(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022107290
(43)【公開日】2022-07-21
(54)【発明の名称】付加質量型制振装置
(51)【国際特許分類】
E04H 9/02 20060101AFI20220713BHJP
F16F 15/02 20060101ALI20220713BHJP
F16F 15/023 20060101ALI20220713BHJP
F16F 15/04 20060101ALI20220713BHJP
【FI】
E04H9/02 341C
E04H9/02 341B
E04H9/02 341E
F16F15/02 C
F16F15/02 L
F16F15/023 A
F16F15/04 E
F16F15/04 P
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021002149
(22)【出願日】2021-01-08
(71)【出願人】
【識別番号】509199007
【氏名又は名称】株式会社川金コアテック
(71)【出願人】
【識別番号】521014087
【氏名又は名称】株式会社建築構造研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100104363
【弁理士】
【氏名又は名称】端山 博孝
(72)【発明者】
【氏名】荒川 玄
(72)【発明者】
【氏名】大原 和之
(72)【発明者】
【氏名】寺村 大真
【テーマコード(参考)】
2E139
3J048
【Fターム(参考)】
2E139AA01
2E139AB14
2E139AC22
2E139AC26
2E139AC27
2E139AC33
2E139AD04
2E139AD08
2E139BA12
2E139BB13
2E139BB24
3J048AA02
3J048AB01
3J048AC04
3J048AD07
3J048BA08
3J048BE03
3J048CB22
3J048DA01
3J048EA38
(57)【要約】
【課題】固有周期を建物の固有周期と同調させる必要がなく、周期調整が不要でメンテナンスが容易な付加質量型制振装置を提供する。
【解決手段】建物11の頂部に設置される付加質量型制振装置10であって、建物11の質量の5~50%の質量を有する付加質量12と、建物11の頂部に設置され、付加質量12を鉛直方向に支持するとともに水平方向の変位を許容する支承部材13と、建物11の地震エネルギーを吸収し、付加質量12の変位を制限する減衰部材14とを備え、固有周期が建物11の固有周期の2.0~10.0倍に設定されている。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
建物の頂部に設置される付加質量型制振装置であって、
前記建物の質量の5~50%の質量を有する付加質量と、前記建物の頂部に設置され、前記付加質量を鉛直方向に支持するとともに水平方向の変位を許容する支承部材と、前記建物の地震エネルギーを吸収し、前記付加質量の変位を制限する減衰部材とを備え、
固有周期が前記建物の固有周期の2.0~10.0倍に設定されていることを特徴とする付加質量型制振装置。
【請求項2】
前記支承部材は、積層ゴム支承からなることを特徴とする請求項1記載の付加質量型制振装置
【請求項3】
前記積層ゴム支承は鉛直方向に直列に複数配置されていることを特徴とする請求項2記載の付加質量型制振装置。
【請求項4】
前記支承部材は、鉛直方向に互いに対向する1対の面間にすべり材又は球体を挟み込んで形成され、前記1対の面の少なくとも一方が凹状球面となっている球面式支承からなることを特徴とする請求項1記載の付加質量型制振装置。
【請求項5】
前記支承部材は、鉛直方向に互いに対向する1対の面間にすべり材又は球体を挟み込んで形成され、前記1対の面の少なくとも一方が凹状球面となっている球面式支承と、積層ゴム支承とを鉛直方向に直列に配置してなる請求項1記載の付加質量型制振装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、付加質量型制振装置に関し、より詳細には、建物の頂部に設置されて地震等の際に建物の揺れを抑える制振装置に関する。
【背景技術】
【0002】
都心の緊急幹線輸送道路沿いには、耐震診断義務があり狭小敷地に建つアスペクト比が大きい建物が多い。耐震診断の結果、「要補強」となった場合でも、高価な補強コストとなる、居住者への負担が大きい補強内容となる、構造計算上補強設計が不可能となる等の理由で補強工事に進展しない建物が多く残されている。
【0003】
アスペクト比が大きな建物の各層に、例えば、制振ダンパーを配置しても、ダンパーを連層配置するためエネルギー吸収効率が大きく下がり、補強困難となる。また、ダンパーを連層配置すると、その力を負担するための杭工事が必要となってしまうが、狭小敷地に建つ建物が多く、杭工事に要する負荷が大きい。
【0004】
地震時の建物の揺れ対策用制振装置として、建物の頂部にバネ等を介して連結された質量を設置する付加質量型のもの、TMD(同調質量ダンパー、Tuned Mass Damper)が知られている(例えば特許文献1参照)。上記のようにアスペクト比が大きな建物に、このTMDを適用することも考えられるが、TMDは以下に記すような問題点がある。
【0005】
・バネ等を調整してTMDの固有周期を地震時の建物の固有周期(損傷時含む)に同調(一致)させるため、調整が難しい。
・等定常波に対する応答制御(床振動等)の場合は有効な方法であるが、地震動のような非定常波の場合は効きが悪い。
・建物の経年劣化(躯体のひび割れ等)や積載重量の変化、外装材による剛性の変化等を原因とする建物の固有周期の変化に対して、メンテナンスとしてTMDの周期調整が必要となる。
【0006】
・地震時に建物が非線形領域(ひび割れ発生~部材降伏)まで変形した場合、それによって生じる建物の固有周期変動に対してTMDの周期調整が必要となるが、パッシブな調整技術がない。
・AMD(アクティブマスダンパー、Active Mass Damper)のように、非定常波応答に対応する技術はあるが、高価なシステムとなる。
・建物の固有周期変動に対応するために複数のTMDを同じ層に設け、システムに冗長性を付与することが考えられるが、コストアップとなるだけでなく、この場合もやはりTMDの設置時や地震時に周期調整が必要となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
この発明は上記のような技術的背景に基づいてなされたものであって、次の目的を達成するものである。
この発明の目的は、制振装置の固有周期を建物の固有周期と同調させる必要がなく、したがって周期調整が不要でメンテナンスが容易な、付加質量型制振装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この発明の発明者は、上記課題を解決するために鋭意検討を重ねたところ、以下に記すような知見を得ることができた。すなわち、建物の頂部にTMDと同じ部材構成を有する制振装置(ただし、付加質量の質量は建物質量の20%)を設置した場合を想定し、建物の固有周期に対する制振装置の固有周期を種々変化させて地震時の建物の揺れをコンピューターによりシミュレートしてみたところ、
図5に示すような結果が得られた。
【0010】
図5において制振装置の固有周期を建物の固有周期の1.0倍にしたケースが、TMD本来の周期設定である(同調)。そして、制振装置の固有周期を建物の固有周期に一致させずに、それよりも小さい1.0倍未満あるいは制振装置なしの場合は、同調させた場合よりも建物の揺れが大きいことが分かる。
【0011】
一方、制振装置の固有周期を建物固有周期と一致させずに、それよりも大きい、建物固有周期の2.0倍、5.0倍あるいは10.0倍とした場合は、同調(1.0倍)させた場合よりも建物の揺れが遙かに小さくなることが判明した。
【0012】
さらに、制振装置の固有周期を建物の固有周期の2.0倍、5.0倍に固定し、制振装置の付加質量の質量を種々変化させて、上記と同様に、地震時の建物の揺れをコンピューターによりシミュレートしてみたところ、
図6(周期比2.0倍)、
図7(周期比5.0倍)に示すような結果が得られた。
【0013】
シミュレーションによれば、周期比2.0倍、5.0倍のいずれの場合も、付加質量の質量を建物の質量の5%以上とすると、制振装置を設置しない場合よりも地震時の建物の揺れが軽減されることが判明した。
【0014】
この発明は上記のような知見に基づくもので、次のような手段を採用している。
すなわち、この発明は、建物の頂部に設置される付加質量型制振装置であって、
前記建物の質量の5~50%の質量を有する付加質量と、前記建物の頂部に設置され、前記付加質量を鉛直方向に支持するとともに水平方向の変位を許容する支承部材と、前記建物の地震エネルギーを吸収し、前記付加質量の変位を制限する減衰部材とを備え、
固有周期が前記建物の固有周期の2.0~10.0倍に設定されていることを特徴とする付加質量型制振装置にある。
【0015】
この発明による制振装置は、その固有周期を建物の固有周期の2.0倍から10.0倍に設定するので、大地震時の建物の固有周期に都度合わせる必要がない。すなわち、同調させる必要がない。
【0016】
建物の質量とは、例えば、固定荷重、積載荷重、積雪荷重等を含む総重量によって規定される質量である。
【0017】
付加質量は、例えば、コンクリートや鋼材等によって形成することができる。
【0018】
付加質量の質量を建物の質量の5~50%と設定するのは、地震に対して有効な制御力を発揮させるためである。この発明による制振装置は、その固有周期を建物の固有周期よりも2.0~10.0倍と長く設定され、建物と制振装置は互いに関係なく振動するため、制振装置の付加質量が建物に与える反力として作用している。
【0019】
付加質量の質量が小さすぎると反力としての機能を十分に得ることができず、それゆえ、この発明では付加質量の質量を建物の質量の5%以上と設定することとしている。他方、付加質量の質量が大きすぎると建物重量の増加と地震時応答制御のバランスが悪くなり、また建物頂部への制振装置の設置が困難になる。それゆえ、この発明では付加質量の質量を建物の質量の50%以下と設定することとしている。
【0020】
制振装置の固有周期を建物の固有周期の2.0~10.0倍と長周期化させることにより、付加質量の質量を建物の質量の5~50%というように大きくしても、その付加質量が地震時重量として作用するのが抑止される。
【0021】
建物の固有周期は、周知の手法である固有値解析に基づき、算出することができる。算出された固有周期に2.0~10.0の数値を乗じて、設定すべき制振装置の固有周期を算出することができる。そして、算出された制振装置の周期となるように、付加質量の質量及び支承部材の仕様(ばね定数等)を決定する。
【0022】
支承部材としては、例えば円柱形の積層ゴム支承を使用することができる。積層ゴム支承は、複数の鋼板とゴム層とを積層したもので、付加質量の鉛直方向の荷重を支持するとともに、水平方向に弾性せん断変形して同方向の変位を許容する。水平方向にせん断変形する際の剛性(バネ定数)が付加質量の固有周期を決定するパラメータの1つとなる。
【0023】
積層ゴム支承は、その複数を鉛直方向に直列に配置してもよい。このようにすることにより、ゴムの材料を変更せずに制振装置の長周期化を図ることができるという利点が得られる。
【0024】
支承部材としては、積層ゴム支承以外にも球面式支承を使用してもよい。球面式支承は、鉛直方向に互いに対向する1対の面間にすべり材又は球体を挟み込んで形成され、前記1対の面の少なくとも一方が凹状球面となっているもので、付加質量の鉛直荷重を支持するとともに、付加質量が振り子運動をしてその水平方向の変位を許容する。球面の曲率半径が付加質量の固有周期を決定するパラメータの1つとなる。
【0025】
このような振り子運動をする支承部材は、制振装置の固有周期を決定するパラメータとして付加質量の質量を含まないので、実際に設置される付加質量の質量が設計値と多少の変動があっても、得られる固有周期に影響を及ぼさない。また、制振装置の固有周期は付加質量の質量に左右されないので、仮に付加質量の上に機器等が偏って積載されていたとしても、想定する所望の固有周期が得られる。
【0026】
支承部材として、球面式支承と積層ゴム支承とを鉛直方向に直列に配置したものを使用してもよい。このような支承部材を用いることにより、次のような利点が得られる。
【0027】
すなわち、付加質量を支持する支承部材は通常複数箇所に設置されるが、支承部材を球面式支承のみで構成した場合、各球面式支承のすべり部表面の摩擦性状の違いにより、各支承がすべり出す水平力にバラツキが生じる。また、各箇所の球面式支承に加わる付加質量による荷重の偏りによっても、すべり出す水平力にバラツキが生じる。
【0028】
このようなことから、例えば、すべり部表面の摩擦係数が大きい場合には、大きな水平力が作用しない限り水平方向にすべり出すことができず、制振装置に想定される固有周期が発揮できないことも考えられる。
【0029】
このような支承部材として球面式支承のみを用いた場合の初期始動の問題は、球面式支承と積層ゴム支承とを鉛直方向に直列に配列することにより解消することができる。
図8は、球面式支承と積層ゴム支承とを直列に配列した支承部材に、繰り返し水平荷重を加えた場合の水平変位の履歴ループを示している。
【0030】
図中、破線で示す部分は球面式支承のみの場合の載荷初期時の変位を示し、所要の荷重(図示の例は50kN)に達するまでは水平変位が生じない。これに対し、球面式支承と積層ゴム支承とを直列に配列した場合は、実線で示されるように載荷初期から水平変位を生じさせることができる。これにより、支承部材の水平変位のすべり出しに対する初期始動を改善して長周期化させることができ、冗長性を向上させることができる。
【0031】
支承部材をこのような構成とする場合、制振装置に作用する水平変位が積層ゴムに集中することはなく、球面式支承部に所定の水平力が作用する水平変位に到達した時点から、球面式支承がすべり出すことになるため、直列配置する積層ゴムには制振装置に作用する変形(大変形)に追随する変形能力は必要ない。
【0032】
このような球面式支承と積層ゴム支承との直列配置による利点を得るためには、積層ゴム支承の水平剛性については、球面式支承の初期剛性(
図8の破線で示される部分)よりも小さく設定すればよい。
【0033】
減衰部材としては、粘性系ダンパー、例えばオイルダンパーを使用することができる。このような減衰部材を設けることにより、地震時に付加質量に加わるエネルギーを吸収し、付加質量の応答変位が抑制される。
【0034】
この発明による制振装置は、建物の質量の5~50%という大きな質量をもつ付加質量を建物の頂部に設置するので、狭小敷地等に建つアスペクト比が大きな中低層建物(S造、RC造、SRC造、木造)の補強に好適であるが、既設建物の補強に限らず新築の建物にも有効である。
【発明の効果】
【0035】
この発明の制振装置によれば、付加質量の固有周期を建物の固有周期と同調させる必要がなく、したがって周期調整が不要でメンテナンスが容易となる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【
図1】この発明による制振装置の実施形態を模式的に示す正面図である。
【
図2】制振装置の具体的な構成を示し、支承部材を積層ゴム支承で構成した実施形態を示す正面図である。
【
図3】制振装置の具体的な構成を示し、支承部材を球面式支承で構成した実施形態を示す正面図である。
【
図4】制振装置の具体的な構成を示し、支承部材を直列配置した球面式支承と積層ゴム支承とで構成した実施形態を示す正面図である。
【
図5】質量比を20%として、建物の固有周期に対する制振装置の固有周期比を種々変化させた場合の地震時最大応答変位を示すグラフである。
【
図6】周期比2.0倍として、建物の質量に対する付加質量の質量比を種々変化させた場合の地震時最大応答変位を示すグラフである。
【
図7】周期比5.0倍として、建物の質量に対する付加質量の質量比を種々変化させた場合の地震時最大応答変位を示すグラフである。
【
図8】支承部材を直列配置した球面式支承と積層ゴム支承とで構成した場合の繰り返し水平荷重による水平変位の履歴ループを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0037】
この発明の実施形態を図面を参照しながら以下に説明する。
図1は、この発明の実施形態の全体を模式的に示す正面図である。この発明による付加質量型制振装置(以下、単に制振装置)10は、従来のTMDと同様に建物11の通常屋上と称されている頂部に設置される。制振装置10の設置対象となる建物11は、S造、RC造、SRC造、木造等いずれでもよく、また既設及び新設のいずれでもよいが、狭小敷地等に建つアスペクト比が大きな中低層建物に適している。
【0038】
制振装置10は、付加質量12と、建物11の頂部に設置され、付加質量12を鉛直方向に支持するとともに、水平方向の変位を許容する複数の支承部材13と、建物の地震エネルギーを吸収し、付加質量12の変位を制限する減衰部材14を備えている。従来のTMDもこれらの部材12、13、14を備え、その点ではこの発明の制振装置10もTMDも同様である。
【0039】
しかしながら、従来のTMDは、建物の固有周期と一致するように固有周期が設定されるのに対し、この発明による制振装置10は、建物11の固有周期の2.0~10.0倍となるように固有周期が設定されている。また、従来のTMDの付加質量と比較して、この発明による制振装置10は付加質量12の質量が建物11の質量の5~50%と大きく設定されている。
【0040】
制振装置10の固有周期及び付加質量12の質量を、このようにすることにより、地震時に建物の揺れを従来のTMDよりも抑えることができ、また制振装置10の固有周期を建物11の固有周期と同調させる必要がないので、メンテナンスが容易となる。
【0041】
図2~
図4は、制振装置10の具体的な構成を示す正面図である。
図2は、支承部材13として、円柱形の積層ゴム支承13aを用いた実施形態である。積層ゴム支承13aは、複数の鋼板とゴム層とを積層したもので、水平方向にせん断変形して付加質量12の水平方向の変位を許容する。
【0042】
支承部材13を設置するために、建物11の頂部に矩形のフレーム15が設置されている。このフレーム15上の複数箇所(四隅部)に支承部材13が設置されている(
図3、
図4の実施形態も同様)。
【0043】
この実施形態では各箇所の支承部材13は、積層ゴム支承13aを2つ鉛直方向に直列に配置したものからなっている。フレーム15と付加質量12との間に中間フレーム16が配置され、この中間フレーム16とフレーム15との間に下段の積層ゴム支承13aが、また中間フレーム16と付加質量12との間に上段の積層ゴム支承13aがそれぞれ配置され、それぞれ上下フランジを介して固定されている。
【0044】
減衰部材14は、実施形態ではオイルダンパーからなり、積層ゴム支承13aと同様に上下2段に配置されている。中間フレーム16とフレーム15との間に下段のオイルダンパー14が、また中間フレーム16と付加質量12との間に上段のオイルダンパー14がそれぞれブラケット17を介して取り付けられている。
【0045】
地震時には積層ゴム支承13aが水平方向にせん断変形し、付加質量12が制振装置10に設定された固有周期で水平方向に変位して、建物11の揺れを抑制する。また、減衰部材14が作動して地震エネルギーを吸収する。
【0046】
図3は、複数の支承部材13として球面式支承13bを用いた実施形態である。図示の球面式支承13bは、鉛直方向に対向する上下1対の凹状球面18、18間に球体19を挟み込んで形成される支承である。球面式支承13bはフレーム15と付加質量12との間に配置され、上下フランジを介して固定されている。球面式支承13bは付加質量12を鉛直方向に支持するとともに、上下の凹状球面18、18が水平方向に相対変位することにより付加質量12の水平方向の変位を許容する。
【0047】
減衰部材14は、
図2に示した実施形態と同様にオイルダンパーからなり、付加質量12とフレーム15との間にブラケット17を介して取り付けられている。
【0048】
地震時には球面式支承13bの上下の凹状球面18、18間に水平方向の相対変位が生じ、付加質量12が制振装置10に設定された固有周期で水平方向に変位して、建物11の揺れを抑制する。また、減衰部材14が作動して地震エネルギーを吸収する。
【0049】
図4は、複数の支承部材13として、鉛直方向に直列に配置された積層ゴム支承13aと球面式支承13bとを用いた実施形態である。積層ゴム支承13a及び球面式支承13bは、それぞれ
図2及び
図3の実施形態で示したものと同様であり、これら支承13a、13bはフランジを介して互いに固定されている。
【0050】
減衰部材14は、
図2及び
図3に示した実施形態と同様にオイルダンパーからなり、付加質量12とフレーム15との間にブラケット17を介して取り付けられている。
【0051】
この実施形態の場合、地震時には、積層ゴム支承13aが作動した後、球面式支承13作動する。すなわち、積層ゴム支承13aと球面式支承13bとで構成された支承部材13は
図8に実線で示した履歴ループを描くように作動し、付加質量12が制振装置10に設定された固有周期で水平方向に変位して、建物11の揺れを抑制する。また、減衰部材14が作動して地震エネルギーを吸収する。
【0052】
球面式支承13bとしては、
図3及び
図4に示した例に限らず、凹状球面18、18間にすべり材を挟み込んだものを用いることもできる。また、球体又はすべり材を挟み込む上下1対の面のうち、一方のみが凹状球面となっているものを用いることもできる。
【符号の説明】
【0053】
10:付加質量型制振装置
11:建物
12:付加質量
13:支承部材
13a:積層ゴム支承
13b:球面式支承
14:減衰部材
15:フレーム
16:中間フレーム
17:ブラケット
18:凹状球面
19:球体