(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022107071
(43)【公開日】2022-07-21
(54)【発明の名称】冷却装置における冷却液の熱を取り出す熱交換構造、及び該熱交換構造を備える冷却装置
(51)【国際特許分類】
F28D 15/02 20060101AFI20220713BHJP
H01L 23/427 20060101ALI20220713BHJP
【FI】
F28D15/02 M
H01L23/46 A
F28D15/02 101G
【審査請求】有
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2019095519
(22)【出願日】2019-05-21
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成29年度、科学技術振興機構、研究成果展開事業 研究成果最適展開支援プログラム、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】516319500
【氏名又は名称】株式会社ロータス・サーマル・ソリューション
(71)【出願人】
【識別番号】517018101
【氏名又は名称】公立大学法人山陽小野田市立山口東京理科大学
(74)【代理人】
【識別番号】100074561
【弁理士】
【氏名又は名称】柳野 隆生
(74)【代理人】
【識別番号】100177264
【弁理士】
【氏名又は名称】柳野 嘉秀
(74)【代理人】
【識別番号】100124925
【弁理士】
【氏名又は名称】森岡 則夫
(74)【代理人】
【識別番号】100141874
【弁理士】
【氏名又は名称】関口 久由
(74)【代理人】
【識別番号】100163577
【弁理士】
【氏名又は名称】中川 正人
(72)【発明者】
【氏名】井手 拓哉
(72)【発明者】
【氏名】大串 哲朗
(72)【発明者】
【氏名】村上 政明
(72)【発明者】
【氏名】沼田 富行
(72)【発明者】
【氏名】結城 和久
(72)【発明者】
【氏名】海野 徳幸
(72)【発明者】
【氏名】木伏 理沙子
【テーマコード(参考)】
5F136
【Fターム(参考)】
5F136BA04
5F136BA13
5F136CC31
5F136GA17
(57)【要約】
【課題】発熱密度の高い発熱体を効率よく冷却でき、低コスト化、軽量・コンパクト化が可能な冷却装置、特にその冷却液の放熱構造を提供せんとする。
【解決手段】容器2内に冷却対象物9の熱を吸収する冷却液3を収容するとともに、該冷却液3の熱を放熱する放熱器4を有してなる冷却装置Sにおける、前記冷却液3の熱を取り出すための熱交換構造1であって、容器2内に、放熱器4により放熱される良熱伝導性材料よりなるベース部10と、該ベース部10から内方に突出し、少なくとも一部が前記冷却液3に浸漬される、良熱伝導性材料よりなる複数の板状フィン11とを設けた。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
容器内に冷却対象物の熱を吸収する冷却液を収容するとともに、該冷却液の熱を放熱する放熱器を有してなる冷却装置における、前記冷却液の熱を取り出すための熱交換構造であって、
前記放熱器により放熱される良熱伝導性材料よりなるベース部と、該ベース部から前記容器の内方に突出し、少なくとも一部が前記冷却液に浸漬される、良熱伝導性材料よりなる複数の板状フィンとを設けてなることを特徴とする熱交換構造。
【請求項2】
前記板状フィンが、板面に開口する複数の貫通孔が形成されている、
請求項1記載の熱交換構造。
【請求項3】
前記板状フィンが、金属凝固法で成形された一方向に延びた複数の気孔を有するロータス型ポーラス金属成形体を、気孔の伸びる方向に交差する方向に切断加工してなる板材よりなり、
前記切断により分断された前記気孔が、前記板状フィンの前記貫通孔となる、請求項2記載の熱交換構造。
【請求項4】
請求項1~3の何れか1項に記載の熱交換構造を備える冷却装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子機器などの発熱密度の高い冷却対象物を冷却する冷却装置における、冷却液の熱を取り出す熱交換構造、及び該熱交換構造を備える冷却装置に関する。
【背景技術】
【0002】
スーパーコンピュータやハイパフォーマンスコンピュータ(HPC)、データセンターなど、高度情報化社会への移行に伴い、関連電子機器の発熱密度はますます増大しており、より高性能な冷却装置が求められており、このような高性能な冷却装置の一つとして、容器内の冷却液に冷却対象物(発熱体)を浸漬して冷却する浸漬型の沸騰冷却装置が注目されている(たとえば、特許文献1参照。)。
【0003】
このような沸騰冷却装置に例示される冷却液を用いた冷却装置においては、冷却液による発熱体からの受熱の効率を確保するだけでなく、冷却液が受けた熱の容器外への放熱も重要である。冷却液の放熱性能は、主に冷却液からの熱の取出し及び外部への放熱の各熱伝達の性能により決まるが、一般に液体からの効率のよい熱の取出しが困難とされている。
【0004】
したがって、通常は、冷却液が気化した蒸気を容器外の大型ラジエータへ輸送し、該大型ラジエータで熱を取り出すとともに熱交換により外部へ放熱したのち、再び冷却液を容器内へ戻す構造とされている。このような大型ラジエータや必要となる耐熱配管などはコスト増大を招くとともに装置の軽量・コンパクト化を阻む要因となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、本発明が前述の状況に鑑み、解決しようとするところは、発熱密度の高い発熱体を効率よく冷却でき、低コスト化、軽量・コンパクト化が可能な冷却装置、特にその冷却液の放熱構造を提供する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、かかる現況に鑑み、鋭意検討した結果、電子機器などの発熱部を冷却する場合、冷却水に浮力駆動による自然対流、もしくは沸騰が生じる場合には気泡駆動による対流が発生することに着目し、この自然に誘起された冷却水の流れのなかに吸熱用のフィンを設置することで、冷却水から熱を効率よく取り出せることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち本発明は、以下の発明を包含する。
(1) 容器内に冷却対象物の熱を吸収する冷却液を収容するとともに、該冷却液の熱を放熱する放熱器を有してなる冷却装置における、前記冷却液の熱を取り出すための熱交換構造であって、前記放熱器により放熱される良熱伝導性材料よりなるベース部と、該ベース部から前記容器の内方に突出し、少なくとも一部が前記冷却液に浸漬される、良熱伝導性材料よりなる複数の板状フィンとを設けてなることを特徴とする熱交換構造。
【0009】
(2) 前記板状フィンが、板面に開口する複数の貫通孔が形成されている、(1)記載の熱交換構造。
【0010】
(3) 前記板状フィンが、金属凝固法で成形された一方向に延びた複数の気孔を有するロータス型ポーラス金属成形体を、気孔の伸びる方向に交差する方向に切断加工してなる板材よりなり、前記切断により分断された前記気孔が、前記板状フィンの前記貫通孔となる、(2)記載の熱交換構造。
【0011】
(4) (1)~(3)の何れかに記載の熱交換構造を備える冷却装置。
【発明の効果】
【0012】
以上にしてなる本願発明に係る熱交換構造によれば、冷却対象物の熱を受けて浮力駆動による自然対流、又は沸騰気泡駆動による対流を生じた冷却液が、該冷却液に浸漬された前記複数の板状フィンの間を流通し、その過程で板状フィン表面に効率よく熱が取り出され、該熱はベース部に伝わり、放熱器で放熱されることになる。
【0013】
このように、本発明の熱交換構造によれば、冷却液から板状フィンを通じて効率よく熱を取り出すことができ、従来のように冷却液の蒸気を容器外の大型ラジエータへ輸送し、該大型ラジエータで冷却液の熱を取り出すとともに熱交換により外部へ放熱したのち、再び冷却液を容器内へ戻すといった大掛かりな構造を省略することが可能となり、大幅なコスト低減、装置の軽量・コンパクト化が実現可能となる。
【0014】
さらに、前記板状フィンが、板面に開口する複数の貫通孔が形成されているものでは、前記対流する冷却液が板状フィンの間を通過する際の板面の伝熱面積が拡大するとともに、冷却液がフィン間のみならず前記貫通孔をも通過することで、該板状フィンを通じた冷却液の熱の取り出しがより効率よく行われることになり、熱変換効率を更に高めることができる。
【0015】
とくに、前記板状フィンが、金属凝固法で成形された一方向に延びた複数の気孔を有するロータス型ポーラス金属成形体を、気孔の伸びる方向に交差する方向に切断加工してなる板材よりなり、前記切断により分断された前記気孔が、前記板状フィンの前記貫通孔となるものでは、ドリル加工等で板状フィンの各貫通孔を機械加工することに比べ、より低コスト且つ容易に製作できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の代表的実施形態にかかる冷却装置を示す説明図。
【
図2】同じく冷却装置の熱交換構造に用いられる板状フィンを示す説明図。
【
図3】同じく熱交換構造を構成するベース部および板状フィンを示す斜視図。
【
図4】同じくベース部および板状フィンをフィン突出側から見た説明図。
【
図5】同じく板状フィンの配置形態の変形例を示す説明図。
【
図6】同じく板状フィンの配置形態の他の変形例を示す説明図。
【
図7】(a)、(b)は、同じく板状フィンの配置形態の更に他の変形例を示す説明図。
【
図8】同じくベース部および板状フィンの配置形態の変形例を示す説明図。
【
図9】同じく板状フィンの配置形態の他の変形例を示す説明図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
次に、本発明の実施形態を添付図面に基づき詳細に説明する。
【0018】
図1は、本発明にかかる熱交換構造1を備える冷却装置Sの全体構成を示す概略図である。冷却装置Sは、容器2内に冷却対象物9の熱を吸収する冷却液3を収容するとともに、該冷却液3の熱を放熱する放熱器4を有している。冷却液3は、水その他、従来から浸漬型沸騰冷却装置の冷却液として使用されている液体を広く採用できる。また、放熱器4についても、放熱量に合わせて水冷方式、空冷方式、ヒートパイプ熱輸送方式などの各種方式の公知の放熱器を広く採用できる。
図10に示すように容器壁部を兼ねるベース部10の外側にも板状フィン11を貫通状態に突出させ、当該外側に突出した板状フィン11を空冷等により冷却する放熱器4としてもよい。この場合も空冷以外に水冷など種々の方式が可能である。
【0019】
本発明では、冷却液3の熱を取り出すための熱交換構造1として、容器2の上部2aに、放熱器4により放熱される良熱伝導性材料よりなるベース部10と、該ベース部10に突設され、少なくとも一部が冷却液3に浸漬される、良熱伝導性材料よりなる複数の板状フィン11、…とが設けられている。容器底部2bには、加熱対象物9が内部に貫通させた状態に保持する保持穴21が設けられ、冷却液3に露出した加熱対象物9の上面が発熱面30となり、気泡発生面として機能する。なお、本実施形態では加熱対象物9が直接冷却液3に接液する例について説明するが、他部材(容器底壁など)を介して伝熱させるものでも勿論よい。
【0020】
発熱面30の温度が上昇するにつれ、これに触れている底側の領域の冷却液3の温度とその他の領域の冷却液3の温度との差が大きくなり、浮力駆動の自然対流が発生し、発熱面30の温度が冷却液3の沸点よりも高くなると、底側の領域の冷却液3には前記発熱面から沸騰気泡が発生し、気泡駆動の強い対流が生じる。このように対流を生じた冷却液は、前記複数の板状フィン11、…の間を流通し、その過程で板状フィン表面に効率よく熱が取り出され、さらに該熱はベース部10に伝わり、放熱器4で効率よく放熱される。
【0021】
このように本発明の熱交換構造1は、高発熱密度環境で冷却液に自然発生した対流現象を上記のようにポジティブに活用でき、熱交換性能を飛躍的に向上させるものである。これにより、外部のラジエータに冷却液やその蒸気を送ることなく、冷却液の熱を板状フィン11を通じてベース部10に効率よく取り出し、そこに設けた放熱器4で放熱することができるため、大掛かりな構造を省き、コスト低減、装置の軽量・コンパクト化が実現できるのである。
【0022】
ベース部10や板状フィン11の材料は、アルミニウムや鉄、銅など従来ヒートシンク等に使用される良熱伝導性の金属材料を広く採用できる。両者は一体的に形成(たとえばアルミダイキャスト成形等)されたものでもよいし、別体形成されたものを互いにはんだ付けやろう付けにより接合する等して組み付けて構成してもよい。
【0023】
板状フィン11は、板面に開口する複数の貫通孔110が形成されている。貫通孔110ではなく有底の凹部であっても、対流する冷却液が板状フィン11の間を通過する際の板面の伝熱面積が拡大し、熱交換効率が高められる。とくに貫通孔110の場合には、さらに冷却液がフィン間のみならず前記貫通孔110をも通過することで、該板状フィン11を通じた冷却液の熱の取り出しがより効率よく行われることになる。
【0024】
このような貫通孔110は、ドリルやレーザ等により貫通孔を加工したものでもよいが、本例では、金属凝固法で成形された一方向に延びた複数の気孔を有するロータス型ポーラス金属成形体を、気孔の伸びる方向に交差する方向に切断加工してなる板材(ロータスフィン5)よりなり、前記切断により分断された前記気孔が、前記板状フィン11(ロータスフィン5)の貫通孔110となる。このようなロータス型ポーラス金属成形体は、高圧ガス法(Pressurized Gas Method)(例えば特許第4235813号公報開示の方法)や、熱分解法(Thermal Decomposition Method)など、公知の方法で成形することができる。
【0025】
ロータス型ポーラス金属成形体から切り出した板材には、貫通孔110以外に貫通していない有底の孔も存在するが、上記のとおり、このような有底の凹部も対流する冷却液が板状フィン11の間を通過する際の板面の伝熱面積を拡大し、熱交換効率を高める効果がある。各板状フィン11の形状は長方形としたが、これに何ら限定されず、例えば多角形や半円形など、長方形以外の形状とすることも勿論できる。
【0026】
また、本例の板状フィン11は、ベース部10の下面に直角(真下)の方向に向けて突出し、互いに平行に所定間隔をあけて配置されているが、直角である必要はなく、角度を持った方向、あるいは屈曲又は湾曲状に突出したものでもよい(たとえば波状フィンなど)。これによりフィンを通過する流動を促進させることが可能である。また、互いの配置関係についても、種々の配置が可能である。
【0027】
たとえば
図5に示すように、比較的短い板状フィン11を多数、千鳥状に配置したものや、
図6に示すように多方向に向けて配置したもの、
図7(a)に示すように円形(円筒形)に曲げて同心円状に複数配置したもの、
図7(b)に示すように湾曲させた板状フィン11を円周方向に沿って隙間をあけて断続的に配置し、これを同心円状に複数設けたものなども好ましい。
【0028】
なかでも、板状フィン11が本例のように複数の貫通孔110を設けたものであり、かつ
図7(a),(b)に示すように湾曲させた板状フィン11を同心円状に複数配置した、多重円筒状の配置にしたものでは、多くのケースで考えられる冷却液の流れ、すなわち容器の中心部分を上昇し、上部で外側に向けて流れる流れを考えた場合に、中心側の円を為す板状フィン11からその貫通孔110を通じて外側の円を為す板状フィン11に向けて冷却液が流れ、各板状フィン11の貫通孔110への冷却液の流通を促進させ、熱交換性能をより高めることができる点で好ましい。
【0029】
とくに、
図7(b)に示すように断続的な円とすることで、内側と外側の板状フィンからなる円の間で圧力バランスが生じ、冷却液の流れが滞ってしまうことを防止できる点で、より好ましい例といえる。また、本例ではベース部10が容器2の上蓋を兼ね、該ベース部10の下面に板状フィン11を設けているが、容器側壁の上部に、該側壁を構成するベース部を設けて、該ベース部の内面側に板状フィンを容器中心軸に向けて突設してもよい。
【0030】
また、
図1の代表例では、ベース部10を容器2の上部に設け、該ベース部10から下方に向けて板状フィン11を突設した例を説明したが、
図8に示すように容器側部に縦にベース部10設け、該ベース部10から容器内方に板状フィン11を突設したものでもよい。また、この場合、
図9に示すように左右のベース部10から延びる板状フィン11を連結した形態、すなわち一枚の板状フィン11の両端を左右のベース部10に支持させた構造も好ましい。このようにベース部10を容器側部に設ける場合、容器2の側壁を兼ねるように構成することができる。
【0031】
熱交換構造1による熱交換性能は、板状フィン11の配置形態、各板状フィン11の貫通孔110の形態(ポーラス構造)、冷却液の水位、各板状フィン11の浸漬部高さなどで任意に調整可能である。以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はこうした実施例に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々なる形態で実施し得ることは勿論である。
【実施例0032】
以下、ロータスフィン浸漬冷却試験装置および実験概要について説明する。
【0033】
使用した装置は、
図11に示すように、加熱銅ブロック91、ポリカ容器2A、板状プレート11、ベース部10、放熱器4で構成されている。加熱銅ブロック91の上端面は、短冊状の沸騰伝熱面(10 mm×80 mm)となっており、容器内に入れられた蒸留水を沸騰させる。発生した蒸気泡31は上昇し、板状のベース部10に突設された液浸フィン(板状フィン11)で凝縮する。熱交換プレート(ベース部10)上部に設けられた放熱器4は、間隙5mmの狭隘流路内にチラーで温度管理された冷却水を循環させて冷却する構造である(設定温度は60度。)。
【0034】
加熱銅ブロック91の底部には、定格500Wのカートリッジヒータ92が5本
装荷され、スライダックで加熱しながら定常実験を実施する。加熱ブロック91は、熱流束300W/cm2まで伝熱試験が実施できるよう熱設計されている。これはZuberのCHF相関式から算出される水のプール沸騰限界熱流束が約110W/cm2であることから、CHFに近い沸騰伝熱試験を確実に実施するためである。
【0035】
加熱銅ブロック91には沸騰伝熱面30Aから10mm、20mmの位置に、熱電対93がブロック横方向に5列等間隔で装荷されており、これらの温度データから伝熱面温度5点を外挿して算出することができる。この5点の伝熱面平均温度Taγ(℃)から以下の式(1)により銅の熱伝導率λ(W/m/K)を求め、フーリエ則(2)から平均熱流束q(W/cm2)を評価する。
【0036】
【0037】
本研究の伝熱性能評価には,以下に定義する熱抵抗RSYSを用いる。
【0038】
【0039】
RSYSは、浸漬冷却装置の加熱銅ブロック伝熱面温度Tbaseから冷却器内冷却水の平均温度Tc=(Tin+Tout)/2までの総熱抵抗である。ここで、Tinは冷却器入口の冷却水温度、Toutは冷却器出口の冷却水温度である。Rboil、Rcond、Rcoolは、それぞれ沸騰面熱抵抗、凝縮部熱抵抗、放熱部熱抵抗である。Tlは、ガラス容器内に設置された2本の熱電対で計測される平均温度であり,実験後半の高熱流束環境で飽和温度100℃となる。Tfinは、熱交換プレートの表面温度であり、極細熱電対を貼り付けて計測される。
【0040】
ベース部10は、縦×横が140×140mm、厚さ3mmの銅板である。板状フィン11は孔なしの銅板フィン/ロータス銅(ロータス型ポーラス銅成形体)のロータスフィンであり、ベース部10の下面に間隔10mmで計8枚をはんだで接合した。今回使用したロータス銅は、平均気孔径1.8mm、気孔率39%のものを使用している。このベース部10およびロータスフィン11を、
図15に示すように、ロータスフィン11が沸騰伝熱面に対して平行、又は垂直になるように接液させ、伝熱試験を実施した。
【0041】
(実験結果及び考察)
図12(a),(b)は、それぞれ熱流束が45W/cm
2の場合、CHF(110W/cm
2)付近の場合の各部位の熱抵抗を表している。Copper fin1,Lotus fin1は、銅板フィンの向きが伝熱面と垂直の場合、Copper fin2,Lotus fin2は、伝熱面がロータスフィンと平行の場合を示している。
【0042】
先ず、熱流束45W/cm2の低熱流束域では、銅板フィンとロータスフィンとの比較で、総熱抵抗にほとんど差がないことがわかる。また、熱交換プレートの設置方向では、銅フィン、ロータスフィンのどちらも伝熱面に対し平行の場合で凝縮部の熱抵抗割合が低いことが確認できる。
【0043】
さらに、ロータスフィンの凝縮部熱抵抗が大きいことから、冷却液から熱交換プレートへ熱が効率よく伝搬されていないことが伺える。これは、低熱流束では沸騰による対流が弱く、ロータスフィンの活用として期待している気孔内への流れが非常に弱く、結果としてロータスフィンの実効的な熱伝導性の低下が顕在化したものと考えられる。例えば、今回使用したロータス銅からなるロータスフィンの気孔鉛直方向に対する有効熱伝導率はモデル式から84W/m/K程度であり,純銅材の25%ほどの値である。
【0044】
一方、
図12(b)の限界熱流束(CHF)付近の高熱流束域では、それぞれの熱抵抗部での割合について,低熱流束域では銅フィンが26~28%であるのに対し、ロータス銅フィンが47~50%と高い熱抵抗割合を示した一方、CHF付近では割合が逆転し,銅フィン32~34%に対し,ロータス銅フィンでは27~30%と低い熱抵抗割合を示した。特に、凝縮部の熱抵抗の絶対値のみに注目すると、二つのロータスフィンに大きな差は見られないものの、銅板フィンの熱抵抗値(0.0176K/Wと0.0167K/W)に比べて、若干ではあるが熱抵抗が減少(0.0155K/W/cm
2と0.0154K/W)していることが確認できた。
【0045】
以上のことから、ロータスフィンを液浸フィンとして用いることが、熱交換性能の向上と装置軽量化に貢献できることを実証できたと言える。凝縮部の熱抵抗割合が低下した理由として、高熱流束環境になったことにより沸騰が活発化し、ロータスフィンの気孔内を通過する流れが増え、冷却液からロータス銅への熱伝達が促進されたためと考えられる。このことは、熱交換プレートで測定された温度からも確認でき、銅フィンでは82~83℃に対し、ロータスフィンでは85℃以上となり2~3℃ほど高い温度を示したことから、ロータスフィンの熱抵抗が低いことの証明といえる。
【0046】
以上のことを実証するため、
図13に熱流束に対する凝縮部熱抵抗の変化、
図14にその時の容器内の沸騰様相写真を示す。先ず、
図13から、熱流束45W/cm
2以上の条件で凝縮部の熱抵抗が軽減されてきていることを確認できる。
図14から、その辺りの熱流束条件で液体はサブクール状態から飽和状態へと遷移しており、発生した気泡のほとんどがフィンの内部に入っていく。このことがロータスフィンを通過する流れを誘起しているものと考えられる。このことから、本発明は激しく沸騰する系や飽和プール沸騰系に適した技術であると言える。