(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022107346
(43)【公開日】2022-07-21
(54)【発明の名称】電池システム、電池管理方法
(51)【国際特許分類】
H02J 7/00 20060101AFI20220713BHJP
H01M 10/44 20060101ALI20220713BHJP
H01M 10/48 20060101ALI20220713BHJP
B60L 3/00 20190101ALI20220713BHJP
B60L 53/80 20190101ALI20220713BHJP
B60L 58/21 20190101ALI20220713BHJP
【FI】
H02J7/00 P
H01M10/44 P
H01M10/48 P
H02J7/00 Y
H02J7/00 A
B60L3/00 S
B60L53/80
B60L58/21
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021002230
(22)【出願日】2021-01-08
(71)【出願人】
【識別番号】515090628
【氏名又は名称】株式会社スリーダム
(74)【代理人】
【識別番号】110000165
【氏名又は名称】グローバル・アイピー東京特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】根津 晃
【テーマコード(参考)】
5G503
5H030
5H125
【Fターム(参考)】
5G503BA03
5G503BB01
5G503CA03
5G503DA07
5G503DA13
5G503EA05
5G503EA08
5G503FA06
5G503FA07
5G503GB06
5G503GD02
5G503GD04
5G503GD06
5H030AA03
5H030AA04
5H030AS06
5H030AS08
5H030BB01
5H030BB21
5H030FF42
5H030FF43
5H030FF44
5H125AA01
5H125AC13
5H125AC22
5H125BC06
5H125BC08
5H125BC09
5H125BC26
5H125BC28
5H125EE22
5H125EE23
5H125EE27
5H125EE29
(57)【要約】
【課題】電池モジュールの組み合わせを正しく判定することで、当該組合せ異常に伴う過放電や過充電の発生を抑制することが求められる。
【解決手段】開示される電池システムでは、再充電可能であって、個別に交換可能な複数の電池モジュールと、プロセッサを有し、複数の電池モジュールの各々と通信可能な電池管理装置と、複数の電池モジュールの各々に対して設けられ、対応する電池モジュールの使用に応じて変動する状態情報を記憶する複数の記憶装置と、を備える。電池管理装置は、複数の電池モジュールの各々の記憶装置に記憶された状態情報に基づいて、複数の電池モジュールの組合せが正常であるか否か判定する。
【選択図】
図13
【特許請求の範囲】
【請求項1】
再充電可能であって、個別に交換可能な複数の電池モジュールと、
プロセッサを有し、前記複数の電池モジュールの各々と通信可能な電池管理装置と、
前記複数の電池モジュールの各々に対して設けられ、対応する電池モジュールの使用に応じて変動する状態情報を記憶する複数の記憶装置と、
を備え、
前記電池管理装置は、前記複数の電池モジュールの各々の記憶装置に記憶された状態情報に基づいて、前記複数の電池モジュールの組合せが正常であるか否か判定する、
電池システム。
【請求項2】
前記電池管理装置は、前記複数の電池モジュールの組合せが正常でないと判定した場合、前記複数の電池モジュールに対する充電及び放電の少なくとも一方を制限する、
請求項1に記載された電池システム。
【請求項3】
前記電池管理装置は、前記複数の電池モジュールの各々の記憶装置に記憶された状態情報に基づいて、前記複数の電池モジュールのうち少なくともいずれかの交換が必要であるか否か判定する、
請求項1又は2に記載された電池システム。
【請求項4】
前記電池管理装置は、前記複数の電池モジュールのうち少なくともいずれかの交換が必要である場合、前記複数の電池モジュールに対する充電及び放電を禁止する、
請求項3に記載された電池システム。
【請求項5】
前記電池管理装置は、前記複数の電池モジュールの各状態情報を基準とした所定の範囲について、前記複数の電池モジュールの間で重複する部分が存在するか否かに基づいて、前記複数の電池モジュールの組合せが正常であるか否か判定する、
請求項1から4のいずれか一項に記載された電池システム。
【請求項6】
前記状態情報は、電池モジュールの健全度(SOH)、充放電サイクルカウント、及び、使用期間のうち、少なくとも1つを含む、
請求項1から5のいずれか一項に記載された電池システム。
【請求項7】
再充電可能であって個別に交換可能な複数の電池モジュールに対する電池管理方法であって、
前記複数の電池モジュールの各々に対して、対応する電池モジュールの使用に応じて変動する状態情報を複数の記憶装置の各々に記憶し、又は、各記憶装置に保存されている前記状態情報を更新し、
前記電池管理装置が、前記複数の電池モジュールの各々の記憶装置に記憶された状態情報に基づいて、前記複数の電池モジュールの組合せが正常であるか否か判定するステップをさらに含む、
電池管理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電池システムおよび電池管理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電気モータによって走行する電気自動車や、内燃機関と電動モータを動力源として備えたハイブリッド自動車の普及が進んでいる。電気自動車やハイブリッド自動車等、電動機を走行駆動のために使用する車両には二次電池(以下、単に「電池」という。)が搭載されている。
【0003】
そして、中古の電池セルまたは電池モジュールを含む再生組電池(二次電池)を車両に搭載し、その再生組電池(二次電池)の異常判定を行う技術が知られている(例えば、特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の技術によれば、中古の電池モジュールと新品の電池モジュールが組合された場合に、各電池モジュールの電圧に基づく電池の異常判定を誤検出することを防止できる。
【0006】
しかし、電池モジュールの交換により、状態の異なる電池モジュールが組み合された状態で充放電が行われてしまうと、一部の電池モジュールにおいて過放電や過充電が発生するおそれがある。
【0007】
従って、電池モジュールの組み合わせを正しく判定することで、当該組合せ異常に伴う過放電や過充電の発生を抑制することが求められる。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様は、再充電可能であって、個別に交換可能な複数の電池モジュールと、プロセッサを有し、前記複数の電池モジュールの各々と通信可能な電池管理装置と、前記複数の電池モジュールの各々に対して設けられ、対応する電池モジュールの使用に応じて変動する状態情報を記憶する複数の記憶装置と、を備え、前記電池管理装置は、前記複数の電池モジュールの各々の記憶装置に記憶された状態情報に基づいて、前記複数の電池モジュールの組合せが正常であるか否か判定する、電池システムである。
【0009】
本発明の別の態様は、再充電可能であって個別に交換可能な複数の電池モジュールに対する電池管理方法であって、前記複数の電池モジュールの各々に対して、対応する電池モジュールの使用に応じて変動する状態情報を複数の記憶装置の各々に記憶し、又は、各記憶装置に保存されている前記状態情報を更新し、前記電池管理装置が、前記複数の電池モジュールの各々の記憶装置に記憶された状態情報に基づいて、前記複数の電池モジュールの組合せが正常であるか否か判定するステップをさらに含む、電池管理方法である。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】第1の実施形態の電池システムにおいて、電池パックが車両に接続されているときの概略構成を示す図である。
【
図2】第1の実施形態の電池システムにおいて、電池パックが充電ステーションに接続されているときの概略構成を示す図である。
【
図3】第1の実施形態の電池システムにおいて、電池パックが電気自動車に接続されているときの機能ブロック図である。
【
図4】第1の実施形態の電池システムにおいて、電池パックが充電ステーションに接続されているときの機能ブロック図である。
【
図5】第1の実施形態の電池システムにおいて、セル管理ユニットに含まれる記憶装置の構成例を示す図である。
【
図6】第1の実施形態の電池システムのマスタBMU処理を示すシーケンスチャートである。
【
図7】第1の実施形態の電池システムのマスタCMU処理を示すシーケンスチャートである。
【
図8】第1の実施形態の電池システムにおいて、電池モジュールの状態情報の引継例を示すシーケンスチャートである。
【
図9】第1の実施形態の電池システムにおいて、電池モジュールの状態情報の引継例を示すシーケンスチャートである。
【
図10】第1の実施形態の電池管理装置においてSOC決定処理を示すフローチャートである。
【
図11】第2の実施形態の電池システムにおいて、電池モジュールにおいて実行されるフローチャートを示す図である。
【
図12】第2の実施形態の電池システムの電池管理ユニットにおいて実行されるフローチャートである。
【
図13】
図12の組合せ判定処理に対応するフローチャートである。
【
図14】
図12の充放電処理に対応するフローチャートである。
【
図15】
図12のSOH推定処理に対応するフローチャートである。
【
図16】電池モジュールの状態情報に基づく組合せ判定方法の例を説明する図である。
【
図17】電池モジュールの状態情報に基づく組合せ判定方法の例を説明する図である。
【
図18】電池モジュールの状態情報に基づく組合せ判定方法の例を説明する図である。
【
図19】電池モジュールの状態情報に基づく組合せ判定方法の例を説明する図である。
【
図20】電池モジュールの状態情報に基づく組合せ判定方法の例を説明する図である。
【
図21】電池モジュールの状態情報に基づく組合せ判定方法の例を説明する図である。
【
図22】電池モジュールの状態情報に基づく組合せ判定方法の例を説明する図である。
【
図23】電池モジュールの状態情報に基づく組合せ判定方法の変形例を説明する図である。
【
図24】電池モジュールの状態情報に基づく組合せ判定方法の変形例を説明する図である。
【
図25】電池モジュールの状態情報に基づく組合せ判定方法の変形例を説明する図である。
【
図26】電池モジュールの状態情報に基づく組合せ判定方法の変形例を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
<第1の実施形態>
以下、本発明の一実施形態に係る電池システム1について説明する。本実施形態の電池システム1は、例えば車両に搭載されている電池パックを管理するためのシステムである。
本実施形態の電池システム1では、電池パックが搭載された車両を動作させる場合、車両から電池パックを取り外して電池パックを充電ステーションで充電する場合、あるいは、車両から取り外した電池パックを別の車両に取り付けて動作させる場合等の様々な使用形態を考慮して、電池パックに含まれる複数の電池モジュールの各々の状態情報を引き継ぐように構成される。例えば、電池モジュールの状態情報が、車両内の電池管理ユニットから電池モジュールに、あるいは電池モジュールから充電ステーションに引き継がれるように構成される。
本実施形態の充電ステーションは、車両の充電口から電池パックの充電を行う充電スタンドとは異なり、車両から取り外された電池パック単独で充電を行うための設備である。
【0012】
(1-1)電池システムの全体構成
先ず、
図1および
図2を参照して、本実施形態の電池システム1の全体構成について説明する。
図1は、本実施形態の電池システム1において、電池パック2が車両に接続されているときの概略構成を示す図である。
図2は、本実施形態の電池システム1において、電池パック2が充電ステーションに接続されているときの概略構成を示す図である。
【0013】
図1を参照すると、電池パック2が車両に搭載された状態では、車両のコネクタCvと、電池パック2のコネクタCbとが接続されている。
図1では、コネクタCv,Cbが概略的に示されている。電池パック2は、例えば、複数の電池モジュール20-1~20-4が直列に接続されて構成されている。
なお、電池パック2に含まれる電池モジュールの数は
図1に示した例に限られず、所望の数に設定可能である。また、説明の便宜のために、車両に単一の電池パック2が搭載される例について説明するが、車両に搭載される電池パック2の数は、所望の数に設定可能である。
以下の説明では、複数の電池モジュール20-1~20-4の各々について共通する事項について言及するときには、適宜、総称して「電池モジュール20」と表記する。
【0014】
各電池モジュール20は、積層して構成された複数の電池セル(電池セル群)と、各電池セルの両端に接続されるセル管理ユニット(CMU:Cell Management Unit)とを含む。すなわち、
図1に示すように、複数の電池モジュール20-1~20-4は、それぞれ、複数の電池セル群21-1~21-4と、複数のセル管理ユニット(CMU)22-1~22-4とを含む。
図1に示すように、複数の電池モジュール20-1~20-4の電池セル群21は、直列に接続されている。各電池セル群は、並列に接続された電池セルの組合せが複数、直列に接続された形態でもよい(例えば、8s4p型の電池モジュール等)。
【0015】
以下の説明では、複数の電池セル群21-1~21-4の各々について共通する事項について言及するときには適宜、総称して「電池セル群21」と表記し、複数のセル管理ユニット22-1~22-4の各々について共通する事項について言及するときには適宜、総称して「セル管理ユニット22」と表記する。
以下の説明において、直列に接続された電池セル群21-1~21-4の両端電圧は、対応する電池モジュールの電圧と等価であり、直列に接続された複数の電池モジュールの両端電圧は、対応する電池パックの電圧と等価である。
【0016】
セル管理ユニット22は、対応する電池モジュール20を制御するための電子回路を含む。電池パック2が車両に搭載された状態では、セル管理ユニット22が車両の電池管理ユニット(BMU:Battery Management Unit)3と接続される。セル管理ユニット22と電池管理ユニット3の間のデータ通信には、電池系のCAN(Controller Area Network)バス101が使用される。
【0017】
電池パック2が車両に搭載された状態では、電池セル群21-1~21-4が直列に接続される閉回路が形成される。当該閉回路上には、車両側の負荷L1と、閉回路を流れる電流を検出するために車両に設けられた電流センサ4(第1電流センサの例)と、が接続される。
負荷L1は、例えばインバータ等の電力変換装置である。インバータは、電池パック2の直流電圧を交流電圧に変換して車両の走行駆動に用いられる交流電動機(例えば三相交流電動機)に供給する。
なお、セル管理ユニット22が車両の電池管理ユニット3と接続されているときの電池パック2に対する充電態様としては、車両の減速時の交流電動機の回生電力による電池パック2への充電と、車両に設けられた充電口から家庭用電源あるいは、例えばCHAdeMO等の規格に対応した充電スタンド(例えば急速充電器)から車両内の充電器を介した電池パック2への充電とがありうる。
【0018】
電池管理ユニット3は、電流センサ4によって検出された電流値を取得し、電池モジュール20から電池モジュール20の電圧値を取得し、電池モジュール20の充放電を制御するための制御装置である。電池管理ユニット3は、電流センサ4と、車両内の上位の制御装置である車両制御ユニット(VCU:Vehicle Control Unit)5に接続される。電池管理ユニット3と車両制御ユニット5の間のデータ通信には、車両系のCANバス102が使用される。
電池管理ユニット3は、例えば、電池パック2の充電率(SOC:State of Charge)やエラーコード等の状態情報を車両制御ユニット5に通知する。例えば、車両制御ユニット5は、電池管理ユニット3から電池パック2のSOCの情報を受信すると、当該SOCに対応するSOCインジケータを車両のインストルメントパネルに表示する。車両制御ユニット5は、電池管理ユニット3からエラーコードを受信すると、当該エラーコードに対応する警告インジケータを車両のインストルメントパネルに表示する。
【0019】
図2を参照すると、電池パック2が充電ステーションに接続された状態では、充電ステーションのコネクタCsと、電池パック2のコネクタCbとが接続されている。
図2では、コネクタCs,Cbが概略的に示されている。電池パック2が充電ステーションに搭載された状態では、セル管理ユニット22が充電ステーションの充電制御ユニット6と接続される。この状態では、セル管理ユニット22と充電制御ユニット(CCU:Charge Control Unit)6がCANバス103によって通信可能な状態となる。
【0020】
電池パック2が充電ステーションに接続された状態では、電池セル群21-1~21-4が直列に接続される閉回路が形成される。当該閉回路上には、閉回路を流れる電流を検出するために充電ステーションに設けられた電流センサ7(第2電流センサの例)と、が接続される。
充電制御ユニット6は、電流センサ7によって検出された電流値を取得し、電池モジュール20から電池モジュール20の電圧値を取得し、電池モジュール20の充電を制御する。
【0021】
CANバス101~103経由で行われるCAN通信では、セル管理ユニット22、電池管理ユニット3、充電制御ユニット6の少なくともいずれかが、送信ノード又は受信ノードとなりうる。送信ノードから送信されるデータフレームには、データと、送信ノードを特定するためのIDと、が含まれている。このIDは、通信調停のためにも使用される。すなわち、複数の送信ノードが同時にバスへフレームを送出する場合、送信ノードのIDの値によってバスを占有する優先順位が決定され、異なるIDの送信ノードからのフレームの衝突が回避される。
なお、送信ノードによるデータフレームの送信は、受信ノードによるリモートフレームの送信に応じて行われてもよいし、リモートフレームを使用せずに行われてもよい。
【0022】
(1-2)電池システムの各ユニットの構成
次に、本実施形態の電池システム1の各ユニットの構成について、
図3~
図5を参照して説明する。
図3は、本実施形態の電池システム1において、電池パック2が車両に接続されているときの機能ブロック図である。
図4は、本実施形態の電池システム1において、電池パック2が充電ステーションに接続されているときの機能ブロック図である。
図5は、本実施形態のセル管理ユニット22に含まれる記憶装置の構成例を示す図である。
なお、以下の説明では、電池モジュール20の状態情報を適宜、単に「状態情報」と略記する。
【0023】
(1-2-1)セル管理ユニット
図3を参照すると、セル管理ユニット22は、コントローラ221と、記憶装置222と、セル監視ユニット223と、CANトランシーバ224と、を含む。
コントローラ221は、マイクロコンピュータ、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)、A/D(Analogue to Digital)変換器等を含む。コントローラ221では、マイクコンピュータが所定のプログラムを実行することで電池モジュール20に要求される機能を実現する。
【0024】
コントローラ221によって実現される機能は、少なくとも以下の内容を含む。
(1-i)電流センサ4又は電流センサ7によって検出された電流値を含むデータフレームをCANバス101又は103から受信するように、CANトランシーバ224を制御すること
(1-ii)予め設定されたタイミングで、電池モジュール20の電圧値と、充電制御ユニット6から取得した電流値とに基づき、電池モジュール20の状態情報を算出すること
(1-iii)算出した電池モジュール20の状態情報を含むデータフレームをCANバス103に送出するように、CANトランシーバ224を制御すること
(1-iv)算出した状態情報、又は、CANトランシーバ224で受信した状態情報を、記憶装置222に書き込むこと
(1-v)必要に応じて、電池モジュール20の電圧値を含むデータフレームをCANバス101に送出するように、CANトランシーバ224を制御すること
【0025】
記憶装置222は、例えばフラッシュメモリ等の不揮発性記憶装置であり、電池モジュール20を識別する電池モジュールコードと、コントローラ221によって算出された状態情報、あるいは電池管理ユニット3から取得した状態情報とを格納する。電池モジュールコードは、電池モジュール20の製造時に記憶装置222に書き込まれる。
図5に例示するように、電池モジュール20の状態情報は、SOC(State of Charge;充電率)、SOH(State of health;健全度)、サイクルカウント、エラーコードの各パラメータを含む。例えば、記憶装置222では各パラメータに対して1セクタが割り当てられる。
【0026】
SOC,SOHを記憶装置222に書き込むタイミングは特に限定しないが、例えば所定時間毎に(例えば3秒毎に)記憶装置222に書き込まれる。なお、SOC,SOHを算出するタイミングの間隔は、SOC,SOHの書込みのタイミングの間隔よりも短くしてもよい。
ここで、記憶装置222の書き換え寿命を考慮し、好ましくは以下のように書込みが行われる。
例えば、
図5に示すように、SOCを格納すべき記憶装置222内の1セクタが2Kバイト(2048バイト)で構成され、2バイトの書込み領域毎に順にデータが書き込まれる。このとき、前回N-1番目の書込み領域に格納されているSOCに対して、今回算出したSOCが0.5%以上の変動があった場合に限り、N番目の書込み領域に、今回算出したSOCを上書きする。今回算出したSOCが0.5%以上の変動がない場合には、N番目の書込み領域に今回算出したSOCを上書きしない。
同様に、
図5に示すように、SOHを格納すべき記憶装置222内の1セクタが2Kバイト(2048バイト)で構成され、2バイトの書込み領域毎に順にデータが書き込まれる。このとき、前回N-1番目の書込み領域に格納されているSOHに対して、今回算出したSOHが0.1%以上の変動があった場合に限り、N番目の書込み領域に、今回算出したSOHを上書きする。今回算出したSOHが0.1%以上の変動がない場合には、N番目の書込み領域に今回算出したSOHを上書きしない。
算出されたSOCが50%以下に低下した場合、および、当該SOCが95%を超えた場合に、サイクルカウントがインクリメントされて記憶装置222の対応するセクタに書き込まれる。このとき、N-1番目の書込み領域に記録されているサイクルカウントに対してインクリメントした値がN番目の書込み領域に書き込まれる。
【0027】
最も書き換え頻度が高いSOCの場合、SOCの記録機能は以下のとおりである。上記記憶装置の構成例では、例えばSOCを各書込み領域に約1000回書き込んだ場合に(例えば3000秒後に)SOCに割り当てられたセクタの書込みが終了になるため、当該セクタのデータを消去して新たなデータの書込みが行われる。記憶装置222の書き換え可能回数を10万回とすると、10万回×3000秒=約10年の記録機能を有しており、実用上問題ない。上述したように、前回値と今回値の変動が大きい場合に限ってSOCの書き込みを行うことで、さらに長い期間の記録機能を有する。
【0028】
記憶装置222のエラーコードに対応するセクタには、予め定義されたエラー発生条件を満たす事象が発生した場合に、当該事象に対応するエラーコードが書き込まれる。エラー発生条件は、例えば、電池モジュール20に設けられる温度センサ(図示せず)によって検出される温度が所定の閾値よりも高いという条件、電池モジュール20の電圧値が異常値を示すという条件等である。
【0029】
好ましくは、記憶装置222には、電池モジュール20に固有の属性データを格納する。
属性データは、製造者コード、製造日、シリアルコード、電池タイプ、および、組合せコードの各データを含む。例えば4個の電池モジュール20によって電池パック2が構成されている場合に、各電池モジュール20に属性データが割り当てられる4個の電池モジュール20の各々の記憶装置222は、属性データのうちいずれか1つのデータを格納していればよい。
【0030】
好ましくは、属性データは、セル管理ユニット22と電池管理ユニット3の初期化時において電池管理ユニット3によって参照され、電池パック2の検証に用いられる。例えば、組合せコードとして、同一の電池パック2を構成する複数の電池モジュールに対して共通のコードが割り当てられる。その場合、電池管理ユニット3は、車両に搭載されている電池パック2内のすべての電池モジュールに割り当てられた組合せコードが同じでない場合には、所定のエラーコードを車両制御ユニット5に送信する。それによって、電池パック2内の電池モジュールの正しい組合せを維持する。その場合、電池パック2内の各電池モジュールの使用履歴が同一となるため、例えば、すべての電池モジュールのSOHを均等に維持することができる。
【0031】
セル監視ユニット223は、電池セル群21の各電池セルの端子間電圧を検出するとともに、電池セルバランシングを実行する。電池セルバランシングは、直列に接続された電池セル群21の電池セル間の電圧に差がある場合に、各電池セルの電圧が実質的に同一となるようにする(つまり、各電池セルの電圧を均等化する)処理である。電池セルバランシングを行うことによって、電池モジュール20の電池容量を最大限に活用できるようになる。セル監視ユニット223は、セルバランサの一例である。
電池セルバランシングの方法については、特に限定するものではなく、パッシブバランシングでもアクティブバランシングでもよい。
【0032】
CANトランシーバ224は、CANプロトコルに従って通信を行う通信インタフェースユニットである。
CANトランシーバ224は、CANバス101,103にコントローラ221からの信号(例えば、データフレームに対応する信号)を送信するとともに、電池管理ユニット3および充電制御ユニット6から送信された信号を、それぞれCANバス101,103から受信するように構成される。CANトランシーバ224からCANバス101,103に送出されるデータフレームには、送信ノードであるセル管理ユニット22を特定するIDが含まれる。
【0033】
(1-2-2)電池管理ユニット
再度
図3を参照すると、電池管理ユニット3は、コントローラ31と、記憶装置32と、CANトランシーバ33と、を含む。
コントローラ31は、マイクロコンピュータ、ROM、RAM、A/D変換器等を含む。コントローラ31では、マイクコンピュータが所定のプログラムを実行することで電池管理ユニット3に要求される機能を実現する。
【0034】
コントローラ31によって実現される機能は、少なくとも以下の内容を含む。
(2-i)電池モジュール20の電圧値を含むデータフレームをCANバス101から受信するように、CANトランシーバ33を制御すること
(2-ii)予め設定されたタイミングで、電池モジュール20の電圧値と、電流センサ4によって検出された電流値とに基づき、電池モジュール20の状態情報を算出すること
(2-iii)算出した電池モジュール20の状態情報を含むデータフレームをCANバス101,102に送出するように、CANトランシーバ33を制御すること
(2-iv)車両制御ユニット5に通知すべきSOCを決定すること(後述するSOC決定処理を参照)
【0035】
記憶装置32は、例えばフラッシュメモリ等の不揮発性記憶装置であり、例えば、セル管理ユニット22から取得した電池モジュールコードと、コントローラ31によって算出された電池モジュール20の状態情報、あるいは電池モジュール20から取得した状態情報とを格納する。記憶装置32の構成は
図5に示した構成と同様でよい。
【0036】
上記(2-iv)に関連してコントローラ31は、電池モジュール20および車両制御ユニット5の各々との間で初期化を実行するときに、電池モジュール20から取得したSOCと、記憶装置32に記録されている電池モジュール20のSOCとの比較結果に基づいて、車両制御ユニット5に通知すべきSOCを決定する。この決定方法については、後述する。
【0037】
コントローラ31は、電池モジュール20-1~20-4に対して算出されたSOC若しくは電圧に差がある場合には、各電池モジュール20のセル監視ユニット223によって電池モジュール20-1~20-4の間でSOC若しくは電圧が実質的に同一となるように、電池モジュール20-1~20-4を制御してもよい。例えば、コントローラ31は、電池モジュール20-1~20-4の電圧のうち最も低い電圧の値を各電池モジュール20に通知し、各電池モジュール20のセル監視ユニット223は通知された電圧の値になるように電池セル群21を放電させる処理を行う。
コントローラ31は、実質的に同一となったSOCのデータを各電池モジュール20に通知することが好ましい。
【0038】
CANトランシーバ33は、CANプロトコルに従って通信を行う通信インタフェースユニットである。
CANトランシーバ33は、CANバス101,102にコントローラ31からの信号(例えば、データフレームに対応する信号)を送信するとともに、セル管理ユニット22から送信された信号をCANバス101から受信するように構成される。CANトランシーバ33からCANバス101,102に送出されるデータフレームには、送信ノードである電池管理ユニット3を特定するIDが含まれる。
【0039】
(1-2-3)充電制御ユニット
図4を参照すると、充電制御ユニット6は、コントローラ61と、記憶装置62と、CANトランシーバ63と、を含む。
コントローラ61は、マイクロコンピュータ、ROM、RAM、A/D変換器等を含む。コントローラ31では、マイクコンピュータが所定のプログラムを実行することで充電制御ユニット6に要求される機能を実現する。
【0040】
コントローラ61によって実現される機能は、少なくとも以下の内容を含む。
(3-i)電池モジュール20の状態情報を含むデータフレームをCANバス103から受信するように、CANトランシーバ63を制御すること
(3-ii)電流センサ7によって検出された電流値を含むデータフレームをCANバス103に送出するように、CANトランシーバ63を制御すること
(3-iii)電池モジュール20の充電を制御すること
(3-iv)電池モジュール20から取得した状態情報の少なくとも一部(例えばSOC)を、充電ステーションの表示装置65に表示させるための画像データを生成すること
【0041】
記憶装置62は、例えばフラッシュメモリ等の不揮発性記憶装置であり、例えば、電池モジュール20から取得した電池モジュールコードと、電池モジュール20を充電中にセル管理ユニット22から取得した状態情報とを格納する。記憶装置62の構成は
図5に示した構成と同様でよい。
【0042】
CANトランシーバ63は、CANプロトコルに従って通信を行う通信インタフェースユニットである。
CANトランシーバ63は、CANバス103にコントローラ61からの信号(例えば、データフレームに対応する信号)を送信するとともに、セル管理ユニット22から送信された信号をCANバス103から受信するように構成される。CANトランシーバ63からCANバス103に送出されるデータフレームには、送信ノードである充電制御ユニット6を特定するIDが含まれる。
【0043】
(1-3)SOC,SOHの算出方法
上述したように、セル管理ユニット22は、電池モジュール20の電圧値と、充電制御ユニット6から取得した電流値とに基づき、電池モジュール20の状態情報を算出し、電池管理ユニット3は、電池モジュール20の電圧値と、電流センサ4によって検出された電流値とに基づき、電池モジュール20の状態情報を算出する。つまり、電池モジュール20の電圧値と電池モジュール20を流れる電流値に基づいて例えばSOC,SOHが算出される。
ここで、SOC,SOHの算出方法は限定されないが、好ましい算出方法について以下で述べる。なお、以下では、セル管理ユニット22がSOC,SOHを算出する場合について説明するが、電池管理ユニット3についても同様である。
【0044】
電池モジュール20の設計上の容量、つまり初期の満充電容量(「初期容量」という。)をFCC0とし、電池モジュール20のライフタイムにおける満充電容量をFCC(変数)とした場合、FCCは、電池モジュール20の使用および時間の経過によって低下していく。FCCの低下は、主として、サイクル寿命とカレンダー寿命の2つの劣化モードによって生ずる。サイクル寿命は電池の充放電を繰り返したときの劣化モードであり、カレンダー寿命は電池を放置したときの劣化モードである。
ここで、SOHの算出に当たって、セル管理ユニット22は、サイクル寿命とカレンダー寿命の各々の劣化係数を特定するためのルックアップテーブルを参照する。サイクル寿命のルックアップテーブルは、サイクルカウントと劣化係数(容量の劣化度合)の関係を示すデータである。サイクル寿命のルックアップテーブルは、所定の放電深度の条件下でのサイクルカウントとFCCの測定値から得られるデータである。
カレンダー寿命のルックアップテーブルは、電池モジュール20を所定のSOCに調整して所定の温度で放置したときの実験結果から得られるデータであり、時間と劣化係数(容量の劣化度合)の関係を示すデータである。
セル管理ユニット22は、これらの2つの劣化係数に基づいて、FCC(満充電容量)を逐次更新する。つまり、電池モジュール20のライフタイムの間、FCC(満充電容量)はFCC0(初期容量)から徐々に低下していくことになる。さらにセル管理ユニット22は、SOH=FCC/FCC0の式に従ってSOHを算出する。
なお、電池パック2が温度センサを備え、異なる温度に対する上記ルックアップテーブルを設けることで、算出されるSOHの精度をさらに高めることができる。
【0045】
さらに、セル管理ユニット22は、電池モジュール20の電圧値と電池モジュール20を流れる電流値に基づいて、充放電による現在消費容量(CCCとする。)を算出する。上記FCCとCCCによって電池モジュール20のSOCが算出される。すなわち、SOC=1-(CCC/FCC)の式に従って電池モジュール20のSOCが算出される。
【0046】
(1-4)電池システムの動作
次に、本実施形態の電池システム1の動作について、
図6および
図7を参照して説明する。
本実施形態の電池システム1では、電池パック2の使用状態に応じて、マスタBMU処理とマスタCMU処理のうちいずれかの処理が行われる。
マスタBMU処理とは、電池パック2が電池管理ユニット3に接続されているときの処理である。マスタBMU処理では、電池管理ユニット(BMU)3がマスタとなり、電池モジュール20のセル管理ユニット22がスレーブとなって協調動作し、各電池モジュール20の状態情報が算出、記録される。
図6は、本実施形態の電池システム1において、マスタBMU処理を示すシーケンスチャートである。
マスタCMU処理とは、電池パック2と充電ステーションの充電制御ユニット6が接続され、かつ電池パック2と電池管理ユニット3が接続されていない場合の処理である。マスタCMU処理では、電池モジュール20のセル管理ユニット(CMU)22がマスタとなり、充電ステーションの充電制御ユニット6がスレーブとなって協調動作し、各電池モジュール20の状態情報が算出、記録される。
図7は、本実施形態の電池システム1において、マスタCMU処理を示すシーケンスチャートである。
【0047】
例えば車両が走行中のときには、電池パック2が車載されて電池管理ユニット3に接続されているため、マスタBMU処理が行われる。また、充電スタンドから車両内の充電器(図示せず)を介して電池パック2を充電する場合も電池パック2と電池管理ユニット3が接続されているため、マスタBMU処理が行われる。マスタBMU処理は、例えば3秒毎に繰り返し行われる。
他方、電池パック2を車両から取り外して充電ステーションの充電制御ユニット6と接続し、電池パック2を充電する場合には、電池パック2と電池管理ユニット3が接続されていないため、マスタCMU処理が行われる。マスタCMU処理は、例えば3秒毎に繰り返し行われる。
なお、マスタBMU処理およびマスタCMU処理の実行タイミングの間隔は、SOC,SOHの書込みのタイミングの間隔(例えば3秒)よりも短くしてもよい。
【0048】
(1-4-1)マスタBMU処理(
図6)
上述したように、マスタBMU処理では、車載されている電池管理ユニット3がマスタとなり、電池モジュール20のセル管理ユニット22がスレーブとなって協調動作することによって、実質的に実時間で電池モジュール20のSOC,SOHを算出する。
図6を参照すると、マスタBMU処理では、ステップS10~S26の各処理がサブルーチンとして繰り返し行われる。このサブルーチンでは、前述したように、所定時間毎に(例えば3秒毎に)SOC,SOHが算出されて電池管理ユニット3の記憶装置32およびセル管理ユニット22の記憶装置222に書き込まれる。
【0049】
すなわち、前回の書き込みタイミングから所定時間経過して次の書き込みタイミングになると(ステップS10:YES)、電池管理ユニット3は、車両に設けられた電流センサ4によって検出された電流値を取得する(ステップS12)。さらに、電池管理ユニット3は、セル管理ユニット22に対して、電池モジュール20の電圧データに対するデータ要求を送信する(ステップS13)。セル管理ユニット22はデータ要求に応じて、電池モジュール20の電圧値を含む電圧データを電池管理ユニット3に送信する(ステップS14)。
【0050】
次いで電池管理ユニット3は、電池モジュール20の状態情報を算出する(ステップS16)。より具体的には、電池管理ユニット3は、ステップS12,S14で得られた電流値と電圧値に基づいて、電池モジュール20の状態情報としてSOC,SOHを算出する。SOC,SOHの算出方法は既に説明したとおりである。電池モジュール20の状態情報としてのサイクルカウントは、算出されたSOCが所定の条件(例えば、算出されたSOCが50%以下に低下したという条件、あるいは、当該SOCが95%を超えたという条件)を満たしたときにインクリメントされる。すなわち、ステップS16では、電池モジュール20の状態情報として、SOC,SOH、および、サイクルカウントの各データが算出される。
なお、
図6のシーケンスチャートには図示していないが、電池モジュール20について予め定義されたエラー発生条件を満たす事象が発生した場合には、電池管理ユニット3は、当該事象に対応するエラーコードを電池モジュール20の状態情報として特定する。
【0051】
電池管理ユニット3は、電池モジュール20の状態情報として、SOC,SOH、サイクルカウント、さらには、事象の発生に応じたエラーコードをセル管理ユニット22および車両制御ユニット5に送信するとともに(ステップS18,S20)、記憶装置32に書き込む(ステップS22)。セル管理ユニット22は、ステップS18で受信した状態情報を記憶装置222に書き込む(ステップS24)。車両制御ユニット5は、ステップS20で受信した状態情報に基づいて、車両の表示情報を更新する処理を行う(ステップS26)。
【0052】
ステップS26では、車両制御ユニット5は、電池管理ユニット3から電池モジュール20のSOCの情報を受信すると、当該SOCに対応するSOCインジケータを車両のインストルメントパネルに表示する。また、車両制御ユニット5は、電池管理ユニット3からエラーコードを受信すると、当該エラーコードに対応する警告インジケータを車両のインストルメントパネルに表示する。
【0053】
前述したように、ステップS22,S24では、所定の条件を満たしたときに、記憶装置の書込み領域毎に順にデータが書き込まれる。例えば、SOCの場合、前回N-1番目の書込み領域に格納されているSOCに対して、今回算出したSOCが0.5%以上の変動があった場合に限り、N番目の書込み領域に、今回算出したSOCを上書きする。今回算出したSOCが0.5%以上の変動がない場合には、N番目の書込み領域に今回算出したSOCを上書きしない。
図6に示す処理を行うことで、マスタBMU処理では、電池モジュール20の充放電が行われている間、所定時間ごとに電池モジュール20のSOC,SOH、および、サイクルカウントが算出され、それぞれの履歴データが記憶装置に記録されていく。SOC,SOH、および、サイクルカウントの各々に割り当てられた記憶装置内のセクタのすべての書込み領域にデータが書き込まれた場合には、当該セクタのデータを消去して新たなデータの書込みが行われる。
【0054】
(1-4-2)マスタCMU処理(
図7)
上述したように、マスタCMU処理では、電池モジュール20のセル管理ユニット22がマスタとなり、充電ステーションの充電制御ユニット6がスレーブとなって協調動作することによって、実質的に実時間で電池モジュール20のSOC,SOHを算出する。
図7を参照すると、マスタCMU処理では、充電開始(ステップS30)から充電終了(ステップS48)までの間に、ステップS32~S46の各処理がサブルーチンとして繰り返し行われる。このサブルーチンでは、前述したように、所定時間毎に(例えば3秒毎に)SOC,SOHが算出されてセル管理ユニット22の記憶装置222および充電制御ユニット6の記憶装置62に書き込まれる。
【0055】
すなわち、前回の書き込みタイミングから所定時間経過して次の書き込みタイミングになると(ステップS32:YES)、セル管理ユニット22は、充電ステーションの充電制御ユニット6に対して、電流データに対するデータ要求を送信する(ステップS33)。充電制御ユニット6はデータ要求に応じて、充電ステーションの電流センサ7によって検出された電流値を含む電流データをセル管理ユニット22に送信する(ステップS34)。さらに、セル管理ユニット22は、電池モジュール20の電圧値を取得する(ステップS36)。
なお、充電制御ユニット6とセル管理ユニット22の間のデータ通信のみに専用に割り当てられるレジスタおよびメッセージIDを定義し、当該メッセージIDを介して、ステップS34の電流データの送信が行われることが好ましい。上記レジスタが活性化される条件を予め定義しておくことで、セル管理ユニット22は、通信相手が電池管理ユニット3から充電制御ユニット6に切り替えられたことを認識できる。
【0056】
次いでセル管理ユニット22は、電池モジュール20の状態情報を算出する(ステップS38)。より具体的には、セル管理ユニット22は、ステップS34,S36で得られた電流値と電圧値に基づいて、電池モジュール20の状態情報としてSOC,SOHを算出する。SOC,SOHの算出方法は既に説明したとおりである。電池モジュール20の状態情報としてのサイクルカウントは、算出されたSOCが所定の条件(例えば、算出されたSOCが95%を超えるという条件)を満たしたときにインクリメントされる。すなわち、ステップS38では、電池モジュール20の状態情報として、SOC,SOH、および、サイクルカウントの各データが算出される。
なお、
図7のシーケンスチャートには図示していないが、電池モジュール20について予め定義されたエラー発生条件を満たす事象が発生した場合には、セル管理ユニット22は、当該事象に対応するエラーコードを電池モジュール20の状態情報として特定する。
【0057】
セル管理ユニット22は、電池モジュール20の状態情報として、SOC,SOH、サイクルカウント、さらには、事象の発生に応じたエラーコードを充電ステーションに送信するとともに(ステップS40)、記憶装置222に書き込む(ステップS42)。充電ステーションの充電制御ユニット6は、ステップS40で受信した状態情報を記憶装置62に書き込む(ステップS44)。
【0058】
マスタBMU処理と同様に、マスタCMU処理のステップS42,S44では、所定の条件を満たしたときに、記憶装置の書込み領域毎に順にデータが書き込まれる。
図7に示す処理を行うことで、マスタCMU処理では、電池モジュール20の充電が行われている間、所定時間ごとに電池モジュール20のSOC、SOH、および、サイクルカウントが算出され、それぞれの履歴データが記憶装置に記録されていく。SOC、SOH、および、サイクルカウントの各々に割り当てられた記憶装置内のセクタのすべての書込み領域にデータが書き込まれた場合には、当該セクタのデータを消去して新たなデータの書込みが行われる。
充電制御ユニット6は、例えば、SOCが所定の閾値を超えた等の充電終了条件を満たすかを判定し、充電終了条件を満たしていない場合には(ステップS46:NO)、ステップS33に戻ってセル管理ユニット22からのデータ要求を待機する。充電終了条件を満たした場合には(ステップS46:YES)、電池モジュール20に対する充電を終了する(ステップS48)。
【0059】
(1-5)電池システムにおける電池モジュールの状態情報の引継ぎ動作
次に、電池パック2の使用形態を考慮したときに、電池パック2の電池モジュール20の状態情報がどのように引き継がれ、それによって、セル管理ユニット22と電池管理ユニット3の間、および、セル管理ユニット22と充電制御ユニット6の間で状態情報が共有されるかについて説明する。
【0060】
以下、電池システム1における電池モジュール20の状態情報の引継ぎ動作について、
図8~
図10を参照して説明する。
図8および
図9は、それぞれ、本実施形態の電池システム1において、電池モジュール20の状態情報の引継例を示すシーケンスチャートである。
図10は、車両の電源投入時に、電池管理ユニット3が車両制御ユニット5に通知すべきSOCを決定するSOC決定処理の例を示すフローチャートである。
【0061】
(1-5-1)電池モジュールの状態情報の第1の引継ぎ例(
図8)
図8は、電池パック2が車両で充放電される状態と、電池パック2が充電ステーションで充電される状態とが切り替えられる場合のシーケンスチャートである。
先ず、電池パック2が車両に搭載された状態で電池パック2が充放電を行っている場合(つまり、
図6のマスタBMU処理が実行される場合)を想定する(ステップS50)。ステップS50のマスタBMU処理では、実質的に実時間で電池モジュール20の状態情報がセル管理ユニット22に逐次記録される。
【0062】
次いで、電池パック2を車両から取り外した後に充電ステーションに接続させ、電池パック2の充電を行う場合を想定する。充電ステーションには、電池パック2が充電ステーションに接続されたことを物理的あるいは電気的に検出する検出手段が設けられている。当該検出手段によって、電池パック2の各電池モジュール20が充電ステーションに接続されたことが検出されると(ステップS52)、充電ステーションの充電制御ユニット6と電池モジュール20のセル管理ユニット22の間でCANによる通信が確立され、初期化が実行される(ステップS54)。
【0063】
ステップS54の初期化の中で、セル管理ユニット22の記憶装置222に記録されている電池モジュール20の状態情報が、充電ステーションの充電制御ユニット6に引き継がれる。より具体的には、セル管理ユニット22は、記憶装置222に記録されている電池モジュール20の状態情報を充電制御ユニット6に送信し、充電制御ユニット6は、受信した状態情報を記憶装置62に記録する。すなわち、電池パック2が充電ステーションに接続されると、電池パック2の電池モジュール20と充電ステーションの充電制御ユニット6との間で、電池モジュール20の状態情報が共有される。
初期化が完了すると、充電制御ユニット6は、電池モジュール20に対する充電が開始されるように制御する。このとき、充電制御ユニット6は、電池モジュール20から引き継がれた状態情報に基づいて充電制御を開始する。充電開始前の状態情報を考慮して制御が開始されるため、正確な制御を行うことができる。
電池モジュール20に対する充電が行われている間は、セル管理ユニット22と充電制御ユニット6との間で、マスタCMU処理(
図7参照)が実行されて(ステップS56)、実質的に実時間で電池モジュール20の状態情報が共有される。
【0064】
次いで、電池パック2の充電が完了した後に、当該電池パック2を再び車両に搭載して電源を投入した場合を想定する。電源投入した後、セル管理ユニット22と電池管理ユニット3の間、および、電池管理ユニット3と車両制御ユニット5の間で、それぞれCANによる通信が確立される。その後、少なくともステップS80~S90の各処理を含む初期化が実行される。
【0065】
先ず、セル管理ユニット22の記憶装置222に記録されている電池モジュール20の状態情報が、電池管理ユニット3に引き継がれる。より具体的に、セル管理ユニット22は、記憶装置222に記録されている電池モジュール20の状態情報を電池管理ユニット3に送信し、電池管理ユニット3は、受信した状態情報を記憶装置32に記録する。
【0066】
このとき、好ましくは、車両に搭載された電池パック2が正しい電池モジュール20の組合せを含むか否かについての検証が行われる。この場合、セル管理ユニット22は、自身の属性データに含まれる組合せIDを状態情報とともに電池管理ユニット3に送信する(ステップS80)。電池パック2に含まれる各電池モジュール20から送信された属性データに含まれる組合せコードがすべて同一である場合には、正しい電池モジュール20の組合せであるため(ステップS82:YES)、ステップS80で受信した状態情報を記憶装置32に記録する(ステップS86)。すなわち、電池パック2が車両に搭載されると、電池パック2の電池モジュール20と車両内の電池管理ユニット3との間で、電池モジュール20の状態情報が共有される。
他方、電池パック2に含まれる各電池モジュール20から送信された属性データに含まれる組合せコードが同一ではない場合には(ステップS82:NO)、所定のエラーコードを車両制御ユニット5に送信する(ステップS84)。車両制御ユニット5は、エラーコードを受信すると、当該エラーコードに対応する警告インジケータを車両のインストルメントパネルに表示する処理を行う(ステップS92)。
【0067】
電池パック2が正しい電池モジュール20の組合せを含む場合には、電池管理ユニット3は、SOC決定処理を実行する(ステップS88)。SOC決定処理とは、電池パック2を車両に搭載した後に、車両のインストルメントパネルに表示するSOCインジケータの基礎となるSOC(「Vx」とする。)を決定するための処理であり、その詳細な処理が
図10のフローチャートに示される。
【0068】
以下、
図10を参照して、SOC決定処理について説明する。
SOC決定処理では先ず、電池管理ユニット3は、最後に電池管理ユニット(BMU)3の記憶装置32で記録されたSOCであるV1と、引継ぎ時にセル管理ユニット(CMU)22から受信した最新のSOCであるV2との差分ΔSOCを算出する(ステップS100)。
図8の例では、最後に電池管理ユニット(BMU)3の記憶装置32で記録されたSOCは、ステップS50のマスタBMU処理において最後に記憶装置32に書き込まれたSOCである。引継ぎ時にセル管理ユニット(CMU)22から受信した最新のSOCは、ステップS80で受信した最新のSOCである。
そして、電池管理ユニット3は、以下のようにして、SOCインジケータの基礎となるSOCであるVxを決定する。ΔSOCの絶対値である|ΔSOC|が小さい場合、例えば5%以下である場合には、電池管理ユニット3は、Vx=V1(つまり、最後に記憶装置32に記録されたSOC)とする(ステップS104)。|ΔSOC|が大きい場合、例えば10%以上である場合には、電池管理ユニット3は、Vx=V2(つまり、引き継がれた最新のSOC)とする(ステップS108)。|ΔSOC|が5%より大きく、かつ10%より小さい場合には、例えばV1とV2の平均値をVxとする(ステップS106)。
なお、ステップS106においてVxをV1とV2の平均値としたのは一例に過ぎず、V1とV2の間の値であれば如何なる値であってもよい。
【0069】
図10に示すようにしてSOC(Vx)を決定するのは、再始動のために電池パック2を搭載した車両の電源投入を行う場合と、車両に電池パック2を取り付けてから最初に電源投入する場合とで、車両のインストルメントパネルに表示するSOCインジケータの表示に齟齬が生じないようにするためである。前者の場合には、電源投入の前後で電池モジュール20の実際のSOCはほとんど変化しない一方で、後者の場合には、電池パック2の充電等によって、電源投入の前後で電池モジュール20の実際のSOCに大きな変化が生じうる。しかし、電池管理ユニット3では、前者の場合と後者の場合を判別することができない。そのため、仮に常にVx=V1(つまり、最後に記憶装置32に記録されたSOC)としたならば、電池パック2を充電した後も、電源投入直後にSOCインジケータで表示されるSOCが低いままとなり運転者の期待に反することになる。また、仮に常にVx=V2(つまり、引き継がれた最新のSOC)としたならば、単に電源を再投入したに過ぎない場合でも電源投入直後にSOCインジケータに表示されるSOCが変動し、運転者に違和感を生じさせることになる。
そこで、
図10に示すように、V1とV2の差分の絶対値に応じてVxを決定することが好ましく、それによってSOCインジケータの表示に齟齬が生じないようにすることができる。なお、このVxの決定方法では、電池モジュール20の実際のSOCとSOCインジケータに表示されるSOCとで誤差が生ずる場合があるが、車両のインストルメントパネルに表示されるSOCインジケータは表示分解能が低いことから、当該誤差は問題とならない。例えば、SOCインジケータは電欠から満充電までの間で数個の目盛りで表され、その分解能は上記誤差よりも低いことが多い。
【0070】
図8を再度参照すると、初期化が終了した後は、車両の動作に伴い電池パック2の充放電が開始される。このとき、電池管理ユニット3は、電池モジュール20から引き継がれた状態情報に基づいて充放電制御を開始する。充放電開始前の状態情報を考慮して制御が開始されるため、正確な制御を行うことができる。電池パック2の充放電が開始されると、セル管理ユニット22、電池管理ユニット3、および、車両制御ユニット5の間でマスタBMU処理(
図6参照)が実行される(ステップS94)。
【0071】
(1-5-2)電池モジュールの状態情報の第2の引継ぎ例(
図9)
図9は、車両に搭載された電池パック2が交換される場合のシーケンスチャートである。
先ず、電池モジュール20Aを含む電池パックが車両に搭載された状態で電池パックが充放電を行っている場合(つまり、
図6のマスタBMU処理が実行される場合)を想定する(ステップS70)。ステップS70のマスタBMU処理では、実質的に実時間で電池モジュール20Aの状態情報がセル管理ユニット22に逐次記録される。
【0072】
次いで、車両の電池パックを交換する場合を想定する。すなわち、電池モジュール20Aを含む電池パックに代えて、電池モジュール20Bを含む電池パックを車両に搭載して電源を投入した場合を想定する。
この場合、ステップS80~S94のシーケンスチャートの流れは、
図8の場合と同じである。すなわち、電池モジュール20Bに記録されている状態情報が初期化において車両の電池管理ユニット3に引き継がれる。電池モジュール20Bを含む電池パックが車両に搭載されると、電池パックの電池モジュール20Bと車両内の電池管理ユニット3との間で、電池モジュール20Bの状態情報が共有される。そして電池管理ユニット3は、引き継がれた電池モジュール20Bの状態情報に基づいて電池モジュール20Bの充放電制御を開始する。そのため、車両における電池パック2の充放電制御を継続的に行われ、それゆえ適切に充放電制御を行うことができる。
なお、
図9の場合もステップS88においてSOC決定処理が実行されるため、電池モジュール20Aについて最後に記録されたSOCと、電池モジュール20Bから引き継がれた最新のSOCとの間に乖離がある場合でも、運転者に違和感が生じないようなSOCインジケータの表示とすることができる。
【0073】
以上説明したように、本実施形態の電池システム1では、電池パック2と電池管理ユニット3が接続され、かつ電池パック2と充電ステーションの充電制御ユニット6が接続されていない場合には、各電池モジュール20の状態情報を、各電池モジュール20と電池管理ユニット3の間で共有する。電池パック2と充電ステーションの充電制御ユニット6が接続され、かつ電池パック2と電池管理ユニット3が接続されていない場合には、各電池モジュール20の状態情報を、各電池モジュール20と充電制御ユニット6の間で共有する。例えば、電池パック2と電池管理ユニット3が接続される場合に、電池モジュール20の状態情報が電池管理ユニット3に引き継がれ、電池パック2と充電ステーションが接続される場合、電池モジュール20に状態情報が充電ステーションの充電制御ユニット6に引き継がれる。そのため、車両に搭載されている電池パック2を交換する場合や、電池パック2を車両から取り外して充電ステーションで充電する場合等において、引き継がれた各電池モジュール20の状態情報を考慮して、車両における電池モジュール20に対する充放電制御、および、充電ステーションでの電池モジュール20に対する充電制御を開始できるため、これらの制御を最適なものにすることができる。
【0074】
例えば、本実施形態では、電池モジュール20のセル管理ユニット22には、状態情報として、SOC,SOHの履歴情報やエラーコードを格納している。これらの情報を車両側又は充電ステーション側に引き継ぐことで、電池管理ユニット3及び/又は充電制御ユニット6は、当該履歴情報やエラーコードを考慮して充放電制御あるいは放電制御を開始することができる。SOC,SOHの履歴情報やエラーコードを引き継ぐことで、より正確な充放電制御を行うことができる。
【0075】
本実施形態の電池システム1では、引き継ぐべき電池モジュール20の状態情報を、SOC,SOH、サイクルカウント、エラーコードの各パラメータに限定することで、各ユニットの記憶装置の容量を比較的小さくすることができる。
その一方で、引継ぎ対象となる状態情報を、SOC,SOH、サイクルカウント、エラーコードの各パラメータに限られず、例えば満充電容量FCCを所定時間ごとに保存し、かつ引き継いでもよい。
【0076】
本実施形態の電池システム1では、電池モジュール20に対する正確な状態情報を算出するのに必要となる電池モジュール20を流れる電流値を検出するセンサを、車両側および充電ステーション側に設けるようにした。言い換えると、電池モジュール20は電流センサを備えていない。そのため、電池モジュール20は、正確な状態情報を保持しつつ比較的低コストで済む。
【0077】
上述した実施形態において、
図6のマスタBMU処理では、車載されている電池管理ユニット3がマスタとなり、電池モジュール20のセル管理ユニット22がスレーブとなって協調動作することによって電池モジュール20のSOC,SOHを算出する場合について説明したが、その限りではない。電池モジュール20のセル管理ユニット22がマスタとなり、電池管理ユニット3がスレーブとなって協調動作してもよい。その場合、セル管理ユニット22は、電流センサ4によって検出された電流値を電池管理ユニット3から取得する。そして、セル管理ユニット22は、電池モジュール20の電圧値と、電池管理ユニット3から取得した電流値とに基づいて、電池モジュール20のSOC,SOHを算出する。
【0078】
上述した実施形態において、
図7のマスタCMU処理では、電池モジュール20のセル管理ユニット22がマスタとなり、充電ステーションの充電制御ユニット6がスレーブとなって協調動作することによって電池モジュール20のSOC,SOHを算出する場合について説明したが、その限りではない。充電ステーションの充電制御ユニット6がマスタとなり、電池モジュール20のセル管理ユニット22がスレーブとなって協調動作してもよい。その場合、充電制御ユニット6は、電池モジュール20の電圧値をセル管理ユニット22から取得する。そして、充電制御ユニット6は、セル管理ユニット22から取得した電圧値と、電流センサ7によって検出された電流値とに基づいて、電池モジュール20のSOC,SOHを算出する。
【0079】
<第2の実施形態>
次に、本発明の第2の実施形態に係る電池システムについて説明する。
電池パック2に含まれる複数の電池モジュール20-1~20-4のうちいずれかの電池モジュールが交換され、新たな電池モジュールが電池パック2に組み合わされた場合、電池パック2内の電池モジュールの状態情報が均一でなくなることに起因して、一部の電池モジュールにおいて過放電や過充電が生ずる虞がある。
すなわち、電池パック2に製造時から組付けられている複数の電池モジュール20では、通常の使用状態においてモジュール間で状態情報が大きくずれることはない。しかし、電気自動車EVのバッテリ交換や電池パック2の一部の電池モジュール20を組み替える等、ユーザによる使用方法に起因して異なる使用履歴の電池モジュール20が1つの電池パック2に混在する場合、一部の電池モジュール20のみの状態情報が他と大きく異なる場合が生じ、そのような場合に、一部の電池モジュールにおいて過放電や過充電が生ずる虞がある。
【0080】
そこで、本実施形態の電池システムは、電池パック2に含まれる複数の電池モジュール20-1~20-4のうちいずれかの電池モジュールが交換された場合であっても、電池モジュール20の組合せ異常に伴う過放電や過充電が発生する可能性を抑制すること電池パック2内の電池モジュール20の組合せ異常を判定することを目的として構成されている。
なお、電池モジュール20の状態情報は、限定するものではないが、以下では一例として、SOH及びサイクルカウントの場合を例として説明する。
【0081】
(2-1)ソフトウェアの内容
本実施形態の電池システムのハードウェア構成は、
図1~
図4を参照して説明したものと同一でよい。そのため、以下の説明では、上記目的を実現するために充電ステーションの充電制御ユニット6、及び、電気自動車EVの電池管理ユニット3において実行されるソフトウェアについて説明する。
なお、以下の説明、又は、以下の説明で参照される図においては、「電池モジュール」を単に「モジュール」と表記する場合がある。
【0082】
本実施形態では、各電池モジュール20の記憶装置222は、各電池モジュール20の電池パック2における組合せの状態を示すデータであるラベルが格納される。
ラベルの種類としては、「組合せ正常ラベル」、「組合せ異常ラベル」、「交換ラベル」がある。交換ラベルとは、対応する電池モジュール20自体が劣化しており交換を要することを示す。組合せ異常ラベルとは、対応する電池モジュール20について、電池パック2内の他の電池モジュール20に対する組合せが正常でないことを示す。
【0083】
組合せ正常ラベルとは、組合せ異常ラベルでも交換ラベルでもない場合に付与されるラベルである。電池パック2を製造する時点で組み合わされた電池モジュール20は、同一の値の組合せ正常ラベルが付与される。したがって、電池パック2が最初に電気自動車EVに搭載された時点では、電池パック2の各電池モジュール20には、同一の値の組合せ正常ラベルが付与されている。その後に、電池パック2の中の一部の電池モジュール20を交換した場合には、電池パック2においてすべての電池モジュール20の組合せ正常ラベルの値が一致しないことが生じうる。
【0084】
各ラベルは、電池管理ユニット3によって付与される。「ラベルを付与する」とは、電池管理ユニット3が、各電池モジュール20について組合せ正常ラベル、組合せ異常ラベル、交換ラベルのいずれに該当するか判定し、その判定結果を各電池モジュール20に送信し、各電池モジュール20が受信したラベルの判定結果を記憶装置222に記録することを意味する。
【0085】
先ず、
図11を参照して、電気自動車EVに搭載されている電池パック2を充電ステーションに接続して、電池パック2を充電する場合において、充電ステーションの充電制御ユニット6によって実行される処理(充電処理)について説明する。
図11は、当該処理に対応するプログラムのフローチャートである。
【0086】
電池パック2が充電ステーションに接続された場合、先ず、充電ステーションの充電制御ユニット6が各電池モジュール20と通信を行うことで、各電池モジュール20の電圧値を取得し、当該電圧値を記憶装置62に読み込む(ステップS110)。
各電池モジュール20の電圧が充電開始閾値以下である場合(ステップS112:NO)、つまり、各電池モジュール20の電圧が十分に高い場合には充電を行う必要がないため、充電処理を終了する。各電池モジュール20の電圧が充電開始閾値未満である場合(ステップS112:YES)、充電制御ユニット6は、先ずCC充電(定電流充電)を実行する(ステップS113)。充電ステーション側で検出している充電電圧が所定電圧に達するまでCC充電が継続される。
【0087】
充電ステーション側で検出している充電電圧が所定電圧に達した場合には(ステップS114:YES)、充電制御ユニット6は、CV充電(定電圧充電)を実行する(ステップS115)。なお、充電制御ユニット6は、各電池モジュール20から取得した電圧値が所定の上限電圧に達した場合にも(ステップS116:YES)、CC充電を終了してCV充電に移行する。
充電制御ユニット6は、充電電流が所定電流(例えば、1/20C~1/10C)に達した場合(ステップS117:YES)、CV充電を終了する(ステップS118)。なお、CV充電が正常に行われない場合に電池モジュール20を保護する観点から、CV充電が開始される時点でタイマを動作させて所定時間経過した場合に(ステップS119:YES)、充電を終了させてもよい。
充電が終了すると、充電制御ユニット6による制御の下、各電池モジュール20は、記憶装置222にアクセスしてサイクルカウントの値の書き込みを行う(ステップS120)。
【0088】
次に、
図12~
図15を参照して、電池パック2を搭載した電気自動車EVが起動するときに電池管理ユニット3によって実行される処理について説明する。
図12に示すように、電池管理ユニット3によって実行される処理には、組合せ判定処理(ステップS200)と、充放電処理(ステップS400)と、SOH推定処理(ステップS600)と、を含む。これらの処理は、電気自動車EVが起動するタイミングで少なくとも1回行わればよい。
【0089】
組合せ判定処理(ステップS200)は、電池パック2に含まれる複数の電池モジュール20の組合せが適切か否か判定する処理である。組合せ判定処理(ステップS200)の詳細処理が
図13に示される。
充放電処理(ステップS400)は、組合せ判定処理の判定結果に応じて、電池パック2に対する充放電を制御する処理である。なお、電池パック2に対する充電には、回生動作時の充電が含まれる。組合せ判定処理(ステップS200)の詳細処理が
図14に示される。
SOH推定処理(ステップS600)は、電池パック2に含まれる複数の電池モジュール20の各々のSOH(状態情報の一例)を推定する処理である。SOH推定処理(ステップS600)の詳細処理が
図15に示される。
【0090】
以下、
図13を参照して、組合せ判定処理(ステップS200)について説明する。
電池管理ユニット3は、先ず各電池モジュール20からラベルのデータを受信する。少なくとも1つの電池モジュール20のラベルが交換ラベルである場合には(ステップS201:有)、電池管理ユニット3は、組合せ判定処理を終了する。この場合、電池管理ユニット3は、電気自動車EVのユーザに警告するために、交換ラベルに該当する電池モジュール20を交換すべきであることを車両制御ユニット5に通知することが好ましい。
【0091】
いずれの電池モジュール20のラベルも交換ラベルでない場合には(ステップS201:無)、電池管理ユニット3は、各電池モジュール20のラベルが組合せ正常ラベルであり、かつ、組合せ正常ラベルの値が一致するか否か判定する(ステップS202)。一致する場合には、電池パック2内の電池モジュール20の組合せが正常であるため、電池管理ユニット3は、組合せ判定処理を終了する。
ステップS202において組合せ正常ラベルの値が一致しない場合、すなわち、すべての電池モジュール20のラベルが組合せ正常ラベルであるがその値が一致しない場合、又は、少なくとも1つの電池モジュール20のラベルが組合せ異常ラベルである場合、電池管理ユニット3は、各電池モジュール20からSOHとサイクルカウントのデータを受信することで取得する(ステップS203)。
【0092】
ステップS204以降の処理は、各電池モジュール20の状態情報としてのサイクルカウント及びSOHに基づき、各電池モジュール20について付与すべきラベルを決定するための処理である。
サイクルカウントが所定の閾値TH1以上の電池モジュール20が存在する場合には(ステップS204:YES)、電池管理ユニット3は、当該電池モジュール20に対して交換要と判定し(ステップS205)、交換ラベルを付与する(ステップS206)。同様に、SOHが所定の閾値TH2以下の電池モジュール20が存在する場合には(ステップS207:YES)、電池管理ユニット3は、当該電池モジュール20に対して交換要と判定し(ステップS205)、交換ラベルを付与する(ステップS206)。
【0093】
個々の電池モジュール20が劣化していない場合には(ステップS204:NO、かつステップS207:NO)、電池パック2内の電池モジュール20の組合せの正常/異常の判定を行う。すなわち、電池管理ユニット3は、電池パック2内の電池モジュール20の組合せが異常であるか否か判断し(ステップS208)、電池モジュール20の組合せが異常である場合、組合せ異常と判定する(ステップS209)。
電池モジュール20の組合せが正常であるか異常であるか否かの判定は、後で具体例を挙げて説明するが、電池パック2内の各電池モジュール20のSOHとサイクルカウントの値が近いか否かに基づいて行われる。電池パック2の製造時点に組み合わされた電池モジュール20同士は、いずれかの電池モジュール20が交換されない限り、その後の使用履歴が同一であるため、SOHとサイクルカウントの値が概ね同一である。そのため、電池パック2のいずれかの電池モジュール20のSOHとサイクルカウントの値が他の電池モジュール20の値に対して大きく異なる場合には、組合せ異常と判定される。
電池管理ユニット3は、組合せ異常と判定した場合、組合せ異常の原因となった電池モジュール20に組合せ異常ラベルを付与する(ステップS210)。
【0094】
電池管理ユニット3は、電池パック2内の電池モジュール20の組合せが異常でない(正常である)場合には(ステップS208:NO)、組合せ正常と判定する(ステップS211)。その場合、電池管理ユニット3は、電池パック2の各電池モジュール20に対して組合せ正常ラベルを付与する(ステップS212)。
【0095】
次に、
図14を参照して、充放電処理(ステップS400)について説明する。
図14に示すように、組合せ判定処理(ステップS200)において付与される各電池モジュール20のラベルに基づいて、電気自動車EVとの充放電処理を制御することが好ましい。
電池管理ユニット3は、少なくとも1つの電池モジュール20のラベルが交換ラベルである場合には(ステップS401:有)、充放電制御を禁止する(ステップS402)。この場合、電池パック2に対する充電及び放電が禁止される。それによって、劣化した電池モジュール20に対する充電及び放電を回避し、例えば過放電を未然に防ぐことができる。
その後、車両制御ユニット5(VCU)に対して放電を禁止することを通知する(ステップS403)。
【0096】
いずれの電池モジュール20のラベルも交換ラベルでない場合には(ステップS401:無)、電池管理ユニット3は、各電池モジュール20のラベルが組合せ正常ラベルであり、かつ組合せ正常ラベルの値が一致するか否か判定する(ステップS404)。一致する場合には、電池管理ユニット3は、通常の充放電制御を実行することを決定する(ステップS405)。この場合、何ら制限がない正常モードによる充放電制御が実行される。
【0097】
ステップS404において組合せ正常ラベルの値が一致しない場合、すなわち、すべての電池モジュール20のラベルが組合せ正常ラベルであるがその値が一致しない場合、又は、少なくとも1つの電池モジュール20のラベルが組合せ異常ラベルである場合、電池管理ユニット3は、充放電制御を実行することを決定するが(ステップS406)、この場合には、制限モードによる充放電制御となり、電池パック2に対する充電及び放電の少なくとも一方が制限される。例えば、放電レートや放電量が車両からの要求値に対して制限される。それによって、電池モジュール20の組合せが適切でない場合に、車両に電力を供給しつつ過放電等となる可能性を抑制することができる。
なお、この場合、少なくとも1つの電池モジュール20のラベルが交換ラベルである場合のように電池モジュール20の使用が困難なレベルではなく、電池モジュール20の交換により、SOH、サイクルカウント等が同程度の電池モジュール20と組み合わされた場合には上述の制限モードによる充放電制御は必要ではなく、電池モジュール20の通常使用が可能となる。
その後、電池管理ユニット3は、車両制御ユニット5(VCU)に対して放電制限を行うことを通知する(ステップS407)。
なお、ステップS404において組合せ正常ラベルの値が一致しない場合には、直ちに充放電制御の制限を行わず、次の電気自動車EVの起動時に充放電制御を禁止するようにしてもよい。
【0098】
次に、
図15を参照して、SOH推定処理(ステップS600)について説明する。
各電池モジュール20は、SOH推定条件が成立するときに限り(ステップS601:YES)、SOHを推定する(ステップS602)。SOH推定条件は、精度が高いSOHが得られるように設けられた条件であり、例えば、電池モジュール20の内部抵抗に基づいてSOHを推定する場合、内部抵抗が温度に応じて変動し得るため、所定の温度条件を満たすことをSOH推定条件とすることができる。
SOHの推定方法は、限定するものではなく、第1の実施形態において説明した方法でもよいし、当業者に公知の方法であれば如何なる方法でもよい。
各電池モジュール20は、ステップS602で得られたSOHの推定値を記憶装置222に記録する(ステップS603)。
【0099】
(2-2)電池モジュールの組合せ判定方法の例
次に、
図16~
図21を参照して、組合せ判定処理における電池モジュール20の組合せ判定方法の例について説明する。以下の説明では、
図13のフローチャートと同様、電池モジュールの状態情報の一例が、SOH及びサイクルカウントに相当する。
図16~
図21の各図では、理解の容易のために、SOH及びサイクルカウントをそれぞれの値の大小に応じて設けられた7×7のマス(正方形の枠)で区画したときに、電池パック2に含まれる電池モジュール20-1~20-4のSOH及びサイクルカウントの値が含まれるマスを数字で示している。つまり、電池モジュール20-1~20-4のSOH及びサイクルカウントの値が含まれるマスにそれぞれ、「1」~「4」の数字を表記してある。以下の説明では、各電池モジュール20のSOH及びサイクルカウントの値が含まれるマスの位置を「状態位置」という。
なお、マスの数は、電池モジュールの状態情報に基づく判定例をわかりやすく説明するための例示に過ぎない。
【0100】
(i)第1例
第1例は、
図13の組合せ判定処理において、組合せ異常と判定される例である。
図16は、第1例において、ステップS203(
図13参照)において取得されるSOH及びサイクルカウントの値に基づく各電池モジュール20の状態位置を示している。この例は、電池パック2の中で電池モジュール20-4のみが新品である場合である。
図16に示すように、電池モジュール20-1~20-3の状態位置は同一であるのに対して、電池モジュール20-4の状態位置は他の電池モジュールとは異なり、SOHが高く、かつサイクルカウントが少ない位置にある。
【0101】
図17を参照して、先ず、SOH及びサイクルカウントによる7×7のマスにおいて、組合せ良好領域、組合せ不良領域、及び、交換領域の定義について説明する。この定義は、後に参照図面についても同じである。
組合せ良好領域とは、電池モジュール20ごとに、電池モジュール20の状態位置を中心として所定範囲のマスに対して設定される領域である。
図17に示す例では、状態位置とその周囲の9個のマス(3×3のマス)で示す領域が組合せ良好領域である。例えば、電池モジュール20-1に対して設定される組合せ良好領域に、他の電池モジュールの状態位置が含まれる場合には、当該他の電池モジュールと電池モジュール20-1の組合せが良好であると判断される。
【0102】
交換領域とは、対応する電池モジュール20を交換する必要があると判断される領域である。
図13のフローチャートを参照して説明したように、電池モジュール20のサイクルカウントが所定の閾値(
図13のステップS204のTH1)以上である場合や、電池モジュール20のSOHが所定の閾値(
図13のステップS207のTH2)以下である場合には、当該電池モジュール20は劣化しており、交換が必要である。そこで、
図17の7×7のマスでは一例として、サイクルカウントが最も多いマスに相当する領域と、SOHが最も低いマスに相当する領域とを、交換領域に設定している。
交換領域は、電池モジュール20の状態位置とは無関係に設定される。
【0103】
組合せ不良領域とは、交換領域でもなく組合せ良好領域でもない領域である。例えば、電池モジュール20-1に対して設定される組合せ良好領域よりも、他の電池モジュールの状態位置が外側に位置する場合には、当該他の電池モジュールの状態情報は、電池モジュール20-1と比較して大きく異なることから、電池モジュール20-1と組み合わせて使用するのに適切でないと判断される。
なお、
図17に示す良好領域、組合せ不良領域、及び、交換領域の設定は例示に過ぎない。SOH及びサイクルカウントに対する1つのマスに含まれる値の範囲や、マスの数等は、適宜変更、又は最適化しうる。
【0104】
図17に示す例では、電池モジュール20-4が他の電池モジュール20-1~20-3と比較するとほとんど劣化が進んでおらず、SOHが高く、サイクルカウントが少ない。そのため、電池モジュール20-4の状態位置は、他の電池モジュール20-1~20-3の組合せ不良領域にある。そこで、この例の電池パック2は、電池モジュール20-4を原因とする組合せ異常と判定される。
【0105】
(ii)第2例
第2例は、
図13の組合せ判定処理において、組合せ正常と判定される例である。
図18は、第2例において、ステップS203(
図13参照)において取得されるSOH及びサイクルカウントの値に基づく各電池モジュール20の状態位置を示している。
図18に示すように、この例では、電池モジュール20-1~20-3の状態位置は同一であるのに対して、電池モジュール20-4の状態位置は他の電池モジュールとは異なる位置にある点では、第1例と同じである。しかし第2例では、電池モジュール20-4の状態位置は、他の電池モジュールの状態位置と僅かに異なる(SOHが少し低い)のみである。
【0106】
図19は、
図18に対して設定される組合せ良好領域、組合せ不良領域、及び、交換領域を示した図である。この例では、電池モジュール20-4の状態位置が、電池モジュール20-1~20-3の組合せ良好領域内に含まれている。そこで、この例の電池パック2は、組合せ正常と判定される。
【0107】
(iii)第3例
第3例は、
図13の組合せ判定処理において、交換要と判定される例である。
図20は、第3例において、ステップS203(
図13参照)において取得されるSOH及びサイクルカウントの値に基づく各電池モジュール20の状態位置を示している。
図20に示すように、この例では、電池モジュール20-1~20-3の状態位置は同一であるのに対して、電池モジュール20-4の状態位置は他の電池モジュールとは異なる位置にある点では、第1例と同じである。しかし第3例では、電池モジュール20-4の状態位置は、サイクルカウントが多く、かつSOHが低いマスの位置となっている。
【0108】
図21は、
図20に対して設定される組合せ良好領域、組合せ不良領域、及び、交換領域を示した図である。この例では、電池モジュール20-4の状態位置が、交換領域に含まれている。そこで第3例では、電池モジュール20-4が交換要と判定される。
【0109】
上述した第1~第3例では、電池モジュール20の状態情報としてサイクルカウントを用いたが、その限りではなく、他の状態情報を用いてもよい。例えば、電池モジュール20の状態情報としてカレンダーを用いてもよい。カレンダー(使用期間の一例)は、電池モジュール20の製造日からの経過時間に関する情報であり、電池モジュール20のカレンダー寿命による劣化モードを反映させることができる。この場合もサイクルカウントの場合と同様、電池パック2内のいずれかの電池モジュール20のカレンダーの値が他の電池モジュール20と大きく異なっている場合には、当該いずれかの電池モジュール20は組合せ不良と判定される。
【0110】
図22(a)に示すように、SOH及びカレンダーの値に基づく状態位置が定まる場合に、
図22(b)に示すように、組合せ良好領域、組合せ不良領域、及び、交換領域を定義することができる。サイクルカウントに代えてカレンダーを適用する場合には、
図13の組合せ判定処理のステップS204では、サイクルカウントに代えてカレンダーの値が所定の閾値と比較される。
なお、
図5を参照して説明したように、電池モジュール20の記憶装置222に記録されている電池モジュール20の製造日の値は、実質的にカレンダーの値と同一である。
【0111】
(2-3)変形例
次に、電池モジュールの組合せ判定方法の変形例について、
図23~
図26を参照して説明する。
前述したように、電池パック2に製造時から組付けられている複数の電池モジュール20では、通常の使用状態においてモジュール間で状態情報が大きくずれることはないが、僅かなずれは生じ得る。以下では、そのような僅かなずれが生ずる場合の、電池モジュールの組合せ判定方法の例について説明する。
【0112】
(i)第1変形例
図23は、第1変形例において、ステップS203(
図13参照)において取得されるSOH及びサイクルカウントの値に基づく各電池モジュール20の状態位置を示している。
図23に示すように、この例では、電池モジュール20-1~20-4の状態位置は僅かにずれている。
【0113】
図24は、
図23に対して設定される各電池モジュール20について組合せ良好領域、組合せ不良領域、及び、交換領域を示した図である。各領域の設定例は、
図17,
図19,
図21と同じである。
図24に示すように、各電池モジュール20で状態位置が異なるため、各電池モジュール20に対応する組合せ良好領域も異なるものとなる。
このような場合に、例えば、以下のステップA及びステップBに基づいて組合せ正常であるか組合せ異常であるかを判定する。
【0114】
(ステップA)すべての電池モジュール20において、SOH(縦軸)の差(つまり、最もSOHが高い電池モジュール20と、最もSOHが低い電池モジュール20との、SOHの差)が、所定の閾値(例えば、3マス)以内であるか判定する。SOHが当該閾値を越えている場合には、ステップBに進む前に組合せ異常と判定する。
(ステップB)ステップAにおいてSOHの差が閾値以下である場合、各電池モジュール20の組合せ良好領域について、順に、他の電池モジュール20と重複する領域(「重複領域」という。)を特定し、重複領域のマスの数が所定の閾値(例えば、2)未満である場合に、該当する電池モジュール20を原因とする組合せ異常と判定する。該当する電池モジュール20については、組合せ異常ラベルを付与する。
【0115】
図24に示す例では、電池モジュール20-1~20-4についてSOHの差が1マスであるため、上記ステップAの閾値以下であることから、ステップBに進む。
図24には、各電池モジュール20-1~20-4について重複領域を表示してある。この例では、すべての電池モジュール20について重複領域が2マスであり、ステップBの閾値以上であることから、組合せ正常と判定される。
【0116】
(ii)第2変形例
図25は、第2変形例において、ステップS203(
図13参照)において取得されるSOH及びサイクルカウントの値に基づく各電池モジュール20の状態位置を示している。
図25に示すように、この例は、電池モジュール20-1~20-4の状態位置はずれている点では
図23と同じであるが、
図23の場合よりもずれ量が大きい場合を示している。
【0117】
図26は、
図24同様、各電池モジュール20について、組合せ良好領域、組合せ不良領域、交換領域、及び、重複領域を示した図である。
図26に示す例では、電池モジュール20-1~20-4についてSOHの差が2マスであるため、上記ステップAの閾値以下であることから、ステップBに進む。ステップBでは、
図26に示すように、電池モジュール20-4の組合せ良好領域に含まれる重複領域が1マスのみであり、ステップBの閾値未満であることから、電池モジュール20-4を原因として組合せ異常と判定される。この場合、電池モジュール20-4に対して組合せ異常ラベルが付与される。
【0118】
以上説明したように、本実施形態の電池システムによれば、電池パック2を搭載した電気自動車EVの電池管理ユニット3は、電池パック2に含まれる複数の電池モジュール20の状態情報に基づいて当該複数の電池モジュール20の組合せ良否を適切に反映することができる。そのため、電池モジュール20の組合せ異常の場合に、電気自動車EVの充放電処理を制御し、電池モジュール20の組合せ異常に伴う過放電や過充電が発生する可能性を抑制することができる。
また、電池モジュール20の組合せ異常の場合に、車両制御ユニットに通知することで電気自動車EVのユーザに適時に電池モジュール20の組合せ異常を警告するように構成することができる。
【0119】
以上では、電池モジュール20の状態情報として、SOHとサイクルカウント(又はカレンダー)の2種類の情報に基づいて組合せ判定を行う場合について説明したが、その限りではない。例えば、SOHのみ等、1種類の状態情報に基づいて電池モジュール20の組合せ判定を行ってもよい。但し、2種類の状態情報に基づいて判定することで、組合せ判定の判定精度を向上させることができる利点がある。
また、電池モジュール20の3種類以上の状態情報に基づいて組合せ判定を行ってもよい。
【0120】
本明細書で記載されるすべての例示および条件付けられた表現は、発明者による技術の促進に寄与する本発明とその概念について読者の理解を助ける教示目的のために意図したものであって、そのように特定的に記載された例示および条件に対する限定無しに解釈されるべきであり、明細書におけるそのような例示の構成は、本発明の優劣の提示には関連しない。本発明の実施形態について詳細に説明されているが、様々な変更、置換、代用が、本発明の趣旨および範囲から逸脱することなくなされうることが理解されるべきである。
例えば、閾値は、本発明の実際のシステムへの適用に際して最適化されるものであり、本開示で挙げた閾値は、本発明の一実施形態の理解のための例示に過ぎない。
【符号の説明】
【0121】
1…電池システム
2…電池パック
20-1~20-4…電池モジュール
21-1~21-4…電池セル群
22-1~22-4…セル管理ユニット(CMU)
221…コントローラ
222…記憶装置
223…セル監視ユニット
224…CANトランシーバ
3…電池管理ユニット(BMU)
31…コントローラ
32…記憶装置
33…CANトランシーバ
4,7…電流センサ7
5…車両制御ユニット(VCU)
6…充電制御ユニット(CCU)
61…コントローラ
62…記憶装置
63…CANトランシーバ
65…表示装置
101…電池系CANバス
102…車両系CANバス
Cb,Cv,Cs…コネクタ