(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022106496
(43)【公開日】2022-07-20
(54)【発明の名称】カチオン重合性硬化性組成物
(51)【国際特許分類】
C08G 59/20 20060101AFI20220712BHJP
C08G 59/68 20060101ALI20220712BHJP
C08L 63/00 20060101ALI20220712BHJP
C09K 3/00 20060101ALI20220712BHJP
【FI】
C08G59/20
C08G59/68
C08L63/00 C
C09K3/00 K
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021001535
(22)【出願日】2021-01-07
(71)【出願人】
【識別番号】391003576
【氏名又は名称】株式会社トクヤマデンタル
(72)【発明者】
【氏名】吉良 龍太
(72)【発明者】
【氏名】秋積 宏伸
(72)【発明者】
【氏名】三宅 秀明
【テーマコード(参考)】
4J002
4J036
【Fターム(参考)】
4J002CD001
4J002CD021
4J002DE056
4J002DE066
4J002DE086
4J002DE146
4J002DJ016
4J002EY017
4J002FD016
4J036AJ09
4J036AJ22
4J036FA02
4J036FA03
4J036FA10
4J036FA13
4J036GA06
4J036GA24
4J036GA26
4J036HA02
4J036JA15
(57)【要約】
【課題】 高活性な光酸発生剤系光重合開始剤及び充填材を含み、フェノール系酸化防止剤と水素イオン捕捉剤との組み合わせからなる添加剤を使用することなく、ゲル化を起こさずに長期間安定に保存できると共に長期間保存したあとの硬化性が良好なカチオン重合性硬化性組成物を提供する。
【解決手段】 充填材として、電気陰性度が2.0未満である酸化物を形成し得る元素と、電気陰性度が2.0~2.8である酸化物を形成し得る元素と、電気陰性度が2.8を越える酸化物を形成し得る元素と、の複合酸化物であって、pKa7.2以上9.3未満の塩基性を示す領域と、pKa3.3を超え4.8以下の酸性を示す領域と、を有する複合酸化物の紛体をカチオン重合性単量体100質量部に対して10~400質量部配合する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
カチオン重合性単量体、充填材及び酸発生剤を含むカチオン重合性硬化性組成物において、
前記充填材は、電気陰性度が2.0未満である酸化物を形成し得る元素と、電気陰性度が2.0~2.8である酸化物を形成し得る元素と、電気陰性度が2.8を越える酸化物を形成し得る元素と、の複合酸化物であって、pKa7.2以上9.3未満の塩基性を示す領域と、pKa3.3を超え4.8以下の酸性を示す領域と、を有する複合酸化物の紛体からなる酸・塩基性充填材を含み、
前記酸・塩基性充填材の含有量は、カチオン重合性単量体100質量部に対して10~400質量部である、
ことを特徴とする、カチオン重合性硬化性組成物。
【請求項2】
電気陰性度が2.0未満である酸化物を形成し得る元素が、Cs、K及びNaからなる群より選ばれる少なくとも1種であり、電気陰性度が2.0~2.8である酸化物を形成し得る元素が、Ba、Sr、Ca、Mg,Zn、Li、Al及びZrからなる群より選ばれる少なくとも1種であり、電気陰性度が2.8を越える酸化物を形成し得る元素が、La、B、Ta、Si、Rh及びPからなる群より選ばれる少なくとも1種である、請求項1に記載のカチオン重合性硬化性組成物。
【請求項3】
前記電気陰性度が2.0未満である酸化物を形成し得る元素をB-元素とし、該B-元素によって形成される前記酸化物を塩基性酸化物とし、
前記電気陰性度が2.0~2.8である酸化物を形成し得る元素をN-元素とし、該N-元素によって形成される前記酸化物を中間酸化物とし、
前記電気陰性度が2.8を越える酸化物を形成し得る元素をA-元素とし、該A-元素によって形成される前記酸化物を酸性酸化物とし、
前記酸・塩基性充填材を構成する前記複合酸化物におけるこれら3種の元素の存在比を前記中間酸化物の質量:Nを基準とした前記塩基性酸化物の質量:B及び前記酸性酸化物の質量:Aの比で表したときに、
前記存在比が、B/N=0.03~3.0及びA/N=1.9~3.0である、
請求項1又は2に記載のカチオン重合性硬化性組成物。
【請求項4】
前記充填材は、pKa7.2以上の塩基性を示す領域を有しない物質の紛体からなる非塩基性充填材を含み、該前記非塩基性充填材の含有量は、カチオン重合性単量体100質量部に対して1~380質量部である、
ことを特徴とする、請求項1~3の何れか1項に記載のカチオン重合性硬化性組成物。
【請求項5】
前記酸・塩基性充填材の平均1次粒子径が10~1000nmであり、当該酸・塩基性充填材を構成する前記複合酸化物の25℃におけるナトリウムd線に対する屈折率が1.45~1.60である、請求項1~4の何れか1項に記載のカチオン重合性硬化性組成物。
【請求項6】
前記カチオン重合性単量体がエポキシ系化合物であり、前記酸発生剤が光酸発生剤である、請求項1~5の何れか1項に記載のカチオン重合性硬化性組成物。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか1項に記載のカチオン重合性硬化性組成物からなる歯科用硬化性組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カチオン重合性硬化性組成物、特に歯科用硬化性組成物として好適に使用できるカチオン重合性硬化性組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
歯科治療において、う蝕を除去したあとの窩歯に充填・硬化して修復を行うための歯科用複合修復材料は、重合性単量体(モノマー)、充填材、及び重合開始剤を主成分として構成されている。重合性単量体としては、一般に、ラジカル重合性単量体が用いられているが、硬化時に収縮するため、場合によっては歯牙と硬化体との密着性が損なわれ、硬化体の脱落や2次う蝕発生の原因となることがある。この様な背景のもと、重合時の収縮(重合収縮)を低減した歯科用複合修復材料について検討が行われており、重合収縮が改善された歯科用複合修復材料として、エポキシ化合物、オキセタン化合物等のカチオン重合性単量体と、光酸発生剤系光重合開始剤と、を用いたものが提案されている(たとえば、特許文献1参照。)。
【0003】
このようなカチオン重合型の歯科用複合修復材料においては、口腔内で迅速に硬化させることができるという理由から、光酸発生剤系光重合開始剤としては、重合開始活性が高いヨードニウム塩系光重合開始剤やスルホニウム塩系光重合開始剤、特にアニオンに対する求核性が低いトリフルオロメタンスルホナートやテトラキスペンタフルオロフェニルボレートなどのアニオンを有するものを使用することが好ましいとされている(特許文献1参照。)。
【0004】
しかし、上記したような高活性な光酸発生剤系光重合開始剤を含むカチオン重合型の歯科用複合修復材料には、保存中に比較的早期にゲル化してしまうという問題がある。そこで、光カチオン硬化性組成物のゲル化を抑制するための添加剤が種々検討されており、フェノール系酸化防止剤と、水素イオン捕捉剤として機能するヒンダードアミン類または光酸発生能を有しない有機酸の塩類と、を併用して添加する方法が提案されている(特許文献2及び3参照。)。
【0005】
一方で、カチオン重合型の歯科用複合修復材料においては、硬化体にX線造影性を付与する目的でX線不透過性フィラーを配合した場合には、硬化性が阻害されたり保存(貯蔵)安定性が低下したりすることがあること、及び、プラズマ溶融法等を用いて1500~3000℃とういう高温で溶融加工により調製された特殊なX線不透過性フィラーを使用すればこのような問題の発生を回避することができることが知られている(特許文献4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007-15946号公報
【特許文献2】特開2006-249040号公報
【特許文献3】特開2007-131841号公報
【特許文献4】特表2004-517132号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
前記したように、高活性な光酸発生剤系光重合開始剤を含むカチオン重合性硬化性組成物におけるゲル化の問題は、フェノール系酸化防止剤と水素イオン捕捉剤とを併用して添加することにより防止することが可能である。しかし、特許文献2及び3において、長期保管後の硬化性については検討されておらず、長期保管が硬化性に及ぼす影響は不明である。また、水素イオン捕捉剤はカチオン重合の進行を阻害するため、光照射時の硬化速度を低下させることが懸念される。特に、歯科用途においては患者口腔内で使用する可能性があることから、室温において迅速に硬化することが求められる。このため、水素イオン捕捉剤を配合することにより、硬化性が低下した場合には、用途や使用方法が制限されることにつながる虞がある。
【0008】
さらに、上記添加剤が、X線不透過性フィラーを配合した場合に起こる前記(重合阻害や保存安定性低下といった)現象の発生に対して抑制効果を有するか否かは不明であり、仮に有効に抑制できない場合には、特許文献4に記載されるような特殊なX線不透過フィラーを使用せねばならず、大きな制約を受ける。
【0009】
一方、特許文献4に記載されている前記X線不透過フィラーを配合したカチオン重合性硬化性組成物は、保存(貯蔵)安定性が良好で、しかも高い反応性を示すとされているが、長期間保管後の硬化性は不明である。
【0010】
そこで、本発明は、高活性な光酸発生剤系光重合開始剤及び充填材を含むカチオン重合性硬化性組成物であって、フェノール系酸化防止剤と水素イオン捕捉剤との組み合わせからなる添加剤を使用することなく、ゲル化を起こさずに長期間安定に保存できると共に調製直後の硬化性(初期硬化性)は勿論、長期間保存したあとの硬化性も良好で、しかも、このような特長を維持したままX線造影性を持たせることが可能な、カチオン重合性硬化性組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、上記課題を解決するものであり、本発明の第一の形態は、カチオン重合性単量体、充填材及び酸発生剤を含むカチオン重合性硬化性組成物において、前記充填材は、電気陰性度が2.0未満である酸化物を形成し得る元素と、電気陰性度が2.0~2.8である酸化物を形成し得る元素と、電気陰性度が2.8を越える酸化物を形成し得る元素と、の複合酸化物であって、pKa7.2以上9.3未満の塩基性を示す領域と、pKa3.3を超え4.8以下の酸性を示す領域と、を有する複合酸化物の紛体からなる酸・塩基性充填材を含み、前記酸・塩基性充填材の含有量は、カチオン重合性単量体100質量部に対して10~400質量部である、ことを特徴とする、カチオン重合性硬化性組成物である。
【0012】
上記形態のカチオン重合性硬化性組成物(以下、「本発明のカチオン重合性硬化性組成物」ともいう。)においては、電気陰性度が2.0未満である酸化物を形成し得る元素が、Cs、K及びNaからなる群より選ばれる少なくとも1種であり、電気陰性度が2.0~2.8である酸化物を形成し得る元素が、Ba、Sr、Ca、Mg,Zn、Li、Al及びZrからなる群より選ばれる少なくとも1種であり、電気陰性度が2.8を越える酸化物を形成し得る元素が、La、B、Ta、Si、Rh及びPからなる群より選ばれる少なくとも1種である、ことが好ましい。
【0013】
また、前記電気陰性度が2.0未満である酸化物を形成し得る元素をB-元素とし、該B-元素によって形成される前記酸化物を塩基性酸化物とし、前記電気陰性度が2.0~2.8である酸化物を形成し得る元素をN-元素とし、該N-元素によって形成される前記酸化物を中間酸化物とし、前記電気陰性度が2.8を越える酸化物を形成し得る元素をA-元素とし、該A-元素によって形成される前記酸化物を酸性酸化物とし、前記酸・塩基性充填材を構成する前記複合酸化物におけるこれら3種の元素の存在比を前記中間酸化物の質量:Nを基準とした前記塩基性酸化物の質量:B及び前記酸性酸化物の質量:Aの比で表したときに、前記存在比が、B/N=1.9~3.0及びA/N=0.03~3.0である、ことが好ましい。
【0014】
また、前記充填材は、前記充填材は、pKa7.2以上の塩基性を示す領域を有しない物質の紛体からなる非塩基性充填材を含み、該前記非塩基性充填材の含有量は、カチオン重合性単量体100質量部に対して1~380質量部である、ことが好ましい。
【0015】
また、前記酸・塩基性充填材の平均1次粒子径が10~1000nmであり、当該酸・塩基性充填材を構成する前記複合酸化物の25℃におけるナトリウムd線に対する屈折率が1.45~1.60である、ことが好ましい。
【0016】
さらに、前記カチオン重合性単量体がエポキシ系化合物であり、前記酸発生剤が光酸発生剤である、ことが好ましい。
【0017】
本発明の第二の形態は、本発明のカチオン重合性硬化性組成物からなる歯科用硬化性組成物(以下、「本発明の歯科用硬化性組成物」ともいう。)である。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、酸発生剤系開始剤を含むカチオン重合性硬化性組成物において、フェノール系酸化防止剤と水素イオン捕捉剤との組み合わせからなる添加剤を使用することなく、ゲル化を防止して保存安定性を向上させることができる。しかも、長期間保管後においても初期の硬化性を維持することが可能である。さらに、前記酸・塩基性充填材は、X線不透過性を有するものも含むため、そのような酸・塩基性充填材を使用すれば、他のX線不透過性フィラー(すなわち、悪影響を及ぼすことが懸念されるX線不透過性フィラーや特許文献4に記載されているようなX線不透過性フィラー)を別途配合することなく、硬化体にX線造成性を付与することができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明のカチオン重合性硬化性組成物は、上記したような効果を奏するため、歯科用途は勿論、このような特性が要求される様々な用途に好適に使用することができる。例えば、歯科用充填修復材料、接着剤、塗料、光学材料等として好適に使用することができる。
【0020】
このような効果が得られる理由は、電気陰性度が2.0未満である酸化物を形成し得る元素と、電気陰性度が2.0~2.8である酸化物を形成し得る元素と、電気陰性度が2.8を越える酸化物を形成し得る元素と、の複合酸化物であって、pKa7.2以上9.3未満の塩基性を示す領域と、pKa3.3を超え4.8以下の酸性を示す領域と、を有する複合酸化物の紛体からなる酸・塩基性充填材を配合したことによる。効果発現の詳細な機構は、必ずしも明らかではなく、また、本発明は何ら論理に拘束されるものではないが、本発明者等は、次のようなものであると推定している。
【0021】
すなわち、保存期間中におけるゲル化は、保存中に起こる酸発生剤の僅かな分解に伴って発生する微量の酸が原因であると考えられるところ、酸・塩基性充填材における前記塩基性領域に存在する塩基点によって当該微量の酸が捕捉されるため、上記ゲル化が防止できるようになったものと考えられる。このとき、上記塩基性領域の周囲には酸性領域が存在するため、塩基点の酸捕捉力は酸性領域(に存在する酸点)の影響により弱められて、捕捉速度は遅くなるものの、塩基性領域と酸性領域と間に適度な距離が存在することと、酸と共存する時間が長いことから、微量の酸であっても捕捉できると考えられる。これに対し、光照射等により酸発生剤を(重合開始剤として)機能させて一気に大量の酸を発生させた場合には、酸を補足することができず、実質的に全ての酸が重合反応に寄与できるため、初期及び長期間保管後の硬化性が良好に保たれたものと推定している。
【0022】
前記したように、発明のカチオン重合性硬化性組成物は、酸・塩基性充填材を特定量配合した点に最大の特徴を有し、その点を除けば、従来のカチオン重合性硬化性組成物と大きく変わる点は無い。たとえば、本発明のカチオン重合性硬化性組成物に配合される、カチオン重合性単量体及び酸発生剤並びに必要に応じて配合される(酸・塩基性充填材以外の)その他の充填材等は、特許文献1に開示されている歯科用カチオン硬化性組成物等で使用できるとされているものが特に制限なく使用できる。
【0023】
以下、これらを含めて本発明のカチオン重合性硬化性組成物について詳しく説明する。なお、本明細書においては特に断らない限り、数値x及びyを用いた「x~y」という表記は「x以上y以下」を意味するものとする。かかる表記において数値yのみに単位を付した場合には、当該単位が数値xにも適用されるものとする。
【0024】
1.カチオン重合性単量体
カチオン重合性単量体としては、酸発生剤の分解によって生じる酸によって重合する化合物であれば特に限定されず、ビニルエーテル化合物、エポキシ化合物、オキセタン化合物、環状エーテル化合物、双環状オルトエステル化合物、環状アセタール化合物、双環状アセタール化合物、環状カーボネート化合物などが使用できる。
【0025】
好適に使用できるエポキシ化合物を具体的に例示すると、1,2-エポキシプロパン、エピクロロヒドリン、メチルグリジジルエーテル、シクロヘキセンオキサイド、フェニルグリシジルエーテル、1,3-ブタジエンジオキサイド、エチレングリコールジグリシジルエーテル、1,4-ビス(3,4-エポキシシクロヘキシルメチルオキシメチル)ベンゼン、メチルビス[2-(7-オキサビシクロ[4.1.0]ヘプト-3-イル)エチル]フェニルシラン、グリセロールトリグリシジルエーテル、ペンタエリスリトールトリグリシジルエーテル、3,3’,3’’,3’’’-[(2,4,6,8-テトラメチルシクロテトラシロキサン-2,4,6,8-テトライル)テトラ-2,1-エタンジイル]テトラキス[7-オキサビシクロ[4.1.0]ヘプタン]等を挙げることができる。
【0026】
また、好適に使用できるオキタセン化合物を具体的に例示すると、トリメチレンオキサイド、3-メチル-3-オキセタニルメタノール、3,3-ジエチルオキセタン、3-エチル-3{[(3-エチルオキセタン―3-イル)メトキシ]メチル}オキセタン、1,4-ビス(3-エチル-3-オキセタニルメチルオキシ)ベンゼン、4,4′-ビス(3-エチル-3-オキセタニルメチルオキシ)ビフェニール、エチレングリコールビス(3-エチル-3-オキセタニルメチル)エーテル、ジエチレングリコールビス(3-エチル-3-オキセタニルメチル)エーテル、ビス(3-エチル-3-オキセタニルメチル)ジフェノエート、ペンタエリスリトールテトラキス(3-エチル-3-オキセタニルメチル)エーテル等を挙げることができる。
【0027】
また、好適に使用できるその他のカチオン重合性単量体を具体的に例示すると、テトラヒドロフラン、オキセパン等の環状エーテル化合物;ビシクロオルトエステル、スピロオルトエステル、スピロオルトカーボネート等の双環状オルトエステル化合物;1,3,5-トリオキサン、1,3-ジオキソラン、オキセパン、1,3-ジオキセパン、4-メチル-1,3-ジオキセパン、1,3,6-トリオキサシクロオクタン等の環状アセタール化合物;2,6-ジオキサビシクロ[2.2.1]ヘプタン、2,7-ジオキサビシクロ[2.2.1]ヘプタン、6,8-ジオキサビシクロ[3.2.1]オクタン等の双環状アセタール化合物;及びエチレンカーボネート、トリメチレンカーボネート等の環状カーボネート化合物を挙げることができる。
【0028】
これらの中でも、重合性の良さ等からエポキシ化合物及びオキセタン化合物が好適に用いられる。なお、上記のカチオン重合性単量体は、単独で使用してもよいし、2種類以上を組み合わせて使用してもよい。
【0029】
2.酸発生剤
酸発生剤としては、前記のカチオン重合性単量体を重合させることができる酸発生剤として使用されている、化学酸発生剤、光酸発生剤、熱酸発生剤等が、特に制限なく使用できる。光酸発生剤の配合量は、光照射により重合を開始しうる量であれば特に制限されないが、通常、カチオン重合性単量体100質量部に対して0.001~10質量部の範囲である。重合速度と得られる硬化体の各種物性(例えば、耐候性や硬度)の観点から、上記基準で0.05~5質量部を配合することが好ましい。
【0030】
また、口腔内で硬化させる歯科用途においては、酸発生剤としては、光酸発生剤を使用することが好ましい。なお、光酸発生剤とは、光照射によって励起されることにより、光酸発生剤が分解され、その結果、酸を発生し、これが重合開始剤種となってカチオン重合を開始させることができる化合物からなる重合開始剤を意味する。このような光酸発生剤としては、ヨードニウム塩系光酸発生剤、スルホニウム塩系光酸発生剤、ピリジニウム塩系光酸発生剤、トリハロメチル-S-トリアジン系光酸発生剤等があり、何れも使用可能であるが、重合活性が高いことから、ヨードニウム塩系光酸発生剤及び/又はスルホニウム塩系光酸発生剤を使用することが好ましく、ヨードニウム塩系光酸発生剤を使用することが特に好ましい。また、近紫外~可視域の光を吸収しない光酸発生剤については、このような光を照射することにより重合活性を示すようにするために、光酸発生剤1モルに対し、0.001~20モル程度、好ましくは0.005~10モルの増感剤の化合物を配合することが好ましい。
【0031】
好適に使用できるヨードニウム塩系光酸発生剤を例示すれば、ジフェニルヨードニウム、ビス(p-クロロフェニル)ヨードニウム、ジトリルヨードニウム、ビス(p-tert-ブチルフェニル)ヨードニウム、p-イソプロピルフェニル-p-メチルフェニルヨードニウム、ビス(m-ニトロフェニル)ヨードニウム、p-tert-ブチルフェニルフェニルヨードニウム、p-メトキシフェニルフェニルヨードニウム、ビス(p-メトキシフェニル)ヨードニウム、p-オクチルオキシフェニルフェニルヨードニウム、p-フェノキシフェニルフェニルヨードニウム、ビス(p-ドデシルフェニル)ヨードニウム等のカチオンと、クロリド、ブロミド、p-トルエンスルホナート、トリフルオロメタンスルホナート、テトラフルオロボレート、テトラキスペンタフルオロフェニルボレート、テトラキスペンタフルオロフェニルガレート、ヘキサフルオロフォスフェート、ヘキサフルオロアルセナート、ヘキサフルオロアンチモネート等のアニオンからなるジアリールヨードニウム塩系化合物を挙げることができる。これらの中でも、カチオン重合性単量体に対する溶解性及び重合活性の点からヘキサフルオロアンチモネート、テトラキスペンタフルオロフェニルボレート又はテトラキスペンタフルオロフェニルガレートアニオンとして有する化合物を使用することが好ましく、毒性の低さの観点から、テトラキスペンタフルオロフェニルボレートをアニオンとして有する化合物を使用することが特に好ましい。
【0032】
また、好適に使用できるスルホニウム塩系光酸発生剤の成分であるスルホニウム塩化合物としては、トリフェニルスルホニウム、p-トリルジフェニルスルホニウム、p-tert-ブチルフェニルジフェニルスルホニウム、ジフェニル-4-フェニルチオフェニルスルホニウム等のクロリド、ブロミド、p-トルエンスルホナート、トリフルオロメタンスルホナート、テトラフルオロボレート、テトラキスペンタフルオロフェニルボレート、テトラキスペンタフルオロフェニルガレート、ヘキサフルオロフォスフェート、ヘキサフルオロアルセナート、ヘキサフルオロアンチモネート塩を挙げることができる。
【0033】
また、光酸発生剤と組み合わせて用いる増感剤としては、近紫外~可視域の光を吸収する、アクリジン系色素、ベンゾフラビン系色素、アントラセン、ペリレン等の縮合多環式芳香族化合物、フェノチアジン、ジアリールケトン化合物、α―ジケトン化合物又はクマリン化合物などを挙げることができる。
【0034】
3.充填材
本発明のカチオン重合性硬化性組成物に配合される充填材は、少なくともカチオン重合性単量体100質量部に対して20~400質量部となる量、好ましくは40~150質量部となる量の酸・塩基性充填材を含む必要がある。この条件を満足しない場合には、前記効果を得ることができない。なお、充填材は、歯科用硬化性組成物として適切な性状(操作性)を担保するために、pKa7.2以上の塩基性を示す領域を有しない物質の紛体からなる非塩基性充填材を、カチオン重合性単量体100質量部に対して1~380質量部、特に60~190質量部含む様にしてもよい。非塩基性充填材を配合すると安定化効果は低下する傾向にあるがこの程度の配合量であれば、実用に耐え得る安定化効果を得ることができる。以下、酸・塩基性充填材及び非塩基性充填材等の充填材について詳しく説明する。
【0035】
3-1.酸・塩基性充填材
本発明において、酸・塩基性充填材とは、電気陰性度が2.0未満である酸化物(以下、「酸性酸化物」ともいう。)を形成し得る元素と、電気陰性度が2.0~2.8である酸化物(以下、「中間酸化物」ともいう。)を形成し得る元素と、電気陰性度が2.8を越える酸化物(以下、「酸性酸化物」ともいう。)を形成し得る元素と、の複合酸化物であって、pKa7.2以上9.3未満の塩基性を示す領域(以下、「塩基性領域」ともいう。)と、pKa3.3を超え4.8以下の酸性を示す領域(以下、「酸性領域」ともいう。)と、を有する複合酸化物の紛体からなる充填材を意味する。
【0036】
ここで、酸化物の電気陰性度とは、酸化物を構成する元素のポーリングによる電気陰性度を、含有される各元素の比に応じて加重平均した値を意味する。例えば、酸化ホウ素(B2O3)の電気陰性度は、ホウ素の電気陰性度:2.04及び酸素の電気陰性度:3.44、並びにホウ素の原子数:2、酸素の原子数:3及び総原子数:5に基づき、
式:{(2.04×2)+(3.44×3)}/5=2.88
から、2.88となる。代表的な酸化物について、このようにして決定される電気陰性度の値を表1に示す。
【0037】
【0038】
また、pKa7.2以上9.3未満の塩基性を示す領域である塩基性領域とは、表面に塩基性点を有し、上記pKaの範囲内となる変色pKaを有するハメット(Hammett)指示薬と接触させたとき変色を起こす領域を意味する。そして、その存在は、ハメット指示薬と接触させたときの色調変化により確認することができる。すなわち、表2に代表的なハメット指示薬とその変色pKaを示すが、変色pKaが7.2であるブロモチモールブルー、及び変色pKaが7.2以上9.3未満の各種ハメット指示薬と接触させたときに変色し、変色pKaが9.3であるフェノールフタレインと接触させたときに変色しない、ことにより確認することができる。同様に、pKa3.3を超え4.8以下の酸性を示す領域である酸性領域とは、表面に酸性点を有し、上記pKaの範囲内となる変色pKaを有するハメット指示薬と接触させたとき変色を起こす領域を意味する。そしてその存在は、変色pKaが3.3を超え4.8以下である、メチルレッド及び4-フェニルアゾ-1-ナフチルアミンなどのハメット指示薬と接触させたときに変色し、変色pKaが上記範囲外のハメット指示薬、たとえば変色pKaが3.3以下であるメチルイエロー(変色pKa:3.3)や2-アミノアゾトルエン(変色pKa:2.0)などと接触させたときに変色しない、ことにより確認することができる。本発明では、モレキュラーシーブにより脱水した3mlのトルエン中に複合酸化物の紛体1gを懸濁させたサンプルを複数準備し、各サンプルについて、各変色pKaを有するハメット指示薬の1質量%トルエン溶液を0.3ml滴下した後に懸濁液を振盪し、懸濁液の色調変化の有無を目視にて確認することにより酸・塩基性領域の有無を確認している。
【0039】
【0040】
酸・塩基性充填材を構成する前記複合酸化物において、電気陰性度が2.0未満である酸化物(塩基性酸化物)を形成し得る元素をB-元素とし、前記電気陰性度が2.0~2.8である酸化物(中間酸化物)を形成し得る元素をN-元素とし、前記電気陰性度が2.8を越える酸化物(酸性酸化物)を形成し得る元素をA-元素としたときに、前記B-元素は、Cs、K及びNaからなる群より選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。また、前記N-元素は、Ba、Sr、Ca、Mg,Zn、Li、Al及びZrからなる群より選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。また、前記A-元素は、La、B、Ta、Si、Rh及びPからなる群より選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。
【0041】
さらに、効果の観点から、前記酸・塩基性充填材を構成する前記複合酸化物におけるB-元素、N-元素、及びA-元素の存在比を前記中間酸化物の質量:Nを基準とした前記塩基性酸化物の質量:B及び前記酸性酸化物の質量:Aの比で表して、B/N=0.03~3.0及びA/N=1.9~3.0であることが好ましく、B/N=2.0~3.0及びA/N=2.0~3.0であることがより好ましい。
【0042】
酸・塩基性充填材については、各種モノマーとの親和性向上のため表面処理を行うこともできるが、表面処理により充填材の表面性状、すなわち塩基性或いは酸性が変化する可能性があることに留意する必要がある。表面処理を行う場合の表面処理剤との反応性から前記A-元素は、Siを含むことが好ましい。
【0043】
酸・塩基性充填材を構成する前記複合酸化物の紛体は、前記塩基性酸化物からなる紛体、前記中間酸化物からなる紛体及び前記酸性酸化物からなる紛体を上記B/N及びA/Nを満足するように混合した混合紛体を原料として、高温で溶融又は焼結した後に適宜粉砕することにより得ることができる。また、入手可能なB-元素、N-元素、及びA-元素の複合酸化物からなる紛体であって、これらの含有比が上記条件を満足するものであって、特別な表面処理を行っていないものは、通常、酸・塩基性充填材として使用できると考えられる。表面処理を行っている場合には、前記したハメット指示薬を用いた確認方法により、酸・塩基性充填材に該当するか否かを確認することができる。
【0044】
また、歯科用硬化性組成物に用いる場合、重合性単量体及び重合物との間に生じる光散乱を生じにくく、歯質への充填時に審美性に優れると言う理由から、前記複合酸化物の25℃におけるナトリウムd線に対する屈折率が1.45~1.60であることが好ましい。また、歯質への充填後に実施する研磨時の光沢が得られやすく、作業性及び審美性に優れると言う理由から、酸・塩基性充填材を構成する紛体の平均1次粒子径は、10~1000nmであることが好ましく、100~600nmであることがより好ましい。
【0045】
さらに、他のX線不透過性フィラーを配合することなく、X線造影性を付与できるようにするために、酸・塩基性充填材はX線不透過性を有することが好ましい。X線不透過性を持たせるためには、B-元素、N-元素、又はA-元素として少なくとも30の原子番号を有する元素を含むようにすればよい。
【0046】
3-2.非塩基性充填材
本発明において、非塩基性充填材とは、pKa7.2以上の塩基性を示す領域を有しない物質の紛体からなる充填材を意味する。非塩基性充填材としては、前記N-元素の酸化物又は異なる複数の前記N-元素の複合酸化物を使用することができる。これら中性充填材は、そのまま配合してもよいし、ラジカル重合性単量体と混合してから硬化させたものを粉砕する等の方法によって樹脂と複合化した所謂「有機-無機複合フィラー」として配合してもよい。また、そのまま配合する場合には、シランカップリング剤等を用いて表面処理を行うことが好ましい。
【0047】
また、前記塩基性酸化物又は前記酸・塩基性充填材を構成する複合酸化物であって、表面処理をすることによりpKa7.2以上の塩基性を示す領域を有しない状態となったものも使用できる。
【0048】
非塩基性充填材においてもこれを構成する酸化物又は複合酸化物の25℃におけるナトリウムd線に対する屈折率が1.45~1.60であることが好ましく、紛体の平均1次粒子径は、10~1000nm、特に100~600nmであることが好ましい。
【0049】
さらに、非塩基性充填材は、有機充填材であってもよい。好適に使用できる有機充填材としては、ポリメチルメタクリレート、ポリエチルメタクリレート、メチルメタクリレート-エチルメタクリレート共重合体、架橋型ポリメチルメタクリレート、架橋型ポリエチルメタクリレート、エチレン-酢酸ビニル共重合体、スチレン-ブタジエン共重合体、アクリロニトリル-スチレン共重合体、アクリロニトリル-ブタジエン―スチレン共重合体などの有機高分子からなる紛体を挙げることができる。
【0050】
4.その他成分
4-1.ラジカル重合性単量体
本発明のカチオン重合性硬化性組成物には、必要に応じて(メタ)アクリレート系単量体などの付加重合型のラジカル重合性単量体を配合することも可能である。ラジカル重合性単量体を配合することにより、見かけの硬化時間を短くすることができる。ただし、付加重合型のラジカル重合性単量体は硬化後にカチオン重合性単量体と相分離を引き起こす可能性があるため、あまり多量に配合することは好ましくない。
【0051】
ラジカル重合性単量体を配合する場合のその配合量は、カチオン重合性単量体100質量部に対して、43質量部以下とすることが好ましく、12質量部以下とすることが好ましい。
【0052】
このようなラジカル重合性単量体を具体的に例示すれば、メチル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、2-シアノメチル(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、アリル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシエチルモノ(メタ)アクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ノナエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、2,2-ビス[4-(メタ)アクリロイルオキシエトキシフェニル]プロパン、2,2-ビス[4-(メタ)アクリロイルオキシエトキシエトキシフェニル]プロパン、2,2-ビス{4-[3-(メタ)アクリロイルオキシ-2-ヒドロキシプロポキシ]フェニル}プロパン、1,4-ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,3-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ウレタンジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンジ(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリレート系単量体等を挙げることができる。
【0053】
これらラジカル重合性単量体を配合する場合には、ラジカル重合性開始剤を合わせて配合することが好ましい。ラジカル重合性開始剤としては本発明のカチオン重合性硬化性組成物の保存安定性に悪影響を与えないものであれば特に限定されないが、光酸発生剤を使用する場合には光重合開始剤を使用することが好ましい。
【0054】
4-2.各種添加剤等
本発明のカチオン重合性硬化性組成物には、本発明の効果を阻害しない範囲内で、必要に応じて、重合禁止剤、紫外線吸収剤、染料、帯電防止剤、顔料、香料、有機溶媒や増粘剤などの各種添加剤等を配合することができる。
【0055】
5.本発明のカチオン重合性硬化性組成物の製造方法及び使用方法
本発明のカチオン重合性硬化性組成物は、各成分を混合することにより製造することができる。具体的には、配合成分を所定量秤採り、これらを混合してペースト状とすれば良い。このとき、混合条件は、使用する酸発生剤の種類に応じて、酸が発生しない条件を採用する。たとえば、光酸発生剤を用いた場合には暗所で、熱酸発生剤を用いた場合には室温或いは低温下で混合する必要がある。そして、製造された本発明のカチオン重合性単量体は、使用時まで遮光下もしくは室温下、或いは低温下で保存される。化学酸発生剤を用いた場合には、該化学酸発生剤が機能しないようにその構成成分を分割して他の成分と混合し、夫々の成分を含む複数の剤を調製し、分割した状態で保存し、使用時に各剤を混合するようにすればよい。
【0056】
本発明のカチオン重合性硬化性組成物を硬化させる手段としては、用いた重合開始剤の重合開始機構に従い適宜、公知の重合手段を採用すれば良く、具体的には、カーボンアーク、キセノンランプ、メタルハライドランプ、タングステンランプ、蛍光灯、太陽光、ヘリウムカドミウムレーザー、アルゴンレーザー等の光源による光照射、或いは加熱重合器等を用いた加熱、またはこれらを組み合わせた方法等が何等制限なく使用される。光照射により重合させる場合には、その照射時間は、光源の波長、強度、硬化体の形状や材質によって異なるため、予備的な実験によって予め決定しておけばよいが、一般には、照射時間が5~60秒程度の範囲になるように、各種成分の配合割合を調整しておくことが好ましい。
【実施例0057】
以下、実施例により本発明を具体的に示すが、本発明はこの実施例によって何等限定されるものではない。
【0058】
先ず、実施例及び比較例において、調製されるカチオン重合性硬化性組成物の原材料として使用した物質とその略号、及び調製されたカチオン重合性硬化性組成物の評価方法について説明する。
【0059】
1.物質とその略号
1-1.カチオン重合性単量体
EP-1:下記式で示される化合物(信越化学工業株式会社製、KR470)
【0060】
【0061】
OX-1:下記式で示される化合物(東亜合成株式会社製、OXT-121)
【0062】
【0063】
1-2.重合開始剤
(1)光酸発生剤
DPIB:4-イソプロピル-4’-メチルジフェニルヨードニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボラート(東京化成工業株式会社製)
(2)増感剤
CQ:カンファ―キノン(東京化成工業株式会社製)。
【0064】
1-3.充填材
(1)酸・塩基性充填材
酸・塩基性充填材としては表3に示す組成を有する複合酸化物からなるF1、F2及びF3(何れもSCHOTT AG社製)を使用した。なお、表3に示す各酸化物系充填材の組成は、蛍光X線測定結果に基づき、各元素(B-元素、N-元素及びA-元素)の含有量を各元素の酸化物の質量基準で表したものである。また、表3に示す塩基性領域のpH及び酸性領域のpHは、前記したように、モレキュラーシーブにより脱水した3mlのトルエン中に充填材紛体1gを懸濁させたサンプルを複数準備し、各サンプルについて、各変色pKaを有するHammett指示薬の1質量%トルエン溶液を0.3ml滴下した後に懸濁液を振盪し、懸濁液の色調変化の有無を目視にて確認することにより酸・塩基性点の有無を確認した結果に基づくものである。さらに、各充填材の平均一次粒子系と25℃におけるナトリウムd線に対する屈折率は以下に示すとおりである。
F1:平均一次粒子径4000nm、屈折率1.58
F2:平均一次粒子径400nm、屈折率1.52
F3:平均一次粒子径400nm、屈折率1.52。
【0065】
(2)酸・塩基性充填材以外の充填材(その他充填材)
(2-1)酸化物系その他充填材
酸化物系の「その他充填材」として、表3に示す組成を有する複合酸化物からなるRF1~RF6(何れもSCHOTT AG社製)及びRF7(ゾル―ゲル法により調製されたもの)、並びに、SiO2:シリカ(平均一次粒子径1000nm、屈折率1.46の溶融法により調製されたもの)Al2O3:アルミナ(東京化成工業株式会社製)を使用した。なお、RF2-STは、RF2をシランカップリング剤であるメタクリル酸-3-(トリメトキシシリル)プロピル-3-(メタクリロイルオキシ)プロピルトリメトキシシランで表面処理したものである。また、RF5におけるFの含有量は酸化物基準では無く、元素の質量を用いている。
【0066】
RF1~RF7の平均一次粒子系と25℃におけるナトリウムd線に対する屈折率を以下に示す。
RF1:平均一次粒子径1500nm、屈折率1.53
RF2:平均一次粒子径260nm、屈折率1.52
RF3:平均一次粒子径700nm、屈折率1.52
RF4:平均一次粒子径700nm、屈折率1.53
RF5:平均一次粒子径700nm、屈折率1.53
RF6:平均一次粒子径1000nm、屈折率1.55
RF7:平均一次粒子径260nm、屈折率1.52。
【0067】
(2-2)無機塩系及び有機塩系その他充填材
無機塩系及び有機塩系の「その他充填材」として、表3に示す、NaF:フッ化ナトリウム(東京化成工業株式会社製)、Na2CO3:炭酸ナトリウム(東京化成工業株式会社製)、Na2SO4:硫酸ナトリウム(東京化成工業株式会社製)及びDBS-Na:ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム(東京化成工業株式会社製)を使用した。
【0068】
【0069】
2.カチオン重合性硬化性組成物の評価方法
2-1.硬化性評価
各実施例および比較例で調製したカチオン重合性硬化性組成物を、内径0.7cm、深さ0.1cmのポリプロピレン製モールドに充填した。ついで歯科用の光照射器(TOKUSO POWER LITE、(株)トクヤマ社製)を用い、照射距離0.5cmで20秒間光照射を行った。このとき照射後の組成物全体が充分に硬化するものを〇、未硬化部分がある、或いは全く硬化していないものを×とした。
【0070】
2-2貯蔵安定性評価
(1)ゲル化までの貯蔵日数
各実施例、比較例で調製した組成物を、遮光条件下50℃恒温装置内で貯蔵した。この硬化性組成物を、1日置きに恒温装置から取り出し、暗所下において室温まで放冷した後、該硬化性組成物の性状をプラスチック製スパチュラで検査した。この際に、調製直後の組成物と比較し、スパチュラで触って流動性が大きく失われて粘度が上昇したか、流動せずゼリー状になった日数をゲル化までの貯蔵日数(ゲル化日数)とした。
【0071】
(2)貯蔵後硬化性
(1)と同様にして貯蔵した組成物の硬化性を、2-1.で示した方法により検査し、×となった日数を硬化性低下までの貯蔵日数(硬化性低下日数)とした。
【0072】
(3)貯蔵日数
(1)或いは(2)のより短い日数を貯蔵日数とした。
【0073】
実施例1
70質量部のEP-1及び30質量部のOX-1からなるカチオン重合性単量体100質量部に対して、重合開始剤として1.5質量部のDPIB、0.3質量部のCQを加え、6時間撹拌し液状組成物を調製した。この液状組成物に対して、充填材としてF1をカチオン重合性単量体100質量部に対して、150質量部となるように加えて、メノウ乳鉢で混合し、該混合物を真空化、脱泡して気泡を取り除き、ペースト状のカチオン重合性硬化性組成物を得た。
【0074】
得られたカチオン重合性硬化性組成物について、硬化性と貯蔵安定性を評価した。結果を表4に示した。
【0075】
実施例2~6、比較例1~17
実施例1において、配合する充填材を表4に記載したように変化させた以外は実施例1と同様にしてカチオン重合性硬化性組成物を調製し、その硬化性と貯蔵安定性を評価した。結果を併せて表4に示した。
【0076】
【0077】
表4に示されるように、酸・塩基性充填材及びその他充填材を含まない比較例1では、初期硬化性は良好であり、ゲル化日数は39日であった。一方、酸・塩基性充填材を配合した実施例1~6では、初期硬化性に優れ、更に、ゲル化日数が140日以上と、比較例1に比べて大幅に長くなり、硬化性低下日数も172日以上と極めて長くなっていた。
これに対し、同じB-N-A系複合酸化物であっても酸・塩基性充填材に該当しないRF1やRF2を添加した比較例2~5では、比較例1と比べてゲル化日数が短くなっている。同様に、B-N-A系複合酸化物以外の複合酸化物系の「その他充填材」やシリカを配合した比較例6~12でも比較例1と比べてゲル化日数が短くなっている。また、アルミナを配合した比較例13では、比較例1と比べてゲル化日数は長期化するもののその程度は実施例より劣っているばかりでなく、硬化性低下日数(42日)も実施例と比べるとかなり短くなっている。さらに、無機塩系及び有機塩系の「その他充填材」を配合した比較例14~17では、これら充填材が塩基性を有するためと思われるが、ゲル化日数が長くなるが、硬化性低下日数は30日~2日であり、実施例と比べると大幅に短くなって(劣って)いる。
【0078】
実施例7~12、比較例18~20
実施例1において、配合する充填材種、充填材量を表5に記載したように変化させた以外は実施例1と同様にして組成物を調製し、その硬化性と貯蔵安定性を評価した。結果を併せて表5に示した。
【0079】
【0080】
表5に示されるように、酸・塩基性充填材と非塩基性充填材と組み合わせて配合した実施例7~12のカチオン重合性硬化性組成物でも、酸・塩基性充填材及びその他充填材を含まない比較例1と比べて、貯蔵日数が改善されている。また、酸・塩基性充填材を配合せずに非塩基性充填材を各実施例と同様の充填率になるように配合した比較例18~20と比べても貯蔵日数が有意に長くなっている。