(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022107187
(43)【公開日】2022-07-21
(54)【発明の名称】処理層の形成方法
(51)【国際特許分類】
B05D 1/18 20060101AFI20220713BHJP
B05D 7/24 20060101ALI20220713BHJP
B05D 5/00 20060101ALI20220713BHJP
C01G 9/02 20060101ALI20220713BHJP
C23C 20/08 20060101ALI20220713BHJP
【FI】
B05D1/18
B05D7/24 301C
B05D7/24 303B
B05D7/24 303A
B05D5/00 Z
C01G9/02 A
C23C20/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021001971
(22)【出願日】2021-01-08
(71)【出願人】
【識別番号】591167430
【氏名又は名称】株式会社KRI
(72)【発明者】
【氏名】吉川 弥
(72)【発明者】
【氏名】出口 朋枝
(72)【発明者】
【氏名】荒木 圭一
(72)【発明者】
【氏名】平瀬 辰朗
【テーマコード(参考)】
4D075
4G047
4K022
【Fターム(参考)】
4D075AA01
4D075AB01
4D075AB51
4D075AB54
4D075AB56
4D075AE03
4D075BB16X
4D075BB65Z
4D075BB85X
4D075BB87X
4D075BB91X
4D075BB91Z
4D075BB92Y
4D075CA02
4D075CA45
4D075CA47
4D075CA48
4D075DA06
4D075DB01
4D075DB07
4D075DB13
4D075DB36
4D075DB39
4D075DB48
4D075DB53
4D075DC22
4D075EA06
4D075EA07
4D075EA45
4D075EB14
4D075EB33
4D075EC01
4D075EC07
4D075EC08
4D075EC10
4D075EC23
4D075EC51
4D075EC54
4G047AA02
4G047AB02
4G047AC03
4G047AD04
4K022BA15
4K022BA25
4K022BA33
4K022DA09
4K022DB01
4K022DB03
4K022DB04
(57)【要約】
【課題】比較的簡便な手法で、基材表面に殺菌能を有する処理層の形成方法を提供する。
【解決手段】水に水溶性亜鉛塩とアミンボラン系還元剤を主成分とする浴成分を溶解してなる水溶液2を得る準備工程と、準備工程で得られた水溶液に基材10を浸漬して、基材表面に、ナノオーダーの厚さの鱗片状をなす酸化亜鉛の結晶が多数ランダムに成長して成り、前記酸化亜鉛の結晶の端部により花弁30が形成された花弁構造3を有する処理層を形成する処理層形成工程とを実行して、花弁構造を成す花弁30の花弁サイズを0.1μm以上5μm以下の範囲とする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
殺菌能を有する処理層を基材表面に形成する処理層の形成方法であって、
水に水溶性亜鉛塩とアミン系若しくはボラン系の還元剤を主成分とする浴成分を溶解してなる水溶液を得る準備工程と、
前記準備工程で得られた前記水溶液に基材を浸漬して、前記基材表面に、ナノオーダーの厚さの鱗片状をなす酸化亜鉛の結晶が多数ランダムに成長して成り、前記酸化亜鉛の結晶の端部により花弁が形成された花弁構造を有する処理層を形成する処理層形成工程とを実行して、
前記花弁構造を成す花弁の花弁サイズを0.1μm以上5μm以下の範囲とする処理層の形成方法。
【請求項2】
前記水溶性亜鉛塩が硝酸亜鉛6水和物であり、前記アミン系若しくはボラン系の還元剤がジメチルアミンボラン若しくはヘキサメチレンテトラミンの何れか一方或いはそれらの両方である請求項1記載の処理層の形成方法。
【請求項3】
前記準備工程において、前記水溶液における水溶性亜鉛塩とアミン系若しくはボラン系の還元剤の濃度を調整するとともに、
前記処理層形成工程において、前記基材を前記水溶液に浸漬する時間を調整して、
前記花弁の花弁サイズを調整する請求項1又は2記載の処理層の成形方法。
【請求項4】
前記水溶液において、
前記水溶性亜鉛塩の濃度を5mmol/L以上200mmol/L以下とし、
前記水溶性亜鉛塩と前記アミン系若しくはボラン系の還元剤とのモル比を0.1:1以上60:1以下として、
前記処理層形成工程において、
前記基材を浸漬した前記水溶液の温度を75℃以上95℃以下に維持する請求項1~3の何れか一項記載の処理層の形成方法。
【請求項5】
前記処理層形成工程における、前記処理層の形成時間を30分以上6時間以下とする請求項4記載の処理層に形成方法。
【請求項6】
殺菌能を有する処理層を基材表面に形成する処理層の形成方法であって、
水に硝酸亜鉛6水和物とジメチルアミンボラン若しくはヘキサメチレンテトラミンの何れか一方或いはそれらの両方を主成分とする浴成分を溶解してなる水溶液を得る準備工程と、
前記準備工程で得られた前記水溶液に基材を浸漬して、前記基材表面に、鱗片状をなす酸化亜鉛の結晶が多数ランダムに成長して成る花弁構造を有する処理層を形成する処理層形成工程を実行する場合に、
前記水溶液において、
前記硝酸亜鉛6水和物の濃度を5mmol/L以上200mmol/L以下とするとともに、
前記硝酸亜鉛6水和物と前記ジメチルアミンボラン若しくはヘキサメチレンテトラミンの何れか一方或いはそれらの両方とのモル比を0.1:1以上60:1以下とし、
前記処理層形成工程において、
前記基材を浸漬した前記水溶液の温度を75℃以上95℃以下に維持して、30分以上6時間以下で、処理層を形成する処理層の形成方法。
【請求項7】
前記処理層を形成する前記基材の表面にアルミニウムからなる花弁構造生成部を備える請求項1~6のいずれか一項記載の処理層の形成方法。
【請求項8】
前記基材の表面に、前記処理層が形成された処理層形成部を設けるとともに、
層厚が前記処理層の厚さ以上とされ、前記処理層より硬い保護部を設ける請求項1~7のいずれか一項記載の処理層の形成方法。
【請求項9】
前記保護部を縞状若しくは格子状に設け、保護部間を前記処理層形成部とする請求項8記載の処理層の形成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、対象菌に対して殺菌能を有する処理層を基材表面に形成する処理層の形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の殺菌性を有する処理層に関する先行技術としては、特許文献1、2及び3を挙げることができる。
特許文献1は、金属粒子(a1)とフェノール樹脂(a2)との複合体であって金属原子- 酸素原子-炭素原子結合を有する金属樹脂複合材料を含有する、抗菌性組成物に関する出願であり、金属粒子 (a1)として、銀、銅、スズ、ニッケル、鉄、亜鉛、マンガン及びアルミニ ウムからなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましいと記されている。この抗菌性組成物は、基材の表面に塗布して使用することもできる。
【0003】
特許文献2に開示の技術は、接触すると細胞が死亡する新規な表面トポグラフィーを示す表面に関し、ナノオーダーの大きさを有するナノスパイクのアレイを含む合成殺菌表面とされる合成殺菌表面の製造方法に関する。
【0004】
一方、特許文献3には、殺菌能を有する物質として酸化亜鉛粒子を使用することが示されている。
この文献に開示の技術は、亜鉛イオン、塩素イオンおよび硫酸イオンを含有する水溶液で、該塩素イオンと該硫酸イオンとのモル比を所定の割合に調整して、前駆体を析出し、この前駆体を含有する水溶液を所定温度で水熱処理することにより得ることができる。
この技術で得ることができる酸化亜鉛粒子の粒子径は10μm~500μm程度である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2017-71562号公報
【特許文献2】特表2017-503554号公報
【特許文献3】特開2007-223873号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前述の特許文献1,2,3に記載の技術は、それぞれ以下のような欠点がある。
【0007】
特許文献1に開示の技術では、記載の抗菌性組成物を使用することにより、基材表面に抗菌性樹脂層を形成できるが、組成物の製造工程が煩雑になるとともに、殺菌有効成分となる金属が樹脂に包摂された状態で表面に露出するため、その有効領域が限られる。
【0008】
特許文献2には、合成殺菌表面を形成する物質として酸化亜鉛が指摘されているが、この材料を使用して、真に殺菌性のある表面を得る方法に関しては明らかでない。
【0009】
特許文献3に開示の技術は、殺菌成分としての酸化亜鉛粒子を得る方法に関するが、得られる粒子の粒子径が大きく、この粒子による殺菌能は特許文献2に開示のナノスパイク形成によるものではなく、酸化亜鉛粒子が材料として固有に保持する殺菌能によるものと理解される。
【0010】
この実情に鑑み、本発明の主たる課題は、比較的簡便な手法で、基材表面に殺菌能を有する処理層の形成方法を提供する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の第1特徴構成は、
殺菌能を有する処理層を基材表面に形成する処理層の形成方法であって、
水に水溶性亜鉛塩とアミン系若しくはボラン系の還元剤を主成分とする浴成分を溶解してなる水溶液を得る準備工程と、
前記準備工程で得られた前記水溶液に基材を浸漬して、前記基材表面に、ナノオーダーの厚さの鱗片状をなす酸化亜鉛の結晶が多数ランダムに成長して成り、前記酸化亜鉛の結晶の端部により花弁が形成された花弁構造を有する処理層を形成する処理層形成工程とを実行して、
前記花弁構造を成す花弁の花弁サイズを0.1μm以上5μm以下の範囲とする点にある。
【0012】
以下、アミン系若しくはボラン系の還元剤を単に還元剤と呼ぶことがあるものとする。さらに、ナノオーダーとは、数~数十nmを意味する。また花弁構造を成す花弁の花弁サイズは、処理層をその平面視で観察した場合に、鱗片状をなす酸化亜鉛結晶端により形成された花弁の平均サイズを意味し、例えば
図2,
図4、
図9において白抜きで示した部位の平均長である。
【0013】
本特徴構成によれば、準備工程において、水溶性亜鉛塩と還元剤とを少なくとも含む水溶液を製造し、処理層形成工程において、この水溶液に基材を浸漬することにより、その基材の表面に酸化亜鉛の花弁を成長させることができる。
ここで、必要となる処理は水溶液の生成と浸漬であり、簡単に目的物を製造することができる。しかも、水溶性亜鉛塩と還元剤とを適当な割合で混合した水溶液では、発明者が花弁構造と呼ぶ、鱗片状をなす酸化亜鉛の結晶が多数ランダムに成長した処理層とできる。また、本発明においては、花弁構造を成す花弁の花弁サイズを0.1μm以上5μm以下の範囲とすることにより、有効な殺菌性を得ることができる。
【0014】
花弁サイズが0.1μm未満であると、発明者が意図するナノスパイクとしての物理的殺菌効果が低下する傾向を示す。一方、5μmを越えると、同様に目的とする物理的殺菌効果が低下する場合があるとともに、殺菌対象とできる菌種が限定される場合が生じる。
【0015】
本発明の第2特徴構成は、
前記水溶性亜鉛塩が硝酸亜鉛6水和物であり、前記アミン系若しくはボラン系の還元剤がジメチルアミンボラン(DMAB)若しくはヘキサメチレンテトラアミン(HMTA)の何れか一方或いはそれらの両方である点にある。
【0016】
本特徴構成によれば、これら安価で入手容易な出発原料(硝酸亜鉛6水和物、ジメチルアミンボラン、若しくはヘキサメチレンテトラアミン)を使用して、目的物を得ることができる。
【0017】
本発明の第3特徴構成は、
前記準備工程において、前記水溶液における水溶性亜鉛塩とアミン系若しくはボラン系の還元剤の濃度を調整するとともに、
前記処理層形成工程において、前記基材を前記水溶液に浸漬する時間を調整して、
前記花弁の花弁サイズを調整する点にある。
【0018】
後述する実施形態で示すように、本発明に係る酸化亜鉛の花弁構造は、出発原料である水溶性亜鉛塩と還元剤との濃度関係、及び結晶成長の時間に大きく依存する。
原則的には、出発原料の濃度が高い程、得られる花弁構造の花弁サイズは小さくなる傾向を示し、逆に、成長時間を長くとる程、得られる花弁構造の花弁サイズは大きくなる傾向を示す。
従って、出発原料の濃度と成長時間を適度に調整することにより、目的とする花弁サイズを備えた花弁構造(有効な殺菌性を発揮する花弁構造)を得ることができる。
【0019】
本発明の第4特徴構成は、
前記水溶液において、
前記水溶性亜鉛塩の濃度を5mmol/L以上200mmol/L以下とし、
前記水溶性亜鉛塩と前記アミン系若しくはボラン系の還元剤とのモル比を0.1:1以上60:1以下として、
前記処理層形成工程において、
前記基材を浸漬した前記水溶液の温度を75℃以上95℃以下に維持する点にある。
【0020】
先にも記したように、水溶液における出発原料の濃度及び原料比は形成される花弁の形態を決定づける要因であり、この水溶性亜鉛塩の濃度が5mmol/Lより低い場合は所望の花弁構造が形成され難い。一方、200mmol/Lより高い場合は、短時間で成長してしまい、花弁構造の花弁サイズの調整が難しくなりがちである。
【0021】
一方、水溶性亜鉛塩に対する還元剤の割合に関しても、このモル比が0.1:1より低い、若しくは60:1より高いと、水溶性亜鉛塩と還元剤との間の適切は反応を促進し難くなりやすい。水溶液温度に関しては、この程度の温度域で所定の反応が良好に進行する。従って、上記のように水溶性亜鉛塩の濃度及び、水溶性亜鉛塩と還元剤とのモル比を選択し、所定の温度域に水溶液を管理することで、容易且つ確実に発明者が好ましと考える花弁サイズの花弁構造を得ることができる。
【0022】
本発明の第5特徴構成は、
前記処理層形成工程における、前記処理層の形成時間を30分以上6時間以下とする点にある。
【0023】
本特徴構成によれば、30分~6時間の範囲内で、発明者らが目的とする、減菌・殺菌効果のある花弁構造と呼ぶ酸化亜鉛からなる処理層を形成することができる。
ここで、30分より短い場合は成長が不十分となり、殺菌性に劣る場合が発生する場合がある。一方、6時間より長い場合は、成長しすぎて明確な花弁構造が埋没してしまうことがある。
【0024】
本発明の第6特徴構成は、
殺菌能を有する処理層を基材表面に形成する処理層の形成方法であって、
水に硝酸亜鉛6水和物とジメチルアミンボラン若しくはヘキサメチレンテトラミンの何れか一方或いはそれらの両方を主成分とする浴成分を溶解してなる水溶液を得る準備工程と、
前記準備工程で得られた前記水溶液に基材を浸漬して、前記基材表面に、鱗片状をなす酸化亜鉛の結晶が多数ランダムに成長して成る花弁構造を有する処理層を形成する処理層形成工程を実行する場合に、
前記水溶液において、
前記硝酸亜鉛6水和物の濃度を0.5mmol/L以上200mmol/L以下とするとともに、
前記硝酸亜鉛6水和物と前記ジメチルアミンボラン若しくはヘキサメチレンテトラミンの何れか一方或いはそれらの両方とのモル比を0.1:1以上60:1以下とし、
前記処理層形成工程において、
前記基材を浸漬した前記水溶液の温度を75℃以上95℃以下に維持して、30分以上6時間以下で、処理層を形成する点にある。
【0025】
これまで説明してきたと同様の作用・効果を得ることができる。
【0026】
本発明の第7特徴構成は、
前記処理層を形成する前記基材の表面にアルミニウムからなる花弁構造生成部を備える点にある。
【0027】
本特徴構成によれば、アルミニウムからなる花弁後送生成部を起点として、目的とする殺菌能を有する酸化亜鉛の処理層を形成できる。
ここで、花弁構造生成部としては、後述するように、基板、それ自身をアルミニウム基板としてもよいし、任意材料を基板とし、その表面にアルミニウムの粉体塗布層を形成して、その粉体を結晶の成長点(花弁構造生成部)とすることもできる。
【0028】
本発明の第8特徴構成は
前記基材の表面に、前記処理層が形成された処理層形成部を設けるとともに、
層厚が前記処理層の厚さ以上とされ、前記処理層より硬い保護部を設ける点にある。
【0029】
これまでの説明では、基材の表面に処理層を設ける場合に関してのみ説明したが、本発明に係る処理層は、その構造上、摩擦等の影響を受けやすく、花弁構造が失われると目的とする殺菌能が低下する。
そこで、処理層形成部に対して保護部を設けることより、処理層の物理的保護が可能となる。この種の保護部は、その層厚を処理層の厚さ以上とし、処理層より硬い材料から形成することで、処理層の保護目的を達成できる。
この種の保護部は、後に紹介するように、縞状、格子状等とすることができるが、例えば、単なる突起を多数設けておいてもよい。
【0030】
本発明の第9特徴構成は
前記保護部を縞状若しくは格子状に設け、保護部間を前記処理層形成部とする点にある。
【0031】
このような形状とすることで、所謂、半導体製造工程で使用されてきたマスキング技術を利用して、保護部を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【
図2】実施例 1(花弁構造 L)の花弁構造写真(平面写真)を示す図
【
図3】実施例 1(花弁構造 L)の花弁構造写真(断面写真)を示す図
【
図4】実施例 2(花弁構造 M)の花弁構造写真を示す図
【
図5】花弁構造M及び花弁構造Lの抗カビ効果結果を示す図
【
図6】出発原料を出発原料2とする場合の反応系統を示す図
【
図7】原料の濃度制御に伴う花弁構造の変化を示す図
【
図8】成長時間制御に伴う花弁構造の変化状態を示す図
【
図9】第1実施形態で得られる花弁構造の花弁サイズを示す図
【
図11】第2実施形態で得られるアルミコート基材の表面状態を示す図
【
図12】第2実施形態で得られる花弁構造写真を示す図
【
図13】第2実施形態で得られる花弁構造写真を示す図
【
図14】第3実施形態で得られる保護部を備えた基材の模式図
【
図15】第3実施形態で得られる処理層形成部と保護部の状態を示す図
【
図17】格子状の保護部を備えた第3実施形態の耐摩擦試験の結果を示す図
【発明を実施するための形態】
【0033】
本発明の実施形態について図面に基づいて説明する。
図1、
図10に、本願に係る処理層1の形成プロセスを示した。
これら同図からも判明するように、本発明に係る処理層1の形成方法は、基本的には(a)準備工程、(b)処理層形成工程及び(c)後処理工程を有してなる。
(a)(b)は、各プロセスを模式的に示すとともに、(c)に処理層1の写真を示した。本明細書において写真は全てSEM写真であり、倍率を「×○○○○」で示した。
【0034】
さらに、処理層1を形成する基材10に関して、この基材10がアルミニウム基板11から成る例(
図1)と、任意材料の基板12上にアルミニウムを含有する塗布層13を形成する例(
図10)を示す。従って、以下の説明において、基材10にはアルミニウム基板11、若しくは基板12上に塗布層13を備えたものを含む。
【0035】
1.準備工程
この工程では、処理層1を形成する基材10を用意するとともに、
図1(a)に示すように、所要の水溶液2を得る。水溶液2は、水に水溶性亜鉛塩とアミン系もボラン系還元剤を主成分とする浴成分を溶解して得ることができる。同図には、水溶性亜鉛塩が硝酸亜鉛6水和物(Zn(NO
3)
2・6H
2O)であり、還元剤がジメチルアミンボラン(DMAB)或いはヘキサメチレンテトラミン(HMTA)である例を示した。
【0036】
以下の説明において、水溶性亜鉛塩が硝酸亜鉛6水和物であり還元剤がジメチルアミンボランである場合の出発原料を「出発原料1」と呼び、硝酸亜鉛6水和物であり還元剤がヘキサメチレンテトラミンである場合の出発原料を「出発原料2」と呼ぶものとする。
【0037】
この水溶液を得る場合、溶成分の濃度は、水溶性亜鉛塩の濃度を5mmol/L(リットル)以上、200mmol/L(リットル)以下とし、水溶性亜鉛塩に対する還元剤のモル比は0.1:1以上、60:1以下とできる。
【0038】
図10(a)には準備工程において実行する花弁構造生成部形成工程を示しているが、
図10に示す例でも、所用の水溶液2を得て、処理層1を得る点では異なるところはない(
図10(b)参照)。
図10(a)には、理解を容易とするため、水溶液2の生成に係る図面を省略し、花弁構造生成部形成工程のプロセス図を示した。
【0039】
2.処理層形成工程
図1(b)、
図10(b)に示すように、準備工程で得られた水溶液2に基材10を浸漬して、基材表面に複数の酸化亜鉛の花弁構造3を成長させる。実際には、準備工程で得られた水溶液2を収納した容器内に基材10を浸漬し、所定時間、加温状態で静置する。
図1(b)には、基材10がアルミニウム基板11である例を示している。一方、
図10(b)には、基材10が任意材料の基板12上に本願独特の塗布層13を備えた例を示している。
【0040】
この処理層形成工程においては、水溶液2の温度は75℃~95℃に維持するとともに、その処理層1の形成時間は0.5~6時間とすることができる。この形成時間は、花弁構造3を成す花弁の成長時間となる。
このようにすることにより、基材表面に、ナノオーダーの厚さを有し、鱗片状をなす酸化亜鉛の結晶(本明細書において花弁30と称する)が多数ランダムに成長して成る処理層1を得ることができる。発明者等は、この花弁30の集合体の構造を花弁構造3と呼んでおり、花弁構造3を成す花弁30の花弁サイズは0.1μm以上5μm以下の範囲とできる。
図2,
図4に示す例では花弁サイズが1μm以上5μm以下となっており、
図9に示す例では約0.3μm~2.5μmとなっていた。
【0041】
3.後工程
図1(c)、
図10(c)に示すように、処理層形成工程で得られた処理済基材10を洗浄・乾燥することにより、基材表面に処理層1が形成された目的物を得ることができる。
図1(c)には処理層1の平面写真例を示した。この写真は後述する、
図2(b)に示すものであり、その倍率は3000倍である。
図10(c)に示す例は
図13 符号PI(PIはポリイミドを意味する)で示すものであり、その倍率は3000倍である。
【0042】
1. 第1実施形態
第1実施形態は、基材10としてアルミニウム基板11をそのまま使用する例であり、出発原料として出発原料1と出発原料2を使用する場合の両方について説明する。
以下に示す、実施例1、2では出発原料1を使用しており、実施例3~8では出発原料2を使用している。
【0043】
1―1 出発原料1の使用
この場合の反応系統は以下の通りである。
【0044】
イ 硝酸亜鉛6水和物の分解、
〔化1〕
Zn(NO3)2・6H2O→Zn2++2NO3+6H2O
【0045】
ロ ジメチルアミンボランの加水分解、
〔化2〕
(CH3)2・NHBH3+2H2O→(CH3)2NH2
++HBO3+5H++6e-
【0046】
ハ 硝酸イオンと水との作用によるOH―の生成、
〔化3〕
NO3
-+H2O+2e-→NO2
-+2OH-
【0047】
ニ 亜鉛イオンとOH―との相互作用による酸化亜鉛の生成
〔化4〕
Zn2++2OH-→Zn(OH)2→ZnO+2H2O
【0048】
結果、アルミニウム基板11の表面に鱗片状の酸化亜鉛が多数成長した花弁構造3(網目状に花弁30が分布している)の処理層1を得ることができる。
【0049】
準備工程で生成した水溶液2の組成は表1の通りである。
下記表1において数値は水溶液生成の各成分(硝酸亜鉛6水和物及びジメチルアミンボラン)の濃度(mmol/500mL(ミリリットル))を示している。
【0050】
【0051】
ここでは実施例1と実施例2とを示すが、
図2,
図3、
図4に示すように、実施例1は生成された花弁構造3の花弁30が比較的大きいため、この例を発明者等は「花弁構造 L」と呼んでおり、実施例2は比較的小さいため「花弁構造 M」と呼んでいる。
【0052】
これらの実施例1,2では、処理層形成工程において溶液温度を80℃とし、その水溶液2への浸漬時間は6時間とした。
【0053】
図2、
図3に実施例1(花弁構造 L)の写真を示した。
図2は、拡大倍率を異にする平面写真であり、
図3は断面写真である。
図3において、拡大倍率を、500倍、3000倍、5000倍と段階的に増加している。
図4は実施例2(花弁構造 M)の写真(平面写真)を示した。
結果、実施例1(花弁構造 L)で得られる処理層1の構造は、花弁30が複雑に突出しており、その花弁サイズが1~5μmとなっている。
図3に、白抜きで示した(花弁サイズの写真上の取り扱いは以下同様とした)。
実施例2(花弁構造 M)で得られる処理層1の形態は基本的に同様であるが、花弁30は比較的小さく、その隣接する花弁サイズは1~2μmとなっていた。
【0054】
殺菌性の検討
上記のようにしてアルミニウム基板11に形成した酸化亜鉛の処理層1の殺菌性を検討した。
殺菌性の検討対象とした対象ウイルス及び菌は以下の5種とした。
【0055】
対象ウイルス QBファージ
(NBRC20012)
対象菌 1.グラム陰性菌である大腸菌
(Escherichia coil NBRC15034)
対象菌 2.グラム陽性菌である黄色ブドウ球菌
(Staphylococcus aureus NBRC12732)
対象菌 3.真菌類に属する酵母であるカンジタ酵母
(Candida sojae NBRC10856)
対象菌 4.真菌類に属する糸状菌である黒カビ
(Aspergillus niger van tieghem NBRC105649)
【0056】
処理層1が形成されない樹脂(具体的にはポリイミド)及び処理層1を形成しなかったアルミニウム基板11をリファレンスRefとし、実施例1(花弁構造 L)、実施例2(花弁構造 M)の処理層を設けた基板に関して殺菌性を確認した。
【0057】
殺菌性の確認に当たっては、ウイルスに関してはウイルスプラーク法を採用し、対象菌1,2,3に関してはコロニーカウント法を採用し、対象菌4に関しては、目視確認とした。
【0058】
評価を
図5に示した。
図5に示す図表において、対象ウイルス、対象菌 1,2,3に関しては、菌塗布後、30分及び60分の不活化性能(%)とした、同表において「-」は変化が認められなかったことを意味している。対象菌4に関しては目視観察(視認された日数)とした。
ここで、視認された日数は所定の面積を検討対象として視認された日数である。
【0059】
性能評価結果
ウイルス 30分の評価では変化は認めることは出来なかったが、60分の評価ではアルミニウム基板であるリファレンスに対して不活性性化率は有意な効果を示した。この結果は、細菌、真菌等に対して有意であるとともにウイルスに対しても殺菌性を発揮するという意味から、本発明の処理層1が非常に有効であることを示している。実施例1と実施例2とを比較すると、花弁構造 Lとなっている実施例1のほうが良好であった。
【0060】
対象菌 1.グラム陰性菌である大腸菌に関しては、塗布後、30分後ではどの例でも変化はなかったが、60分後の結果を比較すると、リファレンスにおいて菌の増殖が認められるのに対して、本発明の処理層を設けたものは殺菌性が認められた。実施例1と実施例2とを比較すると、花弁構造 Lとなっている実施例1のほうが良好であった。
【0061】
対象菌 2.グラム陰性菌である黄色ブドウ球菌に関しては、塗布後、殺菌性能が発揮されたが、リファレンスに対して、実施例1及び実施例2の結果が良好であった。
リファレンスにあっては、60分後では殺菌性は低下しているのに対して、実施例1,実施例2では、リファレンスに対して高い殺菌性を示した。
【0062】
対象菌 3.真菌類に属する酵母であるカンジタ酵母に関しては、塗布後、30分後ではどの例でも変化はなかったが、60分後の結果を比較すると、リファレンスにおいてある程度の殺菌性が認められるのに対して、本発明の処理層を設けたものはリファレンスの結果に対して、より高い殺菌性が認められた。実施例1と実施例2とを比較すると、両者間で大きな差は認められない。
【0063】
対象菌 4. 真菌類に属する糸状菌である黒カビに関しては、日数から判明するように、リファレンスが4日、実施例1が13日、実施例2が8日と、花弁構造が大きいもの程、好ましい結果を示した。
【0064】
以上より、本発明が対象とする処理層1は、ウイルス、グラム陰性菌、グラム陽性菌、酵母及び糸状菌に対して有効である。
【0065】
1―2 出発原料2の使用
出発原料2を使用する場合、反応系統は
図6に示す通りである。
この反応系統にあっても、原料の加水分解、OH
-の生成及び亜鉛イオンとOH
―との相互作用による酸化亜鉛の生成が起こる点で出発原料1の場合と基本的に変わりはない。
【0066】
この例にあっては、以下の3項目を検討した。
イ.原料の濃度を変更することにより得られる花弁構造3の変化
ロ.成長時間を変更することよりえられる花弁構造3の変化
ハ.本発明に係る手法に従って得られる花弁構造を成す花弁の花弁サイズ
【0067】
イ.原料の濃度を変更することにより得られる花弁構造の変化
この検討における原料の濃度を表2に示すとともに、各条件で調整した水溶液2に、アルミニウム基板11を6時間浸漬して得られた処理層の写真を
図7に示した。
表2において数値は水溶液生成の各成分(硝酸亜鉛6水和物及びヘキサメチレンテトラミン)の濃度(mmol/500mL(ミリリットル))である。
図7の各写真の倍率は3000倍である。
【0068】
【0069】
表2からも判明するように実施例3から8に進むに従って硝酸亜鉛6水和物の濃度を増加させるとともに、対応してHMTAも増加させている。〔硝酸亜鉛6水和物のモル濃度〕:〔HMTAのモル濃度〕は1:1とした。
【0070】
図7からも判明するように、硝酸亜鉛6水和物のモル濃度を増加させるに従って、実施例3である超低濃度では花弁構造3を示す部位が限定される。実施例4~6の低濃度、中濃度域において、検討対象とした基板ほぼ全面に発明者らが意図した花弁構造3を得ることができた。実施例7の高濃度では、花弁構造3とはなっているが、花弁サイズが小さくなっている。さらに濃度が高い実施例8では、後述するように花弁構造3は初期に形成され、時間の経過に従って花弁が埋められ花弁構造3が失われていく。
【0071】
ロ.成長時間を変更することよりえられる花弁構造の変化
原料の濃度として、花弁構造3が得られた上記実施例3,4,6,8について、その成長時間を変えた結果を
図8に示した。この例での各写真の倍率は3000倍である。さらに、各実施例について、5min(分)、10min(分)、360min(分)の結果を示した。
同図からも判明するように、成長時間を長くすることで花弁構造3が変化することが分かる。
【0072】
ハ.本発明に係る手法に従って得られる花弁構造を成す花弁の花弁サイズ
原料濃度が異なる実施例3,4,6,8について、発明者等が好ましいと考える成長時間において得られる花弁構造を示したのが
図9である。
実施例3にあっては成長時間を6時間近くとし、実施例4にあっては成長時間を3時間、実施例6、8にあっては、成長時間を5分とした。
【0073】
図9下段には倍率を5000倍(実施例3,4)、10000倍(実施例6)、30000倍(実施例8)とした写真を示すとともに、これらの例で得られた花弁サイズを示した。実施例3,4,6,8において、それぞれ、花弁サイズが、約2μm、約2.5μm、約0.8μm、約0.3μmのものを得ることができた。
【0074】
よって、処理層1の生成条件(特に出発原料の濃度)により花弁サイズは制御可能であり、濃度と花弁サイズは反比例に関係にある。成長時間と花弁サイズは比例関係を示す。ただし、成長時間が過度に長くなると、花弁構造3が失われる。以上、この例では、概略、花弁サイズとしては0.3μm~2.5μmまで調整可能であった。
【0075】
第2実施形態
これまで説明してきた第1実施形態では、基材10としてアルミニウム基板11を使用し、その表面全面に所定の処理層1を形成した。従って、第1実施形態では、基板全面が「花弁構造生成部100(発明者等は花弁構造3が成長し得る部位を、このように呼んでいる)」となる。しかしながら、第1実施形態においては基材材料がアルミニウムに限定される。そこで、任意の基板に対して、本発明独特の花弁構造3を形成しようとするのが第2実施形態である。処理層1の形成手順は先に説明した第1実施形態と異なることはないが、任意の基板13に対して「花弁構造成長部100」を予め形成しておく。
【0076】
図10(a)に示すように、第2実施形態にあっては、処理層1の形成に際して、処理層1を形成する基板12の表面にアルミニウムからなる花弁構造生成部100を設ける。具体的には、処理層1を形成したい基板12表面に同図に示すように、アルミニウムコーティング液14を塗布し、表面にアルミニウムフレーク15の塗布層13を形成する。このようにすることで、基板表面に塗布されたアルミニウムフレーク15を花弁構造3の生長点とすることができる。この手法を採用する場合、表面に露出したアルミニウムフレーク15が「花弁構造生成部100」となる。この実施形態で採用できる基板12としては、ポリイミド(PI)、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ガラス、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等を挙げることができる。
【0077】
図1(a)の準備工程で示した水溶液2の生成、(b)処理層形成工程、(c)後工程は、基本的に先に説明したものと同様である。
図10(a)では、水溶液2の生成工程は図示省略した。従って、水溶液2の特性、成長時間等は原則として、第1実施形態で示した例を踏襲することができる。
【0078】
この第2実施形態では、アルミニウムコーティング液14として、トルエンを主成分としとする溶媒内に、アルミニウムフレーク15及びポリスチレン(図示省略)を4:1の割合で混合した固形分を濃度10wt%(質量%)として混合したものを使用した。具体的には、アルミニウムフレーク15としては東洋アルミ製リーフィングアルミ(型番0100M)を使用し、ポリスチレンとしてはMerck社製 分子量280のものを使用した。
【0079】
図11に、基板12の表面に、アルミニウムフレーク15を塗布し、「花弁構造生成部100」を備えた表面写真を示した。
図11(a)は基板12がポリイミド(PI)の例であり、
図11(b)がポリエチレンテレフタレート(PET)の例である。これらより、アルミニウムが表面に露出した部位を容易に形成することができることが分かる。
【0080】
上記のようにして、表面にアルミニウムフレーク15の塗布層13を形成して、「花弁構造生成部100」とした第2実施形態で得られる花弁構造写真が、
図12及び
図13である。
図12は還元剤をジメチルアミンボラン(DMAB)とする例(出発原料1に対応)であり、
図13は、還元剤をヘキサメチレンテトラミン(HMTA)とする例(出発原料2に対応)である。
図12においては、溶液濃度の選択は実施例1と同等とした。一方、
図13においては、実施例5と同等としている。さらに、成長時間は6時間とした。
【0081】
これら写真の倍率は3000倍であり、基板材料を各写真に対応して示した。
基板12の材料により少々の違いはあるが、発明者らが意図する花弁構造3が得られていることが分かる。
【0082】
第3実施形態
上記の第1実施形態、第2実施形態においては、花弁構造3を有する処理層1を基板11あるいは基板12の表面にアルミニウムの塗装層13を設けたものの全面に形成する場合について説明した。しかしながら、
図2~4,
図12、
図13からも判明するように、本発明に係る処理層1は花弁構造3となっているため、例えば、処理層1がその上から擦られた場合、独特の結晶構造が失われてしまい、結果的に殺菌能が低下するという問題をはらんでいる。
図16は、製造時の状態(a)と摩耗試験後の状態(b)とを示しており、指先で所定部位を抑えると、部分的に結晶構造の劣化が発生していることが分かる。
【0083】
第3実施形態は、この種の問題に対する対策であり、基材10の表面に、処理層1が形成された処理層形成部20を設けるとともに、層厚が処理層1の厚さ以上とされ、処理層1より硬い保護部21を設けることを特徴としている。
【0084】
図14に、この実施形態で得られる保護部21を備えた基材10の構成例を模式的に示した。
同図はアルミニウム基板11上に保護部21を形成する場合の斜視図(a)及び断面図(b)を示しており、基板表面に縞状に保護部21を形成する例である。保護部21の形成方法の一例としては、アルミニウム基板11の表面に、所謂、半導体製造に使用されるレジスト材料であるエポキシ樹脂(例えばSU-8)を使用して、縞状の保護部21を形成することができる。この保護部21の厚みHは、処理層1の厚みと同等かそれより厚いものとする。例えば、処理層1の厚みが10μmとなっている場合、それ以上あればよく、好ましくは40μm以上とする。保護部21の幅Lは50μm以上、200μm以下とできる。一方、処理層形成部20の幅Sは50μm以上、200μm以下とできる。
【0085】
この形成方法を採ると、保護部21ではアルミニウム基板11の表面が被覆されているため、花弁構造3を形成することはできず、保護部21以外のアルミニウム基板11の露出部位に処理層1が形成される。即ち、この露出部位が処理層形成部20となる。
【0086】
以下、
図15を使用して説明を進める。
図15は、処理層形成部20と保護部21を形成した写真であり、(a)は、方形のアルミニウム基板11の表面に、縞状の保護部21を多数設け、これら保護部21の間に処理層1を設けた例である。
図15(b)は、製造時の状態(図にBeforeと記載)と摩耗試験後の状態(図にAfterと記載)とを示しており、指先で所定部位を抑えて劣化が発生していないことが分かる。
上記の実施形態においては、保護部21を縦縞状に構成する例を示したが、横縞状に形成しても(図外)、さらには格子状に形成しても良い、格子状に形成した場合の写真を
図17に示した。
【0087】
〔別実施形態〕
(1)上記の実施形態及び実施例においては、水溶性亜鉛塩としては、硝酸亜鉛6水和物の例を示したが、水に溶解して亜鉛イオンを生成すればよく、硝酸亜鉛、硫酸亜鉛、塩化亜鉛、酢酸亜鉛、乳酸亜鉛等も用いることができる。
【0088】
(2)上記の実施形態及び実施例においては、還元剤としては、ジメチルアミンボラン(DMAB)及びヘキサメチレンテトラミン(HMTA)の例を示したが、他に、トリメチルアミンボラン(TMAB)、トリエチルアミンボラン(TEAB)等も使用することができる。
【0089】
(3)上記の実施例においては、水溶性亜鉛塩に対する還元剤の比としては、1:1の場合を示したが、発明者の検討によれば、この比として、0.1:1~60:1の範囲でも処理層を形成できる。
【0090】
(4)上記の実施形態及び実施例においては、基板材料としては、アルミニウム、ポリイミド(PI)、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ガラス、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)の例を示したが、アルミニウム以外の任意の金属基板を使用し、その表面に、第2実施形態の手法に従って「花弁構造生成部」を設けてもよい。
【0091】
(5)上記の第2実施形態においては、基板12の材料としてアルミニウムとは異なる材料を選択し、その表面にアルミニウムフレーク15を含む塗布層13を形成して花弁構造生成部100としたが、アルミニウム基板11に凹凸部を設け、この基板全面に処理層1を形成して、経時的に凹部に設けた処理層1が残存し、殺菌能を発揮できるようにしてもよい。この手順を
図18に示した。
図18(a)は表面に凹凸を備えたアルミニウム基板11(10)を示している。この例にあっても、
図18(b)に示す様に、基板11の表面全体に処理層11を形成する。当然、この処理層1には多数の花弁30からなる花弁構造3を有している。その後、
図18(c)に示す様に凸部側に形成された処理層1は摩耗等により喪失される場合がある。このような状況でも、凹部側に形成した処理層1においては、その花弁構造3を維持することができ、結果的に殺菌能を保つことができる。
【0092】
(6)上記の実施形態においては、第2実施形態と第3実施形態とを独立の形態として紹介したが、両実施形態の構造を単一の基材表面に設けてもよく、例えば、第2実施形態において花弁構造生成部を基板上の一部に形成し、それ以外の部位に保護部を形成してもよい。
【0093】
(7)上記の実施形態においては、花弁構造生成部を形成するに、アルミニウムフレークの塗布層を形成する方法としたが、基板表面にアルミニウムが存在していればよく、スパッタ法、蒸着法、メッキ法等、任意の手法でもこの部位を形成できる。
【符号の説明】
【0094】
1 処理層
2 水溶液
3 花弁構造
10 基材
11 アルミニウム基板
12 基板
13 塗布層
20 処理層形成部
21 保護部
30 花弁
100 花弁構造生成部