(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022106488
(43)【公開日】2022-07-20
(54)【発明の名称】搬送設備の異常監視システム及び異常監視方法
(51)【国際特許分類】
G05B 23/02 20060101AFI20220712BHJP
【FI】
G05B23/02 R
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021001523
(22)【出願日】2021-01-07
(71)【出願人】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】特許業務法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 俊
(72)【発明者】
【氏名】小野 淳
【テーマコード(参考)】
3C223
【Fターム(参考)】
3C223AA05
3C223EB03
3C223FF04
3C223FF22
3C223FF24
3C223FF33
3C223FF35
(57)【要約】
【課題】搬送物の重量が変動する場合であっても搬送設備の異常を精度よく判定可能な搬送設備の異常監視システム及び異常監視方法を提供すること。
【解決手段】本発明に係る搬送設備の異常監視システムは、搬送開始位置において搬送台車に鋼材を積載する積載ステップと、搬送台車を搬送終了位置へ移動する移動ステップと、搬送台車から鋼材を搬出する搬出ステップと、搬送台車を搬送開始位置に復帰する復帰ステップとがこれらの順で反復して実行される搬送工程を制御し、事前に正常動作時における復帰ステップのL個の負荷データを正常時負荷データとして取得し、正常時負荷データによって定まるL次元空間内の1点を正常パターンとして、複数の正常パターンに対して主成分分析を行い、正常パターンの主成分の変換係数を同定し、操業時における復帰ステップの負荷データを操業時負荷データとして取得し、取得した変換係数に基づいて正常時負荷データに対する操業時負荷データの逸脱度を算出し、算出した逸脱度に基づいて搬送設備の異常を判定する。
【選択図】
図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
搬送台車により鋼材を搬送開始位置から搬送終了位置まで搬送する搬送設備の異常監視システムであって、
前記搬送開始位置において前記搬送台車に前記鋼材を積載する積載ステップと、前記搬送台車を前記搬送開始位置から前記搬送終了位置へ移動する移動ステップと、前記搬送台車から前記鋼材を搬出する搬出ステップと、前記搬送台車を前記搬送終了位置から前記搬送開始位置に復帰させる復帰ステップとがこれらの順で反復して実行される搬送工程を制御する搬送工程制御手段と、
事前に正常動作時における前記復帰ステップのL個(L≧2)の負荷データを正常時負荷データとして取得し、前記正常時負荷データによって定まるL次元空間内の1点を正常パターンとして、複数の正常パターンに対して主成分分析を行い、前記正常パターンの主成分の変換係数を同定する正常時負荷情報同定手段と、
操業時における前記復帰ステップの負荷データを操業時負荷データとして取得する操業時負荷データ取得手段と、
前記正常時負荷情報同定手段で取得した変換係数に基づいて前記正常時負荷データに対する前記操業時負荷データの逸脱度を算出する逸脱度算出手段と、
前記逸脱度算出手段で算出した逸脱度に基づいて前記搬送設備の異常を判定する異常判定手段と、
を備えることを特徴とする搬送設備の異常監視システム。
【請求項2】
前記正常時負荷データ及び前記操業時負荷データは、前記搬送台車を駆動する電動機の負荷電流の実測データ、負荷電圧の実測データ、負荷トルクの実測データ、及び前記搬送台車の移動速度の実測データから選択されるいずれかの実測データであって、前記復帰ステップにおける時間経過情報に対応付けて取得される時系列データであることを特徴とする請求項1に記載の搬送設備の異常監視システム。
【請求項3】
前記正常時負荷データ及び前記操業時負荷データは、前記搬送台車を駆動する電動機の負荷電流の実測データ、負荷電圧の実測データ、負荷トルクの実測データ、前記搬送台車の移動速度の実測データから選択されるいずれかの実測データであって、前記復帰ステップにおける前記搬送台車の位置情報に対応付けて取得される1次元配列データであることを特徴とする請求項1に記載の搬送設備の異常監視システム。
【請求項4】
搬送台車により鋼材を搬送開始位置から搬送終了位置まで搬送する搬送設備の異常監視方法であって、
前記搬送開始位置において前記搬送台車に前記鋼材を積載する積載ステップと、前記搬送台車を前記搬送開始位置から前記搬送終了位置へ移動する移動ステップと、前記搬送台車から前記鋼材を搬出する搬出ステップと、前記搬送台車を前記搬送終了位置から前記搬送開始位置に復帰させる復帰ステップとがこれらの順で反復して実行される搬送工程を制御する搬送工程制御工程と、
事前に正常動作時における前記復帰ステップのL個(L≧2)の負荷データを正常時負荷データとして取得し、前記正常時負荷データによって定まるL次元空間内の1点を正常パターンとして、複数の正常パターンに対して主成分分析を行い、前記正常パターンの主成分の変換係数を同定する正常時負荷情報同定工程と、
操業時における前記復帰ステップの負荷データを操業時負荷データとして取得する操業時負荷データ取得工程と、
前記正常時負荷情報同定工程で取得した変換係数に基づいて前記正常時負荷データに対する前記操業時負荷データの逸脱度を算出する逸脱度算出工程と、
前記逸脱度算出工程で算出した逸脱度に基づいて前記搬送設備の異常を判定する異常判定工程と、
を含むことを特徴とする搬送設備の異常監視方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、搬送設備の異常監視システム及び異常監視方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄鋼生産プロセスには、種々の鋼材を運搬、移動するための搬送設備が設けられている。このような搬送設備は、鋳造された鋼材であるスラブ、ビレット、ブルームや、鋼板、鋼帯、形鋼、鋼管、棒線等の鋼材製品の運搬、移動に用いられるだけでなく、生産ライン間の鋼材の移動等、工程間で半製品を受け渡し、工程間のダウンタイムを削減する上でも重要な役割を果たす。一方、搬送設備の搬送物の重量は様々であり、搬送設備は重量が異なる搬送物を同一の搬送設備で搬送する。例えば連続鋳造ラインでは、搬送設備は15~30トンの範囲でスラブ毎に重量が異なる鋼材を搬送する。また、熱延コイルや冷延コイル等の鋼帯については、1コイルあたりの重量が2~30トンの範囲で変動する場合もある。
【0003】
当然ながら、このような搬送設備は重量物を運搬するために、搬送物を支持する搬送台車を駆動するための動力も高出力のものが必要となり、電動機を使用する場合には50kW等程度の高出力のものが用いられる。また、搬送物を搬送開始位置から搬送終了位置まで可能な限り短時間で搬送することが求められるため、搬送台車の速度制御や位置制御も高精度なものが求められる。さらに、搬送設備に異常が生じると、工程間の物流が遮断されることによって生産能率が大きく低下する。また、搬送設備の異常によっては、搬送台車からの搬送物の落下等が生じるリスクもあり、その場合には大きな事故に繋がりかねない。このような背景から、搬送設備の異常判定方法が提案されている。
【0004】
例えば特許文献1には、コークス炉作業用移動機械を対象とした走行装置の異常判定方法が開示されている。コークス炉作業用移動機械には、コークス炉の窯口近傍とコークス消火塔との間に敷設された軌道上を走行してコークス炉から窯出しされた赤熱コークスを搬送するコークス消火車が含まれ、他にはコークスガイド車や装炭車等も含まれる。特許文献1に記載の方法は、このようなコークス炉作業用移動機械を減速させる際の減速度曲線が予め設定された正常時の減速度曲線から外れた回数を記憶し、その累積回数が所定値以上になった場合にコークス炉作業用移動機械に異常が発生したと判定する。
【0005】
また、特許文献2には、本発明が対象とする搬送設備ほどの重量物を搬送するものではなく、比較的軽量物を搬送するトランスファー装置に関するものであるが、搬送設備の異常判定装置が開示されている。特許文献2に記載の装置は、搬送設備の可動部の位置情報ではなく、搬送設備を駆動する駆動装置のトルク値を測定し、トランスファー装置の1周期の動作におけるトルク値の波形パターンを基準にして測定値が所定のトルク値から逸脱した場合を搬送設備の異常と判定する。
【0006】
一方、特許文献3には、電動機で駆動される設備を監視対象として、監視対象である設備の異常を監視するシステムが開示されている。特許文献3に記載のシステムは、事前に取得した設備の正常動作時における電動機のトルク電流実績、速度実績、及び移動量実績に基づいて正常動作時における設備の挙動を代表する指標を取得しておき、操業時のこれらの実績値について正常動作時の挙動からの外れ度を算出し、算出した外れ度に基づいて設備の異常を判定する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平6-306365号公報
【特許文献2】特許第2755164号公報
【特許文献3】特許第5991042号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1に記載の方法は、減速度曲線に基づいて異常判定を行うものであるが、積載する搬送物の重量によって減速時の慣性モーメントが変化することから、減速度曲線も搬送物の重量によって変化する。従って、搬送物の重量毎に減速度曲線に一定の変動が生じることから、予め設定された正常時の減速度曲線についてもばらつきを避けることができない。このため、コークス炉作業用移動機械に異常が発生した際の減速度曲線を正常時の減速度曲線から判別することが困難な場合が生じる。また、一定のばらつきを有する正常時の減速度曲線に基づいて異常時の減速度曲線を判別する場合には、異常判定の信頼度を高めるために、異常が検出される回数が一定以上生じてから異常を判定することになるため、コークス炉作業用移動機械に異常が生じた場合に迅速な対応を行うことが難しい。
【0009】
一方、特許文献2に記載の装置は、搬送物を搬送する過程を通じた、駆動装置のトルク値の波形パターンの実測値を異常判定に用いる。この装置を鋼材の搬送設備に適用した場合にも、上記と同様に、搬送物の重量が変わるような状況では、駆動装置のトルク値の波形パターンも搬送物の重量毎に変化することになる。このため、正常時のトルク値の波形パターンとして取得した標準パターンにばらつきが生じるため、搬送設備の異常を精度よく判定することは困難である。一方で、正常時の標準パターンの範囲を狭く設定するようにすると、搬送物の重量が異なった場合に、トルク値の波形パターンに異常が生じたと判断されやすくなり、異常判定の誤報が多発する。
【0010】
また、特許文献3に記載のシステムを鋼材の搬送設備に適用した場合にも、上記と同様、搬送物の重量によって駆動装置のトルク電流、速度実績、及び移動量実績が変化する。このため、正常動作時の相関関係を同定しようとした場合に、主成分分析によって特定される正常動作時の変数間の相関関係に一定のばらつきが生じることになる。これにより、搬送設備に異常が発生した際の正常動作時の相関関係からの外れ度が小さく算出されるため、異常判定には改善の余地がある。さらに、特許文献3に記載のシステムでは、異常判定に用いる情報として、駆動装置のトルク電流、速度実績、移動量実績、及びこれらから積分計算等により算出される変数が使用されている。このため、これらの時系列データの情報処理に必要な計算機として高性能なものが必要であり、システムを構成するための設備が比較的高価である点で改善の余地がある。
【0011】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであって、その目的は、搬送物の重量が変動する場合であっても搬送設備の異常を精度よく判定可能な搬送設備の異常監視システム及び異常監視方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明に係る搬送設備の異常監視システムは、搬送台車により鋼材を搬送開始位置から搬送終了位置まで搬送する搬送設備の異常監視システムであって、前記搬送開始位置において前記搬送台車に前記鋼材を積載する積載ステップと、前記搬送台車を前記搬送開始位置から前記搬送終了位置へ移動する移動ステップと、前記搬送台車から前記鋼材を搬出する搬出ステップと、前記搬送台車を前記搬送終了位置から前記搬送開始位置に復帰させる復帰ステップとがこれらの順で反復して実行される搬送工程を制御する搬送工程制御手段と、事前に正常動作時における前記復帰ステップのL個(L≧2)の負荷データを正常時負荷データとして取得し、前記正常時負荷データによって定まるL次元空間内の1点を正常パターンとして、複数の正常パターンに対して主成分分析を行い、前記正常パターンの主成分の変換係数を同定する正常時負荷情報同定手段と、操業時における前記復帰ステップの負荷データを操業時負荷データとして取得する操業時負荷データ取得手段と、前記正常時負荷情報同定手段で取得した変換係数に基づいて前記正常時負荷データに対する前記操業時負荷データの逸脱度を算出する逸脱度算出手段と、前記逸脱度算出手段で算出した逸脱度に基づいて前記搬送設備の異常を判定する異常判定手段と、を備えることを特徴とする。
【0013】
本発明に係る搬送設備の異常監視システムは、上記発明において、前記正常時負荷データ及び前記操業時負荷データは、前記搬送台車を駆動する電動機の負荷電流の実測データ、負荷電圧の実測データ、負荷トルクの実測データ、及び前記搬送台車の移動速度の実測データから選択されるいずれかの実測データであって、前記復帰ステップにおける時間経過情報に対応付けて取得される時系列データであることを特徴とする。
【0014】
本発明に係る搬送設備の異常監視システムは、上記発明において、前記正常時負荷データ及び前記操業時負荷データは、前記搬送台車を駆動する電動機の負荷電流の実測データ、負荷電圧の実測データ、負荷トルクの実測データ、前記搬送台車の移動速度の実測データから選択されるいずれかの実測データであって、前記復帰ステップにおける前記搬送台車の位置情報に対応付けて取得される1次元配列データであることを特徴とする。
【0015】
本発明に係る搬送設備の異常監視方法は、搬送台車により鋼材を搬送開始位置から搬送終了位置まで搬送する搬送設備の異常監視方法であって、前記搬送開始位置において前記搬送台車に前記鋼材を積載する積載ステップと、前記搬送台車を前記搬送開始位置から前記搬送終了位置へ移動する移動ステップと、前記搬送台車から前記鋼材を搬出する搬出ステップと、前記搬送台車を前記搬送終了位置から前記搬送開始位置に復帰させる復帰ステップとがこれらの順で反復して実行される搬送工程を制御する搬送工程制御工程と、事前に正常動作時における前記復帰ステップのL個(L≧2)の負荷データを正常時負荷データとして取得し、前記正常時負荷データによって定まるL次元空間内の1点を正常パターンとして、複数の正常パターンに対して主成分分析を行い、前記正常パターンの主成分の変換係数を同定する正常時負荷情報同定工程と、操業時における前記復帰ステップの負荷データを操業時負荷データとして取得する操業時負荷データ取得工程と、前記正常時負荷情報同定工程で取得した変換係数に基づいて前記正常時負荷データに対する前記操業時負荷データの逸脱度を算出する逸脱度算出工程と、前記逸脱度算出工程で算出した逸脱度に基づいて前記搬送設備の異常を判定する異常判定工程と、を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係る搬送設備の異常監視システム及び異常監視方法によれば、搬送物の重量が変動する場合であっても搬送設備の異常を精度よく判定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】
図1は、本発明の第1の実施形態である搬送設備の構成を示す模式図である。
【
図2】
図2は、本発明の第2の実施形態である搬送設備の構成を示す模式図である。
【
図4】
図4は、搬送台車の移動速度パターン及び電動機の負荷電流パターンの一例を示す図である。
【
図5】
図5は、正常時負荷情報同定部の機能を説明するための図である。
【
図6】
図6は、L次元空間における負荷データの分布例を示す図である。
【
図7】
図7は、操業時異常判定部の機能を説明するための図である。
【
図8】
図8は、実施例における電動機の負荷電流パターンを示す図である。
【
図9】
図9は、5回の復帰ステップにおける負荷電流の波形を重ね合わせて表示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照して、本発明の一実施形態である搬送設備の異常監視システム及び異常監視方法について説明する。
【0019】
〔搬送設備〕
本発明が対象とする搬送設備は、搬送台車により鋼材を搬送開始位置から搬送終了位置まで搬送する搬送工程を実行する搬送設備である。この搬送工程は、搬送開始位置において鋼材を搬送台車に積載する積載ステップと、搬送開始位置から搬送終了位置へ搬送台車を移動する移動ステップと、搬送終了位置において鋼材を搬送台車から搬出する搬出ステップと、搬送終了位置から搬送開始位置に搬送台車を復帰させる復帰ステップと、を含み、これらのステップが順に反復して実行されるように電動機を制御する搬送工程制御部を備える。
【0020】
[第1の実施形態]
図1は、本発明の第1の実施形態である搬送設備の構成を示す模式図である。
図1に示すように、本実施形態は、搬送対象物である鋼材Sが、搬送設備を構成する搬送台車1により搬送ルートAを経由して搬送ルートBへ搬送される例を示すものである。本実施形態の搬送設備では、まず、積載ステップにおいて搬送台車1に鋼材Sを積載する。搬送台車1への鋼材Sの積載は、搬送ルートAのテーブルローラーによって行われる。但し、鋼材Sの積載手段は、これに限定されず、クレーン、フォークリフト、昇降機、コンベア等、鋼材Sを搬送台車1に積載するための任意の手段を用いることができる。
【0021】
次に、移動ステップにおいて、予め設定された搬送開始位置から搬送終了位置に搬送台車1を移動させることにより、搬送台車1に積載された鋼材Sを移動させる。搬送台車1としては、車輪及びレールを備えた軌道式搬送台車を用いることができる。一方、搬送台車1の移動方式は、必ずしも軌道式である必要はない。但し、搬送開始位置から搬送終了位置までの移動経路は、反復して移動する際に同一の経路をとる必要がある。また、搬送台車1は電動機によって駆動されるものであることが好ましい。重量物を搬送する際の停止位置を比較的高精度に実現でき、高温環境や粉塵等が生じる環境下でも安定した搬送制御を実現できるからである。
【0022】
次に、移動ステップにより搬送台車1を搬送終了位置に移動した後、鋼材Sを搬送台車1から搬出する搬出ステップに移行する。搬出ステップでは、搬送台車1から鋼材Sを他の搬送ルートに移動させる。
図1に示す例では、搬送台車1に設けられたテーブルローラーを回転駆動することによって搬送ルートBに鋼材Sに移動させる。なお、搬送台車1上の鋼材Sを後方から機械又は人力による押し力によって搬送ルートBのテーブルローラー上に移動させてもよい。また、クレーン、フォークリフト、昇降機、コンベア等を用いてもよい。
【0023】
搬出ステップが完了すると、搬送台車1に鋼材Sが積載されていない状態で、搬送終了位置から搬送開始位置に搬送台車1を復帰させる復帰ステップに移行する。復帰ステップは、予め設定された搬送終了位置から搬送開始位置まで鋼材Sを積載することなく搬送台車1を移動させる工程である。復帰ステップにおける搬送台車1の移動工程は、反復して行われる復帰ステップ毎に同一の経路で行うものとする。但し、復帰ステップおける搬送台車1の移動経路は、必ずしも移動ステップにおける経路と同一の経路である必要はない。例えば搬送経路の軌道を環状に設定し、搬送台車1は移動ステップと復帰ステップとで同一の回転方向で搬送開始位置に戻ってもよい。
【0024】
[第2の実施形態]
図2は、本発明の第2の実施形態である鋼材の搬送設備の構成を示す模式図である。本実施形態の搬送設備は、ターナーと称される設備である。ターナーは、鋼材の搬入方向に対して鋼材の搬送方向を変更するための設備である。
図2に示す例では、連続鋳造ラインで製造されたスラブを次工程である熱間圧延ラインに搬送する際、連続鋳造ラインから熱間圧延ラインにスラブを直送する場合には、搬入されるスラブと同方向に向けて搬送台車1を待機させ、スラブを直接熱間圧延ラインに搬送する。一方、スラブを熱間圧延ラインには直送せず、一旦スラブヤードに移送してから他の工程として例えばスラブの表面手入れを行う場合等では、ターナーによってスラブの搬送方向を変更してスラブをスラブヤードに搬送する。このとき、ターナーに搬入されたスラブは搬送台車1に積載され、搬送台車1の回転動作によってスラブの向きが変更される。その後、搬送台車1は、スラブヤードの方向にスラブを搬出した後、逆回転動作によって搬送開始位置に復帰する。なお、この場合、搬送台車1は、離れた位置の間を横行移動するものではないが、スラブの向きを変更するために回転移動することから、鋼材の搬送形態の一つと捉えて搬送設備に含めるものとする。なお、
図2中の符号1aはモータ、符号1bはクランプ、符号1cは油圧シリンダ、符号1dは減速機、符号1eは円筒ころ軸受、符号1fはマイタギアを示している。
【0025】
図3を参照して
図2に示す搬送設備の動作例を説明する。
図3に示す例では、まず、積載ステップにおいて、搬入ルートを経由した鋼材Sが搬送台車1に積載される。積載手段は、第1の実施形態と同じである。このとき、搬送ルートBへの鋼材Sの搬送を実行しない場合には、鋼材Sは搬送ルートと同一直線上にある搬送ルートAに移動する。一方、搬送ルートBへの鋼材Sの搬送を実行する場合には、積載ステップの後に移動ステップに移行する。移動ステップは、搬送台車1を電動機により回転させることにより、搬送開始位置から搬送終了位置まで搬送台車1の方向を変化させる工程である。これにより、鋼材Sの進行方向を変更することができる。移動ステップが完了すると、搬出ステップにより搬送台車1上の鋼材Sは、搬送ルートBに搬出される。その後、搬送台車1上には鋼材Sがなくなった状態で搬送開始位置に搬送台車が復帰する復帰ステップに移行する。復帰ステップでは、移動ステップとは逆向きの回転方向に回転させて搬送開始位置に搬送台車1を復帰させても、移動ステップと同一の回転方向に回転させて搬送開始位置に搬送台車1を復帰させてもよい。なお、ターナーは、搬送台車1の搬送終了位置を任意に設定して搬送ルートBを設置することができるため、スラブの搬送だけでなく、鋼材の生産ライン間の搬送ルートを比較的自由に設置できる点で汎用性の高い設備である。
【0026】
〔鋼材〕
本発明の搬送設備による搬送対象物である鋼材は、上記のスラブの他に、ビレット、ブルーム等の鋳造半製品を含み、鋼板、鋼帯、形鋼、鋼管、棒線等の鋼材製品も対象となる。スラブは、主として連続鋳造ラインで製造され、厚み200~300mm、幅800~1800mm、長さ5~12m、重量15~30トンの範囲のものが代表的である。スラブの幅は、鋼板や鋼帯の製品幅に応じて適宜変更される。スラブの重量も製品として要求される重量に応じて連続鋳造ラインの出側での切断長を適宜変更することによって適宜変更される。また、次工程の熱間圧延ライン等の加熱炉の大きさよってもスラブの長さが変更される場合もある。従って、本発明の対象とする鋼材の搬送設備では、搬送対象物である鋼材の重量が個々に変動することになり、このような変動があっても搬送設備の異常を精度よく判定する必要がある。
【0027】
〔搬送工程制御部〕
本実施形態の搬送設備は、鋼材の搬送工程を構成する積載ステップ、移動ステップ、搬出ステップ、及び復帰ステップを順に反復して実行するように、搬送台車を駆動する電動機を制御する搬送工程制御部を備えている。搬送工程制御部は、少なくとも搬送台車の移動ステップにおける搬送開始位置から搬送終了位置までの搬送台車の移動と、復帰ステップにおける搬送終了位置から搬送開始位置までの搬送台車の移動を制御する。すなわち、搬送開始位置において搬送台車が停止している状態から搬送台車を移動又は回転させ、予め設定された搬送終了位置で搬送台車が停止するまで、及び搬送終了位置において搬送台車が停止している状態から搬送台車を移動又は回転させ、搬送開始位置に復帰して停止するまでを制御する機能を含む。
【0028】
一方、搬送台車を移動させるための駆動方式としては電動機によるものが好ましい。使用する電動機としては、誘導電動機が適用され、搬送設備は、誘導電動機の回転速度や回転トルクを例えばVVVF制御(可変電圧-可変周波数制御)方式により制御するモータ制御回路、搬送台車の駆動軸に制動力を付与する機械的ブレーキ装置としての電磁ブレーキ装置を有している。また、搬送設備には、搬送台車の位置又は回転角度を検出するための位置検出器が備えられ、移動中の搬送台車の位置情報が搬送工程制御部に伝達される。
【0029】
ここで、搬送工程制御部による搬送台車の制御は、例えば以下のようにして実行される。まず、搬送工程制御部は、積載ステップの実行中は搬送台車が移動しないように、搬送台車を移動させる信号を出すことなく機械的ブレーキ装置を作動させた状態とする。次に、移動ステップでは、搬送工程制御部は、移動開始指令と共に例えば
図4に示す速度パターン(移動速度)の指令を出力する。
図4に示す例では、搬送工程制御部は、移動ステップ開始時点(時間t=0)から搬送台車を加速させ、高速走行の速度V1で一定時間搬送台車を走行させる。その後、搬送工程制御部は、予めタイマーで設定される時間t=t2で搬送台車の減速を開始し、減速終了後は低速(速度V2)で搬送台車を走行させた後、搬送終了位置で停止するように時間t=t4で再度減速して搬送台車を停止させる。このとき、搬送終了時の搬送台車の停止位置精度を高めるために、搬送台車の位置検出器により検出された位置情報が搬送工程制御部にフィードバックされ、速度指令が修正される。なお、搬送台車の減速時には、誘導電動機の出力制御と共に電磁ブレーキ装置のオン/オフ制御を併用する。
【0030】
このようにして移動ステップが完了すると、搬出ステップでは、搬送工程制御部は、搬送台車を停止させておく制御指令を出力する。搬出ステップでは、搬送台車が移動しないように機械的ストッパーを用いる場合もある。搬出ステップが完了した後の復帰ステップでは、移動ステップと同様に、搬送工程制御部が、誘導電動機の出力と、必要に応じて機械的ブレーキ装置を制御することにより、搬送終了位置から搬送開始位置に搬送台車を復帰させる。その場合の速度パターンの指令は、移動ステップと同様の速度パターンで実行することができる。但し、必ずしも移動ステップと復帰ステップの速度パターンが同一である必要はない。復帰ステップでは鋼材を積載していないので、移動ステップに比べて慣性モーメントが小さく、加減速に必要な電動機の制御出力が比較的小さくてよいからである。なお、
図4に示す速度パターンの指令値としては、搬送する鋼材の重量範囲に応じて曲線状の速度パターンをとることもできる。重量物の加速開始時及び減速完了時の衝撃を緩和するためである。
【0031】
〔負荷データ〕
本実施形態では、上記の復帰ステップにおいて、後述する正常時負荷情報同定部が、搬送台車の負荷データを取得する。ここで、負荷データとは、搬送台車を駆動する駆動装置に生じる負荷状態を代表するデータをいい、駆動装置の出力に関するデータだけでなく、搬送台車が駆動された結果として負荷状態に応じて変化するデータを含むものとする。例えば、搬送台車を電動機により駆動する場合には、負荷データとしては、電動機の負荷電流、負荷電圧、負荷トルク等、電動機が行う仕事に関する実測データの他、搬送工程制御部により制御された搬送台車の移動速度に関する実測データを用いることできる。これらは搬送台車が移動する際の負荷状態を反映する指標である。
図4に電動機の負荷電流の例を示す。電動機の負荷電流は、搬送工程制御部によって与えられる速度パターンに応じて変化し、加速時及び減速時に負荷電流の値が大きくなる。
【0032】
本実施形態では、正常時負荷情報同定部が、このような電動機の負荷電流等の情報から時系列データである負荷データを取得する。負荷データは、復帰ステップの開始時点(t=0)から終了時点(t=t5)までの全区間の負荷電流の値から取得してよいが、復帰ステップでの予め設定した任意の時間範囲で得られる負荷電流の値から取得してもよい。例えば
図4に示す例では、加速開始時点(t=0)から高速走行開始時点(t=t1)の時間範囲での負荷電流の値から取得できる。また、高速走行終了時点(t=t2)から停止時点(t=t5)のような減速及び低速走行時の負荷電流の値から取得してもよい。
【0033】
また、本実施形態では、負荷データとして、このような時間範囲から取得されるL個(L≧2)の時系列データを用いる。所定の時間範囲において離散化された電動機の負荷電流の値を用いればよい。その際、負荷データとして取得する時系列データの数Lは50~10,000であることが好ましい。時系列データの数Lが50未満である場合、搬送台車の異常監視を行うための情報量が不足するからである。一方、時系列データの数Lが10,000より多い場合には、後述する正常パターンを同定する際の計算機の負荷が大きくなるからである。より好ましくは、時系列データの数Lは100~600である。
【0034】
一方、復帰ステップにおいて取得される負荷データは、搬送開始位置と搬送終了位置との間における搬送台車の位置情報に対応付けて取得される1次元配列データであってよい。正常時負荷情報同定部は、搬送開始位置と搬送終了位置との間でデータのサンプリング位置を特定しておき、搬送台車の位置情報に基づき、その位置に到達する毎に負荷データを取得してもよい。例えば、搬送台車が軌道上を走行する場合には、軌道の一部に偏摩耗等が生じていると、搬送台車の位置情報に対応して異常を検出しやすいからである。これにより、軌道上で保全すべき箇所の特定が容易になる。
【0035】
〔正常時負荷情報同定部〕
本実施形態は、搬送設備は、正常時負荷情報同定部を備えている。正常時負荷情報同定部は、事前に正常動作時における復帰ステップで得られるL個(L≧2)の負荷データを正常時負荷データとして取得し、正常時負荷データによって定まるL次元空間内の1点を正常パターンとして、複数の正常パターンに対して主成分分析を行い、正常パターンの主成分の変換係数を取得する。
【0036】
図5は、正常時負荷情報同定部の機能を説明するための図である。
図5に示す正常時負荷情報同定部11は、例えばワークステーションやパソコン等の汎用コンピュータを用いて実現される。正常時負荷情報同定部11は、正常時負荷データ取得部11a、正常パターン情報データベース(DB)部11b、及び正常パターン同定部11cを備えている。
【0037】
正常時負荷データ取得部11aは、監視対象とする鋼材の搬送設備について、過去の操業実績データとして、復帰ステップで得られる正常時負荷データを取得する機能を備えている。正常時負荷データは、正常動作時の負荷データである。
【0038】
正常パターン情報DB部11bは、正常時負荷データ取得部11aが取得した時系列データである正常時負荷データを記憶し、蓄積する機能を備えている。正常パターン情報DB部11bに蓄積する時系列データのデータセット数は、5組以上であることが好ましく、10組以上であることがより好ましい。さらに好ましくは、20組以上である。なお、正常パターン情報DB部11bに蓄積する時系列データのデータセット数の上限は特に限定されないが、最大100組程度あれば十分であり、それ以上のデータセットを蓄積しても精度の向上はあまり大きくならない場合がある。
【0039】
なお、本発明に係る搬送設備の異常監視方法は、種々の重量の鋼材を搬送する移動ステップにおける負荷情報を利用するものではないため、正常動作時の負荷データとして、必ずしも多数のデータセットを必要としない。データセット数が少なくても、正常動作時の状態を同定することができるという特徴がある。従って、正常パターン情報DB部11bに用いる記憶装置の記憶容量もわずかな容量で十分であり、本発明に係る異常監視システムを構築する際の設備費も低廉化することができる。
【0040】
正常パターン同定部11cは、正常時負荷データによって定まるL次元空間内の1点を正常パターンとして、複数の正常パターンに対して主成分分析を行い、正常パターンの主成分の変換係数を取得する機能を備えている。正常パターン同定部11cで取得した正常パターンの主成分の変換係数は、後述する異常判定部に送られる。
【0041】
ここで、鋼材の搬送設備が正常動作しているか否かは、搬送設備を一定期間操業に使用し、その間に設備トラブルが生じなかった場合を「正常動作」と判断することができる。特に本実施形態では、正常時負荷データとして必要なデータセット数が少なくてよいため、長期間にわたって操業データを収集する必要がない。例えば2~3時間程度の操業実績があって、その間に設備トラブルが発生しなければ、正常パターン同定部11cでの処理に必要な正常時負荷データを取得できる。すなわち、鋼材を搬送する際の移動ステップでの負荷データに基づいて正常動作を同定しようとすると、個々に異なる重量の鋼材を搬送する際の負荷データを収集する必要がある。そして、そのために数日から数週間にわたって正常時負荷データを取得しようとしても、その間に設備トラブルが発生してしまうと、正常パターンを同定することが困難となる場合もあることが従来技術の課題であった。
【0042】
正常パターン同定部11cは、正常パターン情報DB部11bに蓄積された正常時負荷データに基づいて、正常動作を代表する指標を導出する。具体的には、正常時負荷データとして一つのデータセットはL個の離散化されたデータであり、これをL次元空間にプロットすれば、正常時負荷データをL次元空間内の1点によって表すことができる。
図6は、L次元空間における負荷データの分布例を示す図である。鋼材の搬送設備が正常動作している場合、複数のデータセットから特定されるL次元空間内の点P31は、
図6に一点鎖線で囲って示すように、L次元空間内で球状に分布する。これに対し、鋼材の搬送設備の動作が異常である場合には、負荷データを表す点P33は球状の分布から外れる。
【0043】
ここで、復帰ステップにおける負荷データは、予め設定された速度パターンに対応しているため、正常パターン間の相関が強い。特に、鋼材を積載していない状態では、正常パターン間に非常に強い相関がある。そこで、本実施形態では、正常時負荷データに主成分分析を適用して、正常時負荷データの波形について主成分を特定する。例えば正常時負荷データを用いて、主成分毎の固有ベクトルを求めて各主成分の変換係数を取得し、主成分の式を取得する。次いで、累積寄与率が予め設定される閾値(例えば0.8)以上となる主要な主成分である上位の主成分の成分数kを決定する。なお、成分数kを決定する閾値は、固定値としてもよいし、ユーザ操作に従って可変に設定することとしてもよく、適宜設定してよい。ここで決定した上位k個の主成分(第1主成分~第k主成分)によって、正常パターンを特徴付ける主要な特性が決定される。一方、第k+1主成分より下位の主成分である外れ成分(残差)は、正常パターンの特性を決定する際の寄与度が低い。以上のようにして、正常パターン同定部11cは、正常動作時の主成分の変換係数によって表される主成分の式及び上位の主成分の成分数kを取得する。
【0044】
〔操業時異常判定部〕
本実施形態の操業時異常判定部12は、
図7に示すように、操業時負荷データ取得部12a、逸脱度算出部12b、及び異常判定部12cを備え、上記の正常時負荷情報同定部11の正常パターン同定部11cが取得した主成分の変換係数が逸脱度算出部12bに送られる。
【0045】
操業時負荷データ取得部12aは、監視対象とする鋼材の搬送設備における駆動装置の操業時の負荷データを取得する機能を備えている。操業時負荷データは、操業時の負荷データである。操業時負荷データは、操業時の復帰ステップにおいて取得されるデータであり、上記の正常時負荷データと同じ次元のL個の時系列データである。また、L個の時系列データは、正常時負荷データを取得する時間範囲に合致するタイミングで取得する。例えば、正常時負荷データを、復帰ステップにおける加速開始時点(時間t=0)から高速走行開始時点(時間t=t1)の時間範囲での負荷電流の値から取得した場合には、操業時負荷データについても操業時の復帰ステップにおける加速開始時点(時間t=0)から高速走行開始時点(時間t=t1)の時間範囲での負荷電流の値から取得する。また、正常時負荷データとしてL個の時系列データを取得したサンプリング周期と同一のサンプリング周期で操業時負荷データを取得するのが好ましい。但し、これらの時間範囲やサンプリング周期が厳密に同じである必要はない。
図4に示す負荷電流の変動波形の所定の時間範囲における形状が全体として比較できれば、正常動作時の波形からのずれを認識できるからである。
【0046】
逸脱度算出部12bは、正常時負荷情報同定部11で同定された変換係数に基づいて正常時負荷データに対する操業時負荷データの逸脱度を算出する。逸脱度算出部12bは、事前に正常時負荷情報同定部11において生成された正常パターンの主成分の変換係数によって表される主成分の式及び上位の主成分の成分数kを参照する。続いて、逸脱度算出部12bは、操業時負荷データ取得部12aにおいて取得した操業時負荷データのL個の時系列データを取得する。そして、逸脱度算出部12bは、操業時負荷データが示すL次空間内の点として表した操業時パターン(操業中の対象設備の動作パターン)に正常時負荷情報同定部11から読みだした主成分の式を適用することにより、操業時パターン、すなわち操業時負荷データのk個の主成分及びこのk個の主成分より下位の主成分である外れ成分を算出する。
【0047】
異常判定部12cは、搬送設備の異常判定工程として、外れ成分のQ統計量を算出して主成分からの偏差とし、この逸脱度としての偏差に基づいて監視対象の搬送設備の異常を判定する。例えば、異常判定部12cは、予め設定される閾値を用いて逸脱度を閾値処理することで逸脱度の大小を判定する。そして、異常判定部12cは、逸脱度が大きい場合に監視対象の搬送設備の動作状態を異常と判定する。また、異常判定部12cは、ここで異常と判定した回数をカウントし、所定の期間でのカウント回数を所定の閾値で閾値処理することにより、対象設備の補修の要否を判定してもよい。
【0048】
また、本実施形態による鋼材の搬送設備の異常判定は、正常動作時からのわずかな逸脱が生じても感度よく異常を検出できるので、大規模な設備トラブルに至る前に対策をとることができる。例えば、搬送台車の可動部にグリースを補充する等、軽微な保全作業により大規模な設備トラブルを予防する上で大きな効果が得られる。
【0049】
本実施形態によれば、個々に重量の異なる鋼材を搬送する場合でも、復帰ステップにおける負荷情報に基づいた正常動作時のパターンを同定するため、少数の正常動作時のデータセットを取得すれば、短期間で正常動作パターンを同定できる。従って、長期間に渡って正常動作時の操業データを取得しようとする場合には、その間に生じる可能性のある、わずかな搬送設備の異常データも、「正常動作時」を特定するデータに含まれる可能性があって、結果として搬送設備の異常判定の感度が低下するという問題は生じない。
【実施例0050】
図2に示す鋼材の搬送設備を対象とした実施例について説明する。運搬対象とする鋼材は連続鋳造ラインで製造され、製品仕様に応じた所定長さに切断されたスラブである。搬送設備は、連続鋳造ラインから熱延ラインへ直送される搬送ルートと、連続鋳造ラインからスラブヤードに搬送するルートを振り分けるターナーを対象とする。この場合、スラブを熱延ラインに直送する場合には、搬送台車は固定されているので、スラブヤードへ搬出する際の、
図3に示すような、搬送台車へのスラブの積載ステップ、搬送台車をスラブヤードの搬出方向に向けるために搬送テーブルを回転する移動ステップ、スラブヤードへ向かう搬送ルートにスラブを搬出する搬出ステップ、及び初期の搬入位置まで移動ステップとは逆回転の方向で復帰する復帰ステップが反復される搬送工程を対象とした。
【0051】
本実施例では、事前に正常動作時における復帰ステップで得られる電動機の正常時負荷データとして、
図8に示す電動機の負荷電流を用いた。これは、時間t=0~20秒の時間範囲における搬送台車の回転速度パターンに対応した駆動用交流電動機の電流値であり、その時間範囲においてサンプリング周期0.1秒でL=300個の時系列データを取得した。正常時負荷データ取得部11aは、反復された5回の復帰ステップから正常時負荷データを取得し、正常パターン情報DB部11bに蓄積した。
図9は、5回の復帰ステップにおける負荷電流の波形を重ね合わせて表示したものである。復帰ステップの負荷電流は再現性が高く、搬送対象物である鋼材の重量変動による外乱が生じないため、正常パターンの同定が容易となる。この後、正常パターン同定部11cで主成分分析を行い、正常パターンの主成分の変換係数によって表される主成分の式及び上位の主成分の成分数k=5を得た。正常パターン同定部11cで算出された主成分の変換係数は異常判定部12cに送られ、異常判定部12cが保存した。そして、上記ターナーによる鋼材の搬送設備により、2か月程度の操業を行い、約10,000個のスラブについて操業時負荷データを取得した。
【0052】
本実施例における操業時異常判定部12では、操業時負荷データ取得部12aが操業時の電動機の負荷データを取得する毎に、逸脱度算出部12bが操業時負荷データの正常パターンからの逸脱度を算出する。
図10は、正常パターン同定部11cにより算出された主成分の変換係数によって表される主成分の式を適用することにより行った主成分の算出結果を示す図である。
図10には、サンプリングデータ数L=300、成分数k=5として算出した主成分のうちの上位5個の主成分を除く外れ成分の偏差として算出したQ統計量を示す。
【0053】
ここで、監視対象設備の操業期間中に破線で囲った2つのタイミング(E1、E2)で、Q統計量(逸脱度)が他のQ統計量と比較して十分に大きい状況が生じ、いずれの状態も搬送設備に異常が生じたと判定した。このとき、最初の異常判定(E1)後にターナーを検査したところ、搬送台車の下部の車輪を固定するボルトの一部にゆるみが発見された。そこで、ゆるみが生じたボルトの増し締めを行ったところ、操業時の負荷データから算出される逸脱度が低下し、正常パターンに近づいた。一方、2回目の異常判定(E2)時には、搬送台車の軌道上に塗布したグリースが減少して、グリース切れが生じていることが発見された。そこで、軌道上にグリースを塗布したところ、再び逸脱度が低下して正常パターンに近づいた。
【0054】
以上、本発明者らによってなされた発明を適用した実施の形態について説明したが、本実施形態による本発明の開示の一部をなす記述及び図面により本発明は限定されることはない。すなわち、本実施形態に基づいて当業者等によりなされる他の実施の形態、実施例、及び運用技術等は全て本発明の範疇に含まれる。