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特開2022-106282リチウムイオン二次電池に使用する無機スカベンジング添加剤
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022106282
(43)【公開日】2022-07-19
(54)【発明の名称】リチウムイオン二次電池に使用する無機スカベンジング添加剤
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/62 20060101AFI20220711BHJP
   H01M 4/131 20100101ALI20220711BHJP
   H01M 4/133 20100101ALI20220711BHJP
   H01M 4/136 20100101ALI20220711BHJP
   H01M 4/134 20100101ALI20220711BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20220711BHJP
   H01M 4/58 20100101ALI20220711BHJP
   H01M 4/587 20100101ALI20220711BHJP
   H01M 4/485 20100101ALI20220711BHJP
   H01M 4/505 20100101ALI20220711BHJP
   H01M 4/525 20100101ALI20220711BHJP
   H01M 10/0566 20100101ALI20220711BHJP
   H01M 50/414 20210101ALI20220711BHJP
【FI】
H01M4/62 Z
H01M4/131
H01M4/133
H01M4/136
H01M4/134
H01M10/052
H01M4/58
H01M4/587
H01M4/485
H01M4/505
H01M4/525
H01M10/0566
H01M50/414
【審査請求】未請求
【請求項の数】18
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2021200883
(22)【出願日】2021-12-10
(31)【優先権主張番号】63/134,214
(32)【優先日】2021-01-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】513089291
【氏名又は名称】パシフィック インダストリアル デベロップメント コーポレイション
(74)【代理人】
【識別番号】110000176
【氏名又は名称】一色国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】シャン ガオ
(72)【発明者】
【氏名】ユンクイ リー
(72)【発明者】
【氏名】デイヴィッド シェパード
(72)【発明者】
【氏名】アシュウィン サンカラン
【テーマコード(参考)】
5H021
5H029
5H050
【Fターム(参考)】
5H021EE04
5H029AJ03
5H029AJ05
5H029AK01
5H029AK03
5H029AL03
5H029AL07
5H029AL11
5H029AL12
5H029AM03
5H029AM05
5H029AM07
5H029DJ04
5H029DJ08
5H029EJ05
5H029HJ01
5H029HJ05
5H029HJ07
5H050AA07
5H050AA08
5H050BA17
5H050CA01
5H050CA08
5H050CA09
5H050CB03
5H050CB08
5H050CB11
5H050CB12
5H050DA09
5H050EA10
5H050EA12
5H050EA24
5H050HA01
5H050HA05
5H050HA07
5H050HA12
(57)【要約】      (修正有)
【課題】リチウムイオン二次電池の充電容量や寿命を延ばす、電気化学セルを提供する。
【解決手段】カソードとして作用する活物質と集電体とを有する正極と、アノードとして作用する活物質と集電体とを有する負極と、非水電解液と、電極間に配置されたセパレータと、を含むセルである。カソードとアノードの少なくとも一方には、セル内に存在することになる水分、遊離遷移金属イオン、フッ化水素のうちの1つ以上を吸収する、Si:Al比が2~50のゼオライトの形での無機添加剤が含まれている。また、筐体の中で複数のセルを組み合わせて、リチウムイオン二次電池を構成してもよい。無機添加剤は、正極、負極またはそれらの組み合わせの一部として組み込まれていてもよい。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウムイオン二次電池などの電気化学セルに使用されるセルであって、
前記セルのカソードとしての活物質と、前記カソードに接している集電体と、を含む正極と、
前記セルのアノードとしての活物質と、前記アノードに接している集電体と、を含む負極と、
前記負極と前記正極との間に配置され、前記負極および前記正極の両方に接している非水電解液と、
前記電解液の一部および前記アノードを、前記電解液の残りの部分および前記カソードから分離するように、前記正極と前記負極との間に配置されたセパレータと、
を備え、
前記セルが充電している時には前記カソードから前記アノードにリチウムイオンが流れ、
前記セルが放電している時には前記アノードから前記カソードにリチウムイオンが流れ、
前記非水電解液は、前記正極と前記負極との間のリチウムイオンの可逆的な流れを助け、
前記セパレータは当該セパレータを通るリチウムイオンの前記可逆的な流れに対して透過性があり、
前記正極、前記負極またはそれらの組み合わせのうちの少なくとも一部の中に無機添加剤が分散され、前記無機添加剤は、前記セル内に存在することになる水分、遊離遷移金属イオンまたはフッ化水素(HF)のうちの1つ以上を吸収する、ケイ素(Si)/アルミニウム(Al)比が約2~約50の範囲にあるゼオライトである、セル。
【請求項2】
前記無機添加剤が、以下の属性すなわち、
(i)CHA、CHI、FAU、LTAおよびLAUのうちの1つ以上を含むゼオライト骨格、
(ii)板状、立方体、球状またはそれらの組み合わせであるモルフォロジーを有する粒子、
(iii)粒度(D50)が約0.01マイクロメートル(μm)~約2マイクロメートル(μm)の範囲の粒子、
(iv)約10m/g~約1000m/gの範囲の表面積、
(v)0.1~2.0cc/gの細孔容積範囲のうち少なくとも1つを示す、請求項1に記載のセル。
【請求項3】
前記無機添加剤は、前記無機添加剤の総重量に対して10重量%未満の濃度でナトリウム(Na)を含む、請求項1または2に記載のセル。
【請求項4】
前記無機添加剤は、リチウムイオンの濃度が前記無機添加剤の総重量に対して約0.1重量%~約20重量%であるようなリチウムイオン交換ゼオライトである、請求項1~3のいずれか1項に記載のセル。
【請求項5】
前記無機添加剤は、イオン交換メカニズムによって遷移金属カチオンおよびフッ化水素酸を捕捉する、請求項1~4のいずれか1項に記載のセル。
【請求項6】
前記正極は、リチウム遷移金属酸化物またはリチウム遷移金属リン酸塩を含み、
前記負極は、グラファイト、酸化チタンリチウム、金属ケイ素または金属リチウムを含み、
前記セパレータはポリマー膜であり、
前記非水電解液は、リチウム塩を有機溶媒に分散させた溶液である、請求項1~5のいずれか1項に記載のセル。
【請求項7】
1つ以上の二次セルと、
1つ以上の筐体と、を備え、前記1つ以上の筐体のうちの1つから内壁が少なくとも1つ以上の前記二次セルを封入するような、リチウムイオン二次電池であって、
前記1つ以上の二次セルが各々、
前記セルのカソードとしての活物質と、前記カソードに接している集電体と、を含む正極と、
前記セルのアノードとしての活物質と、前記アノードに接している集電体と、を含む負極と、
前記負極と前記正極との間に配置され、前記負極および前記正極の両方に接している非水電解液と、
前記電解液の一部および前記アノードを、前記電解液の残りの部分および前記カソードから分離するように、前記正極と前記負極との間に配置されたセパレータと、
を備え、
前記セルが充電している時には前記カソードから前記アノードにリチウムイオンが流れ、
前記セルが放電している時には前記アノードから前記カソードにリチウムイオンが流れ、
前記非水電解液は、前記正極と前記負極との間のリチウムイオンの可逆的な流れを助け、
前記セパレータは当該セパレータを通るリチウムイオンの前記可逆的な流れに対して透過性があり、
前記正極、前記負極またはそれらの組み合わせのうちの少なくとも一部の中に無機添加剤が分散され、前記無機添加剤は、前記セル内に存在することになる水分、遊離遷移金属イオンまたはフッ化水素(HF)のうちの1つ以上を吸収する、ケイ素(Si)/アルミニウム(Al)比が約2~約50の範囲にあるゼオライトである、リチウムイオン二次電池。
【請求項8】
前記無機添加剤が、以下の属性すなわち、
(i)CHA、CHI、FAU、LTAおよびLAUのうちの1つ以上を含むゼオライト骨格、
(ii)板状、立方体、球状またはそれらの組み合わせであるモルフォロジーを有する粒子、
(iii)粒度(D50)が約0.01マイクロメートル(μm)~約2マイクロメートル(μm)の範囲の粒子、
(iv)約10m/g~約1000m/gの範囲の表面積、
(v)0.1~2.0cc/gの細孔容積範囲のうち少なくとも1つを示す、請求項7に記載の電池。
【請求項9】
前記無機添加剤は、前記無機添加剤の総重量に対して10重量%未満の濃度でナトリウム(Na)を含む、請求項7または8に記載の電池。
【請求項10】
前記無機添加剤は、リチウムイオンの濃度が前記無機添加剤の総重量に対して約0.1重量%~約20重量%であるようなリチウムイオン交換ゼオライトである、請求項7~9のいずれか1項に記載の電池。
【請求項11】
前記無機添加剤は、イオン交換メカニズムによって遷移金属カチオンおよびフッ化水素酸を捕捉する、請求項7~10のいずれか1項に記載の電池。
【請求項12】
前記正極は、リチウム遷移金属酸化物またはリチウム遷移金属リン酸塩を含み、
前記負極は、グラファイト、酸化チタンリチウム、金属ケイ素または金属リチウムを含み、
前記セパレータはポリマー膜であり、
前記非水電解液は、リチウム塩を有機溶媒に分散させた溶液である、請求項7~11のいずれか1項に記載の電池。
【請求項13】
リチウムイオン二次電池などの電気化学セルに用いられる一対の電極であって、前記一対の電極は、正極と負極を含み、
前記正極は、前記セルのカソードとしての活物質と、前記カソードに接している集電体と、を含み、前記セルが充電している時には前記カソードから前記アノードにリチウムイオンが流れ、
前記負極は、前記セルのアノードとしての活物質と、前記アノードに接している集電体と、を含み、前記セルが放電している時には前記アノードから前記カソードにリチウムイオンが流れ、
前記正極、前記負極またはそれらの組み合わせのうちの少なくとも一部の中に無機添加剤が分散され、前記無機添加剤は、前記セル内に存在することになる水分、遊離遷移金属イオンまたはフッ化水素(HF)のうちの1つ以上を吸収する、ケイ素(Si)/アルミニウム(Al)比が約2~約50の範囲にあるゼオライトである、電極。
【請求項14】
前記無機添加剤が、以下の属性すなわち、
(i)CHA、CHI、FAU、LTAおよびLAUのうちの1つ以上を含むゼオライト骨格、
(ii)板状、立方体、球状またはそれらの組み合わせであるモルフォロジーを有する粒子、
(iii)粒度(D50)が約0.01マイクロメートル(μm)~約2マイクロメートル(μm)の範囲の粒子、
(iv)約10m/g~約1000m/gの範囲の表面積、
(v)0.1~2.0cc/gの細孔容積範囲のうち少なくとも1つを示す、請求項13に記載の電極。
【請求項15】
前記無機添加剤は、前記無機添加剤の総重量に対して10重量%未満の濃度でナトリウム(Na)を含む、請求項13または14に記載の電極。
【請求項16】
前記無機添加剤は、リチウムイオンの濃度が前記無機添加剤の総重量に対して約0.1重量%~約20重量%であるようなリチウムイオン交換ゼオライトである、請求項13~15のいずれか1項に記載の電極。
【請求項17】
前記無機添加剤は、イオン交換メカニズムによって遷移金属カチオンおよびフッ化水素酸を捕捉する、請求項13~16のいずれか1項に記載の電極。
【請求項18】
前記正極は、リチウム遷移金属酸化物またはリチウム遷移金属リン酸塩を含み、前記負極は、グラファイト、酸化チタンリチウム、金属ケイ素または金属リチウムを含む、請求項13~17のいずれか1項に記載の電極。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、広義には、リチウムイオン二次電池などの電気化学セルで使用するための無機スカベンジング添加剤に関する。特に、本開示は、リチウムイオン二次電池で使用されるセルの1つ以上の電極(正極または負極)に配置される無機スカベンジング添加剤としてのゼオライトの使用に関する。
【背景技術】
【0002】
背景技術の記載は、単に本開示に関連する背景情報を提供するものであり、先行技術を構成するものではない。
【0003】
リチウムイオン電池とリチウムイオン二次電池の主な違いとして、リチウムイオン電池が一次セルを含む電池を表し、リチウムイオン二次電池が二次セルを含む電池を表すことである。「一次セル」という用語は、容易にあるいは安全な充電ができない電池セルをいい、「二次セル」という用語は、充電可能な電池セルをいう。本明細書で使用する場合、「セル」とは、電極と、セパレータと、電解液とを含む電池の基本的な電気化学的単位をいう。これに対して、「電池」とは、例えば1つ以上のセルなどのセルの集合体をいい、筐体と、電気的接続と、場合によっては制御および保護用の電子機器とを含む。
【0004】
リチウムイオン(例えば一次セル)は充電できないため、現在の耐用寿命は約3年であり、それを過ぎると価値がなくなってしまう。そのように寿命が限られていても、リチウムイオン二次電池よりリチウム電池の方が、多くの容量を提供することができる。リチウムイオン電池では複数の他の材料を使ってアノードを形成できるのとは異なり、リチウム電池では、アノードとしてリチウム金属が使用されている。
【0005】
リチウムイオン二次セル電池の重要な利点のひとつに、効果がなくなるまでに何度も充電可能であることがあげられる。リチウムイオン二次電池が何度も充放電サイクルを繰り返すことができるのは、生じる酸化還元反応に可逆性があるためである。リチウムイオン二次電池は、エネルギー密度が高いため、多くの携帯型電子機器(携帯電話やノートパソコンなど)、電動工具、電気自動車、グリッドエネルギー貯蔵などのエネルギー源として広く利用されている。
【0006】
動作時、リチウムイオン二次電池は通常1つ以上のセルを含み、負極、非水電解液、セパレータ、正極ならびに、各々の電極に対する集電体を備える。これらの構成要素はいずれも、ケース、エンクロージャ、パウチ、袋、円筒状のシェルなど(一般に電池の「筐体」と呼ばれるもの)に封入されている。セパレータは通常、マイクロメートルサイズの孔が開いるポリオレフィン系の膜であり、正極と負極の物理的な接触を防ぐとともに、電極間のリチウムイオンの移動を可能にしている。それぞれの電極とセパレータとの間には、リチウム塩の溶液である非水電解液が入っている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
動作している間、電池が示すクーロン効率すなわち電流効率と放電容量とが比較的一定に維持されることが望ましい。クーロン効率とは、電池内で電子が移動する際の充電効率を表す。放電容量とは、電池から取り出せる電荷の量を表す。リチウムイオン二次電池は、水分(水など)、フッ化水素(HF)、溶存遷移金属イオン(TMn+)などに長時間さらされることで、容量および/または効率が低下することがある。実際、もとの可逆容量の20%以上が失われたり、不可逆的になったりすると、リチウムイオン二次電池の寿命が著しく制限される場合がある。リチウムイオン二次電池の充電容量や寿命を延ばすことができれば、交換時のコスト削減や廃棄およびリサイクル時の環境リスクの低減につながる。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示は、広義には、リチウムイオン二次電池などの電気化学セルで使用するための無機スカベンジング添加剤に関する。特に、本開示は、リチウムイオン二次電池で使用されるセルの1つ以上の電極(正極または負極)に配置される無機スカベンジング添加剤としてのゼオライトの使用に関する。
【0009】
本開示の一態様によれば、正極と、負極と、非水電解液と、セパレータと、を備える電気化学セルが提供される。正極は、セルのカソードとしての活物質と、セルが充電している時にカソードからアノードにリチウムイオンが流れる状態でカソードに接している集電体と、を含む。負極は、セルのアノードとしての活物質と、セルが放電している時にアノードからカソードにリチウムイオンが流れる状態でアノードに接している集電体と、を含む。非水電解液は、負極と正極との間に配置され、正極と負極との間のリチウムイオンの可逆的な流れを助けるように、負極および正極の両方に接している。セパレータは、電解液の一部およびアノードを、電解液の残りの部分およびカソードから分離するように、正極と負極との間に配置されている。セパレータは、当該セパレータを通るリチウムイオンの可逆的な流れに対して透過性がある。正極、負極またはそれらの組み合わせの少なくとも一部の中に、無機添加剤が分散されている。無機添加剤は、セル内に存在することになる水分、遊離遷移金属イオンまたはフッ化水素(HF)のうちの1つ以上を吸収する、ケイ素(Si)/アルミニウム(Al)比が約2~約50の範囲にあるゼオライトである。
【0010】
本開示の別の態様によれば、無機添加剤は、以下の属性すなわち、(i)CHA、CHI、FAU、LTAおよび/またはLAUのゼオライト骨格、(ii)板状、立方体、球状またはそれらの組み合わせであるモルフォロジーを有する粒子、(iii)粒度(D50)が約0.01マイクロメートル(μm)~約2マイクロメートル(μm)の範囲の粒子、(iv)約10m/g~約1000m/gの範囲の表面積、(v)0.1~2.0cc/gの細孔容積範囲のうちの1つ以上を示す。無機添加剤は、無機添加剤の総重量に対して10重量%未満の濃度でナトリウム(Na)を含んでもよい。無機添加剤は、リチウムイオンの濃度が無機添加剤の総重量に対して約0.1重量%~約20重量%であるようなリチウムイオン交換ゼオライトであってもよい。無機添加剤は、イオン交換メカニズムによって遷移金属カチオンおよびフッ化水素酸を捕捉してもよい。
【0011】
本開示の別の態様によれば、正極は、リチウム遷移金属酸化物またはリチウム遷移金属リン酸塩を含んでもよい。負極は、グラファイト、酸化チタンリチウム、金属ケイ素または金属リチウムを含んでもよい。セパレータはポリマー膜であり、非水電解液は、リチウム塩を有機溶媒に分散させた溶液である。
【0012】
本開示の別の態様によれば、1つ以上の電気化学セルと、1つ以上の筐体とを備え、1つ以上の筐体のうちの1つからの内壁が少なくとも1つ以上の電気化学セルを封止するような、リチウムイオン二次電池が提供される。
【0013】
本開示のさらに別の態様によれば、正極と負極を含む、電気化学セルに用いられる一対の電極が提供される。正極は、セルのカソードとしての活物質と、カソードに接している集電体と、を含み、セルが充電している時にはカソードからアノードにリチウムイオンが流れる。負極は、セルのアノードとしての活物質と、アノードに接している集電体と、を含み、セルが放電している時にはアノードからカソードにリチウムイオンが流れる。上述したように、また、本明細書でさらに規定するように、正極、負極またはそれらの組み合わせのうちの少なくとも一部の中に、無機添加剤が分散されている。無機添加剤は、セル内に存在することになる水分、遊離遷移金属イオンまたはフッ化水素(HF)のうちの1つ以上を吸収する、ケイ素(Si)/アルミニウム(Al)比が約2~約50の範囲にあるゼオライトである。
【0014】
本明細書の記載から、さらなる適用分野が明らかになるであろう。なお、説明および具体例は例示のみを目的としたものであり、本開示の範囲を限定することを意図したものではないことを理解されたい。
【0015】
本開示をよく理解できるようにするために、添付の図面を参照しながら、例示として与えられる様々な形態について説明する。必ずしも各図面の構成要素を縮尺通りに示したわけではない場合もあるが、本発明の原理を説明することに重点をおいている。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1A図1Aは、無機添加剤が正極の一部を形成している、本開示の教示内容に従って形成されたリチウムイオン二次セルの概略図である。
図1B図1Bは、無機添加剤が負極の一部を形成している、本開示の教示内容に従って形成された別のリチウムイオン二次セルの概略図である。
図2A図2Aは、本開示の教示内容に従って形成されたリチウムイオン二次電池の概略図であり、より大きな混合セルを形成するために図1Aおよび図1Bの二次セルを積層した状態を示している。
図2B図2Bは、本開示の教示内容に従って形成されたリチウムイオン二次電池の概略図であり、より大きな混合セルを形成するために図1Aの複数の二次セルを積層した状態を示している。
図3A図3Aは、本開示の教示内容に従って形成されたリチウムイオン二次電池の概略図であり、図1Aおよび図1Bの二次セルを直列に組み込んだ状態を示している。
図3B図3Bは、本開示の教示に従って形成されたリチウムイオン二次電池の概略図であり、図1Aの複数の二次セルを直列に組み込んだ状態を示している。
【0017】
本明細書で説明する図面は例示を目的としたものであり、いかなる形でも本開示の範囲を限定することを意図したものではない。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下の説明は、本質的に単に例示的なものであり、本開示またはその適用もしくは使用を制限することを何ら意図したものではない。例えば、構造要素とその使用を一層完全に説明するために、本開示全体を通して、本明細書に含まれる教示内容に従って製造および使用されるゼオライトを、リチウムイオン二次電池で使用するための二次セルと組み合わせて説明する。限定ではなくリチウムイオン電池で使用される一次セルなどの他の電気化学セルをはじめとする他の用途において、このような無機材料を添加剤として取り入れて使用することは、本開示の範囲内であると考えられる。本明細書および図面を通して、対応する参照数字は、同様または対応する部品および特徴を示すことを理解されたい。
【0019】
本開示の目的のために、「約」および「実質的に」という語は、当業者に知られた予想されるばらつき(例えば、測定における限界やばらつき)による測定可能な値および範囲に関して本明細書で使用される。
【0020】
本開示の目的のために、要素の「少なくとも1つ」および「1つ以上の」という表現は、同義に用いられ、同じ意味を持つことがある。単一の要素または複数の要素を含むことを示すこれらの用語を、要素の最後に「(s)」という接尾辞を付けて表す場合もある。例えば、「少なくとも1種の金属」、「1種以上の金属」および「金属(metals)」を同義に用いることができ、これらの語が同じ意味を持つことを意図している。
【0021】
本開示は主に、リチウムイオン二次電池の筐体内に存在するようになるか形成される可能性のある、水分(HO)、遊離遷移金属イオン(TMn+)および/またはフッ化水素(HF)などの悪影響のある種を吸収することができる、ケイ素(Si)/アルミニウム(Al)比が約2~約50の範囲であるゼオライトを含む、本質的に当該ゼオライトからなる、あるいは当該ゼオライトからなる、1以上のタイプの無機材料を提供するものである。これらの悪影響のある種を除去することで、正極および負極の少なくとも一方に無機材料を適用した場合の電池のカレンダー寿命およびサイクル寿命を延ばすことができる。
【0022】
上述したような問題に対処するために、無機材料が、電池の筐体内に存在する悪影響のある種のトラップ剤またはスカベンジャーとして作用する。この無機材料は、その中に含まれるリチウムイオンおよび有機輸送媒体をはじめとする非水電解液の性能に影響を与えることなく、水分、遊離遷移金属イオンおよび/またはフッ化水素(HF)を選択的に効果的に吸収することで、この目的を達成する。正極への添加剤、負極への添加剤またはそれらの組み合わせの少なくとも1つとして、リチウムイオン二次電池またはその中の各セルに多機能無機粒子を導入してもよい。
【0023】
図1Aおよび図1Bを参照すると、二次リチウムイオンセル1は主に、正極10と、負極20と、非水電解液30と、セパレータ40とを備える。正極10は、セル1のカソード5として機能する活物質と、カソード5に接触している集電体7とを含み、セル1が充電している時にカソード5からアノード15にリチウムイオン45が流れるようになっている。同様に、負極20は、セル1のアノード15として機能する活物質と、アノード15と接触する集電体17とを含み、セル1が放電している時にアノード15からカソード5へリチウムイオン45が流れるようになっている。カソード5と集電体7との接触ならびにアノード15と集電体17との接触には、独立に、直接接触または間接接触が選択されてもよく、あるいは、アノード15またはカソード5と、対応する集電体17、7とが直接的に接触する。
【0024】
非水電解液30は、負極20と正極10との間に配置され、それらの両方と接触すなわち流体連通している。この非水電解液30によって、正極10と負極20との間でのリチウムイオン45の可逆的な流れが助けられる。正極10と負極20との間にはセパレータ40が配置され、このセパレータ40が一部の電解液30およびアノード15を、残りの電解液30およびカソード5から分離するようになっている。セパレータ40は、このセパレータ40を通るリチウムイオン45の可逆的な流れに対して透過性がある。
【0025】
依然として図1Aおよび図1Bを参照すると、カソード5およびアノード15のうちの少なくとも一方には、セル内に存在するようになる水分、遊離遷移金属イオンまたはフッ化水素(HF)ならびに他の悪影響のある種のうちの1つ以上を吸収する無機添加剤50A、50Bが含まれる。無機添加剤50A、50Bは、正極10、負極20またはそれらの組み合わせのうちの少なくとも1つの組成物内に組み込まれていてもよい。あるいは、無機添加剤50A、50Bは、水分、遊離遷移金属イオンおよび/またはフッ化水素(HF)を選択的に吸収する。この無機添加剤50A、50Bは、ケイ素(Si)対アルミニウム(Al)比が約1~100、あるいは約2~75、あるいは約2~50、あるいは約2~25、あるいは約2~約20、あるいは約5~約15の範囲であるゼオライトの1つ以上のタイプであるように選択されてもよい。
【0026】
本開示の無機添加剤は、ABW、AFG、BEA、BHP、CAS、CHA、CHI、DAC、DOH、EDI、ESV、FAU、FER、FRA、GIS、GOO、GON、HEU、KFI、LAU、LTA、LTN、MEI、MER、MOR、MSO、NAT、NES、PAR、PAU、PHI、RHO、RTE、SOD、STI、TER、THO、VET、YUGおよびZSMから選択されるがこれらに限定されるものではない骨格を有する異なるタイプのゼオライトから選択される少なくとも1つまたは組み合わせを含む。あるいは、ゼオライトの骨格は、CHA、CHI、FAU、LTAまたはLAUの骨格から選択される。
【0027】
本開示の一態様によれば、無機添加剤50A、50Bは、二次セルの正極(図1Aの50A参照)および/または負極(図1Bの50B参照)の少なくとも一部の中に分散されてもよい。二次セル内に存在する無機添加剤の量は、無機添加剤が存在する電極、すなわち正極および/または負極の総重量に対して、最大10重量%、あるいは最大5重量%、あるいは0.1重量%~5重量%の間であってもよい。
【0028】
ゼオライトは、Tがケイ素(Si)またはアルミニウム(Al)であるTO四面体単位の繰り返しで構成される結晶性または準結晶性のアルミノケイ酸塩である。これらの繰り返し単位は、互いに結合し、内部に分子レベルの大きさの空洞および/またはチャネルを含む結晶性の骨格すなわち構造体を形成する。このように、アルミノケイ酸塩ゼオライトでは、少なくとも酸素(O)、アルミニウム(AI)、ケイ素(Si)の原子が、骨格構造に組み込まれている。ゼオライトは、シリカ(SiO)とアルミナ(Al)が酸素原子を共有して相互に結合した結晶骨格を有するため、結晶骨格中に存在するSiO:Al(SAR)の比率によって特徴付けられることがある。
【0029】
本開示の無機添加剤は、チャバザイト(骨格表記=「CHA」)、キアベナイト(CHI)、フォージャサイト(FAU)、リンデタイプA(LTA)およびラウモンタイト(LAU)の骨格トポロジーを示す。骨格表記とは、ゼオライトの骨格構造を定義する国際ゼオライト学会(International Zeolite Associate(IZA))が定めたコードを表す。したがって、例えば、チャバザイトとは、ゼオライトの主結晶相が「CHA」であるゼオライトを意味する。
【0030】
ゼオライトの結晶相または骨格構造を、X線回折(XRD)データによって解析してもよい。しかしながら、XRDの測定値は、ゼオライトの成長方向、構成元素の比率、吸着物質や欠陥などの存在、XRDスペクトルにおける各ピークの強度比またはポジショニングのずれなど、様々な要因の影響を受ける可能性がある。したがって、IZAが提供する定義に記載された各ゼオライトの骨格構造の各々のパラメータについて測定された数値に、10%以下、あるいは5%以下、あるいは1%以下のずれがあっても、予想される許容範囲内である。
【0031】
本開示の一態様によれば、本開示のゼオライトは、天然ゼオライト、合成ゼオライトまたはそれらの混合物を含んでもよい。あるいは、ゼオライトは合成ゼオライトである。なぜなら、そのようなゼオライトは、SAR、結晶子の大きさ、結晶子のモルフォロジーの点で他のゼオライトより均一性が高く、不純物(例えば、アルカリ土類金属)が少なく集中していないためである。
【0032】
無機添加剤50A、50Bは、板状、立方体、球状またはそれらの組み合わせであるモルフォロジーを有するか、このようなモルフォロジーを示す複数の粒子を含んでもよい。あるいは、このモルフォロジーは、大部分が球状である。これらの粒子は、平均粒度(D50)が約0.005マイクロメートル(μm)~約10マイクロメートル(μm)、あるいは約0.01マイクロメートル(μm)~約5マイクロメートル(μm)の範囲、あるいは0.01マイクロメートル(μm)~約2マイクロメートル(μm)、あるいは0.05マイクロメートル(μm)~約1.5マイクロメートル(μm)、あるいは0.01μm以上、あるいは0.05mμ以上、あるいは5μm未満、あるいは2μm未満の範囲である。当技術分野で知られている走査型電子顕微鏡(SEM)または他の光学的イメージング法またはデジタルイメージング法を使用して、無機添加剤の形状および/またはモルフォロジーを決定してもよい。平均粒度と粒度分布は、例えば、ふるい分け、顕微鏡検査、コールター計数、動的光散乱または粒子画像分析などの任意の従来技術を用いて測定すればよい。あるいは、平均粒子径とそれに対応する粒度分布の測定には、レーザー粒子分析装置を使用する。
【0033】
また、無機添加剤50A、50Bは、表面積が約5m/g~約5000m/g、あるいは約10m/g~約2500m/g、あるいは約10m/g~約1000m/g、あるいは約25m/g~約750m/gの範囲内であってもよい。無機添加剤50A、50Bの細孔容積は、約0.05cc/g~約3.0cc/g、あるいは0.1cc/g~約2.0cc/g、あるいは0.15cc/g~約1.5cc/gの範囲であってもよい。無機添加剤の表面積および細孔容積の測定を達成するには、顕微鏡検査、小角X線散乱、水銀ポロシメトリー、BET分析を含むがこれらに限定されるものではない、既知のどのような技術を用いてもよい。あるいは、表面積および細孔容積は、BET分析を用いて決定される。
【0034】
無機添加剤50A、50Bは、無機添加剤の総重量に対して、約0.05重量%~約25重量%の初期濃度のナトリウム(Na)を含んでもよい。あるいは、初期のNa濃度が約0.1重量%~約20重量%、あるいは、約0.25重量%~約15重量%の範囲であってもよい。無機添加剤は、リチウムイオンがイオン交換によって骨格中のナトリウムイオンの少なくとも一部を置き換えるような、リチウムイオン交換ゼオライトであってもよい。リチウムイオンは、濃度が0.1重量%~20重量%になるように、イオン交換によって骨格内の初期のナトリウムイオンの一部を置き換える。あるいは、リチウムイオンの濃度は、リチウム交換したゼオライトの総重量に対して約0.1重量%~約10重量%、あるいは約0.15重量%~約9重量%、あるいは約0.2重量%~約8重量%、あるいは約0.5重量%~約7.5重量%、あるいは約0.5重量%~約5.0重量%である。リチウムイオン交換後の無機添加剤の最終的なナトリウム(Na)濃度は、15重量%未満、あるいは10重量%未満、あるいは7.5重量%未満である。望ましい場合、無機添加剤は、Li、Na、Al、Mn、Sm、Y、Cr、Eu、Er、Ga、ZrおよびTiから選択される1種以上のドーピング元素をさらに含んでもよい。
【0035】
正極10および負極20の活物質は、リチウムイオン二次電池においてこの機能を果たすことが知られているどのような材料であってもよい。正極10に用いられる活物質としては、リチウム遷移金属酸化物または遷移金属リン酸塩があげられるが、これらに限定されるものではない。正極10に用いられる活物質のいくつかの例としては、LiCoO、LiNi1-x-yCoMn(x+y≦2/3)、zLiMnO・(1-z)LiNi01-x-yCoMn(x+y≦2/3)、LiMn、LiNi0.5Mn1.5およびLiFePOがあげられるが、これらに限定されるものではない。また、負極15に用いられる活物質としては、グラファイトやLiTi12ならびにケイ素やリチウム金属などがあげられるが、これらに限定されるものではない。あるいは、負極に用いられる活物質は、比容量が1マグニチュード高いことから、ケイ素やリチウム金属である。正極10および負極20の両方における集電体7、17は、例えばカソードにアルミニウム、アノードに銅など、リチウム電池の電極に使用されることが当技術分野で知られている任意の金属で作られていてもよい。また、正極10および負極20におけるカソード5およびアノード15は、一般に2つの異種活物質で構成されている。
【0036】
非水電解液30は、酸化/還元プロセスを助け、リチウムイオンがアノード15とカソード5との間を流れるための媒体を提供するために用いられる。非水電解液30は、リチウム塩を有機溶媒に入れた溶液であってもよい。リチウム塩のいくつかの例としては、ヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF)、リチウムビス(オキサラト)ボレート(LIBOB)およびリチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(LiTFSi)があげられるが、これらに限定されるものではない。これらのリチウム塩は、例えば、エチレンカーボネート(EC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、ジメチルカーボネート(DMC)、プロピレンカーボネート(PC)、ビニレンカーボネート(VC)、フルオロエチレンカーボネート(FEC)などの有機溶媒と溶液を形成していてもよい。電解液の具体例としては、エチレンカーボネートとジエチルカーボネートの混合物(EC/DEC=50/50vol.)中LiPFの1モル溶液があげられる。
【0037】
セパレータ40は、アノード15とカソード5とが接触しないようにして、リチウムイオンがセパレータを通って流れるようにする。セパレータ40は、ポリエチレン、ポリプロピレンおよびそれらのブレンドなどの半結晶構造を有するポリオレフィンベースの材料ならびに、マイクロポーラスなポリ(メチルメタクリレート)がグラフトされたポリエチレン、シロキサンがグラフトされたポリエチレン、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)ナノファイバーウェブを含むがこれらに限定されるものではない、ポリマー膜であってもよい。
【0038】
本開示の別の態様によれば、1つ以上の二次セルを組み合わせて、リチウムイオン二次電池を形成してもよい。そのような電池75Aの例を、図2Aに示す。ここでは、図1Aおよび図1Bの二次セルを4つ積層し、さらに大きな単一の二次セルを形成して、これを容器に封入して電池75Aを製造している。また、電池75Aの別の例を、図2Bに示す。ここでは、図1Aの二次セルを4つ積層し、さらに大きな単一の二次セルを形成して、これを容器に封入して電池75Aを製造している。当業者であれば、本開示の範囲を超えることなく、無機添加剤50A、50Bを含むいずれかの二次セルを複数使用して、電池75Aを製造可能であることを理解するであろう。電池75Aの少なくとも1つの二次セルが無機添加剤50A、50Bを含むかぎり、必要に応じて、電池75Aには、無機添加剤50A、50Bを含まない二次セルが1つ以上含まれていてもよい。
【0039】
次に図3Aを参照すると、電池75Bの別の例が示されている。ここでは、図1Aおよび図1Bの二次セルを4つ並べて直列に配置し、各々のセルを個別に収容した状態で大容量の電池を形成している。また、図3Bを参照すると、電池75Bの別の例が示されている。ここでは、図1Aの二次セルを4つ並べて直列に配置し、各々のセルを個別に収容した状態で大容量の電池を形成している。さらに、図2A図3Bに示すリチウムイオン二次電池75A、75Bは、物理的保護と環境保護の両方の目的で、内側に二次セル1が封入されるか囲まれた内壁を有する筐体60を含む。当業者であれば、図3Aに示す電池75Bには図1Aおよび図1Bの二次セルが4つ取り入れられ、図3Bに示す電池には図1Aの二次セルが4つ取り入れられているが、電池75Bはこれらに限定されるものではなく、図1Aおよび図1Bに示すような無機添加剤を取り入れたセルをいくつ含んでいてもよいことを理解するであろう。さらに、電池75Bの少なくとも1つのセルに無機添加剤50A、50Bが取り入れられているかぎり、電池75Bには、無機添加剤50A、50Bが取り入れられても含まれてもいないセルが1つ以上含まれていてもよい。
【0040】
筐体60を構成するには、当技術分野でそのような使用が知られているどのような材料を用いてもよい。リチウムイオン電池は通常、3通りの主なフォームファクタまたは幾何学形状すなわち、円筒形、多面体または軟質の袋に収容される。円筒形電池の筐体60は、アルミニウム、スチールなどで作られていてもよい。多面体の電池は通常、円筒形ではなく直方体形の筐体60を含む。軟質の袋の筐体60は、様々な形状と大きさに形成することができる。これらの軟質の筐体は、アルミニウム箔でできた袋の内側、外側またはその両方にプラスチックをコーティングして構成されたものであってもよい。また、軟質の筐体60は、ポリマータイプのケースであってもよい。筐体60に用いられるポリマー組成物は、リチウムイオン二次電池に従来から用いられている公知のポリマー材料であればよい。数ある例の中でも具体的な例としては、内側にポリオレフィン層、外側にポリアミド層からなるラミネートパウチの使用があげられる。軟質の筐体60は、筐体60が電池75A、75B内の二次セル1を機械的に保護するように設計する必要がある。
【0041】
様々な要因によって、リチウムイオン二次電池の劣化が引き起こされる可能性がある。これらの要因の1つとして、非水電解液中に、悪影響のある様々な種が存在することがあげられる。これらの悪影響のある種としては、水分(例えば、水または水蒸気)、フッ化水素(HF)および溶解した遷移金属イオン(TMn+)があげられる。
【0042】
電解液中の水分としては、製造時に残ったものと有機電解液の分解によって発生するものが主である。乾燥した環境が望ましいが、電池または電池セルの製造時に水分が存在するのを完全に排除することはできない。電解液中の有機溶媒は、特に電池を高温で動作させたときに、分解してCOおよびHOを生成する傾向がある。この水(HO)がLiPFなどのリチウム塩と反応して、フッ化リチウム(LIF)やフッ化水素(HF)を発生させることがある。リチウムイオン電池内に水分が残ってしまうことで起こる反応を、式1)および2)に示す。ここで、Mは一般に正極の材料に存在する遷移金属を表す。
【化1】
【0043】
不溶性のフッ化リチウム(LiF)は、アノードまたはカソードの活物質の表面に堆積して、固体電解質界面(SEI)を形成する場合がある。この固体電解質界面(SEI)は、リチウムイオンの(デ)インターカレーションを減少または遅延させ、活物質の表面を不活化することで、レート能力の低下および容量の損失をもたらす可能性がある。
【0044】
さらに、フッ化水素(HF)が存在すると、遷移金属イオンと酸素イオンとを含む正極を攻撃し、活物質とは組成的に異なる遷移金属化合物と水がさらに生じる場合がある。水が存在して反応物として作用すると、生じる反応が周期的になり、電解液や活物質が継続的に損傷する場合がある。
【0045】
加えて、形成される遷移金属化合物が不溶性で電気化学的に不活性な場合がある。これらの遷移金属化合物が正極の表面に存在することで、SEIが形成されることがある。一方、可溶性の遷移金属化合物は、電解液に溶解して遷移金属イオン(TMn+)になることがある。これらの遊離遷移金属イオン、例えば、Mn2+やNi2+は、アノードに向かって移動し、アノードでSEIとして堆積して、様々な異なる反応を引き起こす可能性がある。これらの反応によって、電極の活物質や電解液中のリチウムイオンが消費される場合があり、こうした反応がリチウムイオン二次電池の容量低下の原因となり得る。
【0046】
上述した要因による劣化を抑制するために、好ましくはリチウム(Li)とイオン交換した本開示のゼオライト添加剤は、二次リチウムイオンセル内に存在する遊離遷移金属イオン、フッ化水素酸および/または水分をはじめとする悪影響のある種を捕捉する。ゼオライト添加剤を正極または負極に組み込むことで、最終的にはセルのサイクル寿命全体を延ばすことができる。理論に拘泥するものではないが、式1)および式2)で示す循環反応については、金属フッ化物と水を形成するのではなく、Li交換ゼオライトがHFと反応してLiFとH交換ゼオライトを形成する際に発生するイオン交換によって、停止させることができると考えられている。
【0047】
無機添加剤は、電極の形成時または製造時に、複合カソード(正極)および/または複合アノード(負極)の少なくとも一方に組み込まれていてもよい。例えば、ゼオライト粉末を、アノードの活物質、導電剤およびポリマーバインダーと混合して、アノード膜を形成することができる。同様に、ゼオライト粉末を、カソードの活物質、導電剤およびポリマーバインダーと混合して、カソード膜を形成することができる。
【0048】
本開示で提供される具体例は、本発明の様々な実施形態を説明するためのものであり、本開示の範囲を限定すると解釈されるべきではない。これらの実施形態は、明確かつ簡潔な明細書を書くことができるような方法で説明されているが、本発明から逸脱することなく、実施形態を様々に組み合わせたり、分離したりできることが想定され、理解されるであろう。例えば、本明細書で説明した好ましい特徴はいずれも、本明細書で説明した本発明のすべての態様に適用可能であることが理解されるであろう。
【実施例0049】
実施例1-無機添加剤としてのLi-ゼオライト粉末
【0050】
FAU型ゼオライトを水熱ルートで合成する。粒子は多孔質球体であり、D10、D50、D90を測定すると、それぞれ0.5、1.0、1.5μmになる。表面積を測定すると500m/g、細孔容積を測定すると0.2cc/gになる。また、ゼオライトのシリカ/アルミナ比(SAR)は2~10である。このゼオライトは、最初はナトリウムイオンを含んでいたが、その後、Liとの間でNa交換が行われた。ゼオライト中のNaOの濃度を測定すると0.1~2.0%、LiOの濃度を測定すると3.0~9.0%の範囲になる。ゼオライトを乾燥させ、残っている水分を除去する。
【0051】
実施例2-無機添加剤の遷移金属カチオン捕捉能力
【0052】
Mn2+、Ni2+およびCo2+に対する吸着能力に関する実施例1の無機添加剤の性能を、有機溶媒すなわちエチレンカーボネートとジメチルカーボネートとの混合物(EC/DMC=50/50vol)中で測定する。
【0053】
有機溶媒中における無機添加剤のMn2+、Ni2+、Co2+の捕捉能力を、誘導結合プラズマ-発光分光分析(ICP-OES)により分析する。有機溶媒については、過塩素酸マンガン(II)、過塩素酸ニッケル(II)、過塩素酸コバルト(II)をそれぞれ1000ppm含むように調製する。粒子状の無機添加剤を全質量の1重量%として添加し、混合物を1分間撹拌した後、Mn2+、Ni2+およびCo2+の濃度の低下を測定する前に、25℃で24時間静置する。
【0054】
この無機添加剤によって溶媒中のMn2+イオン、Ni2+イオンおよびCoイオンの存在量が実質的に低下することが観察された。
【0055】
実施例3-無機添加剤のHF捕捉能力
【0056】
非水電解液すなわちエチレンカーボネートとジメチルカーボネートとの混合物(EC/DMC=50/50vol.)中の1M LiPFにおける実施例1の無機添加剤のHF捕捉能力を、フッ化物イオン比(ISE)計によって分析する。電解液については、100ppmのHFを含むように調製する。粒子状の無機添加剤を全質量の1重量%として添加し、混合物を1分間撹拌した後、溶液中のFの減少を測定する前に、25℃で24時間静置する。240時間経過後に、別の測定を行う。
【0057】
水分が残っているリチウムイオン電池で起こる反応を、式1)および式2)に示す。その結果、電解液中のHFを減少させるために、無機添加剤はHFと残っている水分を同時に消費し、それによって反応の連鎖を断ち切る。
【0058】
この無機添加剤によって溶媒中のHFの存在量が実質的に低下することが観察された。
【0059】
実施例4-無機添加剤を用いた電極の作製
【0060】
ポリフッ化ビニリデン(PVDF)のn-メチル-2-ピロリドン(NMP)溶液に、LiNi0.8Co0.1Mn0.1などの活物質(AM)、実施例1の無機ゼオライト添加剤(IA)、カーボンブラック(CB)粉末を分散させたスラリーを用いて、正極として使用する膜を作製する。スラリー中のAM:IA:CB:PVDFの質量比は、(90-x):x:5:5であり、xは0より大きく10以下である。いずれの場合も、アルミニウム膜にスラリーをブレードコーティングする。乾燥およびカレンダー処理後、形成された各正極膜の厚さを測定すると、50~150μmの範囲内になる。この正極膜を直径12mmの円盤状に打ち抜く。正極膜の活物質は質量負荷が5~15mg/cmの範囲である。当業者であれば、負極膜も同様にして作製できることを理解するであろう。
【0061】
実施例5-無機添加剤を使用しない比較電極の作製
【0062】
ポリフッ化ビニリデン(PVDF)のn-メチル-2-ピロリドン(NMP)溶液に、LiNi0.8Co0.1Mn0.1などの活物質(AM)、カーボンブラック(CB)粉末を分散させたスラリーを用いて、正極として使用する膜を作製する。スラリー中のAM:CB:PVDFの質量比は、90:5:5である。いずれの場合も、アルミニウム膜にスラリーをブレードコーティングする。乾燥およびカレンダー処理後、形成された各正極膜の厚さを測定すると、50~150μmの範囲内になる。この正極膜を直径12mmの円盤状に打ち抜く。正極膜の活物質は質量負荷が5~15mg/cmの範囲である。
【0063】
実施例6-コイン型セルの作製
【0064】
無機添加剤を電気化学的状況で評価し、前記添加剤の性能を添加剤のない同様のセルと比較するために、コイン型セル(2025型)を作製する。コイン型セルは、外装ケーシング、スペーサ、バネ、集電体、正極、セパレータ、負極、非水電解液で作られる。
【0065】
正極膜には、無機添加剤を用いて作製したコイン型セルについては実施例4、無機添加剤を使用せずに作製したコイン型セルについては実施例5で形成したものを用いた。
【0066】
負極として、リチウム金属箔(厚さ0.75mm)を直径14mmの丸い円盤状に切り出す。
【0067】
セパレータについては、単層ポリプロピレン膜(Celgard(登録商標)2500,Celgard LLC,ノースカロライナ州)を直径19mmの丸い円盤状に打ち抜いたもので形成する。
【0068】
電池の性能試験用に本明細書でさらに説明するように、実施例4または5の正極膜を、上述した負極、セパレータ、電解液としてエチレンカーボネートとジメチルカーボネートとの混合物(EC/DMC=50/50vol.)中の1M LiPFとともに使用して、コイン型セル(2025型)を作製する。
【0069】
実施例7-電気化学的サイクリング
【0070】
実施例4で作製した本開示の電極を含む、実施例6で作製したコイン型セルを試験して、比較例5の従来の電極で形成したコイン型セルと比較した。各セルについて、2回のC/10形成サイクルの後、25℃でC/3の電流負荷で3~4.3Vの間でサイクルする。
【0071】
最初の形成サイクルでは、従来の電極を有するセル(比較例5)と、本開示に従って作製した電極を有するセル(実施例4)は、ほぼ同一の放電容量とクーロン効率を示す。C/5充放電を100サイクル行った後、本開示に従って作製した電極を有するセル(実施例4)は、従来の市販電極を有するセル(比較例5)が示した容量の損失よりも容量損失が少なかった。同様に、本開示の電極を有するセル(実施例4)のクーロン効率は、従来の電極を有するセル(比較例5)で生じることが観察されるよりも低下が抑えられる。
【0072】
本明細書では、明確かつ簡潔な明細書を書くことができるような方法で実施形態を説明したが、本発明から逸脱することなく、実施形態を様々に組み合わせたり、分離したりできることが想定され、理解されるであろう。例えば、本明細書で説明した好ましい特徴はいずれも、本明細書で説明した本発明のすべての態様に適用可能であることが理解されるであろう。
【0073】
本開示に照らして、当業者であれば、本開示の意図または範囲から逸脱したりこれを越えたりすることなく、本明細書に開示した特定の実施形態に多くの変更を加えることができ、依然として同様または類似の結果を得ることができることを理解するであろう。また、当業者であれば、本明細書で報告した特性はいずれも、日常的に測定され、複数の異なる方法で得られる特性を表していることも、理解するであろう。本明細書で説明した方法は、そのような方法の1つを表しており、本開示の範囲を越えることなく、他の方法を用いることができる。
【0074】
本発明の様々な形態についての上述した説明は、例示および説明の目的で提示されたものである。網羅的であることや、開示された厳密な形態に本発明を限定することは、意図されていない。上記の教示内容に照らして、多数の改変または変形を施すことが可能である。ここに示す形態は、本発明の原理およびその実用的な用途を最もよく示すことで、当業者が、考えられる特定の用途に適した様々な形態で、様々な改変を施して本発明を利用できるようにするために選択され、説明されたものである。このようなすべての改変および変形は、添付の特許請求の範囲によって決定される本発明の範囲内であり、特許請求の範囲が公正かつ適法に、衡平に与えられる範囲に従って解釈される。
図1A
図1B
図2A
図2B
図3A
図3B
【外国語明細書】