(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022106500
(43)【公開日】2022-07-20
(54)【発明の名称】クロックデータ再生回路および受信機
(51)【国際特許分類】
H04L 7/033 20060101AFI20220712BHJP
【FI】
H04L7/033 100
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021001539
(22)【出願日】2021-01-07
(71)【出願人】
【識別番号】591128453
【氏名又は名称】株式会社メガチップス
(74)【代理人】
【識別番号】100108523
【弁理士】
【氏名又は名称】中川 雅博
(74)【代理人】
【識別番号】100125704
【弁理士】
【氏名又は名称】坂根 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100187931
【弁理士】
【氏名又は名称】澤村 英幸
(72)【発明者】
【氏名】金 英毅
【テーマコード(参考)】
5K047
【Fターム(参考)】
5K047AA12
5K047GG22
5K047MM45
5K047MM48
5K047MM60
(57)【要約】
【課題】チャネルの特性に応じて、受信したデータ信号に基づいてクロック信号を再生することを課題とする。
【解決手段】クロックデータ再生回路23は、デジタルのデータ信号D2から位相特性データD3を出力する位相検出器201、位相特性データD3を調整する調整回路202を備える。通信を開始する前のトレーニング期間において、オフセット出力回路205から出力されるオフセットデータD6に基づいて位相補間回路208において調整する基準クロック信号BCLの位相を変化させつつ、モニタ回路203によって位相特性データD3の調整値を算出することで、調整回路202に調整値を設定する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基準クロック生成回路により生成される基準クロック信号の位相を調整し、受信クロック信号を生成する位相補間回路と、
前記位相補間回路において生成された前記受信クロック信号に同期して動作し、受信アナログデータ信号を受信デジタルデータ信号に変換するアナログデジタル変換器から出力された前記受信デジタルデータ信号を入力し、前記受信デジタルデータ信号から位相特性データを出力する位相検出器と、
前記位相特性データを調整する調整回路と、
前記調整回路から出力される前記位相特性データをモニタし、前記位相特性データに基づいて前記調整回路に設定する調整値を算出するモニタ回路と、
前記調整回路から出力された前記位相特性データに基づいて、前記位相補間回路に設定する位相データを生成するための調整データを出力するループフィルタと、
前記位相補間回路に設定する前記位相データを生成するためのオフセットデータを出力するオフセット出力回路と、
を備え、
通信を開始する前のトレーニング期間において、前記オフセット出力回路から出力される前記オフセットデータに基づいて前記位相補間回路において調整する前記基準クロック信号の位相を変化させつつ、前記モニタ回路によって前記調整値を算出することで、前記調整回路に前記調整値を設定する、クロックデータ再生回路。
【請求項2】
前記モニタ回路は、前記トレーニング期間において前記位相補間回路において調整される位相と、前記位相特性データとの関係を示す位相差対出力特性に基づいて、前記調整値を算出する、請求項1に記載のクロックデータ再生回路。
【請求項3】
前記調整値は、オフセット調整値およびゲイン調整値を含む、請求項1または請求項2に記載のクロックデータ再生回路。
【請求項4】
前記モニタ回路は、前記位相特性データの分散に基づいて、前記ゲイン調整値を算出する、請求項3に記載のクロックデータ再生回路。
【請求項5】
前記モニタ回路は、前記位相特性データの分散と前記ゲイン調整値とを対応付けたテーブルを参照することで、前記ゲイン調整値を取得する、請求項4に記載のクロックデータ再生回路。
【請求項6】
前記モニタ回路は、前記位相特性データの平均値に基づいて、前記オフセット調整値を算出する、請求項3~請求項5のいずれか一項に記載のクロックデータ再生回路。
【請求項7】
前記位相検出器は、Mueller Muller位相検出器であり、前記位相差対出力特性は、Mueller Muller出力のSカーブである、請求項2~請求項6のいずれか一項に記載のクロックデータ再生回路。
【請求項8】
請求項1~請求項7のいずれか一項に記載のクロックデータ再生回路と、
前記基準クロック生成回路と、
前記アナログデジタル変換器と、を備える受信機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、受信データをサンプリングするためのクロック信号を再生する回路およびその回路を備える受信機に関する。
【背景技術】
【0002】
通信システムでは、送信機および受信機の間でクロック信号の周波数および位相の同期を取る必要がある。受信機が備えるクロックデータ再生回路(CDR回路:Clock and Data Recovery回路)は、送信機から送信されたランダムなデータ信号に基づいて、クロック信号を再生する。受信機が備えるアナログデジタル変換器は、CDR回路が再生したクロック信号に基づいて、データ信号をサンプリングする。
【0003】
下記特許文献1のクロック再生回路は、クロック信号とクロック信号を180度反転させたクロック信号を用いて、入力データと再生クロックの位相差を求めている。そのほか、2倍オーバーサンプリングしたクロック信号を用いて、送信機側のクロック信号と受信機側のクロック信号との位相差を求める方法などが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、2倍オーバーサンプリングされたクロック信号、または、位相が180度反転したクロック信号を用いて、送信機側のクロック信号と受信機側のクロック信号との位相差を求めるアナログ回路を構成することは、回路の製造コストが高くなる。そこで、入力データと再生クロックとの位相差を求める処理をデジタルで処理する位相検出器(Phase Detector)が用いられる場合がある。位相検出器として、例えば、Mueller Muller位相検出器が知られている。
【0006】
位相検出器は受信データ系列から位相のずれを検出する回路であり、その検出結果は、受信データの品質に左右される。つまり、位相検出器の検出結果は、チャネルの特性に影響を受ける。このため、チャネルの特性によっては、受信機において周波数ロックができない場合がある。
【0007】
本発明の目的は、チャネルの特性に応じて、受信したデータ信号に基づいてクロック信号を再生することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一局面に従うクロックデータ再生回路は、基準クロック生成回路により生成される基準クロック信号の位相を調整し、受信クロック信号を生成する位相補間回路と、位相補間回路において生成された受信クロック信号に同期して動作し、受信アナログデータ信号を受信デジタルデータ信号に変換するアナログデジタル変換器から出力された受信デジタルデータ信号を入力し、受信デジタルデータ信号から位相特性データを出力する位相検出器と、位相特性データのオフセットおよびゲインを調整する調整回路と、調整回路から出力される位相特性データをモニタし、位相特性データに基づいて調整回路に設定するオフセット調整値とゲイン調整値とを算出するモニタ回路と、調整回路から出力された位相特性データに基づいて、位相補間回路に設定する位相データを生成するための調整データを出力するループフィルタと、位相補間回路に設定する位相データを生成するためのオフセットデータを出力するオフセット出力回路とを備え、通信を開始する前のトレーニング期間において、オフセット出力回路から出力されるオフセットデータに基づいて位相補間回路において調整する基準クロック信号の位相を変化させつつ、モニタ回路によってオフセット調整値とゲイン調整値とを算出することで、調整回路に設定されるオフセット調整値とゲイン調整値とをロックする。
【0009】
本発明の他の局面に従う受信機は、上記のクロックデータ再生回路と、基準クロック生成回路と、アナログデジタル変換器とを備える。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、チャネルの特性に応じて、受信したデータ信号に基づいてクロック信号を再生することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図2】本実施の形態に係るクロックデータ再生回路の内部構成を示す受信機のブロック図である。
【
図3】本実施の形態に係る調整回路の回路図である。
【
図4】本実施の形態に係るモニタ回路の回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
次に、添付の図面を参照しながら本発明の実施の形態に係るクロックデータ再生回路について説明する。
【0013】
(1)通信システムの構成
図1は、通信システムNSの全体図である。通信システムNSは、マスタ1およびスレーブ2を備える。マスタ1およびスレーブ2は、通信線NCで接続されている。つまり、本実施の形態においては、マスタ1およびスレーブ2は、有線高速通信を行う。マスタ1およびスレーブ2は、同一の施設内に設置されていてもよいし、異なる施設内に設置されていてもよい。あるいは、マスタ1およびスレーブ2が、自動車などの乗物内に設置されていてもよい。マスタ1およびスレーブ2は、例えば、TCP/IPを利用した通信を行う。なお、この実施の形態においては、マスタ1が送信機として動作し、スレーブ2が受信機として動作する場合を例に説明するため、以下においては、マスタ1を送信機1、スレーブ2を受信機2として説明する。ただし、各装置(各端末)が以下の実施の形態において説明するマスタ1およびスレーブ2の両方の機能を備えていてもよい。つまり、各装置(各端末)は、送信機として機能するとともに受信機としても機能してもよい。
【0014】
送信機1は、デジタルアナログ変換器(DAC)11および基準クロック生成回路12を備える。デジタルアナログ変換器11は、基準クロック生成回路12により生成された基準クロック信号に基づいて、送信するデータ信号をアナログ変換して通信線NCに出力する。基準クロック生成回路12は、例えば、水晶発振器やPLL(Phase Lock Loop)回路などを備えて構成される。
【0015】
受信機2は、アナログデジタル変換器(ADC)21、基準クロック生成回路22およびクロックデータ再生回路(CDR回路)23を備える。アナログデジタル変換器21は、クロックデータ再生回路23において生成される受信クロック信号MCLを利用して、通信線NCを介して受信するデータ信号をデジタル変換する。基準クロック生成回路22は、例えば、水晶発振器やPLL回路などを備えて構成され、基準クロック信号BCLを生成する。クロックデータ再生回路23は、デジタル変換されたデータ信号に基づいて、基準クロック信号BCLの位相を調整し、受信クロック信号MCLを生成する。
【0016】
(2)クロックデータ再生回路を含む受信機の構成
図2は、クロックデータ再生回路23の内部構成を示す受信機2のブロック図である。受信機2は、
図1で示したように、アナログデジタル変換器21、基準クロック生成回路22およびクロックデータ再生回路23を備える。
【0017】
アナログデジタル変換器21は、通信線NCを介して受信したアナログのデータ信号D1をデジタルのデータ信号D2に変換する。アナログデジタル変換器21は、位相補間回路208により生成された受信クロック信号MCLに基づいて、データ信号D2をサンプリングする。基準クロック生成回路22は、基準クロック信号BCLを生成する。位相補間回路208は、基準クロック生成回路22から出力された基準クロック信号BCLを入力する。位相補間回路208は、クロックデータ再生回路23によって生成された位相データD8に基づいて基準クロック信号BCLの位相を調整し、受信クロック信号MCLを生成する。
【0018】
クロックデータ再生回路23は、
図2に示すように、位相検出器(Phase Detector)201、調整回路202、モニタ回路203、ループフィルタ204、オフセット出力回路205、セレクタ206、積分回路207および位相補間回路208を備える。
【0019】
位相検出器201は、アナログデジタル変換器21から出力されたデジタルのデータ信号D2を受け取る。位相検出器201は、データ信号D2に基づいて位相特性データD3を算出する。本実施の形態においては、位相検出器201として、Mueller Muller位相検出器が用いられる場合を例に説明する。位相検出器201は、データ信号D2に基づいて、位相特性データD3として、Mueller Muller特性値(以下、MM特性値とする。)を出力する。
【0020】
図5は、MM特性値を説明する図である。
図5において、横軸は時間、縦軸はデータ信号D2の信号値を示す。図中の時間t2はサンプリング点を示す。また、時間t1,t3は、サンプリング点t2の前後の時間であり、t1とt2の時間間隔およびt2とt3の時間間隔は同じである。時間t1においてデータ信号D2は値“a”であり、時間t3においてデータ信号D2は値“b”である。MM特性値は、b-aに比例する値であり、b-a=0において、MM特性値が0となる。つまり、サンプリング点t2がデータ信号D2のピークからずれるにしたがって、MM特性値が大きくなる。
【0021】
図2に示すように、調整回路202は、位相検出器201が出力した位相特性データD3(MM特性値)を受け取る。調整回路202は、位相特性データD3のオフセットとゲインを調整する回路である。
【0022】
図3は、調整回路202を示す回路図である。調整回路202は、演算回路31および乗算器32を備える。演算回路31は、位相検出器201が出力した位相特性データD3を受け取る。また、演算回路31は、モニタ回路203が出力した平均値データD11を受け取る。演算回路31は、位相特性データD3から平均値データD11を減算することにより、減算データを出力する。平均値データD11は、位相特性データD3のオフセット調整値として利用される。減算データは、位相特性データD3のオフセットが調整されたデータである。
【0023】
乗算器32は、演算回路31が出力した減算データを受け取る。また、乗算器32は、モニタ回路203が出力したゲイン調整データD12を受け取る。乗算器32は、減算データにゲイン調整データD12を乗算することにより、位相特性データD4を出力する。ゲイン調整データD12は、位相特性データD3のゲイン調整値として利用される。位相特性データD4は、位相特性データD3のオフセットとゲインが調整されたデータである。つまり、オフセットおよびゲインが調整されたMM特性値である。
【0024】
図2に示すように、モニタ回路203は、調整回路202が出力した位相特性データD4を受け取る。モニタ回路203は、通信を開始する前のトレーニング期間に動作する回路である。
【0025】
図4は、モニタ回路203を示す回路図である。モニタ回路203は、二乗演算回路41、平均値演算回路42、平均値演算回路43、二乗演算回路44、演算回路45およびゲインテーブル46を備える。二乗演算回路41は、調整回路202が出力する位相特性データD4を受け取る。二乗演算回路41は、位相特性データD4の値を二乗する演算を行う。平均値演算回路42は、二乗演算回路41の演算結果を所定期間蓄積し、平均値を演算する。
【0026】
平均値演算回路43は、調整回路202が出力する位相特性データD4を受け取る。平均値演算回路43は、位相特性データD4を所定期間蓄積し、平均値を演算する。二乗演算回路44は、平均値演算回路43から出力された平均値の二乗演算を行う。平均値演算回路43が演算した平均値は、平均値データD11として調整回路202に与えられる。
【0027】
演算回路45は、平均値演算回路42の出力および二乗演算回路44の出力を受け取る。演算回路45は、平均値演算回路42の出力値から二乗演算回路44の出力値を減算し、位相特性データD4の分散値を得る。ゲインテーブル46は、位相特性データD4の分散値とゲイン調整データD12とを対応付けたテーブルである。ゲインテーブル46は、演算回路45から出力された分散値を受け取り、対応するゲイン調整データD12を出力する。ゲイン調整データD12は、調整回路202に与えられる。
【0028】
図2に示すように、ループフィルタ204は、調整回路202が出力した位相特性データD4を受け取る。ループフィルタ204は、平均化回路および積分回路を備える。ループフィルタ204は、位相特性データD4を平均化回路において平均化処理する。ループフィルタ204は、平均化処理された位相特性データD4を積分回路において積算することで調整データD5を算出する。ループフィルタ204は、調整データD5をセレクタ206に与える。
【0029】
オフセット出力回路205は、通信を開始する前のトレーニング期間において動作する回路である。オフセット出力回路205は、オフセットデータD6をセレクタ206に与える。セレクタ206は、図示しない制御装置からの制御信号C1を受け取る。セレクタ206は、制御信号C1として“0”を受け取ったとき、ループフィルタ204から与えられる調整データD5を調整データD7として出力する。セレクタ206は、制御信号C1として“1”を受け取ったとき、オフセット出力回路205から与えられるオフセットデータD6を調整データD7として出力する。
【0030】
積分回路207は、セレクタ206から出力された調整データD7を積分し、位相データD8を出力する。積分回路207は、位相データD8を位相補間回路208に与える。
【0031】
位相補間回路208は、積分回路207から出力された位相データD8を受け取る。位相補間回路208は、位相データD8に基づいて基準クロック信号BCLの位相を調整し、受信クロック信号MCLを生成する。位相補間回路208は、受信クロック信号MCLをアナログデジタル変換器21に与える。例えば、位相補間回路208から出力される受信クロック信号MCLの位相を角周波数ωで調整する場合を考える。このとき、オフセットデータD6をΩ、サンプル間隔をTsとすれば、Ω=ω*Tsで表される。積分回路207においてサンプル毎にΩが加算されることで、1秒間に積分回路207において積分される値がωとなる。
【0032】
(3)トレーニング期間における動作
以上説明したクロックデータ再生回路23による通信開始前のトレーニング期間の動作について説明する。トレーニング期間において、
図2に示すセレクタ206には、制御信号C1として“1”が与えられる。セレクタ206は、オフセット出力回路205から出力されたオフセットデータD6を調整データD7として積分回路207に与える。積分回路207は、調整データD7を積分し、位相データD8を位相補間回路208に与える。これにより、位相補間回路208は、調整データD7が加算されつつ次第に値が大きくなる位相データD8を順次受け取る。これに応じて、位相補間回路208は、基準クロック信号BCLの位相を位相データD8に基づいて順次調整する。位相補間回路208は、位相が順次変化する受信クロック信号MCLを出力する。アナログデジタル変換器21は、位相が順次変化する受信クロック信号MCLに同期して、データ信号D1をデジタル変換し、データ信号D2を出力する。
【0033】
位相検出器201は、アナログデジタル変換器21が出力したデータ信号D2を受け取る。位相検出器201は、データ信号D2に基づいて位相特性データD3(MM特性値)を出力する。位相検出器201は、位相が順次変化する受信クロック信号MCLに対応する位相特性データD3(MM特性値)を出力する。
図6は、MM特性値の位相差対出力特性を示すグラフである。MM特性値の位相差対出力特性は、MM特性値のSカーブと呼ばれる。
図6において、横軸は位相差であり、縦軸はMM特性値を示す。
図6に示す例では、MM特性値は、最大値が3.0付近であり、最小値がー0.2付近であり、プラス側にオフセットしている。つまり、
図6の例では、チャネルの特性により、MM特性がプラス側にオフセットされている。
【0034】
調整回路202は、位相検出器201が出力した位相特性データD3を受け取る。調整回路202は、
図3に示すように、モニタ回路203から受け取った平均値データD11により位相特性データD3のオフセットを調整する。さらに、調整回路202は、モニタ回路203から受け取ったゲイン調整データD12により位相特性データD3のゲインを調整する。例えば、トレーニング期間の開始時点では、オフセット(平均値データD11)は“0”に、ゲイン(ゲイン調整データD12)は“1”に設定される。
【0035】
次に、モニタ回路203は、オフセットおよびゲインが調整された位相特性データD4を受け取る。モニタ回路203は、
図4に示すように、位相特性データD4に基づいて平均値データD11およびゲイン調整データD12を生成する。生成された平均値データD11およびゲイン調整データD12は調整回路202に与えられ、位相特性データD4のオフセットおよびゲインが調整される。このように、トレーニング期間において、調整回路202およびモニタ回路203は、位相特性データD3の位相差対出力特性(この例では、MM特性値のSカーブ)を取得することにより、位相特性データD3のオフセットおよびゲインを調整する。これにより、チャネルの特性に応じて位相特性データD3をトレーニング期間中に調整することができる。トレーニング期間が終了すると、調整回路202に設定されるオフセット(平均値データD11)およびゲイン(ゲイン調整データD12)がロックされる。
【0036】
図7は、位相検出器201が出力するMM特性値を示す図である。
図7において、横軸は時間であり、縦軸はMM特性値を示す。
図7の上の図は、MM特性値の40サンプルの平均値をプロットした図である。
図7の下の図は、MM特性値の640サンプルの平均値をプロットした図である。
図7の例においても、チャネルの特性により、MM特性値はプラス側にオフセットされている。モニタ回路203は、
図6で示すSカーブを1つだけ取得して、オフセット(平均値データD11)およびゲイン(ゲイン調整データD12)を取得してもよいし、
図7で示すように複数のSカーブを取得して、その平均値を求めてもよい。
【0037】
(4)トレーニング後の動作
クロックデータ再生回路23によるトレーニング後の動作について説明する。位相検出器201は、アナログデジタル変換器21が出力したデータ信号D2を受け取る。位相検出器201は、データ信号D2に基づいて位相特性データD3(MM特性値)を出力する。調整回路202は、位相検出器201が出力した位相特性データD3を受け取る。調整回路202は、トレーニング期間においてロックされた平均値データD11により位相特性データD3のオフセットを調整する。さらに、調整回路202は、トレーニング期間においてロックされたゲイン調整データD12により位相特性データD3のゲインを調整する。トレーニング期間終了後においては、モニタ回路203は利用されない。
【0038】
次に、ループフィルタ204は、オフセットおよびゲインが調整された位相特性データD4を受け取る。ループフィルタ204は、位相特性データD4の平均化処理および積分処理を実行し、調整データD5を出力する。トレーニング期間終了後、セレクタ206には、制御信号C1として“0”が与えられる。セレクタ206は、ループフィルタ204から出力された調整データD5を調整データD7として積分回路207に与える。積分回路207は、調整データD7を積分し、位相データD8を位相補間回路208に与える。これに応じて、位相補間回路208は、基準クロック信号BCLの位相を位相データD8に基づいて調整し、受信クロック信号MCLを出了する。アナログデジタル変換器21は、受信クロック信号MCLに基づいて、データ信号D1をサンプリングし、データ信号D2を出力する。
【0039】
このように、本実施の形態のクロックデータ再生回路23は、トレーニング期間において、位相差対出力特性(上記の例では、MM特性値のSカーブ)を取得し、チャネルの特性に応じて、位相特性データD3(MM特性値)のオフセットおよびゲインを調整する。これにより、トレーニング期間終了後に動作するループフィルタ204によって、調整データD5あるいは位相データD8を収束させることができ、アナログデジタル変換器21において、正しいデータ信号D2を取得可能となる。
【0040】
位相検出器201は、信号データ系列から送信側のクロック信号との位相差を検出する装置であり、直線性に乏しく非線形な動作をする。また、MM特性値のSカーブは、チャネルごとにループ特性が変わるため、チャネルによって、位相のロック範囲、位相ノイズ、ロック時間が変化するという問題がある。本実施の形態においては、トレーニング期間に位相差対出力特性(上記の例では、MM特性値のSカーブ)を取得するので、位相のロックが正しく行われる。
【0041】
例えば、送信機1と受信機2との発振器の周波数誤差が±100ppm程度想定される場合には、オフセット出力回路205において設定されるオフセットデータD6により、200ppm程度のオフセットを設定することが望ましい。つまり、送受信機間の周波数誤差より大きなオフセットを設定することが望ましい。これにより、実際の周波数誤差が-100ppmである場合であっても、+100ppm程度のオフセットが存在する状態として、トレーニング期間中において位相補間回路208から出力される受信クロック信号MCLの位相を変化させることが可能となる。
【0042】
(5)他の実施の形態
上記の実施の形態においては、位相特性データD3として、MM特性値を例に説明した。位相特性データD3は、MM特性値に限らず、受信クロック信号MCLと送信側のクロック信号との位相差に応じて算出される特性値であればよい。したがって、モニタ回路203がモニタするのはMM特性値のSカーブは一例であり、位相差と位相特性データD3との関係を表す位相差対出力特性を用いることができる。
【0043】
他の実施の形態として、オフセット出力回路205が出力するオフセットデータD6を可変とすることもできる。例えば、受信機2(スレーブ)のホストCPUからオフセットデータD6の値を自由に設定できるようにしてもよいし、送信機1(マスタ)からのネゴシエーションによりオフセットデータD6が与えられてもよい。送信機1は、高速通信を開始する前段階で低速通信によりオフセットデータD6を受信機2に送信するようにしてもよい。
【0044】
また、他の実施の形態として、MM特性値のSカーブからオフセットデータD6を算出するようにしてもよい。例えば、モニタ回路203においてSカーブの周期を計算することにより、オフセットデータD6を算出してもよい。この場合、モニタ回路203で求めたオフセットデータD6をループフィルタ204の出力に加算することもできる。トレーニング期間後の通常状態において、オフセットデータD6をあらかじめループフィルタ204の出力に加算することで、位相のロックが行い易くなる。これにより、ループフィルタ204の出力ゲインを下げて、できるだけジッタを小さくすることができる。
【0045】
また、通信状態が不安定になった場合などに、再度トレーニング期間を設けるようにしてもよい。この場合、前回のトレーニング期間で使用した平均値データD11とゲイン調整データD12を初期設定として使用するようにしてもよい。
【0046】
(6)本発明の態様
<1>以上説明したように、本実施の形態に係るクロックデータ再生回路は、基準クロック生成回路により生成される基準クロック信号の位相を調整し、受信クロック信号を生成する位相補間回路と、位相補間回路において生成された受信クロック信号に同期して動作し、受信アナログデータ信号を受信デジタルデータ信号に変換するアナログデジタル変換器から出力された受信デジタルデータ信号を入力し、受信デジタルデータ信号から位相特性データを出力する位相検出器と、位相特性データを調整する調整回路と、調整回路から出力される位相特性データをモニタし、位相特性データに基づいて調整回路に設定する調整値を算出するモニタ回路と、調整回路から出力された位相特性データに基づいて、位相補間回路に設定する位相データを生成するための調整データを出力するループフィルタと、位相補間回路に設定する位相データを生成するためのオフセットデータを出力するオフセット出力回路とを備える。通信を開始する前のトレーニング期間において、オフセット出力回路から出力されるオフセットデータに基づいて位相補間回路において調整する基準クロック信号の位相を変化させつつ、モニタ回路によって調整値を算出することで、調整回路に調整値を設定する。
【0047】
<2>モニタ回路は、トレーニング期間において位相補間回路において調整される位相と、位相特性データとの関係を示す位相差対出力特性に基づいて、調整値を算出してもよい。
【0048】
<3>
調整値は、オフセット調整値およびゲイン調整値を含んでもよい。
【0049】
<4>モニタ回路は、位相特性データの分散に基づいて、ゲイン調整値を算出してもよい。
【0050】
<5>モニタ回路は、位相特性データの分散とゲイン調整値とを対応付けたテーブルを参照することで、ゲイン調整値を取得してもよい。
【0051】
<6>モニタ回路は、位相特性データの平均値に基づいて、オフセット調整値を算出してもよい。
【0052】
<7>位相検出器は、Mueller Muller位相検出器であり、前記位相差対出力特性は、Mueller Muller出力のSカーブであってもよい。
【0053】
<8>本実施の形態に係る受信機は、上記<1>~<7>のいずれかのクロックデータ再生回路と、基準クロック生成回路と、アナログデジタル変換器とを備える。
【符号の説明】
【0054】
2…受信機、21…アナログデジタル変換器、22…基準クロック生成回路、23…クロックデータ再生回路、201…位相検出器、202…調整回路、203…モニタ回路、204…ループフィルタ、205…オフセット出力回路、206…セレクタ、207…積分回路、208…位相補間回路