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特開2022-106847多能性幹細胞由来のミクログリアならびにその作製および使用方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022106847
(43)【公開日】2022-07-20
(54)【発明の名称】多能性幹細胞由来のミクログリアならびにその作製および使用方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 5/0786 20100101AFI20220712BHJP
   C12Q 1/04 20060101ALI20220712BHJP
   A61K 35/545 20150101ALI20220712BHJP
   A61P 21/02 20060101ALI20220712BHJP
   A61P 25/16 20060101ALI20220712BHJP
   A61P 25/18 20060101ALI20220712BHJP
   A61P 25/28 20060101ALI20220712BHJP
   A61P 25/00 20060101ALI20220712BHJP
   G01N 33/48 20060101ALI20220712BHJP
   G01N 33/483 20060101ALI20220712BHJP
   C12N 5/10 20060101ALN20220712BHJP
   C12N 5/074 20100101ALN20220712BHJP
   C12N 5/0735 20100101ALN20220712BHJP
【FI】
C12N5/0786
C12Q1/04
A61K35/545
A61P21/02
A61P25/16
A61P25/18
A61P25/28
A61P25/00
G01N33/48 M
G01N33/483 C
C12N5/10
C12N5/074
C12N5/0735
【審査請求】有
【請求項の数】23
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022072376
(22)【出願日】2022-04-26
(62)【分割の表示】P 2018546540の分割
【原出願日】2017-03-03
(31)【優先権主張番号】62/303,301
(32)【優先日】2016-03-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】62/410,645
(32)【優先日】2016-10-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TRITON
2.PLURONIC
(71)【出願人】
【識別番号】514136314
【氏名又は名称】ニューヨーク ステム セル ファウンデーション インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100102978
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 初志
(74)【代理人】
【識別番号】100102118
【弁理士】
【氏名又は名称】春名 雅夫
(74)【代理人】
【識別番号】100160923
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 裕孝
(74)【代理人】
【識別番号】100119507
【弁理士】
【氏名又は名称】刑部 俊
(74)【代理人】
【識別番号】100142929
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 隆一
(74)【代理人】
【識別番号】100148699
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 利光
(74)【代理人】
【識別番号】100128048
【弁理士】
【氏名又は名称】新見 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100129506
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 智彦
(74)【代理人】
【識別番号】100205707
【弁理士】
【氏名又は名称】小寺 秀紀
(74)【代理人】
【識別番号】100114340
【弁理士】
【氏名又は名称】大関 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100121072
【弁理士】
【氏名又は名称】川本 和弥
(72)【発明者】
【氏名】ドウバラス パナギオティス
(72)【発明者】
【氏名】ノッグル スコット
(72)【発明者】
【氏名】チャン スティーブン
(72)【発明者】
【氏名】フォサッティ バレンティナ
(57)【要約】      (修正有)
【課題】多能性幹細胞からミクログリア前駆細胞およびミクログリア細胞を生成するための方法および組成物、そのような方法を用いて生産される細胞、ならびにそのような細胞を用いた処置の方法および薬物スクリーニングの方法を提供する。
【解決手段】(a)CD14+および/またはCX3CR1+ミクログリア前駆細胞の生成につながる骨髄系分化を誘導する条件下でヒト多能性幹細胞を培養する工程、ならびに(b)CD14+および/またはCX3CR1+ミクログリア前駆細胞を、(i)IL-34を含む第1のミクログリア分化培地、または(ii)M-CSFを含む第2のミクログリア分化培地のいずれかにおいて、培養する工程を含み、それによってヒトミクログリア細胞を生成する、ミクログリア細胞を生成するための方法である。
【選択図】図1A
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)CD14+および/またはCX3CR1+ミクログリア前駆細胞の生成につながる骨髄系分化を誘導する条件下でヒト多能性幹細胞を培養する工程、ならびに
(b)CD14+および/またはCX3CR1+ミクログリア前駆細胞を、(i)IL-34を含む第1のミクログリア分化培地、または(ii)M-CSFを含む第2のミクログリア分化培地のいずれかにおいて、培養する工程
を含み、それによってヒトミクログリア細胞を生成する、ミクログリア細胞を生成するための方法。
【請求項2】
工程(b)においてCD14+および/またはCX3CR1+ミクログリア前駆細胞を培養する前に、工程(a)において産生されたCD14+および/またはCX3CR1+ミクログリア前駆細胞を単離する工程をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
工程(a)が、多能性幹細胞の造血前駆細胞への分化を誘導することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
造血前駆細胞の骨髄系前駆細胞への分化を誘導することをさらに含む、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
骨髄系前駆細胞のCD14+および/またはCX3CR1+ミクログリア前駆細胞への分化を誘導することをさらに含む、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
工程(a)が、細胞培養物を、多能性幹細胞の維持または分化に適した無血清培地中で、BMP4を含む第1の組成物と接触させることを含み、細胞培養物を第1の組成物と最初に接触させるときに、細胞培養物が多能性幹細胞を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
細胞培養物を、無血清造血細胞培地中で、bFGF、SCF、VEGF-Aおよびそれらの組合せからなる群より選択される1種または複数種の因子を含む第2の組成物と接触させることをさらに含む、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
細胞培養物を、無血清造血細胞培地中で、bFGF、SCF、VEGF-Aおよびそれらの組合せを含む第2の組成物と接触させることをさらに含む、請求項6に記載の方法。
【請求項9】
細胞培養物を、無血清造血細胞培地中で、SCF、IL-3、TPO、MCSF、FLT3リガンドおよびそれらの組合せからなる群より選択される1種または複数種の因子を含む第3の組成物と接触させることをさらに含む、請求項7に記載の方法。
【請求項10】
細胞培養物を、無血清造血細胞培地中で、SCF、IL-3、TPO、MCSF、FLT3リガンドおよびそれらの組合せを含む第3の組成物と接触させることをさらに含む、請求項7に記載の方法。
【請求項11】
細胞培養物を、無血清造血細胞培地中で、MCSF、FLT3リガンド、GM-CSFおよびそれらの組合せからなる群より選択される1種または複数種の因子を含む第4の組成物と接触させることをさらに含む、請求項9に記載の方法。
【請求項12】
細胞培養物を、無血清造血細胞培地中で、MCSF、FLT3リガンド、GM-CSFおよびそれらの組合せを含む第4の組成物と接触させることをさらに含む、請求項9に記載の方法。
【請求項13】
工程(a)が、
a)細胞培養物を、多能性幹細胞の維持または分化に適した無血清培地中で、BMP4を含む第1の組成物と接触させることであって、細胞培養物を第1の組成物と最初に接触させるときに、細胞培養物が多能性幹細胞を含む、接触させること、
b)細胞培養物を、無血清造血細胞培地中で、bFGF、SCF、およびVEGF-Aを含む第2の組成物と接触させること、
c)細胞培養物を、無血清造血細胞培地中で、SCF、IL-3、TPO、MCSF、およびFLT3リガンドを含む第3の組成物と接触させること、ならびに
d)細胞培養物を、無血清造血細胞培地中で、MCSF、FLT3リガンド、およびGM-CSFを含む第4の組成物と接触させること
を逐次的に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
第1のミクログリア分化培地がGM-CSFをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
第2のミクログリア分化培地が、GM-CSF、NGF-β、CCL2およびそれらの組合せからなる群より選択される1種または複数種の因子をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項16】
第2のミクログリア分化培地が、GM-CSF、NGF-βおよびCCL2をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項17】
CD14+および/またはCX3CR1+ミクログリア前駆細胞が、第1または第2のミクログリア分化培地においておよそ15日間にわたって培養される、請求項1に記載の方法。
【請求項18】
ヒト多能性幹細胞が、骨髄系分化を誘導する条件下でおよそ25~50日間培養される、請求項1に記載の方法。
【請求項19】
細胞培養物を、およそ4日間、第1の組成物と接触させることを含む、請求項6に記載の方法。
【請求項20】
細胞培養物を、およそ2日間、第2の組成物と接触させることを含む、請求項7または請求項8に記載の方法。
【請求項21】
細胞培養物を、およそ8日間、第3の組成物と接触させることを含む、請求項9または請求項10に記載の方法。
【請求項22】
細胞培養物を、およそ11~36日間、第4の組成物と接触させることを含む、請求項11または請求項12に記載の方法。
【請求項23】
多能性幹細胞の分化に適した培地が多能性因子を含まない、請求項6に記載の方法。
【請求項24】
多能性幹細胞の分化に適した培地が、塩化リチウム、GABA、ピペコリン酸、bFGFまたはTGFβ1を含まない、請求項6に記載の方法。
【請求項25】
多能性幹細胞の分化に適した培地が、塩化リチウム、GABA、ピペコリン酸、bFGFまたはTGFβ1を含まないmTeSR1培地である、請求項6に記載の方法。
【請求項26】
前記造血細胞培地がStemPro-34である、請求項7~12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項27】
CD14+および/またはCX3CR1+ミクログリア前駆細胞を単離する工程が、細胞を抗CD14+抗体および/またはCX3CR1+抗体と接触させることを含む、請求項2に記載の方法。
【請求項28】
抗体が結合した細胞を、抗体が結合していない細胞から分離することを含む、請求項27に記載の方法。
【請求項29】
蛍光活性化細胞選別(FACS)を行うことを含む、請求項28に記載の方法。
【請求項30】
細胞を、抗体に直接的または間接的に結合する磁気ビーズと接触させること、および磁石を使って、抗体が結合した細胞を抗体が結合していない細胞から分離することを含む、請求項28に記載の方法。
【請求項31】
培地を交換するときに培養上清中に存在する細胞を収集すること、および収集した細胞を細胞培養物に戻すことを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項32】
工程(a)中に行われる培地交換に関して、培養上清中に存在する細胞を収集すること、および収集した細胞を細胞培養物に戻すことを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項33】
工程(a)の約10日目より後に行われる培地交換に関して、培養上清中に存在する細胞を収集すること、および収集した細胞を細胞培養物に戻すことを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項34】
細胞が第3の組成物または第4の組成物と接触しているときに行われる培地交換に関して、培養上清中に存在する細胞を収集すること、および収集した細胞を細胞培養物に戻すことを含む、請求項13に記載の方法。
【請求項35】
多能性幹細胞が誘導多能性幹(iPS)細胞である、請求項1に記載の方法。
【請求項36】
多能性幹細胞が胚性幹(ES)細胞である、請求項1に記載の方法。
【請求項37】
(a)骨髄系分化を誘導する条件下でヒト多能性幹細胞を培養する工程、
(b)工程(a)において生成したCD14+および/またはCX3CR1+細胞を単離する工程
を含み、該CD14+および/またはCX3CR1+細胞がミクログリア前駆細胞である、ミクログリア前駆細胞を生成するための方法。
【請求項38】
工程(a)が、多能性幹細胞の造血前駆細胞への分化を誘導することを含む、請求項37に記載の方法。
【請求項39】
造血前駆細胞の骨髄系前駆細胞への分化を誘導することをさらに含む、請求項38に記載の方法。
【請求項40】
骨髄系前駆細胞のCD14+および/またはCX3CR1+ミクログリア前駆細胞への分化を誘導することをさらに含む、請求項39に記載の方法。
【請求項41】
工程(a)が、細胞培養物を、多能性幹細胞の維持または分化に適した無血清培地中で、BMP4を含む第1の組成物と接触させることを含み、細胞培養物を第1の組成物と最初に接触させるときに、細胞培養物が多能性幹細胞を含む、請求項37に記載の方法。
【請求項42】
細胞培養物を、無血清造血細胞培地中で、bFGF、SCF、VEGF-Aおよびそれらの組合せからなる群より選択される1種または複数種の因子を含む第2の組成物と接触させることをさらに含む、請求項41に記載の方法。
【請求項43】
細胞培養物を、無血清造血細胞培地中で、bFGF、SCF、VEGF-Aおよびそれらの組合せを含む第2の組成物と接触させることをさらに含む、請求項41に記載の方法。
【請求項44】
細胞培養物を、無血清造血細胞培地中で、SCF、IL-3、TPO、MCSF、FLT3リガンドおよびそれらの組合せからなる群より選択される1種または複数種の因子を含む第3の組成物と接触させることをさらに含む、請求項42に記載の方法。
【請求項45】
細胞培養物を、無血清造血細胞培地中で、SCF、IL-3、TPO、MCSFおよびFLT3リガンドを含む第3の組成物と接触させることをさらに含む、請求項42に記載の方法。
【請求項46】
細胞培養物を、無血清造血細胞培地中で、MCSF、FLT3リガンド、GM-CSFおよびそれらの組合せからなる群より選択される1種または複数種の因子を含む第4の組成物と接触させることをさらに含む、請求項44に記載の方法。
【請求項47】
細胞培養物を、無血清造血細胞培地中で、MCSF、FLT3リガンド、およびGM-CSFを含む第4の組成物と接触させることをさらに含む、請求項44に記載の方法。
【請求項48】
工程(a)が、
a)細胞培養物を、多能性幹細胞の維持または分化に適した無血清培地中で、BMP4を含む第1の組成物と接触させることであって、細胞培養物を第1の組成物と最初に接触させるときに、細胞培養物が多能性幹細胞を含む、接触させること、
b)細胞培養物を、無血清造血細胞培地中で、bFGF、SCF、およびVEGF-Aを含む第2の組成物と接触させること、
c)細胞培養物を、無血清造血細胞培地中で、SCF、IL-3、TPO、MCSF、およびFLT3リガンドを含む第3の組成物と接触させること、ならびに
d)細胞培養物を、無血清造血細胞培地中で、MCSF、FLT3リガンド、およびGM-CSFを含む第4の組成物と接触させること
を逐次的に含む、請求項37に記載の方法。
【請求項49】
ヒト多能性幹細胞が、骨髄系分化を誘導する条件下でおよそ25~50日間培養される、請求項37に記載の方法。
【請求項50】
細胞培養物を、およそ4日間、第1の組成物と接触させることを含む、請求項41または請求項47に記載の方法。
【請求項51】
細胞培養物を、およそ2日間、第2の組成物と接触させることを含む、請求項43、請求項43、または請求項48に記載の方法。
【請求項52】
細胞培養物を、およそ8日間、第3の組成物と接触させることを含む、請求項44、請求項45、または請求項48に記載の方法。
【請求項53】
細胞培養物を、およそ11~36日間、第4の組成物と接触させることを含む、請求項46、請求項47、または請求項48に記載の方法。
【請求項54】
多能性幹細胞の分化に適した培地が多能性因子を含まない、請求項41に記載の方法。
【請求項55】
多能性幹細胞の分化に適した培地が、塩化リチウム、GABA、ピペコリン酸、bFGFまたはTGFβ1を含まない、請求項41に記載の方法。
【請求項56】
多能性幹細胞の分化に適した培地が、塩化リチウム、GABA、ピペコリン酸、bFGFまたはTGFβ1を含まないmTeSR1培地である、請求項41に記載の方法。
【請求項57】
CD14+および/またはCX3CR1+ミクログリア前駆細胞を単離する工程が、細胞を抗CD14+抗体および/またはCX3CR1+抗体と接触させることを含む、請求項37に記載の方法。
【請求項58】
抗体が結合した細胞を、抗体が結合していない細胞から分離することを含む、請求項57に記載の方法。
【請求項59】
蛍光活性化細胞選別(FACS)を行うことを含む、請求項58に記載の方法。
【請求項60】
細胞を、抗体に直接的または間接的に結合する磁気ビーズと接触させること、および磁石を使って、抗体が結合した細胞を抗体が結合していない細胞から分離することを含む、請求項58に記載の方法。
【請求項61】
培地を交換するときに培養上清中に存在する細胞を収集すること、および収集した細胞を細胞培養物に戻すことを含む、請求項37に記載の方法。
【請求項62】
工程(a)の約10日目より後に行われる培地交換に関して、培養上清中に存在する細胞を収集すること、および収集した細胞を細胞培養物に戻すことを含む、請求項37に記載の方法。
【請求項63】
細胞が第3の組成物または第4の組成物と接触しているときに行われる培地交換に関して、培養上清中に存在する細胞を収集すること、および収集した細胞を細胞培養物に戻すことを含む、請求項44~48のいずれか一項に記載の方法。
【請求項64】
多能性幹細胞が誘導多能性幹(iPS)細胞である、請求項37に記載の方法。
【請求項65】
多能性幹細胞が胚性幹(ES)細胞である、請求項37に記載の方法。
【請求項66】
(i)IL-34を含む第1のミクログリア分化培地、または(ii)M-CSFを含む第2のミクログリア分化培地のいずれかにおいて、CD14+および/またはCX3CR1+ミクログリア前駆細胞を培養する工程を含み、それによってヒトミクログリア細胞を生成する、CD14+および/またはCX3CR1+ヒトミクログリア前駆細胞からミクログリア細胞を生成するための方法。
【請求項67】
第1のミクログリア分化培地がGM-CSFをさらに含む、請求項66に記載の方法。
【請求項68】
第2のミクログリア分化培地が、GM-CSF、NGF-β、CCL2およびそれらの組合せからなる群より選択される1種または複数種の因子をさらに含む、請求項66に記載の方法。
【請求項69】
第2のミクログリア分化培地が、GM-CSF、NGF-βおよびCCL2をさらに含む、請求項66に記載の方法。
【請求項70】
CD14+および/またはCX3CR1+ミクログリア前駆細胞が、第1または第2のミクログリア分化培地においておよそ15日間にわたって培養される、請求項66に記載の方法。
【請求項71】
処置を必要とする対象に、請求項1~36または66~70のいずれか一項に記載の方法を使って生成したミクログリア細胞または請求項37~65のいずれか一項に記載の方法を使って生成したミクログリア前駆細胞を投与する工程を含み、それによって対象を処置する、処置の方法。
【請求項72】
対象が、ミクログリア細胞またはミクログリア前駆細胞の欠陥または欠乏と関連する疾患または障害を有する、請求項71に記載の方法。
【請求項73】
対象が、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、アルツハイマー病(AD)、多発性硬化症(MS)、パーキンソン病、レット症候群、スフェロイド形成を伴うびまん性白質脳症、軸索スフェロイド形成を伴う遺伝性びまん性白質脳症、前頭側頭葉変性症(FTLD)、家族性FTLD、統合失調症および自閉症スペクトラム障害からなる群より選択される疾患または障害を有する、請求項71に記載の方法。
【請求項74】
ミクログリア細胞またはミクログリア前駆細胞が、前記対象から得られる体細胞に由来する誘導多能性幹(iPS)細胞から生成される、請求項71に記載の方法。
【請求項75】
a)対象から得られた体細胞から誘導多能性幹(iPS)細胞を生成する工程、
b)請求項1~36または66~70のいずれか一項に記載の方法を使ってiPS細胞からミクログリア細胞を生成する工程、または請求項37~65のいずれか一項に記載の方法を使ってiPS細胞からミクログリア前駆細胞を生成する工程、および
c)前記対象に前記ミクログリア細胞または前記ミクログリア前駆細胞を投与する工程、
d)それによって対象を処置する工程
を含む、処置を必要とする対象を処置する方法。
【請求項76】
対象が、ミクログリア細胞またはミクログリア前駆細胞の欠陥または欠乏と関連する疾患または障害を有する、請求項75に記載の方法。
【請求項77】
対象が、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、アルツハイマー病(AD)、多発性硬化症(MS)、パーキンソン病、レット症候群、スフェロイド形成を伴うびまん性白質脳症、軸索スフェロイド形成を伴う遺伝性びまん性白質脳症、前頭側頭葉変性症(FTLD)、家族性FTLD、統合失調症および自閉症スペクトラム障害からなる群より選択される疾患または障害を有する、請求項76に記載の方法。
【請求項78】
ミクログリア細胞またはミクログリア先駆細胞の欠陥または欠乏と関連する疾患または障害の処置または予防に有用な化合物を同定する方法であって、請求項1~36または66~70のいずれか一項に記載の方法によって生成したミクログリア細胞、または請求項37~65のいずれか一項に記載の方法によって生成したミクログリア前駆細胞を、候補化合物と接触させる工程、および該候補化合物がミクログリア細胞またはミクログリア前駆細胞の前記欠陥または欠乏を改善するかどうかを決定する工程を含む、方法。
【請求項79】
ハイスループット法である、請求項77に記載の方法。
【請求項80】
請求項1~36または66~70のいずれか一項に記載の方法によって生成したミクログリア細胞を候補化合物と接触させる工程、および該候補化合物が、P2RY12 Gタンパク質共役受容体の活性を調節するかどうかを決定する工程を含む、P2RY12 Gタンパク質共役受容体の調節物質を同定する方法。
【請求項81】
ハイスループット法である、請求項79に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本願は、2016年3月3日に出願された米国仮特許出願第62/303,301号および2016年10月20日に出願された米国仮特許出願第62/410,645号の優先権の恩典を主張し、前記仮特許出願の内容は参照により本明細書に組み入れられる。
【0002】
連邦政府の助成による研究に関する記載
本発明は、米国国立衛生研究所によって交付された助成金番号AG046170の下に、米国政府の支援を受けてなされた。米国政府は本発明に一定の権利を有する。
【0003】
参照による組み入れ
参照による組み入れを許す管轄区域に限り、この開示において引用される参考文献はすべて、参照により、その全体が本明細書に組み入れられる(この特許開示において本文に続く括弧内の数字または上付きの数字は、この特許明細書の「参考文献一覧」の項に掲載する番号付きの参考文献を指す)。加えて、本明細書において引用されまたは言及される製品すべてについて、製造元の使用説明書またはカタログが、いずれも参照により本明細書に組み入れられる。参照により本明細書に組み入れられる文書またはそこに含まれる任意の教示内容は、本発明の実施において使用することができる。
【背景技術】
【0004】
発明の背景
ミクログリアは脳の常在性組織特異的マクロファージである。ミクログリアは中枢神経系(CNS)の発生および維持において決定的な役割をいくつか果たす。ミクログリアは、卵黄嚢において原始CD45+CX3CR1-骨髄系前駆体から生じ、それが、二次造血の出現前に、CD45+CX3CR1+ミクログリア前駆体に分化して、発生中の脳に入りこむ。無傷の血液脳関門を持つ健常な成人の脳において、ミクログリアは、循環骨髄由来細胞によって補充されることのない長寿命の自立的集団として存続する。高度に枝分かれしたミクログリア細胞は「静止型」と定義されるが、それらの突起は、恒常性の破綻がないかどうか脳を調べるために絶えず移動しているので、実際には極めて活動的である。
【0005】
ミクログリアは、貪食を使って病原体および/または損傷した細胞もしくは死んだ細胞を排除し、毒性分子、細胞残屑および/またはタンパク質沈着物を除去することで、炎症を減衰させ、組織の再生および修復を促進する。発生中は、ミクログリアが、神経系前駆体の遊走および分化、神経発生ならびにオリゴデンドロサイト発生を促進し、刈り込み(pruning)によってシナプス形成およびシナプス可塑性を調節する。ミクログリアは、サイトカインおよび神経毒性分子を放出することによって、病的な脳の炎症および血液脳関門の破壊の一因になる場合もある。ミクログリアの機能不全は、筋萎縮性側索硬化症(ALS)およびアルツハイマー病(AD)と関連づけられている。ミクログリア細胞の慢性的活性化は、多発性硬化症(MS)およびパーキンソン病の進行の引き金である可能性があり、貪食およびシナプス刈り込みの欠陥は、統合失調症および自閉症スペクトラム障害と関係づけられている。動物実験に基づいてミクログリアの関与があると決定された他の疾患としては、レット症候群、スフェロイド形成を伴うびまん性白質脳症(例えば軸索スフェロイド形成を伴う遺伝性びまん性白質脳症)、および前頭側頭葉変性症(FTLD)、例えば家族性FTLDが挙げられる。
【0006】
ミクログリアに関する我々の知識の大半は齧歯類の研究に由来する。しかし、齧歯類とヒトのミクログリア細胞には、それらの増殖速度、付着性および重要な受容体の発現などに、大きな相違がある。これらの相違と一致して、齧歯類の多能性幹細胞をミクログリアに分化させるために以前に開発されたプロトコールは、ヒト多能性幹細胞では有効でなかった。
【0007】
初代ヒトミクログリア細胞の直接的な分析は、ヒト脳検体の入手可能性、とりわけ健常個体からの入手可能性に制約があるため、厳しく制限されてきた。ヒト多能性幹細胞(PSC)分野の発展は、ヒト多能性幹細胞から多くの異なる分化細胞タイプを生成することを可能にしたが、そのようなヒト幹細胞からミクログリア細胞を生成するための効率のよい再現性ある方法が、当技術分野では依然として必要とされている。本発明はこの必要性に対処する。
【発明の概要】
【0008】
脳の免疫細胞であるミクログリアは、中枢神経系の適正な発生および維持にとって極めて重要であり、数多くの神経学的疾患および障害に関わっている。本発明は、多能性幹細胞からヒトミクログリアを生成させるための、さまざまな新しい改良された方法を提供する。本発明の方法を使用することで、化学合成培地を使って、胚性幹細胞(ES細胞、すなわちESC)からも、誘導多能性幹細胞(iPS細胞、すなわちIPSC)からも、CD14および/またはCX3CR1を発現するミクログリア前駆体が生成する。そのようなミクログリア前駆体は、典型的には、ほぼ25~30日以内に現れ、ほぼ20~25日間にわたって、ほぼ50日目まで生産され続ける。本明細書に規定する方法は、そのようなミクログリア前駆体のさらなる分化も可能にし、このさらなる分化は、運動性の高い突起を有し、多くの典型的ミクログリアマーカーを発現し、サイトカインを放出し、貪食活性を有し、ADPに応答して細胞内Ca2+トランジェントを生じる分枝型ミクログリアの生成をもたらす。これらの方法は、異なる多能性幹細胞(PSC)株にわたって、高い再現性を示す。
【0009】
本発明の主要な局面の一部を以下にまとめる。その他の局面は、この開示の発明の詳細な説明、実施例、図面および特許請求の範囲の各項に記載する。この開示の各項の記載は、他の項と合わせて読解されるものとする。さらにまた、この開示の各項に記載されるさまざまな態様は、多種多様に組み合わせることができ、そのような組合せはすべて、本発明の範囲内に包含されるものとする。
【0010】
いくつかの態様において、本発明は、多能性幹細胞からミクログリア細胞を生成するための方法を提供する。いくつかのそのような態様において、多能性幹細胞は、任意の哺乳動物種から得られる。いくつかの態様において、多能性幹細胞はヒト多能性幹細胞であって、ヒトミクログリア細胞の生成をもたらす。いくつかの態様において、多能性幹細胞は、誘導多能性幹細胞(「iPS細胞」すなわち「iPSC」)または胚性幹細胞(「ES細胞」すなわち「ESC」)のどちらかである。そのような方法は、2つの主要な工程を伴う。第1の工程では、CD14+および/またはCX3CR1+ミクログリア前駆細胞の生成につながる骨髄系分化を誘導する条件下で多能性幹細胞を培養する。第2の工程では、CD14+および/またはCX3CR1+ミクログリア前駆細胞をミクログリア細胞に分化させる。いくつかの態様では、CD14+および/またはCX3CR1+ミクログリア前駆細胞を、(i)IL-34を含む第1のミクログリア分化培地、または(ii)M-CSFを含む第2のミクログリア分化培地のうちのどちらか一方において培養することにより、それらをミクログリア細胞に分化させる。いくつかの態様では、第1のミクログリア分化培地はGM-CSFも含む。いくつかの態様では、第2のミクログリア分化培地は、GM-CSF、NGF-βおよびCCL2からなる群より選択される1種または複数種の因子も含む。例えば、いくつかの態様では、第2のミクログリア分化培地は、GM-CSF、NGF-βおよびCCL2のそれぞれも含む。いくつかの態様では、CD14+および/またはCX3CR1+ミクログリア前駆細胞を、ほぼ15日間にわたって、第1または第2のミクログリア分化培地と接触させる。いくつかの態様では、第1の工程において生成したCD 14+および/またはCX3CR1+ミクログリア前駆細胞は、第2の工程に進む前に単離される。いくつかの態様において、ミクログリア前駆細胞はCD14発現が最大になる時点付近において単離される。
【0011】
いくつかの代替的態様において、本発明は、多能性幹細胞からミクログリア前駆細胞を生成するための方法を提供する。そのような方法は、上述した2つの主要工程のうちの最初の工程を行うことを伴い、任意で、結果として生じたCD14+および/またはCX3CR1+ミクログリア前駆細胞を単離することを伴う。
【0012】
別の代替的態様において、本発明は、ミクログリア前駆細胞からミクログリア細胞を生成するための方法を提供する。そのような方法は、上述した2つの主要工程のうちの2番目の工程を行うことを伴う。
【0013】
(CD14+および/またはCX3CR1+ミクログリア前駆細胞の生成につながる)骨髄系分化を誘導する条件下で多能性幹細胞を培養することを伴う本発明の態様の一部では、段階ごとにサイトカインおよび組織培養培地の組合せを変えて細胞を培養する多工程プロセスを使用する。これらの多工程プロセスにおける工程は、多能性幹細胞から原始血管芽細胞への分化の誘導、および/または原始血管芽細胞から骨髄系前駆体への分化の誘導、および/または骨髄系前駆体からミクログリア前駆体への分化の誘導をもたらしうる。それぞれの細胞表面マーカープロファイルによって定義すると、いくつかの態様において、そのような多工程プロセスは、まず多能性幹細胞からKDR+CD235a+細胞への分化の誘導、次にCD45+CX3CR1-細胞への分化の誘導、そして次にCD45+CX3CR1+CD14+細胞への分化の誘導をもたらしうる。
【0014】
いくつかの態様において、本明細書に規定する、多能性幹細胞からCD14+および/またはCX3CR1+ミクログリア前駆細胞を生成するための方法は、以下の4工程のうちの1つまたは複数を行うことを含む:第1に、細胞培養物を、培養培地中で、BMP4を含む第1の組成物と接触させる工程であって、細胞培養物を第1の組成物と最初に接触させるときに、細胞培養物が多能性幹細胞を含む、工程;第2に、細胞培養物を、造血細胞培地中で、bFGF、SCFおよびVEGFAのうちの1つまたは複数(例えばbFGF、SCFおよびVEGFAのそれぞれ)を含む第2の組成物と接触させる工程;第3に、細胞培養物を、造血細胞培地中で、SCF、IL-3、TPO、MCSFおよびFLT3リガンドのうちの1つまたは複数(例えばSCF、IL-3、TPO、MCSFおよびFLT3リガンドのそれぞれ)を含む第3の組成物と接触させる工程;および第4に、細胞培養物を、造血細胞培地中で、MCSF、FLT3リガンドおよびGM-CSFのうちの1つまたは複数(例えばMCSF、FLT3リガンド、およびGM-CSFのそれぞれ)を含む第4の組成物と接触させる工程。いくつかの態様では、上記4工程のすべてが順に行われる。そのような態様の一部では、これら4工程のうちのどの工程に使用される培地も、無血清培地である。そのような態様の一部では、これら4工程のうちのどの工程に使用される培地も、化学合成培地である。これら4種の組成物において使用される作用物質の例示的な量は、この特許開示の詳細な説明および実施例の項に示す。
【0015】
上記4工程のうちの最初の工程において、いくつかの態様では、幹細胞の維持に適した組織培養培地が使用され、一方、別の態様では、幹細胞の分化に適した組織培養培地が使用される。いくつかの態様では、多能性因子を含まない改変多能性幹細胞維持培地が使用される。いくつかの態様では、多能性因子を含まない培地が使用される。例えば一態様において、上記4工程のうちの最初の工程において使用される培地は、塩化リチウム、GABA、ピペコリン酸、bFGFまたはTGFβ1のいずれをも含まない。例えば一態様では、塩化リチウム、GABA、ピペコリン酸、bFGFまたはTGFβ1のいずれをも含有しない改変「mTeSR1」培地が使用される。上記4工程のうちの最後の3工程では、任意の適切な造血細胞培地を使用することができる。一態様において、造血細胞培地は「StemPro-34」である。
【0016】
本発明は、多能性幹細胞からCD14+および/またはCX3CR1+ミクログリア前駆細胞を生成させるために上述した4工程のそれぞれを行う、一定の例示的なタイミングも提供する。これらの例示的タイミングは、詳細な説明、実施例および図面に記載する。例えばいくつかの態様では、細胞培養物をおよそ4日間、第1の組成物と接触させる。いくつかの態様では、細胞培養物をおよそ2日間、第2の組成物と接触させる。いくつかの態様では、細胞培養物をおよそ8日間、第3の組成物と接触させる。いくつかの態様では、細胞培養物を、およそ11日~36日間またはそれ以上にわたって、第4の組成物と接触させる。
【0017】
いくつかの態様では、上述の、または本明細書の他の箇所に記載する、多能性幹細胞からCD14+および/またはCX3CR1+ミクログリア前駆細胞を生成するための方法を実行する場合、培地変更を行うときに組織培養上清を捨てるのではなく、上清を取っておき、上清中に存在する細胞を回収して、細胞培養物に戻す。これが有利である理由は、多能性幹細胞からミクログリア前駆体への転換中に誘導される重要な細胞タイプのうち一定のものは、細胞培養プレートに付着する細胞の層に存在するのではなく、主として細胞上清中に見いだされることを、本発明者らが発見したことにある。したがっていくつかの態様では、培地を替えるときに、培養上清中に存在する細胞を回収して細胞培養物に戻す。いくつかの態様では、約10日目より後に行われる培地交換に関して、培養上清中に存在する細胞を回収して、細胞培養物に戻す。いくつかの態様では、細胞が第3の組成物または第4の組成物と接触しているときに行われる培地交換に関して、培養上清中に存在する細胞を回収して細胞培養物に戻す。いくつかの態様では、CD45+CX3CR1-細胞集団の出現後に行われる培地交換に関して、培養上清中に存在する細胞を回収して細胞培養物に戻す。
【0018】
いくつかの態様において、本発明は、ミクログリア細胞またはミクログリア前駆細胞、例えば本明細書に記載の方法によって生産されるものを提供する。いくつかの態様において、本発明は、そのような細胞の「実質的に純粋な」集団を提供する。
【0019】
いくつかの態様において、本発明は、CD14+ミクログリア前駆細胞、例えば本明細書に規定する方法によって生産されるものを提供する。いくつかの態様において、本発明は、CX3CR1+ミクログリア前駆細胞、例えば本明細書に規定する方法によって生産されるものを提供する。いくつかの態様において、本発明は、CD14+CX3CR1+ミクログリア前駆細胞、例えば本明細書に規定する方法によって生産されるものを提供する。いくつかの態様において、本発明は、CD14+CX3CR1+CD45+ミクログリア前駆細胞、例えば本明細書に規定する方法によって生産されるものを提供する。
【0020】
いくつかの態様において、本発明は、CD11b、CD11c、CX3CR1、P2RY12、IBA-1、TMEM119、およびCD45からなる群より選択される1種または複数種のマーカーを発現するミクログリア細胞、例えば本明細書に規定する方法によって生産されるものを提供する。
【0021】
いくつかの態様において、本発明は、CD11b+、CD11c+、CX3CR1+P2RY12+CD45+ミクログリア細胞、例えば本明細書に規定する方法によって生産されるものを提供する。
【0022】
いくつかの態様において、本発明は、CD11b+、CD11c+、CX3CR1+P2RY12+CD45+、IBA-1+、TMEM119+ミクログリア、例えば本明細書に規定する方法によって生産されるものを提供する。
【0023】
いくつかの態様において、本発明は、初代ミクログリア細胞より低レベルのCD11b、OLFML3および/またはTMEM119を発現するミクログリア細胞、例えば本明細書に規定する方法によって生産されるものを提供する。
【0024】
いくつかの態様において、本明細書に規定するミクログリア細胞は、分枝型の形態を有し、かつ/または食作用活性を有し、かつ/またはアデノシン二リン酸(ADP)曝露に応答して細胞内Ca2+トランジェントを生じ、かつ/またはサイトカインを放出し、かつ/または初代ミクログリア細胞の転写プロファイルに似た転写プロファイルを有する。
【0025】
本発明の方法を使って生成したミクログリア細胞およびミクログリア前駆細胞は、所望する任意の目的に、例えば限定するわけではないが、研究、薬物スクリーニング、動物モデル(例えばヒト疾患のモデル)、処置方法、それらが放出するサイトカインの(例えばニューロンなどの他の細胞タイプに対する)効果の研究、他の細胞タイプ(例えばニューロン、アストロサイト、オリゴデンドロサイトおよび/または脳内皮細胞)との直接的または間接的共培養、他の細胞タイプ(例えばニューロン、アストロサイト、オリゴデンドロサイトおよび/または脳内皮細胞)を培養するための条件培地の生産、 器官培養および/または3次元組織培養(例えばミニ脳または脳オルガノイド)における生成などにおいて、使用することができる。本明細書に記載するミクログリア細胞およびミクログリア前駆細胞、ならびに/または本明細書に記載の方法を使って生産されるものが、他の任意のミクログリア細胞またはミクログリア前駆細胞を使用することが望ましいまたは望ましいであろう任意の目的に使用できることは、当業者には認識されるであろう。
【0026】
例えばいくつかの態様において、本発明は、本明細書に記載するまたは本明細書に記載の方法を使って生産されるミクログリア細胞またはミクログリア前駆細胞を、それを必要とする対象に投与する工程を含む、処置方法および予防方法を提供する。いくつかの態様において、対象は、ミクログリア細胞またはミクログリア前駆細胞の欠陥または欠乏と関連する疾患または障害を有するか、それを有すると疑われるか、またはそれを発症するリスクを有しうる。そのような疾患および障害として、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、アルツハイマー病(AD)、多発性硬化症(MS)、パーキンソン病、レット症候群、スフェロイド形成を伴うびまん性白質脳症(例えば軸索スフェロイド形成を伴う遺伝性びまん性白質脳症)、前頭側頭葉変性症(FTLD)、例えば家族性FTLD、統合失調症および自閉症スペクトラム障害が挙げられるが、それらに限定されるわけではない。いくつかのそのような方法では、処置に使用されるミクログリア細胞またはミクログリア前駆細胞を、同じ対象に由来する誘導多能性幹細胞から生成させる。すなわち、それは自家細胞である。別のそのような態様では、処置に使用されるミクログリア細胞またはミクログリア前駆細胞を、同じ種の異なる個体(ドナー)から生成させる。すなわち、それは同種異系細胞である。いくつかの態様において、同種異系/ドナー細胞が使用される場合、細胞は対象のMHC/HLAタイプと適合するMHC/HLAタイプを有するドナー個体に由来しうる。
【0027】
別の態様において、本発明は、本明細書に記載するまたは本明細書に記載の方法を使って生産されるミクログリア細胞またはミクログリア前駆細胞を使った薬物スクリーニングの方法、例えば限定するわけではないがハイスループットスクリーニング方法を提供する。例えば一態様において、本発明は、ミクログリア細胞またはミクログリア先駆細胞の欠陥または欠乏と関連する疾患または障害の処置または予防において有用な化合物を同定する方法であって、本明細書に記載するまたは本明細書に記載の方法を使って生成させたミクログリア細胞またはミクログリア前駆細胞を、1種または複数種の候補化合物と接触させる工程、および候補化合物のうちのいずれか1種または複数種がミクログリア細胞またはミクログリア先駆細胞の欠陥または欠乏を改善するかどうかを決定する工程を含む方法を提供する。いくつかの態様において、本発明は、本明細書に記載するミクログリア細胞が発現するまたは本明細書に記載の方法を使って生成させたミクログリア細胞が発現するP2RY12 Gタンパク質共役受容体の調節物質を同定することを目的とするスクリーニング方法を提供する。そのような方法は、そのようなミクログリア細胞を、1種または複数種の候補化合物と接触させる工程、および候補化合物のうちのいずれかがP2RY12 Gタンパク質共役受容体の活性を調節するかどうかを決定する工程を含みうる。
【0028】
別の態様において本発明は、この特許開示の詳細な説明の項においてさらに説明するとおり、本明細書に記載するさまざまな方法を行う際に有用な組織培養培地、組織培養培地添加物、およびさまざまなキットも提供する。
[本発明1001]
(a)CD14+および/またはCX3CR1+ミクログリア前駆細胞の生成につながる骨髄系分化を誘導する条件下でヒト多能性幹細胞を培養する工程、ならびに
(b)CD14+および/またはCX3CR1+ミクログリア前駆細胞を、(i)IL-34を含む第1のミクログリア分化培地、または(ii)M-CSFを含む第2のミクログリア分化培地のいずれかにおいて、培養する工程
を含み、それによってヒトミクログリア細胞を生成する、ミクログリア細胞を生成するための方法。
[本発明1002]
工程(b)においてCD14+および/またはCX3CR1+ミクログリア前駆細胞を培養する前に、工程(a)において産生されたCD14+および/またはCX3CR1+ミクログリア前駆細胞を単離する工程をさらに含む、本発明1001の方法。
[本発明1003]
工程(a)が、多能性幹細胞の造血前駆細胞への分化を誘導することを含む、本発明1001の方法。
[本発明1004]
造血前駆細胞の骨髄系前駆細胞への分化を誘導することをさらに含む、本発明1003の方法。
[本発明1005]
骨髄系前駆細胞のCD14+および/またはCX3CR1+ミクログリア前駆細胞への分化を誘導することをさらに含む、本発明1004の方法。
[本発明1006]
工程(a)が、細胞培養物を、多能性幹細胞の維持または分化に適した無血清培地中で、BMP4を含む第1の組成物と接触させることを含み、細胞培養物を第1の組成物と最初に接触させるときに、細胞培養物が多能性幹細胞を含む、本発明1001の方法。
[本発明1007]
細胞培養物を、無血清造血細胞培地中で、bFGF、SCF、VEGF-Aおよびそれらの組合せからなる群より選択される1種または複数種の因子を含む第2の組成物と接触させることをさらに含む、本発明1006の方法。
[本発明1008]
細胞培養物を、無血清造血細胞培地中で、bFGF、SCF、VEGF-Aおよびそれらの組合せを含む第2の組成物と接触させることをさらに含む、本発明1006の方法。
[本発明1009]
細胞培養物を、無血清造血細胞培地中で、SCF、IL-3、TPO、MCSF、FLT3リガンドおよびそれらの組合せからなる群より選択される1種または複数種の因子を含む第3の組成物と接触させることをさらに含む、本発明1007の方法。
[本発明1010]
細胞培養物を、無血清造血細胞培地中で、SCF、IL-3、TPO、MCSF、FLT3リガンドおよびそれらの組合せを含む第3の組成物と接触させることをさらに含む、本発明1007の方法。
[本発明1011]
細胞培養物を、無血清造血細胞培地中で、MCSF、FLT3リガンド、GM-CSFおよびそれらの組合せからなる群より選択される1種または複数種の因子を含む第4の組成物と接触させることをさらに含む、本発明1009の方法。
[本発明1012]
細胞培養物を、無血清造血細胞培地中で、MCSF、FLT3リガンド、GM-CSFおよびそれらの組合せを含む第4の組成物と接触させることをさらに含む、本発明1009の方法。
[本発明1013]
工程(a)が、
a)細胞培養物を、多能性幹細胞の維持または分化に適した無血清培地中で、BMP4を含む第1の組成物と接触させることであって、細胞培養物を第1の組成物と最初に接触させるときに、細胞培養物が多能性幹細胞を含む、接触させること、
b)細胞培養物を、無血清造血細胞培地中で、bFGF、SCF、およびVEGF-Aを含む第2の組成物と接触させること、
c)細胞培養物を、無血清造血細胞培地中で、SCF、IL-3、TPO、MCSF、およびFLT3リガンドを含む第3の組成物と接触させること、ならびに
d)細胞培養物を、無血清造血細胞培地中で、MCSF、FLT3リガンド、およびGM-CSFを含む第4の組成物と接触させること
を逐次的に含む、本発明1001の方法。
[本発明1014]
第1のミクログリア分化培地がGM-CSFをさらに含む、本発明1001の方法。
[本発明1015]
第2のミクログリア分化培地が、GM-CSF、NGF-β、CCL2およびそれらの組合せからなる群より選択される1種または複数種の因子をさらに含む、本発明1001の方法。
[本発明1016]
第2のミクログリア分化培地が、GM-CSF、NGF-βおよびCCL2をさらに含む、本発明1001の方法。
[本発明1017]
CD14+および/またはCX3CR1+ミクログリア前駆細胞が、第1または第2のミクログリア分化培地においておよそ15日間にわたって培養される、本発明1001の方法。
[本発明1018]
ヒト多能性幹細胞が、骨髄系分化を誘導する条件下でおよそ25~50日間培養される、本発明1001の方法。
[本発明1019]
細胞培養物を、およそ4日間、第1の組成物と接触させることを含む、本発明1006の方法。
[本発明1020]
細胞培養物を、およそ2日間、第2の組成物と接触させることを含む、本発明1007または本発明1008の方法。
[本発明1021]
細胞培養物を、およそ8日間、第3の組成物と接触させることを含む、本発明1009または本発明1010の方法。
[本発明1022]
細胞培養物を、およそ11~36日間、第4の組成物と接触させることを含む、本発明1011または本発明1012の方法。
[本発明1023]
多能性幹細胞の分化に適した培地が多能性因子を含まない、本発明1006の方法。
[本発明1024]
多能性幹細胞の分化に適した培地が、塩化リチウム、GABA、ピペコリン酸、bFGFまたはTGFβ1を含まない、本発明1006の方法。
[本発明1025]
多能性幹細胞の分化に適した培地が、塩化リチウム、GABA、ピペコリン酸、bFGFまたはTGFβ1を含まないmTeSR1培地である、本発明1006の方法。
[本発明1026]
前記造血細胞培地がStemPro-34である、本発明1007~1012のいずれかの方法。
[本発明1027]
CD14+および/またはCX3CR1+ミクログリア前駆細胞を単離する工程が、細胞を抗CD14+抗体および/またはCX3CR1+抗体と接触させることを含む、本発明1002の方法。
[本発明1028]
抗体が結合した細胞を、抗体が結合していない細胞から分離することを含む、本発明1027の方法。
[本発明1029]
蛍光活性化細胞選別(FACS)を行うことを含む、本発明1028の方法。
[本発明1030]
細胞を、抗体に直接的または間接的に結合する磁気ビーズと接触させること、および磁石を使って、抗体が結合した細胞を抗体が結合していない細胞から分離することを含む、本発明1028の方法。
[本発明1031]
培地を交換するときに培養上清中に存在する細胞を収集すること、および収集した細胞を細胞培養物に戻すことを含む、本発明1001の方法。
[本発明1032]
工程(a)中に行われる培地交換に関して、培養上清中に存在する細胞を収集すること、および収集した細胞を細胞培養物に戻すことを含む、本発明1001の方法。
[本発明1033]
工程(a)の約10日目より後に行われる培地交換に関して、培養上清中に存在する細胞を収集すること、および収集した細胞を細胞培養物に戻すことを含む、本発明1001の方法。
[本発明1034]
細胞が第3の組成物または第4の組成物と接触しているときに行われる培地交換に関して、培養上清中に存在する細胞を収集すること、および収集した細胞を細胞培養物に戻すことを含む、本発明1013の方法。
[本発明1035]
多能性幹細胞が誘導多能性幹(iPS)細胞である、本発明1001の方法。
[本発明1036]
多能性幹細胞が胚性幹(ES)細胞である、本発明1001の方法。
[本発明1037]
(a)骨髄系分化を誘導する条件下でヒト多能性幹細胞を培養する工程、
(b)工程(a)において生成したCD14+および/またはCX3CR1+細胞を単離する工程
を含み、該CD14+および/またはCX3CR1+細胞がミクログリア前駆細胞である、ミクログリア前駆細胞を生成するための方法。
[本発明1038]
工程(a)が、多能性幹細胞の造血前駆細胞への分化を誘導することを含む、本発明1037の方法。
[本発明1039]
造血前駆細胞の骨髄系前駆細胞への分化を誘導することをさらに含む、本発明1038の方法。
[本発明1040]
骨髄系前駆細胞のCD14+および/またはCX3CR1+ミクログリア前駆細胞への分化を誘導することをさらに含む、本発明1039の方法。
[本発明1041]
工程(a)が、細胞培養物を、多能性幹細胞の維持または分化に適した無血清培地中で、BMP4を含む第1の組成物と接触させることを含み、細胞培養物を第1の組成物と最初に接触させるときに、細胞培養物が多能性幹細胞を含む、本発明1037の方法。
[本発明1042]
細胞培養物を、無血清造血細胞培地中で、bFGF、SCF、VEGF-Aおよびそれらの組合せからなる群より選択される1種または複数種の因子を含む第2の組成物と接触させることをさらに含む、本発明1041の方法。
[本発明1043]
細胞培養物を、無血清造血細胞培地中で、bFGF、SCF、VEGF-Aおよびそれらの組合せを含む第2の組成物と接触させることをさらに含む、本発明1041の方法。
[本発明1044]
細胞培養物を、無血清造血細胞培地中で、SCF、IL-3、TPO、MCSF、FLT3リガンドおよびそれらの組合せからなる群より選択される1種または複数種の因子を含む第3の組成物と接触させることをさらに含む、本発明1042の方法。
[本発明1045]
細胞培養物を、無血清造血細胞培地中で、SCF、IL-3、TPO、MCSFおよびFLT3リガンドを含む第3の組成物と接触させることをさらに含む、本発明1042の方法。
[本発明1046]
細胞培養物を、無血清造血細胞培地中で、MCSF、FLT3リガンド、GM-CSFおよびそれらの組合せからなる群より選択される1種または複数種の因子を含む第4の組成物と接触させることをさらに含む、本発明1044の方法。
[本発明1047]
細胞培養物を、無血清造血細胞培地中で、MCSF、FLT3リガンド、およびGM-CSFを含む第4の組成物と接触させることをさらに含む、本発明1044の方法。
[本発明1048]
工程(a)が、
a)細胞培養物を、多能性幹細胞の維持または分化に適した無血清培地中で、BMP4を含む第1の組成物と接触させることであって、細胞培養物を第1の組成物と最初に接触させるときに、細胞培養物が多能性幹細胞を含む、接触させること、
b)細胞培養物を、無血清造血細胞培地中で、bFGF、SCF、およびVEGF-Aを含む第2の組成物と接触させること、
c)細胞培養物を、無血清造血細胞培地中で、SCF、IL-3、TPO、MCSF、およびFLT3リガンドを含む第3の組成物と接触させること、ならびに
d)細胞培養物を、無血清造血細胞培地中で、MCSF、FLT3リガンド、およびGM-CSFを含む第4の組成物と接触させること
を逐次的に含む、本発明1037の方法。
[本発明1049]
ヒト多能性幹細胞が、骨髄系分化を誘導する条件下でおよそ25~50日間培養される、本発明1037の方法。
[本発明1050]
細胞培養物を、およそ4日間、第1の組成物と接触させることを含む、本発明1041または本発明1047の方法。
[本発明1051]
細胞培養物を、およそ2日間、第2の組成物と接触させることを含む、本発明1043、本発明1043、または本発明1048の方法。
[本発明1052]
細胞培養物を、およそ8日間、第3の組成物と接触させることを含む、本発明1044、本発明1045、または本発明1048の方法。
[本発明1053]
細胞培養物を、およそ11~36日間、第4の組成物と接触させることを含む、本発明1046、本発明1047、または本発明1048の方法。
[本発明1054]
多能性幹細胞の分化に適した培地が多能性因子を含まない、本発明1041の方法。
[本発明1055]
多能性幹細胞の分化に適した培地が、塩化リチウム、GABA、ピペコリン酸、bFGFまたはTGFβ1を含まない、本発明1041の方法。
[本発明1056]
多能性幹細胞の分化に適した培地が、塩化リチウム、GABA、ピペコリン酸、bFGFまたはTGFβ1を含まないmTeSR1培地である、本発明1041の方法。
[本発明1057]
CD14+および/またはCX3CR1+ミクログリア前駆細胞を単離する工程が、細胞を抗CD14+抗体および/またはCX3CR1+抗体と接触させることを含む、本発明1037の方法。
[本発明1058]
抗体が結合した細胞を、抗体が結合していない細胞から分離することを含む、本発明1057の方法。
[本発明1059]
蛍光活性化細胞選別(FACS)を行うことを含む、本発明1058の方法。
[本発明1060]
細胞を、抗体に直接的または間接的に結合する磁気ビーズと接触させること、および磁石を使って、抗体が結合した細胞を抗体が結合していない細胞から分離することを含む、本発明1058の方法。
[本発明1061]
培地を交換するときに培養上清中に存在する細胞を収集すること、および収集した細胞を細胞培養物に戻すことを含む、本発明1037の方法。
[本発明1062]
工程(a)の約10日目より後に行われる培地交換に関して、培養上清中に存在する細胞を収集すること、および収集した細胞を細胞培養物に戻すことを含む、本発明1037の方法。
[本発明1063]
細胞が第3の組成物または第4の組成物と接触しているときに行われる培地交換に関して、培養上清中に存在する細胞を収集すること、および収集した細胞を細胞培養物に戻すことを含む、本発明1044~1048のいずれかの方法。
[本発明1064]
多能性幹細胞が誘導多能性幹(iPS)細胞である、本発明1037の方法。
[本発明1065]
多能性幹細胞が胚性幹(ES)細胞である、本発明1037の方法。
[本発明1066]
(i)IL-34を含む第1のミクログリア分化培地、または(ii)M-CSFを含む第2のミクログリア分化培地のいずれかにおいて、CD14+および/またはCX3CR1+ミクログリア前駆細胞を培養する工程を含み、それによってヒトミクログリア細胞を生成する、CD14+および/またはCX3CR1+ヒトミクログリア前駆細胞からミクログリア細胞を生成するための方法。
[本発明1067]
第1のミクログリア分化培地がGM-CSFをさらに含む、本発明1066の方法。
[本発明1068]
第2のミクログリア分化培地が、GM-CSF、NGF-β、CCL2およびそれらの組合せからなる群より選択される1種または複数種の因子をさらに含む、本発明1066の方法。
[本発明1069]
第2のミクログリア分化培地が、GM-CSF、NGF-βおよびCCL2をさらに含む、本発明1066の方法。
[本発明1070]
CD14+および/またはCX3CR1+ミクログリア前駆細胞が、第1または第2のミクログリア分化培地においておよそ15日間にわたって培養される、本発明1066の方法。
[本発明1071]
処置を必要とする対象に、本発明1001~1036または1066~1070のいずれかの方法を使って生成したミクログリア細胞または本発明1037~1065のいずれかの方法を使って生成したミクログリア前駆細胞を投与する工程を含み、それによって対象を処置する、処置の方法。
[本発明1072]
対象が、ミクログリア細胞またはミクログリア前駆細胞の欠陥または欠乏と関連する疾患または障害を有する、本発明1071の方法。
[本発明1073]
対象が、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、アルツハイマー病(AD)、多発性硬化症(MS)、パーキンソン病、レット症候群、スフェロイド形成を伴うびまん性白質脳症、軸索スフェロイド形成を伴う遺伝性びまん性白質脳症、前頭側頭葉変性症(FTLD)、家族性FTLD、統合失調症および自閉症スペクトラム障害からなる群より選択される疾患または障害を有する、本発明1071の方法。
[本発明1074]
ミクログリア細胞またはミクログリア前駆細胞が、前記対象から得られる体細胞に由来する誘導多能性幹(iPS)細胞から生成される、本発明1071の方法。
[本発明1075]
a)対象から得られた体細胞から誘導多能性幹(iPS)細胞を生成する工程、
b)本発明1001~1036または1066~1070のいずれかの方法を使ってiPS細胞からミクログリア細胞を生成する工程、または本発明1037~1065のいずれかの方法を使ってiPS細胞からミクログリア前駆細胞を生成する工程、および
c)前記対象に前記ミクログリア細胞または前記ミクログリア前駆細胞を投与する工程、
d)それによって対象を処置する工程
を含む、処置を必要とする対象を処置する方法。
[本発明1076]
対象が、ミクログリア細胞またはミクログリア前駆細胞の欠陥または欠乏と関連する疾患または障害を有する、本発明1075の方法。
[本発明1077]
対象が、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、アルツハイマー病(AD)、多発性硬化症(MS)、パーキンソン病、レット症候群、スフェロイド形成を伴うびまん性白質脳症、軸索スフェロイド形成を伴う遺伝性びまん性白質脳症、前頭側頭葉変性症(FTLD)、家族性FTLD、統合失調症および自閉症スペクトラム障害からなる群より選択される疾患または障害を有する、本発明1076の方法。
[本発明1078]
ミクログリア細胞またはミクログリア先駆細胞の欠陥または欠乏と関連する疾患または障害の処置または予防に有用な化合物を同定する方法であって、本発明1001~1036または1066~1070のいずれかの方法によって生成したミクログリア細胞、または本発明1037~1065のいずれかの方法によって生成したミクログリア前駆細胞を、候補化合物と接触させる工程、および該候補化合物がミクログリア細胞またはミクログリア前駆細胞の前記欠陥または欠乏を改善するかどうかを決定する工程を含む、方法。
[本発明1079]
ハイスループット法である、本発明1077の方法。
[本発明1080]
本発明1001~1036または1066~1070のいずれかの方法によって生成したミクログリア細胞を候補化合物と接触させる工程、および該候補化合物が、P2RY12 Gタンパク質共役受容体の活性を調節するかどうかを決定する工程を含む、P2RY12 Gタンパク質共役受容体の調節物質を同定する方法。
[本発明1081]
ハイスループット法である、本発明1079の方法。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図面は単に例示を目的としており、本教示の範囲を限定しようとするものではないことは、当業者には理解されるであろう。
【0030】
図1A図1A~B:PSCは骨髄系前駆体を経てミクログリアに分化する。(A)本発明のミクログリア分化プロトコールの主要な工程の図解。
図1B図1A~B:PSCは骨髄系前駆体を経てミクログリアに分化する。(B)付着画分および上清画分における10日目と25日目との間のCD45、CX3CR1およびCD14発現の動態。
図2A】iPSC-MGの特徴づけ。(A)位相差での、ならびにIBA1、CD11c、TMEM119およびP2RY12に関する免疫蛍光標識後の、iPSC-MGの代表的画像のパネル。白い枠は拡大挿入図の領域を示す。スケールバーは50μm、200μm、200μm、200μmおよび200μmである。
図2B】(B)iPSC-MGにおける典型的なミクログリア表面抗原のフローサイトメトリープロット。
図2C】(C)4つの独立したiPSC-MG試料(丸で表す)および2つのhMG試料(三角で表す)での、Bに示したミクログリア表面抗原を発現する細胞が全細胞に占めるパーセンテージを示すドットプロット。エラーバーは平均±SEMを示す。
図3A】ミクログリアおよびマクロファージの遺伝子発現、サイトカイン放出プロファイルおよび貪食。(A)網羅的mRNA発現に基づくRNAseqデータの階層的クラスタリングデンドログラム。試料距離はピアソン相関係数解析から算出した。
図3B】(B)本発明者らのRNAseqデータおよび脳内のヒト初代CD45+細胞の別個の研究から得られたデータ(「Myeloid」、GEO:GSE73721)の階層的クラスタリングを示すデンドログラム。解析はトランスクリプトームワイドの発現に基づく。
図3C】(C)6種のヒトミクログリアシグネチャー遺伝子の発現レベルを示すグラフ。試料は個別研究からのデータ(GSE73721、GSE85839)に対応する。
図3D-1】(D)PB-Mと比較した、2つの株からの5つの独立したiPSC-MGラン、2つの独立したhMG試料および1つのhMG-SF試料の放出サイトカインプロファイルのヒートマップ。矢印はhMGおよびM(LPS,IFNγ)だけでアップレギュレートされている5種のタンパク質を示す。
図3D-2】(D)PB-Mと比較した、2つの株からの5つの独立したiPSC-MGラン、2つの独立したhMG試料および1つのhMG-SF試料の放出サイトカインプロファイルのヒートマップ。矢印はhMGおよびM(LPS,IFNγ)だけでアップレギュレートされている5種のタンパク質を示す。
図3E】(E)YG標識マイクロスフェアの貪食を示す代表的蛍光像およびフローサイトメトリーヒストグラム。iPSC:陰性対照として使用した未分化iPSC。
図4A】ミクログリアおよびマクロファージにおける、ADPが惹起する[Ca2+]iトランジェント。(A)左側のパネルは、Ca2+インジケーターFluo-4/AMを負荷したiPSC-MGにおけるADPのバス適用後の細胞内Ca2+トランジェントの5つの例示的トレースを示す。右側のパネルは、ADP適用によって生じる蛍光強度の変化のタイムラプスを示す。トレースは右側のパネルにおける関心領域によって示される細胞から生じる。バーはADP適用またはATP適用の継続時間を表す。
図4B】(B)初代ヒトミクログリア(hMG)から同様に得られた、Aと同じデータ。
図4C】(C)hMG-SFから同様に得られた、Aと同じデータ。
図4D】(D)PB-M(-)におけるADP応答およびATP応答。マクロファージではADPに呼応する有意な[Ca2+]iトランジェントがないことに注目されたい。
図4E】(E)[Ca2+]iトランジェントの振幅に関する統計的解析。各応答性細胞に関する[Ca2+]iトランジェントの最大振幅を、対応するカテゴリーにドットとして表す(***:スチューデントのt検定でp<0.001)。
図4F】(F)分析したすべての異なる細胞タイプでのADP応答性細胞のパーセンテージ。
図5A】ミクログリア前駆体。(A)6日目の培養物の付着画分に、原始血管芽細胞を、KDR+CD235a+として同定することができた。
図5B】(B)分化25日目と50日目の間にFACSによってCD14+CX3CR1+ミクログリア前駆体を単離するために使用した選別ゲートの代表的プロット。
図5C】(C)単離2日後の、プレーティングされたミクログリア前駆体の位相差像。スケールバーは500μmである。
図5D】(D)フローサイトメトリーによって定量した、CD14+骨髄系前駆体の生成における2種のESC株および15種のiPSC株の成績を示すグラフ。
図6】ヒト初代ミクログリア(hMG)の特徴づけ。位相差での、ならびにIBA1およびCD11cに関する免疫蛍光標識後の、hMGの代表的画像のパネル。スケールバーは左から右に500μm、200μmおよび200μmである。
図7】iPSC由来ミクログリアでの本発明者らのRNAシークエンシングデータと別個の研究(Muffat et al., 2016)から得られたデータとの階層的クラスタリングを示すデンドログラム。fMG、pMGおよび/またはNPCと名付けられた試料またはそれらの用語を含む試料は、Muffat et al., 2016からの試料に相当する。解析は、バッチ補正後の網羅的RNA発現に基づく。
図8A】ヒト末梢血マクロファージにおける細胞内Ca2+トランジェント。(A)(LPS,INFγ)、(IL4,IL13)および(IL10)で極性化されたマクロファージにおけるADP適用中の細胞内Ca2+変化の4つの例示的トレース。バーは、ADP適用の継続時間を表す。
図8B】(B)(LPS,INFγ)、(IL4,IL13)および(IL10)で極性化されたマクロファージにおけるATP適用中の細胞内Ca2+変化の4つの例示的トレース。バーは、ATP適用の継続時間を表す。
図8C】(C)ATP反応性マクロファージの[Ca2+]iトランジェントの振幅に関する統計的解析。各応答性細胞に関する[Ca2+]iトランジェントの最大振幅をドットとして表す。
図8D】(D)ADP反応性マクロファージの[Ca2+]iトランジェントの振幅に関する統計的解析。各応答性細胞に関する[Ca2+]iトランジェントの最大振幅をドットとして表す。
図9】最終ミクログリア分化工程に「代替」培地、すなわち「A」培地(実施例3に記載)を使用する、多能性幹細胞からミクログリアを生成させるための例示的プロトコールの概略図。
図10】実施例3に記載の「代替」培地、すなわち「A」培地を使ってミクログリア先駆体から分化させたミクログリア細胞の免疫蛍光染色の結果。IBA1およびCD11cに関する染色を示す。核はDAPIで染色されている。左右のパネルは、異なる株および異なる播種細胞密度を使用した異なる実験からの画像である。
図11】実施例3に記載の「代替」培地、すなわち「A」培地を使ってミクログリア先駆体から分化させたミクログリア細胞が、カルボキシル化ラテックスビーズを貪食できたことを示すデータ。2回の独立した実験(iPSC1およびiPSC2)において、実施例3に記載の「代替」培地、すなわち「A」培地を使ってミクログリア先駆体から分化させたミクログリア細胞が、YG標識カルボキシル化マイクロスフェアを貪食できたことを示す、代表的フローサイトメトリーヒストグラム。未分化iPSCを陰性対照(iPSC-陰性)として使用した。
図12】組織培養処理が施されたプラスチック(プラスチック)または超低接着プレート(ULA)のいずれかの上で、(実施例3に記載の)「A」培地または「R」培地のいずれかにおいて培養したiPSC-MG、ヒト初代ミクログリアおよびM(LPS,INFγ)、M(IL4,IL13)およびM(IL10)に極性化された末梢血由来マクロファージまたは非極性化M(-)の放出サイトカインプロファイルのヒートマップ。データは、「A」または「R」ミクログリアのサイトカインプロファイルが、ヒト初代ミクログリアと極めて似ていてヒト初代ミクログリアと共にクラスター形成することを示している。ミクログリア細胞はすべて、マクロファージとは別の異なるクラスターを形成する。
【発明を実施するための形態】
【0031】
発明の詳細な説明
本発明の主要な局面の一部は、この特許開示の上記発明の概要の項にまとめた。さらなる局面を、この開示の実施例、図面および特許請求の範囲の項に記載する。発明の詳細な説明というこの項では一定の追加説明を加えるが、これは、この特許開示の他のすべての項の開示と一緒にそれらと合わせて読解されるものとする。さらにまた、この開示の各項に記載されるさまざまな態様は、多種多様に組み合わせることができ、そのような組合せはすべて、本発明の範囲内に包含されるものとする。この特許開示において使用される見出しおよび小見出しはいずれも、便宜上、参照/読解が容易になるように提供するに過ぎず、明細書全体を参照することによって理解されるべき本明細書に記載する発明のさまざまな局面または態様の限定を意味するものではない。
【0032】
定義および略号
一定の用語を、すぐ下に定義するが、これらの用語のそれぞれは、それらが使用される文脈によって、また明細書全体を参照することによって、より完全に定義されうる。すぐ下に特には定義されない用語は、この特許開示のどこか他の項で定義されるか、またはそれらの意味はそれらの用語が使用される文脈から明白であるか、さもなければ、本発明が関係する技術分野の当業者に一般に理解されているとおり、それぞれの通常の意味に従って使用されている。当業者は、例えば「The Dictionary of Cell and Molecular Biology」(5th ed. J.M.Lackie ed., 2013)、「Oxford Dictionary of Biochemistry and Molecular Biology」(2d ed. R.Cammack et al. eds., 2008)、および「The Concise Dictionary of Biomedicine and Molecular Biology」P-S.Juo,(2d ed. 2002)に、本明細書において使用されるいくつかの用語の一般的定義を見いだすことができる。
【0033】
本明細書および添付の特許請求の範囲において使用される場合、単数形(a, an, the)は、文脈上そうでないことが明らかである場合を除き、複数の指示対象を包含する。用語「1つの(a, an)」は、用語「1つまたは複数の」および「少なくとも1つの」と相互可換的に使用することができる。
【0034】
さらにまた、「および/または」は、特定された2つの特徴または構成要素のそれぞれの、他方を伴う、または他方なしでの、具体的開示と解釈されるものとする。したがって、「Aおよび/またはB」などの表現において使用される用語「および/または」は、AおよびB、AまたはB、A(のみ)、およびB(のみ)を包含するものとする。同様に、「A、Bおよび/またはC」などの表現において使用される用語「および/または」は、A、BおよびC; A、BまたはC; AまたはB; AまたはC; BまたはC; AおよびB; AおよびC; BおよびC; A(のみ); B(のみ); およびC(のみ)を包含するものとする。
【0035】
単位、接頭辞および記号は、国際単位系(SI)が許容するそれぞれの形式で表される。数値範囲はその範囲を画定する数字を含む。態様が「を含む」という言い回しで記載されている場合はいつでも、「からなる」および/または「から本質的になる」という用語で記載される態様であってその他の点では同様である態様が、包含される。
【0036】
数を表す用語の前に「約」または「ほぼ」または「およそ」とある場合、その用語は、言明された数および値±言明された数の10%を包含する。
【0037】
用語「多能性幹細胞」または「PSC」は、当技術分野におけるその通常の意味、すなわち内胚葉、外胚葉および中胚葉細胞へと発生する能力を有する自己複製細胞という意味を有する。いくつかの態様において、PSCはヒトPSCである。PSCは、胚性幹細胞(ESC)および誘導多能性幹細胞(「iPS細胞」または「iPSC」)を包含する。ES細胞およびiPS細胞という用語は、当技術分野におけるそれぞれの通常の意味を有する。
【0038】
本明細書において使用する「実質的に純粋」という表現は、少なくとも95%の細胞が、当該表現型を有する、細胞の集団を指す。「実質的に純粋な」細胞集団に言及するすべての態様では、細胞集団がそれより低レベルまたは高レベルの純度を有する代替態様も想定される。例えばいくつかの態様において、所与の細胞集団が「実質的に純粋」である代わりに、細胞集団は、少なくとも35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、または99%の細胞、または100%の細胞が、当該表現型を有するものでありうる。
【0039】
「対象」または「個体」または「患者」とは、診断、予後、もしくは治療を受けることが望まれる、または本明細書に記載する方法を使ってそこからミクログリア細胞を生成させる、任意の対象、特に哺乳動物対象を意味する。哺乳動物対象は、ヒト、家畜、農用動物、スポーツ動物、および動物園動物、例えばヒト、非ヒト霊長類、イヌ、ネコ、モルモット、ウサギ、ラット、マウス、ウマ、ウシ、ブタなどを包含する。いくつかの態様において、対象はヒトである。
【0040】
「処置する」または「処置」または「処置すること」などの用語は、診断された病理学的疾患または障害を治癒させ、減速し、その症状を減らし、かつ/またはその進行を停止させる治療手段を指す。したがって処置を必要とする対象には、既に障害を持っている対象が包含される。一定の態様において、対象が、疾患または障害と関連する任意の症状の、例えば全面的、部分的、持続的または一過性の軽減または排除を示すのであれば、その対象は、上首尾に「処置され」ている。
【0041】
「予防する」または「予防」とは、病理学的疾患または障害の発症を予防しかつ/または遅らせる防止手段または予防手段を指す。したがって、予防を必要とする対象には、前記疾患または障害を起こしやすいか、前記疾患または障害に対する感受性が高い対象が包含される。一定の態様において、対象が、疾患または障害と関連する症状を、本発明の方法に付されていない対象と比較して、一過性にまたは持続的に、少なく、または低い重症度で、発症するか、または疾患もしくは障害と関連する症状の開始が遅い場合、その疾患または障害は、本明細書に規定する方法によって上首尾に予防されている。
【0042】
さらなる説明
ミクログリア細胞およびミクログリア前駆細胞を生成するためのさまざまな方法を、この特許開示の発明の概要、実施例および特許請求の範囲の項に記載する。そのような方法において使用される多能性幹細胞は、任意の適切なタイプの多能性幹細胞であることができる。一態様において、多能性幹細胞はESCまたはiPSCであり、それらはそれぞれ当技術分野において周知である。iPSCが使用される場合、そのような細胞は、当技術分野において公知の任意の適切な手段を使って、例えば限定するわけではないが、修飾RNAに基づく方法、センダイウイルスに基づく方法などを使って、非多能性状態から多能性状態へと「リプログラム」されていてもよい。さらにまた、そのような細胞は、当技術分野において公知のリプログラミング因子の任意の適切な混合物を使って多能性状態にリプログラムされていてもよい。
【0043】
細胞/組織培養培地の具体的なタイプが指定される場合を除き、当技術分野において公知の適切な細胞/組織培養培地をどれでも使用することができる。多くのそのようなタイプの培地は公知であり、市販されている。いくつかの態様では、一定の化学合成および/または無血清培地タイプが使用される。
【0044】
いくつかの態様では、多能性幹細胞の維持において使用するのに適した培地が使用される。いくつかのそのような態様において、そのような培地は、Stem Cell Technologies製のmTeSR1培地である。しかし、多能性幹細胞の維持における使用への適性に関してmTeSR培地と等価な他のタイプの培地はいくつかあり、それらをどれでも使用できることは、当業者には認識されるであろう。典型的には、そのような培地は、多能性状態における細胞の維持を容易にするために、1種または複数種の多能性因子を含有するであろう。一定の態様では、そのような培地の変形であって、これらの多能性因子を含まないものが使用される。例えば、mTeSR1培地が使用される一定の態様では、塩化リチウム、GABA、ピペコリン酸、bFGFまたはTGFβ1をいずれも含まないmTeSR1培地の変形(本明細書では「mTeSR1 Custom」培地という場合もある)が使用される。mTeSR1培地の組成は当技術分野で公知であり、例えばLudwig et al., 2006(Nat Methods.2006 Aug;3(8):637-46;「Feeder-Independent Culture of Human Embryonic Stem Cells」)に記載されており、その内容は参照により本明細書に組み入れられる。
【0045】
いくつかの態様では、多能性幹細胞の分化において使用するのに適した培地が使用される。そのような培地は典型的には多能性因子を含まない。
【0046】
いくつかの態様では、造血細胞を培養するのに適した培地が使用される。いくつかのそのような態様では、そのような培地はThermoFisher製のStemPro-34である。StemPro-34培地の組成は当技術分野において公知であり、例えば「Hematopoietic Culture Nutrient Supplement」と題するEP0891419A4およびWO1997033978A1に記載されており、それらの内容は参照により本明細書に組み入れられる。しかし、造血細胞の培養における使用への適性に関して、StemPro-34培地と等価な他のタイプの培地はいくつかあり、それらをどれでも使用できることは、当業者には認識されるであろう。
【0047】
本発明の態様の多くでは、本明細書に記載する組成物および方法において、例えば培地添加物として、一定の因子を使用する必要(または除外する必要)がある。これらには、bFGF、SCF、VEGFA、IL-3、TPO、MCSF、FLT3リガンド、GM-CSF、GABA、ピペコリン酸、bFGF、TGFβ1、IL-34、GM-CSF、M-CSF、NGF-βおよびCCL2などがあるが、それらに限定されるわけではない。これらの因子のそれぞれは、頭字語または他の略号が使用されている場合にはこれらの因子のそれぞれの完全な名称を含めて、当技術分野において周知である。さらにまた、これらの因子はいずれも、商業的供給源を含む複数の供給源から、公に入手することができる。本発明の方法および組成物におけるこれらの因子のそれぞれの使用に関して、例示的な量/濃度を、この特許開示の実施例の項に掲載する。指定量への言及があるすべての態様については、指定量前後の量も意図される。さらにまた、状況によっては、指定量からのさらなる逸脱を使用できることも、当業者には認識されるであろう。また当業者は、使用される量が依然として言明された効果(例えば言明された分化効果)を達成する限りにおいて、例えば指定量を増減するために、常用の試験、最適化、用量応答研究などを行うことによって、各因子をどのくらい使用すべきか決定することができるであろう。例えばいくつかの態様では、指定された作用物質の指定量を、言明された量の10%、または20%、または30%、または40%、または50%、または60%、または70%、または80%、または90%まで低減しうる。同様に、いくつかの態様では、指定された作用物質の指定量を、言明された量の10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、100%、150%、200%、300%、400%、または500%増加させることもできる。同様に、指定された因子への言及がある場合、そのような因子の類似体、変異体または誘導体も、その類似体、変異体または誘導体が指定された因子と同じ一般機能/活性を有する限り、使用できることは、当業者には認識されるであろう。
【0048】
同様に、これらの因子のそれぞれの使用に関して、さらには本明細書に規定する任意の方法の他の任意の工程の実施に関して、例示的な時間/タイミングが指定されている場合は、その指定時間の「前後」である時間/タイミングも意図されている。さらにまた、状況によっては、指定された時間/タイミングからのさらなる逸脱を使用できることも、当業者には認識されるであろう。また当業者は、指定された時間/タイミングが依然として言明された効果(例えば言明された分化効果)を達成する限りにおいて、例えば指定された時間/タイミングを増減するために、常用の試験、最適化、用量応答研究などを行うことによって、時間をどのように調整できるかを決定することができるであろう。例えばいくつかの態様では、指定された時間を、言明された時間の10%、または20%、または30%、または40%、または50%、または60%、または70%、または80%、または90%まで低減しうる。同様に、いくつかの態様では、指定された時間を、言明された時間の10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、100%、150%、200%、300%、400%、または500%増加させることもできる。
【0049】
本明細書に別段の言明がある場合を除き、本発明の方法の実行においては、常用の培地調製方法、培地交換方法、非付着細胞を回収するために上清を遠沈する方法など、細胞培養のための常用の周知の方法および組成物が使用されるものとする。いくつかの態様において、多能性幹細胞からミクログリアまたはミクログリア前駆体を生成させるために使用される本発明の培養方法は、単層培養を利用する。別の態様において、多能性幹細胞からミクログリアまたはミクログリア前駆体を生成させるために使用される本発明の培養方法は、フィーダー細胞/フィーダー層の使用を利用しない。さらなる態様において、多能性幹細胞からミクログリアまたはミクログリア前駆体を生成させるために使用される本発明の培養方法は、胚様体(EB)形成を利用せず、かつ/または胚様体(EB)形成を必要としない。
【0050】
本発明の態様の多くは、細胞集団を、それらが発現する一定の細胞マーカーによって記載する。これらのマーカーには、CD14、CX3CR1、CD11b、CD11c、P2RY12、IBA-1、およびTMEM119などがあるが、それらに限定されるわけではない。これらのマーカーのそれぞれは、頭字語または他の略号が使用されている場合にはこれらのマーカーのそれぞれの完全な名称を含めて、当技術分野において周知である。これらのマーカーのいずれかに「+」記号を付けて言及する場合(例えばマーカー+、例えばCD14+)、その「+」記号は、その細胞が当該マーカーに関して陽性であること、すなわち当該マーカーを検出可能なレベルに発現することを意味する。細胞が検出可能なレベルのこれらのマーカーのいずれかを発現しているかどうかは、当技術分野において公知の標準的な常用の方法を使って、例えば抗体に基づく検出、mRNA検出などを伴うものなどを使って、決定することができる。
【0051】
本明細書に記載する方法のいくつかは、CD14+および/またはCX3CR1+ミクログリア前駆細胞を他の細胞タイプから単離/分離する工程を伴う。いくつかの態様において、これらの方法は、細胞(例えば混合細胞集団)を抗CD14抗体および/またはCX3CR1抗体と接触させることを伴う。次に、当技術分野において公知の任意の適切な方法を使って、抗体が結合した細胞を抗体が結合していない細胞から分離することができる。そのような方法の一つは蛍光活性化細胞選別法(FACS)である。他の適切な方法には、磁気ビーズを利用する方法がある。そのような方法は、典型的には、所望の抗体とも磁気ビーズとも接触させることを伴い、磁気ビーズは直接的または間接的に抗体に結合することができるように構成されている。この場合は、抗体が結合した細胞を、抗体が結合していない細胞から、磁石を使って分離することができる。当技術分野において公知の任意の適切な抗CD14抗体または抗CX3CR1抗体を使用することができる。例示的な抗体を、この特許出願の実施例の項に列挙する。さらにまた、磁気ビーズに基づくCD14+細胞単離のための例示的市販キットを、この特許出願の実施例の項において特定する。
【0052】
いくつかの態様において、本発明は、本明細書に記載するさまざまな方法を行う際に有用な組織培養培地、組織培養培地添加物、およびさまざまなキットを提供する。
【0053】
一態様において、本発明は、多能性幹細胞からミクログリア前駆細胞を生成させるためのキットを含み、本キットは、BMP4、bFGF、SCF、VEGFA、SCF、IL-3、TPO、MCSF、FLT3リガンド、M-CSF、およびGM-CSFからなる群より選択される2種以上の因子を含む。いくつかの態様において、キットはこれらの因子のそれぞれを含む。
【0054】
一態様において、本発明は、多能性幹細胞からミクログリア前駆細胞を生成させるためのキットを含み、本キットは、BMP4、bFGF、SCF、VEGFA、SCF、IL-3、TPO、MCSF、FLT3リガンド、M-CSF、GM-CSF、IL-34、NGF-βおよびCCL2からなる群より選択される2種以上の因子を含む。いくつかの態様において、キットはこれらの因子のそれぞれを含む。
【0055】
いくつかの態様において、そのようなキットは、(a)BMP4を含む第1の培地添加物/組成物、(b)bFGF、SCFおよびVEGFAのうちの1種または複数種(例えばそれぞれ)を含む第2の培地添加物/組成物、SCF、IL-3、TPO、MCSFおよびFLT3リガンドのうちの1種または複数種(例えばそれぞれ)を含む第3の培地添加物/組成物、MCSF、FLT3リガンドおよびGM-CSFのうちの1種または複数種(例えばそれぞれ)を含む第4の培地添加物/組成物、ならびに(i)GM-CSFおよびIL-34のうちの1種もしくは複数種(例えばそれぞれ)または(ii)M-CSF、GM-CSF、NGF-βおよびCCL2のうちの1種もしくは複数種(例えばそれぞれ)のどちらか一方を含む第5の培地添加物/組成物からなる群より選択される1種または複数種の培地添加物組成物であって、それぞれが個別の容器中に存在するものを含む。キットがミクログリア前駆体の調製に使用されるものである場合は、第1~第4の培地添加物/組成物のそれぞれが、キットに含まれうる。キットがミクログリア細胞の調製に使用されるものである場合は、5種の培地添加物/組成物のすべてが、キットに含まれうる。
【0056】
本明細書に記載するキットは、組織培養培地、例えば多能性幹細胞の維持または分化に適した培地、および/または造血細胞培地も含みうる。いくつかの態様では、培地は多能性因子を含まない。
【0057】
本明細書に記載するキットは、抗CD14抗体、抗CX3CR1抗体、または抗CD14抗体と抗CX3CR1抗体の両方も含みうる。
【0058】
キットは、任意で、使用説明書、1つまたは複数の容器、1種または複数種の抗体、またはそれらの任意の組合せを含みうる。通例、キットにはラベルが付属する。ラベルは、任意の書き込み式または記録式の材料を含み、それらは、キット内容物の使用に関する説明または他の情報を提供する電子形式またはコンピュータ可読形式(例えばディスク、光学ディスク、メモリーチップまたはテープ)であってもよい。
【0059】
いくつかの態様において、本発明は組織培養培地も提供し、これは任意で、一定の培地添加物と共に提供されてもよい。例えば一態様において、本発明は、多能性幹細胞の維持において使用するのに適した培地であって、多能性因子を含まない培地を提供する。例えばいくつかのそのような態様において、培地は、塩化リチウム、GABA、ピペコリン酸、bFGFまたはTGFβ1をいずれも含まない。任意で、そのような培地は、培地添加物としてBMP4を含むか、培地添加物としてのBMP4と共に提供されうる。別の一態様において、本発明は、造血細胞の培養に適した培地を提供する。任意で、そのような培地は、bFGF、SCFおよびVEGFAのうちの1種または複数種(またはそれぞれ)を含む培地添加物/組成物;ならびに/またはSCF、IL-3、TPO、MCSFおよびFLT3リガンドのうちの1種または複数種(またはそれぞれ)を含む培地添加物/組成物;ならびに/またはMCSF、FLT3リガンドおよびGM-CSFのうちの1種または複数種(またはそれぞれ)を含む培地添加物/組成物を含むか、それらの培地添加物/組成物と共に提供されうる。いくつかのそのような態様では、培地は無血清培地である。いくつかのそのような態様では、培地は化学合成培地である。
【0060】
本発明の実施では、別段の表示がある場合を除き、当技術分野の技能の範囲内にある細胞生物学、分子生物学、細胞培養、免疫学などの従来の技法が利用されるであろう。これらの技法は最新の文献に詳しく開示されており、特にSambrook, Fritsch and Maniatis eds.「Molecular Cloning A Laboratory Manual」2nd Ed., Cold Springs Harbor Laboratory Press, 1989;「Methods of Enzymology」シリーズ(Academic Press, Inc.);および「Antibodies: A Laboratory Manual」Harlow et al., eds.(1987)が挙げられる。
【実施例0061】
実施例1-ヒト多能性幹細胞からのミクログリアの生成
ミクログリア細胞は胚発生中に卵黄嚢において骨髄系前駆体から生じるので、本発明者らは、ヒトPSCを骨髄細胞系譜に分化させるための無血清および無フィーダープロトコールを確立しようと考えた。本発明者らが作成したこのプロトコールを、図1A)に模式的に示す。過去の研究(Yanagimachi et al., 2013)に基づいて、本発明者らは、BMP4シグナリングによって原条様細胞を誘導して、原始血管芽細胞のKDR+CD235a+集団を得た(Sturgeon et al., 2014)(図S1A)。CD45+CX3CR1-ミクログリア前駆体が16日目までに培養の上清画分に現れ、20日目と25日目の間にCX3CR1がアップレギュレートされた。対照的に、付着集団はCD45+CX3CR1+前駆体をわずかな割合しか含有しなかった。興味深いことに、CD45+CX3CR1-集団のサブセットは、CX3CR1のアップレギュレーション前に、16日目付近でCD14をアップレギュレートした(図1B)。25日目と50日目の間に、82±5%のCD14+細胞がCX3CR1を共発現した。このプロトコールのミクログリア前駆体生成効率は、CD14発現に基づいて、2種のESC株および15種のiPSC株を含む試験した17株全体で、68±4%であった(図5D)。ミクログリア前駆体は最大1ヶ月にわたって上清画分中に生成し続け、それらは週に1回、プレーティングした100×103個のPSCごとに、1回の単離につき、224±42×103細胞の平均収量で単離された。ミクログリア前駆体は、さらなる分化のために、または液体窒素中での長期保存のために、FACS分取(図5B、C)または磁気ビーズによる分離のいずれかによって単離された。融解させた前駆体はそれらの分化能を保っており、融解後生存率は57±5%であった。
【0062】
ミクログリアの生成
ミクログリアを生成させるために本発明者らが開発したプロトコールを図1A)に模式的に示す。実施例1で述べたようにiPSCからミクログリア前駆体を生産した。2週間にわたるIL-34およびGM-CSF刺激によって、単離ミクログリア前駆体からミクログリアへの分化を誘導した。iPSC由来ミクログリア細胞(iPSC-MG)は付着細胞として成長し、多くの突起を伸ばし、ミクログリア細胞に特有の形態を呈した(図2A)。さらにまた、iPSC-MGのタイムラプスビデオ顕微鏡観察により、それらの突起は、運動性が高く、インビボでのミクログリア細胞と同様に微小環境を常に走査していることが示された(Davalos et al., 2005; Nimmerjahn, 2012)。iPSC-MGは、IBA-1、CD11c、TMEM119、P2RY12、CD11bおよびCX3CR1を含む公知の抗原マーカーを発現した(図2A~C)。注目すべきことに、Thermanoxプラスチックカバースリップは、細胞の分枝が増えるように見え、最適な表面環境を与えるようであった。比較には市販のヒト初代ミクログリア細胞(hMG)を使用した(図6)。
【0063】
iPSC由来ミクログリアはヒト初代ミクログリアに似ている
iPSC-MGのアイデンティティをさらに確認するために、次世代ディープRNAシークエンシング(RNAseq)によって、全トランスクリプトーム解析を行った。血縁でない6人の健常ドナーからのiPSC-MGを、末梢血由来マクロファージ(PB-M(-))、M(LPS,IFNγ)、M(IL4,IL13)およびM(IL10)に極性化したマクロファージ、初代ヒト肝マクロファージ(hhM)、ならびに業者によって供給された血清含有培地で培養された初代ヒトミクログリア(hMG)または本発明者らの無血清培地で培養された初代ヒトミクログリア(hMG-SF)と比較した。本発明者らは、高品質なシークエンシングリードを得て(平均Phred品質スコア>38.4)、そのうちの86.2%超がSTARアライナーによってヒトゲノムhg19にマッピングされた。全部で18,516の遺伝子が発現しているとみなされ、それらをさらなる解析に使用した。
【0064】
iPSC-MG、hMGおよびhMG-SFは、全発現遺伝子を使った階層的クラスター分析で、互いにクラスターを形成して網羅的遺伝子発現レベルで高い類似度を示し(スピアマンの相関係数0.901~0.997)、どのマクロファージサブタイプとも異なっていた(図3A)。次に本発明者らは、ヒト脳抽出物から初代CD45+細胞を単離した別個の研究(Zhang et al., 2016)から得られたデータ(図3Bでは「Myeloid」と名付けている)を含む階層的クラスター分析を行った。iPSC-MG試料は「Myeloid」試料と共にクラスターを形成したが、PB-Mは異なるクラスターを作り、hhMは別個にクラスターを形成して、試験した試料のいずれとも最も類似性が低いようである。
【0065】
最近行われた3つの研究(Bennett et al., 2016; Butovsky et al., 2014; Hickman et al., 2013)では、初代齧歯類細胞から、ミクログリアにおいて発現するユニークな遺伝子を含むデータセットが得られている。次に本発明者らは、これらの研究のうちの少なくとも2つにおいて同定された遺伝子を選択して、本発明者らの試料におけるそれらの発現を評価した(表1)。
【0066】
(表1)
【0067】
選択した31個の遺伝子のうち、hMGは29個を発現(少なくとも1CPMと定義)し、iPSC-MGは28個を発現していた。全体として、これらの遺伝子の発現レベルは同等であったが、例外として、P2RY13はiPSC-MGでは2.6分の1であり、CYSTR1はhMGでは3.8分の1であった。さらにまた、LIPHは試験したどのヒト細胞タイプでも非常に低く(<1CPM)、hMGは低いCX3CR1発現を、そしてiPSC-MGは低いTMEM119発現および低いLAG3発現を示した。ただし、CX3CR1タンパク質およびTMEM119タンパク質は、それぞれFACSおよび免疫蛍光染色によって検出された。
【0068】
組織常在性の肝マクロファージおよび末梢血由来マクロファージとの比較により、iPSC由来ミクログリアでも初代ミクログリアでも一貫して高い11個の遺伝子(TREM2、SLC02B1、GPR34、P2RY12、P2RY13、ENTPD1、BLNK、RAB3IL1、ADORA3、CRYBB1、GAL3ST4)が明らかになった。
【0069】
Butovskyらの研究では、胎児および成人のヒト初代ミクログリアにおけるユニークなシグネチャーとして、6つの遺伝子、すなわちC1QA、GAS6、GPR34、MERTK、P2RY12およびPROS1が提案されている。事実、それらの高い発現は、本発明者らのどのミクログリア試料(iPSC-MG、hMG、hMG-SF)でも、2つの別個の研究(Muffat et al., 2016; Zhang et al., 2016)からのミクログリア試料でも、一貫していたが(図3C)、マクロファージおよび神経前駆細胞(NPC)は、それらより低いレベルを示した(t検定:6つの遺伝子すべてにおいてミクログリアとマクロファージまたはNPCとの間でP<0.05)。図3Cに関係する表2は、RNAseqによって決定されたミクログリア試料におけるこれら6つの確証されたヒトミクログリアシグネチャー遺伝子の発現を示している。表2における値はlog2変換したCPMである。
【0070】
(表2)
【0071】
ヒトiPSC由来ミクログリアと初代ミクログリアのサイトカインプロファイルは似ているが、末梢血由来マクロファージのサイトカインプロファイルとは異なることがわかった。本発明者らは、iPSC-MG、hMG、hMG-SF、および異なる極性化を起こしたマクロファージを含むPB-Mによって放出されるタンパク質を分析した(図3D)。興味深いことに、iPSC-MGと初代ミクログリアとの間の類似度は、それらの培養培地(血清含有、hMG)を本発明者らの分化培地(hMG-SF)に置き換えると激増して、ピアソン相関係数はR=0.473からR=0.824へと増加した。注目すべきことには、hMGは、炎症時に典型的に放出され実際にM(LPS,IFNγ)マクロファージでも発現するRANTES、I-TAC、BAFF、GR0-aおよびMIP3aなどのサイトカインのアップレギュレーションを示した(図3Dの矢印)。それでもなおミクログリア試料は互いにクラスターを形成し、M(-)、M(LPS,IFNγ)、M(IL4,IL13)およびM(IL10)として極性化したPB-Mとは離れたクラスターを形成した。
【0072】
本発明者らのiPSC-MGは、機能的食細胞であることもわかった。iPSC-MG、hMG、hMG-SF、PB-Mおよび未分化iPSCを1細胞あたり所与の量の蛍光標識カルボキシル化ラテックスマイクロスフェアに曝露した。フローサイトメトリー分析により、iPSC-MGの大部分は貪食できることが示された(90±6%)。これらの結果はhMGとhMG-SFの両方に匹敵した。予想どおり、M(-)マクロファージも、マイクロスフェアを取り込むことができたが、未分化iPSCはマイクロスフェアを取り込むことができなかった(図3E)。
【0073】
本発明者らのiPSC-MGは、ADPに応答して細胞内Ca2+を放出することもわかった。ミクログリアシグネチャー遺伝子P2RY12は、ADPに応答して細胞内Ca2+([Ca2+]i)トランジェントをもたらすGiタンパク質共役プリン作動性受容体をコードしているが(Haynes et al., 2006)、PB-Mはこの受容体を発現しないので、ADPに応答しない(Moore et al., 2015)。したがって、ADPが誘導する[Ca2+]iトランジェントは、ミクログリアとマクロファージとを識別するために使用される。iPSC-MG、hMG、hMG-SFおよびPB-Mを50μM ADPで60秒間刺激したところ、ミクログリア細胞だけがADPに応答した(図4A~C)。iPSC-MGにおけるADP応答の最大振幅(図4E)と応答性細胞の数(図4F)は、hMGまたはhMG-SFのいずれよりも高かった。異なる極性化を起こしたPB-MはいずれもADPに応答しなかったが、100μM ATPによる刺激時には[Ca2+]iトランジェントが確実に観察された(図4Dおよび図8)。
【0074】
要約および考察
インビトロでのPSCの造血分化は、インビボでの二次造血ではなく原始造血に等価である。これは、PSC由来の造血前駆体が長期多系譜再構築を生じることができないことの説明になりうる(Vanhee et al., 2015)。本発明者らは、PSC由来骨髄系前駆体は原始卵黄嚢骨髄系前駆体に似ているがゆえに、胚発生中に起きるように、インビトロでミクログリアを生じるのかもしれないという仮説を立てた。本発明者らは、骨髄系誘導培地でPSCを刺激することにより、KDR+CD235a+原始血管芽細胞集団を生産し、インビトロでCD45+CX3CR1-ミクログリア前駆体からCD45+CX3CR1+ミクログリア前駆体への進行を再現した。
【0075】
このプロトコールのロバスト性および再現性を保証するために、本発明者らは、異なるリプログラミング戦略(例えばmRNA/miRNA、センダイウイルス)を使って作製された、MS患者、AD患者、PD患者または健常個体からのiPSCを含む17株のPSCのパネルを試験した。線維芽細胞は、年齢が25~68歳の範囲にある男女両方のドナーから得た。本発明者らは、すべての株から、未分化PSC1個あたり2~3個の前駆体という平均収量で、ミクログリア前駆体を得ることができた。このような多様なパネルから予想されるとおり、前駆体の収量は株間で変動したが、特定の疾患、リプログラミング方法またはドナーの性別および年齢への明らかな相関はなかった。
【0076】
本発明者らのミクログリア前駆体は、典型的なマーカーを発現し、微小環境を走査する能力を有する運動性の高い突起を持つ分枝型であって、正常ヒトミクログリアと等価な効率で貪食することができるミクログリアを生じた。
【0077】
ヒトミクログリアのアイデンティティの定義は十分には確立されていないが、マウスにおける最近のゲノムワイドな研究により、ミクログリアと他の骨髄系細胞タイプまたはCNS細胞タイプとの区別を容易にするデータセットが得られている(Bennett et al., 2016; Butovsky et al., 2014; Hickman et al., 2013)。そこで本発明者らは、提案されたヒトミクログリアにおける「シグネチャー遺伝子」を評価するために、iPSC-MGの網羅的mRNA発現を、初代ミクログリアならび末梢血由来マクロファージおよび肝マクロファージと比較した。本発明者らは、異なる遺伝的背景を持つ試料を含めた。本発明者らの解析は、iPSC-MGが循環マクロファージとも他の組織特異的マクロファージとも離れたクラスターを形成し、ヒト脳抽出物から単離された初代ミクログリア細胞およびCD45+細胞(「myeloid」と呼ばれる)(Zhang et al., 2016)と互いにクラスターを形成することを明らかに示した。さらにまた、本発明者らのiPSC-MGは、マウスミクログリアにおいて豊富な他の多くの遺伝子に加えて、ヒトミクログリアにユニークであると提唱されている6つの遺伝子(Butovsky et al., 2014)を発現した(表1)。
【0078】
iPSC-MGが放出するサイトカインは、hMGとは似たプロファイルを有するが、PB-Mとは、それらの極性化状態とは無関係に、異なることがわかった。注目すべきことに、hMGは、本発明者らの培地で培養した場合(hMG-SF)の方が、iPSC-MGと、より密なクラスターを形成した。理論に束縛されることは望まないが、その理由はhMG培養培地における血清の存在であるという仮説を、本発明者らは立てている。インビボでは、ミクログリアは血液脳関門の「後ろ」に存在しており、血清構成要素の存在はそれらの活性化の引き金を引く(Ransohoff and Perry, 2009)。事実、血清中で培養されたhMGは、M(LPS,IFNγ)炎症誘発性マクロファージと同様に、RANTES、GR0-A、I-TAC、BAFFおよびMIP3aなどといった炎症性分子のレベルの増加を示した。
【0079】
本発明者らは、iPSC-MGが転写産物レベルでもタンパク質レベルでも機能的なP2RY12受容体を発現することをも明らかにした。齧歯類およびヒトのミクログリアは、この受容体によって他の骨髄性細胞と識別され(Butovsky et al., 2014)、ADPによるその活性化は[Ca2+]iトランジェントをもたらす(Moore et al., 2015)。PB-MはADPに対して不応性であったが、ATPに曝露されると[Ca2+]iトランジェントを示した一方で、ミクログリア細胞(iPSC-MG、hMGおよびhMG-SF)はいずれも、ADPによって惹起される[Ca2+]iトランジェントを示したことから、それらは健常であり機能的であることが示された。
【0080】
マウスESCをミクログリアに分化させるためのプロコールは公知であるが(例えばBeutner et al., 2010; Napoli et al., 2009; Tsuchiya et al., 2005参照)、本発明者らは、それらのプロトコールがヒトiPSCでは有効でないことを見いだし(データ省略)、齧歯類系とヒト系の違いが浮き彫りになった。ヒトミクログリア様細胞は、ミクログリアのシグネチャー遺伝子の詳細な特徴づけと機能研究は為されていないものの、以前に、末梢血(PB)単球から分化転換されている(Etemad et al., 2012; Ohgidani et al., 2014)。Muffat et al.(September 2016)は、ヒトミクログリア分化プロトコールを記載した。本発明者らは、RNAseqを使って、本発明者らの方法によって生成させたミクログリアを、Muffatらの方法を使って生成させたミクログリアと比較した。この比較データを本明細書に掲載する(図3Cおよび図7)。どちらのアプローチも、CD235a+と定義される卵黄嚢前駆体を経て誘導されるミクログリアの胚発生を模倣する。どちらのプロトコールも、化学合成培地におけるミクログリアの細胞系譜決定および成熟への主要ドライバーとしてIL34を使用し、どちらのプロトコールも、典型的マーカーを発現し貪食を行うことができる運動性突起を持つミクログリアを生成する。胚様体(EB)形成ではなく単層培養に基づく本発明者らの戦略は、効率では同等であるが、必要とする出発PSCの数が少ない。重要なことに、本発明者らのプロトコールは、特定のEB形態の手作業による選択を必要としない。本発明者らは、FACSまたは磁気ビーズによってミクログリア前駆体を単離するので、化合物スクリーニングおよび遺伝子スクリーニングなどのハイスループット応用が可能になる。
【0081】
まとめると、本明細書に記載する新しいプロトコールは、ヒトミクログリア細胞の新しい供給源としてiPSC-MGを提供し、これは、健常および疾患におけるミクログリアの役割をより良く理解するために、マウスモデルにおける研究を補完するであろう。本明細書に記載するプロトコールは、健常対象からの株を使って行うか、罹患患者からの株を使って行うかに関わりなく、再現性が高いので、神経障害におけるミクログリア機能障害の発症機序を調べるための貴重なツールになる。さらにまた、共培養系または三次元系、例えばニューロンおよび他のグリア細胞タイプが関与するものなどに、ミクログリアを含めれば、インビボ環境の複雑さをより良く再現するためのインビトロ疾患モデリングが容易になるはずである。
【0082】
実施例2-実験手順
この実施例では、実施例1で概説した研究を行うために使用した材料および方法に関する詳細を記す。
【0083】
多能性幹細胞株
この研究では2種のヒトESC株(RUES1およびH9、どちらもNIHの承認を受けている)および15種のiPSC株を使用した。これらの株については補足情報に記載する。iPSC株の一つはRicardo Feldman博士から譲渡されたものであり、他のiPSC株はすべてNYSCF Research Instituteにおいてリプログラムされた。ヒト初代ミクログリアおよび肝マクロファージはScienCell Research Laboratoriesから購入した。
【0084】
ミクログリア分化プロトコール
80ng/ml BMP4を含有するmTeSR Custom培地(StemCell Technologies)を使って、PSCの分化を誘導した。4日目に、StemPro-34 SFM(2mM GutaMAX含有、Life Technologies)中の25ng/ml bFGF、100ng/ml SCFおよび80ng/ml VEGFで、細胞を誘導した。2日後に、50ng/ml SCF、50ng/ml IL-3、5ng/ml TPO、50ng/ml M-CSFおよび50ng/ml Flt3を培地に添加し、14日目からは、50ng/ml M-CSF、50ng/ml Flt3および25ng/ml GM-CSFを添加した。25日目と50日目の間に、CD14+前駆体またはCD14+CX3CR1+前駆体を単離し、ミクログリア培地(RPMI-1640、Life Technologies、2mM GlutaMAX-I、10ng/ml GM-CSFおよび100ng/ml IL-34を含む)中、組織培養処理が施されたディッシュまたはThermanoxプラスチックカバースリップ(いずれもThermo Scientific製)上に、再プレーティングした。少なくとも2週間は3日~4日ごとに培地を補充した。
【0085】
組織培養および細胞株
別段の言明がある場合を除き、培養はすべて、37℃の培養器中、5%CO2で行った。また、別段の言明がある場合を除き、成長因子はいずれもR&D Systemsから購入したヒト組換えタンパク質である。培地はすべて1×ペニシリン/ストレプトマイシン(P/S)または1×抗生物質-抗真菌剤(Antibiotic-Antimycotic)(Life Technologies)を含有する。RT:室温。
【0086】
RUES1およびH9はNIHによって承認されたヒトESC株である。iPSC株はいずれも、特別治験審査委員会(specific institutional review board)の承認とインフォームドコンセントを受けて、匿名化されたドナーの皮膚生検から誘導された。対照iPSC株050643-01-MR-28495(25歳男性)、050652-01-MR-28650(45歳女性)、050598-01-MR-49026(53歳男性)、050598-01-MR-025(53歳男性)、051024-01-MR-005(29歳男性)、050689-01-MR-012(27歳男性)、050675-01-MR-012(34歳男性)、050642-01-MR-001(69歳男性)、PD株050412-01-MR-49025(63歳男性)およびAD株050948-01-MR-028(40歳女性)は、New York Stem Cell Foundationのハイスループット自動システム(米国特許出願公開第2013/0345094号およびPaull et al., 2015参照)を使って、mRNA/miRNA法(StemGent)によってリプログラムされた(Paull et al., 2015)。iPSC102(56歳男性)は多発性硬化症患者からmRNA/miRNAを使って手作業でリプログラムされた(Douvaras et al., 2014)。10001.198.01SV4Mutおよび10001.198.01SV5Mutは、GBA N370S変異を持つPD患者(68歳男性)からセンダイウイルスを使ってリプログラムされた2つの異なるクローンであり(Woodard et al., 2014)、一方、10001.198.01SV5WTはCRISPR/Cas9で修正された株である。MJ2136は、Ricardo Feldman博士の厚意で譲り受けたものであり、健常対照からセンダイウイルスを使ってリプログラムされた(Panicker et al., 2014)。
【0087】
ヒト初代ミクログリアおよび肝マクロファージは、ミクログリア培地およびマクロファージ培地(ScienCell)と共に、ScienCellから購入した。
【0088】
PSC株は、mTeSR1培地(StemCell Technologies)中、Matrigelコートディッシュ上で、培養、増殖させた。株は、Stempro Accutase(Life Technologies)による5分間の酵素的剥離を使って3~4日ごとに継代し、24時間、10μM Rock阻害剤(Y2732、Stemgent)を含むmTeSR1培地に再プレーティングした。
【0089】
骨髄系前駆体の単離
培養の上清画分からの細胞を、CX3CR1および/またはCD14コンジュゲート一次抗体(表3参照)またはそれらそれぞれのアイソタイプ対照と共に、氷上で40分インキュベートした。次に、細胞をFACS緩衝液(PBS、0.5%BSA、2mM EDTA、20mMグルコース)で洗浄し、300gで6分間、ペレット化し、死細胞を除外するためにDAPIを含有するFACS緩衝液に再懸濁した。CD14+細胞またはCD14+CX3CR1+細胞を、100μmセラミックノズルおよび20psiを用いて、ARIA IIu(商標)セルソーター(BD Biosciences)でのFACSにより単離した。
【0090】
骨髄系前駆体の凍結および融解
骨髄系前駆細胞を、単離後に、90%FBS(Life Technologies)と10%DMSO(Sigma-Aldrich)とからなる凍結培地中、低温貯蔵バイアル(Thermo Scientific)において凍結した。次に、細胞をMr.Frosty(Thermo Scientific)容器に移し、-80℃に一晩置いた。翌日、長期保存のために低温貯蔵バイアルを液体窒素に移した。
【0091】
細胞を融解するために、低温貯蔵バイアルを、部分的に融解するまで1~2分間、37℃の水浴に移した。層流フード下で、RPMI-1640培地をバイアルの元の体積の5倍まで加えた。次に、細胞を300gで6分間遠心分離し、適当量の培地に再懸濁し、組織培養処理が施されたプラスチックにプレーティングした。
【0092】
詳細なミクログリア分化プロトコール
PSCを、24時間、10μM Rock阻害剤を含有するmTeSR1培地中、15×103細胞/cm2の密度で、Matrigel(BD Biosciences)上にプレーティングした。個々のコロニーが目に見えるようになったら(通常はプレーティングの2~4日後)、80ng/ml BMP4を含有するmTeSR Custom培地(StemCell Technologies)を与えて分化を誘導した。mTeSR Custom培地は、塩化リチウム、GABA、ピペコリン酸、bFGFおよびTGFβ1を含まないmTeSR1培地である(StemCell Technologies)。4日間、培地を毎日替えてから、25ng/ml bFGF、100ng/ml SCFおよび80ng/ml VEGFを添加したStemPro-34 SFM(2mM GutaMAX-I含有、Life Technologies)を使って細胞を誘導した。2日後に、50ng/ml SCF、50ng/ml IL-3、5ng/ml TPO、50ng/ml M-CSFおよび50ng/ml Flt3を含有するStemPro-34に、培地を切り替えた。10日目に、培養の上清画分をペレット化し、新鮮な培地(前と同じ)に再懸濁し、それぞれのディッシュに戻した。14日目に、浮遊細胞をペレット化し、50ng/ml M-CSF、50ng/ml Flt3および25ng/ml GM-CSFを含有するStemPro-34に再懸濁し、再プレーティングによってそれぞれのディッシュに戻した。この手順を4日ごとに繰り返した。24日目から52日目までは、CD14/CX3CR1二重陽性前駆体のピークを決定するために、少量の浮遊細胞をフローサイトメトリー分析用に加工した。CD14+前駆体またはCD14+CX3CR1+前駆体の単離後に、組織培養処理を施したディッシュまたはThermanoxプラスチックカバースリップ(いずれもThermo Scientific製)上に、SF-ミクログリア培地(2mM GlutaMAX-I、10ng/ml GM-CSFおよび100ng/ml IL-34を添加したLife Technologies製のRPMI-1640)中、40~50×103細胞/cm2でプレーティングした。少なくとも2週間は3日~4日ごとに培地を補充した。
【0093】
末梢血由来マクロファージおよび極性化
New York Blood Centerにおいて、以前に記載されたように(Pallotta et al., 2015)、健常個体の末梢血から得られた単離ヒト単核球からマクロファージを分化させた。簡単に述べると、Ficoll勾配およびEasySep Human CD14 Positive Selection Kit(STEMCELL Technologies)を使った磁気ビーズに基づく分離を経て、CD14+細胞を単離した。次に、細胞を5×105細胞/mlの密度で超低接着プレートに5日間播種し、2mM GlutaMAX-I、10%熱非働化ヒト血清(Sigma-Aldrich)および20ng/ml M-CSF(PeproTech)を添加したRPMI-1640を使って、マクロファージに分化させた。極性化のために、マクロファージを同じ培地に維持するか(M(-))、または100ng/ml LPS(Sigma-Aldrich)および100ng/ml IFNγ(M(LPS,IFNγ))、40ng/ml IL-4および20ng/ml IL-13(M(IL4,IL13))もしくは40ng/ml IL-10(M(IL10);いずれもPeproTech製)マクロファージで処理した。
【0094】
免疫蛍光染色
細胞を、PBS-T(0.1%Triton-X100を含有するPBS)で10分ずつ3回洗浄し、ブロッキング血清(5%ロバ血清を含むPBS-T)中で2時間インキュベートし、一次抗体(表3参照)を4℃で一晩適用した。翌日、細胞をPBS-T中で15分ずつ3回洗浄し、二次抗体と共に室温(RT)で2時間インキュベートし、PBS-T中で10分ずつ3回洗浄し、DAPIを使って室温で15分間対比染色し、PBS中で2回洗浄した。二次抗体は1:500希釈で使用した。オリンパス(Olympus)DP30BW白黒デジタルカメラを装備したオリンパスIX71倒立顕微鏡を使って画像を取得した。蛍光色は、オリンパスソフトウェアDP ManagerまたはimageJを使って、デジタルに適用した。
【0095】
フローサイトメトリー分析
細胞を37℃で5分間のAccutase処理によって酵素的に回収した後、セルリフター(Sigma-Aldrich)を使って掻き取った。次に、適当量の蛍光コンジュゲート抗体(表3参照)を含有するそれぞれの培地100μlに再懸濁し、遮光して氷上で40分間インキュベートした。アイソタイプ対照または二次抗体のみを使って、ベースライン背景シグナルを測定した。死細胞の除外にはDAPIまたはSytox Green(Thermofisher)を使用した。分析は、5レーザーBD Biosciences ARIA-IIu(商標)セルソーターまたは4レーザーAttune NxTフローサイトメーター(ThermoFisher)で行った。データはBD FACSDiva(商標)ソフトウェアまたはFlowJoバージョン9.9.4(Flow Jo LLC)を使って解析した。
【0096】
(表3)フローサイトメトリーおよび免疫蛍光分析に使用した抗体
【0097】
貪食アッセイ
貪食アッセイは、以前に記載されたように行った(Enomoto et al., 2013)。簡単に述べると、付着ミクログリア細胞が入っているディッシュに、Fluoresbrite YGカルボキシレートマイクロスフェア1.00μm(Polysciences)を200マイクロスフェア/細胞の比で加えた。その培養物を37℃で3時間インキュベートした後、オリンパスDP30BW白黒デジタルカメラを装備したオリンパスIX71倒立顕微鏡で、蛍光像を取得した。次に、細胞をPBSで3回洗浄し、Accutaseで5分間処理し、セルリフターで完全に剥離させた。遠心分離後に、DAPIを含有するFACS緩衝液に細胞を再懸濁し、BD Biosciences ARIA-IIu(商標)セルソーターで分析した。
【0098】
サイトカインプロファイラーおよびクラスタリング
ミクログリア細胞の分泌サイトカインプロファイルを分析するために、プロテオームプロファイラー抗体アレイのヒトXLサイトカインアレイキット(R&D Systems)を、製造元の使用説明書に従って使用した。培養から上清を収集し、最長3ヶ月間、-80℃で保存した。メンブレンをKodak Image Station 4000MM PROで直接可視化し、Carestream分子イメージングソフトウェアを使って画像を取得した。
【0099】
シグナルを分析するために、画像をImage Jにインポートし、プロテインアレイアナライザー・プラグインを使用した。次に、2つの同一スポットの強度の読みを平均し、8つの陰性対照の平均値を各値から差し引いた。最後に、データを、6つの参照スポット(陽性対照)の平均強度と比較した強度比として表した。タンパク質プロファイラー分析のためのヒートマップおよびクラスタリングを、Rバージョン3.3.1のheatmap.2を使って生成させた。
【0100】
細胞内Ca2+イメージング
細胞をThermanoxプラスチックカバースリップ(ThermoFisher)上で培養し、Pluronic-127試薬と1:1で混合した蛍光性Ca2+色素Fluo-4/AM(2□M)(どちらもInvitrogen製)を添加した培地と共に、37℃で30分間インキュベートした。次に、pHを7.5に調整した1%BSA(Life Technologies)、1×GlutaMAX-Iおよび10mM HEPES(Sigma-Aldrich)を含有するRPMI-1640培地で、細胞を2回洗浄した。色素のエステル化を保証するために、細胞をさらに30分間回復させた。次に、カバースリップを、正立型オリンパスBX61顕微鏡にマウントした記録チャンバに移した。蛍光を冷却CCDカメラ(Hamamatsu Orca R2)によって2Hzで記録した。薬物適用は室温で60秒間の全チャンバ灌流によって行った。[Ca2+]iトランジェントはΔF(t)/F0の形式で表され、ここで、F0は所与の関心領域のベースライン蛍光であり、ΔFは蛍光F(t)とF0の電流レベルの間の相違である。0.05未満であるΔF(t)/F0のゆらぎは、非応答とみなした。
【0101】
RNAのシークエンシングおよび解析
RNA単離は、RNeasy Plus Mini Kit(Qiagen)をQIAshredder(Qiagen)と共に使用して行った。Accutaseによる5分間の処理後にセルリフターを使って、細胞を酵素的に剥離させた。遠心分離後に細胞をPBSで洗浄し、溶解緩衝液に再懸濁した。次に、製造元の使用説明書に従ってさらに加工するまで、試料を-80℃で保存した。RNAを30μlのRNaseフリーddH2Oに溶出させ、NanoDrop 8000分光測光器(Thermo Scientific)で定量した。
【0102】
Illumina HiSeq 2500プラットフォームでIlluminaプロトコールに従ってシングルエンドRNAseqデータを生成させた。スターアライナー(star aligner)(バージョン2.5.0b)を使って、生シークエンシングリードをヒトhg19ゲノムとアラインメントした。リードアラインメントに続いて、featureCounts(Liao et al., 2014)を使って、Ensembl遺伝子モデルGRCh37.70に基づいて遺伝子レベルで遺伝子発現を定量した。少なくとも1つの試料中で少なくとも1カウント・パー・ミリオン(CPM)である遺伝子を発現しているとみなして、その後の分析のためにとっておき、そうでないものは除去した。シークエンシングライブラリーサイズの相違を調整するために、M値のトリム平均正規化(trimmed mean of M-value normalization)(TMM)法(Robinson et al., 2010)を使って、遺伝子レベルリードカウントデータを正規化した。トランスクリプトームワイドの遺伝子発現に基づく階層的クラスター分析は、Rプログラミング言語を使って行った。
【0103】
ZhangらのミクログリアRNAseqデータ(Zhang et al., 2016)を再解析するために、本発明者らは、遺伝子発現オムニバス(GEO)から「myeloid」細胞の生RNAseqデータをダウンロードした(アクセッションGSE73721)。上記と同じstar/featureCountsパイプラインを使ってRNAseqリードデータを加工してから、その遺伝子レベルリードカウントを、本発明者らの試料の遺伝子カウントデータと組み合わせた。統合したデータを、TMMアプローチで正規化してから、線形回帰を使って、バッチに関する補正を行った。階層的クラスター分析を使って、試料の非類似度を示した。
【0104】
同様に、最近公表されたMuffat et al., 2016のヒトiPSC由来ミクログリアデータセットと比較するために、本発明者らは彼らのRNAseqリードデータをGEOからダウンロードし(アクセッションGSE85839)、次に同じRNAseq解析パイプラインを適用することで遺伝子レベルカウントデータを得て、それを本試料のリードカウントと統合した。統合したデータを正規化し、バッチ補正してから、階層的クラスター分析を行った。
【0105】
統計
頻度はエクセルで算出し、平均±平均の標準誤差(SEM)として表した。対応のないスチューデントのt検定を使って[Ca2+]iトランジェント振幅の統計的解析を行い、エクセルで平均値を比較した。6種のシグネチャー遺伝子に基づくデンドログラムに関するクラスターパーティションのP値有意性は、2つの中心を持つk平均クラスターから得られるクラスター中心距離が元のデータのそれよりも遠い1000重複順列(各遺伝子内で遺伝子発現値をシャフリング)の分率として推定した。サイトカイン放出データに関するiPSC-MGとhMGまたはhMG-SFとの間のピアソン相関係は、GraphPad Prism 6を使って計算した。
【0106】
実施例3
多能性幹細胞からミクログリアを生成させるための代替的プロトコール
この実施例は、多能性幹細胞からミクログリアを生成させるための代替的な例示的プロトコールを提供する。これらのプロトコールでは、CD14+/CX3CR1+ミクログリア前駆体がFACSによって単離されるか、CD14発現だけに基づいて磁気ビーズによる単離を使って単離され、単離されたCD14+前駆体は次に、組織培養処理が施されたプラスチックに、代替(「A」)ミクログリア分化培地(M-CSF、GM-CSF、NGF-βおよびCCL2を含む)または通常(「R」)ミクログリア分化培地(GM-CSFおよびIL-34を含む、実施例1および2において使用されたもの)に入れて、プレーティングされる。別段の言明がある場合を除き、この実施例での材料および方法は、実施例1および2について上述したものと同じである。
【0107】
例示的プロトコールの一つでは、表示した日に以下の工程を行う。
0日目:Matrigel上で成長させた未分化iPSCコロニー(だいたい直径1mm)を、80ng/ml BMP4を添加したmTSeR Customに切り替えることによって誘導する。培地を毎日替える。
4日目:2mM Glutamax、25ng/ml bFGF、100ng/ml SCFおよび80ng/ml VEGFを含むStemPro-34に、培地を切り替える。
6日目:2mM Glutamax、50ng/ml SCF、50ng/ml IL-3、5ng/ml TPO、50ng/ml M-CSF、50ng/ml Flt-3を含むStemPro-34に、培地を切り替える。
10日目:上清から細胞を収集、遠心沈殿させ、2mM Glutamax、50ng/ml SCF、50ng/ml IL-3、5ng/ml TPO、50ng/ml M-CSF、50ng/ml Flt-3を含むStemPro-34に再懸濁する。細胞をそれぞれのウェルに戻す。
14日目:上清から細胞を収集、遠心沈殿させ、2mM Glutamax、50ng/ml M-CSF、50ng/ml Flt-3、25ng/ml GM-CSFを含むStemPro-34に再懸濁する。細胞をそれぞれのウェルに戻す。4日ごとに繰り返す。
24日目~52日目:CD14+細胞に関して、FACS分取するか、磁気ビーズ単離を使用する。ProFreezeまたは50%FBS/10%DMSOを使って、60%の生存率でCD14+細胞を凍結する。このCD14+前駆体を使用して、以下の分化工程でミクログリア細胞を生産する。
【0108】
上記の工程に続いて、CD14+前駆細胞を50K~100K細胞/cm2の密度で、組織培養処理を施したプラスチックにプレーティングする。代替「A」培地(すなわち2mM Glutamax、10ng/ml M-CSF、10ng/ml GM-CSF、10ng/ml NGF-βおよび100ng/ml CCL-2を添加したRPMI-1640)または通常「R」培地(すなわち2mM Glutamax、10ng/ml GM-CSFおよび100ng/ml IL-34を添加したRPMI-1640)のどちらかを細胞に供給する。培地「A」を使用する場合は、2週間にわたって毎日培地を替える。培地「R」を使用する場合は、2週間にわたって4日ごとに培地を替える。この工程によって、CD14+前駆細胞からミクログリア細胞が生産されることになる。
【0109】
ミクログリア分化工程を行う前に(FACSまたは磁気ビーズを使って)CD14+細胞を単離することは不可欠ではない。例えば、いくつかの態様では、CD14+細胞を単離する代わりに、上清中の全細胞が以降のミクログリア分化工程に使用される。加えて、これらの例示的プロトコールの一定の変形(例えば作用物質の濃度および培地変更のタイミングの違いなど)を使用することができ、それらが本発明の範囲内であることは、当業者には認識されるであろう。
【0110】
図9は、最終ミクログリア分化工程に代替「A」培地が使用されるそのような例示的プロトコールの概略図である。最終分化工程に代替「A」培地を使って生産された細胞は、ミクログリアマーカーIBA1およびCD11c(免疫蛍光染色による決定;図10参照)ならびにCD11b、CD11c、CX3CR1、P2RY12、CD45(FACsによる決定)を発現する。
【0111】
「A」ミクログリア分化培地と「R」ミクログリア分化培地の使用の効果を対比して調べ、またミクログリア前駆体のプレーティングに多種多様な基質を使用する効果も調べるために、研究を行った。ミクログリア前駆体を、表示した基質(すなわちプラスチック、ラミニン、フィブロネクチンまたはマトリゲル(matrigel))にプレーティングし、「A」培地または「R」培地のどちらかにおいて培養した場合に、表示したマーカーを発現する細胞が全細胞に占めるパーセンテージ(%)を、下記表4に示す。ミクログリア前駆体は、以下に示す試験した基質を含めて、任意の適切な基質にプレーティングすることができる。限定するわけではないが、(例えば免疫蛍光研究を行うために)付着細胞が望まれる場合を含むいくつかの態様では、プラスチックが使用される。限定するわけではないが、細胞付着が必要でない態様を含むいくつかの態様では、Matrigelが使用される。
【0112】
(表4)ミクログリアマーカープロファイルに対する分化培地および基質の効果
【0113】
図11に示すように、「A」培地で培養されたミクログリアは(「R」培地で培養されたもののように)カルボキシル化ラテックスビーズを貪食することができた。図12に示すように、「A」培地または「R」培地のどちらかで培養されたミクログリアが放出するサイトカインは、極めて似ていることがわかった。プラスチック上または超低接着(ULA)プレート上で培養されたiPSC由来ミクログリアが示す発現プロファイルは互いに、そしてヒト初代ミクログリアと共に、クラスターを形成し、M(-)、M(LPS,IFNγ)、M(IL4,IL13)およびM(IL10)として極性化した末梢血由来マクロファージとは離れていることもわかった。
【0114】
本発明の具体的態様に関する上記の説明によって本発明の一般的性質は十分に明らかになるので、他者は、過度の実験を行わずに、当技術分野の通常の技能内である知識を応用して、本発明の一般的概念から逸脱することなく、さまざまな応用のために、容易にそれら具体的態様を変更しかつ/または適合させることができる。したがって、そのような適合および変更は、本明細書に提示した教示および指針に基づいて、開示した態様の均等物の意味および範囲内にあるものとする。本明細書における表現法または用語法は、説明を目的としており、限定を目的とするものではないので、当業者は、本明細書の用語法または表現法を、前記教示および指針に照らして解釈するものと、理解すべきである。
【0115】
参考文献一覧
この開示の他の項で引用された文書に加えて、以下の参考文献も、さらなる背景を提供しうる。この開示において引用された参考文献はすべて、参照によりその全体が本明細書に組み入れられる。加えて、本明細書において引用されまたは言及されたあらゆる製品に関する製造元の使用説明書またはカタログも、参照により本明細書に組み入れられる。参照により本明細書に組み入れられる文書またはそれに含まれる任意の教示内容は、本発明の実施において使用することができる。参照によりこの文章に組み入れられた文書を、先行技術であると認めるわけではない。
図1A
図1B
図2A
図2B
図2C
図3A
図3B
図3C
図3D-1】
図3D-2】
図3E
図4A
図4B
図4C
図4D
図4E
図4F
図5A
図5B
図5C
図5D
図6
図7
図8A
図8B
図8C
図8D
図9
図10
図11
図12
【手続補正書】
【提出日】2022-05-26
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)CD14+CX3CR1+ミクログリア前駆細胞の生成につながる骨髄系分化を誘導する条件下でヒト多能性幹細胞を培養する工程
(b)工程(a)において産生されたCD14+CX3CR1+ミクログリア前駆細胞を単離する工程、ならびに
c)CD14+CX3CR1+ミクログリア前駆細胞をIL-34およびGM-CSFを含むクログリア分化培地において、培養する工程
を含み、それによってヒトミクログリア細胞を生成する、ミクログリア細胞成方法。
【請求項2】
ヒト多能性幹細胞が誘導多能性幹(iPSC)である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
工程(a)が、細胞培養物を、多能性幹細胞の維持または分化に適した無血清培地中で、BMP4を含む第1の組成物と接触させることを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
細胞培養物が第1の組成物と最初に接触する、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
多能性幹細胞の分化に適した培地がmTeSR1培地である、請求項3または4に記載の方法。
【請求項6】
細胞培養物を、少なくとも4日間、第1の組成物と接触させることを含む、請求項3~5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
工程(a)が、細胞培養物を、無血清造血細胞培地中で、SCF、IL-3、TPO、M-CSF、およびFLT3リガンドらなる群より選択される1種または複数種の因子を含む第2の組成物と接触させることをさらに含む、請求項3~6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
第2の組成物が、SCF、IL-3、TPO、M-CSF、およびFLT3リガンド含む請求項7に記載の方法。
【請求項9】
工程(a)が、細胞培養物を、およそ8日間、第2の組成物と接触させることを含む、請求項7または請求項8に記載の方法。
【請求項10】
工程(a)が、細胞培養物を、無血清造血細胞培地中で、MCSF、FLT3リガンド、およびGM-CSFらなる群より選択される1種または複数種の因子を含む第3の組成物と接触させることをさらに含む、請求項3~9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
第3の組成物が、MCSF、FLT3リガンド、およびGM-CSF含む請求項10に記載の方法。
【請求項12】
工程(a)が、細胞培養物を、およそ11~36日間、第3の組成物と接触させることを含む、請求項10または請求項11に記載の方法。
【請求項13】
培地を交換するときに培養上清中に存在する細胞を収集すること、および収集した細胞を細胞培養物に戻すことを含む、請求項1~12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
工程(a)中に行われる培地交換に関して、培養上清中に存在する細胞を収集すること、および収集した細胞を細胞培養物に戻すことを含む、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
工程(b)が、蛍光活性化細胞選別(FACS)を行うことを含む、請求項1~14のいずれか1項に記載の方法。
【請求項16】
工程(b)が、細胞を抗CD14+抗体および/またはCX3CR1+抗体と接触させることを含む、請求項1~15のいずれか1項に記載の方法。
【請求項17】
工程(b)が、抗体が結合した細胞を、抗体が結合していない細胞から分離することを含む、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
細胞を、抗体に直接的または間接的に結合する磁気ビーズと接触させること、および磁石を使って、抗体が結合した細胞を抗体が結合していない細胞から分離することを含む、請求項16または17に記載の方法。
【請求項19】
工程(c)が、CD14+CX3CR1+ミクログリア前駆細胞をミクログリア分化培地において少なくとも15日間にわたって培養することを含む、請求項1~18のいずれか1項に記載の方法。
【請求項20】
処置を必要とする対象の処置に用いるための、請求項1~19のいずれか一項に記載の方法を使って生成したミクログリア細胞を含む、組成物
【請求項21】
対象が、ミクログリア細胞欠陥または欠乏と関連する疾患または障害を有する、請求項20に記載の組成物
【請求項22】
対象が、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、アルツハイマー病(AD)、多発性硬化症(MS)、パーキンソン病、レット症候群、スフェロイド形成を伴うびまん性白質脳症、軸索スフェロイド形成を伴う遺伝性びまん性白質脳症、前頭側頭葉変性症(FTLD)、家族性FTLD、統合失調症および自閉症スペクトラム障害からなる群より選択される疾患または障害を有する、請求項20または21に記載の組成物
【請求項23】
ミクログリア細胞、前記対象から得られる体細胞に由来する誘導多能性幹(iPSC)から生成される、請求項20~22のいずれか1項に記載の組成物