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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022106216
(43)【公開日】2022-07-19
(54)【発明の名称】チタン酸バリウムナノ結晶
(51)【国際特許分類】
   C30B 29/32 20060101AFI20220711BHJP
   C01G 23/00 20060101ALI20220711BHJP
   C30B 7/14 20060101ALI20220711BHJP
   B82Y 30/00 20110101ALI20220711BHJP
【FI】
C30B29/32 C
C01G23/00 C
C30B7/14
B82Y30/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021001071
(22)【出願日】2021-01-06
(71)【出願人】
【識別番号】000174541
【氏名又は名称】堺化学工業株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000006231
【氏名又は名称】株式会社村田製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110002745
【氏名又は名称】弁理士法人河崎特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】江副 諒太
(72)【発明者】
【氏名】水谷 英人
(72)【発明者】
【氏名】村田 賢史
(72)【発明者】
【氏名】矢野 誠一
(72)【発明者】
【氏名】細倉 匡
【テーマコード(参考)】
4G047
4G077
【Fターム(参考)】
4G047CA07
4G047CB05
4G047CC02
4G047CD04
4G047CD07
4G077AA01
4G077AB09
4G077BC42
4G077CB02
4G077HA01
(57)【要約】
【課題】チタン酸バリウムナノ結晶の集合性を高める。
【解決手段】チタン酸バリウムナノ結晶の四角度が、0.8以上である。四角度は、上記の結晶の透過型電子顕微鏡による像により求められる上記の結晶の絶対最大長Lnm、対角幅Wnmおよび実面積Snmを用いて、(L×W)/(2×S)により得られる。上記の実面積Snmに相当する大きさの正方形の一辺の長さLsが、20nmを超え、100nm以下である。上記の長さLsの変動係数が、20%以下である。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
チタン酸バリウムナノ結晶の四角度が、0.8以上であり、
前記四角度は、前記結晶の透過型電子顕微鏡による像により求められる前記結晶の絶対最大長Lnm、対角幅Wnmおよび実面積Snmを用いて、(L×W)/(2×S)により得られ、
前記実面積Snmに相当する大きさの正方形の一辺の長さLsが、20nmを超え、100nm以下であり、
前記長さLsの変動係数が、20%以下である、チタン酸バリウムナノ結晶。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、チタン酸バリウムナノ結晶に関する。
【背景技術】
【0002】
チタン酸バリウムナノキューブは、六面体形状を有するナノ結晶である。チタン酸バリウムナノ結晶は、複数の結晶粒子が規則的に配列した集合体として用いることができ、集合体の密度を理論値にまで高めることが可能であると考えられている。特異な粒子形状によりもたらされる集合体の高い密度および局所的な界面の歪みにより、高い誘電特性が得られる。ナノ結晶の自己配列性およびそれに基づく集合体の高い誘電特性を利用して、高容量の強誘電体メモリ、超高性能の誘電エラストマー、高機能の光学フィルム等の革新的なデバイスを実現することが期待されている(例えば、非特許文献1)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】加藤一実、「単結晶ナノキューブを用いた高性能小型デバイス開発」、ALCA新技術説明会(2015年2月24日)、発表資料、第7頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
デバイスの高性能化および高機能化に伴い、チタン酸バリウムナノ結晶の集合体の誘電特性を高めるために、チタン酸バリウムナノ結晶の集合性を向上させることが求められているが、依然として不十分である。
【課題を解決するための手段】
【0005】
以上に鑑み、本発明の一側面は、チタン酸バリウムナノ結晶の四角度が、0.8以上であり、前記四角度は、前記結晶の透過型電子顕微鏡による像により求められる前記結晶の絶対最大長Lnm、対角幅Wnmおよび実面積Snmを用いて、(L×W)/(2×S)により得られ、前記実面積Snmに相当する大きさの正方形の一辺の長さLsが、20nmを超え、100nm以下であり、前記長さLsの変動係数が、20%以下である、チタン酸バリウムナノ結晶に関する。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、チタン酸バリウムナノ結晶の集合性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】チタン酸バリウムナノ結晶の一側面を模式的に示す図である。
図2】実施例2のBTナノ結晶の集合体のTEM画像である。
図3】実施例3のBTナノ結晶の集合体のTEM画像である。
図4】比較例1のBTナノ結晶の集合体のTEM画像である。
図5】比較例2のBTナノ結晶の集合体のTEM画像である。
図6】比較例3のBTナノ結晶の集合体のTEM画像である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
[チタン酸バリウムナノ結晶]
本発明の実施形態に係るチタン酸バリウムナノ結晶(以下、BTナノ結晶とも称する。)は、四角度が0.8以上である。四角度は、結晶の透過型電子顕微鏡による像により求められる結晶の絶対最大長Lnm、対角幅Wnmおよび実面積Snmを用いて、(L×W)/(2×S)により得られる。また、上記の実面積Snmに相当する大きさの正方形の一辺の長さLsは、20nmを超え、100nm以下である。長さLsの変動係数は、20%以下である。
【0009】
四角度、長さLsおよび長さLsの変動係数が上記範囲内である場合、BTナノ結晶は優れた集合性を有し、高密度の集合体を形成することができる。例えば、集合体の空隙率を20%以下に小さくすることができ、約16%以下に小さくすることも可能である。なお、BTナノ結晶が集合体を形成しているとは、BTナノ結晶の複数個が自己配列性に基づき規則的に配列していることを意味する。
【0010】
長さLsが20nm以下である場合、結晶の集合性が低下する。長さLsが20nm以下の場合、結晶サイズが小さくなり、集合体において結晶間の空隙が占める割合(空隙率)が大きくなる。上記空隙は、結晶の合成時に使用する有機カルボン酸等の添加物が結晶表面に被着している影響により形成され得る。なお、ここでいう空隙とは、集合体において結晶が占める領域以外の領域を意味し、結晶表面で有機カルボン酸が被着している部分は空隙とみなす。結晶サイズが小さいほど、結晶の単位質量あたりの有機カルボン酸の被着量が大きくなり、空隙率が増大する。なお、上記の有機カルボン酸は、BTナノ結晶の作製過程で使用される材料に由来する。
【0011】
長さLsが100nmを超える場合、BTナノ結晶について、分散媒中での分散性が低下(沈降性が増大)したり、自己配列性が低下したりする。また、デバイスの小型化の面でも不利である。
【0012】
四角度が0.8未満である場合、BTナノ結晶の角が丸みを帯びる度合いが大きくなり、結晶間の空隙が大きくなり、結晶の集合性が低下する。
長さLsの変動係数が20%を超える場合、結晶サイズのばらつきが大きくなり、結晶の集合性が低下する。
【0013】
上記の長さLsは、21nm以上、100nm以下であってもよく、22nm以上、55nm以下であってもよく、30nm以上、55nm以下であってもよい。上記の四角度は、0.85以上であってもよい。
【0014】
結晶の集合性の更なる向上の観点から、上記の長さLの変動係数は、15%未満であってもよく、14%以下であってもよく、12%以下であってもよい。
【0015】
例えば、後述の原料溶液の調製工程において、(有機カルボン酸/Baイオン)のモル比および(水酸化物イオン/Baイオン)のモル比を適宜調整することにより、四角度、長さLs、および長さLsの変動係数を上記の範囲に制御することが可能である。
【0016】
上記の四角度とは、BTナノ結晶の形状に関する指標であり、六面体構造のBTナノ結晶の側面における四角形の度合いを意味する。四角度は最大1であり、BTナノ結晶の角が丸みを帯びているほど四角度は小さくなる。四角度が1である場合、BTナノ結晶の角が丸みを帯びておらず、BTナノ結晶が、きれいな六面体であることを意味する。
【0017】
上記の長さLsは、BTナノ結晶のサイズに関する指標であり、六面体構造のBTナノ結晶の側面が正方形であると仮定した場合の当該正方形の一辺の長さに相当する。
【0018】
(BTナノ結晶の四角度、長さLs、および長さLsの変動係数の測定)
BTナノ結晶の四角度、長さLs、および長さLsの変動係数は、以下の方法により求められる。
【0019】
(i)BTナノ結晶の集合体の作製
BTナノ結晶0.1gを非極性の分散媒(例えば、トルエン)10mLに投入し、超音波洗浄機(エスエヌディ社製、US-106)を用いて超音波を1分間照射し、BTナノ結晶の分散液を得る。BTナノ結晶の分散液をTEMグリッドの支持膜上に滴下し、風乾し、BTナノ結晶の集合体(集積膜)を得る。
【0020】
(ii)透過型電子顕微鏡(TEM)による集合体の画像の撮影
TEM(日本電子社製、JEM-2100F)を用いて、集合体(集積膜)の画像を得る。TEM画像の倍率は、300~600個程度の結晶粒子を含む範囲で適宜調節する。
【0021】
(iii)画像処理
画像解析ソフト(三谷商事社製、WinROOF2015)を用いて、集合体のTEM画像の処理を行う。具体的には、TEM画像についてコントラストを適宜調整し、二値化処理を行い、結晶が占める領域と結晶が占める領域以外の領域とを区別する。コントラスト値は、例えば、20以上に設定する。二値化処理では、輝度ヒストグラムを元に、輝度範囲の指定による処理を行う。閾値の下限は0に設定し、閾値の上限については、0よりも大きく、かつ、ヒストグラムのピークトップ以下の範囲内で適宜設定すればよい。
【0022】
(iv)BTナノ結晶の四角度(算術平均)の測定
上記(iii)の処理後のTEM画像を用いて、「形状特徴」機能から四角度の算出に必要な、「実面積S」、「絶対最大長L」、および「対角幅W」を抽出する。ここで、実面積S(nm)は、図1に示すBTナノ結晶の一つの側面1の面積である。絶対最大長L(nm)は、側面1の輪郭線上の任意の2点間の距離の最大値である。図1中、絶対最大長Lは2点A1,A2間の距離である。絶対最大長Lの長さ方向と平行であり、かつ、側面1を挟む2つの線分P1,P2間の距離が、対角幅W(nm)である。対角幅Wの方向は、絶対最大長Lの方向と垂直である。図1に示すBTナノ結晶の一つの側面1に対して、仮定四角形2(一点鎖線の四角形)を描く。仮定四角形2は、上記の2点A1,A2と、上記の2つの線分P1,P2が側面1と接する2点B1,B2とを、図1に示すように結ぶ4つの線分を描くことで得られる。仮定四角形2の角は、側面1の角の丸みを帯びている部分に内側より接している。絶対最大長Lおよび対角幅Wを用い、(L×W)/2を仮定(仮定四角形2)の面積S(nm)として求める。L=Wの場合、仮定四角形2は正方形である。
【0023】
実際の面積Sと仮定の面積Sとを用いて、下記式より四角度を求める。
四角度=S/S=(L×W)/(2×S
300個~600個程度のBTナノ結晶に対して、上記の方法により四角度をそれぞれ求め、これらの算術平均を求める。
【0024】
(v)BTナノ結晶の長さLs(算術平均)およびその変動係数の測定
BTナノ結晶の長さLs(算術平均)およびその変動係数は、以下の方法により求められる。上記の四角度を求める過程で得られる300個~600個程度のBTナノ結晶の実面積S(nm)の平方根:(S1/2を算出し、長さLs(nm)とする。各BTナノ結晶に対して、それぞれ長さLsを求め、これらの算術平均および変動係数を求める。なお、変動係数は、相対標準偏差であり、標準偏差を算術平均で除した値である。
【0025】
(集合体の空隙率の測定)
BTナノ結晶の集合体の空隙率は、以下の方法により求められる。
四角度を求める場合と同様の方法によりBTナノ結晶の集合体のTEM画像を得、BTナノ結晶の100~300個程度が規則的に配列している集合領域を任意に選択し、四角度を求める場合と同様の方法によりTEM画像に対して上記(iii)の画像処理を行う。画像処理後、上記集合領域の輪郭で囲まれる面積Saおよび上記集合領域内で空隙が占める面積Svを求め、(Sv/Sa)×100を空隙率(%)として求める。なお、集合領域内でBTナノ結晶が占める領域以外の領域は全て空隙と見なす。Svは、Saから集合領域内でBTナノ結晶が占める領域の面積の総和を差し引くことにより求めることができる。
【0026】
[チタン酸バリウムナノ結晶の製造方法]
本発明の一実施形態に係るチタン酸バリウムナノ結晶の製造方法は、原料溶液を得る調製工程と、原料溶液を加熱し、チタン酸バリウムナノ結晶を得る加熱工程と、を含む。原料溶液は、水溶性バリウム塩と、水溶性チタン錯体と、アルカリ成分と、有機カルボン酸と、水と、を含む。原料溶液において、バリウムイオンに対する有機カルボン酸のモル比は、0.5以上、2以下であり、かつ、バリウムイオンに対する水酸化物イオンのモル比は、1以上、2以下である。
【0027】
バリウムイオンに対する有機カルボン酸のモル比は、Baイオンのモル量に対する有機カルボン酸のモル量の比であり、以下、(有機カルボン酸/Baイオン)のモル比とも称する。バリウムイオンに対する水酸化物イオンのモル比は、Baイオンのモル量に対する水酸化物イオンのモル量の比であり、以下、(水酸化物イオン/Baイオン)のモル比とも称する。なお、上記のBaイオンのモル量とは、原料溶液において、水溶性バリウム塩由来のBaの全てがイオンとして存在するときのBaイオンのモル量を指す。
【0028】
上記の有機カルボン酸のモル量とは、原料溶液に投入される有機カルボン酸のモル量を指し、有機カルボン酸は電離していてもよく、電離していなくてもよい。ただし、有機カルボン酸の1分子中にカルボキシ基が2つ以上含まれる場合(有機カルボン酸が、例えば、ジカルボン酸またはカルボン酸無水物(原料溶液中ではその加水分解物)である場合)、有機カルボン酸のモル量は、有機カルボン酸に含まれるカルボキシ基のモル量に換算する。
【0029】
上記の水酸化物イオンのモル量とは、原料溶液中に存在している水酸化物イオンのモル量を指す。原料溶液中に存在している水酸化物イオンとは、原料に含まれるアルカリ成分および酸成分の中和反応後の原料溶液において残存している水酸化物イオンを指す。水酸化物イオンのモル量は、原料の仕込み量から算出することができる。
【0030】
(有機カルボン酸/Baイオン)および(水酸化物イオン/Baイオン)のモル比が上記範囲内である場合、集合性に優れるBTナノ結晶を効率的に得ることができ、高密度の集合体を形成することができる。
【0031】
(水酸化物イオン/Baイオン)のモル比が上記範囲内である場合、シードの生成量(結晶の粒の数)が減少し、それに伴い結晶成長が促進され、結晶サイズ(粒子径)が指数関数的に大きくなる。一方、結晶サイズのばらつきが大きくなったり、結晶の回収率が急激に低下したりすることがある。上記の現象については、従来知られておらず、本発明者らが新たに見出した。上記の知見に基づいて、本発明者らが鋭意検討をさらに進めた。その結果、(水酸化物イオン/Baイオン)のモル比が上記の範囲内であり、かつ、(有機カルボン酸/Baイオン)のモル比が上記範囲内である場合、シードの生成と結晶成長とが任意に制御され、結晶サイズのばらつきを低減しつつ(長さLsの変動係数を20%以下に抑えつつ)、長さLsが20nmを超える結晶が安定的に得られることを新たに見出した。本発明は、上記の新たな知見に基づくものである。
【0032】
(有機カルボン酸/Baイオン)のモル比が0.5未満である場合、BTナノ結晶の四角度が低くなり、規則的に配列しにくくなる。(有機カルボン酸/Baイオン)のモル比が2超である場合、原料溶液の粘度が上昇し、得られるBTナノ結晶の形状が不均一化する。
【0033】
(水酸化物イオン/Baイオン)のモル比が小さいほど、結晶サイズ(長さLs)が大きくなる傾向がある。(水酸化物イオン/Baイオン)のモル比が2超である場合、長さLsが20nm以下となることがある。また、長さLsの変動係数が20%を超えることがあり、四角度が0.8未満となることもある。
【0034】
(水酸化物イオン/Baイオン)のモル比が1未満である場合、反応率が低下し、BTナノ結晶が十分に得られず、集合体が十分に形成されないことがある。また、長さLsが100nmを超えることがある。
【0035】
BTナノ結晶の集合性の更なる向上の観点から、(水酸化物イオン/Baイオン)のモル比は、1以上、1.75未満が好ましく、1.1以上、1.72以下がより好ましい。この場合、結晶成長が促進されつつ、結晶形状のばらつきが低減され、高密度の集合体を形成し得る高品質のBTナノ結晶が得られ易い。(水酸化物イオン/Baイオン)のモル比は1.4以上、1.72以下であることが更に好ましい。(水酸化物イオン/Baイオン)のモル比が上記範囲内である場合、BTナノ結晶の集合性を高めつつ、集合体を形成するのに十分な量のBTナノ結晶を効率的に得ることが可能である。(水酸化物イオン/Baイオン)のモル比は1.64以上、1.72以下であることが特に好ましい。(水酸化物イオン/Baイオン)のモル比が上記範囲内である場合、BTナノ結晶の四角度をより大きくして、集合性を高めることが可能である。
【0036】
原料溶液中の水酸化物イオンの濃度は、例えば、0.3mol/L以上、0.8mol/L以下であってもよく、0.3mol/L以上、0.6mol/L以下であってもよく、0.4mol/L以上、0.6mol/L以下であってもよい。なお、原料溶液中の水酸化物イオンの濃度は、原料溶液中に存在している水酸物イオンのモル量を、原料溶液の調製に用いられる各原料(水を含む)に含まれる水の総量(リットル)で除して求められる値を指す。
【0037】
[原料溶液の調製工程]
本工程では、バリウムイオン(Ba2+)およびチタンイオン(Ti4+)を含む原料溶液を得る。原料溶液の調製において、バリウム源である水溶性バリウム塩と、チタン源である水溶性チタン錯体とは、例えば、チタンに対するバリウムのモル比:Ba/Tiが0.95以上、1.5以下(好ましくは0.97以上、1.2以下)の範囲内となるように加えればよい。調製工程では、水溶性バリウム塩と水溶性チタン錯体と水とを加えて、バリウムイオンおよびチタンイオンを含む水溶液を得た後、当該水溶液に有機カルボン酸とアルカリ成分とを添加してもよい。水溶性バリウム塩および水溶性チタン錯体は、それぞれバリウム塩の水溶液および水溶性チタン錯体の水溶液として用いてもよい。
【0038】
水溶性バリウム塩は、上記の調製工程で水に溶解するものであってもよく、上記の調製工程では水に溶解しにくいが、上記の加熱工程での加熱により溶解するもの(例えば、オレイン酸バリウム等の高級脂肪酸のバリウム塩)であってもよい。水溶性バリウム塩としては、塩化バリウム、水酸化バリウム、脂肪酸のバリウム塩、硝酸バリウム等が挙げられる。中でも、水溶性バリウム塩は、水酸化バリウムが好ましい。水酸化バリウムはチタン酸バリウムおよび水の構成元素以外の他の元素を含まない。よって、バリウム源に水酸化バリウムを用いる場合、BTナノ結晶の合成において他の元素に由来する不純物の混入が抑制され、優れた集合性を有するBTナノ結晶が安定して得られ易い。水溶性バリウム塩は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0039】
原料溶液中のBaイオンの濃度は、0.2mol/L以上、2mol/L以下であってもよく、0.2mol/L以上、1mol/L以下であってもよい。この場合、高品質のチタン酸バリウムナノ結晶を効率的に得易い。なお、原料溶液中のBaイオンの濃度は、原料溶液において水溶性バリウム塩由来のBaの全てがイオンとして存在するときのBaイオンのモル量を、原料溶液の調製に用いられる各原料(水を含む)に含まれる水の総量(リットル)で除して求められる値を指す。
【0040】
(水溶性チタン錯体)
水溶性チタン錯体の配位子は、ヒドロキシ酸(塩)を含むことが好ましい。ヒドロキシ酸は、例えば、グリコール酸、クエン酸、リンゴ酸、酒石酸、乳酸等を含む。上記塩は、例えば、アンモニウム塩である。入手が容易である等の観点から、中でも、水溶性チタン錯体は、配位子として乳酸のアンモニウム塩を含むチタン錯体が好ましく、チタニウムビス(アンモニウムラクテート)ジヒドロキシド(TALH)がより好ましい。水溶性チタン錯体は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0041】
(有機カルボン酸)
有機カルボン酸は、結晶形状を制御する役割を有する。有機カルボン酸は、チタン酸バリウムの結晶の(100)面に配位する。これにより、上記結晶において、(100)面の結晶成長が抑制されるとともに、(111)面の結晶成長が促進され、結晶形状を六面体に制御し易い。
【0042】
有機カルボン酸は、主鎖の炭素数が6以上の脂肪酸を含むことが好ましい。脂肪酸の主鎖の炭素数は、10以上であることが好ましく、15以上であることがより好ましい。脂肪酸は、飽和脂肪酸でも、不飽和脂肪酸でもよい。主鎖の炭素数が15以上の飽和脂肪酸は、例えば、パルミチン酸、およびステアリン酸等を含む。主鎖の炭素数が15以上の不飽和脂肪酸は、例えば、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、エレオステアリン酸、およびアラキドン酸等を含む。六面体のナノ結晶を得易い観点から、中でも、オレイン酸が好ましい。有機カルボン酸は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0043】
原料溶液において、(有機カルボン酸/Baイオン)のモル比は、0.7以上、1.65以下であってもよく、0.7以上、1.5以下であってもよい。この場合、チタン酸バリウムの結晶の(100)面と(111)面とがバランス良く成長し易く、結晶形状を六面体に制御し易く、これにより結晶形状のばらつきも低減でき、集合体の空隙率の低減に有利である。
【0044】
原料溶液中の有機カルボン酸(例えば、オレイン酸)の濃度は、例えば、0.15mol/L以上、0.5mol/L以下であってもよい。なお、原料溶液中の有機カルボン酸の濃度は、原料溶液に投入される有機カルボン酸のモル量を、原料溶液の調製に用いられる各原料(水を含む)に含まれる水の総量(リットル)で除して求められる値を指す。
【0045】
(アルカリ成分)
原料溶液にアルカリ成分を含ませることにより、結晶成長を促進させたり、結晶形状のばらつきを小さくしたりすることができる。コスト低減および環境負荷の軽減等の観点から、アルカリ成分は、アルカリ金属の水酸化物を含むことが好ましい。アルカリ金属の水酸化物は、例えば、水酸化ナトリウムおよび水酸化カリウム等を含む。中でも、アルカリ金属の水酸化物は、水酸化ナトリウムが好ましい。
【0046】
原料溶液中の水酸化ナトリウムの濃度は、他の各原料の投入量に応じて適宜調整すればよく、例えば、0.5mol/L以上、1.5mol/L以下である。なお、原料溶液中の水酸化ナトリウムの濃度は、原料溶液に投入される水酸化ナトリウムのモル量を、原料溶液の調製に用いられる各原料(水を含む)に含まれる水の総量(リットル)で除して求められる値を指す。
【0047】
アルカリ成分は、結晶形状のばらつきを小さくする目的でアミン化合物を含んでもよい。アミン化合物は、例えば、tert-ブチルアミン等の1級アミン化合物、ジメチルアミン等の2級アミン化合物、トリメチルアミン等の3級アミン化合物を含む。アミン化合物は、生態毒性が強く、高価である等の観点から、アルカリ成分はアミン化合物を含まないことが好ましい。アミン化合物を用いずに、アルカリ金属の水酸化物を用いて水酸化物イオンの濃度を調整することにより、結晶形状のばらつきを小さくすることができる。
【0048】
[原料溶液の加熱工程]
本工程では、原料溶液を加熱し、チタン酸バリウムを合成する。すなわち、BTナノ結晶を得る。水熱反応を利用してチタン酸バリウムを得ることができ、原料溶液を撹拌しながら加熱すればよい。高品質のBTナノ結晶を効率的に得易い観点から、加熱温度は、150℃以上、250℃以下であることが好ましい。加熱温度が150℃以上の場合、チタン酸バリウムの合成反応が円滑に進み易い。加熱温度が250℃以下の場合、有機カルボン酸の分解が抑制され、有機カルボン酸による結晶の形状制御の効果がより確実に得られる。反応を十分に進行させ、生産性を高める観点から、加熱時間は、例えば1時間以上、80時間以下であり、12時間以上、48時間以下であってもよい。
【0049】
[BTナノ結晶の洗浄工程]
更に、加熱工程の後、BTナノ結晶をアルコールに分散させて洗浄する洗浄工程を行ってもよい。アルコールとしては、例えば、エタノール、メタノール、2-プロパノール等が用いられる。洗浄工程では、加熱工程で得られたBTナノ結晶と、水(水に溶解している有機カルボン酸等の残留成分を含む。)とを分離する。
【0050】
洗浄工程は、例えば、加熱工程後の反応液(BTナノ結晶を含む水)にアルコールを加えた後、遠心分離により沈殿物を得る工程(a)と、沈殿物をアルコールに分散させた後、遠心分離により沈殿物を得る工程(b)とを含む。工程(b)は、複数回繰り返し行ってもよい。工程(a)では、遠心分離の前に、反応液とアルコールとを十分に混合させておくことが好ましい。
【0051】
[BTナノ結晶の分級工程]
更に、加熱工程の後、BTナノ結晶を非極性の分散媒に分散させ、遠心分離により分級する分級工程を行ってもよい。分級工程は、洗浄工程の後に行うことが好ましい。分散方法としては、例えば、超音波処理や撹拌翼による撹拌等が挙げられる。非極性の分散媒は、低極性の有機分散媒を含む。上記の分散媒としては、非極性(低極性)の芳香族炭化水素系分散媒(例えば、トルエン、ベンゼン)や脂肪族炭化水素系分散媒(例えば、ヘキサン)を用いることができる。
【0052】
[実施例]
以下、本発明の実施例について具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されない。
【0053】
《実施例1》
(原料溶液の調製工程)
容量300mLのポリテトラフルオロエチレン製ビーカーに、チタン源であるチタニウムビス(アンモニウムラクテート)ジヒドロキシド(以下、TALH)水溶液10.1gと、イオン交換水56.1gと、バリウム源である水酸化バリウム八水和物5.6gとを投入し、3分間撹拌した。このようにして、チタン源であるTALHおよびバリウム源である水酸化バリウムを含む水溶液を得た。TALH水溶液には、Sigma-Aldrich社製の製品番号388165(濃度50wt%)を用いた。水酸化バリウム八水和物には、富士フィルム和光純薬社製の製品コード020-00242(試薬特級)を用いた。
【0054】
チタン源およびバリウム源を含む水溶液を撹拌しながら、当該水溶液に、7.5M水酸化ナトリウム水溶液6.5mLと、オレイン酸4.8gとを、この順に加え、5分間撹拌した。水酸化ナトリウムには、富士フイルム和光純薬社製の製品コード198-13765(試薬特級)を用いた。オレイン酸には、ミヨシ油脂社製の製品名PM500を用いた。このようにして、原料溶液を調製した。
【0055】
原料溶液中のBaイオンおよびTiイオンの濃度は、それぞれ0.25mol/Lであった。なお、原料溶液中のTiイオンの濃度は、原料溶液において水溶性チタン錯体(TALH)由来のTiの全てがイオンとして存在するときTiイオンのモル量を、原料溶液の調製に用いられる各原料(水を含む)に含まれる水の総量(リットル)で除して求められる値を指す。原料溶液中の水酸化ナトリウムの濃度は、0.73mol/Lであった。原料溶液中のオレイン酸の濃度は、0.20mol/Lであった。原料溶液中の水酸化物イオンの濃度は、0.47mol/Lであった。原料溶液において、(オレイン酸/Baイオン)のモル比は、0.8であった。原料溶液において、(水酸化物イオン/Baイオン)のモル比は、1.88であった。
【0056】
(原料溶液の加熱工程)
上記で調製した原料溶液を、容量100mLのPTFE製容器(三愛科学社製、HUT-100)に移し、ホットスターラー反応分解装置(三愛科学社製、アルミブロック:RDV-TMS-100およびホットスターラー:HHE-19G-U)内に密閉して、撹拌しながら加熱した。撹拌は回転数536rpmで行い、加熱温度は230℃とし、加熱時間は24時間とした。このようにして、水中でチタン酸バリウムを合成した。すなわち、BTナノ結晶を得た。
【0057】
(BTナノ結晶の洗浄工程)
加熱工程で得られたBTナノ結晶をエタノールに分散させて洗浄した。
具体的には、水熱反応後の反応液(BTナノ結晶を含む水)にエタノールを20mL加え、これを遠沈管に移し、遠沈管を50℃~70℃で温度制御された温浴中で5分間静置することで加熱した後、遠沈管を振ることで撹拌し、反応液をエタノールに分散させた。遠沈管をテーブルトップラボ遠心機(Sigma社製、3-16L)にセットし、遠心加速度2500Gで遠心分離を10秒間行い、上澄み液を全量除去し、沈殿物を得た(工程(a))。
【0058】
次に、遠沈管内の沈殿物にエタノールを40mL加えた後、上記と同様に加熱および撹拌を行い、沈殿物をエタノールに分散させた。その後、上記と同様に遠心分離を行い、上澄み液を全量除去し、沈殿物を得た(工程(b))。工程(b)を2回行った。沈殿物を磁性皿へ移し、90℃の恒温槽中で6時間乾燥させた。このようにして、BTナノ結晶を得た。
【0059】
上記で得られたBTナノ結晶について、以下の評価を行った。
[評価1:四角度(算術平均)、長さLs(算術平均)および長さLsの変動係数の測定]
既述の方法(上記(i)~(v)の手順)により、BTナノ結晶の四角度(算術平均)、長さLs(算術平均)、および長さLsの変動係数を求めた。
【0060】
上記(iii)の画像処理については、画像解析ソフト(三谷商事社製、WinROOF2015)を用いて、集合体のTEM画像について、以下の手順で処理を行った。
まず、スケールのキャリブレーションを行った。具体的には、「マニュアルキャリブレーション」機能を用い、TEM画像の分析条件欄に記載されているスケールバーの長さを図り、実寸値と対応させた。次に、長方形ROIにより、TEM画像の下方に表示される分析条件欄を除く全ての領域を選択し、選択領域の切り抜きを行い、結晶粒子(集合体)に関する画像領域を抽出した。次に、TEM画像のコントラストを強調するため、「明るさ・コントラスト」機能を用い、コントラスト値を60とした。次に、輝度を平均化するため、メディアン処理を行った。メディアン処理は「フィルタ」機能を用い、フィルタサイズを9×9ピクセルとした。次に、集合体のTEM画像における結晶粒子と背景との境界を強調するため、鮮鋭化処理を行った。鮮鋭化処理は「エッジ」機能を用い、フィルタサイズを7×7ピクセルとした。さらに、上記処理後の画像について、輝度ヒストグラムを元に、輝度範囲の指定による二値化処理を行った。閾値の下限は0に設定し、閾値の上限はヒストグラムのピークトップに設定した。閾値設定後、二値化処理が不十分な個所については、ペンツールを使用して若干の修正を行った。
【0061】
[評価2:空隙率の測定]
既述の方法により、BTナノ結晶の集合体の空隙率を求めた。
【0062】
[評価3:BT化反応率の測定]
上記で得られたBTナノ結晶5gをアルミナ製の坩堝に移し、130℃の恒温槽中で30分間加熱し、完全に乾燥させ、乾燥後の固形分の質量W1(g)を測定した。次いで、乾燥後の固形分を800℃で2時間焼成し、焼成後の固形分の質量W2(g)を測定した。そして、質量W1に対する質量W2の比率(百分率)、すなわち、(W2/W1)×100をBT化反応率(%)として求めた。
【0063】
バリウム源は原料溶液中でオレイン酸バリウムとなり、加熱工程で分解しチタン源と反応する。未反応のバリウム源はオレイン酸バリウムとして残留し、上記の焼成時に未反応の残留成分(オレイン酸バリウム)に由来するオレイン酸が分解し、揮発する。未反応の残留成分が少ない場合、揮発量が少なく、高いBT化反応率が得られる。
【0064】
《実施例2~5》
原料溶液の調製工程において、水酸化ナトリウムおよびオレイン酸の投入量を変えて、原料溶液中の水酸化ナトリウムおよびオレイン酸の濃度を、それぞれ表1に示す値とした。原料溶液中の水酸化物イオンの濃度、(オレイン酸/Baイオン)および(水酸化物イオン/Baイオン)のモル比は、表1に示す値であった。上記以外、実施例1と同様の方法によりBTナノ結晶を作製し、評価した。
【0065】
《実施例6》
原料溶液の調製工程において、バリウム源およびチタン源の投入量を変えて、原料溶液中のバリウム濃度およびチタン濃度を、それぞれ表1に示す値とした。また、水酸化ナトリウムおよびオレイン酸の投入量を変えて、原料溶液中の水酸化ナトリウムおよびオレイン酸の濃度を、それぞれ表1に示す値とした。原料溶液中の水酸化物イオンの濃度、(オレイン酸/Baイオン)および(水酸化物イオン/Baイオン)のモル比は、表1に示す値であった。上記以外、実施例1と同様の方法によりBTナノ結晶を作製し、評価した。
【0066】
【表1】
【0067】
《比較例1、3、6》
原料溶液の調製工程において、バリウム源に塩化バリウムを用いた。水酸化ナトリウムおよびオレイン酸の投入量を変えて、原料溶液中の水酸化ナトリウムおよびオレイン酸の濃度を、それぞれ表1に示す値とした。
【0068】
チタン源およびバリウム源を含む水溶液に、更に、アミン化合物としてtert-ブチルアミンを加えた。このとき、原料溶液中のtert-ブチルアミンの濃度が0.48mol/Lとなるようにtert-ブチルアミンの添加量を調節した。なお、原料溶液中のアミン化合物の濃度は、原料溶液に投入されるアミン化合物のモル量を、原料溶液に用いられる各原料(水を含む)に含まれる水の総量(リットル)で除して求められる。
【0069】
原料溶液中の水酸化物イオンの濃度、(オレイン酸/Baイオン)および(水酸化物イオン/Baイオン)のモル比は、表1に示す値であった。
上記以外、実施例1と同様の方法によりBTナノ結晶を作製し、評価した。
【0070】
《比較例2、5》
原料溶液の調製工程において、水酸化ナトリウムおよびオレイン酸の投入量を変えて、原料溶液中の水酸化ナトリウムおよびオレイン酸の濃度を、それぞれ表1に示す値とした。原料溶液中の水酸化物イオンの濃度、(オレイン酸/Baイオン)および(水酸化物イオン/Baイオン)のモル比は、表1に示す値であった。上記以外、実施例1と同様の方法によりBTナノ結晶を作製し、評価した。
【0071】
《比較例4》
原料溶液の調製工程において、バリウム源に塩化バリウムを用いた。バリウム源およびチタン源の投入量を変えて、原料溶液中のバリウム濃度およびチタン濃度を、それぞれ表1に示す値とした。水酸化ナトリウムおよびオレイン酸の投入量を変えて、原料溶液中の水酸化ナトリウムおよびオレイン酸の濃度を、それぞれ表1に示す値とした。
【0072】
チタン源およびバリウム源を含む水溶液に、更に、アミン化合物としてtert-ブチルアミンを加えた。このとき、原料溶液中のtert-ブチルアミンの濃度が0.48mol/Lとなるようにtert-ブチルアミンの添加量を調節した。なお、原料溶液中のアミン化合物の濃度は、原料溶液に投入されるアミン化合物のモル量を、原料溶液に用いられる各原料(水を含む)に含まれる水の総量(リットル)で除して求められる。
【0073】
原料溶液中の水酸化物イオンの濃度、(オレイン酸/Baイオン)および(水酸化物イオン/Baイオン)のモル比は、表1に示す値であった。
上記以外、実施例1と同様の方法によりBTナノ結晶を作製し、評価した。
【0074】
実施例1~6および比較例1~6のBTナノ結晶の評価結果を表2に示す。
【0075】
【表2】
【0076】
実施例1~6では、BTナノ結晶の集合性が向上し、いずれも空隙率が20%以下に低減された。中でも、(水酸化物イオン/Baイオン)のモル比が1.1以上、1.72以下である実施例2~6では、より低い空隙率が得られた。実施例1~6の高密度の集合体は、強誘電体メモリや誘電エラストマーに用いる場合、優れた誘電特性を発現し得る。一例として、実施例2~3のBTナノ結晶の集合体のTEM画像を図2~3に示す。
【0077】
比較例1~3では、(水酸化物イオン/Baイオン)のモル比が2よりも大きいため、空隙率が24%以上に増大した。比較例1では、長さLsの変動係数は20%以下であるが、長さLsが20nm未満であり、結晶間の空隙が多くなったため、結晶の集合性が低下した。比較例2では、長さLsの変動係数が20%よりも大きく、結晶サイズのばらつきが増大したため、比較例1よりも結晶の集合性が低下した。比較例3では、四角度が0.8未満であり、六面体状の結晶の角が丸みを帯びる度合いが大きくなったため、結晶間の空隙が増大し、比較例1よりも結晶の集合性が低下した。比較例1~3のBTナノ結晶の集合体のTEM画像を図4~6に示す。
【0078】
(水酸化物イオン/Baイオン)のモル比が1未満である比較例4および(オレイン酸/Baイオン)のモル比が2を超える比較例6では、BT化反応率が低く、結晶が十分に得られなかったため、集合体を形成できなかった。比較例5では、(オレイン酸/Baイオン)のモル比が0.5未満であるため、オレイン酸による形態制御能が発揮されず、結晶の四角度が低く、規則的に配列せず、集合体を形成できなかった。
【産業上の利用可能性】
【0079】
本発明に係るチタン酸バリウムナノ結晶は、積層コンデンサ等の電子デバイスに有用である。
【符号の説明】
【0080】
1:BTナノ結晶の一側面、2:仮定四角形、L:絶対最大長、W:対角幅、A1,A2:結晶側面の輪郭線上の距離が最大となる2点、P1,P2:絶対最大長Lの長さ方向と平行であり、結晶側面を挟む2つの線分、B1,B2:線分P1,P2が結晶側面と接する点
図1
図2
図3
図4
図5
図6