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特開2022-107042ポリヌクレオチドを網膜錐体に硝子体内送達するための組成物及び方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022107042
(43)【公開日】2022-07-20
(54)【発明の名称】ポリヌクレオチドを網膜錐体に硝子体内送達するための組成物及び方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/7088 20060101AFI20220712BHJP
   A61K 35/76 20150101ALI20220712BHJP
   A61P 27/02 20060101ALI20220712BHJP
   A61K 48/00 20060101ALI20220712BHJP
   C12N 15/864 20060101ALI20220712BHJP
   C12P 21/02 20060101ALI20220712BHJP
   C12Q 1/02 20060101ALI20220712BHJP
   C07K 14/015 20060101ALN20220712BHJP
   C07K 7/06 20060101ALN20220712BHJP
【FI】
A61K31/7088 ZNA
A61K35/76
A61P27/02
A61K48/00
C12N15/864 100Z
C12P21/02 C
C12Q1/02
C07K14/015
C07K7/06
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2022082310
(22)【出願日】2022-05-19
(62)【分割の表示】P 2017546102の分割
【原出願日】2016-03-02
(31)【優先権主張番号】62/127,194
(32)【優先日】2015-03-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】62/134,466
(32)【優先日】2015-03-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TRITON
(71)【出願人】
【識別番号】516279086
【氏名又は名称】アドヴェラム バイオテクノロジーズ, インコーポレイテッド
(71)【出願人】
【識別番号】514104933
【氏名又は名称】ユニヴァーシティ オブ ワシントン
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 夏樹
(72)【発明者】
【氏名】トーマス ダブリュー. チャルベルク
(72)【発明者】
【氏名】ジェイ ナイツ
(72)【発明者】
【氏名】モーリーン ナイツ
(57)【要約】
【課題】ポリヌクレオチドを錐体光受容体に硝子体内送達するための方法及び組成物を提供すること。
【解決手段】本方法の態様は、眼の硝子体に、目的となるポリヌクレオチドを含む組み換えアデノ随伴ウイルスを注射することを含む。これらの方法及び組成物は、錐体機能障害及び/または錐体細胞死滅に関連する眼球障害を治療する上で、特定の用途を見出す。本願発明は、目的となるポリヌクレオチドを、対象における錐体光受容体に送達するための方法であって、眼の硝子体に、前記目的となるポリヌクレオチドを含む有効量の組み換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)バリアントを送達することを含む、方法を提供する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
図面に記載の発明。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2015年3月2日に出願された米国特許仮出願第62/127,194号、及び2015年3月17日に出願された米国特許仮出願第62/134,466号に対する優先権を主張し、これらのそれぞれの全体が参照によって本明細書に組み込まれる。
【0002】
配列表に関する陳述
本出願に関連する配列表は、紙の複製物の代わりにテキスト形式で提供され、これにより参照によって本明細書に組み込まれる。配列表を含むテキストファイルの名称は、AVBI_006_02WO_ST25.txtである。テキストファイルは74KBであり、2016年3月1日に作成され、EFS-Webを介して電子提出されている。
【0003】
本発明は、網膜障害のウイルスベースの遺伝子治療法に関する。
【背景技術】
【0004】
光受容体は、光を検出し、その光信号を電気信号に変換することができる、網膜に見出される特殊化された種類のニューロンである。網膜には2つの種類の光受容体、つまり光に対してより感受性であり、それ故に薄暗い照明下で視力を支持する杆体光受容体と、特定の波長の光に対して感受性であり、それ故に色覚を支持し、かつ杆体よりも刺激に対して速く応答するため、杆体よりも微細な画像の詳細及び急速な画像の変化を知覚し、それ故に高い視力を支持する錐体光受容体とが存在する。
【0005】
いくつかの視力障害が、錐体光受容体の生存能または機能の喪失に関連付けられ、これには、例えば、錐体内の異常に関連付けられるもの、すなわち、錐体内因性異常(シュタルガルト黄斑ジストロフィー、錐体ジストロフィー、錐体杆体ジストロフィー、脊髄小脳失調症7型、及びバルデ・ビードル症候群-1など)、ならびに色覚障害(色覚異常、青錐体一色覚、ならびに第1色覚異常、第2色覚異常、及び第3色覚異常を含む);及び中央黄斑を冒す網膜障害に関連付けられるもの(加齢性黄斑変性、黄斑毛細血管拡張症、網膜色素変性、糖尿病網膜症、網膜静脈閉塞症、緑内障、ソースビー眼底ジストロフィー、成人卵黄様黄斑ジストロフィー、ベスト病、及びX連鎖性網膜分離症など)が含まれる。錐体光受容体によって発現されるときに欠損を補完し、錐体細胞生存能及び/または機能を「救出」する治療遺伝子を錐体光受容体に送達することによって、これらの錐体細胞障害を治療し得ることが期待される。
【0006】
最高密度の錐体光受容体は、網膜黄斑の中央に位置する1.5mmの窪みに存在する。「網膜中心窩」または「中心窩」と呼ばれるこの領域は、ヒトにおいて視覚的詳細が最重要である活動(読書及び運転など)のために必要である、鋭い中心視力(中心窩視力とも呼ばれる)に対して役割を担う。網膜中心窩は、2つの下位領域、つまり窩の中央にある直径0.35mmの杆体を含まない網膜の領域である小窩と、小窩を囲み、窩の勾配を形成する直径1.5mmの錐体に富化した網膜の領域である中心窩とからなる。網膜中心窩を囲むのは、窪みの縁を形成し、網膜の全細胞で構成される傍中心窩であり、錐体光受容体は、網膜中心窩と比較して低減した数で表される。傍中心窩を超えて存在するのは、更により減少した密度の錐体を含有する網膜の領域である周中心窩である。中心窩の錐体細胞は、網膜内の大多数の錐体光受容体を構成するため、これらの細胞は、錐体関連障害を治療するために送達される治療遺伝子の理想的な標的レシピエントである(Oster1935)。
【0007】
アデノ随伴ウイルス(AAV)またはレンチウイルスなどのウイルスベクターを用いることによって、遺伝子を網膜細胞に送達する上でのいくらかの成功が達成されている。しかしながら、これらのベクターは網膜下注射によって投与されなくてはならず、これは、網膜の構造を破壊し、治療されている障害によってしばしば既に損傷されている網膜組織に更なる損傷を作り出す危険性を伴う処置である。1つの代替案は、網膜にウイルスベクターを硝子体内送達すること(すなわち、眼の硝子体にベクターを注射して、ベクターが網膜を透過して網膜細胞に形質導入することを期待することによって)である。しかしながら、当該技術分野によって実証されるように、中心窩錐体細胞は、網膜に硝子体内送達されるウイルスベクターによる形質導入に対して抵抗性であることで悪名高い。
【0008】
したがって、当該技術分野において、眼の硝子体から送達されるときに高い効率をもって錐体細胞に形質導入するウイルスベクターに対する必要性が存在する。本発明は、これらの問題に対処する。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0009】
ポリヌクレオチドを錐体光受容体に硝子体内送達するための方法及び組成物が提供される。本方法の態様は、眼の硝子体に、目的となるポリヌクレオチドを含む組み換えアデノ随伴ウイルスを注射することを含む。これらの方法及び組成物は、錐体機能障害及び/または錐体細胞死滅に関連する眼球障害を治療する上で、特定の用途を見出す。
本発明は、例えば以下の項目を提供する。
(項目1)
目的となるポリヌクレオチドを、対象における錐体光受容体に送達するための方法であって、
眼の硝子体に、前記目的となるポリヌクレオチドを含む有効量の組み換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)バリアントを送達することを含む、方法。
(項目2)
前記rAAVバリアントが、親AAVカプシドタンパク質のGHループ中にアミノ酸ペプチドの挿入を含むバリアントAAVカプシドタンパク質を含む、項目1に記載の方法。
(項目3)
前記親カプシドタンパク質の前記GHループが、AAV1 VP1(配列番号1)のアミノ酸571~612、AAV2 VP1(配列番号2)のアミノ酸約570~611、AAV3 VP1(配列番号3)のアミノ酸約571~612、AAV4 VP1(配列番号4)のアミノ酸約569~610、AAV5 VP1(配列番号5)のアミノ酸約560~601、AAV6 VP1(配列番号6)のアミノ酸約571~612、AAV7
VP1(配列番号7)のアミノ酸約572~613、AAV8 VP1(配列番号8)のアミノ酸約573~614、AAV9 VP1(配列番号9)のアミノ酸約571~612、AAV10 VP1(配列番号10)のアミノ酸約573~614、またはこれらのバリアントの対応するアミノ酸範囲から本質的になる、項目2に記載の方法。
(項目4)
前記親カプシドが、AAV2 VP1であり、前記挿入部位が、AAV2 VP1のアミノ酸580と581との間、アミノ酸581と582との間、アミノ酸582と583との間、アミノ酸583と584との間、アミノ酸584と585との間、アミノ酸585と586との間、アミノ酸586と587との間、アミノ酸587と588との間、アミノ酸588と589との間、アミノ酸589と590との間、アミノ酸590と591との間、アミノ酸591と592との間、アミノ酸592と593との間、アミノ酸593と594との間、またはアミノ酸594と595との間である、項目2に記載の方法。(項目5)
前記ペプチドが、下記式、

のものであり、式中、
存在する場合、Y1~Y4のそれぞれが独立して、Ala、Leu、Gly、Ser、及びThrから選択され、
存在する場合、X1が、Leu、Asn、及びLysから選択され、
X2が、Gly、Glu、Ala、及びAspから選択され、
X3が、Glu、Thr、Gly、及びProから選択され、
X4が、Thr、Ile、Gln、及びLysから選択され、
X5が、Thr及びAlaから選択され、
X6が、Arg、Asn、及びThrから選択され、
存在する場合、X7が、Pro及びAsnから選択される、項目2に記載の方法。
(項目6)
前記ペプチドが、アミノ酸配列LGETTRP(配列番号11)を含む、項目5に記載の方法。
(項目7)
前記錐体光受容体が、中心窩錐体である、項目1に記載の方法。
(項目8)
前記対象が、霊長動物である、項目1に記載の方法。
(項目9)
対象における錐体光受容体中で遺伝子産物を発現させるための方法であって、
眼の硝子体に、前記遺伝子産物をコードするポリヌクレオチドを含む有効量の組み換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)バリアントを送達することを含む、方法。
(項目10)
前記rAAVバリアントが、親AAVカプシドタンパク質のGHループ中にアミノ酸ペプチドの挿入を含むバリアントAAVカプシドタンパク質を含む、項目9に記載の方法。
(項目11)
前記親カプシドタンパク質の前記GHループが、AAV1 VP1(配列番号1)のアミノ酸571~612、AAV2 VP1(配列番号2)のアミノ酸約570~611、AAV3 VP1(配列番号3)のアミノ酸約571~612、AAV4 VP1(配列番号4)のアミノ酸約569~610、AAV5 VP1(配列番号5)のアミノ酸約560~601、AAV6 VP1(配列番号6)のアミノ酸約571~612、AAV7 VP1(配列番号7)のアミノ酸約572~613、AAV8 VP1(配列番号8)のアミノ酸約573~614、AAV9 VP1(配列番号9)のアミノ酸約571~612、AAV10 VP1(配列番号10)のアミノ酸約573~614、またはこれらのバリアントの対応するアミノ酸範囲から本質的になる、項目10に記載の方法。
(項目12)
前記親カプシドが、AAV2 VP1であり、前記挿入部位が、AAV2 VP1のアミノ酸580と581との間、アミノ酸581と582との間、アミノ酸582と583との間、アミノ酸583と584との間、アミノ酸584と585との間、アミノ酸585と586との間、アミノ酸586と587との間、アミノ酸587と588との間、アミノ酸588と589との間、アミノ酸589と590との間、アミノ酸590と591との間、アミノ酸591と592との間、アミノ酸592と593との間、アミノ酸593と594との間、またはアミノ酸594と595との間である、項目10に記載の方法。
(項目13)
前記ペプチドが、下記式、

のものであり、式中、
存在する場合、Y1~Y4のそれぞれが独立して、Ala、Leu、Gly、Ser、及びThrから選択され、
存在する場合、X1が、Leu、Asn、及びLysから選択され、
X2が、Gly、Glu、Ala、及びAspから選択され、
X3が、Glu、Thr、Gly、及びProから選択され、
X4が、Thr、Ile、Gln、及びLysから選択され、
X5が、Thr及びAlaから選択され、
X6が、Arg、Asn、及びThrから選択され、
存在する場合、X7が、Pro及びAsnから選択される、項目10に記載の方法。
(項目14)
前記ペプチドが、前記アミノ酸配列LGETTRP(配列番号11)を含む、項目13に記載の方法。
(項目15)
前記ポリヌクレオチドが、MNTCプロモーターに作動可能に連結される、項目9に記載の方法。
(項目16)
前記方法が、前記錐体光受容体中の前記ポリヌクレオチドの前記発現を検出することを更に含む、項目9に記載の方法。
(項目17)
前記錐体光受容体が、中心窩錐体である、項目9に記載の方法。
(項目18)
前記対象が、霊長動物である、項目9に記載の方法。
(項目19)
錐体関連網膜障害を有するか、またはそれを発症する危険性がある対象において、錐体関連網膜障害を治療または予防するための方法であって、
前記錐体関連網膜障害を治療または予防するのに有効な量の治療ポリヌクレオチドを含む組み換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)バリアントを硝子体内投与することを含む、方法。
(項目20)
前記rAAVバリアントが、親AAVカプシドタンパク質のGHループ中にアミノ酸ペプチドの挿入を含むバリアントAAVカプシドタンパク質を含む、項目19に記載の方法。
(項目21)
前記親カプシドタンパク質の前記GHループが、AAV1 VP1(配列番号1)のアミノ酸571~612、AAV2 VP1(配列番号2)のアミノ酸約570~611、AAV3 VP1(配列番号3)のアミノ酸約571~612、AAV4 VP1(配列番号4)のアミノ酸約569~610、AAV5 VP1(配列番号5)のアミノ酸約560~601、AAV6 VP1(配列番号6)のアミノ酸約571~612、AAV7
VP1(配列番号7)のアミノ酸約572~613、AAV8 VP1(配列番号8)のアミノ酸約573~614、AAV9 VP1(配列番号9)のアミノ酸約571~612、AAV10 VP1(配列番号10)のアミノ酸約573~614、またはこれらのバリアントの対応するアミノ酸範囲から本質的になる、項目20に記載の方法。
(項目22)
前記親カプシドが、AAV2 VP1であり、前記挿入部位が、AAV2 VP1のアミノ酸580と581との間、アミノ酸581と582との間、アミノ酸582と583との間、アミノ酸583と584との間、アミノ酸584と585との間、アミノ酸585と586との間、アミノ酸586と587との間、アミノ酸587と588との間、アミノ酸588と589との間、アミノ酸589と590との間、アミノ酸590と591との間、アミノ酸591と592との間、アミノ酸592と593との間、アミノ酸593と594との間、またはアミノ酸594と595との間である、項目20に記載の方法。
(項目23)
前記ペプチドが、下記式、

のものであり、式中、
存在する場合、Y1~Y4のそれぞれが独立して、Ala、Leu、Gly、Ser、及びThrから選択され、
存在する場合、X1が、Leu、Asn、及びLysから選択され、
X2が、Gly、Glu、Ala、及びAspから選択され、
X3が、Glu、Thr、Gly、及びProから選択され、
X4が、Thr、Ile、Gln、及びLysから選択され、
X5が、Thr及びAlaから選択され、
X6が、Arg、Asn、及びThrから選択され、
存在する場合、X7が、Pro及びAsnから選択される、項目20に記載の方法。
(項目24)
前記ペプチドが、アミノ酸配列LGETTRP(配列番号11)を含む、項目20に記載の方法。
(項目25)
前記網膜障害が、錐体関連障害である、項目19に記載の方法。
(項目26)
前記錐体関連障害が、杆体錐体ジストロフィー;錐体杆体ジストロフィー;進行性錐体ジストロフィー;網膜色素変性(RP);シュタルガルト病;黄斑毛細血管拡張症、レーベル遺伝性視神経症、ベスト病;成人卵黄様黄斑ジストロフィー、X連鎖性網膜分離症;色覚障害;加齢性黄斑変性;滲出型加齢性黄斑変性;地図状萎縮;糖尿病網膜症;網膜静脈閉塞症;網膜虚血;家族性滲出性硝子体網膜症(FEVR);コーツ病;及びソースビー眼底ジストロフィーからなる群から選択される、項目25に記載の方法。
(項目27)
前記方法が、前記対象が錐体関連障害を有すると特定することを更に含む、項目19に記載の方法。
(項目28)
前記方法が、前記投与ステップ後に視力の改善を検出することを更に含む、項目19に記載の方法。
(項目29)
前記対象が、霊長動物である、項目19に記載の方法。
【図面の簡単な説明】
【0010】
本発明は、添付の図面と組み合わせて閲読されるとき、以下の発明を実施するための形態から最もよく理解される。一般的慣習に従って、図面の様々な特徴の縮尺は一定ではないことが強調される。それどころか、様々な特徴の寸法は、明瞭さのため、恣意的に拡大または縮小される。図面には、以下の図が含まれる。
【0011】
図1】硝子体内送達されるAAV2バリアントAAV2-7m8が、霊長動物の網膜中心窩及び傍中心窩内の網膜細胞に、硝子体内送達されるAAV2よりもいかに効率的に形質導入するかを図示する。5×1011個の、AAV2.CMV.GFPのベクターゲノム(左上)、AAV-2.5T.CMV.GFPのベクターゲノム(右上)(Excoffon K.J.,et al.2009.Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.106:3865-3870)、(左下)AAV2-7.8.CMV.GFP(Dalkara D,et al.Sci Transl Med.2013Jun12;5(189):189ra76)のベクターゲノム、またはAAV-ShH10.CMV.GFPのベクターゲノム(右下)(Klimczak RR et al.PLoS One.2009Oct14;4(10):e7467)を、50uLの体積でアフリカミドリザルの硝子体に注射し、8週間後、インビボOCT蛍光撮像によってGFP発現を観察した。
図2】AAV2-7m8カプシドが、霊長動物の中心窩錐体にいかに頑強に形質導入するかを図示する。(a~b)AAV2-7m8.MNTC.GFPを、ヒヒの中央硝子体に注射し、(a)5週間後及び(b)8週間後、眼底蛍光によって発現を観察した。(c及びd)低倍率(c)及び高倍率(d)での、AAV2-7m8.MNTC.GFPの注射の約6ヶ月後の、15ミクロンの中心窩の切片内の自然GFP蛍光。
図3】AAV-7m8送達MNTC.GFPの硝子体内注射後の、マウス網膜の錐体内の頑強かつ錐体特異的な遺伝子発現を図示する。(a~b)マウスが、硝子体内注射を介して5.04×1010個のベクターゲノムの硝子体内注射を受けた11週間後の、GFP蛍光の例。(c~e)注射の14週間後、組織診断のために網膜を回収し、L/Mオプシン(赤色)に対する抗体で錐体外側区域を標識した。(c)において、赤色チャネルを遮断して、未変性のGFPのみが可視であるようにし、(d)は同一の画像であるが、赤色チャネルを活性化して、錐体外側区域の可視化を可能としている。(c)及び(d)の比較は、全てではなくともほとんどの錐体が、ウイルスによって形質導入されたことを示す。(e)錐体光受容体のプロファイルを示す、異なる角度からの、c及びdにおけるものと同一の網膜の画像。
図4A】スナネズミ網膜の錐体内の、pMNTC制御カセットによって指向された遺伝子発現を図示する。CMV、pR2.1、またはMNTCプロモーターの制御下でGFPを担持するウイルスの、1×1010~2×1010個のベクターゲノムを、5uLの体積でスナネズミの硝子体に注射し、指定の時点で、眼底蛍光撮像によってGFP発現を可視化した。(a)AAV2-7m8.CMV.GFP及びAAV2-7m8.MNTC.GFPによって指向されたGFPの発現を、硝子体内投与の4週間後に可視化した。スナネズミ12-10、12-11、及び12-12にAAV2-7m8.CMV.GFPを注射した一方で、スナネズミ12-13、12-14、及び12-15にはAAV2-7m8.MNTC.GFPを注射した。OD、右目(右眼)。OS、左目(左眼)。(b)眼底蛍光撮像によって検出される、硝子体内投与の4週間後及び8週間後の、AAV2-7m8.pR2.1.GFP及びAAV2-7m8.MNTC.GFPによって指向されたGFPの発現。
図4B】スナネズミ網膜の錐体内の、pMNTC制御カセットによって指向された遺伝子発現を図示する。CMV、pR2.1、またはMNTCプロモーターの制御下でGFPを担持するウイルスの、1×1010~2×1010個のベクターゲノムを、5uLの体積でスナネズミの硝子体に注射し、指定の時点で、眼底蛍光撮像によってGFP発現を可視化した。(a)AAV2-7m8.CMV.GFP及びAAV2-7m8.MNTC.GFPによって指向されたGFPの発現を、硝子体内投与の4週間後に可視化した。スナネズミ12-10、12-11、及び12-12にAAV2-7m8.CMV.GFPを注射した一方で、スナネズミ12-13、12-14、及び12-15にはAAV2-7m8.MNTC.GFPを注射した。OD、右目(右眼)。OS、左目(左眼)。(b)眼底蛍光撮像によって検出される、硝子体内投与の4週間後及び8週間後の、AAV2-7m8.pR2.1.GFP及びAAV2-7m8.MNTC.GFPによって指向されたGFPの発現。
図5A】pMNTC制御カセットが、霊長動物の中心窩錐体内で、錐体プロモーターpR2.1よりも頑強な遺伝子発現を提供することを実証する。5×1011個の、AAV2-7m8.MNTC.GFPまたはAAV2-7m8.pR2.1.GFPのベクターゲノムを、示されるように(AAV2-7m8.MNTC.GFPを動物271及び472に、AAV2-7m8.pR2.1.GFPを動物500及び509に)、50uLの体積でアフリカミドリザルの硝子体に注射した。眼底蛍光カメラ(a、b、c、d)またはHeidelberg Spectralis OCT上での自己蛍光(a、b;8週目及び12週目はデータ図示せず)を使用して、(a)2週目、(b)4週目、(c)8週目、及び(d)12週目に、GFPについて網膜をインビボで可視化した。OD、右目(右眼)。OS、左目(左眼)。
図5B】pMNTC制御カセットが、霊長動物の中心窩錐体内で、錐体プロモーターpR2.1よりも頑強な遺伝子発現を提供することを実証する。5×1011個の、AAV2-7m8.MNTC.GFPまたはAAV2-7m8.pR2.1.GFPのベクターゲノムを、示されるように(AAV2-7m8.MNTC.GFPを動物271及び472に、AAV2-7m8.pR2.1.GFPを動物500及び509に)、50uLの体積でアフリカミドリザルの硝子体に注射した。眼底蛍光カメラ(a、b、c、d)またはHeidelberg Spectralis OCT上での自己蛍光(a、b;8週目及び12週目はデータ図示せず)を使用して、(a)2週目、(b)4週目、(c)8週目、及び(d)12週目に、GFPについて網膜をインビボで可視化した。OD、右目(右眼)。OS、左目(左眼)。
図5C】pMNTC制御カセットが、霊長動物の中心窩錐体内で、錐体プロモーターpR2.1よりも頑強な遺伝子発現を提供することを実証する。5×1011個の、AAV2-7m8.MNTC.GFPまたはAAV2-7m8.pR2.1.GFPのベクターゲノムを、示されるように(AAV2-7m8.MNTC.GFPを動物271及び472に、AAV2-7m8.pR2.1.GFPを動物500及び509に)、50uLの体積でアフリカミドリザルの硝子体に注射した。眼底蛍光カメラ(a、b、c、d)またはHeidelberg Spectralis OCT上での自己蛍光(a、b;8週目及び12週目はデータ図示せず)を使用して、(a)2週目、(b)4週目、(c)8週目、及び(d)12週目に、GFPについて網膜をインビボで可視化した。OD、右目(右眼)。OS、左目(左眼)。
図5D】pMNTC制御カセットが、霊長動物の中心窩錐体内で、錐体プロモーターpR2.1よりも頑強な遺伝子発現を提供することを実証する。5×1011個の、AAV2-7m8.MNTC.GFPまたはAAV2-7m8.pR2.1.GFPのベクターゲノムを、示されるように(AAV2-7m8.MNTC.GFPを動物271及び472に、AAV2-7m8.pR2.1.GFPを動物500及び509に)、50uLの体積でアフリカミドリザルの硝子体に注射した。眼底蛍光カメラ(a、b、c、d)またはHeidelberg Spectralis OCT上での自己蛍光(a、b;8週目及び12週目はデータ図示せず)を使用して、(a)2週目、(b)4週目、(c)8週目、及び(d)12週目に、GFPについて網膜をインビボで可視化した。OD、右目(右眼)。OS、左目(左眼)。
図6A】観察されたより頑強な発現に対する、最適化されたpMNTC要素のそれぞれの寄与を実証する。(a)pMNTC及びpR2.1発現するカセット。(b)pMNTC中の各要素が、pR2.1中の対応する要素によって1つずつ置換される、実験的発現カセット。(c、d)IVIS撮像による、注射の(c)4週間後及び(d)8週間後に検出される、試験物品のそれぞれを硝子体内注射したスナネズミの網膜(1つの構築物当たりn=6~8つの眼)中の、ルシフェラーゼ導入遺伝子の発現。「7m8.CMV」は、陽性対照としての役割を果たした。
図6B】観察されたより頑強な発現に対する、最適化されたpMNTC要素のそれぞれの寄与を実証する。(a)pMNTC及びpR2.1発現するカセット。(b)pMNTC中の各要素が、pR2.1中の対応する要素によって1つずつ置換される、実験的発現カセット。(c、d)IVIS撮像による、注射の(c)4週間後及び(d)8週間後に検出される、試験物品のそれぞれを硝子体内注射したスナネズミの網膜(1つの構築物当たりn=6~8つの眼)中の、ルシフェラーゼ導入遺伝子の発現。「7m8.CMV」は、陽性対照としての役割を果たした。
図6C】観察されたより頑強な発現に対する、最適化されたpMNTC要素のそれぞれの寄与を実証する。(a)pMNTC及びpR2.1発現するカセット。(b)pMNTC中の各要素が、pR2.1中の対応する要素によって1つずつ置換される、実験的発現カセット。(c、d)IVIS撮像による、注射の(c)4週間後及び(d)8週間後に検出される、試験物品のそれぞれを硝子体内注射したスナネズミの網膜(1つの構築物当たりn=6~8つの眼)中の、ルシフェラーゼ導入遺伝子の発現。「7m8.CMV」は、陽性対照としての役割を果たした。
図6D】観察されたより頑強な発現に対する、最適化されたpMNTC要素のそれぞれの寄与を実証する。(a)pMNTC及びpR2.1発現するカセット。(b)pMNTC中の各要素が、pR2.1中の対応する要素によって1つずつ置換される、実験的発現カセット。(c、d)IVIS撮像による、注射の(c)4週間後及び(d)8週間後に検出される、試験物品のそれぞれを硝子体内注射したスナネズミの網膜(1つの構築物当たりn=6~8つの眼)中の、ルシフェラーゼ導入遺伝子の発現。「7m8.CMV」は、陽性対照としての役割を果たした。
図7】非ヒト霊長動物(NHP)における、pR2.1制御カセットによって指向された錐体特異的遺伝子発現を図示する。5×1011個の、AAV2-7m8.pR2.1.GFPのベクターゲノムを、50uLの体積でアフリカミドリザルの硝子体に注射した。ステレオ蛍光顕微鏡によって、8μmの網膜断面のGFP導入遺伝子発現を観察した。GFPを抗GFP抗体(緑色、ニワトリポリクローナル、Abcamカタログ番号13970)で染色し、オプシン錐体細胞をオプシン錐体に対して特異的な抗L/Mオプシン抗体(赤色、ウサギポリクローナル、Abcamカタログ番号5405)で染色し、杆体細胞を抗ロドプシン抗体(1D4淡紅色、マウスモノクローナル、Abcamカタログ番号5417)で染色し、核をDapi(青色/全核、Invitrogen参照番号D21490)で染色した。GFP染色はL/Mオプシン染色とは共存したが、ロドプシン染色とは共存しなかった。L/Mオプシン錐体内には光受容体層にわたってGFP導入遺伝子発現が存在したが、杆体内にはGFP導入遺伝子発現は観察されなかった。矢印は、GFP及びオプシンの両方について二重染色された例示的な錐体細胞を示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
ポリヌクレオチドを錐体光受容体に硝子体内送達するための方法及び組成物が提供される。本方法の態様は、眼の硝子体に、目的となるポリヌクレオチドを含む組み換えアデノ随伴ウイルスを注射することを含む。これらの方法及び組成物は、錐体機能障害及び/または錐体細胞死滅に関連する眼球障害を治療する上で、特定の用途を見出す。これら及び他の本発明の目的、利点、及び特徴は、下記により完全に記載される組成物及び方法の詳細を閲読すれば当業者に明らかとなるだろう。
【0013】
本方法及び組成物を記載する前に、本発明が、記載される特定の方法または組成物に限定されず、したがって、当然のことながら、異なり得ることを理解されたい。本明細書で使用される用語は、特定の実施形態を記載するためのものであるにすぎず、本発明の範囲は添付の特許請求の範囲のみによって限定されるため、限定的であることは意図されないこともまた理解されたい。
【0014】
ある範囲の値が提供される場合、別段文脈が明白に指示しない限り、その範囲の上限と下限との間の各介在値もまた、下限の単位の10分の1まで具体的に開示されることが理解される。述べられる範囲内の任意の述べられる値または介在値の間のより小さい各範囲、及びその述べられる範囲内の任意の他の述べられる値または介在値が、本発明内に包含される。これらのより小さい範囲の上限及び下限は独立して、範囲内に含まれても除外されてもよく、述べられる範囲内の任意の具体的に除外される限界次第で、一方もしくは両方の限界がより小さい範囲内に含まれる各範囲、またはいずれの限界も含まれない各範囲もまた、本発明内に包含される。述べられる範囲が限界の一方または両方を含む場合、それらの含まれる限界のうちのいずれかまたは両方を除外する範囲もまた、本発明に含まれる。
【0015】
別段定義されない限り、本明細書で使用される全ての技術用語及び科学用語は、本発明が属する当業者によって一般的に理解されるものと同一の意味を有する。本発明の実践または試験において、本明細書に記載されるものに類似または相当する任意の方法及び材料が使用され得るものの、いくつかの潜在的かつ好ましい方法及び材料がここでは記載される。
【0016】
本明細書で言及される全ての刊行物は、刊行物が引用されるものとの関連で方法及び/または材料を開示し、記載するために、参照によって本明細書に組み込まれる。矛盾が存在する範囲では、本開示が、組み込まれた刊行物のいかなる開示にも取って代わることが理解される。
【0017】
本開示を閲読すれば当業者に明らかであるように、本明細書に記載され、図示される個々の実施形態のそれぞれは、本発明の範囲または趣旨から逸脱することなく、他のいくつかの実施形態のいずれの特徴からも容易に分離され得るか、またはそれらと組み合わされ得る、別々の構成要素及び特徴を有する。いかなる引用される方法も、引用される事象の順序で、または理論的に可能である任意の他の順序で実行することができる。
【0018】
特許請求の範囲は、いかなる任意の要素も除外するように立案され得ることに更に留意されたい。したがって、本陳述は、請求項要素の引用との関連での「専ら」及び「のみ」などの排他的な用語の使用の、または「否定的」限定の使用の先行基礎としての役割を果たすことが意図される。
【0019】
本明細書で使用される場合、及び添付の特許請求の範囲において、別段文脈が明白に指示しない限り、単数形「1つの(a)」、「1つの(an)」、及び「その」は、複数の参照対象を含むことに留意しなくてはならない。したがって、例えば、「1つの細胞」に対する言及は、複数のそのような細胞を含み、「そのポリヌクレオチド」に対する言及は、当業者に既知の1つ以上のポリヌクレオチド及びそれらの等価物(例えば、核酸配列)に対する言及を含むことなどである。
【0020】
本明細書に論じられる刊行物は専ら、本出願の出願日前のそれらの開示のために提供される。本明細書には、先願発明に基づいて本発明がかかる刊行物に先行する権利がないことが認められると解釈されるものは何もない。更に、提供される刊行物の日付は実際の公開日とは異なり得、これらは独立して確認される必要があり得る。
【0021】
定義
本明細書で使用される場合、「ベクター」は、ポリヌクレオチドを含むか、またはそれと会合し、かつ細胞へのポリヌクレオチドの送達を媒介するのに使用することができる、巨大分子または巨大分子の会合を指す。例示的なベクターとしては、例えば、プラスミド、ウイルスベクター(ウイルスまたはそれらのウイルスゲノム)、リポソーム、及び他の遺伝子送達ビヒクルが挙げられる。
【0022】
「ウイルス」によって、ウイルスカプシド及びウイルスゲノムを含むウイルス粒子が意味される。例えば、アデノ随伴ウイルスは、少なくとも1つのアデノ随伴ウイルスカプシドタンパク質またはそのバリアント、及びカプシド形成されたアデノ随伴ウイルスベクターゲノムまたはそのバリアントを含むウイルス粒子を指す。
【0023】
ウイルス「カプシド」によって、ウイルスのタンパク質殻が意味される。ウイルスカプシドは典型的には、プロモーターと呼ばれるタンパク質で作製されたいくつかのオリゴマー構造サブユニットを含む。カプシドは、そのウイルスの遺伝子材料、つまり「ゲノム」を封入、つまり「カプシド形成する」。いくつかのウイルスにおいて、カプシドはエンベロープ化され、これはカプシドがウイルスエンベロープとして知られる脂質膜でコーティングされることを意味する。
【0024】
ウイルス「ゲノム」(本明細書で互換的に「ウイルスゲノム」、「ウイルスベクターDNA」、及び「ウイルスDNA」と呼ばれる)によって、その末端に少なくとも1つ及び一般には2つのウイルス末端反復(例えば、末端逆位反復(ITR)、末端反復(LTR))を含むポリヌクレオチド配列が意味される。
【0025】
「組み換えウイルスゲノム」によって、その末端に異種核酸配列と、少なくとも1つ及び一般には2つのウイルス末端反復とを含むウイルスゲノムが意味される。「組み換えウイルス」によって、組み換えウイルスゲノムを含むウイルス粒子が意味される。
【0026】
本明細書で使用される場合、「異種」という用語は、それが比較されている残りの主体のそれとは遺伝子型が異なる主体に由来することを意味する。例えば、遺伝子操作技術によって、異なる種、例えば、ウイルスゲノムに由来するプラスミドまたはベクターに導入されるポリヌクレオチドは、異種ポリヌクレオチドである。別の例として、その天然コード配列から除去され、それが連結されることが天然には見出されないコード配列に動作可能に連結されるプロモーターは、異種プロモーターである。第3の例として、異種遺伝子産物、例えば、RNA、タンパク質は、それが発現されている細胞によっては通常コードされない遺伝子産物である。
【0027】
本開示のウイルスに関して本明細書で使用される場合、「複製異常」という用語は、そのゲノムを独立して複製し、パッケージングすることができないウイルスを指す。例えば、ある対象の細胞が組み換えビリオンに感染した場合、感染細胞内には異種遺伝子が発現されるが、感染細胞がAAV rep及びcap遺伝子ならびに付属機能遺伝子を欠如するという事実のために、組み換えウイルスは更に複製することができない。
【0028】
「AAV」という用語は、アデノ随伴ウイルスの略称である。本明細書で使用される場合、AAVという用語は、ウイルス自体またはその誘導体(例えば、ウイルスカプシド及びウイルスゲノムなど)を指すために使用され得る。「AAV」という用語は、全ての亜型(天然に存在する形態及び組み換え形態の両方)、ならび別段必要とされる場合を除いてそれらのバリアントを包含する。
【0029】
「天然に存在する」または「野生型」AAVによって、天然に存在するウイルスカプシドタンパク質からなるウイルスカプシドを含む、任意のアデノ随伴ウイルスまたはそれらの誘導体が意味される。天然に存在するAAVの非限定的な例としては、AAV1型(AAV-1)、AAV2型(AAV-2)、AAV3型(AAV-3)、AAV4型(AAV-4)、AAV5型(AAV-5)、AAV6型(AAV-6)、AAV7型(AAV-7)、AAV8型(AAV-8)、AAV9、AAV10、AAV11、AAV12、rh10、トリAAV、ウシAAV、イヌAAV、ウマAAV、霊長動物AAV、非霊長動物AAV、及びヒツジAAVが挙げられる。「霊長動物AAV」は霊長動物を感染させるAAVを指し、「非霊長動物AAV」は非霊長動物哺乳動物を感染させるAAVを指し、「ウシAAV」はウシ哺乳動物を感染させるAAVを指すことなどである。
【0030】
「AAVバリアント」または「バリアントAAV」によって、バリアントを含むAAVウイルス粒子、または変異体AAVカプシドタンパク質を含むことが意味される。バリアントAAVカプシドタンパク質の例としては、対応する親AAVカプシドタンパク質(すなわち、それが由来したAAVカプシドタンパク質、野生型AAVカプシドタンパク質など)と比較して、少なくとも1つのアミノ酸差異(例えば、アミノ酸置換、アミノ酸挿入、アミノ酸欠失)を含むAAVカプシドタンパク質が挙げられ、バリアントAAVカプシドタンパク質は、天然に存在するAAVカプシドタンパク質中に存在するアミノ酸配列からはならない。対応する親AAVと構造的に、すなわち、配列レベルで異なることに加えて、AAVバリアントは、対応する親AAVと機能的に異なってもよい。換言すると、対応する親AAVカプシドタンパク質と比較して、少なくとも1つのアミノ酸差異を含むバリアントカプシドタンパク質は、AAVバリアントに対応する親AAVが持たない機能的特徴を与えてもよい。例えば、AAVバリアントは、異なる細胞指向性、すなわち、特定の種類の細胞に対する異なる親和性及び/またはそれを感染させる能力を有してもよく、例えば、AAVバリアントは、ある細胞集団のより多い(または少ない)細胞が、同一の力価のウイルス粒子で形質導入/感染されるように、親AAVよりも増加(または低下)した親和性で細胞(例えば、網膜細胞)に結合しても、かつ/あるいは親AAVよりも増加(もしくは低下)した効率で細胞(例えば、網膜細胞)に感染/形質導入してもよい。第2の例として、AAVバリアントは、宿主動物によって生成される抗体に対するより大きい(またはより少ない)親和性を有してもよく、例えば、AAVバリアントは、より大きい(またはより少ない)親和性で中和抗体に結合し、より大きい(またはより少ない)程度まで宿主組織から排除されてもよい。
【0031】
「組み換えAAV」、つまり「rAAV」によって、そのウイルスゲノム内に異種ポリヌクレオチド配列を含む任意のAAVを含むことが意味される。一般に、異種ポリヌクレオチドは、少なくとも1つ及び一般に2つの天然に存在するまたはバリアントAAV末端逆位反復配列(ITR)と隣接している。rAAVベクターという用語は、rAAVベクター粒子及びrAAVベクタープラスミドの両方を包含する。したがって、例えば、異種ポリヌクレオチド配列を含むrAAVは、天然に存在する野生型AAV中には通常含まれない核酸配列、例えば、導入遺伝子(例えば、非AAV RNAコードポリヌクレオチド配列、非AAVタンパク質コードポリヌクレオチド配列)、非AAVプロモーター配列、非AAVポリアデニル化配列などを含むrAAVであるだろう。
【0032】
本明細書で使用される場合、「発現ベクター」は、目的となる遺伝子産物をコードする領域を含むベクターを指し、意図される標的細胞内で遺伝子産物の発現をもたらすために使用される。発現ベクターはまた、コード領域に動作可能に連結されて、標的におけるタンパク質の発現を促進する制御要素も含む。制御要素と、発現のためにそれらが作動可能に連結される遺伝子(複数可)との組み合わせは、「発現カセット」と呼ばれることもあり、その大部分は、当該技術分野において既知かつ入手可能であるか、または当該技術分野において入手可能な構成成分から容易に構築可能である。
【0033】
本明細書で使用される場合、「発現」という用語は、細胞内のコード配列(例えば、内在性遺伝子、異種遺伝子)の転写及び/または翻訳を指す。
【0034】
本明細書で使用される場合、「遺伝子」または「コード配列」という用語は、遺伝子産物をコードするポリヌクレオチド配列を指し、天然に存在するポリヌクレオチド及びcDNAの両方を包含する。遺伝子は、コード領域に先行及び後続する領域、例えば、5'非
翻訳(5'UTR)もしくは「リーダー」配列及び3'UTRもしくは「トレーラー」配列、または個々のコード区域(エクソン)間の介在配列(イントロン)を含んでも、含まなくてもよい。
【0035】
本明細書で使用される場合、「遺伝子産物」という用語は、ポリペプチド、ペプチド、タンパク質、またはRNA(例えば、リボザイム、低分子干渉RNA(siRNA)、miRNA、もしくは低分子ヘアピン型RNA(shRNA)を含む)などの、ポリヌクレオチド配列の所望される発現産物を指す。「ポリペプチド」、「ペプチド」、及び「タンパク質」という用語は、任意の長さのアミノ酸のポリマーを指すために、本明細書で互換的に使用される。これらの用語はまた、改変(例えば、ジスルフィド結合形成、糖鎖付加、脂質化、リン酸化、または標識構成成分との共役)されているアミノ酸ポリマーも包含する。
【0036】
本明細書で使用される場合、「動作可能に連結される」または「作動可能に連結される」は、単一ポリヌクレオチド上の遺伝子要素の並立を指し、要素は、それらの期待された様式での動作を可能にする関係にある。例えば、プロモーターがコード配列の転写の開始を助ける場合、プロモーターはコード領域に動作可能に連結される。この機能的関係が維持される限り、プロモーターとコード領域との間に介在残基が存在してもよい。制御要素(例えば、プロモーター、エンハンサーなど)と、発現のためにそれらが作動可能に連結される遺伝子(複数可)との組み合わせは、「発現カセット」と呼ばれることもあり、その大部分は、当該技術分野において既知かつ入手可能であるか、または当該技術分野において入手可能な構成成分から容易に構築可能である。
【0037】
「プロモーター」によって、RNAポリメラーゼの結合を指向し、それによりRNA合成を促進するDNA配列、すなわち、転写を指向するのに十分な最小配列が一般に意味される。プロモーター及び対応するタンパク質またはポリペプチド発現は遍在性であり得、これは、幅広い細胞、組織、及び種において強く活性であるか、または細胞型特異的、組織特異的、もしくは種特異的であることを意味する。プロモーターは「恒常的」であり得、これは、絶えず活性、つまり「誘導性」であることを意味し、これは、プロモーターが生物的または非生物的因子の存在または不在によって活性化または非活性化され得ることを意味する。
【0038】
「エンハンサー」によって、隣接する遺伝子の転写を刺激(すなわち、促進または増強)するシス作用性制御要素が一般に意味される。「サイレンサー」によって、例えば、一般的な転写因子アセンブリに活発に干渉することによって、または遺伝子に関連付けられる他の制御要素(例えば、エンハンサー)を阻害することによって、隣接する遺伝子の転写を阻害(すなわち、低減または抑制)するシス作用性制御要素が意味される。エンハンサーは、いずれの配向においても、コード配列から、及び転写される領域の下流の位置から、最大数キロ塩基対(kb)までの距離にわたって機能し得る(すなわち、コード配列と関連付けられ得る)。エンハンサー配列は、プロモーター依存性遺伝子発現に影響を与え、天然遺伝子の5'または3'領域に位置付けられ得る。エンハンサー配列は、プロモーター配列と近接していても、していなくてもよい。同様に、エンハンサー配列は、遺伝子配列にすぐ隣接していても、していなくてもよい。例えば、エンハンサー配列は、プロモーター及び/または遺伝子配列から数千塩基対であってもよい。
【0039】
本発明の意味における「終結シグナル配列」は、RNAポリメラーゼに転写を終結させる任意の遺伝子要素(例えば、ポリアデニル化シグナル配列など)であり得る。ポリアデニル化シグナル配列は、RNA転写物のエンドヌクレアーゼ切断のために必要である認識領域であり、その後には、ポリアデニル化コンセンサス配列AATAAAが続く。ポリアデニル化シグナル配列は、「ポリA部位」、すなわち、転写後のポリアデニル化によってアデニン残基が付加されるRNA転写物上の部位を提供する。
【0040】
本明細書に記載される配列比較アルゴリズム(例えば、Smith-Watermanアルゴリズム)のうちの1つを使用して、または目視検査によって測定される、最大一致について比較され、整列されるときの、同一であるか、または特定のパーセンテージの同一のアミノ酸残基もしくはヌクレオチドを有する2つ以上のヌクレオチド配列の文脈における、「同一の」または「同一性」パーセントという用語。
【0041】
本明細書で使用される場合、「配列同一性」という用語は、配列整列プログラムを使用して整列されるときの、2つ以上の整列された配列中のヌクレオチド間の同一性の程度を指す。「相同性%」という用語は、本明細書で「同一性%」という用語と互換的に本明細書で使用され、配列整列プログラムを使用して整列されるときの、2つ以上の整列された配列間の核酸またはアミノ酸配列同一性のレベルを指す。例えば、本明細書で使用される場合、80%の相同性は、定義されるアルゴリズムによって決定される80%の配列同一性と同一のことを意味し、したがって、所与の配列の相同体は、その所与の配列の長さにわたって80%超の配列同一性を有する。配列同一性は、いくつかの公的に入手可能な整列アルゴリズムツール(例えば、Smith&Waterman,Adv.Appl.Math.2:482(1981)の局所的相同性アルゴリズム、Needleman&Wunsch,J Mol. Biol.48:443(1970)の相同性整列アルゴリズム、Pearson&Lipman,Proc.Nat'l.Acad.Sci.USA85:2444(1988)の類似性探索法、これらのアルゴリズムのコンピュータ化実装(Wisconsin Genetics Software Package,Genetics Computer Group,575Science Dr.,Madison,Wis.におけるGAP、BESTFIT、FASTA、及びTFASTA)のうちのいずれかを使用して、BLASTアルゴリズム(Altschul et al.,J Mol.Biol.215:403-410(1990)によって、National Center for Biotechnology Information(www.ncbi.nlm.nih.gov/)を通して公的に入手可能であるソフトウェアで、または目視検査(一般に、下記Ausubelらを参照されたい)によって、配列を整列することによって決定することができる。
【0042】
「補完する」及び「補完的」という用語は、逆平行ヌクレオチド配列中の補完的塩基残基間の水素結合の形成時、互いに対合することができる逆平行ヌクレオチド配列を指す。
【0043】
本明細書でポリヌクレオチドまたはポリペプチドの文脈において使用される場合、「天然」という用語は、天然に見出される、すなわち、野生型ウイルスまたは細胞のゲノムに存在する、ポリヌクレオチドまたはポリペプチド配列を指す。
【0044】
本明細書でポリヌクレオチドまたはポリペプチドの文脈において使用される場合、「バリアント」という用語は、その天然配列または任意の他の天然配列と100%未満の配列同一性を有する、天然ポリヌクレオチドまたはポリペプチドの変異体を指す。そのようなバリアントは、対応する天然遺伝子または遺伝子産物配列中に1つ以上の置換、欠失、または挿入を含み得る。「バリアント」という用語はまた、天然遺伝子または遺伝子産物の断片及びそれらの変異体(例えば、対応する天然遺伝子または遺伝子産物断片中に1つ以上の置換、欠失、または挿入を含む断片)も含む。いくつかの実施形態において、当該技術分野において既知であるように、バリアントは、天然遺伝子産物の機能的活性(例えば、リガンド結合、受容体結合、タンパク質シグナリングなど)を保持する。
【0045】
本発明の組み換えタンパク質またはポリペプチドを指す場合、「断片」という用語は、対応する全長タンパク質またはポリペプチドの機能または活性のうちの少なくとも1つを保持する、対応する全長タンパク質またはポリペプチドのアミノ酸配列の全部ではなく一部と同一であるアミノ酸配列を有する、ポリペプチドを意味する。断片は、好ましくは少なくとも20~100個の、全長タンパク質またはポリペプチドの近接アミノ酸残基を含む。
【0046】
本明細書で使用される場合、「生物活性」及び「生物学的に活性な」という用語は、培養物またはインビボにおける細胞株内の特定の遺伝子産物(例えば、RNAまたはタンパク質)に起因する活性を指す。例えば、RNAi分子の「生物活性」は、その分子が標的ポリヌクレオチド配列からのポリペプチドの産生を阻害する能力を指す。
【0047】
本明細書で使用される場合、「アンタゴニスト」という用語は、標的分子の活性を阻害する役割を果たす分子を指す。アンタゴニストは、標的に直接結合するか、またはその受容体を不活性化することによって、標的分子の活性を阻害する構造的アンタゴニストと、例えば、生物系において標的の産生を低下させるか、または生物系において標的の阻害物質の産生を増加させる機能的アンタゴニストとの両方を含む。
【0048】
本明細書で使用される場合、「を投与する」または「を導入する」という用語は、対象の細胞(複数可)及びまたは器官にポリヌクレオチドを送達するために、細胞、組織、または対象をベクターに接触させることを指す。そのような投与及び導入は、インビボ、インビトロ、またはエキソビボで行われ得る。遺伝子産物の発現のためのベクターは、トランスフェクション(典型的には、物理的手段(例えば、リン酸カルシウムトランスフェクション法、電気穿孔法、微量注射法、もしくはリポフェクション法)による細胞への異種DNAの挿入を意味する)、感染(典型的には、感染病原体(すなわち、ウイルス)による導入を指す)、または形質導入(典型的には、ウイルスによる細胞の安定感染、もしくはウイルス病原体(例えば、バクテリオファージ)による1つの微生物から別の微生物への遺伝子材料の移動を意味する)によって細胞に導入され得る。
【0049】
本明細書で使用される場合、「形質転換」または「トランスフェクション」は、ベクターによる、細胞(例えば、哺乳動物細胞、昆虫細胞、細菌細胞など)の内部への異種DNAの送達を指す。細胞を「形質転換」するために使用されるベクターは、プラスミド、ミニサークルDNA、または他のビヒクルであり得る。典型的には、細胞は、細胞への異種DNA(すなわち、ベクター)の投与、導入、または挿入に使用される手段によって、「形質導入された」、「感染した」、「トランスフェクトされた」、または「形質転換された」と呼ばれる。「トランスフェクトされた」及び「形質転換された」という用語は、主題の方法における使用のために主題のウイルスベクターを調製する場合のように、非ウイルス的方法(例えば、電気穿孔法、塩化カルシウムトランスフェクション法、リポフェクション法など)による異種DNAの導入を指すために、本明細書で互換的に使用される。「形質導入された」及び「感染した」という用語は、ウイルス粒子の文脈における細胞への異種DNAの導入を指すために、本明細書で互換的に使用される。
【0050】
本明細書で使用される場合、「宿主細胞」という用語は、ベクターで形質導入、感染、トランスフェクト、または形質転換されている細胞を指す。ベクターは、プラスミド、ウイルス粒子、ファージなどであり得る。温度及びpHなどの培養条件は、発現のために選択される宿主細胞とともに以前に使用されたものであり、当業者に明らかであるだろう。「宿主細胞」という用語は、形質導入、感染、トランスフェクト、または形質転換された本来の細胞及びその子孫を指すことが理解されるだろう。
【0051】
本明細書で使用される場合、「治療」遺伝子は、発現されるときに、それが存在する細胞もしくは組織に対して、またはその遺伝子が発現される哺乳動物に対して、有益な効果を与える遺伝子を指す。有益な効果の例としては、病態もしくは疾患の徴候もしくは症状の寛解、病態もしくは疾患の予防もしくは阻害、または所望される特徴の授与が挙げられる。治療遺伝子は、細胞または哺乳動物における遺伝子欠損を修正する遺伝子を含む。
【0052】
「治療」及び「を治療する」などの用語は、所望される薬理的及び/または生理的効果を得ることを一般に意味するために、本明細書で使用される。効果は、ある疾患もしくはその症状を完全もしくは部分的に予防する(例えば、対象においてその疾患もしくはその症状が発生する可能性を低減する)観点から予防的であってもよく、かつ/またはある疾患及び/もしくはその疾患に起因する有害作用の部分的もしくは完全な治癒の観点から治療的であってもよい。本明細書で使用される場合、「治療」は、哺乳動物における疾患のいかなる治療も網羅し、(a)ある疾患に罹りやすくあり得るが、未だそれを有するとは診断されていない対象において、その疾患の発生を予防すること、(b)疾患を阻害すること、例えば、その発症を抑止すること、または(c)疾患を軽減すること、例えば、疾患の退行を引き起こすことを含む。治療薬剤は、疾患もしくは損傷の発症前、発症中、または発症後に投与されてもよい。進行中の疾患の治療は、その治療が患者の所望されない臨床症状を安定化または低減する場合に、特に目的となる。そのような治療は、望ましくは患部組織における機能の完全な喪失前に実行される。主題の治療法は、望ましくは、その疾患の症候段階中に、及び場合によってはその疾患の症候段階後に投与されるだろう。
【0053】
「個体」、「対象」、「宿主」、及び「患者」という用語は、本明細書で互換的に使用され、診断、処置、または治療が所望される、ヒト及び非ヒト霊長動物(サル及びヒトを含む);哺乳類競技動物(例えば、ウマ);哺乳類家畜(例えば、ヒツジ、ヤギなど);哺乳類ペット(イヌ、ネコなど);ならびに齧歯類(例えば、マウス、ラットなど)を含むが、これらに限定されない、任意の哺乳動物対象;ならびに特にヒトを指す。
【0054】
本明細書で使用される用語は、特定の実施形態を記載するためのものであるにすぎず、本発明を限定することは意図されない。本明細書で使用される場合、別段文脈が明白に示さない限り、単数形「1つの(a)」、「1つの(an)」、及び「その」は、複数形もまた含むことが意図される。更に、「を含む(including)」、「を含む(includes)」、「を有する(having)」、「を有する(has)」、「を有する(with)」という用語、またはそれらの異形が、発明を実施するための形態及び/または特許請求の範囲のいずれかにおいて使用される限り、そのような用語は、「を含む(comprising)」という用語に類似する様式で、包括的であることが意図される。
【0055】
「を含む(comprising)」によって、例えば、組成物、方法、キットなどにおいて、引用される要素が必要とされるが、特許請求の範囲内で、例えば、組成物、方法、キットなどを形成するために、他の要素が含まれてもよいことが意味される。例えば、プロモーターに作動可能に連結される治療ポリペプチドをコードする遺伝子「を含む」発現カセットは、遺伝子及びプロモーターに加えて他の要素(例えば、ポリアデニル化配列、エンハンサー要素、他の遺伝子、リンカードメインなど)を含み得る発現カセットである。
【0056】
「から本質的になる」によって、例えば、組成物、方法、キットなどの基本的及び新規特徴(複数可)には実質的に影響を与えない特定の材料またはステップに対して記載される、例えば、組成物、方法、キットなどの範囲の限定が意味される。例えば、プロモーターに作動可能に連結される治療ポリペプチドをコードする遺伝子、及びポリアデニル化配列「から本質的になる」発現カセットは、それらが実質的に遺伝子の転写または翻訳に影響を与えない限り、追加の配列(例えば、リンカー配列)を含んでもよい。別の例として、引用される配列「から本質的になる」バリアントポリペプチド断片は、それが由来する全長ナイーブポリペプチドに基づいて、引用される配列のアミノ酸配列プラスマイナス約10個のアミノ酸残基(例えば、引用される結合アミノ酸残基よりも10、9、8、7、6、5、4、3、2、もしくは1個少ない残基、または引用される結合アミノ酸残基よりも1、2、3、4、5、6、7、8、9、もしくは10個多い残基)を配列の境界に有する。
【0057】
「からなる」によって、組成物、方法、またはキットから、特許請求の範囲において特定されていない任意の要素、ステップ、または成分を除外することが意味される。例えば、プロモーターに作動可能に連結される治療ポリペプチドをコードする遺伝子、及びポリアデニル化配列「からなる」発現カセットは、プロモーター、治療ポリペプチドをコードするポリヌクレオチド配列、及びポリアデニル化配列のみからなる。別の例として、引用される配列「からなる」ポリペプチドは、引用されるアミノ酸配列のみを含有する。
【0058】
「約」または「およそ」という用語は、当業者によって決定される、特定の値の許容可能な誤差範囲内を意味し、これは一部には、その値がいかに測定または決定されるか(測定システムの限界)に依存するだろう。例えば、「約」は、当該技術分野における慣習に従って、1以内または1超の標準偏差を意味し得る。あるいは、「約」は、所与の値の最大20%まで、好ましくは最大10%まで、より好ましくは最大5%まで、及び更により好ましくは最大1%までの範囲を意味し得る。あるいは、特に生物系または生物プロセスに関して、この用語は、ある値の1桁以内、好ましくは5倍以内、及びより好ましくは2倍以内を意味し得る。本出願及び特許請求の範囲において特定の値が記載される場合、別段述べられない限り、特定の値の許容可能な誤差範囲内を意味する「約」という用語が想定されるべきである。
【0059】
方法及び組成物
本発明のいくつかの態様において、ポリヌクレオチドを錐体光受容体に送達するための方法及び組成物が提供される。上記に論じられるように、本明細書で「錐体細胞」、「網膜錐体」、及び最も単純には「錐体」と互換的に呼ばれる錐体光受容体は、眼の網膜内の光受容体細胞の2つの亜型のうちの一方であり、他方は杆体光受容体である。錐体光受容体は、いくつかの物理的、生化学的、及び機能的特徴によって、杆体光受容体とは容易に区別され得る。例えば、錐体光受容体は、錐体のような形状をした外側区域領域を含む一方で、杆体光受容体は、杆体のような形状をした外側区域を含む。錐体光受容体は、例えば、Lオプシン(OPN1LW、GenBank受入番号NM_020061.5に見出され得るものの核酸及びアミノ酸配列)、Mオプシン(OPN1MW、GenBank受入番号NM_000513.2に見出され得るものの核酸及びアミノ酸配列)、またはSオプシン(OPN1SW、GenBank受入番号NM_001708.2に見出され得るものの核酸及びアミノ酸配列)を含む、杆体光受容体によっては発現されないいくつかのタンパク質を発現する一方で、杆体光受容体は、錐体光受容体によっては発現されないいくつかのタンパク質、例えば、例えば、ロドプシン(RHO、GenBank受入番号NM_000539.3に見出され得るものの核酸及びアミノ酸配列)及び杆体由来錐体生存因子(RDCVF、NXNL1としても知られる、GenBank受入番号NM_138454.1に見出され得るものの核酸及びアミノ酸配列)を発現する。機能的には、錐体光受容体は色覚に責任を負い、比較的明るい光において最もよく機能する一方で、杆体光受容体は低光レベルでの視力を支持し、薄暗い光において最もよく機能するという点で、錐体光受容体は杆体光受容体とは異なり、錐体及び杆体は、網膜電図(ERG)またはカラーERG(cERG)を使用して、この差異に基づいて区別され得る。最後に、錐体光受容体は、網膜内でのそれらの位置によって、杆体光受容体とは区別され得る。上記に論じられるように、大多数の錐体光受容体(L及びM錐体光受容体の全て)は、網膜中心窩と呼ばれる網膜黄斑の中央に位置付けられる1.5mmの窪み内に密に充填され、残りのL及びM錐体光受容体ならびにS錐体光受容体は、傍中心窩、周中心窩、及び周辺網膜内に点在する。対照的に、杆体光受容体は小窩から除外され、中心窩内で不良に表されるが、代わりに傍中心窩、周中心窩、及び周辺網膜中に主に見出される。
【0060】
上記に論じられるように、本開示以前、錐体光受容体(及びより具体的には、中心窩内のL及びM錐体光受容体)は、硝子体から送達されるAAVによる形質導入に対して抵抗性であるというのが、当該技術分野における一般的な理解であった。しかしながら、本明細書の実施例によって実証されるように、中心窩錐体は実際には、本開示の方法及び組成物を使用する硝子体内送達によって形質導入することができる。いくつかの実施形態において、主題の方法及び組成物によって形質導入される錐体光受容体は、網膜内のあらゆる場所、すなわち、黄斑(網膜中心窩、傍中心窩、周中心窩)または周辺に存在する。いくつかの実施形態において、錐体光受容体は、網膜中心窩内に存在する。特定の実施形態において、錐体光受容体は中心窩錐体であり、つまり、それらは中心窩内に存在するLまたはM錐体であり、中心窩は、網膜中心窩の中心から約0.175mmから、網膜中心窩の中心から約0.75mmまでにまたがる網膜中心窩の領域である。
【0061】
rAAVビリオン
主題の方法の実践において、目的となるポリヌクレオチドは、眼の硝子体に、そのゲノム内の異種配列として目的となるポリヌクレオチドを含む組み換えウイルス粒子を注射することによって、錐体光受容体に送達される。いくつかの例において、組み換えウイルス粒子は、組み換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)粒子である。いくつかの実施形態において、rAAVは野生型血清型のものであり、これはつまり、それらが天然に存在するウイルスカプシドタンパク質からなるウイルスカプシドを含むということである。他の実施形態において、rAAVはAAV血清型バリアントであり、すなわち、それらはバリアントAAVカプシドタンパク質、つまり、対応する親AAVカプシドタンパク質(例えば、野生型AAVカプシドタンパク質)と比較して、少なくとも1つのアミノ酸差異を含むAAVカプシドタンパク質を含み、かつ天然に存在するAAVカプシドタンパク質中に存在するアミノ酸配列からはならない。
【0062】
本出願の実施例によって実証されるように、GHループ中、またはより具体的にはGHループのサブループIV中に少なくとも1つのアミノ酸差異を含むバリアントAAVカプシドタンパク質を含むrAAVビリオンは、硝子体内送達される場合、野生型AAVカプシドタンパク質を含むrAAVビリオンと比較して、錐体光受容体の感染力の増加を実証する。「感染力の増加」によって、バリアントrAAVビリオンが、野生型AAVカプシドタンパク質よりも良好に標的細胞に形質導入することができることが意味される。AAVが細胞に形質導入する能力の改善は、より多くのポリヌクレオチドが各細胞に送達され、より多くの細胞が組織中で形質導入され、これが各細胞及び組織に送達されるポリヌクレオチドの量の増加をもたらすことを観察することによって、観察することができる。したがって、本発明のいくつかの態様において、錐体光受容体への、目的となるポリヌクレオチドの送達の改善のための方法が提供され、改善は、眼の硝子体への、有効量のrAAVバリアントの送達を含み、rAAVバリアントは、i)対応する親AAVカプシドタンパク質(例えば、野生型AAVカプシドタンパク質)と比較して、少なくとも1つのアミノ酸差異を含み、かつ天然に存在するAAVカプシドタンパク質中に存在するアミノ酸配列からはならないバリアントAAVカプシドタンパク質、及びii)ウイルスゲノム内の異種配列としての目的となるポリヌクレオチドを含む。
【0063】
主題の開示において特に目的となるのは、対応する親AAVカプシドタンパク質と比較して、AAVカプシドタンパク質のGHループまたは「ループIV」中に少なくとも1つのアミノ酸差異を含むrAAVバリアントである。GHループまたはループIVによって、例えば、Xie et al.(2002)PNAS99(16):10405-10410、van Vliet et al.(2006)Mol.Ther.14:809、Padron et al.(2005)J.Virol.79:5047、及びShen et al.(2007)Mol.Ther.15:1955に記載される、AAVカプシドタンパク質VP1のゼリーロールβバレルのG鎖とH鎖との間に作製されるループが意味される。いくつかの例において、少なくとも1つのアミノ酸差異は、AAV1 VP1(配列番号1)のアミノ酸約571~612、AAV2 VP1(配列番号2)のアミノ酸約570~611、AAV3 VP1(配列番号3)のアミノ酸約571~612、AAV4 VP1(配列番号4)のアミノ酸約569~610、AAV5 VP1(配列番号5)のアミノ酸約560~601、AAV6 VP1(配列番号6)のアミノ酸約571~612、AAV7 VP1(配列番号7)のアミノ酸約572~613、AAV8 VP1(配列番号8)のアミノ酸約573~614、AAV9 VP1(配列番号9)のアミノ酸約571~612、AAV10 VP1(配列番号10)のアミノ酸約573~614、またはこれらのバリアントのおよそ対応するアミノ酸範囲から本質的になる、GHループのサブループ4内、すなわち、GHループの溶媒露出部分内にある。特定の例において、少なくとも1つのアミノ酸差異は、AAV1 VP1のアミノ酸581~596、AAV2 VP1の580~595、AAV3 VP1の581~596 of、AAV4の579~594、AAV5 VP1の570~585、AAV6 VP1の581~596、AAV7 VP1の582~597、AAV8 VP1の583~598、AAV9 VP1の581~596、AAV10 VP1の583~598から本質的になるアミノ酸の範囲内、またはこれらのバリアントの対応するアミノ酸範囲内にある。当業者は、様々なAAV血清型のカプシドタンパク質のアミノ酸配列の比較に基づいて、例えば、「AAV2のVP1のアミノ酸570~611に対応する」アミノ酸が、任意の所与のAAV血清型のカプシドタンパク質中のどこにあるかを理解するだろう。
【0064】
いくつかの実施形態において、少なくとも1つのアミノ酸差異は、AAVカプシドタンパク質のGHループ中の2つのアミノ酸の間、例えば、AAV1 VP1(配列番号1)のアミノ酸約571~612、AAV2 VP1(配列番号2)のアミノ酸約570~611、AAV3 VP1(配列番号3)のアミノ酸約571~612、AAV4 VP1(配列番号4)のアミノ酸約569~610、AAV5 VP1(配列番号5)のアミノ酸約560~601、AAV6 VP1(配列番号6)のアミノ酸約571~612、AAV7 VP1(配列番号7)のアミノ酸約572~613、AAV8 VP1(配列番号8)のアミノ酸約573~614、AAV9 VP1(配列番号9)のアミノ酸約571~612、AAV10 VP1(配列番号10)のアミノ酸約573~614の間、またはこれらのバリアントのおよそ対応するアミノ酸範囲、例えば、AAV1 VP1のアミノ酸581~596、AAV2 VP1の580~595、AAV3 VP1の581~596、AAV4の579~594、AAV5 VP1の570~585、AAV6 VP1の581~596、AAV7 VP1の582~597、AAV8 VP1の583~598、AAV9 VP1の581~596、AAV10 VP1の583~598内、またはこれらのバリアントの対応するアミノ酸範囲内の2つのアミノ酸の間のペプチドの挿入である。例えば、挿入部位は、AAV2 VP1のアミノ酸580と581との間、アミノ酸581と582との間、アミノ酸582と583との間、アミノ酸583と584との間、アミノ酸584と585との間、アミノ酸585と586との間、アミノ酸586と587との間、アミノ酸587と588との間、アミノ酸588と589との間、アミノ酸589と590との間、アミノ酸590と591との間、アミノ酸591と592との間、アミノ酸592と593との間、アミノ酸593と594との間、もしくはアミノ酸594と595との間、または別のAAVVP1またはそのバリアント中の対応するアミノ酸であり得る。
【0065】
本開示のいくつかの実施形態において特に目的となるのは、PCT公開第WO2012/145601号に開示されるペプチド挿入を含むrAAVバリアントであり、その全開示が参照によって本明細書に組み込まれる。これらのrAAVバリアントは、5~11のアミノ酸長を有するペプチド挿入を含み、つまり、挿入されるペプチドは、5個のアミノ酸、6個のアミノ酸、7個のアミノ酸、8個のアミノ酸、9個のアミノ酸、10個のアミノ酸、または11個のアミノ酸を含む。
【0066】
特に目的となる1つの例示的なペプチドは、式Iのペプチドであり、
(配列番号20)
式中、
存在する場合、Y1~Y4のそれぞれが独立して、Ala、Leu、Gly、Ser、及びThrから選択され、
存在する場合、X1が、Leu、Asn、及びLysから選択され、
X2が、Gly、Glu、Ala、及びAspから選択され、
X3が、Glu、Thr、Gly、及びProから選択され、
X4が、Thr、Ile、Gln、及びLysから選択され、
X5が、Thr及びAlaから選択され、
X6が、Arg、Asn、及びThrから選択され、
存在する場合、X7が、Pro及びAsnから選択される。
特定の実施形態において、X1及び/またはX7は、不在である。
【0067】
特に目的となる第2の例示的なペプチドは、式IIのペプチドであり、
(配列番号:21)
式中、
存在する場合、Y1~Y4のそれぞれが独立して、Ala、Leu、Gly、Ser、及びThrから選択され、
X1~X4のそれぞれが、任意のアミノ酸であり、
X5が、Thrであり、
X6が、Argであり、
X7が、Proである。
特定の実施形態において、Y1~Y4のうちのいずれか1つ以上は、不在である。
【0068】
特に目的となる第3の例示的なペプチドは、式IIIのペプチドであり、
(配列番号22)
式中、
存在する場合、Y1~Y4のそれぞれが独立して、Ala、Leu、Gly、Ser、及びThrから選択され、
存在する場合、X1が、Leu及びAsnから選択され、
存在する場合、X2が、Gly及びGluから選択され、
X3が、Glu及びThrから選択され、
X4が、Thr及びIleから選択され、
X5が、Thrであり、
X6が、Argであり、
X7が、Proである。
特定の実施形態において、Y1~Y4、X1、及びX2のうちのいずれか1つ以上は、不在である。
【0069】
特に目的となる第4の例示的なペプチドは、式IVのペプチドであり、
Y1Y2X1X2X3X4X5X6X7Y3Y4(配列番号23)
式中、
存在する場合、Y1~Y4のそれぞれが独立して、Ala、Leu、Gly、Ser、及びThrから選択され、
存在する場合、X1が、Leu、Asn、Arg、Ala、Ser、及びLysから選択され、
X2が、Gly、Glu、Ala、Val、Thr、及びAspから選択され、
X3が、Glu、Thr、Gly、Asp、及びProから選択され、
X4が、Thr、Ile、Gly、Lys、Asp、及びGlnから選択され、
X5が、Thr、Ser、Val、及びAlaから選択され、
X6が、Arg、Val、Lys、Pro、Thr、及びAsnから選択され、
X7が、Pro、Gly、Phe、Asn、及びArgから選択される。
特定の実施形態において、Y1~Y4及びX1のいずれか1つ以上は、不在である。
【0070】
これらの式を有する、特に目的となる例示的な挿入ペプチドは、配列LGETTRP(配列番号11)及びNETITRP(配列番号12)、またはこれらのバリアントを含むペプチドを含む。場合によっては、挿入ペプチドは、アミノ末端及び/またはカルボキシル末端に1~4個のスペーサーアミノ酸(Y1~Y4)を有する。好適なスペーサーアミノ酸としては、ロイシン、アラニン、グリシン、及びセリンが挙げられるが、これらに限定されない。例えば、場合によっては、挿入ペプチドは、アミノ酸配列:LALGETTRPA(配列番号13)、LANETITRPA(配列番号14)を有し、別の例として、場合によっては、挿入ペプチドは、アミノ酸配列AALGETTRPA(配列番号15)またはAANETITRPA(配列番号16)を有し、更に別の例として、場合によっては、挿入ペプチドは、アミノ酸配列GLGETTRPA(配列番号17)またはGNETITRPA(配列番号18)を有する。
【0071】
いくつかの実施形態において、主題のrAAVビリオンカプシドは、対応する親AAVカプシドタンパク質と比較して、GHループまたはその亜領域内の約5~11個のアミノ酸の挿入以外に、いかなるアミノ酸置換、挿入、または欠失も含まない。他の実施形態において、主題のrAAVビリオンカプシドは、上記のGHループまたはその亜領域内の約5~11個のアミノ酸の挿入に加えて、親AAVカプシドタンパク質と比較して、1~約25個のアミノ酸挿入、欠失、または置換を含んでもよい。例えば、当該技術分野において、いくつかのアミノ酸配列変化が開示されているが、それらのいずれも主題のrAAV中に含まれ得る。いくつかの実施形態において、主題のrAAVビリオンカプシドはキメラカプシドであり、例えば、カプシドは、第1のAAV血清型のAAVカプシドの一部分と、第2の血清型のAAVカプシドの一部分とを含み、かつ対応する親AAVカプシドタンパク質と比較して、GHループまたはその亜領域内の約5個のアミノ酸~約11個のアミノ酸の挿入を含む。
【0072】
いくつかの実施形態において、主題のrAAVビリオンは、対応する親カプシドタンパク質のVP1カプシドタンパク質と80%以上の配列同一性、例えば、対応する親カプシドタンパク質と85%以上、90%以上、95%以上、もしくは97%以上の同一性、またはそれ以上を有するアミノ酸配列を含むカプシドタンパク質と、対応する親AAVカプシドタンパク質と比較して、GHループまたはその亜領域内の約5~11個のアミノ酸の挿入とを含む。例えば、配列番号19に記載される7m8VP1配列との80%以上の配列同一性、例えば、7m8VP1配列との85%以上の同一性、90%以上の同一性、または95%以上の同一性、いくつかの例において、配列番号19に提供されるアミノ酸配列との97%以上の同一性、98%以上の同一性、または少なくとも約99%の配列同一性。
【0073】
主題の組成物によって包含され、主題の方法において用途を見出すrAAVバリアントは、それらが錐体光受容体(例えば、中心窩錐体光受容体)に形質導入する有効性を決定することによって、そのようなものとして容易に確認される。例えば、当該技術分野において既知である、錐体プロモーターに作動可能に連結されるGFPを含む発現カセットを含むAAVウイルスゲノムを含むウイルス粒子が作製され、主題のrAAV中にパッケージングされ、ウイルス粒子が哺乳動物の眼(例えば、マウス、ラット、ウサギ、スナネズミ、ハムスター、リスの眼)の硝子体、または霊長動物、例えば、非ヒト霊長動物に注射されてもよい。本開示によって包含されるrAAVビリオンは典型的には、硝子体内注射を介して投与されるとき、対応する親AAVカプシドタンパク質を含むAAVビリオンによる錐体光受容体の感染力と比較して、少なくとも2倍、少なくとも5倍、少なくとも10倍、少なくとも15倍、少なくとも20倍、少なくとも25倍、少なくとも50倍、いくつかの例において、50倍超、例えば、少なくとも60倍、少なくとも70倍、少なくとも80倍、少なくとも90倍、例えば、100倍以上増加した錐体光受容体の感染力を呈するだろう。換言すると、主題の方法における使用のために好適なrAAVビリオンは、対応する親AAVカプシドタンパク質を含むAAVビリオンよりも、少なくとも10倍多い、少なくとも15倍多い、少なくとも20倍多い、少なくとも50倍多い、いくつかの例において、50倍超多い錐体光受容体、例えば、少なくとも60倍、少なくとも70倍、少なくとも80倍、少なくとも90倍、例えば、100倍多い錐体光受容体を感染させるだろう。
【0074】
いくつかの実施形態において、本方法は、錐体光受容体中の送達されたポリヌクレオチドの存在を検出するステップを更に含んでもよい。任意の簡便な方法を用いて、ポリヌクレオチドの存在を検出することができる。例えば、ポリヌクレオチドは、例えば、PCR及びNext Gen配列決定などを使用して検出することができ、ポリヌクレオチドによってコードされる遺伝子産物の発現は、RT-PCR、ノーザンブロット法、RNAseプロテクション法、ウェスタンブロット法、ELISA、及び免疫組織化学法などによって検出することができる。これらの方法は、前臨床研究に特に適している。臨床研究において、機能的遺伝子産物の存在を検出することによって、つまり、対象における錐体光受容体の生存能または機能に対する遺伝子産物の影響を検出することによって、ポリヌクレオチドの存在を検出することが好ましくあり得る。例えば、ポリヌクレオチドによってコードされる遺伝子産物が、錐体光受容体の生存能を改善する場合、錐体光受容体の生存能の改善は、ポリヌクレオチドの存在を検出する方法として、例えば、眼底写真、光干渉断層撮影法(OCT)、及び補償光学法(AO)などによって検出することができる。ポリヌクレオチドによってコードされる遺伝子産物が、錐体光受容体の活性を変化させる場合、錐体光受容体の改変された活性は、送達されたポリヌクレオチドの存在を検出する方法として、例えば、網膜電図(ERG)及びカラーERG(cERG);偽性同色表(Ishihara表、Hardy-Rand-Ritter多色表)、Farnsworth-Munsell100色相検査、FarnsworthパネルD-15、市立大学検査、及びKollnerの法則などの色覚検査;ならびにETDRS文字検査及びSnellen視力検査などの視力検査によって検出することができる。
【0075】
上記に論じられるように、いくつかの実施形態において、主題の組成物及び方法によって送達されるポリヌクレオチドは、それが送達される錐体光受容体によって発現される。換言すると、本発明のいくつかの態様において、錐体光受容体中で遺伝子産物を発現させるための方法が提供され、本方法は、錐体光受容体に、目的となる遺伝子産物をコードするポリヌクレオチドを送達することを含む。当業者によってよく理解されるように、錐体細胞による、目的となるポリヌクレオチドの発現は典型的には、目的となるポリヌクレオチドがプロモーターに作動可能に連結されることを必要とする。当業者によってまた理解されるように、これを達成することができるいくつかの方法が存在する。例えば、ポリヌクレオチドは、プロモーターに動作可能に連結される宿主細胞、すなわち、錐体光受容体に送達されてもよい。換言すると、目的となるポリヌクレオチドを含むウイルスゲノムはプロモーターもまた含み、このプロモーターがポリヌクレオチドに作動可能に連結されて、発現カセットを形成する。別の例として、ポリヌクレオチドは、宿主ゲノムへのポリヌクレオチドの組み込みを促進する配列と隣接している宿主細胞、すなわち、錐体光受容体に送達されてもよい。換言すると、目的となるポリヌクレオチドを含むウイルスゲノムは、宿主細胞プロモーターの3’末端と隣接している配列と相同である、目的となるポリヌクレオチドと隣接している配列を含み、宿主ゲノムへの目的となるポリヌクレオチドの組み換えを促進することで、それが宿主細胞プロモーターに作動可能に連結されるようにする。目的となるポリヌクレオチドの発現を確実にするために用いることができる組み換えウイルスゲノムの他の方略は、当業者によって容易に想定され、例えば、米国出願公開第2013/0280222号(その全開示が参照によって本明細書に組み込まれる)を参照されたい。
【0076】
したがって、いくつかの例において、rAAVによって構成されるウイルスゲノムは、目的となるポリヌクレオチドに作動可能に連結にされるプロモーターを含む。いくつかの例において、プロモーターは遍在性プロモーターであり、すなわち、それは幅広い細胞、組織、及び種において活性であるプロモーターである。他の例において、プロモーターは、錐体プロモーターである。錐体プロモーターによって、錐体光受容体中で活性である、すなわち、それが作動可能に連結されるポリヌクレオチドの、錐体光受容体中での発現を促進するプロモーターが意味される。主題の組成物中で用途を見出す錐体プロモーターの非限定的な例としては、米国特許仮出願第61/954,330号及び同第62/127,185号に開示されるpMNTCプロモーター;例えば、米国出願第2013/0317091号に開示されるpR2.1プロモーターもしくはそのバリアント(例えば、pR1.7、pR1.5、pR1.1など);または米国出願第2014/0275231号に開示される合成IRBP/GNAT2プロモーターが挙げられ、それらの全開示が参照によって本明細書に組み込まれる。他の例において、rAAVによって構成されるウイルスゲノムは、宿主ゲノム内の標的組み込み部位と相同性を有する2つの配列、つまり、組み込み部位の5’領域と相同であり、ウイルスゲノム上のポリヌクレオチドの5’側に位置付けられる第1の配列、及び組み込み部位の3’領域と相同であり、ウイルスゲノム上のポリヌクレオチドの3’側に位置付けられる第2の配列を含み、標的組み込み部位は、宿主プロモーター、例えば、錐体プロモーター、例えば、Lオプシンプロモーター、Mオプシンプロモーターの3’側であり、かつそれに作動可能に連結される。
【0077】
いくつかの実施形態において、形質導入は、野生型または他の親カプシドが用いられるときに観察される発現と比較して、増強される。増強によって、対象の錐体光受容体において、形質導入が、例えば、少なくとも2倍、少なくとも5倍、少なくとも10倍、少なくとも15倍、少なくとも20倍、少なくとも25倍、少なくとも50倍、いくつかの例において、50倍超、例えば、少なくとも60倍、少なくとも70倍、少なくとも80倍、少なくとも90倍、例えば、100倍、野生型または他の親カプシドタンパク質を使用して観察されるレベルを超えて、かつ通常錐体の生存能及び/または機能に対して影響を有する量、例えば、対象に治療利益を提供する量まで、上昇、増加、または増大されることが意味される。
【0078】
主題のバリアントrAAVによる錐体細胞の形質導入の増強は、バリアントrAAVによってそれらの細胞に送達されるポリヌクレオチド、例えば、発現カセットの発現の増強をもたらすことが期待される。主題の開示のrAAVによるポリヌクレオチドの発現の増強は、いくつかの方法で観察することができる。例えば、発現の増強は、ポリヌクレオチドが親rAAVによって送達される場合に発現が検出されるよりも、例えば、7日早く、2週間早く、3週間早く、4週間早く、8週間早く、12週間早く、またはそれ以上早く、バリアントrAAVが錐体細胞に接触した後に、ポリヌクレオチドの発現を検出することによって観察することができる。発現の増強はまた、1細胞当たりの遺伝子産物の量の増加としても観察することができる。例えば、1錐体細胞当たりの遺伝子産物の量の、2倍以上の増加、例えば、3倍以上の増加、4倍以上の増加、5倍以上の増加、または10倍以上の増加が存在し得る。発現の増強はまた、バリアントrAAVによって担持される検出可能なレベルのポリヌクレオチドを発現する錐体細胞の数の増加としても観察することができる。例えば、検出可能なレベルのポリヌクレオチドを発現する錐体細胞の数の、2倍以上の増加、例えば、3倍以上の増加、4倍以上の増加、5倍以上の増加、または10倍以上の増加が存在し得る。別の例として、本発明のポリヌクレオチドは、親rAAVと比較して、より大きなパーセンテージの細胞内で、検出可能なレベルのポリヌクレオチドを促進することができ、例えば、親rAAVが、例えば、特定の領域内の錐体細胞のうちの5%未満において検出可能なレベルのポリヌクレオチド発現を促進することができる場合、本発明のrAAVは、その領域内の錐体細胞のうちの5%以上において検出可能なレベルの発現を促進し、例えば、接触される錐体細胞のうちの10%以上、15%以上、20%以上、25%以上、30%以上、35%以上、40%以上、または45%以上、いくつかの例において、50%以上、55%以上、60%以上、65%以上、70%以上、または75%以上、例えば、80%以上、85%以上、90%以上、または95%以上が、検出可能なレベルの遺伝子産物を発現するだろう。発現の増強はまた、例えば、当該技術分野において既知であり、かつ本明細書に記載される、眼底写真、OCT、補償光学法、cERG、色覚検査、及び視力検査などの評価ツールを使用して測定される、錐体細胞の生存能及び/または機能の変化としても観察することができる。
【0079】
いくつかの実施形態において、本方法は、錐体光受容体中のポリヌクレオチドの発現を検出するステップを更に含んでもよい。そのような実施形態において、当該技術分野において既知であるか、または本明細書に記載される任意の簡便な方法を用いて、ポリヌクレオチドの発現を検出することができ、主題の方法において、例えば、遺伝子産物(すなわち、コードされたRNAもしくはタンパク質)の、例えば、RT-PCR、ノーザンブロット法、RNAseプロテクション法、ウェスタンブロット法、ELISA、及び免疫組織化学法などによる検出;例えば、眼底写真、光干渉断層撮影法(OCT)、補償光学法(AO)による、錐体光受容体の生存能に対する遺伝子産物の影響の検出;または錐体機能に対する遺伝子産物の影響の検出、例えば、網膜電図検査法(ERG)、色覚検査、視力検査などのうちのいずれを用いてもよい。
【0080】
本開示の目的となるポリヌクレオチドを含むrAAVビリオンは、当該技術分野において既知である、任意の簡便な方法論、AAVパッケージング細胞、及びパッケージング技術を使用して生成することができる。例えば、AAV発現ベクター(つまり、rAAVゲノム、及び例えば、細菌中で、ゲノム要素のクローニングにとって有用な要素、例えば、複製起点、選択可能マーカーなどを含むプラスミド)が、哺乳動物プロデューサー細胞にトランスフェクトされてもよい。同様に哺乳動物プロデューサー細胞にトランスフェクトされるのは、AAVヘルパー構築物、すなわち、プロデューサー細胞内に発現され得、AAV発現ベクターに不在であるAAVヘルパー機能を補完する、AAV REP及びCAPコード領域を含むプラスミドである。その後、二重トランスフェクトされたプロデューサー細胞は、ヘルパーウイルス、例えば、アデノウイルスによって感染されるか、またはAAVベクター複製を促進するヘルパーウイルス付属遺伝子(例えば、領域VA、E2A、E4)を含むプラスミドでトランスフェクトされることで、効率的なrAAVウイルス産生を促進するようになる。その後、プロデューサー細胞を培養して、rAAVを生成し、当該技術分野において既知である標準的技術を使用して、AAVベクターを精製し、製剤化する。
【0081】
別の例として、AAV発現ベクターは、バキュロウイルスとしてパッケージングされ、昆虫プロデューサー細胞、例えば、Sf9細胞に導入されてもよい。別のバキュロウイルスによって同様に昆虫細胞に導入されるのは、AAV REP及びCAP遺伝子である。ウイルスであるバキュロウイルスは、効率的なrAAVウイルス産生のために必要である付属機能をコードする遺伝子を含む。したがって、2つのバキュロウイルスによる昆虫細胞の感染時に、プロデューサー細胞を培養してrAAVを生成し、当該技術分野において既知である標準的技術を使用してAAVベクターを精製し、製剤化することができる。
【0082】
これらの及び他の方法の例は、例えば、米国特許第5,436,146号、同第5,753,500号、同第6,040,183号、同第6,093,570号、及び同第6,548,286号に見出すことができ、それらの全体が参照によって本明細書に明確に組み込まれる。パッケージングのための更なる組成物及び方法は、Wangら(US2002/0168342)に記載され、その全体もまた参照によって本明細書に組み込まれる。
【0083】
rAAVビリオンを生成するために当該技術分野において使用される任意の簡便な宿主細胞は、例えば、哺乳動物細胞、昆虫細胞、微生物及び酵母菌、例えば、SF-9、293、A549、HeLa細胞などを含む、主題のベクターの産生において用いることができる。いくつかの例において、宿主細胞は、AAV rep及びcap遺伝子が宿主細胞内で安定して維持される、パッケージング細胞である。いくつかの例において、宿主細胞は、AAVベクターゲノムが安定して維持され、パッケージングされる、プロデューサー細胞である。
【0084】
薬学的組成物及び単位投与量
いくつかの実施形態、例えば、遺伝子治療法用途において、主題のrAAVを薬学的組成物として製剤化することが望ましいだろう。特定の実施形態において、薬学的組成物は、本明細書に記載されるベクターまたはビリオン(例えば、rAAV)、及び1つ以上の薬学的に許容される担体、希釈剤、または賦形剤を含む。使用のために好適な薬学的組成物としては、無菌水溶液または分散剤、及び無菌注射可能溶液または分散剤の即時調製用の無菌粉末が挙げられる。静脈内投与について、好適な担体としては、生理食塩水、静菌水、またはリン酸緩衝食塩水(PBS)が挙げられる。いずれの場合も、組成物は無菌でなくてはならず、容易な注射可能性が存在する程度まで流動性であるべきである。それは、製造及び保管条件下で安定でなくてはならず、細菌及び真菌などの微生物の汚染作用に対して保存されなくてはならない。担体は、例えば、水、エタノール、ポリオール(例えば、グリセロール、プロピレングリコール、及び液体ポリエチレングリコールなど)、及びこれらの好適な混合物を含有する溶媒または分散剤培地であってもよい。例えば、レシチンなどのコーティングの使用によって、分散剤の場合、必要とされる粒径の維持によって、及び界面活性剤の使用によって、適切な流動性を維持することができる。微生物作用の予防は、様々な抗細菌剤及び抗真菌剤、例えば、パラベン、クロロブタノール、フェノール、アスコルビン酸、及びチメロサールなどによって達成することができる。多くの場合、組成物中に等張剤、例えば、糖、ポリアルコール(マニトール、ソルビトールなど)、塩化ナトリウムを含むことが好ましいだろう。内部組成物の吸収の延長は、吸収を遅延させる薬剤、例えば、モノステアリン酸アルミニウム及びゼラチンを組成物中に含めることによって、もたらすことができる。
【0085】
無菌溶液は、必要に応じて、上記に列挙される成分のうちの1つまたはそれらの組み合わせを有する適切な溶媒中に、必要とされる量の活性化合物を組み込み、その後、濾過滅菌することによって調製することができる。一般に、分散剤は、基礎分散培地、及び上記に列挙されるものからの必要とされる他の成分を含有する無菌ビヒクル中に、活性化合物を組み込むことによって調製される。無菌注射可能溶液の調製用の無菌粉末の場合、調製方法は、活性成分に加えて、以前に無菌濾過されたその溶液に由来する任意の追加の所望される成分の粉末をもたらす、真空乾燥及び凍結乾燥である
【0086】
一実施形態において、活性化合物は、埋め込み剤及びマイクロカプセル化送達系を含む、体内からの急速な排出から化合物を保護する担体(徐放製剤など)とともに調製される。エチレン酢酸ビニル、ポリ酸無水物、ポリグリコール酸、コラーゲン、ポリオルトエステル、及びポリ乳酸などの生分解性、生体適合性ポリマーが使用されてもよい。そのような製剤の調製のための方法は、当業者に明らかとなるだろう。材料はまた、商業的に得ることもできる。リポソーム懸濁液(ウイルス抗原に対するモノクローナル抗体を用いて感染細胞に標的を定められたリポソームを含む)もまた、薬学的に許容される担体として使用することができる。これらは、例えば、米国特許第4,522,811号に記載される、当業者に既知の方法に従って調製することができる。
【0087】
主題の開示の薬学的組成物は、任意の薬学的に許容される塩、エステル、もしくはそのようなエステルの塩、またはヒトを含む動物への投与時に生物学的に活性な代謝物もしくはその残基を(直接的もしくは間接的に)提供することができる、任意の他の化合物を包含する。したがって、例えば、本開示はまた、本発明の化合物のプロドラッグ及び薬学的に許容される塩、そのようなプロドラッグの薬学的に許容される塩、ならびに生物学的等価物に向けられる。
【0088】
「プロドラッグ」という用語は、内在性酵素もしくは他の化学物質、及び/または条件の作用によって、体内またはその細胞内で活性形態(すなわち、薬物)に変換される不活性形態で調製される、治療剤を示す。
【0089】
「薬学的に許容される塩」という用語は、本発明の化合物の生理的かつ薬学的に許容される塩、すなわち、親化合物の所望される生物活性を保持し、それに対して望まれない毒性学的効果を与えない塩を指す。
【0090】
薬学的に許容される塩基付加塩は、アルカリ及びアルカリ土類金属または有機アミンなどの金属またはアミンで形成される。カチオンとして使用される金属は、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、及びカルシウムなどを含む。アミンは、N-N’-ジベンジルエチレンジアミン、クロロプロカイン、コリン、ジエタノールアミン、ジシクロヘキシルアミン、エチレンジアミン、N-メチルグルカミン、及びプロカインを含む(例えば、Berge et al.,“Pharmaceutical Salts,”J.Pharma Sci.,1977,66,119を参照されたい)。該酸性化合物の塩基付加塩は、従来の様式で、遊離酸形態を十分な量の所望される塩基と接触させて、塩を生成することによって調製される。遊離酸形態は、従来の様式で、塩形態を酸と接触させ、遊離酸を単離させることによって再生させることができる。遊離酸形態は、極性溶媒中の溶解性などの特定の物理的特性において、それらのそれぞれの塩形態とは幾分異なるが、その他の点では、塩は、本発明の目的にとってはそれらのそれぞれの遊離酸と等価である。
【0091】
本明細書で使用される場合、「薬学的付加塩」は、本発明の組成物の構成成分のうちの1つの酸形態の薬学的に許容される塩を含む。これらは、アミンの有機または無機酸塩を含む。好ましい酸塩は、塩酸塩、酢酸塩、サリチル酸塩、硝酸塩、及びリン酸塩である。他の好適な薬学的に許容される塩は、当業者に周知であり、例えば、無機酸(例えば、塩酸、臭化水素酸、硫酸、もしくはリン酸など)などを有する;有機カルボン酸、スルホン酸、スルホ酸、もしくはホスホ酸、またはN置換スルファミン酸、例えば、酢酸、プロピオン酸、グリコール酸、コハク酸、マレイン酸、ヒドロキシマレイン酸、メチルマレイン酸、フマル酸、リンゴ酸、酒石酸、乳酸、シュウ酸、グルコン酸、グルカル酸、グルクロン酸、クエン酸、安息香酸、ケイ皮酸、マンデル酸、サリチル酸、4-アミノサリチル酸、2-フェノキシ安息香酸、2-アセトキシ安息香酸、エンボン酸、ニコチン酸、もしくはイソニコチン酸を有する;ならびに自然界でのタンパク質の合成に関与する20アルファ-アミノ酸などのアミノ酸、例えば、グルタミン酸もしくはアスパラギン酸を有し、かつまたフェニル酢酸、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、2-ヒドロキシエタンスルホン酸、エタン-1,2-ジスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、4-メチルベンゼンスルホン酸、ナフタレン-2-スルホン酸、ナフタレン-1,5-ジスルホン酸、2-もしくは3-ホスホグリセリン酸、グルコース-6-リン酸、N-シクロヘキシルスルファミン酸(サイクラミン酸塩の形成による)も有するか、または他の酸性有機化合物(アスコルビン酸など)も有する、様々な無機及び有機酸の塩基性塩を含む。化合物の薬学的に許容される塩もまた、薬学的に許容されるカチオンによって調製することができる。好適な薬学的に許容されるカチオンは、当業者に周知であり、アルカリ、アルカリ土類、アンモニウム、及び四級アンモニウムカチオンを含む。炭酸塩または炭酸水素塩もまた可能である。オリゴヌクレオチドについて、薬学的に許容される塩の好ましい例としては、(I)カチオン(ナトリウム、カリウム、アンモニウム、マグネシウム、カルシウムなど)ならびにポリアミド(スペルミン及びスペルミジンなど)などで形成される塩、(II)無機酸、例えば、塩酸、臭化水素酸、硫酸、リン酸、及び硝酸などで形成される酸付加塩、(III)例えば、酢酸、シュウ酸、酒石酸、コハク酸、マレイン酸、フマル酸、グルコン酸、クエン酸、リンゴ酸、アスコルビン酸、安息香酸、タンニン酸、パルミチン酸、アルギン酸、ポリグルタミン酸、ナプタレンスルホン酸(napthalenesulfonic acid)、メタンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸、ナフタレンジスルホン酸、及びポリガラクツロン酸などの有機酸で形成される塩、ならびに(IV)塩素、臭素、及びヨウ素などの元素アニオンから形成される塩が挙げられるが、これらに限定されない。
【0092】
本発明の薬学的組成物は、溶液、エマルジョン、及びリポソーム含有製剤を含むが、これらに限定されない。これらの組成物は、事前形成された液体、自己乳化固体、及び自己乳化半固体を含むが、これらに限定されない、様々な構成成分から生成することができる。
【0093】
本発明の特定の組成物はまた、製剤中に担体化合物も組み込む。本明細書で使用される場合、「担体化合物」または「担体」は、不活性である(すなわち、生物活性それ自体を持たない)が、例えば、生物学的に活性な核酸を分解するか、または循環からのその除去を促進することによって生物活性を有する核酸の生物学的利用能を低減するインビボプロセスによって、核酸として認識される、核酸またはその類似体を指し得る。核酸及び担体化合物の同時投与(典型的には、過剰量の後者の物質をもって)は、おそらくは共通の受容体に対する担体化合物と核酸との間の競合のために、肝臓、腎臓、または他の追加の循環貯蔵器から回収される核酸の量の実質的な低減をもたらすことができる。例えば、肝臓組織中の部分的にホスホロチオエートオリゴヌクレオチドの回収は、それがポリイノシン酸、硫酸デキストラン、ポリシチジン酸(polycytidic acid)、または4-アセトアミド-4’イソチオシアノ-スチルベン-2,2’ジスルホン酸と同時投与される場合に、低減され得る(Miyao et al.,Antisense Res.Dev.,1995,5,115-121、Takakura et al.,Antisense&Nucl.Acid Drug Dev.,1996,6,177-183)。
【0094】
主題の組み換えAAVは、哺乳動物患者、具体的にはヒトに投与するために、薬学的組成物中に組み込まれてもよい。ビリオンは、好ましくは3~8の範囲、より好ましくは6~8の範囲のpHの、無毒性、不活性の薬学的に許容される水性担体中に製剤化することができる。そのような無菌組成物は、再構成時に許容可能なpHを有する水性緩衝剤中に溶解した治療分子をコードする核酸を含有する、ベクターまたはビリオンを含むだろう。
【0095】
いくつかの実施形態において、本明細書に提供される薬学的組成物は、薬学的に許容される担体及び/または賦形剤(例えば、食塩水、リン酸緩衝食塩水、リン酸及びアミノ酸、ポリマー、ポリオール、糖、緩衝剤、保存剤、ならびに他のタンパク質)との混合物中に、治療有効量のベクターまたはビリオンを含む。例示的なアミノ酸、ポリマー、及び糖などは、オクチルフェノキシポリエトキシエタノール化合物、モノステアリン酸ポリエチレングリコール化合物、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、スクロース、フルクトース、デキストロース、マルトース、グルコース、マンニトール、デキストラン、ソルビトール、イノシトール、ガラクチトール、キシリトール、ラクトース、トレハロース、ウシまたはヒト血清アルブミン、クエン酸、酢酸、リンゲル溶液及びハンクス溶液、システイン、アルギニン、カルニチン、アラニン、グリシン、リジン、バリン、ロイシン、ポリビニルピロリドン、ポリエチレン、ならびにグリコールである。好ましくは、この製剤は、4℃で少なくとも6ヶ月間安定である。
【0096】
いくつかの実施形態において、本明細書に提供される薬学的組成物は、リン酸緩衝食塩水(PBS)またはリン酸ナトリウム/硫酸ナトリウム、トリス緩衝剤、グリシン緩衝剤、無菌水、及び当業者に既知の他の緩衝剤(Good et al.(1966)Biochemistry5:467によって記載されるものなど)などの緩衝剤を含む。アデノウイルスベクター送達系中に含有される腫瘍抑制遺伝子を含む薬学的組成物、緩衝剤のpHは、6.5~7.75、好ましくは7~7.5、及び最も好ましくは7.2~7.4の範囲内であり得る。
【0097】
いくつかの実施形態において、本明細書に提供される薬学的組成物は、約1~10パーセント(1、2、3、4、5、6、7、8、9、または10パーセントなど)の量の懸濁液の粘度を増加させる物質(ナトリウムカルボキシメチルセルロース、ソルビトール、またはデキストランなど)を含む。
【0098】
薬学的組成物は、投与のための説明書とともに、容器、パック、または分注器内に含まれてもよい。
【0099】
いくつかの例において、例えば、眼球内、経口、または親投与のために、投与の容易さ及び投与量の均一性のために単位剤形で薬学的組成物を製剤化することが特に有利であり得る。本明細書で使用される場合、単位剤形は、治療される対象への単位投与量として適した物理的に別々の単位を指し、各単位は、必要とされる薬学的担体との関連で、所望される治療効果を生成するように計算された所定の量の活性化合物を含有する。本発明の単位剤形の規格は、活性化合物特有の特徴及び達成される特定の治療効果、ならびに個体の治療のためにそのような活性化合物を化合する当該技術分野における固有の限界によって指示され、かつそれらに直接依存する。
【0100】
場合によっては、本開示の薬学的組成物の単位用量は、pfu(プラーク形成単位)として測定され得る。場合によっては、本開示の薬学的組成物の単位用量のpfuは、約1×10~約5×1010pfuであり得る。場合によっては、本開示の薬学的組成物の単位用量のpfuは、少なくとも約1×10、2×10、3×10、4×10、5×10、6×10、7×10、8×10、9×10、1×10、2×10、3×10、4×10、5×10、6×10、7×10、8×10、9×10、1×1010、2×1010、3×1010、4×1010、及び5×1010pfuである。場合によっては、本開示の薬学的組成物の単位用量のpfuは、最大で約1×10、2×10、3×10、4×10、5×10、6×10、7×10、8×10、9×10、1×10、2×10、3×10、4×10、5×10、6×10、7×10、8×10、9×10、1×1010、2×1010、3×1010、4×1010、及び5×1010pfuである。
【0101】
場合によっては、本開示のウイルスベクターは、ベクターゲノムとして測定され得る。場合によっては、本開示の薬学的組成物の単位用量は、1×10個以上のベクターゲノム、例えば、1×10個、1×1010個、1×1011個、1×1012個、または1×1013個以上のベクターゲノム、特定の例において、1×1014個以上のベクターゲノム、及び通常1×1015個以下のベクターゲノムである。いくつかの実施形態において、本開示の薬学的組成物の単位用量は、最大で約1×1015個のベクターゲノム、例えば、1×1014個以下のベクターゲノム、例えば、1×1013個、1×1012個、1×1011個、1×1010個、または1×10個以下のベクターゲノム、特定の例において、1×10個のベクターゲノム、及び典型的には、1×10個以上のベクターゲノムである。場合によっては、本開示の薬学的組成物の単位用量は、1×1010~1×1011個のベクターゲノムである。場合によっては、本開示の薬学的組成物の単位用量は、1×1010~3×1012個のベクターゲノムである。場合によっては、本開示の薬学的組成物の単位用量は、1×10~3×1013個のベクターゲノムである。場合によっては、本開示の薬学的組成物の単位用量は、1×10~3×1014個のベクターゲノムである。
【0102】
場合によっては、本開示の薬学的組成物の単位用量は、感染多重度(MOI)を使用して測定され得る。場合によっては、MOIは、核が送達され得る細胞に対する、ベクターまたはウイルスゲノムの比率、つまり多重度を指し得る。場合によっては、MOIは、1×10であり得る。場合によっては、MOIは、1×10~1×10であり得る。場合によっては、MOIは、1×10~1×10であり得る。場合によっては、本開示の組み換えウイルスは、少なくとも約1×10、1×10、1×10、1×10、1×10、1×10、1×10、1×10、1×10、1×1010、1×1011、1×1012、1×1013、1×1014、1×1015、1×1016、1×1017、及び1×1018のMOIである。場合によっては、本開示の組み換えウイルスは、1×10~3×1014のMOIである。場合によっては、本開示の組み換えウイルスは、最大で約1×10、1×10、1×10、1×10、1×10、1×10、1×10、1×10、1×10、1×1010、1×1011、1×1012、1×1013、1×1014、1×1015、1×1016、1×1017、及び1×1018のMOIである。
【0103】
いくつかの態様において、薬学的組成物は、約1×10~約1×1015個の組み換えウイルス、約1×10~約1×1014個の組み換えウイルス、約1×1010~約1×1013個の組み換えウイルス、約1×10109~約3×1012個の組み換えウイルス、または約1×1011~約3×1012個の組み換えウイルスを含む。
【0104】
投与方法
本発明の薬学的組成物は、任意の簡便な方法、例えば、眼球内、静脈内、腹腔内などによって、対象の眼に投与され得る。いくつかの例において、投与は、例えば、硝子体内注射または網膜下注射による、眼球内投与である。硝子体内注射または網膜下注射を介してベクターを送達するための一般的方法は、以下の簡潔な概要によって説明され得る。これらの例は、単に本方法の特定の特徴を説明することが意図されるにすぎず、決して限定的であることは意図されない。
【0105】
好ましい実施形態において、主題のrAAVは、硝子体内送達される。硝子体内投与について、ベクターは、懸濁液の形態で送達され得る。最初に、眼の表面に局所麻酔剤を適用し、その後、局所消毒溶液を適用する。器具を使用するか、または使用せずに、眼を開いたまま維持し、直接観察下、細く短い(例えば、30ゲージの)針によって、強膜を通して対象の眼の硝子体腔内にベクターを注射する。硝子体内投与は一般に、良好に耐容される。この手順の結果として、注射部位に軽度の発赤が存在することがある。圧痛が時折存在するが、ほとんどの患者はいかなる疼痛も報告しない。この手順の後、眼帯または眼保護帯は必要なく、活動は制限されない。感染の予防を助けるために、抗生物質目薬が数日間処方されることがある。
【0106】
いくつかの実施形態において、主題のrAAVは、網膜下送達される。網膜下投与について、ベクターは、直接観察下、手術用顕微鏡を使用して網膜下注射される懸濁液の形態で送達され得る。この手順は、硝子体切開、その後、微細なカニューレを使用して、1つ以上の小さな網膜切開を通して網膜下の空間にベクター懸濁液を注射することを伴い得る。
【0107】
簡潔には、手術を通して、(例えば、食塩水の)注入による正常な眼球体積を維持するために、注入カニューレを定位置に縫合してもよい。適切な口径(例えば、20~27ゲージ)のカニューレを使用して硝子体切開を実行し、除去される硝子体ゲルの体積を、注入カニューレからの食塩水または他の等張液の注入によって置換する。硝子体切開は、(1)その皮層(後部硝子体膜)の除去が、カニューレによる網膜の穿通を促進し、(2)その除去及び流体(例えば、食塩水)による置換が、ベクターの眼球内注射を収容するための空間を作製し、かつ(3)その制御された除去が網膜裂孔及び予定外の網膜剥離の可能性を低減するため、有利に実行される。
【0108】
主題の方法を実行する上で、主題のrAAVビリオンは、対象の錐体光受容体のうちの5%以上、例えば、対象の錐体光受容体のうちの10%以上、20%以上、30%以上、40%以上、または50%以上、例えば、対象の錐体光受容体のうちの60%以上、70%以上、80%以上、または90%以上、いくつかの例において、対象の錐体光受容体のうちの95%以上、98%以上、または100%に、目的となるポリヌクレオチドを送達して、対象個体に治療利益をもたらすのに有効な量で、眼に送達される。換言すると、投与後、対象の錐体光受容体のうちの5%以上、例えば、錐体の10%以上、20%以上、30%以上、40%以上、または50%以上、いくつかの例において、60%以上、70%以上、80%以上、または90%以上、例えば、95%、98%、または100%が、錐体の生存能及び/または機能に対して影響を有して、例えば、ある障害を治療または予防するのに十分な量の目的となるポリヌクレオチドを含むだろう。いくつかの実施形態において、形質導入された錐体光受容体が、網膜内に位置付けられるだろう。いくつかの実施形態において、形質導入された錐体光受容体は、中心窩及び小窩内の錐体であるだろう。いくつかの実施形態において、形質導入された錐体光受容体は、中心窩錐体、すなわち、中心窩内に位置付けられたLまたはM錐体であるだろう。
【0109】
典型的には、有効量は、約1×10個以上の主題のrAAVのベクターゲノム、例えば、1×10個、1×1010個、1×1011個、1×1012個、または1×1013個以上のベクターゲノム、特定の例において、1×1014個以上のベクターゲノム、及び通常1×1015個以下のベクターゲノムであるだろう。場合によっては、送達されるベクターゲノムの量は、最大で約1×1015個のベクターゲノム、例えば、1×1014個以下ベクターゲノム、例えば、1×1013個、1×1012個、1×1011個、1×1010個、または1×10個以下のベクターゲノム、特定の例において、1×10個のベクターゲノム、及び典型的には、1×10個以上のベクターゲノムである。場合によっては、送達されるベクターゲノムの量は、1×1010個~1×1011個のベクターゲノムである。場合によっては、送達されるベクターゲノムの量は、1×1010~3×1012個のベクターゲノムである。場合によっては、送達されるベクターゲノムの量は、1×10~3×1013個のベクターゲノムである。場合によっては、送達されるベクターゲノムの量は、1×10~3×1014個のベクターゲノムである。
【0110】
場合によっては、投与される薬学的組成物の量は、感染多重度(MOI)を使用して測定され得る。場合によっては、MOIは、核が送達され得る細胞に対する、ベクターまたはウイルスゲノムの比率、つまり多重度を指し得る。場合によっては、MOIは、1×10であり得る。場合によっては、MOIは、1×10~1×10であり得る。場合によっては、MOIは、1×10~1×10であり得る。場合によっては、本開示の組み換えウイルスは、少なくとも約1×10、1×10、1×10、1×10、1×10、1×10、1×10、1×10、1×10、1×1010、1×1011、1×1012、1×1013、1×1014、1×1015、1×1016、1×1017、及び1×1018のMOIである。場合によっては、本開示の組み換えウイルスは、1×10~3×1014のMOIである。場合によっては、本開示の組み換えウイルスは、最大で約1×10、1×10、1×10、1×10、1×10、1×10、1×10、1×10、1×10、1×1010、1×1011、1×1012、1×1013、1×1014、1×1015、1×1016、1×1017、及び1×1018MOIである。
【0111】
いくつかの態様において、薬学的組成物の量は、約1×10~約1×1015個の組み換えウイルス、約1×10~約1×1014個の組み換えウイルス、約1×1010~約1×1013個の組み換えウイルス、約1×1010~約3×1012個の組み換えウイルス、または約1×1011~約3×1012個の組み換えウイルスを含む。
【0112】
有用性
ポリヌクレオチドを錐体光受容体、及びより具体的には中心窩錐体に硝子体内送達するための方法及び組成物は、研究及び医薬において多くの用途を見出す。
【0113】
例えば、そのような方法及び組成物は、インビボでのポリヌクレオチドによる遺伝子産物コードの機能を試験して、例えば、錐体光受容体の機能、ならびに/または遺伝子産物が錐体光受容体の生存能及び/もしくは機能に影響を与えるのかをより良好に理解するための研究において、使用することができる。
【0114】
上記に暗示されるように、本明細書においてまとめて「主題の組成物」と呼ばれる主題のrAAVは、動物の錐体細胞内、例えば、動物の中心窩錐体内での導入遺伝子の発現において用途を見出す。例えば、主題の組成物は、例えば、遺伝子が錐体細胞生存能及び/または機能に対して有する効果を決定するための研究において使用することができる。別の例として、主題の組成物は、医薬において、例えば、錐体細胞障害を治療するために使用することができる。したがって、本発明のいくつかの態様において、錐体細胞内での遺伝子の発現のための方法であって、錐体細胞を本開示の組成物と接触させることを含む方法が提供される。いくつかの実施形態において、接触はインビトロで発生する。いくつかの実施形態において、接触はインビボで発生し、すなわち、主題の組成物は対象に投与される。
【0115】
錐体細胞が主題のrAAVとインビトロで接触される例について、細胞は、任意の哺乳動物種、例えば、齧歯類(例えば、マウス、ラット、スナネズミ、リス)、ウサギ、ネコ、イヌ、ヤギ、ヒツジ、ブタ、ウマ、ウシ、霊長動物、ヒトに由来するものであり得る。細胞は、樹立細胞株、例えば、WERI細胞、661W細胞に由来するものであってもよく、またはそれらは、初代細胞であってもよく、「初代細胞」、「初代細胞株」、及び「初代培養」は、ある対象に由来し、インビトロで制限された培養物の継代数(すなわち、分裂数)増殖させられている細胞及び細胞培養物を指すために、本明細書で互換的に使用される。例えば、初代培養は、0回、1回、2回、4回、5回、10回、または15回、しかし危機段階を経るには十分ではない回数、継代されている培養物である。典型的には、本発明の初代細胞株は、インビトロで10継代未満に維持される。
【0116】
細胞が初代細胞である場合、それらは任意の簡便な方法、例えば、全外植、生検などによって哺乳動物から回収され得る。回収された細胞の分散剤または懸濁液には、適切な溶液が使用され得る。そのような溶液は一般に、低濃度(一般に5~25mM)の許容される緩衝剤と組み合わせて、ウシ胎仔血清または他の天然に存在する因子で簡便に補助された、平衡塩類溶液、例えば、正常食塩水、PBS、ハンクス平衡塩類溶液などであるだろう。簡便な緩衝剤としては、HEPES、リン酸緩衝剤、乳酸緩衝剤などが挙げられる。細胞はすぐに使用されてもよく、またはそれらは長期間凍結保管され、解凍され、再使用可能であってもよい。そのような場合、細胞は通常、10%DMSO、50%血清、40%緩衝培地中、または当該技術分野においてそのような凍結温度で細胞を保存するために一般的に使用されるもののような、いくつかの他のそのような溶液中で凍結され、当該技術分野において一般的に既知である、凍結した培養細胞を解凍するための様式で解凍されるだろう。
【0117】
導入遺伝子の発現を促進するために、主題のrAAVは、約30分間~24時間以上、例えば、1時間、1.5時間、2時間、2.5時間、3時間、3.5時間、4時間、5時間、6時間、7時間、8時間、12時間、16時間、18時間、20時間、24時間など、細胞と接触されるだろう。主題のrAAVは、1回以上、例えば、1回、2回、3回、または4回以上対象の細胞に提供されてもよく、細胞は、各接触事象の後、いくらかの量の時間、例えば、16~24時間、薬剤(複数可)とともにインキュベートさせられてもよく、その時間の後、培地は新鮮な培地に交換され、細胞は更に培養される。細胞の接触は、任意の培養培地中かつ細胞の生存を促進する任意の培養条件下で発生し得る。例えば、細胞は、ウシ胎仔血清または熱不活性化ヤギ血清(約5~10%)、Lグルタミン、チオール、特に2-メルカプトエタノール、及び抗生物質、例えば、ペニシリン及びストレプトマイシンで補助されたイスコフ改変DMEMまたはRPMI1640などの、簡便な任意の適切な栄養培地中に懸濁されてもよい。培養物は、細胞が応答性である増殖因子を含有し得る。本明細書で定義されるように、増殖因子は、膜貫通受容体に対する特定の効果を通して、培養中またはインタクトな組織中のいずれかで、細胞の生存、増殖、及び/または分化を促進することができる分子である。増殖因子は、ポリペプチド因子及び非ポリペプチド因子を含む。
【0118】
典型的には、細胞内で導入遺伝子の発現を生成するために、有効量の主題のrAAVが提供される。本明細書において他で論じられるように、有効量は、例えば、導入遺伝子の遺伝子産物の存在またはレベルを検出することによって、錐体細胞の生存能または機能に対する効果を検出することによってなどで、経験的に容易に決定することができる。典型的には、主題のrAAVの効果量は、そのカプシドが由来した同一量の親rAAVよりも、錐体細胞内での導入遺伝子の大きな発現を促進するだろう。典型的には、発現は、親rAAVでの発現と比較して2倍以上、例えば、3倍、4倍、または5倍以上、いくつかの例において、10倍、20倍、または50倍以上、例えば、100倍増強されるだろう。
【0119】
いくつかの実施形態において、導入遺伝子が選択可能マーカーである場合のように、細胞集団は、残りの集団から改変細胞を分離することによって、導入遺伝子を含むものについて富化されてもよい。分離は、使用される選択可能マーカーにとって適切である、任意の簡便な分離技術によるものであり得る。例えば、導入遺伝子が蛍光マーカーである場合、細胞は蛍光活性化細胞分取によって分離され得る一方で、導入遺伝子が細胞表面マーカーである場合、細胞は親和性分離技術、例えば、磁気分離、親和性クロマトグラフィー、個体マトリクスに結合した親和性試薬による「パニング」、または他の簡便な技術によって、異種集団から分離され得る。正確な分離を提供する技術は、複数色チャネル、低角度及び鈍角光散乱検出チャネル、インピーダンスチャネルなどの、異なる程度の精巧さを有し得る蛍光活性化細胞分取器を含む。細胞は、死細胞に関連付けられる染料(例えば、ヨウ化プロピジウム)を用いることによって、死細胞に対して選択され得る。細胞の生存能に対して過度に有害ではない、任意の技術が用いられ得る。導入遺伝子を含む細胞に高度に富化した細胞組成物が、この様式で達成される。「高度に富化した」によって、遺伝子改変細胞が細胞組成物の70%以上、75%以上、80%以上、85%以上、90%以上、例えば、細胞組成物の約95%以上または98%以上であることが意味される。換言すると、組成物は、実質的に純粋な遺伝子改変細胞の組成物であってもよい。
【0120】
錐体細胞が主題のrAAVとインビボで接触される例について、対象は、任意の哺乳動物、例えば、齧歯類(例えば、マウス、ラット、スナネズミ)、ウサギ、ネコ、イヌ、ヤギ、ヒツジ、ブタ、ウマ、ウシ、または霊長動物であり得る。特定の実施形態において、対象は、狭鼻小目の霊長動物である。当該技術分野において既知であるように、狭鼻下目は、高等霊長動物の2つの細分のうちの一方(他方は新世界ザルである)であり、旧世界ザル及び類人猿を含み、これが転じて下等類人猿またはテナガザル及び大型類人猿(オランウータン、ゴリラ、チンパンジー、ボノボ、及びヒトからなる)に更に分けられる。更なる好ましい一実施形態において、霊長動物はヒトである。
【0121】
主題のrAAVは、任意の好適な方法によって対象の網膜に投与され得る。例えば、主題の組成物は、硝子体内注射または網膜下注射を介して眼球内投与され得る。硝子体内注射または網膜下注射を介してベクターを送達するための一般的方法は、以下の簡潔な概要によって説明され得る。これらの例は、単に本方法の特定の特徴を説明することが意図されるにすぎず、決して限定的であることは意図されない。
【0122】
網膜下投与について、主題のrAAVは、直接観察下、手術用顕微鏡を使用して網膜下注射される懸濁液の形態で送達され得る。典型的には、1~200uL、例えば、50uL、100uL、150uL、または200uL、しかし通常200uL以下の体積の主題の組成物が、そのような方法によって投与されるだろう。この手順は、硝子体切開、その後、微細なカニューレを使用して、1つ以上の小さな網膜切開を通して網膜下の空間にベクター懸濁液を注射することを伴い得る。簡潔には、手術を通して、(例えば、食塩水の)注入による正常な眼球体積を維持するために、注入カニューレを定位置に縫合してもよい。適切な口径(例えば、20~27ゲージ)のカニューレを使用して硝子体切開を実行し、除去される硝子体ゲルの体積を、注入カニューレからの食塩水または他の等張液の注入によって置換する。硝子体切開は、(1)その皮層(後部硝子体膜)の除去が、カニューレによる網膜の穿通を促進し、(2)その除去及び流体(例えば、食塩水)による置換が、ベクターの眼球内注射を収容するための空間を作製し、かつ(3)その制御された除去が網膜裂孔及び予定外の網膜剥離の可能性を低減するため、有利に実行される。
【0123】
硝子体内投与について、主題のrAAVは懸濁液の形態で送達され得る。最初に、眼の表面に局所麻酔剤を適用し、その後、局所消毒溶液を適用する。器具を使用するか、または使用せずに、眼を開いたまま維持し、直接観察下、細く短い(例えば、30ゲージの)針によって、強膜を通して対象の眼の硝子体腔内にrAAVを注射する。典型的には、1~100uL、例えば、25uL、50uL、または100uL、及び通常100uL以下の体積の主題の組成物が、硝子体を除去することなく、硝子体内注射によって眼に送達され得る。あるいは、硝子体切開が実行されてもよく、硝子体ゲルの全体積が主題の組成物の注入によって置換される。そのような場合、例えば、ヒトの眼に、最大で約4mLの主題の組成物が送達され得る。硝子体内投与は一般に、良好に耐容される。この手順の結果として、注射部位に軽度の発赤が存在することがある。圧痛が時折存在するが、ほとんどの患者はいかなる疼痛も報告しない。この手順の後、眼帯または眼保護帯は必要なく、活動は制限されない。感染の予防を助けるために、抗生物質目薬が数日間処方されることがある。
【0124】
主題の方法及び/または組成物は、医薬において、網膜障害を治療または予防するための治療法として、錐体光受容体中で治療ポリヌクレオチドを発現させるために使用することができる。「治療」及び「を治療する」などの用語は、所望される薬理的及び/または生理的効果を得ることを一般に意味するために、本明細書で使用される。効果は、ある疾患もしくはその症状を完全もしくは部分的に予防する(例えば、対象においてその疾患もしくはその症状が発生する可能性を低減する)観点から予防的であってもよく、かつ/またはある疾患及び/もしくはその疾患に起因する有害作用の部分的もしくは完全な治癒の観点から治療的であってもよい。本明細書で使用される場合、「治療」は、哺乳動物における疾患のいかなる治療も網羅し、(a)ある疾患に罹りやすくあり得るが、未だそれを有するとは診断されていない対象において、その疾患の発生を予防すること、(b)疾患を阻害すること、例えば、その発症を抑止すること、または(c)疾患を軽減すること、例えば、疾患の退行を引き起こすことを含む。治療薬剤は、疾患もしくは損傷の発症前、発症中、または発症後に投与されてもよい。進行中の疾患の治療は、その治療が患者の所望されない臨床症状を安定化または低減する場合に、特に目的となる。そのような治療は、望ましくは患部組織における機能の完全な喪失前に実行される。主題の治療法は、望ましくは、その疾患の症候段階中に、及び場合によってはその疾患の症候段階後に投与されるだろう。
【0125】
主題の方法及び/または組成物を使用して治療または予防することができる、いくつかの網膜障害が存在する。特に目的となるのは、錐体関連障害、つまり、錐体の生存能の喪失及び/または錐体の機能の低減に関連付けられる障害である。上記に論じられるように、錐体光受容体は、色覚及び高い中心窩視力に責任を負い、網膜中心窩と呼ばれる網膜の黄斑の中央に位置付けられる1.5mmの窪み内に密に充填される。これと一貫して、錐体の機能障害及び生存能に関連付けられる障害は典型的には、黄斑内で顕在化し、色覚及び高い視力に影響を与える。錐体関連障害の非限定的な例としては、杆体錐体ジストロフィー;錐体杆体ジストロフィー;進行性錐体ジストロフィー;網膜色素変性(RP);シュタルガルト病;黄斑毛細血管拡張症、レーベル遺伝性視神経症、ベスト病;成人卵黄様黄斑ジストロフィー;X連鎖性網膜分離症;色覚障害(青錐体一色覚、色覚異常、不完全色覚異常、第1色覚異常、第2色覚異常、及び第3色覚異常など);ならびに中央黄斑を冒す網膜障害(例えば、加齢性黄斑変性、滲出型加齢性黄斑変性、地図状萎縮、黄斑毛細血管拡張症、網膜色素変性、糖尿病網膜症、網膜静脈閉塞症、緑内障、ソースビー眼底ジストロフィー、成人卵黄様黄斑ジストロフィー、ベスト病、及びX連鎖性網膜分離症など)が挙げられる。
【0126】
シュタルガルト黄斑ジストロフィー。シュタルガルト病及び黄色斑眼底としても知られるシュタルガルト黄斑ジストロフィーは、通常法的盲に至るまで進行性の視力喪失を引き起こす、若年性黄斑変性の遺伝性形態である。症状の発症は、通常6歳~30歳の間の年齢(平均約16~18歳)で現れる。ABCA4、CNGB3、ELOVL4、PROM1を含むいくつかの遺伝子における変異が、この障害に関連付けられる。典型的には、症状は20歳までに発症し、波状視、盲点、ぼやけ、色覚障害、及び薄暗い照明への適応困難を含む。シュタルガルト病の主症状は、20/50~20/200までの範囲の視力の喪失である。加えて、シュタルガルト病を有する人はグレアに対して感受性であり、曇りの日にはいくらか緩和される。視力は、黄斑が損傷されるときに最も著しく障害され、これは、眼底検査によって観察することができる。
【0127】
錐体ジストロフィー。錐体ジストロフィー(COD)は、錐体細胞の喪失を特徴とする遺伝性眼球障害である。錐体ジストロフィーの最も一般的な症状は、視力喪失(発症年齢は10代後半~60代の範囲)、明るい光に対する感受性、及び不良な色覚である。視力は通常徐々に悪化するが、20/200まで急速に悪化し得、その後、より重度の症例では、視力は「指数弁」視力まで低下する。色検査表(HRRシリーズ)を使用する色覚検査は、赤色-青色表及び青色-黄色表の両方で、多くの誤りを呈する。検眼鏡的変化が見られ得る前に、錐体機能の主観的及び客観的異常が見出されるため、ジストロフィーは原発性であると考えられる。しかしながら、網膜色素上皮(RPE)が急速に関与するようになり、主に黄斑に関与する網膜ジストロフィーをもたらす。錐体ジストロフィーの早期段階では、検眼鏡を介した眼底検査は本質的には正常であるが、通常、明確な黄斑変化は視力喪失のずっと後に発生する。検眼鏡検査中に見出される最も一般的な種類の黄斑病変は、牛眼状の外観を有し、中央のより暗い区域を囲む萎縮性色素上皮のドーナツ様帯域からなる。別のより頻度の低い形態の錐体ジストロフィーにおいて、黄斑区域内の斑状の色素凝集による、ある程度拡散した後極の萎縮が存在する。希に、早期段階の患者において、脈絡毛細管及びより大きな脈絡膜血管の萎縮が見られる。蛍光眼底造影法(FA)は、小さ過ぎて検眼鏡によっては見ることができない網膜内の早期変化を検出し得るため、それは、錐体ジストロフィーを有することが疑われる人の精密検査において有用な補助である。広範囲の眼底変化、及び早期段階に診断を行う上での困難のため、網膜電図検査法(ERG)が、依然として診断を行うための最良の検査となっている。検査が明るい部屋で実行される場合(明順応ERG)、ERG上での異常な錐体機能は、低減したシングルフラッシュ及びフリッカー応答によって示される。GUCA1A、PDE6C、PDE6H、及びRPGRを含むいくつかの遺伝子の変異が、この障害に関連付けられる。
【0128】
錐体杆体ジストロフィー。錐体杆体ジストロフィー(CRDまたはCORD)は、色素性網膜症の群に属する遺伝性網膜ジストロフィーである。CRDは、主に黄斑領域に局在化された、眼底検査上で可視である網膜色素沈着、及び錐体及び杆体細胞の両方の喪失を特徴とする。杆体光受容体の一次的喪失から生じ、その後、錐体光受容体の二次的喪失が続く杆体錐体ジストロフィー(RCD)とは対照的に、CRDは、反対の事象順序(つまり、一次的錐体関与、または時には錐体及び杆体の両方の同時喪失による)を反映する。症状は、視力低下、色覚異常、光嫌悪、中心視野の感受性の低下を含み、その後、周辺視力の進行性喪失及び夜盲が続く。ADAM9、PCDH21、CRX、GUCY2D、PITPNM3、PROM1、PRPH2、RAX2、RIMS1、RPGR、及びRPGRIP1を含むいくつかの遺伝子の変異が、この障害に関連付けられる。
【0129】
脊髄小脳失調症7型。脊髄小脳失調症は、緩徐に進行性の歩行協調不能を特徴とする進行性、変性、遺伝性疾患であり、しばしば手、発話、及び眼の運動の不良な協調性と関連付けられる。複数の種類のSCAが存在するが、不良な協調性に加えて視力問題が発生し得るという点において、脊髄小脳失調症7型(SCA-7)はほとんどの他のSCAとは異なる。SCA-7は、ATXN7/SCA7遺伝子における常染色体優性変異と関連付けられる。疾患が40歳前に顕在化するとき、典型的には、不良な協調よりもむしろ視力問題が疾患の早期徴候である。早期症状は、色識別困難及び中心視力の低下を含む。加えて、運動失調の症状(協調不能、緩徐な眼の運動、及び感覚または反射の軽度の変化)が検出可能であり得る。疾患が進行するにつれて、運動制御の喪失、不明瞭な発話、及び嚥下困難が顕著になる。
【0130】
バルデ・ビードル症候群-1。バルデ・ビードル症候群-1(BBS-1)は、家族内及び家族間で観察される、様々な発現度及び臨床的多様性を有する多面的障害である。主な臨床的特徴は杆体錐体ジストロフィーであり、夜盲が先行する小児期発症視力喪失;軸後多指症;乳児期に顕在化し、成人期を通して問題であり続ける体幹肥満;いくつかの個体(全てではない)における特定の学習困難;男性器形成不全及び複合女性泌尿生殖器形成異常;ならびに罹患率及び死亡の主因である腎機能障害を伴う。視力喪失は、バルデ・ビードル症候群の主要な特徴のうちの1つである。夜間視力の問題は、小児期中期までに明らかとなり、その後、周辺視力において発症する盲点が続く。時間とともにこれらの盲点は拡大し、合わさってトンネル状視野を生成する。バルデ・ビードル症候群を有するほとんどの人々はまた、ぼやけた中心視力(不良な視力)も発症し、青年期または成人期早期までに法的盲となる。バルデ・ビードル症候群は、毛様体機能において非常に重要な役割を果たすことが知られているか、または疑われている、少なくとも14個の異なる遺伝子(しばしばBBS遺伝子と呼ばれる)の変異から生じ得、BBS1及びBBS10の変異が最も一般的である。
【0131】
色覚異常。色覚異常または杆体一色覚は、対象が完全な色覚欠如を経験するために、対象が黒色、白色、及び灰色の濃淡しか見られなくなる障害である。他の症状は、視力低下、羞明、眼振、小中心暗点、及び偏心固視を含む。この障害はしばしば、約6歳の子供において、彼らの羞明動作及び/または彼らの眼振によって最初に認められる。視力及び眼の運動の安定性は一般に、最初の6~7年間に改善する(が、20/200付近のままである)。CNGB3、CNGA3、GNAT2、PDE6C、及びPDE6HIの変異が、この障害に関連付けられている。
【0132】
不完全色覚異常。不完全色覚異常は色覚異常に類似するが、浸透率がより低い。不完全色覚異常において、症状は、減少した形態であることを除いて、完全色覚異常の症状に類似する。不完全色覚異常を有する個体は視力低下を有し、眼振もしくは羞明を有するか、または有さない。更に、これらの個体は、錐体細胞機能の部分的障害のみを示すが、ここでも杆体細胞機能は保持している。
【0133】
青錐体一色覚。青錐体(S錐体)一色覚(BCM)は、100,000人中約1人の個体を冒す、希なX連鎖性先天的定常錐体機能障害症候群である。BCMを有する男性患者は、L及びMオプシン遺伝子の遺伝子座での変異のため、網膜内に機能的な長波長感受性(L)または中波長感受性(M)錐体を有さない。色識別は出生時から重度に障害され、視力は残りの保存されたS錐体及び杆体光受容体に由来する。BCMは典型的には、視力低下(6/24~6/60)、振子様眼振、羞明を呈し、患者はしばしば近視を有する。杆体特異的及び最大網膜電図(ERG)は通常明確な異常を示さない一方で、30Hzの錐体ERGは検出することができない。小さくかつ遅延したものではあるものの、シングルフラッシュ明順応ERGはしばしば記録可能であり、S錐体ERGは良好に保存される。
【0134】
色覚欠損。色覚欠損(CVD)または色覚異常は、通常の照明条件下で色の認識もしくは色差の知覚ができないこと、またはその能力の低下である。色覚異常を患う個体は、いくつかの色覚検査、例えば、カラーERG(cERG)、偽性同色表(Ishihara表、Hardy-Rand-Ritter多色表)、Farnsworth-Munsell100色相検査、FarnsworthパネルD-15、市立大学検査、及びKollnerの法則などのうちのいずれかを使用して、色覚異常を患うものとして特定され得る。色覚異常の例としては、第1色覚異常、第2色覚異常、及び第3色覚異常が挙げられる。第1色覚異常は、1型2色覚(赤色光に対する非感受性)及び1型3色覚(赤色光に対する感受性の低減)を含み、Lオプシン遺伝子(OPN1LW)の変異に関連付けられる。第2色覚異常は、2型2色覚(緑色光に対する非感受性)及び2型3色覚(緑色光に対する感受性の低減)を含み、Mオプシン遺伝子(OPN1MW)の変異に関連付けられる。第3色覚異常は、3型2色覚(青色光に対する非感受性)及び2型3色覚(青色光に対する感受性の低減)を含み、Sオプシン遺伝子(OPN1SW)の変異に関連付けられる。
【0135】
加齢性黄斑変性。加齢性黄斑変性(AMD)は、50歳超の人々における視力喪失の主因のうちの1つである。AMDは主に、読書、運転、及び顔認識などの詳細な作業に必要とされる中心視力を冒す。この病態における視力喪失は、黄斑内の光受容体が徐々に変質することから生じる。側(周辺)視力及び夜間視力は、一般には影響されない。
【0136】
研究者らは、乾性または「非滲出型」形態、及び湿性または「滲出型」もしくは「新生血管型」形態として知られる、2つの主要な種類の加齢性黄斑変性を記載しており、その両方を、主題のrAAV中にパッケージングされた導入遺伝子を送達することによって治療することができる。
【0137】
乾性AMDは、網膜色素上皮とその下の黄斑の脈絡膜との間のドルーゼンと呼ばれる黄色沈着の蓄積を特徴とし、これは、眼底写真によって観察することができる。これは、緩徐に進行性の視力喪失をもたらす。病態は典型的には両眼の視力に影響を与えるが、視力喪失はしばしば他眼に発生する前に片眼に発生する。他の変化としては、色素変化及びRPE萎縮を挙げることができる。例えば、中心性地図状萎縮または「GA」と呼ばれる特定の症例では、網膜色素上皮の萎縮、及び後続する眼の中心部分の光受容体の喪失が観察される。乾性AMDは、CD59及び補体カスケード中の遺伝子の変異に関連付けられている。
【0138】
滲出型AMDは乾性AMDの進行状態であり、乾性AMD患者のうちの約10%に発生する。病理学的変化としては、網膜色素上皮細胞(RPE)機能障害、RPE下の流体集積、及び黄斑区域内の脈絡膜血管新生(CNV)が挙げられる。重度の症例では、流体漏出、RPEまたは神経網膜剥離、及び破裂した血管からの出血が発生し得る。滲出型AMDの症状としては、視界の歪み(直線が波状にもしくは屈曲して見える、出入口もしくは道路標識がいびつに見える、または物体が実際よりも小さくもしくは遠く離れて見えるなど)、中心視力の低下、色の強度または輝度の低下、及び視野内の明確に画定されたぼやけ点または盲点を挙げることができる。発症は突然であり、急速に悪化し得る。診断は、対象の中心視力の異常を検査するためのアムスラーグリッド(黄斑変性のために、グリッド内の直線が消えかかったり、切断されたり、歪んだりして見えることがある)、血管または網膜異常を観察するための蛍光眼底造影、及び網膜膨張または漏出血管を検出するための光干渉断層撮影法の使用を含み得る。いくつかの細胞因子がCNVの生成において関係付けられており、その中には、血管内皮増殖因子(VEGF)、血小板由来増殖因子(PDGF)、色素上皮由来因子(PEDF)、低酸素誘導因子(HIF)、アンジオポエチン(Ang)、及び他のサイトカイン、及びマイトジェン活性化タンパク質キナーゼ(MAPK)などがある。
【0139】
黄斑毛細血管拡張症。黄斑毛細血管拡張症(MacTel)は、黄斑の傍中心窩領域内の病理学的に拡張した血管(毛細血管拡張症)の一形態である。液体で満たされた嚢胞の発生のために組織が変質し、網膜構造が瘢痕化し、これが光受容体細胞の栄養を障害し、視力を永久に破壊する。2つの種類のMacTel、つまり1型及び2型が存在する。黄斑毛細血管拡張症2型は両側性疾患であり、その有病率は40歳以上の人において0.1%ほど高くあることが近年示されている。生体顕微鏡は、網膜透明度の低減、結晶沈着、軽度拡張性の毛細管、平滑化細静脈、網膜色素プラーク、中心窩萎縮、及び新生血管型複合体を示し得る。蛍光眼底造影法は、早期相において主に小窩に対して側頭の末梢血管拡張性毛細管、及び遅延相において拡散した過蛍光を示す。高解像度光干渉断層撮影法(OCT)は、光受容体の内側区域-外側区域境界の破壊、内側または外側網膜のレベルでの低反射性空洞、及びより後期の段階では網膜の萎縮を呈し得る。1型黄斑毛細血管拡張症において、疾患はほとんどの場合片眼に発生し、このことがそれを2型から区別する。MacTelは通常、全盲は引き起こさない一方で、それは一般的には、10~20年間かけて、読書及び運転の視力に必要とされる中心視力の喪失を引き起こす。
【0140】
網膜色素変性。網膜色素変性(RP)は、中心視力喪失をもたらし得る進行性の周辺視力喪失及び夜間視力困難(夜盲症)を特徴とする、一群の遺伝性障害である。RPの主徴候及び症状は異なるが、典型的なものとしては、夜盲症(夜盲、最も一般的にはRPの最も早期の症状);視力喪失(通常周辺的であるが、進行した症例では中心視力喪失);及び光視症(光の点滅が見える)が挙げられる。RPは多くの遺伝性疾患の集積であるため、物理的所見には著しい多様性が存在する。眼球検査は、視力及び瞳孔反応の評価、ならびに前区、網膜、眼底検査の評価を伴う。いくつかの例において、RPは、例えば、聴力喪失にも関連付けられる症候群(アッシャー症候群、ワールデンブルグ症候群、アルポート症候群、レフサム病);カーンズ・セイヤー症候群(外眼筋麻痺、眼瞼下垂、心ブロック、及び色素性網膜症);無ベータリポ蛋白血症(脂肪吸収不良、脂溶性ビタミン欠乏症、脊髄小脳変性症、及び色素網膜変性);ムコ多糖症(例えば、ハーラー症候群、シャイエ症候群、サンフィリポ症候群);バルデ・ビードル症候群(多指症、体幹肥満、腎機能障害、低身長、及び色素性網膜症);ならびに神経セロイドリポフスチン沈着症(認知症、発作、及び色素性網膜症;幼児期形態はヤンスキー・ビールショースキー病として知られ、若年期形態はフォークト・シュピールマイヤー・バッテン病であり、成人期形態はクフス症候群である)などの症候群の一態様である。網膜色素変性は、最も一般的にはRHO、RP2、RPGR、RPGRIP1、PDE6A、PDE6B、MERTK、PRPH2、CNGB1、USH2A、ABCA4、BBS遺伝子の変異に関連付けられる。
【0141】
糖尿病網膜症。糖尿病網膜症(DR)は糖尿病の合併症によって引き起こされる網膜に対する損傷であり、最終的には失明をもたらす。理論によって拘束されることを望むものではないが、高血糖症誘導性壁内周皮細胞死、及び基底膜の肥厚化が、血管壁の機能不全をもたらすと考えられる。これらの損傷は、血液網膜関門の形成を変化させ、網膜血管をより透過性にもする。
【0142】
糖尿病網膜症の2つの段階、つまり、非増殖性糖尿病網膜症(NPDR)及び増殖性糖尿病網膜症(PDR)が存在する。非増殖性糖尿病網膜症は糖尿病網膜症の第1の段階であり、眼底検査及び共存する糖尿病によって診断される。視力低下の場合、眼の後部の血管及び存在し得るあらゆる網膜虚血を可視化するために、蛍光眼底造影法が行われ得る。糖尿病を有する全ての人々がNPDRを発症する危険性にあり、したがって、主題のベクターによる予防的治療の候補者となるだろう。増殖性糖尿病網膜症は糖尿病網膜症の第2の段階であり、網膜の血管新生、硝子体出血、及びぼやけた視力を特徴とする。いくつかの例において、血管結合組織増殖が牽引性網膜剥離を引き起こす。いくつかの例において、血管が前眼房の角度へも成長し、新生血管型緑内障を引き起こし得る。NPDRを有する個体は、PDRを発症する増加した危険性にあり、したがって、主題のベクターによる予防的治療の候補者となるだろう。
【0143】
糖尿病黄斑浮腫。糖尿病黄斑浮腫(DME)は、少なくとも20年間糖尿病を有している患者のうちのほぼ30%を冒す、糖尿病網膜症の進行した視力限定的合併症であり、DRによる視力喪失のうちのほとんどの原因となる。それは、血液網膜関門を損なう網膜微小血管の変化から生じ、周囲の網膜への血漿構成物の漏出、及び結果的に網膜浮腫を引き起こす。理論によって拘束されることを望むものではないが、高血糖症、細胞シグナリング経路の変化の持続、及び白血球媒介損傷による慢性的な微小血管の炎症が慢性的な網膜微小血管損傷をもたらし、これがVEGFの眼球内レベルの増加を引き起こし、これが転じて脈管構造の透過性を増加させると考えられる。
【0144】
DMEを発症する危険性にある患者は、糖尿病を長期間有しており、かつ重度の高血圧症(高血圧)、流体貯留、低アルブミン血症、または高脂血症のうちの1つ以上を経験している患者を含む。DMEの一般的な症状は、ぼやけた視力、飛蚊症、複視、及び病態が未治療のまま進行させられた場合、最終的には失明である。DMEは、眼底検査によって、黄斑の中央の2枚分の円の直径以内の網膜肥厚化として診断される。用いることができる他の方法としては、網膜膨張、嚢胞様浮腫、及び漿液性網膜剥離を検出するための光干渉断層撮影法(OCT);限局的な漏出区域と拡散した漏出区域とを区別し、局在化し、それにより浮腫を治療するためにレーザー凝固が使用される場合、レーザー凝固の配置を導く、蛍光眼底造影法;ならびに網膜の長期的な変化を評価するために使用することができるカラー立体眼底写真が挙げられる。視力はまた、特に黄斑浮腫の進行を追跡し、主題の薬学的組成物の投与後のその治療を観察するように測定され得る。
【0145】
網膜静脈閉塞症。網膜静脈閉塞症(RVO)は、網膜から血液を排出させる循環部分の閉塞である。この閉塞は毛細管内にバックアップ圧を引き起こし得、これは出血及び流体及び血液の他の構成物の漏出もまたもたらし得る。
【0146】
緑内障。緑内障は、しばしば眼内の流体圧(眼内圧)(IOP)の増加に関連付けられる視神経損傷をもたらす一群の眼球(眼)障害を記載する用語である。この障害はおおまかに、2つの主なカテゴリ、つまり「開放隅角」及び「閉塞隅角」(または「閉塞角」)緑内障に分けることができる。開放隅角緑内障は、米国において緑内障の症例のうちの90%を占める。それは無痛であり、急性発作は有さない。唯一の徴候は、徐々に進行性の視野喪失、及び視神経変化(眼底検査での陥凹乳頭径比の増加)である。閉塞隅角緑内障は、米国において緑内障の症例のうちの10%未満を占めるが、他国(特にアジア諸国)においては緑内障の症例のうちの半数ほど多くを占める。閉塞隅角緑内障を有する患者のうちの約10%が、突発的な眼球疼痛、光の周りにハローが見え、赤目、非常に高い眼内圧(30mmHg超)、悪心及び嘔吐、突発的な視力低下、ならびに固定され、中央散大した瞳孔を特徴とする急性閉塞隅角危機を呈する。それは場合によっては、楕円瞳孔にも関連付けられる。DLK、NMDA、INOS、CASP-3、Bcl-2、またはBcl-xlによってコードされるタンパク質の活性を調節することで、この病態を治療することができる。
【0147】
ソースビー眼底ジストロフィー。ソースビー眼底ジストロフィーは、TIMP3遺伝子の変異に関連付けられる、常染色体優性の網膜疾患である。臨床的には、早期、中間周辺のドルーゼン及び色覚欠損が見出される。夜盲を訴える患者もいる。最も一般的には、主症状は、治療不能な黄斑下血管新生が原因の、30~40代で顕在化する突発的視力喪失である。組織学的には、ブルッフ膜のレベルで30μmの厚さの材料を含有する集密脂質の蓄積が存在する。
【0148】
卵黄様黄斑ジストロフィー。卵黄様黄斑ジストロフィーは、進行性の視力喪失を引き起こし得る遺伝的眼障害である。卵黄様黄斑ジストロフィーは、黄斑の下の細胞内での脂肪性黄色色素(リポフスチン)の蓄積に関連付られる。時間とともに、この物質の異常蓄積が、明瞭な中心視力のために非常に重要である細胞を損傷し得る。結果として、この障害を有する人々はしばしば自らの中心視力を失い、彼らの視力はぼやけたものまたは歪んだものとなり得る。卵黄様黄斑ジストロフィーは典型的には、側(周辺)視力または夜間視力には影響を与えない。
【0149】
研究者らは、類似の特徴を有する2つの形態の卵黄様黄斑ジストロフィーを記載している。早期発症形態(ベスト病として知られる)は通常小児期に現れ、症状の発症及び視力喪失の重症度は幅広く変化する。それは、VMD2/BEST1遺伝子の変異に関連付けられる。成人発症形態(成人卵黄様黄斑ジストロフィー)はより後、通常成人期中期に始まり、時間とともに緩徐に悪化する視力喪失を引き起こす傾向がある。それは、PRPH2遺伝子の変異に関連付けられている。2つの形態の卵黄様黄斑ジストロフィーはそれぞれ、眼の検査中に検出され得る、黄斑における特徴変化を有する。
【0150】
杆体錐体ジストロフィー。杆体錐体ジストロフィーは、杆体機能障害(夜盲及び周辺視野の広がりの喪失をもたらす)が支配的問題であるか、または少なくとも錐体機能障害と同程度に重度に発生しているかのいずれかである、進行性疾患の系統群である。網膜の中間周辺に、ホタテガイのような境界の小窩萎縮が見られることがある。黄斑は、臨床検査によっては軽度に関与するにすぎないが、全ての症例で中央網膜の菲薄化が見られる。色弱は早期では軽度であり、通常より重度となる。視野は中等度~重度に収縮されるが、より若年の個体において、典型的な輪状暗点が存在する。周辺網膜は「白色点」を含み、しばしば白点状網膜炎に見られる網膜変化に類似している。網膜色素変性は、この定義下に含まれる疾患の主な群であり、全体として3,500人当たり約1人を冒すと推定される。使用される分類基準によって、全網膜色素変性患者のうちの約60~80%が明快な杆体錐体ジストロフィーの網膜疾患パターンを有し、他の症候性形態を考慮に入れると、全網膜色素変性のうちの約50~60%が、杆体錐体ジストロフィーの非症候性カテゴリに入る。
【0151】
レーベル先天黒内障。レーベル先天黒内障(LCA)は、典型的には1歳の間に明らかになる、網膜の重度のジストロフィーである。視覚機能は通常不良であり、しばしば眼振、緩慢な瞳孔応答またはそのほぼ不在、羞明、高度な遠視、及び円錐角膜が伴う。視力が20/400よりも良好であることは希である。特徴的所見は、眼を突くこと、押すこと、及び擦ることを含むフランスシェッティ眼指徴候である。眼底の外観は、非常に多様である。網膜は初期には正常であるように見える一方で、網膜色素変性を暗示する色素性網膜症が、小児期後期でしばしば観察される。網膜電図(ERG)は、特徴的に「検出不能」または重度に亜正常である。17個の遺伝子(GUCY2D(遺伝子座名:LCA1)、RPE65(LCA2)、SPATA7(LCA3)、AIPL1(LCA4)、LCA5(LCA5)、RPGRIP1(LCA6)、CRX(LCA7)、CRB1(LCA8)、NMNAT1(LCA9)、CEP290(LCA10)、IMPDH1(LCA11)、RD3(LCA12)、RDH12(LCA13)、LRAT(LCA14)、TULP1(LCA15)、KCNJ13(LCA16)、及びIQCB1)の変異がLCAを引き起こすことが知られている。合わせると、これらの遺伝子の変異は、全LCA診断のうちの半数超を占めると推定される。LCAの少なくとも1つの他の疾患遺伝子座が報告されているが、その遺伝子は未知である。
【0152】
X連鎖性網膜分離症。X連鎖性網膜分離症(XLRS)は、10歳までに、場合によっては生後3ヶ月ほど早期の発症を有する、対称型両側性黄斑関与を特徴とする。眼底検査は、黄斑内の分離区域(網膜の神経線維層の分裂)を示し、スポーク車輪パターンの所見をもたらすこともある。主に下側頭の周辺網膜の分離が、個体のうちの約50%に発生する。男性患者は典型的には、20/60~20/120の視力を有する。視力はしばしば、10歳まで及び20歳までの間に悪化するが、その後、50歳または60歳まで比較的安定したままである。X連鎖性若年性網膜分離症の診断は、眼底所見、電気生理学的検査の結果、及び分子遺伝学的検査に基づく。RS1は、X連鎖性若年性網膜分離症に関連することが既知である唯一の遺伝子である。
【0153】
錐体細胞障害に冒されるか、または錐体細胞障害を発症する危険性にある個体は、当業者によって既知であるように、眼底写真;光干渉断層撮影法(OCT);補償光学法(AO);網膜電図検査法、例えば、ERG、カラーERG(cERG);偽性同色表(Ishihara表、Hardy-Rand-Ritter多色表)、Farnsworth-Munsell100色相検査、FarnsworthパネルD-15、市立大学検査、及びKollnerの法則などの色覚検査;ならびにETDRS文字検査、Snellen視力検査、視野検査、及びコントラスト感受性検査などの視力検査を非限定的に含む、当該技術分野において既知である障害の症状を検出するための技術を使用して、容易に特定することができる。加えて、またはあるいは、錐体細胞障害に冒されるか、または錐体細胞障害を発症する危険性にある個体は、PCR、DNA配列分析、制限消化、サザンブロットハイブリダイゼーション、質量分析法などを非限定的に含む、当該技術分野において既知である、錐体細胞障害に関連付けられる遺伝子変異を検出するための技術を使用して、容易に特定することができる。いくつかの実施形態において、本方法は、錐体細胞治療を必要とする個体を特定するステップを含む。そのような例において、例えば、本明細書に記載されるか、もしくは当該技術分野において既知である症状を検出することによって、または本明細書通りであるか、もしくは当該技術分野において既知である遺伝子の変異を決定することなどによって、個体が錐体細胞障害の症状(複数可)を有するか、または錐体細胞障害を発症する危険性にあるかを決定するための任意の簡便な方法を使用して、錐体細胞治療を必要とする個体を特定することができる。
【0154】
主題の方法を実践する上で、主題の組成物は典型的には、錐体細胞内で導入遺伝子の発現をもたらすのに有効である量で、対象の網膜に送達される。いくつかの実施形態において、本方法は、錐体細胞内での導入遺伝子の発現を検出するステップを含む。
【0155】
導入遺伝子の発現を検出するためのいくつかの方法が存在し、それらのいずれも、主題の実施形態において使用することができる。例えば、発現は直接的に、すなわち、例えば、RNAレベル(例えば、RT-PCR、ノーザンブロット法、RNAseプロテクション法によって)での、またはタンパク質レベル(例えば、ウェスタンブロット法、ELISA、及び免疫組織化学法などによって)での、遺伝子産物の量を測定することによって検出することができる。別の例として、発現は間接的に、すなわち、対象における錐体光受容体の生存能または機能に対する遺伝子産物の影響を検出することによって検出することができる。例えば、導入遺伝子によってコードされる遺伝子産物が錐体細胞の生存能を改善する場合、導入遺伝子の発現は、例えば、眼底写真、光干渉断層撮影法(OCT)、及び補償光学法(AO)などによって錐体細胞の生存能の改善を検出することによって検出することができる。導入遺伝子によってコードされる遺伝子産物が錐体細胞の活性を変化させる場合、導入遺伝子の発現は、送達されたポリヌクレオチドの存在を検出する方法として、例えば、網膜電図(ERG)及びカラーERG(cERG);機能的補償光学法;偽性同色表(Ishihara表、Hardy-Rand-Ritter多色表)、Farnsworth-Munsell100色相検査、FarnsworthパネルD-15、市立大学検査、及びKollnerの法則などの色覚検査;ならびにETDRS文字検査及びSnellen視力検査、視野検査、及びコントラスト感受性検査などの視力検査によって、錐体細胞の活性の変化を検出することによって検出することができる。いくつかの例において、生存能の改善及び錐体細胞機能の改変の両方が検出されてもよい。
【0156】
いくつかの実施形態において、主題の方法は、治療利益、例えば、障害の発症予防、障害の進行停止、障害の進行逆転などをもたらす。いくつかの実施形態において、主題の方法は、治療利益が達成されたことを検出するステップを含む。当業者は、治療有効性のそのような尺度が、改変される特定の疾患に適用可能であることを理解し、治療有効性の測定に使用するための適切な検出方法を認識するだろう。例えば、黄斑変性を治療する上での治療有効性は、例えば、眼底写真、OCT、もしくはAOによって、主題の組成物の投与後の検査結果と、主題の組成物の投与前の検査結果とを比較することによって観察され得る効果である、黄斑変性の速度低減または黄斑変性の進行休止として観察することができる。別の例として、進行性錐体機能障害を治療する上での治療有効性は、例えば、ERG及び/もしくはcERG;色覚検査;機能的補償光学法;ならびに/または視力検査によって、例えば、主題の組成物の投与後の検査結果と、主題の組成物の投与前の検査結果とを比較し、錐体生存能及び/または機能の変化を検出することによって観察され得る効果である、錐体機能障害の進行速度低減として、錐体機能障害の進行休止として、または錐体機能の改善として、観察することができる。第3の例として、色覚欠損を治療する上での治療有効性は、例えば、cERG及び色覚検査によって、例えば、主題の組成物の投与後の検査結果と、主題の組成物の投与前の検査結果とを比較し、錐体生存能及び/または機能の変化を検出することによって観察され得る効果である、個体の色覚(例えば、赤色波長の色覚、緑色波長の色覚、青色波長の色覚)の変化として、観察することができる。
【0157】
主題のrAAVによって送達される導入遺伝子の発現は、頑強であることが期待される。したがって、いくつかの例において、例えば、遺伝子産物のレベルを測定することによって、治療有効性を測定することなどによって検出される導入遺伝子の発現は、主題の組成物の投与の2ヶ月後以内、例えば、投与の4、3、または2週間後以内、例えば、投与の1週間後以内に観察され得る。導入遺伝子の発現はまた、時間とともに持続することが期待される。したがって、いくつかの例において、例えば、遺伝子産物のレベルを測定することによって、治療有効性を測定することなどによって検出される導入遺伝子の発現は、主題の組成物の投与の2ヶ月以上後、例えば、4、6、8、または10ヶ月以上後、いくつかの例において、1年以上後、例えば、2、3、4、または5年以上後、特定の例において、5年超後に観察され得る。
【0158】
特定の実施形態において、本方法は、錐体細胞内での主題のrAAVによって送達されるポリヌクレオチドの発現を検出するステップを含み、発現は、GHループ中に7~10個のアミノ酸挿入を含まないAAV、すなわち、基準対照(例えば、ペプチドが挿入された親rAAV)での発現と比較して増強される。典型的には、発現は、例えば、より早期の検出、より高いレベルの遺伝子産物、細胞に対するより強い機能的影響などによって証明されるように、基準、例えば、親rAAVでの発現と比較して2倍以上、例えば、3倍、4倍、または5倍以上、いくつかの例において、10倍、20倍、または50倍以上、例えば、100倍増強されるだろう。
【0159】
典型的には、において変化を達成するための有効量は、約1×10個以上のベクターゲノム、場合によっては1×10個、1×1010個、1×1011個、1×1012個、または1×1013個以上のベクターゲノム、特定の例において、1×1014個以上のベクターゲノム、及び通常1×1015個以下のベクターゲノムであるだろう。場合によっては、送達されるベクターゲノムの量は、最大で約1×1015個のベクターゲノム、例えば、1×1014個以下のベクターゲノム、例えば、1×1013個、1×1012個、1×1011個、1×1010個、または1×10個以下のベクターゲノム、特定の例において、1×10個のベクターゲノム、及び典型的には、1×10個以上のベクターゲノムである。場合によっては、送達されるベクターゲノムの量は、1×1010~1×1011個のベクターゲノムである。場合によっては、送達されるベクターゲノムの量は、1×1010~3×1012個のベクターゲノムである。場合によっては、送達されるベクターゲノムの量は、1×10~3×1013個のベクターゲノムである。場合によっては、送達されるベクターゲノムの量は、1×10~3×1014個のベクターゲノムである。
【0160】
場合によっては、投与される薬学的組成物の量は、感染多重度(MOI)を使用して測定され得る。場合によっては、MOIは、核が送達され得る細胞に対する、ベクターまたはウイルスゲノムの比率、つまり多重度を指し得る。場合によっては、MOIは、1×10であり得る。場合によっては、MOIは、1×10~1×10であり得る。場合によっては、MOIは、1×10~1×10であり得る。場合によっては、本開示の組み換えウイルスは、少なくとも約1×10、1×10、1×10、1×10、1×10、1×10、1×10、1×10、1×10、1×1010、1×1011、1×1012、1×1013、1×1014、1×1015、1×1016、1×1017、及び1×1018のMOIである。場合によっては、本開示の組み換えウイルスは、1×10~3×1014のMOIである。場合によっては、本開示の組み換えウイルスは、最大で約1×10、1×10、1×10、1×10、1×10、1×10、1×10、1×10、1×10、1×1010、1×1011、1×1012、1×1013、1×1014、1×1015、1×1016、1×1017、及び1×1018MOIである。
【0161】
いくつかの態様において、薬学的組成物の量は、約1×10~約1×1015個の組み換えウイルス粒子、約1×10~約1×1014個の組み換えウイルス粒子、約1×1010~約1×1013個の組み換えウイルス粒子、または約1×1011~約3×1012個の組み換えウイルス粒子を含む。
【0162】
個々の用量は典型的には、対象に対して測定可能な効果を生成するのに必要とされる量以上であり、主題の組成物またはその副産物の吸収、分布、代謝、及び排泄(「ADME」)についての薬物動態学及び薬理学に基づいて、したがってならびに対象における組成物の廃棄に基づいて、決定することができる。これは、網膜下(主に局所的効果のため、作用が所望される場所に直接適用)用途、硝子体内(汎網膜効果のため、硝子体に適用)用途、または非経口(全身経路、例えば、静脈内、筋肉内などによって適用)用途のために調節され得る、投与経路及び投与量についての考慮を含む。用量の有効量及び/または用量レジメンは、前臨床アッセイから、安全性及び漸増及び用量範囲試験、個々の臨床医-患者間の関係、ならびに本明細書に記載され、以下の実験節において説明されるものなどのインビトロ及びインビボアッセイから、経験的に容易に決定することができる。
【0163】
本明細書において言及される、かつ/または出願データシートに列挙される、上記の米国特許、米国特許出願公開、米国特許出願、外国特許、外国特許出願、及び非特許公報の全ては、それらの全体が参照によって本明細書に組み込まれる。
【0164】
前述のことから、説明目的で、本発明の特定の実施形態が本明細書に記載されているものの、本発明の趣旨及び範囲を逸脱することなく、様々な修正がなされ得ることが理解されるだろう。したがって、本発明は、添付の特許請求の範囲による以外は限定されない。
【実施例0165】
以下の例は、当業者に、本発明をいかに実施し、使用するかについての完全な開示及び記述を提供するために出され、発明者らが何を彼らの発明と見なすかについての範囲を限定するもことも、以下の実験が実行される全てまたは唯一の実験であることを表すことも意図されない。使用される数(例えば、量、温度など)に関する正確性を確実にするための努力がなされているが、いくらかの実験的誤差及び偏差が説明されるべきである。別段示されない限り、部は重量部であり、分子量は重量平均分子量であり、温度は摂氏度であり、圧力は大気圧または大気圧付近である。
【0166】
分子及び細胞生化学における一般的方法は、Molecular Cloning:A Laboratory Manual,3rd Ed.(Sambrook et al.,HaRBor Laboratory Press2001)、Short Protocols in Molecular Biology,4th Ed.(Ausubel et al.eds.,John Wiley&Sons1999)、Protein Methods(Bollag et al.,John Wiley&Sons1996)、Nonviral Vectors for Gene Therapy(Wagner et al.eds.,Academic Press1999)、Viral Vectors(Kaplift&Loewy eds.,Academic Press1995);Immunology Methods Manual(I.Lefkovits ed.,Academic Press1997)、及びCell and Tissue Culture:Laboratory Procedures in Biotechnology(Doyle&Griffiths,John Wiley&Sons1998)などの標準的教本に見出すことができ、これらの開示は、参照によって本明細書に組み込まれる。本開示において言及される遺伝子操作のための試薬、クローニングベクター、及びキットは、BioRad、Stratagene、Invitrogen、Sigma-Aldrich、及びClonTechなどの商業的販売者から入手可能である。
【0167】
実施例1
背景
黄斑ジストロフィー(錐体杆体ジストロフィー、錐体ジストロフィー、シュタルガルト黄斑ジストロフィー、及び色覚異常など)を含む多くの錐体光受容体関連障害;第1色覚異常、第2色覚異常、及び第3色覚異常などの色覚障害;ならびに加齢性黄斑変性、黄斑毛細血管拡張症、網膜色素変性、糖尿病網膜症、網膜静脈閉塞症、緑内障、ソースビー眼底ジストロフィー、成人卵黄様黄斑ジストロフィー、ベスト病、及びX連鎖性網膜分離症などの中央黄斑の視力障害を治療するための、新しい治療法が必要とされる。これらの視力障害は、錐体光受容体の機能及び/または生存能の喪失に関連付けられるため、これらの障害は、錐体光受容体に治療遺伝子を送達して、錐体生存能及び機能を救出することによって治療可能であり得ると仮定されている。
【0168】
その目的で、エンハンサー配列、プロモーター配列、5'UTR配列、イントロン配列、コザック配列、及びポリアデニル化配列を錐体特異的発現のために設計した、ポリヌクレオチドカセット「pMNTC」を設計した(図6a)。カセットは、転写開始部位の上流の約140ヌクレオチドを含む、L及びMオプシン遺伝子座からのLCRエンハンサー配列と、Mオプシン遺伝子からの切断型プロモーター配列とを含んだ。加えて、カセットは、Mオプシン5’UTRに基づくが、最小二次構造を有し、かつイントロンが挿入されたその3’末端に追加の配列を含むように改変された、5’非翻訳領域(5’UTR)を含んだ。使用されたイントロン配列は、ヒトβ-グロビン遺伝子の第1のイントロンからの5’-ドナー部位、及び枝分かれ、ならびにリーダーと免疫グロブリン遺伝子重鎖可変領域の本体との間に位置するイントロンからの3’-アクセプター部位を有するpSIキメライントロンであった(Bothwell,A.L.et al.(1981)Heavy chain variable region contribution to the NPb family of antibodies:Somatic mutation evident in a gamma2a variable region.Cell24,625-37)。ドナー部位及びアクセプター部位の配列を、枝分かれ点部位とともに、スプライシングのため、コンセンサス配列に一致するように変更した(Senapathy,P.,Shapiro,M.B.and Harris,N.L.(1990)Meth.Enzymol.183,252-78)。pMNTCポリヌクレオチドカセットには、強いコザック配列及びSV40ポリアデニル化配列もまた含めた。
【0169】
実験は、導入遺伝子を錐体細胞に送達するための最良のAAVを特定するためにも実行した。遺伝子治療のための網膜の細胞へのポリヌクレオチドの送達の成功は、AAV及びレンチウイルスなどのウイルスベクターを使用して達成されている。しかしながら、これらのウイルスは、非ヒト霊長動物(NHP)網膜の細胞に達するには網膜下注射されなくてはならず、網膜損傷の危険性を伴う手順である。より破壊的ではないアプローチが、硝子体内注射による投与である。しかしながら、AAVまたはレンチウイルスの硝子体内送達後の錐体光受容体の効率的な形質導入は、未だ実証されていない。高い効率をもって網膜錐体細胞に形質導入する能力を有するAAVについての報告が存在する(Merigan et al.IOVS2008,49E-abstract4514)一方で、その後の報告はこれらのベクターの有効性を疑問視している(Yin et al.IOVS2011,52(5):2775-2783)。
【0170】
結果
AAV2の指向進化は、野生型AAV2よりも良好に光受容体に形質導入することができるウイルスバリアント「7m8」の特定をもたらしている(Dalkara et al.Sci Transl Med2013)。しかしながら、網膜は2つの種類の光受容体、つまり杆体及び錐体を含有し、AAV2-7m8が、錐体光受容体それ自体、及びより具体的には高度に錐体に富化した中心窩の区域内の錐体光受容体に形質導入し得るかどうかを実証した報告は存在しない。この可能性を試験するために、我々は、GFPに作動可能に連結される遍在性プロモーターCMVの発現カセットを担持するAAV2-7m8を、硝子体内注射によってアフリカミドリザルの網膜に送達した。硝子体内に送達されるAAV2-7m8.CMV.GFPは、霊長動物の網膜中心窩(中心窩の中心の網膜の、直径0.35mmの杆体を含まない領域)及び傍中心窩(窪みの縁)内の網膜細胞を、当該技術分野において網膜細胞に形質導入することが以前に示されている、硝子体内に送達されるAAV2または他のAAVバリアントよりも効率的に形質導入するようであった。試験された試験されたAAV2-7m8または他のAAVのいずれも、霊長動物の中心窩(小窩を囲み、窩の勾配を形成する直径1.5mmの錐体に富化した網膜の領域)の錐体に形質導入することができないようであった(図1)。
【0171】
我々は次に、AAV2-7m8カプシド内のGFPに作動可能に連結されるpMNTCを含むゲノムをパッケージングし、硝子体内注射されるとき、このベクター組成物が錐体細胞内でGFP導入遺伝子をインビボで発現する能力を評価した。マウス(3%の錐体)、ラット(1%の錐体)、スナネズミ(13%の錐体)、及び非ヒト霊長動物(5%の錐体)を含む、全光受容体中に異なる数の網膜錐体細胞を有するいくつかの種において、発現を評価した。図1における我々の結果とは反対に、非ヒト霊長動物の中心窩を通して、強い遺伝子発現を検出することができた(図2)。これらのデータは、硝子体内送達されたAAV2-7m8が実際には網膜錐体に形質導入することができること、及びpMNTCが錐体細胞内で頑強な発現カセットとしての役割を果たすことを示す。頑強なレポーター遺伝子発現はまた、ラット(データ図示せず)及びスナネズミ(図4A)の硝子体内注射した網膜においても見られ、発現レベル及び解剖学的位置は、全ての種における錐体存在量及び位置と相関した。
【0172】
pMNTC指向発現の細胞特異性を決定するために、形質導入されたマウス網膜のホールマウントを、錐体L及びMオプシンに対して特異的である抗体を使用する免疫組織化学法によって分析した。錐体光受容体の外側区域のみを標識するL/Mオプシンの発現は、AAV2-7m8.MNTC.GFPベクターからGFPを発現したマウス網膜の錐体の実質的に全てにおいて観察され(図3)、これは、導入遺伝子のMNTC指向発現が高度に錐体特異的であることを示した。更に、L/Mオプシン特異的抗体によって標識された錐体外側区域のうちの80%以上はまた、GFP導入遺伝子も発現し、これは、AAV2-7m8が錐体に高度に効率的に形質導入することを示した(図3)。
【0173】
我々はまた、AAV2-7m8カプシド内のGFPに作動可能に連結されるpR2.1を含むゲノム(AAV2-7m8pR2.1.GFPベクター)をパッケージングすることによって、pR2.1指向発現の細胞特異性も決定した。pR2.1は、ヒトL/Mオプシンエンハンサー(「LCR」)及びヒトLオプシン遺伝子からのプロモーター領域を含む。加えて、pR2.1は、改変SV40 late 16sイントロン配列が挿入されたその3’末端に、追加の5’UTR配列に融合したLオプシン5’UTRを含む。これに、Lオプシンコザック配列が続き、その後これが典型的には、インフレームで導入遺伝子に連結される。カセットの末端には、SV40ポリA尾部がある。このベクター組成物が錐体細胞内でGFP導入遺伝子をインビボで発現する能力を、アフリカミドリザル(非ヒト霊長動物;NHP)への硝子体内注射の12週間後に評価した。簡潔には、NHPは、50uLの1.0×1013vg/mL AAV2-7m8pR2.1.GFPの両側硝子体内投与を受けて、片眼当たり5×1011vgの最終用量を得た。Canon6Dデジタル撮像ハードウェアを有するTopcon TRC-50EX網膜カメラ、及びSpectralis OCT Plusを使用することによって、ベースラインで、ならびに硝子体内ベクター注射の4、8、及び12週間後で、眼底色及び蛍光写真を含む網膜検査を実行した。動物を12週間で屠殺し、眼を処理した。NHPの治療した網膜の断面を、ニワトリポリクローナル抗GFP抗体(Abcamカタログ番号13970、Cambridge,UK)、オプシン錐体に特異的なウサギポリクローナル抗L/Mオプシン抗体(Abcamカタログ番号5405)、1D4マウスモノクローナル抗ロドプシン抗体(Abcamカタログ番号5417)、及び全ての核を染色するためのDapi(Invitrogen参照番号D21490)で染色した。抗体プローブ及びDIC(形態のための微分干渉コントラクト)とともに、多重スペクトル分析によって、細胞を含有するGFPでタグ付けされた導入遺伝子を撮像した。全切片を通した光学平面の平板化スタックとして。形態及びプローブとの共局在化を使用して、導入遺伝子についての細胞分析を最適化した。GFP(導入遺伝子)染色は、ロドプシン染色とではなくL/Mオプシン染色と共局所化し、これは、pR2.1が錐体細胞内の発現を特異的に促進することを示した(図7)。GFP導入遺伝子シグナルが中心窩、中間周辺、及び遠周辺で観察され、GFP導入遺伝子シグナルはL/M-オプシン、カルビンディン、及びPNAプローブと局在化され、中心窩内での1D4含有細胞の明白な排除が観察され、かつ杆体または他のプローブ含有細胞とのGFP導入遺伝子陽性細胞会合は存在しなかった。(図7)。まとめると、GFP(導入遺伝子発現)及びL/Mオプシンについて二重染色された細胞は観察されたが、GFP及びロドプシンの両方についての細胞二重染色の欠如が存在し、これは、AAV2-7m8pR2.1.GFPベクターが杆体細胞ではなく錐体細胞内での発現を特異的に指向したこと示した。
【0174】
我々は次に、pMNTCが錐体細胞内での発現を促進する能力を、pR2.1が錐体細胞内での発現を促進する能力と比較した。AAV2-7m8.MNTC.GFP及びAAV2-7m8.pR2.1.GFPのウイルス調製物を、スナネズミ及び非ヒト霊長動物の網膜にインビボで硝子体内送達し、2週間、4週間、8週間、及び12週間後、眼底自己蛍光及びOCTによって網膜をインビボで撮像した。GFPレポーター発現は、pR2.1.GFP発現カセットを担持するスナネズミ網膜においてよりも、pMNTC.GFP発現カセットを担持するrAAVで形質導入されたスナネズミ網膜において、より早く、より強く、かつより多くの錐体内で検出された(図4B)。同様に、GFPレポーター発現は、pR2.1発現カセットで形質導入されたNHP網膜と比較して、pMNTC.GFP発現カセットを担持するrAAVで形質導入された非ヒト霊長動物網膜において、より早く、かつより多くの錐体内で検出された(図5、n=4つの眼)。スナネズミ及びNHPの両方において、研究期間を通して、GFPは一貫して、pR2.1からよりもpMNTCから強くあることが観察された。
【0175】
発現の全体的な改善に対する、pMNTC発現カセット中の要素のそれぞれの寄与を決定するために、pMNTC中の要素のそれぞれが、pR2.1発現カセットの対応する要素によって1つずつ置換される、一連の発現構築物をクローニングした。その後、これらの構築物をAAV2-7m8中にパッケージングし、硝子体内注射によってスナネズミ網膜に送達した。スナネズミ網膜を、眼全体にわたるレポーター発現の定量的読み取りを提供する、インビボ生物発光(IVIS撮像システム、PerkinElmer)によって、4及び8週間後にインビボで評価した。
【0176】
期待通り、pMNTCの制御下でのルシフェラーゼレポーターの発現は、pR2.1の制御下でのルシフェラーゼレポーターの発現よりも高かった(図6)。それと最多の配列相同性を有するpR2.1プロモーター配列によるpMNTCプロモーター配列の置換は、発現を低減し(構築物pMNTC_pR2.1 L3’P)、pR2.1の5’UTRに対してより遠位に位置するpR2.1プロモーター配列の包含も発現を低減した(構築物pMNTC_pR2.1-L5’P)。発現はまた、pR2.1 5’UTR内で観察された偽開始配列(「AUG」及び「AUG2」)の、pMNTC5’UTRへの導入によっても低減された(構築物pMNTC_2.1-AUG1/2)。興味深いことに、pMNTC5’UTRが、これらの偽開始が除去(ヌクレオチド17がCに変更、nt61及び62がCAに変更)されている改変pR2.1 5’UTR配列で置換された場合(pMNTC_pR2.1-5’UTR)、発現は低減されず、これは、pR2.1 5’UTRが錐体細胞内で強い発現を促進するが、それはpR2.1 5’UTR要素内の偽AUGのものであることを示唆した。また興味深いことに、pR2.1イントロンは、pMNTCのpSIキメライントロンよりも頑強な発現を提供するようであり、これは、本開示のポリヌクレオチドカセット中へのpR2.1イントロンの包含を使用して、錐体細胞内での発現を更に改善し得ることを示唆した。最後に、(pR2.1及びpMNTCの両方に見出される)L/Mエンハンサーの除去もまた、発現を低減した。当初、ポリA尾部付きも発現に対する著しい影響を有するように見えた一方で、このpR2.1要素を含むpMNTC構築物の再配列決定は、ポリA尾部が導入遺伝子に作動可能に連結されないことを示し、それによりなぜこの構築物からはバックグラウンドレベルの発現しか観察されないのかを説明した。したがって、L/MオプシンLCR、LオプシンプロモーターではなくMオプシンコアプロモーターの包含、及び5’UTR内の偽開始の排除は全て、pMNTCプロモーターを使用して達成される遺伝子発現の増強に寄与する。
【0177】
結論として、我々は、AAVバリアントであって、網膜錐体へのポリヌクレオチドの硝子体内送達に使用することができる、GHループ中に7m8ペプチドを含むAAVバリアントを特定した。同様に、我々は、錐体光受容体内での強い発現を促進するために使用することができる、いくつかのポリヌクレオチドカセット要素を特定した。合わせると、これらの発見は、錐体関連障害のための治療剤の開発を促進し得る改善となる。
【0178】
材料及び方法
WERI-RB-1細胞内でのインビトロ導入遺伝子発現Shaaban and Deeb,1998;IOVS39(6)885-896によって記載される方法に従って、錐体光受容体色素細胞を発現するWERI-Rb-1網膜芽細胞腫細胞を、本開示のポリヌクレオチドカセットでトランスフェクトする。クローニング(Maniatisら)などの分子生物学のよく確立された技術を使用して、または新規DNA合成を介して、ポリヌクレオチドカセットをプラスミドDNAとしてトランスフェクトする。全ての制御要素をカセット中に配置し、GFPタンパク質の増強を駆動するために使用する。その後、非ウイルストランスフェクションのための確立された技術を使用して、例えば、脂質系トランスフェクション試薬(Altogen Biosystems,NV)またはLipofectamine LTX(Life Technologies)を使用して、プラスミドDNAを細胞内に導入する。その後、細胞を72時間培養し、フローサイトメトリー及び蛍光顕微鏡を使用して、eGFP発現を測定する。本発明のポリヌクレオチドカセット(すなわち、錐体光受容体発現のために設計された構築物)でトランスフェクトされた細胞内の導入遺伝子発現を、最適化されていない対応物(すなわち、pR2.1に基づくもの)と比較し、改善された要素を担持するカセットからより強いことを見出す。
【0179】
661W細胞などの、錐体オプシンを発現する他の哺乳動物細胞株を使用して、インビトロ発現もまた評価する(Tan et al.,IOVS2004;45(3)764-768)。
【0180】
同様に、錐体光受容体特異的タンパク質を発現するように操作されている非光受容体細胞株を使用して、インビトロ発現を評価する。そのようなシステムは、CRX/Sp1を発現するように遺伝子操作されているHEK293細胞とともに記載されている(Khani et al.,IOVS2007;48:3954)。マーカー遺伝子(eGFP、dsRed、mCherry、ルシフェラーゼ)及び生理的遺伝子(オプシン、ACHR遺伝子)もまた使用する。mRNAレベル(例えば、RT-PCRによって)またはタンパク質レベル(例えば、ELISAまたはウェスタンブロット法によって)を検査することによって、生理的遺伝子を試験する。
【0181】
動物管理。全ての実験は、American Physiological Society and the Society for Neuroscienceによって採用される動物の管理及び使用に関する原理に適合し、Institutional Animal Care and Use Committee(IACUC)によって承認された。
【0182】
小動物研究。発現カセットのコード配列によってコードされる遺伝子産物の発現を、マウス、ラット、及びスナネズミにおいてインビボで評価した。これは、発現カセットを含むrAAV調製物のインビボ硝子体内注射によって達成した(Li et al.,2008;Mol Vis48:332-338)。プラスミドDNAの電気穿孔が代わりに実行されてもよいことに留意されたい(Matsuda/Cepko)。
【0183】
マウスの研究。この研究に使用されるマウスは、C57BL/6であった。動物をケタミン/キシラジン(110mg/kg腹腔内)で麻酔した。試験物品を充填した、斜めに切った34ゲージの使い捨て針を眼の硝子体内に挿入し、1.5μlの体積の5.04×1010個のrAAVのベクターゲノムを硝子体内注射した。
【0184】
スナネズミ及びラットの研究。スナネズミ(Meriones unguiculatus)及びブラウンノルウェーラットをこの研究において使用した。10%のフェニレフリン及び0.5%のトロピカミドで瞳孔を散大させた。0.1~0.2mLのケタミン/キシラジン溶液(ラットには70mg/mLのケタミン及び10mg/mLのキシラジン、スナネズミには25mg/mLのケタミン及び0.3mg/mLのキシラジン)の腹腔内または筋肉内注射によって、動物を麻酔した。100μLのHamiltonシリンジ中に試験物品を充填した、斜めに切った34ゲージの使い捨て針を、強膜を通して、縁部から約1mmの最適化された上側頭点で、眼の硝子体内に挿入した。5uLの体積の1×1010~2×1010個の試験物品のベクターゲノム(2×1010vgのrAAV.GFPまたは1.15×1010vgのrAAV.ルシフェラーゼ)を、微量注射ポンプで硝子体内に緩徐に注射し、その後、注射した眼内に注射した位置で針の先端を10秒間維持して、十分な試験物品の分注を確実にした。その後、針を抜いた。
【0185】
非ヒト霊長動物(NHP)の研究。ポリヌクレオチドカセット及び発現ベクターを、より大型の動物においても試験した。これは、例えば、Mancusoらの技術を使用して、AAVを使用することによって行った。簡潔には、AAVカセットを作製し、発現カセットをカプシド形成するAAVを製造し、非ヒト霊長動物において、ウイルス調製物を硝子体内(硝子体内に最大で170uL)または網膜下(異なる位置に最大で3,100uLの注射、注射前に硝子体切開が実行され得る)注射した。レポーター(GFP)、カラーERG、及び/もしくはCambridge Color Testを使用した行動試験によって、または標的が視野に入るときにサッケード(眼の運動)を行うように訓練した動物で、発現を評価した。サッケードは、視線追跡器を使用して監視する。治療前、色覚検査を実行するか、または色付きの標的を見るときにサッケードを行うように動物を訓練する。ERGを実行して、錐体のスペクトル感受性を推定する。色覚検査成績及びERGからのデータは、動物が2色性(色覚異常)であるという証拠を提供する。GFP遺伝子を担持するベクターを受ける動物について、GFPの励起を生成する光の下、RetCam IIまたは類似するデバイスによる眼底撮像を使用して、発現を監視する。動物の内在性色素と比較してスペクトル感受性が異なる感光色素遺伝子を受ける動物について、最大で106個の異なる網膜位置でのスペクトル感受性を測定するための多焦点カラーERGを使用して、及び行動試験によって、発現を監視する。
【0186】
10~15mg/kgのケタミン、その後セボフルラン(sevofluorane)でヒヒを鎮静させた。5:1のケタミン:キシラジン混合物(0.2ml/kgの、100mg/mlケタミン及び20mg/mlキシラジン)の筋肉内注射でアフリカミドリザルを鎮静させた。10%の局所フェニレフリンで、散瞳を達成した。注射を促進するために、眼内に開瞼器を配置した。1滴の塩酸プロパラカイン0.5%及びその後5%のBetadine溶液を適用し、その後、無菌食塩水で濯いだ。ヒヒ(図2)は、硝子体内(ITV)注射によって60μlの3.4×1013vgのrAAVの調製物を受けて、片眼当たり2.02×1012vgの最終用量を得た。アフリカミドリザルは、ITV注射によって50uLの1×1013個のrAAVベクターの調製物を受けて、片眼当たり5×1011vgの最終用量を得た。中央硝子体へのITV注射は、眼球外及び眼球内の針の配置の完全な可視化を可能にする手術倍率下、縁部に対して約2.5mm後方の鋸状縁のレベルに、下側頭に挿入した31ゲージ、0.375インチの針(Terumo)を使用して与えた。注射時の針の先端の直接観察によって、中央硝子体の配置を確認した。ITV注射後、3回の局所抗生物質軟膏を与えた。
【0187】
細隙灯生体顕微鏡。ベースラインスクリーニング中、ならびに注射の4週間後(28日後)、8週間後(56日後)、及び12週間後(84日後)に、細隙灯生体顕微鏡によって各サルの眼の前区を検査して、炎症を監視した。異常は観察されなかった。
【0188】
NHP検死及び眼の処理。硝子体内注射の12週間後、動物をペントバルビタールで安楽死させた。眼を、12時の位置で縫合糸によってタグ付けしてから、眼球除去及び眼球外組織のトリミングをした。縁部に対して前側の組織を除去することによって後部陥凹を単離し、4%のパラホルムアルデヒド中への浸漬によって固定し、70%のエタノール中で保管した。
【0189】
免疫標識。眼を、水、その後PBS緩衝剤中に再水和してから、網膜をホールマウントとして平板化し、離層した。調製物をステレオ蛍光顕微鏡(Discovery Fl V20、Carl Zeiss Microscopy,LLC,Thornwood,NY)によってGFPについて撮像した。中心窩を有する四分円をフラットマウントから剥離し、カバーガラス下にマウントし、フルモンタージュとして撮像した(5回のタイリング及びスティッチング、Axio Observer Z1,Zeiss)。網膜片を、中心窩を中心に周辺へと単離し、スクロース中で凍結保護し、OCT中で凍結させた。8μmの切片を、L/M及びSオプシン、グルタミン合成酵素(GS)、カルビンディン、ロドプシン(1D4)、β-IIIチューブリン、ラミニン、ピーナッツ凝集素(PNA)、及び/または他を含む、特定の網膜細胞集団に富化したタンパク質に対する抗体で免疫染色した。全切片を通した光学平面の平板化スタックとして、抗体プローブ及びDIC(形態のための微分干渉コントラクト)とともに、多重スペクトル分析によって、細胞を含有するGFPでタグ付けされた導入遺伝子を撮像した(Apotome,ZeissによるAxio Observer Z1)。形態及びプローブとの共局在化を使用して、導入遺伝子についての細胞分析を最適化した。
【0190】
眼底検査及び写真。Phoenix Micron IV眼底顕微鏡を使用して、ラット及びスナネズミ網膜の眼の検査及び眼底写真を実行した。全ての動物は、眼球の健康を確認するためのベースラインスクリーニング/撮影を受け、その後、指定の時点で撮影して、GFP導入遺伝子の発現を監視した。視神経及び網膜または肉眼病変の外観に対するいかなる変化もカラー眼底写真によって記録し、蛍光眼底撮像を使用してフルオレセインフィルタによってGFPの発現を可視化した。
【0191】
Canon6Dデジタル撮像ハードウェアを有するTopcon TRC-50EX網膜カメラ、及びNew Vision Fundus Image Analysis Systemソフトウェア、及びSpectralis OCT Plusを使用して、NHPの網膜検査、眼底カラー写真及び蛍光写真、ならびに自己蛍光OCTを実行した。全ての動物は、ベースライン撮像を受けた。硝子体内ベクター注射の2、4、8、及び12週間後に、GFP発現も記述した。
【0192】
IVIS撮像システム。硝子体内注射の2、4、及び8週間後に、IVIS撮像システムを使用して、rAAV.ルシフェラーゼの送達後の網膜内でのルシフェラーゼの発現をインビボで定量化した。スナネズミに、150mg/kgのルシフェリン(PerkinElmer)を皮下注射した(15ml/kgの用量で15mg/mlのルシフェリン)。約22分後、3~5分間の4%のイソフルランの吸入によって動物を鎮静させた。その直後、動物を撮像プラットフォーム上に対で配置し、各動物の片眼の発光を定量化し、直後に反対側の眼を撮像した。無感作のスナネズミを陰性基準として使用し、発光のバックグラウンドレベルは典型的には、1×10光子/秒の発光を示した。撮像前に、ファントムマウス(生物発光撮像のためのXPM-2Perkin Elmerファントムマウス)を使用した生物発光の検証を実行して、撮像システムの較正を確実にした。
【0193】
免疫組織化学法。マウスを致死量のペントバルビタールナトリウムで安楽死させ、まず1mL当たり2単位のヘパリンを含有するpH7.2~7.4の0.13Mのリン酸緩衝食塩水(PBS)、その後、PBS中4%のパラホルムアルデヒド(PFA)、その後、PBS中4%のパラホルムアルデヒドに加えて1%のグルタルアルデヒドでの心臓灌流を介して、組織を固定した。グルタルアルデヒドは、RPEに結合した神経系細胞網膜を保持することで、錐体外側区域をインタクトのままにする役割を果たした。投与直前に、各溶液を約37℃まで温め、各段階で約35~40mLの灌流液を送達した。灌流の停止後、マウスを湿った紙タオルに包み、眼球除去及び解剖前、更に2~3時間固定させておいた。
【0194】
永久インクを使用して眼の配向をマークし、前区を除去し、眼陥凹を4℃で4%のPFA中に一晩固定し、その後、PBS中4℃で保管した。4%のPFA中に浸漬した組織間の解剖網膜を2時間平板化し、その後、それらを培養プレートに移動して更に6時間固定することによって、網膜のホールマウントを作製した。その後、0.03%のアジ化ナトリウム(Sigma)を含有するPBSでPFAを置換した。
【0195】
回転台振盪機上で抗体標識を実行した。非特異的標識をブロックするために、5%のロバ血清(Jackson ImmunoResearch、カタログ番号004-000-120)、1mg/mlのBSA(Jackson ImmunoResearch、カタログ番号001-000-161)、及び0.03%のTriton X-100を含有するPBS溶液(pH7.4)とともに、ホールマウントを4℃で一晩インキュベートした。この研究において使用した一次抗体は、1:200に希釈したウサギ抗赤色-緑色(L/M)オプシン(Millipore、カタログ番号AB5405)であった。検体を、PBS中、各30分間で3回洗浄し、その後、DAPI(4’,6-ジアミジノ-2-フェニルインドール、ジヒドロクロライド1:10,000、Invitrogen、カタログ番号D-21490)プラス二次抗体とともに、4℃で一晩インキュベートした。L/Mオプシン抗体に対する二次抗体は、抗体希釈緩衝剤(Invitrogen、カタログ番号A21206)中で1:200に希釈した、Alexa Fluor48で標識したロバ抗ウサギIgG(H+L)であった。二次抗体とともにインキュベートした後、3回の30分間のPBS洗浄、4%のパラホルムアルデヒドによる30分間の後固定、及び3回の30分間のPBS洗浄を続けた。最後に、グリセロール中2%のDABCOを有するスライド上に網膜薄片を配置し、カバーガラスでカバーした。
【0196】
顕微鏡。20倍(野外)の対物レンズを有するNikon Eclipse E1000、及び1.5倍の光学ズームを有するカメラセットを使用して、マウス網膜のホールマウントの広視野画像を取得した。各検体について、0.5μm離して50個の光学切片を取得し、MオプシンZスタックをImageJ中で再構築した。Zスタックを、外側区域の長さが平面内にあり、かつ抗体染色の開始場所と終了場所との間の距離を、外側区域の長さの推定として測定するように配向した。更に、Zスタックの3D投射を生成し、外側区域内の可視のMオプシンを有する錐体の数を定量化することができた。
【0197】
Olympus FluoView(商標)FV1000を使用して、共焦点画像薄片を取得した。20倍の油浸レンズ(0.5μm離して40枚の画像を取得)を使用して切片を撮像し、ZスタックをImageJ中で再構築した。Adobe Photoshopを使用して、画像中及び画像にわたるチャネル露光レベルを釣り合わせた。網膜のホールマウントについて、10倍の野外レンズを使用して画像を取得し、Adobe Photoshopの天然モザイク構築ソフトウェアによってモザイクを構築した。
【0198】
ポリヌクレオチドカセットの組織特異性を試験する実験。この例において、GFPをコードする構築物を、硝子体内、網膜下、または静脈内などの1つ以上の投与経路を介して注射した。その後、動物を屠殺し、qPCR(構築物の存在を示すDNA配列を検出するため)及びGFP発現(構築物が活発に発現される区域を検出するため)によって組織を分析した。DNA配列の不在が所与の組織への生体分布の欠如を示す一方で、DNA配列の存在は、導入遺伝子発現(mRNAまたはタンパク質レベル)の欠如とともに、その組織中にベクターが存在するが、発現は欠如することを示す。このように、錐体光受容体に対する特異性のレベルを確立し、視神経、肝臓、脾臓、または脳組織などの非標的組織中での発現なく、錐体光受容体細胞を標的とするための発現を制限することにおける本発明の有用性を決定するために使用することができる。硝子体内AAVは、脳に生体分布することが既知である(Provostら)ため、錐体光受容体を標的とするための高度に発現し改善した構築物は、網膜の標的細胞に対する発現を制限し、非特異的な導入遺伝子発現に関連する、可能性のある有害事象を制限するのに有用であるだろう。
【0199】
先行のことは単に、本発明の原理を説明するにすぎない。当業者は、本明細書で明確に記載されていないか、または示されていないものの、本発明の原理を具体化し、かつその趣旨及び範囲内に含まれる、様々な方略を考案し得ることが理解されるだろう。更に、本明細書で引用される全ての例及び条件的言語は主に、本発明の原理、及び当該技術分野を推進するために本発明者らによって寄与される概念を理解する上で、読者を補助することが意図され、そのように具体的に引用される例及び条件に限定されないと解釈されるべきである。更に、本発明の原理、態様、及び実施形態、ならびにそれらの具体例を引用する本明細書の全ての陳述は、それらの構造的等価物及び機能的等価物の両方を包含することが意図される。加えて、そのような等価物は、現在既知である等価物及び将来開発される等価物の両方(すなわち、構造に関わらず、同一の機能を実行する、開発されるあらゆる要素)を含むことが意図される。したがって、本発明の範囲は、本明細書に示され、記載される例示的な実施形態に限定されることが意図されない。むしろ、本発明の範囲及び趣旨は、添付の特許請求の範囲によって具体化される。
【0200】
本明細書に記載される全ての刊行物及び特許出願の全体が、これにより参照によって本明細書に組み込まれる。
図1
図2
図3
図4A
図4B
図5A
図5B
図5C
図5D
図6A
図6B
図6C
図6D
図7
【配列表】
2022107042000001.app
【外国語明細書】