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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022106730
(43)【公開日】2022-07-20
(54)【発明の名称】放射線治療のためのバイオマーカー
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/6851 20180101AFI20220712BHJP
   A61N 5/10 20060101ALI20220712BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20220712BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20220712BHJP
   A61K 41/00 20200101ALI20220712BHJP
   C12Q 1/6813 20180101ALI20220712BHJP
   C12Q 1/6837 20180101ALI20220712BHJP
   C12Q 1/686 20180101ALI20220712BHJP
   C12Q 1/6869 20180101ALI20220712BHJP
   C12Q 1/02 20060101ALI20220712BHJP
   G01N 33/53 20060101ALI20220712BHJP
   G01N 33/68 20060101ALI20220712BHJP
【FI】
C12Q1/6851 Z
A61N5/10 M ZNA
A61P35/00
A61K45/00
A61K41/00
C12Q1/6813 Z
C12Q1/6837 Z
C12Q1/686 Z
C12Q1/6869 Z
C12Q1/02
G01N33/53 M
G01N33/68
【審査請求】有
【請求項の数】17
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2022062336
(22)【出願日】2022-04-04
(62)【分割の表示】P 2019031738の分割
【原出願日】2014-03-14
(31)【優先権主張番号】61/800,011
(32)【優先日】2013-03-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】500414202
【氏名又は名称】ヴァリアン メディカル システムズ インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 さつき
(74)【代理人】
【識別番号】100111796
【弁理士】
【氏名又は名称】服部 博信
(72)【発明者】
【氏名】パリー レナーテ
(57)【要約】      (修正有)
【課題】対象における腫瘍または癌を診断及び治療するのに有用なバイオマーカー及びバイオマーカーの発現水準を基にした治療を必要とする対象を診断または識別する方法の提供。
【解決手段】電離放射線を用いた治療のための候補としての対象を識別する方法であって、
(a)前記対象由来の腫瘍検体における2つ以上のバイオマーカーの発現水準を判定し、この中で、前記1つ以上のバイオマーカーは、CD44、MMP9、ALDH1A1、ビメンチン、ヒアルロナン、βカテニン、MFG-E8及びCD68からなる群から選択されること、
(b)前記2つ以上のバイオマーカーの発現水準を正常組織検体における発現水準と比較することと
を含み、この中で、前記正常組織検体における発現水準と比較して改変される腫瘍検体における前記2つ以上のバイオマーカーの発現水準は、電離放射線を用いた治療のための候補としての対象を識別する、前記方法である。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象における腫瘍を治療するための方法であって、CD44、MMP9、ALDH1A1、ビメンチン、ヒアルロナン、βカテニン、MFG-E8及びCD68からなる群から選択されるバイオマーカーの水準が腫瘍環境において改変される場合、標準的な放射線治療プロトコルを改変することを含む、前記方法。
【請求項2】
バイオマーカーCD68の水準が前記腫瘍環境において高くなっている、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
バイオマーカーCD44の水準が前記腫瘍環境において高くなっている、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記腫瘍環境においてバイオマーカーCD44の水準が高くなっておりかつMFG-E8の水準が低くなっている、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記標準的な放射線治療プロトコルは、前記腫瘍へ投与された電離放射線の線量を上げることによって改変される、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記標準的な放射線治療プロトコルは、少分割照射によって改変される、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記標準的な放射線治療プロトコルは、多分割照射によって改変される、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記治療はさらに、抗癌薬を前記対象へ投与することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記抗癌薬は、化学療法薬、放射線増感剤、または免疫調節薬である、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
TGF-β阻害薬を前記対象へ投与することをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記TGF-β阻害薬は、TGF-βの機能を中和または阻害する抗体または小分子である、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記TGF-β阻害薬はTGF-βの生成を阻害する、請求項10に記載の方法。
【請求項13】
腫瘍を治療することを必要とする対象における腫瘍を治療するための方法であって、
(a)前記対象由来の腫瘍検体における2つ以上のバイオマーカーの発現水準を判定し、この中で、前記2つ以上のバイオマーカーは、CD44、MMP9、ALDH1A1、ビメンチン、ヒアルロナン、βカテニン、MFG-E8及びCD68からなる群から選択されること、
(b)前記2つ以上のバイオマーカーの発現水準を正常組織検体における発現水準と比較すること、ならびに
前記2つ以上のバイオマーカーの発現水準が前記正常組織検体における発現水準と比較して改変された場合、前記腫瘍を治療すること
を含む、前記方法。
【請求項14】
正常組織検体における発現水準と比較して、前記バイオマーカーのうちの少なくとも1つの発現水準が高くなっている場合、または前記バイオマーカーのうちの少なくとも1つの発現水準が低くなっている場合、または前記バイオマーカーのうちの少なくとも1つの発現水準が高くなっておりかつ前記バイオマーカーのうちの少なくとも1つの発現水準が低くなっている場合、前記2つ以上のバイオマーカーの発現水準が改変される、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記治療は、電離放射線を前記腫瘍へ投与することを含む、請求項13に記載の方法。
【請求項16】
前記治療はさらに、前記腫瘍を放射線増感剤と接触させることを含む、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記治療はさらに、TGF-βシグナル伝達を阻害する化合物を前記対象へ投与することを含む、請求項15に記載の方法。
【請求項18】
前記腫瘍検体は、腫瘍細胞を含む生検である、請求項13に記載の方法。
【請求項19】
前記バイオマーカーは、遺伝子、RNA、タンパク質である、請求項13に記載の方法。
【請求項20】
前記発現水準は、RNA及び/またはタンパク質の発現を検出することによって判定される、請求項13に記載の方法。
【請求項21】
前記検出することは、免疫組織化学的方法、ELISA、ウェスタン分析、HPLC、プロテオミクス、PCR、RT-PCR、ノザン分析、及び核酸またはポリペプチドのマイクロアレイからなる群から選択される、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
前記正常組織検体は、前記腫瘍と同じ組織型由来の非腫瘍細胞を含む、請求項13に記載の方法。
【請求項23】
前記2つ以上のバイオマーカーの発現水準はランク分けまたは重み付けされる、請求項13に記載の方法。
【請求項24】
CD44、MMP9、ALDH1A1、ビメンチン、ヒアルロナン、βカテニン、MFG-E8及びCD68の各々の発現水準が判定される、請求項13に記載の方法。
【請求項25】
前記腫瘍検体由来の少なくとも1つの追加的なバイオマーカーの発現水準を判定することをさらに含む、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
前記2つ以上のバイオマーカーの発現水準が前記正常組織検体における同じバイオマーカーの発現水準と比較して改変される場合、既存の治療及び/または治療計画が改変される、請求項13に記載の方法。
【請求項27】
前記既存の治療及び/または治療計画は、前記腫瘍へ投与される電離放射線の有効線量を上げるかまたは下げるよう改変される、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
前記有効線量は、前記腫瘍へ投与される電離放射線の線量を上げること及び/または前記腫瘍を放射線増感剤と接触させることによって上がる、請求項27に記載の方法。
【請求項29】
電離放射線を用いた治療のための候補としての対象を識別する方法であって、
(a)前記対象由来の腫瘍検体における2つ以上のバイオマーカーの発現水準を判定し、この中で、前記1つ以上のバイオマーカーは、CD44、MMP9、ALDH1A1、ビメンチン、ヒアルロナン、βカテニン、MFG-E8及びCD68からなる群から選択されること、
(b)前記2つ以上のバイオマーカーの発現水準を正常組織検体における発現水準と比較することと
を含み、この中で、前記正常組織検体における発現水準と比較して改変される腫瘍検体における前記2つ以上のバイオマーカーの発現水準は、電離放射線を用いた治療のための候補としての対象を識別する、前記方法。
【請求項30】
正常組織検体における発現水準と比較して、前記バイオマーカーのうちの少なくとも1つの発現水準が高くなっており、または前記バイオマーカーのうちの少なくとも1つの発現水準が低くなっており、または前記バイオマーカーのうちの少なくとも1つの発現水準が高くなっておりかつ前記バイオマーカーのうちの少なくとも1つの発現水準が低くなっている場合、前記2つ以上のバイオマーカーの発現水準は改変される、請求項29に記載の方法。
【請求項31】
前記2つ以上のバイオマーカーの発現水準は、ランク分けまたは重み付けされている、請求項29に記載の方法。
【請求項32】
前記バイオマーカーは、遺伝子、RNA、またはタンパク質である、請求項29に記載の方法。
【請求項33】
前記治療はさらに、前記腫瘍を放射線増感剤と接触させることを含む、請求項29に記載の方法。
【請求項34】
前記治療はさらに、TGF-βシグナル伝達を阻害する化合物を前記対象へ投与することを含む、請求項33に記載の方法。
【請求項35】
腫瘍を有する対象を治療する方法であって、
正常組織検体における発現水準と比較して改変された腫瘍検体における2つ以上のバイオマーカーの発現水準を有するものとして選択された対象へ、電離放射線を投与し、この中で、前記2つ以上のバイオマーカーは、CD44、MMP9、ALDH1A1、ビメンチン、ヒアルロナン、βカテニン、MFG-E8及びCD68からなる群から選択され、 それにより、前記対象における前記腫瘍を治療すること
を含む、前記方法。
【請求項36】
正常組織検体における発現水準と比較して、前記バイオマーカーのうちの少なくとも1つの発現水準が高くなっており、または前記バイオマーカーのうちの少なくとも1つの発現水準が低くなっており、または前記バイオマーカーのうちの少なくとも1つの発現水準が高くなっておりかつ前記バイオマーカーのうちの少なくとも1つの発現水準が低くなっている場合、前記2つ以上のバイオマーカーの発現水準が改変される、請求項35に記載の方法。
【請求項37】
前記バイオマーカーは、タンパク質またはRNAである、請求項35に記載の方法。
【請求項38】
前記治療はさらに、前記腫瘍を放射線増感剤と接触させることを含む、請求項35に記載の方法。
【請求項39】
前記治療はさらに、TGF-βシグナル伝達を阻害する化合物を前記対象へ投与することを含む、請求項35に記載の方法。
【請求項40】
腫瘍を有する対象のための治療を選択するための方法であって、
(a)前記対象由来の腫瘍検体における2つ以上のバイオマーカーの発現水準を判定し、この中で前記2つ以上のバイオマーカーは、CD44、MMP9、ALDH1A1、ビメンチン、ヒアルロナン、βカテニン、MFG-E8及びCD68からなる群から選択されること、
(b)前記2つ以上のバイオマーカーの発現水準を正常組織検体における発現水準と比較すること、ならびに
前記2つ以上のバイオマーカーの発現水準が前記正常組織検体における発現水準と比較して改変される場合、治療を選択すること
を含む、前記方法。
【請求項41】
正常組織検体における発現水準と比較して、前記バイオマーカーのうちの少なくとも1つの発現水準が高くなっており、または前記バイオマーカーのうちの少なくとも1つの発現水準が低くなっており、または前記バイオマーカーのうちの少なくとも1つの発現水準が高くなっておりかつ前記バイオマーカーのうちの少なくとも1つの発現水準が低くなっている場合、前記2つ以上のバイオマーカーの発現水準が改変される、請求項40に記載の方法。
【請求項42】
前記治療は、電離放射線を前記腫瘍へ投与することを含む、請求項40に記載の方法。
【請求項43】
前記治療はさらに、前記腫瘍を放射線増感剤と接触させることを含む、請求項42に記載の方法。
【請求項44】
前記治療はさらに、TGF-βシグナル伝達を阻害する化合物を前記対象へ投与することを含む、請求項42に記載の方法。
【請求項45】
CD44、MMP9、ALDH1A1、ビメンチン、ヒアルロナン、βカテニン、MFG-E8及びCD68からなる群から選択されるバイオマーカーの発現を検出することのできる試薬を含む、キット。
【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
関連特許出願の相互参照
本出願は、その全体が参照により組み込まれる2013年3月15日出願の米国仮特許出願第61/800,011号に対する優先権の利益を請求する。
【0002】
放射線治療を用いて個別に治療してもよい群へと患者を層別化するために医院で十分に有用であると立証された確証されたタンパク質署名は入手不可能である。多くの因子は、腫瘍の生物学的特徴を決定し、このようなものとして癌患者の予後及び生存結果に影響する。TGF-βは、正常組織の恒常性維持において重要であり、炎症及び免疫応答を調節し、かつ増殖及び分化を制御する多面的なサイトカインである。TGF-βは、高い運動性及び浸潤をもたらす過程である上皮間葉転換(EMT)を促進する上で重要であるようである。TGF-βのこれらの癌遺伝子特性により、いくつかのTGF-βシグナル伝達阻害薬が癌を治療するために前臨床試験及び臨床試験において存在する。放射線治療は癌療法の礎石である。TGF-βが電離放射線に応じて鍵となる役割を担っているという実質的な証拠がある。TGF-βは、照射された組織において活性化され、放射線誘発性線維症の発症における中心的な役割を担っている。
【発明の概要】
【0003】
本開示は、対象における腫瘍または癌を診断及び治療するのに有用なバイオマーカーを提供する。本開示はさらに、本明細書に説明される修飾された1つ以上のバイオマーカーの水準の改変(例えば、上昇または低下)を有する対象における腫瘍を治療する方法を提供する。いくつかの実施形態において、1つ以上のバイオマーカーの水準が高く、かつ別のバイオマイカーの水準が低い場合の腫瘍を治療するための方法が説明される。本開示はまた、本明細書に説明されるバイオマーカーの発現水準を基にした治療を必要とする対象を診断または識別する方法を提供する。いくつかの実施形態において、前記治療は、前記対象へ電離放射線を投与することを含む。
【0004】
一実施形態において、本明細書に説明される1つ以上のバイオマーカーの水準が腫瘍環境において改変され、前記腫瘍環境において電離放射線の線量が前記腫瘍環境におけるバイオマーカー(類)の水準を改変されていない対象に対するケアの標準と比較して高い場合、前記治療は、前記対象へ、高い線量の電離放射線を投与することを含む。あるいは、前記治療は、医薬として有効量の抗癌薬との併用で、ケアの標準と同じまたは類似の線量の電離放射線を投与することを含むことができる。例えば、いくつかの実施形態において、前記対象がすでに電離放射線による治療を受けている場合、腫瘍または対象へ投与される電離放射線の量は、現行の治療線量及び/または治療間隔で維持され、本明細書に説明される1つ以上のバイオマーカーの水準が腫瘍環境において改変された場合、抗癌薬が前記対象へ投与される。
【0005】
一態様において、前記方法は、本明細書に説明されるバイオマーカーの水準が腫瘍環境において改変された場合、標準的な放射線治療プロトコルを改変することを含む。いくつかの実施形態において、標準的な放射線治療プロトコルは、腫瘍へ投与された電離放射線の線量を高めることによって改変される。いくつかの実施形態において、標準的な放射線治療プロトコルは、電離放射線の線量の少分割照射または多分割照射によって改変される。いくつかの実施形態において、標準的な放射線治療プロトコルは、抗癌薬またはTGF-β阻害薬を対象へさらに投与することによって改変される。
【0006】
いくつかの実施形態において、前記方法は、CD44、MMP9、ALDH1A1、ビメンチン、ヒアルロナン、βカテニン、MFG-E8及びCD68からなる群から選択されるバイオマーカーの水準が腫瘍環境において改変された場合、標準的な放射線治療プロトコルを改変することを含む。バイオマーカーの水準は、前期水準が正常組織(すなわち、非罹患性)または対照組織におけるバイオマーカーの水準と比較して高い場合または低い場合に改変される。
【0007】
いくつかの実施形態において、前記方法は、CD68の水準が腫瘍環境において高い場合、標準的な放射線治療プロトコルを改変することを含む。いくつかの環境において、前記方法は、CD44の水準が腫瘍環境において高い場合、標準的な放射線治療プロトコルを改変することを含む。いくつかの実施形態において、前記方法は、腫瘍環境においてCD44の水準が高くかつMFG-E8の水準が低い場合、標準的な放射線治療プロトコルを改変することを含む。
【0008】
いくつかの実施形態において、標準的な放射線治療プロトコルは、腫瘍へ投与された電離放射線の線量を高めることによって改変される。いくつかの実施形態において、標準的な放射線治療プロトコルは、少分割照射によって改変される。いくつかの実施形態において、標準的な放射線治療プロトコルは、多分割照射によって改変される。
【0009】
いくつかの実施形態において、前記治療はさらに、抗癌薬を対象へ投与することを含む。いくつかの実施形態において、抗癌薬は化学療法薬、放射線増感剤、または免疫調節薬である。いくつかの実施形態において、前記治療はさらに、TGF-β阻害薬を対象へ投与することを含む。いくつかの実施形態において、TGF-β阻害薬は、TGF-β機能を中和または阻害する抗体または小分子である。いくつかの実施形態において、TGF-β阻害薬は、TGF-βの生成を阻害する。
【0010】
一実施形態において、前記方法は、
(i)高い線量の放射線を対象へ投与し、この中で、放射車線の線量は、腫瘍環境において高い水準のCD68を有していない対象へ投与される線量と比較して高いこと、または
(ii)医薬として有効量の抗癌薬と併用して、腫瘍環境において高い水準のCD68を有していない対象へ投与される線量と類似の線量の放射線を対象へ投与し、それにより対象における腫瘍を治療すること
を含む。
【0011】
一実施形態において、前記方法は、
(i)高い線量の放射線を対象へ投与し、この中で、放射線の線量は、腫瘍環境において高い水準のCD44を有していない対象へ投与される線量と比較して高いこと、または (ii)医薬として有効量の抗癌薬と併用して、腫瘍環境において高い水準のCD44を有していない対象へ投与される線量と類似の線量の放射線を対象へ投与し、それにより対象における腫瘍を治療すること
を含む。
【0012】
いくつかの実施形態において、本開示は、高い水準の1つ以上のバイオマーカー及び本明細書に説明される低い水準の別のバイオマーカーを有している対象における腫瘍鵜を治療するための方法を提供する。例えば、一実施形態において、腫瘍環境において高い水準のCD44及び低い水準のMFG-E8を有している対象における腫瘍を治療するための方法が説明されており、前記方法は、
(i)高い線量の放射線を対象へ投与し、この中で、放射線の線量は、腫瘍環境において高い水準のCD44及び低い水準のMFG-E8を有していない対象へ投与される線量と比較して高いこと、または
(ii)医薬として有効量の抗癌薬と併用して、腫瘍環境において高い水準のCD44及び低い水準のMFG-E8を有していない対象へ投与される線量と類似の線量の放射線を対象へ投与し、それにより対象における腫瘍を治療すること
を含む。
【0013】
いくつかの実施形態において、高い線量の放射線は、多分割照射様式で投与される。いくつかの実施形態において、高い線量の放射線は、少分割照射様式で投与される。
【0014】
いくつかの実施形態において、抗癌薬は、化学療法薬、放射線増感剤、または免疫調節薬である。いくつかの実施形態において、抗癌薬は、TGF-β機能を中和または阻害する抗体である。いくつかの実施形態において、抗癌薬は、TGF-β機能を中和または阻害する小分子である。いくつかの実施形態において、抗癌薬は、TGF-βの生成を阻害する。
【0015】
別の態様において、本開示は、腫瘍を治療する必要のある対象において前記腫瘍を治療するための方法を提供し、前記方法は、
(a)前記対象由来の腫瘍検体における2つ以上のバイオマーカーの発現水準を判定し、この中で前記2つ以上のバイオマーカーは、CD44、MMP9、ALDH1A1、ビメンチン、ヒアルロナン、βカテニン、MFG-E8、及びCD68からなる群から選択されること、
(b)前記2つ以上のバイオマーカーの発現水準を正常組織検体における発現水準と比較すること、ならびに
前記2つ以上のバイオマーカーの発現水準が、正常組織検体における発現水準と比較して改変された場合、腫瘍を治療すること
を含む。
【0016】
別の態様において、電離放射線を用いた治療のための候補としての対象を識別する方法が開示されており、前記方法は、
(a)前記対象由来の腫瘍検体における2つ以上のバイオマーカーの発現水準を判定し、この中で、前記1つ以上のバイオマーカーは、CD44、MMP9、ALDH1A1、ビメンチン、ヒアルロナン、βカテニン、MFG-E8、及びCD68からなる群から選択されること、ならびに
(b)前記2つ以上のバイオマーカーの発現水準を正常組織検体における発現水準と比較し、
この中で、前記正常組織検体における発現水準と比較して改変された前記腫瘍検体における前記2つ以上のバイオマーカーの発現水準は、電離放射線を用いた治療のための候補としての対象を識別すること
を含む。
【0017】
別の態様において、腫瘍を有する対象を治療する方法が開示されており、前記方法は、 電離照射線を、正常組織検体における発現水準と比較して改変された腫瘍検体における2つ以上のバイオマーカーの発現水準を有するものとして選択された対象へ投与し、それにより前記対象における前記腫瘍を治療し、
この中で、前記2つのバイオマーカーは、CD44、MMP9、ALDH1A1、ビメンチン、ヒアルロナン、βカテニン、MFG-E8、及びCD68からなる群から選択されること
を含む。
【0018】
別の態様において、腫瘍を有する対象のための治療を選択するための方法が開示されており、前記方法は、
(a)前記対象由来の腫瘍検体における2つ以上のバイオマーカーの発現水準を判定し、この中で、前記2つ以上のバイオマーカーは、CD44、MMP9、ALDH1A1、ビメンチン、ヒアルロナン、βカテニン、MFG-E8、CD68からなる群から選択されること、
(b)前記2つ以上のバイオマーカーの発現水準を正常組織検体における発現水準と比較すること、ならびに
前記2つ以上のバイオマーカーの発現水準が正常組織検体における発現水準と比較して改変された場合、治療を選択すること
を含む。
【0019】
前記方法において、前記2つ以上のバイオマーカーの発現水準は、正常組織検体における発現水準と比較して、前記バイオマーカーのうちの少なくとも1つの発現水準が高い場合、または前記バイオマーカーのうちの少なくとも1つの発現水準が低い場合、または前記バイオマーカーのうちの少なくとも1つの発現水準が高くかつ前記バイオマーカーのうちの少なくとも1つの発現水準が低い場合、改変される。
【0020】
先の態様において、前記治療は、電離放射線を腫瘍へ投与することを含む。いくつかの実施形態において、前記治療はさらに、腫瘍を放射線増感剤と接触させることを含む。一実施形態において、前記治療はさらに、TGF-βのシグナル伝達を阻害する化合物を対象へ投与することを含む。
【0021】
いくつかの実施形態において、腫瘍検体は、腫瘍細胞を含む生検である。一実施形態において、腫瘍は、肺癌腫瘍及び肺眼細胞を含む腫瘍検体である。いくつかの実施形態において、前記バイオマーカーは、遺伝子、RNA、細胞外マトリックス成分、またはタンパク質である。いくつかの実施形態において、前記バイオマーカーの発現水準は、RNA及び/またはタンパク質の発現を検出することによって判定される。例えば、発現水準は、免疫組織化学的方法、ELISA、ウェスタン分析、HPLC、プロテオミクス、PCR、RT-PCR、ノザン分析、及び/または核酸もしくはポリペプチドマイクロアレイによって検出することができる。
【0022】
いくつかの実施形態において、正常組織検体は、腫瘍と同じ組織型由来の非腫瘍細胞を含む。
【0023】
いくつかの実施形態において、前記2つ以上のバイオマーカーの発現水準は、階級分類または比較される。CD44、MMP9、ALDH1A1、ビメンチン、ヒアルロナン、βカテニン、MFG-E8及びCD68の各々の発現水準を判定することができる。一実施形態において、腫瘍検体由来の少なくとも1つの追加的なバイオマーカーの発現水準が判定される。
【0024】
いくつかの実施形態において、既存の治療及び/または治療計画は、前記2つ以上のバイオマーカーの発現水準が正常組織検体における同じバイオマーカーの発現水準と比較して高いまたは低い場合、改変される。例えば、既存の治療及び/または治療計画は、腫瘍へ投与される電離放射線の有効線量を上げるまたは下げるよう改変することができる。有効線量は、腫瘍へ投与される電離放射線の量を上げることによって、及び/または腫瘍を放射線増感剤と接触させることによって上げることができる。
【0025】
別の態様において、CD44、MMP9、ALDH1A1、ビメンチン、ヒアルロナン、βカテニン、MFG-E8、及びCD68からなる群から選択されるバイオマーカーの発現を検出することのできる試薬を含むキットが提供される。
【0026】
いくつかの実施形態において、本明細書に説明される方法の工程のうちの1つ以上は、インビトロで実施される。例えば、本明細書に説明されるバイオマーカーの発現水準は、対象から分離された組織検体に関して免疫組織化学技術を用いてインビトロで判定することができる。したがって、本明細書に説明されるバイオマーカーの発現水準を判定する工程は、判定工程がインビボで(すなわち、対象において)実施されるべきであることを必要としない。ある実施形態において、本明細書に説明されるバイオマーカーの発現水準は、命令をコンピュータへ提供するソフトウェアを用いて階級分類または比較される。
【0027】
いくつかの態様において、本開示は、癌または腫瘍を治療または診断するための方法における使用のためのバイオマーカー組成物を提供する。いくつかの実施形態において、腫瘍を治療するための方法における使用のために、CD44、MMP9、ALDH1A1、ビメンチン、ヒアルロナン、βカテニン、MFG-E8及び/またはCD68から選択されるバイオマーカーを含む組成物が提供される。いくつかの実施形態において、本開示は、腫瘍を治療するための方法における使用のための電離放射線と併用してバイオマーカーを提供する。例えば、腫瘍を治療するための方法における使用のための、電離放射線と併用してCD44、MMP9、ALDH1A1、ビメンチン、ヒアルロナン、βカテニン、MFG-E8及び/またはCD68から選択されるバイオマーカーを含む組成物が提供される。
【0028】
いくつかの実施形態において、本開示は、本明細書に説明されるバイオマーカーの水準が腫瘍環境において高い場合に標準的な放射線治療プロトコルを改変することを含む腫瘍を治療するための方法における使用のための、CD44、MMP9、ALDH1A1、ビメンチン、ヒアルロナン、βカテニン、MFG-E8及び/またはCD68から選択されるバイオマーカーを含む組成物を説明する。いくつかの実施形態において、標準的な放射線治療プロトコルは、腫瘍へ投与される電離放射線の線量を上げることによって改変される。いくつかの実施形態において、標準的な放射線治療プロトコルは、電離放射線の線量の少分割照射または多分割照射によって改変される。いくつかの実施形態において、標準的な放射線治療プロトコルは、さらに抗癌薬を対象へ投与することによって改変される。
【0029】
いくつかの実施形態において、本開示は、腫瘍を治療するための方法におけるCD44、MMP9、ALDH1A1、ビメンチン、ヒアルロナン、βカテニン、MFG-E8及び/またはCD68から選択されるバイオマーカーを含む組成物の使用を説明し、前記方法は、
(i)高い線量の放射線を対象へ投与し、前記線量の放射線は、腫瘍環境におけるCD44、MMP9、ALDH1A1、ビメンチン、ヒアルロナン、βカテニン、MFG-E8及び/またはCD68から選択されるバイオマーカーの高い水準を有していない対象へ投与される線量と比較して高いこと、あるいは
(ii)医薬として有効量の抗癌薬と併用して腫瘍環境におけるCD44、MMP9、ALDH1A1、ビメンチン、ヒアルロナン、βカテニン、MFG-E8及び/またはCD68から選択されるバイオマーカーの高い水準を有していない対象へ投与される線量と類似の線量の放射線を対象へ投与すること
を含む。
【0030】
いくつかの実施形態において、ヒトまたは動物の身体において実施される診断方法における使用のための、CD44、MMP9、ALDH1A1、ビメンチン、ヒアルロナン、βカテニン、MFG-E8及び/またはCD68から選択されるバイオマーカーを含む組成物が提供される。一実施形態において、眼または腫瘍の診断または予後における使用のための、CD44、MMP9、ALDH1A1、ビメンチン、ヒアルロナン、βカテニン、MFG-E8及び/またはCD68から選択されるバイオマーカーを含む組成物が提供される、例えば、腫瘍の診断における使用のための、CD44、MMP9、ALDH1A1、ビメンチン、ヒアルロナン、βカテニン、MFG-E8及び/またはCD68から選択されるバイオマーカーを含む組成物が提供され、前記使用は、
(a)対象由来の生物学的検体または組織検体におけるバイオマーカーの発現水準を判定し、この中で、前記バイオマーカーは、CD44、MMP9、ALDH1A1、ビメンチン、ヒアルロナン、βカテニン、MFG-E8及び/またはCD68から選択されること、ならびに
(b)前記バイオマーカー(類)の発現水準を正常な生物学的検体または組織検体における発現水準と比較し、
この中で、前記正常な生物学的検体または組織検体における発現水準と比較して高いまたは低い、前記生物学的検体または組織検体における前記バイオマーカー(類)の発現水準は、前記対象が腫瘍に罹患しているという診断を提供する。前記使用はまた、疾患の時間経過に関する予後を提供することができ、または電離照射線を用いた治療のための候補としての対象を識別するために使用することができる。
【0031】
(定義)
用語「治療すること」とは、腫瘍または腫瘍と診断された対象へ治療を投与することを指す。治療の例には、電離照射線、化学療法薬治療、またはこの両方からなる組み合わせを含む。治療にはまた、放射線増感剤を含むことができる。前記用語にはまた、治療または治療計画を選択すること、ならびに治療選択肢を医療従事者または対象へ提供することを含むことができる。
【0032】
用語「電離放射線」とは、原子または分子から電子を放出してそれによりイオンを生成するのに十分な運動エネルギーを有する粒子を含む放射線を指す。前記用語には、α粒子(ヘリウム核)、β粒子(電子)、及びプロトンなどの原子粒子によって生じるものなど、直接的な電離放射線、ならびにγ線及びx線を含む光子など、間接的な電離放射線の両方を含む。放射線治療において使用される電離放射線の例には、高エネルギーx線、電子ビーム、及び光子ビームを含む。
【0033】
用語「腫瘍環境」または「腫瘍微小環境」とは、特により大きな環境の異なる部分としての生体または生体の一部の即時的な小規模の環境、例えば、腫瘍の即時小規模環境を指す。前記用語には、腫瘍細胞自体だけでなく、結合している血管、免疫系細胞及び分泌あれるサイトカイン、上皮細胞、線維芽細胞、結合組織、ならびに/またはもしくは腫瘍と結合しているもしくは腫瘍を取り囲んでいる細胞外マトリックスも含む。前記用語はまた、腫瘍が位置する細胞内環境及び細胞外環境を指す。
【0034】
放射線治療における用語「ケアの標準」または「標準的な放射線治療プロトコル」とは概して、電離放射線線量ならびに、腫瘍の型、大きさ、組織位置、及び種々の他の生物学的パラメータを基に、与えられた腫瘍に対する適切な治療として医学の分野において概して許容される投与間隔を指す。ケアの標準または標準的な治療プロトコルは、いくつかの因子に応じて変化し、前記因子依存性である。例えば、肺癌の放射線治療については、ケアの標準には、腫瘍へ投与される複数分割(例えば、およそ30分割の低線量放射線、または6週間にわたるおよそ60Gy)またはより少数の分割(例えば、1~5分割)の生物学的に活性のある線量(例えば、末梢腫瘍に対する3分割における54GY、または中枢腫瘍に対する4~8分割における48~60Gy)を含む。
【0035】
用語「類似の線量の電離放射線」とは、別の対象における腫瘍へ投与されるまたは既存の治療経過を受けている同じ対象における腫瘍へ投与される有効な線量と同一の、ほぼ同じである、または実質的に同じである線量の電離放射線を指す。前記用語は、対象における腫瘍へ電離放射線を投与することに関する分野における熟達した医療技師によって送達される電離放射線量における正常なかつ期待される変量を包含する。例えば、前記用語は、10%未満、5%未満、または1%未満の腫瘍へ投与される有効線量における変化を包含する。対象は、ヒトまたは、ペット動物(例えば、イヌ、ネコ)もしくは家畜(例えば、ウシ、ウマ、など)などの非ヒト動物であることができる。
【0036】
用語「小分子」とは、約900ダルトン未満、または約500ダルトン未満の分子量を有する有機化合物を指す。前記用語には、所望の薬理学的特性を有する薬剤を含み、及び経口でまたは注射によって摂取することのできる化合物を含む。前記用語には、TGF-βの活性を調節する有機化合物、及び/または免疫応答を亢進もしくは阻害することと関連する他の分子を含む。
【図面の簡単な説明】
【0037】
図1図1は、肺癌患者由来の生検検体におけるALDH1A1の分布を示す。
図2図2は、肺癌患者由来の生検検体におけるβカテニンの分布を示す。
図3図3は、肺癌患者由来の生検検体におけるCD44の分布を示す。
図4図4は、肺癌患者由来の生検検体におけるCD68の分布を示す。
図5図5は、肺癌患者由来の生検検体におけるヒアルロナンの分布を示す。
図6図6は、肺癌患者由来の生検検体におけるMFG-E8の分布を示す。
図7図7は、肺癌患者由来の生検検体におけるMMP9の分布を示す。
図8図8は、肺癌患者由来の生検検体におけるビメンチンの分布を示す。
図9図9は、局所的な腫瘍制御を予測するための変数CD44(Tot)、MFG_E8(Prop)及び多変量モデル由来の腫瘍型についてのROC曲線を示す。
図10図10は、複数の実施例において説明するような、扁平上皮腫瘍についての局所腫瘍制御障害を予測するための正及び負の検査結果に対応するCD44(Tot)及びMFG_E8(Prop)の値を示す。
図11図11は、複数の実施例において説明するような、腺癌についての局所腫瘍制御障害を予測するための正及び負の検査結果に対応するCD44(Tot)及びMFG_E8(Prop)の値を示す。
【発明を実施するための形態】
【0038】
本明細書に説明される方法は、患者特異的なバイオマーカー署名を基にした最適化した放射線治療を受けるための、複数の群への患者の分類を許容する。バイオマーカー署名には、TGF-β発現と相関がありかつ、腫瘍の病原力、放射線抵抗性及び予後不良と関連していることが示されているマーカーを含む。前記マーカーは、上皮間葉転換における鍵となる役割を担っている。本明細書に説明される方法は、TGF-β阻害薬を電離放射線と併用して癌患者を治療する場合、抗腫瘍効力に加えて正常組織保護という二重の利点を提供する。
【0039】
(I.方法)
本開示は、腫瘍検体における署名バイオマーカーの発現水準を判定すること、前記腫瘍検体における発現水準を正常組織検体における発現水準と比較すること、及び前記腫瘍検体における発現水準が正常組織検体における発現水準とは異なる場合、前記腫瘍を治療することによって、対象における腫瘍を治療するための方法を説明する。いくつかの実施形態において、前記治療は電離放射線である。したがって、バイオマーカーは、腫瘍を治療するための放射線治療のためのいわゆる「付随診断」を提供する。署名バイオマーカーはまた、電離放射線が化学療法などの治療的腫瘍処置と組み合わされた場合、適切な処置を選択するのに使用することができる。本明細書に開示される署名バイオマーカーの多くは、TGF-βのシグナル伝達経路と関連している。したがって、いくつかの実施形態において、前記治療薬は、TGF-βの阻害薬またはTGF-βのシグナル伝達経路の構成要素の阻害薬である。
【0040】
一態様において、前記方法は腫瘍を治療するためのものである。前記方法は、対象由来の腫瘍検体における2つ以上のバイオマーカーの発現水準を判定することを含み、この中で、2つ以上のバイオマーカーは、CD44,MMP9,ALDH1A1,ビメンチン、ヒアルロナン、βカテニン、MFG-E8、及びCD68からなる群から選択される。腫瘍検体における前記2つ以上のバイオマーカーの発現水準は、正常組織検体における前記2つ以上のバイオマーカーの発現水準と比較される。腫瘍検体における前記2つ以上のバイオマーカーの発現水準が正常組織検体における発現水準とは異なる場合、例えば、正常組織水準と比較して高い場合または低い場合、腫瘍が治療される。
【0041】
したがって、いくつかの実施形態において、前記方法は、(a)対象由来の腫瘍検体における2つ以上のバイオマーカーの発現水準を判定し、この中で前記2つ以上のバイオマーカーは、CD44、MMP9、ALDH1A1、ビメンチン、ヒアルロナン、βカテニン、MFG-E8、及びCD68からなる群から選択されること、(b)前記2つ以上のバイオマーカーの発現水準を、正常組織検体における発現水準と比較し、前記2つ以上のバイオマーカーの発現水準が正常組織検体における発現水準と比較して高い場合、腫瘍を治療することを含む。
【0042】
いくつかの実施形態において、前記方法は(a)対象由来の腫瘍検体における2つ以上のバイオマーカーの発現水準を判定し、この中で、前記2つ以上のバイオマーカーは、CD44、MMP9、ALDH1A1、ビメンチン、ヒアルロナン、βカテニン、及びMFG-E8、及びCD68からなる群から選択されること、(b)前記2つ以上のバイオマーカーの発現水準を正常組織検体における発現水準と比較し、前記2つ以上のバイオマーカーの発現水準が正常組織検体における発現水準と比較して低い場合、腫瘍を治療することを含む。
【0043】
いくつかの実施形態において、前記方法は、対象由来の腫瘍検体における2つ以上のバイオマーカーの発現水準を判定し、この中で、前記2つ以上のバイオマーカーは、CD44,MMP9、ALDH1A1、ビメンチン、ヒアルロナン、βカテニン、MFG-E8、及びCD68からなる群から選択されること、ならびに前記2つ以上のバイオマーカーの発現水準が正常組織検体における発現水準と比較して高い場合、腫瘍を治療することを含む。いくつかの実施形態において、前記方法は、対象由来の腫瘍検体における2つ以上のバイオマーカーの発現水準を判定し、この中で、前記2つ以上のバイオマーカーはCD44,MMP9、ALDH1A1、ビメンチン、ヒアルロナン、βカテニン、MFG-E8、及びCD68からなる群から選択されること、ならびに前記2つ以上のバイオマーカーの発現水準が正常組織検体における発現水準と比較して低い場合、腫瘍を治療することを含む。
【0044】
いくつかの実施形態において、前記治療は、電離放射線を腫瘍へ投与することを含む。したがって、いくつかの実施形態において、前記治療は、前記2つ以上のバイオマーカーの発現水準が正常組織検体における発現水準と比較して高い場合、電離放射線の有効線量を上げることを含む。いくつかの実施形態において、前記治療は、前記2つ以上のバイオマーカーの発現水準が正常組織検体における発現水準と比較して低い場合、電離放射線の有効線量を下げることを含む。
【0045】
第二の態様において、本開示は、電離放射線を用いた治療のための候補としての対象を識別するための方法を説明する。前記方法は、対象由来の腫瘍検体における2つ以上のバイオマーカーの発現水準を判定し、この中で、前記2つ以上のバイオマーカーはCD44,MMP9、ALDH1A1、ビメンチン、ヒアルロナン、βカテニン、MFG-E8、及びCD68からなる群から選択されることを含む。先のとおり、腫瘍検体における2つ以上のバイオマーカーの発現水準は、正常組織検体における前記2つ以上のバイオマーカーの発現水準と比較される。腫瘍検体における前記2つ以上のバイオマーカーの発現水準が正常組織検体における発現水準とは異なる場合、対象は、電離放射線を用いた治療のための候補として識別される。
【0046】
いくつかの実施形態において、前記2つ以上のバイオマーカーの発現水準が正常組織検体における発現水準と比較して高いのであれば、対象は、電離放射線を用いた第一の治療のための候補として識別される。他の実施形態において、前記2つ以上のバイオマーカーの発現水準が正常組織検体における発現水準と比較して低いのであれば、対象は、電離放射線を用いた第二の治療のための候補として識別される。第一及び第二の治療は、同じかまたは異なることができる。いくつかの実施形態において、第一の治療は、電離放射線の有効線量を上げることを含む。いくつかの実施形態において、第二の治療は、電離放射線の有効線量を下げることを含む。
【0047】
第三の態様において、腫瘍を有する対象を治療するための方法が提供される。前記方法は、正常組織検体における2つ以上のバイオマーカーの発現水準に対して高いまたは低い、腫瘍検体における前記2つ以上のバイオマーカーの発現水準を有するものとして選択された対象へ電離放射線を投与することを含む。いくつかの実施形態において、前記2つ以上のバイオマーカーは、CD44,MMP9、ALDH1A1、ビメンチン、ヒアルロナン、βカテニン、MFG-E8、及びCD68からなる群から選択される。
【0048】
いくつかの実施形態において、前記方法は、正常組織検体における前記2つ以上のバイオマーカーの発現水準に対して高い、腫瘍検体における前記2つ以上のバイオマーカーの発現水準を有するものとして選択された対象へ電離放射線を投与することを含む。いくつかの実施形態において、前記方法は、正常組織検体における前記2つ以上のバイオマーカーの発現水準に対して低い、腫瘍検体における前記2つ以上のバイオマーカーの発現水準を有するものとして選択された対象へ電離放射線を投与することを含む。いくつかの実施形態において、対象へ投与される電離放射線の線量は、腫瘍検体における2つ以上のバイオマーカーの発現水準が、正常組織検体における前記2つ以上のバイオマーカーの発現水準に対して高い場合、高い。いくつかの実施形態において、対象へ投与される電離放射線の線量は、腫瘍検体における2つ以上のバイオマーカーの発現水準が、正常組織検体における前記2つ以上のバイオマーカーの発現水準に対して低い場合、低い。
【0049】
第四の態様において、腫瘍を有する対象のための治療を選択するための方法を説明する。前記方法は、対象由来の腫瘍検体における2つ以上のバイオマーカーの発現水準を判定することを含み、この中で、前記2つ以上のバイオマーカーは、CD44,MMP9、ALDH1A1、ビメンチン、ヒアルロナン、βカテニン、MFG-E8、及びCD68からなる群から選択される。先のように、腫瘍検体における前記2つ以上のバイオマーカーの発現水準は、正常組織検体における前記2つ以上のバイオマーカーの発現水準と比較される。腫瘍検体における前記2つ以上のバイオマーカーの発現水準が正常組織検体における発現水準とは異なる場合、例えば、正常組織水準と比較して高いまたは低い場合、腫瘍を有する対象のために治療が選択される。
【0050】
別の態様において、本明細書に説明されるバイオマーカーは、治療中または治療後の疾患の予後を判定するのに使用することもでき、または判定するためにさらに使用することができる。例えば、電離放射線治療の前後の前記バイオマーカーの発現水準を比較することができる。いくつかの実施形態において、放射線治療後の前記バイオマーカーの発現水準が低い場合、予後は好ましいことになる。いくつかの実施形態において、放射線治療後の前記バイオマーカーの発現水準が高い場合、予後は好ましくないことになる。
【0051】
別の態様において、本明細書に説明されるバイオマーカーは、癌治療に対する患者の応答性を評価するためにも使用することができ、または評価するためにさらに使用することができる。例えば、電離放射線治療前後の前記バイオマーカーの発現水準を比較することができる。前記方法は、対象から得た腫瘍検体における前記2つ以上のバイオマーカーの発現水準を判定し、この中で前記2つ以上のバイオマーカーがCD44,MMP9、ALDH1A1、ビメンチン、ヒアルロナン、βカテニン、MFG-E8、及びCD68からなる群から選択されることを含む。いくつかの実施形態において、放射線治療後の前記バイオマーカーの発現水準が低い場合、患者は好ましく応答したことになる。いくつかの実施形態において、放射線治療後の前記バイオマーカーの発現水準が高い場合、患者の応答は好ましくなかったことになる。この情報は、さらなる療法を誘導するのに使用することができる。好ましい治療は、反復してもよくまたはさらに増えてもよい。好ましくない治療は改変することができまたは中止することができる。
【0052】
別の態様において、キットが提供される。前記キットは本明細書に説明されるバイオマーカーの発現を検出することのできる試薬を含む。いくつかの実施形態において、前記キットは、バイオマーカーの核酸(例えば、RNA)発現を検出することのできる試薬を含む。例えば、前記キットは、本明細書に説明されるバイオマーカー遺伝子によって発現する核酸を増幅することのできるオリゴヌクレオチドプライマーを含むことができる。いくつかの実施形態において、前記キットはさらに、バイオマーカー核酸または増幅したバイオマーカー核酸、あるいはこれらの相補体とハイブリッド軽視得するオリゴヌクレオチドプローブを含む。核酸を増幅及び検出する方法は、当該技術分野で周知であり、PCR、RT-PCRリアルタイムPCR、及び定量的リアルタイムPCR、ノザン分析、発現した核酸の配列決定、ならびにマイクロアレイに対する発現した及び/または増幅した核酸のハイブリッド形成を含むことができる。いくつかの実施形態において、前記キットは、本明細書に説明されるバイオマーカーによってタンパク質発現を検出することのできる試薬を含む。いくつかの実施形態において、前記試薬は、バイオマーカータンパク質へ特異的に結合する抗体である。タンパク質発現を検出する方法は、当該技術分野で周知であり、イムノアッセイ、ELISA、ウェスタン分析、及びプロテオミクス技術を含む。
【0053】
先の態様及び実施形態のうちの何らかに関するいくつかの実施形態において、腫瘍検体におけるバイオマーカーの各々の発現水準の差は、正常組織における発現水準と比較して少なくとも10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%またはそれより多く大きいまたは小さい。いくつかの実施形態において、腫瘍検体におけるバイオマーカーの各々の発現水準は、正常組織における発現水準と比較して、少なくとも1倍、2倍、3倍、4倍、5倍、6倍、7倍、8倍、9倍、10倍またはそれより多く高いまたは低い。
【0054】
いくつかの実施形態において、腫瘍検体におけるバイオマーカー全部の平均及び/または等級分けした発現水準は、正常組織における発現水準と比較して高いまたは低い。したがって、いくつかの実施形態において、腫瘍検体におけるバイオマーカー全部の平均及び/または等級分けした発現水準は、正常組織における発現水準と比較して少なくとも10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%またはそれより多く高いまたは低い。いくつかの実施形態において、正常組織における発現水準は、対照または基線の水準に対して標準化される。発現水準が、治療、治療経過、もしくは治療計画の前、後もしくは途中に腫瘍検体における発現水準と比較することもできることは理解される。したがって、いくつかの実施形態において、腫瘍検体におけるバイオマーカーの各々の発現水準は、治療の前、途中または後で腫瘍検体における発現水準と比較して少なくとも10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%またはそれより多く高いまたは低い。
【0055】
さらに、先の態様及び実施形態のうちの何らかに関して、前記2つ以上のバイオマーカーは、CD44及びMMP9の両方、ALDH1A1及びビメンチンの両方、ヒアルロナン及びβカテニンの両方、CD44及びALDH1A1の両方、ビメンチン及びβカテニンの両方、CD44及びヒアルロナンの両方、CD44及びβカテニンの両方、CD44及びMFG-E8の両方、またはCD44及びCD68の両方、MMP9及びヒアルロナンの両方、MMP9及びβカテニンの両方、MMP9及びMFG-E8の両方またはMMP9及びCD68の両方、ALDH1A1及びヒアルロナンの両方、ALDH1A1及びβカテニンの両方、ALDH1A1及びMFG-E8の両方、またはALDH1A1及びCD68の両方、ビメンチン及びMFG-E8の両方、ヒアルロナン及びMFG-E8の両方、βカテニン及びMFG-E8の両方、またはCD68及びMFG-E8の両方を含むことができる。
【0056】
さらに、先の態様及び実施形態のうちの何らかに関して、前記2つ以上のバイオマーカーは、前記バイオマーカーの何らかの組み合わせ、例えば、3つ以上のバイオマーカーのうちの何らかの組み合わせ、4つ以上のバイオマーカーのうちの何らかの組み合わせ、5つ以上のバイオマーカーのうちの何らかの組み合わせ、6つ以上のバイオマーカーのうちの何らかの組み合わせ、及び7つ以上のバイオマーカーのうちの何らかの組み合わせを含むことができまたはこれらからなることができる。一実施形態において、バイオマーカーの組み合わせは、CD44、MFG-E8、及びCD68を含むまたはこれらからなる。
【0057】
別の態様において、本明細書に説明されるバイオマーカーのうちの少なくとも1つ、2つ、3つ、4つまたはそれより多くの発現水準を判定する。
【0058】
いくつかの実施形態において、前記治療または選択された治療は、腫瘍に対して電離放射線を投与することを含む。したがって、いくつかの実施形態において、選択された治療は、前記2つ以上のバイオマーカーの発現水準が正常組織検体における発現水準と比較して高い場合、電離放射線の有効線量を上げることを含む。いくつかの実施形態において、選択された治療は、前記2つ以上のバイオマーカーの発現水準が正常組織検体における発現水準と比較して低い場合、電離放射線の有効線量を下げることを含む。例示的な放射線治療はさらに、本明細書に説明される。本明細書に説明される方法のうちのすべてにおいて、前記治療は、腫瘍を放射線増感剤と接触させることをさらに含むことができる。放射線増感剤は、放射線治療を用いて腫瘍細胞を比較的容易に殺滅させる何らかの物質である。例示的な放射線増感剤には、ミソニダゾール、メトロニダゾール、トランスクロセチン酸ナトリウム(trans-sodium crocetinate)などの低酸素放射線増感剤を含む。例示的な放射線増感剤には、ポリ(ADP)リボースポリメラーゼ(PARP)阻害薬などのDNA損傷応答阻害薬も含む。前記治療はさらに、腫瘍及び/または腫瘍環境を免疫調節薬と接触させることを含むことができる。例示的な免疫調節薬には、免疫系の初回抗原刺激及び活性化に関与する薬剤(抗体または小分子)を含み、ならびにCTLA4、B7(B7-1もしくはB7-2)、PD-L1/PD-L2もしくはPD-1を標的とする薬剤、またはCTLA4とB7-1/B7-2の間もしくはPD-1とPD-L1/PD-L2の間の結合相互作用を標的とする薬剤を含む。CTLA4、B7(B7-1またはB7-2)、PD-L1/PD-L2、及びPD-1を標的とする薬剤には、モノクローナル抗体など、これらの分子を特異的に結合する抗体を含む。いくつかの実施形態において、前記薬剤は、LAG3、TIM1、TIM3、MFG-E8、IL-10、またはホスファチジルセリンへ特異的に結合する抗体である。
【0059】
小分子免疫調節薬には、免疫応答、例えば、腫瘍細胞に対する免疫応答を高めるまたは阻害する薬剤を含む。例示的な小分子免疫調節薬には、酵素インドラミン2,3-ジオキシゲナーゼの阻害薬、ならびにαvβ3インテグリン及びαvβ5インテグリンの阻害薬を含む。
【0060】
いくつかの実施形態において、前記治療はさらに、TGFβシグナル伝達を阻害する化合物を対象へ投与することを含む。適切な化合物は、以下により詳細に説明される。
【0061】
前記方法において使用されるバイオマーカーをこれから説明する。
【0062】
(A.バイオマーカー)
本明細書に説明されるバイオマーカーは、TGF-β発現と相関しており、個別化した専用の放射線治療を受けるために患者を層別化するために使用することができる。バイオマーカー署名は、患者におけるTGFβ阻害薬の効力をモニターするためにも使用することができる。バイオマーカー署名は、TGF-β発現との相関と関係しているが、これに限定されない。前記バイオマーカーの発現は、放射線抵抗性、病原力及び予後不良と関係している。マーカーセットには、CD44、MMP9、ALDH1A1、ビメンチン、ヒアルロナン、βカテニン、MFG-E8、及びCD68を含むがこれらに限定されない。
【0063】
(MMP9)
MMP9、EMT及びTGFβの間には明らかな相関を示すことができる。多重設定において、MMP9はTGF-βを調節し、TGF-βはMMP9を調節する。MMP9は、浸潤した免疫細胞内にある及び腫瘍細胞中にある細胞外マトリックス及び腫瘍間質の中に局在する。MMP9の異なる細胞内位置は、異なる生物学的結果(より進行した/あまり進行していない腫瘍、生存率など)と相関しているように見える。
【0064】
(ビメンチン(VIM))
ビメンチンは、肺を含む種々の細胞型においてTGF-βがEMTを誘導する場合に上方調節される。ビメンチンとは、上皮細胞とは対照的に間葉系細胞を特徴づける中間径フィラメントタンパク質である。
【0065】
(ヒアルロナン(HA))
ヒアルロナンとは、細胞外マトリックスの豊富なグリコサミノグリカン成分である。TGF-βによって誘導され、MMP9分泌を高め(CD44を介するようである。)、EMT/遊走/転移を促進し、かつ化学療法抵抗性及び予後不良に寄与する。これらの知見は、NSCLCを含む種々の腫瘍型においてすでに実証されている。HAに対する重要な受容体は、CD44などである。HA-CD44の相互作用は、HER2シグナル伝達を促進し、Srcキナーゼ活性を亢進させる。HAは、ヒアルロン酸に対する市販の抗体、例えばAbcam社製の抗体を用いて組織を染色することによって検出される。
【0066】
(ALDH1A1)
アルデヒド脱水素酵素は、幹細胞分化において役割を担っている細胞内アルデヒドの酸化におけるその役割について公知である解毒酵素である。種々の癌の腫瘍原性細胞集団において高度に発現し、高いタンパク質発現が悪性形質転換中の推定肺幹細胞の適所においてすでに示されている。ALDH1A1の発現は、肺腫瘍の病期及び悪性度と正の相関があり、早期肺癌患者における予後不良と関連している。
【0067】
(MFG-E8)
MFG-E8とは、腫瘍におけるアポトーシス細胞の貪食及びクリアランスを促進するマクロファージ産生タンパク質である。MFG-E8機能を中和する抗体は、放射線及び化学療法を高めるための実験モデルにおいて示されてきた。そのため、腫瘍標本におけるMFG-E8の濃度は、放射線治療の効力についての推定値を有しているかもしれないことはありそうである。
【0068】
(CD68)
CD68とは、ヒト単球及び組織マクロファージによって高度に発現させられる110kDの膜貫通糖タンパク質である。CD68は、リソソーム/エンドソーム結合型膜糖タンパク質(LAMP)ファミリーの一員である。前記タンパク質は主として、利ソソーム及びエンドソームへ局在し、よりわずかな画分が細胞表面へと循環している。CD68は、重度にグリコシル化した細胞外ドメインを有するI型内在性膜タンパク質であり、組織特異的及び機関特異的なレクチンまたはセレクチンへ結合する。前記タンパク質はまた、スカベンジャー受容体ファミリーの一員でもある。スカベンジャー受容体は典型的には、細胞デブリを取り除き、食作用を促進し、ならびにマクロファージの動員及び活性化を仲介するよう機能する(NCBIのEntrez一覧表を参照されたい。)。
【0069】
CD68は、M1及びM2の両サブセットを含むマクロファージにおいて広範に発現する。幾多の研究は腫瘍微小環境に存在するマクロファージが腫瘍細胞の増殖に影響することができることを示唆しており、いくつかの臨床試験は、腫瘍及びその微小環境におけるマクロファージの含有量及び位置が特定の癌患者における臨床成績を予測することを示唆している。
【0070】
M1マクロファージは、炎症誘発性マクロファージと呼ばれ、1型ヘルパーT細胞(Th1)を活性化して抗腫瘍応答を促進する能力を有する。対照的に、M2マクロファージは、2型ヘルパーT細胞(Th2)を活性化して抗炎症性の組織リモデリング応答を促進し、かつ抗腫瘍作用をもたらさない。CD68がM1及びM2の両膜風呂ファージに発現するにつれ、その存在は経験的に、抗腫瘍応答または臨床成績を予測するために使用することはできない。したがって、本出願は、CD68が臨床設定において測定されるバイオマーカーとして有用であることを説明する。
【0071】
(核内βカテニン)
βカテニンは、細胞膜における及び核においてもEカドヘリンと結合しているのが認められ、細胞膜及び核においてβカテニンは腫瘍細胞、幹細胞またはEMTが進行している細胞の中に蓄積する。
【0072】
本明細書に説明されるバイオマーカーについてのGenBank受入番号は、以下の表に提供される。
表1
【0073】
本明細書に説明されるバイオマーカーが名称によって参照される場合、これが類似の機能及び類似のアミノ酸配列を有する分子を含むことは理解される。したがって、本明細書に説明されるタンパク質バイオマーカーには原型のヒトタンパク質、ならびにそのホモログ及び多形的バリエーションを含む。例えば、名称「CD44タンパク質」には、原型のタンパク質(例えば、配列番号1)、ならびに他の種由来のホモログ及びその多形的バリエーションを含む。CD44及びCD68などのタンパク質は、野生型タンパク質と実質的に同じ生物活性または機能的能力を有する場合(例えば、いずれかのうちの少なくとも80%)、類似の機能を有するものとして定義される。CD44及びCD68などのタンパク質は、前記タンパク質がその原型のタンパク質と少なくとも80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、または99%の配列同一性を有する場合、類似のアミノ酸配列を有するものとして定義される。タンパク質の配列同一性は、語長3、期待値(E)10、及びBLOSUM62点数化マトリックスといった既定値を備えたBLASTPプログラムを用いて判定される(Henikoff及びHenikoff,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 89:10915-10919,1992を参照されたい。)。
【0074】
タンパク質ホモログまたは多形的バリアントが本明細書に説明されるタンパク質バイオマーカーを包含するかどうかを判定するための従来の検査は、原型のタンパク質に対して生じるポリクローナル抗体への特異的結合によるものである。例えば、CD44タンパク質には、配列番号1のタンパク質に対して生じるポリクローナル抗体へ結合するタンパク質を含み、CD68タンパク質には、配列番号13の原型のタンパク質に対して生じるポリクローナル抗体へ結合するタンパク質を含む。
【0075】
本明細書に説明されるタンパク質バイオマーカーへ特異的に結合するポリクローナル抗体に関して、検査タンパク質は、指定されるイムノアッセイ条件下で、背景の少なくとも2倍の特定の抗体へ結合し、特定の抗体は検体中に存在する他のタンパク質へ有意な量で実質的に結合しない。例えば、CD44に対して生じ配列番号1においてコードされたポリクローナル抗体、そのスプライスバリアント、またはこれらの部分は、CD44とは特異的な免疫反応性がありかつCD44の多形的バリアントを除く他のタンパク質とは特異的な免疫反応性がないポリクローナル抗体のみを得るよう選択することができる。この選択は、適宜、前記タンパク質ファミリーの他のメンバーと交差反応する抗体を差し引くことによって達成され得る。種々のイムノアッセイフォーマットを使用して、特定のタンパク質と特異的に免疫反応する抗体を選択してもよい。例えば、固相ELISAイムノアッセイは、タンパク質と特異的に免疫反応する抗体を選択するために常用される(例えば、特異的免疫反応性を判定するために使用することのできるイムノアッセイフォーマット及び条件に関する説明については、Harlow及びLane,抗体-実験室マニュアル-(Antibodies,A Laboratory Manual)(1988)を参照されたい。)。典型的には、特異的反応または選択的反応は、背景シグナルまたは背景ノイズの少なくとも2倍であり、より典型的には、背景の10~100倍を超える。
【0076】
いくつかの実施形態において、前記方法は、対象由来の腫瘍検体における2つ以上のバイオマーカーの発現水準を判定することを含む。いくつかの実施形態において、前記バイオマーカーは、CD44、MMP9、ALDH1A1、ビメンチン、ヒアルロナン、βカテニン、MFG-ER、及び/またはCD68からなる群から選択される。いくつかの実施形態において、前記バイオマージャーのうちの2つ、3つ、4つ、5つ、6つ、7つ、または8つの発現水準が判定される。いくつかの実施形態において、前記バイオマーカーの各々の発現水準が判定される。いくつかの実施形態において、少なくとも1つの追加的なバイオマーカーの発現水準が判定され、この中で前記追加的なバイオマーカーは、CD44、MMP9、ALDH1A1、ビメンチン、ヒアルロナン、βカテニン、MFG-ER、及びCD68からなる群にはない。いくつかの実施形態において、前記追加的なバイオマーカーはTGF-βである。
【0077】
いくつかの実施形態において、前記バイオマーカー署名群は、CD44、MMP9、ALDH1A1、ビメンチン、ヒアルロナン、βカテニン、MFG-ER、及びCD68からなる。いくつかの実施形態において、前記バイオ前記バイオマーカー署名群は本質的に、CD44、MMP9、ALDH1A1、ビメンチン、ヒアルロナン、βカテニン、MFG-ER、及びCD68からなる。いくつかの実施形態において、前記バイオマーカー署名群は、CD44、MMP9、ALDH1A1、ビメンチン、ヒアルロナン、βカテニン、MFG-ER、及びCD68を含む。
【0078】
腫瘍検体におけるバイオマーカーの各々の発現水準が正常または対照の組織検体におけるバイオマーカーの発現水準に対して上昇することができるまたは低下することができることは理解される。例えば、1つのバイオマーカーの発現水準は、正常組織における発現水準と比較して腫瘍検体において上昇することができるのに対し、第二のバイオマーカーの発現水準は、正常組織における発現水準と比較して腫瘍検体において低下することができる。前記発現水準はまた、腫瘍検体におけるバイオマーカー発現水準全部の平均、組み合わせまたは合計を基にすることができる。例えば、腫瘍検体における各バイオマーカーの発現水準をランク分けまたは重み付けして、正常組織値(例えば、1に設定された標準化された値であることができる。)よりも高いまたは低い順位値を生じることができる。
【0079】
いくつかの実施形態において、バイオマーカー発現は、腫瘍を罹患している対象由来の生物学的検体において判定される。いくつかの実施形態において、前記生物学的検体とは腫瘍検体である。腫瘍検体は、腫瘍由来の腫瘍細胞を含む生検であることができる。いくつかの実施形態において、生物学的検体は、対象由来の血液、血清、血腫、もしくは尿などだがこれらに限定されない体液、及び/または細胞もしくは組織を含む。いくつかの実施形態において、生物学的検体とは、ホルマリン固定し及びパラフィン包埋した組織または腫瘍検体である。いくつかの実施形態において、生物学的検体とは、凍結した組織または腫瘍検体である。したがって、いくつかの実施形態において、本明細書に説明される方法の1つ以上の工程は、インビトロで実施される。例えば、いくつかの実施形態において、バイオマーカー発現はインビトロで判定される。
【0080】
いくつかの実施形態において、正常組織検体は、腫瘍と同じ組織型由来の非腫瘍細胞を含む。いくつかの実施形態において、正常組織検体は腫瘍と診断された同じ対象から得る。正常組織検体は、異なる対象由来の同じ組織型の対照検体であることもできる。正常組織検体の発現水準は、正常組織検体の集団から得られる平均または平均値であることもできる。
【0081】
本明細書に説明されるバイオマーカーの発現水準は、当該技術分野で食墜ちの何らかの方法を用いて判定することができる。例えば、発現水準は、バイオマーカー遺伝子によってコードされる核酸(例えば、RNAまたはmRNA)またはタンパク質の発現を検出することによって判定することができる。
【0082】
核酸の発現水準を検出するための例示的な方法には、ノザン分析、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)、逆転写PCR(RT-PCR)、リアルタイムPCR、定量的リアルタイムPCR、及びDNAマイクロアレイを含むが、これらに限定されない。
【0083】
タンパク質(例えば、ポリペプチド)の発現水準を検出するための例示的な方法には、免疫組織化学的方法、ELISA、ウェスタン分析、HPLC、及びプロテオミクスアッセイを含むが、これらに限定されない。いくつかの実施形態において、タンパク質発現水準は、Allred法を用いて点数を割り当てる免疫組織化学的方法によって判定される(例えば、本明細書に参照により組み込まれるAllred,D.C.,Connection 9:4~5,2005を参照されたい)。例えば、ホルマリン固定しパラフィン包埋した組織を、本明細書に説明されるバイオマーカーを特異的に結合する抗体と接触させる。結合した抗体は、検出可能な標識、または比色定量標識などの検出可能な標識(例えば、HRPまたはAPによる酵素基質産物)と結合した二次抗体を用いて検出される。抗体陽性シグナルは、陽性腫瘍細胞の比及び陽性腫瘍細胞の平均染色強度を概算することによって点数化される。前記比及び強度点数の両方は、両方の因子を比較する合計点数へと組み合わされる。
【0084】
いくつかの実施形態において、タンパク質発現水準は、デジタル病理学的方法によって判定される。デジタル病理学的方法には、ガラススライドなどの固体支持体の上にある組織の走査画像を含む。ガラススライドは、走査装置を用いて全スライド画像へと走査される。走査された画像は典型的には、保存記録及び検索のための情報管理システムに保存される。画像分析ツールを用いて、デジタルスライドから客観的な定量的測定結果を得ることができる。例えば、免疫組織化学的染色の面積及び強度は、適切な画像分析ツールを用いて分析することができる。デジタル病理学システムには、スキャナ、分析道具(可視化ソフトウェア、情報管理システム及び画像分析プラットフォーム)、保管及び通信(共有サービス、ソフトウェア)を含むことができる。デジタル病理学システムは、数多くの商業的供給元、例えば、Aperio Technologies,Inc.(Leica Microsystems GmbHの子会社)、及びVentana Medical Systems,Inc.(現在はRocheの一部)から入手可能である。発現水準は、Flagship Biosciences(コロラド州)、Pathology,Inc.(カリフォルニア州)、Quest Diagnostics(ニュージャージー州)、及びPremier Laboratory LLC(コロラド州)を含む市販のサービス供給会社によって定量化することができる。
【0085】
(B.治療)
バイオマーカーの発現水準は、腫瘍と診断された対象における一連の治療を判断または選択するのに使用することができる。例えば、いくつかの実施形態において、治療は、電離放射線を対象における腫瘍へ投与することを含む。電離放射線はまた、特に腫瘍が散在性または可動性である場合、対象全体もしくはその一部へ投与することができる。いくつかの実施形態において、治療はさらに、腫瘍を放射線増感剤と接触させることを含む。いくつかの実施形態において、治療はさらに、TGF-βシグナル伝達を阻害する化合物または抗体などの生物薬を対象へ投与することを含む。したがって、いくつかの実施形態において、治療は、TGF-β阻害薬と併用して標準的な放射線治療プロトコルを投与することを含む。
【0086】
一連の治療は、バイオマーカーの発現水準を基に選択することができる。例えば、発現水準は、放射線治療が対象に適しているかどうかを判断するために(すなわち、放射線治療に関して実行/非実行の判断をするために)、使用することができる。さらに、バイオマーカーの発現水準が正常値または対照値と比較して高い場合、腫瘍に対する有効な放射線量は上げることができ、及び/またはしたがって分割放射線治療スケジュールが改変される。腫瘍を供給する血管への放射線量も上げることができる。
【0087】
いくつかの実施形態において、治療はバイオマーカーの発現水運が正常値または対照値と比較して高い場合、治療は、電離放射線を腫瘍へ投与することを含むことができる。いくつかの実施形態において、バイオマーカーの発現水準が正常値または対照値と比較して低い場合、治療は腫瘍へ投与される電離放射線量を下げることを含むことができる。
【0088】
治療は、既存の一連の治療を改変することを含むこともできる。例えば、いくつかの実施形態において、既存の一連の治療は、腫瘍へ投与される電離放射線の有効線量を上げるよう改変される。いくつかの実施形態において、電離放射線の有効線量は、腫瘍へ投与された電離放射線の量を上げること及び/または腫瘍を放射線増感剤と接触させることによって上がる。いくつかの実施形態において、既存の一連の治療は、腫瘍へ投与される電離放射線の有効線量を下げるよう改変される。いくつかの実施形態において、治療は、TGF-β阻害薬を投与することと併用して標準的な放射線治療プロトコルを改変することを含む。
【0089】
いくつかの実施形態において、腫瘍へ投与される電離放射線の有効線量は、本明細書に説明される1つ以上のバイオマーカーの水準が腫瘍環境において高い場合、高くなっている。例えば、電離放射線の有効線量は、腫瘍環境におけるバイオマーカーの水準が高くない対象のためのケアの標準と比較して高くなっている。このことは、放射線治療を現に受けていない対象及び対象へ適用され、及び放射線治療を受けている対象のための既存の一連の治療を改変する。したがって、電離放射線の有効線量は、対象がすでに腫瘍のための放射線治療を受けている場合、現行の有効線量から高くすることができる。放射線治療は、隣接する健常組織に関する制約を減少させるよう改変することができる。例えば、より積極的な放射線治療が必要であることを腫瘍環境におけるバイオマーカー水準が示す場合、治療計画は、健常組織と腫瘍組織の間の境界に関する制約が減少するよう改変することができる。このことは、腫瘍組織のより多くを殺滅するためにいくらかの健常組織を損傷するという取引を結果として生じる。
【0090】
いくつかの実施形態において、治療は、放射線治療と抗癌薬(放射線増感剤を含む。)の併用を含む。いくつかの実施形態において、腫瘍へ投与される電離放射線の有効線量は、抗癌薬が対象へ投与される場合、変化しない(例えば、ケアの標準に対してまたは既存の一連の治療に対して)。例えば、いくつかの実施形態において、対象は、腫瘍環境において本明細書に説明される1つ以上のバイオマーカーの水準が高くない対象へ投与されるのと同じまたは類似の電離放射線の有効線量を投与され、対象はさらに、抗癌薬を投与される。いくつかの実施形態において、腫瘍へ投与される電離放射線の有効線量は、腫瘍環境におけるバイオマーカー(類)の水準が高くない対象のためのケアの標準を基にしており、対象はさらに抗癌薬を投与される。既存の一連の治療を包含するいくつかの実施形態において、電離放射線の有効線量は、現行の有効線量で維持され、抗癌薬は、本明細書に説明される1つ以上のバイオマーカーの水準が腫瘍環境において高い場合、電離放射線との併用で対象へ投与される。
【0091】
いくつかの実施形態において、対象は、CD44またはCD68の発現が腫瘍環境において高い場合、高い有効線量の電離放射線を投与される。いくつかの実施形態において、対象は、CD44またはCD68の発現が腫瘍環境において高い場合、腫瘍環境におけるCD44またはCD68の水準が高くない対象へ投与される有効線量(例えば、ケアの現行標準による。)と同じであるまたは類似している電離放射線の有効線量を、医薬有効量の抗癌薬と併用して投与される。いくつかの実施形態において、対象は、腫瘍環境においてCD44の水準が高くかつMFG-E8の水準が低い場合、高い有効線量の電離放射線を投与される。いくつかの実施形態において、対象は、腫瘍環境においてCD44の水準が高くかつMFG-E8の水準が低い場合、医薬として有効量の抗癌薬との併用で、腫瘍環境においてCD44の水準が高くなくかつMFG-E8の水準が低くない対象へ投与される有効線量(例えば、ケアの現行標準による。)と同じであるまたは類似である有効線量の電離放射線を投与される。先の実施形態は、放射線治療を現に受けていない対象へ適用され、放射線治療を受けている対象のための既存の一連の治療を改変する。
【0092】
いくつかの実施形態において、治療計画は、本明細書に説明されるバイオマーカーの発現水準を基に開発及び/または改変される。
【0093】
一連の治療は、正常検体における水準と比較して腫瘍検体におけるバイオマーカーの発現水準を判定するアルゴリズムを用いることによって選択することもできる。アルゴリズムは、バイオマーカー発現水準及び発現水準を組み合わせるための係数(すなわち、重み)を含む線形回帰アルゴリズムであることができる。いくつかの実施形態において、アルゴリズムは、係数を算出するための最小二乗フィットを含む。腫瘍検体におけるバイオマーカーの発現水準が正常検体に対して高いまたは低いとアルゴリズムが判断すると、適切な一連の治療を割り当てることができる。いくつかの実施形態において、アルゴリズムはノンパラメトリックな回帰ツリーである。いくつかの実施形態において、標準的な統計方法を用いて、データを分析し、どのバイオマーカーが臨床的な生存または局所的な腫瘍制御障害を最も予測するかを判断した。
【0094】
いくつかの実施形態において、本明細書に説明される方法は、コンピュータにより実行される方法である。いくつかの実施形態において、コンピュータにより実行される方法は、ランク分けまたは重み付けした値を割り当てる線形回帰モデルを含む。いくつかの実施形態において、本開示は、コンピュータ可読媒体を提供し、前記媒体は、本明細書に説明される方法をコンピュータに実行させる命令を提供する。例えば、前記媒体は、ランク分けまたは重み付けした値を本明細書に説明されるバイオマーカーの発現水準へコンピュータに割り当てさせるための命令を提供することができる。
【0095】
(C.治療放射線量)
本明細書に説明される腫瘍バイオマーカーの発現水準を用いて、放射線治療を用いた患者の治療を最適化することができる。例えば、腫瘍または対象へ投与される放射線の治療線量は、バイオマーカーの発現水準を基に調整することができる。当該技術分野で周知のように、電離放射線の有効線量は、治療されることを必要とする腫瘍の型及び癌の病期により変化する。有効線量は、患者へ投与される最中の他の治療様式、例えば、化学治療薬による治療及び外科的治療、ならびに放射線が術前または術後に投与されているかどうかを基に変化することもできる。概して、固体上皮腫瘍に対する治癒的治療線量は、約60~80グレイ(Gy)に及ぶのに対し、リンパ腫に対する治癒的線量は約20~40Gyである。概して、予防的線量は45~60Gyであることができる。
【0096】
当該技術分野で周知のように、治療線量は、分割放射線治療で送達することができる。分割とは、放射線の合計線量を経時的に、例えば、何日にも、何週間にも、何か月間にもわたって照射することを指す。各分割において送達される線量は、1日当たり約1.5~2Gyであることができる。治療計画には、分割放射線治療による治療を1日、隔日、毎週当たり1回以上など、各患者の治療の必要性に応じて含むことができる。例えば、少分割照射スケジュールは、合計線量を数回の比較的多線量へと分割することを含み、少なくとも1日の間隔を空けて前記多線量を投与する。例示的な少分割照射は、1分割当たり3Gy~20Gyである。肺癌を治療するのに使用することのできる例示的な分割放射線治療スケジュールは、1日当たり3回の少分割からなる連続過分割加速放射線治療法(CHART)である。
【0097】
本明細書に説明されるバイオマーカーは、腫瘍または癌と診断された患者のための治療計画を開発及び改変する上で有用である。治療計画には、照射される必要のある腫瘍体積を可視化または測定すること、腫瘍へ投与される放射線の最適線量または有効線量、及び危険にあるほぼ健常な組織または器官への損傷を予防するための最大線量を含むことができる。アルゴリズムは治療計画立案において使用することができ、採用される詳細な放射線治療技術パラメータ、例えば、ガントリ角、多分割コリメータの板の位置などを基にした線量算出アルゴリズムを含み、種々の技術を使用して線量算出間のシステムパラメータを調整して治療の有効性を最適化するアルゴリズムを検索する。例示的な線量算出アルゴリズムには、種々のモンテカルロ(「MC」)技術及びペンシルビーム重畳(「PBC」)がある。例示的な検索アルゴリズムには、種々の焼きなまし法(「SA」)技術、代数的逆方向治療計画立案(「AITP」)、及び同時反復性逆方向治療計画立案(「SIITP」)がある。このような技術、及びその他のものは、当該技術分野で周知であり、本開示の範囲内に含まれる。
【0098】
治療計画立案アルゴリズムは、追加的な特徴及び能力を提供する集積治療計画立案ソフトウェアパッケージの一部として実行してもよい。例えば、線量算出アルゴリズム及び検索アルゴリズムを使用して、板の移動を供給するのに必要な板の移動を算出するのに使用される別個のリーフシーケンサにより各ガントリ角における1セットのフルエンスマップを最適化してもよい。あるいは、線量算出アルゴリズム及び検索アルゴリズムを使用して、板の移動及び他の機械のパラメータを直接最適化してもよい、本発明の譲受人によって提唱されるEclipse(商標)治療計画立案システムには、このような集積ソフトウェアプログラムを含む。治療計画を最適化するための方法は、参照により本明細書に組み込まれる米国特許第7,801,270号において説明されている。
【0099】
いくつかの実施形態において、本明細書に説明されるバイオマーカーを使用して、放射線治療後の腫瘍制御の進行をモニターすることができる。例えば、電離放射線治療の前後のバイオマーカーの発現水準を比較することができる。いくつかの実施形態において、バイオマーカーの発現水準が放射線治療後で高い場合、このことは、腫瘍が大きさを発達させ続けていることを示唆する。したがって、放射線治療は、本明細書に説明されるバイオマーカーを用いて腫瘍の発達のモニタリングを基に改変することができる。
【0100】
本明細書に説明されるバイオマーカーは、当該技術分野で公知の何らかの放射線治療技術と併用することができる。放射線治療技術には、外部ビーム放射線治療(「EBRT」)及び強度調節型放射線治療(「IMRT」)があり、多分割コリメータ(「MLC」)を装備した線形加速器などの放射線治療システムによって投与することができる。多分割コリメータ及びIMRTの使用によって、患者は、放射線ビームの形状及び線量を変化させながら、複数の角度から治療することができ、それによりほぼ健常な組織の過剰な小回避することができる。他の例示的な放射線治療技術には、定位放射線治療(SBRT)、容量性調節型振子治療、三次元原体放射線治療(「三次元原体」または「3DCRT」)、画像誘導放射線治療(IGRT)がある。放射線治療技術には、患者の解剖学的変化ならびに器官及び腫瘍の形状に応じて線量分布を最適化するために、放射線治療の時間経過の間治療を改変することのできるIGRTの一形態である適応性放射線治療(ART)を含むこともできる。別の放射線治療技術には、密封小線源治療がある。密封小線源治療において、放射線源を対象の体内に植え込み、それにより放射線源は腫瘍の近くにあるようになる。本明細書で使用する場合、放射線治療という用語は、広範に解釈されるべきであり、光子(高エネルギーx線及びγ線など)、粒子(電子ビーム及びプロトンビームなど)、及び放射性手術技法の使用を含む、患者を照射するのに使用される種々の技術を含むよう企図されている。さらに、原体放射線を標的体積へ提供する何らかの方法は、本開示の範囲内であるよう企図される。
【0101】
(D.化学療法薬)
いくつかの実施形態において、放射線治療は、1つ以上の化学療法薬(すなわち、抗癌薬)との併用で投与される。化学療法薬には、放射線増感剤、抗腫瘍薬もしくは抗癌薬、及び/またはTGF-βシグナル伝達の阻害薬を含む。いくつかの実施形態において、放射線治療は、免疫系調節薬との併用で投与される。
【0102】
(1.放射線増感剤)
いくつかの実施形態において、化学療法薬は放射線増感剤である。例示的な放射線増感剤には、ミソニダゾール、メトロニダゾール、及び低酸素性腫瘍組織への酸素の核酸を高めるのを助ける化合物であるトランスクロセチン酸ナトリウム(trans-sodium crocetinate)などの低酸素放射線増感剤を含む。放射線増感剤はまた、塩基切断修復(BER)、ヌクレオチド切断修復(NER)、ミスマッチ修復(MMR)、相同的組換え(HR)を含む組換え修復、及び非相同的末端結合(NHEJ)に干渉するDNA損傷応答阻害薬であることができ、修復機序に対処することができる。SSB修復機序には、BER、NER、またはMMRの経路があるのに対し、DSB修復機序は、HR経路及びNHEJ経路からなる。放射線は、修復されない場合致死的であるDNA破壊を生じる。一本鎖破壊は、無傷のDNA鎖をテンプレートとして用いて、BER、NER及びMMRの機序の組み合わせを通じて修復される。SSB修復の優勢な経路は、ポリ-(ADP-リボース)ポリメラーゼ(PARP)という名の関連酵素のファミリーを利用するBERである。したがって、放射線増感剤には、ポリ(ADP)リボースポリメラーゼ(PARP)阻害薬などのDNA損傷応答阻害薬を含むことができる。
【0103】
(2.抗腫瘍薬)
いくつかの実施形態において、化学療法薬は抗癌薬である。抗癌薬の例には、チラパザミンなどの低酸素性細胞毒を含む。いくつかの実施形態において、抗癌薬とは、癌または腫瘍を治療するために現に認可されている薬剤である。いくつかの実施形態において、抗癌薬は、肺癌を治療するために認可されており、例えば、シスプラチン、タキソール、パクリタキセル、アビトレキサート、ベバシズマブ、フォレックス、ゲムシタビン、またはイレッサである。いくつかの実施形態において、抗癌薬は、融合タンパク質を標的とし、クリゾチニブなどの薬剤を含む。
【0104】
(3.TGF-β阻害薬)
TGF-βが電離放射線に応じて決定的な役割を担っているという実質的な証拠がある。TGF-βは、正常組織のホメオスタシスにおいて重要であり、炎症及び免疫応答を調節し、ならびに上皮増殖を抑制する多面的サイトカインである。TGF-βは、照射された組織において活性化されるが、おそらく不顕性のTGF-β複合体が放射線によって生じる活性酸素種によって活性化される特異的酸化還元感度のある立体配座を有するからである。活性化されたTGF-βが転移に寄与し、機能を損なう線維症を駆動し、腫瘍細胞増殖を促進し、及び免疫サーベイランスを抑制するという有意な証拠がある。したがって、いくつかの実施形態において、化学療法薬は、TGF-β阻害薬である。TGF-β阻害薬には4つの主要なクラスがあり、リガンドトラップ(例えば、1D11またはフレソリムマブ)、アンチセンスオリゴヌクレオチド(例えば、トラベデルセン)、小分子受容体キナーゼ阻害薬(例えば、LY2109761またはLY2157299)、及びペプチドアプタマー(例えば、Trx-SARA)を含む。当該技術分野で公知の何らかの適切なTGF-β阻害薬は、前記方法において使用することができ、本明細書に説明される方法の範囲内であるとみなされる。TGF-βは、活性化されたTGF-βの生成を阻害する薬剤も含む。
【0105】
(4.免疫調節薬)
免疫調節薬の例には、抗原提示細胞及びT細胞などの免疫系細胞の表面に発現する分子を結合する抗体を含む。免疫調節薬にはまた、免疫系を阻害または刺激する小分子を含む。小分子免疫調節薬の1つの非限定例は、酵素インドールアミン2,3-ジオキシゲナーゼの阻害薬である。
【実施例0106】
(実施例1)
本実施例は、放射線で治療した肺癌患者についての本明細書に説明されるバイオマーカーと臨床成績(生存率及び局所的腫瘍制御)の間の関係を説明する。
【0107】
(統計的方法)
研究下にある集団の特徴を理解するために、人口統計とバイオマーカー水準(強度、比率、及び合計、通しで「Int」、「Prop」、及び「Tot」と略記)の両方の説明をまず検討した。バイオマーカー水準は、Allred点数化システムを用いて検討した。Allred点数化システムによって、免疫組織化学によってモニターされるようなバイオマーカーの発現の測定が可能である。免疫組織化学によって染色される細胞の%比率(0~5の尺度)及びその染色強度(0~3の尺度)を考慮し、8という起こり得る合計点をもたらす。次に、生存時間は、脂肪日または最後の追跡調査日に対する生検日として定義されるコックス比例ハザードモデルを用いてモデル化した。一変量モデルをまず検討した後、多変量モデルを検討して、生存を最も予測する因子を判定した。変数選択増減法を用いて多変量モデルを構築し、また、起こり得る作用の改変についてさらに検討した。本発明者らはまた、2つの方法を用いて各バイオマーカーを二分した。すなわち、1)生存時間によって対象を「最良に」分離することがわかっている、ノンパラメトリック回帰ツリーによって示唆される切断点、及び2)分布における明らか分離が存在する目視検査によるものである。最後に、本発明者らは、ロジスティック回帰モデルを用いて、局所腫瘍制御障害の予測的なバイオマーカー及び臨床的特徴がどのようであるかを検討した。統計的有意性をすべての分析について0.05の水準へ設定した。
【0108】
(結果)
合計133名の死亡した肺癌患者が本分析に含まれた。全患者のうちの生存時間の中央値は1.5年であった。大部分の患者は白人男性であり、ほとんどが治療的放射線治療を受け、3期と診断され、現役の喫煙者であった(表2)。バイオマーカーの発現パターンは大いに変化した。ALDH1A1、CD68、ヒアルロナン、及びビメンチンは、低値を有する傾向があったのに対し、βカテニン、CD44、MFG_E8及びMMP_9は高値を有する傾向があった(図1図8を参照されたい。)。
表2:患者の特徴の説明(症例数=133)
【0109】
一変量生存モデルは、危険における有意差を呈する唯一の患者の特徴が人種であることを示し、ここで、黒人は死亡の危険性が黒人以外のほぼ1.5倍大きかった(p値=0.038、表3)。追加的に、バイオマーカー水準による生存の差の粗概算値は、より高水準のCD68が統計的に有意なより高い死亡危険性と関連していることを示した。すなわち、CD68 Propにおける1単位の増加は、死亡の危険性を49%ほど高めたのに対し、CD68 Totにおける1単位の増加は、死亡の危険性を25%ほど高めた(Prop及びTotそれぞれに対するp値=0.008、p値=0.02)。さらに、わずかに有意な保護的作用がMMP_9について観察された(Prop及びTotそれぞれに対するp値=0.05、p値=0.054)。回帰ツリーを基にした各バイオマーカーについての最適切断点法を用いた場合、CD68群及びVIM群は生存との関係を示し、MFG_E8に関するあるわずかな有意性があった。目視検査によって判定した切断点を用いた場合、MFG_E8群は、生存と関係していた。これらのプロットにおいて、CD68(Prop及びTot)及びVIM(Prop及びTot)は両方とも危険が増大したのに対し、MFG_E8は危険が低下した。
表3:一変量生存概算値

【0110】
表4は、変数選択増減法を用いて構築された最終的な多変量モデルの結果を示す。患者全員の特徴及び24のバイオマーカー測定結果は、モデルの算入に適格であった。モデルに入れること及びモデルに保有されることの両方に必要とされる有意水準は、0.05であった。このモデル選択手順は、モデルにおけるCD68 Prop及び人種しか保有しておらず、これら2つの共変数が、考慮された変数全部のうちで生存成績を最も予測していることを示した。
表4:最終的な生存モデル
【0111】
バイオマーカー内の相関が高いので(Int、Prop及びTotの3つの異なる基準を比較した場合)、同じバイオマーカーの複数の測定結果の型が情報の冗長性によりモデルに保有されるであろうことはありそうにないことは特筆されるべきである。
【0112】
(局所腫瘍制御についてのバイオマーカーの予測能力)
本発明者らはまた、バイオマーカーが、臨床的特徴とともに、局所腫瘍制御障害を予測するかどうかを判定した。本発明者らは、予測能力の尺度としてROC(受け手操作特徴)曲線下面積(AUC)を用い、ここで、ROC曲線は、ロジスティック回帰モデル由来の種々の確率切断点から構築される。0.5というAUCは、「無作為な機会より良好なものはない」ことを示し、1というAUCは「完全な予測」を示す。表5に見られるように、腫瘍型、CD44、及びMFG_E8がすべて、無作為な機会の予測能力よりも有意に良好であった。CD44及び扁平上皮腫瘍は、局所腫瘍制御障害についての危険因子であったのに対し、MFG_E8は保護的作用を有していた。局所腫瘍制御障害のより予測的なモデルを見出すために、本発明者らは次に、これら3つの因子のどの組み合わせが結果的に最大のAUCを生じるかを判定した。組み合わされた変数CD44(Tot)、MFG_E8(Prop)及び腫瘍型は結果的に、AUC0.74を生じた(p値0.001未満、95%信頼区間=(0.63、0.85))。この多変量モデル由来のROC曲線は図9に見ることができる。
表5

【0113】
本発明者らは次に、局所腫瘍制御障害についての「検査」として作用するよう、高い感度及び高い特異性の両方を呈するこのROC曲線上の確率切断点を選択した。本発明者らは、感度及び特異性の両方が少なくとも0.5であることを必要としたので、高い感度を上方重み付けすることによって高い感度に対するより大きな受容性を与えた。このことは結果的に、21%の確率切断点を生じ、これは、感度82%、及び特異性55%に相当した。各腫瘍型について、この確率切断点を用いた正及び負の検査に対応するCD44 Tot及びMFG_E8 Propの値は、図10及び図11に見ることができる。
【0114】
(2期及び3期の患者についての亜群分析)
感度分析として、患者の特徴及びバイオマーカー水準についての一変量生存概算値を、2期及び3期の患者間でのみでも再算出した(結果は非表示)。この分析において、統計的有意性を達成する共変数は人種であった(p値=0.018)。
【0115】
本実施例は、133名の死亡した肺癌患者のうち、CD68発現が死亡の危険性の増大と関係していたが、MMP_9発現は死亡の危険性の低下と関連していたことを示す。生存成績を最も予測する患者の特徴は、CD68及び人種であった。CD44、MFG_ER、及び腫瘍型は、局所腫瘍制御障害を予測した。
【0116】
本明細書に説明される実施例及び実施形態が実例となる目的のためにのみあるのであって、その点における種々の改変または変更が当業者に対して示唆され、ならびに本出願の精神及び範囲ならびに添付の特許請求の範囲の範囲内に含まれるべきであることは理解される。本明細書に引用された公表物、特許、特許出願、及び配列受入番号は、すべての目的のためにこれらの全体が参照により本明細書により組み込まれる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
【配列表】
2022106730000001.app
【手続補正書】
【提出日】2022-04-28
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電離放射線を用いた治療のための候補としての対象を識別する方法であって、
(a)前記対象由来の腫瘍検体における2つ以上のバイオマーカーの発現水準を判定し、この中で、前記1つ以上のバイオマーカーは、CD44、MMP9、ALDH1A1、ビメンチン、ヒアルロナン、βカテニン、MFG-E8及びCD68からなる群から選択されること、
(b)前記2つ以上のバイオマーカーの発現水準を正常組織検体における発現水準と比較することと
を含み、この中で、前記正常組織検体における発現水準と比較して改変される腫瘍検体における前記2つ以上のバイオマーカーの発現水準は、電離放射線を用いた治療のための候補としての対象を識別する、前記方法。
【請求項2】
正常組織検体における発現水準と比較して、前記バイオマーカーのうちの少なくとも1つの発現水準が高くなっており、または前記バイオマーカーのうちの少なくとも1つの発現水準が低くなっており、または前記バイオマーカーのうちの少なくとも1つの発現水準が高くなっておりかつ前記バイオマーカーのうちの少なくとも1つの発現水準が低くなっている場合、前記2つ以上のバイオマーカーの発現水準は改変される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記2つ以上のバイオマーカーの発現水準は、ランク分けまたは重み付けされている、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記バイオマーカーは、遺伝子、RNA、またはタンパク質である、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記治療はさらに、前記腫瘍を放射線増感剤と接触させることを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記治療はさらに、TGF-βシグナル伝達を阻害する化合物を前記対象へ投与することを含む、請求項に記載の方法。
【請求項7】
腫瘍を有する対象を治療する方法であって、
正常組織検体における発現水準と比較して改変された腫瘍検体における2つ以上のバイオマーカーの発現水準を有するものとして選択された対象へ、電離放射線を投与し、この中で、前記2つ以上のバイオマーカーは、CD44、MMP9、ALDH1A1、ビメンチン、ヒアルロナン、βカテニン、MFG-E8及びCD68からなる群から選択され、 それにより、前記対象における前記腫瘍を治療すること
を含む、前記方法。
【請求項8】
正常組織検体における発現水準と比較して、前記バイオマーカーのうちの少なくとも1つの発現水準が高くなっており、または前記バイオマーカーのうちの少なくとも1つの発現水準が低くなっており、または前記バイオマーカーのうちの少なくとも1つの発現水準が高くなっておりかつ前記バイオマーカーのうちの少なくとも1つの発現水準が低くなっている場合、前記2つ以上のバイオマーカーの発現水準が改変される、請求項に記載の方法。
【請求項9】
前記バイオマーカーは、タンパク質またはRNAである、請求項に記載の方法。
【請求項10】
前記治療はさらに、前記腫瘍を放射線増感剤と接触させることを含む、請求項に記載の方法。
【請求項11】
前記治療はさらに、TGF-βシグナル伝達を阻害する化合物を前記対象へ投与することを含む、請求項に記載の方法。
【請求項12】
腫瘍を有する対象のための治療を選択するための方法であって、
(a)前記対象由来の腫瘍検体における2つ以上のバイオマーカーの発現水準を判定し、この中で前記2つ以上のバイオマーカーは、CD44、MMP9、ALDH1A1、ビメンチン、ヒアルロナン、βカテニン、MFG-E8及びCD68からなる群から選択されること、
(b)前記2つ以上のバイオマーカーの発現水準を正常組織検体における発現水準と比較すること、ならびに
前記2つ以上のバイオマーカーの発現水準が前記正常組織検体における発現水準と比較して改変される場合、治療を選択すること
を含む、前記方法。
【請求項13】
正常組織検体における発現水準と比較して、前記バイオマーカーのうちの少なくとも1つの発現水準が高くなっており、または前記バイオマーカーのうちの少なくとも1つの発現水準が低くなっており、または前記バイオマーカーのうちの少なくとも1つの発現水準が高くなっておりかつ前記バイオマーカーのうちの少なくとも1つの発現水準が低くなっている場合、前記2つ以上のバイオマーカーの発現水準が改変される、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記治療は、電離放射線を前記腫瘍へ投与することを含む、請求項12に記載の方法。
【請求項15】
前記治療はさらに、前記腫瘍を放射線増感剤と接触させることを含む、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記治療はさらに、TGF-βシグナル伝達を阻害する化合物を前記対象へ投与することを含む、請求項14に記載の方法。
【請求項17】
CD44、MMP9、ALDH1A1、ビメンチン、ヒアルロナン、βカテニン、MFG-E8及びCD68からなる群から選択されるバイオマーカーの発現を検出することのできる試薬を含む、キット。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0116
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0116】
本明細書に説明される実施例及び実施形態が実例となる目的のためにのみあるのであって、その点における種々の改変または変更が当業者に対して示唆され、ならびに本出願の精神及び範囲ならびに添付の特許請求の範囲の範囲内に含まれるべきであることは理解される。本明細書に引用された公表物、特許、特許出願、及び配列受入番号は、すべての目的のためにこれらの全体が参照により本明細書により組み込まれる。
本発明のまた別の態様は、以下のとおりであってもよい。
〔1〕対象における腫瘍を治療するための方法であって、CD44、MMP9、ALDH1A1、ビメンチン、ヒアルロナン、βカテニン、MFG-E8及びCD68からなる群から選択されるバイオマーカーの水準が腫瘍環境において改変される場合、標準的な放射線治療プロトコルを改変することを含む、前記方法。
〔2〕バイオマーカーCD68の水準が前記腫瘍環境において高くなっている、前記〔1〕に記載の方法。
〔3〕バイオマーカーCD44の水準が前記腫瘍環境において高くなっている、前記〔1〕に記載の方法。
〔4〕前記腫瘍環境においてバイオマーカーCD44の水準が高くなっておりかつMFG-E8の水準が低くなっている、前記〔1〕に記載の方法。
〔5〕前記標準的な放射線治療プロトコルは、前記腫瘍へ投与された電離放射線の線量を上げることによって改変される、前記〔1〕に記載の方法。
〔6〕前記標準的な放射線治療プロトコルは、少分割照射によって改変される、前記〔1〕に記載の方法。
〔7〕前記標準的な放射線治療プロトコルは、多分割照射によって改変される、前記〔1〕に記載の方法。
〔8〕前記治療はさらに、抗癌薬を前記対象へ投与することを含む、前記〔1〕に記載の方法。
〔9〕前記抗癌薬は、化学療法薬、放射線増感剤、または免疫調節薬である、前記〔8〕に記載の方法。
〔10〕TGF-β阻害薬を前記対象へ投与することをさらに含む、前記〔1〕に記載の方法。
〔11〕前記TGF-β阻害薬は、TGF-βの機能を中和または阻害する抗体または小分子である、前記〔10〕に記載の方法。
〔12〕前記TGF-β阻害薬はTGF-βの生成を阻害する、前記〔10〕に記載の方法。
〔13〕腫瘍を治療することを必要とする対象における腫瘍を治療するための方法であって、
(a)前記対象由来の腫瘍検体における2つ以上のバイオマーカーの発現水準を判定し、この中で、前記2つ以上のバイオマーカーは、CD44、MMP9、ALDH1A1、ビメンチン、ヒアルロナン、βカテニン、MFG-E8及びCD68からなる群から選択されること、
(b)前記2つ以上のバイオマーカーの発現水準を正常組織検体における発現水準と比較すること、ならびに
前記2つ以上のバイオマーカーの発現水準が前記正常組織検体における発現水準と比較して改変された場合、前記腫瘍を治療すること
を含む、前記方法。
〔14〕正常組織検体における発現水準と比較して、前記バイオマーカーのうちの少なくとも1つの発現水準が高くなっている場合、または前記バイオマーカーのうちの少なくとも1つの発現水準が低くなっている場合、または前記バイオマーカーのうちの少なくとも1つの発現水準が高くなっておりかつ前記バイオマーカーのうちの少なくとも1つの発現水準が低くなっている場合、前記2つ以上のバイオマーカーの発現水準が改変される、前記〔13〕に記載の方法。
〔15〕前記治療は、電離放射線を前記腫瘍へ投与することを含む、前記〔13〕に記載の方法。
〔16〕前記治療はさらに、前記腫瘍を放射線増感剤と接触させることを含む、前記〔15〕に記載の方法。
〔17〕前記治療はさらに、TGF-βシグナル伝達を阻害する化合物を前記対象へ投与することを含む、前記〔15〕に記載の方法。
〔18〕前記腫瘍検体は、腫瘍細胞を含む生検である、前記〔13〕に記載の方法。
〔19〕前記バイオマーカーは、遺伝子、RNA、タンパク質である、前記〔13〕に記載の方法。
〔20〕前記発現水準は、RNA及び/またはタンパク質の発現を検出することによって判定される、前記〔13〕に記載の方法。
〔21〕前記検出することは、免疫組織化学的方法、ELISA、ウェスタン分析、HPLC、プロテオミクス、PCR、RT-PCR、ノザン分析、及び核酸またはポリペプチドのマイクロアレイからなる群から選択される、前記〔20〕に記載の方法。
〔22〕前記正常組織検体は、前記腫瘍と同じ組織型由来の非腫瘍細胞を含む、前記〔13〕に記載の方法。
〔23〕前記2つ以上のバイオマーカーの発現水準はランク分けまたは重み付けされる、前記〔13〕に記載の方法。
〔24〕CD44、MMP9、ALDH1A1、ビメンチン、ヒアルロナン、βカテニン、MFG-E8及びCD68の各々の発現水準が判定される、前記〔13〕に記載の方法。
〔25〕前記腫瘍検体由来の少なくとも1つの追加的なバイオマーカーの発現水準を判定することをさらに含む、前記〔24〕に記載の方法。
〔26〕前記2つ以上のバイオマーカーの発現水準が前記正常組織検体における同じバイオマーカーの発現水準と比較して改変される場合、既存の治療及び/または治療計画が改変される、前記〔13〕に記載の方法。
〔27〕前記既存の治療及び/または治療計画は、前記腫瘍へ投与される電離放射線の有効線量を上げるかまたは下げるよう改変される、前記〔26〕に記載の方法。
〔28〕前記有効線量は、前記腫瘍へ投与される電離放射線の線量を上げること及び/または前記腫瘍を放射線増感剤と接触させることによって上がる、前記〔27〕に記載の方法。
〔29〕電離放射線を用いた治療のための候補としての対象を識別する方法であって、
(a)前記対象由来の腫瘍検体における2つ以上のバイオマーカーの発現水準を判定し、この中で、前記1つ以上のバイオマーカーは、CD44、MMP9、ALDH1A1、ビメンチン、ヒアルロナン、βカテニン、MFG-E8及びCD68からなる群から選択されること、
(b)前記2つ以上のバイオマーカーの発現水準を正常組織検体における発現水準と比較することと
を含み、この中で、前記正常組織検体における発現水準と比較して改変される腫瘍検体における前記2つ以上のバイオマーカーの発現水準は、電離放射線を用いた治療のための候補としての対象を識別する、前記方法。
〔30〕正常組織検体における発現水準と比較して、前記バイオマーカーのうちの少なくとも1つの発現水準が高くなっており、または前記バイオマーカーのうちの少なくとも1つの発現水準が低くなっており、または前記バイオマーカーのうちの少なくとも1つの発現水準が高くなっておりかつ前記バイオマーカーのうちの少なくとも1つの発現水準が低くなっている場合、前記2つ以上のバイオマーカーの発現水準は改変される、前記〔29〕に記載の方法。
〔31〕前記2つ以上のバイオマーカーの発現水準は、ランク分けまたは重み付けされている、前記〔29〕に記載の方法。
〔32〕前記バイオマーカーは、遺伝子、RNA、またはタンパク質である、前記〔29〕に記載の方法。
〔33〕前記治療はさらに、前記腫瘍を放射線増感剤と接触させることを含む、前記〔29〕に記載の方法。
〔34〕前記治療はさらに、TGF-βシグナル伝達を阻害する化合物を前記対象へ投与することを含む、前記〔33〕に記載の方法。
〔35〕腫瘍を有する対象を治療する方法であって、
正常組織検体における発現水準と比較して改変された腫瘍検体における2つ以上のバイオマーカーの発現水準を有するものとして選択された対象へ、電離放射線を投与し、この中で、前記2つ以上のバイオマーカーは、CD44、MMP9、ALDH1A1、ビメンチン、ヒアルロナン、βカテニン、MFG-E8及びCD68からなる群から選択され、 それにより、前記対象における前記腫瘍を治療すること
を含む、前記方法。
〔36〕正常組織検体における発現水準と比較して、前記バイオマーカーのうちの少なくとも1つの発現水準が高くなっており、または前記バイオマーカーのうちの少なくとも1つの発現水準が低くなっており、または前記バイオマーカーのうちの少なくとも1つの発現水準が高くなっておりかつ前記バイオマーカーのうちの少なくとも1つの発現水準が低くなっている場合、前記2つ以上のバイオマーカーの発現水準が改変される、前記〔35〕に記載の方法。
〔37〕前記バイオマーカーは、タンパク質またはRNAである、前記〔35〕に記載の方法。
〔38〕前記治療はさらに、前記腫瘍を放射線増感剤と接触させることを含む、前記〔35〕に記載の方法。
〔39〕前記治療はさらに、TGF-βシグナル伝達を阻害する化合物を前記対象へ投与することを含む、前記〔35〕に記載の方法。
〔40〕腫瘍を有する対象のための治療を選択するための方法であって、
(a)前記対象由来の腫瘍検体における2つ以上のバイオマーカーの発現水準を判定し、この中で前記2つ以上のバイオマーカーは、CD44、MMP9、ALDH1A1、ビメンチン、ヒアルロナン、βカテニン、MFG-E8及びCD68からなる群から選択されること、
(b)前記2つ以上のバイオマーカーの発現水準を正常組織検体における発現水準と比較すること、ならびに
前記2つ以上のバイオマーカーの発現水準が前記正常組織検体における発現水準と比較して改変される場合、治療を選択すること
を含む、前記方法。
〔41〕正常組織検体における発現水準と比較して、前記バイオマーカーのうちの少なくとも1つの発現水準が高くなっており、または前記バイオマーカーのうちの少なくとも1つの発現水準が低くなっており、または前記バイオマーカーのうちの少なくとも1つの発現水準が高くなっておりかつ前記バイオマーカーのうちの少なくとも1つの発現水準が低くなっている場合、前記2つ以上のバイオマーカーの発現水準が改変される、前記〔40〕に記載の方法。
〔42〕前記治療は、電離放射線を前記腫瘍へ投与することを含む、前記〔40〕に記載の方法。
〔43〕前記治療はさらに、前記腫瘍を放射線増感剤と接触させることを含む、前記〔42〕に記載の方法。
〔44〕前記治療はさらに、TGF-βシグナル伝達を阻害する化合物を前記対象へ投与することを含む、前記〔42〕に記載の方法。
〔45〕CD44、MMP9、ALDH1A1、ビメンチン、ヒアルロナン、βカテニン、MFG-E8及びCD68からなる群から選択されるバイオマーカーの発現を検出することのできる試薬を含む、キット。
【外国語明細書】