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特開2022-107058積層造形用混合粉末および酸化物分散強化型合金の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022107058
(43)【公開日】2022-07-20
(54)【発明の名称】積層造形用混合粉末および酸化物分散強化型合金の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B22F 10/34 20210101AFI20220712BHJP
   B22F 1/12 20220101ALI20220712BHJP
   C22C 33/02 20060101ALI20220712BHJP
   C22C 1/05 20060101ALI20220712BHJP
   B22F 1/16 20220101ALI20220712BHJP
【FI】
B22F10/34
B22F1/12
C22C33/02 103G
C22C1/05 D
C22C1/05 E
B22F1/16
【審査請求】有
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022083759
(22)【出願日】2022-05-23
(62)【分割の表示】P 2017240852の分割
【原出願日】2017-12-15
(71)【出願人】
【識別番号】504157024
【氏名又は名称】国立大学法人東北大学
(74)【代理人】
【識別番号】100143834
【弁理士】
【氏名又は名称】楠 修二
(72)【発明者】
【氏名】関戸 信彰
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 雄大
(72)【発明者】
【氏名】吉見 享祐
(57)【要約】
【課題】積層造形法を用いて、母相の結晶粒の内部に、微細な酸化物粒子を均一に分散させることができる積層造形用混合粉末および酸化物分散強化型合金の製造方法を提供する。
【解決手段】積層造形用混合粉末10が、1または複数の金属元素から成る母相に、酸化物を形成可能な元素から成る酸化物形成物質を含有した第1の粉末11と、酸化物を含み、第1の粉末11の表面に担持された第2の粉末12とを有している。第2の粉末12に含まれる酸化物の、酸素と結合した元素の標準生成エンタルピーが、酸化物形成物質の標準生成エンタルピーよりも高い。積層造形用混合粉末10を原料として積層造形を行い、その積層造形中または積層造形後に熱処理を行うことにより、母相の内部に、酸化物形成物質を含む酸化物が分散された、酸化物分散強化型合金20を製造する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
1または複数の金属元素から成る母相に、酸化物を形成可能な元素から成る酸化物形成物質を含有した第1の粉末と、
酸化物を含み、前記第1の粉末の表面に担持された第2の粉末とを有し、
前記第2の粉末に含まれる前記酸化物の、酸素と結合した元素の標準生成エンタルピーが、前記酸化物形成物質の標準生成エンタルピーよりも高いことを
特徴とする積層造形用混合粉末。
【請求項2】
前記母相を構成する金属元素は、酸素に対する固溶限が、前記酸化物形成物質よりも小さいことを特徴とする請求項1記載の積層造形用混合粉末。
【請求項3】
前記酸化物形成物質は、Al、Zr、Hf、および希土類元素のうちの少なくとも1つ以上を含むことを特徴とする請求項1または2記載の積層造形用混合粉末。
【請求項4】
前記母相は、Ni、Co、Cu、Ir、もしくはPtから成る、または、Fe、Ni、Co、Cu、Ir、およびPtのうちの少なくとも1つ以上を含む複数の金属元素から成ることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の積層造形用混合粉末。
【請求項5】
前記第2の粉末は、前記母相に含まれる金属元素を少なくとも1つ以上含んでいることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の積層造形用混合粉末。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれか1項に記載の積層造形用混合粉末を原料として積層造形を行い、前記母相の内部に、前記酸化物形成物質を含む酸化物が分散された合金を製造することを特徴とする酸化物分散強化型合金の製造方法。
【請求項7】
前記積層造形により形成された三次元構造物に対して熱処理を行うことを特徴とする請求項6記載の酸化物分散強化型合金の製造方法。
【請求項8】
前記熱処理は、真空中または不活性ガス雰囲気中で、600℃乃至1000℃で、30分乃至6時間行われることを特徴とする請求項7記載の酸化物分散強化型合金の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層造形用混合粉末および酸化物分散強化型合金の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
酸化物分散強化型合金は、母相である金属の結晶粒の内部に、硬質な酸化物粒子を分散させた合金であり、高温環境に長時間曝されても酸化物粒子の凝集や粗大化が起こりにくく、強度特性の劣化が発生しにくいという特徴を有している(例えば、非特許文献1参照)。この酸化物分散強化型合金は、母相の結晶粒の内部に分散された酸化物粒子が多いほど、また酸化物粒子が均一に分散されているほど、強度特性が向上する。
【0003】
酸化物分散強化型合金の製造方法としては、金属を高温で溶かして型に鋳込む、いわゆる鋳造法を採用するのは困難である。これは、比重の異なる金属液体と酸化物固体とが均質に混ざり難いことに加え、酸化物粒子が、凝固の固液界面に押されて最終凝固部に凝集し、母相内部に均等に分散しないためである(例えば、非特許文献2参照)。このため、従来、酸化物分散強化合金は、アトライターやボールミルなどの装置を用いて、母相となる原料粉末と酸化物粉末とを粉砕、混合した後、加圧成形して高温で焼結させる方法、または、成形と焼結とを同時に行うホットプレス法などで製造されている。
【0004】
しかし、一旦成形された酸化物分散強化合金は、溶接を行うと、上記と同様の理由で酸化物粒子が局所に凝集してしまうため、溶接部での強度低下が避けられない。このため、原料粉末と酸化物粉末とを混合し、成形、焼結を行う従来の製造方法では、酸化物分散強化型合金で複雑な形状を有する構造体を製造することは困難であった。
【0005】
複雑な形状を有する構造体を製造する方法として、粉末粒子を供給して薄く敷き詰め、そこにレーザーや電子ビームを照射して粉末粒子を選択的に溶融・焼結させることにより焼結層を形成する工程を、焼結層が積み重なるよう繰り返すことにより、三次元形状造形物を製造する粉末焼結積層造形法(以下、「積層造形法」と呼ぶ)が広く行われている(例えば、特許文献1または2参照)。積層造形法は、異種物質の混合粉末でも適応可能であるため、複雑な形状を有する複合材料を製造することも可能である(例えば、特許文献3参照)。
【0006】
しかし、積層造形法は、レーザーや電子ビームを用いて粉末粒子を溶融するプロセスを含むため、積層造形法により酸化物分散強化型合金を製造しようとすると、上記と同様の理由で、微細な酸化物粒子が凝集してしまい、酸化物粒子を母相内部に均等に分散させることはできないという問題があった。そこで、この問題を解決するために、母相の組成と等しくなるよう秤量された純金属粉末と酸化物粉末との混合粉末を用いて、積層造形を行う方法(例えば、非特許文献3または4参照)や、レーザー照射により選択的に溶融・焼結させる部分に、微細な酸化物粒子をノズルで装入しながら積層造形を行う方法(例えば、特許文献4参照)が開発されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】米国特許第4,863,538号明細書
【特許文献2】米国特許第5,156,697号明細書
【特許文献3】米国特許第5,382,308号明細書
【特許文献4】特開2013-234382号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】E. Arzt, “Creep of dispersion strengthened materials. A critical assessment”, Res Mechanica, 2009, 31, p.399-453
【非特許文献2】S. C. Tjong and Z. Y. Ma, “Microstructural and mechanical characteristics of in situ metal matrix composites,” Materials Science and Engineering: R: Reports, 2000, 29, p.49-113
【非特許文献3】J. C. Walker, K. M. Berggreen, A. R. Jones, C. J. Sutcliffe, “Fabrication of Fe-Cr-Al Oxide Dispersion Strengthened PM2000 Alloy Using Selective Laser Melting”, Advanced Engineering Materials, 2009, 11, p.541-546
【非特許文献4】R. M. Hunt, K. J. Kramer, B. El-Dasher, “Selective laser sintering of MA956 oxide dispersion strengthened steel”, Journal of Nuclear Materials, 2015, 464, p.80-85
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、非特許文献3や4に記載の方法では、積層造形を行う各層ごとに、レーザーや電子ビームを用いて粉末粒子を溶融するため、積層造形の各層に酸化物を残すことはできるが、各層の粉末粒子を溶融した範囲で、酸化物粒子が凝集してしまう。また、特許文献4に記載の方法でも同様に、各層の粉末粒子を溶融した範囲で、ノズルで装入した酸化物粒子が凝集してしまう。このため、これらの方法では、母相の結晶粒の内部に、微細な酸化物粒子を均一に分散させるのは困難であるという課題があった。
【0010】
本発明は、このような課題に着目してなされたもので、積層造形法を用いて、母相の結晶粒の内部に、微細な酸化物粒子を均一に分散させることができる積層造形用混合粉末および酸化物分散強化型合金の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するために、本発明に係る積層造形用混合粉末は、1または複数の金属元素から成る母相に、酸化物を形成可能な元素から成る酸化物形成物質を含有した第1の粉末と、酸化物を含み、前記第1の粉末の表面に担持された第2の粉末とを有し、前記第2の粉末に含まれる前記酸化物の、酸素と結合した元素の標準生成エンタルピーが、前記酸化物形成物質の標準生成エンタルピーよりも高いことを特徴とする。
【0012】
本発明に係る酸化物分散強化型合金の製造方法は、本発明に係る積層造形用混合粉末を原料として積層造形を行い、前記母相の内部に、前記酸化物形成物質を含む酸化物が分散された合金を製造することを特徴とする。
【0013】
本発明に係る酸化物分散強化型合金の製造方法は、第2の粉末に含まれる酸化物の、酸素と結合した元素の標準生成エンタルピーが、酸化物形成物質の標準生成エンタルピーよりも高いため、第2の粉末に含まれる酸化物が、酸化物形成物質により形成される酸化物より不安定となる。本発明に係る酸化物分散強化型合金の製造方法は、本発明に係る積層造形用混合粉末を原料として積層造形を行う際、レーザーや電子ビームにより第1の粉末を溶融するため、凝固したとき、第2の粉末が局所的に凝集して不均質に分散した組織が形成される。また、レーザーや電子ビームにより第1の粉末を溶融する際、その溶融位置に隣接する、既に積層造形で形成された層でも、瞬間的に高温となる。これにより、その層中の第2の粉末に含まれる不安定な酸化物が分解され、その酸素が母相の結晶粒内に固相拡散される。このとき、第1の粉末に含有される酸化物形成物質により形成される酸化物が、第2の粉末に含まれる酸化物よりも安定しているため、母相の結晶粒内に拡散した酸素と酸化物形成物質とが反応して酸化物が形成され、母相の結晶粒内に析出する。これにより、母相の内部に微細な酸化物粒子が分散した酸化物分散強化型合金を製造することができる。
【0014】
このように、本発明に係る酸化物分散強化型合金の製造方法は、本発明に係る積層造形用混合粉末を原料とした積層造形法を用いることにより、母相の結晶粒の内部に、微細な酸化物粒子を均一に分散させることができる。また、本発明に係る酸化物分散強化型合金の製造方法は、積層造形を行うため、複雑な形状を有する酸化物分散強化型合金を製造することができる。
【0015】
本発明に係る酸化物分散強化型合金の製造方法は、前記積層造形により形成された三次元構造物に対して熱処理を行ってもよい。この場合、熱処理により、積層造形では分解しきれず、第2の粉末に残った不安定な酸化物を分解することができ、母相の結晶粒の内部への、微細な酸化物粒子の分散を促進することができる。
【0016】
また、この場合、前記熱処理は、真空中または不活性ガス雰囲気中で行われることが好ましい。また、熱処理は、高圧の静水圧をかけながら高温で保持する熱間静水圧プレスにより行われてもよい。また、熱処理は、第2の粉末に含まれる不安定な酸化物を分解し、その酸素を母相の結晶粒内に固相拡散可能な温度および時間であることが好ましく、例えば、600℃乃至1000℃で、30分乃至6時間である。
【0017】
本発明に係る酸化物分散強化型合金の製造方法により製造される酸化物分散強化型合金は、1または複数の金属元素から成る母相の内部に、直径が5nm乃至60nmの微細な酸化物粒子が分散していることを特徴とする。
【0018】
この酸化物分散強化型合金は、母相の結晶粒の内部に酸化物粒子が均一に分散しているため、強度特性が高い。本発明に関する酸化物分散強化型合金は、特に、ビッカース硬度が、前記母相のみから成る金属の1.5倍乃至3倍であることが好ましく、また、ビッカース硬度が、100Hv以上であることが好ましい。
【0019】
本発明に係る積層造形用混合粉末で、前記母相を構成する金属元素は、酸素に対する固溶限が、前記酸化物形成物質よりも小さいことが好ましい。この場合、母相の結晶粒内に、酸素と酸化物形成物質とが反応して形成された酸化物を析出させることができ、本発明に関する酸化物分散強化型合金を製造しやすい。
【0020】
本発明に係る積層造形用混合粉末で、前記酸化物形成物質は、Al、Zr、Hf、および希土類元素のうちの少なくとも1つ以上を含むことが好ましい。この場合、母相の内部に、Al、Zr、Hf、および希土類元素のうちの少なくとも1つ以上を含む酸化物から成る酸化物粒子が分散された酸化物分散強化型合金を製造することができる。
【0021】
本発明に係る積層造形用混合粉末で、前記母相は、Ni、Co、Cu、Ir、もしくはPtから成る、または、Fe、Ni、Co、Cu、Ir、およびPtのうちの少なくとも1つ以上を含む複数の金属元素から成ることが好ましい。この場合、Fe、Ni、Co、Cu、Ir、およびPtのうちの少なくとも1つ以上を含む母相から成る酸化物分散強化型合金を製造することができる。
【0022】
本発明に係る積層造形用混合粉末で、前記第2の粉末は、前記母相に含まれる金属元素を少なくとも1つ以上含んでいてもよい。この場合、第2の粉末中の、母相に含まれる金属元素と同じ金属元素を、熱処理後に母相として吸収することができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、積層造形法を用いて、母相の結晶粒の内部に、微細な酸化物粒子を均一に分散させることができる積層造形用混合粉末および酸化物分散強化型合金の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】本発明の実施の形態の酸化物分散強化型合金の製造方法を示す、(a)原料となる、本発明の実施の形態の積層造形用混合粉末、(b)積層造形の工程、(c)熱処理の工程を示す側面図である。
図2】本発明の実施の形態の積層造形用混合粉末の、第1の粉末であるFe-Al合金粉末粒子を示す走査型電子顕微鏡(SEM)像である。
図3】Fe-Al合金粉末の表面にFe粉末が多数担持された、本発明の実施の形態の積層造形用混合粉末の粒子を示す走査型電子顕微鏡(SEM)像である。
図4】本発明の実施の形態の積層造形用混合粉末を原料としてレーザー積層造形したときの、三次元構造物の表面を示す走査型電子顕微鏡(SEM)像である。
図5図4に示す三次元構造物を切断したときの内部組織を示す走査型電子顕微鏡(SEM)像である。
図6図4に示す三次元構造物の内部組織を示す透過型電子顕微鏡(TEM)像である。
図7図4に示す三次元構造物を熱処理して製造された酸化物分散強化型合金を示す透過型電子顕微鏡(TEM)像である。
図8図7に示す酸化物分散強化型合金の電子線回折像および回折パターンである。
図9】純鉄、Fe-0.62 at.%Al合金、図7に示す酸化物分散強化型合金のビッカース硬度(Hv)を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、図面および実施例に基づいて、本発明の実施の形態の積層造形用混合粉末および酸化物分散強化型合金の製造方法について説明する。
図1(a)に示すように、本発明の実施の形態の積層造形用混合粉末10は、母相に酸化物形成物質を含有した第1の粉末11と、第1の粉末11の表面に担持された第2の粉末12とを有している。
【0026】
第1の粉末11の母相は、1または複数の金属元素から成っている。母相は、例えば、Fe、Ni、Co、Cu、Ir、およびPtのうちの少なくとも1つ以上を含んでいる。また、第1の粉末11の酸化物形成物質は、安定な酸化物を形成可能な元素から成っている。酸化物形成物質は、例えば、Al、Zr、Hf、および希土類元素のうちの少なくとも1つ以上を含んでいる。第1の粉末11は、母相を構成する金属元素の酸素に対する固溶限が、酸化物形成物質の酸素に対する固溶限よりも小さくなっている。
【0027】
第1の粉末11は、例えば、高速のガスまたは水などの流体を金属溶湯に吹き付けて金属を微粉末化する、アトマイズ法で製造することができる。また、母相および酸化物形成物質を構成する元素の純物質粉末をボールミルやアトライターなどを用いて粉砕し合金化する、メカニカルアロイング法でも製造することができる。
【0028】
第2の粉末12は、第1の粉末11の酸化物形成物質により形成される酸化物より不安定な酸化物を含んでいる。第2の粉末12に含まれる酸化物は、酸素と結合した元素の標準生成エンタルピーが、酸化物形成物質の標準生成エンタルピーよりも高いものから成っている。なお、第2の粉末12は、母相に含まれる金属元素を少なくとも1つ以上含んでいてもよい。第2の粉末12は、破砕や溶液からの還元など、微細粉末を作る様々な方法で製造することができる。
【0029】
積層造形用混合粉末10は、例えば、以下の方法により製造することができる。すなわち、第1の粉末11と第2の粉末12と攪拌用のボールとを粉砕容器に投入し、ポットミルなどにより低速で回転させて均質に混合する。あるいは、第1の粉末11と第2の粉末12とをアルコールなどの溶液に投入し、外部から超音波振動を印加して溶液中で粉末を分散させ、粉末と液体とを遠心分離機などで分離して乾燥させる。これらの方法により、第1の粉末11の表面に第2の粉末12を担持させた積層造形用混合粉末10を製造することができる。
【0030】
こうして製造された積層造形用混合粉末10を原料として、本発明の実施の形態の酸化物分散強化型合金の製造方法により、酸化物分散強化型合金20を製造することができる。すなわち、図1(b)に示すように、まず、積層造形用混合粉末10を原料として積層造形を行う。積層造形では、原料の積層造形用混合粉末10を供給して薄く敷き詰め、レーザーや電子ビームを照射して、積層造形用混合粉末10を選択的に溶融・焼結することにより焼結層を形成する。この積層造形用混合粉末10の供給から焼結層の形成までの工程を、焼結層が積み重なるよう繰り返すことにより、三次元形状を有する構造物を製造する。この積層造形では、レーザーや電子ビームにより第1の粉末11を溶融するため、凝固したとき、第2の粉末12が局所的に凝集して不均質に分散した組織が形成される。
【0031】
また、レーザーや電子ビームにより第1の粉末11を溶融する際、その溶融位置に隣接する、既に積層造形で形成された層でも、瞬間的に高温となる。これにより、その層中の第2の粉末12に含まれる不安定な酸化物が固相状態で分解され、その酸素が母相の結晶粒内に固相拡散される。このとき、第1の粉末11に含有される酸化物形成物質により形成される酸化物が、第2の粉末12に含まれる酸化物よりも安定しており、また、母相を構成する金属元素の酸素に対する固溶限が、酸化物形成物質の酸素に対する固溶限よりも小さいため、母相の結晶粒内に拡散した酸素と酸化物形成物質とが反応して酸化物が形成され、母相の結晶粒内に析出する。また、一般的に、酸素は金属の侵入型位置に固溶し、侵入型位置を移動しながら拡散するため拡散が速いのに対し、安定酸化物を形成する金属元素は、置換型位置に固溶しているため拡散が遅い。この速度差を利用することにより、母相の結晶粒内に安定酸化物を均一に分散させることができる。これにより、図1(b)に示すように、母相の内部に微細な安定酸化物の粒子が均一に分散した酸化物分散強化型合金20を製造することができる。
【0032】
なお、図1(c)に示すように、積層造形により形成された三次元構造物に対して、真空中または不活性ガス雰囲気中で熱処理を行ってもよい。熱処理は、第2の粉末12に含まれる不安定な酸化物を分解し、その酸素を母相の結晶粒内に固相拡散可能な温度および時間であることが好ましく、例えば、600℃乃至1000℃で、30分乃至6時間である。この熱処理により、積層造形では分解しきれず、第2の粉末に残った不安定な酸化物を分解することができ、母相の結晶粒の内部への、微細な酸化物粒子の分散を促進することができる。これにより、母相の内部に微細な酸化物粒子がさらに多く分散された酸化物分散強化型合金20を製造することができる。
【0033】
このように、本発明の実施の形態の酸化物分散強化型合金の製造方法によれば、積層造形用混合粉末10を原料とした積層造形法を用いることにより、母相の結晶粒の内部に、微細な酸化物粒子を均一に分散させることができる。また、本発明の実施の形態の酸化物分散強化型合金の製造方法によれば、積層造形を行うため、複雑な形状を有する酸化物分散強化型合金20を製造することができる。
【実施例0034】
鉄を母相とする合金の結晶粒内に、数十nmの大きさの酸化物を分散させた酸化物分散強化型合金20の実施例を示す。まず、原料の積層造形用混合粉末10の製造を行った。純度99.999%の高純度Fe原料と、純度99.99%の高純度Al粉末原料とを用いて、高純度Ar雰囲気下で、アーク溶解法によりFe-Al二元系合金を溶解した。アーク溶解した合金を、ZrO製るつぼに入れて高周波加熱により再溶解し、その溶湯をるつぼ下部の孔から滴下させた。その溶湯に高圧Arを噴射し、ガスアトマイズ法により、合金粉末を作製した。作製した合金粉末を、ICP-OESで分析した結果、Feの中にAlが0.62 at.%含まれていることが確認された。
【0035】
この合金粉末をふるいで分級し、直径が25μmから45μmの粉末を抽出した。抽出された合金粉末粒子の走査型電子顕微鏡(SEM)像を、図2に示す。このFe-Al合金粉末が、第1の粉末11を成している。
【0036】
抽出されたFe-Al合金粉末35 gと、直径0.3μmのFe粉末0.3 gと、直径2 mmのメノウ製ボール0.3 gとを容器に入れ、ローラーミルを用いて混合した。このとき、Fe粉末は、合金粉末中のAlを全て酸化するのに必要となる酸素量を考慮し、合金粉末に対して 2.5 vol.%となる量を添加した。また、ローラーミルは、毎分250回転の回転速度で、10時間行った。混合後の粉末のSEM像を、図3に示す。図3に示すように、0.3μmのFe粉末が、Fe-Al合金粉末の表面に多数担持されているのが確認できる。このFe粉末が、第2の粉末12を成している。こうして、Fe-Al粉末の表面にFe粉末が担持された積層造形用混合粉末10を製造した。
【0037】
次に、製造された積層造形用混合粉末10を原料として、Ar雰囲気下でレーザー積層造形法を行った。積層造形では、レーザー照射の条件として、走査速度を毎秒10 mm、走査ピッチを100μm、レーザー出力を20 Wとした。また、積層造形用混合粉末10を、1層あたり25μmの厚さで供給した。なお、これらの条件から、焼結される粉末1層分に投入される単位体積あたりの全エネルギー量(エネルギー密度)は、800 J/mm3と算出される。
【0038】
積層造形用混合粉末10をレーザー積層造形したときの三次元構造物表面の走査型電子顕微鏡像を、図4に示す。図4に示すように、表面の凹凸形状から、積層造形用混合粉末10がレーザー照射によって溶融し、凝固したことが確認できる。また、図4に示す三次元構造物を切断したときの内部組織の走査型電子顕微鏡像を、図5に示す。図5に示すように、酸素源となるFe粉末(図中の黒い粒子)が、母相の結晶粒界上だけでなく、結晶粒内にも多数存在していることが確認できる。また、図4に示す三次元構造物の結晶粒内の組織を、透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて高倍率で観察した結果を、図6に示す。図6に示すように、20~100 nmの微細な粒子(図中のやや黒い粒子「FeAl」)が母相中に分散した組織が確認できる。
【0039】
次に、レーザー積層造形により得られた構造物を、真空中で、800℃で4時間の熱処理を行った。熱処理後の構造物の透過型電子顕微鏡(TEM)像を、図7に示す。図7に示すように、主として直径が20~50 nm、最も小さいもので直径が5 nm程度の微細な粒子(図中の白い粒子「FeAl」)が結晶粒内部に高密度で分散しているのが確認できる。
【0040】
微細な粒子を含む領域に制限視野絞りを入れて、電子線回折像を撮影した。その電子線回折像を、図8に示す。図8に示すように、電子線回折像は、母相の鉄(α-Fe)と2つのFeAl粒子の回折像から構成されていることが確認できる。すなわち、Feの分解に伴い内方拡散した酸素が、母相のAlと固相状態で反応し、微細なFeAl粒子が形成されたことが確認された。図8の結果から、図7中の微細な粒子は、Alを含む酸化物、すなわちFeAl粒子であることが確認された。また、同様にして、図6中の微細な粒子も、FeAl粒子であることが確認された。
【0041】
これらの結果から、図6中のFeAl粒子は、レーザー積層造形中に発生する熱により、Feが分解されて酸素が内方拡散し、その酸素が母相のAlと固相状態で反応してFeAl粒子として析出したものであると考えられる。このことから、レーザー積層造形中に発生する熱でも、酸化物の分解と微細な酸化物粒子の析出反応が進行することが確認できる。また、レーザー積層造形後、さらに熱処理を行うことにより、図5に示す母相中に残存したFe粉末が分解され、それにより母相中にFeAl粒子が析出し、図7に示すように、図6よりも高密度でFeAl粒子が分散したものと考えられる。このように、積層造形用混合粉末10を原料として、レーザー積層造形を行うことにより図6に示す酸化物分散強化型合金20を、レーザー積層造形および熱処理を行うことにより図7に示す酸化物分散強化型合金20を作製できることが確認された。
【0042】
純鉄、Fe-0.62 at.%Al合金、および、図7に示す酸化物分散強化型合金20のビッカース硬度(Hv)を測定し、その結果を図9に示す。図9に示すように、純鉄およびFe-0.62 at.%Al合金のビッカース硬度は、それぞれ60Hv、75Hv程度であるのに対し、酸化物分散強化型合金20のビッカース硬度は、121Hvと高くなっていることが確認できる。すなわち、酸化物分散強化型合金20の母相の結晶粒の内部には、図7に示すように、微細なFeAl粒子が分散しており、その分散粒子の存在により、ビッカース硬度が純鉄の約2倍まで増大しているものと考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明に係る酸化物分散強化型合金の製造方法により製造される酸化物分散強化型合金は、航空用あるいは発電用タービンエンジンの動翼や静翼、宇宙機姿勢制御用スラスタ、燃料噴射ノズル、原子力発電用燃料被覆管など、複雑な形状を有し、実際の使用で高温に晒される部品に利用することができる。
【符号の説明】
【0044】
10 積層造形用混合粉末
11 第1の粉末
12 第2の粉末
20 酸化物分散強化型合金
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9