発する光の最大ピーク波長における、その光に対する筒体40の外表面の反射率が50%以上である。ここで、反射率は、筒体40の外表面での反射が主として拡散反射である場合には拡散反射率であり、公知の測定方法(例えば、積分球を備える分光測定装置による測定方法)によって測定可能である。また、照明部30が発する光の最大ピーク波長は、公知の分光スペクトル測定によって特定可能である。
【0079】
筒体40での反射の中で拡散反射が支配的である場合には、筒体40の周辺における比較的広範囲が明るくなる。この場合、植物Pのうち、筒体40で反射された光が照射される範囲にある部分では、光合成速度が早くなり、成長量が大きくなる。
【0080】
一方、筒体40の反射が主として鏡面反射である場合には、反射率を鏡面反射率としてもよい。鏡面反射率は、公知の測定方法(例えば、積分球を備える分光測定装置による測定方法)によって測定可能である。また、筒体40での反射の中で鏡面反射が支配的である場合には、照明部30近傍(詳しくは、光出射領域38の直下位置付近)に照射される。この場合には、植物Pのうち、照明部30近傍にある部分で光合成速度が早くなり、成長量が大きくなる。したがって、植物Pの成長範囲が照明部30近傍で収まる場合には、筒体40の反射が主として鏡面反射であるのが好ましい。
【0081】
なお、反射率については、70%以上であるのが好ましく、80%以上であるのがより好ましく、90%以上であるのが特に好ましい。
【0082】
そして、筒体40の外周壁は、図6に示すように、通風口14の径方向において通風口14よりも外側に位置し、且つ、筐体12の下面12Bの中央位置に最も近い光出射領域38(以下、最も内側の光出射領域38という。)よりも内側に位置している。換言すると、Z方向から筒体40を見た場合において、筒体40が風供給部20と照明部30との間に配置されており、具体的には、通風口14と最も内側の光出射領域38との間に配置されている。これにより、各光出射領域38から出射された光は、筒体40によって遮られ、筒体40の下側開口端(風が流出される側の開口端)と対向する範囲では、その周囲よりも照度が低くなる。したがって、植物Pにおいて筒体40の下側開口端と対向する部分、すなわち植物Pの中心部分では、その周辺部分と比較して光の入射量が小さくなる。
【0083】
照度が小さくなる場所では植物Pの光合成速度が低下し、成長量が小さくなる。これにより、成長ムラが抑えられるような照度分布を実現し、植物Pを適切に栽培することができる。
【0084】
上記の効果について詳しく説明すると、栽培装置10に仮に筒体40が設けられていない場合、筐体12の下面12Bにおける中央部分の真下に位置する場所では光の照射量が最も大きくなる。そのため、植物Pのうち、中心部分では他の部分に比べて光の入射量が最も高くなる。したがって、植物Pの中心部分では、他の部分と比較して、光合成速度が速くなり成長量が大きくなる。さらに、植物Pの中心部分では、風供給部20から供給される風が当たるため、蒸散が促進されるために成長量が益々大きくなる傾向にある。
【0085】
一方、植物Pの中心部分での成長量が周りの部分での成長量を大きく上回ると、植物Pにおいて中心部分にある葉が局所的に伸び広がる。この結果、植物P各部での成長量が不均一となるために成長ムラが生じ、こうした状況は、植物Pの品質、特に形状に影響を及ぼし得る。特に、植物Pが結球性を有する葉菜類である場合には、良好に球形状となり難くなる等、成長ムラの影響がより顕著になる。
【0086】
これに対して、本実施形態では、筒体40の遮光効果により筒体40の直下位置での照度を下げることができる。これにより、植物Pの中心部分への光の入射量を低減することができるので、植物Pの中心部分で成長量が局所的に大きくなる事態を回避することができる。この結果、植物Pにおける成長ムラが抑制され、成長ムラに起因する品質への影響、具体的には形状への影響が抑えられるようになる。
【0087】
なお、本実施形態では、Z方向から筒体40を見た場合、図6に示すように、筒体40の外周壁全体が風供給部20と照明部30との間、詳しくは通風口14と最も内側の光出射領域38との間に配置されている。これにより、植物Pの中心部分への光の入射量をより確実に低減することができる。ただし、これに限定されるものではなく、筒体40の外周壁のうちの少なくとも一部分が通風口14と最も内側の光出射領域38との間に配置されていればよい。
【0088】
また、本実施形態では、前述したように、筒体40における通風口14側の端面(すなわち、+Z側の端面)が筐体12の下面12Bに接合されている。つまり、筒体40と筐体12との間に隙間がなく、その隙間から筒体40内に光が入り込むことで筒体40の遮光効果が低下してしまう事態を回避することができる。
【0089】
また、筒体40の形状及びサイズは、前述したように特に限定されないが、植物Pの中心部分への光の入射量を効果的に下げる観点で好適に設定されるのが好ましい。例えば、筒体40は、最も内側の光出射領域38との位置関係を踏まえて、以下の式(1)を満たすように設計されるとよい。換言すると、筒体40との関係で式(1)を満たすように設けられた照明部30(詳しくは、光出射領域38)が少なくとも1つ以上存在するとよい。
tanθ>(d-r)/L (1)
【0090】
上記の式(1)のうち、Lは、図12に示すように、Z方向における筒体40の長さ(単位はmm)である。dは、筒体40の中心軸と最も内側の光出射領域38の中央位置との間の距離(単位はmm)である。rは、筒体40の外径の1/2に相当する長さ(単位はmm)である。θは、最も内側の光出射領域38から出射される光の配光角度(換言すると、指向角)の1/2に相当する角度(単位は°)である。なお、最も内側の光出射領域38から出射される光の配光角度は、その光出射領域38に嵌め込まれたレンズ36の配光角度に相当する。
【0091】
筒体40と光出射領域38との関係が上記の式(1)を満たす場合には、筒体40の下側開口端と対向する場所(つまり、植物Pの中心部分が存在する場所)において、照度を効果的に下げることができる。
なお、下記の表1には、θを30°とし、Lを100mmとし、rを15mmとした条件の下でdを30mm、50mm、及び70mmに設定したときの、それぞれの中心照度を求めた結果を示す。なお、表1に示す中心照度は、最大値(d=70mmであるときの値)に対する割合にて表されている。
【0092】
【表1】
【0093】
なお、筒体40の中心軸と最も内側の光出射領域38の中央位置との間の距離wは、特に限定されないが、wの下限は、5mm~15mmであるのが好ましく、wの上限は、75mm~300mmであるのが好ましい。
【0094】
次に、本実施形態に係る栽培装置10を用いた植物Pの栽培方法(以下、本実施形態の栽培方法という。)の流れについて説明する。本実施形態の栽培方法では、栽培対象の植物Pが、栽培棚100において最上段を除く棚102の上で栽培される。詳しくは、棚102を構成する栽培装置10の筐体12の上に容器1が載置され、植物Pは、容器1内の養液Lに根が浸った状態で栽培される(図3参照)。
【0095】
栽培期間中、栽培棚100においてZ方向に隣り合う上下2つの栽培装置10のうち、上側の栽培装置10に設けられた風供給部20が風を供給する。詳しくは、上側の栽培装置10が備える筐体12に収容された送風機22が送風し、筐体12の下面12Bの中央部に形成された通風口14を通じて風が筐体12の外に排出される。排出された風は、筒体40内に流入して筒体40内を流れ、筒体40の下側開口端から放出される。そして、下側の栽培装置10に載置された容器1に入っている植物Pのうち、筒体40の下側開口端と対向する中心部分に風が当たるようになる。これにより、植物Pの中心部分付近において蒸散が促進され、この結果、植物Pにおけるチップバーンの発生を効果的に抑制することができる。
【0096】
また、栽培期間中、上側の栽培装置10に設けられた複数の照明部30が光を発する。詳しくは、上側の栽培装置10が備える筐体12に収容された複数の光源32の各々が発光し、筐体12の下面12Bに設けられた複数の光出射領域38の各々から光が出射される。各光出射領域38からの出射光は、下側の栽培装置10に載置された容器1に入っている植物Pに入射され、植物Pの光合成に利用される。
【0097】
本実施形態では、筒体40が遮光性を有し、Z方向から筒体40を見た場合に、筒体40が風供給部20と照明部30との間、詳しくは、通風口14と最も内側の光出射領域38との間に位置する。そのため、各光出射領域38からの出射光のうち、筒体40に到達した光は、筒体40の外表面にて反射する。これにより、筒体40の直下位置での照度が低下するため、下側の栽培装置10に載置された容器1に入っている植物Pのうち、筒体40の下側開口端と対向する中心部分への光の入射量を下げることができる。
【0098】
筒体40が設けられていない場合には、植物Pの中心部分への光の入射量が大きくなり易いため、中心部分での植物Pの成長速度が速くなる。これに対して、筒体40を利用する場合には、筒体40の遮光効果によって中心部分での光の入射量を下げることで、中心部分での植物Pの成長速度を低下させることができる。この結果、中心部分での成長量が他の部分での成長量を上回る成長ムラと、成長ムラに起因する品質への影響(具体的には、形状劣化)を抑えることができる。
【0099】
[その他の実施形態]
以上までに本発明の栽培装置及び栽培方法について具体例を挙げて説明したが、上述の実施形態は、一例に過ぎず、他の実施形態も考えられ得る。
上述の実施形態では、多段の栽培棚100における各段の棚102にて植物Pを栽培することとしたが、単一の台の上で植物Pを栽培する場合にも本発明は適用可能である。
【0100】
上述の実施形態では、複数の照明部30を用いることとしたが、照明部30の数は一つであってもよい。また、上述の実施形態では、一つの風供給部20を用いることとしたが、複数の風供給部20を用いてもよい。
【0101】
また、上述の実施形態では、壁部として筒体40を用いることとした。ただし、壁部については、Z方向から見て風供給部20と照明部30との間に壁部の一部分が位置することで、風供給部20から供給される風が当たる場所での照度を低下させることができれば、筒体40以外のもの、例えば遮光パネル又は遮光板でもよい。
【0102】
また、上述の実施形態では、栽培装置10の構成として、風供給部20及び照明部30が筐体12に設けられている構成を説明した。ただし、これに限定されず、図13に示すように筐体12を用いない構成の栽培装置10Xであってもよい。
【0103】
図13に示す栽培装置10Xは、多段の栽培棚100に用いられ、各段の棚102の上方に配置された風供給部20X及び照明部30X、及び、壁部としての円筒形状の筒体40を有する。風供給部20Xは、例えばファンによって構成され、その直下位置に筒体40が配置されている。照明部30Xは、Y方向に列状に並んだLEDランプ群又は照明灯によって構成されており、X方向における栽培装置10Xの両端部にそれぞれ配置されている。以上のような栽培装置10Xを用いて植物Pを栽培する場合にも本発明の効果が得られる。
【0104】
また、上述の実施形態では、栽培対象の植物Pが結球性を有する葉菜類であることとしたが、これに限定されるものではない。結球性を有する葉菜類以外の植物であっても、チップバーン及び照度分布に基づく成長ムラが生じ得る種類の植物を栽培する場合には、本発明を適用することにより、適切に栽培することができる。
【符号の説明】
【0105】
1 容器
1a 開口
10,10X 栽培装置
12 筐体
12A 上面
12B 下面
12C 側面
13 空気取込み孔
14 通風口
16 レンズ穴
18 回路基板
19 DMXデコーダ
20,20X 風供給部
22 送風機
30,30X 照明部
32 光源
34 レンズ保持体
36 レンズ
38 光出射領域
40 筒体(壁部)
42 先端部
100 栽培棚
102 棚
104 レール部材
106 支柱
L 養液
P 植物
V 培地
W カップ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11A
図11B
図11C
図11D
図12
図13