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特開2022-106610酵母の培養方法及びその培養菌体を用いた発酵飲食品の製造方法
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  • 特開-酵母の培養方法及びその培養菌体を用いた発酵飲食品の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022106610
(43)【公開日】2022-07-20
(54)【発明の名称】酵母の培養方法及びその培養菌体を用いた発酵飲食品の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 1/16 20060101AFI20220712BHJP
   C12N 1/18 20060101ALI20220712BHJP
   A23L 5/00 20160101ALI20220712BHJP
   A21D 2/26 20060101ALI20220712BHJP
【FI】
C12N1/16 A
C12N1/18
C12N1/16 G
A23L5/00 J
A21D2/26
【審査請求】未請求
【請求項の数】19
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021001732
(22)【出願日】2021-01-07
(71)【出願人】
【識別番号】596075417
【氏名又は名称】公益財団法人とかち財団
(71)【出願人】
【識別番号】000231981
【氏名又は名称】日本甜菜製糖株式会社
(72)【発明者】
【氏名】高谷 政宏
(72)【発明者】
【氏名】小田 有二
(72)【発明者】
【氏名】金澤 由希子
(72)【発明者】
【氏名】三雲 大
(72)【発明者】
【氏名】櫻井 博章
【テーマコード(参考)】
4B032
4B035
4B065
【Fターム(参考)】
4B032DB01
4B032DG02
4B032DK54
4B032DP33
4B035LG19
4B035LG50
4B035LP42
4B065AA76X
4B065AA79X
4B065AA80X
4B065AC20
4B065BB15
4B065BC50
4B065CA42
(57)【要約】
【課題】より特徴的で良好な風香味の発酵飲食品、特にパン類の製造方法等を提供する。
【解決手段】スクロース非発酵性酵母であるハンセニアスポラ・ビネエ(Hanseniaspora vineae)と、スクロース発酵性酵母であるサッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)を特定範囲の比率にて接種して、スクロースを炭素源として混合培養し、その培養で得られた混合培養菌体をスクロースを糖源とした発酵飲食品、特にパン類の製造に用いることで、従来にない特徴的で風香味が好適な発酵飲食品を製造できる。
【選択図】なし

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素源としてスクロースを含む培地を用いてスクロース非発酵性酵母を培養するに際し、サッカロマイセス属に属するスクロース発酵性酵母を混合培養することを特徴とする酵母の培養方法。
【請求項2】
前記スクロース非発酵性酵母がサッカロマイセス属以外の属に属する酵母であることを特徴とする請求項1に記載の酵母の培養方法。
【請求項3】
前記スクロース発酵性酵母がサッカロマイセス・セレビシエ、サッカロマイセス・バヤヌス、サッカロマイセス・バヤヌス・バー・ウバルム、サッカロマイセス・ミカタエ、サッカロマイセス・パラドクサス、サッカロマイセス・アルボリコラ、サッカロマイセス・パストリアヌス、サッカロマイセス・クドリアフゼビイ、サッカロマイセス・ユーバヤヌスの少なくとも1であることを特徴とする請求項1又は2に記載の酵母の培養方法。
【請求項4】
前記スクロース非発酵性酵母がハンセニアスポラ属に属することを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1に記載の酵母の培養方法。
【請求項5】
前記スクロース非発酵性酵母が、ハンセニアスポラ・ビネエであることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1に記載の酵母の培養方法。
【請求項6】
前記スクロース非発酵性酵母と、前記サッカロマイセス属に属するスクロース発酵性酵母の培養において、培養開始時の前記スクロース非発酵性酵母と前記スクロース発酵性酵母の種培養液の容量での接種比率が、70~99.9:0.1~30となることを特徴とする請求項5に記載の培養方法。
【請求項7】
前記スクロース非発酵性酵母と、サッカロマイセス属に属するスクロース発酵性酵母の培養において、培養開始時の前記スクロース非発酵性酵母と前記スクロース発酵性酵母の種培養液の容量での接種比率が、90~99:1~10となることを特徴とする請求項5に記載の培養方法。
【請求項8】
前記スクロース非発酵性酵母が、TW15株(NITE P-02881)であることを特徴とする請求項1乃至3、6又は7のいずれか1に記載の培養方法。
【請求項9】
スクロース非発酵性酵母と、サッカロマイセス属に属するスクロース発酵性酵母からなる混合菌体。
【請求項10】
前記スクロース非発酵性酵母がサッカロマイセス属以外の属に属する酵母であることを特徴とする請求項9に記載の混合菌体。
【請求項11】
前記スクロース発酵性酵母がサッカロマイセス・セレビシエ、サッカロマイセス・バヤヌス、サッカロマイセス・バヤヌス・バー・ウバルム、サッカロマイセス・ミカタエ、サッカロマイセス・パラドクサス、サッカロマイセス・アルボリコラ、サッカロマイセス・パストリアヌス、サッカロマイセス・クドリアフゼビイ、サッカロマイセス・ユーバヤヌスの少なくとも1であることを特徴とする請求項9又は10に記載の混合菌体。
【請求項12】
前記スクロース非発酵性酵母がハンセニアスポラ属に属することを特徴とする請求項9乃至11のいずれか1に記載の混合菌体。
【請求項13】
前記スクロース非発酵性酵母が、ハンセニアスポラ・ビネエであることを特徴とする請求項9乃至11のいずれか1に記載の混合菌体。
【請求項14】
前記スクロース非発酵性酵母と、前記サッカロマイセス属に属するスクロース発酵性酵母の混合菌体であって、該混合菌体の全菌体数における前記スクロース非発酵性酵母の菌体数の存在比率が、50~95%となることを特徴とする請求項13に記載の混合菌体。
【請求項15】
前記スクロース非発酵性酵母と、サッカロマイセス属に属するスクロース発酵性酵母の混合菌体であって、該混合菌体の全菌体数における前記スクロース非発酵性酵母の菌体数の存在比率が、80~92%となることを特徴とする請求項13に記載の混合菌体。
【請求項16】
前記スクロース非発酵性酵母が、TW15株(NITE P-02881)であることを特徴とする請求項9乃至11、14又は15のいずれか1に記載の混合菌体。
【請求項17】
請求項1乃至16のいずれか1に記載の菌体を使用することを特徴とする、発酵飲食品の製造方法。
【請求項18】
請求項1乃至16のいずれか1に記載の菌体を使用し、かつ、糖源としてスクロースを用いることを特徴とする、発酵飲食品の製造方法。
【請求項19】
前記発酵飲食品がパン類であることを特徴とする請求項17又は18のいずれか1に記載の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、異なる属の酵母の混合培養方法、及びその混合培養により得られた菌体を用いた発酵飲食品、特にパン類、その他ワイン、清酒、焼酎、ビールなどの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
昨今、食品分野において嗜好性は多様化しており、その中でも発酵飲食品の風香味の特徴は、商品の差別化に繋がる重要な要素である。特に、酵母と小麦粉を混捏して生地の発酵工程を伴うパン類において、製パン用酵母は、パン生地に含まれる糖をエタノールへ変換する際に発生する炭酸ガスで生地を膨張させるとともに、副生成する高級アルコール、エステル、有機酸等によってパンに特有の風香味を与えている。
【0003】
製パン用のパン酵母として工業的に実用化されているもののほとんどは、サッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)に分類されている。そのため、これらの同一種において、これまでにない差別化された香りや味を醸し出すのには限界がある。
【0004】
パン類の製造においてサッカロマイセス・セレビシエにない特徴を付与するために、サッカロマイセス属内で、サッカロマイセス・セレビシエ以外の種を用いた検討がなされている。例えば、ワイン醸造に用いられるサッカロマイセス・バヤヌス(Saccharomyces bayanus)、又はサッカロマイセス・バヤヌス・バー・ウバルム(Saccharomyces bayanus var. uvarum)に属する菌株と、サッカロマイセス・セレビシエに属する菌株を異種間で交雑育種することによって、より特徴的で良好な風香味及び形状のパン類を製造する試みがなされている(特許文献1、特許文献2)。
【0005】
さらに、従来にないより特徴的な風香味の発酵飲食品を得ることを追及して、サッカロマイセス属以外の酵母を用いる技術が報告されている。
【0006】
例えば、ハンセニアスポラ(Hanseniaspora)属は、その特徴的な発酵特性を活かしてワイン醸造に用いられている。具体的には、原料の殺菌工程がないワイン醸造の発酵中期から後期にはエタノール生成に優れたサッカロマイセス(Saccharomyces)属の酵母が優占するものの、発酵初期にハンセニアスポラ属等のブドウ果実由来の野生酵母が増殖し、多種の高級アルコール及び高級アルコールエステルなどを生成して、それがワイン品質の多様化に役立つことが報告されている(非特許文献1)。
【0007】
また、ブドウ果汁から分離されたハンセニアスポラ・ビネエ(Hanseniaspora vineae)菌株を、ブドウ果汁を用いて培養した後、ワイン発酵もろみに発酵中期から別途接種すると、芳香族化合物の濃度が上昇して好ましい香気を生成するという報告もある(非特許文献2)。
【0008】
さらに、ハンセニアスポラ・ビネエについては、パン類の製造において、異性化糖液(グルコースとフラクトースを主体とする液糖)を糖源として用いることにより、焼成した食パンのボリュームが増し、さらにパン中のアセトイン、酢酸2-フェネチル、酢酸などの香気成分が増加し、加えて好ましい味になるとの報告もある(特許文献3)。
【0009】
ところで、サッカロマイセス属以外の属の酵母の中には、スクロース(ショ糖及び砂糖と表記する場合もある)を発酵(資化及び分解と表記する場合もある)する能力を持たない菌株が多く存在する。このような酵母は、スクロース非発酵性酵母と呼ばれるが、発酵飲食品の製造、とりわけパン類の製造においては、原材料の糖源にスクロースを用いることが一般的であり、先行技術の通りに異性化糖液を使用することで菌体の活用はできるものの、使用が限定されるため、実用面で欠点がある。
【0010】
この欠点は、発酵飲食品の製造に用いるための酵母菌体の調製、つまり、スクロース非発酵性酵母を培養して大量に菌体を取得する際にも多大な影響を及ぼす。酵母を培養する場合、培地に炭素源を供給することは言うまでもないが、スクロース非発酵性酵母では、スクロースを資化する能力を持たないため、炭素源にスクロースを用いることができない。工業的に酵母を大量培養する場合、炭素源として安価な廃糖蜜を用いることが主流であるが、廃糖蜜の糖分の主体はスクロースであるため、スクロース非発酵性酵母の培養には同様に用いることができない。
【0011】
このように、実用化には課題があるもののハンセニアスポラ属の酵母は、発酵飲食品の製造において、優れた風味を醸し出すことが報告されており、つまり、従来にない風香味を醸成するために、サッカロマイセス属以外の属の酵母に着目し活用することができる。これらの属にはスクロース非発酵性酵母が存在し、その特徴的な発酵特性により従来品との差別化を図ることへの期待が持てる。しかし一方で、スクロース非発酵性酵母を活用する場合、具体的には、菌体の培養、及びその培養で得られた菌体を用いた発酵飲食品の製造においては、菌株の炭素源及び糖源として、食品製造業界で一般的に用いられるスクロースを適用することが求められる。
【0012】
これまでに、炭素源として廃糖蜜を用いて、サッカロマイセス・セレビシエであるスクロース非発酵性パン酵母を培養する方法として、同属種のスクロース発酵性パン酵母と混合培養する技術が開発されている(特許文献4)。この技術は、スクロース発酵性酵母の有するインベルターゼ活性を利用してスクロースを酵素分解し、転化糖となった単糖をスクロース非発酵性酵母が資化可能とする方法である。しかし、その目的は、スクロースの代替にフラクトオリゴ糖を糖源に用いたフラクトオリゴ糖含有パンの製造に限定されている。パン酵母によるフラクトオリゴ糖の分解を最小限に留めるため、インベルターゼ活性が非常に低く抑えられている。よって、該混合培養菌体は、本願発明で要求するインベルターゼ活性のレベルではなく、スクロースの発酵は十分ではなく、スクロースを糖源として発酵させる発酵飲食品の製造に適用することができない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開2019-088199号公報
【特許文献2】特開2019-33737号公報
【特許文献3】特開2020-191800号公報
【特許文献4】特開昭62-220185号公報
【非特許文献】
【0014】
【非特許文献1】Frontiers in Microbiology, 8, 532, 2017
【非特許文献2】Journal of Agricultural and Food Chemistry, 64, 4574-4583, 2016; Frontiers in Microbiology, 7, 338, 2016
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明は、様々な発酵飲食品、特にパン類、その他ワイン、清酒、焼酎、ビールなどの製造に使用することで従来にない特徴的な優れた風香味を備えた製品が得られることを特徴とする、スクロース非発酵性酵母とスクロース発酵性酵母の混合菌体に関するもので、スクロースを炭素源として混合菌体を培養する方法、及びスクロースを糖源としてその混合培養菌体により発酵飲食品、特にパン類を製造する方法に関する技術である。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記の目的を達成するためには、サッカロマイセス属以外の属の酵母でスクロース非発酵性酵母、特にハンセニアスポラ属の酵母と、スクロース発酵性のサッカロマイセス属の酵母を混合培養した菌体を様々な発酵飲食品の製造に適用すればよい。本発明者は、これらの点について鋭意研究した結果、スクロースを資化しないハンセニアスポラ属の酵母、特にハンセニアスポラ・ビネエの培養において、炭素源として一般的に用いられるスクロースを使用し、スクロース発酵性のサッカロマイセス属の酵母と特定範囲の接種比率で混合して混合培養する方法、及びその結果、特定範囲の存在比率となる混合培養菌体によるスクロースを糖源として用いた発酵飲食品の製法を確立し、本発明を完成させた。
【0017】
すなわち、本発明の実施形態は次の通りである。
(1) 炭素源としてスクロースを含む培地を用いてスクロース非発酵性酵母を培養するに際し、サッカロマイセス属に属するスクロース発酵性酵母を混合培養することを特徴とする酵母の培養方法。
(2) 前記スクロース非発酵性酵母がサッカロマイセス属以外の属に属する酵母であることを特徴とする(1)に記載の酵母の培養方法。
(3) 前記スクロース発酵性酵母がサッカロマイセス・セレビシエ、サッカロマイセス・バヤヌス、サッカロマイセス・バヤヌス・バー・ウバルム、サッカロマイセス・ミカタエ、サッカロマイセス・パラドクサス、サッカロマイセス・アルボリコラ、サッカロマイセス・パストリアヌス、サッカロマイセス・クドリアフゼビイ、サッカロマイセス・ユーバヤヌスの少なくとも1であることを特徴とする(1)又は(2)に記載の酵母の培養方法。
(4) 前記スクロース非発酵性酵母がハンセニアスポラ属に属することを特徴とする(1)乃至(3)のいずれか1に記載の酵母の培養方法。
(5) 前記スクロース非発酵性酵母が、ハンセニアスポラ・ビネエであることを特徴とする(1)乃至(3)のいずれか1に記載の培養方法。
(6) 前記スクロース非発酵性酵母と、前記サッカロマイセス属に属するスクロース発酵性酵母の培養において、培養開始時の前記スクロース非発酵性酵母と前記スクロース発酵性酵母の種培養液(定常期まで培養した菌体液)の容量での接種比率が、70~99.9:0.1~30となることを特徴とする(5)に記載の培養方法。
(7) 前記スクロース非発酵性酵母と、サッカロマイセス属に属するスクロース発酵性酵母の培養において、培養開始時の前記スクロース非発酵性酵母と前記スクロース発酵性酵母の種培養液(定常期まで培養した菌体液)の容量での接種比率が、90~99:1~10となることを特徴とする(5)に記載の培養方法。
(8) 前記スクロース非発酵性酵母が、TW15株(NITE P-02881)であることを特徴とする(1)乃至(3)、(6)又は(7)のいずれか1に記載の培養方法。
(9) スクロース非発酵性酵母と、サッカロマイセス属に属するスクロース発酵性酵母からなる混合菌体。
(10) 前記スクロース非発酵性酵母がサッカロマイセス属以外の属に属する酵母であることを特徴とする(9)に記載の混合菌体。
(11) 前記スクロース発酵性酵母がサッカロマイセス・セレビシエ、サッカロマイセス・バヤヌス、サッカロマイセス・バヤヌス・バー・ウバルム、サッカロマイセス・ミカタエ、サッカロマイセス・パラドクサス、サッカロマイセス・アルボリコラ、サッカロマイセス・パストリアヌス、サッカロマイセス・クドリアフゼビイ、サッカロマイセス・ユーバヤヌスの少なくとも1であることを特徴とする(9)又は(10)に記載の混合菌体。
(12) 前記スクロース非発酵性酵母がハンセニアスポラ属に属することを特徴とする(9)乃至(11)のいずれか1に記載の混合菌体。
(13) 前記スクロース非発酵性酵母が、ハンセニアスポラ・ビネエであることを特徴とする(9)乃至(11)のいずれか1に記載の混合菌体。
(14) 前記ハンセニアスポラ属に属するスクロース非発酵性酵母と、サッカロマイセス属に属するスクロース発酵性酵母の混合菌体であって、該混合菌体の全菌体数における前記スクロース非発酵性酵母の菌体数の存在比率が、50~95%となることを特徴とする(13)に記載の混合菌体。
(15) 前記スクロース非発酵性酵母と、サッカロマイセス属に属するスクロース発酵性酵母の混合菌体であって、該混合菌体の全菌体数における前記スクロース非発酵性酵母の菌体数の存在比率が、80~92%となることを特徴とする(13)に記載の混合菌体。
(16) 前記スクロース非発酵性酵母が、TW15株(NITE P-02881)であることを特徴とする(9)乃至(11)、(15)又は(16)のいずれか1に記載の混合菌体。
(17)(1)乃至(16)のいずれか1に記載の菌体を使用することを特徴とする、発酵飲食品の製造方法。
(18)(1)乃至(16)のいずれか1に記載の菌体を使用し、かつ、糖源としてスクロースを用いることを特徴とする、発酵飲食品の製造方法。
(19) 前記発酵飲食品がパン類であることを特徴とする(17)又は(18)のいずれか1に記載の製造方法。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、サッカロマイセス属以外の属の酵母でスクロース非発酵性の酵母、特にハンセニアスポラ属と、スクロース発酵性のサッカロマイセス属の酵母を特定範囲の接種比率にて、スクロースを炭素源とした培地で混合培養し、その結果、特定範囲の存在比率となる混合培養菌体を発酵飲食品、特にパン類などの製造に使用することにより、従来にない特徴的な風香味の優れたパン類等を製造することが可能となる。すなわち、スクロース非発酵性酵母の特徴的な発酵特性を発酵飲食品の製造に利用することにより、従来にない差別化された製品を得ること、さらには、該スクロース非発酵性酵母の培養における炭素源、及びその培養菌体を利用した発酵飲食品の製造における糖源として、一般的に利用されるスクロースに適用する方法を提供することにある。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】TW15株の26S rDNA-D1/D2領域(570塩基)の配列と、ホモロジー検索により検出されたハンセニアスポラ・ビネエ CBS 2171(日本DNAデータバンク アクセッション番号KY107860)の配列を比較した図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明は、スクロース非発酵性酵母、特にハンセニアスポラ属の酵母による従来にない特徴的な風香味を備えた発酵飲食品、特にパン類を製造するものである。その手段として、スクロースを炭素源としてスクロース非発酵性酵母とスクロース発酵性酵母を特定範囲の比率で接種して混合培養し、その結果、特定範囲の存在比率で得られる混合培養菌体についてスクロースを糖源に用いて、発酵飲食品、特にパン類を製造する技術である。ここで、菌体の培養、及び発酵飲食品の製造におけるスクロース非発酵性酵母の具体的な作用としては、スクロース発酵性酵母の有するインベルターゼによって供給された糖源をもとに発酵が生じるものである。スクロース非発酵性酵母の特徴を最大限生かすためには、サッカロマイセス属以外のスクロース非発酵性酵母の存在比率を高めることが望ましいが、当該菌株が利用できる充分量の糖源を供給するためには、インベルターゼ活性を備えるスクロース発酵性酵母の特定の比率での存在が必要となる。
【0021】
すなわち、培養工程においては、スクロース非発酵性酵母とスクロース発酵性酵母を適宜混合して接種し、スクロースを炭素源とした培地で培養すると、スクロース発酵性酵母の有するインベルターゼによって、スクロースはグルコースとフラクトースに分解され、これを利用してスクロース発酵性酵母のみならず、スクロース非発酵性酵母も増殖できる。また、スクロースを糖源として用いた当該混合培養菌体による発酵飲食品の製造工程においては、同様にスクロース発酵性酵母の有するインベルターゼによって供給された糖源をもとにスクロース非発酵性酵母の発酵が生じる。
【0022】
換言すると、スクロース非発酵性酵母によって発酵飲食品への特徴的な風香味を醸成するためには、スクロースを炭素源(又は糖源)とする培養工程及び発酵飲食品の製造工程において、スクロース発酵性酵母のインベルターゼ活性が必須となる。さらには、該スクロース非発酵性酵母による発酵を最大限引き出すためには、スクロース非発酵性酵母の比率を高めつつも、該スクロース非発酵性酵母の発酵に必要な糖源を供給できる適度のインベルターゼ活性を確保することが必要となる。そのためには、スクロース発酵性酵母を最小限の比率で存在させることが不可欠となり、両菌株の存在比率を適度の範囲に調整する必要がある。
【0023】
本発明の目的を達成するための指標となる「インベルターゼ活性」とは、本培養菌体を対象として、実施例1及び実施例3に記載の方法により測定された値をいう。そして、本発明における「インベルターゼ活性を備えない」、「スクロース非発酵性」とは、インベルターゼ活性が0単位であることのみならず、70単位未満であることも含まれる。
【0024】
発酵飲食品の製造において一般的に用いられるサッカロマイセス属とは異なる特徴的な発酵特性を備えており、本発明で用いられるスクロース非発酵性酵母は、インベルターゼ活性を備えない酵母であれば特に限定されないが、ワイン醸造や発酵もろみの製造で使用実績のあるハンセニアスポラ属の酵母を好適に用いることができる。例えば、ハンセニアスポラ・ビネエ(Hanseniaspora vineae)、ハンセニアスポラ・ウバラム(Hanseniaspora uvarumu)、ハンセニアスポラ・オシデンタリス(Hanseniaspora occidentalis)、ハンセニアスポラ・オシデンタリス(Hanseniaspora occidentalis)などが挙げられ、特に2016年10月北海道中川郡池田町で採取した山幸ブドウから分離したハンセニアスポラ・ビネエ TW15株を好適に用いることができる。
【0025】
なお、ハンセニアスポラ・ビネエ TW15株は、独立行政法人 製品評価技術基盤機構 特許微生物寄託センター(日本国千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8 122号室)に、NITE P-02881として寄託されている。
【0026】
ハンセニアスポラ・ビネエ TW15株は、発酵飲食品、特にパン類の製造において、従来にない特徴的な風香味を醸成する特性を備え、かつ、以下に示すような菌体学的性質を有する。
【0027】
(A)形態学的性質
YPD液体培地(乾燥酵母エキス1.0%、ハイポリペプトン2.0%、グルコース 2.0%)で30℃、1日間培養したときの細胞はレモン形または楕円形で、大きさは4~6 μm × 8~13μmで、両極出芽する。また、YPD寒天培地で30℃、1日間培養したときのコロニーは淡褐色で、光沢がある。
(B)生理的性質
温度20~30℃で生育する。
(C)糖の発酵性
【表1】
(D)炭素源の資化性
【表2】
(E)26S rDNA-D1/D2領域の塩基配列
26S rDNA-D1/D2領域(570塩基)の配列を決定し、その情報をインターネット上のBLASTプログラムに入力してホモロジー検索を行うと、ハンセニアスポラ・ビネエ CBS 2171の配列(日本DNAデータバンク アクセッション番号KY107860)と完全に一致した。
【0028】
本発明で用いられるサッカロマイセス属に属する酵母は、インベルターゼ活性を備える酵母であれば特に限定されず、市販のパン酵母をはじめ、サッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)、サッカロマイセス・バヤヌス(Saccharomyces bayanus)、サッカロマイセス・バヤヌス・バー・ウバルム(Saccharomyces bayanus var. uvarum)、サッカロマイセス・ミカタエ(Saccharomyces mikatae)、サッカロマイセス・パラドクサス(Saccharomyces paradoxus)、サッカロマイセス・アルボリコラ(Saccharomyces arboricola)、サッカロマイセス・パストリアヌス(Saccharomyces pastorianus)、サッカロマイセス・クドリアフゼビイ(Saccharomyces kudriavzevii)、サッカロマイセス・ユーバヤヌス(Saccharomyces eubayanus)などを好適に用いることができる。例えば、スクロースを資化するインベルターゼ活性を備えるNBRC2044、MPイースト(商品名:ニッテンMPイースト,日本甜菜製糖株式会社製品)などが挙げられる。なお、NBRC菌株はNBRC(独立行政法人製品評価技術基盤機構 バイオテクノロジーセンター)の保管菌株である。
【0029】
本発明における混合酵母の培養は、炭素源として一般的に用いられるスクロースの利用を必須とすることを除き、通常の酵母の培養条件、すなわち窒素源、無機物、アミノ酸、ビタミン等を含有する培地中で、好気的条件下、温度25~35℃で培養することができる。
【0030】
ここで、「炭素源としてスクロースを含む(例えば、培地)」、「スクロースを炭素源とした(例えば、培養)」などの記載における「炭素源」は、スクロースを含むものであれば特に限定はなく、スクロースの他にショ糖シロップ、砂糖製糖工程汁(ビート糖などの砂糖の製糖工程における温水浸出汁、カーボネーション後汁、貯蔵糖蜜、イオン交換クロマト廃液、廃糖蜜など)、甜菜糖蜜、及び甘蔗糖蜜など、並びにこれらを組み合わせて適宜適用することができる。
【0031】
窒素源としては、アンモニア、塩化アンモニウム、硫酸アンモニウム、炭酸アンモニウム、酢酸アンモニウム、尿素、酵母エキス、バクト酵母エキス、バクトペプトン、コーン・スチープ・リカー等が挙げられる。
【0032】
無機物としては、リン酸マグネシウム、リン酸カリウム、リン酸水素二カリウム、硫酸マグネシウム水和物等が、アミノ酸としてはグルタミン酸等が、ビタミンとしては、パントテン酸、チアミン等、その他消泡剤としては、アデカノールLG-294(株式会社ADEKA製品)等が挙げられる。
【0033】
培養は、振盪培養、旋回振盪培養、往復振盪培養、流加培養、通気攪拌培養、静置培養を適用することができる。培養時間は、培養スケールによっても異なるが、3時間~72時間程度である。
【0034】
混合培養において、各酵母菌体は種培養液の状態で特定範囲の接種比率(容量比で示す)にて培地中に接種される。種培養液は、生育が定常期に達した菌体液であり、各酵母菌体を種培地(酵母エキス1.0%、ポリペプトン2.0%、グルコース2.0%)などで28~30℃、振盪速度100~150rpm、24~48時間振盪培養することで得られる。
【0035】
次に、培養完了時の各菌株の存在比率(菌体数で示す)は、培養開始時にスクロース発酵性酵母を特定範囲の比率で接種する場合は、培養開始時の種培養液の容量での接種比率との間で大きな変動は生じない。すなわち、培養完了時の混合培養菌体における各酵母の菌体数で示す存在比率は、スクロース非発酵性酵母の増殖に必要な炭素源を供給できる一定量のインベルターゼ活性があれば、培養開始時に種培養液の状態で接種した比率をおおよそ維持できる。具体的には、培養開始時にスクロース発酵性酵母を種培養液の接種比率で、0.1~30.0%の容量比で接種する場合は、混合培養の完了時における両菌株の菌体数で示す存在比率に大きな変動が生じず、常にスクロース非発酵性酵母を高比率に培養できる。
【0036】
スクロースを糖源とした発酵飲食品、特にパンの製造において、発酵飲食品への特徴的な風香味を醸成するためには、サッカロマイセス属以外のスクロース非発酵性酵母、特にハンセニアスポラ属の酵母の存在比率を最大限高める必要がある。一方で、該スクロース非発酵性酵母の発酵に必要な糖源を供給するためには、混合培養菌体は一定量のインベルターゼ活性を備える必要があり、相互の作用が適度に調和した存在比率となる混合培養菌体を用いることで本発明の効果が得られる。ここで、本発明の効果を実現するために適した混合培養菌体を得るためには、培養開始時に培地へ接種する菌体の比率が特に重要となる。具体的には、本発明の効果を得るには、培養開始時に接種するスクロース非発酵性酵母の種培養液の容量での接種比率は、70.0~99.9%が好ましく、85.0~99.5%がより好ましくは、90.0~99.0%がさらに好ましい。
【0037】
そして、混合培養が完了した時点での混合培養菌体におけるサッカロマイセス属以外のスクロース非発酵性酵母の存在比率、すなわち発酵飲食品の製造に用いられる混合培養菌体中におけるスクロース非発酵性酵母の菌体数で示す存在比率は、50~95%が好ましく、70~94%がより好ましく、80~92%がさらに好ましい。
【0038】
本発明において、「スクロースを糖源とした(例えば、発酵飲食品の製造)」との記載は、糖源としてスクロースを全量用いることのみならず、糖源のうち少なくとも50重量%のスクロースを配合したものを用いることを意味する。スクロース以外の糖源として、グルコース、フルクトース、ガラクトース、ラクトース、ラフィノース、トレハロースなどを用いることができる。
【0039】
本発明において、「より良好な風香味のパン類」、「風香味の優れたパン類」とは、焼成後のパン類の香り、味の少なくとも1以上が市販パン酵母で作製した同種のパン類と同等以上であることを意味する。また、「総合評価が高いパン類」とは、焼成後のパン類の形状(内部形状を含む)、香り、味、焼色、色相の各項目を総合的に評価したものが市販パン酵母で作製した同種パン類よりも極めて優れていることを意味する。
【0040】
以下、本発明の実施例について述べるが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではなく、本発明の技術的思想内においてこれらの様々な変形が可能である。
【実施例0041】
ハンセニアスポラ・ビネエ TW15株と、サッカロマイセス・セレビシエ NBRC 2044について、スクロースを炭素源とした培地で混合培養し、その混合培養菌体を使用して食パンを製造して、それらの品質を比較した。
【0042】
(種培養)
各菌株を、それぞれ50ml三角フラスコ中のYPD培地(バクト酵母エキス 1.0%、ポリペプトン 2.0%、グルコース 2.0%)10mlに一白金耳を接種して、24時間、30℃、振盪速度150rpmで旋回振盪培養し、生育が定常期に達した種培養液を得た。
【0043】
(本培養)
これらの種培養液10 mlを4つの比率、すなわちTW15株:NBRC 2044=99.9:0.1, 99:1, 90:10, 0 :100で500mlバッフル付き三角フラスコ中の本培地{バクト酵母エキス 1.0%、バクトペプトン 2.0%、リン酸二水素カリウム 0.2%、硫酸マグネシウム七水和物 0.1%、アデカノールLG-294(株式会社ADEKA製品) 0.05%、スクロース 2.0%}100mlにそれぞれ接種して24時間、30℃、振盪速度150rpmで旋回振盪培養することにより、菌体懸濁液(混合培養菌体)を得た。また、混合培養菌体におけるTW15株の存在比率は、顕微鏡観察で細胞形態から識別して菌体数により調べた。なお、培養菌体の固形分は約30%になるが、一部を乾燥させて正確な数値を算出し、実施例1と実施例2では固形分33%に換算した重量として使用した。
【0044】
(インベルターゼ活性の測定)
菌体懸濁液(200mg/ml)を対象に、次の方法でインベルターゼ活性を測定した。100 mM 酢酸緩衝液(pH5.0)に187.5mMスクロースを含む基質溶液を0.20mlずつ試験管(1.6×12cm)に分注した。基質溶液及び菌体懸濁液を30℃に約10分保温しておき、菌体懸濁液0.05mlを添加して、30℃、3分間反応させた。DNS試薬(3,5-ジニトロサリチル酸 1.0%、水酸化ナトリウム 1.7%、酒石酸ナトリウムカリウム 30%)0.25mlを添加して反応を停止させた。その後、沸騰水中で5分間加熱し、冷却後、蒸留水5mlを添加し、A535を測定した。標準曲線は、グルコースで作成した。本条件で1分間当たり、1mg(乾燥菌体換算)の酵母菌体が、1nmolの転化糖を生成する活性を1単位とした。
【0045】
培養の結果を下記表3に示す。NBRC 2044の種培養液の容量での接種比率の増加に伴ってインベルターゼ活性及び菌体収量は上昇し、TW15株の菌体数で示す存在比率は低下する傾向がみられたが、80%以上の高存在比率が達成できた。また、菌体収量はTW15株の種培養液の容量での接種比率が90%でNBRC 2044のみで培養したときと同等となった。
【0046】
【表3】
【実施例0047】
(パン品質確認試験)
実施例1で得られた4つの接種比率で培養した各培養菌体を用いて作製した食パンの品質を比較確認するため、以下の試験を実施した。
【0048】
小麦粉(強力)250g、バター 10.0g、スクロース 17.0g、スキムミルク6.0g、食塩5.0g、酵母培養菌体7.0g(固形分33%)、蒸留水 170mlをホームベーカリーSD-BMT1000(パナソニック株式会社製品)に投入し、食パンモード(所要時間:約4時間)で焼成までの工程を自動で行った。焼成したパンは室温で放冷後、重量と容積を測定して比容積(ml/g)を算出した。さらに、これらはポリ袋に入れて室温で一日保存し、ボリューム、形状、焼色、内部形状、やわらかさ、色相、香り及び味を3段階(非常に良好:◎、良好:〇、やや劣る:△)で評価した。
【0049】
その結果を下記表4に示す。種培養液の容量での接種比率TW15株:NBRC 2044= 0 :100で培養した菌体と比較して、接種比率TW15株:NBRC 2044=99:1及び 90:10でつくったパンはすべての項目で同等またはそれ以上の評価であり、総合評価が高いものであった。接種比率TW15株:NBRC 2044=99:1でつくったパンは特に香りと味の項目で顕著に優れていた。接種比率TW15株:NBRC2044=99.9:0.1の場合も、香りと味が良好であった。
【0050】
【表4】
【実施例0051】
より実用的なスクロースを糖分の主体とする廃糖蜜を炭素源とした培地を用いて、ハンセニアスポラ・ビネエ TW15株の単独培養、及びハンセニアスポラ・ビネエ TW15株と、市販パン酵母菌株(MPイースト;日本甜菜製糖株式会社製品)の混合培養を行い、菌体収量を調べるとともに、培養菌体を使用してインベルターゼ活性を測定した。
【0052】
(種培養)
各菌株を、それぞれ50ml容三角フラスコ中のYPD培地(バクト酵母エキス 1.0%、バクトポリペプトン 2.0%、グルコース 2.0%)10mlに一白金耳を接種して、48時間、28℃、振盪速度100rpmで往復振盪培養し、生育が定常期に達した種培養液を得た。
【0053】
(前培養)
これらの種培養液10 mlを用い、2つの比率、すなわちTW15株:MPイースト=100:0, 99:1となる様、500ml容丸底フラスコ中の糖蜜培地1{混合糖蜜(輸入甘蔗糖と国産甜菜糖蜜を適宜混合し、発酵性糖分量34%、Bx43に調整)33g、硫酸アンモニウム 0.3%、尿素 0.2%、リン酸二水素カリウム 0.08%、硫酸マグネシウム七水和物 0.08%、バクト酵母エキス 1.0%}200mlにそれぞれ接種して48時間、28℃、振盪速度100rpmで往復振盪培養した。つまり、TW15株:MPイースト=100:0では、10ml:0ml、また99:1では、9.9ml:0.1mlの種培養液の接種量である。得られた培養液を2L容ジャーファーメンター中の糖蜜培地2{混合糖蜜(輸入甘蔗糖と国産甜菜糖蜜を適宜混合し、発酵性糖分量34%、Bx43に調整)380g、硫酸アンモニウム 0.7%、リン酸二水素アンモニウム 0.07%}1Lに全量接種して、13時間、26℃、通気量1vvmで通気培養を行った。次に、この培養液を10L容ジャーファーメンターに全量移して、30℃、通気量1vvm、撹拌数450rpmで18時間、バッチ式の流加培養を行った。炭素源は混合糖蜜 2423gを分割して供給し、窒素源は尿素60g、無機塩はリン酸二水素アンモニウム37.5gを添加した。培養終了後、遠心分離により菌体を回収し、無菌水にて2回洗浄した本培養の種菌を得た。
【0054】
(本培養)
前培養で得られた単独培養または混合培養の種菌を用いて2L容ジャーファーメンターにて、30℃、pH3~7、通気量1vvm、撹拌数800rpmで12時間、バッチ式の流加培養を行った。初発種菌量は、10g(乾燥菌体換算)とし、炭素源は混合糖蜜 224.6gを分割して供給し、窒素源は尿素4.0g、無機塩はリン酸二水素アンモニウム1.0g、硫酸マグネシウム七水和物0.6g、硫酸亜鉛6.0mgを添加した。培養終了後、遠心分離により菌体を回収し、洗浄した本培養菌体を得た。また、培養菌体におけるTW15株の存在比率は、培養終了後の培養液を一部採取し、顕微鏡観察で細胞形態からTW15及びMPイーストを識別して菌体数により調べた。
【0055】
培養の結果を下記表5に示す。単独培養の菌体収量は9.4g(乾燥菌体)/L培養液、混合培養の菌体収量は32.3g(乾燥菌体)/L培養液となり、混合培養によって菌体収量が3.4倍に増加した。また、混合培養では、本培養終了時にTW15の存在比率が81%となり、糖蜜を炭素源とし、かつ、MPイーストを用いた混合培養においても、TW15の存在比率を高水準で維持されていた。さらには、単独培養では遠心分離で回収した菌体には、製造に悪影響を及ぼす可能性がある凝集性があったが、混合培養では見られず、混合培養によって菌液の性状が良好になった。
【0056】
【表5】
【0057】
(インベルターゼ活性の測定)
本培養により得られた菌体を対象に、実施例1の方法でインベルターゼ活性を測定した。
【0058】
結果を下記表6に示す。混合培養菌体(接種比率TW15株:MPイースト=99:1で培養した菌体)のインベルターゼ活性は、単独培養菌体(接種比率TW15株:MPイースト= 100 :0で培養した菌体)と比較して約80倍増加し、実用的なレベルになった。
【0059】
【表6】
【実施例0060】
(パン生地発酵力確認試験)
実施例3で得られた2つの接種比率で培養した各培養菌体について、パン生地発酵力を比較確認するため、以下の試験を実施した。
【0061】
(実験1) 無糖生地発酵力
小麦粉(強力)100g、NaCl 2.0gを含む水 50mlと、酵母培養菌体2.0g(固形分33%)を含む懸濁液15mlを2分間混捏した。調製した無糖生地33.8gを計測瓶に詰め、ファーモグラフにて、30℃で100分間、5分毎に発生する炭酸ガス発生量を測定した。そして、発酵開始後60分までの炭酸ガス発生量と、発酵開始後60分から100分までの炭酸ガス発生量のそれぞれを比較した。
【0062】
(実験2) スクロース5%低糖生地発酵力
小麦粉(強力)100g、スクロース 5.0gとNaCl 2.0gを含む水50mlと、酵母培養菌体2.0g(固形分33%)を含む懸濁液12mlを2分間混捏した。調製した無糖生地34.2gを計測瓶に詰め、ファーモグラフにて、30℃で140分間、5分毎に発生する炭酸ガス発生量を測定した。そして、発酵開始後60分までの炭酸ガス発生量と、発酵開始後60分から100分までの炭酸ガス発生量と、発酵開始後100分から140分までの炭酸ガス発生量のそれぞれを比較した。
【0063】
(実験3) スクロース30%高糖生地発酵力
小麦粉(強力)100g、スクロース 30gとNaCl 0.5gを含む水40mlと、酵母培養菌体3.0g(固形分33%)を含む懸濁液12mlを2分間混捏した。調製した無糖生地37.1gを計測瓶に詰め、ファーモグラフにて、30℃で80分間、5分毎に発生する炭酸ガス発生量を測定した。
【0064】
実験1~3の結果を下記表7に示す。単独培養菌体(接種比率TW15株:MPイースト= 100 :0で培養した菌体)を使用した場合と比較して、市販パン酵母菌株との混合培養菌体(接種比率TW15株:MPイースト=99:1で培養した菌体)の試験区は、各糖濃度の生地中での炭酸ガスの発生量が、約10~15倍に増加し、優れた発酵性を示し、実用性が確認された。
【0065】
【表7】
【0066】
本発明を要約すれば、以下の通りである。
【0067】
本発明は、サッカロマイセス属以外の酵母でスクロース非発酵性の酵母、特にハンセニアスポラ属と、スクロース発酵性のサッカロマイセス属の酵母を特定範囲の比率にて、スクロースを炭素源として混合培養し、その培養菌体を発酵飲食品、特にパン類の製造に使用することにより、従来にない特徴的で優れた風香味の発酵飲食品を製造することが可能となる。
【受託番号】
【0068】
本発明において寄託されている微生物の受託番号を下記に示す。
(1) ハンセニアスポラ・ビネエ(Hanseniaspora vineae) TW15株(NITE P-02881)。
図1