(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022106433
(43)【公開日】2022-07-20
(54)【発明の名称】トルクレンチ、トルクレンチ用プログラム、及びトルクレンチの報知方法
(51)【国際特許分類】
B25B 23/14 20060101AFI20220712BHJP
B25B 23/142 20060101ALI20220712BHJP
【FI】
B25B23/14 620J
B25B23/142
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021001422
(22)【出願日】2021-01-07
(71)【出願人】
【識別番号】000161909
【氏名又は名称】京都機械工具株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100121441
【弁理士】
【氏名又は名称】西村 竜平
(74)【代理人】
【識別番号】100154704
【弁理士】
【氏名又は名称】齊藤 真大
(74)【代理人】
【識別番号】100129702
【弁理士】
【氏名又は名称】上村 喜永
(74)【代理人】
【識別番号】100206151
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 惇志
(74)【代理人】
【識別番号】100218187
【弁理士】
【氏名又は名称】前田 治子
(72)【発明者】
【氏名】大河 祐樹
【テーマコード(参考)】
3C038
【Fターム(参考)】
3C038BC01
3C038CA06
3C038CC08
3C038EA06
(57)【要約】 (修正有)
【課題】締付作業時におけるトルクレンチの使用態様にかかわらず、光源からの光を視認できるようにしつつ、消費電力を抑える。
【解決手段】ヘッド10と、前記ヘッドが先端部に設けられた柄部20と、前記柄部の複数箇所に設けられ、その柄部の軸方向から見て互いに異なる向きに光を射出する複数の光源41と、締付対象の締付トルクが所定の基準を満たした場合に前記光源を発光させる発光制御部Cとを備えたトルクレンチ100であって、前記発光制御部が、締付作業時における前記トルクレンチの使用態様に応じた光源を発光させるようにする。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヘッドと、前記ヘッドが先端部に設けられた柄部と、前記柄部の複数箇所に設けられ、その柄部の軸方向から見て互いに異なる向きに光を射出する複数の光源と、締付対象の締付トルクが所定の基準を満たした場合に前記光源を発光させる発光制御部とを備えたトルクレンチであって、
前記発光制御部が、締付作業時における前記トルクレンチの使用態様に応じた光源を発光させるように構成されていることを特徴とするトルクレンチ。
【請求項2】
前記発光制御部が、前記トルクレンチの使用態様に応じた光源以外の光源を発光させない請求項1記載のトルクレンチ。
【請求項3】
前記発光制御部が、締付作業時における前記トルクレンチの姿勢又は前記トルクレンチの高度のいずれか一方又は双方に応じた光源を発光させるように構成されている請求項1又は2のいずれかに記載のトルクレンチ。
【請求項4】
前記発光制御部が、
前記締付作業時における前記トルクレンチの使用態様に関する情報である使用態様情報を受け付ける使用態様情報受付部と、
前記使用態様情報受付部で受け付けた前記使用態様情報に基づいて、前記複数の光源のうち発光させる光源を決定する光源決定部と、
前記締付作業時に締付対象の締付トルクが所定の基準を満たした場合に、前記光源決定部で決定された光源を発光させる光源発光部とを備えている請求項1乃至3のいずれかに記載のトルクレンチ。
【請求項5】
前記発光制御部が、前記トルクレンチの使用態様とそのトルクレンチの使用態様に応じて発光させる光源との関係を示す光源決定用データを記憶する光源決定用データ記憶部をさらに備え、
前記光源決定部が、前記使用態様情報と前記光源決定用データとを比較して発光させる光源を決定するものである請求項4記載のトルクレンチ。
【請求項6】
前記柄部に設けられたジャイロセンサ又は高度センサのいずれか一方又は双方をさらに備え、
前記使用態様情報が、前記ジャイロセンサが検出する前記トルクレンチの姿勢を示す姿勢データ又は前記高度センサが検出する前記トルクレンチの高度を示す高度データのいずれか一方又は双方を含む請求項4又は5のいずれかに記載のトルクレンチ。
【請求項7】
前記複数の光源が、前記柄部の軸方向から見て、互いに直交する方向から視認できるように配置されている請求項1乃至6のいずれかに記載のトルクレンチ。
【請求項8】
前記複数の光源が、前記柄部の周方向に沿って設けられており、
前記柄部の周面に設けられ、それらの光源を覆うように設けられたリング状の導光体をさらに備えている請求項1乃至7のいずれかに記載のトルクレンチ。
【請求項9】
ヘッドと、前記ヘッドが先端部に設けられた柄部と、前記柄部の複数箇所に設けられ、その柄部の軸方向から見て互いに異なる方向に光を射出する複数の光源と、締付対象の締付トルクが所定の基準を満たした場合に前記光源を発光させる発光制御部とを備えたトルクレンチに用いられるプログラムであって、
締付作業時における前記トルクレンチの使用態様に関する情報である使用態様情報を受け付ける使用態様情報受付部と、
前記使用態様情報受付部で受け付けた前記使用態様情報に基づいて、前記複数の光源のうち発光させる光源を決定する光源決定部と、
締付対象の締付トルクが所定の基準を満たした場合に、前記光源決定部によって決定された光源を発光させる光源発光部としての機能をコンピュータに発揮させることを特徴とするトルクレンチ用プログラム。
【請求項10】
ヘッドと、前記ヘッドが先端部に設けられた柄部と、前記柄部の複数箇所に設けられ、その柄部の軸方向から見て互いに異なる方向に光を射出する複数の光源とを備えたトルクレンチの報知方法であって、
締付対象の締付トルクが所定の基準を満たしたか否かを判断するステップと、
締付対象の締付トルクが所定の基準を満たした場合に、締付作業時における前記トルクレンチの使用態様に応じた光源を発光させるステップとを備えることを特徴とするトルクレンチの報知方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トルクレンチに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来のトルクレンチとしては、特許文献1に示すように、締付対象の締付トルクが所定の範囲に達したことをLEDの発光によって報知するものがある。具体的には、このトルクレンチは、柄部の一箇所にLEDを設けた構成としている。
【0003】
このような構成であると、トルクレンチは、例えばヘッドの締付対象側を向く面(以下、ヘッド面ともいう)を下に向けて使用する場合もあれば、ヘッド面を横に向けて使用する場合もあるため、使用態様によってはLEDからの光が見えなくなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで、本出願人は、柄部の周方向の複数箇所にLEDを設けることで、使用態様によらず、少なくとも1つのLEDから射出された光を視認できるものを開発している。
【0006】
しかしながら、このような構成では、複数のLEDが用いられるので、1つのLEDを用いる構成に比べて、消費電力が大きくなるという問題がある。
【0007】
そこで、本発明は、締付作業時におけるトルクレンチの使用態様にかかわらず、少なくとも一つの光源からの光を視認できるようにしながらも、消費電力を抑えることを主な課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係るトルクレンチは、ヘッドと、前記ヘッドが先端部に設けられた柄部と、前記柄部の複数箇所に設けられ、その柄部の軸方向から見て互いに異なる向きに光を射出する複数の光源と、締付対象の締付トルクが所定の基準を満たした場合に前記光源を発光させる発光制御部とを備えたトルクレンチであって、前記発光制御部が、締付作業時における前記トルクレンチの使用態様に応じた光源を発光させるように構成されていることを特徴とするものである。
【0009】
このような構成であれば、複数の光源のうちトルクレンチの使用態様に応じた光源を、例えばその使用態様において視認可能な光を射出するものに設定しておくことで、トルクレンチの使用態様にかかわらず、少なくとも一つの光源からの光を視認できるようになる。しかも、トルクレンチの使用態様に応じた光源以外の光源を、例えば発光させなかったり、光量を落とすことにより、消費電力を抑えられる。
【0010】
消費電力を可及的に抑えるためには、前記発光制御部が、前記トルクレンチの使用態様に応じた光源以外の光源を発光させないことが好ましい。
【0011】
前記発光制御部が、前記締付作業時における前記トルクレンチの使用態様に関する情報である使用態様情報を受け付ける使用態様情報受付部と、前記使用態様情報受付部で受け付けた前記使用態様情報に基づいて、前記複数の光源のうち発光させる光源を決定する光源決定部と、前記締付作業時に締付対象の締付トルクが所定の基準を満たした場合に、前記光源決定部で決定された光源を発光させる光源発光部とを備えていることが好ましい。
このような構成であれば、発光制御部の回路構成を従来のものから大幅に変更することなく、トルクレンチの使用態様に応じた光源を発光させることができる。
【0012】
トルクレンチの使用態様は、主としてトルクレンチの姿勢や高度によって複数種類の態様に類別することができる。
そこで、前記使用態様情報が、締付作業時における前記トルクレンチの姿勢又は前記トルクレンチの高度のいずれか一方又は双方を含むことが好ましい。
【0013】
発光させる光源を決定するための具体的な構成としては、前記発光制御部が、前記使用態様情報が示すトルクレンチの使用態様と発光させる光源とを対応させた光源決定用データを記憶する光源決定用データ記憶部をさらに備え、前記光源決定部が、前記使用態様情報と前記光源決定用データとに基づいて発光させる光源を決定する構成を挙げることができる。
【0014】
より具体的な構成としては、ジャイロセンサ又は高度センサのいずれか一方又は双方をさらに備え、前記使用態様情報が、ジャイロセンサが検出する前記トルクレンチの姿勢を示す姿勢データ又は高度センサが検出する前記トルクレンチの高度を示す高度データのいずれか一方又は双方を含む構成を挙げることができる。
【0015】
実際の現場では、ヘッド面を上下又は前左右に向けて使用する場合が多い。そして、ヘッド面を上下に向けて使用する場合とヘッド面を前左右に向けて使用する場合とを比べると、作業者から見える柄部の箇所がおおよそ90度変わる。
【0016】
そこで、トルクレンチの使用態様によらずに少なくとも一つの光源からの光を視認できるようにするためには、
前記複数の光源が、前記柄部の軸方向から見て、互いに直交する方向から視認できるように配置されていることが好ましい。
【0017】
前記複数の光源が、前記柄部の周方向に沿って設けられており、前記柄部の周面に設けられ、それらの光源を覆うリング状の導光体をさらに備えていることが好ましい。
【0018】
このような構成であれば、光源からの光が導光体によって柄部の周方向に導光されるので、導光体がない場合に比べて、柄部の周囲の広い角度から光源の光を視認できるようになる。これにより、光源の数を減らしてもその光源からの光を視認できるようになる。従って、製造コストを抑えられる。
【0019】
本発明に係るトルクレンチ用プログラムは、ヘッドと、前記ヘッドが先端部に設けられた柄部と、前記柄部の複数箇所に設けられ、その柄部の軸方向から見て互いに異なる方向に光を射出する複数の光源と、締付対象の締付トルクが所定の基準を満たした場合に前記光源を発光させる発光制御部とを備えたトルクレンチに用いられるプログラムであって、締付作業時における前記ヘッドの向きに関する情報である使用態様情報を受け付ける使用態様情報受付部と、前記使用態様情報受付部で受け付けた前記使用態様情報に基づいて、前記複数の光源のうち発光させる光源を決定する光源決定部と、締付対象の締付トルクが所定の基準を満たした場合に、前記光源決定部によって決定された光源を発光させる光源発光部としての機能をコンピュータに発揮させることを特徴とするものである。
【0020】
本発明に係るトルクレンチの報知方法は、ヘッドと、前記ヘッドが先端部に設けられた柄部と、前記柄部の複数箇所に設けられ、その柄部の軸方向から見て互いに異なる方向に光を射出する複数の光源とを備えたトルクレンチの報知方法であって、締付対象の締付トルクが所定の基準を満たしたか否かを判断するステップと、締付対象の締付トルクが所定の基準を満たした場合に、締付作業時における前記トルクレンチの使用態様に応じた光源を発光させるステップとを備えることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0021】
このように構成したトルクレンチによれば、締付作業時におけるトルクレンチの使用態様にかかわらず、少なくとも1つの光源からの光を視認できるようにしながらも、消費電力を抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】本実施形態におけるトルクレンチの構成を模式的に示す斜視図である。
【
図2】同実施形態のトルクレンチの構成を模式的に示す断面図である。
【
図3】同実施形態の発光部の構成を模式的に示す断面図である。
【
図4】同実施形態のトルクレンチの使用態様を示す模式図である。
【
図5】同実施形態の発光制御部の機能を示す機能ブロック図である。
【
図6】同実施形態の発光制御部の動作を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下に本発明に係るトルクレンチ100を一実施形態について説明する。
【0024】
本実施形態に係るトルクレンチ100は、
図1及び
図2に示すように、例えばボルト、ナット、ネジ等の締付対象を所定の締付方向に回転させて締め付けるものである。具体的には、トルクレンチ100は、ヘッド10と、柄部20と、トルクセンサTSと、報知機構30とを備えている。
【0025】
ヘッド10は、締付対象に係合されるものである。本実施形態では、締付作業時にヘッド10の締付対象側を向く面(以下、ヘッド面10sという)に角ドライブ11が設けられている。すなわち、本実施形態では、角ドライブ11が設けられている面がヘッド面10sである。ただし、トルクレンチ100としては、角ドライブ11を備えておらず、ヘッド10が直接締付対象に係合するものであってもよい。
【0026】
柄部20は、長尺状のものであり、その先端にヘッド10が設けられている。具体的には、この柄部20は、手元側に設けられた把持部21と、把持部21とヘッド10との間に介在するシャフト部22と、シャフト部22を覆うケーシング23とを備えている。なお、ケーシング23の外面には、外面に沿ってディスプレイDが設けられており、その内部には電子機器やそれらの配線が収容されている。
【0027】
トルクセンサTSは、締付対象の締付トルクを検出するものである。具体的には、トルクセンサTSは、シャフト部22に設けられた歪みゲージを備え、その歪みゲージの歪み量に基づいて締付トルクを検出するように構成されている。なお、このトルクセンサTSで検出された締付トルクは、ディスプレイDに表示される。
【0028】
報知機構30は、トルクセンサTSにより検出された締付トルクが所定の基準を満たした場合に、そのことを報知するものであり、具体的には発光部40と、発光部40の発光を制御する発光制御部Cとを備えている。
【0029】
発光部40は、
図2及び
図3に示すように、ケーシング23の例えば先端部に設けられており、柄部20の周方向に沿って設けられた複数の光源41を備えている。
【0030】
複数の光源41は、例えば柄部20の周方向に沿って規則的に配置されており、ここでは等間隔に配置されている。但し、これらの光源41は、不規則に配置されていてもよく、等間隔に配置されていなくてもよい。
【0031】
本実施形態の発光部40は、
図3に示すように、複数の光源41を覆う導光体42をさらに備えている。この導光体42は、リング状のものであり、光源41から射出された光を拡散させつつ柄部20の周方向に導光するものである。
【0032】
ここで、トルクレンチ100は、例えば締付対象の配置や回転軸の向きによって使用態様が変わる。具体的には、
図4に示すように、次の6つの使用態様(使用態様A~使用態様F)に類別することができる(表1参照)。以下これらの使用態様について詳述する。
【0033】
[使用態様A]
使用態様Aは、締付対象が作業者の目の高さよりも下側にあり、その回転軸が上下方向を向く場合の使用態様である。この使用態様Aにおけるトルクレンチ100は、ヘッド面10sが下(垂直方向)を向く姿勢で、作業者の目の高さよりも下側で使用される。
【0034】
[使用態様B]
使用態様Bは、締付対象が作業者の目の高さよりも下側にあり、その回転軸が前後方向を向く場合の使用態様である。この使用態様Bにおけるトルクレンチ100は、ヘッド面10sが前(水平方向)を向く姿勢で、作業者の目の高さよりも下側で使用される。
【0035】
[使用態様C]
使用態様Cは、締付対象が作業者の目の高さよりも下側にあり、その回転軸が左右方向を向く場合の使用態様である。この使用態様Cにおけるトルクレンチ100は、ヘッド面10sが左右(水平方向)を向く姿勢で、作業者の目の高さよりも下側で使用される。
【0036】
[使用態様D]
使用態様Dは、締付対象が作業者の目の高さよりも上側にあり、その回転軸が上下方向を向く場合の使用態様である。この使用態様Dにおけるトルクレンチ100は、ヘッド面10sが上(垂直方向)を向く姿勢で、作業者の目の高さよりも上側で使用される。
【0037】
[使用態様E]
使用態様Eは、締付対象が作業者の目の高さよりも上側にあり、その回転軸が前後方向を向く場合の使用態様である。この使用態様Eにおけるトルクレンチ100は、ヘッド面10sが前(水平方向)を向く姿勢で、作業者の目の高さよりも上側で使用される。
【0038】
[使用態様F]
使用態様Fは、締付対象が作業者の目の高さよりも上側にあり、その回転軸が左右方向を向く場合の使用態様である。この使用態様Fにおけるトルクレンチ100は、ヘッド面10sが左右(水平方向)を向く姿勢で、作業者の目の高さよりも上側で使用される。
【0039】
【0040】
これらの使用態様A乃至Fでは、柄部20の手前になる箇所が変わる。そこで、トルクレンチ100は、いずれの使用態様であっても作業者がいずれかの光源からの光を視認できるように構成されている。具体的には、使用態様A、Eと使用態様B,C,D,Fとでは、柄部20の手前になる箇所がおおよそ90度変わる。そこで、複数の光源41は、柄部20の軸方向(
図3における紙面と直交する方向)から見て、互いに直交する方向から視認できるように配置されていることが好ましい。また、互いに隣り合う光源41の光の射出方向のなす角度が90度を大きく外れると、いずれかの使用態様で、光源41を視認できなくなる可能性がある。このため、これらの光源41の光の射出方向のなす角度は、90度前後であることが好ましく、より具体的には、80度以上100度以下であることが好ましい。
【0041】
本実施形態の発光部40は、4つの光源41を備えている。そして、これら4つの光源41は、互いに隣り合う光源41の光の射出方向のなす角度が90度となるように配置されている。
【0042】
より具体的に説明すると、これら4つの光源41からの光は、ヘッド面10sが向く方向α(具体的には、係合方向)、その反対方向β(具体的には、反係合方向)、これらの方向と直交する一方の方向X(具体的には、締付方向)、その他方の方向Y(具体的には、反締付方向)からそれぞれ視認できるように配置されている。すなわち、これら4つの光源41はそれぞれ、柄部20の外面において方向α、方向β、方向X、方向Yを向く箇所に配置されている。
【0043】
発光制御部Cは、トルクセンサTSで検出された締付トルクが所定の基準を満たした場合に、発光部40を発光させるものであり、物理的には、CPU、メモリ、AD変換器等を備えたものである。
【0044】
しかして、この発光制御部Cは、上述したメモリに格納されたプログラムに従ってCPUやその周辺機器が協働することにより、
図5に示すように、使用態様情報受付部C1、使用態様判断部C2、光源決定用データ記憶部C3、光源決定部C4、閾値記憶部C5、光源発光部C6としての機能を発揮するように構成されている。
【0045】
以下、各部の機能の説明を兼ねて、
図6のフローチャートを参照しながら、発光制御部Cの動作について説明する。
【0046】
まず、使用態様情報受付部C1は、締付作業時におけるトルクレンチ100の使用態様に関する情報である使用態様情報を受け付ける(S1)。
【0047】
ここで使用態様情報とは、トルクレンチ100の使用態様そのものを示す情報であってもよく、トルクレンチ100の使用態様を判断するために必要な情報であってもよい。
【0048】
本実施形態の使用態様情報受付部C1は、使用態様が上述した使用態様A乃至Fの何れかであるかを判断するために用いられる情報を受け付けるものであり、具体的には、トルクレンチ100の姿勢(具体的にはヘッド面10sの向き)を示す姿勢データと、高度センサASが検出したトルクレンチ100の高度を示す高度データとを使用態様情報として受け付ける。
【0049】
より具体的に説明すると、本実施形態のトルクレンチ100は、
図2に示すように、ジャイロセンサGS及び高度センサASをさらに備えており、使用態様情報受付部C1は、ジャイロセンサGSが検出したトルクレンチ100の姿勢を示す姿勢データと、高度センサASが検出したトルクレンチ100の高度を示す高度データとを使用態様情報として受け付ける。
【0050】
なお、ジャイロセンサGSの一例としては、例えば所定の姿勢で起動させたトルクレンチ100のその後の姿勢を角速度の変化に基づいて検知するものを挙げることができる。本実施形態のトルクレンチ100は、このジャイロセンサGSにより検出された角速度に基づいて、締付作業時におけるトルクレンチ100の締付回転角度を算出する回転角度算出部(不図示)としての機能を備えており、ネジ締結を締付回転角で管理する所謂回転角法に資するものである。すなわち、本実施形態のジャイロセンサGSは、上述したようにトルクレンチ100の姿勢の検出と、トルクレンチ100の締付回転角の検出とに兼用されるものである。
また、高度センサASの一例としては、例えば気圧に基づいてトルクレンチ100の高度を検知するものを挙げることができる。
【0051】
次に、使用態様判断部C2が、使用態様情報受付部C1で受け付けた使用態様情報に基づいてトルクレンチ100の使用態様を判断する。
本実施形態の使用態様判断部C2は、使用態様情報に基づいて締付作業時におけるトルクレンチ100の高さ及び/又は姿勢を判断するものである。
【0052】
高さを判断する具体的な態様としては、上述した高度データと、所定の基準高度データとを比較して、例えばトルクレンチ100が作業者の目の高さよりも高い位置で使用されているか低い位置で使用されているかを判断するものを挙げることができる。この場合の基準高さデータは、例えば締付作業時における作業者の目の高さに設定しておき、前記メモリの所定領域に記憶させておけば良い。
【0053】
また、姿勢を判断する具体的な態様としては、上述した姿勢データからトルクレンチ100がヘッド面10sをどの方向に向けた姿勢であるか判断するものを挙げることができる。
【0054】
そして、本実施形態の使用態様判断部C2は、これらの高さ及び姿勢の判断に基づいて、トルクレンチ100が、前記使用態様A~Fのうちいずれの使用態様で使用されているか判断する。
【0055】
光源決定用データ記憶部C3は、前記メモリの所定領域に設定されており、上述したように予め類別された複数の使用態様情報が示す使用態様と、それぞれ使用態様に応じて発光させる光源41(以下、発光対象光源41ともいう)との関係を示す光源決定用データを記憶するものである。なお、光源決定用データ記憶部C3は、入力手段を介して光源決定用データを入力して追加・修正等できるようになっている。
【0056】
この光源決定用データは、使用態様と1つの発光対象光源41とを結びつけたデータであってもよく、使用態様と複数の発光対象光源41とを結びつけたデータであってもよい。そして、この発光対象光源41としては、トルクレンチ100がその使用態様で使用された場合に、作業者が柄部20の周囲からその光を視認できるものである。具体的には、使用態様A、Eの場合の発光対象光源41と、使用態様B、C、D、Fの場合の発光対象光源41とは、柄部20の軸方向から見て、互いに直交する方向から視認できるものが設定されている。本実施形態では、使用態様A、Eに対応する発光対象光源41としては、
図4(a)に示すように、柄部20の反係合方向βから視認できる光源(第1光源)41及び締付方向Xから視認できる光源(第2光源)41の一方又は両方が設定され、使用態様B、C、D、Fの場合に発光される光源41としては、
図4(a)、(b)に示すように、反係合方向βから視認できる光源(第1光源)41及び反締付方向Yから視認できる光源(第3光源)41の一方又は両方が設定されている。
【0057】
次に、光源決定部C4が、使用態様判断部C2が判断したトルクレンチ100の使用態様に基づいて、発光部40に設けられた複数の光源41のうち発光対象光源41を決定する(S2)。
本実施形態の光源決定部C4は、使用態様判断部C2が判断したトルクレンチの使用態様と、光源決定用データ記憶部C3に記憶されている光源決定用データとに基づいて、発光対象光源41を決定するように構成されている。
【0058】
閾値記憶部C5は、前記メモリの所定領域に設定されており、締付トルクの閾値を記憶するものである。なお、閾値記憶部C5は、入力手段を介して閾値を入力して追加・修正等できるようになっている。
この閾値記憶部C5は、少なくとも締付トルクの許容可能な下限値を閾値として記憶している。ここでは締付トルクの目標値も閾値として記憶している。
【0059】
光源発光部C6は、締付対象の締付トルクが所定の基準を満たした場合に、光源決定部C4によって決定された発光対象光源41を発光させる。ここでの光源発光部C6は、発光対象光源41以外の光源41を発光させないが、発光対象光源41以外の光源41の光量を落として発光させるものであってもよい。
本実施形態の光源発光部C6は、締付トルクが閾値記憶部C5に記憶されている閾値を越えた場合に、発光対象光源41を発光させるように構成されている。具体的には、締付トルクが下限値を越えた場合と目標値を越えた場合とで、発光対象光源41の発光態様を変えるように構成されている。
より具体的に説明すると、光源発光部C6は、トルクセンサTSで検出された締付トルクを取得する(S3)。続いて、その締付トルクが目標値を越えているか否かを判断する(S4)。そして、締付トルクが目標値を越えていると判断すると、発光対象光源41を例えば赤色に発光させる(S5)。一方、締付トルクが目標値を越えていないと判断すると、続いて、締付トルクが下限値を越えているか否かを判断する(S6)。そして、締付トルクが下限値を越えていると判断すると、発光対象光源41を例えば緑色に発光させる。一方、締付トルクが下限値を越えていないと判断すると、再度トルクセンサTSから締付トルクを取得する。なお、発光対象光源41の発光態様としては、例えば点灯と点滅とで切り替えたり、点滅速度を変えたりしてもよく、また、これらの発光態様を組み合わせて変えてもよい。
【0060】
このように構成されたトルクレンチ100によれば、トルクレンチ100の使用態様に応じて柄部20の複数箇所に設けられた光源41のうち作業者から見える発光対象光源41を発光させるので、トルクレンチ100の使用態様にかかわらず、発光対象光源41の発光を視認できるようになる。しかも、トルクレンチ100の使用態様に応じた発光対象光源41以外の光源41を発光させないので、消費電力を抑えられる。
【0061】
また、柄部20の軸方向から見て、4つの光源41の光の射出する向きを互いに90度ずらしたので、ヘッド10の向きがどのような向きになっても、いずれかの光源41の発光を視認できる。
【0062】
さらに、複数の光源41をリング状の導光板42により覆っているので、導光体42がない場合に比べて、柄部20の周囲の広い角度から光源の光を視認できるようになる。これにより、光源41の数を減らしてもその光源41からの光を視認することができ、製造コストをさらに抑えることができる。
【0063】
なお、本発明は前記実施形態に限られるものではない。
【0064】
例えば、前記実施形態では、使用態様情報受付部が、トルクレンチに設けられた各センサから使用態様情報を受け付けるようになっているが、トルクレンチの外部に設けられた各センサ等から使用態様情報を受け付けるようになっていてもよい。この場合、例えばトルクレンチに無線又は有線で接続される情報処理装置と、締付作業時におけるトルクレンチを撮影するカメラとをさらに設け、情報処理装置によってカメラで撮影された画像データからトルクレンチの姿勢を示す姿勢データとトルクレンチの高度を示す高度データと特定し、これらのデータが使用態様情報受付部に送信されるように構成してもよい。また、情報処理装置に使用態様判断部としての機能を設け、その使用態様判断部で取得した使用態様データを使用態様情報として情報処理装置から使用態様情報受付部に送信するように構成してもよい。この場合、トルクレンチが使用態様判断部としての機能を備えている必要がない。
【0065】
また、発光制御部としては、トルクレンチの使用態様に応じて発光させる光源を切り替えるべく、例えばヘッド面の向きを変えると回路構成が切り替わるような回路を利用して構成されていても良い。なお、このような回路としては、例えば使用態様に応じて作業者により切替可能なスイッチや、ヘッド面の向きに応じて例えば重り等が作動して切り替わるスイッチなどを利用したものを挙げることができる。
【0066】
光源決定用データとしては、例えば締付作業毎に修正可能なものであっても良い。これにより、作業者は、締付作業毎にその締付作業で視認できる光源を発光させる光源として自由に設定・変更することができる。
【0067】
前記実施形態では、発光部が、導光体を備えているが、この導光体は必ずしも設ける必要がない。
【0068】
また、トルクレンチが、モンキーレンチタイプのものやヘッド差替タイプのもののように、裏返して使用可能なものであれば、前記実施形態における係合方向αから視認できる光源(第4光源)が発光対象光源として設定されていても良い。
【0069】
その他、本発明は前記各実施形態に限られず、その趣旨を逸脱しない範囲で種々の変形が可能であるのは言うまでもない。
【符号の説明】
【0070】
100 トルクレンチ
10 ヘッド
20 柄部
30 報知機構
40 発光部
41 光源
TS トルクセンサ
C 発光制御部
C1 使用態様情報受付部
C2 使用態様判断部
C3 光源決定用データ記憶部
C4 光源決定部
C5 閾値記憶部
C6 光源発光部