(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022107118
(43)【公開日】2022-07-21
(54)【発明の名称】蛍光偏光免疫分析用支持体、蛍光偏光免疫分析用キットおよび蛍光偏光免疫分析法
(51)【国際特許分類】
G01N 33/543 20060101AFI20220713BHJP
G01N 21/64 20060101ALI20220713BHJP
【FI】
G01N33/543 575
G01N21/64 F
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021001841
(22)【出願日】2021-01-08
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成28年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、先端計測分析技術・機器開発プログラム「オンサイト蛍光偏光イムノアッセイ装置の開発」委託研究開発、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】303018827
【氏名又は名称】Tianma Japan株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100095407
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 満
(74)【代理人】
【識別番号】100183955
【弁理士】
【氏名又は名称】齋藤 悟郎
(74)【代理人】
【識別番号】100132883
【弁理士】
【氏名又は名称】森川 泰司
(74)【代理人】
【識別番号】100180334
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 洋美
(74)【代理人】
【識別番号】100177149
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 浩義
(74)【代理人】
【識別番号】100174067
【弁理士】
【氏名又は名称】湯浅 夏樹
(74)【代理人】
【識別番号】100136342
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 成美
(72)【発明者】
【氏名】今井 阿由子
(72)【発明者】
【氏名】住吉 研
(72)【発明者】
【氏名】城川 政宜
【テーマコード(参考)】
2G043
【Fターム(参考)】
2G043AA01
2G043DA02
2G043EA01
(57)【要約】
【課題】試料中の測定対象物質を蛍光偏光免疫分析するための複数の反応部を有する支持体を提供する。
【解決手段】反応部に抗体と蛍光標識物質とが担持されている蛍光偏光免疫分析用支持体である。複数の反応部には、抗体や蛍光標識物質が、異なる濃度で担持されていてもよい。また、測定対象物質に対する結合親和性の異なる抗体が担持されていてもよい。このような担持により、反応部に測定対象物質を含む検液を添加するだけで蛍光偏光測定することができ、かつ測定対象物質の測定濃度範囲を広く確保することができる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料中の測定対象物質を蛍光偏光免疫分析するための複数の反応部を有する支持体であって、
前記反応部は、前記測定対象物質に結合能を有する抗体と、前記測定対象物質を蛍光色素で標識した蛍光標識物質とが担持されていることを特徴とする、蛍光偏光免疫分析用支持体。
【請求項2】
前記反応部は、前記蛍光標識物質および/または前記抗体が、異なる濃度で担持されていることを特徴とする、請求項1記載の蛍光偏光免疫分析用支持体。
【請求項3】
前記反応部は、前記測定対象物質に対する結合親和性の異なる抗体が担持されていることを特徴とする、請求項1または2記載の蛍光偏光免疫分析用支持体。
【請求項4】
前記反応部は、更に、pH調整剤が担持されていることを特徴とする、請求項1~3のいずれかに記載の蛍光偏光免疫分析用支持体。
【請求項5】
前記反応部は、マイクロ流路であることを特徴とする、請求項1~4のいずれかに記載の蛍光偏光免疫分析用支持体。
【請求項6】
前記反応部は、一部の反応部が連通路で連結されることを特徴とする請求項1~4のいずれかに記載の蛍光偏光免疫分析用支持体。
【請求項7】
前記蛍光色素は、フルオレセイン、ダンシル、ピレン、ローダミン、ジアルキルアミノナフタレン、ジアルキルアミノナフタレンスルホニル、インドレニン、およびルテニウムからなる群から選択される1以上である、請求項1~6のいずれかに記載の蛍光偏光免疫分析用支持体。
【請求項8】
前記蛍光色素は、蛍光寿命が1~3,000ナノ秒である、請求項1~6のいずれかに記載の蛍光偏光免疫分析用支持体。
【請求項9】
請求項1~8のいずれかに記載の蛍光偏光免疫分析用支持体と、前記測定対象物質の溶解用溶媒とを含む、蛍光偏光免疫分析用キット。
【請求項10】
請求項1~8のいずれかに記載の蛍光偏光免疫分析用支持体の反応部に前記測定対象物質を含む試料溶液を添加し、
前記反応部で前記測定対象物質、前記抗体、および前記蛍光標識物質を反応させ、
ついで、温度4~40℃で前記反応部の蛍光偏光分析を行うことを特徴とする、蛍光偏光免疫分析法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、抗体と蛍光標識物質とが担持されている蛍光偏光免疫分析用支持体、蛍光偏光免疫分析用キット、および蛍光偏光免疫分析用支持体を用いた蛍光偏光免疫分析法に関する。
【背景技術】
【0002】
蛍光を用いた免疫分析法として蛍光偏光免疫分析法がある。蛍光偏光免疫分析法で測定する蛍光偏光度は、測定対象物質の実効体積に比例することが知られている。特許文献1には、抗体と比較して分子量の大きな物質に抗体(または抗原)を固定化した試薬を用いる方法であって、この試薬と蛍光標識された抗原(または抗体)との特異的抗原抗体反応によって大きな蛍光偏光度の変化が生じることを利用する蛍光偏光免疫分析法が記載されている。
【0003】
蛍光偏光免疫測定法を利用して、高分子量の物質を測定する方法もある(特許文献2)。実施例では、蛍光色素としてピレンブタン酸を使用し、測定対象物質に特異的に結合する抗体として抗HDLポリクローナル抗体を使用してHDLの検量線を作成している。
【0004】
このような蛍光偏光免疫測定法は、複数のウェルを含むマルチウェルプレートを使用して行うことができる。特許文献3には、第1の試薬を有する第1のアッセイドメインと第2の試薬を有する第2のアッセイドメインとを含み、第1のアッセイドメインが第2のアッセイドメインの少なくとも10倍明るい発光を生成可能であり、第1のアッセイドメインから放出される発光と第2のアッセイドメインから放出される発光との干渉を低減した、複数のアッセイドメインを含むモジュールが記載されている。好ましくは電極誘導発光を誘発し、誘発された発光を測定するように構成されたリーダー装置を備え一体型電極を有するアッセイモジュールにおいて実施される(要約)。特許文献3によれば、1つのアッセイドメインに複数種類の抗体を固定し、複数のアッセイドメインを有するモジュールを用いて多重試験測定を実施することができるという。
【0005】
また、複数のウェルが、捕捉試薬を固定する結合表面と、復元可能な乾燥試薬とを含有し、乾燥試薬が結合表面と重なり合わないようにウェルの表面上に配置されているマルチウェルアッセイプレートもある(特許文献4)。乾燥試薬が結合表面と重ならないため、アッセイコントロールを含有する追加の液体試薬を分注し乾燥させても、乾燥検出試薬と乾燥アッセイコントロールとが物理的に接触せずにアッセイすることができるという。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平3-103765号公報
【特許文献2】特許第3255293号公報
【特許文献3】特表2005-521032号公報
【特許文献4】特表2009-521686号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
一般的なアッセイでは、使用機器や測定システムの感度や精度が高いことに加え、操作が簡便なこと、低試薬量などの要素が求められる。蛍光偏光免疫分析法は、競合的結合免疫測定原理に基づき、測定対象とする分子と同一の分子に蛍光物質を標識した蛍光標識化合物と、測定対象の分子に特異的に結合する抗体の2種を試薬とする。マルチウェルを使用する場合には、各ウェルに複数の試薬を添加する必要があり、操作が煩雑である。したがって、操作が簡便な蛍光偏光免疫分析用支持体や蛍光偏光免疫分析用キットの開発が望まれる。
【0008】
また、蛍光偏光免疫分析法では、測定対象物質濃度に対する蛍光偏光度との関係が一定の相関性を有する範囲で測定対象化合物の濃度を定量することができる。試料溶液に含まれる測定対象物質の濃度がこの測定レンジを外れると、試料溶液を希釈して再測定する必要が生じる。したがって、測定レンジ幅が広ければ、試料溶液の希釈工程を省略することができる。
【0009】
上記現状に鑑みて、本開示は、測定レンジ幅が広く、簡便に使用することができる、蛍光偏光免疫分析法に好適な蛍光偏光免疫分析用支持体、および蛍光偏光免疫分析用キットを提供することを目的とする。
【0010】
また本開示は、蛍光偏光免疫分析用支持体を用いた蛍光偏光免疫分析法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本開示者等は、蛍光偏光免疫分析法について詳細に検討した結果、支持体の反応部に、予め測定対象物質と結合能を有する抗体と、測定対象物質を蛍光色素で標識した蛍光標識物質とを担持させると、測定対象物質を含有する試料溶液を添加するだけで、蛍光偏光免疫分析を行うことができること等を見出し、本開示を完成させた。
【0012】
すなわち本開示は、試料中の測定対象物質を蛍光偏光免疫分析するための複数の反応部を有する支持体であって、
前記反応部は、前記測定対象物質に結合能を有する抗体と、前記測定対象物質を蛍光色素で標識した蛍光標識物質とが担持されていることを特徴とする、蛍光偏光免疫分析用支持体を提供するものである。
【0013】
また本開示は、前記反応部は、前記蛍光標識物質および/または前記抗体が、異なる濃度で担持されていることを特徴とする、前記蛍光偏光免疫分析用支持体を提供するものである。
【0014】
また本開示は、前記反応部は、前記測定対象物質に対する結合親和性の異なる抗体が担持されていることを特徴とする、前記蛍光偏光免疫分析用支持体を提供するものである。
【0015】
また本開示は、前記反応部は、更に、pH調整剤が担持されていることを特徴とする、前記蛍光偏光免疫分析用支持体を提供するものである。
【0016】
また本開示は、前記反応部は、マイクロ流路であることを特徴とする、前記蛍光偏光免疫分析用支持体を提供するものである。
【0017】
また本開示は、前記反応部は、一部の反応部が連通路で連結されることを特徴とする、前記蛍光偏光免疫分析用支持体を提供するものである。
【0018】
また本開示は、前記蛍光色素は、フルオレセイン、ダンシル、ピレン、ローダミン、ジアルキルアミノナフタレン、ジアルキルアミノナフタレンスルホニル、インドレニン、およびルテニウムからなる群から選択される1以上である、前記蛍光偏光免疫分析用支持体を提供するものである。
【0019】
また本開示は、前記蛍光色素は、蛍光寿命が1~3,000ナノ秒である、前記蛍光偏光免疫分析用支持体を提供するものである。
【0020】
また本開示は、前記蛍光偏光免疫分析用支持体と、前記測定対象物質の溶解用溶媒とを含む、蛍光偏光免疫分析用キットを提供するものである。
【0021】
また本開示は、前記蛍光偏光免疫分析用支持体の反応部に前記測定対象物質を含む試料溶液を添加し、
前記反応部で前記測定対象物質、前記抗体、および前記蛍光標識物質を反応させ、
ついで、温度4~40℃で前記反応部の蛍光偏光分析を行うことを特徴とする、蛍光偏光免疫分析法を提供するものである。
【発明の効果】
【0022】
本開示によれば、反応部に、測定対象物質に結合能を有する抗体と、測定対象物質を蛍光色素で標識した蛍光標識物質とが担持された、蛍光偏光免疫分析用支持体等が提供される。また、蛍光偏光免疫分析用支持体を使用した、蛍光偏光免疫分析法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】縦横各3列に円形の反応部が形成された蛍光偏光免疫分析用支持体の図である。
【
図2】反応部が直線状の連通路を介して一連に連結した態様の蛍光偏光免疫分析用支持体の図である。
【
図3】
図2に示す蛍光偏光免疫分析用支持体の使用方法を説明する図である。
【
図4】5本のマイクロ流路を反応部とする蛍光偏光免疫分析用支持体の図である。
【
図5】反応部が3×3に整列し、各反応部に濃度の異なる蛍光標識物質と濃度の異なる測定用抗体とが担持された蛍光偏光免疫分析用支持体の図である。
【
図6】測定対象物質の濃度を変えて、測定用抗体濃度に対する蛍光偏光度を測定した結果を示す図である。
【
図7】蛍光標識物質および測定対象物質を一定にして、測定対象物質に対する蛍光偏光度を測定した結果を示す図である。
【
図8】結合定数の異なる測定用抗体を使用して、測定対象物質の濃度に対する蛍光偏光度を測定した結果を示す図である。
【
図9】3×3の反応部に、異なる蛍光標識物質と、異なる測定対象物質に対する結合親和性の異なる抗体とを担持させた蛍光偏光免疫分析用支持体の図である。
【
図10】3×3の反応部に、蛍光標識物質と測定用抗体とを一定量ずつ担持し、更に、一列ずつ異なるpH調整剤を担持させた蛍光偏光免疫分析用支持体の図である。
【
図11】蛍光偏光免疫分析用支持体の反応部を異なる温度T1,T2,T3で測定する態様を説明する図である。
【
図12】実施例1の結果を示す図であり、異なる結合定数の測定用抗体を使用して、測定用抗体濃度に対する蛍光偏光度を測定した結果を示す図である。
【
図13】実施例1の結果を示す図であり、異なる結合定数の測定用抗体を用いて、測定対象物質の濃度に対する蛍光偏光度を測定した結果を示す図である。
【
図14】異なる濃度で蛍光標識物質と測定用抗体とを担持した支持体を使用し、測定対象物質の濃度に対する蛍光偏光度を測定した結果を示す図である。
【
図15】蛍光標識物質の濃度を変えて、測定対象物質の濃度に対する蛍光偏光度を測定した結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本開示は、試料中の測定対象物質を蛍光偏光免疫分析するための複数の反応部を有する支持体であって、反応部は、測定対象物質に結合能を有する抗体と、測定対象物質を蛍光色素で標識した蛍光標識物質とが担持されていることを特徴とする、蛍光偏光免疫分析用支持体である。予め反応部に抗体と蛍光標識物質とが担持されているため、一定量の測定対象物質を含む試料を添加して蛍光偏光度を測定することで、反応試薬の添加操作が省略でき、簡便な操作で濃度測定を行うことができる。
【0025】
(1)測定対象物質
測定対象物質とは、本開示の蛍光偏光免疫分析用支持体による測定対象の化合物または組成物を意味する。測定可能な測定対象物質としては、少なくともその一部をエピトープとする抗体を調製できる化合物である。例えば、タンパク質、糖タンパク質、ペプチド、ポリペプチド、オリゴヌクレオチド、ポリヌクレオチド、抗体、抗原、ハプテン、ホルモン、薬物、酵素または受容体が挙げられる。なお、説明の便宜のため、測定対象物質が抗体である場合は「被検物抗体」と記載する。
【0026】
被検物抗体としては、モノクローナル抗体、多重特異性抗体、二機能性抗体、ヒト抗体、ヒト化抗体、ニワトリ等の鳥類、ヒト、ウシ等の哺乳類、ラクダなどの非霊長類その他の動物由来の抗体、組換え抗体、キメラ抗体、単鎖Fv(「scFv」)、一本鎖抗体、単一ドメイン抗体、Fab断片、F(ab’)断片、F(ab’)2断片、ジスルフィド結合Fv(「sdFv」)、ならびに抗イディオタイプ(「抗Id」)抗体、二重ドメイン抗体、二重可変ドメイン抗体などであってもよい。測定対象物質の由来や特性で分類すれば、生物由来物質、医薬、ウイルス、またはバクテリアなどを測定することもできる。生物由来物質としては、生物が体内に産生する免疫グロブリンなどの各種成分、生体外に排出する各種成分、当該生物自体も含み、生物としては植物、動物を含むものとする。医薬としては、ヒト、動物に投与する医薬に限定されず、農薬などを含む。
【0027】
(2)測定用抗体
蛍光偏光免疫分析用支持体の反応部に担持される抗体は、測定対象物質に結合能を有する抗体である。少なくとも測定対象物質のいずれか一部をエピトープとし、このエピトープを認識して結合できる結合能が必要である。このような抗体が市販されている場合は、市販品を使用することができる。市販されていない場合は、測定対象化合物に免疫原担体物質が酸アミド結合その他の基を介して結合する免疫原、を用いて産生させることができる。免疫原担体物質としては、従来の公知のものから選択することができる。免疫原性のタンパク質、ポリペプチド、炭水化物、ポリサッカライド、リポポリサッカライド、核酸等のいずれであってもよい。好ましくは、蛋白質またはポリペプチドであり、より好ましくは、ウシ血清アルブミン(BSA)、キーホールリンペット・ヘモシアニン(KLH)、チログロブリンである。このような免疫原は、周知の方法により、ポリクローナル、モノクローナルの調製に用いることができる。通常、ウサギ、ヤギ、マウス、モルモット、またはウマのような宿主動物の1個所以上の種々の部位に免疫原、好ましくは免疫原とアジュバントとの混合物を注射する。同じ部位または異なる部位に規則的または不規則な間隔で更に注射する。適宜、力価を評価して所望の抗体を得る。宿主動物からの採血等により抗体を回収することができる。
【0028】
なお、「被検物抗体」と区別するため、測定のために反応部に担持される、測定対象物質に結合能を有する抗体を「測定用抗体」と称する。本開示における測定用抗体としては、モノクローナル抗体、多重特異性抗体、二機能性抗体、ヒト抗体、ヒト化抗体、ニワトリ等の鳥類、ヒト、ウシ等の哺乳類、ラクダなどの非霊長類その他の動物由来の抗体、組換え抗体、キメラ抗体、単鎖Fv(「scFv」)、一本鎖抗体、単一ドメイン抗体、Fab断片、F(ab’)断片、F(ab’)2断片、ジスルフィド結合Fv(「sdFv」)、ならびに抗イディオタイプ(「抗Id」)抗体、二重ドメイン抗体、二重可変ドメイン抗体などを含む。抗体の少なくとも1つのエピトープが測定対象化合物と結合できればよいからである。また、更にこのように調製された測定用抗体に、測定対象物質への結合性を損なわない範囲で、耐熱性向上、耐薬品性向上、耐圧性向上、その他の目的で、アミノ酸の一部が他のアミノ酸残基に置換したものであってもよい。
【0029】
(3)蛍光標識物質
反応部に担持される蛍光標識物質は、測定対象物質を蛍光色素で標識した化合物である。
【0030】
蛍光色素とは、蛍光を発光する色素である。蛍光色素にはそれぞれ独自の蛍光寿命が存在する。本開示では、測定対象物質の分子量などに応じて、蛍光寿命が1~10ナノ秒の蛍光色素、蛍光寿命が10ナノ秒超から200ナノ秒の蛍光色素、蛍光寿命が200ナノ秒超から3,000ナノ秒の蛍光色素を適宜選択して、使用することができる。例えば、蛍光寿命が1~10ナノ秒の蛍光色素としては、インドレニン、クロロトリアジニルアミノフルオレセイン、4’-アミノメチルフルオレセイン、5-アミノメチルフルオレセイン、6-アミノメチルフルオレセイン、6-カルボキシフルオレセイン、5-カルボキシフルオレセイン、5および6-アミノフルオレセイン、チオウレアフルオレセイン、メトキシトリアジニルアミノフルオレセインなどのフルオレセイン化合物、ローダミンB、ローダミン6G、ローダミン6GPなどのローダミン誘導体;登録商標又は商品名としてAlexa Fluor 488などのAlexa Fluorシリーズ、BODIPYシリーズ、DYシリーズ、 ATTOシリーズ、Dy Lightシリーズ、Oysterシリーズ、HiLyte Fluorシリーズ、 Pacific Blue、Marina Blue、Acridine、Edans、Coumarin、DANSYL、FAN、Oregon Green、Rhodamine Green-X、NBD-X、TET、JOE、Yakima Yellow、VIC、HEX、R6G、Cy3、TAMRA、Rhodamine Red-X、Redmond Red、ROX、Cal Red、Texas Red、LC Red 640、Cy5、Cy5.5、LC Red 705がある。また、蛍光寿命が10ナノ秒超から200ナノ秒の蛍光色素としては、ジアルキルアミノナフタレンスルホニルなどのナフタレン誘導体、N-(1-ピレニル)マレイミド、アミノピレン、ピレンブタン酸、アルキニルピレンなどのピレン誘導体がある。更に、蛍光寿命が200ナノ秒超から3,000ナノ秒の蛍光色素としては、白金、レニウム、ルテニウム、オスミウム、ユーロピウムなどの金属錯体がある。
【0031】
測定対象物質を蛍光色素で標識するには、例えば蛍光色素と測定対象物質とを共有結合し、またはオリゴエチレングリコール、アルキル鎖などの適当なリンカーを介して結合して調製することができる。蛍光色素は、カルボキシル基、アミノ基、水酸基、チオール、フェニル基、などに結合し得る官能基を有する。また、測定対象物質はタンパク質などであって、上記官能基と共有結合することができる。蛍光色素と測定対象物質のそれぞれの官能基を、当業者に周知の条件に従って反応させ、蛍光標識物質を製造することができる。反応終了後、未反応の蛍光色素を常法により除去すればよい。なお、蛍光標識物質に導入される蛍光色素の分子の結合数は、任意に選択することができる。好ましくは測定対象物質1分子に対して1分子以上であり、より好ましくは2~5分子である。本開示では、測定対象物質を蛍光色素で標識した蛍光標識物質を、単に「蛍光標識物質」とも称する。
【0032】
(4)支持体
本開示の蛍光偏光免疫分析用支持体の素材は、例えば、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリメチルペンテン、エチレン・テトラシクロドデセン・コポリマー、ポリアセタール、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン樹脂、ヒドロキシ安息香酸ポリエステル、ポリエーテルイミド、メタクリル樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリブタジエンテレフタレート、ポリシクロへキシレンジメチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリアクリロニトリル、ポリスチレン、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリビニルアルコール、ポリ乳酸等の樹脂、ガラス、石英などを使用することができる。支持体としては、従来、ラジオイムノアッセイ、エンザイムイムノアッセイ、蛍光体を使う蛍光イムノアッセイなどの各種イムノアッセイに使用され、マイクロプレート、マルチウェルプレート、マイクロウェルプレート、イムノプレート、などと称される複数の凹部を有する各種プレートを支持体として使用することができる。
【0033】
(5)反応部
支持体に形成された凹部は、本開示の蛍光偏光免疫分析用支持体の反応部として使用することができる。反応部の形状は特に限定されず、半円皿状、円筒状(平底)、円盤状、半球状(U底)などである。また、反応部の数も特に制限されず、少なくとも支持体に2以上存在すればよい。好ましくは6~1,000、より好ましくは10~100である。なお、支持体のサイズや形状は特定制限されず、蛍光偏光測定器に応じて適宜選択することができる。また、支持体における反応部の配列にも特に制限はない。反応部が縦横に整列する支持体であれば、吸光・蛍光・発光を検出・測定するためのマイクロプレートリーダーを使用して効率的に微量かつ多数の試料の蛍光偏光測定を行うことができる。なお、反応部の容量は、測定用抗体および蛍光標識物質を担持でき、かつ測定対象物質を含む試料溶液を一定量収納できればよく、0.01~1ml、好ましくは0.1~0.4mlである。
【0034】
図1に蛍光偏光免疫分析用支持体1の一例を示す。
図1は、支持体1に縦横各3列に円形の凹部が反応部3として形成されたものである。反応部3には、測定用抗体と蛍光標識物質とが担持されている。
【0035】
蛍光偏光免疫分析用支持体に形成された複数の反応部は、相互に連通路で連結されるものであってもよい。
図2に、3つの方形の反応部3が直線状の連通路5を介して一連に連結した態様を
図2に示す。
図2では、連通路5に枝路7が形成される態様となっている。
図3Aに示すように、蛍光標識物質9および測定用抗体11が担持された複数の反応部3が、各反応部3に至る枝路7を介して連通路5と連通している。連通路5は、試料溶液注入路として使用することができる。
図3Bに示すように連通路5の左端から試料溶液13を注入すると、1操作で3つの反応部3に試料溶液13を充填することができる。
図3Cに示すように、試料溶液13を充填した後に試料溶液13に代えて空気や窒素ガス、その他の蛍光偏光測定に影響のない気体などの封止剤15を送風すれば、連通路5から試料溶液13を除去することができる。空気等の気体の代わりに蛍光偏光測定に影響のない溶液、例えばシリコーン、フッ素系不活性液体などを封止剤15として送液してもよい。
【0036】
また、PDMSマイクロ流路を、蛍光偏光免疫分析用支持体の反応部として使用することができる。
図4に5本のマイクロ流路を反応部3とする支持体1を示す。
【0037】
(6)担持
蛍光偏光免疫分析用支持体の反応部には、測定用抗体と蛍光標識物質とが担持される。本開示における「担持」とは、反応部に測定対象物質を含む試料溶液を添加した際に、測定用抗体と蛍光標識物質が、反応部の表面から溶液中に遊離できる程度に結合している状態を意味する。したがって、測定用抗体等が共有結合によって反応部に固定されたものは含まれない。また、反応部にプラズマ処理その他の表面処理を行い測定用抗体や蛍光標識物質の結合力を高め、試料溶液を添加しても測定用抗体や蛍光標識物質が反応部の表面から遊離できないものも含まない。
【0038】
反応部に測定用抗体や蛍光標識物質を担持する方法は特に限定されない。例えば、測定用抗体を溶解または分散した溶液や、蛍光標識物質を溶解または分散した溶液を、それぞれ反応部に滴下し、凍結乾燥、真空乾燥、温熱乾燥、低温乾燥などで乾燥することで、これらを反応部に担持させることができる。予め、測定用抗体と蛍光標識物質と特定割合で溶解または分散した混合溶液を調製し、これを反応部に滴下し、上記と同様に凍結乾燥などにより担持させてもよい。
【0039】
(7)蛍光偏光免疫分析法
蛍光偏光免疫分析法は、物質の競合反応と、競合物質の分子量変化に伴う偏光度変化を利用したものである。液体中の蛍光色素が励起状態で定常状態を維持しているとき同一平面に偏光蛍光を発するが、励起状態中にブラウン運動で回転すると励起平面と異なる平面へ蛍光を発するため蛍光偏光が解消される。蛍光偏光度は、励起されてから蛍光を発するまでの間に蛍光性分子が回転する度合いを示し、低分子量分子は溶液中でブラウン運動により激しく回転するため偏光度が低く、大分子量分子はブラウン運動が弱いため偏光度が上昇する。例えば、測定対象物質A、測定対象物質Aに特異的に結合能を有する抗体B、測定対象物質Aを蛍光色素で標識した蛍光標識物質Cとを混合した溶液では、測定対象物質A、抗体B、および蛍光標識物質Cとが溶液中で競合反応するため、測定対象物質Aの濃度が高いと測定対象物質Aと抗体Bとの結合量が増加し、抗体Bと結合しない遊離の蛍光標識物質Cが増加する。蛍光標識物質Cと、抗体Bと蛍光標識物質Cとの結合物の質量とに差があれば、偏光度の変化を指標として測定対象物質Aの濃度を測定することができる。
【0040】
(8)担持量
上記したように、蛍光偏光免疫分析法では測定対象物質、測定用抗体、および蛍光標識物質との競合反応を利用するため、蛍光標識物質や測定用抗体の担持量が異なると蛍光偏光度が変化し、測定できる測定対象物質のレンジ幅も変化する。本開示の蛍光偏光免疫分析用支持体では、複数の反応部は、蛍光標識物質や測定用抗体の担持量が反応部毎に異なるものであってもよい。このような異なる担持量の支持体は、反応部に滴下する蛍光標識物質や測定用抗体の溶液量を変化させ、または滴下するこれら溶液の濃度を変化させることで、簡便に担持量を変化させることができる。
【0041】
このような1例として、
図5に支持体1に反応部3が3×3に整列し、各反応部3に濃度の異なる蛍光標識物質9と濃度の異なる測定用抗体11とを担持した態様を模式的に示す。なお、
図5では蛍光標識物質9と測定用抗体11との双方の担持量を変化させる態様を示すが、いずれか一方の担持量を変化させたものであってもよい。測定対象物質の特性その他に応じて、適宜選択することができる。
【0042】
例えば、縦n×横mに整列する反応部の横m1列の反応部の全ての蛍光標識物質の担持量をDm1とし、横m2列の蛍光標識物質の担持量をDm2とすれば、蛍光標識物質の担持量がDm1およびDm2の条件での検量線作成と試料溶液の測定とを同時に行うことができる。試料溶液に含まれる測定対象物質の濃度が未知の場合でも、いずれかの検量線での測定が可能となり、測定レンジ幅を広げることができ、これにより試料溶液の希釈工程を少なくすることができる。
【0043】
(9)結合親和性の異なる抗体
測定用抗体は、測定対象物質に対する結合親和性の異なる抗体であってもよい。結合親和性の異なる抗体を使用することでも測定レンジ幅を広げることができる。
【0044】
蛍光偏光免疫分析法は測定対象物質を抗原とすれば抗原-抗体反応と考えることができる。抗原抗体反応における結合の平衡計算式は、Ag:抗原濃度、Ab:抗体濃度、Ka:結合定数、B:結合型濃度、F:遊離型濃度とすれば、Ka=([AgAb])/([Ag][Ab])、B/F=([AgAb])/[Ag]で示すことができる。
【0045】
Ag、Abの初期投入濃度をp,qとすると[Ag]=p-[AgAb]、[Ab]=q-[AgAb]となり、(B/F)2+(B/F)(1+Kap-Kaq)-Kaq=0となる。
【0046】
測定対象物質の濃度をxとし、x=[Ag]、蛍光標識物質の濃度をpとし、p→p+xと置くと、3元系表記(B/F)2+(B/F)(1+Kap+Kax-Kaq)-Kaq=0となり、B/F(Ka,p,x,q)で表すことができる。(B/F)=Rとすると、上式は、R(Ka,p,x,q)=-(1+Kap+Kax+(-Ka)q)/2+√((1+Kap+Kax+(-Ka)q)2+4Kaq)/2と変形することができる。
【0047】
蛍光標識物質の蛍光偏光度を結合時Fh、遊離時Flとすると、蛍光偏光度の値は、下記式(1)の変数で示すことができる。
【0048】
【0049】
蛍光標識物質濃度および測定用抗体の結合定数を同じにし、結合定数Ka=1×10
10M
-1、Fh=0.3、Fl=0.07とし、表1に示す条件で、測定対象物質の濃度を3種の場合の、測定用抗体濃度を変化させて上記式(1)をプロットした結果を
図6に示す。曲線a、曲線b、曲線cに示すように、測定対象物質の濃度が増加すると蛍光偏光度は下がる。
【0050】
【0051】
一方、測定対象物質の濃度を一定(q=4×10
-10M)にし、蛍光標識物質の濃度も一定(濃度p=1×10
-10M)にして、測定用抗体濃度に対する蛍光偏光度を測定した結果を
図7に示す。
図7では破線で囲った白抜きの、1×10
-10M~1×10
-8Mの範囲で測定用抗体と蛍光偏光度との間に一定の相関があり、この範囲が測定対象物質の測定レンジであることがわかる。この結果は、反応部の測定用抗体の担持量を変化させると、測定レンジ幅が広がることと符号する。
【0052】
次いで、表2に示すように、結合定数Kaが異なる測定用抗体を使用し、その濃度、蛍光標識物質の濃度を変化させて上記と同様にして蛍光偏光度曲線を作成した結果を
図8に示す。曲線に応じて測定可能レンジが異なり、曲線dでは1×10
-11M~1×10
-10Mの範囲が測定可能レンジとなり、曲線eでは1×10
-10M~1×10
-9Mの範囲、曲線fでは1×10
-9M~1×10
-8Mの範囲が測定対象物質の測定可能レンジとなる。本開示では、測定対象物質に対する結合親和性の異なる抗体を反応部に担持し、および蛍光標識物質濃度や測定用抗体濃度を変えて反応部に担持することで、例えば
図8で示す破線に示す範囲を測定レンジ幅とすることができる。
【0053】
【0054】
図9に、3×3の反応部3を有する支持体1に、蛍光標識物質9と、測定対象物質に対する結合親和性の異なる抗体(測定用抗体)11とを担持させた支持体の態様を模式的に示す。なお、測定対象物質に対する結合親和性の異なる抗体は、例えば、測定対象化合物にポリサッカライドなどの免疫原担体物質を結合させた免疫原を、ウサギその他の宿主動物の1個所以上の種々の部位に接種して抗体を得る際に、適宜、力価を評価し、力価の異なる抗体を採取することで調製することができる。
【0055】
(10)pH調整剤
反応部には、更に、pH調整剤が担持されていてもよい。pHに応じて、測定対象物質と測定用抗体との結合親和性が変化するため、測定レンジ幅を広く確保することができる。このようなpH調整剤としては、Glycine-NaOH(pKa9.60)、Tris-HCl(pKa8.20)、Tricine-HCl(pKa8.15)、HEPES-NaOH(pKa7.55)、NaH
2PO
4-Na
2HPO
4(pKa7.22)、MOPS-NaOH(pKa7.20)、MES-NaOH(pKa6.15)、Acetate-NaOH(pKa4.80)、Glycine-NaOH(pKa2.34)、GTA緩衝液、などがある。反応部にpH調整剤を担持するには、これらの溶液を調製し、蛍光標識物質や測定用抗体を担持すると同様にして反応部に滴下し乾燥するなどにより担持させることができる。なお、pH調整剤は、測定対象物質、蛍光標識物質、測定用抗体の特性により、適宜選択することができる。
図10に、3×3に整列する反応部に、蛍光標識物質と測定用抗体とを一定量ずつ担持し、更に、一列ずつ異なるpH調整剤を担持させた態様を模式的に示す。
【0056】
(11)蛍光偏光免疫分析用キット
本開示の蛍光偏光免疫分析用支持体は、更に測定対象物質の溶解用溶媒とを含む、蛍光偏光免疫分析用キットとして使用することができる。
測定対象物質の溶解用溶媒としては、純水などの水;メタノール、エタノール、ブタノールなどのアルコール;アセトン、ジエチルケトン、メチルアミルケトンなどのケトン類;ヘキサン、ヘプタンなどのアルカン;ジエチルエーテル等のエーテル類;メチルスルホキシド、アセトニトリル、クロロホルムこれらの混合溶媒などを例示することができる。
【0057】
(12)測定方法
本開示の蛍光偏光免疫分析用支持体を用いて、以下のように試料溶液に含まれる測定対象物を分析することができる。
まず、測定対象物質に対応して純水その他の測定対象物質の溶解用溶媒で測定対象物質を溶解または分散させ、必要に応じてこの溶液に含まれる夾雑物等をろ過その他によって除去して試料溶液を調製する。これを蛍光偏光免疫分析用支持体の反応部に一定量ずつ添加する。これにより、反応部に担持された測定用抗体、蛍光標識物質は試料溶液に含まれる測定対象物質と反応する。反応は抗原-抗体反応に基づくため、迅速かつ再現性高く反応し、反応部には、測定対象物質と測定用抗体との結合物、蛍光標識物質と測定用抗体との結合物などが含まれる。試料溶液に含まれる測定対象物質の濃度が高いと測定対象物質と測定用抗体との結合量が増加し、測定用抗体と結合しない遊離の蛍光標識物質が増加する。蛍光偏光免疫分析法では、蛍光標識物質と測定対象物との結合に伴う分子量変化を、分子配向の時間的変化として測定する。蛍光標識物質と、測定用抗体と蛍光標識物質との結合物の質量とに差があれば、偏光度の変化を指標として、測定対象物質の濃度を測定することができる。蛍光偏光度の測定は、任意の偏光測定装置を用い得ることができる。蛍光偏光度は、反応終了後の所定の時間に測定する。測定は測定対象物質が変性しない範囲であればよく、温度4~40℃の範囲、好ましくは10~40℃の範囲内で一定温度で行う。測定対象物質を定量するには、予め既知の濃度の測定対象物質を含む溶液を用いて上記と同様に操作して得た検量線を作成し、試料溶液の測定値と比較すればよい。
【0058】
一方、例えば、温度10℃で検量線を作成し、試料溶液に含まれる測定対象物質の蛍光偏光度を測定した場合に、含まれる測定対象物質の濃度によってはこの検量線による測定領域内に属しない場合がある。この場合には、測定温度を40℃に変えて、反応後の所定時間に測定してもよい。温度によって結合定数が変化するため、温度を変えることで測定領域を広く確保することができる。
図11に、反応部を温度T1、T2,T3で測定する態様を模式的に示す。
【0059】
本開示では、蛍光偏光度を測定できれば、装置に限定はない。前記したように、反応部がマイクロ流路で構成された蛍光偏光免疫分析用支持体を使用する場合は、マイクロ流路を測定することができる測定装置を使用することで、微量の試料を用いて高感度の測定を行うことができる。
【0060】
(実施形態)
次に実施形態を挙げて本開示を具体的に説明するが、これらの実施形態は何ら本開示を制限するものではない。
【0061】
(実施形態1)
結合定数Ka=2×10
6M
-1の測定用抗体A、および結合定数Ka=3×10
8M
-1の測定用抗体Bを用いた。測定用抗体Aを、5×10
-7M、3×10
-7M、1×10
-7M、6×10
-8M、3×10
-8M、2×10
-8M、8×10
-9M、4×10
-9M、2×10
-9M、測定用抗体Bを6×10
-7M、3×10
-7M、1×10
-7M、8×10
-8M、4×10
-8M、2×10
-8M、1×10
-8M、5×10
-9M、2×10
-9Mに稀釈した溶液を調製した。蛍光標識物質の濃度が1×10
-8Mの溶液に、各濃度の測定用抗体Aまたは測定用抗体Bを反応させ、蛍光偏光度を測定した。結果を
図12に示す。異なる結合定数の測定用抗体を使用することで異なる蛍光偏光度曲線が得られた。
【0062】
次いで表3に示すように、各反応部に蛍光標識物質を濃度が4.5×10
-9Mとなるように担持し、および反応部gに測定用抗体A(結合定数Ka=2×10
6M
-1)を濃度が5×10
-7Mとなるように、反応部hに測定用抗体B(Ka=3×10
8M
-1)を濃度が1×10
-8Mとなるように担持した支持体を調製した。この支持体を用い、反応部g、反応部hに濃度の異なる測定対象物質0.001ng/ml、0.01ng/ml、0.1ng/ml、1ng/ml、10ng/ml、100ng/ml、1000ng/ml、10000ng/ml、100000ng/mlを一定量添加し、蛍光偏光度を測定した。結果を
図13に示す。
図13に示すように、測定用抗体Aを担持した曲線gの測定対象物質の定量下限濃度は16ng/ml、定量上限濃度は2.7×10
3ng/mlであった。一方、測定用抗体Bを担持した曲線hの測定対象物質の定量下限濃度は4.1ng/ml、定量上限濃度は1.5×10
3ng/mlであった。支持体に結合定数の異なる測定用抗体を担持させることで、異なる測定レンジで測定対象物質を測定することができた。
【0063】
【0064】
(実施形態2)
表4に示す濃度で、反応部i、反応部j、反応部kに、蛍光標識物質とKa=1×10
10M
-1の測定用抗体とを担持し、これらの反応部に濃度の異なる測定対象物質を含む試料溶液を一定量添加した場合の蛍光偏光度を下記式に基づいて算出した。なお、Fh=0.3、Fl=0.07とした。結果を
図14に示す。
【0065】
【0066】
【0067】
蛍光標識物質および測定用抗体の担持量によって曲線i、曲線j、曲線kが得られた。それぞれの測定レンジは異なり、
図14の破線で囲う範囲内では、試験溶液を希釈することなく測定可能であることがわかった。
【0068】
次いで、結合定数Ka=3×10
8M
-1の測定用抗体を使用し、表5に示す反応部m、反応部nを調製した。これらの反応部に濃度の異なる測定対象物質を含む試料溶液を一定量添加し、蛍光偏光度を測定した。結果を
図15に示す。
【0069】
【0070】
図15に示すように、曲線mの定量下限濃度は4.1ng/ml、定量上限濃度は1.5×10
3ng/mlであった。一方、曲線mの測定対象物質の定量下限濃度は2ng/ml、定量上限濃度は2.4×10
2ng/mlであった。支持体に異なる濃度の蛍光標識物質を担持させることで、異なる測定レンジで測定対象物質を測定することができる。
【符号の説明】
【0071】
1・・・蛍光偏光免疫分析用支持体、
3・・・反応部、
5・・・連通路、
7・・・枝路、
9・・・蛍光標識物質、
11・・・測定用抗体、
13・・・試料溶液、
15・・・封止剤