(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022107127
(43)【公開日】2022-07-21
(54)【発明の名称】離型性のよい穀粉焼成食品
(51)【国際特許分類】
A21D 13/00 20170101AFI20220713BHJP
A21D 13/80 20170101ALI20220713BHJP
【FI】
A21D13/00
A21D13/80
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021001856
(22)【出願日】2021-01-08
(71)【出願人】
【識別番号】000188227
【氏名又は名称】松谷化学工業株式会社
(72)【発明者】
【氏名】西山 沙紀
【テーマコード(参考)】
4B032
【Fターム(参考)】
4B032DB06
4B032DG02
4B032DK02
4B032DK12
4B032DK18
4B032DK45
4B032DK47
4B032DP08
4B032DP23
4B032DP40
(57)【要約】
【課題】 砂糖、卵及び穀粉を主成分とするバッター生地又はドウ生地を型に入れて焼成する穀粉焼成食品は、型から外すときに型に焼成生地が残り、製品歩留まりが悪くなることがある。そこで、本発明の目的は、その製品歩留まりを向上させるために、離型性のよい穀粉焼成食品を提供することにある。
【解決手段】 糖のひとつであるD-プシコース(D-アルロース)を生地原料中に0.02~15質量%となるよう添加することにより、上記課題が解決される。本発明によれば、離型油のように型にあらかじめ塗布しておくなどの手間を要さず、簡便に離型性を改善することができ、製品歩留まりが向上する。特に、砂糖の配合量が卵の配合量以上となるバッター生地又はドウ生地を型に入れて焼成する場合に、本発明の効果が顕著に発揮される。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
穀粉、砂糖、卵及びD-プシコースを含む生地が型充填及び焼成されてなる、以下の(A)及び(B)を満たす穀粉焼成食品:
(A)D-プシコースが生地原料中0.02~15質量%、
(B)砂糖と卵の配合量が、砂糖≧卵。
【請求項2】
さらに以下の(C)を満たす、請求項1記載の穀粉焼成食品:
(C)砂糖100質量部に対し、D-プシコースが0.07~71質量部。
【請求項3】
穀粉焼成食品が、スポンジケーキ、マドレーヌ、フィナンシェのいずれかである、請求項1又は2に記載の穀粉焼成食品。
【請求項4】
穀粉、砂糖、卵及びD-プシコースを含んでなる穀粉焼成食品の製造方法であって、以下の(A)及び(B)を満たす生地を調製する工程、型に充填する工程、及び焼成する工程を含む、穀粉焼成食品の製造方法:
(A)D-プシコースが生地原料中0.02~15質量%、
(B)砂糖と卵の配合量が、砂糖≧卵。
【請求項5】
さらに以下の(C)を満たす、請求項4記載の穀粉焼成食品の製造方法:
(C)砂糖100質量部に対し、D-プシコースが0.07~71質量部。
【請求項6】
D-プシコースを有効成分として含む、穀粉焼成食品の離型用組成物。
【請求項7】
穀粉焼成食品が以下(A)及び(B)を満たす、請求項6記載の穀粉焼成食品の離型用組成物:
(A)D-プシコースが生地原料中0.02~15質量%、
(B)砂糖と卵の使用量が、砂糖≧卵。
【請求項8】
以下(B)を満たす穀粉焼成食品において(A)を満たすことにより、穀粉焼成食品の離型性を向上させる方法:
(A)D-プシコースが生地原料中0.02~15質量%、
(B)砂糖と卵の使用量が、砂糖≧卵。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、離型性のよい穀粉焼成食品若しくはその製造方法、穀粉焼成食品の離型用組成物、及び穀粉焼成食品の離型性向上方法に関する。
【背景技術】
【0002】
穀粉焼成食品とは、原材料に穀粉(主に小麦粉)を含み、卵、砂糖、牛乳、油脂、ベーキングパウダー、重曹などの副原料を混合してドウ又はバッター生地とし、これを焼成してなる食品をいう。ここでは、イーストによる発酵工程を伴うパン類とは区別し、代表的な形態は、スポンジケーキ、マドレーヌ、フィナンシェなどである。これらはパン類に比して卵と糖質を多く含むことと生地比重が軽いことから、型に焦げ付いて離型しにくいという問題がある。
【0003】
この離型性を向上させるため、油脂や乳化剤がよく利用される。例えば、高融点粉末油脂を利用した離型油(特許文献1)、油脂に対し、レシチン及びワックスを併用する離型油(特許文献2)、レシチン及びカルシウム化合物を併用する離型油(特許文献3)、ポリグリセリン脂肪酸エステル及び二酸化ケイ素(特許文献4)を併用する離型油が提案されている。
【0004】
しかし、油脂や乳化剤(レシチン、脂肪酸エステルなど)は、生地に添加すると独特の好ましくない風味が生じることや、近年の無添加嗜好や低カロリー嗜好の顧客ニーズに合わないという理由から、極力使用を避けたい物質となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2016-214161号公報
【特許文献2】特開2014-18170号公報
【特許文献3】特開平4-131044号公報
【特許文献4】特開2003-265105号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、油脂や乳化剤を多用することなく、離型性のよい穀粉焼成食品を提供することにある。また、同時に、離型性のよい穀粉焼成食品製造方法、穀粉焼成食品の離型用組成物、及び穀粉焼成食品の離型性向上方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、かかる課題を解決すべく種々検討したところ、添加物の範疇にない、しかも焦げ付く原因とされる糖のひとつであるD-プシコース(D-アルロース)を特定量添加することにより、上記課題が解決されることを見出し、本発明を完成するに至った。本発明によれば、離型油のように型にあらかじめ塗布しておくなどの手間を要さず、穀粉焼成食品の生地に配合しておくだけで簡便に離型性を改善することができる。
【0008】
本発明は、主に4つの発明からなり、第一の発明は、以下[1]~[3]の穀粉焼成食品である。
[1]穀粉、砂糖、卵及びD-プシコースを含む生地が型充填及び焼成されてなる、以下の(A)及び(B)を満たす穀粉焼成食品:
(A)D-プシコースが生地原料中0.02~15質量%、
(B)砂糖と卵の配合量が、砂糖≧卵。
[2]さらに以下の(C)を満たす、上記[1]記載の穀粉焼成食品:
(C)砂糖100質量部に対し、D-プシコースが0.07~71質量部。
[3]穀粉焼成食品が、スポンジケーキ、マドレーヌ、フィナンシェのいずれかである、上記[1]又は[2]に記載の穀粉焼成食品。
【0009】
第二の発明は、以下[4]及び[5]の穀粉焼成食品の製造方法である。
[4]穀粉、砂糖、卵及びD-プシコースを含んでなる穀粉焼成食品の製造方法であって、以下の(A)及び(B)を満たす生地を調製する工程、型に充填する工程、及び焼成する工程を含む、穀粉焼成食品の製造方法:
(A)D-プシコースが生地原料中0.02~15質量%、
(B)砂糖と卵の配合量が、砂糖≧卵。
[5]さらに以下の(C)を満たす、上記[4]記載の穀粉焼成食品の製造方法:
(C)砂糖100質量部に対し、D-プシコースが0.07~71質量部。
【0010】
第三の発明は、以下[6]及び[7]の穀粉焼成食品の離型用組成物である。
[6]D-プシコースを有効成分として含む、穀粉焼成食品の離型用組成物。
[7]穀粉焼成食品が以下(A)及び(B)を満たす、上記[6]記載の穀粉焼成食品の離型用組成物:
(A)D-プシコースが生地原料中0.02~15質量%、
(B)砂糖と卵の使用量が、砂糖≧卵。
【0011】
第四の発明は、以下[8]の穀粉焼成食品の離型性を向上させる方法である。
[8]以下(B)を満たす穀粉焼成食品において(A)を満たすことにより、穀粉焼成食品の離型性を向上させる方法:
(A)D-プシコースが生地原料中0.02~15質量%、
(B)砂糖と卵の使用量が、砂糖≧卵。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、離型性のよい穀粉焼成食品を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明にいう「穀粉焼成食品」は、主成分である穀粉、卵及び砂糖のほか、牛乳、油脂、塩、調味料などの副原料を混合し、バッター生地又はドウ生地として焼成されてなるものをいい、イースト発酵を伴うパン類とは区別される。穀粉焼成食品の具体例は、スポンジケーキ、シフォンケーキ、パウンドケーキ、バターケーキ、カップケーキ、マフィン、マドレーヌ、フィナンシェ、ホットケーキ、どら焼き、蒸しどら、たい焼き、人形焼、鈴カステラ、ワッフル、バームクーヘン、クッキー、パイ、タルトなどであるが、本発明の効果がよく発揮される形態は、スポンジケーキ、シフォンケーキ、パウンドケーキ、バターケーキ、カップケーキ、マフィン、マドレーヌ、フィナンシェ、板バーム、タルトなどである。穀粉焼成食品の製造手順は定法に従えばよく、とくに限定されるものではないが、焼成工程に用いるオーブンなどの器具が100℃を超える場合に離型性の問題をよく生じるため、本発明の効果がより明確にみられる。
【0014】
上記の「穀粉」は、小麦粉に限定されず、米粉、コーンフラワー、大豆粉、ライ麦粉、大麦粉、あわ粉、ひえ粉、澱粉などを併用してもよく、澱粉には加工澱粉が含まれる。加工澱粉の具体例は、架橋澱粉(例えば、リン酸架橋澱粉)、エーテル化澱粉(例えば、ヒドロキシプロピル澱粉)、エステル化澱粉(例えば、酢酸澱粉)、これら加工を組合せた加工澱粉(例えば、アセチル化アジピン酸架橋澱粉やヒドロキシプロピル化リン酸架橋澱粉)、オクテニルコハク酸ナトリウム澱粉、酸化澱粉、酸処理澱粉などが挙げられる。
【0015】
上記の「卵」は、一般に鶏の全卵を指すが、それ以外の卵であってもよく、卵黄又は卵白のみを利用することができ、卵液のほか、その冷凍品、粉末品などの加工品を用いることもできる。
【0016】
上記の「砂糖」は、ショ糖、スクロースともいい、その粒の大きさや精製度により、グラニュー糖、粉糖、上白糖、三温糖などと名称が異なることがあるが、いずれであっても用いることができる。
【0017】
本発明の穀粉焼成食品は、離型性の問題を生じる原料の配合比のときに、とくに離型性の向上効果がみられることとなる。具体的には、主成分である穀粉に加えて、砂糖と卵を含むときに離型の問題を生じ、さらには砂糖が卵と同量又はそれ以上配合されたときに特に離型の問題を顕著に生じるので、その配合において、離型性の改善効果が明確に発現される。
【0018】
本発明の穀粉焼成食品は、上記の原料のほか、D-プシコース(D-アルロース)を必須成分として含む。D-プシコースは、離型性を向上させるために用いられるが、型に塗布するのでなく穀粉焼成食品の原料のひとつとして用いればよく、ミックス粉の調製時、又はバッター若しくはドウ生地の調製時に配合すればよい。D-プシコースは、少なくとも生地原料中に0.02質量%以上配合すればよいが、15%を超えると着色が進行して見た目が悪くなるため、好ましくは0.02~15%、より好ましくは0.04~12%であり、さらに好ましくは0.08~10%配合すればよく、1.5~8%を目安として添加するのがよい。また、砂糖との関係においては、砂糖100質量部に対して、0.07~71質量部を用いるのがよく、好ましくは0.17~55質量部、0.33~45質量部、さらに好ましくは7.1~35質量部を用いるのがよい。
【0019】
本発明にいう「離型性が向上する」とは、ドウ生地又はバッター生地が型に充填されて焼成された穀粉焼成食品をその型から外したときに、離型せずに型に残った焼成生地が、対照とする穀粉焼成食品のそれより少ない状態をいい、より好ましくは、離型せずに型に残った焼成生地の量が、焼成食品全体の10%未満であることをいう。
【0020】
本発明の穀粉焼成食品は、上記の必須原料以外の原料を含んでもよく、例えば、重曹、ベーキングパウダー、牛乳、乳製品、バター、マーガリンなどの加工油脂、塩などの調味料のほか、調製生地に混ぜ込んで用いるレーズンやナッツなどの具材を含むことができる。また、従前の乳化剤や離型用油脂の使用を排除するものでなく、本発明の効果を阻害しない範囲で適量を用いることができる。
【実施例0021】
以下、実験例を提示して本発明を詳細かつ具体的に説明するが、本発明は、これら実験例に限定されるものではない。なお、以下の実験例において、とくに断りのない限り、「部」は質量部を、「%」は質量%を示す。
【0022】
<マドレーヌにおける離型性の確認>
以下の[表1]の手順に従い、[表2]の配合で各マドレーヌを焼成した。焼成したマドレーヌを離型させたときに型に残った焼成生地の重量割合(%)は、[表2]下方に示す。
【0023】
【0024】
【0025】
上の試験実施前は、油脂の配合割合が多くなるほど離型性が良好になるものと想定していたが、意外にも、油脂の配合割合がもっとも多い試験区4の離型性が最も悪かった。一方、試験区4と油脂の配合割合が同等である試験区3の離型性が最も良かった。また、油脂の配合割合が同等である試験区5と6を比較したときにも、その離型性に顕著な相違があった。そこで、離型性に影響を及ぼす因子が油脂以外にもあるのではないかと考え、詳細に検討したところ(例えば、試験区1、2など)、砂糖と卵の配合量が同等のとき、又は砂糖の配合量が卵より多いときに、離型性の問題を顕著に生じることがわかった。
【0026】
<D-プシコースによる離型効果-砂糖と卵が同量の場合->
D-プシコース添加による離型効果を確認するため、上記[表1]の手順に従い、以下[表3]の配合でマドレーヌを焼成した。焼成したマドレーヌを離型させたときに型に残った焼成生地の重量割合(%)は、[表3]下方に示す。
【0027】
【0028】
D-プシコースを0.02%添加すると、全く添加しない場合に比べて離型性が若干改善し、0.04、0.08、1.63又は11.06%添加したときに、離型性が顕著に改善した。一方、D-プシコースの異性化体であるD-フラクトースを1.63%添加しても、離型性は全く改善しなかった。
【0029】
<D-プシコースによる離型効果 -砂糖が卵より多い場合->
上記[表1]の手順に沿って、以下[表4]の配合でマドレーヌを焼成した。焼成したマドレーヌを離型させたときに型に残った焼成生地の重量割合(%)は、[表4]下方に示す。
【0030】
【0031】
離型性が顕著に悪化する条件である、砂糖が卵より多い配合にあっても、D-プシコースを7.66%添加したときには離型性が顕著に改善した。