(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022106787
(43)【公開日】2022-07-20
(54)【発明の名称】PUFAを含有する植物性脂質の改質
(51)【国際特許分類】
C12N 5/10 20060101AFI20220712BHJP
A01H 6/20 20180101ALI20220712BHJP
C12N 15/09 20060101ALI20220712BHJP
A23K 20/158 20160101ALI20220712BHJP
C12N 15/54 20060101ALN20220712BHJP
A23D 9/02 20060101ALN20220712BHJP
【FI】
C12N5/10
A01H6/20 ZNA
C12N15/09 Z
A23K20/158
C12N15/54
A23D9/02
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2022067353
(22)【出願日】2022-04-15
(62)【分割の表示】P 2017525951の分割
【原出願日】2015-11-13
(31)【優先権主張番号】62/079,622
(32)【優先日】2014-11-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】62/234,373
(32)【優先日】2015-09-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】512005634
【氏名又は名称】ビーエーエスエフ プラント サイエンス カンパニー ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】特許業務法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ゼンガー,トラルフ
(72)【発明者】
【氏名】アンドレ,カール
(57)【要約】 (修正有)
【課題】エイコサペンタエン酸及び/又はドコサヘキサエン酸等の多価不飽和脂肪酸を含有する植物性脂質のアラキドン酸の含有率を低減するための材料及び植物性組成物を提供する。
【解決手段】デルタ-5デサチュラーゼ遺伝子を含むトランスジェニックセイヨウアブラナ(Brassica napus)植物の種子から抽出した脂質組成物、又はトランスジェニックセイヨウアブラナ植物の種子を提供する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エイコサペンタエン酸(EPA)及びドコサヘキサエン酸(DHA)、並びに任意選択でアラキドン酸(ARA)を含む、抽出した植物性脂質組成物であって、
a)EPAの含有率がARAの含有率より少なくとも5%高く、及び/又は
b)EPA+DHAの合計含有率がARAより少なくとも7%高く、及び/又は
c)ARAの含有率が4%未満であり、EPAの含有率が7%を超え、且つDHAの含有率が2%を超える、
前記組成物。
【請求項2】
エイコサペンタエン酸(EPA)及びドコサヘキサエン酸(DHA)、並びに任意選択でアラキドン酸(ARA)を含む脂質を含む、植物又はその部分であって、
a)EPAの含有率がARAの含有率より少なくとも5%高く、及び/又は
b)EPA+DHAの合計含有率がARAより少なくとも7%高く、及び/又は
c)ARAの含有率が4%未満であり、EPAの含有率が7%を超え、且つDHAの含有率が2%を超える、
前記植物又はその部分。
【請求項3】
エイコサペンタエン酸(EPA)及びドコサヘキサエン酸(DHA)及びアラキドン酸(ARA)を含む脂質を含む、植物又はその部分であって、前記植物又はその部分の成長時に、好ましくはEPA及び/又はDHAの含有率が増大しながらARAの含有率が低下する、前記植物又はその部分。
【請求項4】
a)デルタ-5エロンガーゼ遺伝子の発現が後期種子発生段階中に維持されるか又は増大するようなプロモーターの制御下のデルタ-5エロンガーゼ遺伝子、及び/又は
b)デルタ-5デサチュラーゼ遺伝子の発現が後期種子発生段階中に低減するか又は抑制されるようなプロモーターの制御下のデルタ-5デサチュラーゼ遺伝子、
を含む核酸を含む、請求項2又は3記載の植物。
【請求項5】
アマナズナ属又はアブラナ属に属する、請求項2~4のいずれか1項記載の植物。
【請求項6】
請求項2~5のいずれか1項記載の植物の種子。
【請求項7】
a)少なくとも脂質のARA含有率が低下し、且つ好ましくは脂質のEPA及び/又はDHA含有率が増大するまで、請求項2~5のいずれか1項記載の植物を成長させるステップ、及び
b)前記植物又はその部分を採取するステップ、及び
c)採取した材料から脂質組成物を抽出して、前記脂質組成物を入手するステップ、
を含む方法によって入手可能な又は入手された植物性脂質組成物。
【請求項8】
前記方法が前記脂質組成物を入手するために、抽出した脂質を、ゴム質除去、脱臭、漂白、脱色、乾燥、不凍処理及び/又は分別することをさらに含む、請求項7記載の植物性脂質組成物。
【請求項9】
請求項1又は8記載の脂質組成物を含む食料品又は飼料。
【請求項10】
植物性脂質組成物を改変する方法であって、請求項2~5のいずれか1項記載の植物を成長させ、エイコサペンタエン酸(EPA)及びドコサヘキサエン酸(DHA)及びアラキドン酸(ARA)を含む脂質を生成するステップを含み、前記成長及び脂質生成のステップは、好ましくはEPA及び/又はDHAの含有率が増大しながら、ARAの含有率が低下するまで続けられる、前記方法。
【請求項11】
植物性脂質組成物を生成する方法であって、
a)請求項2~5のいずれか1項記載の植物を成長させるステップ、
b)脂質のARA含有率が低下し、且つ好ましくは脂質のEPA及び/又はDHA含有率が増大したとき、前記植物又はその部分を採取するステップ
を含む、前記方法。
【請求項12】
ARAが少なくとも0.5重量%、好ましくは最大で4重量%~最大で3.5重量%減少し、一方好ましくはEPAが少なくとも1重量%、好ましくは少なくとも6重量%~少なくとも7重量%増大する、請求項10又は11記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる2014年11月14日に出願された米国仮特許出願第62/079622号、及び2015年9月29日に出願された米国仮特許出願第62/234373号の優先権を主張するものである。
【0002】
本発明は一般に、PUFAを含有する植物性脂質の改質に関する。本文脈では、本発明は特に、そのような改質のための植物及び植物材料に関するものであり、植物は脂肪性種子植物であることが好ましい。植物の部分に関して、本発明は特に、そのような植物の種子及び好ましくは脂肪性種子植物の種子に関する。さらに本発明は、本発明の改質方法によって入手可能な又は入手された植物性組成物、及びそのような脂質組成物を含む食料品又は飼料に関する。
【背景技術】
【0003】
多価不飽和脂肪酸(「PUFA」)が健康上の利点をもたらすことは一般に認められている。そのような状況において、特にEPA及びDHAが切望されており、例えば心臓血管又は神経系の病状又は疾患を軽減するため、それらは食品サプリメントとして使用される。多価不飽和脂肪酸は現在主に魚油から得られているが、これはなぜなら、野生の植物は、十分な量の多価不飽和脂肪酸、特にEPA及びDHAを生成するのに必要な酵素を欠失しているためである。植物、特に脂肪性種子植物において、多価不飽和脂肪酸を生成する取り組みがなされ続けてきた。
【0004】
EPA及びDHAの生成は、脂肪酸がデサチュラーゼ及びエロンガーゼにより処理されさらに長鎖の多くの不飽和脂肪酸が生成する代謝経路である。この経路図はWO2006/012325、
図9中、及びWO2005/083093、
図1に見出すことができる。この経路に関与するデサチュラーゼ及びエロンガーゼは、一般に、オメガ-3多価不飽和脂肪酸とオメガ-6多価不飽和脂肪酸の両方と反応する。一般にEPA及びDHAの生成における1つの中間体はアラキドン酸である。この多価不飽和脂肪酸は一般に、その炎症プロセスとの関与のため、食品組成物、食料品及び飼料において望ましくない。したがって、EPA及び/又はDHAの含有率が高くアラキドン酸の含有率が低い組成物を得ることが一般に望ましい。しかしながら、アラキドン酸はDHAの生成における代謝産物であり、アラキドン酸はオメガ-3デサチュラーゼによりEPAに及びEPAから転換され得るので、一般にトランスジェニック植物の代謝におけるアラキドン酸の付随的生成を回避することはできない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
したがって本発明の目的は、EPA及び/又はDHAを含有する脂質組成物中の、アラキドン酸の含有率を低減するための材料及び方法を提供することである。詳細には本発明の目的は、植物脂質組成物中、好ましくは脂肪性種子植物から入手可能な又は入手された脂質組成物中の、アラキドン酸の含有率を低減するための材料及び方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
したがって本発明は、
エイコサペンタエン酸(EPA)及びドコサヘキサエン酸(DHA)、並びに任意選択でアラキドン酸(ARA)を含む、抽出した植物性脂質の組成物であって、
a)EPAの含有率がARAの含有率より少なくとも5%高く、及び/又は
b)EPA+DHAの合計含有率がARAより少なくとも7%高く、及び/又は
c)ARAの含有率が4%未満であり、EPAの含有率が7%を超え、DHAの含有率が2%を超える、組成物を提供する。
【0007】
本発明は、
エイコサペンタエン酸(EPA)及びドコサヘキサエン酸(DHA)、並びに任意選択でアラキドン酸(ARA)を含む脂質を含む、植物又はその部分であって、
a)EPAの含有率がARAの含有率より少なくとも5%高く、及び/又は
b)EPA+DHAの合計含有率がARAより少なくとも7%高く、及び/又は
c)ARAの含有率が4%未満であり、EPAの含有率が7%を超え、DHAの含有率が2%を超える、植物又はその部分も提供する。
【0008】
さらに本発明は、エイコサペンタエン酸(EPA)及びドコサヘキサエン酸(DHA)及びアラキドン酸(ARA)を含む脂質を含む、植物又はその部分であって、植物又はその部分の成長時に、好ましくはEPA及び/又はDHAの含有率が増大しながらARAの含有率が低下する、植物又はその部分を提供する。
【0009】
本発明によって、
a)デルタ-5エロンガーゼ遺伝子の発現が後期種子発生段階中に維持されるか又は増大するようなプロモーターの制御下のデルタ-5エロンガーゼ遺伝子、及び/又は
b)デルタ-5デサチュラーゼ遺伝子の発現が後期種子発生段階中に低減するか又は抑制されるようなプロモーターの制御下のデルタ-5デサチュラーゼ遺伝子
を含む核酸を含む植物も提供する。
【0010】
本発明は、本発明の植物の種子も提供する。
【0011】
さらに本発明は、
a)少なくとも脂質のARA含有率が低下し、好ましくは脂質のEPA及び/又はDHA含有率が増大するまで、本発明の植物を成長させるステップ、及び
b)植物又はその部分を採取するステップ、及び
c)採取した材料から脂質組成物を抽出して、前記脂質組成物を入手するステップ
を含む方法によって入手可能な又は入手された植物性脂質の組成物を提供する。
【0012】
本発明は、本発明の脂質組成物を含む食料品又は飼料も提供する。
【0013】
さらに本発明は、植物性脂質の組成物を改変する方法であって、本発明の植物を成長させ、エイコサペンタエン酸(EPA)及びドコサヘキサエン酸(DHA)及びアラキドン酸(ARA)を含む脂質を生成するステップを含み、成長及び脂質生成のステップは、好ましくはEPA及び/又はDHAの含有率が増大しながらARAの含有率が低下するまで続けられる、方法を提供する。
【0014】
さらに本発明は、植物性脂質の組成物を生成する方法であって、
a)本発明の植物を成長させるステップ、
b)脂質のARA含有率が低下し、好ましくは脂質のEPA及び/又はDHA含有率が増大したとき、植物又はその部分を採取するステップ
を含む、方法を提供する。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明は、抽出した植物性脂質の組成物を提供する。脂質組成物はEPA及びDHAを含む。抽出した植物性脂質の組成物は一般にARAも含み、この化合物は一般に構成要素として望ましくないが、EPA及び/又はDHA生成における中間代謝産物としてのその機能のため通常回避できない。
【0016】
本発明によれば、EPAの含有率はARAの含有率より少なくとも5%高い。別段の指定がない限り、本発明の文脈では、含有率の数値の比較は、各パーセンテージの数値間の差を意味し、このような差は、時にはパーセントポイントの差とも呼ばれる。したがって、例示的な組成物中のEPAの含有率が例えば7重量%であるとき、その組成物中のARAの含有率は脂質組成物の全脂肪酸の最大2重量%である。
【0017】
本発明の詳細な利点は、このようなEPAとARAの間の含有率の大きな差を示す、脂質組成物を生成するための手段を提供することである。本明細書に記載した植物材料又はそこから抽出した脂質組成物で生じたこのような顕著な差を、植物脂質組成物において維持できたことは非常に驚きであった。ARAとEPAの両方がデルタ-5デサチュラーゼである同クラスの酵素によって生成され、典型的にEPAを生成するデルタ-5デサチュラーゼはARAも生成するからである。さらにARA及びEPAは、植物材料中に元来存在するオメガ3デサチュラーゼの作用により互いに転換され、又は多価不飽和脂肪酸生成の目的で植物ゲノム中に導入される。したがって、ARA含有率も増大させずに高いEPA含有率を優先して、植物脂質の組成を調整できないことは予想された。しかしながら、本発明者らは驚くことに、EPAの含有率を増大させるだけでなく、それに応じて望ましくないARAの含有率も増大させない方法を本明細書において発見し提供している。その代わりに本発明は、脂質生成中に既に植物中に存在する脂質のARA含有率を実際に低下させる手段を驚くことに提供する。EPAの連続合成時におけるこのようなARA含有率の低下は以前に観察されておらず、可能であるとは全く予想されていなかった。
【0018】
したがって本発明は、EPA+DHAの合計含有率がARAの含有率より少なくとも7%高い、抽出した植物性脂質の組成物も有利なことに提供する。デルタ-5エロンガーゼ及びデルタ4デサチュラーゼの作用によりEPAがDHAに転換されるので、このような含有率の顕著な差をもたらすのはより一層驚くべきことである。このようにEPAはDHAの生成中に効率よく消費され、したがって本発明の詳細な利点は、EPA、DHA及びARAの含有率の大きな差を維持することである。本明細書で以後記載するように、EPA及びDHAの連続合成中の植物脂質におけるARAの予期せぬ枯渇によって、このような含有率の大きな差を得ることができる。
【0019】
本発明は、ARAの含有率が4%未満であり、EPAの含有率が7%を超える、抽出した植物性脂質の組成物も提供する。さらにより好ましいことに、本発明は、ARAの含有率が4%未満であり、EPAの含有率が7%を超え、DHAの含有率が2%を超える、抽出した植物性脂質の組成物を提供する。このような組成物は、本発明によって提供される植物性脂質の生成の予期せぬメカニズムの非常に有利な結果であり、高いEPA/DHA含有率と低いARA含有率を同時に達成する。
【0020】
多価不飽和脂肪酸(「PUFA」)は当業者に一般的に公知であり、重要な多価不飽和脂肪酸は、如何なる制限もせずオメガ-3、オメガ-6及びオメガ-9系列に分類される。オメガ-6系列の多価不飽和脂肪酸には、例えば非制限的にリノール酸(18:2n-6;LA)、ガンマ-リノレン酸(18:3n-6;GLA)、ジ-ホモ-ガンマ-リノレン酸(C20:3n-6;DGLA)、アラキドン酸(C20:4n-6;ARA)、アドレン酸(ドコサテトラエン酸又はDTAとも呼ばれる;C22:4n-6)及びドコサペンタエン酸(C22:5n-6)がある。オメガ-3系列の多価不飽和脂肪酸には、例えば非制限的にアルファ-リノレン酸(18:3n-3,ALA)、ステアリドン酸(18:4n-3;STA又はSDA)、エイコサトリエン酸(C20:3n-3;ETA)、エイコサテトラエン酸(C20:4n-3;ETA)、エイコサペンタエン酸(C20:5n-3;EPA)、ドコサペンタエン酸(C22:5n-3;DPA)及びドコサヘキサエン酸(C22:6n-3;DHA)がある。多価不飽和脂肪酸は、例えば非制限的に、22個を超える炭素及び4つ以上の二重結合を有する脂肪酸、C28:8(n-3)も含む。オメガ-9系列の多価不飽和脂肪酸には、例えば非制限的にミード酸(20:3n-9;5,8,11-エイコサトリエン酸)、エルカ酸(22:1n-9;13-ドコセン酸)及びネルボン酸(24:1n-9;15-テトラコセン酸)がある。さらなる多価不飽和脂肪酸は、エイコサジエン酸(C20:2d11,14;EDA)及びエイコサトリエン酸(20:3d11,14,17;ETrA)である。
【0021】
本発明の文脈内では、それぞれの脂質組成物において決定した全脂肪酸に対する特定脂肪酸の重量パーセントとして、脂質含有率を表す。試験用の全脂肪酸は、14:0、16:0、16:1n-7、16:1n-9、16:3n-3、17:0、18:0、18:1n-7、18:1n-9、18:2n-6(LA)、18:2n-9、18:3n-3(ALA)、18:3n-6(GLA)、18:4n-3(SDA)、20:0、20:1n-9、20:2n-6、20:2n-9、20:3n-3、20:3n-6(DGLA)、20:3n-9、20:4n-3(ETA)、20:4n-6(ARA)、20:5n-3(EPA)、22:0、22:1n-9、22:2n-6、22:4n-3、22:4n-6、22:5n-3(DPA)、22:5n-6、22:6n-3(DHA)、24:0及び24:1n-9であることが好ましい。
【0022】
本発明の詳細な利点は、他に明らかに記さない限り、本明細書に記載する脂質含有率は1つ以上の脂肪酸の人為的増大又は除去なしで決定され、したがって脂肪酸の脂質含有率が、抽出前の植物又はその部分中とほぼ同じであることである。
【0023】
抽出脂質は、油の少なくとも90重量%、より好ましくは少なくとも95重量%、及びさらにより好ましくは少なくとも約98重量%、又は95重量%~98重量%が脂質である油の型であることが好ましい。このような油は、当業者公知の方法により及び/又は本明細書に記載するように植物材料から入手することができる。
【0024】
本発明によれば、抽出した植物性脂質の組成物は、植物又は植物材料によって生成され、脂質から抽出され、任意選択的に精製される組成物であり、植物又は植物材料においてこのような脂質組成物を生成するのに好ましい方法も本明細書に記載する。抽出した植物性脂質の組成物は、追加の脂肪酸が加えられていない組成物であることが好ましい。本発明の詳細な利点は、EPAの含有率とARAの含有率の間の大きな差を、組成物に、「外来」EPAを加えずに(すなわち、当該抽出物が取得される当該植物又は植物材料によって生産されていないEPAを添加することなく)、実現(又は達成)することができることである。詳細には、EPA及びDHAの含有率は、魚油又は魚油から入手した対応する多価不飽和脂肪酸を加えずに、本発明によって得ることができる。
【0025】
本発明の文脈内で、植物及び対応する植物材料を参照する。植物(及びそれに応じて植物材料)は、アブラナ科のものを指すことが好ましい。本発明の詳細な利点は、本発明の脂質組成物をこの科の植物において生成でき、そこから抽出できることである。このような植物は、特にそれらの種子油において多量の脂肪酸を生成することができるからである。さらに、この科に属する多くの種には農作物用植物として長年の歴史があり、したがってそれらの油の含有物は一般に、消費に有用である及び/又は技術目的若しくは消費目的で入手し精製するのが容易であると考えられる。
【0026】
本発明による植物及び対応する植物材料は、好ましくは種族タイリンミヤコナズナ属(Aethionemeae)、アリーゼ属(Alysseae)、アリソプシド属(Alyssopsideae)、アナスタチセ属(Anastaticeae)、ウシノシタグサ属(Anchonieae)、アフラグム属(Aphragmeae)、アブラナ属(Arabideae)、シオン属(Asteae)、ビスクテレ属(Biscutelleae)、ビボナエ属(Bivonaeeae)、ボーチャレ属(Boechereae)、アブラナ属(Brassiceae)、ブニアド属(Buniadeae)、カレピン属(Calepineae)、カメリネアエ属(Camelineae)、タネツケバナ属(Cardamineae)、ハナダイコン属(Chorisporeae)、コチレアリ属(Cochlearieae)、コルテオカルペ属(Coluteocarpeae)、コンリンギー属(Conringieae)、クレモロベ属(Cremolobeae)、クルシヒマレイ属(Crucihimalayeae)、クジラグサ属(Descurainieae)、ドントステモン属(Dontostemoneae)、エリシーメ属(Erysimeae)、ヒメアラセイトウ属(Euclidieae)、ユーデメ属(Eudemeae)、ユートレメ属(Eutremeae)、ハリモロベ属(Halimolobeae)、ヘリオフィラ属(Heliophileae)、セセリチョウ属(Hesperideae)、イベリス属(Iberideae)、イサチ属(Isatideae)、ケルネ属(Kernereae)、レピジ属(Lepidieae)、マルコルミ属(Malcolmieae)、メガカルパエ属(Megacarpaeeae)、マイクロレピジ属(Microlepidieae)、グンバイナズナ属(Noccaeeae)、ノトスラスパイド属(Notothlaspideae)、オレオフィトン属(Oreophytoneae)、カツオノエボシ属(Physarieae)、ムレゴチョウ属(Schizopetaleae)、スコリアクソン属(Scoliaxoneae)、シジムブリ属(Sisymbrieae)、スメロフスキー属(Smelowskieae)、スティーヴン属(Stevenieae)、ゼリポジ属(Thelypodieae)、グンバイナズナ属(Thlaspideae)、ツリッチ属(Turritideae)又はインシャニ属(Yinshanieae)に属し、及びさらにより好ましくはアモスペルマ属(Ammosperma)、アブラナ属(Brassica)、アブラナ属×ダイコン属(Raphanus)、カキル属(Cakile)、カリキテラ属(Carrichtera)、ミミナグサ属(Ceratocnemum)、コインキア属(Coincya)、コルジロカルプス属(Cordylocarpus)、クランビー属(Crambe)、クランベラ属(Crambella)、ディデスムス属(Didesmus)、エダウチナズナ属(Diplotaxis)、ドーピア属(Douepea)、エナルスロカルパス属(Enarthrocarpus)、エレモフィトン属(Eremophyton)、エルカ属(Eruca)、エルカリア属(Erucaria)、エルカストラム属(Erucastrum)、ユーゾモデンドロン属(Euzomodendron)、フェジア属(Fezia)、フォレヨラ属(Foleyola)、フォルツイニア属(Fortuynia)、グイラオア属(Guiraoa)、ヘミクランベ属(Hemicrambe)、ヘノフィトン属(Henophyton)、ヒルシュフェルディア属(Hirschfeldia)、クレメリエラ属(Kremeriella)、モリカンディア属(Moricandia)、モリシア属(Morisia)、カミツレ属(Muricaria)、キンレンカ属(Nasturtiopsis)、オオアラセイトウ属(Orychophragmus)、シオミドロ属(Otocarpus)、フィソルヒンチャス属(Physorhynchus)、スードエルカリア属(Pseuderucaria)、サイシン属(Psychine)、ラフェナルディア属(Raffenaldia)、ダイコン属、ミヤガラシ属(Rapistrum)、リチドカルパス属(Rytidocarpus)、サヴィニア属(Savignya)、ショウヴィア属(Schouwia)、シナピデンドロン属(Sinapidendron)、シロガラシ属(Sinapis)、スコビア属(Succowia)、トラチストーマ属(Trachystoma)、ベラ属(Vella)又はジラ属(Zilla)に属する。前述の分類の植物はアブラナ科に属し、したがって前記分類学上の科を考慮に入れた前述の利点を容易に示すことができる。
【0027】
さらにより好ましくは、本発明による植物又は植物材料は、アマナズナ属(Camelina)又はアブラナ属(Brassica)の農作物用植物に属する。これらの属の植物は慣例的に農業界で使用されており、それらの油は長年ヒト又は動物の消費活動に使用されている。さらに、これらの属を考慮した農業慣習、例えば菌類、昆虫類及び藻類に対する防除用の材料及び方法が長年設定されている。したがって、このような属における本発明による植物脂質の生成は、農業分野の当業者には非常に容易になる。
【0028】
本発明による植物及びそれに応じて植物材料は、アマナズナ(Camelina sativa)、ブラッシカ・アウチェリ(Brassica aucheri)、ブラッシカ・バレアリカ(Brassica balearica)、ブラッシカ・バレリエリ(Brassica barrelieri)、ブラッシカ・カリナタ(Brassica carinata)、ブラッシカ・カリナタ×セイヨウアブラナ(Brassica napus)、ブラッシカ・カリナタ×ブラッシカ・ラパ(Brassica rapa)、ブラッシカ・クレチカ(Brassica cretica)、ブラッシカ・デフレクサ(Brassica deflexa)、ブラッシカ・デスノッテシ(Brassica desnottesii)、ブラッシカ・ドレパネンシス(Brassica drepanensis)、ブラッシカ・エロンガタ(Brassica elongata)、ブラッシカ・フルチキュロサ(Brassica fruticulosa)、ブラッシカ・グラビナエ(Brassica gravinae)、ブラッシカ・ヒラリオニス(Brassica hilarionis)、アブラナ属ハイブリッド栽培種(Brassica hybrid cultivar)、ブラッシカ・インカナ(Brassica incana)、ブラッシカ・インスラリス(Brassica insularis)、カラシナ(Brassica juncea)、ブラッシカ・マクロカルパ(Brassica macrocarpa)、ブラッシカ・マウロラム(Brassica maurorum)、ブラッシカ・モンタナ(Brassica montana)、セイヨウアブラナ(ナタネ、キャノーラ)、セイヨウアブラナ×ブラッシカ・ラパ、ブラッシカ・ニグラ(Brassica nigra)、ヤセイカンラン(Brassica oleracea)、ヤセイカンラン×シソーラス(Brassica rapa subsp.pekinensis)、ブラッシカ・オキシルヒナ(Brassica oxyrrhina)、ブラッシカ・プロクンベンス(Brassica procumbens)、ブラッシカ・ラパ、ブラッシカ・ラパ×ブラッシカ・ニグラ、ブラッシカ・レパンダ(Brassica repanda)、ブラッシカ・ルペストリス(Brassica rupestris)、ブラッシカ・ルボ(Brassica ruvo)、ブラッシカ・ソウリエイ(Brassica souliei)、ブラッシカ・スピネセンス(Brassica spinescens)、ブラッシカ・トウルネフォルチ(Brassica tournefortii)又はブラッシカ・ビローサ(Brassica villosa)種のいずれかに属することがさらにより好ましく、ブラッシカ・カリナタ、ブラッシカ・カリナタ×セイヨウアブラナ又はセイヨウアブラナ種のいずれかに属することがさらにより好ましく、セイヨウアブラナ種が最も好ましい。セイヨウアブラナ属の植物はナタネ種子又はキャノーラとしても知られており、ヒト又は動物の消費活動に適した、安価で容易に入手可能な植物油及び脂質の供給源として長年の歴史がある。
【0029】
特に好ましい植物及び植物材料は、本明細書に記載するATCC指定番号「PTA-121703」として寄託され、実施例のセクション中に記載したバイナリーT-プラスミドVC-LTM593-1qcz rcの2つの挿入物を含有するトランスジェニックアブラナ品目LBFLFK、又は本明細書にも記載するATCC指定番号「PTA-122340」として寄託されたトランスジェニックアブラナ品目LBFDAUに由来する。これらの品目に関して、EPA及びDHAの非常に高い含有率をARAの低い含有率と共に得ることができる。
【0030】
本発明による同様に好ましい植物及び植物材料は、アマナズナ属、及びさらにより好ましくはアブラナ属の植物の他の生殖質への、これらの品目の繁殖によって得ることもできる。本発明による植物及び植物材料として、本発明によるトランスジェニック品目、特に品目LBLFKとブラッシカ・カリナタ種の植物の交配から生じた植物、さらにより好ましくはセイヨウアブラナへの戻し交配後に生じた植物を使用することが特に好ましい。このような植物に関して、本発明による植物脂質においてEPA及び/又はDHAの非常に高い含有率及びARAの低い含有率を得ることができる。
【0031】
本発明によれば、植物又は植物材料の成長中、好ましくは種子発育中に、ARAの含有率が少なくとも0.5%低下することが好ましい。したがって、前記植物又は植物材料における植物脂質の組成を分析することによって、ARAの含有率のピークを観察することができる。例えば、4%のARAのピーク含有率を観察したとき、ARAの含有率が最大で3.5%に低下した後でのみ植物又は植物材料を採取する。本発明の利点は、脂質生成全体を損ねずに、特にこのような植物又は植物材料から入手可能なEPA及び/又はDHAの量及び含有率を損ねずに、0.5パーセントポイントの脂質のARA含有率の低減を得られることである。
【0032】
本発明の植物又は植物材料が成長するとき、ARA含有率の低減中でさえ脂質のEPA含有率が維持されることが好ましい。脂質のEPA含有率は、ARAの含有率が低減する時間中に少なくとも1%増大することがさらにより好ましい。したがって、例えば植物種子における脂質のEPA含有率が6%~7%増大すると、一方同時に前記植物材料における脂質のEPA含有率は4%~最大で3.5%低下する。本発明の植物又は植物材料が成長するとき、脂質のEPA及びDHAの含有率は、脂質のARA含有率が低減する時間中に増大することがさらにより好ましい。本明細書で前に記したように、代謝中間体ARAの含有率が低減する場合でさえ、本発明がこのようなEPA及びDHAの連続合成を可能にすることは詳細な利点である。
【0033】
前に記載したように、本発明の植物及び植物材料は脂肪性種子植物であることが好ましい。本発明の植物が成長するとき、後期種子発生段階前に植物がその脂質最大ARA含有率に達することが好ましい。したがって、脂質のARA含有率を低減しながら、本発明の植物がその種子内で望ましいEPA及び/又はDHAの量及び含有率をもたらすのに十分な時間が存続する。本発明によれば、種子発生中、開花後25~35日以内に脂質最大ARA含有率に到達し、この場合本発明の植物はセイヨウアブラナ種に属することが好ましい。それに応じて後期種子発生段階は、セイヨウアブラナでは開花後38日に始まることが好ましく、さらにより好ましくは開花後36日に、開花後35日に始まることがさらにより好ましい。当業者は、脂肪性種子植物が多くの花を咲かせること、及び個々の花が異なる日数で花を付け始めることを理解している。したがって、用語「開花後の日数」は、例えば本発明の植物の農地で検出した最初の花ではなく、個々の花の開花後の日数を指す。
【0034】
本発明による植物又は植物材料は、
a)デルタ-5エロンガーゼ遺伝子の発現が後期種子発生段階中に維持されるか又は増大するようなプロモーターの制御下のデルタ-5エロンガーゼ遺伝子、及び/又は
b)デルタ-5デサチュラーゼ遺伝子の発現が後期種子発生段階中に低減するか又は抑制されるようなプロモーターの制御下のデルタ-5デサチュラーゼ遺伝子
を含む核酸を含むことが好ましい。
【0035】
本発明者らは、特にデルタ-5エロンガーゼ活性の発現を注意深く調節することによって、EPA及び/又はDHAの連続合成を維持しながら、脂質のARA含有率の望ましい低減を得ることができることを発見している。
【0036】
本発明によるプロモーターは、種子特異的プロモーターであることが好ましい。当業者が利用可能な任意の手段によって、遺伝子発現を調節することができる。例えば、(当技術分野で「T-DNA」とも呼ばれる)形質転換核酸が、その非常に独特なプロモーター、遺伝子及びターミネーターの配置(一括して「発現カセット」とも呼ばれる)によって望ましい制御パターンを得るように、適切な構築物空間配列を作製することによって遺伝子発現を得ることができる。例えば、プロモーター、及び強力な後期種子発生段階遺伝子発現を示す別のプロモーターの近辺に位置する作動可能に連結したデルタ-5エロンガーゼ遺伝子を含む発現カセットは、後期種子発生段階中のデルタ-5エロンガーゼ遺伝子の発現を維持又は増大することができる。デルタ-5エロンガーゼ遺伝子を含む発現カセットが、組み込みT-DNAの一境界から最大で一発現カセット、及びT-DNAの他境界から少なくとも5発現カセット隔てられている場合、これは特に当てはまる。このように、T-DNAが組み込まれた植物染色体の悪影響からT-DNAの発現カセットを効果的に遮断するほどT-DNAは十分長い。好ましくは、デルタ-5エロンガーゼ遺伝子を含む発現カセットは、T-DNAの一境界から、最大で3、より好ましくは1又は2、及びさらにより好ましくは他の1発現カセット隔てられている。本発明の目的で、この段落内では、発現カセットは多価不飽和脂肪酸の合成に必要な遺伝子、及び特にデサチュラーゼとエロンガーゼをコードする遺伝子を含有することが好ましい。
【0037】
デルタ-5エロンガーゼ遺伝子発現の増大は、少なくとも1つのデルタ-5エロンガーゼ遺伝子が誘導性プロモーターの制御下にあるように、インダクターの作用によって得ることもでき、リプレッサーが初期種子発生段階中にのみ生成されるようなリプレッサーの除去によって増大を得ることもできる。少なくとも1つのデルタ-5エロンガーゼ遺伝子が追加的に存在し、構成性及び強活性プロモーターの制御下で発現され、初期及び中期種子発生段階でも高いデルタ-5エロンガーゼ遺伝子発現を得ることが好ましい。
【0038】
デルタ-5デサチュラーゼ遺伝子発現の低下は、T-DNAの空間配列により、及び/又はインダクターが後期種子発生段階中生成しないか又はより少ない程度で生成される誘導性プロモーターの制御下にデルタ-5デサチュラーゼ遺伝子を配置することにより、及び/又はリプレッサーが主に後期種子発生段階中又はその間のみで生成される抑制可能なプロモーターの制御下にデルタ-5デサチュラーゼ遺伝子を配置することにより、それらに応じて得ることができる。
【0039】
対応するプロモーター、インダクター、及びリプレッサー、及びそれらの相互作用の例は、いずれも参照により本明細書に組み込まれる、Hull et al.,Plant Science114,181-192,Fujiwara et al.,Plant Molecular Biology20,1059-1069及びVilardell et al.,Plant Molecular Biology24,561-569中に記載される。
【0040】
本発明は、本発明の植物の種子も提供する。このような種子は、本発明の新たな植物を植え付けて多価不飽和脂肪酸を生成するのに役立つ。本発明の種子は、本発明の抽出した植物性脂質の組成物を入手するための抽出目的にも役立つ。それぞれの場合、本発明の種子によって前に記載した利益を得ることができる。
【0041】
本発明は、
a)少なくとも脂質のARA含有率が低下し、好ましくは脂質のEPA及び/又はDHA含有率が増大するまで、本発明の植物を成長させるステップ、及び
b)植物又はその部分を採取するステップ、及び
c)採取した材料から脂質組成物を抽出して、前記脂質組成物を入手するステップ
を含む方法によって入手可能な又は入手された植物性脂質の組成物も提供する。
【0042】
このような方法では、本発明によって提供される植物脂質中のARA含有率の有益な低減を得ることができ、対応する植物性脂質の組成物の利益を具体化することができる。
【0043】
この方法は、採取した材料、好ましくは植物種子を保存するステップも任意選択的に含む。本発明の詳細な利点は、植物種子の油及び脂質の量及び組成を損ねずに、植物種子を保存できることである。多価不飽和脂肪酸は非常に酸化の影響を受けやすいので、これは非常に驚くべきことであった。したがって、前記方法中で採取材料として入手した本発明による植物種子を、種子油含有分を消失させず、特に種子脂質及び種子油におけるEPA及び/又はDHAを低下させずに、例えば周囲温度で1カ月又は少なくとも7日間保存できることは有利である。
【0044】
この方法は、シーツ(seats)を脱穀し回収するステップをさらに含むことが好ましい。特にアブラナ属の植物に関して、種子はハウスガター(house gutter)において生成され、したがって望ましくない植物材料から隔てる必要がある。本発明の利点は、種子脂質及び種子油における多価不飽和脂肪酸の量及び組成を損ねずに、例えば脱穀により、望ましくない植物材料から種子を隔てることができることである。
【0045】
方法中、圧力を使用して、及び最も好ましくは周囲温度と比較して低酸素含有量の気圧下で、抽出を実施することが好ましい。抽出は酸素の不在下、例えば保護気圧下で実施することが好ましい。対応する抽出手順は当業者公知であり、幾つかの抽出手順は本明細書中にも記載される。
【0046】
方法中、植物材料の採取及び好ましくは種子の採取は、後期種子発生段階中にある成熟種子に影響を受けることが好ましい。成熟種子において、脂質のARA含有率は低下するのに十分な時間があり、EPA及び/又はDHAの含有率は増大する可能性がある。このような方法を本発明のアブラナ属の植物に適用するとき、採取は好ましくは最初の開花後30日後、植物の最初の開花後好ましくは35日後、さらにより好ましくは40日後、さらにより好ましくは42日後、さらにより好ましくは43日以降、及びさらにより好ましくは44日以降、及びさらにより好ましくは45日以降、及びさらにより好ましくは46日以降に行う。
【0047】
方法は、前記脂質組成物を入手するために、抽出した脂質を、ゴム質除去、脱臭、漂白、脱色、乾燥、不凍処理及び/又は分別することをさらに含むことが好ましい。このようにして、脂質及び/又は油の望ましくない不純物を除去することができる。対応する方法及び技法は当業者公知である。
【0048】
本発明は、本発明の脂質組成物を含む食料品又は飼料も提供する。このような食料品及び飼料は、本発明によって得られる脂質の高いEPA及び/又はDHA含有率及び脂質の低いARA含有率の恩恵を被る。
【0049】
それに応じて本発明は、本発明の植物を成長させエイコサペンタエン酸(EPA)及びドコサヘキサエン酸(DHA)及びアラキドン酸(ARA)を含む脂質を生成するステップを含み、成長及び脂質生成のステップは、好ましくはEPA及び/又はDHAの含有率が増大しながらARAの含有率が低下するまで続けられる、植物性脂質の組成物を改変する方法も提供する。前に記載したように、ARAの含有率は脂質全体の好ましくは少なくとも0.5重量%低下し、最終的には脂質全体の好ましくは最大で4重量%、好ましくは最大で3重量%、及びさらにより好ましくは最大で2.6重量%である。さらに前に記載したように、EPAの含有率は脂質全体の好ましくは少なくとも1重量%増大し、最終的には脂質全体の好ましくは少なくとも7重量%、さらにより好ましくは少なくとも7.5重量%である。
【0050】
本発明は、植物性脂質の組成物を生成する方法であって、
a)本発明の植物を成長させるステップ、
b)脂質のARA含有率が低下し、好ましくは脂質のEPA及び/又はDHA含有率が増大したとき、植物又はその部分を採取するステップ
を含む、方法も提供する。
【0051】
この方法によって、本明細書に記載する利点及び利益を具体化することができる。
【0052】
好ましくは、本発明のアブラナ属植物は、好ましくは少なくとも1エーカーの大きさの商業規模の農地で成長させる。最初の開花後25日後に、発育中の種子及びそれらの脂質のサンプルを本明細書中に記載するように分析する。次の15日間にわたり、好ましくは次の10日間にわたり、少なくとも2つの他の発育中の種子のサンプルを得て、それらの脂質も分析する。このように、脂質ARA含有率のピークを検出することができ、採取を適切に遅らせて、本発明の植物の発育中の種子の脂質におけるARA含有率を低下させEPA及び/又はDHA含有率を増大することができる。
【0053】
さらに本発明は、種子を生成する方法であって、
a)本発明の植物を成長させるステップ、及び
b)脂質のARA含有率が低下し、好ましくは脂質のEPA及び/又はDHA含有率が増大したとき、植物の種子を採取するステップ
を含む、方法を提供する。
【0054】
この方法によって、本明細書に記載する利点及び利益を具体化することができる。
【0055】
本発明は本明細書では以後実施例によってさらに記載し、これらの実施例は例示目的でのみ提供し、本発明又は特許請求の範囲を限定することを目的とするものではない。
【実施例0056】
[実施例1]
植物の成長及びサンプリング
(VC-LTM593-1qcz rcの2コピーを含有する)LBFLFK品目の同型接合体T3植物、(VC-LTM593-1qcz rcの1コピーを含有する)LBFGKN品目の同型接合体T3植物、(VC-LJB2197-1qczとVC-LLM337-1qcz rcのそれぞれ1コピーを含有する)LANPMZ品目の同型接合体T4植物、及び(VC-LJB2755-2qcz rcとVC-LLM391-2qcz rcのそれぞれ1コピーを含有する)LAODDN品目の同型接合体T4植物を農地に植え付けた。これらの品目の植物は、参照により本明細書に組み込まれる優先権書類の実施例中に記載されたように入手し繁殖させた。全ての品目は、オストレオコッカス・タウリ(Ostreococcus tauri)から得たそれをベースとするデルタ-5エロンガーゼをコードする1遺伝子(「d5EloOT_GA3」)を含む。全ての品目は、ヤブレツボカビ属の種(Thraustochytrium sp.)から得たそれをベースとするデルタ-5デサチュラーゼをコードする1遺伝子(「d5DesTc_GA2」)をさらに含有する。品目LBFLFK及びLBFGKNは、別のプロモーター(Conlininの代わりにSETL)の制御下のデルタ-5デサチュラーゼ遺伝子のさらなるコピーを含有する。最初の開花日後の週に、個々の総状花序に、最も新しく開いた花の真上の茎に眼で見える印を付けた。それぞれの総状花序に関して、印の真下の3個の莢は同齢である(即ち、同日に開花した又は授粉された)と考えた。マーキング後14日で開始しマーキング後46日まで、それぞれの総状花序における印の下の3個の莢を様々な時間地点で回収した。それぞれの時間地点で、50の個々の植物から約150の莢をサンプリングした。それぞれ個々の植物は、その寿命中に一度だけサンプリングした。未成熟種子は総状花序からの除去直後に莢から切開し、ドライアイスで即座に凍結させた。種子の齢は総状花序における印の齢によって決定し、15日齢の印の真下から得た3個の莢(及び内部の種子)は開花後15日であると考えたことを意味する。それぞれの品目に関して、それぞれの時間地点で、約150の莢由来の種子を1サンプルにプールした。分析用に、それぞれの種子サンプルを凍結状態で粉末状にし、粉末は等量に分配して、脂質分析及び定量リアルタイムPCRによる遺伝子発現分析の技術用レプリカとして使用した。
【0057】
[実施例2]
植物油の脂質抽出及び脂質分析
Ullman,Encyclopedia of Industrial Chemistry,Bd.A2,S.89-90 und S.443-613,VCH:Weinheim(1985);Fallon,A.,et al.,(1987)「Applications of HPLC in Biochemistry」in:Laboratory Techniques in Biochemistry and Molecular Biology,Bd.17;Rehm et al.(1993) Biotechnology,Bd.3,Kapitel III:「Product recovery and purification」,S.469-714,VCH:Weinheim;Belter,P.A.,et al.(1988) Bioseparations:downstream processing for Biotechnology,John Wiley and Sons;Kennedy,J.F.,und Cabral,J.M.S.(1992) Recovery processes for biological Materials,John Wiley and Sons;Shaeiwitz,J.A.,und Henry,J.D.(1988) Biochemical Separations,in:Ullmann's Encyclopedia of Industrial Chemistry,Bd.B3;Kapitel11,S.1-27,VCH:Weinheim、及びDechow,F.J.(1989) Separation and purification techniques in biotechnology,Noyes Publicationsを含む標準的参考文献中に記載されたように脂質を抽出した。
【0058】
脂質及び脂肪酸の抽出は、Cahoon et al.(1999) Proc.Natl.Acad.Sci.USA96(22)12935-12940及びBrowse et al.(1986) Analytic Biochemistry152:141-145中に記載されたプロトコールなどの、前に引用したプロトコール以外の他のプロトコールを使用して実施できることは認められている。脂質又は脂肪酸の定量及び定性分析に使用したプロトコールは、Christie,William W.,Advances in Lipid Methodology,Ayr/Scotland:Oily Press(Oily Press Lipid Library;2); Christie,William W.,Gas Chromatography and Lipids.A Practical Guide-Ayr,Scotland:Oily Press 1989,Repr.1992,IX,307S.(Oily Press Lipid Library;1);Progress in Lipid Research,Oxford:Pergamon Press,1(1952)-16(1977)u.d.T.:Progress in the Chemistry of Fats and Other Lipids CODEN中に記載される。
【0059】
分析した脂肪酸は、14:0、16:0、16:1n-7、16:1n-9、16:3n-3、17:0、18:0、18:1n-7、18:1n-9、18:2n-6(LA)、18:2n-9、18:3n-3(ALA)、18:3n-6(GLA)、18:4n-3(SDA)、20:0、20:1n-9、20:2n-6、20:2n-9、20:3n-3、20:3n-6(DGLA)、20:3n-9、20:4n-3(ETA)、20:4n-6(ARA)、20:5n-3(EPA)、22:0、22:1n-9、22:2n-6、22:4n-3、22:4n-6、22:5n-3(DPA)、22:5n-6、22:6n-3(DHA)、24:0、24:1n-9であった。
【0060】
脂肪酸の含有率(レベル)は、本発明の全体にわたり、全脂肪酸の合計重量に対する特定脂肪酸の重量のパーセンテージとして表す。
【0061】
[実施例3]
定量リアルタイムPCRのプロトコール
Spectrum Plant Total RNA-KITパーツ番号STRN50(SIGMA-ALDRICH GmbH、ミュンヘン、ドイツ)を使用して、プロトコール「SG-MA_0007-2009RNA isolation」に従いRNAを抽出した。平均して全体RNAの濃度は約450ng/μlであった。260/280比は2.2であり260/230比は2.3であった。
【0062】
qPCR用cDNA合成用に、1μgの合計RNAを供給者のプロトコールに従いDNAsel(DEOXYRIBUNUCLEASE I(SIGMA-Aldrich GmbHからのAMP-D1 Amplification Grade)で処理した。DNAsel処理の後、逆転写反応を、qRT-PCR用SuperScript(商標)III First-Strand Synthesis SuperMix(Invitrogen、カタログ番号11752-250)及びオリゴdTとランダムヘキサマーの組合せを用いて実施し、長さは無関係に全転写産物の全体的且つ均一な出現を確実にした。
【0063】
定量リアルタイムPCRによる転写産物の測定を、当業者には標準的であると考えられる手順を使用して実施した。Livak and Schmittgen(2001)を参照。qPCR反応はシンプレックスTaqMan反応として行った。内在参照遺伝子を室内で単離し、発育中のシロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana)におけるオルソログに対応する観察した転写産物の安定性に基づき、予想した転写産物の安定性により使用した。セイヨウアブラナのオルソログを単離し、その遺伝子、SEQ IDはグリコシル-ホスファチジルイノシトールアミノトランスフェラーゼ経路(GPI)の一部であった。前に記載したcDNA反応混合物は1:4に希釈した。全RNAの25ngに相当する2μlのcDNAを、10μlのqPCR反応混合物あたりJumpStart TAQ ReadyMix(P2893-400RXN SIGMA-Aldrich GmbH)と共に使用した。プライマー/プローブ濃度は、フォワードプライマーとリバースプライマーに関して900nmol、及びTaqManプローブに関して100nmolであった。対象の標的用のTaqManプローブはFAM/BHQ1で標識し、参照遺伝子はYakima Yellow/BHQ1で標識した。
【0064】
それぞれのqPCRアッセイは、プールVC-RTP10690-1qcz_F、鋳型対照なし、3個のRT対照(VC-RTP10690-1qcz_F、VC-LTM593-1qcz rc(約4w)及び同時形質転換体VC-LJB2197-1qcz+VC-LLM337-1qcz rc)からのcDNAを用いた1:1希釈曲線(5希釈ステップ)を含んでいた。それぞれのプールから、cDNAの3個の別個のアリコートを技術的反復値として測定した。ABIPRISM(登録商標)7900配列検出システム(Applied Biosystem)を以下のPCR条件で使用した。
【0065】
初期変性 95℃で300秒間 1サイクル
増幅 95℃で15秒間/60℃で60秒間 40サイクル反復
【0066】
生データは、それぞれ標的と内在参照遺伝子に関するCt値であった。dCt値は引き算:Ct(GOI)-Ct(Ref)によって計算した。参照dCt値をほぼゼロに設定し、GPIと対象の遺伝子の間に差がなかった場合(dCt=0)発現=1であることを意味するとして解釈した。発現倍率は2-dCtに等しかった(この場合dCt=(Ct(GOI)-Ct(Ref)-0)。それぞれのプールから3サンプルを得て幾何学的平均を計算した。希釈曲線の勾配は、増幅効率に関する測定値として、対象の各遺伝子及び内在参照遺伝子(GPI)に関して計算した。表PCR1、表PCR2及び表PCR3は、qPCRアッセイ用に遺伝子を増幅するために使用したプローブ及びプライマーを示す。
【0067】
【0068】
【0069】
【0070】
[実施例4]
実施例3中の手順に従い、開花後の様々な時間で各品目に関して種子中のmRNA濃度を決定した。表QPCR1及び表QPCR2は、それぞれデルタ-5エロンガーゼ遺伝子とデルタ-5デサチュラーゼ遺伝子をコードするmRNAの量を記載する。値のない箇所は、各品目の植物に関して各日に測定値を得られなかったことを示した。mRNA濃度は任意単位で与え、したがって各々表QPCR1及び表QPCR2内で値は相応値であり、絶対値を表内で比較することはできないが、傾向及び動向に関して比較を妥当に行うことができる。
【0071】
表QPCR1は、開花後30日後でさえ品目LBFGKN及びLBFLFKのデルタ-5エロンガーゼ遺伝子の発現のみが継続し、一方で品目LANPMZ及びLAODDNのデルタ-5エロンガーゼ遺伝子の発現は、開花の30日後非常に低減し又はごくわずかに検出可能であったことを示す。表QPCR2は、全ての品目に関して、明らかに検出可能なデルタ-5デサチュラーゼmRNAを全てのアッセイ日に検出できたことを示す。
【0072】
【0073】
【0074】
[実施例5]
脂質組成データ
品目の種子脂質の組成を実施例2中で前に記載したように分析した。表FA1において見ることができるように、品目LANPMZ及びLAODDNの全抽出種子脂質におけるARAの含有率は経時的に有意に低下しなかったが、一方で品目LBFGKN及びLBFLFKの全抽出種子脂質におけるARAの含有率はそれぞれ0.53%及び0.72%低下した。表FA2は、全ての品目に関して全抽出種子脂質におけるEPA含有率が増大し続けたことを示す。表FA3は、全ての品目に関して全抽出種子脂質におけるDHA含有率も増大したことを示す。
【0075】
表FA4は、各品目に関して入手した最終抽出物における種子脂質の組成を要約する。この表は、品目LBFGKN及びLBFLFKに関してのみ、5%を超えるEPA含有率とARA含有率の差を得ることができ、7%を超える(EPA+DHA)含有率とARA含有率の差を得ることができたことを示す。
【0076】
【0077】
【0078】
【0079】
明細書に記載のトランスジェニックセイヨウアブラナ(Brassica napus)植物の種子から抽出した脂質組成物、又はトランスジェニックセイヨウアブラナ植物の種子。