(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022106212
(43)【公開日】2022-07-19
(54)【発明の名称】ステアリング装置
(51)【国際特許分類】
B62D 3/12 20060101AFI20220711BHJP
F16J 15/52 20060101ALI20220711BHJP
F16J 3/04 20060101ALI20220711BHJP
【FI】
B62D3/12 503Z
F16J15/52 Z
F16J3/04 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021001064
(22)【出願日】2021-01-06
(71)【出願人】
【識別番号】000000929
【氏名又は名称】KYB株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002468
【氏名又は名称】特許業務法人後藤特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 拓造
(72)【発明者】
【氏名】下田 勝海
(72)【発明者】
【氏名】増田 大輝
(72)【発明者】
【氏名】青山 雅
(72)【発明者】
【氏名】山田 展資
(72)【発明者】
【氏名】蔡 冠華
(72)【発明者】
【氏名】橘田 槙
【テーマコード(参考)】
3J043
3J045
【Fターム(参考)】
3J043AA11
3J043CA12
3J043CB13
3J043DA06
3J043FA04
3J043FB10
3J045AA10
3J045BA02
3J045CB16
3J045CB17
(57)【要約】
【課題】ステアリング装置のハウジングとブーツとの間のシール性を向上させる。
【解決手段】電動パワーステアリング装置100は、車輪を転舵するためのラック軸30と、ラック軸30を収容しラック軸30が突出する開口部71を有するハウジングとしてのギヤケース70と、ギヤケース70の開口部71を覆うブーツ80と、ブーツ80をギヤケース70の外周面72に向けて押圧し固定する環状のバンド部としてのブーツバンド90と、を備え、ギヤケース70は、外周面72のうちブーツバンド90によって押圧される被押圧部75と、被押圧部75から開口部71の径方向に突出する環状の突出部76,77,78,79と、を有する。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ステアリング装置であって、
車輪を転舵するためのラック軸と、
前記ラック軸を収容し前記ラック軸が突出する開口部を有するハウジングと、
前記ハウジングの前記開口部を覆うブーツと、
前記ブーツを前記ハウジングの外周面に向けて押圧し固定する環状のバンド部と、を備え、
前記ハウジングは、
前記外周面のうち前記バンド部によって押圧される被押圧部と、
前記被押圧部から前記開口部の径方向に突出する環状の突出部と、を有することを特徴とするステアリング装置。
【請求項2】
請求項1に記載のステアリング装置であって、
前記突出部は、前記開口部の軸方向において、前記被押圧部よりも小さい寸法を有することを特徴とするステアリング装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載のステアリング装置であって、
前記突出部は、
前記被押圧部から前記軸方向に対して垂直に延びる壁部と、
前記被押圧部から前記壁部に向けて延びるテーパ部と、を有し、
前記テーパ部は、前記壁部よりも前記ハウジングの前記開口部側に設けられることを特徴とするステアリング装置。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか一つに記載のステアリング装置であって、
前記突出部として、第一突出部と、前記軸方向において前記被押圧部の中央から前記第一突出部よりも離れて設けられる第二突出部と、を有し、
前記第二突出部は、前記径方向への突出量が、前記第一突出部よりも大きいことを特徴とするステアリング装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ステアリング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に記載のステアリング装置では、ギヤケースに筒状のブーツが取り付けられる。ブーツは、ブーツバンドによりギヤケースの円筒部に締め付けられ固定される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このようなステアリング装置では、ブーツバンドによりギヤケースの円筒部にブーツが締め付けられることで、ギヤケースとブーツとの間の隙間を通じたギヤケース内への異物の侵入が防止される。しかしながら、ブーツが締め付けられるギヤケースの円筒部の外周面が軸方向の断面において平坦であると、ギヤケースとブーツとの接触面は当該断面において直線状となるため、ギヤケースとブーツとの間で高いシール性を得られない可能性がある。
【0005】
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたものであり、ステアリング装置のハウジングとブーツとの間のシール性を向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、ステアリング装置であって、車輪を転舵するためのラック軸と、ラック軸を収容しラック軸が突出する開口部を有するハウジングと、ハウジングの開口部を覆うブーツと、ブーツをハウジングの外周面に向けて押圧し固定する環状のバンド部と、を備え、ハウジングは、外周面のうちバンド部によって押圧される被押圧部と、被押圧部から開口部の径方向に突出する環状の突出部と、を有することを特徴とする。
【0007】
本発明は、突出部が、開口部の軸方向において、被押圧部よりも小さい寸法を有することを特徴とする。
【0008】
これらの発明では、ブーツはハウジングの突出部に向けてバンド部により押圧されるため、ブーツには、被押圧部における他の部分よりも突出部においてバンド部からの荷重が作用しやすくなる。そのため、突出部でハウジングとブーツとの接触面圧が高くなる。これにより、ハウジングの突出部とブーツとを密着させることができる。
【0009】
本発明は、突出部は、被押圧部から軸方向に対して垂直に延びる壁部と、被押圧部から壁部に向けて延びるテーパ部と、を有し、テーパ部は、壁部よりもハウジングの開口部側に設けられることを特徴とする。
【0010】
この発明では、テーパ部が壁部よりもハウジングの開口部側に設けられるため、ハウジングへのブーツの取り付けが突出部により阻害されない。また、取り付けられたブーツが壁部に係止されるため、ブーツがハウジングから脱落することが防止される。
【0011】
本発明は、突出部として、第一突出部と、軸方向において被押圧部の中央から第一突出部よりも離れて設けられる第二突出部と、を有し、第二突出部は、径方向への突出量が、第一突出部よりも大きいことを特徴とする。
【0012】
この発明では、被押圧部の中央側の第一突出部よりも被押圧部の端部側に形成される第二突出部の方が、第一突出部よりも径方向への突出量が大きいため、被押圧部の端部側でハウジングとブーツとの接触面圧が高くなる。ここで、ブーツの肉厚は被押圧部の端部側で薄くなりやすい。よって、ブーツが薄くなりやすい箇所でハウジングとブーツとの接触面圧が高くなるため、ハウジングとブーツとの間のシール性を効率的に向上させることができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、ステアリング装置のハウジングとブーツとの間のシール性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本実施形態に係る電動パワーステアリング装置の構成図である。
【
図3】ギヤケースとブーツとの固定部の拡大断面図である。
【
図4】変形例に係るギヤケースとブーツとの固定部の
図3に対応する拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
図面を参照して、本発明の実施形態に係るステアリング装置としての電動パワーステアリング装置100について説明する。
【0016】
図1に示すように、電動パワーステアリング装置100は、ステアリングホイール10から入力される操舵トルクによって回転するステアリングシャフト20と、ステアリングシャフト20の回転に伴って車輪1を転舵させる転舵軸としてのラック軸30と、を備える。
【0017】
ステアリングシャフト20は、運転者がステアリングホイール10を操作するステアリング操作に伴って回転する入力シャフト21と、ラック軸30を変位させる出力シャフト22と、入力シャフト21と出力シャフト22とを連結するトーションバー23と、により構成される。
【0018】
ラック軸30は、車両の左右方向に延びて設けられる軸状部材であり、第一タイロッド41a及び第一ナックルアーム42aを介して一方の車輪1に連結され、第二タイロッド41b及び第二ナックルアーム42bを介して他方の車輪1に連結される。
【0019】
第一及び第二タイロッド41a,41bは、ラック軸30の両端部に設けられる連結部としての第一及び第二ボールジョイント43a,43bを介してラック軸30に対してそれぞれ揺動自在に連結される。なお、ラック軸30と第一及び第二タイロッド41a,41bとを連結する連結部としては、第一及び第二ボールジョイント43a,43bに限定されず、他の形式の自在継手が用いられてもよい。
【0020】
出力シャフト22とラック軸30とは、出力シャフト22の端部に設けられるピニオンギヤ22aと、ラック軸30に設けられるラックギヤ30aと、からなるラックアンドピニオン機構を介して互いに連結される。ピニオンギヤ22aとラックギヤ30aとは互いに噛み合っており、出力シャフト22のトルクは、ピニオンギヤ22a及びラックギヤ30aを介してラック軸30の軸心方向の荷重に変換されてラック軸30に伝達される。これにより、ラック軸30は、伝達されるトルクにより軸心方向に変位し、第一及び第二タイロッド41a,41bを介して車輪1を転舵する。
【0021】
また、電動パワーステアリング装置100は、ステアリング操作に応じて操舵力を補助するために駆動される電動モータ50と、電動モータ50の回転を減速してステアリングシャフト20に伝達する減速部52と、を備える。
【0022】
減速部52は、電動モータ50により駆動されるウォームシャフト53と、出力シャフト22に設けられるウォームホイール54と、からなるウォームギヤ機構である。ウォームシャフト53とウォームホイール54とは互いに噛み合っており、電動モータ50のトルクは、ウォームシャフト53及びウォームホイール54を介して出力シャフト22に伝達される。電動モータ50から出力シャフト22に伝達されたトルクは、ピニオンギヤ22a及びラックギヤ30aを介してラック軸30に更に伝達される。
【0023】
また、電動パワーステアリング装置100は、トーションバー23に作用するトルクを検出するトルクセンサ62と、トルクセンサ62の検出値に応じて電動モータ50の駆動を制御するコントローラ60と、を更に備える。
【0024】
コントローラ60は、演算処理を行うCPU(Central Processing Unit)と、CPUにより実行される制御プログラム等を記憶するROM(Read-Only Memory)と、CPUの演算結果等を記憶するRAM(random access memory)と、を含むマイクロコンピュータで構成される。コントローラ60は、単一のマイクロコンピュータで構成されていてもよいし、複数のマイクロコンピュータで構成されていてもよい。
【0025】
トルクセンサ62は、運転者によるステアリング操作に伴って入力シャフト21に付与される操舵トルクを検出し、検出した操舵トルクに対応する信号をコントローラ60に出力する。コントローラ60は、トルクセンサ62からの信号に基づいて、電動モータ50が出力するトルクを演算し、そのトルクが発生するように電動モータ50の駆動を制御する。
【0026】
このように、上記構成の電動パワーステアリング装置100では、入力シャフト21に付与される操舵トルクをトルクセンサ62にて検出し、その検出結果に基づいて電動モータ50の駆動をコントローラ60にて制御して運転者のステアリング操作をアシストすることが可能である。
【0027】
図2に示すように、電動パワーステアリング装置100は、ラック軸30を収容しラック軸30が突出する開口部71a,71bを有するハウジングとしてのギヤケース70を備える。ギヤケース70は、例えば、アルミニウム等の金属で形成される。
【0028】
電動パワーステアリング装置100は、ギヤケース70の開口部71a,71bを覆うブーツ80a,80bと、ブーツ80a,80bをギヤケース70の外周面72に向けて押圧し固定する環状のバンド部としてのブーツバンド90a,90bと、を備える。ブーツ80a,80bは、ギヤケース70の開口部71a,71bから突出したラック軸30と、第一及び第二タイロッド41a,41b(
図1参照)と、をそれぞれ覆い、ラック軸30と第一及び第二タイロッド41a,41bを異物から保護する。また、ブーツバンド90a,90bは、軸方向に所定の長さで形成され、ブーツ80a,80bをそれぞれギヤケース70の外周面72に締め付けて固定する。これにより、開口部71a,71bがブーツ80a,80bにより覆われ、開口部71a,71bからギヤケース70内に異物が浸入することが防止される。
【0029】
開口部71a,71b近傍、ブーツ80a,80b、及びブーツバンド90a,90bの構成は同様であるため、以下では
図2における左側の開口部71a近傍、ブーツ80a、及びブーツバンド90aの構成について説明し、開口部71b近傍、ブーツ80b、及びブーツバンド90bの構成については説明を省略する。また、以下では、開口部71aを単に「開口部71」、ブーツ80aを単に「ブーツ80」、ブーツバンド90aを単に「ブーツバンド90」とも称する。
【0030】
ギヤケース70は、ラック軸30を収容する収容孔73と、外周面72に形成されブーツバンド90がブーツ80とともに取り付けられる凹部74と、を有する。収容孔73は、ギヤケース70を貫通し、端部に開口部71が形成される。ラック軸30は、収容孔73を挿通して開口部71から突出する。凹部74は、開口部71近傍に環状に形成され、軸方向の長さはブーツバンド90の軸方向の長さよりも長く形成される。つまり、ギヤケース70の外周面72では、凹部74の一部がブーツバンド90によって径方向内側に向けて押圧される。言い換えれば、ギヤケース70は、外周面72のうちブーツバンド90によって押圧される被押圧部75を有する。具体的には、被押圧部75は、凹部74のうちブーツバンド90の径方向内側に位置する領域を指す。
【0031】
図3に示すように、凹部74には、被押圧部75から開口部71の径方向に突出する環状の突出部76が形成される。言い換えると、突出部76は、開口部71の軸方向における被押圧部75の両端部の間に形成される。本実施形態では、同一形状の突出部76が凹部74の中央付近に軸方向に間隔を空けて二つ形成される。
【0032】
突出部76は、ギヤケース70の凹部74の底面から開口部71の軸方向に対して垂直に延びる壁部76aと、凹部74の底面から壁部76aに向けて、開口部71から離れるように延びるテーパ部76bと、壁部76aとテーパ部76bとを接続する接続部76cと、を有する。具体的には、壁部76aは、外周面72の被押圧部75から開口部71の径方向に沿って突出する。テーパ部76bは、壁部76aに近づくにつれて開口部71の径方向への突出量が大きくなるように形成される。接続部76cは、開口部71の軸方向に沿って設けられる。つまり、突出部76は、開口部71の軸方向に沿った断面が台形となるように形成される。なお、壁部76a及びテーパ部76bが延びる凹部74の底面は、外周面72の一部である。
【0033】
テーパ部76bは、壁部76aよりもギヤケース70の開口部71側に設けられる。具体的に開口部71a、開口部71bを用いて説明すると、開口部71a近傍の凹部74に形成される突出部76では、テーパ部76bが壁部76aよりも開口部71a側に設けられる。また、図示しないが、開口部71b近傍の凹部に形成される突出部では、テーパ部が壁部よりも開口部71b側に設けられる。
【0034】
ブーツ80は例えばゴムや樹脂で形成される蛇腹状の筒部材である。ブーツ80は、ラック軸30の往復動に追従できるように、ラック軸30の軸方向に伸縮可能である。ブーツ80は、本体部81と、本体部81の端部に設けられギヤケース70に取り付けられる環状の取付部82を有する。取付部82の内周面は、ギヤケース70の凹部74の底面と当接する。本体部81と反対側の取付部82の端部には、取付部82の径方向外側に突出したフランジ部83が形成される。本体部81と取付部82の境界と、フランジ部83と、によって、ブーツバンド90が収容可能な収容空間84が取付部82の外周面に形成される。収容空間84は凹状に形成され、ブーツバンド90が収容可能なように、軸方向の長さはブーツバンド90の軸方向の長さよりも長く形成される。ブーツ80は、取付部82の内周面が凹部74に収容されるように開口部71側からギヤケース70に取り付けられたのち、ブーツバンド90が収容空間84に取り付けられる。そして、ギヤケース70の凹部74に締め付けられて固定される。ブーツ80の他端部は、第一タイロッド41aに固定される。
【0035】
このように、ブーツ80がブーツバンド90によりギヤケース70に締め付けられて固定されると、ブーツ80はギヤケース70の突出部76に向けて押圧される。そのため、ブーツ80には、被押圧部75における他の部分よりも突出部76においてブーツバンド90からの荷重が作用しやすくなる。したがって、突出部76でギヤケース70とブーツ80との接触面圧が高くなり、ギヤケース70の突出部76とブーツ80とを密着させることができる。本実施形態では、壁部76aと接続部76cとの間の角部でギヤケース70とブーツ80との接触面圧が高くなり、ギヤケース70とブーツ80とが密着する。よって、ギヤケース70とブーツ80との間のシール性を向上させることができる。
【0036】
また、ギヤケースが突出部を有さない場合は、ギヤケースとブーツとが円筒面で接触し、ギヤケースとブーツとの接触面が開口部の軸方向の断面において直線状となる。この構成では、ギヤケースとブーツとの間を通じてギヤケース内に侵入しようとする異物の侵入経路が短い。これに対し、本実施形態における電動パワーステアリング装置100のギヤケース70は、突出部76を有するため、ギヤケース70とブーツ80との間を通じてギヤケース70内に侵入しようとする異物の侵入経路が長くなる。よって、ギヤケース70とブーツ80との間のシール性を向上させることができる。
【0037】
したがって、例えば、電動パワーステアリング装置100が泥水を受けた場合や、品質試験等で塩水を受けた場合であっても、ギヤケース70とブーツ80との間のシール性が高いため、ギヤケース70内に泥水や塩水が侵入してアルミニウム製のギヤケース70の腐食の進行を抑制することができる。
【0038】
また、突出部76は、壁部76aに向けて延びるテーパ部76bが壁部76aよりもギヤケース70の開口部71側に設けられる。具体的には、開口部71a近傍の凹部74に形成される突出部76では、テーパ部76bが壁部76aよりも開口部71a側に設けられ、開口部71b近傍の凹部74に形成される突出部76では、テーパ部76bが壁部76aよりも開口部71b側に設けられる。そのため、ブーツ80を開口部71側からギヤケース70に取り付ける際に、ブーツ80がテーパ部76bにより突出部76を容易に乗り越えることができるため、ギヤケース70へのブーツ80の取り付けが突出部76により阻害されない。また、取り付けられたブーツ80が壁部76aに係止されるため、ブーツ80がギヤケース70から脱落することが防止される。
【0039】
以上の本実施形態によれば、以下に示す作用効果を奏する。
【0040】
電動パワーステアリング装置100では、ブーツ80はギヤケース70の突出部76に向けて押圧されるため、ブーツ80には、被押圧部75における他の部分よりも突出部76においてブーツバンド90からの荷重が作用しやすくなる。したがって、突出部76でギヤケース70とブーツ80との接触面圧が高くなり、ギヤケース70の突出部76とブーツ80とを密着させることができる。本実施形態では、壁部76aと接続部76cとの間の角部でギヤケース70とブーツ80との接触面圧が高くなり、ギヤケース70とブーツ80とが密着する。よって、ギヤケース70とブーツ80との間のシール性を向上させることができる。
【0041】
ギヤケース70は、突出部76を有するため、ギヤケース70とブーツ80との間を通じてギヤケース70内に侵入しようとする異物の侵入経路が長くなる。よって、ギヤケース70とブーツ80との間のシール性を向上させることができる。
【0042】
突出部76は、壁部76aに向けて延びるテーパ部76bが壁部76aよりもギヤケース70の開口部側55に設けられるため、ブーツ80を開口部71側からギヤケース70に取り付ける際に、ブーツ80がテーパ部76bにより突出部76を容易に乗り越えることができるため、ギヤケース70へのブーツ80の取り付けが突出部76により阻害されない。また、取り付けられたブーツ56が壁部76aに係止されるため、ブーツ80がギヤケース70から脱落することが防止される。
【0043】
次に、本実施形態の変形例について説明する。
【0044】
<変形例1>
上記実施形態では、突出部として、同一形状の突出部76が被押圧部75の中央付近に軸方向に間隔を空けて二つ設けられる。しかし、例えば、
図4に示すように、突出部として、形状の異なる三つの突出部77,78,79が形成されてもよい。具体的には、電動パワーステアリング装置100は、突出部として、第一突出部としての突出部77と、開口部71の軸方向において被押圧部75の中央から突出部77よりも離れて設けられる第二突出部としての突出部78及び突出部79と、を有する構成であってもよい。突出部77は例えば被押圧部75の中央付近に設けられる。突出部78は突出部77よりも開口部71側に設けられ、突出部79は突出部77に対し突出部78と反対側に形成される。つまり、突出部78,79は、開口部71の軸方向において、突出部77よりも被押圧部75の端部側に設けられる。
【0045】
突出部77は、上記実施形態における突出部76と同様に、壁部77aと、テーパ部77bと、接続部77cと、を有する。突出部78は、被押圧部75から開口部71の軸方向に対して垂直に延びる壁部78aと、被押圧部75から壁部78aに向けて、開口部71から離れるように延びるテーパ部78bと、を有し、壁部78aとテーパ部78bが連続する。突出部79は、突出部78と同様に、壁部79aと、テーパ部79bと、を有する。突出部78及び突出部79は、開口部71の径方向への凹部74からの突出量が、突出部77よりも大きく形成される。具体的には、壁部78a及び79aは、開口部71の径方向における長さが壁部77aよりも長く形成される。よって、突出部77よりも被押圧部75の端部側に設けられる突出部78,79では、開口部71の径方向への突出量が大きいため、突出部77よりもブーツバンド90からの荷重が作用しやすくなる。そのため、被押圧部75の端部側でギヤケース70とブーツ80との接触面圧が高くなる。
【0046】
ここで、ブーツ80の取付部82の内周面は、ギヤケース70の凹部74の底面と当接する。そのため、凹部74の軸方向における中央側ではブーツ80が厚く、凹部74の軸方向における両端部側ではブーツ80が薄い。言い換えれば、被押圧部75の両端部側でブーツ80が薄くなりやすい。ブーツ80が薄い箇所では、ブーツ80が厚い箇所よりもギヤケース70とブーツ80との接触面圧が低くなるため、ギヤケース70とブーツ80との間のシール性が低下するおそれがある。しかしながら、本変形例では、ブーツ80が薄くなりやすい被押圧部75の端部側でギヤケース70とブーツ80との接触面圧が高くなるため、ギヤケース70とブーツ80との間のシール性を効率的に向上させることができる。
【0047】
なお、突出部78,79は、いずれか一方のみが形成されてもよい。また、突出部が四つ以上形成される場合は、いずれかの突出部と、開口部71の軸方向において被押圧部75の中央から当該突出部よりも離れて設けられる突出部と、の開口部71の径方向への突出量を比較し、後者の突出量の方が大きいことが望ましい。これらの構成であっても、上記と同様に、ギヤケース70とブーツ80との間のシール性を効率的に向上させることができる。
【0048】
<変形例2>
上記実施形態では、突出部として、同一形状の突出部76が二つ設けられる。しかし、突出部の数は、一つであっても、三つ以上の複数であってもよい。突出部の数が複数である場合は、軸方向に間隔を空けて設けられればよい。このように、突出部の数を調整することで、ギヤケース70とブーツ80とが密着する場所の数や、ギヤケース70とブーツ80との間を通じてギヤケース70内に侵入しようとする異物の侵入経路の長さを段階的に調整することができる。よって、ギヤケース70とブーツ80との間のシール性を段階的に調整することができる。
【0049】
なお、突出部の数が一つである場合は、突出部は、開口部71の軸方向において、被押圧部75よりも小さい寸法を有することが好ましい。突出部の寸法とは、例えば突出部76では、被押圧部75とテーパ部76bとの境界から被押圧部75と壁部76aとの境界までの間を指す。これにより、突出部でギヤケース70とブーツ80との接触面圧が確実に高くなり、ギヤケース70とブーツ80との間のシール性を確実に向上させることができる。しかしながら、突出部は、突出部76のように、被押圧部75から径方向に離れるにつれて開口部71の軸方向における長さが小さくなる構成であれば、開口部71の軸方向において、被押圧部75と同じ寸法を有してもよい。
【0050】
<変形例3>
上記実施形態では、突出部として、開口部71の軸方向に沿った断面が台形となる突出部76が設けられる。しかし、突出部の形状は上記に限らない。例えば、開口部71の軸方向に沿った突出部の断面が三角形状、四角形状、または半円状となるように形成されてもよい。また、突出部が複数である場合は、開口部71の軸方向に沿った断面が異なる形状の突出部が混在しても、開口部71の径方向への突出量が異なる突出部が混在してもよい。
【0051】
以上のように構成された本発明の実施形態の構成、作用、及び効果をまとめて説明する。
【0052】
ステアリング装置としての電動パワーステアリング装置100は、車輪1を転舵するためのラック軸30と、ラック軸30を収容しラック軸30が突出する開口部71を有するハウジングとしてのギヤケース70と、ギヤケース70の開口部71を覆うブーツ80と、ブーツ80をギヤケース70の外周面72に向けて押圧し固定する環状のバンド部としてのブーツバンド90と、を備え、ギヤケース70は、外周面72のうちブーツバンド90によって押圧される被押圧部75と、被押圧部75から開口部71の径方向に突出する環状の突出部76,77,78,79と、を有する。
【0053】
また、突出部76,77,78,79は、開口部71の軸方向において、被押圧部75よりも小さい寸法を有する。
【0054】
これらの構成では、ブーツ80はギヤケース70の突出部76,77,78,79に向けて押圧されるため、ブーツ80には、被押圧部75における他の部分よりも突出部76,77,78,79においてブーツバンド90からの荷重が作用しやすくなる。そのため、突出部76,77,78,79でギヤケース70とブーツ80との接触面圧が高くなる。これにより、ギヤケース70の突出部76,77,78,79とブーツ80とを密着させることができる。
【0055】
また、突出部76,77,78,79は、被押圧部75から軸方向に対して垂直に延びる壁部76a,77a,78a,79aと、被押圧部75から壁部76a,77a,78a,79aに向けて延びるテーパ部76b,77b,78b,79bと、を有し、テーパ部76b,77b,78b,79bは、壁部76a,77a,78a,79aよりもギヤケース70の開口部71側に設けられる。
【0056】
この構成では、壁部76a,77a,78a,79aに向けて延びるテーパ部76b,77b,78b,79bが壁部76a,77a,78a,79aよりもギヤケース70の開口部71側に設けられるため、ギヤケース70へのブーツ80の取り付けが突出部76,77,78,79により阻害されない。また、取り付けられたブーツ80が壁部76a,77a,78a,79aに係止されるため、ブーツ80がギヤケース70から脱落することが防止される。
【0057】
また、電動パワーステアリング装置100は、突出部として、第一突出部としての突出部77と、軸方向において被押圧部75の中央から突出部77よりも離れて設けられる第二突出部としての突出部78,79と、を有し、突出部78,79は、径方向への突出量が、突出部77よりも大きい。
【0058】
この構成では、被押圧部75の中央側の突出部77よりも被押圧部75の端部側に形成される突出部78,79の方が、突出部77よりも径方向への突出量が大きいため、被押圧部75の端部側でギヤケース70とブーツ80との接触面圧が高くなる。ここで、ブーツ80の肉厚は被押圧部75の端部側で薄くなりやすい。よって、ブーツ80が薄くなりやすい箇所でギヤケース70とブーツ80との接触面圧が高くなるため、ギヤケース70とブーツ80との間のシール性を効率的に向上させることができる。
【0059】
以上、本発明の実施形態について説明したが、上記実施形態は本発明の適用例の一部を示したに過ぎず、本発明の技術的範囲を上記実施形態の具体的構成に限定する趣旨ではない。
【符号の説明】
【0060】
1・・・車輪、30・・・ラック軸、70・・・ギヤケース(ハウジング)、71・・・開口部、72・・・外周面、75・・・被押圧部、80・・・ブーツ、90・・・ブーツバンド(バンド部)、76・・・突出部、77・・・突出部(第一突出部)、78・・・突出部(第二突出部)、79・・・突出部(第二突出部)、100・・・電動パワーステアリング装置(ステアリング装置)