(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022106605
(43)【公開日】2022-07-20
(54)【発明の名称】物体検出装置
(51)【国際特許分類】
G01S 7/526 20060101AFI20220712BHJP
G01S 7/32 20060101ALI20220712BHJP
【FI】
G01S7/526 M
G01S7/32 220
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021001721
(22)【出願日】2021-01-07
(71)【出願人】
【識別番号】000000011
【氏名又は名称】株式会社アイシン
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】特許業務法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】菅江 一平
(72)【発明者】
【氏名】佐々 浩一
【テーマコード(参考)】
5J070
5J083
【Fターム(参考)】
5J070AB01
5J070AC02
5J070AF03
5J070AH12
5J070AH14
5J070AH19
5J070AH31
5J070AJ13
5J070AK16
5J083AB13
5J083AC09
5J083AD04
5J083AF09
5J083BA01
5J083BE24
5J083BE25
5J083CA01
5J083CB01
5J083EC19
(57)【要約】
【課題】吸収減衰の影響を考慮するか否かを切り替えながら、CFAR信号に基づく物体の検出を適切に実行する。
【解決手段】本開示の一例としての物体検出装置は、CFAR処理により、検出タイミングにおけるCFAR信号を取得するCFAR処理部と、CFAR信号と閾値との比較に基づいて、物体に関する情報を検出する検出処理部と、検出タイミングが所定の第1区間に属する場合に、閾値を、送信波および受信波が伝播する媒質の温度を検出する温度センサの検出結果を考慮して算出された第1閾値に設定し、検出タイミングが第1区間と異なる所定の第2区間に属する場合に、閾値を、温度センサの検出結果を考慮することなく算出された第2閾値に設定する閾値処理部と、を備える。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
送信波を送信する送信部と、
物体での反射により戻ってきた前記送信波としての受信波を受信する受信部と、
ある検出タイミングで受信された前記受信波に基づく第1処理対象信号の値と、前記検出タイミングの前後の所定の区間において受信された前記受信波に基づく第2処理対象信号の値の平均値と、に基づくCFAR処理により、前記検出タイミングにおけるCFAR信号を取得するCFAR処理部と、
前記CFAR信号と閾値との比較に基づいて、前記物体に関する情報を検出する検出処理部と、
前記検出タイミングが所定の第1区間に属する場合に、前記閾値を、前記送信波および前記受信波が伝播する媒質の温度を検出する温度センサの検出結果を考慮して算出された第1閾値に設定し、前記検出タイミングが前記第1区間と異なる所定の第2区間に属する場合に、前記閾値を、前記温度センサの検出結果を考慮することなく算出された第2閾値に設定する閾値処理部と、
を備える、物体検出装置。
【請求項2】
前記送信部による前記送信波の送信および前記受信部による前記受信波の受信は、所定の位置および姿勢で固定的に設置された同じ送受波器を用いて行われ、
前記第1区間および前記第2区間は、前記送受波器の設置位置および設置姿勢に応じて予め決められている、
請求項1に記載の物体検出装置。
【請求項3】
前記第1区間は、前記物体に関する情報を検出する対象ではない前記物体としての非検出対象での反射に基づく前記受信波に基づくクラッタの値が所定値以下となる区間として前記送受波器の前記設置位置および前記設置姿勢に応じて予め決められており、
前記第2区間は、前記クラッタの値が前記所定値よりも大きくなる区間として前記送受波器の前記設置位置および前記設置姿勢に応じて予め決められている、
請求項2に記載の物体検出装置。
【請求項4】
前記所定値は、前記送受波器において定常的に発生する定常ノイズに対応する、
請求項3に記載の物体検出装置。
【請求項5】
前記CFAR処理部は、前記第1処理対象信号の値と前記第2処理対象信号の値の平均値との差分に基づく第1CFAR処理と、前記第1処理対象信号の値と前記第2処理対象信号の値の平均値との比に基づく第2CFAR処理と、前記第1処理対象信号の値と前記第2処理対象信号の値の平均値との差分の正規化に基づく第3CFAR処理と、のうちいずれか1つにより、前記CFAR信号を取得する、
請求項1~4のうちいずれか1項に記載の物体検出装置。
【請求項6】
前記検出処理部は、前記物体に関する情報として、前記物体までの距離を検出する、
請求項1~5のうちいずれか1項に記載の物体検出装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、物体検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、レーダの送受信に基づいて物体に関する情報を検出する技術において、検出対象ではない物体による反射に起因して発生するクラッタと呼ばれるノイズを低減するための処理として、CFAR(Constant False Alarm Rate)処理が知られている。CFAR処理によれば、受信波に基づく処理対象信号の値(信号レベル)の移動平均を利用して、処理対象信号からクラッタを除去した信号に相当するCFAR信号を取得することが可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで、一般に、送信波および受信波は、それらが伝播する媒質の温度などの影響により、吸収減衰を受ける。このため、上述した処理対象信号およびクラッタのいずれも、吸収減衰の影響を含んでいる。したがって、CFAR信号を利用して物体に関する情報を検出する際には、当該吸収減衰の影響を考慮することが望ましいと考えられる。
【0005】
しかしながら、上述した通り、CFAR信号は、処理対象信号からクラッタを除去した信号に相当する。このため、クラッタが処理対象信号に対して無視できる程度に小さい区間においては、処理対象信号の吸収減衰の影響を含むCFAR信号が得られるが、クラッタが処理対象信号に対して無視できない程度に大きい区間においては、両者の吸収減衰の影響が相殺されたCFAR信号が得られることになる。
【0006】
このように、CFAR信号が吸収減衰の影響を含むか否かは一律ではないので、CFAR信号を利用して物体に関する情報を適切に検出するためには、吸収減衰の影響を考慮するか否かを適宜切り替える必要がある。
【0007】
そこで、本開示の課題の一つは、吸収減衰の影響を考慮するか否かを切り替えながら、CFAR信号に基づく物体の検出を適切に実行することが可能な物体検出装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示の一例としての物体検出装置は、送信波を送信する送信部と、物体での反射により戻ってきた送信波としての受信波を受信する受信部と、ある検出タイミングで受信された受信波に基づく第1処理対象信号の値と、検出タイミングの前後の所定の区間において受信された受信波に基づく第2処理対象信号の値の平均値と、に基づくCFAR処理により、検出タイミングにおけるCFAR信号を取得するCFAR処理部と、CFAR信号と閾値との比較に基づいて、物体に関する情報を検出する検出処理部と、検出タイミングが所定の第1区間に属する場合に、閾値を、送信波および受信波が伝播する媒質の温度を検出する温度センサの検出結果を考慮して算出された第1閾値に設定し、検出タイミングが第1区間と異なる所定の第2区間に属する場合に、閾値を、温度センサの検出結果を考慮することなく算出された第2閾値に設定する閾値処理部と、を備える。
【0009】
上述した物体検出装置によれば、温度センサの検出結果を考慮して、つまり吸収減衰の影響を加味して算出された第1閾値と、温度センサの検出結果を考慮することなく、つまり吸収減衰の影響を加味することなく算出された第2閾値と、を区間ごとに切り替えながら、CFAR信号に基づく物体の検出を適切に実行することができる。
【0010】
上述した物体検出装置において、送信部による送信波の送信および受信部による受信波の受信は、所定の位置および姿勢で固定的に設置された同じ送受波器を用いて行われ、第1区間および第2区間は、送受波器の設置位置および設置姿勢に応じて予め決められている。このような構成によれば、クラッタの値が大きくなるタイミングと関連する送受波器の設置位置および設置姿勢を考慮して、第1区間および第2区間を予め決めておくことができる。
【0011】
この場合において、第1区間は、物体に関する情報を検出する対象ではない物体としての非検出対象での反射に基づく受信波に基づくクラッタの値が所定値以下となる区間として送受波器の設置位置および設置姿勢に応じて予め決められており、第2区間は、クラッタの値が所定値よりも大きくなる区間として送受波器の設置位置および設置姿勢に応じて予め決められている。このような構成によれば、第1区間と第2区間との境界を容易に決めることができる。
【0012】
また、この場合において、所定値は、送受波器において定常的に発生する定常ノイズに対応する。このような構成によれば、定常ノイズを考慮して、第1区間と第2区間との境界を適切に決めることができる。
【0013】
また、上述した物体検出装置において、CFAR処理部は、第1処理対象信号の値と第2処理対象信号の値の平均値との差分に基づく第1CFAR処理と、第1処理対象信号の値と第2処理対象信号の値の平均値との比に基づく第2CFAR処理と、第1処理対象信号の値と第2処理対象信号の値の平均値との差分の正規化に基づく第3CFAR処理と、のうちいずれか1つにより、CFAR信号を取得する。このような構成によれば、3つのCFAR処理のうちいずれか1つを用いて、CFAR信号を容易に取得することができる。
【0014】
また、上述した物体検出装置において、検出処理部は、物体に関する情報として、物体までの距離を検出する。このような構成によれば、物体に関する有益な情報としての距離を取得することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】
図1は、実施形態にかかる物体検出システムを備えた車両を上方から見た外観を示した例示的かつ模式的な図である。
【
図2】
図2は、実施形態にかかる物体検出システムのハードウェア構成を示した例示的かつ模式的なブロック図である。
【
図3】
図3は、実施形態にかかるが物体までの距離を検出するために利用する技術の概要を説明するための例示的かつ模式的な図である。
【
図4】
図4は、実施形態にかかる物体検出装置の機能を示した例示的かつ模式的なブロック図である。
【
図5】
図5は、実施形態において実行されうるCFAR(Constant False Alarm Rate)処理の一例を説明するための例示的かつ模式的な図である。
【
図6】
図6は、実施形態にかかる処理対象信号およびノイズの一例を示した例示的かつ模式的な図である。
【
図7】
図7は、実施形態にかかるCFAR信号の一例を示した例示的かつ模式的な図である。
【
図8】
図8は、実施形態にかかる物体検出システムが実行する一連の処理を示した例示的かつ模式的なフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本開示の実施形態および変形例を図面に基づいて説明する。以下に記載する実施形態および変形例の構成、ならびに当該構成によってもたらされる作用および効果は、あくまで一例であって、以下の記載内容に限られるものではない。
【0017】
<実施形態>
図1は、実施形態にかかる物体検出システムを備えた車両1を上方から見た外観を示した例示的かつ模式的な図である。
【0018】
以下に説明するように、実施形態にかかる物体検出システムは、音波(超音波)の送受信を行い、当該送受信の時間差などを取得することで、周囲に存在する人間を含む物体(たとえば後述する
図2に示される障害物O)に関する情報を検知する車載センサシステムである。
【0019】
より具体的に、
図1に示されるように、実施形態にかかる物体検出システムは、車載制御装置としてのECU(Electronic Control Unit)100と、車載ソナーとしての物体検出装置201~204と、を備えている。ECU100は、一対の前輪3Fと一対の後輪3Rとを含んだ四輪の車両1の内部に搭載されており、物体検出装置201~204は、車両1の外装に搭載されている。
【0020】
図1に示される例では、一例として、物体検出装置201~204が、車両1の外装としての車体2の後端部(リヤバンパ)において、互いに異なる位置に設置されているが、物体検出装置201~204の設置位置は、
図1に示される例に制限されるものではない。たとえば、物体検出装置201~204は、車体2の前端部(フロントバンパ)に設置されてもよいし、車体2の側面部に設置されてもよいし、後端部、前端部、および側面部のうち2つ以上に設置されてもよい。
【0021】
なお、実施形態において、物体検出装置201~204が有するハードウェア構成および機能は、それぞれ同一である。したがって、以下では、簡単化のため、物体検出装置201~204を総称して物体検出装置200と記載することがある。また、実施形態において、物体検出装置200の個数は、
図1に示されるような4つに制限されるものではない。
【0022】
図2は、実施形態にかかる物体検出システムのハードウェア構成を示した例示的かつ模式的なブロック図である。
【0023】
図2に示されるように、ECU100は、通常のコンピュータと同様のハードウェア構成を備えている。より具体的に、ECU100は、入出力装置110と、記憶装置120と、プロセッサ130と、を備えている。
【0024】
入出力装置110は、ECU100と外部との間における情報の送受信を実現するためのインターフェースである。たとえば、
図2に示される例において、ECU100の通信相手は、物体検出装置200および温度センサ50である。温度センサ50は、車両1の周囲の気温を測定するように車両1に搭載される。
【0025】
記憶装置120は、ROM(Read Only Memory)やRAM(Random Access Memory)などといった主記憶装置、および/または、HDD(Hard Disk Drive)やSSD(Solid State Drive)などといった補助記憶装置を含んでいる。
【0026】
プロセッサ130は、ECU100において実行される各種の処理を司る。プロセッサ130は、たとえばCPU(Central Processing Unit)などといった演算装置を含んでいる。プロセッサ130は、記憶装置120に記憶されたコンピュータプログラムを読み出して実行することで、たとえば自動駐車などといった各種の機能を実現する。
【0027】
また、
図2に示されるように、物体検出装置200は、送受波器210と、制御部220と、を備えている。
【0028】
送受波器210は、圧電素子などにより構成された振動子211を有しており、当該振動子211により、超音波の送受信を実行する。
【0029】
より具体的に、送受波器210は、振動子211の振動に応じて発生する超音波を送信波として送信し、当該送信波として送信された超音波が外部に存在する物体で反射されて戻ってくることでもたらされる振動子211の振動を受信波として受信する。
図2に示される例では、送受波器210からの超音波を反射する物体として、路面RS上に設置された障害物Oが例示されている。
【0030】
なお、
図2に示される例では、送信波の送信と受信波の受信との両方が単一の振動子211を有した単一の送受波器210により実現される構成が例示されている。しかしながら、実施形態の技術は、たとえば、送信波の送信用の第1の振動子と受信波の受信用の第2の振動子とが別々に設けられた構成のような、送信側の構成と受信側の構成とが分離された構成にも適用可能である。
【0031】
制御部220は、通常のコンピュータと同様のハードウェア構成を備えている。より具体的に、制御部220は、入出力装置221と、記憶装置222と、プロセッサ223と、を備えている。
【0032】
入出力装置221は、制御部220と外部(
図1に示される例ではECU100および送受波器210)との間における情報の送受信を実現するためのインターフェースである。
【0033】
記憶装置222は、ROMおよびRAMなどといった主記憶装置、およびHDDまたはSSDなどといった補助記憶装置を含んでいる。
【0034】
プロセッサ223は、制御部220において実行される各種の処理を司る。プロセッサ223は、たとえばCPUなどといった演算装置を含んでいる。プロセッサ223は、記憶装置333に記憶されたコンピュータプログラムを読み出して実行することで、各種の機能を実現する。
【0035】
ここで、実施形態にかかる物体検出装置200は、いわゆるTOF(Time Of Flight)法と呼ばれる技術により、物体までの距離を検出する。以下に詳述するように、TOF法とは、送信波が送信された(より具体的には送信され始めた)タイミングと、受信波が受信された(より具体的には受信され始めた)タイミングとの差を考慮して、物体までの距離を算出する技術である。
【0036】
図3は、実施形態にかかる物体検出装置200が物体までの距離を検出するために利用する技術の概要を説明するための例示的かつ模式的な図である。
【0037】
より具体的に、
図3は、実施形態にかかる物体検出装置200が送受信する超音波の信号レベル(たとえば振幅)の時間変化をグラフ形式で例示的かつ模式的に示した図である。
図3に示されるグラフにおいて、横軸は、時間に対応し、縦軸は、物体検出装置200が送受波器210(振動子211)を介して送受信する信号の信号レベルに対応する。
【0038】
図3に示されるグラフにおいて、実線L11は、物体検出装置200が送受信する信号の信号レベル、つまり振動子211の振動の度合の時間変化を表す包絡線の一例を表している。この実線L11からは、振動子211がタイミングt0から時間Taだけ駆動されて振動することで、タイミングt1で送信波の送信が完了し、その後タイミングt2に至るまでの時間Tbの間は、慣性による振動子211の振動が減衰しながら継続する、ということが読み取れる。したがって、
図3に示されるグラフにおいては、時間Tbが、いわゆる残響時間に対応する。
【0039】
実線L11は、送信波の送信が開始したタイミングt0から時間Tpだけ経過したタイミングt4で、振動子211の振動の度合が、一点鎖線L21で表される所定の閾値Th1を超える(または以上になる)ピークを迎える。この閾値Th1は、振動子211の振動が、検知対象の物体(たとえば
図2に示される障害物O)により反射されて戻ってきた送信波としての受信波の受信によってもたらされたものか、または、検体対象外の物体(たとえば
図2に示される路面RS)により反射されて戻ってきた送信波としての受信波の受信によってもたらされたものか、を識別するために予め設定された値である。
【0040】
なお、
図3には、閾値Th1が時間経過によらず変化しない一定値として設定された例が示されているが、実施形態において、閾値Th1は、時間経過とともに変化する値として設定されてもよい。
【0041】
ここで、閾値Th1を超えた(または以上の)ピークを有する振動は、検知対象の物体により反射されて戻ってきた送信波としての受信波の受信によってもたらされたものだとみなすことができる。一方、閾値Th1以下の(または未満の)ピークを有する振動は、検知対象外の物体により反射されて戻ってきた送信波としての受信波の受信によってもたらされたものだとみなすことができる。
【0042】
したがって、実線L11からは、タイミングt4における振動子211の振動が、検知対象の物体により反射されて戻ってきた送信波としての受信波の受信によってもたらされたものである、ということが読み取れる。
【0043】
なお、実線L11においては、タイミングt4以降で、振動子211の振動が減衰している。したがって、タイミングt4は、検知対象の物体により反射されて戻ってきた送信波としての受信波の受信が完了したタイミング、換言すればタイミングt1で最後に送信された送信波が受信波として戻ってくるタイミング、に対応する。
【0044】
また、実線L11においては、タイミングt4におけるピークの開始点としてのタイミングt3は、検知対象の物体により反射されて戻ってきた送信波としての受信波の受信が開始したタイミング、換言すればタイミングt0で最初に送信された送信波が受信波として戻ってくるタイミング、に対応する。したがって、実線L11においては、タイミングt3とタイミングt4との間の時間ΔTが、送信波の送信時間としての時間Taと等しくなる。
【0045】
上記を踏まえて、TOF法により検知対象の物体までの距離を求めるためには、送信波が送信され始めたタイミングt0と、受信波が受信され始めたタイミングt3と、の間の時間Tfを求めることが必要となる。この時間Tfは、タイミングt0と、受信波の信号レベルが閾値Th1を超えたピークを迎えるタイミングt4と、の差分としての時間Tpから、送信波の送信時間としての時間Taに等しい時間ΔTを差し引くことで求めることができる。
【0046】
送信波が送信され始めたタイミングt0は、物体検出装置200が動作を開始したタイミングとして容易に特定することができ、送信波の送信時間としての時間Taは、設定などによって予め決められている。したがって、TOF法により検知対象の物体までの距離を求めるためには、結局のところ、受信波の信号レベルが閾値Th1を超えたピークを迎えるタイミングt4を特定することが重要となる。そして、当該タイミングt4を特定するためには、送信波と、検知対象の物体により反射されて戻ってきた送信波としての受信波と、の対応関係を精度良く検出することが重要となる。
【0047】
ところで、従来、上述した超音波のような波動の送受信に基づいて物体に関する情報を検出するにあたり、検出対象ではない物体による反射に起因して発生するクラッタと呼ばれるノイズを低減するための処理として、CFAR(Constant False Alarm Rate)処理が知られている。CFAR処理によれば、受信波に基づく処理対象信号の値(信号レベル)の移動平均を利用して、処理対象信号からクラッタを除去した信号に相当するCFAR信号を取得することが可能である。
【0048】
ここで、一般に、送信波および受信波は、それらが伝播する媒質の温度などの影響により、吸収減衰を受ける。このため、上述した処理対象信号およびクラッタのいずれも、吸収減衰の影響を含んでいる。したがって、CFAR信号を利用して物体に関する情報を検出する際には、当該吸収減衰の影響を考慮することが望ましいと考えられる。
【0049】
しかしながら、上述した通り、CFAR信号は、処理対象信号からクラッタを除去した信号に相当する。このため、クラッタが処理対象信号に対して無視できる程度に小さい区間においては、処理対象信号の吸収減衰の影響を含むCFAR信号が得られるが、クラッタが処理対象信号に対して無視できない程度に大きい区間においては、両者の吸収減衰の影響が相殺されたCFAR信号が得られることになる。
【0050】
このように、CFAR信号が吸収減衰の影響を含むか否かは一律ではないので、CFAR信号を利用して物体に関する情報を適切に検出するためには、吸収減衰の影響を考慮するか否かを適宜切り替える必要がある。
【0051】
そこで、実施形態は、物体検出装置200を以下に説明するように構成することで、吸収減衰の影響を考慮するか否かを切り替えながら、CFAR信号に基づく物体の検出を適切に実行することを実現する。
【0052】
図4は、実施形態にかかる物体検出装置200の詳細な構成を示した例示的かつ模式的なブロック図である。
【0053】
なお、
図4には、送信側の構成と受信側の構成とが分離された状態で図示されているが、このような図示の態様は、あくまで説明の便宜のためのものである。したがって、実施形態では、前述したように、送信波の送信と受信波の受信との両方が単一の送受波器210により実現される。ただし、前述の繰り返しになるが、実施形態の技術は、送信側の構成と受信側の構成とが分離された構成にも適用可能である。
【0054】
図4に示されるように、物体検出装置200は、送信側の構成として、送信部411を有している。また、物体検出装置200は、受信側の構成として、受信部421と、前処理部422と、CFAR処理部423と、閾値処理部424と、検出処理部425と、を有している。
【0055】
なお、実施形態において、
図4に示される構成のうち少なくとも一部は、ハードウェアとソフトウェアとの協働の結果、より具体的には、物体検出装置200のプロセッサ223が記憶装置222からコンピュータプログラムを読み出して実行した結果として実現される。ただし、実施形態では、
図4に示される構成のうち少なくとも一部が、専用のハードウェア(回路:circuitry)によって実現されてもよい。また、実施形態において、
図4に示される各構成は、物体検出装置200自身の制御部220による制御のもとで動作してもよいし、外部のECU100による制御のもとで動作してもよい。
【0056】
まず、送信側の構成について説明する。
【0057】
送信部411は、上述した振動子211を所定の送信間隔で振動させることにより外部へ向けて送信波を送信する。送信間隔とは、送信波が送信されてから次に送信波が送信されるまでの時間間隔である。送信部411は、たとえば、搬送波を生成する回路、搬送波に付与すべき識別情報に対応するパルス信号を生成する回路、パルス信号に応じて搬送波を変調する乗算器、および乗算器から出力された送信信号を増幅する増幅器などを利用して構成される。
【0058】
次に、受信側の構成について説明する。
【0059】
受信部421は、送信部411から送信された送信波の反射波としての受信波を、送信波が送信されてから所定の測定時間が経過するまで受信する。測定時間とは、送信波の送信後、当該送信波の反射波としての受信波を受信するために設定された待機時間である。
【0060】
前処理部422は、受信部421により受信された受信波に対応した受信信号をCFAR処理部423に入力すべき処理対象信号に変換するための前処理を行う。前処理は、たとえば、受信波に対応する受信信号を増幅する増幅処理、増幅された受信信号に含まれるノイズを低減するフィルタ処理、送信信号と受信信号との類似度を示す相関値を取得する相関処理、および相関値の時間変化を示す波形の包絡線に基づく信号を処理対象信号として生成する包絡線処理などが含まれる。
【0061】
CFAR処理部423は、前処理部422から出力される処理対象信号に対してCFAR処理を施すことで、CFAR信号を取得する。前述したように、CFAR処理とは、処理対象信号の値(信号レベル)の移動平均を利用して、処理対象信号からクラッタを除去した信号に相当するCFAR信号を取得する処理である。
【0062】
たとえば、実施形態にかかるCFAR処理部423は、次の
図5に示されるような構成により、CFAR信号を取得する。
【0063】
図5は、実施形態において実行されうるCFAR処理の一例を説明するための例示的かつ模式的な図である。
【0064】
図5に示されるように、CFAR処理においては、まず、処理対象信号510が所定の時間間隔でサンプリングされる。そして、CFAR処理部423の演算器511は、ある検出タイミングt50の前に存在する区間T51に受信された受信波に応じたNサンプル分の処理対象信号の値の総和を算出する。また、CFAR処理部423の演算器512は、検出タイミングt50の後に存在する区間T52に受信された受信波に応じたNサンプル分の処理対象信号の値の総和を算出する。
【0065】
そして、CFAR処理部423の演算器520は、演算器511および512の演算結果を合算する。そして、CFAR処理部423の演算器530は、演算器520の演算結果を、区間T51における処理対象信号のサンプル数Nと区間T52における処理対象信号のサンプル数Nとの和である2Nで除算し、区間T51およびT52の両方における処理対象信号の値の平均値を算出する。
【0066】
そして、CFAR処理部423の演算器540は、検出タイミングt50における処理対象信号の値から、演算器530の演算結果としての平均値を減算し、CFAR信号550を取得する。
【0067】
このように、実施形態にかかるCFAR処理部423は、受信波に基づく処理対象信号をサンプリングし、ある検出タイミングで受信された受信波に基づく(少なくとも)1サンプル分の第1処理対象信号の値と、当該検出タイミングの前後に存在する所定の区間T51およびT52おいて受信された受信波に基づく複数サンプル分の第2処理対象信号の値の平均値と、の差分により、CFAR信号を取得する。
【0068】
なお、上記では、CFAR処理の一例として、第1処理対象信号の値と第2処理対象信号の値の平均値との差分に基づいてCFAR信号を取得する処理が例示されている。しかしながら、実施形態にかかるCFAR処理は、第1処理対象信号の値と第2処理対象信号の値の平均値との比に基づいてCFAR信号を取得する処理であってもよいし、第1処理対象信号の値と第2処理対象信号の値の平均値との差分の正規化に基づいてCFAR信号を取得する処理であってもよい。
【0069】
ここで、前述した通り、CFAR信号は、処理対象信号からクラッタを除去した信号に相当する。より詳細に言うと、CFAR信号は、処理対象信号から、クラッタと送受波器210において定常的に発生する定常ノイズとを含む各種のノイズを除去した信号に相当する。処理対象信号およびノイズ(クラッタおよび定常ノイズ)は、たとえば次の
図6に示されるような波形を示す。
【0070】
図6は、実施形態にかかる処理対象信号およびノイズの一例を示した例示的かつ模式的な図である。
【0071】
図6に示される例において、実線L601は、処理対象信号の値の時間変化を表しており、一点鎖線L602は、クラッタの値の時間変化を表しており、二点鎖線L603は、定常ノイズの値の時間変化を表している。
【0072】
図6に示されるように、クラッタ(一点鎖線L602参照)と定常ノイズ(二点鎖線L603参照)とは、値の大小関係が区間ごとに変わる。たとえば、
図6に示される例では、区間T61において、定常ノイズの値の方がクラッタの値よりも大きくなっており、区間T61の次の区間T62において、クラッタの値の方が定常ノイズの値よりも大きくなっており、区間T62の次の区間T63において、定常ノイズの値の方がクラッタの値よりも大きくなっている。
【0073】
なお、クラッタの値が大きくなるタイミングは、送受波器210の設置位置および設置姿勢に応じて予めほぼ決まっている。また、定常ノイズの値も、予めほぼ決まっている。したがって、上記の区間T61~T63は、送受波器210の設置位置および設置姿勢に応じて予めほぼ決まっている。また、上記の区間T61の始点は、送信波の反射波としての受信波を受信するために設定された受信部421の待機時間としての前述した測定時間の始点と一致し、上記の区間T63の終点は、前述した測定時間の終点と一致する。
【0074】
ここで、上記の区間T61およびT63においては、クラッタが処理対象信号に対して無視できる程度に小さいため、処理対象信号からクラッタおよび定常ノイズを除去した信号に相当するCFAR信号は、クラッタの吸収減衰の影響を含むことなく、処理対象信号の吸収減衰の影響を含む信号となる。一方、上記の区間T62においては、クラッタが処理対象信号に対して無視できない程度に大きいため、CFAR信号は、クラッタの吸収減衰の影響と処理対象信号の吸収減衰の影響とが相殺されることで吸収減衰の影響を含まない信号となる。
【0075】
上記を踏まえて、
図4に戻り、閾値処理部424は、検出タイミングが上記の区間T61またはT63に属する場合、物体に関する情報の検出のためにCFAR信号の値と比較すべき閾値を、上記の吸収減衰の影響を考慮して算出された第1閾値に設定し、検出タイミングが上記の区間T62に属する場合、CFAR信号の値と比較すべき閾値を、上記の吸収減衰の影響を考慮することなく算出された第2閾値に設定する。なお、吸収減衰の影響は、少なくともECU100経由で取得される温度センサ50の検出結果に基づいて推定することができる。
【0076】
そして、検出処理部425は、CFAR信号の値と、閾値処理部424により設定された閾値(第1閾値または第2閾値)と、の比較に基づいて、CFAR信号の値が閾値を超える検出タイミングを特定する。CFAR信号の値が閾値を超える検出タイミングは、物体での反射により戻ってきた送信波としての受信波の信号レベルがピークを迎えるタイミングと一致するので、CFAR信号の値が閾値を超える検出タイミングを特定すれば、前述したTOF法により、物体までの距離を検出することができる。
【0077】
このように、実施形態では、CFAR信号が取得される全区間において一律の閾値が使用されることなく、送受波器210の設置位置および設置姿勢に応じて予め決められた区間ごとに、吸収減衰の影響を考慮した第1閾値と、吸収減衰の影響を考慮しない第2閾値と、の2種類の閾値が使い分けられる。つまり、実施形態では、たとえば次の
図7に示されるような波形のCFAR信号の値が、区間ごとに異なる閾値と比較される。
【0078】
図7は、実施形態にかかるCFAR信号の一例を示した例示的かつ模式的な図である。
【0079】
図7に示される例において、実線L700は、CFAR信号の値の時間変化を表している。この実線L700は、
図6に示される実線L601と一点鎖線L602および二点鎖線L603のうち値が大きい方との差に対応する。したがって、
図7に示される例において、区間T71、T72、およびT73は、それぞれ、
図6に示される区間T61、T62、およびT63に対応する。
【0080】
図7に示される例では、区間T71およびT73において、吸収減衰の影響を考慮して算出された第1閾値が、実線L700の値と比較すべき閾値として設定され、区間T72において、吸収減衰の影響を考慮することなく算出された第2閾値が、実線L700の値と比較すべき閾値として設定される。つまり、
図7に示される例では、区間T71およびT73においては、実線L700の値と第1閾値との比較により、物体までの距離が検出され、区間T72においては、実線L700の値と第2閾値との比較により、物体までの距離が検出される。
【0081】
以上の構成に基づき、実施形態にかかる物体検出システムは、次の
図8に示されるような流れで処理を実行する。
図8に示される一連の処理は、たとえば所定の制御周期で繰り返し実行されうる。
【0082】
図8は、実施形態にかかる物体検出システムが実行する一連の処理を示した例示的かつ模式的なフローチャートである。
【0083】
図8に示されるように、実施形態では、まず、S801において、物体検出装置200の送信部411は、送信波を送信する。
【0084】
そして、S802において、物体検出装置200の受信部421は、S801で送信された送信波に応じた受信波を受信する。
【0085】
そして、S803において、物体検出装置200の前処理部422は、S802で受信された受信波に対応した受信信号に対して、次のS804の処理のための前処理を行う。
【0086】
そして、S804において、物体検出装置200のCFAR処理部423は、S803での前処理を経て前処理部422から出力された処理対象信号に対してCFAR処理を実行し、CFAR信号を生成する。
【0087】
そして、S805において、物体検出装置200の閾値処理部424は、S804で生成されたCFAR信号に対して、予め決められた区間ごとに閾値(前述した第1閾値または第2閾値)を設定する。
【0088】
そして、S806において、物体検出装置200の検出処理部425は、CFAR信号の値とS805で設定された閾値との比較に基づいて、物体までの距離を検出する。そして、処理が終了する。
【0089】
以上説明したように、実施形態にかかる物体検出装置200は、送信部411と、受信部421と、CFAR処理部423と、検出処理部425と、閾値処理部424と、を備えている。送信部411は、送信波を送信し、受信部421は、物体での反射により戻ってきた送信波としての受信波を受信する。CFAR処理部423は、ある検出タイミングで受信された受信波に基づく第1処理対象信号の値と、当該検出タイミングの前後の所定の区間において受信された受信波に基づく第2処理対象信号の値の平均値と、に基づくCFAR処理により、検出タイミングにおけるCFAR信号を取得する。検出処理部425は、CFAR信号と閾値との比較に基づいて、物体に関する情報を検出する。閾値処理部424は、検出タイミングが所定の第1区間に属する場合に、閾値を、送信波および受信波が伝播する媒質の温度を検出する温度センサ50の検出結果を考慮して算出された第1閾値に設定し、検出タイミングが第1区間と異なる所定の第2区間に属する場合に、閾値を、温度センサ50の検出結果を考慮することなく算出された第2閾値に設定する。
【0090】
実施形態にかかる物体検出装置200によれば、温度センサ50の検出結果を考慮して、つまり吸収減衰の影響を加味して算出された第1閾値と、温度センサ50の検出結果を考慮することなく、つまり吸収減衰の影響を加味することなく算出された第2閾値と、を区間ごとに切り替えながら、CFAR信号に基づく物体の検出を適切に実行することができる。
【0091】
ここで、実施形態において、送信部411による送信波の送信および受信部421による受信波の受信は、所定の位置および姿勢で固定的に設置された同じ送受波器210を用いて行われる。そして、上記の第1区間および第2区間は、送受波器210の設置位置および設置姿勢に応じて予め決められている。このような構成によれば、クラッタの値が大きくなるタイミングと関連する送受波器210の設置位置および設置姿勢を考慮して、第1区間および第2区間を予め決めておくことができる。
【0092】
より具体的に、実施形態において、第1区間は、物体に関する情報を検出する対象ではない物体としての非検出対象での反射に基づく受信波に基づくクラッタの値が所定値以下となる区間として送受波器210の設置位置および設置姿勢に応じて予め決められている。また、第2区間は、クラッタの値が所定値よりも大きくなる区間として送受波器の設置位置および設置姿勢に応じて予め決められている。このような構成によれば、第1区間と第2区間との境界を容易に決めることができる。
【0093】
また、実施形態において、上記の所定値は、送受波器210において定常的に発生する定常ノイズに対応する。このような構成によれば、定常ノイズを考慮して、第1区間と第2区間との境界を適切に決めることができる。
【0094】
<変形例>
なお、上述した実施形態では、本開示の技術が、超音波の送受信によって物体までの距離を検出する構成に適用されている。しかしながら、本開示の技術は、音波、ミリ波、レーダ、および電磁波などのような、超音波以外の他の波動の送受信によって物体までの距離を検出する構成にも適用することが可能である。
【0095】
また、上述した実施形態では、吸収減衰の影響を考慮した第1閾値の算出に、車両に搭載された温度センサの検出結果を利用する構成が例示されている。しかしながら、温度センサに加えて湿度センサが車両に搭載されていれば、温度センサの検出結果に加えて湿度センサの検出結果をさらに利用することで、吸収減衰の影響をより精度よく推定し、より適切な第1閾値を算出することが期待できる。
【0096】
以上、本開示の実施形態および変形例を説明したが、上述した実施形態および変形例はあくまで一例であって、発明の範囲を限定することは意図していない。上述した新規な実施形態および変形例は、様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。上述した実施形態および変形例は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0097】
1 車両
50 温度センサ
100 ECU
200 物体検出装置
210 送受波器
411 送信部
421 受信部
423 CFAR処理部
424 閾値処理部
425 検出処理部