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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022106597
(43)【公開日】2022-07-20
(54)【発明の名称】アルカリ度の測定方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 21/77 20060101AFI20220712BHJP
   G01N 21/27 20060101ALI20220712BHJP
【FI】
G01N21/77 B
G01N21/27 F
G01N21/27 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021001711
(22)【出願日】2021-01-07
(71)【出願人】
【識別番号】504049626
【氏名又は名称】ビーエルテック株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504313228
【氏名又は名称】ダイヤアクアソリューションズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】特許業務法人HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】西村 崇
(72)【発明者】
【氏名】熊谷 麻紀子
(72)【発明者】
【氏名】大川 肇
【テーマコード(参考)】
2G054
2G059
【Fターム(参考)】
2G054AA02
2G054AB10
2G054CA06
2G054CA10
2G054CD01
2G054CE01
2G054EA04
2G054EB02
2G054FA08
2G054GA03
2G054GB01
2G054JA06
2G059AA03
2G059AA05
2G059DD03
2G059DD12
2G059EE01
2G059EE12
2G059HH02
2G059JJ01
2G059MM05
2G059MM12
(57)【要約】
【課題】流れ分析装置を用い、高い精度にてアルカリ度を測定できる新規な方法を提供する。
【解決手段】アルカリ度の測定方法は、試料は指示薬を含み、前記試料のpHは、4.7~5.2の範囲内であり、流れ分析装置により、前記試料の吸光度を測定し、当該吸光度からアルカリ度を算出する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料におけるアルカリ度の測定方法であって、
前記試料は指示薬を含み、
前記試料のpHは、4.7~5.2の範囲内であり、
流れ分析装置により、前記試料の吸光度を測定し、当該吸光度からアルカリ度を算出する、アルカリ度の測定方法。
【請求項2】
前記指示薬が、ブロモクレゾールグリーン及びメチルオレンジから選択される少なくとも1つの指示薬である、請求項1に記載のアルカリ度の測定方法。
【請求項3】
前記試料が、界面活性剤を含む、請求項1又は2に記載のアルカリ度の測定方法。
【請求項4】
前記試料のpHは、4.8である、請求項1~3の何れか一項に記載のアルカリ度の測定方法。
【請求項5】
前記試料が亜硝酸を含む、請求項1~4の何れか一項に記載のアルカリ度の測定方法。
【請求項6】
請求項1~5の何れか一項に記載のアルカリ度の測定方法により、アルカリ度を測定する工程と、前記流れ分析装置により、前記試料に含まれる亜硝酸の量を測定する工程とを包含する試料の分析方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルカリ度の測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アルカリ度とは、塩酸、硫酸などの強酸で試料水を滴定し、所定のpH値に達するまでに消費した酸の量に対応する炭酸カルシウム量(mg/L)で表す、アルカリ性の指標である。
【0003】
アルカリ度の測定に関連し、例えば、非特許文献1には、工業用水試験方法における酸消費量の滴定方法、及びその酸消費量を炭酸カルシウム相当量に換算する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】JIS ハンドブック(平成10年4月20日改正),JIS K0101:1998,工業用水試験方法,13.酸消費量,p.36-37,財団法人日本規格協会,平成10年10月31日 第1刷発行
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
非特許文献1は、工業用水試験方法におけるアルカリ度の測定における一規格を示すものであるが、流れ分析装置を用いるアルカリ度の測定について何ら開示するものではない。
【0006】
本発明の一態様に係るアルカリ度の測定方法は、流れ分析装置を用い、吸光度から高い精度にてアルカリ度を測定できる新規な方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係るアルカリ度の測定方法は、試料におけるアルカリ度の測定方法であって、前記試料は指示薬を含み、前記試料のpHは、4.7~5.2の範囲内であり、流れ分析装置により、前記試料の吸光度を測定し、当該吸光度からアルカリ度を算出する。
【発明の効果】
【0008】
本発明の一態様によれば、流れ分析装置を用い、吸光度から高い精度にてアルカリ度を測定できる新規なアルカリ度の測定方法を提供できるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】ブロモクレゾールグリーンを含むpH3.69のバッファを用いたときにおける、ブランク、NaCO水溶液、亜硝酸水溶液、並びにNaCO及び亜硝酸水溶液の各試料における吸収スペクトルである。
図2】ブロモクレゾールグリーンを含むpH4.28のバッファを用いたときにおける、ブランク、NaCO水溶液、亜硝酸水溶液、並びにNaCO及び亜硝酸水溶液の各試料における吸収スペクトルである。
図3】ブロモクレゾールグリーンを含むpH4.73のバッファを用いたときにおける、ブランク、NaCO水溶液、亜硝酸水溶液、並びにNaCO及び亜硝酸水溶液の各試料における吸収スペクトルである。
図4】ブロモクレゾールグリーンを含むpH4.97のバッファを用いたときにおける、ブランク、NaCO水溶液、亜硝酸水溶液、並びにNaCO及び亜硝酸水溶液の各試料における吸収スペクトルである。
図5】ブロモクレゾールグリーンを含むpH5.16のバッファを用いたときにおける、ブランク、NaCO水溶液、亜硝酸水溶液、並びにNaCO及び亜硝酸水溶液の各試料における吸収スペクトルである。
図6】ブロモクレゾールグリーンを含むpH5.64のバッファを用いたときにおける、ブランク、NaCO水溶液、亜硝酸水溶液、並びにNaCO及び亜硝酸水溶液の各試料における吸収スペクトルである。
図7】ブロモクレゾールグリーンを含むpH6.16のバッファを用いたときにおける、ブランク、NaCO水溶液、亜硝酸水溶液、並びにNaCO及び亜硝酸水溶液の各試料における吸収スペクトルである。
図8】ブロモクレゾールグリーンを含むpH4.8のバッファを用いたときにおける、NaCO水溶液の吸光度から求められるMアルカリ度と、JIS K0101 13.1に記載された滴定に基づき、滴定により求められたMアルカリ度との相関性を示すグラフである。
図9】メチルオレンジを含むpH4.8のバッファを用いたときにおける、NaCO水溶液の吸光度から求められるMアルカリ度と、JIS K0101 13.1に記載された滴定に基づき、滴定により求められたMアルカリ度との相関性を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の一実施形態について、詳細に説明する。
【0011】
なお、本明細書においては特記しない限り、数値範囲を表す「A~B」は、「A以上、B以下」を意味する。
【0012】
<アルカリ度の測定方法>
本発明の一実施形態に係るアルカリ度の測定方法は、試料におけるアルカリ度の測定方法であって、前記試料は指示薬を含み、前記試料のpHは、4.7~5.2の範囲内であり、流れ分析装置によって前記試料の吸光度を測定し、当該吸光度からアルカリ度を算出する。これにより、吸光度の測定によるアルカリ度の測定を高い精度にて実現できるという効果を奏する。
【0013】
一般的にアルカリ度の測定方法では、硫酸及び塩酸等の強酸を用いて試料を滴定し、滴定の結果から、以下の式(1)を用いて炭酸カルシウム相当量を算出する。
アルカリ度(CaCOmg/L)=A1×(1000/S)×1・・・(1)
A1:終点(所定のpH)に至るまでに要した0.01mol/Lの硫酸溶液による滴定量(mL)
1000:単位換算係数(mL/L)
S:試料採取量(mL)
1:0.01mol/Lの硫酸溶液1mL当りの炭酸カルシウム相当量(mg)
上記の式(1)に終点における所定のpHが4.8である場合、当該pH4.8におけるアルカリ度は総アルカリ度と称される。なお、総アルカリ度は、Mアルカリ度、又はTアルカリ度とも称され、JIS K0101:1998の13.1欄には、酸消費量として記載されている。当該規格は、平成29年10月20日付け追補1を経て、JIS K1010:2017が最新版となる。
【0014】
なお、本発明の一実施形態に係るアルカリ度の測定方法では、試料のpHを、4.7~5.2の範囲内で調整するため、pH8.3にて評価される、いわゆるPアルカリ度は、本願発明の範囲に含まれない。
【0015】
アルカリ度は、滴定による測定の他、分光光度計による吸光度の測定より、試料に含まれる炭酸カルシウム相当量を算出することでも評価できる。より具体的には、まず、指示薬を含み、所定のpHに調整されたブランクの吸光度と、当該ブランクに所定量の炭酸カルシウムを含む、標準試料の吸光度とを分光光度計により測定するとよい。次に、これら吸光度の測定結果から検量線を作成し、当該検量線を用いて試料の炭酸カルシウム相当量をアルカリ度として算出するとよい。
【0016】
〔流れ分析装置〕
本発明の一実施形態に係るアルカリ度の測定方法は、流れ分析装置が備えている分光光度計により吸光度を測定することで行うことが、連続的なアルカリ度の測定を行うことができることから好ましい。連続的なアルカリ度の測定方法には、流れ分析法が挙げられ、当該流れ分析法には、連続流れ分析法(Continuous Flow Analysis(CFA))と、フローインジェクション分析法(Flow Injection Analysis(FIA))とが挙げられる。これら流れ分析法を行う装置が流れ分析装置と称され、例えば、連続流れ分析(CFA)装置、及びフローインジェクション分析(FIA)装置等が挙げられる。
【0017】
流れ分析装置による吸光度の測定に基づく、アルカリ度の測定では、ブランク及び標準試料における吸光度の測定と、これらの吸光度に基づく検量線の作成と、測定された試料の吸光度からのアルカリ度の算出とは、流れ分析装置が備える、集積回路(ICチップ)等に形成された論理回路(ハードウェア)によって実現してもよいし、ソフトウェアによって実現してもよい。
【0018】
流れ分析装置による分析では、上述のように複数の試料を評価対象とした連続的なアルカリ度の測定を行うことができるという利点の他に、複数のチャンネルを備えることにより、複数の分析をも自動的に評価できるという利点が挙げられる。これらの利点を有する流れ分析装置では、アルカリ度を測定する試料が、亜硝酸の含有量を測定する対象にもなり得る。これについて、本願発明者らは、アルカリ度を測定するための試料に亜硝酸が含まれている場合、当該試料の吸光度に基づき算出されるアルカリ度の測定精度が低くなるという問題を見出した。そして、当該問題を、流れ分析装置におけるアルカリ度の測定を、試料のpHを4.7~5.2の範囲内に調整することで、吸光度測定による試料のアルカリ度の測定において、高い精度にてアルカリ度を測定できることを見出して本願発明を完成させた。すなわち、本発明の一実施形態に係るアルカリ度の測定方法によれば、例えば、亜硝酸が含まれる試料においても、吸光度の測定結果に基づき、アルカリ度を高い精度にて測定することができる。
【0019】
流れ分析装置を用いる吸光度の測定では、試料はサンプラーによって採取され、サンプラーから分光光度計に至る経路内において、指示薬を含み、所定のpHに調整されたバッファと混合され得る。その後、流れ分析装置が備える分光光度計に供給され、吸光度の測定に供される。ここで吸光度の測定に用いられるセルは、限定されるものではなく、適宜設計すればよいが、一例として、フローセルを用いるとよい。
【0020】
また、例えば、連続流れ分析(CFA)装置においては、1つの試料において複数回のサンプリングが行われ、1回のサンプリングと、1回のエアの導入とが交互に行われ得る。これにより、流路(チューブ)に採取された試料同士の間に気泡を導入することができ、試料同士の混合を防止しつつ、先に採取された試料によって流路を洗浄することができる。また、後に採取された試料によって、コンタミネーションが少ない条件にて吸光度を測定できる。連続流れ分析(CFA)装置においては、試料の採取、エアの導入、洗浄液の導入、2回目のエアの導入がこの順で繰り返し行なわれてもよい。これにより、連続流れ分析装置における流路内において、試料と洗浄液との混合を防止しつつ、当該流路を試料、及び洗浄液にて洗浄するとよい。ここで、洗浄液には、純水、蒸留水、又はイオン交換水等の溶媒が挙げられ、これら溶媒には界面活性剤が含まれていてもよい。なお、1回のサンプリングにおける試料の採取量、並びに、エア及び洗浄液の導入量は、流れ分析装置が備えるポンプの吸引時間により調整でき、試料の種類等に応じ、適宜設計すればよい。また、1つの試料をサンプリングする回数も、試料の種類等に応じ、適宜設計すればよい。
【0021】
また、例えば、フローインジェクション分析(FIA)装置では、エアの導入は行なわれないが、採取された試料及び/又は洗浄液にて流路(チューブ)を洗浄し、その後、サンプリングした試料を分光光度計に供給すればよい。
【0022】
なお、連続流れ分析(CFA)装置及びフローインジェクション分析(FIA)装置等の流れ分析装置によるアルカリ度の測定では、試料が懸濁物を含む場合、流路内に透析膜を使用することで、懸濁物を除去して分析してもよい。
【0023】
(ブランク及び標準試料の調製)
吸光度によるアルカリ度の測定においては、まず、所定のpHに調整されたバッファを準備し、次いで、当該バッファを用いて検量線を作成するためのブランク及び標準試料を準備するとよい。ここで、バッファにおける所定のpHは、4.7~5.2の範囲内で決定すればよく、一例としてpHは、4.8であり得る。バッファのpHが、4.7~5.2の範囲内であることにより、亜硝酸による吸光度への影響を抑制することができ、得られた吸光度から、精度よい検量線が作成できる。よって、当該検量線により精度よいアルカリ度を算出することができる。
【0024】
バッファは、少なくとも、指示薬、及びpH緩衝剤を含み、限定されるものではないが、界面活性剤を含んでいることが好ましい。なお、バッファは、イオン交換水、蒸留水及び純水等により調製され、純水により調製されることが好ましい。以下、便宜上、純水を例にして、本願発明を説明する。
【0025】
指示薬は、pH4.7~5.2の範囲内において分光光度計によって測定できる程度に呈色できる指示薬であれば限定されず、例えば、ブロモクレゾールグリーン(BCG)、ブロモフェノールブルー(BPB)、メチルオレンジ(MO)、メチルレッド(MR)、コンゴーレッド、メチルイエロー、及びメチルパープル等が挙げられる。これらの指示薬のなかでも、4.7~5.2の範囲内において発色法にて吸光度を測定でき、後述する界面活性剤を含むブランクにおいて沈降物の発生を防止できることから、指示薬には、ブロモクレゾールグリーン(BCG)を用いることが好ましい。なお、指示薬の含有量は、所定のpHにおける吸光度に応じて調整すればよく、限定されるものではないが、例えば、バッファを100重量%として、0.0001重量%~0.05重量%であることが好ましく、0.001重量%~0.01重量%であることがより好ましい。なお、ブランクに含まれるバッファの含有量は、±10重量%程度の誤差に留めることがより好ましい。
【0026】
pH緩衝剤は、少なくともpH4.7~5.2の範囲内においてpH緩衝能を有する材料であれば、限定されず、例えば、フタル酸水素カリウム、リン酸水素カリウム、及び、酢酸と酢酸ナトリウムとの混合溶液、クエン酸とクエン酸ナトリウムとの混合溶液等を挙げることができる。また、pH緩衝剤及び指示薬を添加した後におけるブランクのpH調整は、公知のpH調整用の酸水溶液、又はpH調整用のアルカリ水溶液により行なえばよい。
【0027】
界面活性剤は、流れ分析装置内において試料が流れる流路の洗浄に寄与する。界面活性剤は、水溶性であり、洗浄能を有していればよく、例えば、アニオン系界面活性剤、カチオン系界面活性剤、ノニオン系界面活性剤が挙げられる。これら界面活性剤のうち、ノニオン系界面活性剤が、液性などによる沈殿物が生成されにくく、試薬との反応性が低いという観点からより好ましい。ノニオン系界面活性剤には、例えば、Triton(登録商標)Xシリーズ、及びブリッジ35等を挙げることができる。これら界面活性剤は、Sigma-Aldrich、富士フィルム和光純薬株式会社、その他試薬会社から入手可能である。界面活性剤の含有量は、バッファを100重量%として、0.001重量%~2.0重量%の範囲内であることが好ましい。
【0028】
その他、バッファは、指示薬の溶解性を高めるため、例えば、メタノール、及びエタノール等のアルコールを含んでいてもよい。バッファがアルコールを含む場合、限定されるものではないが、バッファを100重量%として、1重量%~20重量%の範囲内であればよく、5~15重量%の範囲内であることが好ましい。なお、バッファに含まれるアルコールの含有量は、±10重量%程度の誤差に留めることがより好ましい。
【0029】
検量線を作成するための指示薬を含むバッファは、純水を混合して、ブランクとすることで吸光度の測定に供され得る。ここで、ブランクを調製するために純水に混合するバッファの量が、流れ分析装置の流路の途中において、サンプリングされる標準試料の量に対するバッファの量、及び、複数回サンプリングされるうちの1つの試料当りに供給されるバッファの量に相当する。なお、バッファの量は、標準試料及び試料(実試料)の濃度に応じて調整すればよく、限定されるものではないが、例えば、単位(μL/分)当たりの純水(若しくは標準試料、実試料)の量に対し、1~10倍量であることが好ましく、1~5倍量であることがより好ましい。
【0030】
検量線を作成するための指示薬を含むバッファは、所定量のアルカリ水溶液を混合して、標準試料とすることで吸光度の測定に供され得る。標準試料の調製では、バッファに混合する所定量の純水に代えて、同量のアルカリ水溶液を混合するとよい。ここで、アルカリ水溶液は、アルカリが所定の濃度に調整されたものが用いられる。なお、標準試料に用いるアルカリは、炭酸カルシウムに限定されず、他のアルカリを用いてもよい。炭酸カルシウム以外のアルカリを含む標準試料の場合、上述の式(1)により、当該標準試料における炭酸カルシウム相当量を算出し、得られた炭酸カルシウム(CaCO)相当量と吸光度とから検量線を作成すればよい。当該標準試料に用いられる炭酸カルシウム以外のアルカリとしては、例えば、炭酸ナトリウム(NaCO)、水酸化ナトリウム(NaOH)、炭酸水素ナトリウム(NaHCO)、ケイ酸ナトリウム、硫酸ナトリウム(NaSO)及び亜硝酸ナトリウム(NaNO)等が挙げられ、これらのアルカリを2種以上併用してもよい。中でも、より高い精度にて検量線を作成できるという観点から、標準試料には、水酸化ナトリウムを用いることが好ましい。
【0031】
検量線を作成するための標準試料におけるアルカリの濃度は、アルカリ度を測定する対象である試料に応じて決定すればよく、0mg/L~2000mg/Lであり得る。なお、流れ分析装置では、例えば、100mg/L~400mg/Lという低濃度領域と、500mg/L~2000mg/Lの高濃度領域とにアルカリの濃度の領域を分けてそれぞれの濃度領域において検量線を作成し、試料のアルカリ度を測定することもできる。
【0032】
ブランクを調製するためにバッファに混合する純水の所定量、又は標準試料を調製するためにバッファに混合するアルカリ水溶液の所定量は、流れ分析装置が備えるサンプラーによりサンプリングされる試料の採取量に相当し得る。
【0033】
検量線は、ブランクの吸光度、及び標準試料の吸光度の少なくとも2点から作成できればよく、限定されるものではないが、同じバッファを用い、アルカリの濃度が異なる標準試料を2つ以上準備して、2点以上の吸光度により検量線を作成してもよい。例えば、流れ分析装置では、標準試料に含まれるアルカリの濃度を、流路内に吸引する純水と混合することで調整してもよい。これにより、複数点における標準試料の濃度に基づき、検量線を作成してもよい。なお、純水を用いた稀釈による標準試料に含まれるアルカリの濃度の調整は、アルカリ度の測定に供される試料の濃度の調整においても適用され得る。
【0034】
(試料)
本発明の一実施形態に係るアルカリ度の測定方法において、アルカリ度の測定対象である試料は、例えば、工業用水、ボイラー用処理水、地下水、及び河川水等が挙げられる。これらの水質管理の一基準として、アルカリ度の測定が行われる。これら水質管理において、亜硝酸が、例えば、亜硝酸性窒素として100mg/L~2000mg/Lという高い濃度の水のアルカリ度を測定することがある。一実施形態に係るアルカリ度の測定方法によれば、亜硝酸を高い濃度で含む水であっても、精度よくアルカリ度の測定方法を行なうことができる。
【0035】
なお、流れ分析装置が備えるサンプラーよりサンプリングされる試料の採取量は、内径の異なるポンプチューブの流量によって決定される。試料の採取量と同じく、ブランク調整用の純水の採取量、及び標準試料の採取量も内径の異なるポンプチューブの流量によって決定される。
【0036】
<分析方法>
本発明の一実施形態に係るアルカリ度の測定方法では、流れ分析装置による評価であるため、試料におけるアルカリ度を測定する工程と、前記流れ分析装置により、前記試料に含まれる亜硝酸の含有量を測定する工程とを包含することができる。これにより、アルカリ度を高い精度にて測定しつつ、亜硝酸の含有量も測定できる。従って、本発明の一実施形態に係るアルカリ度の測定方法を行なうアルカリ度の測定工程と、同じ流れ分析装置により、前記試料に含まれる亜硝酸の含有量を測定する工程とを包含する分析方法も、本発明の範疇である。
【0037】
なお、試料に含まれる亜硝酸の含有量を測定する方法は、例えば、波長550nmにおいて発色法(ナフチルエチレンジアミン吸光光度法)で測定するとよい。
【0038】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【実施例0039】
本発明の一実施例について以下に説明する。
【0040】
〔アルカリ度測定(酸消費量測定)〕
(実施例1)
実施例1として、pHが異なる複数のバッファを準備し、ブロモクレゾールグリーン(BCG)を指示薬として用い、ブランク、NaCO水溶液(標準試料)、亜硝酸水溶液、並びにNaCO及び亜硝酸の水溶液ごとに、試料を準備し、分光光度計を用いて各試料におけるpH変化に対する吸収スペクトルの変化を評価した。
【0041】
500mLの純水に10.2gのフタル酸水素カリウムを加えて溶解し、1mol/LのNaOH水溶液を加え、その後、さらに純水を加え、100mLにメスアップすることで所定のpHを有するバッファを調製した。pHが異なる複数のバッファが調製され、各バッファにおけるpHは、3.67、4.28、4.73、4.97、5.16、5.64、及び6.16であった。次に、0.05gのBCGを100mLのメタノールに溶解し、BCGメタノール溶液を得た。続いて、pHが異なるバッファのそれぞれについて、60mLのバッファに、40mLのBCGメタノール溶液、10mLのメタノールを添加し、純水により500mLにメスアップすることでBCGを含むバッファを得た。その後、得られたBCGを含むバッファのそれぞれに、界面活性剤としてTriton(登録商標)X-100を1.0mL添加した。
【0042】
続いて、純水にNaCOを溶解し、480mgCaCO/LのNaCO水溶液を得た。また、純水に亜硝酸(NO-N)を溶解し、500mg/Lの亜硝酸(NO)水溶液を得た。以下では、亜硝酸の濃度は、亜硝酸の窒素濃度に換算することで求められる、亜硝酸性窒素の濃度として算出した。
【0043】
次いで、試験管にBCGを含む、バッファ(pH3.67)を5.3mL分取し、0.4mLの純水を加え、さらに純水を1.6mL添加することで、ブランク1(pH3.67)を得た。
【0044】
0.4mLの純水に代えて、480mgCaCO/LのNaCO水溶液を0.4mL添加した以外は、ブランク1と同じ手順にて、試料1-1(pH3.67、NaCO含有)を調製した。次いで、0.4mLの純水に代えて、0.4mLの亜硝酸水溶液(500mg/L)を添加した以外は、ブランク1と同じ手順にて、試料1-2(pH3.67、NO含有)を調製した。続いて、0.4mLの純水に代えて、0.4mLのNaCO水溶液(480mgCaCO/L)と、0.4mLの亜硝酸水溶液(濃度500mg/L)とを添加し、さらに純水を1.2mL添加した以外は、ブランク1と同じ手順にて、試料1-3(pH3.67、NaCO+NO含有)を調製した。
【0045】
pH3.67のバッファをpH4.28のバッファに代えた以外は、ブランク1、試料1-1~試料1-3と同じ手順にて、ブランク2(pH4.28)、試料2-1~試料2-3を調製した。同様に、pH4.73、4.97、及び5.16のバッファそれぞれについても、ブランク3~5、及び各試料3-1~5-3を調製した。
【0046】
なお、pH5.64のバッファ及びpH6.16のバッファについては、620nmにおける吸光度が1.0を超えるため、純水で2倍に希釈した試料6-3及び7-3を調製した。
【0047】
分光光度計で測定した各ブランク及び試料の吸収スペクトルを図1~7に示す。また、ブランクにおけるNaCOを0mgCaCO/L相当であるとして、ブランクの吸光度と試料(NaCO含有)の吸光度から傾きを算出し、得られた検量線から試料(NaCO+NO含有)において算出されるCaCO相当量を求めた。図1~7に結果を示す。
【0048】
図1図7に示すように、図1~7における各試料の吸光度の対比において、pH4.73~6.16のバッファを用いた試料の吸光度は、pH3.67、4.28のバッファを用いた試料の吸光度よりも、破線で示す試料(NaCO+NO含有)と、実線で示す、亜硝酸を含まない試料(NaCO含有)との間の吸光度における差が小さいことが確認できた。これについて、pH5.64のバッファ及びpH6.16のバッファについては、純水で2倍に希釈した試料を採用したこともあり、次に示す、実施例2において、NaOH水溶液をアルカリ水溶液とした標準試料を調製し、実施例1と同様の評価を行なった。
【0049】
(実施例2)
次に、実施例2として、QuAAtro 2 HR(Seal社製)を用いて、NaOH(400mgCaCO/L)水溶液(標準試料)にて検量線を作成し、実施例1にて調製した亜硝酸水溶液の試料(NO含有)、試料(NaCO含有)、試料(NaCOと+NO含有)におけるCaCO相当量を測定した。
【0050】
ブランク及び試料の調製条件は、アルカリ水溶液として、NaCO(480mgCaCO/L)水溶液をNaOH(400mgCaCO/L)水溶液に変更した以外、実施例1と同じである。また、QuAAtro 2 HRにおける測定では、試料の吸引時間は60秒、洗浄液の吸引時間は60秒、エアの導入時間は、2秒とし、エアの導入時間において、試料の吸引と洗浄液の吸引との切り替えを行なった。また、セルは光路長10mmのフローセルを用い、波長620nmの発色法にて測定した。その他、洗浄液には純水を用いた。
【0051】
【表1】
【0052】
各pHにて測定した試料(NaCO含有)の炭酸カルシウム相当量を基準として、試料(NaCO+NO含有)におけるCaCO相当量の変動率が10%以内であったのは、pH4.73、pH4.97、pH5.16のバッファを用いた試料であった。このことから、指示薬としてBCGを用い、アルカリ度測定を行う場合、亜硝酸性窒素(NO-N)の影響が抑えられる範囲は、pH4.7からpH5.2程度であることが確認できた。このことから、pH4.8においても、精度よくMアルカリ度の測定を行うことができることを確認した。
【0053】
(実施例3)
実施例3として、実試料を用いてブロモクレゾールグリーン(BCG)、及びメチルオレンジ(MO)を指示薬として含み、pH4.8に調整したバッファを用い、連続流れ分析装置による吸光度の測定から求められるMアルカリ度と、JIS K0101 13.1に記載された滴定による、Mアルカリ度(酸消費量)との相関性を確認した。
【0054】
まず、1000mLの純水に、50%のTriton(登録商標)X-100を0.5mL添加し、希釈用水を調製した。次に、フタル酸水素カリウム10.2gを約500mLの純水に溶解し、1000mLにまでメスアップした。続いて、1mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液を用いて、pHを4.8に調整した。これにより、pH4.8のバッファを調製した。
【0055】
また、100、200、300、400mgCaCO/Lのそれぞれに相当するNaCO水溶液を、純水を用いて調製し、Mアルカリ測定用の標準溶液とした。実試料には、NaCOの濃度が互いに異なる工業廃水の試料10点を用いた。
【0056】
(ブロモクレゾールグリーン(BCG)を含む発色試薬の調製)
まず、100mLのメタノールに0.05gのBCGを溶解し、BCGメタノール溶液を調製した。次に、約300mLの純水に40mlのBCGメタノール溶液と、60mLのpH4.8のバッファと、10mLのメタノールを加え、純水で500mlにメスアップした後、1mLの50%Triton(登録商標)X-100を添加した。その後、再度pH4.8に調整することで、ブロモクレゾールグリーン(BCG)を含む、発色試薬を得た。
【0057】
(メチルオレンジ(MO)を含む発色試薬の調製)
続いて、0.5gのメチルオレンジを1000mLの純水に溶解し、メチルオレンジの水溶液を調製した。つぎに、約300mlの純水に、40mLのメチルオレンジの水溶液と、60mLのpH4.8のバッファと、50mLのメタノールとを加え、純水で500mLにメスアップした後、1mLの50%Triton(登録商標)X-100を添加した。その後、再度pHを4.8に調整することで、メチルオレンジを含む、発色試薬を得た。
【0058】
(吸光度に基づく、Mアルカリ度の測定)
100、200、300、400mgCaCO/Lのそれぞれに相当するMアルカリ測定用の標準溶液、及び実試料、並びにブロモクレゾールグリーン(BCG)を含む発色試薬を用い、QuAAtro2 HR(Seal社製)によって、各標準試料から検量線を作成し、連続的に、10点の実試料の分析を行なった。QuAAtro2 HRにおける試料の吸引時間は60秒、洗浄時間は60秒とした。セルには、光路長10mmのフローセルを用い、BCGを含む発色試薬の分析では、測定波長は620nmの発色法を採用した。
【0059】
ブロモクレゾールグリーン(BCG)による評価と同じ実試料を用い、発色試薬を、メチルオレンジ(MO)を含む発色試薬に代え、測定波長は550nmの退色法を採用した以外は、ブロモクレゾールグリーン(BCG)による評価と同じ条件にて、QuAAtro2 HR(Seal社製)によって、各標準試料から検量線を作成し、連続的に、10点の実試料の分析を行なった。
【0060】
(JIS K0101 13.1に基づく、滴定によるMアルカリ度の測定)
Mアルカリ度の測定は、10点の実試料のそれぞれに指示薬としてメチルレッド-ブロモクレゾールグリーン混合溶液を加え、10mmol/L硫酸で滴定し、これにより各実試料の炭酸カルシウム相当量を求めた。上述の滴定には、容量25mLのガラス製ビュレットと容量100mLの三角フラスコを用いた。
【0061】
(各方法により求められたMアルカリ度の対比)
連続流れ分析装置であるQuAAtro2 HRによるブロモクレゾールグリーン(BCG)を含む発色試薬、及びメチルオレンジ(MO)を含む発色試薬のそれぞれを用いた実試料のMアルカリ度、並びに、JIS K0101 13.1に基づく、滴定により求められたMアルカリ度の結果を表2、及び図8、9に示す。併せて、表2に、また試料中のNO-Nの含有量についてもQuAAtro2 HRを用いて測定を行った。NO-Nの含有量の測定は、波長550nmの発色法(ナフチルエチレンジアミン吸光光度法)で測定した。結果は表2に示した。
【0062】
【表2】
【0063】
表2及び図8のグラフに示すように、BCGを含むpH4.8のバッファを用いた吸光度によるMアルカリ度の測定結果と、JIS K0101 13.1に基づく、滴定によるMアルカリ度の測定結果とを比較すると、R=0.996と相関性が高い結果が確認できた。おなじく、表2及び図9のグラフに示すように、MOを含むpH4.8のバッファを用いた吸光度によるMアルカリ度の測定結果と、JIS K0101 13.1に基づく、滴定によるMアルカリ度の測定結果とを比較すると、R=0.997と相関性が高い結果が確認できた。これらの結果から、本発明の一実施形態に係るアルカリ度の測定方法によれば、JIS K0101 13.1に基づく、Mアルカリ度の測定結果と相関性が高い測定結果が得られることを確認した。
【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明は、例えば、工業用水、ボイラー処理水、地下水、及び河川水等の水質管理のためのMアルカリの測定に利用することができる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9