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特開2022-106355水晶体観察方法、画像処理装置及びプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022106355
(43)【公開日】2022-07-20
(54)【発明の名称】水晶体観察方法、画像処理装置及びプログラム
(51)【国際特許分類】
   A61B 8/10 20060101AFI20220712BHJP
【FI】
A61B8/10
【審査請求】有
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021001272
(22)【出願日】2021-01-07
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2022-02-22
(71)【出願人】
【識別番号】500550980
【氏名又は名称】株式会社中京メディカル
(74)【代理人】
【識別番号】100131048
【弁理士】
【氏名又は名称】張川 隆司
(74)【代理人】
【識別番号】100174377
【弁理士】
【氏名又は名称】山内 健吾
(74)【代理人】
【識別番号】100215038
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 友子
(72)【発明者】
【氏名】馬嶋 清如
(72)【発明者】
【氏名】市川 一夫
(72)【発明者】
【氏名】市川 慶
【テーマコード(参考)】
4C601
【Fターム(参考)】
4C601DD13
4C601EE09
4C601EE11
4C601JC02
4C601JC09
4C601JC10
4C601KK03
4C601KK09
4C601KK31
(57)【要約】
【課題】断層画像において水晶体の左右片側の彎曲部は観察できるが、もう片側の彎曲部は実像として観察できない場合であっても、もう片側の彎曲部の位置や形状を特定できる水晶体観察方法を提供する。
【解決手段】超音波生体顕微鏡により前眼部の断層を動画撮影し(S1)、その断層の動画において角膜後面中央部と水晶体前極と後極とが一直線上に位置する画像を選択する(S2)。選択した画像に対してレベル補正及び覆い焼きを行うことで水晶体外郭を明瞭にする(S3)。水晶体の左右の片側の外郭は明瞭であるが、もう片側は不明瞭な場合に、明瞭な片側外郭線の鏡像を断層画像中に設定する(S4、S5)。鏡像の位置を、水晶体前面又は後面の実像に合うように調整する(S6)。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
前眼部の断層画像を取得する取得ステップと、
前記断層画像において水晶体の左右の片側の外郭を特定する特定ステップと、
前記特定ステップで特定した前記外郭の鏡像を前記断層画像中に設定する鏡像設定ステップと、
前記鏡像の位置を、前記水晶体の前面又は後面の実像に合うように調整する調整ステップと、
を備える水晶体観察方法。
【請求項2】
前記特定ステップでは、前記断層画像に対して前記外郭を明瞭にする処理を施す画像処理ステップを含み、
前記鏡像設定ステップでは、前記処理後の前記外郭の鏡像を設定する請求項1に記載の水晶体観察方法。
【請求項3】
前記取得ステップでは、角膜の中央部と水晶体の前極と水晶体の後極とが一直線上に位置する前記断層画像を取得する請求項1又は2に記載の水晶体観察方法。
【請求項4】
前記鏡像設定ステップでは、角膜の中央部と水晶体の前極と水晶体の後極とを通る直線に対する鏡像を設定する請求項3に記載の水晶体観察方法。
【請求項5】
前記取得ステップでは、超音波生体顕微鏡による前記断層画像を取得する請求項1~4のいずれか1項に記載の水晶体観察方法。
【請求項6】
前眼部の断層画像を取得する取得部と、
前記断層画像において水晶体の左右の片側の外郭を特定する特定部と、
前記特定部で特定した前記外郭の鏡像を前記断層画像中に設定する鏡像設定部と、
前記鏡像の位置を、前記水晶体の前面又は後面の実像に合うように調整する調整部と、
を備える画像処理装置。
【請求項7】
前眼部の断層画像を取得する取得部と、
前記断層画像において水晶体の左右の片側の外郭を特定する特定部と、
前記特定部で特定した前記外郭の鏡像を前記断層画像中に設定する鏡像設定部と、
前記鏡像の位置を、前記水晶体の前面又は後面の実像に合うように調整する調整部と、
してコンピュータを機能させるプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は前眼部中の水晶体の観察方法に関する。
【背景技術】
【0002】
超音波生体顕微鏡(Ultrasound Biomicroscope、以下UBMという場合がある)により前眼部中の水晶体を観察することが知られている(例えば非特許文献1、2参照)。光干渉断層計(Optical Coherence Tomography:OCT)により前眼部を観察することも行われているが、この場合には、水晶体の外郭(換言すれば、水晶体の輪郭又は外周形状)のうち、虹彩の裏側に位置する赤道部周辺の彎曲領域(以下、赤道彎曲部又は単に彎曲部という)が断層画像中に写らない。一方、UBMでは赤道彎曲部も観察可能である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】馬嶋清如他、「3次元画像を使用したヒト水晶体の体積測定」臨床眼科 第70巻 第3号 別刷、2016年3月15日発行、p.343~348
【非特許文献2】馬嶋清如、「超音波生体顕微鏡と前眼部光干渉断層計で観察された水晶体形状の比較」IOL&RS Vol.32 No.4、2018年発行、p.593~599
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところが、眼への超音波の入射方向(超音波を発信するプローブの向き)や水晶体の状態(白内障の有無、水晶体の混濁の程度など)などの影響で、UBMを用いたとしても中には水晶体の赤道彎曲部を観察できない場合があり、具体的には、左右片側の赤道彎曲部は観察できるが、もう片側の赤道彎曲部は観察できない場合がある。
【0005】
本開示は上記事情に鑑みてなされ、断層画像において水晶体の左右片側の赤道彎曲部は観察できるが、もう片側の赤道彎曲部は実像として観察できない場合であっても、もう片側の赤道彎曲部の位置や形状を特定できる水晶体観察方法、画像処理装置及びプログラムを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示者は、水晶体の全体形状を観察できる断層画像を用いて、該水晶体の左右の一方の側の外郭の、水晶体の前極及び後極を通る基準線に対する鏡像を断層画像中に設定し、その鏡像が、水晶体の左右の他方の側の実像に一致するかを検証した。その結果、鏡像と実像とにずれがあることを確認した。そこで、次に、鏡像の位置を水晶体の前面又は後面の実像に合うように調整したところ、鏡像の彎曲部と実像の彎曲部とが一致した。したがって、この方法を、片側の水晶体彎曲部のみ観察できる断層画像に適用すれば、実像としては観察不能なもう片側の彎曲部を特定できると考え、本開示に係る発明を完成させた。
【0007】
すなわち、本開示の水晶体観察方法は、
前眼部の断層画像を取得する取得ステップと、
前記断層画像において水晶体の左右の片側の外郭を特定する特定ステップと、
前記特定ステップで特定した前記外郭の鏡像を前記断層画像中に設定する鏡像設定ステップと、
前記鏡像の位置を、前記水晶体の前面又は後面の実像に合うように調整する調整ステップと、
を備える。
【0008】
また本開示の画像処理装置は、
前眼部の断層画像を取得する取得部と、
前記断層画像において水晶体の左右の片側の外郭を特定する特定部と、
前記特定部で特定した前記外郭の鏡像を前記断層画像中に設定する鏡像設定部と、
前記鏡像の位置を、前記水晶体の前面又は後面の実像に合うように調整する調整部と、
を備える。
【0009】
また本開示のプログラムは、
前眼部の断層画像を取得する取得部と、
前記断層画像において水晶体の左右の片側の外郭を特定する特定部と、
前記特定部で特定した前記外郭の鏡像を前記断層画像中に設定する鏡像設定部と、
前記鏡像の位置を、前記水晶体の前面又は後面の実像に合うように調整する調整部と、
してコンピュータを機能させる。
【発明の効果】
【0010】
本開示によれば、断層画像において水晶体の左右片側の彎曲部は観察できるが、もう片側の彎曲部は実像としては観察できない場合であっても、もう片側の彎曲部の位置や形状を特定できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】前眼部を検査するシステムの構成図である。
図2】水晶体観察方法のフローチャートである。
図3図2のステップS3の具体的な処理を示すフローチャートである。
図4】超音波生体顕微鏡により撮影される前眼部断層画像の模式図である。
図5】水晶体彎曲部が不明瞭な前眼部断層画像の模式図である。
図6図5の画像に対してレベル補正を行った後の前眼部断層画像の模式図である。
図7図6のレベル補正後の彎曲部の像を複数の円で囲んだ前眼部断層画像の模式図である。
図8図7の画像に対して覆い焼きを行った後の前眼部断層画像の模式図である。
図9図8の画像に対して水晶体の左右片側の外郭線を設定する処理を実行した後の前眼部断層画像の模式図である。
図10図9の画像に対して鏡像設定処理を実行した後の画像であって、実像に相当する片側外郭線とその鏡像とを含んだ前眼部断層画像の模式図である。
図11図10の画像に対して鏡像の位置調整処理を行った後の画像であって、位置調整後の鏡像を含んだ前眼部断層画像の模式図である。
図12図11のA部の拡大図である。
図13図11のB部の拡大図である。
図14】水晶体の左右両側の外郭線が明瞭な前眼部断層画像に対して図2の処理を実行した実例の図である。
図15】水晶体の左側の外郭線のみが明瞭であり、右側の外郭線は不明瞭な前眼部断層画像に対して図2の処理を実行した実例の図である。
図16】鏡像を設定する際の基準線を複数例示した図である。
図17】一部不明瞭な左側の水晶体外郭とその鏡像とを含んだ前眼部断層画像の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本開示の実施形態を図面を参照しながら説明する。図1は被検者の前眼部を検査するシステムの構成図を示している。図1のシステム1は超音波生体顕微鏡2と画像処理装置3とを備えている。
【0013】
超音波生体顕微鏡2は、超音波を生体内に発信させて、その超音波が生体内で反射して形成される反射波に基づいて生体内の画像を得る装置である。超音波生体顕微鏡2は、超音波を生成して、生成した超音波を生体内に発信させるとともにその反射波を受信するプローブと、受信した反射波に基づいて生体内の画像を生成する画像生成部とを備えて構成される。画像生成部は例えば予め定められた階調数(例えば256階調)のグレースケールの画像を生成する。このクレースケールの画像においては、例えば背景が黒色(256階調における階調値が「0」)、像が灰色及び白色(256階調における階調値が「1」~「255」)で示される。
【0014】
画像処理装置3は、超音波生体顕微鏡2で撮影された画像を処理する装置である。画像処理装置3は、各種処理を実行する制御部4と、画像等を表示する液晶ディスプレイ等の表示部5と、ユーザにより操作が行われて、制御部4が実行する処理を指示する信号等を入力するキーボード、マウス等の操作部6と、制御部4が実行する処理のプログラム8等各種データが記憶される記憶部7とを備えている。
【0015】
記憶部7に記憶されるプログラム8は画像編集ソフトウェアを含む。その画像編集ソフトウェアは、編集対象の画像に対する後述のレベル補正、覆い焼き、鏡像の設定、移動、回転など各種の編集機能を有する。画像編集ソフトウェアが起動されると、表示部5に画像編集画面が表示される。そして、画像編集ソフトウェアに画像が読み込まれると画像編集画面中にその画像が表示される。画像編集画面上では、操作部6の操作に基づいて画像に対する各種編集機能の実行が可能となる。なお、画像編集ソフトウェアはADOBE(登録商標)社製のPHOTOSHOP(登録商標)等の汎用ソフトウェアであってもよいし、眼科検査(前眼部解析)専用のソフトウェアであってもよい。なお、記憶部7は、コンピュータによって読み取り可能なプログラム及びデータを非一時的に格納する非遷移的実体的記憶媒体(non-transitory tangible storage medium)である。非遷移的実体的記憶媒体は半導体メモリ又は磁気ディスクなどによって実現される。
【0016】
なお、超音波生体顕微鏡2と画像処理装置3は有線又は無線で接続されてもよいし、接続されなくてもよい。超音波生体顕微鏡2と画像処理装置3とが接続されていない場合には、超音波生体顕微鏡2で撮影された画像はUSBメモリ等の可搬型メモリを介して画像処理装置3に読み込ませればよい。
【0017】
次に、図1のシステム1を用いて水晶体を観察する方法を説明する。図2はその方法のフローチャートを示している。図2において、先ず、被検者の前眼部を超音波生体顕微鏡2により撮影する(S1)。具体的には、被検者を仰臥位にさせ、その後、被検者の眼球上にアイカップを装着させ、その後、アイカップ内に超音波ゲル、生理食塩水等の超音波媒体を入れる。また、被検者の眼球から上方に所定距離離れた位置に固視点を設置して、被検者にその固視点を固視させる。この状態で、超音波生体顕微鏡2のプローブをアイカップ内の眼球上で走査させることで前眼部の動画撮影を行う。この際、眼球の中心周りの円周上の各点を針時計(アナログ時計)の時間で表したとき、眼球の中心を間に挟んで対向する2つの時間で定まる方向(6-12時方向、2-8時方向、3-9時方向など)にプローブを走査させることで、該方向における前眼部の断層を動画撮影する。なお、ステップS1において撮影対象となる被検眼は白内障を患った眼であってもよいし、正常な眼であってもよい。
【0018】
ここで、図4は、超音波生体顕微鏡2により撮影される前眼部の断層画像の模式図を示している。図4に示されるように、前眼部10には、角膜11、虹彩12及び水晶体13が含まれる。水晶体13の外郭(水晶体嚢)は、図4の断層で見て、眼球内の前方(角膜11側の方向)に凸の曲線を描くように設けられる前面13aと、眼球内の後方(網膜(図示外)側の方向)に凸の曲線を描くように設けられる後面13bと、前面13a及び後面13bの各左端間を繋ぐ左彎曲部13cと、前面13a及び後面13bの各右端間を繋ぐ右彎曲部13dとを含んで構成される。左彎曲部13cは図4の紙面で左方向に凸の曲線を描くように設けられる。右彎曲部13dは図4の紙面で右方向に凸の曲線を描くように設けられる。左右の彎曲部13c、13dの中央には水晶体13の赤道部13eが位置する。赤道部13eは水晶体13の最大径部となる部位である。
【0019】
なお、図4では、前眼部10を構成する各部が明瞭に示されているが、中には、図5に示すように、虹彩12の裏側に位置する赤道彎曲部を含む水晶体領域が不明瞭の場合がある。
【0020】
次に、医師等の検査者は、ステップS1で得られた前眼部の動画を画像処理装置3に読み込ませて、その動画を表示部5においてコマ送りに表示させながら、角膜11の後面中央部11aと水晶体13の前極13fと水晶体13の後極13gとが一直線上に位置する瞬間の画像(図5参照)を選択する(S2)。このとき、例えば、制御部4は、検査者による操作部6の入力操作に基づいて、コマ送りさせた画像ごとに、後面中央部11a、前極13f及び後極13gを特定し、特定した後面中央部11a、前極13f及び後極13gを通る線を画像上に表示させる。そして、検査者は、後面中央部11a、前極13f及び後極13gを通る線が一直線となっている画像を選択する。または、例えば、制御部4は、後面中央部11a、前極13f及び後極13gのうちの2つを通る直線を画像上に表示させる。検査者は、その直線が、後面中央部11a、前極13f及び後極13gのうちの残りの1つを通っている画像を選択してもよい。
【0021】
後面中央部11a、前極13f及び後極13gの特定は例えば以下のように行う。すなわち、後面中央部11aの特定については、例えば角膜11の後面の実像の形状を近似した曲線を最小二乗法等で求めて、この近似曲線上で曲率が極大又は極小になる点を後面中央部11aとして特定する。同様に、前極13fの特定については、例えば水晶体前面13aの実像の形状を近似した曲線を最小二乗法等で求めて、この近似曲線上で曲率が極大又は極小になる点を前極13fとして特定する。同様に、後極13gの特定については、例えば水晶体後面13bの実像の形状を近似した曲線を最小二乗法等で求めて、この近似曲線上で曲率が極大又は極小になる点を後極13gとして特定する。なお、上記近似曲線は円であってもよいし、楕円であってもよいし、2次以上の多項式であってもよいし、三角関数、指数関数、対数関数で近似した曲線であってもよい。
【0022】
またステップS2では、水晶体13の外郭の全体形状が不明瞭な画像を選択する。水晶体13の全体形状がこの時点(後述するステップS3の画像処理を実行する前の時点)で明瞭であれば、以降の処理を実行する必要が無いためである。
【0023】
ステップS2では例えば図5に示す断層画像を選択したとする。図5の画像では、水晶体13の全体形状が不明瞭であり、具体的には、虹彩12間に位置する水晶体前面13a及び後面13bは明瞭に示されている一方で、左右の水晶体彎曲部は不明瞭となっている。断層画像中には、左彎曲部は部分的に現れており、すなわち左彎曲部の一部を示す像13hが現れている。右彎曲部はほとんど現れていない。なお、ステップS1及びS2が取得ステップに相当する。ステップS2を実行する制御部4が取得部に相当する。
【0024】
次に、制御部4は、検査者による操作部6の入力操作に基づいて、ステップS2で選択した断層画像に対して水晶体13の外郭を明瞭にする処理を施す(S3)。具体的には例えば図3の処理を実行する。なお、ステップS3~S6及び図3の各処理は、記憶部7(図1参照)に記憶される画像編集ソフトウェアに基づいて実行される。このとき、検査者による操作部6の入力操作に基づいて、画像編集ソフトウェアの各処理が指定される。なお、ステップS3が特定ステップ及び画像処理ステップに相当する。ステップS3を実行する制御部4が特定部に相当する。
【0025】
図3の処理では、先ず、断層画像に対してレベル補正を行って、画像のコントラストが上がるように明暗の分布を調整する(S11)。なお、「コントラストが上がる」とは画像の明るい部分をより明るく、暗い部分をより暗くすることで明暗の差を大きくすることをいう。また、レベル補正とは、画像の明るさ(色)の階調範囲(例えば256階調の画像の場合には0~255)を横軸、各階調値の画素数を縦軸で表わしたヒストグラムにおいて、最も明るい階調値(つまり白色)である最大階調値(例えば256階調の画像の場合には最大階調値は「255」)を示すハイライトの位置、又は最も暗い階調値(つまり黒色)である最小階調値(例えば256階調の画像の場合には最小階調値は「0」)を示すシャドウの位置を変える処理をいう。例えば、ハイライトの位置をヒストグラムの横軸上で階調値「255」から「240」に変えた場合には、「240」以上の階調値を示す画素は全て白色の階調値(つまり階調値「255」)に割り当てられ、残りの画素(階調値「0」~「239」の画素)の階調値は「0」と「255」の間で再分布される。また例えば、シャドウの位置をヒストグラムの横軸上で階調値「0」から「20」に変えた場合には、「20」以下の階調値を示す画素は全て黒色の階調値(つまり階調値「0」)に割り当てられ、残りの画素(階調値「21」~「255」の画素)の階調値は「0」と「255」の間で再分布される。
【0026】
ステップS11において断層画像に対してレベル補正を行うことで、断層画像中の水晶体13の外郭線を示す像(白線)を明瞭にする。ここで、図6は、ステップS11のレベル補正を行った後の断層画像の模式図である。図6には、レベル補正により明瞭化された、左彎曲部の一部を示す像13iが示されている。また、図5では右彎曲部はほとんど現れていなかったのに対して、図6では右彎曲部の一部を示す像13jがレベル補正により明瞭化されている。
【0027】
次に、ステップS11のレベル補正を行った後の断層画像(図6参照)に対して、水晶体13の外郭の不明瞭な部分(特に虹彩12の裏側の部分)において断続的に観察できる像13i、13j(図6参照)を複数の円で囲む(S12)。図7では、彎曲部観察像13i、13jを複数の円13kで囲んだ例を示している。各円13kは互いに同一径(例えば直径が0.16mm)である。
【0028】
次に、ステップS12の処理後の断層画像(図7参照)に対して、複数の円13k間の領域に覆い焼きを行うことで、該領域を明るくする(S13)。なお、覆い焼きとは、部分的に露光量(露光時間)を減らすことで当該部分を明るく(白く)する処理をいう。暗くて像が観察できない場合に覆い焼きを行うことで、当該像が観察できるようになる場合がある。図8は、図7の断層画像に対して覆い焼きを行った後の断層画像を模式的に示している。図8では、左彎曲部において覆い焼きによって明瞭化された像13lが示されている。
【0029】
次に、ステップS13の処理後の断層画像(図8参照)に対して、ステップS12で設定した複数の円13k間の領域を、ステップS13で明瞭にされた像13lに沿った線で繋ぐ(S14)。そして、最終的に水晶体前極から赤道彎曲部を経て後極に至る水晶体左右片側の全範囲の外郭を示す近似線である片側外郭線を設定する(S14)。このとき、検査者は、左彎曲部及び右彎曲部ごとに、円13kの個数、円13k間の間隔又は円13k間の領域において明瞭にされた像の大きさ等に基づいて、複数の円13k間の領域を近似線で繋ぐことができるかを判断し(換言すれば、円13k間の領域を近似線で繋いだときに彎曲部として自然な形状になるかを判断し)、繋ぐことができる場合(換言すれば円13k間の領域を近似線で繋いだときに彎曲部として自然な形状になる場合)に片側外郭線を設定する。例えば、円13kの個数が少ない場合又は円13k間の間隔が大きい場合には、片側外郭線の設定を断念する。なお、片側外郭線は、水晶体外郭の左右片側の実像に相当する。
【0030】
図9は、図8の断層画像に対してステップS14の処理を行った後の断層画像を模式的に示している。図9では、水晶体の左側は外郭線13mを設定(特定)できた一方で、右側は円13kの個数が少ないことから、外郭線を設定(特定)できなかった例を示している。
【0031】
なお、図2のステップS4以降の処理は、水晶体の左右片側のみ外郭線が特定できた場合に実行される。すなわち、左右両側の外郭線を特定できた場合には、水晶体全体の形状が特定されたことになるので、ステップS4以降の処理は実行されない。また、図3の処理を実行したとしても、左右のいずれも外郭線を特定できない場合も、ステップS4以降の処理は実行されない。
【0032】
図2に戻って、次に、制御部4は、検査者による操作部6の入力操作に基づいて、図3の処理後の断層画像(図9参照)において、角膜11の後面中央部11a、水晶体前極13f及び後極13gを通る直線20を基準線として設定する(S4)。なお、角膜後面中央部11a、水晶体前極13f及び後極13gの特定は、上述のステップS2の画像選択の際の特定方法と同じである。
【0033】
次に、制御部4は、検査者による操作部6の入力操作に基づいて、片側外郭線13m及び基準線20が設定された断層画像(図9参照)中に、基準線20に対する片側外郭線13mの鏡像を設定する(S5)。換言すれば、基準線20に対して片側外郭線13mを左右反転させた像(片側外郭線13mの左右対称像)を設定する。なお、この際、片側外郭線13mを元の表示位置に保持させつつ、片側外郭線13mの鏡像を設定する。図10は、実像に相当する片側外郭線13mとその鏡像13nとを含んだ断層画像を模式的に示している。鏡像13nは水晶体前面の実像13a及び水晶体後面の実像13bに対してずれている。なお、ステップS4及びS5が鏡像設定ステップに相当する。ステップS4及びS5を実行する制御部4が鏡像設定部に相当する。
【0034】
そこで、次に、制御部4は、検査者による操作部6の入力操作に基づいて、鏡像13nの水晶体前面及び後面に対応する部分が、水晶体前面の実像13a及び水晶体後面の実像13bのうちの虹彩12間に位置し、かつ基準線20よりも鏡像13n側の部分13a1、13b1に合うように(一致するように)、鏡像13nの位置を調整する(S6)。このとき、検査者(制御部4)は、操作部6を操作して、鏡像13nに対して回転移動と平行移動の一方又は双方を行うことで鏡像13nの位置を調整する。また、水晶体前面の実像13a1と後面の実像13b1のうち一方と合うように鏡像13nの位置を調整すれば、自然と、位置調整後の鏡像と、実像13a1、13b1のうちの他方とが合う。なお、ステップS6が調整ステップに相当する。ステップS6を実行する制御部4が調整部に相当する。
【0035】
図11は、位置調整後の鏡像13o(調整後鏡像)を含んだ断層画像を模式的に示している。図11のA部拡大図である図12に示すように調整後鏡像13oの端部13o1が、基準線20よりも鏡像が設定される反対側にはみ出ていてもよいし、図11のB部拡大図である図13に示すように調整後鏡像13oの端部13o2と基準線20との間に隙間が形成されていてもよい。基準線20付近では水晶体前面及び後面の実像13a、13bが観察可能であるため、実像13a、13bを優先して基準線20付近の水晶体外郭形状を特定すればよい。
【0036】
ここで、図14は、実際のUBM断層画像を示しており、ステップS3の画像処理をしたときに、水晶体の左右両側の外郭線が明瞭になる断層画像の実例を示している。図14及び後述の図15の断層画像はSONOMED社製の超音波生体顕微鏡VuMAXIIで撮影された画像である。図14には、ステップS3の画像処理により明瞭にされた水晶体の左側外郭の実像を示す外郭線31と、右側外郭の実像を示す外郭線32とが示されている。さらに、図14には、角膜後面中央部と水晶体前極と水晶体後極とを通る基準線に対する左側の外郭線31の鏡像33が示されている。
【0037】
図14に示すように、鏡像33と右側外郭線32とにずれがあることが確認できる。本開示者は、鏡像33の位置を、符号34で示される領域での水晶体前面及び後面の実像に一致するように調整したところ、位置調整後の鏡像の彎曲部を含む全体が、右側外郭線32の彎曲部を含む全体に一致していたことを確認できた。また、図14の画像以外にも、水晶体の左右両側の外郭線が明瞭な断層画像に対して図2の処理を実行したところ、複数の事例で位置調整後の鏡像と実像の外郭線とが一致していたことを確認できた。したがって、図2の処理による水晶体全体形状の検出は妥当性を有するといえる。すなわち、図11に示す調整後鏡像13oは実際の右側外郭線におおむね一致していると考えられる。
【0038】
図15は、実際のUBM断層画像を示しており、ステップS3の画像処理をしたときに、水晶体の左側の外郭線のみが明瞭になり、右側の外郭線は不明瞭な断層画像に対して図2の処理を実行した実例を示している。図15には、水晶体の左側外郭の実像を示す外郭線41と、その外郭線41の鏡像42と、鏡像42の位置を水晶体前面の実像44及び後面の実像45に合うように調整した後の像43とが示されている。図14の検証結果を考慮すれば、図15の位置調整後の鏡像43は、実際の右側外郭線におおむね一致していると考えられる。
【0039】
なお、図14図15におけるレベル補正、覆い焼き、鏡像の設定および鏡像の位置の調整は、ADOBE(登録商標)社製のPHOTOSHOP(登録商標)により行った。また、図14図15の画像は角膜後面中央部と水晶体前極と水晶体後極とが一直線上に位置する画像である。
【0040】
以上説明したように、本実施形態によれば、断層画像において水晶体の左右片側の彎曲部は観察できるが、もう片側の彎曲部は観察できない場合であっても、水晶体の全体形状を特定できる(図11参照)。これによって、例えば、水晶体の左右両側で赤道部の位置を特定することができる。図11には、赤道部13eが示されている。赤道部13eの特定は、例えば、各外郭線13m、13oの中央部又は極部に所定径(例えば直径0.16mm)の円を設定し、その円の中心を赤道部13eとすればよい。
【0041】
水晶体再建術で挿入される眼内レンズの支持部は、水晶体赤道部に固定されるため、赤道彎曲部の観察が術前に可能となれば、術後の眼内レンズ位置予測に非常に有用な情報になる。また、術前の眼内レンズの度数計算にも有用である。
【0042】
また、再生医療が注目されている現状においては、眼科領域も例外ではなく、すでに角膜、網膜の再生医療が実際の臨床の場で実施されている。水晶体も例外ではないが、水晶体の場合、角膜、網膜とは違い、厚さを有する立体構造を有しているため、まずその構造を把握することが必要になる。本実施形態の方法で水晶体の断層における全体形状を検出できれば、例えば上記非特許文献1の方法で水晶体の立体構造(3次元画像)を導出できる。
【0043】
また本実施形態によれば、図3の処理により断層画像に対してレベル補正及び覆い焼きを実行するので、水晶体の外郭を明瞭にすることができ、水晶体の左右片側の外郭線を特定しやすくなる。また、図3の処理を実行した段階で水晶体外郭の全体形状を特定できるのであれば、ステップS4以降の処理を省略することができる。
【0044】
また、図2のステップS2において角膜の後面中央部と水晶体の前極と水晶体の後極とが一直線上に位置する断層画像を選択するので、選択した断層画像は、立体構造の水晶体の中心と水晶体前極と後極とを通る平面で水晶体を切った断層画像に相当し、水晶体の中心を通る断層における外郭全体形状を検出できる。また、図2のステップS6にて得られる位置調整後の鏡像と実際の外郭線とのずれを抑制できる。
【0045】
また、図2のステップS5では、角膜の後面中央部と水晶体の前極と後極とを通る基準線に対する鏡像を設定するので、その鏡像と、水晶体前面及び後面の実像とのずれを抑えることができる。これにより、ステップS6において、鏡像の位置の調整量を小さくでき、その位置調整が容易となる。
【0046】
また、本実施形態では、図2のステップS1において超音波生体顕微鏡による断層画像を取得するので、水晶体彎曲部が写った断層画像が得られやすい。
【0047】
なお、本開示は上記実施形態に限定されず種々の変更が可能である。例えば、UBM断層画像に対して図2の処理を適用した例を示したが、水晶体彎曲部の観察(撮影)が可能な他の手法(例えばMRI(Magnetic Resonance Imaging、磁気共鳴映像法)による断層画像に対して図2の処理を適用してもよい。
【0048】
また、本実施形態では、角膜の後面中央部と水晶体の前極と水晶体の後極とを通る線を基準線として、その基準線に対する鏡像を設定した例を示したが、基準線はどのように設定されてもよい。例えば図16に示す線50の鏡像を設定する場合に、基準線51~53に応じて鏡像の位置又は向きは変わってくるものの、鏡像の形状は基準線51~53にかかわらず同じとなるため、水晶体前面及び後面の実像に合うように鏡像の位置を調整することで、位置調整後の鏡像は基準線51~53にかかわらず同じとなる。
【0049】
また、上記実施形態では、図3の処理で、水晶体前極から彎曲部を経て後極に至る水晶体左右片側の全範囲の外郭線を特定し、図2のステップS5で片側全範囲の外郭線の鏡像を設定していた。しかし、これに限定されず、水晶体左右片側の前面又は後面の虹彩間に位置する部分と赤道部周辺の彎曲部とを少なくとも含んでいれば、左右片側の一部の外郭線の鏡像を設定してもよい。これによっても、ステップS6においてこの鏡像の位置を調整することで、反対側の赤道部周辺の彎曲部の位置及び形状を特定でき、ひいては赤道部を特定できるので有益である。
【0050】
例えば、図17の例では、左側の水晶体外郭60(実像)として前面61(虹彩間の部分)と彎曲部62とは明瞭であるものの、前面61と彎曲部62の間の領域及び彎曲部62よりも後面側の領域は不明瞭となっている。この場合であっても、水晶体外郭60の基準線20に対する鏡像70を設定する。鏡像70は、水晶体前面に対応する部分71と彎曲部に対応する部分72とを断続的に含んだ像である。そして、鏡像70における前記部分71を水晶体前面の実像80に合うように鏡像70の位置を調整することで、右側彎曲部の位置及び形状を特定でき、ひいては右側赤道部を特定できる。
【0051】
また、本実施形態では、図3の処理により左側の水晶体外郭が特定でき、右側の水晶体外郭が特定できない断層画像に対して、図2のステップS4以降の処理を適用した例を示したが、右側の水晶体外郭が特定でき、左側の水晶体外郭が特定できない断層画像に対してステップS4以降の処理を適用してもよい。
【0052】
また、ステップS2では角膜の「後面」中央部と水晶体前極と水晶体後極とが一直線上に位置する断層画像を選択していたが、角膜の「前面」中央部と水晶体前極と水晶体後極とが一直線上に位置する断層画像を選択してもよい。同様に、ステップS4では、角膜の「前面」中央部と水晶体前極と水晶体後極とを通る直線を基準線として設定してもよい。
【0053】
また、ステップS3の画像処理前の段階で片側の水晶体外郭線を特定できるのであれば、ステップS3の画像処理を省略して、ステップS4以降の処理を実行してもよい。
【0054】
またステップS6では、鏡像の位置を、水晶体前面又は後面の水晶体後面の実像のうち虹彩間に位置する部分に合うように調整した例を示したが、水晶体前面又は後面の実像のうち虹彩の裏側の部分も明瞭であるならば、その裏側の部分に合うように鏡像の位置を調整してもよい。
【符号の説明】
【0055】
2 超音波生体顕微鏡
3 画像処理装置
8 プログラム
13 水晶体
13a 水晶体前面の実像
13b 水晶体後面の実像
13m 水晶体の片側外郭線
13n 片側外郭線の鏡像
13o 位置調整後の鏡像
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17