(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022106935
(43)【公開日】2022-07-20
(54)【発明の名称】輸送蛋白質含有マルチプルパス透析流体を再生するための新規組成物および方法
(51)【国際特許分類】
A61M 1/16 20060101AFI20220712BHJP
【FI】
A61M1/16 190
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2022077339
(22)【出願日】2022-05-10
(62)【分割の表示】P 2019551684の分割
【原出願日】2017-03-28
(71)【出願人】
【識別番号】518175588
【氏名又は名称】アドビトス ゲーエムベーハー
【氏名又は名称原語表記】ADVITOS GmbH
(74)【代理人】
【識別番号】100094640
【弁理士】
【氏名又は名称】紺野 昭男
(74)【代理人】
【識別番号】100103447
【弁理士】
【氏名又は名称】井波 実
(74)【代理人】
【識別番号】100111730
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 武泰
(74)【代理人】
【識別番号】100180873
【弁理士】
【氏名又は名称】田村 慶政
(72)【発明者】
【氏名】クレイマン、ベルンハルト
(72)【発明者】
【氏名】ヒュースディーゲ、クリストフ
(57)【要約】 (修正有)
【課題】本発明は、特に透析流体中の輸送蛋白質、例えばアルブミンを確実に再生するために、輸送蛋白質含有マルチプルパス透析流体を処理する組成物を提供する。
【解決手段】輸送蛋白質含有マルチプルパス透析流体を処理するためのキットであって、(a)生体適合性酸を含む酸性組成物と、(b)生体適合性塩基を含むアルカリ性組成物とを含み、前記酸性組成物(a)中の前記生体適合性酸の濃度対前記アルカリ性組成物(b)中の前記生体適合性塩基の濃度の比が0.7~1.3の範囲、好ましくは0.75~1.25の範囲、より好ましくは0.8~1.2の範囲であり、前記酸性組成物中の前記生体適合性酸の濃度および前記アルカリ性組成物中の前記生体適合性塩基の濃度が、少なくとも50mmol/lかつ500mmol/l以下である、キット。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
輸送蛋白質含有マルチプルパス透析流体を処理するためのキットであって、
(a)生体適合性酸を含む酸性組成物と、
(b)生体適合性塩基を含むアルカリ性組成物と
を含み、
前記酸性組成物(a)中の前記生体適合性酸の濃度対前記アルカリ性組成物(b)中の前記生体適合性塩基の濃度の比が0.7~1.3の範囲、好ましくは0.75~1.25の範囲、より好ましくは0.8~1.2の範囲であり、前記酸性組成物中の前記生体適合性酸の濃度および前記アルカリ性組成物中の前記生体適合性塩基の濃度が、少なくとも50mmol/lかつ500mmol/l以下である、キット。
【請求項2】
前記酸性組成物(a)中の前記生体適合性酸の濃度および前記アルカリ性組成物(b)中の前記生体適合性塩基の濃度が、少なくとも60mmol/lかつ400mmol/l以下、好ましくは少なくとも70mmol/lかつ300mmol/l以下、より好ましくは少なくとも100mmol/lかつ200mmol/l以下である、請求項1に記載のキット。
【請求項3】
前記酸性組成物(a)が前記生体適合性酸の水溶液であり、所望により追加の成分を含み、前記アルカリ性組成物(b)が前記生体適合性塩基の水溶液であり、所望により追加の成分を含む、請求項1または2に記載のキット。
【請求項4】
前記キットが、輸送蛋白質の安定剤、特にアルブミンの安定剤を含む、請求項1~3のいずれか一項に記載のキット。
【請求項5】
前記キットが、
(c1)前記輸送蛋白質の安定剤、特に前記アルブミンの安定剤を含む安定剤組成物を含み、当該安定剤組成物(c1)が、前記酸性組成物(a)および前記アルカリ性組成物(b)とは異なるものである、請求項4に記載のキット。
【請求項6】
前記輸送蛋白質の安定剤、特に前記アルブミンの安定剤が、アミノ酸、アミノ酸の塩、アミノ酸の誘導体、脂肪酸、脂肪酸の塩、脂肪酸の誘導体、糖、ポリオールおよびオスモライトからなる群から選択される、請求項4または5に記載のキット。
【請求項7】
前記安定剤が、脂肪酸、脂肪酸の塩および脂肪酸の誘導体からなる群から選択される、請求項6に記載のキット。
【請求項8】
前記安定剤が、カプリレート、カプリル酸、カプレート、カプリン酸、カプロン酸およびカプロエートからなる群から選択され、好ましくは、前記安定剤がカプリレートである、請求項7に記載のキット。
【請求項9】
前記安定剤組成物(c1)中の前記安定剤の濃度が、1~2500mmol/l、より好ましくは50~1500mmol/l、さらにより好ましくは100~1000mmol/l、最も好ましくは150~500mmol/lの範囲である、請求項5~8のいずれか一項に記載のキット。
【請求項10】
前記キットが、
(c2)栄養素、特に糖を含む栄養素組成物を含み、当該栄養素組成物(c2)が、前記酸性組成物(a)および前記アルカリ性組成物(b)とは異なるものである、請求項1~9のいずれか一項に記載のキット。
【請求項11】
前記栄養素がグルコースである、請求項10に記載のキット。
【請求項12】
前記キットが、ナトリウム、クロリド、カルシウム、マグネシウム、カリウム、ホスフェートおよびカーボネート/ビカーボネートからなる群から選択される少なくとも1つの成分を含む、請求項1~11のいずれか一項に記載のキット。
【請求項13】
ナトリウム、クロリド、カルシウム、マグネシウム、カリウムおよびホスフェートからなる群から選択される少なくとも1つの成分が前記酸性組成物(a)に含まれる、請求項12に記載のキット。
【請求項14】
ナトリウム、クロリド、カリウム、ホスフェート、カーボネート/ビカーボネートおよびトリスからなる群から選択される少なくとも1つの成分が前記アルカリ性組成物(b)に含まれる、請求項12または13に記載のキット。
【請求項15】
前記キットは、
(c3)ナトリウム、クロリド、カルシウム、マグネシウム、カリウムおよびホスフェートからなる群から選択される少なくとも1つの成分を含む電解質組成物を含み、ここで前記電解質組成物(c3)が、前記酸性組成物(a)および前記アルカリ性組成物(b)とは異なるものである、請求項12~14のいずれか一項に記載のキット。
【請求項16】
ナトリウムの供給源が、NaOH、Na2CO3、Na2HPO4、NaHCO3、NaCl、および/またはラクテート、アセテート、グルコネート、シトレート、マレエート、タータレートおよび/または脂肪酸、例えば、カプリレートのナトリウム塩である、請求項12~15のいずれか一項に記載のキット。
【請求項17】
クロリドの供給源が、HCl、NaCl、KCl、MgCl2および/またはCaCl2である、請求項12~16のいずれか一項に記載のキット。
【請求項18】
カリウムの供給源がKOHおよび/またはKClである、請求項12~17のいずれか一項に記載のキット。
【請求項19】
カルシウムの供給源が、CaCl2、CaCO3、および/またはラクテート、アセテート、グルコネート、シトレート、マレエート、タータレートおよび/または脂肪酸のカルシウム塩であり、好ましくは、カルシウムの供給源が、ラクテート、アセテート、グルコネート、シトレート、マレエートおよび/またはタータレートのカルシウム塩である、請求項12~18のいずれか一項に記載のキット。
【請求項20】
マグネシウムの供給源が、MgCl2、MgCO3、および/またはラクテート、アセテート、グルコネート、シトレート、マレエート、タータレートおよび/または脂肪酸のマグネシウム塩であり、好ましくは、マグネシウムの供給源が、ラクテート、アセテート、グルコネート、シトレート、マレエートおよび/またはタータレートのマグネシウム塩である、請求項12~19のいずれか一項に記載のキット。
【請求項21】
前記キットは、
(c4)緩衝剤、特に、カーボネート/ビカーボネートを含む緩衝組成物を含み、当該緩衝組成物(c4)が、前記酸性組成物(a)および前記アルカリ性組成物(b)とは異なるものである、請求項12~20のいずれか一項に記載のキット。
【請求項22】
前記キットが、安定剤組成物(c1)および栄養素組成物(c2)を含み、前記安定剤組成物(c1)および前記栄養素組成物(c2)は同じ組成物(c5)であるか、または別個の組成物である、請求項5~21のいずれか一項に記載のキット。
【請求項23】
前記キットが、電解質組成物(c3)および緩衝組成物(c4)を含み、前記電解質組成物(c3)および前記緩衝組成物(c4)は同じ組成物(c6)であるか、または別個の組成物である、請求項15~22のいずれか一項に記載のキット。
【請求項24】
前記キットが、安定剤組成物(c1)および電解質組成物(c3)を含み、前記安定剤組成物(c1)および前記電解質組成物(c3)は同じ組成物(c7)であるか、または別個の組成物である、請求項5~23のいずれか一項に記載のキット。
【請求項25】
前記キットが、栄養素組成物(c2)および電解質組成物(c3)を含み、前記栄養素組成物(c2)および前記電解質組成物(c3)は同じ組成物(c8)であるか、または別個の組成物である、請求項10~24のいずれか一項に記載のキット。
【請求項26】
前記キットが、安定剤組成物(c1)および緩衝組成物(c4)を含み、前記安定剤組成物(c1)および前記緩衝組成物(c4)は同じ組成物(c9)であるか、または別個の組成物である、請求項5~25のいずれか一項に記載のキット。
【請求項27】
前記キットが、栄養素組成物(c2)および緩衝組成物(c4)を含み、前記栄養素組成物(c2)および前記緩衝組成物(c4)は同じ組成物(c10)であるか、または別個の組成物である、請求項10~26のいずれか一項に記載のキット。
【請求項28】
前記キットが、安定剤組成物(c1)、栄養素組成物(c2)および電解質組成物(c3)を含み、前記安定剤組成物(c1)、前記栄養素組成物(c2)および前記電解質組成物(c3)は同じ組成物(c11)であるか、または別個の組成物である、請求項5~27のいずれか一項に記載のキット。
【請求項29】
前記キットが、安定剤組成物(c1)、栄養素組成物(c2)、電解質組成物(c3)および緩衝組成物(c4)を含み、前記安定剤組成物(c1)、前記栄養素組成物(c2)、前記電解質組成物(c3)および前記緩衝組成物(c4)は同じ組成物(c12)であるか、または別個の組成物である、請求項5~28のいずれか一項に記載のキット。
【請求項30】
(a)前記酸性組成物(a)が、ナトリウム、クロリド、カルシウム、マグネシウム、カリウムおよびホスフェートからなる群から選択される少なくとも1つの成分を含み、
(b)前記アルカリ性組成物(b)は、ナトリウム、クロリド、カリウム、ホスフェートおよびカーボネート/ビカーボネートからなる群から選択される少なくとも1つの成分、ならびに所望により、輸送蛋白質の安定剤、特にアルブミンの安定剤を含む、請求項1~29のいずれか一項に記載のキット。
【請求項31】
(a)前記酸性組成物(a)が、ナトリウム、クロリド、カルシウム、マグネシウム、カリウムおよびホスフェートからなる群から選択される少なくとも1つの成分を含み、
(b)前記アルカリ性組成物(b)が、ナトリウム、クロリド、カリウム、ホスフェート、カーボネート/ビカーボネートからなる群から選択される少なくとも1つの成分を含み、
前記キットがさらに、
- 輸送蛋白質の安定剤、特にアルブミンの安定剤を含む、前記酸性組成物(a)および前記アルカリ性組成物(b)とは異なるものである安定剤組成物(c1)、および/または
- 栄養素、特に糖を含む、前記酸性組成物(a)および前記アルカリ性組成物(b)とは異なるものである栄養素組成物(c2)
を含む、請求項1~30のいずれか一項に記載のキット。
【請求項32】
前記キットが、安定剤/栄養素組成物(c5)を含み、当該安定剤/栄養素組成物(c5)が、
- 糖、好ましくはグルコースと、
- 輸送蛋白質の安定剤、特にアルブミンの安定剤、好ましくはカプリレートと
を含み、かつ
前記組成物(c5)は、前記酸性組成物(a)および前記アルカリ性組成物(b)とは異なるものである、請求項31に記載のキット。
【請求項33】
前記キットが、安定剤/栄養素/電解質組成物(c11)を含み、当該安定剤/栄養素/電解質組成物(c11)は、
- 糖、好ましくはグルコースと、
- 輸送蛋白質の安定剤、特にアルブミンの安定剤、好ましくはカプリレートと、
- ナトリウム、クロリド、カルシウム、マグネシウム、カリウムおよびホスフェートからなる群から選択される少なくとも1つの成分と
を含み、かつ
前記組成物(c11)は、前記酸性組成物(a)および前記アルカリ性組成物(b)とは異なるものである、請求項32に記載のキット。
【請求項34】
輸送蛋白質含有マルチプルパス透析流体を処理する、特に再生するための、請求項1~33のいずれか一項に記載のキットの使用。
【請求項35】
輸送蛋白質含有マルチプルパス透析流体を再生する方法であって、
前記輸送蛋白質含有マルチプルパス透析流体が、
- 生体適合性酸を含む酸性組成物(a)を用いて、また
- 生体適合性塩基を含むアルカリ性組成物(b)を用いて、処理され、特に再生され、
- 前記酸性組成物(a)中の前記生体適合性酸の濃度対前記アルカリ性組成物(b)中の前記生体適合性塩基の濃度の比が0.7~1.3の範囲、好ましくは0.75~1.25の範囲、より好ましくは0.8~1.2の範囲であり、前記酸性組成物(a)中の前記生体適合性酸の濃度および前記アルカリ性組成物(b)中の前記生体適合性塩基の濃度が少なくとも50mmol/lかつ500mmol/l以下である、方法。
【請求項36】
前記酸性組成物(a)および前記アルカリ性組成物(b)を用いた前記輸送蛋白質含有マルチプルパス透析流体の処理が連続して行われる、請求項35に記載の方法。
【請求項37】
(i)前記輸送蛋白質含有マルチプルパス透析流体を透析器に通す工程と、
(ii)前記輸送蛋白質含有マルチプルパス透析流体の流れを第1の流れと第2の流れとに分割する工程と、
(iii)前記酸性組成物(a)を前記輸送蛋白質含有マルチプルパス透析流体の前記第1の流れに、前記アルカリ性組成物(b)を前記輸送蛋白質含有マルチプルパス透析流体の前記第2の流れに添加する工程と、
(iv)前記酸性組成物(a)で処理された前記輸送蛋白質含有マルチプルパス透析流体の前記第1の流れおよび前記アルカリ性組成物(b)で処理された前記輸送蛋白質含有マルチプルパス透析流体の前記第2の流れを濾過する工程と、
(v)前記酸性組成物(a)で処理された前記輸送蛋白質含有マルチプルパス透析流体の前記第1の流れおよび前記アルカリ性組成物(b)で処理された前記輸送蛋白質含有マルチプルパス透析流体の前記第2の流れを再び一緒にする工程と、
(vi)所望により、工程(i)から始まるさらなるサイクルを実行する工程と
を含む、請求項35に記載の方法。
【請求項38】
工程(iii)において、前記輸送蛋白質含有マルチプルパス透析流体の前記第1の流れへの前記酸性組成物(a)の添加が、前記輸送蛋白質含有マルチプルパス透析流体の前記第2の流れへの前記アルカリ性組成物(b)の添加とほぼ同時に行われる、請求項37に記載の方法。
【請求項39】
前記輸送蛋白質含有マルチプルパス透析流体が安定剤組成物(c1)を用いて処理され、当該安定剤組成物(c1)が輸送蛋白質の安定剤、特にアルブミンの安定剤を含み、前記酸性組成物(a)および前記アルカリ性組成物(b)とは異なるものであ、請求項35~38のいずれか一項に記載の方法。
【請求項40】
前記輸送蛋白質含有マルチプルパス透析流体が栄養素組成物(c2)を用いて処理され、当該栄養素組成物(c2)が、栄養素、特に糖を含み、前記酸性組成物(a)および前記アルカリ性組成物(b)とは異なるものである、請求項35~39のいずれか一項に記載の方法。
【請求項41】
前記輸送蛋白質含有マルチプルパス透析流体が電解質組成物(c3)を用いて処理され、当該電解質組成物(c3)が、ナトリウム、クロリド、カルシウム、マグネシウム、カリウムおよびホスフェートからなる群から選択される少なくとも1つの成分を含み、前記酸性組成物(a)および前記アルカリ性組成物(b)とは異なるものである、請求項35~40のいずれか一項に記載の方法。
【請求項42】
前記輸送蛋白質含有マルチプルパス透析流体が緩衝組成物(c4)を用いて処理され、当該緩衝組成物(c4)が、緩衝剤、特にカーボネート/ビカーボネートを含み、前記酸性組成物(a)および前記アルカリ性組成物(b)とは異なるものである、請求項35~41のいずれか一項に記載の方法。
【請求項43】
前記輸送蛋白質含有マルチプルパス透析流体が安定剤組成物(c1)、栄養素組成物(c2)および/または電解質組成物(c3)を用いて処理され、前記安定剤組成物(c1)、前記栄養素組成物(c2)および/または前記電解質組成物(c3)は同じ組成物または異なる組成物である、請求項35~42のいずれか一項に記載の方法。
【請求項44】
前記輸送蛋白質含有マルチプルパス透析流体が安定剤組成物(c1)、栄養素組成物(c2)、電解質組成物(c3)および/または緩衝組成物(c4)を用いて処理され、前記安定剤組成物(c1)、前記栄養素組成物(c2)、前記電解質組成物(c3)および/または前記緩衝組成物(c4)は同じ組成物または異なる組成物である、請求項35~43のいずれか一項に記載の方法。
【請求項45】
前記安定剤組成物(c1)、前記栄養素組成物(c2)、前記電解質組成物(c3)および/または前記緩衝組成物(c4)が、
- 前記酸性組成物(a)および前記アルカリ性組成物(b)を用いた前記輸送蛋白質含有マルチプルパス透析流体の処理後、好ましくは請求項37に記載の工程(v)の後、かつ
- 前記輸送蛋白質含有マルチプルパス透析流体を前記透析器に通す前に
前記輸送蛋白質含有マルチプルパス透析流体に添加される、請求項44に記載の方法。
【請求項46】
工程(v)の後、かつ工程(vi)に先立つ工程(v-1)、すなわち、
(v-1)前記輸送蛋白質含有マルチプルパス透析流体に、(i)輸送蛋白質の安定剤、特にアルブミンの安定剤を含む安定剤組成物(c1)、(ii)栄養素、特に糖を含む栄養素組成物(c2)、(iii)ナトリウム、クロリド、カルシウム、マグネシウム、カリウムおよびホスフェートからなる群から選択される少なくとも1つの成分を含む電解質組成物(c3)、および/または(iv)緩衝剤、特にカーボネート/ビカーボネートを含む緩衝組成物(c4)を添加する工程を含み、
前記安定剤組成物(c1)、前記栄養素組成物(c2)、前記電解質組成物(c3)および/または前記緩衝組成物(c4)は同じ組成物または異なる組成物である、請求項37~45のいずれか一項に記載の方法。
【請求項47】
(i)生体適合性酸を含む酸性組成物(a)および生体適合性塩基を含むアルカリ性組成物(b)を提供する工程であって、前記酸性組成物(a)中の前記生体適合性酸の濃度対前記アルカリ性組成物(b)中の前記生体適合性塩基の濃度の比が0.7~1.3の範囲、好ましくは0.75~1.25の範囲、より好ましくは0.8~1.2の範囲であり、前記酸性組成物(a)中の前記生体適合性酸の濃度および前記アルカリ性組成物(b)中の前記生体適合性塩基の濃度が少なくとも50mmol/lかつ500mmol/l以下である、工程と
(ii)前記酸性組成物(a)を前記アルカリ性組成物(b)と合流させる工程と、
(iii)輸送蛋白質、好ましくはアルブミン、より好ましくはヒト血清アルブミン(HSA)を添加する工程と
を含む、輸送蛋白質含有マルチプルパス透析流体を提供する方法。
【請求項48】
工程(ii)に続き、工程(iii)に先行する工程(ii-1)、すなわち、
(ii-1)(i)輸送蛋白質の安定剤、特にアルブミンの安定剤を含む安定剤組成物(c1)、(ii)糖を含む栄養素組成物(c2)、(iii)ナトリウム、クロリド、カルシウム、マグネシウム、カリウムおよびホスフェートからなる群から選択される少なくとも1つの成分を含む電解質組成物(c3)、および/または(iv)緩衝剤、特にカーボネート/ビカーボネートを含む緩衝組成物(c4)を添加する工程を含み、
前記安定剤組成物(c1)、前記栄養素組成物(c2)、前記電解質組成物(c3)および/または前記緩衝組成物(c4)は同じ組成物または異なる組成物である、請求項47に記載の方法。
【請求項49】
請求項35~48のいずれか一項に記載の方法における、請求項1~33のいずれか一項に記載のキットの使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、輸送蛋白質含有マルチプルパス透析流体の再生の分野に関する。より具体的には、本発明は、特に透析流体中の輸送蛋白質、例えばアルブミンを確実に再生するために、輸送蛋白質含有マルチプルパス透析流体を処理するために使用可能な組成物に関する。本発明はさらに、輸送蛋白質含有マルチプルパス透析流体を提供および再生する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ヒトの肝臓または腎臓がその正常な機能を果たせなくなると、ある種の物質の除去または代謝ができなくなり、これらの物質が体内に蓄積することになる。これらの物質は、水に対する溶解度に従って水溶性物質および不水溶性(または蛋白質結合)物質に分類することができる。機能不全状態の解消を手助けするためにさまざまな体外治療が利用可能である。血液透析は、腎不全を罹患した患者を治療するための代表的な方法である。この目的のために、半透膜によって2区画に仕切られた透析器が用いられる。血液は、透析器の血液区画中を通り、当該透析器の透析区画中を通る透析流体とは半透膜により分離されている。生理学的透析流体は、血漿中での濃度が正常になるように所望の濃度の電解質、栄養素および緩衝液を含むべきである。
【0003】
通常行われている血液透析は、肝不全を罹患している患者で特に腎不全を罹患していない場合にはほとんど役に立たない。これは主に、肝不全において蓄積する代謝産物のような主な毒素、例えばビリルビンおよび胆汁酸は、蛋白質に結合しており、それ故に従来の(腎臓用)血液透析ではほとんど除去されないためである。
【0004】
透析治療の効率を改善するために、血液から、また血液への物質の輸送を通常の物理的現象により向上させる。これは、透析器よりも前(希釈前)および/または透析器の後(希釈後)の血液の希釈を通して実現される。このようにして、肝不全患者の血液中に存在するさまざまな物質(有害な物質および有用な物質)は、圧力勾配を用いて血液から除去される。しかし、いわゆる中分子の除去は濾過容量に大きく依存する。
【0005】
蛋白質結合物質の除去を改善するために、輸送蛋白質、例えばアルブミンを含むように透析流体を改質した。アルブミンは、血液から半透膜を通って透析流体へと移動する非結合毒素に結合する。透析流体中の輸送蛋白質、例えばアルブミンの存在により、血液からの蛋白質結合物質の除去が容易になる。特に、アルブミンは血液中の蛋白質結合毒素のための主な輸送蛋白質である。したがって、アルブミンを用いて血液から蛋白質結合物質を除去するこのような治療様式を「アルブミン透析」と呼ぶ。
【0006】
標準的な腎機能代替療法マシンが使用可能なアルブミン透析の簡単な方法は、「シングルパスアルブミン透析」(SPAD)である。SPADにおいて、患者の血液は高流束中空糸型ヘモダイアフィルタを備えた回路を流れる。この膜の反対側は、向流させた輸送蛋白質溶液で洗浄され、これはフィルタを通った後廃棄される。
【0007】
しかしながら、市販のアルブミンは非常に高価である。したがって、SPADではシングルパスの後に廃棄されるアルブミン故に高いコストを招く。したがって、マルチプルパスアルブミン透析デバイスが開発された。このようなデバイスの1つは「分子吸着再循環システム」(MARS)であり、これは3つの異なる回路、すなわち、血液、アルブミンおよび低流量透析で構成される体外血液透析システムである。血液は、アルブミン透析液に接触して透析される。その後、アルブミン透析液は、低流量diaFLUXフィルタの繊維を通ることによってMARS回路内のループで再生され、標準的な透析流体により水溶性毒素を除去し、電解質/酸塩基のバランスをもたらす。次に、アルブミン透析液は2つの異なる吸着筒を通り、蛋白質結合物質およびアニオン性物質を除去する。しかし、MARSを用いた治療のコストは、特に高価な「MARS治療キット」のため依然として非常に高い。さらに、解毒効率は不十分であり、蛋白質結合物質のマーカーとしてのビリルビン濃度は平均してわずか最高30%の除去しか達成できない。アルブミンに基づく透析プロセスは肝性脳症の症状の改善をもたらすが、限られた解毒効果および高い治療コストの結果、値の正常化を達成することはできない。
【0008】
国際公開第03/094998号、米国特許出願公開第2005/0082225号および国際公開第2009/071103号は、特にアルブミン含有マルチプルパス透析流体を処理するための酸および塩基の添加により、pHを変えることによってアルブミンが再生されるマルチプルパスアルブミン透析を記載している。したがって、透析流体のpHが低下または上昇し、それによってその酸性範囲またはアルカリ性範囲内におけるある種の毒素の輸送蛋白質への結合を少なくし、したがって、蛋白質から透析流体中の蛋白質結合毒素を「放出」し、流体中の遊離毒素濃度を上昇させる。すると、毒素は濾過により容易に除去できる。次に、「遊離」輸送蛋白質は透析のさらなるサイクルに入ることが可能になる。
【0009】
透析流体のこのようなpH値の変更により、透析流体のpH値を透析治療の必要性に応じて調節可能な透析システムを可能とする。このことにより、(i)例えば腎補助、肝補助および/または肺補助(例えばアシドーシスを治療するため)のための種々の透析治療、ならびに(ii)多臓器補助が同じ1つの透析システムで実現可能となる。
【発明の概要】
【0010】
上記に鑑みて、本発明の目的は、輸送蛋白質含有マルチパス透析流体を処理するための組成物を提供することであり、これにより(i)pH値の変更により毒素を運ぶ輸送蛋白質の「洗浄」を可能にし、(ii)必要な電解質および/または栄養素を提供し、(iii)透析流体(透析に、すなわち透析器内で使用される)のpHを6.35~11.4、特に6.5~10、好ましくは7.4~9の値に調節することを可能にする。したがって、このような組成物は、さまざまな透析治療において、例えば、腎補助、肝補助、肺補助のため;多臓器補助のため;および/または特にビカーボネートを(増やして)投与することなくアシドーシスを治療するために使用可能である。このような組成物は、透析器に入るときに、6.35~11.4、特に6.5~10、好ましくは7.4~9のpH値を有する輸送蛋白質含有マルチパス透析流体を再生するのに特に有用である。また、本発明の目的は、さまざまな透析治療、特に6.35~11.4、特に6.5~10、好ましくは7.4~9のpH値を必要とする透析治療に使用可能な、輸送蛋白質含有マルチパス透析流体を再生する方法を提供することである。
【0011】
この目的は、下記および添付の特許請求の範囲に記載の主題によって達成される。
【0012】
以下に本発明を詳述するが、本発明は、本明細書に記載される特定の方法論、プロトコルおよび試薬はさまざまであり得ることから、これらに限定されないと理解すべきである。本明細書において使用する用語は、添付の特許請求の範囲によってのみ限定される本発明の範囲を限定しようとするものではないことも理解すべきである。特に定義しない限り、本明細書で用いるすべての技術的および科学的用語は、当業者に一般的に理解されるものと同じ意味を有する。
【0013】
以下、本発明の要素を説明する。これらの要素を特定の実施形態と共に列挙するが、それらを任意の方法および任意の数で組み合わせてさらなる実施形態を作り出し得ることが理解されるべきである。さまざまに記載される実施例および好ましい実施形態は、本発明を明示的に記載された実施形態のみに限定すると解釈されるべきではない。本記載は、明示的に記載された実施形態と任意の数の開示されたおよび/または好ましい要素とを組み合わせた実施形態をサポートし、包含するものであると理解されるべきである。さらに、本願に記載したすべての要素の任意の順列および組合せは、文脈上別の意味を示していない限り、本願の記載により開示されているとみなされるべきである。
【0014】
本明細書およびそれに続く特許請求の範囲の全体を通して、文脈上他の意味に解釈すべき場合を除き、用語「含む(comprise)」および「含有する(contain)」ならびにその変形、例えば「含む(comprises)」および「含む(comprising)」または「含有する(contains)」および「含有する(containing)」は、記載された構成要素、物または工程の包含を示唆するが、いかなる他の記載されていない構成要素、物または工程の除外も示唆するものではないと理解すべきである。用語「~からなる(consist of)」は、用語「含む(comprise)」または「含有する(contain)」の特定の実施形態であり、いかなる他の記載されていない構成要素、物または工程も除外される。本発明との関連で、用語「含む(comprise)」または「含有する(contain)」は「~からなる(consist of)」を包含する。したがって、用語「含む(comprising)」または「含有する(containing)」は「~からなる(consisting of)」を包含し、例えば、Xを「含む(comprising)」/「含有する(containing)」組成物は、Xのみからなっていても、または追加の何かを含んでもよく、例えば、X+Yである。
【0015】
本発明の説明との関連で(特に特許請求の範囲との関連で)使用される用語「a」、「an」および「the」ならびに類似の指示対象は、本明細書で別様に指示されるか、または文脈によって明確に矛盾しない限り、単数形および複数形の両方を対象にすると解釈されるべきである。本明細書の値の範囲の記載は、その範囲内に入る各別個の値を個別に指す簡便な方法として役立つことを意図するにすぎない。本明細書で別様に指示されない限り、個々の値それぞれは、本明細書に個別に記載されたかのように本明細書に組み込まれる。本明細書中のいずれの言葉も、特許請求の範囲に記載されない何らかの要素を、本発明の実施の必須要件であることを示すものと解釈してはならない。
【0016】
語句「実質的に」は「完全に」を除外するものではなく、例えば、Yを「実質的に含まない」組成物はYをまったく含まなくてもよい。必要であれば、語句「実質的に」は本発明の定義から省略されてもよい。
【0017】
数値xに関連する用語「約」は、x±10%を意味する。
【0018】
輸送蛋白質含有マルチプルパス透析流体を処理するキット
第1の態様において、本発明は、
(a)生体適合性酸を含む酸性組成物と、
(b)生体適合性塩基を含むアルカリ性組成物と
を含む輸送蛋白質含有マルチプルパス透析流体を処理するためのキットであって、
酸性組成物(a)中の生体適合性酸の濃度対アルカリ性組成物(b)中の生体適合性塩基の濃度の比は、0.7~1.3の範囲、好ましくは0.75~1.25の範囲、より好ましくは0.8~1.2の範囲であり、
酸性組成物中の生体適合性酸の濃度およびアルカリ性組成物中の生体適合性塩基の濃度は、少なくとも50mmol/lかつ500mmol/l以下である、キットを提供する。
【0019】
このようなキットによって、(i)pH値の変更により毒素を運ぶ輸送蛋白質、特にアルブミンの「再生」(特に「洗浄」)を可能にし、(ii)必要な電解質および/または栄養素を提供し、(iii)透析流体のpHを6.35~11.4、特に6.5~10、好ましくは7.4~9の値に調節することを可能にする。したがって、このような組成物は、さまざまな透析治療において、例えば、腎補助、肝補助、肺補助のため;多臓器補助のため;酸塩基ホメオスタシスの調節のため;および/またはアシドーシスを治療するため、特に、6.35~11.4、特に6.5~10、好ましくは7.4~9のpH値を有する、輸送蛋白質を含有する、特にアルブミンを含有するマルチプルパス透析流体を再生するために使用可能である。
【0020】
本明細書で使用する場合(すなわち、本明細書全体を通して)、特に、「輸送蛋白質、例えばアルブミンを再生する」との関連での用語「再生する」は、透析器を通った後、血液から除去されるべき物質、例えば、毒素が輸送蛋白質に結合することを意味する。これらの物質は、マルチプルパス透析の次のサイクルで輸送蛋白質を再利用するために、輸送蛋白質から放出される必要がある。したがって、(輸送蛋白質を)「再生する」とは、輸送蛋白質が、毒素または除去されるべき他の物質が輸送蛋白質に結合している状態(X)から、輸送蛋白質が「結合していない」(または含まれていない)状態(Y)に移行することを意味する。特に、このような非結合状態(Y)では、輸送蛋白質は、輸送蛋白質が毒素および血液から除去されるべき他の物質に結合することが可能となる構造を持つ。
【0021】
本明細書で使用する場合(すなわち、本明細書全体を通して)、用語「輸送蛋白質含有マルチプルパス透析流体を処理する」は、一般に(i)本発明に係るキットの構成成分それぞれ(例えば、酸性組成物(a)、アルカリ性組成物(b)および任意のさらなる所望の構成成分、例えば、本明細書に記載の組成物(c1)~(c12)のそれぞれ)を輸送蛋白質含有マルチプルパス透析流体と接触させること、したがって(ii)輸送蛋白質含有マルチプルパス透析流体の性質に影響を与える、例えば、透析流体のpH値を変える、透析流体の組成を変える、および/または、最も好ましくは、輸送蛋白質を再生することを意味する。本文脈中、本明細書で使用する場合(すなわち、本明細書全体を通して)、用語「輸送蛋白質含有マルチプルパス透析流体を処理する」は、好ましくは、上記のように輸送蛋白質含有マルチプルパス透析流体中の輸送蛋白質を再生することを意味する。特に、本発明に係るキットの構成成分それぞれ(例えば、酸性組成物(a)、アルカリ性組成物(b)および任意のさらなる所望の構成成分、例えば、本明細書に記載の組成物(c1)~(c12)のそれぞれ)は、輸送蛋白質含有マルチプルパス透析流体に直接添加される。好ましくは、本発明に係るキットの構成成分それぞれ(例えば、酸性組成物(a)、アルカリ性組成物(b)および任意のさらなる所望の構成成分、例えば、本明細書に記載の組成物(c1)~(c12)のそれぞれ)は、輸送蛋白質含有マルチプルパス透析流体に別々に直接添加される。換言すると、キットの構成成分(例えば、酸性組成物(a)、アルカリ性組成物(b)および任意のさらなる所望の構成成分、例えば、本明細書に記載の組成物(c1)~(c12)のそれぞれ)は、好ましくは、輸送蛋白質含有マルチプルパス透析流体と接触する(例えば、添加される)前に互いと混合されない。
【0022】
本明細書で使用する場合、用語「輸送蛋白質含有マルチプルパス透析流体」は、(i)透析器を繰り返し、好ましくは連続して通過し(したがって、血液の透析に繰り返し使用される)、(ii)輸送蛋白質、すなわち、イオン、小分子または高分子の移動に関与する蛋白質を含む透析流体を意味する。特に、透析流体中の輸送蛋白質は、透析中に血液から毒性の、および/または望ましくないイオン、小分子または高分子の除去を可能にする。輸送蛋白質は、好ましくは水溶性蛋白質である。本明細書に記載の本発明との関連では、好ましい輸送蛋白質はアルブミン、好ましくは血清アルブミン、より好ましくはウシまたはヒト血清アルブミン等の哺乳動物血清アルブミン、さらにより好ましくはヒト血清アルブミン(HSA)である。アルブミンは、自然に存在した状態のまま使用されても、または遺伝子組み換えされたアルブミンであってもよい。アルブミンおよび少なくとも1種のさらなる輸送蛋白質を含有する混合物、ならびに異なる種類のアルブミンの混合物、例えば、ヒト血清アルブミンと別の哺乳動物血清アルブミンとの混合物も好ましい。いずれの場合も、本明細書で指定のアルブミン濃度は、単一の種類のアルブミン(例えば、ヒト血清アルブミン)またはさまざまな種類のアルブミンの混合物が使用されるかどうかに関係なく、アルブミンの総濃度を意味する。本発明で使用される透析流体は、3~80g/lのアルブミン、好ましくは12~60g/lのアルブミン、より好ましくは15~50g/lのアルブミン、最も好ましくは約20g/lのアルブミンを含む。アルブミンの濃度は%値として示すこともでき、したがって、例えば30g/lのアルブミンは3%のアルブミン(wt./vol)に相当する。
【0023】
好ましくは、本明細書に記載の本発明に係るキットは、輸送蛋白質、例えばアルブミンを含まない。
【0024】
好ましくは、本明細書に記載の本発明に係るキットにおいて、酸性組成物(a)およびアルカリ性組成物(b)は、空間的に分離させて、例えば別個の容器で提供される。より好ましくは、本明細書に記載の本発明に係るキットは、酸性組成物(a)を含む(アルカリ性組成物(b)は含まない)第1の容器およびアルカリ性組成物(b)を含む(酸性組成物(a)は含まない)第2の容器を含む。
【0025】
本発明に係るキットは、(a)生体適合性酸を含む酸性組成物を含む。好ましくは、酸性組成物(a)は、生体適合性酸の水溶液を含むか、またはこれからなる。本明細書で使用する場合、用語「酸」は、アレニウス酸、すなわち、溶液中で解離して水素イオン(H+)を放出する酸を意味する。本明細書で使用する場合、「生体適合性酸」は、本明細書に記載の生体適合性塩基も含む透析流体に含まれる場合、透析を用いて治療される対象に中毒または有害作用を及ぼさない、特に、透析された血液に中毒または有害作用を及ぼさない任意の酸を意味する。生体適合性酸の非限定的な例としては、(i)強無機酸、例えば、塩酸、硫酸、スルファミン酸および硝酸;(ii)有機酸、例えば、酢酸、安息香酸、シュウ酸、クエン酸、馬尿酸、グルクロン酸、尿酸、グルタミン酸、アスパラギン酸、m-ヒドロキシ馬尿酸、p-ヒドロキシフェニル-ヒドロアクリル酸、アミノイソ酪酸、ギ酸、ピルビン酸、アスコルビン酸、オキソグルタル酸、グアニジノ酢酸、デヒドロアスコルビン酸、アミノイソ酪酸、フマル酸、グリコール酸、乳酸、リンゴ酸、マレイン酸および酒石酸、ならびに(iii)酸、例えば、硫酸水素ナトリウムおよび硫酸水素カリウム(NaHSO4およびKHSO4)、フタル酸水素カリウム、インドキシル硫酸およびリン酸が挙げられる。さらに、用語「生体適合性酸」は、酸の混合物、例えば上記で例示した酸の混合物も意味する。好ましくは、酸性組成物(a)は、塩酸、硫酸および/または酢酸を含む。したがって、酸性組成物(a)は好ましくは、塩酸、硫酸および/または酢酸の水溶液を含むかまたはこれからなる。より好ましくは、酸性組成物(a)は塩酸の水溶液を含むかまたはこれからなる。塩酸は、水酸化ナトリウム(例えば、本発明のキットのアルカリ性組成物(b)中の生体適合性塩基として)と組み合わせた結果が塩化ナトリウムであるという利点を有する。
【0026】
酸性組成物(a)において、生体適合性酸は、解離および/または非解離であってよく、例えば、完全に解離しているか、部分的に解離している/解離していないか、または完全に解離していない。典型的には、酸性組成物(a)では、生体適合性酸は部分的または完全に解離している。酸性組成物(a)は、固体、例えば、粉末、ゲル、部分的に結晶質、気相、または液体の物理的状態であってよい。好ましくは、酸性組成物は、液体、例えば、生体適合性酸の水溶液である。
【0027】
酸の反応は、HA⇔H
++A
-の形で一般化されることが多く、HAは酸を表し、A
-は共役塩基を表す。酸が荷電種であり得、共役塩基が中性であり得る可能性もある(反応スキーム:HA
+⇔H
++A。溶液中では、通常、酸とその共役塩基とは平衡状態である。酸解離定数K
aは一般に、酸塩基反応との関連で用いられる。K
aの数値は、生成物の濃度の積を反応物の濃度で除したものに等しく、反応物は酸(HA)であり、生成物は共役塩基およびH
+である。換言すると、
【化1】
であり、括弧は濃度を示す(すなわち、[A
-]は共役塩基の濃度を意味する等)。
【0028】
酸に対する水素イオンの比率は通常、強い酸ほど高くなるため(強い酸ほどプロトンを失う傾向が強いため)、強い酸ほどKaは大きくなる。Kaの可能な値の範囲は何桁にも及ぶため、扱いやすい定数であるpKaがより頻繁に使用される(pKa=-log10Ka)。強い酸ほど、弱い酸よりも小さなpKaを有する。典型的には、所与のpKa値は、水溶液中で25℃で実験的に決定されたpKa値である。酸性組成物(a)に含まれる生体適合性酸のpKa値は、好ましくは-6.5~6.5の範囲、より好ましくは-6.5~5.0の範囲である。
【0029】
好ましくは、酸性組成物(a)は、例えば0.5~3.0の範囲、好ましくは0.7~2.0の範囲、より好ましくは0.9~1.2の範囲、最も好ましくは1.0~1.1の範囲、例えば、約1.05のpHを有する。輸送蛋白質含有マルチプルパス透析流体に含まれる輸送蛋白質は、極端に酸性のpH値でアンフォールディングし、それによって運ばれた物質、例えば毒素を放出する。すると、遊離毒素は濾過等によって容易に除去できる。他方では、輸送蛋白質が極端に酸性のpH値に曝されることにより輸送蛋白質が変性し得る。徹底的な試験によれば、1.5~5の範囲、好ましくは1.8~4.5の範囲、より好ましくは2.3~4の範囲の透析流体のpH値によって毒素の十分な除去が可能となり、輸送蛋白質の変性が回避されることが明らかになった。透析流体のこのようなpH値は、0.5~3.0の範囲、好ましくは0.7~2.0の範囲、より好ましくは0.9~1.2の範囲、最も好ましくは1.0~1.1の範囲、例えば、約1.05のpHを有する酸性組成物(a)を透析流体(酸性組成物(a)の添加前に6.35~11.4、特に6.5~10、好ましくは7.4~9の範囲のpHを有する)に添加することによって得られる。
【0030】
特に上記のようなpH値を得るために、酸性組成物(a)中の生体適合性酸の濃度、特にHClの濃度はそれに応じて調整されてよい。例えば、生体適合性酸は、希釈された状態で、または希釈されていない状態で提供されてよい。好ましくは、生体適合性酸は酸性組成物(a)中で希釈される。したがって、酸性組成物(a)が生体適合性酸の溶液である(所望により、追加の成分を含む)ことがより好ましい。さらにより好ましくは、酸性組成物(a)は、生体適合性酸の水溶液である(所望により、追加の成分を含む)。
【0031】
酸性組成物(a)中の生体適合性酸の濃度、特にHClの濃度は、少なくとも50mmol/l、好ましくは少なくとも60mmol/l、より好ましくは少なくとも70mmol/l、さらにより好ましくは少なくとも80mmol/l、最も好ましくは少なくとも100mmol/lである。
【0032】
酸性組成物(a)中の生体適合性酸の濃度、特にHClの濃度は、例えば、6200mmol/lであってよい。好ましくは、酸性組成物(a)中の生体適合性酸の濃度、特にHClの濃度は、0.5mol/l以下、より好ましくは0.4mol/l以下、さらにより好ましくは0.3mol/l以下、最も好ましくは0.2mol/l以下である。
【0033】
したがって、酸性組成物(a)中の生体適合性酸、特にHClの濃度は、好ましくは50mmol/l~6.20mol/l、より好ましくは60mmol/l~0.4mol/l、さらにより好ましくは70mmol/l~0.3mol/l、最も好ましくは100mmol/l~200mmol/lである。
【0034】
酸性組成物(a)は好ましくは、本明細書に記載の輸送蛋白質含有マルチプルパス透析流体に直接(すなわち、さらなる変更なしで、特に希釈せずに)添加される。より好ましくは、生体適合性酸を含む酸性組成物(a)は、生体適合性酸の水溶液であり(所望により、追加の成分を含む)、これは本明細書に記載の透析流体に直接添加可能である。
【0035】
好ましくは、酸性組成物(a)は、生体適合性酸および所望によりH2Oに加えて、追加の成分を含む。したがって、後述の輸送蛋白質、特にアルブミンの安定剤、電解質および/または栄養素が好ましい追加の成分である。より好ましくは、酸性組成物(a)は、本明細書に記載の電解質をさらに含む。酸性組成物(a)が輸送蛋白質の安定剤、栄養素および/またはビカーボネートを含まないことも好ましい。あるいは、酸性組成物(a)が、生体適合性酸および所望によりH2Oに加えて、いかなる追加の成分も含まないことも好ましい。
【0036】
本発明に係るキットは、(b)生体適合性塩基を含むアルカリ性組成物をさらに含む。好ましくは、アルカリ性組成物(b)は、生体適合性塩基の水溶液を含むか、またはこれからなる。本明細書で使用する場合、用語「塩基」は、アレニウス塩基、すなわち、溶液中で解離して水酸化物イオン(OH-)を放出する塩基を意味する。本明細書で使用する場合、「生体適合性塩基」は、本明細書に記載の生体適合性酸も含む透析流体に含まれる場合、透析を用いて治療される対象に中毒または有害作用を及ぼさない、特に、透析された血液に中毒または有害作用を及ぼさない任意の塩基を意味する。生体適合性塩基の非限定的な例としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化マグネシウムおよび水酸化カルシウムが挙げられる。さらに、用語「生体適合性塩基」は、塩基の混合物、例えば上記で例示した塩基の混合物も意味する。好ましくは、アルカリ性組成物(b)は、水酸化ナトリウムおよび/または水酸化カリウムを含む。したがって、アルカリ性組成物(b)は好ましくは、水酸化ナトリウムおよび/または水酸化カリウムの水溶液を含むかまたはこれからなる。より好ましくは、アルカリ性組成物(b)は、水酸化ナトリウムの水溶液を含むかまたはこれからなる。水酸化ナトリウムは、塩酸(例えば、本発明のキットの酸性組成物(a)中の生体適合性酸として)と組み合わせた結果が塩化ナトリウムであるという利点を有する。
【0037】
アルカリ性組成物(b)において、生体適合性塩基は、解離および/または非解離であってよく、例えば、完全に解離しているか、部分的に解離している/解離していないか、または完全に解離していない。典型的には、アルカリ性組成物(b)では、生体適合性塩基は部分的または完全に解離している。アルカリ性組成物(b)は、固体、例えば、粉末、ゲル、部分的に結晶質、気相、または液体の物理的状態であってよい。好ましくは、アルカリ性組成物は、液体、例えば、生体適合性塩基の水溶液である。
【0038】
塩基の反応は、B+H
2O⇔OH
-+BH
+の形で一般化されることが多く、Bは塩基を表し、BH
+はその酸を表す。塩基解離定数K
bは一般に、酸塩基反応との関連で用いられる。K
bの数値は、生成物の濃度の積を反応物の濃度で除したものに等しく、反応物は塩基(B)であり、生成物は共役酸(BH
+)およびOH
-である。換言すれば、以下となる。
【化2】
括弧は濃度を示す(すなわち、[OH
-]は水酸化物イオンの濃度を意味する等)。
【0039】
塩基が強いほど、Kbは高くなる。Kbの可能な値の範囲は何桁にも及ぶため、扱いやすい定数であるpKb(pKb=-log10Kb)がより頻繁に使用される。塩基が強いほど、弱い塩基よりも小さなpKbを有する。典型的には、所与のpKb値は、水溶液中で25℃で実験的に決定されたpKb値である。アルカリ性組成物(b)に含まれる生体適合性塩基のpKb値は、好ましくは-6.5~6.5の範囲、より好ましくは-6.5~5.0の範囲である。
【0040】
好ましくは、アルカリ性組成物(b)は、例えば10.0~14.0の範囲、好ましくは11.5~13.5の範囲、より好ましくは12.0~13.0の範囲、最も好ましくは12.3~12.9の範囲、例えば約12.6のpHを有する。輸送蛋白質含有マルチプルパス透析流体に含まれる輸送蛋白質は、極端にアルカリ性のpH値でアンフォールディングし、それによって運ばれた物質、例えば毒素を放出する。すると、遊離毒素は濾過等によって容易に除去できる。他方では、輸送蛋白質が極端にアルカリ性のpH値に曝されることにより輸送蛋白質が変性し得る。徹底的な試験によれば、9.5~12.5の範囲、好ましくは10.5~12.0の範囲、より好ましくは11~11.5の範囲の透析流体のpH値によって毒素の十分な除去が可能となり、輸送蛋白質の変性が回避されることが明らかになった。透析流体のこのようなpH値は、10.0~14.0の範囲、好ましくは11.5~13.5の範囲、より好ましくは12.0~13.0の範囲、最も好ましくは12.3~12.9の範囲、例えば、約12.6のpHを有するアルカリ性組成物(b)を透析流体(アルカリ性組成物(b)の添加前に6.35~11.4、特に6.5~10、好ましくは7.4~9の範囲のpHを有する)に添加することによって得られる。
【0041】
特に上記のようなpH値を得るために、アルカリ性組成物(b)中の生体適合性塩基の濃度、特にNaOHの濃度はそれに応じて調整されてよい。例えば、生体適合性塩基は、希釈された状態で、または希釈されていない状態で提供されてよい。好ましくは、生体適合性塩基は、アルカリ性組成物(b)中で希釈される。したがって、アルカリ性組成物(b)が生体適合性塩基の溶液である(所望により、追加の成分を含む)ことがより好ましい。さらにより好ましくは、アルカリ性組成物(b)は、生体適合性塩基の水溶液である(所望により、追加の成分を含む)。
【0042】
アルカリ性組成物(b)中の生体適合性塩基の濃度、特にNaOHの濃度は、少なくとも50mmol/l、好ましくは少なくとも60mmol/l、より好ましくは少なくとも70mmol/l、さらにより好ましくは少なくとも80mmol/l、最も好ましくは少なくとも100mmol/lである。
【0043】
アルカリ性組成物(b)中の生体適合性塩基の濃度、特にNaOHの濃度は、例えば、6200mmol/lであってよい。好ましくは、アルカリ性組成物(b)中の生体適合性塩基の濃度、特にNaOHの濃度は、0.5mol/l以下、より好ましくは0.4mol/l以下、さらにより好ましくは0.3mol/l以下、最も好ましくは0.2mol/l以下である。
【0044】
したがって、アルカリ性組成物(b)中の生体適合性塩基、特にNaOHの濃度は、好ましくは50mmol/l~6.20mol/l、より好ましくは60mmol/l~0.4mol/l、さらにより好ましくは70mmol/l~0.3mol/l、最も好ましくは100mmol/l~200mmol/lである。
【0045】
アルカリ性組成物(b)は好ましくは、本明細書に記載の輸送蛋白質含有マルチプルパス透析流体に直接(すなわち、さらなる変更なしで、特に希釈せずに)添加される。より好ましくは、生体適合性塩基を含むアルカリ性組成物(b)は、生体適合性塩基の水溶液であり(所望により、追加の成分を含む)、これは本明細書に記載の透析流体に直接添加可能である。
【0046】
好ましくは、アルカリ性組成物(b)は、生体適合性塩基および所望によりH2Oに加えて、追加の成分を含む。したがって、後述の輸送蛋白質、特にアルブミンの安定剤、電解質および/または栄養素が好ましい追加の成分である。より好ましくは、アルカリ性組成物(b)は、本明細書に記載の輸送蛋白質の安定剤および/または本明細書に記載の電解質をさらに含むが、マグネシウムおよび/またはカルシウムは含まないことが好ましい。アルカリ性組成物(b)が栄養素および/またはマグネシウムおよび/またはカルシウムを含まないことも好ましい。あるいは、アルカリ性組成物(b)が、生体適合性塩基および所望によりH2Oに加えて、いかなる追加の成分も含まないことも好ましい。
【0047】
本発明に係るキットにおいて、酸性組成物(a)中の生体適合性酸の濃度対アルカリ性組成物(b)中の生体適合性塩基の濃度の比は、0.7~1.3の範囲、好ましくは0.75~1.25の範囲、より好ましくは0.8~1.2の範囲である。このような比により、透析器を通る透析流体のpH値は、6.35~11.4の値、特に6.5~10の値、好ましくは7.4~9の値に確実に調節可能である。
【0048】
好ましくは、キットは、輸送蛋白質の安定剤、特にアルブミンの安定剤を含む。輸送蛋白質の安定剤、特にアルブミンの安定剤は、輸送蛋白質、特にアルブミンの寿命を延ばす。各透析サイクルにおいて、輸送蛋白質、特にアルブミンは、輸送蛋白質を再生するために酸性組成物(a)および/またはアルカリ性組成物(b)を用いた処理が施される。輸送蛋白質(アルブミン等)の再生は、輸送蛋白質(アルブミン等)を、本明細書に記載の酸性組成物(a)およびアルカリ性組成物(b)によって提供される極端に酸性およびアルカリ性のpH値に曝し、それによって輸送蛋白質(アルブミン等)をアンフォールディングし、運ばれた物質、例えば、毒素を放出することによって達成される。しかし、(例えば、各透析/再生サイクルでの)輸送蛋白質、特にアルブミン分子のフォールディング/アンフォールディングの繰り返しは、輸送蛋白質、特にアルブミン分子の不可逆的な変性を引き起こす場合がある。輸送蛋白質の安定剤、特にアルブミンの安定剤は、輸送蛋白質、特にアルブミンをそのような不可逆的な変性から保護し、安定剤を用いることで安定剤がない場合よりも多くの透析/再生サイクルを単一の輸送蛋白質分子に行うことができる。したがって、酸性組成物(a)およびアルカリ性組成物(b)を用いて処理することにより輸送蛋白質が再生される場合、安定剤は輸送蛋白質を不可逆的な変性から保護し、したがって輸送蛋白質の寿命を延ばす。
【0049】
輸送蛋白質の安定剤、特にアルブミンの安定剤は好ましくは、アルカリ性組成物(b)または(別個の)安定剤組成物(c1)に含まれる。「(別個の)安定剤組成物(c1)」は、この組成物が酸性組成物(a)およびアルカリ性組成物(b)とは異なることを意味する。
【0050】
好ましくは、輸送蛋白質の安定剤、特にアルブミンの安定剤は、酸性組成物(a)に含まれない。
【0051】
特に好ましくは、本明細書に記載の本発明に係るキットは、
(c1)輸送蛋白質の安定剤、特にアルブミンの安定剤を含む安定剤組成物
を含み、安定剤組成物(c1)は、酸性組成物(a)およびアルカリ性組成物(b)とは異なる。
【0052】
したがって、安定剤組成物(c1)は、空間的に分離して、例えば、安定剤組成物(c1)を含む容器(ただし、この容器は酸性組成物(a)もアルカリ性組成物(b)も含まない)で提供されることが好ましい。
【0053】
安定剤組成物(c1)は、固体、例えば、粉末、ゲル、部分的に結晶質、気相、または液体の物理的状態であってよい。好ましくは、安定剤組成物は、輸送蛋白質の安定剤、特にアルブミンの安定剤を含む液体、例えば溶液、特に水溶液である。
【0054】
輸送蛋白質の安定剤、特にアルブミンの安定剤は典型的には、蛋白質安定剤である。蛋白質安定剤は当技術分野で公知であり、それ自体が市販されている。一般に、蛋白質安定剤は溶液中の蛋白質の安定性を高める。本明細書で使用する場合、用語「蛋白質安定剤」は、蛋白質の天然の状態が改善または促進されるように、蛋白質の反応平衡状態を変化させることができる任意の化合物を意味する。さらに、蛋白質安定剤を選択するとき、当業者は、除去されるべき毒素の輸送蛋白質、特にアルブミンへの結合が、輸送蛋白質、特にアルブミンを破壊する非常に極端なpH値が、輸送蛋白質、特にアルブミンから毒素を放出するために必要とされるように蛋白質安定剤によって強化されてはならないことを知っている。
【0055】
本発明との関連で有用な蛋白質安定剤の例としては、糖、例えば、スクロース、ソルビトールまたはグルコース;多価アルコール、例えば、グリセロールまたはソルビトール;ポリマー、例えば、ポリエチレングリコール(PEG)およびα-シクロデキストリン;アミノ酸、例えば、アルギニン、プロリンおよびグリシンおよび/またはその塩;脂肪酸および/またはその塩;オスモライト;ホフマイスター塩(Hoffmeister salt)、例えば、トリス、硫酸ナトリウムおよび硫酸カリウム;ならびにそれらの誘導体および構造類似体が挙げられるが、これらに限定されない。さらに、それらの組み合わせも蛋白質安定剤として役立ち得る。一般に、脂肪酸、アミノ酸、糖およびオスモライトからなる群から選択される蛋白質安定剤が好ましく;脂肪酸、アミノ酸、糖からなる群から選択される蛋白質安定剤がより好ましく;脂肪酸およびアミノ酸からなる群から選択される蛋白質安定剤がさらにより好ましく;脂肪酸である蛋白質安定剤が最も好ましい。
【0056】
本明細書で使用する場合、用語「誘導体」は、(単一の)化学反応によって参照化合物から誘導される化合物を意味する。典型的には、「誘導体」は、(少なくとも理論的には)(前駆体)化合物から形成できる(前駆体化合物は参照化合物である)。誘導体は、原子または原子団、例えば、官能基が別の原子または原子団、例えば、官能基で置き換えられた場合、参照化合物から生じると考えられる化合物を意味する「構造類似体」とは異なる。例えば、「構造類似体」では、官能基は、好ましくは官能基の「機能」を変化させることなく、別の官能基で置き換えられてもよい。本明細書で使用する場合、用語「官能基」は、分子の特徴的な化学反応に関与するそれら分子内の原子または結合の特定の基(部分)を意味する。典型的には、同じ官能基は、それが属する分子のサイズにかかわらず、同じまたは類似の化学反応を経るが、その相対的な反応性は近くの他の官能基によって変わり得る。
【0057】
本発明に係るキットにおいて、輸送蛋白質の安定剤、特にアルブミンの安定剤は好ましくは、アミノ酸、アミノ酸の塩、アミノ酸の誘導体、脂肪酸、脂肪酸の塩、脂肪酸の誘導体、糖、ポリオールおよびオスモライトからなる群から選択される。
【0058】
アミノ酸の中では、小さな中性アミノ酸、例えば、アラニン、セリン、スレオニン、プロリン、メチオニン、バリンおよびグリシンが好ましい。このような小さな中性アミノ酸は、濃度に依存しない程度の選択的水和を呈するため、好ましい蛋白質安定剤に属する。さらに、本発明に係るキットにおける好ましい安定剤は、アセチルトリプトファンまたはトリプトファンである。例えばアセチルトリプトファン等の貯蔵寿命が延びた変性アミノ酸も好ましい。
【0059】
また、糖は水和状態を強化し、それにより変性を防ぐ。糖の中では、スクロース、ソルビトール、グルコース、デキストランおよびマンニトールが好ましい。ソルビトールおよびデキストランがより好ましい。
【0060】
オスモライトの中では、好ましい蛋白質安定剤は、タウリン、ベタイン、グリシンおよびサルコシンからなる群から選択されてよい。より好ましくは、蛋白質安定剤は、オスモライトのうち、タウリン、グリシンおよびサルコシンからなる群から選択されてよい。さらにより好ましくは、蛋白質安定剤は、オスモライトのうち、タウリンおよびサルコシンから選択されてよい。蛋白質安定剤として最も好ましいオスモライトはタウリンである。
【0061】
本発明に係るキットにおいて特に好ましい安定剤は、脂肪酸、脂肪酸の塩および脂肪酸の誘導体からなる群から選択される。好ましい脂肪酸(およびその塩または誘導体)は、20個以下の炭素原子を有する飽和または不飽和脂肪酸(およびその塩または誘導体)、例えば、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、オレイン酸およびパルミチン酸(およびそれらの塩または誘導体)であり;より好ましいのは、15個以下の炭素原子を有する飽和または不飽和脂肪酸(およびその塩または誘導体)、例えば、カプリル酸、カプリン酸およびラウリン酸(およびそれらの塩または誘導体)であり;さらにより好ましいのは、13個以下の炭素原子を有する飽和または不飽和脂肪酸(およびその塩または誘導体)、例えば、カプリル酸、カプリン酸およびラウリン酸(およびそれらの塩または誘導体)である。
【0062】
脂肪酸は抗菌作用を発揮できるため、透析デバイス内での病原微生物の増殖を防ぐ。好ましくは、安定剤は、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、オレイン酸およびパルミチン酸ならびにそれらの塩または誘導体からなる群から選択される。より好ましくは、安定剤は、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸およびオレイン酸、ならびにそれらの塩または誘導体からなる群から選択される。さらにより好ましくは、安定剤は、カプリル酸、カプリン酸およびラウリン酸、ならびにそれらの塩または誘導体からなる群から選択される。最も好ましくは、安定剤は、カプリル酸およびカプリン酸ならびにそれらの塩または誘導体からなる群から;特に、カプリレート、カプリル酸、カプレート、カプリン酸、カプロン酸およびカプロエートからなる群から選択される。特に好ましくは、安定剤はカプリレート、例えばカプリル酸ナトリウム(C8H15NaO2)である。換言すると、変性の防止、生体適合性、溶解度および解毒の改善の観点から、カプリレートは最も好ましい蛋白質安定剤である。加えて、カプリレートは、再循環する透析流体中の、少なくとも24時間の治療中における細菌の増殖を防ぐ。
【0063】
好ましくは、特に酸性組成物(a)とは異なり、かつアルカリ性組成物(b)とは異なる、安定剤組成物(c1)または安定剤/栄養素組成物(c5)等の組成物に含まれる場合、輸送蛋白質の安定剤の濃度は、1~2500mmol/l、好ましくは37~2020mmol/l、より好ましくは50~1500mmol/l、さらにより好ましくは100~1000mmol/l、最も好ましくは150~500mmol/lの範囲である。
【0064】
輸送蛋白質の安定剤、特にアルブミンの安定剤がアルカリ性組成物(b)に含まれる場合、アルカリ性組成物(b)中の安定剤の濃度は好ましくは、0.01mmol/l~200mmol、より好ましくは0.1~100mmol/l、さらにより好ましくは0.5~50mmol/l、最も好ましくは1~10mmol/lの範囲である。
【0065】
本発明に係るキットが栄養素を含むことも好ましい。本明細書で使用する場合、用語「栄養素」は、生物の代謝に使用される物質を意味する。栄養素の好ましい例としては、蛋白質またはアミノ酸、微量元素、脂溶性または水溶性ビタミン等のビタミン、糖等の炭水化物およびそれらの組み合わせが挙げられる。好ましい栄養アミノ酸は、例えば、必須アミノ酸のフェニルアラニン、バリン、スレオニン、トリプトファン、メチオニン、ロイシン、イソロイシン、リジンおよびヒスチジンである。本明細書で使用する場合、「微量元素」とは、生物の適切な成長、発達および生理機能のために非常に微量で必要とされる食物元素(dietary element)を意味する。微量元素の例としては、ホウ素、コバルト、クロム、銅、フルオリド、ヨウ素、鉄、マンガン、モリブデン、セレンおよび亜鉛が挙げられる。ビタミンの例としては、ビタミンA(レチノール)、ビタミンB1(チアミン)、ビタミンB2(リボフラビン)、ビタミンB3(ナイアシン)、ビタミンB5(パントテン酸)、ビタミンB6(ピリドキシン、ピリドキサールおよびピリドキサミン)、ビタミンB7(ビオチン)が、ビタミンB8(エルガデニル酸)、ビタミンB9(葉酸)、ビタミンB12(シアノコバラミン)、ビタミンC(アスコルビン酸)、ビタミンD、ビタミンE(トコフェロール)、ビタミンK、コリンおよびカロテノイド、例えば、αカロチン、βカロチン、クリプトキサンチン、ルテイン、リコピンおよびゼアキサンチンが挙げられる。
【0066】
より好ましくは、本発明に係るキットは糖を含む。本明細書で使用する場合、用語「糖」は、典型的には可溶性である短鎖炭水化物を意味する。用語「糖」としては、単糖類、例えば、グルコース、フルクトースおよびガラクトース;二糖類、例えば、スクロース、マルトース、トレハロースおよびラクトース;ならびに少数(典型的には3~9個)の単糖を有する糖ポリマーであるオリゴ糖が挙げられる。本発明に係るキットは、上記糖のうちの1種または複数種、すなわち、単独またはそれらの組み合わせを含んでよい。
【0067】
さらに、本発明に係るキットが1種または複数種の糖を含む場合、好ましくは1種または複数種の上記の蛋白質またはアミノ酸をさらに含む。さらに、本発明に係るキットが1種または複数種の糖を含む場合、好ましくは1種または複数種の上記の微量元素をさらに含む。さらに、本発明に係るキットが1種または複数種の糖を含む場合、好ましくは1種または複数種の上記のビタミンをさらに含む。
【0068】
好ましくは、本発明に係るキットに含まれる糖はグルコースである。より好ましくは、グルコースは、本発明に係るキットに含まれる唯一の糖である。さらにより好ましくは、グルコースは、本発明に係るキットに含まれる唯一の栄養素である。最も好ましくは、グルコースはD-グルコースである。
【0069】
好ましくは、本明細書に記載の栄養素、特に糖は、酸性組成物(a)にもアルカリ性組成物(b)にも含まれない。したがって、本発明に係るキットは、
(c2)栄養素、特に糖を含む栄養素組成物
を含むことが好ましく、栄養素組成物(c2)は、酸性組成物(a)およびアルカリ性組成物(b)とは異なる。
【0070】
したがって、栄養素組成物(c2)は、空間的に分離して、例えば、栄養素組成物(c2)を含む容器(ただし、この容器は酸性組成物(a)もアルカリ性組成物(b)も含まない)で提供されることが好ましい。
【0071】
したがって、本発明に係るキットは好ましくは、安定剤組成物(c1)および栄養素組成物(c2)を含み、安定剤組成物(c1)および栄養素組成物(c2)は同じ組成物(c5)であっても、または別個の組成物であってもよい。好ましくは、栄養素組成物(c2)は安定剤組成物(c1)と同じ組成物である。換言すると、本発明に係るキットは、上記の安定剤および上記の栄養素、特に糖の両方を含む栄養素/安定剤組成物(c5)を含むことが好ましい。好ましくは、栄養素/安定剤組成物(c5)は、空間的に分離して、例えば、栄養素/安定剤組成物(c5)を含む容器(ただし、この容器は酸性組成物(a)もアルカリ性組成物(b)も含まない)で提供される。
【0072】
好ましくは、栄養素組成物(c2)(または安定剤/栄養素組成物(c5))に含まれる糖は、上記のようにグルコースである。
【0073】
栄養素組成物(c2)(または安定剤/栄養素組成物(c5))は、固体、例えば、粉末、ゲル、部分的に結晶質、気相、または液体の物理的状態であってよい。好ましくは、栄養素組成物は、栄養素、特にグルコースを含む液体、例えば溶液、特に水溶液である。
【0074】
特に酸性組成物(a)とは異なり、かつアルカリ性組成物(b)とは異なる、栄養素組成物(c2)または安定剤/栄養素組成物(c5)等の組成物に含まれる場合、栄養素、好ましくは糖、特にグルコースの濃度は好ましくは、100~3500mmol/lの範囲、より好ましくは160~2780mmol/lの範囲、さらにより好ましくは200~2500mmol/lの範囲であり、最も好ましくは250~2280mmol/lの範囲である。
【0075】
本発明に係るキットは、栄養素、好ましくはグルコースと、輸送蛋白質の安定剤、好ましくはカプリレートとを含む栄養素/安定剤組成物(c5)を含むことが特に好ましく、組成物(c5)は酸性組成物(a)およびアルカリ性組成物(b)とは異なる。
【0076】
好ましくは、本発明に係るキットは、ナトリウム、クロリド、カルシウム、マグネシウム、カリウム、ホスフェートおよびカーボネート/ビカーボネート(水素カーボネート)からなる群から選択される少なくとも1つの成分を含む。好ましくは、このような成分はイオンとして提供され、すなわち、本発明に係るキットは好ましくは、ナトリウムイオン(Na+)、クロリドイオン(Cl-)、カルシウムイオン(Ca2+)、マグネシウムイオン(Mg2+)、カリウム(K+)、ホスフェートイオン(H2PO4
-、HPO4
2-またはPO4
3-)および/または(水素)カーボネートイオン(CO3
2-、HCO3
-)を含む。
【0077】
ヒトの血液は多くの成分を含有する。透析患者はしばしば、電解質の不足または過剰に苦しみ、これは透析によって補われる。これは、一方では血液と透析流体との間の濃度勾配によって、他方では濾過によって達成される。したがって、透析流体は好ましくは、上記のように(i)電解質、(ii)ビカーボネート緩衝系、および/または(iii)グルコースを含む。したがって、ナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム、クロリドイオン、グルコースおよび緩衝液等の成分が本発明に係るキットに含まれることが好ましい。
【0078】
好ましくは、本発明に係るキットは、カルシウム、マグネシウム、およびカーボネート/ビカーボネート(水素カーボネート)を含まず、特に、本発明に係るキットは好ましくは、カルシウムイオン(Ca2+)、マグネシウムイオン(Mg2+)および(水素)カーボネートイオン(CO3
2-、HCO3
-)を含まない。これらの3つの成分を含まない場合、キットを使用して、6.35~11.4の範囲、特に6.5~10の範囲、好ましくは7.4~9の範囲のpHを持つ輸送蛋白質含有マルチプルパス透析流体、すなわち、さらに広い範囲のpH値を有する透析流体を得る/再生することができる。
【0079】
好ましくは、本発明に係るキットは、ナトリウム、特にナトリウムイオンを含む。患者の血液中の最低ナトリウム濃度は、典型的には、生理学的範囲で133~135mmol/lである(病理学的最小値:120mmol/l)。ナトリウム濃度の増減は非常にゆっくりと実行する必要があるが、これは誤ったナトリウム濃度で患者を透析することは患者にとって非常に有害である可能性があり、低血圧または脳水腫が起こり得るためである。血液中のナトリウム濃度が非常に低い患者の透析を可能にするために、ナトリウム濃度が可能な限り低い透析流体がしばしば選択される。よりナトリウム濃度が高い患者に透析流体を適応させるために、追加のナトリウムが提供され得る。
【0080】
好ましくは、ナトリウム、特にナトリウムイオンの供給源は、NaOH、Na2CO3、Na2HPO4、NaHCO3、NaCl、および/またはラクテート、アセテート、グルコネート、シトレート、マレエート、タータレートおよび/または脂肪酸、例えば、カプリレートのナトリウム塩である。好ましくは、本発明に係るキットにおいて、ナトリウムの主要な供給源はNaOHである。
【0081】
例えば、ナトリウム等の成分は、酸性組成物(a)、アルカリ性組成物(b)、またはキットの任意の他の組成物/構成成分中で提供されてもよい。このような組成物は、固体または液体の物理的状態であってもよい。ナトリウム等の成分が液体組成物に含まれる場合、それは典型的には、特定の物質に由来するイオン、例えば(解離した)NaCl、NaOH等に由来するナトリウムイオン(上記)である。したがって、本明細書で使用する場合、「~の供給源」は、イオンが由来する物質を意味する。
【0082】
好ましくは、本発明に係るキットは、クロリド、特にクロリドイオンを含む。好ましくは、クロリド、特にクロリドイオンの供給源は、HCl、NaCl、KCl、MgCl2および/またはCaCl2である。
【0083】
患者のクロリド濃度は、生理学的範囲に維持する必要がある。好ましいクロリドの供給源はHClである。クロリド濃度を低く保つ場合、上記のようにNaCl以外のナトリウム塩をナトリウム供給源として使用できる。しかし、透析流体中の高濃度の緩衝剤(例えば、Na2CO3、NaHCO3、ホスフェート)も典型的には大量のHClを必要とするため、非生理学的な高クロリド濃度となる。したがって、緩衝液の濃度は可能な限り低い値に制限すべきである。
【0084】
好ましくは、本発明に係るキットは、カリウム、特にカリウムイオンを含む。カリウムの濃度が低すぎると、不整脈および筋肉の痙攣または麻痺を引き起こす可能性がある。集中治療室(ICU)の患者は、高カリウム血症と低カリウム血症の両方に罹患している可能性がある。特にアシドーシスの回復後に低カリウム血症が起こり得る。
【0085】
好ましくは、カリウム、特にカリウムイオンの供給源は、KOH、および/またはKCl、および/またはラクテート、アセテート、グルコネート、シトレート、マレエート、タータレートおよび/または脂肪酸、例えば、カプリレートのカリウム塩である。好ましくは、本発明に係るキットにおいて、カリウムの主要な供給源はKOHおよび/またはKClである。
【0086】
好ましくは、本発明に係るキットは、カルシウム、特にカルシウムイオンを含む。患者の血液中のカルシウム濃度が低すぎると、低血圧または心不整脈を引き起こす可能性がある。さらに、カルシウムは、輸送蛋白質、例えばアルブミンの構造に対する保護効果を持つ。
【0087】
患者の血液中では、イオン化された蛋白質結合型および複合体様型のカルシウムが存在する。透析流体のpH値が高いほど、透析流体のより多くの遊離カルシウムが、透析流体に含まれる輸送蛋白質、例えばアルブミンに結合する。透析流体中のイオン化カルシウムの濃度が低下すると、血液から透析液への遊離カルシウムの拡散が引き起こされ、これにより患者のカルシウム濃度が低下し得る。
【0088】
好ましくは、カルシウム、特にカルシウムイオンの供給源は、CaCl2、CaCO3、および/またはラクテート、アセテート、グルコネート、シトレート、マレエート、タータレートおよび/または脂肪酸のカルシウム塩であり、好ましくは、カルシウムの供給源は、ラクテート、アセテート、グルコネート、シトレート、マレエートおよび/またはタータレートのカルシウム塩である。
【0089】
好ましくは、カルシウム、特にカルシウムイオンは、アルカリ性組成物(b)中に存在しない。
【0090】
好ましくは、本発明に係るキットは、マグネシウム、特にマグネシウムイオンを含む。患者の血液中のマグネシウム値が低すぎると、重度の心不整脈または筋肉の痙攣を引き起こす可能性がある。したがって、マグネシウムは好ましくは透析流体に添加される。さらに、カルシウムと同様に、マグネシウムは、輸送蛋白質、例えばアルブミンの構造に対する保護効果を持つ。興味深いことに、本発明者らは、透析流体のpHがマグネシウム濃度にカルシウム濃度よりもはるかに少ない影響しか与えないことを発見した。
【0091】
好ましくは、マグネシウム、特にマグネシウムイオンの供給源は、MgCl2、MgCO3、および/またはラクテート、アセテート、グルコネート、シトレート、マレエート、タータレートおよび/または脂肪酸のマグネシウム塩であり、好ましくは、マグネシウムの供給源は、ラクテート、アセテート、グルコネート、シトレート、マレエートおよび/またはタータレートのマグネシウム塩である。
【0092】
好ましくは、マグネシウム、特にマグネシウムイオンは、アルカリ性組成物(b)中に存在しない。
【0093】
特に、本発明に係るキットがICUの患者に使用される場合、キットは好ましくは、ホスフェート、特にホスフェートイオン(H2PO4
-、HPO4
2-またはPO4
3-)を含む。例えば、ICUの患者では低リン血症が観察される。したがって、本発明に係るキットは好ましくはホスフェートを含む。
【0094】
好ましくは、ホスフェート(イオン)の供給源は、リン酸の塩、特に、任意の種類のリン酸ナトリウム、リン酸カリウム、リン酸カルシウムおよび/またはリン酸マグネシウム、例えば、NaH2PO4、Na2HPO4、Na3PO4、KH2PO4、K2HPO4、K3PO4、CaHPO4、(Ca3(PO4)2)、Ca(H2PO4)2、(Ca5(PO4)3・OH)、Ca2P2O7、MgHPO4、Mg3(PO4)2、Mg(H2PO4)2、Mg2P2O7、(Mg5(PO4)3・OH)およびそれらの組み合わせである。リン酸のナトリウム塩およびカリウム塩、例えば、NaH2PO4、Na2HPO4、Na3PO4、KH2PO4、K2HPO4、K3PO4およびそれらの組み合わせが好ましい。
【0095】
好ましくは、本発明に係るキットは、例えばビカーボネート緩衝系として、カーボネート/ビカーボネート(水素カーボネート)、特に、(水素)カーボネートイオン、例えば、HCO3
-およびCO3
2-を含む。カーボネート/ビカーボネート(水素カーボネート)は、血液透析に使用される主な緩衝物質である。患者の肺、肝臓または腎臓の機能が低下したために残っているすべての酸を置換および緩衝するために、従来の透析では、透析流体中の非生理学的に高い濃度のカーボネート/ビカーボネート(水素カーボネート)が必要であった。しかし、HCO3
-を用いた緩衝はCO2も増加させるため、これにより透析治療セッションの開始時に細胞酸性度が上昇し得る。しかし、カーボネート/ビカーボネート(水素カーボネート)の濃度が低すぎると、代謝性アシドーシスの患者には危険な場合がある。カーボネート/ビカーボネート(水素カーボネート)の血液緩衝能は、カーボネート/ビカーボネート(水素カーボネート)の濃度が高くなると向上する。
【0096】
好ましくは、カーボネート/ビカーボネート(水素カーボネート)、特に(水素)カーボネートイオン、例えば、CO3
2-およびHCO3
-の供給源は、重炭酸ナトリウム、炭酸ナトリウム、カーボネート、水素カーボネートクエン酸(hydrogen carbonate citric acid)および/または水素カーボネートアセテート(hydrogen carbonate acetate)である(後者の2つの化合物は、肝臓でビカーボネートに変換される)。一般に、カーボネート/ビカーボネートは、その塩のいずれか、例えば、重炭酸ナトリウム、重炭酸カリウム等の形で添加でき、あるいは、所望により炭酸脱水酵素の存在下で二酸化炭素を導入し、適切な塩基、例えば、水酸化ナトリウムまたは水酸化カリウム(水酸化ナトリウムが非常に好まれる)の添加によって必要に応じてpHを調整することによって間接的に添加することもできる。塩の形で添加する場合、重炭酸ナトリウムまたは炭酸ナトリウムが非常に好ましい。あるいは、カリウム塩、またはナトリウム塩とカリウム塩の混合物を使用できる。高いpHを有する透析液体に添加するのに特に有用な塩は、炭酸ナトリウムまたは炭酸カリウムである。
【0097】
好ましくは、カーボネート/ビカーボネート(水素カーボネート)、特に(水素)カーボネートイオンは、酸性組成物(a)中に存在しない。
【0098】
好ましくは、本発明に係るキットにおいて、酸性組成物(a)は、ナトリウム、クロリド、カルシウム、マグネシウム、カリウムおよびホスフェートからなる群から選択される少なくとも1つの成分を含む。より好ましくは、本発明に係るキットにおいて、酸性組成物(a)は少なくともクロリドを含む。
【0099】
好ましくは、本発明に係るキットにおいて、酸性組成物(a)は、例えば上記の供給源に由来するナトリウムを含む。酸性組成物(a)中のナトリウムの好ましい濃度は、1.0mol/l以下、好ましくは500mmol/l以下、より好ましくは300mmol/l以下、さらにより好ましくは200mmol/l以下、最も好ましくは150mmol/l以下である。さらに、酸性組成物(a)中のナトリウムの濃度は、0.01mmol/l~1.0mol/lの範囲、好ましくは0.05mmol/l~500mmol/lの範囲、より好ましくは0.1mmol/l~300mmol/lの範囲、さらにより好ましくは0.5mmol/l~200mmol/lの範囲、最も好ましくは1.0mmol/l~150mmol/lの範囲であることが好ましい。しかし、本発明に係るキットでは、酸性組成物(a)がナトリウムを含まないことも好ましい。
【0100】
好ましくは、本発明に係るキットにおいて、酸性組成物(a)は、例えば上記の供給源に由来するクロリドを含む。酸性組成物(a)中のクロリドの好ましい濃度は、2.0mol/l以下、好ましくは1.0mol/l以下、より好ましくは500mmol/l以下、さらにより好ましくは300mmol/l以下、最も好ましくは250mmol/l以下である。さらに、酸性組成物(a)中のクロリドの濃度は、1mmol/l~2.0mol/lの範囲、好ましくは10mmol/l~1.0mol/lの範囲、より好ましくは50mmol/l~500mmol/l、さらにより好ましくは100mmol/l~300mmol/lの範囲、最も好ましくは150mmol/l~250mmol/lの範囲であることが好ましい。
【0101】
好ましくは、本発明に係るキットにおいて、酸性組成物(a)は、例えば上記の供給源に由来するカルシウムを含む。酸性組成物(a)中のカルシウムの好ましい濃度は、5.0mmol/l以下、好ましくは3.0mmol/l以下、より好ましくは2.88mmol/l以下、さらにより好ましくは2.8mmol/l以下、最も好ましくは、2.7mmol/l以下である。さらに、酸性組成物(a)中のカルシウムの濃度は、少なくとも2.3mmol/l、好ましくは少なくとも2.4mmol/l、より好ましくは少なくとも2.48mmol/l、さらにより好ましくは少なくとも2.6mmol/l、いっそうより好ましくは少なくとも2.7mmol/l、最も好ましくは少なくとも2.8mmol/lであることが好ましい。さらに、酸性組成物(a)中のカルシウムの濃度は、0.1mmol/l~50mmol/lの範囲、好ましくは0.5mmol/l~20mmol/lの範囲、より好ましくは1.0mmol/l~10mmol/lの範囲、さらにより好ましくは2.0mmol/l~5.0mmol/lの範囲、最も好ましくは2.3mmol/l~3.0mmol/lの範囲であることが好ましい。2.48~2.88mmol/lの範囲の酸性組成物(a)中のカルシウム濃度が特に好ましい。最も好ましくは、酸性組成物(a)中のカルシウムの濃度は2.5~2.8mmol/l、例えば2.6または2.7mmol/lである。しかし、本発明に係るキットでは、酸性組成物(a)がカルシウムを含まないことも好ましい。
【0102】
好ましくは、本発明に係るキットにおいて、酸性組成物(a)は、例えば上記の供給源に由来するマグネシウムを含む。酸性組成物(a)中のマグネシウムの好ましい濃度は、50mmol/l以下、好ましくは20mmol/l以下、より好ましくは10mmol/l以下、さらにより好ましくは5mmol/l以下、最も好ましくは2mmol/l以下である。さらに、酸性組成物(a)中のマグネシウムの濃度は、0.005mmol/l~50mmol/lの範囲、好ましくは0.01mmol/l~20mmol/lの範囲、より好ましくは0.05mmol/l~10mmol/lの範囲、さらにより好ましくは0.1mmol/l~5.0mmol/lの範囲、最も好ましくは0.5mmol/l~2.0mmol/lの範囲であることが好ましい。しかし、本発明に係るキットでは、酸性組成物(a)がマグネシウムを含まないことも好ましい。
【0103】
好ましくは、本発明に係るキットにおいて、酸性組成物(a)は、例えば上記の供給源に由来するカリウムを含む。酸性組成物(a)中のカリウムの好ましい濃度は、200mmol/l以下、好ましくは100mmol/l以下、より好ましくは50mmol/l以下、さらにより好ましくは20mmol/l以下、最も好ましくは10mmol/l以下である。さらに、酸性組成物(a)中のカリウムの濃度は、0.01mmol/l~200mmol/lの範囲、好ましくは0.05mmol/l~100mmol/lの範囲、より好ましくは0.1mmol/l~50mmol/lの範囲、さらにより好ましくは0.5mmol/l~20mmol/lの範囲、最も好ましくは1.0mmol/l~10mmol/lの範囲であることが好ましい。しかし、本発明に係るキットでは、酸性組成物(a)がカリウムを含まないことも好ましい。
【0104】
好ましくは、本発明に係るキットにおいて、酸性組成物(a)は、例えば上記の供給源に由来するホスフェート、特にホスフェートイオン(H2PO4
-、HPO4
2-またはPO4
3-)、好ましくはHPO4
2-を含む。酸性組成物(a)中のホスフェートの好ましい濃度は、50mmol/l以下、好ましくは20mmol/l以下、より好ましくは10mmol/l以下、さらにより好ましくは5mmol/l以下、最も好ましくは2mmol/l以下である。さらに、酸性組成物(a)中のホスフェートの濃度は、0.005mmol/l~50mmol/lの範囲、好ましくは0.01mmol/l~20mmol/lの範囲、より好ましくは0.05mmol/l~10mmol/lの範囲、さらにより好ましくは0.1mmol/l~5.0mmol/lの範囲、最も好ましくは0.5mmol/l~2.0mmol/lの範囲であることが好ましい。しかし、本発明に係るキットでは、酸性組成物(a)がホスフェートを含まないことも好ましい。
【0105】
好ましくは、本発明に係るキットにおいて、アルカリ性組成物(b)は、ナトリウム、クロリド、カリウム、ホスフェート、カーボネート/ビカーボネート(水素カーボネート)およびトリスからなる群から選択される少なくとも1つの成分を含む。より好ましくは、本発明に係るキットにおいて、アルカリ性組成物(b)は少なくともナトリウムおよび/またはカリウムを含み、さらにより好ましくは、アルカリ性組成物(b)は少なくともナトリウムを含む。
【0106】
好ましくは、本発明に係るキットにおいて、アルカリ性組成物(b)は、例えば上記の供給源に由来するナトリウムを含む。アルカリ性組成物(b)中のナトリウムの好ましい濃度は、2.0mol/l以下、好ましくは1.0mol/l以下、より好ましくは750mmol/l以下、さらにより好ましくは500mmol/l以下、最も好ましくは300mmol/l以下である。さらに、アルカリ性組成物(b)中のナトリウムの濃度は、1mmol/l~2.0mol/lの範囲、好ましくは5mmol/l~1.0mol/lの範囲、より好ましくは10mmol/l~750mmol/lの範囲、さらにより好ましくは50mmol/l~500mmol/lの範囲、最も好ましくは100mmol/l~300mmol/lの範囲であることが好ましい。
【0107】
好ましくは、本発明に係るキットにおいて、アルカリ性組成物(b)は、例えば上記の供給源に由来するクロリドを含む。アルカリ性組成物(b)中のクロリドの好ましい濃度は、500mmol/l以下、好ましくは100mmol/l以下、より好ましくは50mmol/l以下、さらにより好ましくは20mmol/l以下、最も好ましくは10mmol/l以下である。さらに、アルカリ性組成物(b)中のクロリドの濃度は、0.05mmol/l~500mmol/lの範囲、好ましくは0.1mmol/l~100mmol/lの範囲、より好ましくは0.2mmol/l~50mmol/lの範囲、さらにより好ましくは0.5mmol/l~20mmol/lの範囲、最も好ましくは1mmol/l~10mmol/lの範囲であることが好ましい。しかし、本発明に係るキットでは、アルカリ性組成物(b)がクロリドを含まないことも好ましい。
【0108】
好ましくは、本発明に係るキットにおいて、アルカリ性組成物(b)は、例えば上記の供給源に由来するカリウムを含む。アルカリ性組成物(b)中のカリウムの好ましい濃度は、500mmol/l以下、好ましくは100mmol/l以下、より好ましくは50mmol/l以下、さらにより好ましくは20mmol/l以下、最も好ましくは15mmol/l以下である。アルカリ性組成物(b)中のカリウムの濃度は、0.05mmol/l~500mmol/lの範囲、好ましくは0.1mmol/l~100mmol/lの範囲、より好ましくは0.5mmol/l~50mmol/lの範囲、さらにより好ましくは1mmol/l~20mmol/lの範囲、最も好ましくは1mmol/l~10mmol/lの範囲であることが好ましい。しかし、本発明に係るキットでは、アルカリ性組成物(b)がカリウムを含まないことも好ましい。
【0109】
好ましくは、本発明に係るキットにおいて、アルカリ性組成物(b)は、例えば上記の供給源に由来するホスフェート、特にホスフェートイオン(H2PO4
-、HPO4
2-またはPO4
3-)、好ましくはHPO4
2-を含む。アルカリ性組成物(b)中のホスフェートの好ましい濃度は、50mmol/l以下、好ましくは20mmol/l以下、より好ましくは10mmol/l以下、さらにより好ましくは5mmol/l以下、最も好ましくは2mmol/l以下である。さらに、アルカリ性組成物(b)中のホスフェートの濃度は、0.005mmol/l~50mmol/lの範囲、好ましくは0.01mmol/l~20mmol/lの範囲、より好ましくは0.05mmol/l~10mmol/lの範囲、さらにより好ましくは0.1mmol/l~5.0mmol/lの範囲、最も好ましくは0.5mmol/l~2.0mmol/lの範囲であることが好ましい。しかし、本発明に係るキットでは、アルカリ性組成物(b)がホスフェートを含まないことも好ましい。
【0110】
好ましくは、本発明に係るキットにおいて、アルカリ性組成物(b)は、例えば上記の供給源に由来するカーボネート/ビカーボネート(水素カーボネート)、例えば、HCO3
-およびCO3
2-を含む。アルカリ性組成物(b)中のカーボネート/ビカーボネート(水素カーボネート)の好ましい濃度は、1.0mol/l以下、好ましくは500mmol/l以下、より好ましくは200mmol/l以下、さらにより好ましくは100mmol/l以下、最も好ましくは80mmol/l以下、例えば60mmol/l以下である。さらに、アルカリ性組成物(b)中のカーボネート/ビカーボネート(水素カーボネート)の濃度は、0.1mmol/l~1.0mol/lの範囲、好ましくは1mmol/l~500mmol/lの範囲、より好ましくは5mmol/l~200mmol/lの範囲、さらにより好ましくは10mmol/l~100mmol/lの範囲、最も好ましくは50mmol/l~60mmol/lの範囲であることが好ましい。しかし、本発明に係るキットでは、アルカリ性組成物(b)がカーボネート/ビカーボネート(水素カーボネート)を含まないことも好ましい。
【0111】
好ましくは、本発明に係るキットにおいて、アルカリ性組成物(b)は、トリス(トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン((HOCH2)3CNH2)、THAMとも呼ばれる)を含む。アルカリ性組成物(b)中のトリスの好ましい濃度は、1.0mol/l以下、好ましくは500mmol/l以下、より好ましくは100mmol/l以下、さらにより好ましくは50mmol/l以下、最も好ましくは20mmol/l以下、例えば10mmol/l以下である。さらに、アルカリ性組成物(b)中のトリスの濃度は、0.001mmol/l~1.0mol/lの範囲、好ましくは0.01mmol/l~100mmol/lの範囲、より好ましくは0.1mmol/l~50mmol/lの範囲、さらにより好ましくは0.5mmol/l~20mmol/lの範囲、最も好ましくは1mmol/l~10mmol/lの範囲であることが好ましい。しかし、本発明に係るキットでは、アルカリ性組成物(b)がトリスを含まないことも好ましい。
【0112】
好ましくは、本発明に係るキットは、
(c3)ナトリウム、クロリド、カルシウム、マグネシウム、カリウムおよびホスフェートからなる群から選択される少なくとも1つの成分を含む電解質組成物
を含み、電解質組成物(c3)は、酸性組成物(a)およびアルカリ性組成物(b)とは異なる。
【0113】
したがって、電解質組成物(c3)は、空間的に分離して、例えば、電解質組成物(c3)を含む容器(ただし、酸性組成物(a)もアルカリ性組成物(b)も含まない容器)で提供されることが好ましい。
【0114】
電解質組成物(c3)は、固体、例えば、粉末、ゲル、部分的に結晶質、気相、または液体の物理的状態であってよい。好ましくは、電解質組成物(c3)は、上記のようにナトリウム、クロリド、カルシウム、マグネシウム、カリウムおよびホスフェートからなる群から選択される少なくとも1つの成分を含む液体、例えば溶液、特に水溶液である。
【0115】
好ましくは、電解質組成物(c3)は、例えば上記の供給源に由来する上記のナトリウムを含む。
【0116】
好ましくは、電解質組成物(c3)は、例えば上記の供給源に由来する上記のクロリドを含む。
【0117】
好ましくは、電解質組成物(c3)は、例えば上記の供給源に由来する上記のカルシウムを含む。
【0118】
好ましくは、電解質組成物(c3)は、例えば上記の供給源に由来する上記のマグネシウムを含む。
【0119】
好ましくは、電解質組成物(c3)は、例えば上記の供給源に由来する上記のカリウムを含む。
【0120】
好ましくは、電解質組成物(c3)は、例えば上記の供給源に由来する上記のホスフェート、特にホスフェートイオン(H2PO4
-、HPO4
2-またはPO4
3-)、好ましくはHPO4
2-を含む。
【0121】
電解質組成物(c3)中のナトリウム、クロリド、カルシウム、マグネシウム、カリウムおよびホスフェートの各成分の濃度は、酸性組成物(a)およびアルカリ性組成物(b)に対して上述したナトリウム、クロリド、カルシウム、マグネシウム、カリウムおよびホスフェートから選択される特定の成分の濃度から選択されてよい。例えば、電解質組成物(c3)中のナトリウムの濃度は、上記の酸性組成物(a)中のナトリウムの濃度および上記のアルカリ性組成物(b)中のナトリウムの濃度から選択されてよい。例えば、電解質組成物(c3)中のクロリドの濃度は、上記の酸性組成物(a)中のクロリドの濃度および上記のアルカリ性組成物(b)中のクロリドの濃度から選択されてよい。例えば、電解質組成物(c3)中のカルシウムの濃度は、上記の酸性組成物(a)中のカルシウムの濃度から選択されてよい。例えば、電解質組成物(c3)中のマグネシウムの濃度は、上記の酸性組成物(a)中のマグネシウムの濃度から選択されてよい。例えば、電解質組成物(c3)中のカリウムの濃度は、上記の酸性組成物(a)中のカリウムの濃度および上記のアルカリ性組成物(b)中のカリウムの濃度から選択されてよい。例えば、電解質組成物(c3)中のホスフェート、特にホスフェートイオン(H2PO4
-、HPO4
2-またはPO4
3-)、好ましくはHPO4
2-の濃度は、上記の酸性組成物(a)中のホスフェート、特にホスフェートイオン(H2PO4
-、HPO4
2-またはPO4
3-)、好ましくはHPO4
2-の濃度および上記のアルカリ性組成物(b)中のホスフェート、特にホスフェートイオン(H2PO4
-、HPO4
2-またはPO4
3-)、好ましくはHPO4
2-の濃度から選択されてよい。
【0122】
好ましくは、本発明に係るキットは好ましくは、安定剤組成物(c1)および電解質組成物(c3)を含み、安定剤組成物(c1)および電解質組成物(c3)は同じ組成物(c7)であっても、または別個の組成物であってもよい。好ましくは、電解質組成物(c3)は安定剤組成物(c1)と同じである。換言すると、本発明に係るキットは、上記のナトリウム、クロリド、カルシウム、マグネシウム、カリウムおよびホスフェートからなる群から選択される少なくとも1つの成分と、上記の安定剤、特にカプリレートの両方を含む電解質/安定剤組成物(c7)を含むことが好ましい。好ましくは、電解質/安定剤組成物(c7)は、空間的に分離して、例えば、電解質/安定剤組成物(c7)を含む容器(ただし、この容器は酸性組成物(a)もアルカリ性組成物(b)も含まない)で提供される。
【0123】
好ましくは、本発明に係るキットは好ましくは、栄養素組成物(c2)および電解質組成物(c3)を含み、栄養素組成物(c2)および電解質組成物(c3)は同じ組成物(c8)であっても、または別個の組成物であってもよい。好ましくは、電解質組成物(c3)は栄養素組成物(c2)と同じである。換言すると、本発明に係るキットは、上記のナトリウム、クロリド、カルシウム、マグネシウム、カリウムおよびホスフェートからなる群から選択される少なくとも1つの成分と、上記の栄養素、特に糖、例えばグルコースの両方を含む電解質/栄養素組成物(c8)を含むことが好ましい。好ましくは、電解質/栄養剤組成物(c8)は、空間的に分離して、例えば、電解質/栄養剤組成物(c8)を含む容器(ただし、この容器は酸性組成物(a)もアルカリ性組成物(b)も含まない)で提供される。
【0124】
好ましくは、本発明に係るキットは好ましくは、安定剤組成物(c1)、栄養素組成物(c2)および電解質組成物(c3)を含み、安定剤組成物(c1)、栄養素組成物(c2)および電解質組成物(c3)は同じ組成物(c11)であっても、または別個の組成物であってもよい。好ましくは、電解質組成物(c3)は安定剤組成物(c1)と同じであり、安定剤組成物(c1)は栄養素組成物(c2)と同じである。換言すると、本発明に係るキットは、(i)上記の栄養素、特に糖、例えばグルコース、(ii)上記のナトリウム、クロリド、カルシウム、マグネシウム、カリウムおよびホスフェートからなる群から選択される少なくとも1つの成分と、(iii)上記の安定剤、特にカプリレートとを含む電解質/安定剤/栄養素組成物(c11)を含むことが好ましい。
【0125】
したがって、本発明に係るキットは、(i)糖、好ましくはグルコースと、(ii)輸送蛋白質の安定剤、特にアルブミンの安定剤、好ましくはカプリレートと、(iii)ナトリウム、クロリド、カルシウム、マグネシウム、カリウムおよびホスフェートからなる群から選択される少なくとも1つの成分とを含む組成物(c11)を含み、組成物(c11)は酸性組成物(a)およびアルカリ性組成物(b)とは異なることが好ましい。好ましくは、組成物(c11)は、空間的に分離して、例えば、組成物(c11)を含む容器(ただし、この容器は酸性組成物(a)もアルカリ性組成物(b)も含まない)で提供される。
【0126】
本発明に係るキットが、
(c4)緩衝剤、特に、カーボネート/ビカーボネート(水素カーボネート)を含む緩衝組成物
を含み、緩衝組成物(c4)は、酸性組成物(a)およびアルカリ性組成物(b)とは異なることも好ましい。
【0127】
好ましくは、緩衝組成物(c4)は、空間的に分離して、例えば、緩衝組成物(c4)を含む容器(ただし、この容器は酸性組成物(a)もアルカリ性組成物(b)も含まない)で提供される。
【0128】
しかし、下記の緩衝剤は、別個の緩衝組成物(c4)を提供する代わりにアルカリ性組成物(b)に含まれてもよい。しかし、最高40mmol/lの高濃度の緩衝剤(例えば、カーボネート/ビカーボネート)には、別個の緩衝組成物(c4)が好ましいのに対し、最高60mmol/lの緩衝剤(例えば、カーボネート/ビカーボネート)の濃度は好ましくはアルカリ性組成物(b)に含まれる。
【0129】
緩衝組成物(c4)は、固体、例えば、粉末、ゲル、部分的に結晶質、気相、または液体の物理的状態であってよい。好ましくは、緩衝組成物(c4)は、緩衝剤、特に、カーボネート/ビカーボネート(水素カーボネート)を含む液体、例えば溶液、特に水溶液である。
【0130】
緩衝組成物(c4)に含まれる好ましい緩衝剤としては、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン(トリス、THAM);カーボネート/ビカーボネート;水溶性蛋白質、好ましくはアルブミンのうちのいずれか1つまたは複数が挙げられる。
【0131】
一般に、アルブミンは水性液体緩衝能を有しており、アルブミンの特定のアミノ酸残基(例えば、ヒスチジンのイミダゾール基、システインのチオール基)が重要であると考えられており、(Caironiら、Blood Transfus.、2009;7(4):259-267)、より高いpH値では、リジン側鎖およびN末端のアミノ基が緩衝に寄与し得る。しかし、アルブミンの緩衝能は、従来血液(ヒトまたは動物の体内で自然に発生する)で利用されている。ビカーボネートは、例えば、生理学的pH緩衝系を提供することが公知である。本明細書に記載の緩衝組成物(c4)においては、緩衝剤、例えば、アルブミン、カーボネート/ビカーボネートまたはトリスそれぞれの緩衝能が利用されてよい。所望により、他の無機または有機緩衝剤が存在していてもよい。好ましくは、緩衝組成物(c4)中の緩衝剤は、6.5~10、特に7.0~9.0の範囲の少なくとも1つのpKa値を有する。より好ましくは、それぞれ7.0~9.0の範囲のpKa値を有する2種または3種のそのような緩衝剤を利用してもよい。さらなる適切な有機緩衝剤としては、蛋白質、特に水溶性蛋白質、またはアミノ酸、またはトリスが挙げられ、さらなる適切な無機緩衝分子としては、HPO4
2-/H2PO4
-が挙げられる。
【0132】
緩衝組成物(c4)に含まれるべき適切な緩衝剤としては、特に、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン(トリス、THAM);カーボネート/ビカーボネート;水溶性蛋白質、好ましくはアルブミンのうちのいずれか1つまたは複数が挙げられる。
【0133】
ビカーボネートは10.3の酸性度(pKa)(共役塩基:カーボネート)を特徴とする。したがって、ビカーボネートを含有する水溶液中に、溶液のpHに応じてカーボネートも存在していてもよい。便宜上、表現「カーボネート/ビカーボネート」は、本明細書ではビカーボネートおよびその対応する塩基カーボネートの両方を意味するために使用される。「カーボネート/ビカーボネート濃度」または「(組み合わせた)カーボネート/ビカーボネート濃度」等は、本明細書では、カーボネートおよびビカーボネートの総濃度を意味する。例えば、「20mmol/lのカーボネート/ビカーボネート」とは、20mmol/lの総濃度のビカーボネートおよびその対応する塩基カーボネートを含む組成物を意味する。ビカーボネート対カーボネートの比は、典型的には、組成物のpHによって決まる。
【0134】
通常「トリス」と呼ばれるトリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン。トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタンは「THAM」としても知られている。トリスは、式(HOCH2)3CNH2の有機化合物である。トリスの酸性度(pKa)は8.07である。トリスは非毒性であり、in vivoでアシドーシスを治療するために従来より使用されてきた(例えば、Kalletら,Am.J.of Resp. and Crit.Care Med.161:1149-1153;Hosteら,J.Nephrol.18:303-7)。トリスを含む水溶液では、溶液のpHに応じて、対応する塩基も存在していてもよい。便宜上、表現「トリス」は、文脈上別の意味を示していない限り、本明細書ではトリス(ヒドロキシメチル)アミノメタンおよびその対応する塩基の両方を意味するために使用される。例えば、「20mmol/lのトリス」は、20mmol/lの総濃度のトリスおよびその対応する塩基を有する組成物を意味する。トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン対その対応する塩基の比は、組成物のpHによって決まる。
【0135】
水溶性蛋白質は、少なくとも1つのイミダゾール(ヒスチジン側)鎖および/または少なくとも1つのアミノ基(リジン)側鎖および/または少なくとも1つのスルフヒドリル(システイン)側鎖を含んでいれば、本発明の目的のための緩衝剤として好適である。典型的には、これらの側鎖は7.0~11.0の範囲のpKa値を有する。少なくとも10g/lの蛋白質がpH7.4~9の範囲のpHを有する水溶液に可溶性である場合、蛋白質は「水溶性」の定義に該当する。本明細書に記載のように、本発明との関連において非常に好ましい水溶性蛋白質はアルブミンである。
【0136】
アルブミンは、本発明との関連において好ましい水溶性蛋白質である。一般に、アルブミンは、典型的には対応するpKa値を有するいくつかのアミノ酸側鎖のおかげで、pH6.35~11.4の望ましいpH範囲、特に6.5~10のpH範囲、好ましくは7.4~9のpH範囲でより良好な緩衝能を有する。特に、アルブミンは、カルバミノ基の形でカーボネートに結合することにより、緩衝能に寄与できる。
【0137】
好ましくは、緩衝組成物(c4)は、例えば上記の供給源に由来する、本明細書に記載のカーボネート/ビカーボネート(水素カーボネート)を含む。例えば、緩衝組成物(c4)中のカーボネート/ビカーボネート(水素カーボネート)の濃度は、上記のアルカリ性組成物(b)中のカーボネート/ビカーボネート(水素カーボネート)の濃度から選択されてよい。しかし、カーボネート/ビカーボネートの濃度が高すぎると非生理学的であり、起こり得る副作用を考慮して、透析流体中においてカーボネート/ビカーボネート(総)濃度が40mmol/lを超えることは望ましくない。それに応じて、透析流体へのカーボネート/ビカーボネートの添加を避けることが望ましい場合があり、したがって、本発明に係る好ましいキットはカーボネート/ビカーボネートを含まない。ビカーボネートが血液等の液体を適切に緩衝できるpH範囲は、当技術分野で、例えば生化学の教科書からよく知られている。
【0138】
好ましくは、本発明に係るキットは、緩衝組成物(c4)および電解質組成物(c3)を含むことが好ましく、緩衝組成物(c4)および電解質組成物(c3)は同じ組成物(c6)であっても、または別個の組成物であってもよい。好ましくは、電解質組成物(c3)は緩衝組成物(c4)と同じである。換言すると、本発明に係るキットは、上記のナトリウム、クロリド、カルシウム、マグネシウム、カリウムおよびホスフェートからなる群から選択される少なくとも1つの成分と、上記の緩衝剤、特にカーボネート/ビカーボネート(水素カーボネート)の両方を含む電解質/緩衝組成物(c6)を含むことが好ましい。好ましくは、電解質/緩衝組成物(c6)は、空間的に分離して、例えば、電解質/緩衝組成物(c6)を含む容器(ただし、この容器は酸性組成物(a)もアルカリ性組成物(b)も含まない)で提供される。
【0139】
好ましくは、本発明に係るキットは好ましくは、安定剤組成物(c1)および緩衝組成物(c4)を含み、安定剤組成物(c1)および緩衝組成物(c4)は同じ組成物(c9)であっても、または別個の組成物であってもよい。好ましくは、緩衝組成物(c4)は安定剤組成物(c1)と同じである。換言すると、本発明に係るキットは、上記の緩衝剤、特に上記のカーボネート/ビカーボネート(水素カーボネート)と、上記の安定剤、特にカプリレートの両方を含む緩衝/安定剤組成物(c9)を含むことが好ましい。好ましくは、緩衝/安定剤組成物(c9)は、空間的に分離して、例えば、緩衝/安定剤組成物(c9)を含む容器(ただし、この容器は酸性組成物(a)もアルカリ性組成物(b)も含まない)で提供される。
【0140】
好ましくは、本発明に係るキットは好ましくは、栄養素組成物(c2)および緩衝組成物(c4)を含み、栄養素組成物(c2)および緩衝組成物(c4)は同じ組成物(c10)であっても、または別個の組成物であってもよい。好ましくは、緩衝組成物(c4)は栄養素組成物(c2)と同じである。換言すると、本発明に係るキットは、上記の緩衝剤、特にカーボネート/ビカーボネート(水素カーボネート)と、上記の栄養素、特に糖、例えばグルコースの両方を含む緩衝/栄養素組成物(c10)を含むことが好ましい。好ましくは、緩衝/栄養素組成物(c10)は、空間的に分離して、例えば、緩衝/栄養素組成物(c10)を含む容器(ただし、この容器は酸性組成物(a)もアルカリ性組成物(b)も含まない)で提供される。
【0141】
より好ましくは、本発明に係るキットは好ましくは、安定剤組成物(c1)、栄養素組成物(c2)および緩衝組成物(c4)を含み、安定剤組成物(c1)、栄養素組成物(c2)および緩衝組成物(c4)は同じ組成物であっても、または別個の組成物であってもよい。好ましくは、緩衝組成物(c4)は安定剤組成物(c1)および栄養素組成物(c2)と同じである。換言すると、本発明に係るキットは、上記の緩衝剤、特に上記のカーボネート/ビカーボネート(水素カーボネート)と、上記の栄養素、特に糖、例えばグルコースと、上記の安定剤、特にカプリレートとを含む緩衝/栄養素/安定剤組成物を含むことが好ましい。
【0142】
より好ましくは本発明に係るキットは好ましくは、安定剤組成物(c1)、電解質組成物(c3)および緩衝組成物(c4)を含み、安定剤組成物(c1)、電解質組成物(c3)および緩衝組成物(c4)は同じ組成物であっても、または別個の組成物であってもよい。好ましくは、緩衝組成物(c4)は安定剤組成物(c1)および電解質組成物(c3)と同じである。換言すると、本発明に係るキットは、上記の緩衝剤、特にカーボネート/ビカーボネート(水素カーボネート)と、上記の安定剤、特にカプリレートと、上記のナトリウム、クロリド、カルシウム、マグネシウム、カリウムおよびホスフェートからなる群から選択される少なくとも1つの成分とを含む緩衝/電解質/安定剤組成物を含むことが好ましい。
【0143】
より好ましくは、本発明に係るキットは好ましくは、栄養素組成物(c2)、電解質組成物(c3)および緩衝組成物(c4)を含み、栄養素組成物(c2)、電解質組成物(c3)および緩衝組成物(c4)は同じ組成物であっても、または別個の組成物であってもよい。好ましくは、緩衝組成物(c4)は電解質組成物(c3)および栄養素組成物(c2)と同じである。換言すると、本発明に係るキットは、上記の緩衝剤、特にカーボネート/ビカーボネート(水素カーボネート)と、上記の栄養素、特に糖、例えばグルコースと、上記のナトリウム、クロリド、カルシウム、マグネシウム、カリウムおよびホスフェートからなる群から選択される少なくとも1つの成分とを含む緩衝/栄養素/電解質組成物を含むことが好ましい。
【0144】
さらにより好ましくは、本発明に係るキットは好ましくは、安定剤組成物(c1)、栄養素組成物(c2)、電解質組成物(c3)および緩衝組成物(c4)を含み、安定剤組成物(c1)、栄養素組成物(c2)、電解質組成物(c3)および緩衝組成物(c4)は同じ組成物(c12)であっても、または別個の組成物であってもよい。好ましくは、緩衝組成物(c4)は安定剤組成物(c1)と同じであり、安定剤組成物(c1)は栄養素組成物(c2)と同じであり、栄養素組成物(c2)は電解質組成物(c3)と同じである。換言すると、本発明に係るキットは、(i)上記の栄養素、特に糖、例えばグルコース、(ii)上記のナトリウム、クロリド、カルシウム、マグネシウム、カリウムおよびホスフェートからなる群から選択される少なくとも1つの成分と、(iii)上記の安定剤、特にカプリレートと、(iv)上記の緩衝剤、特にカーボネート/ビカーボネート(水素カーボネート)とを含む電解質/安定剤/栄養素/緩衝組成物(c12)を含むことが好ましい。好ましくは、組成物(c12)は、空間的に分離して、例えば、組成物(c12)を含む容器(ただし、この容器は酸性組成物(a)もアルカリ性組成物(b)も含まない)で提供される。
【0145】
さらにより好ましくは、本発明に係るキットは組成物(c12)を含み、組成物(c12)は、
(i)糖、好ましくはグルコースと;
(ii)輸送蛋白質の安定剤、特にアルブミンの安定剤、好ましくはカプリレートと;
(iii)ナトリウム、クロリド、カルシウム、マグネシウム、カリウムおよびホスフェートからなる群から選択される少なくとも1つの成分と;
(iv)緩衝剤、好ましくはカーボネート/ビカーボネート(水素カーボネート)と
を含み、組成物(c12)は、酸性組成物(a)およびアルカリ性組成物(b)とは異なる。
【0146】
好ましくは、本発明に係るキットは、
(a)ナトリウム、クロリド、カルシウム、マグネシウム、カリウムおよびホスフェートからなる群から選択される少なくとも1つの成分を含む酸性組成物と、
(b)ナトリウム、クロリド、カリウム、ホスフェート、カーボネート/ビカーボネート(水素カーボネート)およびトリスからなる群から選択される少なくとも1つの成分、ならびに所望により、輸送蛋白質の安定剤、特にアルブミンの安定剤を含むアルカリ性組成物と
を含む。
【0147】
それにより、酸性組成物(a)は好ましくは少なくともクロリドを含み、アルカリ性組成物(b)は好ましくは、少なくともナトリウムおよび/またはカリウム、より好ましくは少なくともナトリウムを含む。そのような組成物において、酸性組成物(a)中の各成分の濃度は、酸性組成物(a)中の濃度について上述したように選択できる。したがって、そのような組成物において、アルカリ性組成物(b)中の各成分の濃度は、アルカリ性組成物(b)中の濃度について上述したように選択できる。
【0148】
本発明に係るキットが、
(a)ナトリウム、クロリド、カルシウム、マグネシウム、カリウムおよびホスフェートからなる群から選択される少なくとも1つの成分を含む酸性組成物;
(b)ナトリウム、クロリド、カリウム、ホスフェート、およびカーボネート/ビカーボネート(水素カーボネート)からなる群から選択される少なくとも1つの成分を含むアルカリ性組成物;ならびに
- 上記の輸送蛋白質の安定剤、特にアルブミンの安定剤、例えば、カプリレートを含む上記の安定剤組成物(c1)であって、安定剤組成物(c1)は、酸性組成物(a)およびアルカリ性組成物(b)とは異なる、安定剤組成物(c1);および/または
- 上記の栄養素、特に糖、例えばグルコースを含む栄養素組成物(c2)であって、栄養素組成物(c2)は、酸性組成物(a)およびアルカリ性組成物(b)とは異なる、栄養素組成物(c2)
を含み、
- キットが、安定剤組成物(c1)および栄養素組成物(c2)を含む場合、安定剤組成物(c1)および栄養素組成物(c2)は同じ組成物(c5)であっても、または別個の組成物であってもよいことも好ましい。
【0149】
より好ましくは、そのようなキットは、安定剤/栄養素組成物(c5)を含み、安定剤/栄養素組成物(c5)は、
- 糖、好ましくはグルコースと、
- 輸送蛋白質の安定剤、特にアルブミンの安定剤、好ましくはカプリレートと
を含み、組成物(c5)は、酸性組成物(a)およびアルカリ性組成物(b)とは異なる。
【0150】
換言すると、本発明に係るキットは好ましくは、(i)本明細書に記載の酸性組成物(a)、本明細書に記載のアルカリ性組成物(b)および本明細書に記載の安定剤組成物(c1);(ii)本明細書に記載の酸性組成物(a)、本明細書に記載のアルカリ性組成物(b)および本明細書に記載の栄養素組成物(c2);または(iii)本明細書に記載の酸性組成物(a)、本明細書に記載のアルカリ性組成物(b)、本明細書に記載の安定剤組成物(c1)および本明細書に記載の栄養素組成物(c2)を含み、後者の組成物(c1)および(c2)は同じまたは異なった組成物であってよく、好ましくは、組成物(c1)および(c2)は同じ組成物(c5)である。
【0151】
さらにより好ましくは、そのようなキットは、安定剤/栄養素/電解質組成物(c11)を含み、安定剤/栄養素/電解質組成物(c11)は、
- 糖、好ましくはグルコースと、
- 輸送蛋白質の安定剤、特にアルブミンの安定剤、好ましくはカプリレートと、
- ナトリウム、クロリド、カルシウム、マグネシウム、カリウムおよびホスフェートからなる群から選択される少なくとも1つの成分と
を含み、組成物(c11)は、酸性組成物(a)およびアルカリ性組成物(b)とは異なる。
【0152】
さらに、キット、特に本明細書に記載の安定剤組成物(c1)、栄養素組成物(c2)、電解質組成物(c3)、緩衝組成物(c4)およびそれらを組み合わせた組成物((c5)~(c12))のいずれかは、追加の成分、例えば、尿素;血液を希釈するか、または凝固および/または血小板凝集を阻害する化合物、例えば、ヘパリンまたはアスピリン;および/あるいはフルーツ酸またはその塩、例えば、シトレート、マレエート、タータレート等を含んでよい。例えば、後者の利点は、透析装置の腐食のリスクを低減することである。
【0153】
第2の態様において、本発明は、
(a)生体適合性酸を含む酸性組成物と、
(b)生体適合性塩基を含むアルカリ性組成物と
を含む輸送蛋白質含有マルチプルパス透析流体を処理するためのキットであって、酸性組成物(a)中の生体適合性酸の濃度対アルカリ性組成物(b)中の生体適合性塩基の濃度の比は、0.8未満、好ましくは0.75未満、より好ましくは0.7未満、さらにより好ましくは0.675未満、最も好ましくは0.65未満、例えば約0.625であり、酸性組成物中の生体適合性酸の濃度およびアルカリ性組成物中の生体適合性塩基の濃度は、少なくとも50mmol/lかつ500mmol/l以下である、キットを提供する。
【0154】
本発明の第2の態様に係るキットは、酸性組成物(a)中の生体適合性酸の濃度対アルカリ性組成物(b)中の生体適合性塩基の濃度の比がより小さいという点で第2の発明の第1の態様に係るキットとは異なる。したがって、より高いpH値、好ましくはpH>10を有する透析流体を得、および/または再生することができる。このこと以外は、本発明の第2の態様に係るキットは本発明の第1の態様に係るキットに本質的に対応する。特に、本発明の第2の態様に係るキットの好ましい実施形態は本発明の第1の態様に係るキットの好ましい実施形態に対応する。本発明の第2の態様に係るキットの実施例は、下記の「実施例1」の「キットI」(本発明の第1の態様に係るキットに対する「比較例」としての役割も果たす)として本明細書で説明される。
【0155】
本発明に係るキットの使用および方法
さらなる態様において、本発明は、輸送蛋白質含有マルチプルパス透析流体、特にアルブミン含有マルチプルパス透析流体を処理する、特に再生するための本明細書に記載の本発明に係るキットの使用を提供する。
【0156】
上記のように、本明細書で使用する場合(すなわち、本明細書全体を通して)、「輸送蛋白質含有マルチプルパス透析流体を処理する」は、一般に(i)本発明に係るキットの構成成分それぞれ(例えば、酸性組成物(a)、アルカリ性組成物(b)および任意のさらなる所望の構成成分、例えば、本明細書に記載の組成物(c1)~(c12)のそれぞれ)を輸送蛋白質含有マルチプルパス透析流体と接触させること、したがって(ii)輸送蛋白質含有マルチプルパス透析流体の性質に影響を与える、例えば、透析流体のpH値を変える、透析流体の組成を変える、透析流体の密度、電気抵抗、伝導度、蒸気圧、粘度、緩衝能、表面張力、屈折度および他の重要な性質を変える、および/または、最も好ましくは、輸送蛋白質を再生することを意味する。本文脈中、本明細書で使用する場合(すなわち、本明細書全体を通して)、用語「輸送蛋白質含有マルチプルパス透析流体を処理する」は、好ましくは、本明細書に記載の輸送蛋白質含有マルチプルパス透析流体中の輸送蛋白質を再生することを意味する。特に、本発明に係るキットの構成成分それぞれ(例えば、酸性組成物(a)、アルカリ性組成物(b)および任意のさらなる所望の構成成分、例えば、本明細書に記載の組成物(c1)~(c12)のそれぞれ)は、輸送蛋白質含有マルチプルパス透析流体に直接添加される。好ましくは、本発明に係るキットの構成成分それぞれ(例えば、酸性組成物(a)、アルカリ性組成物(b)および任意のさらなる所望の構成成分、例えば、本明細書に記載の組成物(c1)~(c12)のそれぞれ)は、輸送蛋白質含有マルチプルパス透析流体に別々に直接添加される。換言すると、キットの構成成分(例えば、酸性組成物(a)、アルカリ性組成物(b)および任意のさらなる所望の構成成分、例えば、本明細書に記載の組成物(c1)~(c12)のそれぞれ)は、好ましくは、輸送蛋白質含有マルチプルパス透析流体と接触する(例えば、添加される)前に互いと混合されない。
【0157】
本明細書で使用する場合(すなわち、本明細書全体を通して)、特に、「輸送蛋白質、例えばアルブミンを再生する」との関連での用語「再生する」は、透析器を通った後、血液から除去されるべき物質、例えば、毒素が輸送蛋白質に結合することを意味する。これらの物質は、マルチプルパス透析の次のサイクルで輸送蛋白質を再利用するために、輸送蛋白質から放出される必要がある。したがって、(輸送蛋白質を)「再生する」とは、輸送蛋白質が、毒素または除去されるべき他の物質が輸送蛋白質に結合している状態(X)から、輸送蛋白質が「結合していない」(または含まれていない)状態(Y)に移行することを意味する。特に、このような非結合状態(Y)では、輸送蛋白質は、輸送蛋白質が毒素または血液から除去されるべき他の物質に結合することが可能となる構造を持つ。
【0158】
本明細書で使用する場合、「輸送蛋白質含有マルチプルパス透析流体」は、(i)透析器を繰り返し(好ましくは連続して、またはパルス状に)通過し(したがって、血液の透析に繰り返し使用される)、(ii)輸送蛋白質、すなわち、イオン、例えばプロトンもしくは水酸化物イオン(H+またはOH-)、気体、小分子または高分子の移動に関与する蛋白質を含む透析流体を意味する。特に、透析流体中の輸送蛋白質は、透析中に血液から毒性の、および/または望ましくないイオン、例えばプロトンもしくは水酸化物イオン(H+またはOH-)、気体、小分子または高分子の除去を可能にする。輸送蛋白質は、好ましくは水溶性蛋白質である。本明細書に記載の本発明との関連では、好ましい輸送蛋白質はアルブミン、好ましくは血清アルブミン、より好ましくはウシまたはヒト血清アルブミン等の哺乳動物血清アルブミン、さらにより好ましくはヒト血清アルブミン(HSA)である。アルブミンは、自然に存在した状態のまま使用されても、または遺伝子組み換えされたアルブミンであってもよい。アルブミンおよび少なくとも1種のさらなる輸送蛋白質を含有する混合物、ならびに異なる種類のアルブミンの混合物、例えば、ヒト血清アルブミンと別の哺乳動物血清アルブミンとの混合物も好ましい。いずれの場合も、本明細書で指定のアルブミン濃度は、単一の種類のアルブミン(例えば、ヒト血清アルブミン)が使用されるか、またはさまざまな種類のアルブミンの混合物が使用されるかどうかに関係なく、アルブミンの総濃度を意味する。本発明で使用される透析流体は、3~80g/lのアルブミン、好ましくは12~60g/lのアルブミン、より好ましくは15~50g/lのアルブミン、最も好ましくは約20g/lのアルブミンを含む。アルブミンの濃度は%値としても示すこともでき、したがって、例えば30g/lのアルブミンは3%のアルブミン(wt./vol)に相当する。
【0159】
本発明は、輸送蛋白質含有マルチプルパス透析流体、特にアルブミン含有マルチプルパス透析流体を製造する(または「生成する」)ための本明細書に記載の本発明に係るキットの使用をさらに提供する。
【0160】
さらなる態様において、本発明は、輸送蛋白質含有マルチプルパス透析流体を再生するための方法であって、輸送蛋白質含有マルチプルパス透析流体は、
- 生体適合性酸を含む酸性組成物(a)、および
- 生体適合性塩基を含むアルカリ性組成物(b)
を用いて処理され、酸性組成物(a)中の生体適合性酸の濃度対アルカリ性組成物(b)中の生体適合性塩基の濃度の比は、0.7~1.3の範囲、好ましくは0.75~1.25の範囲、より好ましくは0.8~1.2の範囲であり、酸性組成物中の生体適合性酸の濃度およびアルカリ性組成物中の生体適合性塩基の濃度は、少なくとも50mmol/lかつ500mmol/l以下である、方法を提供する。
【0161】
好ましくは、本明細書に記載の輸送蛋白質含有マルチプルパス透析流体を処理するために使用される、本明細書に記載の酸性組成物(a)は、例えば0.5~3.0の範囲、好ましくは0.7~2.0の範囲、より好ましくは0.9~1.2の範囲、最も好ましくは1.0~1.1の範囲、例えば、約1.05のpHを有する。上記のように、輸送蛋白質含有マルチプルパス透析流体に含まれる輸送蛋白質は、極端に酸性のpH値でアンフォールディングし、それによって運ばれた物質、例えば毒素を放出する。すると、遊離毒素は濾過等によって容易に除去できる。他方では、輸送蛋白質が極端に酸性のpH値に曝されることにより輸送蛋白質が変性し得る。徹底的な試験によれば、1.5~5の範囲、好ましくは1.8~4.5の範囲、より好ましくは2.3~4の範囲の透析流体のpH値によって毒素の十分な除去が可能となり、輸送蛋白質の変性が回避されることが明らかになった。透析流体のこのようなpH値は、0.5~3.0の範囲、好ましくは0.7~2.0の範囲、より好ましくは0.9~1.2の範囲、最も好ましくは1.0~1.1の範囲、例えば、約1.05のpHを有する酸性組成物(a)を透析流体(酸性組成物(a)の添加前に6.35~11.4、特に6.5~10、好ましくは7.4~9の範囲のpHを有する)に添加することによって得られる。
【0162】
好ましくは、本明細書に記載の輸送蛋白質含有マルチプルパス透析流体を処理するために使用される、本明細書に記載のアルカリ性組成物(b)は、例えば10.0~14.0の範囲、好ましくは11.5~13.5の範囲、より好ましくは12.0~13.0の範囲、最も好ましくは12.3~12.9の範囲、例えば約12.6のpHを有する。上記のように、輸送蛋白質含有マルチプルパス透析流体に含まれる輸送蛋白質は、極端にアルカリ性のpH値でアンフォールディングし、それによって運ばれた物質、例えば毒素を放出する。すると、遊離毒素は濾過等によって容易に除去できる。他方では、輸送蛋白質が極端にアルカリ性のpH値に曝されることにより輸送蛋白質が変性し得る。徹底的な試験によれば、9.5~12.5の範囲、好ましくは10.5~12.0の範囲、より好ましくは11~11.5の範囲の透析流体のpH値によって毒素の十分な除去が可能となり、輸送蛋白質の変性が回避されることが明らかになった。透析流体のこのようなpH値は、10.0~14.0の範囲、好ましくは11.5~13.5の範囲、より好ましくは12.0~13.0の範囲、最も好ましくは12.3~12.9の範囲、例えば、約12.6のpHを有するアルカリ性組成物(b)を透析流体(アルカリ性組成物(b)の添加前に6.35~11.4、特に6.5~10、好ましくは7.4~9の範囲のpHを有する)に添加することによって得られる。
【0163】
好ましくは、本発明に係る方法では、酸性組成物(a)およびアルカリ性組成物(b)を用いた輸送蛋白質含有マルチプルパス透析流体の処理は連続して行われる。例えば、輸送蛋白質含有マルチプルパス透析流体は、まず酸性組成物(a)を用いて、その後アルカリ性組成物(b)を用いて処理されてよい。あるいは、輸送蛋白質含有マルチプルパス透析流体は、まずアルカリ性組成物(b)を用いて、その後酸性組成物(a)を用いて処理されてよい。好ましくは、そのような治療は、透析流体が透析器を通過した後に行われる。
【0164】
しかし、このような連続的な処理では、透析流体のpH値を2回、つまり、酸性またはアルカリ性組成物を用いた最初の処理後および他方の(酸性またはアルカリ性)組成物を用いた2回目の処理後に調整することが必要とされる。
【0165】
したがって、本明細書に記載の本発明に係る方法が、
(i)輸送蛋白質含有マルチプルパス透析流体を透析器に通す工程と、
(ii)特に毒素を運ぶ輸送蛋白質含有マルチプルパス透析流体の流れを第1の流れと第2の流れとに分割、すなわち分流させる工程と、
(iii)酸性組成物(a)を輸送蛋白質含有マルチプルパス透析流体の第1の流れに、アルカリ性組成物(b)を輸送蛋白質含有マルチプルパス透析流体の第2の流れに添加する工程と、
(iv)酸性組成物(a)で処理された輸送蛋白質含有マルチプルパス透析流体の第1の流れおよびアルカリ性組成物(b)で処理された輸送蛋白質含有マルチプルパス透析流体の第2の流れを濾過する工程と、
(v)酸性組成物(a)で処理された輸送蛋白質含有マルチプルパス透析流体の第1の流れおよびアルカリ性組成物(b)で処理された輸送蛋白質含有マルチプルパス透析流体の第2の流れを再び一緒にする、すなわち合流させる工程と、
(vi)所望により、工程(i)から始まるさらなるサイクルを実行する工程と
を含む場合、より好ましい。
【0166】
そのような方法の原理、ならびにそのような方法を実施するために使用可能な方法およびデバイスのさらなる詳細は、その全体が参照により本明細書に組み込まれる国際公開第2009/071103号に記載されている。
【0167】
そのような方法では、工程(iii)において、輸送蛋白質含有マルチプルパス透析流体の第1の流れへの酸性組成物(a)の添加は、輸送蛋白質含有マルチプルパス透析流体の第2の流れへのアルカリ性組成物(b)の添加とほぼ同時に行われることが好ましい。
【0168】
さらに、本明細書に記載の本発明に係る方法では、輸送蛋白質含有マルチプルパス透析流体は、本明細書に記載のように輸送蛋白質の安定剤、特にアルブミンの安定剤、例えばカプリレートを含む安定剤組成物(c1)を用いて処理されることが好ましい。特に、本明細書に記載の本発明に係る方法では、本明細書に記載の安定剤組成物(c1)を(直接)輸送蛋白質含有マルチプルパス透析流体に添加することが好ましい。
【0169】
さらに、本明細書に記載の本発明に係る方法では、輸送蛋白質含有マルチプルパス透析流体は、本明細書に記載のように栄養素、特に糖、例えばグルコースを含む栄養素組成物(c2)を用いて処理されることが好ましい。特に、本明細書に記載の本発明に係る方法では、本明細書に記載の栄養素組成物(c2)を(直接)輸送蛋白質含有マルチプルパス透析流体に添加することが好ましい。
【0170】
さらに、本明細書に記載の本発明に係る方法では、輸送蛋白質含有マルチプルパス透析流体は、本明細書に記載のナトリウム、クロリド、カルシウム、マグネシウム、カリウムおよびホスフェートからなる群から選択される少なくとも1つの成分を含む電解質組成物(c3)を用いて処理されることが好ましい。特に、本明細書に記載の本発明に係る方法では、本明細書に記載の電解質組成物(c3)を(直接)輸送蛋白質含有マルチプルパス透析流体に添加することが好ましい。
【0171】
さらに、本明細書に記載の本発明に係る方法では、輸送蛋白質含有マルチプルパス透析流体は、本明細書に記載のナトリウム、クロリド、カルシウム、マグネシウム、カリウム、ホスフェート、トリス、蛋白質HSAおよびカーボネート/ビカーボネート(水素カーボネート)からなる群から選択される少なくとも1つの成分を含む緩衝組成物(c4)を用いて処理されることが好ましい。特に、本明細書に記載の本発明に係る方法では、本明細書に記載の緩衝組成物(c4)を(直接)輸送蛋白質含有マルチプルパス透析流体に添加することが好ましい。
【0172】
さらに、本明細書に記載の本発明に係る方法では、輸送蛋白質含有マルチプルパス透析流体は、好ましくは本明細書に記載のようにカプリレートを含む安定剤組成物(c1)および好ましくは本明細書に記載のように糖、例えばグルコースを含む栄養素組成物(c2)を用いて処理され、安定剤組成物(c1)および栄養素組成物(c2)は同じ組成物であっても、または別個の組成物であってもよく、好ましくは、安定剤組成物(c1)および栄養素組成物(c2)は同じ組成物(c5)である。
【0173】
さらにより好ましくは、本明細書に記載の本発明に係る方法では、輸送蛋白質含有マルチプルパス透析流体は、好ましくは本明細書に記載のようにカプリレートを含む安定剤組成物(c1)、好ましくは本明細書に記載のように糖、例えばグルコースを含む栄養素組成物(c2)および/または電解質組成物(c3)を用いて処理され、安定剤組成物(c1)、栄養素組成物(c2)および/または電解質組成物(c3)は同じ組成物であっても、または別個の組成物であってもよく、好ましくは、安定剤組成物(c1)、栄養素組成物(c2)および/または電解質組成物(c3)は同じ組成物(c11)である。
【0174】
特に好ましくは、本明細書に記載の本発明に係る方法では、輸送蛋白質含有マルチプルパス透析流体は、好ましくは本明細書に記載のようにカプリレートを含む安定剤組成物(c1)、好ましくは本明細書に記載のように糖、例えばグルコースを含む栄養素組成物(c2)、電解質組成物(c3)および/または緩衝組成物(c4)を用いて処理され、安定剤組成物(c1)、栄養素組成物(c2)、電解質組成物(c3)および/または緩衝組成物(c4)は同じ組成物であっても、または別個の組成物であってもよく、好ましくは、安定剤組成物(c1)、栄養素組成物(c2)、電解質組成物(c3)および/または緩衝組成物(c4)は同じ組成物(c12)である。
【0175】
さらに、本明細書に記載の本発明に係る方法では、本明細書に記載の安定剤組成物(c1)、栄養素組成物(c2)、電解質組成物(c3)、緩衝組成物(c4)および/またはそれらを組み合わせた任意の組成物(例えば、(c5)~(c12))を、
- 酸性組成物(a)およびアルカリ性組成物(b)を用いた輸送蛋白質含有マルチプルパス透析流体の処理後、好ましくは上記方法の工程(v)の後、および/または
- 輸送蛋白質含有マルチプルパス透析流体を透析器に通す前
に輸送蛋白質含有マルチプルパス透析流体に添加することが好ましい。
【0176】
さらに、本明細書に記載の本発明に係る方法では、本明細書に記載の安定剤組成物(c1)、栄養素組成物(c2)、電解質組成物(c3)、緩衝組成物(c4)および/またはそれらを組み合わせた任意の組成物(例えば、(c5)~(c12))を、処理前、好ましくは工程(ii)の前に輸送蛋白質含有マルチプルパス透析流体に添加することが好ましい。
【0177】
好ましくは、本明細書に記載の本発明に係る方法は、工程(v)の後、かつ工程(vi)に先立つ工程(v-1)、すなわち、
(v-1)輸送蛋白質含有マルチプルパス透析流体に、(i)輸送蛋白質の安定剤、特にアルブミンの安定剤、例えばカプリレートを含む安定剤組成物(c1);(ii)栄養素、特に糖、例えばグルコースを含む栄養素組成物(c2);(iii)ナトリウム、クロリド、カルシウム、マグネシウム、カリウムおよびホスフェートからなる群から選択される少なくとも1つの成分を含む電解質組成物(c3);および/または(vi)緩衝剤、特にカーボネート/ビカーボネートを含む緩衝組成物(c4)を添加する工程を含み、
安定剤組成物(c1)、栄養素組成物(c2)、電解質組成物(c3)および/または緩衝組成物(c4)は同じ組成物(c12)または異なる組成物である。好ましくは、安定剤組成物(c1)、栄養素組成物(c2)、電解質組成物(c3)および/または緩衝組成物(c4)は同じ組成物(c12)である。
【0178】
さらなる態様において、本発明は、
(i)生体適合性酸を含む酸性組成物(a)および生体適合性塩基を含むアルカリ性組成物(b)を提供する工程であって、
酸性組成物(a)中の生体適合性酸の濃度対アルカリ性組成物(b)中の生体適合性塩基の濃度の比は、0.7~1.3の範囲、好ましくは0.75~1.25の範囲、より好ましくは0.8~1.2の範囲であり、
酸性組成物中の生体適合性酸の濃度およびアルカリ性組成物中の生体適合性塩基の濃度は、少なくとも50mmol/lかつ500mmol/l以下である、工程と、
(ii)酸性組成物(a)をアルカリ性組成物(b)と合流させる工程と、
(iii)輸送蛋白質、好ましくはアルブミン、より好ましくはヒト血清アルブミン(HSA)を添加する工程と
を含む輸送蛋白質含有マルチプルパス透析流体を提供する方法をさらに提供する。
【0179】
したがって、本明細書に記載の本発明に係るキットは、輸送蛋白質含有マルチプルパス透析流体の治療に有用であるだけでなく、有利には輸送蛋白質含有マルチプルパス透析流体を提供するための「基礎」としても役立ち得る。好ましくは、輸送蛋白質含有マルチプルパス透析流体を提供するために、輸送蛋白質それ自体のみを添加する必要がある。したがって、本発明に係るキットの同じ構成成分は、例えば、治療開始時に、透析流体の「基礎」を提供し、例えば、治療の後の時点で、透析流体の再生に必要な成分を提供してもよい。有利には、輸送蛋白質含有マルチプルパス透析流体を提供するために、追加の成分(輸送蛋白質を除く)は必要ないか、または任意の追加の成分、例えば、本明細書に記載の栄養素、安定剤、電解質、緩衝剤等を必要に応じてモジュール方式で添加してもよい。
【0180】
好ましくは、本方法は、工程(ii)に続き、工程(iii)に先行する工程(ii-1)、すなわち、
(ii-1)(i)本明細書に記載の輸送蛋白質の安定剤、特にアルブミンの安定剤、例えばカプリレートを含む安定剤組成物(c1);(ii)本明細書に記載の栄養素、特に糖、例えばグルコースを含む栄養素組成物(c2);および/または(iii)本明細書に記載のナトリウム、クロリド、カルシウム、マグネシウム、カリウムおよびホスフェートからなる群から選択される少なくとも1つの成分を含む電解質組成物(c3)を添加する工程をさらに含み、
安定剤組成物(c1)、栄養素組成物(c2)および/または電解質組成物(c3)は同じ組成物(c11)であっても、または別個の組成物であってもよい。
【0181】
より好ましくは、上記の工程(ii-1)は、次の通りである:
(ii-1)(i)本明細書に記載の輸送蛋白質の安定剤、特にアルブミンの安定剤、例えばカプリレートを含む安定剤組成物(c1);(ii)本明細書に記載の栄養素、特に糖、例えばグルコースを含む栄養素組成物(c2);(iii)本明細書に記載のナトリウム、クロリド、カルシウム、マグネシウム、カリウムおよびホスフェートからなる群から選択される少なくとも1つの成分を含む電解質組成物(c3);および/または(iv)本明細書に記載の緩衝剤、特にカーボネート/ビカーボネートを含む緩衝組成物(c4)を添加する工程であって、
安定剤組成物(c1)、栄養素組成物(c2)、電解質組成物(c3)および/または緩衝組成物(c4)は同じ組成物であっても、または別個の組成物でもあってもよい、工程。
【0182】
さらなる態様では、本発明は、本明細書に記載の本発明に係る方法のいずれかにおける本明細書に記載の本発明に係るキットの使用も提供する。特に、本発明に係る上記の方法のいずれにおいても、本明細書に記載の本発明に係るキットを使用することが有利である。
【0183】
以下、添付図面を簡単に説明する。図面は、本発明をより詳細に説明することを意図している。しかし、図面は本発明の主題を限定することを決して意図していない。
【図面の簡単な説明】
【0184】
【
図1】例示透析システムの概略図を示し、これは好ましくは、本発明に係る輸送蛋白質含有マルチプルパス透析流体を再生する方法に使用される。
【
図2】実施例3について、解毒、すなわち、実施例2に記載の方法において実施例1に記載のキットHを用いて達成される血液からのビリルビン(A)および尿素(B)の除去を示す。
【
図3】実施例3について、透析流体(A)のpH値および血液(B)のpH値の変化を示す。各グラフの太い縦線は、実験中の工程の変化(すなわち、透析流体のpH値の実験的操作)を示す。
【
図4】実施例3について、血液および透析流体中のナトリウム濃度を示す。グラフの縦線は、実施例3に示され記載される実験中の透析液のpH値変化を示す。
【
図5】実施例3について、血液および透析流体中のカリウム濃度を示す。グラフの縦線は、実施例3に示され記載される実験中の透析液のpH値変化を示す。
【
図6】実施例3について、血液および透析流体中のマグネシウム濃度を示す。グラフの縦線は、実施例3に示され記載される実験中の透析液のpH値変化を示す。
【
図7】実施例3について、血液および透析流体中のカルシウム濃度を示す。グラフの縦線は、実施例3に示され記載される実験中の透析液のpH値変化を示す。
【
図8】実施例3について、血液および透析流体中のクロリド濃度を示す。グラフの縦線は、実施例3に示され記載される実験中の透析液のpH値変化を示す。
【
図9】実施例3について、血液および透析流体中のホスフェート濃度を示す。グラフの縦線は、実施例3に示され記載される実験中の透析液のpH値変化を示す。
【
図10】実施例4について、血液中のカルシウム濃度に対する(透析流体の)pH9で輸送蛋白質含有マルチプルパス透析流体を処理するための、組成物(a)中の異なるカルシウム濃度、すなわち、1.90mmol/l、2.06mmol/l、2.20mmol/l、2.32mmol/l、2.48mmol/l、2.72mmol/lおよび2.88mmol/lの効果を示す。
【
図11】実施例5について、本発明に係るキットを使用した透析中の、血液中のμmol/lでの銅濃度を示す。
【
図12】実施例6について、濁度を測定するためのシミュレーションモデルのさまざまな工程を概略的に示す。
【
図13】実施例8について、異なる濃度の蛋白質安定剤、つまりカプリレートを有する本発明に係るキットを使用した透析中の、血液中のビリルビン濃度を示す。
【
図14】実施例9について、5-(ヒドロキシメチル)-2-フラルデヒド(HMF)の濃度を示す。HMFは糖の脱水から得られるため、グルコースの安定性を示す。(A)示されている異なる温度におけるグルコースを含むがカプリレートを含まない組成物の安定性。(B)示されている異なる温度におけるグルコースおよびカプリレートを含む組成物の安定性。
【実施例0185】
以下、本発明の種々の実施形態および態様を示す特定の実施例を提示する。しかし、本発明は本明細書に記載される特定の実施形態によって範囲が限定されるものではない。以下の調製および実施例は、当業者が本発明をより明確に理解し、実施できるようにするために与えられる。しかし、本発明は、例示された実施形態によって範囲が限定されない。例示された実施形態は、本発明の単一の態様の例示としてのみ意図され、機能的に等価である方法は本発明の範囲内にある。実際に、本明細書に記載されているものに加えて、本発明の種々の変形が前述の記述、添付図面および以下の実施例から当業者に容易に明らかになるであろう。そのような変形はすべて添付の特許請求の範囲に含まれる。
【0186】
実施例1:本発明の第1の態様に係る種々のキットの実施例
以下に、本発明の第1の態様に係る好ましい例示キットを記述する。以下のキットにおいて、例示キットの提供された組成物、特に酸性組成物(a)、アルカリ性組成物(b)、および所望により記載されるさらなる組成物は、輸送蛋白質含有マルチプルパス透析流体を提供および/または処理するために直接使用可能である。換言すると、本発明に係る方法では、例示キットの提供された組成物、特に酸性組成物(a)、アルカリ性組成物(b)、および所望により記載されるさらなる組成物は、直接添加される(希釈されない)。特に、輸送蛋白質含有マルチプルパス透析流体の再生および/または提供のためにさらなる組成物は必要とされない。
【0187】
キットA
生体適合性酸を含む酸性組成物(a)は、以下の成分を含む水溶液である。
HCl 185.0mmol/l
CaCl2 2H2O 3.2mmol/l
MgCl2 6H2O 1.4mmol/l
グルコース 300.0mg/dl
【0188】
生体適合性塩基を含むアルカリ性組成物(b)は、以下の成分を含む水溶液である。
NaOH 195.0mmol/l
Na2HPO4 2H2O 1.0mmol/l
KCl 6.0mmol/l
Na-カプリレート(C8H15O2Na) 300.0mg/dl
【0189】
キットB
生体適合性酸を含む酸性組成物(a)は、以下の成分を含む水溶液である。
HCl 110.0mmol/l
NaCl 110.0mmol/l
【0190】
生体適合性塩基を含むアルカリ性組成物(b)は、以下の成分を含む水溶液である。
NaOH 135.0mmol/l
Na2HPO4 2H2O 1.0mmol/l
KCl 6.0mmol/l
Na-カプリレート(C8H15O2Na) 5.0mmol/l
【0191】
キットC
生体適合性酸を含む酸性組成物(a)は、以下の成分を含む水溶液である。
HCl 110.0mmol/l
NaCl 90.0mmol/l
【0192】
生体適合性塩基を含むアルカリ性組成物(b)は、以下の成分を含む水溶液である。
NaOH 135.0mmol/l
Na2HPO4 2H2O 1.0mmol/l
KCl 6.0mmol/l
Na-カプリレート(C8H15O2Na) 1.25mmol/l
【0193】
キットD
生体適合性酸を含む酸性組成物(a)は、以下の成分を含む水溶液である。
HCl 164.0mmol/l
NaCl 12.0mmol/l
KCl 7.6mmol/l
Na2HPO4 2H2O 1.0mmol/l
MgCl2 6H2O 1.0mmol/l
CaCl2 2H2O 1.9mmol/l
【0194】
生体適合性塩基を含むアルカリ性組成物(b)は、以下の成分を含む水溶液である。
NaOH 160.0mmol/l
Na2CO3 54.0mmol/l
【0195】
好ましくは、キットDは、酸性組成物(a)およびアルカリ性組成物(b)に加えて、以下の成分を含む安定剤/電解質組成物(c7)を含む。
Na-カプリレート(C8H15O2Na) 240mmol/l
【0196】
より好ましくは、キットDは、酸性組成物(a)およびアルカリ性組成物(b)に加えて、以下の成分を含む安定剤/電解質/栄養素組成物(c11)を含む。
Na-カプリレート(C8H15O2Na) 240mmol/l
グルコース 40w/w%
【0197】
キットE
生体適合性酸を含む酸性組成物(a)は、以下の成分を含む水溶液である。
HCl 184.0mmol/l
KCl 7.6mmol/l
Na2HPO4 2H2O 1.0mmol/l
MgCl2 6H2O 1.0mmol/l
CaCl2 2H2O 2.88mmol/l
【0198】
生体適合性塩基を含むアルカリ性組成物(b)は、以下の成分を含む水溶液である。
NaOH 176.0mmol/l
Na2CO3 51.8mmol/l
【0199】
好ましくは、キットEは、酸性組成物(a)およびアルカリ性組成物(b)に加えて、以下の成分を含む安定剤/電解質組成物(c7)を含む。
Na-カプリレート(C8H15O2Na) 240mmol/l
【0200】
より好ましくは、キットEは、酸性組成物(a)およびアルカリ性組成物(b)に加えて、以下の成分を含む安定剤/電解質/栄養素組成物(c11)を含む。
Na-カプリレート(C8H15O2Na) 240mmol/l
グルコース 40w/w%
【0201】
キットF
生体適合性酸を含む酸性組成物(a)は、以下の成分を含む水溶液である。
HCl 164.0mmol/l
NaCl 12.0mmol/l
KCl 7.6mmol/l
Na2HPO4 2H2O 1.0mmol/l
MgCl2 6H2O 1.0mmol/l
CaCl2 2H2O 1.9mmol/l
【0202】
生体適合性塩基を含むアルカリ性組成物(b)は、以下の成分を含む水溶液である。
NaOH 160.0mmol/l
Na2CO3 54.0mmol/l
KOH 10.0mmol/l
【0203】
好ましくは、キットFは、酸性組成物(a)およびアルカリ性組成物(b)に加えて、以下の成分を含む安定剤/電解質組成物(c7)を含む。
Na-カプリレート(C8H15O2Na) 240mmol/l
【0204】
より好ましくは、キットFは、酸性組成物(a)およびアルカリ性組成物(b)に加えて、以下の成分を含む安定剤/電解質/栄養素組成物(c11)を含む。
Na-カプリレート(C8H15O2Na) 240mmol/l
グルコース 40w/w%
【0205】
キットG
生体適合性酸を含む酸性組成物(a)は、以下の成分を含む水溶液である。
HCl 164.0mmol/l
NaCl 12.0mmol/l
KCl 7.6mmol/l
Na2HPO4 2H2O 1.0mmol/l
MgCl2 6H2O 1.0mmol/l
【0206】
生体適合性塩基を含むアルカリ性組成物(b)は、以下の成分を含む水溶液である。
NaOH 160.0mmol/l
Na2CO3 54.0mmol/l
KOH 10.0mmol/l
【0207】
好ましくは、キットGは、酸性組成物(a)およびアルカリ性組成物(b)に加えて、以下の成分を含む安定剤/電解質組成物(c7)を含む。
Na-カプリレート(C8H15O2Na) 240mmol/l
【0208】
より好ましくは、キットGは、酸性組成物(a)およびアルカリ性組成物(b)に加えて、以下の成分を含む安定剤/電解質/栄養素組成物(c11)を含む。
Na-カプリレート(C8H15O2Na) 240mmol/l
グルコース 40w/w%
【0209】
キットH
生体適合性酸を含む酸性組成物(a)は、以下の成分を含む水溶液である。
HCl 184.0mmol/l
NaCl 6.0mmol/l
Na2HPO4 2H2O 1.0mmol/l
MgCl2 6H2O 1.0mmol/l
Na3シトレート 0.8mmol/l
CaCl2 2H2O 2.88mmol/l
【0210】
生体適合性塩基を含むアルカリ性組成物(b)は、以下の成分を含む水溶液である。
NaOH 168.4mmol/l
Na2CO3 51.8mmol/l
KOH 7.6mmol/l
【0211】
好ましくは、キットHは、酸性組成物(a)およびアルカリ性組成物(b)に加えて、以下の成分を含む安定剤/電解質組成物(c7)を含む。
Na-カプリレート(C8H15O2Na) 240mmol/l
【0212】
より好ましくは、キットHは、酸性組成物(a)およびアルカリ性組成物(b)に加えて、以下の成分を含む安定剤/電解質/栄養素組成物(c11)を含む。
Na-カプリレート(C8H15O2Na) 240mmol/l
グルコース 40w/w%
【0213】
上記のキットA~Hはそれぞれ、6.5~10、特に7.45~9のpHを有する輸送蛋白質含有マルチプルパス透析流体を得る/再生するために使用可能である。カルシウム、マグネシウムおよびビカーボネートを含まないキットBおよびCでさえも、6.35~11.4のpHを有する輸送蛋白質含有マルチプルパス透析流体を得る/再生するために使用可能である。
【0214】
比較例-キットI
生体適合性酸を含む酸性組成物(a)は、以下の成分を含む水溶液である。
HCl 100.0mmol/l
NaCl 12.0mmol/l
KCl 7.6mmol/l
Na2HPO4 2H2O 1.0 mmol/l
【0215】
生体適合性塩基を含むアルカリ性組成物(b)は、以下の成分を含む水溶液である。
NaOH 160.0 mmol/l
NaCl 68.0 mmol/l
【0216】
キットIは、主に酸性組成物(a)中の生体適合性酸の濃度対アルカリ性組成物(b)中の生体適合性塩基の濃度の比が、0.625であるのに対し、キットA~Hについてはその比が0.7~1.3の範囲である点でキットA~Hとは異なる。キットIにより得た/再生された輸送蛋白質含有マルチプルパス透析流体は10を超えるpHを有するのに対し、キットA~Hでは透析流体のpHは6.5~10、特に7.45~9の値に調節可能である。
【0217】
実施例2:輸送蛋白質含有マルチプルパス透析流体を再生する方法
図1は、例示透析システムの概略図を示し、これは好ましくは、本発明に係る輸送蛋白質含有マルチプルパス透析流体を再生する方法に使用される。透析システムは、参照することにより本明細書に組み込まれる国際公開第2009/071103号により詳細に記載されている。
【0218】
患者の血液は、血液ポンプ(22)を介して管類を通って輸送される。血液が患者に戻される前に、血液は半透膜を含む2つの透析器(8)を通る。当該透析器では、血液は半透膜によって透析流体から分離されている。希釈流体、すなわち、希釈前流体(5)および希釈後流体(6)は、所望により、希釈前ポンプ(21)および希釈後ポンプ(23)を介して患者の血液に添加できる。一般に、血流量は、通常透析の種類および期間に応じて50~2000ml/分である。好ましくは、血流量は150~600ml/分であり、より好ましくは250~400ml/分である。希釈前流量は、好ましくは1~10l/時、より好ましくは4~7l/時である。希釈後流量は、選択した血流量の5~30%が好ましく、より好ましくは15~20%である。
【0219】
透析流体は、透析流体リザーバ(7)からポンプ(16)を使用して、50~4000ml/分、好ましくは150~2000ml/分、より好ましくは500~1100ml/分、最も好ましくは約800ml/分の流量で透析器の透析流体区画へとポンピングされる。所望により希釈前流体および希釈後流体を添加した透析流体ならびに患者の容量負荷を軽減するために患者から採取した他の流体は、希釈前流体、希釈後流体および透析液の流量ならびに患者から取り除かれるべき流体の量に応じた流量でポンプ(24)を介して透析流体リザーバ(7)に戻される。
【0220】
一般に、透析流体は、追加の成分、例えば、安定剤、栄養素、緩衝液および/または電解質の添加ならびに濾過と組み合わせて、(i)pHおよび温度の操作、ならびに(ii)波、光、電場および/または磁場の照射によって光学的に、連続的または断続的に洗浄される。透析器(8)および透析流体リザーバ(7)を通過した後、例えば毒素を含有する輸送蛋白質含有マルチプルパス透析流体の流れは、第1の流れおよび第2の流れに分かれる。再生ポンプ(18、19)は、輸送蛋白質含有マルチプルパス透析流体の第1の流れと、輸送蛋白質含有マルチプルパス透析流体の第2の流れとを、管類を介して透析流体リザーバ(7)を行き来させる。「酸側」のポンプ(18)および「塩基側」のポンプ(19)は、透析流体を弁機構(25、26)を通して透析液再生回路(27)内に存在する2つのフィルタ(9、10)の一方へと下流に運ぶ。
【0221】
容器(1)で保管および/または混合される酸性組成物(a)は、ポンプ(17)を介して「酸側」で輸送蛋白質含有マルチプルパス透析流体の第1の流れに添加される。容器(2)で保管および/または混合されるアルカリ性組成物(b)は、ポンプ(20)を介して「塩基側」で輸送蛋白質含有マルチプルパス透析流体の第2の流れに添加される。酸性組成物(a)の添加およびアルカリ性組成物(b)の添加により、輸送蛋白質、例えばアルブミンから輸送蛋白質に結合した毒素が放出される。
【0222】
弁(25、26)により、(i)酸性組成物(a)を用いて処理された輸送蛋白質含有マルチプルパス透析流体の第1の流れがフィルタ(9)またはフィルタ(10)(弁25)のいずれかに向かって運ばれ、(ii)アルカリ性組成物(b)を用いて処理された輸送蛋白質含有マルチプルパス透析流体の第2の流れは、フィルタ(9)またはフィルタ(10)(弁26)のいずれかに向かって運ばれることが可能になる。弁(25、26)は、各フィルタ(9、10)が一度に一方のポンプ(18または19)から流体を受け取るように、例えば5分から1時間毎、好ましくは10分毎に流れの方向を変えてもよい。
【0223】
酸性組成物(a)で処理された輸送蛋白質含有マルチプルパス透析流体の第1の流れおよびアルカリ性組成物(b)で処理された輸送蛋白質含有マルチプルパス透析流体の第2の流れは、フィルタ(9、10)で濾過し、それによって毒素を取り除き、輸送蛋白質含有マルチプルパス透析流体を「洗浄」し、流体は2つの濾液ポンプ(13、14)を用いて各フィルタ(9、10)から取り除かれる。濾過後、酸性組成物(a)で処理された輸送蛋白質含有マルチプルパス透析流体の第1の流れは、アルカリ性組成物(b)で処理された輸送蛋白質含有マルチプルパス透析流体の第2の流れと再び一緒になり、それにより第1の流れおよび第2の流れが混合される。
【0224】
所望により、輸送蛋白質含有マルチプルパス透析流体の第1の流れおよび第2の流れが再び一緒になった後、安定剤組成物、栄養素組成物、緩衝剤組成物および/または電解質組成物がそこに添加される。例えば、安定剤組成物、栄養素組成物、緩衝剤組成物および/または電解質組成物は、容器(3、4)で保管および/または希釈され、1つまたは2つのポンプ(11、15)を介して輸送蛋白質含有マルチプルパス透析流体に添加され得る。より一般的には、安定剤組成物、栄養素組成物、緩衝組成物および/または電解質組成物は好ましくは、
図1に示す位置IからXのいずれかにて透析流体に添加可能である。
【0225】
実施例3:実施例2に記載の方法におけるキットHの試験
実施例1に記載のキットHを、透析流体の異なるpH値および流量で血液および透析流体中の解毒および電解質含有量を評価するために実施例2に記載の方法で試験した。
【0226】
この目的のために、ブタの血液および2つの透析デバイスLK2001(Hepa Wash GmbH、ミュンヘン、ドイツ)を使用して、合計6回の実験を行った。示されている値は、血液(または透析液)が透析器に入る直前に、それぞれ血液および透析液で測定されたものである。結果は、6回の実験データの平均として表す。
【0227】
さまざまなpH値および流量を評価するために、以下の表1に示す工程を実行した。
【0228】
【0229】
図2は、本研究で達成された解毒(血液中のビリルビンおよび尿素)を示す。
図2から読み取れるように、尿素濃度は20mmol/l超からほぼ0mmol/lに減少し(
図2B)、ビリルビン濃度はほぼ30mg/dlから約11mg/dlに減少する(
図2A)。
【0230】
図3は、透析流体(A)のpH値および血液(B)のpH値の変化を示す。各グラフの太い縦線は、上記実験中の工程の変化(すなわち、透析流体のpH値の実験的操作)を示す。
図3Bに示すように、適用される透析液のpHは9であり、透析流体の緩衝能が調整されているため、血液のpHは01:20から02:40まで、および04:00から終わりまでの間上昇する。血液中のアシドーシスをシミュレートするために、CO
2が血液に投与され、アシドーシスはpH9の透析液体で処理されるため、pH9の透析液が適用された。
【0231】
図4は、血液および透析流体中のナトリウム濃度の変化を示す。血液中のナトリウム濃度は、治療全体を通じて生理学的限界である125~142mmol/lである。pH9でナトリウム濃度の上昇が認められた。
【0232】
図5は、血液および透析流体中のカリウム濃度の変化を示す。血液中のカリウム濃度は、生理学的限界である3.4~4.5mmol/lである。pH7.45の透析液とpH9の透析液との間に顕著な変化はない。ブタの血液は通常、測定の最初に高濃度のカリウムを示すため、血液の最初のカリウム値はこの範囲の端にある。透析液の値も、0~5.0mmol/lの限度内にある。
【0233】
図6は、血液および透析流体中のマグネシウム濃度の変化を示す。血液中のマグネシウム濃度は、治療全体を通じて生理学的限界である0.5~1.3mmol/lである。透析液の値も、その限度内にある。
【0234】
図7は、血液および透析流体中のカルシウム濃度の変化を示す。血液中のカルシウム濃度は、治療全体を通じて生理学的限界である1.0~1.7mmol/lである。pH9の透析液は、カルシウム濃度の低下を引き起こす。透析液の値も、その限度内にある。
【0235】
図8は、血液および透析流体中のクロリド濃度の変化を示す。血液中のクロリド濃度は、治療全体を通じて生理学的限界である95~110mmol/lである。透析液の値も、その限度内にある。
【0236】
図9は、血液および透析流体中のホスフェート濃度の変化を示す。血液中のホスフェート濃度は、治療全体を通じて生理学的限界である0.5~2mmol/lである。透析液の値も、その限度内にある。
【0237】
総合すると、測定された電解質の血液中濃度はすべて生理学的限度内であり、血液の解毒が観察された。したがって、キットHは、透析流体の変動するpH値(7.45および9)および透析流体のさまざま流量において有用である。
【0238】
実施例4:血液中のカルシウム濃度に対する透析液のpHの影響
実施例3(
図7)に示すように、9の上昇した透析液pHは、血液のカルシウム濃度の低下を引き起こす。イオン化された蛋白質結合型および複合体様型のカルシウムが存在する。透析液のpH値が高いほど、透析流体のより多くの遊離カルシウムが、透析流体に含まれる輸送蛋白質、例えばアルブミンに結合する。透析流体中のイオン化カルシウムの濃度が低下すると、血液から透析液への遊離カルシウムの拡散が引き起こされ、これにより患者のカルシウム濃度が低下する。
【0239】
したがって、透析液のpH値が変動する治療にもかかわらず血液中の生理学的カルシウム濃度を保証するキットを提供するために、血液中のカルシウム濃度に対する透析液pHの影響がさらに調査された。
【0240】
この目的のために、ブタの血液および透析デバイスLK2001(Hepa Wash GmbH、ミュンヘン、ドイツ)を使用して実験を行った。この実験では、CaCl2の濃度のみが異なる次のキットを使用した。
【0241】
キット4A
生体適合性酸を含む酸性組成物(a)は、以下の成分を含む水溶液である。
HCl 164.0mmol/l
NaCl 12.0mmol/l
KCl 7.6mmol/l
Na2HPO4 2H2O 1.0mmol/l
MgCl2 6H2O 1.0mmol/l
CaCl2 2H2O 1.9mmol/l
pH 1.05
【0242】
生体適合性塩基を含むアルカリ性組成物(b)は、以下の成分を含む水溶液である。
NaOH 160.0mmol/l
Na2CO3 54.0mmol/l
pH 12.6
【0243】
キット4B
キット4Bでは、キット4Aとまったく同一の構成成分を使用したが、ただし、CaCl2の濃度は1.9mmol/lではなく2.06mmol/lであった。したがって、キット4Bは、CaCl2の濃度のみがキット4Aと異なっていた。
【0244】
キット4C
キット4Cでは、キット4Aとまったく同一の構成成分を使用したが、ただし、CaCl2の濃度は1.9mmol/lではなく2.2mmol/lであった。したがって、キット4Cは、CaCl2の濃度のみがキット4Aと異なっていた。
【0245】
キット4D
キット4Dでは、キット4Aとまったく同一の構成成分を使用したが、ただし、CaCl2の濃度は1.9mmol/lではなく2.32mmol/lであった。したがって、キット4Dは、CaCl2の濃度のみがキット4Aと異なっていた。
【0246】
キット4E
キット4Eでは、キット4Aとまったく同一の構成成分を使用したが、ただし、CaCl2の濃度は1.9mmol/lではなく2.48mmol/lであった。したがって、キット4Eは、CaCl2の濃度のみがキット4Aと異なっていた。
【0247】
キット4F
キット4Fでは、キット4Aとまったく同一の構成成分を使用したが、ただし、CaCl2の濃度は1.9mmol/lではなく2.72mmol/lであった。したがって、キット4Fは、CaCl2の濃度のみがキット4Aと異なっていた。
【0248】
キット4G
キット4Gでは、キット4Aとまったく同一の構成成分を使用したが、ただし、CaCl2の濃度は1.9mmol/lではなく2.88mmol/lであった。したがって、キット4Gは、CaCl2の濃度のみがキット4Aと異なっていた。
【0249】
これらキットの酸性組成物(a)およびアルカリ性組成物(b)は、輸送蛋白質含有マルチプルパス透析流体を直接処理するために使用された。
【0250】
好ましくは、上記キット4A~4Gのすべてにおいて、以下の成分:
Na-カプリレート(C8H15O2Na) 240mmol/l
グルコース 40w/w%
を含む安定剤/栄養素組成物(c5)が、酸性組成物(a)およびアルカリ性組成物(b)に加えて使用された。
【0251】
上記キットでは、カルシウムは酸性組成物(a)中で提供された。カルシウム供給源はCaCl2であった。カルシウム濃度が異なるさまざまな酸性組成物(a)が提供された。以下のカルシウム濃度を有する酸性組成物(a)が、上記のキットで提供された。
1.9mmol/l、2.06mmol/l、2.2mmol/l、2.32mmol/l、2.48mmol/l、2.72mmol/lおよび2.88mmol/l
【0252】
透析流体のpH値9でこれらの異なるカルシウム濃度を上記のキットで試験した。
【0253】
結果を
図10に示す。これらの結果は、血液中で1.0mmol/lを超えるイオン化カルシウムの値を得るには、少なくとも2.48mmol/lのカルシウム濃度が必要であったことを示す。血液中で約1.1mmol/lのカルシウム濃度を得るには、少なくとも2.88mmol/lのカルシウム濃度が必要であった。
【0254】
次の工程では、透析流体のpH7.45における最高カルシウム濃度(2.88mmol/l)の影響を評価した。そのような条件下で、1.7mmol/lのカルシウム濃度が血液中で観察された。血液中の生理学的カルシウム濃度は1.0~1.7mmol/lの範囲であるため、酸性組成物(a)が最高カルシウム濃度(2.88mmol/l)でも血液中では生理学的カルシウム濃度をもたらした。
【0255】
実施例5:本発明に係るキットを使用した血液からの銅の除去
血液から銅を除去する本発明に係るキットの能力を評価するために、ブタの血液および透析デバイスLK2001(Hepa Wash GmbH、ミュンヘン、ドイツ)を使用して実験を行った。この実験では、次の組成物を含むキットを使用した。
【0256】
生体適合性酸を含む酸性組成物(a)は、以下の成分を含む水溶液である。
HCl 164.0mmol/l
NaCl 12.0mmol/l
KCl 7.6mmol/l
Na2HPO4 2H2O 1.0mmol/l
MgCl2 6H2O 1.0mmol/l
CaCl2 2H2O 1.9mmol/l
pH 1.05
【0257】
生体適合性塩基を含むアルカリ性組成物(b)は、以下の成分を含む水溶液である。
NaOH 160.0mmol/l
Na2CO3 54.0mmol/l
pH 12.6
【0258】
より好ましくは、酸性組成物(a)およびアルカリ性組成物(b)に加えて、以下の成分を含む安定剤/栄養素組成物(c5)
Na-カプリレート(C8H15O2Na) 240 mmol/l
グルコース 40w/w%
【0259】
このキットの酸性組成物(a)およびアルカリ性組成物(b)は、輸送蛋白質含有マルチプルパス透析流体を直接処理するために使用された。
【0260】
ブタの血液を、実施例2に記載の透析デバイスLK2001(Hepa Wash GmbH、ミュンヘン、ドイツ)で2時間処理し、血液中の銅濃度を測定した。
【0261】
結果を
図11に示す。約40分で、銅濃度は124.20μmol/lから74.40μmol/lに減少した。換言すると、透析中に銅の40%超が除去された。
【0262】
実施例6:アルブミンの安定性に対する異なる蛋白質安定剤の影響
実施例2に記載の方法でアルブミンの安定性に対する異なる蛋白質安定剤の影響を評価するために、「中和領域」のシミュレーションモデルが開発された。本明細書で使用する場合、用語「中和領域」とは、酸性組成物(a)で処理された輸送蛋白質含有マルチプルパス透析流体の第1の流れとアルカリ性組成物(b)で処理された輸送蛋白質含有マルチプルパス透析流体の第2の流れとの混合が、実施例2に記載のようにそれらの分離後に起こる、透析装置の領域を意味する。
図1に示す例示透析システムの概略図では、中和領域は「VIII」として参照される。実施例2の方法では、中和領域は、輸送蛋白質、例えばアルブミンが特に分解されやすい領域である。
【0263】
透析流体(透析液)の調製
このシミュレーションモデルでアルブミンの安定性を試験するために、透析液の溶液は各実験の開始前に新たに調製した。透析液は、例えば
図12に示すように、大型キャニスタ(33)で調製してもよい。透析液を調製するために、次の酸性組成物(a)およびアルカリ性組成物(b)を使用した。
【0264】
生体適合性酸を含む酸性組成物(a)は、以下の成分を含む水溶液である。
HCl 164.0mmol/l
NaCl 12.0mmol/l
KCl 7.6mmol/l
Na2HPO4 2H2O 1.0mmol/l
MgCl2 6H2O 1.0mmol/l
CaCl2 2H2O 1.9mmol/l
pH 1.05
【0265】
生体適合性塩基を含むアルカリ性組成物(b)は、以下の成分を含む水溶液である。
NaOH 160.0mmol/l
Na2CO3 54.0mmol/l
pH 12.6
【0266】
透析液を調製するために、酸性組成物(a)とアルカリ性組成物(b)とを混合し、(浸透)水を添加して表2に示す濃度を得た。
【0267】
使用した透析流体は7.45のpHを有し、以下の表2に示す成分を含んでいた。
【0268】
【0269】
電解質の濃度は、人体の生理学的値と同程度になるように、また流体にて一定の状態を得るように制御された。
【0270】
図12に示すように、表2に示す透析液は、いくつかの小さなキャニスタ(34)に充填した。各キャニスタ(34)には、表3に示すように異なる種類および/または濃度の安定剤を添加し、混合した。したがって、各キャニスタ(34)には同じ透析液(表2に記載)が入っていたが、表3に示すように安定剤の種類および/または安定剤の濃度が異なっていた。
【0271】
実験01~24
実験01~24はすべて、以下の安定化試験の詳細な説明に従って実行した。使用した溶液および試験工程はすべての実験で同じだったが、表3に従って異なる安定剤を含む安定剤組成物(c1)のみが異なっていた。表3に示す安定剤濃度はそれぞれ、各キャニスタ(34)内の透析液の各安定剤の濃度である。
【0272】
実験01~23では、さまざまな安定剤を試験した。実験24では、安定剤は添加されなかった(対照実験)。実験はすべて、表3に示すように使用した安定剤のみが異なっていた。
【0273】
【0274】
要約すれば、実験01~24では安定剤組成物(c1)のみが異なっていた。
【0275】
実験手順および測定機器
1)温度およびpH値は、pHセンサタイプInPro 3250を備えたpHメータM700C(Mettler Toledo Company、Urdorf、スイス)を用いて測定した。
【0276】
2)Hach Model 2100P ISOポータブル濁度計(HACH、デュッセルドルフ、ドイツ)を使用して、アルブミンの濁度を測定した。濁度計の概要を以下で説明する。
- 濁度
濁度は、水サンプル中の粒子状物質の総量を監視するための代用物として長年使用されていた。これは、水質の基本的な評価を行うために使用されるパラメータの1つである。現在の安定化試験では、濁度測定は、透析液の変性を判定するために使用されている。濁度は、懸濁物質および一部の溶解物質の透明度の低下として定義できる。懸濁物質および一部の溶解物質により、入射光が直線状に透過するのではなく、散乱、反射および減衰される。散乱光または減衰光の強度が高いほど、濁度の値は高くなる。
- 特性
濁度は比濁計濁度単位(NTU)で表すことができる。使用する方法に応じて、NTUとしての濁度単位は、懸濁粒子によって散乱もしくは減衰された、または合成化学的に調製した標準物質と比較した入射光の経路から方法によって指定した角度、通常は90°で吸着された、特定の波長における光の強度として定義できる。
濁度の測定値は、特定の粒子数または粒子形状に直接関係していない。その結果、濁度は歴史的には定性的測定とみなされている。現在、NTU単位は、すべての濁度測定に使用されており、報告された値には使用されている機器技術に対するトレーサビリティがまったくない。最後に、単位は、測定単位に対してNTU(白色光、90°検出のみ)、FNU(ホルマジン比濁計単位、90°検出を用いた860nm光)、またはFAU(ホルマジン減衰単位、検出角度は入射光線の180°である)のレベルまでリストすべきである。
濁度値は、濁度の定性的現象の定量的な記述である。濁度を測定する目的は、媒質中の散乱粒子の濃度(固体の濃度)に関する情報を取得することである。これは、基本的に異なる2つの方法、すなわち、透過ビームの光損失(散乱係数)の決定または横方向に散乱した光の強度の決定のうちの一方を用いて行うことができる。
濁度値の実用的な解釈は、標準的な懸濁液との比較によって行われ、すなわち、濁度計は参照溶液(ホルマジン)を用いて較正される。ホルマジンを用いて較正された機器は、どのホルマジン濃度も正しく測定する。他の濁った媒体に関しては、濁度値と固体濃度との直接的な相関関係を特定することはできないが、これは指示値が、媒体に対する粒子の粒径と屈折率とによっても影響を受けるためである。
異なる機器によって生成された指示値を比較する試みは、それらが光の波長、散乱角、光学的配置、較正および色調補正に関して同じ特性を有する場合にのみ許される。これらの実験プロセスでの連続測定では、高い安定性が必要となるため、適用される測定技術(光度計)も非常に重要である。
比率光学システムは、LEDランプ、散乱光を監視する90°検出器および透過光検出器を備える。マイクロプロセッサは、90°および透過光検出器からの信号の比率を計算する。この比法は、色および/または光吸収材料(活性炭等)による干渉を補正し、ランプ強度のゆらぎを補うことで長期的な較正安定性を提供する。光学設計によってさらに迷光が最小限に抑えられ、測定精度が向上する。
【0277】
3)Vitros 250 Chemistry System
- Vitros 250 Chemistry System(Johnson and Johnson、Neckargemuend、ドイツ)を使用した実験中に、アルブミンおよび他の電解質の濃度を測定した。
- Vitros 250 Chemistry Systemは、ヒトの体液試料中の分析濃度の個別の定量的測定に使用される自動臨床化学システムである。Vitros 250 Systemのスループットは、1時間あたり最大250件である。方法論としては、多層Vitros Chemistry Slidesを使用した比色、電位差、免疫速度(immuno-rate)および速度試験が含まれる。
- スライドは、試験の種類毎に指定されたカートリッジにパッケージされている。カートリッジは18枚または50枚のスライドを収容している。分析器は各スライドを1回使用し、スライドは使用後に破棄される。サンプル処理の前にカートリッジをロードし、システムを較正し、サンプルをプログラムした。
- これらのスライド特有の性質により、液体試薬化学物質を保管、混合および廃棄する必要がなくなり、非常に少量のサンプルで信頼性の高い分析が可能となる。
- 1回の試験結果には、試験の種類に応じて約2~8分かかる。
【0278】
安定化試験
既に述べたように、「中和領域」のシミュレーションモデルは、実施例2で記載した方法でアルブミン(透析液)の変性を評価し、異なる蛋白質安定剤の効果を比較するために確立された。
【0279】
図12は、安定化試験の概略を提供しており、これは次の工程を含む:
工程I):HSA、電解質および上記のような他の望ましい化学物質(例えば、表2)を含む溶液をキャニスタ(33)に充填し、キャニスタを40℃に保つ。この溶液は、透析流体/透析溶液を表す。
工程II):その後、透析流体を小さなキャニスタに充填する(34)。各キャニスタ(34)に異なる安定剤を添加した。次いで、アルカリ性組成物(31;例えば、後述の3Mの水酸化ナトリウム)を透析液キャニスタ(34)に加え、透析マシンのアルカリ性レベルをシミュレートした。
工程III):可変時間後、酸性組成物(32;例えば後述の0.5Mの塩酸)を透析液キャニスタ(34)に加え、透析マシンの酸性レベルをシミュレートした。
工程IV):サンプルの濁度をHACH 2100Pポータブル濁度計で測定した。
【0280】
詳細な説明:
I)酸性組成物(a)、アルカリ性組成物(b)、ならびに当業者に公知でありかつ文献に記載されている必要な溶液および化学物質を混合することにより、5%ヒト血清アルブミン(HSA)からアルブミンを含む透析流体を調製した。溶質と緩衝液の混合物は、最終HSA濃度が30mg/ml(0.0454mmol/L)になるように調製し、その後、1Lのガラスキャニスタ(33)に充填し、磁気撹拌機で10分間連続的に混合し、すべての化学物質を透析液中に溶解させた。アルブミンの濃度は、Vitros 250 Chemistry Systemを使用して実験の開始前に測定した。次に、80mlの各サンプルについて、透析液は10個の小さなグラス(34)内で分離させた(透析液の変性時間を決定するための同一実験)。
次に、サンプルを20分後に水浴に置いた。これを利用して、透析液の温度を40±0.3℃の範囲に維持した。透析液のpHおよび温度を監視および制御するために、温度センサが内蔵されたpH電極を透析液キャニスタに挿入した。
II)サンプルが望ましい温度である40℃に達したら、水酸化ナトリウム(31)3Mを透析液に添加して、11.6の望ましいpHを得た。添加したアルカリ量を記録した。
III)アルカリとのさまざまな混合時間(5、10、15分間等)後、塩酸(32)0.5Mを透析液に添加してpH3を得た。添加した酸の量も記録した。
IV)次に、サンプル(34)中のNa、Cl、Ca、Mgおよび総蛋白質の濃度をVitros 250 Chemistry Systemを使用して求めた。その後、濃度の結果を通常の生理学的範囲と比較した。次に、サンプルの濁度をHACH 2100Pポータブル濁度計で測定した。測定した濁度からHSAの変性の程度を推定した。安定化試験の目的は、アルカリを添加した後の変性時間を遅らせることであった。
【0281】
結果:
さらなる安定剤を添加しない対照実験24では、アルブミンは9.9分間±1.3分間以内に透析流体中で変性した。安定剤を添加しない場合、濁度が50%上昇するまでの時間は20.3±1.9分間であった。
【0282】
アルギニン、ベタイン、デキストラン、ソルビトール、グルコネート、サルフェート、または脂肪酸であるヘプタン酸、ヘキサン酸、カプリン酸、カプリル酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、アラキドン酸、エイコサペンタエン酸、またはドコサヘキサエン酸のいずれかの添加により、安定剤を添加しない透析流体と比較して、11.2~22.5%の範囲で変性時間の改善(すなわち延長)がもたらされた。
【0283】
デオキシコール酸は、変性時間を27±2.1分間へと顕著に増加させた。デオキシコール酸は天然物質であり、血液からアルブミン含有透析流体に移動する。
【0284】
カプリレート10mmol/l、5mmol/l、2.5mmol/lおよび1.25mmol/lの添加により、安定剤を添加しないか、または上記安定剤を添加した透析流体と比較して、変性時間のさらに顕著な改善(すなわち延長)がもたらされた。すなわち、カプリレートは変性時間を30.56±6.07分間に増加させた。
【0285】
実施例7:アルブミンの機能性に対する異なる蛋白質安定剤の効果
透析流体中のアルブミンの安定性に対するさまざまな安定剤の影響(変性時間)を評価する上記実施例に加えて、本実施例は、アルブミンの機能性に対する異なる安定剤の効果について記述する。この目的のために、実施例2に記載の方法(ビリルビン除去については実施例3、
図2Aを参照)ならびに実施例6に記載の透析流体、酸性組成物(a)およびアルカリ性組成物(b)を使用した。血液中のビリルビン濃度は510μmol/lであり、ブタの血液はLK2001(Hepa Wash GmbH、ミュンヘン、ドイツ)で1時間処理した。
【0286】
本実施例では、安定剤のいずれかが、アルブミン含有透析流体に添加された場合、ビリルビン除去に対してさらなる効果を示すかどうかが試験された。この目的のために、表4に示す安定剤をそれぞれ本実験で個別に試験した。透析液中の安定剤の異なる濃度を表4に示す。
【0287】
以下の表4はその結果(%単位での血液からのビリルビン除去)を示す。対照実験のために、アルブミン溶液からすべての安定剤が除去され、処理中にさらなる安定剤は追加しなかった。
【0288】
【0289】
したがって、試験した全濃度においてカプリレートを用いた場合およびアセチルトリプトファンを用いた場合に最良の結果が得られた。しかし、トリプトファンおよびアセチルトリプトファンは溶液中で安定していない。
【0290】
試験した脂肪酸はすべてビリルビンの解毒を改善し、他の部類の安定剤よりも優れている。最大の効果は、10mmol/l濃度のカプリレートの添加による84%の減少であった。
【0291】
実施例8:輸送蛋白質の安定性に対する異なる濃度のカプリレートの影響
輸送蛋白質、例えばアルブミンの安定性に対する異なる濃度のカプリレートを含む本発明に係るキットの能力を評価するために、異なる濃度のカプリレートを含む本発明に係るキットを使用して血液からのビリルビンの除去を試験した。ブタの血液および透析デバイスLK2001(Hepa Wash GmbH、ミュンヘン、ドイツ)を使用して実験を行った。この実験では、次の組成物を含むキットを使用した:
【0292】
生体適合性酸を含む酸性組成物(a)は、以下の成分を含む水溶液である。
HCl 164.0mmol/l
NaCl 12.0mmol/l
KCl 7.6mmol/l
Na2HPO4 2H2O 1.0mmol/l
MgCl2 6H2O 1.0mmol/l
CaCl2 2H2O 2.8mmol/l
pH 1.05
【0293】
生体適合性塩基を含むアルカリ性組成物(b)は、以下の成分を含む水溶液である。
NaOH 160.0mmol/l
Na2CO3 54.0mmol/l
pH 12.6
【0294】
キットの酸性組成物(a)およびアルカリ性組成物(b)は、輸送蛋白質含有マルチプルパス透析流体を直接処理するために使用された。
【0295】
酸性組成物(a)およびアルカリ性組成物(b)に加えて、以下の成分を含む安定剤/栄養素組成物(c5)
Na-カプリレート(C8H15O2Na) 0-240mmol/l
グルコース 40w/w%
【0296】
同一の酸性組成物(a)およびアルカリ性組成物(b)をすべてのキットで使用した。これらのキットは、NA-カプリレート(C8H15O2Na)の濃度のみが異なっていた。表5は、使用したカプリレート(C8H15O2Na)の濃度を示す。
【0297】
【0298】
各キット/実験について、ブタの血液を、実施例2に記載の透析デバイスLK2001(Hepa Wash GmbH、ミュンヘン、ドイツ)で4時間処理し、血液中のビリルビン濃度を測定した。
【0299】
結果を
図13に示す。
図13から読み取れるように、透析液に添加されたカプリレートの濃度が高いほど、より多くのビリルビンが除去される。これらの結果は、カプリレートの濃度が高くなるとアルブミンの安定性が高まることを示す。
【0300】
実施例9:カプリレートを含むかまたは含まない溶液中のグルコースの安定性
同じ組成物中に存在する場合、糖、例えばグルコースの安定性に対するカプリレート等の蛋白質安定剤の影響を評価するために、HMF(5-(ヒドロキシメチル)-2-フラルデヒド)濃度を評価した。HMFは、特定の糖の脱水に由来する有機化合物である。したがって、HMF濃度は糖の安定性を示しており、HMFが多ければ多いほど糖の安定性は低下する。
【0301】
このために、428mmol/lのC8H15NaO2および2220mmol/lのD-グルコースを含む安定剤/栄養素組成物(c5)と、2220mmol/lのD-グルコースを含むがカプリレートを含まない栄養素組成物(c2)を異なる温度に曝露し、HMF濃度を評価した。
【0302】
結果を
図14に示す。
図14から読み取れるように、カプリレート等を含む安定剤/栄養素組成物(c5)(
図14B)中のD-グルコースは、栄養素組成物(c2)(
図14A)中のD-グルコース単独よりも安定する。5-(ヒドロキシメチル)-2-フラルデヒド(HMF)は、D-フルクトースの脱水生成物である。したがって、HMFの濃度が高くなればなるほど、組成物中のグルコースの安定性は低下する。一般に、
図14は、高温であるほどHMF濃度が上昇することを示す。
図14Aに示す安定剤を含まない組成物は、
図14Bに示す安定剤を含む組成物と比較して、どんな保管温度でもHMFがかなり多いことを示す。したがって、安定剤を組成物に添加することにより、グルコースの安定性が改善する。