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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022106480
(43)【公開日】2022-07-20
(54)【発明の名称】内燃機関の1軸バランサ
(51)【国際特許分類】
   F16F 15/32 20060101AFI20220712BHJP
   F16F 15/26 20060101ALI20220712BHJP
【FI】
F16F15/32 L
F16F15/26 F
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021001501
(22)【出願日】2021-01-07
(71)【出願人】
【識別番号】000003218
【氏名又は名称】株式会社豊田自動織機
(74)【代理人】
【識別番号】110000394
【氏名又は名称】特許業務法人岡田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】東 泰弘
(57)【要約】
【課題】内燃機関のクランクシャフトが発生する振動を抑制する荷重を適切に発生するとともに、クランクシャフトが発生する振動を抑制する荷重以外の荷重の発生をより低減し、かつ、1軸で構成された、内燃機関の1軸バランサを提供する。
【解決手段】外周円筒面41Mと内周円筒面41Nと一対の底面と容器内部空間41Kとを有する円筒状容器41と、1本の回転軸部材42とを有し、容器内部空間には液体が封入されている。容器内部空間41Kには、外周円筒内壁41MNから径方向内側に延ばされた平面状の加速時荷重受面41Aと、加速時荷重受面41Aの径方向内側の端部から第1所定角度にて円筒状容器の回転方向とは反対側に向かって外周円筒内壁41MNまで延ばされた平面状の減速時荷重受面41Bと、が設けられ、一対の底面と加速時荷重受面と減速時荷重受面とで囲まれて液体の浸入が禁止された液体浸入禁止領域41Xが設けられている。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関のクランクシャフトの回転に同期して発生する振動を抑制する、内燃機関の1軸バランサであって、
前記1軸バランサは、1本の回転軸部材と単数または複数の円筒状容器を有し、
前記円筒状容器は、径方向外側の円筒面である外周円筒面と、径方向内側の円筒面である内周円筒面と、一対の底面と、を有するとともに、前記外周円筒面と前記内周円筒面と一対の前記底面とで囲まれた容器内部空間と、を有しており、
前記容器内部空間には、満杯に充填されることなく空洞部を有するように液体が封入されており、
前記円筒状容器における前記底面に直交する中心軸線である円筒中心軸線と、前記回転軸部材の中心軸線である軸部材中心軸線とは一致しており、
前記1軸バランサは、前記軸部材中心軸線が、前記クランクシャフトの回転軸線であるクランク回転軸線と平行となるように前記クランクシャフトの下方に配置され、前記クランクシャフトと同期して前記軸部材中心軸線回りに回転するとともに、Nを自然数としてN気筒の前記内燃機関に対して前記クランクシャフトのN/2倍の速度で回転し、
前記容器内部空間には、
前記円筒状容器の一方の前記底面から他方の前記底面にわたって、前記外周円筒面の内壁である外周円筒内壁から径方向内側に所定距離だけ延ばされた平面状の加速時荷重受面と、
前記円筒状容器の一方の前記底面から他方の前記底面にわたって、前記加速時荷重受面における径方向内側の端部から第1所定角度にて前記円筒状容器の回転方向とは反対側に向かって前記外周円筒内壁まで延ばされた平面状の減速時荷重受面と、
が設けられており、
前記前記円筒状容器の一方の前記底面と、他方の前記底面と、前記加速時荷重受面と、前記減速時荷重受面とで囲まれて前記液体の浸入が禁止された液体浸入禁止領域が設けられている、
内燃機関の1軸バランサ。
【請求項2】
請求項1に記載の内燃機関の1軸バランサであって、
前記加速時荷重受面と前記減速時荷重受面とが成す前記第1所定角度は、90°以上に設定されている、
内燃機関の1軸バランサ。
【請求項3】
請求項1または2に記載の内燃機関の1軸バランサであって、
前記軸部材中心軸線の方向から前記加速時荷重受面と前記減速時荷重受面を見た場合、
前記減速時荷重受面と前記外周円筒内壁との接続個所と前記軸部材中心軸線とを結んだ第1仮想直線と、
前記加速時荷重受面と前記外周円筒内壁との接続個所と前記軸部材中心軸線とを結んだ第2仮想直線と、
が成す第2所定角度は、45°以上かつ90°以下に設定されている、
内燃機関の1軸バランサ。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか一項に記載の内燃機関の1軸バランサであって、
前記軸部材中心軸線の方向から前記減速時荷重受面を見た場合、
前記減速時荷重受面は、径方向内側に向かって凹状となるように湾曲した形状とされている、
内燃機関の1軸バランサ。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか一項に記載の内燃機関の1軸バランサであって、
前記加速時荷重受面と前記減速時荷重受面は、前記円筒状容器の前記外周円筒面を径方向内側に変形させて形成されている、
内燃機関の1軸バランサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関のクランクシャフトの回転に同期して発生する振動を抑制する、内燃機関の1軸バランサに関する。
【背景技術】
【0002】
往復運動するピストンにてクランクシャフトを回転させる内燃機関では、クランクシャフトの回転に同期して振動が発生する。図14に示すように従来の内燃機関110には、クランクシャフト111の下方に設けられたバランサ120とバランサ130とで構成された2軸バランサ140にて、内燃機関110の振動を抑制しているものがある。なお、内燃機関が直列4気筒の場合、バランサ120とバランサ130は、クランクシャフトの回転に同期してクランクシャフトの回転速度の2倍の速度で回転し、互いに逆方向に回転する。またバランサ120の回転軸線120Jとバランサ130の回転軸線130Jは、水平方向に並列するように設定されているとともに、クランクシャフトの回転軸線111Jと平行に設定されている。またバランサ120には回転軸線120J回りに回転する偏心錘121が設けられ、バランサ130には回転軸線130J回りに回転する偏心錘131が設けられている。また偏心錘121、131は、回転中は、互いの偏心錘の先端(回転軸線から最も離れた位置)の上下方向の高さが同じとなるように設定されている。また内燃機関が直列4気筒の場合、クランクシャフトの角速度(ωa)に対して、バランサ120とバランサ130は2倍の角速度(2*ωa)にて回転する。これにより、偏心錘121、131による左右方向の荷重を相殺し、上下方向に荷重を発生させて、クランクシャフト111の上下方向の振動を抑制している。しかし、バランサ120とバランサ130の2つ(2軸)が必要な2軸バランサ140は、内燃機関110への比較的大きな搭載スペースが必要であり、内燃機関110の重量増加にもつながるので、1軸バランサが所望されている。
【0003】
例えば特許文献1には、縦型洗濯機の脱水層の上端部に、液体を封入した中空リングを、脱水層と同軸となるように脱水層に固定し、不つり合い質量をもって回転する脱水層の振動を抑制する液体バランス装置(1軸バランサ)が開示されている。中空リングは、外周面となる外壁と、内周面となる内壁と、上下の底面となる上ふたと下ふたと、を有する円筒状であり、内部の容積の半分程度の液体が封入されている。また外壁の内側壁面には、径方向内側に向かって、外壁と内壁との間の半分程度まで延びる遮蔽板が設けられ、遮蔽板の先端と内壁との間には隙間が形成されている。また遮蔽板における外壁の内側壁面の近傍には、前記隙間(遮蔽板の先端と内壁との間の隙間)にて形成された第1通路よりも小さな第2通路が形成されている。この構成により、縦型洗濯機の脱水層の静止時から定常回転に達するまでの過渡状態や、不つり合い質量をもって定常回転する脱水層の振動を抑制している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭63-158336号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載の液体バランス装置の振動対象である脱水層が振動する場合、不つり合い質量により、脱水層が1回転するごとに1回の振動が発生する。しかし、例えば4気筒の内燃機関では、クランクシャフトの2回転で4回の燃焼工程が有り、振動対象であるクランクシャフトは1回転するごとに2回振動する。この場合、液体バランス装置の回転速度をクランクシャフトの回転速度の2倍にする必要がある。
【0006】
また特許文献1に記載の液体バランス装置を、例えば4気筒の内燃機関に適用した場合、図15に示すような構成となる。図15に示す例では、内燃機関210のクランクシャフト211の回転軸線211Jと平行となるように、液体バランス装置240の回転軸線242Jが設定されている。またクランクシャフト211の回転速度(角速度ωa)に対して、液体バランス装置240の回転速度(角速度2*ωa)は2倍とされている。また液体バランス装置240の中空リング241内には液体が封入され、中空リング241の外壁から内壁に向かって延びる遮蔽板241Aが配置される。しかし、図15の例に示す液体バランス装置240の構成では、遮蔽板241Aが板状であり、クランクシャフト211の回転に同期して発生する鉛直方向の振動Skに対して、クランクシャフト211の振動Skを抑制する荷重Kv(鉛直方向の荷重)を発生させることができるかも知れないが、水平方向の荷重Khも発生させてしまう可能性がある。従って、クランクシャフト211の鉛直方向の振動Skを抑制できても、水平方向の荷重Khに基づいた振動を新たに発生させてしまう可能性がある。
【0007】
本発明は、このような点に鑑みて創案されたものであり、内燃機関のクランクシャフトが発生する振動を抑制する荷重を適切に発生するとともに、クランクシャフトが発生する振動を抑制する荷重以外の荷重の発生をより低減し、かつ、1軸で構成された、内燃機関の1軸バランサを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、本発明の第1の発明は、内燃機関のクランクシャフトの回転に同期して発生する振動を抑制する、内燃機関の1軸バランサである。前記1軸バランサは、1本の回転軸部材と単数または複数の円筒状容器を有し、前記円筒状容器は、径方向外側の円筒面である外周円筒面と、径方向内側の円筒面である内周円筒面と、一対の底面と、を有するとともに、前記外周円筒面と前記内周円筒面と一対の前記底面とで囲まれた容器内部空間と、を有している。また前記容器内部空間には、満杯に充填されることなく空洞部を有するように液体が封入されており、前記円筒状容器における前記底面に直交する中心軸線である円筒中心軸線と、前記回転軸部材の中心軸線である軸部材中心軸線とは一致している。また前記1軸バランサは、前記軸部材中心軸線が、前記クランクシャフトの回転軸線であるクランク回転軸線と平行となるように前記クランクシャフトの下方に配置され、前記クランクシャフトと同期して前記軸部材中心軸線回りに回転するとともに、Nを自然数としてN気筒の前記内燃機関に対して前記クランクシャフトのN/2倍の速度で回転する。そして前記容器内部空間には、前記円筒状容器の一方の前記底面から他方の前記底面にわたって、前記外周円筒面の内壁である外周円筒内壁から径方向内側に所定距離だけ延ばされた平面状の加速時荷重受面と、前記円筒状容器の一方の前記底面から他方の前記底面にわたって、前記加速時荷重受面における径方向内側の端部から第1所定角度にて前記円筒状容器の回転方向とは反対側に向かって前記外周円筒内壁まで延ばされた平面状の減速時荷重受面と、が設けられており、前記前記円筒状容器の一方の前記底面と、他方の前記底面と、前記加速時荷重受面と、前記減速時荷重受面とで囲まれて前記液体の浸入が禁止された液体浸入禁止領域が設けられている、内燃機関の1軸バランサである。
【0009】
次に、本発明の第2の発明は、上記第1の発明に係る内燃機関の1軸バランサであって、前記加速時荷重受面と前記減速時荷重受面とが成す前記第1所定角度は、90°以上に設定されている、内燃機関の1軸バランサである。
【0010】
次に、本発明の第3の発明は、上記第1の発明または第2の発明に係る内燃機関の1軸バランサであって、前記軸部材中心軸線の方向から前記加速時荷重受面と前記減速時荷重受面を見た場合、前記減速時荷重受面と前記外周円筒内壁との接続個所と前記軸部材中心軸線とを結んだ第1仮想直線と、前記加速時荷重受面と前記外周円筒内壁との接続個所と前記軸部材中心軸線とを結んだ第2仮想直線と、が成す第2所定角度は、45°以上かつ90°以下に設定されている、内燃機関の1軸バランサである。
【0011】
次に、本発明の第4の発明は、上記第1の発明~第3の発明のいずれか1つに係る内燃機関の1軸バランサであって、前記軸部材中心軸線の方向から前記減速時荷重受面を見た場合、前記減速時荷重受面は、径方向内側に向かって凹状となるように湾曲した形状とされている、内燃機関の1軸バランサである。
【0012】
次に、本発明の第5の発明は、上記第1の発明~第4の発明のいずれか1つに係る内燃機関の1軸バランサであって、前記加速時荷重受面と前記減速時荷重受面は、前記円筒状容器の前記外周円筒面を径方向内側に変形させて形成されている、内燃機関の1軸バランサである。
【発明の効果】
【0013】
第1の発明によれば、1本の回転軸部材を有する1軸で1軸バランサを構成し、外周円筒内壁から径方向内側に向かって延ばされた加速時荷重受面を有することで、燃焼工程による加速時のクランクシャフトが発生する振動を抑制する荷重を、適切に発生させることができる。さらに、加速時荷重受面に加えて、加速時荷重受面の径方向内側の端部から所定角度にて円筒状容器の回転方向とは反対方向に向かって外周円筒内壁まで延ばされた減速時荷重受面を有することで、燃焼工程での加速の後、次の燃焼工程までの減速時に、クランクシャフトが発生する振動(鉛直方向の振動)を抑制する荷重(鉛直方向の荷重)以外の荷重(水平方向の荷重など)の発生を、低減することができる。
【0014】
第2の発明によれば、燃焼工程での加速の後、次の燃焼工程までの減速時に、クランクシャフトが発生する振動(鉛直方向の振動)を抑制する荷重(鉛直方向の荷重)以外の荷重(水平方向の荷重など)の発生を、より低減することができる。
【0015】
第3の発明によれば、減速時荷重受面を、適切な大きさに設定することができる。
【0016】
第4の発明によれば、燃焼工程での加速の後、次の燃焼工程までの減速時に、クランクシャフトが発生する振動(鉛直方向の振動)を抑制する荷重(鉛直方向の荷重)以外の荷重(水平方向の荷重など)の発生を、さらに低減することができる。
【0017】
第5の発明によれば、より容易に円筒状容器を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】第1の実施の形態の1軸バランサの外観の例を説明する斜視図である。
図2図1に示す1軸バランサをII方向から見た図である。
図3図2におけるIII-III断面図である。
図4図3に示す第1の実施の形態の1軸バランサに対して、減速時荷重受面の形状が異なる第2の実施の形態の1軸バランサの例を説明する図である。
図5】内燃機関内における1軸バランサの配置位置の例を説明する図である。
図6】内燃機関内における1軸バランサの配置位置の例を説明する図である。
図7】直列4気筒の内燃機関の例において、各気筒の工程と、1軸バランサに発生する荷重の例を説明する図である。
図8】第1気筒の圧縮上死点から第3気筒の圧縮上死点までの、クランクシャフトシャフトの180[°]の回転に対し、1軸バランサが1回転する様子と、各クランクシャフトの回転角度に対する1軸バランサに発生する荷重の例を説明する図である。
図9図8における時間T01、時間T02の加速時に、1軸バランサの加速時荷重受面が受ける荷重を説明する図である。
図10図8における時間T05、時間T06、時間T07の減速時に、1軸バランサの減速時荷重受面が受ける荷重を説明する図である。
図11】減速時荷重受面を有していない「比較例」の1軸バランサにおいて、図13における時間T01、時間T02の加速時に、「比較例」の1軸バランサの荷重受面が受ける荷重の例を説明する図である。
図12】減速時荷重受面を有していない「比較例」の1軸バランサにおいて、図13における時間T05、時間T06、時間T07の減速時に、「比較例」の1軸バランサの荷重受面が受ける荷重の例を説明する図である。
図13図8に対して、第1気筒の圧縮上死点から第3気筒の圧縮上死点までの、クランクシャフトの180[°]の回転に対し、減速時荷重受面を有していない「比較例」の1軸バランサが1回転する様子と、各クランクシャフトの回転角度に対する「比較例」の1軸バランサに発生する荷重の例を説明する図である。
図14】内燃機関に設けられた、従来の2軸バランサの例を説明する図である。
図15】特許文献1に記載の液体バランサ装置を内燃機関に適用した場合の例を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
[第1の実施の形態の1軸バランサ40の構造(図1図3)]
図1図3を用いて、内燃機関のクランクシャフトの回転に同期して発生する振動を抑制する、第1の実施の形態の1軸バランサ40の構成等について説明する。なお、図中にX軸、Y軸、Z軸が記載されている場合、X軸とY軸とZ軸は互いに直交しており、Z軸は鉛直上方を示し、X軸とY軸は水平方向を示している。
【0020】
図1及び図2に示すように、1軸バランサ40は、1本の回転軸部材42と、単数または複数の円筒状容器41とを有する。なお、以降では単数の円筒状容器41を有する1軸バランサの例で説明する。回転軸部材42は、円柱状の中空または中実の棒状の部材である。円筒状容器41は、径方向外側の円筒面である外周円筒面41Mと、径方向内側の円筒面である内周円筒面41Nと、一対の底面41C、41Dとを有している。
【0021】
そして円筒状容器41は、外周円筒面41Mと内周円筒面41Nと一対の底面41C、41Dとで囲まれた容器内部空間41Kを有している。容器内部空間41Kには、図3に示すように、満杯に充填されることなく空洞部を有するように液体LQが封入されている。液体LQは、例えばオイルである。図1に示すように、円筒状容器41における底面41C、41Dに直交する中心軸線である円筒中心軸線41Jと、回転軸部材42の中心軸線である軸部材中心軸線42Jは一致している。つまり、円筒状容器41と回転軸部材42は同軸である。そして1軸バランサ40は、軸部材中心軸線回りに回転する。
【0022】
図1図3に示すように、容器内部空間41Kには、円筒状容器41の一方の底面41C(図1、2参照)から他方の底面41D(図1、2参照)にわたって、外周円筒面41Mの内壁である外周円筒内壁41MNから径方向内側に所定距離D1(図3参照)だけ延ばされた平面状の加速時荷重受面41Aが設けられている。なお、所定距離D1の長さは、種々の実験やシミュレーション等に基づいて適切な長さに設定されており、加速時荷重受面41Aと回転軸部材42との間(または加速時荷重受面41Aと内周円筒面41Nとの間)には隙間が設定されている。
【0023】
また図1及び図2に示すように、容器内部空間41Kには、円筒状容器41の一方の底面41C(図1、2参照)から他方の底面41D(図1、2参照)にわたって、加速時荷重受面41Aにおける径方向内側の端部から第1所定角度θ1(図3参照)にて円筒状容器41の回転方向(クランクシャフトの回転に同期して回転する場合の回転方向)とは反対側に向かって外周円筒内壁41MNまで延ばされた平面状の減速時荷重受面41Bが設けられている。なお第1所定角度θ1は、90[°]以上の角度に設定されている。
【0024】
そして図1図3に示すように、円筒状容器41の一方の底面41C(図1、2参照)と、他方の底面41D(図1、2参照)と、加速時荷重受面41Aと、減速時荷重受面41Bとで囲まれて液体LQ(図3参照)の浸入が禁止された液体浸入禁止領域41X(図1図3参照)が設けられている。
【0025】
また図3に示すように、軸部材中心軸線42Jの方向から加速時荷重受面41Aと減速時荷重受面41Bを見た場合、減速時荷重受面41Bと外周円筒内壁41MNとの接続個所と、軸部材中心軸線42Jとを結ぶ第1仮想直線VL1を設定する。同様に、軸部材中心軸線42Jの方向から加速時荷重受面41Aと減速時荷重受面41Bを見た場合、加速時荷重受面41Aと外周円筒内壁41MNとの接続個所と、軸部材中心軸線42Jとを結ぶ第2仮想直線VL2を設定する。この場合、第1仮想直線VL1と第2仮想直線VL2とが成す第2所定角度θ2は、45[°]以上かつ90[°]以下に設定されている。
【0026】
[第2の実施の形態の1軸バランサ40Bの構造(図4)]
次に図4を用いて、第2の実施の形態の1軸バランサ40Bの構成について説明する。図4に示す第2の実施の形態の1軸バランサ40Bは、図3に示す第1の実施の形態の1軸バランサ40に対して、減速時荷重受面41Bの構造が異なる。
【0027】
図4に示すように第2の実施の形態の1軸バランサ40Bは、軸部材中心軸線42Jの方向から減速時荷重受面41Bを見た場合、減速時荷重受面41Bは、径方向内側に向かって凹状となるように湾曲した湾曲形状とされている。なお、他の構成については、第1の実施の形態の1軸バランサ40と同様であるので、説明を省略する。
【0028】
[1軸バランサの配置位置(図5図6)]
次に図5及び図6を用いて、内燃機関10への1軸バランサ40、40Bの配置位置について説明する。なお、以降では内燃機関10が直列4気筒のディーゼルエンジンである場合の例、かつ第1の実施の形態の1軸バランサ40の例で説明する。
【0029】
図5及び図6に示すように、1軸バランサ40は、軸部材中心軸線42Jが、内燃機関10のクランクシャフト11の回転軸線であるクランク回転軸線11Jと平行となるようにクランクシャフト11の下方に配置されている。また図6に示すように、1軸バランサ40が単数(1個)の円筒状容器41を有する場合では、内燃機関10が直列4気筒の場合、第2気筒(#2)と第3気筒(#3)の間の下方となる位置に、円筒状容器41が配置される。また1軸バランサ40が有する円筒状容器41は複数であってもよく、例えば3個の円筒状容器41を有する場合では、図6に示すように、第1気筒(#1)と第2気筒(#2)の間の下方、第2気筒(#2)と第3気筒(#3)の間の下方、第3気筒(#3)と第4気筒(#4)の間の下方、に円筒状容器41を配置するようにしてもよい。
【0030】
そして1軸バランサ40は、Nを自然数としてN気筒の内燃機関10に対して、クランクシャフト11のN/2倍の速度で回転するように設定されている。内燃機関10が直列4気筒の場合、N=4であるので、1軸バランサ40は、クランクシャフト11の回転速度の2倍の回転速度で回転するように、ギアやチェーン等にて駆動される。なお、1軸バランサ40の回転方向は、クランクシャフト11の回転方向と同一方向であってもよいし、逆方向であってもよい。
【0031】
[クランクシャフトの振動と、1軸バランサに発生する荷重の例(図7図10)]
次に図7及び図8を用いて、直列4気筒の内燃機関10の例にて、クランクシャフトの回転に同期してクランクシャフトの2倍の回転速度で回転させた1軸バランサの加速時荷重受面41A(図9参照)が受ける荷重(Fa)と、減速時荷重受面41B(図10参照)が受ける荷重(Fd)について説明する。なお図8は、図7における時間T01~時間T11を拡大した図である。
【0032】
なお、時間T01ではクランクシャフトの回転角度は0[°CA]に設定されており、第1気筒(#1)は圧縮上死点である。このとき、図7中の1軸バランサの回転方向は反時計回り方向に設定されており、加速時荷重受面41A及び第2仮想直線VL2(図3参照)は略水平方向であり、加速時荷重受面41Aは軸部材中心軸線42J(図3参照)の左側に配置されている。つまり、時間T01の時点から、水平状態の加速時荷重受面が下方向に向かって回転していく。またクランクシャフトが180[°]回転すると、1軸バランサは360[°]回転する。
【0033】
直列4気筒の内燃機関の第1気筒(#1)、第2気筒(#2)、第3気筒(#3)、第4気筒(#4)の、吸気工程、圧縮工程、燃焼工程、排気工程は、図7に示す通りであり、180[°CA]は、クランクシャフトが180[°]回転したことを示しており、90[°CA]はクランクシャフトが90[°]回転してことを示している。
【0034】
「クランクシャフト角速度」に示すように、クランクシャフトの角速度(回転速度)は、燃焼工程中での燃焼により加速し、燃焼が終了すると、次の燃焼が発生するまで減速する。「クランクシャフトに発生する振動」は、上記の燃焼によってピストンがクランクを下方に押し込むことによって下方に向かう振動が繰り返され、隣り合う「下方に向かう振動」の間では、上方に向かう振動が発生する。1軸バランサ40は、主に、この「下方に向かう振動」に対して「上方に向かう荷重」を発生させて、クランクシャフトに発生する振動を抑制する。
【0035】
「1軸バランサに発生する荷重」には、図7中の時間T01~時間T65の各時間に対する、1軸バランサの回転状態(加速時荷重受面と減速時荷重受面の位置)と、加速時荷重受面または減速時荷重受面が、液体LQから受ける荷重(Fa、Fd)の方向及び大きさを示している。なお「1軸バランサに発生する荷重」は、時間T01~時間T11にて発生する荷重が繰り返されている。
【0036】
[時間T01~時間T11において、1軸バランサが、封入されている液体LQから受ける荷重(図8図10)]
次に図8を用いて、図7に示す時間T01~時間T11において、1軸バランサが、封入されている液体から受ける荷重について説明する。
【0037】
時間T01~時間T02では、第1気筒(#1)の燃焼工程中の燃焼により、クランクシャフトの角速度(回転速度)は急激に加速する。またクランクシャフトには下方に向かう振動が発生する。また1軸バランサはクランクシャフトに同期して2倍の角速度で回転しているので、封入されている液体LQは遠心力で円筒状容器の外周部に移動して、1軸バランサの回転に連れ回って回転している。またクランクシャフトの角速度が急激に加速するので、1軸バランサの角速度(回転速度)も急激に加速する。この1軸バランサの回転速度の加速により、加速時荷重受面41Aは、液体LQを回転方向に押し込み、液体LQからの加速時荷重受面41Aに直交する荷重Fa1を受ける。図8及び図9に示すように、時間T01では、加速時荷重受面41Aは、上方に向かう比較的大きな力の荷重Fa1を受ける。
【0038】
時間T02~時間T03では、クランクシャフトの角速度(回転速度)の急激な加速が継続している。またクランクシャフトには下方に向かう振動が継続している。このとき、1軸バランサの角速度(回転速度)も急激に加速するので、加速時荷重受面41Aは、液体LQを回転方向に押し込み、液体LQからの加速時荷重受面41Aに直交する荷重Fa2を受ける。図8及び図9に示すように、時間T02では、加速時荷重受面41Aは、左上方に向かって傾斜した比較的大きな力の荷重Fa2を受ける。
【0039】
時間T03~時間T04では、燃焼が終了し、クランクシャフトの角速度(回転速度)は緩やかに減速する。またクランクシャフトの振動は上方に向かっている。このとき、1軸バランサの角速度(回転速度)も緩やかに減速するので、減速時荷重受面41Bは、液体LQから荷重Fd1を受ける。図8に示すように、時間T03では、減速時荷重受面41Bは、ほぼ右下方に向かって傾斜した比較的小さな力の荷重Fd1を受ける。
【0040】
時間T04~時間T05では、クランクシャフトの角速度(回転速度)は緩やかな減速が継続している。またクランクシャフトの振動は上方に向かっている。このとき、1軸バランサの角速度(回転速度)も緩やかに減速するので、減速時荷重受面41Bは、液体LQから荷重Fd2を受ける。図8に示すように、時間T04では、減速時荷重受面41Bは、ほぼ右に向かう比較的小さな力の荷重Fd2を受ける。
【0041】
時間T05~時間T06では、クランクシャフトの角速度(回転速度)は緩やかな減速が継続している。またクランクシャフトの振動は上方に向かっている。このとき、1軸バランサの角速度(回転速度)も緩やかに減速するので、減速時荷重受面41Bは、液体LQから荷重Fd3を受ける。図8及び図10に示すように、時間T05では、減速時荷重受面41Bは、ほぼ右上方に向かって傾斜した比較的小さな力の荷重Fd3を受ける。
【0042】
時間T06~時間T07では、クランクシャフトの角速度(回転速度)は緩やかな減速が継続している。またクランクシャフトの振動は上方に向かっている。このとき、1軸バランサの角速度(回転速度)も緩やかに減速するので、減速時荷重受面41Bは、液体LQから荷重Fd4を受ける。図8及び図10に示すように、時間T06では、減速時荷重受面41Bは、ほぼ上方に向かう比較的小さな力の荷重Fd4を受ける。
【0043】
時間T07~時間T08では、クランクシャフトの角速度(回転速度)は緩やかな減速が継続している。またクランクシャフトの振動は下方に向かっている。このとき、1軸バランサの角速度(回転速度)も緩やかに減速するので、減速時荷重受面41Bは、液体LQから荷重Fd5を受ける。図8及び図10に示すように、時間T07では、減速時荷重受面41Bは、ほぼ左上方に向かって傾斜した比較的小さな力の荷重Fd5を受ける。
【0044】
時間T08~時間T11では、クランクシャフトの角速度(回転速度)は緩やかな減速が継続している。またクランクシャフトの振動は下方に向かっている。このとき、1軸バランサの角速度(回転速度)も緩やかに減速するので、減速時荷重受面41Bは、液体LQから荷重Fd6を受ける。図8に示すように、時間T08では、減速時荷重受面41Bは、ほぼ左に向かう比較的小さな力の荷重Fd6を受ける。
【0045】
以上、図8に示すように、クランクシャフトが下方向に向かって振動する時間T01、時間T02では、1軸バランサは加速時荷重受面にて、上方向に向かう大きな荷重Fa1、Fa2を発生して、クランクシャフトの振動を抑制する。また、クランクシャフトが上方向に向かって振動する時間T03~時間T07では、振動を抑制するための下方向に向かう荷重をほとんど発生せず、1軸バランサは減速時荷重受面にて、右方向、上方向、左方向の荷重Fd1~Fd5を発生させる。しかし、減速時荷重受面にて発生する荷重Fd1~Fd5は、荷重Fa1、Fa2と比較してかなり小さな荷重であり、大きな左右方向の振動も発生せず、ほとんど悪影響を及ぼさない。つまり、クランクシャフトが発生する鉛直方向の振動を抑制する荷重(鉛直方向の荷重)以外の荷重(水平方向の荷重など)の発生を低減している。
【0046】
以上、第1の実施の形態の1軸バランサ40(図3参照)の例で説明したが、図4に示す第2の実施の形態の1軸バランサ40Bでは、減速時荷重受面41Bの傾斜角度(第1所定角度θ1)や湾曲形状により、減速時に受ける荷重である荷重Fd1~Fd6の大きさを、さらに小さくすることができる。
【0047】
[減速時荷重受面を有していない「比較例」に発生する荷重(図11図13図15)]
以上に説明した図3に示す第1の実施の形態の1軸バランサ40に対して、減速時荷重受面41Bを省略した「比較例」の1軸バランサ(液体バランス装置240(図11図12図15参照))の場合の例を説明する。「比較例」の1軸バランサ(液体バランス装置240)は、図11及び図12に示すように、図3に示す1軸バランサ40から減速時荷重受面41Bが省略されている。
【0048】
第1の実施の形態の1軸バランサ40が1回転する間に発生させる荷重を説明する図8に対して、図13は「比較例」の1軸バランサ(液体バランス装置240)が1回転する間に発生させる荷重を説明する図である。また第1の実施の形態の1軸バランサ40(図3参照)が図8における時間T01、時間T02に受ける荷重Fd1、Fd2を説明する図9に対して、図11は「比較例」の1軸バランサ(液体バランス装置240)が図13における時間T01、時間T02に受ける荷重Fa1Z、Fa2Zを説明する図である。また第1の実施の形態の1軸バランサ40(図3参照)が図8における時間T05~時間T07に受ける荷重Fd3~Fd5を説明する図10に対して、図12は「比較例」の1軸バランサ(液体バランス装置240)が図13における時間T05~時間T07に受ける荷重Fd3Z~Fd5Zを説明する図である。
【0049】
図13及び図11に示すように、クランクシャフトが下方向に向かって振動する時間T01、時間T02では、「比較例」の1軸バランサ(液体バランス装置240)は加速時荷重受面(遮蔽板241A)にて、上方向に向かう大きな荷重Fa1Z、Fa2Zを発生して、第1の実施の形態の1軸バランサ40と同様、クランクシャフトの振動を抑制する。しかし、クランクシャフトが上方向に向かって振動する時間T03~時間T07では、加速時荷重受面(遮蔽板241A)にて右方向、上方向、左方向の、大きな荷重Fd1Z~Fd5Zを発生させる。この荷重Fd1Z~Fd5Zは、第1の実施の形態の1軸バランサ40(図3参照)が発生する荷重Fd1~Fd5と比較して非常に大きな荷重であり、大きな左右方向の振動が発生する可能性があり、好ましくない。
【0050】
本発明の「内燃機関の1軸バランサ40、40B」は、本実施の形態で説明した外観、構成、構造等に限定されず、本発明の要旨を変更しない範囲で種々の変更、追加、削除が可能である。例えば封入される液体LQは、オイルに限定されるものではない。
【0051】
本実施の形態の説明では、外周円筒面41Mの径方向内側に加速時荷重受面41Aと減速時荷重受面41Bを設ける(取り付ける)例を説明したが、外周円筒面41Mを変形させて(凹ませて)加速時荷重受面41Aと減速時荷重受面41Bを形成するようにしてもよい。
【0052】
本実施の形態の説明では、第1所定角度θ1(図3図4参照)を、90[°]以上に設定したが、第1所定角度θ1を90[°]未満に設定してもよい。また本実施の形態の説明では、第2所定角度θ2(図3、4参照)を、45[°]以上かつ90[°]以下に設定したが、第2所定角度θ2を45[°]未満または90[°]より大きな角度、に設定してもよい。
【0053】
また本実施の形態の説明では、内燃機関が直列4気筒の例で説明したので、1軸バランサの角速度(回転速度)をクランクシャフトの角速度(回転速度)の2倍に設定した。なお、Nを自然数としてN気筒の内燃機関の場合、1軸バランサの角速度(回転速度)をN/2倍に設定すればよい。例えば3気筒の内燃機関の場合では、N=3なので、3/2倍に設定すればよい。
【0054】
また、以上(≧)、以下(≦)、より大きい(>)、未満(<)等は、等号を含んでも含まなくてもよい。
【符号の説明】
【0055】
10 内燃機関
11 クランクシャフト
11J クランク回転軸線
40 1軸バランサ
41 円筒状容器
41A 加速時荷重受面
41B 減速時荷重受面
41C、41D 底面
41J 円筒中心軸線
41K 容器内部空間
41M 外周円筒面
41MN 外周円筒内壁
41N 内周円筒面
41X 液体浸入禁止領域
42 回転軸部材
42J 軸部材中心軸線
D1 所定距離
LQ 液体
VL1 第1仮想直線
VL2 第2仮想直線
θ1 第1所定角度
θ2 第2所定角度
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15