(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022107343
(43)【公開日】2022-07-21
(54)【発明の名称】クロム回収方法
(51)【国際特許分類】
C22B 34/32 20060101AFI20220713BHJP
C22B 7/04 20060101ALI20220713BHJP
B03C 1/00 20060101ALI20220713BHJP
B03C 1/32 20060101ALI20220713BHJP
B03C 1/035 20060101ALI20220713BHJP
B02C 19/18 20060101ALI20220713BHJP
【FI】
C22B34/32
C22B7/04 Z
B03C1/00 B
B03C1/32
B03C1/035
B02C19/18 B
【審査請求】有
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021002227
(22)【出願日】2021-01-08
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2021-11-05
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 令和2年9月18日 オンライン開催された 一般社団法人日本鉄鋼協会 第180回秋季講演大会で発表
(71)【出願人】
【識別番号】500372717
【氏名又は名称】学校法人福岡工業大学
(74)【代理人】
【識別番号】100114627
【弁理士】
【氏名又は名称】有吉 修一朗
(74)【代理人】
【識別番号】100182501
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 靖之
(74)【代理人】
【識別番号】100175271
【弁理士】
【氏名又は名称】筒井 宣圭
(74)【代理人】
【識別番号】100190975
【弁理士】
【氏名又は名称】遠藤 聡子
(72)【発明者】
【氏名】久保 裕也
【テーマコード(参考)】
4D067
4K001
【Fターム(参考)】
4D067CD05
4D067CG01
4D067GA05
4K001AA08
4K001BA12
4K001CA01
4K001CA04
(57)【要約】
【課題】ステンレス鋼の製鋼工程で発生したスラグから、効率的にクロムを回収することができるクロム回収方法を提供することを目的とする。
【解決手段】酸化クロム成分が1.0重量%以上で酸化鉄成分が2.0重量%以上であるステンレススラグを電圧印加用の液体に浸漬し、所定電圧のパルス電圧を印加することで電気パルス粉砕により粉砕する。粉砕により得られた単体粒子を磁力選別により磁着物と非磁着物に分類し、さらに磁着物のうちクロム濃縮相からな単体粒子を回収することで、ステンレススラグから効率的にクロムの回収を行うことができる。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化クロム成分が1.0重量%以上で酸化鉄成分が2.0重量%以上であるステンレススラグを電圧印加用の液体に浸漬して一対の電極間に設置する工程と、
前記電極間に所定電圧のパルス電圧を印加して前記ステンレススラグを粉砕する工程と、
前記ステンレススラグを粉砕して得られる粉砕物から、所定濃度以上のクロムを含有する粉砕物を選別する工程と、を備える
クロム回収方法。
【請求項2】
前記粉砕物を選別する工程は、
前記粉砕物を磁力選別して、磁着物と非磁着物に分別する工程と、
前記磁着物から所定濃度以上のクロムを含有する粉砕物を選別する工程と、を有する
請求項1に記載のクロム回収方法。
【請求項3】
前記電極間の距離が略10mm~40mmの範囲であり、
前記パルス電圧は、電圧が略100kV~200kV、印加回数が50回~1000回である
請求項1または請求項2に記載のクロム回収方法。
【請求項4】
前記粉砕物の平均粒径が1mm~5mmである
請求項1から請求項3の何れか一項に記載のクロム回収方法。
【請求項5】
前記電圧印加用の液体の導電率が略400mS/m以下であり、より好ましくは略200mS/s以下である
請求項1から請求項4の何れか一項に記載のクロム回収方法。
【請求項6】
所定の酸化物成分を含むステンレススラグを電圧印加用の液体に浸漬して一対の電極間に設置する工程と、
前記電極間に所定電圧のパルス電圧を印加して前記ステンレススラグを粉砕する工程と、
前記ステンレススラグを粉砕して得られる粉砕物から、所定濃度以上のクロムを含有する粉砕物を選別する工程と、を備える
クロム回収方法。
【請求項7】
所定の酸化物成分を含むステンレススラグを電圧印加用の液体に浸漬して一対の電極間に設置する工程と、
前記電極間に所定電圧のパルス電圧を印加して前記ステンレススラグを粉砕する工程と、
前記ステンレススラグを粉砕して得られる粉砕物を磁力選別して、磁着物と非磁着物に分別する工程と、
前記磁着物から所定濃度以上のクロムを含有する粉砕物を選別する工程と、を備える
クロム回収方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クロム回収方法に関する。詳しくは、ステンレス鋼の製鋼工程で発生したステンレススラグから、効率的にクロムを回収することができるクロム回収方法に係るものである。
【背景技術】
【0002】
鉄浴型転炉におけるクロム含有溶鉄の処理においては、有害成分であるクロムを含有したスラグ(以下、「クロム含有スラグ」という。)が大量に発生する。特にステンレス鋼の製造工程で発生するスラグ(以下、「ステンレススラグ」という。)は、ステンレス粒子(Fe-Cr合金)、及びクロム濃縮相が含まれた酸化物の混合物であるが、その用途が乏しく、現状は大量のステンレススラグが廃棄物として埋め立て処分されている。
【0003】
そこで、ステンレススラグに含まれるステンレス粒子とクロム濃縮相を単体粒子として単離することができれば、ステンレスの再利用を促進して歩留まりを向上することができるとともに、クロムの用途拡大につながることが期待される。
【0004】
従来、このようなクロム含有スラグからクロムを回収する方法として、クロム含有スラグを還元してクロムを回収することが行われている。例えば、特許文献1には、転炉等において発生したクロム含有スラグを、合金鉄やスクラップ等の冷鉄源とともに電気炉に混入して加熱し、溶融金属中の炭素やケイ素によりクロム含有スラグ中の酸化クロムを還元することで、クロムを回収する方法が開示されている。
【0005】
また、特許文献2には、粉砕したスラグの比重差を利用した分別方法が開示されている。具体的には、ステンレス鋼等を製造する過程で発生する酸化クロムを1.0質量%以上、かつMgOを酸化クロム濃度の0.2倍以上を含有するクロム含有スラグを、衝撃式粉砕機を用いて粉砕して単体粒子化する。このとき、粉砕物のうち、比重の重い部分は酸化クロムが極めて高い濃度で凝縮され、比重の軽い部分は酸化クロム濃度が0.1重量%以下となっているため、高比重側スラグを回収することで、酸化クロムを効率的に回収することが可能となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特表2003-502504号公報
【特許文献2】特開2007-284727号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、前記特許文献1に記載された方法では、還元剤となる炭素やケイ素の量と還元されるスラグ量のバランスが重要となる。例えば還元剤量が過剰な場合には、後工程である脱炭工程で酸素効率が低下したり、或いは歩留まりが低くなったりするという問題が生じる。一方、還元されるスラグ量が過剰の場合には、十分に酸化クロムの還元や回収ができず、さらにはスラグの流動性が悪化して炉から排滓できないという問題が生じ、何れの場合も安定した操業ができない虞がある。
【0008】
また、前記特許文献2に記載された方法では、比重差を用いた選別を行うために、被粉砕物を200μm未満のオーダーの粒径となるまで被粉砕物を粉砕のうえ単体粒子化している。この点、一般的な衝撃式粉砕機を用いて単体粒子の粒径が200μm未満のオーダーとなるまで粉砕をするには、粉砕機に過度な負担がかかるとともに、粉砕のために非常に大きなエネルギーが必要となる。従って、繰り返し使用による装置のメンテナンスコスト、或いは装置の駆動コストが高くなるため、回収効率が悪化することが懸念される。
【0009】
本発明は、以上の点に鑑みて創案されたものであり、ステンレス鋼の製鋼工程で発生したスラグから、効率的にクロムを回収することができるクロム回収方法に係るものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記の目的を達成するために、本発明のクロム回収方法は、酸化クロム成分が1.0重量%以上で酸化鉄成分が2.0重量%以上であるステンレススラグを電圧印加用の液体に浸漬して一対の電極間に設置する工程と、前記電極間に所定電圧のパルス電圧を印加して前記ステンレススラグを粉砕する工程と、前記ステンレススラグを粉砕して得られる粉砕物から、所定濃度以上のクロムを含有する粉砕物を選別する工程とを備える。
【0011】
ここで、所定の物性からなるステンレススラグを電圧印加用の液体に浸漬して一対の電極間に設置する工程を備えることにより、後記する通り電極間に所定電圧のパルス電圧を印加することで液体中、及び被粉砕物(ステンレススラグ)内に放電を起こすことができる。このとき、液体中で起こる放電により液体が気化膨張し衝撃波が生成され、被粉砕物内には被粉砕物を構成する異なる相の境界面に優先的に電流が流れる。これら液体中の衝撃波と被粉砕物内を流れる電流により、被粉砕物を粉砕して単体粒子に単離することができる。
【0012】
また、被粉砕物であるステンレススラグの物性として、酸化クロム成分が1.0重量%以上で酸化鉄成分が2.0重量%以上を含有することにより、効率的にクロム回収を行うことができる。一般的にステンレスは、クロムを10%以上含み、鉄とクロムが原子レベルで混合した鉄合金であるが、ステンレススラグが所定以上の鉄成分を含有することで、ステンレススラグを粉砕して単体粒子化した場合に、クロム濃縮相を含む磁着物と、それ以外の非磁着物とに容易に分別することができる。
【0013】
また、電極間に所定電圧のパルス電圧を印加してステンレススラグを粉砕する工程を備えることにより、前記の通りパルス電圧を印加することで液体中、及び被粉砕物内に放電を起こすことができる。これら液体中の放電により生成される衝撃波と被粉砕物内を流れる電流により、被粉砕物を粉砕して単体粒子に単離することができる。
【0014】
また、ステンレススラグを粉砕して得られる粉砕物から、所定濃度以上のクロムを含有する粉砕物を選別する工程を備えることにより、粉砕により単体粒子化したスラグのうち、クロム濃縮相とそれ以外の単体粒子を分別することで、ステンレススラグに含まれるクロムを効率的に回収することができる。
【0015】
また、粉砕物を選別する工程は、粉砕物を磁力選別して、磁着物と非磁着物に分別する工程と、磁着物から所定濃度以上のクロムを含有する粉砕物を選別する工程とを有する場合には、前記した通り、クロムは鉄と結合して存在するため、粉砕物のうち磁着物である単体粒子を選択的に回収することができる。また、このとき単体粒子の粒度が比較的大きい場合でも、磁着物と非磁着物に容易に分別することができるため、ステンレススラグに含まれるクロムを効率的に回収することができる。
【0016】
また、電極間の距離が略10mm~40mmの範囲におけるパルス電圧は、電圧が略100kV~200kVであり、かつ印加回数が50回~1000回である場合には、粒径が比較的大きな状態で被粉砕物を単体粒子化することができる。
【0017】
なお、電極間の距離は被粉砕物の大きさに応じて適宜変更されるべきものであるが、一般的に電極間の距離が短くなるほど低い電圧でも放電するため、強度の高いステンレススラグを小さなエネルギーで粉砕することが可能である。
【0018】
但し、発明者が検討した結果では、例えば重量が50g程度のステンレススラグを想定したときに、電極間の距離が10mmの場合に印加する電圧が100kV未満となると、放電が起こらずステンレススラグを粉砕して単体粒子化することができない虞がある。従って、電極間の距離が略10mm~40mmの範囲においては、少なくとも100kV~200kV程度の電圧からなるパルス電圧を印加する必要がある。
【0019】
なお、印加するパルス電圧の電圧が100kV~200kVにおいて、印加回数が50回未満の場合には、粉砕が不十分となり被粉砕物の粒度分布にばらつきが生じて単体粒子化することができないため、クロム回収率が悪化する可能性がある。
【0020】
一方、印加するパルス電圧が100kV~200kVの場合において、印加回数が1000回を超える場合には、粉砕物の粒度分布のばらつきは抑制されるが、粒径が小さくなり過ぎて粉砕物が凝集してしまい分離効率が悪化する。また、磁力選別を行う場合には、磁着物と非磁着物の選別に時間を要して選別作業が非効率なものとなる。
【0021】
また、粉砕物の平均粒径が1mm~5mmである場合には、ステンレススラグを構成する単体粒子を比較的大きな粒径単位でもって単離することができる。これにより、粉砕物からクロム濃縮相を含む単体粒子を短時間で選別することができるため、ステンレススラグに含まれるクロムを効率的に回収することができる。
【0022】
また、電圧印加用の液体の導電率が略400mS/m以下であり、より好ましくは200mS/m以下である場合には、被粉砕物への通電量を確保して、被粉砕物の接合界面に流れる電流が所定に大きくなるため、被粉砕物の粉砕を促進することができる。
【0023】
なお、電圧印加用の液体の導電率が略400mS/mを超えると、被粉砕物への通電量が減少し、被粉砕物の接合界面に流れる電流が小さくなり、被粉砕物の粉砕が促進されない虞があるため、液体の導電率は略400mS/m以下、より好ましくは200mS/m以下であるとよい。
【発明の効果】
【0024】
本発明に係るクロム回収方法は、ステンレス鋼の製鋼工程で発生したスラグから、効率的にクロムを回収することができるものとなっている。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】本発明の実施形態に係るクロム回収方法で使用する電気パルス粉砕装置の模式図である。
【
図2】本発明の実施形態に係るクロム回収方法の工程図である。
【
図3】電気パルス粉砕装置を用いて粉砕した単体粒子の外観写真である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の実施形態に係るクロム回収方法について、図面を参照しながら説明し、本発明の理解に供する。
【0027】
まず、
図1を参照して、本発明の実施形態に係るクロム回収方法で使用する電気パルス粉砕装置1の概要について説明する。本発明の実施形態において使用する電気パルス粉砕装置1は、主に処理槽10、電圧パルス印加装置20、電極30から構成されている。
【0028】
処理槽10は、内部に絶縁性流体である液体が充填され、液体内は被粉砕物(本発明の実施形態ではクロムを含有するステンレススラグ)が浸漬される。液体は、例えば所定の導電率である水道水やイオン交換水などが用いられる。
【0029】
ここで、液体として、導電率の高い電解液などを用いると、被粉砕物への通電量が減少することから、被粉砕物の接合界面に流れる電流が小さくなり、被粉砕物の分解効果が得られにくくなる。そこで、本発明の実施形態においては、400mS/m以下、より好ましくは200mS/m以下の導電率である液体を使用した。
【0030】
なお、必ずしも、液体の導電率は前記した範囲内に設定する必要はなく、被粉砕物の大きさや物性等に応じて適宜変更することができるものとする。
【0031】
電圧パルス印加装置20は、処理槽10に設置された一対の電極30(負極30a、正極30b)間に配線40を介して高電圧パルスを印加する装置であり、電源からの電圧を調整して高電圧まで昇圧する高電圧発生部(図示しない)と、高電圧発生部によって得られた高電圧をパルス状に出力するパルス発生部(図示しない)を有している。電極30に高電圧パルスが印加されると、液体中、及び被粉砕物内に放電を発生することが可能となっている。
【0032】
本発明の実施形態においては、電圧パルス印加装置20により印加される電圧の範囲は略130kV~180kVであって、被粉砕物に流れる電流は非常に大きな電流となるが、一度の印加電圧による放電時間が0.1μs~5μsと瞬間的である。そのため、一般的な衝撃式粉砕機に比べると消費電力は少なくてよく、装置全体の駆動コストを大幅に低減することができる。
【0033】
電極30は、一対の負極30aと正極30bから構成され、電圧パルス印加装置20と電気的に接続されている。負極30aと、正極30bとは、液体を介在して互いに上下方向に所定の極間距離(本発明の実施形態では10mm~40mm)を確保するようにして対向配置されている。
【0034】
ここで、必ずしも、電極30の極間距離は10mm~40mmの範囲内で設定する必要はない。一般的に電極30の極間距離が長く、かつ印加電圧が低いほど、電極30間に形成される電場が弱くなり放電が起こりにくくなる。一方で、極間距離が短いほど低い電圧で放電することが可能となる。そのため、被粉砕物の大きさに応じて極間距離、及びそれに対応する印加電圧を適宜変更することができる。
【0035】
以上の構成において、電圧パルス印加装置20を作動させると、負極30aと正極30b間に高電圧パルスが印加されて液体中、及び被粉砕物内に放電を発生することが可能となっている。
【0036】
図2は本発明の実施形態に係るクロム回収方法の工程図を示す。クロム回収方法は、ステンレススラグ(主な構成物として、ステンレス、クロム濃縮相、低クロムスラグ相 等)を電気パルス粉砕装置1で粉砕して単体粒子化し(工程1)、工程1により得られた粉砕物を磁力選別(工程2)することで磁着物と非磁着物に分類し、さらに磁着物は製鉄原料としてのステンレス、クロム含有量の多いクロム濃縮相、及び低クロムスラグ製品に分類される。
【0037】
ここで、必ずしも、工程1により得られた粉砕物の選別方法として磁力選別を採用する必要はない。発明者が検討した範囲では、工程1の電気パルス粉砕装置1により粉砕された粉砕物のうち、クロム濃縮相を含む単体粒子は他の単体粒子に比べて比重が大きいことが確認できた。そのため、比重差による選別方法を採用することで、クロム濃縮相を含む単体粒子を選別することも可能である。
【0038】
次に、前記した電気パルス粉砕装置1を用いたクロム回収方法の実施例について説明する。
【0039】
<ステンレススラグ>
実施例で用いた被粉砕物は、酸化クロム成分が1.64重量%、酸化鉄成分が3.81重量%の組成からなる重量が50gのステンレススラグである。
【0040】
<電気パルス粉砕装置>
電気パルス粉砕装置1の構成は前記の通りであるが、本実施例においては、極間距離を40mm、印加電圧を180kV、電圧パルス照射回数を250回の条件にそれぞれ設定した。
【0041】
<処理槽>
処理槽10内には液体として略3.0Lの水道水で満たし、液体の導電率は167.3mS/m以下である。
【0042】
以上の条件下で、まず被粉砕物であるステンレススラグを、液体で満たされた処理槽10内に浸漬させて負極30aと正極30b間に設置した。続いて、電圧パルス印加装置20を作動させて電圧を印加し、負極30aと正極30b間に放電プラズマを発生させてステンレススラグを粉砕した。
【0043】
粉砕により得られた単体粒子が処理槽10内に浮遊した状態の懸濁液を、そのまま所定の大きさの目開きの篩によって分級し、1mm以上の粒群を目視で色彩選別した。
【0044】
図3は、実施例に供したステンレススラグを粉砕して得られた粉砕物(単体粒子)の外観である。単体粒子は平均粒径が1mm~5mmの粒径であり、黒、白、灰色、緑、黄色など、様々な色の単体粒子が数多く生成されていることが確認できた。
【0045】
これら単体粒子は、さらに磁力選別装置により磁着物と非磁着物に分類した。なお、本実施例で使用した磁力選別装置としては棒磁石を使用したが、ドラム型磁選機、吊下式鉄片分離機、非鉄金属選別機、対極型磁選機、マグネットプーリ等から適宜選択することができるものとする。
【0046】
磁力選別装置により磁着物と非磁着物に選別するとともに、液化処理をしたうえで各単体粒子の組成と飽和磁化を分析した結果を表1に示す(ステンレス以外はその外観色を表示する)。なお、単体粒子の組成の分析はICP発光分光分析法により行った。
【0047】
【0048】
表1より、クロムを10%以上含む鉄合金であるステンレス単体粒子(A)を除くと、磁着物の黒色単体粒子(B)はクロム濃度が5.7mass%と高く、他の単体粒子(C)~(H)のクロム濃度(0.2mass%~1.4mass%)と明らかな濃度差を確認することができる。
【0049】
なお、発明者が検討した結果では、黒色単体粒子(B)は、ステンレス単体粒子(A)を除く他の単体粒子(C)~(H)に比べて比重が大きいことが確認できた。そのため、前記した磁力選別装置に代えて比重選別装置を利用することで黒色単体粒子(B)のみを選別することも可能である。
【0050】
以上のように選別された単体粒子について、ステンレス単体粒子(A)については製鉄材料として再利用される。一方、黒色単体粒子(B)は回収されてクロム原料、或いは廃棄物として処理される。また、その他の単体粒子(C)~(H)については必要に応じて再利用、或いは廃棄物として処理される。
【0051】
以上、本発明に係るクロム回収方法は、ステンレス鋼の製鋼工程で発生したステンレススラグから、効率的にクロムを回収することができるものとなっている。
【符号の説明】
【0052】
1 電気パルス粉砕装置
10 処理槽
20 電圧パルス印加装置
30 電極
30a 負極
30b 正極
40 配線
【手続補正書】
【提出日】2021-05-20
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化クロム成分が1.0重量%以上で酸化鉄成分が2.0重量%以上であるステンレススラグを電圧印加用の液体に浸漬して一対の電極間に設置する工程と、
前記電極間に所定電圧のパルス電圧を印加して前記ステンレススラグを平均粒径が1mm~5mmの粉砕物に粉砕する工程と、
前記粉砕物を磁力選別して、磁着物と非磁着物に分別する工程と、
前記磁着物から所定濃度以上のクロムを含有する粉砕物を選別する工程と、を備える
クロム回収方法。
【請求項2】
前記電極間の距離が10mm~40mmの範囲であり、
前記パルス電圧は、電圧が100kV~200kV、印加回数が50回~1000回
である
請求項1に記載のクロム回収方法。
【請求項3】
前記電圧印加用の液体の導電率が200mS/s以下である
請求項1または請求項2に記載のクロム回収方法。
【手続補正書】
【提出日】2021-08-23
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化クロム成分が1.0重量%以上で酸化鉄成分が2.0重量%以上であるステンレススラグを電圧印加用の液体に浸漬して一対の電極間に設置する工程と、
前記電極間に所定電圧のパルス電圧を印加して前記ステンレススラグ内に放電を発生させ、該ステンレススラグを構成する異なる相の境界面に沿って電流が流れることにより、前記ステンレススラグを平均粒径が1mm~5mmの単体粒子に粉砕する工程と、
前記単体粒子を磁力選別して、磁着物と非磁着物に分別する工程と、
前記磁着物から所定濃度以上のクロムを含有する単体粒子を選別する工程と、を備える
クロム回収方法。
【請求項2】
前記電極間の距離が10mm~40mmの範囲であり、
前記パルス電圧は、電圧が100kV~200kV、印加回数が50回~1000回である
請求項1に記載のクロム回収方法。
【請求項3】
前記電圧印加用の液体の導電率が200mS/s以下である
請求項1または請求項2に記載のクロム回収方法。