(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022107357
(43)【公開日】2022-07-21
(54)【発明の名称】セラミック電子部品およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
H01G 4/30 20060101AFI20220713BHJP
【FI】
H01G4/30 512
H01G4/30 513
H01G4/30 201A
H01G4/30 201K
H01G4/30 201C
H01G4/30 311D
H01G4/30 311F
H01G4/30 517
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021002250
(22)【出願日】2021-01-08
(71)【出願人】
【識別番号】000204284
【氏名又は名称】太陽誘電株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087480
【弁理士】
【氏名又は名称】片山 修平
(72)【発明者】
【氏名】寺岡 秀弥
【テーマコード(参考)】
5E001
5E082
【Fターム(参考)】
5E001AB03
5E001AC03
5E001AC08
5E001AD03
5E001AE01
5E001AE02
5E001AE03
5E001AE04
5E001AF03
5E001AF06
5E001AH01
5E001AH05
5E001AH06
5E001AH07
5E001AH09
5E001AJ01
5E001AJ02
5E082AA01
5E082AB03
5E082BC32
5E082BC35
5E082EE04
5E082EE13
5E082EE23
5E082EE26
5E082EE35
5E082EE43
5E082FG04
5E082FG26
5E082FG46
5E082FG54
5E082GG10
5E082GG28
5E082JJ03
5E082JJ15
5E082JJ23
5E082LL03
5E082MM22
5E082MM24
5E082MM37
5E082PP09
(57)【要約】
【課題】 内部構造の欠陥発生を抑制しつつ絶縁劣化を抑制することができるセラミック電子部品およびその製造方法を提供する。
【解決手段】 セラミック電子部品は、セラミックを主成分とする第1誘電体層と、第1内部電極層と、セラミックを主成分とする第2誘電体層と、第2内部電極層とがこの順に積層され、略直方体形状を有し、第1内部電極層が略直方体形状の第1端面に露出し、第2内部電極層が略直方体形状の第2端面に露出するように形成された積層構造を備え、第1誘電体層は、第1内部電極層の第1端面側の端部に、第1端面と第2端面とが対向する方向の中央部よりも薄く形成された薄層部を備え、第2誘電体層は、第1内部電極層の第1端面側の端部に、第1端面と第2端面とが対向する方向の中央部よりも厚く形成された厚層部を備えることを特徴とするセラミック電子部品。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
セラミックを主成分とする第1誘電体層と、第1内部電極層と、セラミックを主成分とする第2誘電体層と、第2内部電極層とがこの順に積層され、略直方体形状を有し、前記第1内部電極層が前記略直方体形状の第1端面に露出し、前記第2内部電極層が前記略直方体形状の第2端面に露出するように形成された積層構造を備え、
前記第1誘電体層は、前記第1内部電極層の前記第1端面側の端部に、前記第1端面と前記第2端面とが対向する方向の中央部よりも薄く形成された薄層部を備え、前記第2誘電体層は、前記第1内部電極層の前記第1端面側の端部に、前記第1端面と前記第2端面とが対向する方向の中央部よりも厚く形成された厚層部を備えることを特徴とするセラミック電子部品。
【請求項2】
前記第1端面と前記第2端面とが対向する方向において、前記薄層部と前記厚層部との重なり長さは、2μm以上であることを特徴とする請求項1に記載のセラミック電子部品。
【請求項3】
前記第1端面と前記第2端面とが対向する方向において、前記薄層部と前記厚層部との重なり長さは、80μm以下であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のセラミック電子部品。
【請求項4】
前記薄層部が形成された前記第1誘電体層において、前記薄層部は、前記第1端面と前記第2端面とが対向する方向の中央部に対して、0.05μm以上0.3μm以下、薄いことを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載のセラミック電子部品。
【請求項5】
前記厚層部が形成された前記第2誘電体層において、前記厚層部は、前記第1端面と前記第2端面とが対向する方向の中央部に対して、0.05μm以上0.3μm以下、厚いことを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか一項に記載のセラミック電子部品。
【請求項6】
主成分セラミック粒子を含むグリーンシート上に、金属導電ペーストの第1パターンを配置する第1工程と、
前記グリーンシート上において前記金属導電ペーストが配置されていない領域に、主成分セラミック粒子を含む第2パターンを配置する第2工程と、
前記第2工程によって得られた積層単位を、前記第1パターンの配置位置が交互にずれるように複数積層してセラミック積層体を得て、前記第1パターンを前記セラミック積層体の第1端面および第2端面に交互に露出させる第3工程と、
前記第3工程で得られたセラミック積層体を焼成する第4工程と、を含み、
焼成前の前記セラミック積層体において、少なくともいずれかの前記グリーンシートは、前記第1パターンの前記第1端面側の端部に、前記第1端面と前記第2端面とが対向する方向の中央部よりも薄く形成された薄層部を備え、積層方向において当該第1グリーンシートに隣接する他の前記グリーンシートは、前記第1パターンの前記第1端面側の端部に、前記第1端面と前記第2端面とが対向する方向の中央部よりも厚く形成された厚層部を備えることを特徴とするセラミック電子部品の製造方法。
【請求項7】
前記第2工程後かつ前記第3工程前に、前記第2パターン上を覆い、かつ前記第1パターンの一部まで覆うように、金属導電ペーストの第3パターンを配置し、
前記第3工程後かつ前記第4工程前に、前記第3工程で得られた前記セラミック積層体を積層方向から圧着することで、前記薄層部および前記厚層部を形成することを特徴とする請求項6に記載のセラミック電子部品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セラミック電子部品およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子機器の小型化及び高性能化に伴い、電子機器に用いられる積層セラミックコンデンサに対する小型化および大容量化への要求がますます強くなってきている。積層セラミックコンデンサのサイズを小さく抑えつつ容量を大きくするためには、積層セラミックコンデンサの誘電体層と内部電極層を薄層化し、積層数を増やすことが有効である。
【0003】
誘電体層の薄層化に伴い、各誘電体層における電界強度が増加することで、低電圧で誘電体層に絶縁劣化が生じるおそれがある。その結果、生産歩留まりの低下などが起きやすくなる。特に、内部電極の端部では電界が集中して劣化しやすくなる。このような問題を解決するため、内部電極の端部に位置する誘電体層を局所的に厚くすることで、耐電圧が高く生産歩留まりが良いコンデンサを得る方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、積層数が多くなると、局所的な厚みが蓄積されてしまう。その結果、内部の層構造が歪んでしまい、密着不足によるデラミネーション、クラックなどが発生し易くなる。また、誘電体層中の厚みの差が積層により蓄積することで、最終的なチップ形状の厚み寸法で高低差ができてしまい、積層数が増やせないおそれがある。
【0006】
本発明は、上記課題に鑑みなされたものであり、内部構造の欠陥発生を抑制しつつ絶縁劣化を抑制することができるセラミック電子部品およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係るセラミック電子部品は、セラミックを主成分とする第1誘電体層と、第1内部電極層と、セラミックを主成分とする第2誘電体層と、第2内部電極層とがこの順に積層され、略直方体形状を有し、前記第1内部電極層が前記略直方体形状の第1端面に露出し、前記第2内部電極層が前記略直方体形状の第2端面に露出するように形成された積層構造を備え、前記第1誘電体層は、前記第1内部電極層の前記第1端面側の端部に、前記第1端面と前記第2端面とが対向する方向の中央部よりも薄く形成された薄層部を備え、前記第2誘電体層は、前記第1内部電極層の前記第1端面側の端部に、前記第1端面と前記第2端面とが対向する方向の中央部よりも厚く形成された厚層部を備えることを特徴とする。
【0008】
上記セラミック電子部品において、前記第1端面と前記第2端面とが対向する方向において、前記薄層部と前記厚層部との重なり長さは、2μm以上としてもよい。
【0009】
上記セラミック電子部品において、前記第1端面と前記第2端面とが対向する方向において、前記薄層部と前記厚層部との重なり長さは、80μm以下としてもよい。
【0010】
上記セラミック電子部品において、前記薄層部が形成された前記第1誘電体層において、前記薄層部は、前記第1端面と前記第2端面とが対向する方向の中央部に対して、0.05μm以上0.3μm以下、薄くてもよい。
【0011】
上記セラミック電子部品において、前記厚層部が形成された前記第2誘電体層において、前記厚層部は、前記第1端面と前記第2端面とが対向する方向の中央部に対して、0.05μm以上0.3μm以下、厚くてもよい。
【0012】
本発明に係るセラミック電子部品の製造方法は、主成分セラミック粒子を含むグリーンシート上に、金属導電ペーストの第1パターンを配置する第1工程と、前記グリーンシート上において前記金属導電ペーストが配置されていない領域に、主成分セラミック粒子を含む第2パターンを配置する第2工程と、前記第2工程によって得られた積層単位を、前記第1パターンの配置位置が交互にずれるように複数積層してセラミック積層体を得て、前記第1パターンを前記セラミック積層体の第1端面および第2端面に交互に露出させる第3工程と、前記第3工程で得られたセラミック積層体を焼成する第4工程と、を含み、焼成前の前記セラミック積層体において、少なくともいずれかの前記グリーンシートは、前記第1パターンの前記第1端面側の端部に、前記第1端面と前記第2端面とが対向する方向の中央部よりも薄く形成された薄層部を備え、積層方向において当該第1グリーンシートに隣接する他の前記グリーンシートは、前記第1パターンの前記第1端面側の端部に、前記第1端面と前記第2端面とが対向する方向の中央部よりも厚く形成された厚層部を備えることを特徴とする。
【0013】
上記セラミック電子部品の製造方法において、前記第2工程後かつ前記第3工程前に、前記第2パターン上を覆い、かつ前記第1パターンの一部まで覆うように、金属導電ペーストの第3パターンを配置し、前記第3工程後かつ前記第4工程前に、前記第3工程で得られた前記セラミック積層体を積層方向から圧着することで、前記薄層部および前記厚層部を形成してもよい。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、内部構造の欠陥発生を抑制しつつ絶縁劣化を抑制することができるセラミック電子部品およびその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】積層セラミックコンデンサの部分断面斜視図である。
【
図4】(a)はサイドマージンの断面の拡大図であり、(b)はエンドマージンの断面の拡大図である。
【
図6】積層セラミックコンデンサの製造方法のフローを例示する図である。
【
図7】(a)および(b)は積層工程を例示する図である。
【
図8】(a)~(d)は積層工程を例示する図である。
【
図11】実施例1の積層セラミックコンデンサの断面のSEM写真を模式的に描いた図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照しつつ、実施形態について説明する。
【0017】
(実施形態)
図1は、実施形態に係る積層セラミックコンデンサ100の部分断面斜視図である。
図2は、
図1のA-A線断面図である。
図3は、
図1のB-B線断面図である。
図1~
図3で例示するように、積層セラミックコンデンサ100は、略直方体形状を有する積層チップ10と、積層チップ10のいずれかの対向する2端面に設けられた外部電極20a,20bとを備える。なお、積層チップ10の当該2端面以外の4面のうち、積層方向の上面および下面以外の2面を側面と称する。外部電極20a,20bは、積層チップ10の積層方向の上面、下面および2側面に延在している。ただし、外部電極20a,20bは、互いに離間している。なお、
図1において、X軸方向(第1方向)は、積層チップ10の長さ方向であって、積層チップ10の2端面が対向する方向であり、外部電極20aと外部電極20bとが対向する方向である。Y軸方向(第2方向)は、後述する内部電極層の幅方向である。Z軸方向は、積層方向である。X軸方向と、Y軸方向と、Z軸方向とは、互いに直交している。
【0018】
積層チップ10は、誘電体として機能するセラミック材料を含む誘電体層11と、卑金属材料を含む内部電極層とが、交互に積層された構成を有する。各内部電極層の端縁は、積層チップ10の外部電極20aが設けられた第1端面と、外部電極20bが設けられた第2端面とに、交互に露出している。それにより、各内部電極層は、外部電極20aと外部電極20bとに、交互に導通している。その結果、積層セラミックコンデンサ100は、複数の誘電体層11が内部電極層を介して積層された構成を有する。外部電極20aに接続されている内部電極層を内部電極層12a(第1内部電極層)と称する。外部電極20bに接続されている内部電極層を内部電極層12b(第2内部電極層)と称する。誘電体層11と内部電極層との積層構造において、積層方向の最外層には内部電極層が配置され、当該積層体の上面および下面は、カバー層13によって覆われている。カバー層13は、セラミック材料を主成分とする。例えば、カバー層13の材料は、誘電体層11とセラミック材料の主成分が同じである。
【0019】
積層セラミックコンデンサ100のサイズは、例えば、長さ0.25mm、幅0.125mm、高さ0.125mmであり、または長さ0.4mm、幅0.2mm、高さ0.2mm、または長さ0.6mm、幅0.3mm、高さ0.3mmであり、または長さ1.0mm、幅0.5mm、高さ0.5mmであり、または長さ3.2mm、幅1.6mm、高さ1.6mmであり、または長さ4.5mm、幅3.2mm、高さ2.5mmであるが、これらのサイズに限定されるものではない。
【0020】
内部電極層12a,12bは、Ni(ニッケル),Cu(銅),Sn(スズ)等の卑金属を主成分とする。内部電極層12a,12bとして、Pt(白金),Pd(パラジウム),Ag(銀),Au(金)などの貴金属やこれらを含む合金を用いてもよい。誘電体層11は、例えば、一般式ABO3で表されるペロブスカイト構造を有するセラミック材料を主成分とする。なお、当該ペロブスカイト構造は、化学量論組成から外れたABO3-αを含む。例えば、当該セラミック材料として、BaTiO3(チタン酸バリウム),CaZrO3(ジルコン酸カルシウム),CaTiO3(チタン酸カルシウム),SrTiO3(チタン酸ストロンチウム),ペロブスカイト構造を形成するBa1-x-yCaxSryTi1-zZrzO3(0≦x≦1,0≦y≦1,0≦z≦1)等を用いることができる。
【0021】
図2で例示するように、外部電極20aに接続された内部電極層12aと外部電極20bに接続された内部電極層12bとが対向する領域は、積層セラミックコンデンサ100において電気容量を生じる領域である。そこで、当該電気容量を生じる領域を、容量領域14と称する。すなわち、容量領域14は、異なる外部電極に接続された隣接する内部電極層同士が対向する領域である。
【0022】
同じ外部電極に接続された内部電極層が異なる外部電極に接続された内部電極層を介さずに対向する領域を、エンドマージンと称する。エンドマージン15は、外部電極20aに接続された内部電極層12a同士が、外部電極20bに接続された内部電極層12bを介さずに対向する領域である。他のエンドマージン15は、外部電極20bに接続された内部電極層12b同士が、外部電極20aに接続された内部電極層12aを介さずに対向する領域である。エンドマージンは、電気容量を生じない領域である。
【0023】
図3で例示するように、積層チップ10において、積層チップ10の2側面から内部電極層12a,12bに至るまでの領域をサイドマージン16と称する。すなわち、サイドマージン16は、上記積層構造において積層された複数の内部電極層12a,12bが2側面側に延びた端部を覆うように設けられた領域である。サイドマージン16も、電気容量を生じない領域である。
【0024】
図4(a)は、サイドマージン16の断面の拡大図である。サイドマージン16は、誘電体層11と逆パターン層17とが、容量領域14における誘電体層11と内部電極層12a,12bとの積層方向において交互に積層された構造を有する。容量領域14の各誘電体層11とサイドマージン16の各誘電体層11とは、互いに連続する層である。この構成によれば、容量領域14とサイドマージン16との段差が抑制される。
【0025】
図4(b)は、エンドマージン15の断面の拡大図である。サイドマージン16との比較において、エンドマージン15では、積層される複数の内部電極層12a,12bのうち、1つおきにエンドマージン15の端面まで内部電極層12bが延在する。または、積層される複数の内部電極層12a,12bのうち、1つおきにエンドマージン15の端面まで内部電極層12aが延在する。また、内部電極層12a,12bがエンドマージン15の端面まで延在する層では、逆パターン層17が積層されていない。容量領域14の各誘電体層11とエンドマージン15の各誘電体層11とは、互いに連続する層である。この構成によれば、容量領域14とエンドマージン15との段差が抑制される。
【0026】
近年、電子機器の小型化及び高性能化に伴い、電子機器に用いられる積層セラミックコンデンサ100に対する小型化および大容量化への要求がますます強くなってきている。積層セラミックコンデンサ100のサイズを抑えつつ容量を大きくするためには、積層セラミックコンデンサ100の誘電体層11と内部電極層12a,12bを薄層化し、積層数を増やすことが有効である。例えば、内部電極層12a,12bの1層あたりの平均厚みを、0.5μm以下とする。例えば、誘電体層11の1層あたりの平均厚みを、0.5μm以下とする。内部電極層12a,12bの合計積層数を、例えば、100から500とする。
【0027】
誘電体層11の薄層化に伴い、各誘電体層11に印加される電界強度が増加することで、低電圧で誘電体層11に絶縁劣化が生じるおそれがある。その結果、積層セラミックコンデンサ100の生産歩留まりの低下などが起きやすくなる。特に、内部電極層12a,12bの端部では電界が集中し劣化しやすくなる。例えば、内部電極層12aの外部電極20b側の端部において、誘電体層11への電界集中が生じやすくなる。また、内部電極層12bの外部電極20a側の端部において、誘電体層11への電界集中が生じやすくなる。そこで、内部電極層12aの外部電極20b側の端部において誘電体層11を局所的に厚くし、内部電極層12bの外部電極20a側の端部において誘電体層11を局所的に厚くし、耐電圧性を向上させることが考えられる。
【0028】
しかしながら、誘電体層11の積層数が多くなると、局所的な厚みが蓄積されてしまう。その結果、積層チップ10の内部の層構造が歪んでしまい、密着不足によるデラミネーション、クラックなどが発生し易くなる。また、誘電体層11中の厚みの差が積層により蓄積することで、最終的なチップ形状の厚み寸法で高低差ができてしまい、積層数が増やせないおそれがある。
【0029】
そこで、本実施形態に係る積層セラミックコンデンサ100は、内部構造の欠陥発生を抑制しつつ絶縁劣化を抑制することができる構造を有している。
【0030】
図5は、
図2を拡大してハッチを省略した図である。
図5で例示するように、誘電体層11は、内部電極層12aの外部電極20b側の端部(外部電極20b側の端から外部電極20a側への所定範囲)において、局所的に薄く形成された薄層部11aを備える。Z軸方向において当該誘電体層11の次の誘電体層11は、内部電極層12aの外部電極20b側の端部において、局所的に厚く形成された厚層部11bを備える。積層方向において当該誘電体層11の次の誘電体層11は、内部電極層12aの外部電極20b側の端部において、局所的に薄く形成された薄層部11aを備える。このように、内部電極層12aの外部電極20b側の端部において、薄層部11aと厚層部11bとが、内部電極層を挟んで交互に積層されている。外部電極20b側において薄層部11aと厚層部11bとが積層されている領域を、厚み変更領域30bと称する。
【0031】
また、誘電体層11は、内部電極層12bの外部電極20a側の端部(外部電極20a側の端から外部電極20b側への所定範囲)において、局所的に薄く形成された薄層部11aを備える。当該誘電体層11の次の誘電体層11は、内部電極層12bの外部電極20a側の端部において、局所的に厚く形成された厚層部11bを備える。当該誘電体層11の次の誘電体層11は、内部電極層12bの外部電極20a側の端部において、局所的に薄く形成された薄層部11aを備える。このように、内部電極層12bの外部電極20a側の端部において、薄層部11aと厚層部11bとが、内部電極層を挟んで交互に積層されている。外部電極20a側において薄層部11aと厚層部11bとが積層されている領域を、厚み変更領域30aと称する。
【0032】
本実施形態によれば、内部電極層12aの外部電極20b側の端部であって電界集中が生じやすい箇所において、誘電体層11が局所的に厚く形成された厚層部11bが配置されることから、耐電圧性が向上する。隣接する2層の誘電体層11において、厚層部11bの隣に薄層部11aが配置されることから、厚みの蓄積が抑制される。また、内部電極層12bの外部電極20a側の端部であって電界集中が生じやすい箇所において、誘電体層11が局所的に厚く形成された厚層部11bが配置されることから、耐電圧性が向上する。隣接する2層の誘電体層11において、厚層部11bの隣に薄層部11aが配置されることから、厚みの蓄積が抑制される。以上のことから、内部構造の欠陥発生を抑制しつつ絶縁劣化を抑制することができる。
【0033】
X軸方向において、薄層部11aと厚層部11bとの重なりが短いと、積層セラミックコンデンサ100の作製プロセス過程で、積層構造が湾曲して耐電圧が低下するおそれがある。そこで、X軸方向において、薄層部11aと厚層部11bとの重なり長さに下限を設けることが好ましい。本実施形態においては、X軸方向において、薄層部11aと厚層部11bとの重なり長さは、2μm以上であることが好ましく、20μm以上であることがより好ましい。
【0034】
一方、X軸方向において、薄層部11aと厚層部11bとの重なりが長いと、薄層部11aが長くなって耐電圧性が低下するおそれがある。そこで、X軸方向において、薄層部11aと厚層部11bとの重なり長さに上限を設けることが好ましい。本実施形態においては、X軸方向において、薄層部11aと厚層部11bとの重なり長さは、80μm以下であることが好ましく、50μm以下であることがより好ましい。
【0035】
X軸方向において、各薄層部11aおよび各厚層部11bは、X軸方向における誘電体層11全体の1/400~1/10程度の長さを有している。または、X軸方向において、各薄層部11aおよび各厚層部11bは、1μm~100μm程度の長さを有している。
【0036】
薄層部11aは、X軸方向における誘電体層11の中央部に対して0.05μm以上薄いことが好ましく、0.1μm以上薄いことが好ましい。また、薄層部11aは、外部電極20aと外部電極20bとが対向する方向における誘電体層11の中央部に対して0.3μm以下薄いことが好ましく、0.2μm以下薄いことがより好ましい。
【0037】
厚層部11bは、X軸方向における誘電体層11の中央部に対して0.05μm以上厚いことが好ましく、0.1μm以上厚いことがより好ましい。また、厚層部11bは、外部電極20aと外部電極20bとが対向する方向における誘電体層11の中央部に対して0.3μm以下厚いことが好ましく、0.2μm以下厚いことがより好ましい。
【0038】
なお、厚み変更領域30a,30bにおいて、全ての誘電体層11に薄層部11aと厚層部11bとが形成されていなくてもよい。一部の誘電体層11は、厚み変更領域30a,30bにおいて、外部電極20aと外部電極20bとが対向する方向における中央部と同様の厚みを有していてもよい。
【0039】
また、厚み変更領域30a,30bにおいて、薄層部11a、厚層部11b、厚層部11b、薄層部11aのように積層されていてもよく、厚層部11b、薄層部11a、薄層部11a、厚層部11bのように積層されていてもよい。また、X軸方向において、全ての薄層部11a、厚層部1bが同じ長さを有していなくてもよい。
【0040】
続いて、積層セラミックコンデンサ100の製造方法について説明する。
図6は、積層セラミックコンデンサ100の製造方法のフローを例示する図である。
【0041】
(原料粉末作製工程)
まず、誘電体層11を形成するための誘電体材料を用意する。誘電体材料は、誘電体層11の主成分セラミックを含む。誘電体層11に含まれるAサイト元素およびBサイト元素は、通常はABO3の粒子の焼結体の形で誘電体層11に含まれる。例えば、BaTiO3は、ペロブスカイト構造を有する正方晶化合物であって、高い誘電率を示す。このBaTiO3は、一般的に、二酸化チタンなどのチタン原料と炭酸バリウムなどのバリウム原料とを反応させてチタン酸バリウムを合成することで得ることができる。誘電体層11の主成分セラミックの合成方法としては、従来種々の方法が知られており、例えば固相法、ゾル-ゲル法、水熱法等が知られている。本実施形態においては、これらのいずれも採用することができる。
【0042】
得られたセラミック粉末に、目的に応じて所定の添加化合物を添加する。添加化合物としては、Zr(ジルコニウム)、Ca(カルシウム)、Sr(ストロンチウム)、Mg(マグネシウム)、Mn(マンガン)、V(バナジウム)、Cr(クロム)、希土類元素の酸化物、並びに、Co(コバルト)、Ni、Li(リチウム)、B(ホウ素)、Na(ナトリウム)、K(カリウム)およびSiの酸化物もしくはガラスが挙げられる。
【0043】
次に、エンドマージン15およびサイドマージン16を形成するためのマージン材料を用意する。マージン材料は、エンドマージン15およびサイドマージン16の主成分セラミックを含む。主成分セラミックとして、例えば、BaTiO3粉を作製する。BaTiO3粉は、誘電体材料と同様の手順により作製することができる。得られたBaTiO3粉末に、目的に応じて所定の添加化合物を添加する。添加化合物としては、Zr、Ca、Sr、Mg、Mn、V、Cr、希土類元素の酸化物、並びに、Co、Ni、Li、B、Na、KおよびSiの酸化物もしくはガラスが挙げられる。
【0044】
次に、カバー層13を形成するためのカバー材料を用意する。カバー材料は、カバー層13の主成分セラミックを含む。主成分セラミックとして、例えば、BaTiO3粉を作製する。BaTiO3粉は、誘電体材料と同様の手順により作製することができる。得られたBaTiO3粉末に、目的に応じて所定の添加化合物を添加する。添加化合物としては、Zr、Ca、Sr、Mg、Mn、V、Cr、希土類元素の酸化物、並びに、Co、Ni、Li、B、Na、KおよびSiの酸化物もしくはガラスが挙げられる。なお、カバー材料として、上述したマージン材料を用いてもよい。
【0045】
(積層工程)
次に、原料粉末作製工程で得られた誘電体材料に、ポリビニルブチラール(PVB)樹脂等のバインダと、エタノール、トルエン等の有機溶剤と、可塑剤とを加えて湿式混合する。得られたスラリーを使用して、例えばダイコータ法やドクターブレード法により、基材上に例えば厚み0.8μm以下の帯状の誘電体グリーンシート51を塗工して乾燥させる。
【0046】
次に、
図7(a)で例示するように、誘電体グリーンシート51の表面に、有機バインダを含む内部電極形成用の金属導電ペーストをスクリーン印刷、グラビア印刷等により印刷することで、内部電極層用の第1パターン52を配置する。金属導電ペーストには、共材としてセラミック粒子を添加する。セラミック粒子の主成分は、特に限定するものではないが、誘電体層11の主成分セラミックと同じであることが好ましい。
【0047】
次に、原料粉末作製工程で得られたマージン材料に、エチルセルロース系等のバインダと、ターピネオール系等の有機溶剤とを加え、ロールミルにて混練して逆パターン層17用のマージンペーストを得る。
図7(a)で例示するように、誘電体グリーンシート51上において、第1パターン52が印刷されていない周辺領域にマージンペーストを印刷することで第2パターン53を配置し、第1パターン52との段差を埋める。この場合において、第2パターン53の厚みを、第1パターン52の厚み以下としておく。
【0048】
図8(a)は、誘電体グリーンシート51の表面に第1パターン52を配置した状態を例示する側面図である。
図8(b)は、誘電体グリーンシート51上において、第1パターン52が印刷されていない周辺領域に第2パターン53を配置した状態を例示する側面図である。
【0049】
次に、
図8(c)で例示するように、第2パターン53上を覆い、かつ第1パターン52の一部まで覆うようにマージンペーストを印刷することで第3パターン54を配置する。例えば、第3パターン54の厚みは、0.05μm以上とし、第2パターン53の厚みの1/2以下の厚みとする。
【0050】
その後、
図7(b)で例示するように、内部電極層と誘電体層11とが互い違いになるように、かつ内部電極層が誘電体層11の長さ方向の両端面に端縁が交互に露出して極性の異なる一対の外部電極20a,20bに交互に引き出されるように、誘電体グリーンシート51、第1パターン52および第2パターン53を積層していく。例えば、誘電体グリーンシート51の積層数を100~500層とする。
【0051】
次に、原料粉末作製工程で得られたカバー材料に、ポリビニルブチラール(PVB)樹脂等のバインダと、エタノール、トルエン等の有機溶剤と、可塑剤とを加えて湿式混合する。得られたスラリーを使用して、例えばダイコータ法やドクターブレード法により、基材上に例えば厚み10μm以下の帯状のカバーシート55を塗工して乾燥させる。
図9で例示するように、積層された誘電体グリーンシート51の上下にカバーシート55を所定数(例えば2~10層)だけ積層して熱圧着させ、所定チップ寸法(例えば1.0mm×0.5mm)にカットする。これにより、セラミック積層体が得られる。なお、所定数のカバーシート55を積層して圧着してから、積層された誘電体グリーンシート51の上下に貼り付けてもよい。
【0052】
図8(d)は、複数の誘電体グリーンシート51が積層されて圧着された状態を例示する図である。
図8(d)で例示するように、圧着によって、第3パターン54が第2パターン53上を覆う部分において、第2パターン53に段差が生じる。それにより、誘電体グリーンシート51が薄くなる部分と、誘電体グリーンシート51に第3パターン54の厚みが加わって厚くなる部分とが、交互に積層されるようになる。
【0053】
(焼成工程)
このようにして得られたセラミック積層体を、N2雰囲気で脱バインダ処理した後に外部電極20a,20bの下地となるNiペーストをディップ法で塗布し、酸素分圧10-5~10-8atmの還元雰囲気中で1100~1300℃で10分~2時間焼成する。このようにして、積層セラミックコンデンサ100が得られる。
【0054】
(再酸化処理工程)
その後、N2ガス雰囲気中で600℃~1000℃で再酸化処理を行ってもよい。
【0055】
(めっき処理工程)
その後、めっき処理により、外部電極20a,20bに、Cu,Ni,Sn等の金属コーティングを行ってもよい。
【0056】
本実施形態に係る製造方法によれば、第1パターン52が段差になる部分において、誘電体グリーンシート51が薄くなる部分が薄層部11aとなり、誘電体グリーンシート51に第3パターン54が加わる部分が厚層部11bとなる。また、薄層部11aと厚層部11bとが積層される。さらに、積層方向から見た場合に、薄層部11aと厚層部11bとが、外部電極20aと外部電極20bとが対向する方向において互いに重複するようになる。したがって、内部電極層12aの外部電極20b側の端部であって電界集中が生じやすい箇所において、誘電体層11が局所的に厚く形成された厚層部11bが配置されることから、耐電圧性が向上する。隣接する2層の誘電体層11において、厚層部11bの隣に薄層部11aが配置されることから、厚みの蓄積が抑制される。また、内部電極層12bの外部電極20a側の端部であって電界集中が生じやすい箇所において、誘電体層11が局所的に厚く形成された厚層部11bが配置されることから、耐電圧性が向上する。隣接する2層の誘電体層11において、厚層部11bの隣に薄層部11aが配置されることから、厚みの蓄積が抑制される。以上のことから、内部構造の欠陥発生を抑制しつつ絶縁劣化を抑制することができる。
【0057】
サイドマージン16に対応する領域は、上記積層構造の側面に貼り付けまたは塗布してもよい。具体的には、
図10で例示するように、誘電体グリーンシート51と、当該誘電体グリーンシート51と同じ幅の第1パターン52とを交互に積層することで、積層部分を得る。次に、積層部分の側面に、逆パターンペーストで形成したシートを貼り付ける、または逆パターンペーストを塗布することで得られる第4パターン56で、サイドマージン16に対応する領域を形成してもよい。
【0058】
なお、上記各実施形態においては、セラミック電子部品の一例として積層セラミックコンデンサについて説明したが、それに限られない。例えば、バリスタやサーミスタなどの、他の電子部品を用いてもよい。
【実施例0059】
続いて、実施形態に係る積層セラミックコンデンサを作製し、特性について調べた。
【0060】
(実施例1~4)
チタン酸バリウム粉末に対して添加物を添加し、ボールミルで十分に湿式混合粉砕して誘電体材料を得た。チタン酸バリウム粉末に対して添加物を添加し、ボールミルで十分に湿式混合粉砕してマージン材料を得た。チタン酸バリウム粉末に対して添加物を添加し、ボールミルで十分に湿式混合粉砕してカバー材料を得た。
【0061】
誘電体材料に有機バインダとしてブチラール系、溶剤としてトルエン、エチルアルコールを加えてドクターブレード法にて誘電体グリーンシート51を作製した。得られた誘電体グリーンシート51に金属導電ペーストの第1パターン52を印刷した。誘電体グリーンシート51上において、第1パターン52が印刷されていない周辺領域にマージン材料を印刷することで第2パターン53を配置した。次に、第2パターン53上を覆い、かつ第1パターン52の一部まで覆うように、マージンペーストを印刷することで第3パターン54を配置した。
【0062】
次に、原料粉末作製工程で得られたカバー材料に、ポリビニルブチラール(PVB)樹脂等のバインダと、エタノール、トルエン等の有機溶剤と、可塑剤とを加えて湿式混合する。得られたスラリーを使用して、基材上にカバーシート55を塗工して乾燥させた。積層された誘電体グリーンシート51の上下にカバーシート55を所定数だけ積層して熱圧着し、所定の形状に切断した。
【0063】
(比較例)
比較例では、第3パターン54を設けなかった。その他の条件は、実施例1~4と同様とした。
【0064】
実施例1~4および比較例について、得られた積層セラミックコンデンサの断面のSEM写真を取得し、各部のサイズを測定した。実施例1~4および比較例のいずれにおいても、外部電極20aと外部電極20bとが対向する方向において、誘電体層11の中央部の厚みは、0.8μmであった。
【0065】
図11は、実施例1の積層セラミックコンデンサの断面のSEM写真を模式的に描いた図である。
図11に示すように、実施例1においては、誘電体層11の一部に、厚みが局所的に小さくなる薄層部11aが形成されており、厚みが局所的に大きくなる厚層部11bが形成されていた。また、薄層部11aと厚層部11bとが交互に積層されていた。
【0066】
実施例1~4のいずれにおいても、薄層部11aにおける厚みは、0.6μmであった。実施例1~4のいずれにおいても、厚層部11bにおける厚みは、1.0μmであった。比較例では、薄層部11aおよび厚層部11bのいずれも形成されなかった。
【0067】
実施例1では、外部電極20aと外部電極20bとが対向する方向において、厚み変更領域30a,30bの長さは、2μmであった。実施例2では、厚み変更領域30a,30bの長さは、20μmであった。実施例3では、厚み変更領域30a,30bの長さは、50μmであった。実施例4では、厚み変更領域30a,30bの長さは、80μmであった。比較例では、厚み変更領域30a,30bは形成されなかった。
【0068】
(耐電圧試験)
実施例1~4および比較例について、得られた積層セラミックコンデンサ100に耐電圧試験を行なった。耐電圧試験においては、積層セラミックコンデンサ100がショート状態になるまで印加電圧を昇圧して、このときの絶縁破壊電圧を測定し、耐電圧とした。結果を表1に示す。
【表1】
【0069】
比較例では、耐電圧が40Vとなった。このように、厚み変更領域30a,30bが形成されなかったことで、高い耐電圧が得られなかった。これに対して、実施例1では、耐電圧が100Vとなった。実施例2では、耐電圧が120Vとなった。実施例3では、耐電圧が110Vとなった。実施例4では、耐電圧が60Vとなった。これは、厚み変更領域30a,30bを形成したことで、耐電圧が高くなったからであると考えられる。また、実施例1~4について、デラミネーション、クラックなどの構造欠陥は確認されなかった。以上のことから、厚み変更領域30a,30bを形成することで、内部構造の欠陥発生を抑制しつつ絶縁劣化を抑制することができることがわかった。
【0070】
以上、本発明の実施例について詳述したが、本発明は係る特定の実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。